説明

制震構造建物

【課題】地震エネルギーの吸収能力が高いにもかかわらず建物外周面の開口面積が大きくて開放感のある建築意匠となり、建物内部に十分な光を採り込めるため、吹抜空間が不要で建物内部の空間を有効に利用でき、しかも、低コスト化が可能なRC造を主体とする制震構造建物を提供する。
【解決手段】建物外周架構をRC造を主体とした剛接柱梁架構Bとし、RC造を主体とした剛接柱梁架構における一部の梁を短スパン梁にすると共に、当該短スパン梁をせん断降伏型の制震梁2aとし、建物外周の相対向するRC造を主体とした剛接柱梁架構の柱1a,1a間にプレストレストコンクリート梁3を架設して建物内部に無柱空間を形成する。プレストレストコンクリート梁3は建物中央部に2列に配置し、2列のプレストレストコンクリート梁3の端部を支持する柱1a,1a間の短スパン梁を制震梁とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート造(以下、RC造)を主体とする制震構造建物に関する。
【背景技術】
【0002】
図8に示すように、建物外周架構を、同一面内に離間して立設された複数の連層耐震壁(壁柱)aと、複数の連層耐震壁aの向かい合う端部同士を接合する短スパンの境界梁bとから構成し、これらの境界梁bを制震梁とし、連層耐震壁aの下端部を下方ほど細くなるようなテーパー状として基礎や地下階等の下部構造物にピン支承cさせると共に、連層耐震壁aの下端部と下部構造物の間に、地震時の水平力によりピン支承cを中心として回転変形する連層耐震壁の回転エネルギーを吸収するオイルダンパーdを介装して、制震梁bとオイルダンパーdによって地震エネルギーを吸収するように構成し、建物外周の相対向する連層耐震壁a,a間にプレストレストコンクリート梁を架設して無柱空間を形成したRC造を主体とした制震構造建物は、非特許文献1によって既に知られている。
【0003】
この制震構造建物は、鉄骨造(以下、S造)に比して剛性が高く、制震構造が成立しにくいRC造を主体とした建物であるにもかかわらず、地震エネルギーの吸収能力が高く、それでいて、鋼材の使用量が少ないため、S造の制震構造建物に比して低コストで施工できるという利点を有している。
【0004】
しかしながら、上記の制震構造建物においては、建物外周架構が同一面内に離間して立設された複数の連層耐震壁aと、複数の連層耐震壁の向かい合う端部同士を接合する短スパンの境界梁bとから構成されているため、建物外周面のうち多くの領域を連層耐震壁が占めることになり、建物外周面が開口面積(窓)の小さい外観となって開放感の乏しい建築意匠になるという問題点がある。
【0005】
また、建物外周面の窓が小さいので、建物内部に十分な光を採り込むためには、建物中央部に屋上階から下層階までの大規模な吹抜空間を形成することが必要とされ、吹抜空間によって建物内部の平面計画が制約されると共に、建物内部空間の有効利用が妨げられることになる。
【0006】
また、上記の制震構造建物はRC造を主体とした建物であるため、S造の制震構造建物に比して低コストで施工できるとは言え、連層耐震壁下端部のピン支承cの構造やオイルダンパーd等の高価な部材が使用されており、これが更なる低コスト化を妨げる要因ともなっている。
【0007】
【非特許文献1】2006年10月発行の「コンクリート工学 Vol.44」の第36〜41頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点を踏まえてなされたものであって、その目的とするところは、地震エネルギーの吸収能力が高いにもかかわらず建物外周面の開口面積が大きくて開放感のある建築意匠となり、建物内部に十分な光を採り込めるため、吹抜空間が不要で建物内部の空間を有効に利用でき、しかも、低コスト化が可能なRC造を主体とした制震構造建物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために本発明が講じた技術的手段は、次の通りである。即ち、請求項1に記載の発明による制震構造建物は、建物外周架構を鉄筋コンクリート造を主体とした剛接柱梁架構とし、鉄筋コンクリート造を主体とした剛接柱梁架構における一部の梁を短スパン梁にすると共に、当該短スパン梁をせん断降伏型の制震梁とし、建物外周の相対向する鉄筋コンクリート造を主体とした剛接柱梁架構の柱間にプレストレストコンクリート梁を架設して建物内部に無柱空間を形成したことを特徴としている。尚、本発明において、「鉄筋コンクリート造を主体とした」とは、建築構造物の構造種別は主として鉄筋コンクリート造とし、必要に応じて、適宜一部を鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造とする場合があることを包含する意味である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の制震構造建物であって、プレストレストコンクリート梁が建物中央部に2列に配置され、2列のプレストレストコンクリート梁の端部を支持する柱間の短スパン梁が制震梁とされていることを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の制震構造建物であって、プレストレストコンクリート梁が建物中央部に2列の十字状に配置され、2列の十字状のプレストレストコンクリート梁の端部を支持する柱間の短スパン梁が夫々制震梁とされていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、地震エネルギーの吸収能力が高いにもかかわらず建物外周面の開口面積(窓)が大きくて開放感のある建築意匠となり、建物内部に十分な光を採り込めるため、吹抜空間が不要で建物内部の空間を有効に利用でき、しかも、低コスト化が可能である。
【0013】
即ち、建物外周架構をRC造を主体とした剛接柱梁架構とし、RC造を主体とした剛接柱梁架構における一部の梁を地震時にせん断力が集中し易い短スパン梁とし、その短スパン梁をせん断降伏型の制震梁とする一方、建物内部には、プレストレストコンクリート梁の採用により無柱空間を形成して、RC造を主体とした剛接柱梁架構の剛性を弱め、制震梁の変形を助長するようにしたので、地震エネルギーの吸収能力を高めることができる。
【0014】
しかも、上述した従来例のように、地震エネルギーの吸収能力を高めるためにピン支承構造やオイルダンパー等の高価な部材を使用しないので、より一層の低コスト化が可能である。
【0015】
また、RC造を主体とした制震構造建物であるにもかかわらず建物外周架構をRC造を主体とした剛接柱梁架構としたので、建物外周面に柱と短スパン部分以外の梁で囲まれた大きな開口を確保でき、建物内部に十分な光を採り込めるため、建物中央部に採光用の大規模な吹抜空間を形成する必要がなく、建物内部の空間を有効に利用できる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、上記の効果に加え、プレストレストコンクリート梁が建物中央部に2列に配置され、2列のプレストレストコンクリート梁の端部を支持する柱間の短スパン梁が制震梁とされているので、建物中央部にプレストレストコンクリート梁を集中して配置し、床振動性能の高い無柱空間を形成できるという効果がある。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、上記の効果に加え、プレストレストコンクリート梁が建物中央部に2列の十字状に配置され、2列の十字状のプレストレストコンクリート梁の端部を支持する柱間の短スパン梁が夫々制震梁とされているので、建物外周の相対向するRC造を主体とした剛接柱梁架構間の間隔が二方向に広い長大スパンのRC造を主体とした制震構造建物を実現できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1、図2は、本発明に係るRC造を主体とする制震構造建物を示す。この制震構造建物は、建物外周架構を、基礎や地下階等の下部構造物Aに対して剛接合された柱1と、柱1に剛接合された梁2とから成るRC造を主体とした剛接柱梁架構Bとし、四周のRC造を主体とした剛接柱梁架構Bにおける一部の梁を短スパン梁にすると共に、これらの短スパン梁をせん断降伏型の制震梁2aとし、建物内部には、建物外周の相対向するRC造を主体とした剛接柱梁架構B,B間に長大スパンのプレストレストコンクリート梁3を架設して無柱空間を形成したものである。
【0019】
前記プレストレストコンクリート梁3は、図2に示すように、建物中央部に2列に配置されており、2列のプレストレストコンクリート梁3は、相対向する制震梁2aの両端を支持する柱1a,1a間に架設されている。
【0020】
RC造を主体とした剛接柱梁架構Bのうち、柱1と短スパン部分以外の梁2はRC造であるが、短スパン梁(制震梁2a)が架設される柱1aは、SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)とされている。また、この実施形態においては、せん断降伏型の制震梁2aとして、図3に示すように、S造(鉄骨造)とし、梁部材中央部のウエブに低降伏点鋼や普通鋼材を用いたせん断降伏型履歴ダンパーが採用されている。4aは柱1と短スパン部分以外の梁2に囲まれた大きな開口、4bは柱1aと短スパンの制震梁2aに囲まれた小さな開口であり、何れも採光可能なガラスを主体とする外装材(図示せず)で閉塞されている。
【0021】
上記の構成によれば、建物外周架構をRC造を主体とした剛接柱梁架構Bとし、RC造を主体とした剛接柱梁架構Bにおける一部の梁を地震時にせん断力が集中し易い短スパン梁とし、その短スパン梁をせん断降伏型の制震梁2aとする一方、建物内部には、プレストレストコンクリート梁3の採用により無柱空間を形成して、RC造を主体とした剛接柱梁架構Bの剛性を弱め、制震梁2aの変形を助長するようにしたので、ピン支承構造やオイルダンパー等の高価な部材を使用せずに地震エネルギーの吸収能力を高めることができ、RC造を主体とする制震構造建物の低コスト化が可能である。
【0022】
また、RC造を主体とした制震構造建物であるにもかかわらず建物外周架構をRC造を主体とする剛接柱梁架構Bとしたので、建物外周面に柱1と梁2で囲まれた大きな開口4aを確保でき、建物内部に十分な光を採り込めるため、建物中央部に採光用の大規模な吹抜空間を形成する必要がなく、建物内部の空間を有効に利用できる。
【0023】
殊に、上記の構成によれば、プレストレストコンクリート梁3が建物中央部に2列に配置され、2列のプレストレストコンクリート梁3の端部を支持する柱1a,1a間の短スパン梁が制震梁2aとされているので、建物中央部にプレストレストコンクリート梁3を集中して配置し、床振動性能の高い無柱空間を形成できる。
【0024】
尚、せん断降伏型のS造の制震梁2aとしては、図4に示すように、X型配置された鋼材に低降伏点鋼や普通鋼材を用いたせん断降伏型履歴ダンパーであってもよい。また、短スパン梁(制震梁2a)が架設される柱1aをRC造とする場合には、せん断降伏型の制震梁2aとして、図5に示すように、RC造とし、X型配置された主筋に低降伏点鋼を用いたものや、図6に示すように、RC造とし、X型配置された主筋をシース管5に充填した粘弾性体材料6で被覆したもの等を採用することが可能である。
【0025】
図7は、本発明の他の実施形態を示し、プレストレストコンクリート梁3が2列の十字状に配置され、2列のプレストレストコンクリート梁3の端部を支持する柱1a,1a間
の短スパン梁が制震梁2aとされている点に特徴がある。
【0026】
この構成によれば、プレストレストコンクリート梁3が建物中央部に2列の十字状に配置され、2列の十字状のプレストレストコンクリート梁3の端部を支持する柱1a,1a間の短スパン梁が制震梁2aとされているので、建物外周の相対向するRC造を主体とした剛接柱梁架構B,B間の間隔が二方向に広い長大スパンのRC造を主体とする制震構造建物を実現できる。その他の構成、作用は、図1〜図6の実施形態と同じであるため、説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る制震構造建物の概略正面図である。
【図2】本発明に係る制震構造建物の概略横断平面図である。
【図3】本発明の他の実施形態を示す制震構造建物の概略横断平面図である。
【図4】せん断降伏型制震梁の一例を示す要部の縦断正面図である。
【図5】せん断降伏型制震梁の他の例を示す要部の縦断正面図である。
【図6】せん断降伏型制震梁の他の例を示す要部の縦断正面図である。
【図7】せん断降伏型制震梁の他の例を示す要部の縦断正面図である。
【図8】従来例を説明する制震構造建物の概略正面図である。
【符号の説明】
【0028】
A 下部構造物
B RC造を主体とした剛接柱梁架構
1,1a 柱
2 梁
2a 制震梁(短スパン梁)
3 プレストレストコンクリート梁
4a 大きな開口
4b 小さな開口
5 シース管
6 粘弾性体材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物外周架構を鉄筋コンクリート造を主体とした剛接柱梁架構とし、鉄筋コンクリート造を主体とした剛接柱梁架構における一部の梁を短スパン梁にすると共に、当該短スパン梁をせん断降伏型の制震梁とし、建物外周の相対向する鉄筋コンクリート造を主体とした剛接柱梁架構の柱間にプレストレストコンクリート梁を架設して建物内部に無柱空間を形成したことを特徴とする制震構造建物。
【請求項2】
請求項1に記載の制震構造建物であって、プレストレストコンクリート梁が建物中央部に2列に配置され、2列のプレストレストコンクリート梁の端部を支持する柱間の短スパン梁が制震梁とされていることを特徴とする制震構造建物。
【請求項3】
請求項1に記載の制震構造建物であって、プレストレストコンクリート梁が建物中央部に2列の十字状に配置され、2列の十字状のプレストレストコンクリート梁の端部を支持する柱間の短スパン梁が夫々制震梁とされていることを特徴とする制震構造建物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−215785(P2009−215785A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60547(P2008−60547)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】