説明

制震用金属板

【課題】非常な狭小な隙間において配設可能であり、しかも建築構造物の様々な箇所にも応用可能な構成からなる制震用金属板を提供する。
【解決手段】一対の対象部材間に接合され、対象部材間の相対変位に応じたエネルギー吸収性能を発揮する制震用金属板1であって、一方の対象部材に接合される第1接合部46と、他方の対象部材に接合される第2接合部47が、それぞれ相対変位方向Aに沿って帯状に且つ互いに略平行に一枚の金属板41に割り当てられ、第1接合部46と第2接合部47との間には、降伏後の耐力上昇を抑制するための減衰部48が形成されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の対象部材間に接合され、対象部材間の相対変位に応じたエネルギー吸収性能を発揮する制震用金属板、これを適用した建築構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年より、防災意識の向上に伴って、地震時の揺れを制震ダンパーによって抑えるようにした制震構造を採用した住宅やマンション等の建築構造物が増加している。この種の制震構造における制震ダンパーとしては、例えば鋼材の降伏に伴う履歴吸収エネルギーを利用する鋼材ダンパーが、低コストで大きな減衰性能を発揮できることから多くの構造物に採用されている。なかでも軸力に抵抗するブレースダンパーは機構が簡単で設計的にも扱いやすいため、最も普及している。ブレースダンパー以外にもベースプレートや接合金物を利用したダンパーがある。
【0003】
例えば、特許文献1の開示技術では、柱の脚部と基礎部分との間に、ベースプレートダンパを介装させた制振構造が提案されている。このベースプレートは、柱に引張力が作用した際に、曲げ降伏またはせん断降伏し、その履歴エネルギーによって柱脚部に発生した引張力を吸収することが可能となり、ひいては制振機能を発揮させることが可能となる。
【0004】
また特許文献2では、ダンパー用鋼板が曲げ−せん断降伏するような形状とされていることで、ダンパー用鋼板がせん断降伏した後に繰り返し荷重を受けても、そのせん断耐力の上昇を抑制しえる技術が開示されている。
【0005】
ところで、建築構造部の耐震性能を向上させるためには、各部材の相対変位を利用して振動を減衰させることが有効であり、上記のダンパー機構以外にも、土台と布基礎の間や、壁パネルと床パネルとの層間における相対変位を利用して、ダンパーを動かして振動を減衰させ、振動エネルギーを吸収することが考えられる。しかしながら特許文献1、2の開示技術は、これら土台と布基礎の間や、壁パネルと床パネルとの層間といった非常な狭小な隙間において配設することを前提としてなく、上述した要請に応えることができないという問題点があった。
【0006】
相対変位を利用する箇所にダンパーを一部に挿入すると、ダンパー挿入部分が、ダンパー挿入されていない部分に比べて、剛性が高くなり、ダンパー挿入部分の相対変位が小さくなり、一方でダンパーを挿入していない部分の相対変位が大きくなって、振動エネルギーを効率よく吸収しない場合が生じる。そのため、相対変位が生じる部分全体に万遍なくダンパーを挿入することが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−92096号公報
【特許文献2】特開2008−111332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、一対の対象部材間に接合され、対象部材間の相対変位に応じたエネルギー吸収性能を発揮する制震用金属板において、特に非常な狭小な隙間において配設可能であり、しかも建築構造物の様々な箇所にも応用可能な構成からなる制震用金属板、並びにこれを使
用した建築構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願請求項1記載の制震用金属板は、上述した課題を解決するために、一対の対象部材間に接合され、上記対象部材間の相対変位に応じたエネルギー吸収性能を発揮する制震用金属板において、一方の対象部材に接合される第1接合部と、他方の対象部材に接合される第2接合部が、それぞれ上記相対変位方向に沿って帯状に且つ互いに略平行に一枚の金属板に割り当てられ、 上記第1接合部と上記第2接合部との間には、降伏後の耐力上昇を抑制するとともに、振動エネルギーを吸収して振動を減衰させるための振動吸収手段が形成されてなることを特徴とする。
【0010】
本願請求項2記載の制震用金属板は、請求項1記載の発明において、上記第1接合部は、上記第2接合部を中心として互いに略線対称位置に上記振動吸収手段を介して2列に亘って割り当てられていることを特徴とする。
【0011】
本願請求項3記載の制震用金属板は、請求項1又は2記載の発明において、上記振動吸収手段は、貫通するスリット孔をもつ金属板であることを特徴とする。
【0012】
本願請求項4記載の制震用金属板は、請求項3記載の発明において、上記振動吸収手段は、上記対象部材間の相対変位に応じて上記金属板が曲げ降伏又はせん断降伏するように上記スリット孔が設定されていることを特徴とする。
【0013】
本願請求項5記載の制震用金属板は、請求項2記載の発明において、上記第1接合部は、上記第2接合部よりも上記相対変位方向に向けてより長く設定され、2列の第1接合部は端部で接合されていることを特徴とする。
【0014】
本願請求項6記載の制震用金属板は、請求項1〜5のうち何れか1項記載の発明において、上記金属板は、降伏耐力が最大耐力の4/5以上の降伏耐力比となるように析出硬化加工又はトリップ加工が施された鋼板であることを特徴とする。
【0015】
本願請求項7記載の制震用金属板は、請求項1〜6のうち何れか1項記載の発明において、上記第1接合部及び/又は上記第2接合部は、上記相対変位方向に沿って補強部材により補強されていることを特徴とする。
【0016】
本願請求項8記載の制震用金属板は、請求項1〜7のうち何れか1項記載の発明において、上記第2接合部又は上記第1接合部には、上記相対変位方向と略直交する方向に伸びた長孔が形成されており、上記対象部材が上記相対変位と略直行する方向に相対移動する際、上記振動吸収手段に応力が生じないことを特徴とする。
【0017】
本願請求項9記載の建築構造物は、請求項1〜8のうち何れか1項記載の制震用金属板を備えることを特徴とする。
【0018】
本願請求項10記載の建築構造物は、請求項9に記載の発明において、請求項1〜8記載のうち何れか1項記載の制震用金属板を、建物の布基礎の上端と、建物上部躯体の土台の下端の間に挿入し、上記第1接合部を布基礎上端に、上記第2接合部を土台下端に接合し、振動時の布基礎と土台の相対的な変位に応じて、上記制震用金属板が振動エネルギーを吸収し、振動を減衰させることを特徴とする。
【0019】
本願請求項11記載の建築構造物は、請求項1〜8記載のうち何れか1項記載の制震用金属板を、建物の壁枠と、床の梁材の接合に用いた建築構造物において、上記2接合部が
上記壁枠に、上記第1接合部が上記梁材に接合されて、振動時における上記壁枠と上記梁材間の相対的な変位にずれに応じて、上記制震用金属板が振動エネルギーを吸収し、振動を減衰させることを特徴とする。
【0020】
本願請求項12記載の建築構造物は、請求項9〜11記載のうち何れか1項記載の建築構造物からなることを特徴とする薄板軽量形鋼造建築物。
【0021】
また、エネルギー吸収を行うべき一対の対象部材のそれぞれを一枚の金属板に接合可能とし、この一枚の金属板を介して一対の対象部材の相対変位に応じた振動エネルギー吸収を行うことが可能な構成とすることにより、上述した狭小な隙間に配設可能とすることに加え、更に建築構造物の様々な箇所にも応用できることから、これまで狭小なために挿入不可能であった部分にもダンパーを設置でき、その適用範囲を格段に増やし、上述の相対変位部分に万遍なくダンパー挿入が可能になる。
【発明の効果】
【0022】
上述した構成からなる本発明によれば、上記第1接合部と上記第2接合部との間の振動吸収手段である制震用金属板を早期に曲げ降伏させることにより、塑性変形を起こさせ、耐力上昇が抑制された安定した変形エネルギー吸収性能を発揮させることが可能となる。そして、この制震用金属板における対象部材間の相対変位に応じたエネルギー吸収性能を発揮させることにより、ひいてはこれが配設された建築構造物における制震機能を発揮させることが可能となる。特に本発明では、特に非常な狭小な隙間において配設可能であり、しかも建築構造物の様々な箇所にも応用可能となる。
【0023】
また、本発明では、上記第1接合部と上記第2接合部との間の振動吸収手段である制震用金属板を相対変位方向Aと直交方向に長く設定した場合、制震用金属板の両端に発生する曲げモーメントを大きくすることすることができ、容易に制震用金属板曲げ降伏させることが可能となる。一方、制震用金属板を相対変位方向Aと直交方向に短く設定した場合、制震用金属板に発生するせん弾力により制震用金属板を降伏させる。理想的には、制震用金属板が曲げ降伏又はせん断降伏するようにスリット孔の形状を略ひし形状にするのが望ましい。 更に本発明では、制震用金属板を構成する金属板を、降伏耐力が最大耐力の4/5以上の降伏耐力比となるように析出硬化加工又はトリップ加工が施された鋼板を用いるようにしてもよい。これにより、上記第1接合部と上記第2接合部との間の制震用金属板を、広い範囲において曲げ降伏ならびにせん断降伏による塑性変形を起こさせることが容易となり、上述した所期の効果を発現させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明を適用した制震用金属板の構成図である。
【図2】対象部材について説明するための図である。
【図3】本発明を適用した制震用金属板の動作について説明するための図である。
【図4】(a)は、スリット孔をB方向に向けて長径化させた本発明を適用した制震用金属板を用いた場合における繰り返し載荷試験結果を示す図であり、また(b)は、比較例の繰り返し載荷試験結果を示す図である。
【図5】実施例1の建築構造物における布基礎から建築物の土台に至るまでの断面構成図である。
【図6】実施例1の建築構造物における布基礎から建築物の土台に至るまでの側面図である。
【図7】実施例1の作用効果について説明するための図である。
【図8】実施例1において第1接合部側において、B方向に延長された長径のねじ孔を穿設した例を示す図である。
【図9】本発明を適用した制震用金属板が配設される建築構造物の例を示す図である。
【図10】本発明を適用した制震用金属板が配設される建築構造物の他の例を示す図である。
【図11】実施例2の他の形態について示す図である。
【図12】(a),(b)は、実施例3として、本発明を適用した制震用金属板が配設される鋼管柱の例を示す図である。(c)は、実施例4として、本発明を適用した制震用金属板が配設される梁継手の例を示す図である。
【図13】実施例5として、本発明を適用した制震用金属板が配設される制振用ダンパーの例を示す図である。
【図14】(a)は、制振用ダンパーの一端側における接合部材への取り付け形態を示す図であり、(b)は、隣接するブレース間における制震用金属板の接合形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態として、一対の対象部材間に接合され、対象部材間の相対変位に応じたエネルギー吸収性能を発揮する制震用金属板について、図面を参照しながら詳細に説明をする。
【0026】
本発明を適用した制震用金属板1の構成を図1に示す。この制震用金属板1は、ベースとなる一枚の金属板41に、所定の形状からなる貫通孔を形成させたり、或いは接合部を割り当てることにより構成されている。また、この制震用金属板1は、一対の対象部材間に接合されることを前提としている。この対象部材は、何れも建築構造物の一構成要素であるが、これに限定されるものではない。
【0027】
ここでいう対象部材とは、図2(a)に示す側面図のように、一の対象部材42と、他の対象部材43が、制震用金属板1に対して何れも一方の面側に位置する場合もあれば、図2(b)に示すように、一の対象部材42と他の対象部材43が、制震用金属板1を挟んで両面側にそれぞれ位置する場合もある。何れの場合においても、この一の対象部材42と他の対象部材43とは、地震時等において互いに相対変位方向Aに向けて相対的に変位する。制震用金属板1は、このような相対変位方向Aに向けて相対変位が生じえる一の対象部材42と他の対象部材43の面に取り付けられることを前提としている。そして、この制震用金属板1は、対象部材42、43間の相対変位方向Aへの振動による相対変位に応じてエネルギー吸収性能を発揮することを意図して取り付けられることを意図したものである。
【0028】
図1の説明に戻る。このような一対の対象部材42、43に取り付けられる制震用金属板1は、一方の対象部材42に接合される第1接合部46と、他方の対象部材43に接合される第2接合部47が、それぞれ相対変位方向Aに沿って帯状に且つ互いに略平行に一枚の金属板に割り当てられている。第1接合部46と第2接合部47との間には、降伏後の耐力上昇を抑制するための減衰部48が形成されてなる。
【0029】
第1接合部46は、第2接合部47を中心として互いに略線対称位置に2列に亘って割り当てられている。即ち、この第1接合部46が、相対変位方向Aと略直交方向Bへの両端位置に割り当てられており、その中心に第2接合部47が位置していることになる。この第1接合部46は、第2接合部47に対して減衰部48を介して配置されるものであることから、減衰部48も第2接合部47を中心として互いに略線対称位置に2列に亘って割り当てられていることになる。
【0030】
第1接合部46は、対象部材42との間で釘やドリルネジで接合を行うための領域として構成されている。この第1接合部46は、特にねじ孔といった具体的な構成で具現化されるものに限定されず、あくまで対象部材42への取り付け時において釘やドリルネジが
打ち込まれる予定の平面領域として予め割り当てられたものであってもよい。また、この第1の接合部46は、ボルトネジによる対象部材42との螺着により接合を行うことを想定したものである場合には、かかるボルトネジ用の貫通孔として構成されていてもよい。いずれの場合においても、この第1接合部46は、相対変位方向Aに向けて縦長となるように、言い換えれば相対変位方向Aに沿って帯状に割り当てられている。実際には、この相対変位方向Aは、取り付けるべき対象部材42、43によって決まるものであるところ、予め帯状に割り当てられたこの第1の接合部46における帯状の延長方向が、対象部材42、43の相対変位方向Aに合うようにして、これら対象部材42、43に取り付けられることになる。
【0031】
第2接合部47は、対象部材43との間でネジにより接合を行うための領域として構成されている。この第2接合部47は、上記B方向に向けて長径となるように金属板41を貫通させたねじ孔49として構成される。また、この第2の接合部47は、かかる長径のねじ孔49として構成される場合に限定されるものではなく、通常の短径のねじ孔49として構成されていてもよい。また、この第2の接合部47は、特にねじ孔といった具体的な構成で具現化されるものに限定されず、あくまで対象部材43への取り付け時において釘やドリルネジが打ち込まれる予定の平面領域として予め割り当てられたものであってもよい。いずれの場合においても、この第2接合部47は、相対変位方向Aに向けて縦長となるように、言い換えれば相対変位方向Aに沿って帯状に割り当てられている。例えば、ねじ孔49が相対変位方向Aに向けて間隔をおいて複数個に亘り形成されていれば、その第2接合部47は、相対変位方向Aに帯状に割り当てられた形態として具体化されることになる。
【0032】
2列で構成される各減衰部48は、スリット孔65の列として構成されている。このスリット孔65は、少なくとも相対変位方向Aに向けて間隔をおいて複数個に亘り列状に設けられている。また、このスリット孔65の配置間隔が規則的である場合のみならず、配置間隔をランダムにしてもよい。
【0033】
このスリット孔65は、いかなる形状で構成されていてもよいが、少なくとも方向Bに向けて長径化された形状とされていることが望ましい。また、図1の例では、ひし形状のスリット孔65で構成した場合を示しているが、これに限定されるものではなく、長方形状で構成してもよいし、その他多角形状、不定形状で構成してもよい。 このようなスリット孔65を減衰部48に設けることにより、少なくとも当該減衰部48の降伏強度を低く下げることが可能となる。ちなみに、これら2列のスリット孔65のうち、相対変位方向Aの両端に位置するスリット65は互いに連結されてB方向に長径化されたスリット65a、65bとして構成されている。
【0034】
次に、本発明を適用した制震用金属板1における動作について説明をする。上述の如き構成からなる制震用金属板1において、第1接合部46を対象部材42に、また第2接合部47を対象部材43に取り付ける。そして、建築構造物に地震等が発生した場合には、対象部材42、43が互いに相対変位方向Aに向けて相対変位を起こす。この相対変位方向Aへの振動が生じているとき、瞬間的には例えば図3に示すように対象部材42がa1方向に、また対象部材43がa2方向に変位している。かかる場合を例に挙げたとき、この対象部材42に取り付けられた第1接合部46もa1方向に、また対象部材43に取り付けられた第2接合部47もa2方向に変位する。その結果、この第1接合部46において図中矢印に示される方向に応力σが伝達されていくことになる。この応力σが伝達されていく各過程において、このスリット65の各形成位置では、隣接するスリット65の形成位置からの圧縮応力が伝わり、また隣接する他のスリット65の形成位置に向けて引張応力が伝達されるため、それぞれモーメントがキャンセルされることになる。応力σが順次伝達されると、最終的にはスリット65a側へと圧縮力が伝わることになる。そ
の結果、図中に示すように下端部52において、2列の第1接合部がB方向に離れることになり、それを抑えるために、応力σがB方向に向けて伝達してくることになる。この応力σは、2列の第1接合部46からそれぞれ逆方向から同様に伝達されてくるため、ちょうどこの下端部52の略中心において互いに打ち消されることになる。また上端部51においても同様に互いにB方向に向けて互いに逆方向に応力σが負荷されるため、互いにキャンセルされることになる。
【0035】
即ち、この制震用金属板1は、対象部材42、43が互いに相対変位方向Aに向けて相対変位を起こした場合に、これに基づく応力が伝達されてきても、これらを当該制震用金属板1内において互いに打ち消すことが可能となる。また、瞬間的に捉えたときに、対象部材42がa2方向に、また対象部材43がa1方向に変位した場合においても、上述した応力ベクトルの矢印が何れも逆になるだけであって、応力を制震用金属板1内において互いに打ち消すことが可能となる。
【0036】
また、この制震用金属板1では、第2接合部47において対象部材43の変位に基づいて応力σが負荷される。その結果、図3(a)に示すように、第1接合部46に負荷される応力σと、第2接合部47に負荷される応力σとの間で、せん断応力が生じることになり、更には各減衰部48の両端の第1接合部46と第2接合部47との接合部において、かかるせん断変形に基づく曲げモーメントが負荷されることになる。そして、この曲げモーメントが大きくなると、各減衰部48は、曲げ降伏することになる。実際に、減衰部48について、スリット孔65をB方向に向けて長径化させた形状とすることにより、対象部材42、43間の相対変位に応じて相対変位方向Aへ曲げ降伏するように設定することが可能となる。その結果、本発明では、以下に説明する特有の効果を発現させることが可能となる。
【0037】
図3(b)は、第1接合部46を固定端とした場合において、対象部材43の変位に基づいて応力σが負荷された場合における形態を、図3(c)は、第1接合部46を固定端とした場合において、対象部材43の変位に基づいて応力−σが負荷された場合における形態を示す図である。第2接合部47が図3(b)の形態においては図中上方に向けて変形し、図3(c)の形態においては図中下方に向けて変形している。即ち、この第2接合部47が相対的に変位しており、またスリット65、65a、65bもこの変位に応じて形状が上下方向に変形しているのが示されている。このような第2接合部47の上下方向への繰り返し変形が生じると、これに応じて制振用金属板1が塑性化することになりエネルギー吸収が実現されることになる。かかる場合においても上端部51、下端部52において上述したメカニズムにより応力が打ち消される。
【0038】
図4(a)は、スリット孔65をB方向に向けて長径化させた本発明を適用した制震用金属板1を用いた場合における繰り返し載荷試験結果を、また図4(b)は、比較例の繰り返し載荷試験結果を示している。ちなみに、この比較例では、制震用金属板1と同一材料でスリット孔65が設けられてなく、しかも鋼板の上下端縁にリブを設けて曲げ降伏しないように設定されている。
【0039】
図4(a)より、本発明の制震用金属板1では、耐力上昇が抑えられ、面積の大きなヒステレリスのループが描かれており、大きな履歴減衰が得られることが分かる。これに対して、図4(b)の比較例では、耐力が上昇していることが分かる。
【0040】
以上より、本発明を適用した制震用金属板1では、各減衰部48を早期に曲げ降伏させることにより、塑性変形を起こさせ、耐力上昇が抑制された安定した変形エネルギー吸収性能を発揮させることが可能となる。そして、この制震用金属板1における対象部材42、43間の相対変位に応じたエネルギー吸収性能を発揮させることにより、ひいてはこれ
が配設された建築構造物における制振機能を発揮させることが可能となる。
【0041】
更に本発明では、制震用金属板1を構成する金属板41を、降伏耐力が最大耐力の4/5以上の降伏耐力比となるように析出硬化加工又はトリップ加工が施された鋼板を用いるようにしてもよい。これにより、スリット孔65を設けることなく、各減衰部48において曲げ降伏による塑性変形領域を拡げることが可能となり、上述した所期の効果を発現させることが可能となる。
【0042】
なお、第2接合部47又は上記第1接合部46には、相対変位方向と略直交する方向に長孔が形成されている場合には、対象部材42、43相対変位と略直行する方向に相対移動する際、振動吸収手段としての減衰部48に応力が生じないことを必須の構成要件として規定してもよいことは勿論である。
【実施例1】
【0043】
図5は、実施例1として、本発明を適用した制震用金属板1が配設される建築構造物5の例を示しており、より詳細には、建築構造物5における布基礎から建築物の土台に至るまでの断面構成を拡大して示している。また、図6は、その側面図を示している。更に、図7は、制振用金属板1がこの建築構造物5において配設される際の形態を示している。
【0044】
この建築構造物5では、布基礎81と、この布基礎81の上に配設される土台82とを備えている。この土台82上には、水平方向に延長された横枠83並びに鉛直方向に延長された縦枠84が取り付けられる。また、この布基礎81の土台82との間には一般的に通気口86が所定の隙間を開けて形成されている。この実施例1では、この通気口86に上述した制振用金属板1を介装させる。
【0045】
制振用金属板1における第1接合部46は、布基礎81に対してコンクリート釘87を介して固定される。また第2接合部47は、土台82に対してネジ88を介して固定される。ちなみに、この第2接合部47は、B方向に延長された長径のねじ孔49にネジ88を嵌め込んで螺着している。
【0046】
即ち、この実施例1では、第1接合部46に接合されるべき対象部材42が布基礎81であり、第2接合部47に接合されるべき対象部材43が土台82である。
【0047】
その結果、図7に示すように相対変位方向Aに向けて振動した場合には、上述したような制振効果を発揮させることが可能となる。即ち、中小地震や風による荷重が負荷された場合には、高剛性の接合金物として機能させることができ、塑性変形させることなく、弾性変形域の範囲内において抵抗力を向上させることが可能となる。また、大地震が発生した場合においては、上述したように引張応力と圧縮応力の繰り返し荷重に対して塑性化させることにより減衰効果を発揮させることが可能となる。
【0048】
これに対して、B方向に向けて振動した場合には、特段の減衰効果を発揮しない。その理由として、B方向に延長された長径のねじ孔(長孔)49にネジ88を嵌め込んで螺着しているため、B方向への振動とともにこの長径のねじ孔49内をネジ88が往復するのみで特段の変形抑制機能を発揮し得ないためである。これにより、B方向への振動が発生すると、この制振用金属板1上において土台82も一緒にB方向へ振動することになる。
【0049】
なお、図8に示すように、第1接合部46側において、B方向に延長された長径のねじ孔91を穿設し、第2接合部47は、通常の短径化されたねじ孔92を穿設するようにしてもよい。これによっても、上述した効果を奏することになる。
【0050】
また、この実施例1では、制震用金属板1を通気口86におけるスペーサーとして兼用させるようにしてもよい。
【実施例2】
【0051】
図9は、実施例2として、本発明を適用した制震用金属板1が配設される建築構造物4の例を示しており、より詳細には、建築構造物4における下階2から上階3に至る断面構成を拡大して示している。
【0052】
この建築構造物4では、下階2側において、水平方向に延長された下階横枠11と鉛直方向に延長された下階縦枠12とを備えており、この下階横枠11と下階縦枠12とが互いに接合されて構成されている。また、下階横枠11の上面には、上階3における床根太14が接合され、更にこの床根太14の上面には上階3用の床板15が取り付けられている。また、この建築構造物4では、上階3側において、水平方向に延長された上階横枠16と鉛直方向に延長された上階縦枠17とを備えており、この上階横枠16と上階縦枠17とが互いに接合されて構成されている。
【0053】
このような構成からなる建築構造物4において、本発明を適用した制震用金属板1を取り付ける。このとき、制震用金属板1は、金属板41における相対変位方向A中央に、第2接合部47を上階縦枠17と下階縦枠12に割り当てている。その他の構成は、上述と同様であるため、同一の符号を付すことにより以下での説明を省略する。
【0054】
この制震用金属板1において、第2接合部47には、それぞれ上階縦枠17が例えばボルトや釘を介して固定されてなり、また、下階縦枠12が例えばボルト140や釘等を介して固定されてなる。第1接合部46には、床根太14にボルト141等を介して取り付けられている。
【0055】
その結果、この実施例1において、制震用金属板1に対する対象部材43は、上階縦枠17、下階縦枠12であり、対象部材42は、床根太14に相当する。
【0056】
なお図11(b)は、この図9に示す制震用金属板1の変形形態であり、第2接合部47としての領域47aにおいても、ボルト又は釘等により対象部材43へ固定可能としている。これにより、対象部材43が相対変位方向Aに向けて変位した場合において、この領域47aに対して直接的に応力伝達されることになる。
【0057】
また、この第1接合部46には、例えばリブ等の棒鋼を初めとした補強部材75により補強されていてもよい。これにより、中小規模の地震が発生した場合や、風による負荷を受けた場合において、高剛性の帯金物として機能させることができ、塑性変形させることなく、弾性変形域の範囲内において抵抗力を向上させることが可能となる。また、大地震が発生した場合においては、上述したように引張応力と圧縮応力の繰り返し荷重に対して塑性化させることにより耐震効果を発揮させることが可能となる。
【0058】
図10は、本発明を適用した制震用金属板1が配設される建築構造物7の例を示しており、より詳細には、建築構造物7における土台の梁201近傍を拡大して示している。
【0059】
この建築構造物7では、土台側において、水平方向に延長された梁201と、横枠202とが設けられており、この梁201と横枠202とが互いに接合されて構成されている。また上階へ向けて鉛直方向に延長された縦枠203とを備えており、この制振用金属板1を介して梁201と縦枠203とが互いに接合されて構成されている。
【0060】
このような構成からなる建築構造物7において、本発明を適用した制震用金属板1を取
り付ける。このとき、制震用金属板1は、金属板41における下端に、第2接合部47を割り当てている。そして、この第1接合部46を相対変位方向Aへ向けて上方に、割り当てている。
【0061】
この制震用金属板1において、第1接合部46には、それぞれ縦枠203が例えばボルト311や釘を介して固定されてなる。第2接合部47には、土台の梁201にボルト312等を介して取り付けられている。
【0062】
その結果、この実施例1において、制震用金属板1に対する対象部材42は、縦枠203であり、対象部材43は、土台の梁201に相当する。このような構成からなる建築構造物7では、制震用金属板1の配設箇所において、図10に示すように第1接合部46は、対象部材42としての縦枠203からの引張荷重が負荷されることになる。その結果、第1接合部46に負荷される応力σが負荷され、それがスリット65の外側においてσとして負荷されることになる。そして、このσと、第2接合部47に負荷される応力σとの間で、せん断応力が生じることになり、せん断変形に基づく曲げモーメントが負荷されることになる。そして、この曲げモーメントが大きくなると、制震用金属板1は、曲げ降伏することになる。
【実施例3】
【0063】
図12(a)、(b)は、実施例3として、本発明を適用した制震用金属板1が配設される鋼管柱100の例を示している。この鋼管柱100は、断面四角形状の所定の板厚らなる鋼管101を互いに連結することにより構成される。
【0064】
制振用金属板1における第2接合部47は、鋼管101に対してボルト87を介して固定される。
【0065】
その結果、図12(a)、(b)に示すように相対変位方向Aに向けて振動した場合には、上述したような制振効果を発揮させることが可能となる。
【0066】
なお、この図12(a)、(b)の例では、鋼管101を構成する各面においてそれぞれ制振用金属板1を設けている。その結果、鋼管101に対して生じるあらゆる方向の振動に対して、この制振用金属板1が上述した作用効果を奏することでその振動エネルギーの抑制に寄与することになる。但し、鋼管101を構成する各面においてそれぞれ制振用金属板1を設ける場合に限定されることなく、一部の面のみに取り付けられるものであってもよい。また、図12(a) 、(b)の例では、第1接合部46がリブ等の棒鋼を初めとした補強部材76により補強されている場合を例に挙げているが、これが省略されたものであってもよいことは勿論である。
【実施例4】
【0067】
図12(c)は、実施例4として、本発明を適用した制震用金属板1が配設される梁161の例を示している。この梁161は、断面四角形状又はH形状の所定の板厚からなり、隣接する梁161を互いに連結することにより構成される。
【0068】
制振用金属板1における第2接合部47は、梁161に対してボルトを介して固定される。
【0069】
その結果、図12(c)に示すように相対変位方向Aに向けて振動した場合には、上述したような制振効果を発揮させることが可能となる。
【0070】
図12(c)の例では、梁161を構成する上下面においてそれぞれ制振用金属板1を設
けている。その結果、梁161に対して生じる上下の曲げ方向の振動に対して、この制振用金属板1が上述した作用効果を奏することでその振動エネルギーの抑制に寄与することになる。但し、梁161を構成する各面においてそれぞれ制振用金属板1を設ける場合に限定されることなく、一部の面のみに取り付けられるものであってもよい。また、図12(c)の例では、第2接合部47がリブ等の棒鋼を初めとした図示しない補強部材により補強されている場合を例に挙げているが、これが省略されたものであってもよいことは勿論である。
【実施例5】
【0071】
図13は、実施例5として、本発明を適用した制震用金属板1が配設される制振用ダンパー110の例を示している。
【0072】
この制振用ダンパー110は、鋼管柱122と、梁材123とにより構成される区画を対角線状に配設されるものである。この鋼管柱122と梁材123との交差部には、接合部材125がそれぞれ設けられている。これら接合部材125は、それぞれ溶接又はボルト接合等の手段によりそれぞれ強固に固定されている。
【0073】
制振用ダンパー110は、一端がこの接合部材125の何れかに、また他端が他の制振用ダンパー110におけるブレース131に取り付けられている。図14(a)は、かかる制振用ダンパー110の一端側における接合部材125への取り付け形態を示しており、図14(b)は、隣接するブレース131間における制震用金属板1の接合形態を示している。
【0074】
制振用ダンパー110は、ブレース131と、制振用金属板1により構成されている。即ち、この制振用ダンパー110は、ブレース131とその両端に接続された制振用金属板1で1単位を構成するものである。この図14(a)に示す形態においては、この制振用金属板1における第1接合部46が、接合部材125に取り付けられ、また、第2接合部47が、ブレース131に取り付けられている。そして相対変位方向Aに向けて振動が生じた場合に、上述したメカニズムに基づいて振動エネルギー吸収を実現可能となる。
【0075】
この図14(b)に示す形態においては、一のブレース131に制振用金属板1における第2接合部47が、他のブレース131に制振用金属板1における第1接合部46が接合されている。そして相対変位方向Aに向けて振動が生じた場合に、上述したメカニズムに基づいて振動エネルギー吸収を実現可能となる。
【符号の説明】
【0076】
1 制震用金属板
2 下階
3 上階
4、5 建築構造物
11 下階横枠
12 下階縦枠
14 床根太
15 床板
16 上階横枠
17 上階縦枠
41 金属板
42、43 対象部材
46 第1接合部
47 第2接合部
48 減衰部
49 ねじ孔
65 スリット孔
75,76 補強部材
81 布基礎
82 土台
83 横枠
84 縦枠
86 通気口
87 コンクリート釘またはボルト
88 ネジ
91、92 ねじ孔
100 鋼管柱
101 鋼管
110 制振用ダンパー
122 鋼管柱
123 梁材
125 接合部材
131 ブレース
140、141 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の対象部材間に接合され、上記対象部材間の相対変位に応じたエネルギー吸収性能を発揮する制震用金属板において、
一方の対象部材に接合される第1接合部と、他方の対象部材に接合される第2接合部が、それぞれ上記相対変位方向に沿って帯状に且つ互いに略平行に一枚の金属板に割り当てられ、 上記第1接合部と上記第2接合部との間には、降伏後の耐力上昇を抑制するとともに、振動エネルギーを吸収して振動を減衰させるための振動吸収手段が形成されてなること
を特徴とする制震用金属板。
【請求項2】
上記第1接合部は、上記第2接合部を中心として互いに略線対称位置に上記振動吸収手段を介して2列に亘って割り当てられていること
を特徴とする請求項1記載の制震用金属板。
【請求項3】
上記振動吸収手段は、貫通するスリット孔をもつ金属板であること
を特徴とする請求項1又は2記載の制震用金属板。
【請求項4】
上記振動吸収手段は、上記対象部材間の相対変位に応じて上記金属板が曲げ降伏又はせん断降伏するように上記スリット孔が設定されていること
を特徴とする請求項3記載の制震用金属板。
【請求項5】
上記第1接合部は、上記第2接合部よりも上記相対変位方向に向けてより長く設定され、2列の第1接合部は端部で接合されていること
を特徴とする請求項2記載の制震用金属板。
【請求項6】
上記金属板は、降伏耐力が最大耐力の4/5以上の降伏耐力比となるように析出硬化加工又はトリップ加工が施された鋼板であること
を特徴とする請求項1〜5のうち何れか1項記載の制震用金属板。
【請求項7】
上記第1接合部及び/又は上記第2接合部は、上記相対変位方向に沿って補強部材により補強されていること
を特徴とする請求項1〜6のうち何れか1項記載の制震用金属板。
【請求項8】
上記第2接合部又は上記第1接合部には、上記相対変位方向と略直交する方向に伸びた長孔が形成されており、上記対象部材が上記相対変位と略直行する方向に相対移動する際、上記振動吸収手段に応力が生じないことを特徴とする請求項1〜7のうち何れか1項記載の制震用金属板。
【請求項9】
請求項1〜8記載のうち何れか1項記載の制震用金属板を備えること
を特徴とする建築構造物。
【請求項10】
請求項1〜8記載のうち何れか1項記載の制震用金属板を、建物の布基礎の上端と、建物上部躯体の土台の下端の間に挿入し、上記第1接合部を布基礎上端に、上記第2接合部を土台下端に接合し、振動時の布基礎と土台の相対的な変位に応じて、上記制震用金属板が振動エネルギーを吸収し、振動を減衰させること
を特徴とする請求項9に記載の建築構造物。
【請求項11】
請求項1〜8記載のうち何れか1項記載の制震用金属板を、建物の壁枠と、床の梁材の接合に用いた建築構造物において、
上記第2接合部が上記壁枠に、上記第1接合部が上記梁材に接合されて、振動時における上記壁枠と上記梁材間の相対的な変位にずれに応じて、上記制震用金属板が振動エネルギーを吸収し、振動を減衰させること
を特徴とする建築構造物。
【請求項12】
請求項9〜11記載のうち何れか1項記載の建築構造物からなることを特徴とする薄板軽量形鋼造建築物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−216611(P2010−216611A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66184(P2009−66184)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】