説明

制振装置

【課題】異なる固有周期を有する構造物における直交する二方向の振動を低減する。
【解決手段】外部から振動が付与されたときに、振動方向Xに第一固有周期TXで振動し、振動方向Xと直交する振動方向Yに第一固有周期TXと比較して長い第二固有周期TYで振動する構造物1における振動を低減する制振装置100であって、振動方向Xと振動方向Yとの各々へ揺動可能に構造物1に取り付けられるマス体20と、マス体20を構造物1に吊り下げ第二固有周期TYに対応した長さに調整されるアーム31と、振動方向Xのマス体20の振動周期を調整し、第一固有周期TXに対応したばね定数に調整されるばね機構35とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の制振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、構造物の振動を低減するための制振装置として、駆動装置をもたないTMD(Tuned Mass Damper:同調質量ダンパ)が利用されている。TMDの構造としては、構造物の最上階にアームで吊り下げられた錘を備えるものが知られている。
【0003】
特許文献1には、建築物等の基枠に取り付けられた左右一対の吊り部材によってマス体が吊り下げ支持された制振装置が開示されている。この制振装置では、一対の吊り部材の間にばね機構が取り付けられ、このばね機構の調整によってマス体の振動周期と建築物の振動周期とを合わせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−228730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の制振装置は、マス体が一方向にのみ揺動可能な構成であり、構造物における一方向の振動を低減可能なものである。そのため、構造物における二方向の振動には対応していない。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、異なる固有周期を有する構造物における直交する二方向の振動を低減可能な制振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、外部から振動が付与されたときに、第一振動方向に第一固有周期で振動し、前記第一振動方向と直交する第二振動方向に前記第一固有周期と比較して長い第二固有周期で振動する構造物における振動を低減する制振装置であって、前記第一振動方向と前記第二振動方向との各々へ揺動可能に前記構造物に取り付けられるマス体と、前記マス体を前記構造物に吊り下げ、前記第二固有周期に対応した長さに調整されるアームと、前記第一振動方向の前記マス体の振動周期を調整し、前記第一固有周期に対応したばね定数に調整されるばね機構と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、マス体を吊り下げるアームの長さが周期の長い第二固有周期に対応して調整されるため、第二振動方向への構造物の振動は、マス体が逆位相に振動することで打ち消されて低減される。一方、周期の短い第一固有周期で振動する第一振動方向への構造物の振動に対しては、ばね機構のばね定数が調整されることによって、マス体の振動周期が第一固有周期に対応して短くなる。よって、第一振動方向への構造物の振動もまた、マス体が逆位相に振動することで打ち消されて低減される。したがって、異なる固有周期を有する構造物における直交する二方向の振動を低減可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態に係る制振装置が用いられる構造物の斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る制振装置の正面図である。
【図3】図2における右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態に係る制振装置100について説明する。
【0011】
まず、図1を参照して、制振装置100が用いられる構造物1について説明する。
【0012】
構造物1は、高層ビルなどの高層建築物である。構造物1は、長手方向の壁面2と短手方向の壁面3とを有する直方体形状に形成される。
【0013】
構造物1は、地震や強風などによって外部から振動が付与されたときに、壁面2に沿った振動方向Xに第一固有周期TX[s]で振動し、壁面3に沿った振動方向Yに第一固有周期TXと比較して長い第二固有周期TY[s]で振動する。振動方向Xと振動方向Yとは、互いに直交する方向である。この振動方向Xが第一振動方向に該当し、振動方向Yが第二振動方向に該当する。構造物1における屋上や最上階などの最上部近傍には、制振装置100が設けられる。
【0014】
次に、図2及び図3を参照して、制振装置100について説明する。
【0015】
制振装置100は、構造物1において振動方向Xと振動方向Yとの二方向の振動を低減するものである。図2では、左右方向が振動方向Xであり、紙面垂直方向が振動方向Yである。図3では、紙面垂直方向が振動方向Xであり、左右方向が振動方向Yである。
【0016】
制振装置100は、直方体状に形成される枠体10と、枠体10に揺動可能に吊り下げられるマス体20と、マス体20を枠体10に振子状に吊り下げる吊下部30とを備える。制振装置100は、マス体20が構造物1の振動に対して逆位相に振動することによって、構造物1の振動を打ち消して低減するTMD(Tuned Mass Damper:同調質量ダンパ)である。
【0017】
枠体10は、直立する四本の柱11と、四本の柱11の上端を矩形に連結する天面12とを備える剛体である。枠体10は、構造物1における水平な床面5に固定される。これにより、制振装置100は構造物1と一体化され、制振装置100が構造物1の振動を低減することが可能となる。
【0018】
柱11は、その基端が床面5に固定され、四本とも同一の長さとなるように形成される。
【0019】
天面12は、床面5と平行に形成される矩形の平面である。天面12は、上下方向に貫通して形成される複数の貫通孔13を備える。
【0020】
貫通孔13は、天面12における四箇所に形成される。貫通孔13は、後述する吊下部30のアーム31に対応する位置に形成される。貫通孔13には、アーム31が各々挿通する。
【0021】
マス体20は、振動方向Xと振動方向Yとの各々へ揺動可能に枠体10に取り付けられる。マス体20は、高層ビルに設置される場合には、例えば質量が数10トン程度のものから100トン以上になるものまである。マス体20は、積層された多数の鉄板で形成されるが、この他にも、鉄筋コンクリートで形成されるものや、水などの液体が充填されたタンク状のものなどであってもよい。
【0022】
マス体20は、地震や強風などによって構造物1が振動方向Xと振動方向Yとに振動するのに対して、各々の方向に構造物1と同一の周期で揺動する。このとき、マス体20は、構造物1の振動に起因して振動するため、マス体20の振動と構造物1の振動との間には位相差が生じる。これにより、マス体20と構造物1とは、同一の周期で逆位相に振動することとなる。
【0023】
吊下部30は、振動方向Xに沿って複数設けられてマス体20を構造物1に吊り下げ、第二固有周期TYに対応した長さに調整される一対のアーム31と、一対のアーム31の間に傾斜して取り付けられ、第一固有周期TXに対応してマス体20の振動周期を調整するばね機構35とを備える。吊下部30は、振動方向Yに沿って並列に一対設けられる。吊下部30は、マス体20を吊下支持可能であれば、単一であってもよく、また、三個以上の複数であってもよい。
【0024】
なお、アーム31は、一対に限らず、三本以上の複数であってもよい。アーム31が三本以上の複数である場合には、ばね機構35は、任意の隣接する一対のアーム31の間に設けられることとなる。
【0025】
アーム31は、その両端を各々構造物1とマス体20とに連結するための一対の自在継手32と、その長さを調整するための調整機構としてのターンバックル33とを備える。
【0026】
アーム31は、自在継手32を介して回動自在に天面12に固定され、自在継手32を介して回動自在にマス体20に固定される。これにより、マス体20は、水平な姿勢を維持したまま、構造物1に対して任意の方向に揺動可能となる。アーム31の長さは、ターンバックル33を操作することによって、構造物1における第二固有周期TYと、振動方向Yへのマス体20の振動周期とが一致するように調整される。
【0027】
自在継手32は、直交する二方向に各々回動可能な一対の軸部を有することでアーム31を全方向に回動可能とするユニバーサルジョイントである。一方の自在継手32は、天面12の貫通孔13に対応する位置における天面12の上面に固定される。他方の自在継手32は、マス体20の上面に固定される。
【0028】
ターンバックル33は、アーム31の長手方向中ほどに配設される。ターンバックル33は、螺合するねじ部の回転によって、アーム31の長さを伸縮させるものである。調整機構として、ターンバックル33ではなく、アーム31の長さを伸縮させることのできる他の機構を用いてもよい。
【0029】
ばね機構35は、内部にばね(図示省略)が収装されるシリンダ部36と、シリンダ部36に対して進退するロッド体37とを備えるスプリングダンパである。ばね機構35は、シリンダ部36に対してロッド体37が進退することによって伸縮する。このとき、シリンダ部36内のばねによって、ばね機構35は、ばね力を発生する。
【0030】
ばね機構35の両端部、即ちシリンダ部36の端部である一端35aとロッド体37の端部である他端35bとは、隣接する一対のアーム31に各々連結される。このとき、一端35aと他端35bとは、アーム31の長手方向における取り付け位置が相違する。つまり、ばね機構35は、斜めに傾斜して取り付けられる。よって、マス体20の振動によってアーム31が揺動したときには、ばね機構35は、一端35aと他端35bとの間の距離の変化によって伸縮することとなる。
【0031】
ばね機構35における一端35aと他端35bとは、アーム31の長手方向における取り付け位置を調整可能である。これにより、ばね機構35の傾きを変化させることができる。ばね機構35のばね定数は、傾きが変化して力の作用する角度が変化することによって調整される。ばね機構35のばね定数は、ばね機構35の傾きを変化させることによって、構造物1における第一固有周期TXと、振動方向Xへのマス体20の振動周期とが一致するように調整される。
【0032】
ばね機構35の取り付け角度を変化させるのではなく、シリンダ部36に収装されるばねをばね定数の異なるものに変更することによってもまた、ばね機構35のばね定数を変更可能である。
【0033】
ばね機構35を、一対のアーム31の間に取り付けるのではなく、柱11とアーム31との間、又は柱11とマス体20との間に取り付けてもよい。柱11とアーム31との間、又は柱11とマス体20との間にばね機構35を取り付けた場合にも、ばね機構35のばね定数を調整することによって、マス体20の振動周期を調整することが可能である。また、この場合、一対のアーム31を設けずに、単一のアーム31によってマス体20を支持することも可能である。
【0034】
なお、油圧シリンダや電動シリンダなどのアクチュエータを追加することで、制振装置100をAMD(Active Mass Damper:アクティブ質量ダンパ)とすることも可能である。
【0035】
次に、制振装置100の作用について説明する。
【0036】
構造物1が地震や強風などによって任意の方向に振動すると、制振装置100の枠体10は、構造物1と一体に振動する。枠体10が振動すると、四本のアーム31を介して枠体10に吊り下げられるマス体20は、枠体10に対して遅れて振動することとなる。マス体20の振動は、振動方向Xへの振動と振動方向Yへの振動とが合成されてなる振動である。そこで、以下では、振動方向Xと振動方向Yとに分けて説明する。
【0037】
振動方向Yへと構造物1が振動すると、マス体20もまた、振動方向Yへと振動する。このとき、マス体20は、その慣性によって構造物1が振動を開始してから遅れて振動を開始する。これにより、構造物1の振動とマス体20の振動とは逆位相となる。
【0038】
ここで、マス体20を吊り下げるアーム31の長さは、構造物1における第二固有周期TYと、振動方向Yへのマス体20の振動周期とが一致するように調整される。よって、構造物1とマス体20とは、同一の周期で逆位相に振動することとなる。したがって、振動方向Yへの構造物1の振動は、マス体20が逆位相に振動することで打ち消されて低減される。
【0039】
同様に、振動方向Xへと構造物1が振動すると、マス体20もまた、振動方向Xへと振動する。このとき、マス体20は、その慣性によって構造物1が振動を開始してから遅れて振動を開始する。これにより、構造物1の振動とマス体20の振動とは逆位相となる。
【0040】
ここで、一対のアーム31の間には、ばね機構35が取り付けられる。そのため、マス体20の振動周期は、ばね機構35のばね力によって、第二固有周期TYと比較して短くなる。
【0041】
ばね機構35のばね定数は、構造物1における第一固有周期TXと、振動方向Xへのマス体20の振動周期とが一致するように調整される。よって、構造物1とマス体20とは、同一の周期で逆位相に振動することとなる。したがって、振動方向Xへの構造物1の振動もまた、マス体20が逆位相に振動することで打ち消されて低減される。
【0042】
以上より、制振装置100が設けられることによって、振動方向Xと振動方向Yとの固有周期が異なる構造物1における振動方向Xへの振動と振動方向Yへの振動とがともに低減される。したがって、制振装置100は、構造物1における直交する二方向の振動を低減可能である。
【0043】
以上の実施の形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0044】
マス体20を吊り下げるアーム31の長さが周期の長い第二固有周期TYに対応して調整されるため、振動方向Yへの構造物1の振動は、マス体20が逆位相に振動することで打ち消されて低減される。一方、周期の短い第一固有周期TXで振動する振動方向Xへの構造物1の振動に対しては、一対のアーム31の間にばね機構35が取り付けられることによって、マス体20の振動周期は第一固有周期TXに対応して短くなる。よって、振動方向Xへの構造物1の振動もまた、マス体20が逆位相に振動することで打ち消されて低減される。したがって、異なる固有周期を有する構造物1における直交する二方向の振動を低減可能である。
【0045】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、高層ビルや橋梁などの構造物において振動を抑制するための制振装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
100 制振装置
1 構造物
10 枠体
11 柱
12 天面
20 マス体
30 吊下部
31 アーム
32 自在継手
33 ターンバックル(調整機構)
35 ばね機構
36 シリンダ部
37 ロッド体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から振動が付与されたときに、第一振動方向に第一固有周期で振動し、前記第一振動方向と直交する第二振動方向に前記第一固有周期と比較して長い第二固有周期で振動する構造物における振動を低減する制振装置であって、
前記第一振動方向と前記第二振動方向との各々へ揺動可能に前記構造物に取り付けられるマス体と、
前記マス体を前記構造物に吊り下げ、前記第二固有周期に対応した長さに調整されるアームと、
前記第一振動方向の前記マス体の振動周期を調整し、前記第一固有周期に対応したばね定数に調整されるばね機構と、を備えることを特徴とする制振装置。
【請求項2】
前記アームの長さは、前記構造物における前記第二固有周期と、前記第二振動方向への前記マス体の振動周期とが一致するように調整され、
前記ばね機構のばね定数は、前記構造物における前記第一固有周期と、前記第一振動方向への前記マス体の振動周期とが一致するように調整されることを特徴とする請求項1に記載の制振装置。
【請求項3】
前記アームは、前記第一振動方向に沿って複数設けられ、
前記ばね機構は、隣接する一対の前記アームの間に傾斜して取り付けられることを特徴とする請求項1又は2に記載の制振装置。
【請求項4】
前記アームは、前記第二振動方向に沿って並列に複数設けられることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の制振装置。
【請求項5】
前記アームは、
その両端を各々前記構造物と前記マス体とに連結するための一対の自在継手と、
その長さを調整するための調整機構と、を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の制振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−255460(P2012−255460A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127517(P2011−127517)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(304039065)カヤバ システム マシナリー株式会社 (185)
【Fターム(参考)】