説明

制振用組成物

【課題】取り扱いが容易であり、耐熱性が高く、高い制振性を有する制振用組成物を提供する。
【解決手段】本発明の制振用組成物は、スチレン‐イソブチレン‐スチレン共重合体と、鱗片状のフィラーとしてのマイカと、脂環族系水添石油樹脂と、を含有することを特徴とする。本発明の制振用組成物は、TPEE系またはPVAc系エラストマーを基材樹脂とする制振用組成物と比較して、広い温度範囲で高い制振性を示すと共に、高い耐熱性を示した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械装置などの固体伝播振動の発生する箇所に貼付されて騒音の低減などに用いられる制振用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機械装置などの制振用組成物として各種ゴムが用いられており、例えば、ブチルゴムに膨潤性マイカを含有させたものが提案されている(特許文献1参照)。これらのゴムは、耐熱性や形状維持性を高めるために架橋させた架橋ゴムであるため、量産加工性や架橋剤による設備の汚染などの問題があった。
【0003】
そこで、近年、ポリエステル系エラストマー(TPEE)にマイカを添加した制振用組成物、または、ポリ酢酸ビニル(PVAc)系エラストマーにマイカを添加した制振用組成物が提案されている。これらは架橋工程を必要としないため、量産加工性が高く、架橋剤による汚染の虞が少ない。さらに、上記特許文献1のゴムに比べて、柔軟性が高く、適当な大きさに切って用いることが容易であって、取り扱いに優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−201373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述したTPEEやPVAcを基材として用いた制振用組成物は耐熱性が低いという問題がある。また、これらよりもさらに高い制振性を有する制振用組成物が望まれている。
【0006】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、取り扱いが容易であり、耐熱性が高く、高い制振性を有する制振組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した問題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、スチレン‐イソブチレン‐スチレン共重合体(Styrene−Isobutylene−Styrene Triblock Copolymer、以下、単に「SIBS」ともいう)と、鱗片状のフィラーと、を含有することを特徴とする制振用組成物である。
【0008】
このような制振用組成物は、従来のようなTPEEやPVAcを基材とし、鱗片状のフィラー(以降、単に「フィラー」という場合がある)を含有する制振用組成物と比較して、広い温度帯域において高い制振性を有するうえ、それらの制振用組成物よりも高温条件下での耐久性に優れている。また、本発明の制振用組成物は、高い制振性を維持しつつ軽薄化、短小化が可能であるうえ、柔軟性が高いため、取り扱いに優れる。
【0009】
なお、SIBSとは、以下に示す構造式で表される。
【0010】
【化1】

【0011】
鱗片状のフィラーを含有する制振用組成物は、外部から機械的なエネルギーが加わった際に、フィラー間に挟まれた薄いエラストマー相において効率よく「ずり応力」に変換させることができることに加え、エラストマーとフィラー界面における摩擦運動、フィラー内部の層間相互のずり運動、フィラー同士の摩擦運動などにより、高い制振性を発揮することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の制振用組成物において、前記鱗片状のフィラーとはマイカであることを特徴とする。
制振性能は、鱗片状のフィラーの性状(形状、弾性率など)によって変化する。具体的には、フィラーのアスペクト比(フィラー平均直径/フィラー厚み)が大きく弾性率が高いものほど高い制振性を発揮することができる。マイカは、アスペクト比が大きく弾性率も高いため、上述した制振用組成物のように鱗片状のフィラーとしてマイカを含有させることで、制振用組成物の制振性を大きく向上させることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の制振用組成物において、前記鱗片状のフィラーが、コーティング材で表面をコーティングしてなる造粒品であることを特徴とする。
【0014】
このように構成された制振用組成物であれば、フィラーをそのまま用いる構成と比較して、フィラーのSIBSに対する分散が良くなるため、制振用組成物の制振性を向上することができる。
【0015】
なお、上述したコーティング材としては、フィラーによる制振性を効果的に得ることができるように樹脂を用いることが好ましい。例えば、SIBSなどをコーティング材として用いることが考えられる。それ以外には、請求項4,請求項7に記載のように構成することが考えられる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の制振用組成物であって、前記コーティング材が石油樹脂であることを特徴とする。
このように構成された制振用組成物であれば、フィラーによる制振性を効果的に得ることができるため、制振用組成物の制振性を大きく向上させることができる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の制振用組成物において、前記造粒品が、石油樹脂ディスパージョン水溶液で前記鱗片状のフィラーの表面をコーティングし造粒したものであることを特徴とする。
【0018】
このように構成された制振用組成物であれば、石油樹脂によって鱗片状のフィラーが良好にコーティングされ、高い制振性を発揮することができる。
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の制振用組成物であって、前記石油樹脂ディスパージョン水溶液は、石油樹脂が前記鱗片状のフィラーに対して0.5〜5wt%の範囲で添加されてなる水溶液であることを特徴とする。
【0019】
このように構成された制振用組成物であれば、高い制振性を発揮することができる。なお、樹脂量が0.5wt%以上であれば、造粒品の強度が十分に高くなるので、予備混合時に破壊されにくくなる結果、粒状を維持することができ、粒状にすることの効果を確実に得ることができる。また樹脂量が5wt%以下であれば、制振性を一層高くすることができる。
【0020】
請求項7に記載の発明は、請求項3に記載の制振用組成物であって、前記コーティング材がポリウレタンであることを特徴とする。
このように構成された制振用組成物であれば、フィラーによる制振性を効果的に得ることができるため、制振用組成物の制振性を大きく向上させることができる。
【0021】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の制振用組成物において、前記造粒品が、1液型ポリウレタンディスパージョン水溶液で前記鱗片状のフィラーの表面をコーティングし造粒したものであることを特徴とする。
【0022】
このように構成された制振用組成物であれば、ポリウレタンによって鱗片状のフィラーが良好にコーティングされ、高い制振性を発揮することができる。
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の制振用組成物であって、前記1液型ポリウレタンディスパージョン水溶液は、ポリウレタンが前記鱗片状のフィラーに対して0.5〜5wt%の範囲で添加されてなる水溶液であることを特徴とする。
【0023】
このように構成された制振用組成物であれば、高い制振性を発揮することができる。なお、樹脂量が0.5wt%以上であれば、造粒品の強度が十分に高くなるので、予備混合時に破壊されにくくなる結果、粒状を維持することができ、粒状にすることの効果を確実に得ることができる。また樹脂量が5wt%以下であれば、制振性を一層高くすることができる。
【0024】
請求項10に記載の発明は、請求項1から請求項9のいずれかに記載の制振用組成物において、スチレン‐イソブチレン‐スチレン共重合体100重量部に対して、前記鱗片状フィラーを200重量部〜600重量部の範囲で含有することを特徴とする。
【0025】
このように構成された制振用組成物であれば、高い制振性と、高い柔軟性とを有することができる。鱗片状フィラーは、200重量部以上であると制振性が急激に向上する。一方、鱗片状フィラーが600重量部以下であると、シートの強度を高く維持することができるため、曲げたときにヒビ割れが生じやすくなる危険を低減できる。
【0026】
請求項11に記載の発明は、請求項1から請求項10のいずれかに記載の制振用組成物において、前記制振用組成物が、ロジン樹脂、テルペン樹脂、石油樹脂、石炭樹脂、フェノール樹脂、及びキシレン樹脂から選ばれる1種以上の樹脂を含有することを特徴とする。
【0027】
このように構成された制振用組成物は、上記樹脂を含有することで、より高い制振性を得ることができる。
なお、TPEEに上記樹脂を含有させると、経時的にブリードする可能性があり、製品同士の固着や梱包フィルムと固着するなどの問題が生じる。また、PVAcに上記樹脂を含有させると、PVAcの相対的に低い融点(軟化点)がさらに低下するため、制振用組成物を適切に使用できる環境温度の上限が低くなりすぎるという問題がある。しかしながら、SIBSに上記樹脂を含有させた場合には、ブリードする虞がTPEEと比較して小さく、またSIBSの融点がPVAcよりも高いことから適切に使用できる環境温度の上限が高くなるため都合がよい。
【0028】
請求項12に記載の発明は、請求項11に記載の制振用組成物において、前記樹脂の軟化点が100℃以上であることを特徴とする。
このように構成された制振用組成物は、適切に使用できる環境温度を高くすることができ、より高温状況下での使用に適したものとすることができる。
【0029】
請求項13に記載の発明は、請求項11または請求項12に記載の制振用組成物において、前記樹脂は、脂環族系水添石油樹脂であることを特徴とする。
このように構成された制振用組成物は、SIBS基材樹脂との相溶性を向上することができるうえ、耐熱性、耐候性も向上させることができる。
【0030】
請求項14に記載の発明は、請求項11から請求項13のいずれかに記載の制振用組成物において、スチレン‐イソブチレン‐スチレン共重合体100重量部に対して、前記樹脂を25重量部〜65重量部の範囲で含有することを特徴とする。
【0031】
このように構成された制振用組成物であれば、さらに高い制振性を発揮することができる。上記樹脂が25重量部以上であると、樹脂を含有させることによる制振性の向上を十分に得ることができる。一方、上記樹脂が65重量部以下であると、シートの強度を高く維持することができるため、曲げたときにヒビ割れが生じやすくなることや、耐熱性が低下してしまう危険を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】制振性評価試験の試験装置を示す図
【図2】伝達関数の一例を示すグラフ
【図3】固有振動モードのモデル図
【図4】倍率‐周波数の振動伝達特性の例を示すグラフ
【図5】半値幅法によるf1,f2の算出方法を説明する図
【図6】実施例1および実施例3の損失係数―温度特性を示すグラフ
【図7】実施例1と比較例1の耐熱試験の結果を示す写真
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
[実施例1]
1.制振用組成物の製造
表1に記載された配合組成となるように秤量した各材料を予備混合し、180℃に設定した2軸ラボミキサーに投入し8分間混練した。次いで、得られた混練物を180℃に加熱した金型間に120秒間挟んで厚み1mmにシート化した。
【0034】
【表1】

【0035】
上記材料(a)〜(e)の詳細を説明する。
(a)SIBS(基材樹脂):シブスター(SIBSTAR)、株式会社カネカ製、重量平均分子量約70000、スチレン含有割合23wt%
(b)脂環族系水添石油樹脂:アルコン、荒川化学工業株式会社製、軟化点140℃
(c)マイカ
本実施例で使用したマイカ(鱗片状フィラー)の性状を以下に示す。
【0036】
白雲母(Muscovite):KAl2・AlSi310(OH)2、平均粒子径約20μm、平均アスペクト比70、弾性率14〜21MPa程度
また、1液型ポリウレタンディスパージョン水溶液でマイカの表面をコーティングし造粒したものを予備混合に供した。用いた水溶液の性状を以下に示す。
【0037】
NV(樹脂固形分含有量)=35%、pH=7、粘度40mPa・s(25℃)、平均粒子径150nm
なお、水溶液は、ポリウレタン量がマイカに対して3wt%になる量を添加した。
【0038】
表1におけるマイカウレタン造粒品の添加量は、マイカの質量に換算した値である。
(d)黒着色MB:SPEMカラー、住化カラー株式会社製
(e)フェノール系酸化防止剤:イルガノックス1010、チバ・ジャパン株式会社製2.制振用組成物が奏する効果
実施例1の制振用組成物は、制振性および耐熱性に優れている。このことは、以下の実験で裏付けられる。
(1)制振性評価試験
(1−1)試験方法
制振性の評価は、図1に示す試験装置を用いて行った。この試験装置は、恒温槽1内に配置して用いられるものであって、図1における左右方向に伸びる基材2に制振用組成物3を貼り付けてなる試験片4の左端側を、加振器5の試験片固定部6にて固定している。試験片4の右端は開放されている。
【0039】
加振器5は、解析装置から出力される電気信号に基づいて試験片4を加振する。その際の振動加速度は解析装置に出力される。
また、試験片4には加速度検出器7が取り付けられており、加振器5にて加振された試験片4の振動加速度は加速度検出器7に検出されて解析装置に出力される。
【0040】
加振器5が試験片4を加振する加速度をa0とし、加速度検出器7にて検出される試験片4の加速度をaとすると、伝達率τは、τ=a/a0で表せる。
伝達関数の一例を図2に示す。また、各n次の固有振動モードのモデル図を図3に示す。
【0041】
振動伝達率τを下記の式を用いて倍率(対数)に変換し、縦軸に倍率、横軸に周波数をとった周波数応答関数が、その試験片4の振動加速度に対する周波数特性となる(図4参照)。
【0042】
倍率[dB]=20log10τ
次に、損失係数ηを求める。損失係数の算出方法は半値幅法で、図4の周波数応答関数のグラフの各固有振動モードの共振倍率から3dB小さい点の周波数(f1,f2:図5参照)を利用して下記式を用いて算出する。損失係数ηは、制振用組成物の制振性能の評価指標の一つであり、損失係数が大きいほど制振性が優れている。
【0043】
損失係数η=(f2−f1)/f0
なお、1次の固有振動モードで得られた損失係数については、試験片固定部6による影響を受けているため、そのデータは採用しない。
【0044】
本制振性評価試験の試験条件を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
また、比較例として以下の2つの組成物を用意し、上記試験を行った。なお、基材樹脂以外の組成は基本的に実施例1と同様である。
比較例1:基材樹脂にTPEEを用いており、組成物の引張破壊応力が8MPa、引張破壊歪が900%のもの
比較例2:基材樹脂にPVAc系エラストマーを用いており、エラストマーの酢酸ビニル含有量40重量%のもの
(1−2)試験結果
本試験では、2次モードにおける損失係数―温度特性で評価した。試験結果を表3に示す。また、損失係数―温度特性のグラフを図6に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
表3および図6に示すように、実施例1の制振用組成物は、−30℃から125℃までのいずれの温度領域においても高い損失係数を示した。これにより、実施例1の制振用組成物は、温度変化の影響による弾性率、減衰率等の変化が少ないことが分かる。それに対し比較例1,2は、いずれの温度領域においても実施例1の制振用組成物の損失係数を下回る値となった。
(2)耐熱試験
(2−1)試験方法
実施例1の制振用組成物と、上記比較例1,2の制振用組成物と、を160℃(比較例2のみ140℃)に保持したオーブン内に入れ、φ10mmの金属棒を用いて屈曲させる90°折り曲げ試験時の硬化/脆化によるヒビや折れが発生する経過時間で耐熱性を評価した。
(2−2)試験結果
表4にヒビや折れが生じるまでの経過時間を示す。また図7に、上記試験を480時間行った実施例1の制振用組成物と、上記試験を360時間行った比較例1の制振用組成物を示す。
【0049】
【表4】

【0050】
実施例1の制振用組成物は、480時間経過してもヒビや折れが生じることはなく、高い耐熱性を示した。それに対し、比較例1の制振用組成物は360時間で折れた。また、比較例2は低温(140℃)の試験にも拘らず20時間で硬化して折れた。
3.マイカウレタン造粒品を用いることによる制振用組成物の奏する効果
従来は、マイカを基材樹脂に添加する際、マイカを粉砕した粉砕粉をそのまま樹脂添加用フィラーとして用いていた。しかし、マイカ自身の比重は2.7〜3.0であるものの、マイカの粉砕粉は大きなアスペクト比をとるために見掛け比重が0.1〜0.3と非常に嵩高くなり取扱いが難しくなるため、粉砕粉をそのまま樹脂添加用フィラーとして用いようとすると以下の問題が発生していた。
・秤量、予備混合、2軸押出機による混練コンパウンド時などにおいて浮遊、飛散し、周辺を汚したり計量値がずれたりし易い。
・基材樹脂、粘着付与樹脂(実施例1においては脂環族系水添石油樹脂が相当)は比重1近辺かつ形状がペレット状なので、予備混合機や押出機のホッパー中でマイカ粉砕粉と完全に分離してしまう。またマイカ自身の滑り性のため押出機スクリューとシリンダーの間で材料自身が空回りし、噛み込み性が非常に悪くなる。そのため押出機から出るストランドの組成が時間軸で見た場合に不均一となるだけでなく、たびたび途切れてペレタイザーまで導入しつづけることが困難である。
・フィラーの表面積が非常に大きいので混練中に材料の樹脂で表面をぬらすことが容易ではない。そのためコンパウンド中におけるフィラーの充填率を高めることが難しい。
・樹脂とフィラーとの界面に空隙が多く存在することになり、振動特性が不安定になり易い。また140℃超の耐熱試験においてシート表面にフクレが多数発生し原形をとどめなくなる現象も頻発した。
【0051】
それに対し、本実施例では、マイカウレタン造粒品を用いることで、マイカフィラーの見かけの嵩は大きく低減でき濡れ性も改善され、ペレット生産時のホッパーからの供給も安定し、2軸混練押出機への噛み込みも安定し、ストランドの吐出も安定しコンパウンドペレットの生産効率が高まった。
[実施例2]
マイカウレタン造粒品の添加量を変化させて上記実施例1と同様の制振用組成物を製造し、上述した制振性評価試験と同様の手法を用いて、20℃における3次モードでの損失係数を測定した。試験結果を表5に示す。表中の添加量は、SIBS100重量部に対する脂環族系水添石油樹脂およびマイカの添加量(いずれも重量部)である。
【0052】
【表5】

【0053】
表5より、マイカを200〜600重量部加える場合に、特に高い損失係数(0.05以上)を得ることができた。マイカを全く加えない場合の損失係数は0.003程度となった。
【0054】
なお、マイカの添加量が400重量部以下の場合には混練加工性がよい。マイカを400重量部以上添加する場合には、脂環族系水添石油樹脂を大量に添加することで600重量部まで高い制振性を有する制振用組成物の製造が可能となる。また、マイカの添加量が400重量部以下であれば、脂環族系水添石油樹脂を大量に添加する必要がないので、製造された制振用組成物の硬化・脆化を低減して強度を高くすることができ、また耐熱性を高くすることができるため都合がよい。
[実施例3]
1.制振用組成物の製造
表6に記載された配合組成となるように秤量した各材料を予備混合し、180℃に設定した2軸ラボミキサーに投入し8分間混練した。次いで、得られた混練物を180℃に加熱した金型間に120秒間挟んで厚み1mmにシート化した。
【0055】
【表6】

【0056】
上記材料(a)〜(e)の詳細を説明する。
(a)SIBS(基材樹脂):シブスター(SIBSTAR)、株式会社カネカ製、重量平均分子量約70000、スチレン含有割合23wt%
(b)脂環族系水添石油樹脂:アルコン、荒川化学工業株式会社製、軟化点140℃
(c)マイカ
本実施例で使用したマイカ(鱗片状フィラー)の性状を以下に示す。
【0057】
白雲母(Muscovite):KAl2・AlSi310(OH)2、平均粒子径約20μm、平均アスペクト比70、弾性率14〜21MPa程度
また、石油樹脂ディスパージョン水溶液でマイカの表面をコーティングし造粒したものを予備混合に供した。石油樹脂はアルコン(荒川化学工業株式会社製、軟化点100℃)を使用した。用いた水溶液の性状を以下に示す。
【0058】
NV(樹脂固形分含有量)=50%、pH=7、粘度25mPa・s(25℃)、平均粒子径500nm
なお、水溶液は、石油樹脂量がマイカに対して3wt%になる量を添加した。
【0059】
表6におけるマイカ石油樹脂造粒品の添加量は、マイカの質量に換算した値である。
(d)黒着色MB:SPEMカラー、住化カラー株式会社製
(e)フェノール系酸化防止剤:イルガノックス1010、チバ・ジャパン株式会社製2.制振用組成物が奏する効果
実施例3の制振用組成物は、制振性および耐熱性に優れている。このことは、以下の実験で裏付けられる。
(1)制振性評価試験
(1−1)試験方法
制振性の評価の試験方法、試験条件は実施例1と同様である。
(1−2)試験結果
本試験では、2次モードにおける損失係数―温度特性で評価した。試験結果を表7に示す。また、損失係数―温度特性のグラフを図6に示す。
【0060】
【表7】

【0061】
表7および図6に示すように、実施例3の制振用組成物は、−30℃から125℃までのいずれの温度領域においても高い損失係数を示した。これにより、実施例3の制振用組成物は、温度変化の影響による弾性率、減衰率等の変化が少ないことが分かる。
(2)耐熱試験
(2−1)試験方法
耐熱性評価の試験方法、試験条件は実施例1と同様である。
(2−2)試験結果
実施例3の制振用組成物は、160℃で480時間経過してもヒビや折れが生じることはなく、高い耐熱性を示した。
3.マイカ石油樹脂造粒品を用いることによる制振用組成物の奏する効果
本実施例のようにマイカ石油樹脂造粒品を用いることで、実施例1のマイカウレタン造粒品を用いる場合と同様に、マイカフィラーの見かけの嵩は大きく低減でき濡れ性も改善され、ペレット生産時のホッパーからの供給も安定し、2軸混練押出機への噛み込みも安定し、ストランドの吐出も安定しコンパウンドペレットの生産効率が高まった。
【0062】
また、制振用組成物の材料として用いられている石油樹脂と相溶性の高い樹脂(軟化点が異なるアルコン)にてマイカをコーティングしているため、マイカの分散性・なじみが一層向上した。
【0063】
また、耐熱試験の結果も、フクレやヒビ・折れの発生がマイカウレタン造粒品を用いる場合よりもさらに低減できた。
また、マイカウレタン造粒品と比較してマイカ石油樹脂造粒品の強度が高いことから、予備混合時に砕けにくくなり、添加量を容易に増加させることができるようになった。
[実施例4]
マイカ石油樹脂造粒品の添加量を変化させて上記実施例3と同様の制振用組成物を製造し、上述した制振性評価試験と同様の手法を用いて、20℃における3次モードでの損失係数を測定した。試験結果を表8に示す。表中の添加量は、SIBS100重量部に対する脂環族系水添石油樹脂およびマイカの添加量(いずれも重量部)である。
【0064】
【表8】

【0065】
表8より、マイカを200〜600重量部加える場合に、特に高い損失係数(0.05以上)を得ることができた。マイカを全く加えない場合の損失係数は0.003程度となった。
【0066】
なお、マイカの添加量が400重量部以下の場合には混練加工性がよい。マイカを400重量部以上添加する場合には、脂環族系水添石油樹脂を大量に添加することで600重量部まで高い制振性を有する制振用組成物の製造が可能となる。また、マイカの添加量が400重量部以下であれば、脂環族系水添石油樹脂を大量に添加する必要がないので、製造された制振用組成物の硬化・脆化を低減して強度を高くすることができ、また耐熱性を高くすることができるため都合がよい。
[その他の実施形態]
上記各実施例では、(b)脂環族系水添石油樹脂としてアルコンを用いたが、上記アルコンに代えて、例えばロジン樹脂、テルペン樹脂、石油樹脂、石炭樹脂、フェノール樹脂、及びキシレン樹脂等から選ばれる1種以上の粘着付与樹脂を用いることとしてもよい。
【0067】
上記ロジン樹脂としては、例えばガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン、水素添加ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、及び変性ロジン等を用いることができる。
また、テルペン樹脂としては、例えばα−ピネン系テルペン樹脂、β−ピネン系テルペン樹脂、ジペンテン系テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、及び水素添加テルペン樹脂等を用いることができる。
【0068】
また、石油樹脂としては、例えば脂肪族系(C5系)石油樹脂、芳香族系(C9系)石油樹脂、共重合系(C5/C9系)石油樹脂、脂環族系(水素添加系、ジシクロペンタジエン(DCPD)系)石油樹脂、及びスチレン系(スチレン系、置換スチレン系)石油樹脂等を用いることができる。
【0069】
また、石炭樹脂としては、例えばクマロン・インデン樹脂等を用いることができる。
そして、これらの粘着付与樹脂(ロジン樹脂、テルペン樹脂、石油樹脂、石炭樹脂、フェノール樹脂、およびキシレン樹脂)は、いずれか一種を単独で用いてもよいし、二種以上をブレンドして用いてもよい。
【0070】
なお、上記粘着付与樹脂は、耐熱性に優れるものであることが好ましい。具体的には、上記粘着付与樹脂はJIS K 2207に規定の石油アスファルト軟化点試験法(環球法)による軟化点が100℃以上であることが好ましい。環球法による軟化点が100℃未満の場合には、上記粘着付与樹脂の耐熱性が低下するため、上記粘性エラストマー材料の使用環境温度の上限が低くなり過ぎてしまう虞がある。但し本発明品を室温以下等の低温環境で用いたい場合には意図的に低めの軟化点品を選択してもよい。
【0071】
また、上記粘着付与樹脂は、脂環族系水添石油樹脂であることが好ましい。この場合には、上記SIBS基材樹脂との相溶性を向上させることができる。また、脂環族系水添石油樹脂は不飽和結合を含まないため、耐熱性、耐候性ともに向上させることができる。
【0072】
また、上記粘着付与樹脂は、SIBS基材樹脂100重量部に対して25重量部以上であると、樹脂を含有させることによる制振性の向上を十分に得ることができる。一方、上記樹脂が65重量部以下であると、制振用組成物の強度を高く維持することができるため、曲げたときにヒビ割れが生じやすくなることや、耐熱性が低下してしまう危険を低減できる。即ち、上記粘着付与樹脂はSIBS基材樹脂100重量部に対して25重量部〜65重量部の範囲で含有させるとよい。
【0073】
また、上記実施例1,2において、マイカウレタン造粒品を製造するために用いる1液型ポリウレタンディスパージョン水溶液は、ポリウレタン量がマイカに対して3wt%になる量を添加することを例示したが、ポリウレタンの添加量を0.5〜5wt%の範囲としてマイカウレタン造粒品を製造することで、制振用組成物が良好な制振性を発揮する。
【0074】
また、上記実施例3,4では、マイカ石油樹脂造粒品を製造するために石油樹脂ディスパージョン溶液としてアルコンを用いたが、それ以外の石油樹脂を用いても同様の効果を得ることができる。
【0075】
また、上記実施例3,4において、上記石油樹脂ディスパージョン水溶液は、石油樹脂(アルコン)量がマイカに対して3wt%になる量を添加することを例示したが、石油樹脂の添加量を0.5〜5wt%の範囲としてマイカ石油樹脂造粒品を製造することで、制振用組成物が良好な制振性を発揮する。なお、石油樹脂量をマイカに対して5wt%以上となるように添加する場合には、上記材料(b)として用いる脂環族系水添石油樹脂との相溶性を考慮した上で添加量を定めるとよい。
【0076】
また、上記各実施例では、鱗片状フィラーの一例としてマイカを用いたが、マイカ以外に、窒化ホウ素、グラファイト、セリサイト、二硫化モリブデン、ガラスフレーク、金属フレークなどを用いてもよい。これらを用いる場合にも、上記ウレタン造粒品または石油樹脂造粒品に加工したものを用いるとよい。
【0077】
また、上記実施例1,2では、ポリウレタンディスパージョン水溶液を用いてウレタン造粒したマイカを用いる構成を例示し、上記実施例3,4では、石油樹脂ディスパージョン水溶液を用いてウレタン造粒したマイカを用いる構成を例示したが、他の材料(コーティング材)を用いて造粒したマイカを用いる構成であってもよい。例えばSIBSなどを用いて造粒したマイカを用いて製造された制振用組成物は、上記各実施例の制振用組成物と同様の性能を得ることができる。
【符号の説明】
【0078】
1…恒温槽、2…基材、3…制振用組成物、4…試験片、5…加振器、6…試験片固定部、7…加速度検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン‐イソブチレン‐スチレン共重合体と、鱗片状のフィラーと、を含有する
ことを特徴とする制振用組成物。
【請求項2】
前記鱗片状のフィラーとはマイカである
ことを特徴とする請求項1に記載の制振用組成物。
【請求項3】
前記鱗片状のフィラーは、コーティング材で表面をコーティングしてなる造粒品である
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の制振用組成物。
【請求項4】
前記コーティング材は、石油樹脂である
ことを特徴とする請求項3に記載の制振用組成物。
【請求項5】
前記造粒品は、石油樹脂ディスパージョン水溶液で前記鱗片状のフィラーの表面をコーティングし造粒したものである
ことを特徴とする請求項4に記載の制振用組成物。
【請求項6】
前記石油樹脂ディスパージョン水溶液は、石油樹脂が前記鱗片状のフィラーに対して0.5〜5wt%の範囲で添加されてなる水溶液である
ことを特徴とする請求項5に記載の制振用組成物。
【請求項7】
前記コーティング材は、ポリウレタンである
ことを特徴とする請求項3に記載の制振用組成物。
【請求項8】
前記造粒品は、1液型ポリウレタンディスパージョン水溶液で前記鱗片状のフィラーの表面をコーティングし造粒したものである
ことを特徴とする請求項7に記載の制振用組成物。
【請求項9】
前記1液型ポリウレタンディスパージョン水溶液は、ポリウレタンが前記鱗片状のフィラーに対して0.5〜5wt%の範囲で添加されてなる水溶液である
ことを特徴とする請求項8に記載の制振用組成物。
【請求項10】
スチレン‐イソブチレン‐スチレン共重合体100重量部に対して、前記鱗片状フィラーを200重量部〜600重量部の範囲で含有する
ことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれかに記載の制振用組成物。
【請求項11】
前記制振用組成物は、ロジン樹脂、テルペン樹脂、石油樹脂、石炭樹脂、フェノール樹脂、及びキシレン樹脂から選ばれる1種以上の樹脂を含有する
ことを特徴とする請求項1から請求項10のいずれかに記載の制振用組成物。
【請求項12】
前記樹脂は、軟化点が100℃以上である
ことを特徴とする請求項11に記載の制振用組成物。
【請求項13】
前記樹脂は、脂環族系水添石油樹脂である
ことを特徴とする請求項11または請求項12に記載の制振用組成物。
【請求項14】
スチレン‐イソブチレン‐スチレン共重合体100重量部に対して、前記樹脂を25重量部〜65重量部の範囲で含有する
ことを特徴とする請求項11から請求項13のいずれかに記載の制振用組成物。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図3】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−46937(P2011−46937A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169340(P2010−169340)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000242231)北川工業株式会社 (268)
【Fターム(参考)】