説明

前立腺癌の診断法

前立腺癌(PRC)または前立腺上皮内腫瘍(PIN)を検出および診断する客観的な方法を本明細書において記述する。一つの態様において、本診断法は、PRCまたはPIN細胞と正常細胞とを識別するPRC関連遺伝子の発現レベルを決定する段階を含む。本発明は、PRCおよびPINの一方または両方の治療において有用な治療薬剤をスクリーニングする方法、PRCおよびPINの一方または両方を治療する方法、およびPRCおよびPINの一方または両方に対するワクチンを対象に接種する方法をさらに提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照として本明細書に組み込まれる2002年9月30日に提出された米国特許出願第60/414.873号と関連している。
【0002】
発明の分野
本発明は、前立腺癌の診断法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
前立腺癌(PRC)は、男性の最も一般的な悪性疾患のうちの一つであり、重大な世界的健康問題となっている。これは、米国における癌による死亡の2番めに多い原因である(1)。PRCの罹患率は、洋食の普及および高齢者人口の増加により先進国において着実に増加しつつある。日本においても、西洋風生活様式の採用のため、この疾患で死亡する患者はますます多くなってきている(2)。現在、PRCの診断は、血清前立腺特異抗原(PSA)のレベルの増加に基づいている。早期診断は、根治的な手術の機会を提供する。器官限局性のPRCを有する患者は通常治療を受け、それらの約70%は前立腺全摘出術により根治可能である(3,4)。PRCの増殖は初期にはアンドロゲン依存性であるため、進行または再発した疾患を有する患者の大部分は、内分泌療法(androgen ablation therapy)により治療される。これらの患者の大部分が、初期には内分泌療法に応答するが、疾患は、最終的にはアンドロゲン非依存性PRCへと進行し、この時点では腫瘍はもはや内分泌療法に対して応答性でない。
【0004】
PRCの治療の最も重大な臨床問題のうちの一つは、このアンドロゲン非依存性PRCが他のいかなる療法に対しても非応答性であるということであり、アンドロゲン非依存性増殖のメカニズムの理解およびPRCに対する内分泌療法以外の新たな療法の確立が、PRCの管理のための緊急の課題である。
【0005】
他方、前立腺上皮内腫瘍(PIN)は、PRCの前駆状態であると考えられる、特定の型の最小の病変である(McNeal&Bostwick,1986)。PINは、低悪性度型と高悪性度型との間の連続体と見なされ、高悪性度PINは浸潤性癌の直接の前駆状態であると考えられる。高悪性度PINおよびPRCはしばしば共存し、それらは類似した染色体および遺伝子の改変を共有している(Qianら、1999)。しかしながら、PINの発達およびPINからPRCへの進行のメカニズムは、不明確なままである。従って、PINにおける発現プロファイルのゲノム全域にわたる分析は、分子的な発癌および進行の理解、ならびにPRCの予防戦略に向けての必須の工程である。
【0006】
cDNAマイクロアレイ技術によって、正常および悪性細胞における包括的遺伝子発現プロファイルを得て、悪性細胞および対応する正常細胞における遺伝子発現を比較することが可能となった(Okabeら、Cancer Res. 61:2129〜37(2001);Kitaharaら、Cancer Res. 61:3544〜9(2001);Linら、Oncogene 21:4120〜8(2002);Hasegawaら、Cancer Res. 62:7012〜7(2002))。このアプローチにより、癌細胞の複雑な特性を明らかにすることが可能となり、これは発癌のメカニズムを理解するために役立つ。腫瘍において脱制御される遺伝子を同定することによって、個々の癌のより精密で正確な診断を得ることができ、新規治療標的を開発することができる(Bienz and Clevers、Cell 103:311〜20(2000))。ゲノム全体での観点から腫瘍の基礎となるメカニズムを明らかにするため、そして診断のための標的分子の発見および新規治療薬を開発するために、本発明者らは、遺伝子23040個のcDNAマイクロアレイを用いて腫瘍細胞の発現プロファイルを解析している(Okabeら、Cancer Res. 61:2129〜37(2001);Kitaharaら、Cancer Res. 61:3544〜9(2001);Linら、Oncogene 21:4120〜8(2002);Hasegawaら、Cancer Res. 62:7012〜7(2002))。
【0007】
発癌メカニズムを解明するように計画された研究によって、抗腫瘍薬剤の分子標的の同定が既に促進されている。例えば、Rasに関連する増殖-シグナル伝達経路を阻害するように当初開発されたファルネキシルトランスフェラーゼ阻害剤(FTI)(この活性は翻訳後のファルネシル化に依存する)は、動物モデルにおいてRas依存的腫瘍を治療するために有効である(Heら、Cell 99:335〜45(1999))。抗癌剤と、癌原遺伝子受容体HER2/neuに拮抗するための抗HER-2モノクローナル抗体トラスツズマブを併用したヒトに対する臨床試験が実施されており、乳癌患者の臨床応答および総生存率の改善が得られている(Linら、Cancer Res. 61:6345〜9(2001))。bcr-abl融合タンパク質を選択的に不活化するチロシンキナーゼ阻害剤STI-571は、bcr-ablチロシンキナーゼの構成的活性化が白血球の形質転換において重要な役割を果たしている慢性骨髄性白血病を治療するために開発されている。これらの種類の薬剤は、特定の遺伝子産物の発癌活性を抑制するように設計されている(Fujitaら、Cancer Res. 61:7722〜6(2001))。したがって、癌性細胞において一般的に上方制御される遺伝子産物は、新規抗癌剤を開発するための潜在的な標的として役立つ可能性がある。
【0008】
CD8+細胞障害性Tリンパ球(CTL)は、MHCクラスI分子上に提示された腫瘍関連抗原(TAA)に由来するエピトープペプチドを認識して、腫瘍細胞を溶解することが証明されている。TAAの最初の例としてMAGEファミリーが発見されて以来、免疫学的アプローチを用いて他にも多くのTAAが発見されている(Boon、Int. J. Cancer 54:177〜80(1993);Boonおよびvan der Bruggen、J. Exp. Med. 183:725〜9(1996);van der Bruggenら、Science 254:1643〜7(1991);Brichardら、J. Exp. Med.178:489〜95(1993);Kawakamiら、J. Exp. Med. 180:347〜52(1994))。発見されたTAAのいくつかは、現在免疫治療の標的として臨床開発段階にある。これまで発見されたTAAには、MAGE(van der Bruggenら、Science 254:1643〜7(1991))、gp100(Kawakamiら、J. Exp. Med. 180:347〜52(1994))、SART(Shichijoら、J. Exp. Med. 187:277〜88(1998)、およびNY-ESO-1(Chenら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:1914〜8(1997))が含まれる。一方、腫瘍細胞において特に過剰発現されることが示されている遺伝子産物は、細胞性免疫応答を誘導する標的として認識されることが示されている。そのような遺伝子産物には、p53(Umanoら、Brit. J. Cancer 84:1052〜7(2001))、HER2/neu(Tanakaら、Brit. J. Cancer 84:94〜9(2001))、CEA(Nukayaら、Int. J. Cancer 80:92〜7(1999))等が含まれる。
【0009】
TAAに関する基礎および臨床研究における著しい進歩にもかかわらず(Rosenbergら、Nature Med. 4:321〜7(1998);Mukherjiら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:8078〜82(1995);Huら、Cancer Res. 56:2479〜83(1996))、結腸癌を含む腺癌の治療に利用できるのは、ごく限られた数の候補TAAに過ぎない。癌細胞において豊富に発現されると共にその発現が癌細胞に限定されるTAAは、免疫療法の標的として有望な候補薬剤となるであろう。さらに、強力で特異的な抗腫瘍免疫応答を誘導する新規TAAが同定されれば、様々なタイプの癌におけるペプチドワクチン接種戦略の臨床利用を促進すると期待される(Boonおよびvan der Bruggen、J. Exp. Med. 183:725〜9(1996);van der Bruggenら、Science 254:1643〜7(1991);Brichardら、J. Exp. Med.178:489〜95(1993);Kawakamiら、J. Exp. Med. 180:347〜52(1994);Shichijoら、J. Exp. Med. 187:277〜88(1998);Chenら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:1914〜8(1997);Harris、J. Natl. Cancer Inst. 88:1442〜5(1996);Butterfieldら、Cancer Res. 59:3134〜42(1999);Vissersら、Cancer Res. 59:5554〜9(1999);van der Burgら、J. Immunol. 156:3308〜14(1996);Tanakaら、Cancer Res. 57:4465〜8(1997);Fujieら、Int. J. Cancer 80:169〜72(1999);Kikuchiら、Int. J. Cancer 81:459〜66(1999);Oisoら、Int. J. Cancer 81:387〜94(1999))。
【0010】
特定の健康なドナーからのペプチド刺激された末梢血単核球細胞(PBMC)は、ペプチドに応答して著しいレベルのIFN-γを産生するが、51Cr-放出アッセイにおいてHLA-A24または-A0201拘束的に腫瘍細胞に対して細胞障害性を発揮することはまれであることは繰り返し報告されている(Kawanoら、Cancer Res. 60:3550〜8(2000);Nishizakaら、Cancer Res. 60:4830〜7(2000);Tamuraら、Jpn. J. Cancer Res. 92:762〜7(2001))。しかし、HLA-A24およびHLA-A0201はいずれも、白人のみならず、日本人における一般的なHLA対立遺伝子の一つである(Dateら、Tissue Antigens 47:93〜101(1996);Kondoら、J. Immunol. 155:4307〜12(1995);Kuboら、J. Immunol. 152:3913〜24(1994);Imanishiら、Proceeding of the eleventh International Histocompatibility Workshop and Conference、オックスフォード大学出版、オックスフォード、1065(1992);Williamsら、Tissue Antigen 49:129(1997))。このように、これらのHLAによって提示される癌の抗原性ペプチドは、日本人および白人における癌の治療において特に有用となる可能性がある。さらに、インビトロでの低親和性CTLの誘導は、通常高濃度のペプチドを利用し、高レベルの特異的なペプチド/MHC複合体を、CTLを効果的に活性化する抗原提示細胞(APCs)上に生成することに起因することは知られている(Alexander-Millerら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:4102〜7(1996))。
【発明の開示】
【0011】
発明の概要
本発明は、PRCまたはPINに関連した遺伝子発現パターンの発見に基づく。PRCおよびPINの一方または両方において発現に差のある遺伝子は、本明細書において集合的に「PRC核酸」または「PRCポリヌクレオチド」と呼ばれ、対応するコードされたポリペプチドは、「PRCポリペプチド」または「PRCタンパク質」と呼ばれる。
【0012】
したがって、本発明は、組織試料のような患者に由来する生物学的試料においてPRC関連遺伝子の発現レベルを決定することによって、対象におけるPRCおよびPINの一方または両方に対する診断または素因を決定する方法を特徴とする。PRC関連遺伝子とは、正常細胞と比較してPRCまたはPIN細胞から得られた細胞において発現レベルが異なることを特徴とする遺伝子を意味する。正常細胞は、前立腺組織から得られた細胞である。PRC関連遺伝子は、例えばPRC 1〜692を含む。遺伝子の正常対照レベルと比較して遺伝子の発現レベルが変化する、例えば増加または減少すれば、対象がPRCおよびPINの一方または両方を有するか、または発症のリスクを有することを示している。
【0013】
正常な対照レベルとは、正常な健康個体またはPRCおよびPINを有しないことがわかっている個体集団において検出された遺伝子発現レベルを意味する。対照レベルは、単一の基準集団または複数の発現パターンに由来する単一の発現パターンである。例えば、対照レベルは、既に試験された細胞からの発現パターンのデータベースでありうる。正常な個体は、PRCおよびPINの臨床症状およびPRCを有しない個体である。
【0014】
正常対照レベルと比較して試験試料においてPRC 1〜88、296〜321、458〜537レベルの増加が検出されれば、(試料を採取した)対象が少なくともPRCまたはPINの一方を有するか、または発症するリスクを有することを示している。対照的に、正常な対照レベルと比較して試験試料においてPRC 89〜295、322〜457、538〜692レベルの減少が検出されれば、対象がPRCおよびPINの一方または両方を有する、または発症のリスクを有することを示している。
【0015】
または、試料におけるPRC関連遺伝子パネルの発現を、同じ遺伝子パネルのPRC対照レベルと比較する。PRC対照レベルとは、PRCおよびPINの一方または両方を有する集団において認められるPRC関連遺伝子の発現プロファイルを意味する。
【0016】
遺伝子発現は、対照レベルと比較して10%、25%、50%増加または減少する。または、遺伝子発現は、対照レベルと比較して1、2、5倍またはそれ以上増加または減少する。発現は、患者由来組織試料の遺伝子転写物に対するPRC関連遺伝子プローブの、例えばアレイ上でのハイブリダイゼーションを検出することによって決定される。
【0017】
患者由来組織試料は、被験対象、例えばPRCまたはPINを有することがわかっているかまたは疑われる患者からの任意の組織である。例えば、組織は上皮細胞を含む。例えば、組織は、前立腺組織からの上皮細胞である。
【0018】
本発明はまた、PRC 1〜692の二つまたはそれ以上の遺伝子発現レベルのPRC基準発現プロファイルを提供する。または、本発明は、PRC 1〜88、PRC 89〜295、PRC 296〜321、PRC 322〜457、PRC 458〜537、またはPRC 538〜692の二つまたはそれ以上の発現レベルのPRC基準発現プロファイルを提供する。
【0019】
本発明はさらに、PRC関連遺伝子を発現する被験細胞を被験薬剤に接触させる段階、およびPRC関連遺伝子の発現レベルを決定する段階によって、PRC関連遺伝子、例えばPRC 1〜692の発現または活性を阻害または増強する薬剤を同定する方法を提供する。被験細胞は、前立腺組織からの上皮細胞のような上皮細胞である。遺伝子の対照レベルと比較してレベルが減少すれば、被験薬剤がPRC関連遺伝子の阻害剤であり、PRCおよびPINの一方または両方の症状を減少させることを示している。または、遺伝子の対照レベルまたは活性と比較してレベルまたは活性が増加すれば、その被験薬剤が、PRC関連遺伝子の発現または機能のエンハンサーであり、PRCおよびPINの一方または両方の症状を減少させる(例えばPRC 89〜295、PRC 322〜457、PRC 538〜692を増加させる)ことを示している。
【0020】
本発明はまた、二つもしくはそれ以上のPRC核酸配列に結合するか、または核酸配列にコードされる遺伝子産物に結合する検出試薬を有するキットを提供する。同様に、二つまたはそれ以上のPRC核酸に結合する核酸のアレイも提供する。
【0021】
治療法には、対象にアンチセンス組成物を投与することによって対象におけるPRCおよびPINの一方または両方を治療または予防する方法が含まれる。アンチセンス組成物は、特異的標的遺伝子の発現を減少させ、例えばアンチセンス組成物は、PRC 1〜88、296〜321、458〜537からなる群より選択される配列と相補的であるヌクレオチドを含む。もう一つの方法には、短鎖干渉RNA(siRNA)組成物を対象に投与する段階が含まれる。siRNA組成物は、PRC 1〜88、296〜321、458〜537からなる群より選択される核酸の発現を減少させる。もう一つの方法において、対象におけるPRCおよびPINの一方または両方の治療または予防は、対象にリボザイム組成物を投与することによって行われる。核酸特異的リボザイム組成物は、PRC 1〜88、296〜321、458〜537からなる群より選択される核酸の発現を減少させる。他の治療法には、PRC 89〜295、322〜457、538〜692の発現またはPRC 89〜295、322〜457、538〜692にコードされるポリペプチドの活性を増加させる化合物を対象に投与する方法が含まれる。さらにPRCおよびPINの一方または両方は、PRC 89〜295、322〜457、538〜692によりコードされるタンパク質を投与することによって治療することができる。タンパク質は患者に直接投与してもよく、または例えば目的の下方制御されたマーカー遺伝子を有する発現ベクターもしくは宿主細胞を投与することにより患者へ導入した後に、インビボで発現させてもよい。目的の遺伝子をインビボで発現させるための適切な機構は当技術分野で公知である。
【0022】
本発明にはまた、ワクチンおよびワクチン接種法が含まれる。例えば、対象におけるPRCおよびPINの一方または両方を治療または予防する方法は、PRC 1〜88、296〜321、458〜537からなる群より選択される核酸にコードされるポリペプチドまたはそのようなポリペプチドの免疫学的活性断片を含むワクチンを対象に投与することによって行われる。免疫学的活性断片は、完全長の天然に存在するタンパク質より長さが短く、免疫応答を誘導するポリペプチドである。例えば、免疫学的活性断片は、長さが少なくとも8残基であって、T細胞またはB細胞のような免疫細胞を刺激する。免疫細胞の刺激は、細胞増殖、サイトカイン(例えば、IL-2)の産生、または抗体の産生を検出することによって測定される。
【0023】
特に定義していなければ、本明細書において用いた科学技術用語は全て、本発明が属する当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記述の方法および材料と類似または同等の方法および材料を、本発明の実践または試験において用いることができるが、適した方法および材料を下記に記述する。本明細書において言及した全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献はその全体が参照として本明細書に組み入れられる。矛盾する場合には、定義を含めて本明細書が優先する。さらに、材料、方法、および例は、一例にすぎず、制限することを意図しない。
【0024】
本明細書に記述の方法の一つの長所は、明白な臨床症状を検出する前に疾患が同定されることである。本発明のその他の特徴および長所は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【0025】
詳細な説明
本発明は、PRCまたはPIN患者の上皮細胞における多数の核酸配列発現パターンに変化を発見したことに一部基づいている。遺伝子発現の差は、包括的cDNAマイクロアレイシステムを用いて同定した。
【0026】
cDNAマイクロアレイは、治療目的のための新規分子標的の開発に適用可能であり得る遺伝子を同定するための強力な道具である(Ishiguroら、2002;Yagyuら、2002)。現在、ゲノム情報および新技術を使用することにより、PRCに関する基礎研究は最近急速に前進したが、組織学的不均一性を有するヒトPRCを研究する際の最大の問題は、分子的分析のための純粋な試料を単離することが不可能であるという点である。以前の研究の大部分は、間質細胞、微小血管系細胞、繊維筋(fibromuscular)細胞、炎症細胞、およびPINを含む良性病変からの他の上皮細胞を含む非癌性細胞の混入を排除することなく、バルクの癌組織を使用していた。しかしながら、レーザービームを用いた顕微鏡下微小切除は、この障害を克服することを可能にし、PRC細胞およびPINの細胞に関する純粋な細胞集団(Emmert-Buckら、1996)の正確な評価を可能にする。また、本発明者らは、癌細胞の遺伝子発現を、各症例において、対照として対応する正常上皮細胞と比較した。この手法は、遺伝子発現の個体性がデータに影響するのを防止する。この研究は、LMMと組み合わせられた、PRCおよびPINの正確な発現プロファイルに関する最初の報告である。これらのデータは、前立腺発癌に関する重要な情報を提供し、PRCの治療および予防のための薬物設計の標的となり得る産物をコードする候補遺伝子を同定するのに大いに有用であろう。
【0027】
20例のPRCおよび10例のPINからの癌細胞の遺伝子発現プロファイルが、レーザービームを用いた顕微鏡下微小切除と組み合わせて、23,040個の遺伝子を載せたcDNAマイクロアレイを使用して分析された。レーザービームを用いた顕微鏡下微小切除により純粋に選択された、PRCと診断された患者からの癌細胞と正常上皮細胞との間の発現パターンを比較することによって、88個の遺伝子がPRC細胞およびPIN細胞で共通して上方制御されていることが同定され、207個の遺伝子がPRC細胞およびPIN細胞で共通して下方制御されていることが同定された。26個の遺伝子がPRC細胞で共通して上方制御されていることが同定され、136個の遺伝子がPRC細胞で共通して下方制御されていることが同定された。80個の遺伝子がPIN細胞で共通して上方制御されていることが同定され、155個の遺伝子がPIN細胞で共通して下方制御されていることが同定された。さらに、患者の痰または血清の中の癌関連タンパク質を検出する可能性を有する候補分子マーカーの選択が行われ、ヒトのPRCまたはPINにおけるシグナル抑制戦略の開発のためのいくつかの可能性のある標的が発見された。
【0028】
本明細書において同定された発現差のある遺伝子は、PRCまたはPINのマーカーとして、およびその発現がPRCまたはPINの症状を治療または軽減するために改変される遺伝子標的として、診断目的のために用いられる。
【0029】
PRCおよびPINの一方または両方の患者においてその発現レベルが変調している(すなわち、増加または減少している)遺伝子を、表3〜8に要約し、本明細書において総称して「PRC関連遺伝子」、「PRC核酸」、または「PRCポリヌクレオチド」と呼び、対応するコードされたポリペプチドを「PRCポリペプチド」または「PRCタンパク質」と呼ぶ。特に明記していなければ、「PRC」は、本明細書に開示の任意の配列(例えば、PRC 1〜692)を指すことを意味する。遺伝子は、以前に記述されており、データベースのアクセッション番号とともに示される。
【0030】
細胞試料における様々な遺伝子の発現を測定することによって、PRCおよびPINが診断される。同様に、様々な薬剤に応答したこれらの遺伝子の発現を測定することによって、PRCおよびPINの一方または両方を治療するための薬剤を同定することができる。
【0031】
本発明は、表3〜8に記載したPRC配列の少なくとも一つから全てまでの発現を決定する(例えば、測定する)ことを含む。既知の配列に関するGenBank(登録商標)データベース登録項目に提供された配列情報を用いて、PRC関連遺伝子を当業者に周知である技術を用いて検出および測定する。例えば、PRC配列に対応する配列データベース登録項目内の配列を用いて、例えばノーザンブロットハイブリダイゼーション解析においてPRC RNA配列を検出するためのプローブを構築する。プローブには、基準配列の少なくとも10、20、50、100、200ヌクレオチドが含まれる。もう一つの例として、配列を用いて、例えば、逆転写を利用したポリメラーゼ連鎖反応のような増幅に基づく検出法においてPRC核酸を特異的に増幅するためのプライマーを構築することができる。
【0032】
次に、被験細胞集団、例えば患者由来の組織試料におけるPRC関連遺伝子の1つまたは複数の発現レベルを、基準集団におけるいくつかの遺伝子の発現レベルと比較する。基準細胞集団には、比較されるパラメータが既知である1つまたは複数の細胞、すなわち、PRC細胞または非PRC細胞が含まれる。
【0033】
基準細胞集団と比較した被験細胞集団における遺伝子発現レベルがPRCまたはPINまたはそれに対する素因を示すか否かは、基準細胞集団の組成に依存する。例えば、基準細胞集団が非PRC細胞からなる場合、被験細胞集団と基準細胞集団とにおける遺伝子発現パターンが類似であれば、被験細胞集団が非PRCであることを示している。逆に、基準細胞集団がPRC細胞で構成されている場合、被験細胞集団と基準細胞集団のあいだの遺伝子発現プロファイルが類似であれば、被験細胞集団にPRC細胞が含まれることを示している。
【0034】
被験細胞集団におけるPRCマーカー遺伝子の発現レベルは、発現レベルが、基準細胞集団における対応するPRCマーカー遺伝子の発現レベルから1.0、1.5、2.0、5.0、10.0倍またはそれ以上基準細胞集団と異なる場合、発現レベルが変化していると見なされる。
【0035】
被験細胞集団と基準細胞集団との遺伝子発現の差を、対照核酸、例えばハウスキーピング遺伝子に対して標準化する。例えば、対照核酸は、細胞のPRCまたは非PRC状態に応じて差がないことが知られている核酸である。被験核酸および基準核酸における対照核酸の発現レベルを用いて、比較される集団におけるシグナルレベルを標準化することができる。対照遺伝子には、β-アクチン、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、またはリボソームタンパク質P1が含まれる。
【0036】
被験細胞集団を複数の基準細胞集団と比較する。複数の基準集団のそれぞれは、既知のパラメータが異なってもよい。このように、被験細胞集団を、例えばPRC細胞を含むことがわかっている第一の基準細胞集団と共に、例えば非PRC細胞(正常細胞)を含むことがわかっている第二の基準集団と比較してもよい。被験細胞は、PRC細胞を含むことがわかっているか、または含むことが疑われる対象からの組織タイプまたは細胞試料に含まれる。
【0037】
被験細胞は、生体組織または体液、例えば生物学的液体(血液または血清)から得る。例えば、被験細胞は、組織から精製される。好ましくは、被験細胞集団は上皮細胞を含む。上皮細胞は、癌であることがわかっているか、または疑われる組織から得る。
【0038】
基準細胞集団における細胞は、被験細胞と類似の組織タイプに由来する。選択的に、基準細胞集団は、細胞株、例えばPRC細胞株(陽性対照)または正常な非PRC細胞株(陰性対照)である。または、対照細胞集団は、アッセイされるパラメータまたは条件が既知である細胞に由来する分子情報のデータベースに由来する。
【0039】
対象は好ましくは哺乳動物である。哺乳動物は、例えばヒト、ヒト以外の霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、またはウシでありうる。
【0040】
本明細書に開示される遺伝子の発現は、当技術分野において既知の方法を用いてタンパク質または核酸レベルで決定される。例えば、これらの核酸配列の1つまたは複数を特異的に認識するプローブを用いるノーザンハイブリダイゼーション解析を用いて、遺伝子発現を決定することができる。または、発現は、例えば発現に差のある配列に対して特異的なプライマーを用いて、逆転写を利用したPCRアッセイを用いて測定される。発現はまた、タンパク質レベルで、すなわち本明細書に記載の遺伝子産物にコードされるポリペプチドのレベルまたはその生物学的活性を測定することによって決定される。そのような方法は当技術分野で周知であり、例えば遺伝子にコードされるタンパク質に対する抗体を利用したイムノアッセイが含まれる。遺伝子にコードされるタンパク質の生物学的活性も同様に周知である。
【0041】
PRCまたはPINの診断
PRCまたはPINは、被験細胞集団(すなわち患者に由来する生物学的試料)からの1つまたは複数のPRC核酸配列の発現レベルを測定することによって診断される。好ましくは、被験細胞集団は、上皮細胞、例えば前立腺組織から得た細胞を含む。遺伝子発現はまた、血液、または尿のような他の体液から測定される。他の生物学的試料は、タンパク質レベルを測定するために用いることができる。例えば、診断される対象に由来する血液、または血清におけるタンパク質レベルは、イムノアッセイまたは生物学的アッセイによって測定することができる。
【0042】
PRC関連遺伝子、例えばPRC 1〜692のうちの1つまたは複数の発現が、被験細胞または生物学的試料において決定され、正常対照レベルの発現と比較される。正常対照レベルは、PRCに罹患していないことが既知である集団において典型的に見出されるPRC関連遺伝子の発現プロファイルである。PRC関連遺伝子の患者に由来する組織試料における発現レベルの増加または減少は、対象がPRCもしくはPINに罹患しているかまたはPRCもしくはPINを発症するリスクを有していることの指標となる。例えば、正常対照レベルと比較された被験集団におけるPRC 1〜88、PRC 296〜321、PRC 458〜537の発現の増加は、対象がPRCもしくはPINに罹患しているかまたはPRCもしくはPINを発症するリスクを有していることの指標となる。反対に、正常対照レベルと比較された被験集団におけるPRC 89〜295、PRC 322〜457、PRC 538〜692の発現の減少は、対象がPRCもしくはPINに罹患しているかまたはPRCもしくはPINを発症するリスクを有していることの指標となる。
【0043】
PRC関連遺伝子のうちの1つまたは複数が正常対照レベルと比較して被験集団において変化している場合、それは、対象がPRCもしくはPINに罹患しているかまたはPRCもしくはPINを発症するリスクを有していることの指標となる。例えば、PRC関連遺伝子(PRC 1〜88、PRC 296〜321、PRC 458〜537、PRC 89〜295、PRC 322〜457、またはPRC 538〜692)のパネルの少なくとも1%、5%、25%、50%、60%、80%、90%、またはそれ以上が変化する。
【0044】
特定の標本におけるPRC 1〜692の発現レベルは、PRC 1〜692に対応するmRNAまたはPRC 1〜692によってコードされたタンパク質を定量することにより推測され得る。mRNAの定量法は、当業者に公知である。例えば、PRC 1〜692のヌクレオチド配列は既に報告されているため、PRC 1〜692に対応するmRNAのレベルは、ノーザンブロッティングまたはRT-PCRにより推測され得る。当業者であれば、PRC 1〜692を定量するためのプローブまたはプライマーのヌクレオチド配列を設計することができる。
【0045】
PRC 1〜692の発現レベルは、遺伝子によってコードされたタンパク質の活性または量に基づき分析されてもよい。PRC 1〜692タンパク質の量を決定するための方法は、後に示される。例えば、イムノアッセイ法は、生物学的材料中のタンパク質の決定に有用である。任意の生物学的材料が、タンパク質またはその活性の決定のため使用され得る。例えば、血液試料が、血清マーカーによってコードされたタンパク質の推定のために分析される。他方、PRC 1〜692によってコードされたタンパク質の活性の決定のための適当な方法は、分析される各タンパク質の活性に応じて選択され得る。
【0046】
本発明においては、PRCまたはPINを診断するための診断剤も提供される。本発明の診断剤は、本発明のポリヌクレオチドまたはポリペプチドと結合する化合物を含む。好ましくは、PRC 1〜692のポリヌクレオチドとハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、またはPRC 1〜692のポリペプチドと結合する抗体が、そのような化合物として使用され得る。
【0047】
本発明において、PRC 1〜692は、PRCおよびPINの一方または両方を診断するのに有用である。PRC 1〜295は、PRCおよびPINの両方を診断するのに有用である。PRC 296〜457は、PRC特異的マーカーとしてPRCを診断するのにも有用である。さらに、PRC 458〜692は、PIN特異的マーカーとしてPINを診断するのに有用である。
【0048】
PRC関連遺伝子発現を阻害または増強する薬剤の同定
PRC関連遺伝子の発現または活性を阻害する薬剤は、上方制御されたPRC関連遺伝子を発現している被験細胞集団を被験薬剤と接触させること、およびPRC関連遺伝子の発現レベルを決定することにより同定される。対照レベルと比較された(または被験薬剤の非存在下におけるレベルと比較された)薬剤の存在下における発現の減少は、薬剤が、上方制御されたPRC関連遺伝子の阻害剤であり、PRCまたはPINを阻害するのに有用であることの指標となる。
【0049】
または、下方制御されたPRC関連遺伝子の発現または活性を増強する薬剤は、PRC関連遺伝子を発現している被験細胞集団を被験薬剤と接触させること、および下方制御されたPRC関連遺伝子の発現レベルまたは活性を決定することにより同定される。PRC関連遺伝子の対照発現レベルまたは活性と比較された発現または活性の増加は、その被験薬剤が、下方制御されたPRC関連遺伝子の発現または活性を強化することの指標となる。
【0050】
被験細胞集団は、PRC関連遺伝子を発現している任意の細胞である。例えば、被験細胞集団は、前立腺細胞または前立腺に由来する細胞のような上皮細胞を含有している。例えば、被験細胞は、PRC細胞に由来する不死化細胞株である。または、被験細胞は、PRC関連遺伝子を導入された、またはレポーター遺伝子と機能的に連結されたPRC関連遺伝子由来の調節配列(例えば、プロモーター配列)を導入された細胞である。
【0051】
対象におけるPRCまたはPINの治療の効力の評価
本明細書において同定された差次的に発現されたPRC関連遺伝子は、PRCおよびPINの一方または両方の治療の経過のモニタリングも可能にする。この方法において、被験細胞集団は、PRCまたはPINのための治療を受けている対象から提供される。望ましいならば、被験細胞集団が、治療の前、途中、または後の様々な時点で対象から得られる。次いで、細胞集団におけるPRC関連遺伝子のうちの1つまたは複数の発現が決定され、PRC状態が既知の細胞を含む基準細胞集団と比較される。基準細胞は治療を受けていない。
【0052】
基準細胞集団がPRC細胞を含まない場合、被験細胞集団と基準細胞集団におけるPRC関連遺伝子の発現が類似であれば、治療が有効であることを示している。しかし、被験集団と正常対照基準細胞集団におけるPRC関連遺伝子の発現に差があれば、あまり好ましくない臨床転帰または予後を示している。
【0053】
「有効」とは、治療によって、病理学的に上方制御された遺伝子の発現が減少するか、病理学的に下方制御された遺伝子の発現が増加するか、または対象におけるPRCの大きさ、発生率、もしくは転移能が減少することを意味する。治療を予防的に適用する場合、「有効である」とは、治療がPRCまたはPINの形成を遅らせるかもしくは防止すること、または臨床的なPRCまたはPINの症状を遅らせるか、予防するか、もしくは軽減することを意味する。前立腺腫瘍の評価は、標準的な臨床プロトコールを用いて行われる。
【0054】
有効性は、PRCおよびPINの一方または両方を診断または治療する任意の既知の方法に関連して決定される。PRCは、例えば症候性の異常、例えば直立の困難性または尿の流れの停止、排尿障害、頻度、または血尿などの尿路症状を同定することによって診断される。
【0055】
特定の個体にとって適切なPRCまたはPIN治療用の治療薬剤の選択
個体における遺伝的構成の差によって、個体が様々な薬剤を代謝する相対的能力に差が起こりうる。対象において代謝されてPRCまたはPINの阻害剤として作用する薬剤は、対象の細胞において、PRC状態に特徴的な遺伝子発現パターンから非PRC状態に特徴的な遺伝子発現パターンへの変化を誘導することによって顕在化しうる。したがって、薬剤が対象において適したPRCまたはPINの阻害剤であるか否かを決定するために、本明細書に開示される発現差のあるPRC関連遺伝子によって、選択された対象からの被験細胞集団において推定の治療的または予防的なPRCまたはPINの阻害剤を調べることができる。
【0056】
特定の対象にとって適当であるPRCまたはPINの阻害剤を同定するために、対象からの被験細胞集団を治療薬剤に曝露して、PRC 1〜692遺伝子の1つまたは複数の発現を決定する。
【0057】
被験細胞集団は、PRC関連遺伝子を発現するPRCまたはPIN細胞を含む。好ましくは、被験細胞は上皮細胞である。例えば、被験細胞集団を候補薬剤の存在下でインキュベートし、試験試料の遺伝子発現パターンを測定して、1つまたは複数の基準プロファイル、例えばPRC基準発現プロファイルまたは非PRC基準発現プロファイルと比較する。
【0058】
PRCを含む基準細胞集団と比較して、被験細胞集団におけるPRC 1〜88、PRC 296〜321、PRC 458〜537の一つもしくは複数の発現が減少するか、またはPRC 89〜295、PRC322〜457、PRC538〜692の一つもしくは複数の発現が増加すれば、薬剤が治療効果があることを示している。
【0059】
被験薬剤はいかなる化合物または組成物であってよい。例えば、被験薬剤は免疫調節剤である。
【0060】
治療薬剤を同定するためのスクリーニングアッセイ
本明細書に開示される発現差のある遺伝子はまた、PRCまたはPINを治療するための候補治療薬剤を同定するためにも用いることができる。この方法は、候補治療薬剤をスクリーニングし、その薬剤がPRC状態に特徴的なPRC 1〜692の発現プロファイルを非PRC状態を示すパターンに変換させるか否かを決定することに基づく。
【0061】
本発明において、PRC 1〜692は、PRCおよびPINの一方または両方を治療または予防するための治療剤をスクリーニングするのに有用である。PRC 1〜295は、PRCおよびPINの両方を治療または予防するのための治療剤をスクリーニングするために使用される。PRC 296〜457は、PRCを治療または予防するための治療剤をスクリーニングするためのPRC特異的マーカーとしても使用される。さらに、PRC 458〜692は、PINを治療もしくは予防するかまたはPRCを予防するための治療剤をスクリーニングするためのPIN特異的マーカーとして使用される。
【0062】
この方法において、細胞を、被験薬剤または被験薬剤の組み合わせ(連続的または結果的に)に曝露して、細胞における1つまたは複数のPRC 1〜692配列の発現を測定する。被験集団におけるPRC関連遺伝子の発現プロファイルを、被験薬剤に曝露していない基準細胞集団におけるPRC関連遺伝子の発現レベルと比較する。
【0063】
過小発現された遺伝子の発現を刺激するために、または過剰発現された遺伝子の発現を抑制するために有効な薬剤は、臨床上の利益をもたらすと思われ、そのような化合物を、動物または被験対象におけるPRCの予防能に関してさらに試験する。
【0064】
さらなる態様において、本発明は、PRCおよびPINの一方または両方の治療または予防における潜在的な標的である候補薬剤をスクリーニングする方法を提供する。先に詳細に考察したように、マーカー遺伝子の発現レベルまたは活性を制御することによって、PRCおよびPINの一方または両方の発症および進行を制御することができる。このように、PRCおよびPINの一方または両方の治療または予防における潜在的な標的である候補薬剤は、マーカー遺伝子の発現レベルおよび活性を指標として用いるスクリーニングによって同定することができる。本発明の状況において、そのようなスクリーニングは、例えば以下の段階を含んでよい:
(a)PRC 1〜692からなる群より選択される核酸にコードされるポリペプチドに被験化合物を接触させる段階;
(b)ポリペプチドと被験化合物との結合活性を検出する段階;および
(c)ポリペプチドに結合する化合物を選択する段階。
【0065】
または、本発明のスクリーニング法は、以下の段階を含んでもよい:
(a)PRC 1〜692からなる群より選択される1つまたは複数のマーカー遺伝子を発現する細胞に候補化合物を接触させる段階;および
(b)PRC 1〜88、296〜321、458〜537からなる群より選択される一つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを減少させるか、またはPRC 89〜295、322〜457、538〜692からなる群より選択される一つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する段階。
マーカー遺伝子を発現する細胞には、例えばPRCから確立された細胞株が含まれ;そのような細胞は本発明の上記のスクリーニングに用いることができる。
【0066】
または、本発明のスクリーニング法は、以下の段階を含んでもよい:
(a)PRC 1〜692からなる群より選択される核酸にコードされるポリペプチドに被験化合物を接触させる段階;
(b)段階(a)のポリペプチドの生物学的活性を検出する段階;および
(c)被験化合物の非存在下で検出された生物学的活性と比較して、PRC 1〜88、296〜321、458〜537からなる群より選択される核酸にコードされるポリペプチドの生物学的活性を抑制するか、または被験化合物の非存在下で検出された生物学的活性と比較して、PRC 89〜295、322〜457、538〜692からなる群より選択される核酸にコードされるポリペプチドの生物学的活性を増強する化合物を選択する段階。
【0067】
スクリーニングに必要なタンパク質は、マーカー遺伝子のヌクレオチド配列を用いて、組み換え型タンパク質として得ることができる。マーカー遺伝子の情報に基づいて、当業者は、タンパク質の任意の生物学的活性を選択し、選択された生物学的活性に基づいて、スクリーニングおよび測定法を行うことができる。
【0068】
または、本発明のスクリーニング法は以下の段階を含んでもよい:
(a)PRC 1〜692からなる群より選択される1つまたは複数のマーカー遺伝子の転写調節領域と、転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子とを含むベクターが導入されている細胞に候補化合物を接触させる段階;
(b)前記レポーター遺伝子の活性を測定する段階;および
(c)前記マーカー遺伝子がPRC 1〜88、296〜321、458〜537からなる群より選択される上方制御されたマーカー遺伝子である場合には、対照と比較して前記レポーター遺伝子の発現レベルを減少させる化合物、または前記マーカー遺伝子がPRC 89〜295、322〜457、538〜692からなる群より選択される下方制御されたマーカー遺伝子である場合には、対照と比較して前記レポーター遺伝子の発現レベルを増強する化合物を選択する段階。
適したレポーター遺伝子および宿主細胞は当技術分野で周知である。スクリーニングのために必要なレポーター構築物は、マーカー遺伝子の転写調節領域を用いて調製することができる。マーカー遺伝子の転写調節領域が当業者に既知である場合、レポーター構築物は、これまでの配列情報を用いて調製することができる。マーカー遺伝子の転写調節領域がまだ同定されていない場合、マーカー遺伝子のヌクレオチド配列情報に基づいて、転写調節領域を含むヌクレオチドセグメントをゲノムライブラリから単離することができる。
【0069】
スクリーニングによって単離された化合物は、マーカー遺伝子にコードされるタンパク質の活性を阻害し、かつPRCまたはPINの治療または予防に適用することができる候補薬物である。
【0070】
その上、マーカー遺伝子にコードされるタンパク質の活性を阻害する化合物の構造の一部が、付加、欠失、および/または置換によって変換されている化合物も同様に、本発明のスクリーニング法によって得ることができる化合物に含まれる。
【0071】
本発明の方法によって単離された化合物をヒト、ならびにマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒ、およびチンパンジーのような他の哺乳動物のための薬剤として投与する場合、単離された化合物を直接投与してもよく、または既知の薬学的調製法を用いて投与剤形に調製してもよい。例えば、必要に応じて、薬物は、糖衣錠、カプセル剤、エリキシル剤およびマイクロカプセルとして経口摂取されるか、または水もしくは他の任意の薬学的に許容される液体との滅菌溶液もしくは懸濁液の注射剤形で非経口摂取されうる。例えば、化合物は、薬学的に許容される担体または媒体、具体的には滅菌水、生理食塩液、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定化剤、着香料、賦形剤、溶剤、保存剤、結合剤などと共に、一般的に許容される投薬実施に必要な単位投与剤形で混合することができる。これらの調製物における活性成分の量によって、指示範囲内の適した用量を得ることができる。
【0072】
錠剤およびカプセル剤に混合することができる添加剤の例は、ゼラチン、コーンスターチ、トラガカントゴム、およびアラビアゴムのような結合剤;結晶セルロースのような賦形剤;コーンスターチ、ゼラチンおよびアルギン酸のような膨張剤;ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤;ショ糖、乳糖、またはサッカリンのような甘味料;ならびにペパーミント、アカモノ油、およびチェリーのような着香料である。単位投与剤形がカプセル剤である場合、油のような液体担体も同様に上記の成分にさらに含めることができる。注射用滅菌組成物は、注射用蒸留水のような溶剤を用いて通常の投薬実施に従って調製することができる。
【0073】
生理食塩液、グルコース、ならびにD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、および塩化ナトリウムのような補助剤を含む他の等張液は、注射用水溶液として用いることができる。これらは、アルコール、特にエタノール、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコールのような多価アルコール、ポリソルベート80(商標)およびHCO-50のような非イオン性界面活性剤のような適した溶解剤と共に用いることができる。
【0074】
ゴマ油または大豆油を油脂性液体として用いることができ、かつ安息香酸ベンジルまたはベンジルアルコールを溶解剤として共に用いてもよく、リン酸緩衝液および酢酸ナトリウム緩衝液のような緩衝液;塩酸プロカインのような鎮痛剤;ベンジルアルコールおよびフェノールのような安定化剤、ならびに抗酸化剤と共に調製してもよい。調製された注射剤は適したアンプルに充填してもよい。
【0075】
当業者に周知の方法を用いて、本発明の薬学的組成物を患者に、例えば動脈内、静脈内、または経皮注射として投与してもよく、同様に鼻腔内、気管支内、筋肉内、または経口投与としても投与してもよい。投与の用量および方法は、患者の体重および年齢ならびに投与法に応じて変化する;しかし、当業者は、適した投与法を日常的に選択することができる。前記化合物がDNAによってコードされうる場合、DNAを遺伝子治療のベクターに挿入して、治療を行うためにベクターを患者に投与することができる。投与の用量および方法は、患者の体重、年齢、および症状に応じて変化するが、当業者はそれらを適切に選択することができる。
【0076】
例えば、本発明のタンパク質に結合してその活性を調節する化合物の用量は、症状に依存するが、用量は、正常な成人(体重60 kg)に経口投与する場合、約0.1 mg〜約100 mg/日、好ましくは約1.0 mg〜約50 mg/日、より好ましくは約1.0 mg〜約20 mg/日である。
【0077】
正常な成人(体重60 kg)に注射剤形で非経口投与する場合、患者、標的臓器、症状および投与法によって多少の差があるが、約0.01 mg〜約30 mg/日、好ましくは約0.1〜約20 mg/日、およびより好ましくは約0.1〜約10 mg/日を静脈内注射することが都合がよい。同様に、他の動物の場合においても、体重60 kgに変換した量を投与することが可能である。
【0078】
PRCまたはPINを有する対象の予後の評価
被験細胞集団における1つまたは複数のPRC関連遺伝子の発現を、患者に由来する基準細胞集団における遺伝子の発現と、病期のスペクトルについて比較することによって、PRCまたはPINを有する対象の予後を評価する方法も同様に提供される。被験細胞集団と基準細胞集団における一つもしくは複数のPRC関連遺伝子の遺伝子発現を比較することによって、または対象に由来する被験細胞集団における経時的な遺伝子発現パターンを比較することによって、対象の予後を評価することができる。
【0079】
正常対照と比較してPRC 89〜295、PRC 322〜457、PRC 538〜692の一つもしくは複数の発現の減少、または正常対照と比較してPRC 1〜88、PRC 296〜321、PRC 458〜537の一つもしくは複数の発現の増加は、予後があまり好ましくないことを示している。PRC 89〜295、PRC 322〜457、PRC 538〜692の1つまたは複数の発現が増加していれば、より好ましい予後を示し、PRC 1〜88、PRC 296〜321、PRC 458〜537の発現が減少していれば、対象にとってより好ましい予後を示している。
【0080】
キット
本発明にはまた、PRC検出試薬、例えばオリゴヌクレオチド配列のような1つまたは複数のPRC核酸に特異的に結合するか、またはこれを同定する核酸であって、PRC核酸の一部と相補的である核酸またはPRC核酸にコードされるタンパク質に結合する抗体とが含まれる。試薬は、キットの形で共に包装される。試薬、例えば核酸または抗体(固相マトリクスに結合させるか、またはそれらをマトリクスに結合させるための試薬とは別に包装される)、対照試薬(陽性および/または陰性)、ならびに/または検出標識は異なる容器に包装される。アッセイを行うための説明書(例えば、書面、テープ、VCR、CD-ROM等)がキットに含まれる。キットのアッセイフォーマットは、当技術分野で既知のノーザンハイブリダイゼーションまたはサンドイッチELISAである。
【0081】
例えば、PRC検出試薬は、少なくとも一つのPRC検出部位を形成するために多孔性ストリップのような固相マトリクスに固定する。多孔性ストリップの測定または検出領域には、核酸を含む多数の部位が含まれてもよい。試験ストリップはまた、陰性および/または陽性対照のための部位を含んでもよい。または、対照部位は、試験ストリップとは異なるストリップに存在する。任意で、異なる検出部位は、異なる量の固定された核酸を含んでもよく、すなわち第一の検出部位はより多い量を含み、それに続く部位ではより少ない量を含んでもよい。試験試料を加えると、検出可能なシグナルを示す部位の数が、試料に存在するPRCの量の定量的な指標となる。検出部位は、任意の適した検出可能な形状で構成されてもよく、一般的には試験ストリップの幅に及ぶバーまたはドットの形状である。
【0082】
または、キットは、1つまたは複数の核酸を含む核酸基質アレイを含む。アレイ上の核酸は、PRC 1〜692によって示される1つまたは複数の核酸を特異的に同定する。PRC 1〜692によって示される核酸の2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、40、または50個またはそれ以上の発現は、アレイ試験小片またはチップへの結合レベルによって同定される。基質アレイは、例えば固相基質上、例えば米国特許第5,744,305号に記載される「チップ」上に存在しうる。
【0083】
アレイと複数性
本発明にはまた、1つまたは複数の核酸を含む核酸基質アレイも含まれる。アレイ上の核酸は、PRC 1〜692によって示される1つまたは複数の核酸配列に特異的に対応する。PRC 1〜692によって表される核酸の2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、40、または50個またはそれ以上の発現レベルは、アレイに結合する核酸を検出することによって同定される。
【0084】
本発明にはまた、単離された複数の核酸(すなわち、二つまたはそれ以上の核酸の混合物)が含まれる。核酸は、液相または固相に存在し、例えばニトロセルロースメンブレンのような固相支持体に固定される。複数には、PRC 1〜692によって示される核酸の1つまたは複数が含まれる。様々な態様において、複数には、PRC 1〜692によって表される核酸の2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、40、または50個またはそれ以上が含まれる。
【0085】
PRCまたはPINを阻害する方法
本発明は、PRC 1〜88、PRC 296〜321、PRC 458〜537の発現もしくは活性を減少させること、またはPRC 89〜295、PRC 322〜457、PRC 538〜692の発現もしくは活性を増加させることによって、対象におけるPRCまたはPINの症状を治療または軽減する方法を提供する。治療化合物は、PRCまたはPINを有する、発症のリスクを有する(または感受性がある)対象に対して予防または治療目的で投与される。そのような対象は、標準的な臨床的方法を用いて、または(例えばPRC 1〜692の)発現もしくは活性の異常なレベルを検出することによって同定される。治療薬剤には、細胞周期調節、細胞増殖、およびタンパク質キナーゼ活性の阻害剤が含まれる。
【0086】
本発明において、PRC 1〜692は、分子標的としてPRCおよびPINの一方または両方を治療または予防するのに有用である。PRC 1〜295は、PRCおよびPINの両方を治療または予防するのに有用である。PRC 296〜457は、分子標的としてPRCを治療または予防するのにも有用である。さらに、PRC 458〜692は、PINを治療もしくは予防し、最終的にPRCを予防するのに有用である。
【0087】
治療法には、PRCまたはPIN細胞が由来する同じ組織型の正常細胞と比較して、PRCまたはPIN細胞において発現が減少している遺伝子(「過小発現遺伝子」)の1つまたは複数の遺伝子産物の発現、機能、またはその両者を増加させることが含まれる。これらの方法において、対象において過小発現されている遺伝子の1つまたは複数の量を増加させる化合物の有効量によって対象を治療する。投与は全身または局所的となりうる。治療化合物には、過小発現遺伝子のポリペプチド産物、またはその生物学的活性断片、過小発現遺伝子をコードし、PRCまたはPIN細胞における発現を許容する発現制御因子を有する核酸、例えばPRCまたはPIN細胞に対して内因性のそのような遺伝子の発現レベルを増加させる(すなわち、1つまたは複数の過小発現遺伝子の発現を上方制御する)薬剤が含まれる。そのような化合物の投与は、対象の前立腺細胞における1つまたは複数の異常に過小発現された遺伝子の効果に対抗して、対象の臨床状態を改善する。
【0088】
本方法にはまた、その発現が異常に増加している1つまたは複数の過剰発現された遺伝子産物の発現、機能、またはその双方を減少させることが含まれる。発現は、当業者に既知のいくつかの任意の方法によって阻害される。例えば、1つまたは複数の過剰発現された遺伝子の発現を阻害またはこれに拮抗する核酸、例えば1つまたは複数の過剰発現された遺伝子の発現を妨害するアンチセンスオリゴヌクレオチドまたは低分子干渉RNAを対象に投与することによって発現は阻害される。
【0089】
または、過剰発現された遺伝子の1つまたは複数の遺伝子産物の機能が、その遺伝子産物と結合するかまたはその機能を阻害する化合物を投与することにより阻害される。例えば、化合物は、過剰発現された遺伝子産物と結合する抗体である。
【0090】
先に述べたように、PRC 1〜88、296〜321、458〜537のヌクレオチド配列に対応するアンチセンス核酸を用いて、PRC 1〜88、296〜321、458〜537の発現レベルを減少させることができる。PRCおよびPINの一方または両方において上方制御されるPRC 1〜88、296〜321、458〜537に対応するアンチセンス核酸は、PRCおよびPINの一方または両方の治療において有用である。具体的には、本発明のアンチセンス核酸は、PRC 1〜88、296〜321、458〜537またはそれに対応するmRNAに結合して、それによって遺伝子の転写もしくは翻訳を阻害し、mRNAの分解を促進し、かつ/またはPRC 1〜88、296〜321、458〜537からなる群より選択される核酸にコードされるタンパク質の発現を阻害して、最終的にタンパク質の機能を阻害することによって作用してもよい。本明細書において用いられる「アンチセンス核酸」という用語は、アンチセンス核酸が標的配列に特異的にハイブリダイズすることができる限り、標的配列と完全に相補的であるヌクレオチドおよび1つまたは複数のヌクレオチドのミスマッチを有するヌクレオチドの双方を含む。例えば、本発明のアンチセンス核酸には、少なくとも15連続ヌクレオチドの長さにわたって少なくとも70%またはそれ以上、好ましくは80%またはそれ以上、より好ましくは90%またはそれ以上、さらにより好ましくは95%またはそれ以上の相同性を有するポリヌクレオチドが含まれる。当技術分野で既知のアルゴリズムを用いて相同性を決定することができる。
【0091】
本発明のアンチセンス核酸誘導体は、タンパク質をコードするDNAまたはmRNAに結合し、転写または翻訳を阻害し、mRNAの分解を促進し、かつタンパク質の発現を阻害し、それによってタンパク質の機能を阻害することによって、マーカー遺伝子にコードされるタンパク質を産生する細胞に作用する。
【0092】
本発明のアンチセンス核酸誘導体は、誘導体に対して不活性な適した基剤と混合することによって、リニメントまたは湿布剤のような外用調製物に調製することができる。
【0093】
同様に、必要に応じて、誘導体は、賦形剤、等張剤、溶解剤、安定化剤、保存剤、鎮痛剤等を加えることによって、錠剤、粉剤、顆粒剤、カプセル剤、リポソームカプセル、注射剤、溶液、点鼻液、および凍結乾燥剤に調製することができる。これらは以下の既知の方法によって調製することができる。
【0094】
アンチセンス核酸誘導体は、患部に直接適用することによって、または患部に達するように血管に注入することによって、患者に投与される。アンチセンス封入剤も、持続性および膜透過性を増加するために用いることができる。例としては、リポソーム、ポリ-L-リジン、脂質、コレステロール、リポフェクチンまたはこれらの誘導体である。
【0095】
本発明のアンチセンス核酸誘導体の用量は、患者の病態に応じて適切に調節して、所望の量で用いることができる。例えば、0.1〜100 mg/kg、好ましくは0.1〜50 mg/kgの用量範囲を投与することができる。
【0096】
本発明のアンチセンス核酸は、本発明のタンパク質の発現を阻害するので、本発明のタンパク質の生物学的活性を抑制するのに有用である。同様に、本発明のアンチセンス核酸を含む発現阻害剤は、それらが本発明のタンパク質の生物学的活性を阻害できることから有用である。
【0097】
本発明のアンチセンス核酸には、修飾オリゴヌクレオチドが含まれる。例えば、チオエート型オリゴヌクレオチドを用いて、オリゴヌクレオチドにヌクレアーゼ抵抗性を付与してもよい。
【0098】
同様に、マーカー遺伝子に対するsiRNAを用いて、マーカー遺伝子の発現レベルを減少させることができる。「siRNA」という用語は、標的mRNAの翻訳を防止する二本鎖RNA分子を意味する。DNAがRNAを転写する鋳型となる技術を含む、siRNAを細胞に導入する標準的な方法が用いられる。本発明の状況において、siRNAは、PRC 1〜88、296〜321、458〜537のような、上方制御されたマーカー遺伝子に対するセンス核酸配列およびアンチセンス核酸配列を含む。siRNAは、単一の転写物が、標的遺伝子からのセンス配列および相補的アンチセンス配列の双方を有するように、例えばヘアピンを有するように構築される。
【0099】
この方法は、例えば細胞の悪性形質転換の結果として上方制御された細胞内の発現を変化させるために用いられる。標的細胞におけるPRC 1〜88、296〜321、458〜537の一つに対応する転写物に対するsiRNAの結合によって、細胞によるタンパク質産生の減少が起こる。オリゴヌクレオチドの長さは少なくとも10ヌクレオチドであり、天然に存在する転写物と同じ長さであってもよい。好ましくは、オリゴヌクレオチドは、長さが19〜25ヌクレオチドである。最も好ましくは、オリゴヌクレオチドが長さが75、50、25ヌクレオチド未満である。
【0100】
siRNAのヌクレオチド配列は、アンビオン(Ambion)のウェブサイト(http://www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)から入手できるsiRNA設計コンピュータープログラムを用いて設計した。コンピュータープログラムは、以下のプロトコールに基づいてsiRNA合成のためのヌクレオチド配列を選択する。
【0101】
siRNA標的部位の選択:
1.対象となる転写物のAUG開始コドンから始めて、AAジヌクレオチド配列を求めて下流にスキャンする。潜在的なsiRNA標的部位として、各AAおよび3'隣接ヌクレオチド19個の出現を記録する。Tuschlらは、5'および3'非翻訳領域(UTR)および開始コドン近傍(75塩基以内)の領域が、調節タンパク質結合部位により富んでいる可能性があることから、これらに対してsiRNAを設計しないことを推奨している。UTR-結合タンパク質および/または翻訳開始複合体は、siRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合を妨害しうる。
2.潜在的な標的部位をヒトゲノムデータベースと比較して、他のコード配列と有意な相同性を有する如何なる標的配列も検討から除外する。相同性検索は、NCBIサーバー、www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/において認められうるBLASTを用いて行うことができる。
3.合成のために適格な標的配列を選択する。アンビオンでは、好ましくは、評価すべき遺伝子の長さに沿っていくつかの標的配列を選択することができる。
【0102】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAは、本発明のポリペプチドの発現を阻害するので、本発明のポリペプチドの生物学的活性を抑制するのに有用である。同様に、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む発現阻害剤は、それらが本発明のポリペプチドの生物学的活性を阻害できるという点において有用である。したがって、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む組成物は、PRCまたはPINを治療するのに有用である。
【0103】
または、1つまたは複数の過剰発現された遺伝子の遺伝子産物の機能は、遺伝子産物に結合する化合物、さもなければ遺伝子産物の機能を阻害する化合物を投与することによって阻害される。例えば、化合物は、1つまたは複数の過剰発現された遺伝子産物に結合する抗体である。
【0104】
本発明は、抗体、特に上方制御されたマーカー遺伝子にコードされるタンパク質に対する抗体、または抗体の断片を用いることに言及する。本明細書において用いられるように、「抗体」という用語は、抗体を合成するために用いられる抗原(すなわち、上方制御されたマーカー遺伝子産物)またはそれに近縁の抗原のみと相互作用する(すなわち結合する)、特異的構造を有する免疫グロブリン分子を指す。さらに抗体は、それがマーカー遺伝子にコードされるタンパク質の1つまたは複数に結合する限り、抗体断片または修飾抗体であってもよい。例えば、抗体断片は、Fab、F(ab')2、Fv、またはHおよびL鎖からのFv断片が適当なリンカーによって連結されている一本鎖Fv(scFv)であってもよい(Huston, J.S.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:5879〜5883(1988))。より詳しく述べると、抗体断片は、抗体をパパインまたはペプシンのような酵素によって処理することによって産生してもよい。または、抗体断片をコードする遺伝子を構築して、発現ベクターに挿入し、適当な宿主細胞において発現させてもよい(例えば、Co M.S.ら、J. Immunol. 152:2968〜2976(1994);Better M.およびHorwitz A.H.、Methods Enzymol. 178:476〜496(1989);Pluckthun A.およびSkerra A.、Methods Enzymol. 178:497〜515(1989);Lamoyi E.、Methods Enzymol. 121:652〜663(1986);Rousseaux J.ら、Methods Enzymol. 121:663〜669(1986);Bird R.E.およびWalker B.W.、Trends Biotechnol. 9:132〜137(1991)を参照されたい)。
【0105】
抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)のような多様な分子に結合させることによって修飾してもよい。本発明は、そのような修飾抗体を提供する。修飾抗体は、抗体を化学修飾することによって得ることができる。これらの修飾法は、当技術分野で常套的である。
【0106】
または、抗体は、ヒト以外の抗体に由来する可変領域とヒト抗体に由来する定常領域とのキメラ抗体として、またはヒト以外の抗体に由来する相補性決定領域(CDR)、ヒト抗体に由来するフレームワーク領域(FR)、および定常領域を含むヒト化抗体として得てもよい。そのような抗体は、既知の技術を用いて調製することができる。
【0107】
癌細胞において起こる特異的な分子変化に対する癌治療は、進行乳癌を治療するためのトラスツズマブ(ヘルセプチン)、慢性骨髄性白血病のためのイマチニブメチレート(グリーベック)、非小細胞肺癌(NSCLC)のためのゲフィチニブ(イレッサ)、ならびにB細胞リンパ腫およびマントル細胞リンパ腫のためのリツキシマブ(抗CD20 mAb)のような抗癌剤の臨床開発および規制認可によって確認されている(Ciardiello F, Tortora G. A novel approach in the treatment of cancer: targeting the epidermal growth factor receptor. Clin Cancer Res. 2001 10月;7(10):2958〜70. Review.;Slamon DJ, Leyland-Jones B, Shak S, Fuchs H, Paton V, Bajamonde A, Fleming T, Eiermann W, Wolter J, Pegram M, Baselga J, Norton L. Use of chemotherapy plus a monoclonal antibody against HER2 for metastatic breast cancer that overexpresses HER2. N Engl J Med. 2001 3月15日;344(11):783〜92.;Rehwald U, Schulz H, Reiser M, Sieber M, Staak JO, Morschhauser F, Driessen C, Rudiger T, Muller-Hermelink K, Diehl V, Engert A. Treatment of relapsed CD20+ Hodgkin lymphoma with the monoclonal antibody rituximab is effective and well tolerated:results of a phase 2 trial of the German Hodgkin Lymphoma Study Group. Blood. 2003 1月15日;101(2):420〜424.;Fang G, Kim CN, Perkins CL, Ramadevi N, Winton E, Wittmann SおよびBhalla KN. (2000). Blood, 96, 2246〜2253.)。これらの薬剤は、形質転換した細胞のみを標的とすることから、臨床的に有効であり、従来の抗癌剤より許容性が良好である。したがって、そのような薬剤は、癌患者の生存および生活の質を改善するのみならず、分子標的癌治療の考え方を確認する。さらに、標的特異的薬剤は、標準的な化学療法と併用して用いた場合に、その有効性を増強することができる(Gianni, L.(2002)、Oncology 63 補遺1、47〜56;Klejman A., Rushen L., Morrione A., Slupianek AおよびSkorski T.(2002)、Oncogene 21:5868〜5876)。したがって、将来の癌治療はおそらく、従来の薬剤を血管新生および浸潤性のような腫瘍細胞の特異的な特徴をねらった標的特異的薬剤と併用することを含むであろう。
【0108】
これらの調節法は、エクスビボまたはインビトロで(例えば、細胞を薬剤と共に培養することによって)、またはインビボで(例えば対象に薬剤を投与することによって)行われる。この方法は、発現差のある遺伝子の異常な発現または活性を相殺する治療として、タンパク質もしくはタンパク質の組み合わせ、または核酸分子もしくは核酸分子の組み合わせを投与することを含む。
【0109】
遺伝子のレベルまたは生物学的活性の増加(疾患または障害を有しない対象と比較して)を特徴とする疾患または障害は、1つまたは複数の過剰発現された遺伝子の活性に拮抗する(すなわち、減少または阻害する)治療物質によって治療してもよい。活性に拮抗する治療物質を治療または予防目的で投与する。
【0110】
利用してもよい治療物質には、例えば、(i)1つまたは複数の過小発現された遺伝子のポリペプチド、またはその類似体、誘導体、断片、もしくは相同体、(ii)1つまたは複数の過剰発現された遺伝子に対する抗体、(iii)過小発現された遺伝子または複数の遺伝子をコードする核酸、(iv)アンチセンス核酸または「機能欠損」核酸(すなわち、1つまたは複数の過剰発現遺伝子のコード配列内への異種挿入による);(v)低分子干渉RNA(siRNA);または(vi)調節因子(すなわち、過剰/過小発現ポリペプチドとその結合パートナーとの相互作用を変化させる阻害剤、アゴニスト、およびアンタゴニスト)。機能欠損アンチセンス分子は、相同的組み換えによってポリペプチドの内因性の機能を「ノックアウト」するために利用される(例えば、Capecchi、Science 244:1288〜1292(1989)を参照されたい)。
【0111】
レベルまたは生物学的活性の減少(疾患または障害を有しない対象と比較して)を特徴とする疾患および障害は、活性を増加させる(すなわちアゴニストである)治療物質によって治療してもよい。活性を上方制御する治療物質は、治療または予防目的で投与してもよい。利用してもよい治療物質には、ポリペプチド(またはその類似体、誘導体、断片もしくは相同体)または生物学的利用能を増加させるアゴニストが含まれるがこれらに限定されない。
【0112】
レベルの増加または減少は、ペプチドおよび/またはRNAを定量することによって、患者の組織試料を採取し(例えば、生検組織から)、これをRNAまたはペプチドのレベル、発現されたペプチドの構造および/または活性(またはその発現が変化している遺伝子のmRNA)に関してインビトロでアッセイすることによって、容易に検出することができる。当技術分野において周知である方法には、イムノアッセイ(例えば、ウェスタンブロット解析、免疫沈降後のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動、免疫細胞化学等)、および/またはmRNAの発現を検出するハイブリダイゼーションアッセイ(例えば、ノーザンアッセイ、ドットブロット、インサイチューハイブリダイゼーション等)が含まれるがこれらに限定されない。
【0113】
予防目的の投与は、疾患もしくは障害が予防されるように、またはその進行が遅れるように、疾患の明白な臨床症状が発現する前に行われる。
【0114】
治療法には、発現差のある遺伝子の遺伝子産物の活性の1つまたは複数を調節する薬剤に細胞を接触させることが含まれる。タンパク質活性を調節する薬剤には、核酸またはタンパク質、これらのタンパク質、ペプチド、ペプチド模倣体、または他の低分子の、天然に存在する同起源のリガンドが含まれる。例えば、薬剤は、1つまたは複数の異なるように過小発現される遺伝子の1つまたは複数のタンパク質活性を刺激する。
【0115】
本発明はまた、PRC 1〜88、296〜321、458〜537からなる群より選択される核酸にコードされるポリペプチド、もしくは前記ポリペプチドの免疫学的活性断片、またはポリペプチドもしくはその断片をコードするポリヌクレオチドを含むワクチンを対象に投与する段階を含む、対象におけるPRCおよびPINの一方または両方を治療または予防する方法にも関する。ポリペプチドの投与は、対象において抗腫瘍免疫を誘導する。抗腫瘍免疫を誘導するために、PRC 1〜88、296〜321、458〜537からなる群より選択される核酸にコードされるポリペプチド、もしくは前記ポリペプチドの免疫学的活性断片、またはポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを投与する。ポリペプチドまたはその免疫学的活性断片はPRCおよびPINの一方または両方に対するワクチンとして有用である。場合によっては、タンパク質またはその断片は、T細胞受容体(TCR)に結合した形で投与してもよく、またはマクロファージ、樹状細胞(DC)、もしくはB細胞のような抗原提示細胞(APC)によって提示された形で投与してもよい。DCの強い抗原提示能のため、APCの中では、DCを用いることが最も好ましい。
【0116】
本発明において、PRCおよびPINの一方または両方に対するワクチンとは、動物に接種すると抗腫瘍免疫を誘導する機能を有する物質を指す。本発明によると、PRC 1〜88、296〜321、458〜537からなる群より選択される核酸にコードされるポリペプチドまたはその断片は、PRC 1〜88、296〜321、458〜537を発現するPRCおよびPINの一方または両方の細胞に対して強力かつ特異的な免疫応答を誘導する可能性があるHLA-A24またはHLA-A*0201拘束性エピトープであることが示唆された。このように、本発明はまた、ポリペプチドを用いて抗腫瘍免疫を誘導する方法も含む。一般的に、抗腫瘍免疫には、以下のような免疫応答が含まれる:
−腫瘍に対する細胞障害性リンパ球の誘導、
−腫瘍を認識する抗体の誘導、および
−抗腫瘍サイトカイン産生の誘導。
【0117】
したがって、あるタンパク質が、動物への接種時にこれらの免疫応答のいずれか一つを誘導する場合、そのタンパク質は、抗腫瘍免疫誘導効果を有すると判定される。タンパク質による抗腫瘍免疫の誘導は、宿主におけるタンパク質に対する免疫系の反応をインビボまたはインビトロで観察することによって検出することができる。
【0118】
例えば、細胞障害性Tリンパ球の誘導を検出する方法は周知である。生体内に入る外来物質は、抗原提示細胞(APC)の作用によってT細胞およびB細胞に提示される。APCによって提示された抗原に対して抗原特異的に応答するT細胞は、抗原による刺激によって細胞障害性T細胞(または細胞障害性Tリンパ球;CTL)に分化した後増殖する(これはT細胞の活性化と呼ばれる)。したがって、あるペプチドによるCTL誘導は、APCによるT細胞へのペプチドの提示およびCTLの誘導を検出することによって評価することができる。さらに、APCは、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、マクロファージ、好酸球、およびNK細胞を活性化する効果を有する。CD4+ T細胞およびCD8+ T細胞も同様に抗腫瘍免疫において重要であることから、ペプチドの抗腫瘍免疫誘導作用は、これらの細胞の活性化効果を指標として用いて評価することができる。
【0119】
APCとして樹状細胞(DC)を用いてCTLの誘導作用を評価する方法は、当技術分野で周知である。DCは、APCの中でも最も強力なCTL誘導作用を有する代表的なAPCである。この方法では、試験ポリペプチドをまずDCに接触させて、このDCをT細胞に接触させる。DCに接触させた後に、対象細胞に対して細胞障害作用を有するT細胞が検出されれば、試験ポリペプチドが細胞障害性T細胞の誘導活性を有することを示している。腫瘍に対するCTLの活性は、例えば51Cr標識腫瘍細胞の溶解を指標として用いて検出することができる。または、3H-チミジン取り込み活性またはLDH(乳糖デヒドロゲナーゼ)放出を指標として用いて腫瘍細胞の損傷の程度を評価する方法も同様に周知である。
【0120】
DCとは別に、末梢血単核球(PBMC)も同様にAPCとして用いてもよい。CTLの誘導は、GM-CSFおよびIL-4の存在下でPBMCを培養することによって増強されうることが報告されている。同様に、CTLは、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびIL-7の存在下でPBMCを培養することによって誘導されることが示されている。
【0121】
これらの方法によってCTL誘導活性を有することが確認された試験ポリペプチドは、DC活性化効果およびその後のCTL誘導活性を有するポリペプチドである。したがって、腫瘍細胞に対してCTLを誘導するポリペプチドは、腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、ポリペプチドに接触させることによって腫瘍に対するCTLの誘導能を獲得したAPCは、腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、APCによるポリペプチド抗原の提示により細胞障害性を獲得したCTLも同様に、腫瘍に対するワクチンとして用いることができる。APCおよびCTLによる抗腫瘍免疫を用いるそのような腫瘍の治療法は、細胞免疫療法と呼ばれる。
【0122】
一般的に、細胞免疫療法のためにポリペプチドを用いる場合、CTL誘導効率は、異なる構造を有する複数のポリペプチドを組み合わせて、それらをDCに接触させることによって増加することが知られている。したがって、DCをタンパク質断片によって刺激する場合、複数のタイプの断片の混合物を用いることが有利である。
【0123】
または、ポリペプチドによる抗腫瘍免疫の誘導は、腫瘍に対する抗体産生の誘導を観察することによって確認することができる。例えば、ポリペプチドに対する抗体が、そのポリペプチドで免疫した実験動物において誘導される場合、そして腫瘍細胞の増殖がそれらの抗体によって抑制される場合、ポリペプチドは、抗腫瘍免疫の誘導能を有すると判定することができる。
【0124】
抗腫瘍免疫は本発明のワクチンを投与することによって誘導され、抗腫瘍免疫の誘導によって、PRCおよびPINの一方または両方を治療および予防することができる。癌の治療または癌の発症の予防には、癌性細胞の増殖の阻害、癌の退縮、および癌の発生抑制のような段階のいずれかが含まれる。癌を有する個体の死亡率の低下、血液中の腫瘍マーカーの減少、癌に伴う検出可能な症状の軽減等も同様に、癌の治療または予防に含まれる。そのような治療および予防効果は好ましくは統計学的に有意である。例えば、細胞増殖疾患に対するワクチンの治療または予防効果を、ワクチン投与を行わない対照と比較する観察において、5%またはそれ未満の有意水準である。例えば、スチューデントのt-検定、マン-ホイットニーのU検定、またはANOVAを統計解析に用いてもよい。
【0125】
免疫学的活性を有する上記のタンパク質またはそのタンパク質をコードするベクターをアジュバントと併用してもよい。アジュバントは、免疫学的活性を有するタンパク質と共に(または連続して)投与した場合にタンパク質に対する免疫応答を増強する化合物を指す。アジュバントの例には、コレラ毒素、サルモネラ毒素、ミョウバン等が含まれるがこれらに限定されない。さらに、本発明のワクチンは、薬学的に許容される担体と適切に組み合わせてもよい。そのような担体の例は、滅菌水、生理食塩液、リン酸緩衝液、培養液等である。さらに、ワクチンは必要に応じて、安定化剤、懸濁剤、保存剤、界面活性剤等を含んでもよい。ワクチンは、全身または局所投与される。ワクチン投与は、1回投与によって行ってもよく、または複数回投与によって追加免疫してもよい。
【0126】
本発明のワクチンとしてAPCまたはCTLを用いる場合、腫瘍を例えばエクスビボ法によって治療または予防することができる。より詳しく述べると、治療または予防を受けている対象のPBMCを採取して、細胞をエクスビボでポリペプチドに接触させて、APCまたはCTLの誘導後、細胞を対象に投与してもよい。APCはまた、ポリペプチドをコードするベクターをエクスビボでPBMCに導入することによって誘導することができる。インビトロで誘導されたAPCまたはCTLは、投与前にクローニングすることができる。標的細胞を損傷する高い活性を有する細胞をクローニングして増殖させることによって、細胞免疫療法をより効率よく行うことができる。さらに、このようにして単離されたAPCおよびCTLを用いて、細胞が由来する個体に対してのみならず、他の個体からの類似のタイプの腫瘍に対する細胞免疫療法のために用いてもよい。
【0127】
さらに、本発明のポリペプチドの薬学的有効量を含む、癌のような細胞増殖疾患を治療または予防するための薬学的組成物が提供される。薬学的組成物は、抗腫瘍免疫を惹起するために用いてもよい。
【0128】
PRCまたはPINを阻害するための薬学的組成物
薬学的製剤には、経口、直腸内、鼻腔内、局所(口腔内および舌下を含む)、もしくは非経口(筋肉内、皮下、および静脈内を含む)投与に適した製剤、または吸入もしくは吹入による投与に適した製剤が含まれる。好ましくは、投与は静脈内である。製剤は任意で個別の用量単位に包装される。
【0129】
経口投与に適した薬学的製剤には、それぞれが活性成分の規定量を含むカプセル剤、カシェ剤、または錠剤が含まれる。製剤にはまた、粉剤、顆粒剤、または溶液、懸濁液、または乳液が含まれる。活性成分は、任意でボーラス舐剤またはペーストとして投与される。経口投与用の錠剤およびカプセル剤は、結合剤、充填剤、潤滑剤、崩壊剤、または湿潤剤のような通常の賦形剤を含んでもよい。錠剤は、任意で1つまたは複数の製剤成分との圧縮または成形によって作製してもよい。圧縮錠は、粉剤または顆粒剤のような流動状の活性成分を、任意で結合剤、潤滑剤、不活性希釈剤、潤滑剤、表面活性剤、または分散剤と混合して、適した装置において圧縮することによって調製してもよい。成形錠剤は、不活性液体希釈剤によって湿らせた粉末化合物の混合物を適した機械において成形することによって作製してもよい。錠剤は、当技術分野で周知の方法に従ってコーティングしてもよい。経口液体調製物は、例えば、水性もしくは油性懸濁液、溶液、乳液、シロップ剤、もしくはエリキシル剤の形であってもよく、または使用前に水もしくは他の適した溶剤によって構成するための乾燥製品として提供してもよい。そのような液体調製物は、懸濁剤、乳化剤、非水性溶剤(食用油が含まれてもよい)、または保存剤のような通常の添加剤を含んでもよい。錠剤は任意で、活性成分の徐放または制御放出を提供するように調製してもよい。錠剤の包装は、毎月服用される錠剤1錠を含んでよい。
【0130】
非経口投与用製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤および意図するレシピエントの血液と製剤を等張にする溶質を含んでもよい水性および非水性滅菌注射剤、ならびに懸濁剤および濃化剤を含んでもよい水性および非水性滅菌懸濁液が含まれる。製剤は、単位用量または複数回用量容器、例えば密封アンプルおよびバイアルに入れてもよく、滅菌液体担体、例えば生理食塩液、注射用水を使用直前に加えるだけでよい凍結乾燥状態で保存してもよい。または、製剤は、連続注入用であってもよい。即時調合注射溶液および懸濁液は、既に記述した種類の滅菌粉末、顆粒、および錠剤から調製してもよい。
【0131】
直腸投与用製剤には、カカオバターまたはポリエチレングリコールのような標準的な担体を含む坐剤が含まれる。口内への、例えば口腔内または舌下への局所投与用製剤には、ショ糖およびアカシアまたはトラガカントのような着香基剤に活性成分を含むトローチ剤、ならびにゼラチンとグリセリンまたはショ糖とアカシアのような基剤に活性成分を含む香錠が含まれる。鼻腔内投与の場合、本発明の化合物を液体スプレー、もしくは分散性の粉末として、または点鼻剤の形態で用いてもよい。点鼻剤は、1つまたは複数の分散剤、溶解剤、または懸濁剤も含む水性または非水性基剤によって調製してもよい。
【0132】
吸入による投与の場合、吸入器、ネブライザー、加圧パックまたはエアロゾルスプレーを送達するための他の便利な手段によって化合物を適宜送達する。加圧パックは、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、または他の適したガスのような適した噴射剤を含んでもよい。加圧エアロゾルの場合、用量単位は、一定量を送達するための弁を提供することによって決定してもよい。
【0133】
あるいは、吸入または吹入による投与の場合、化合物は、乾燥粉末組成物、例えば化合物と、乳糖またはデンプンのような適した粉末基剤との粉末混合物の形状をとってもよい。粉末組成物は、単位投与剤形、例えば、粉末が吸入器または吹入器を利用して投与されうるカプセル剤、カートリッジ、ゼラチンまたはブリスターパックの形としてもよい。
【0134】
他の製剤には、治療薬剤を放出する埋め込み可能装置および接着パッチが含まれる。
【0135】
望ましければ、活性成分を持続的に放出するように適合された上記の製剤を用いてもよい。薬学的組成物はまた、抗菌剤、免疫抑制剤、または保存剤のような他の活性成分を含んでもよい。
【0136】
上記で特に言及した成分の他に、本発明の製剤には、当該製剤のタイプに関して当技術分野において通常の他の薬剤が含まれてもよいと理解すべきであり、例えば経口投与に適した製剤は着香料を含んでもよい。
【0137】
好ましい単位投与製剤は、下記に引用するように、活性成分またはその適当な分画の有効量を含む製剤である。
【0138】
上記の条件のそれぞれに関して、組成物、例えばポリペプチドおよび有機化合物は、約0.1〜約250 mg/kg/日の用量で経口または注射によって投与される。成人ヒトの用量範囲は一般的に、約5 mg〜約17.5 g/日、好ましくは約5 mg〜約10 g/日、および最も好ましくは約100 mg〜約3 g/日である。錠剤または個別の単位で提供される他の単位投与剤形は、便宜上、同一単位量を複数回投与した量で有効性を示すような単位量、例えば約5 mg〜約500 mg、通常約100 mg〜約500 mgを含みうる。
【0139】
用いられる用量は、対象の年齢および性別、治療される正確な障害、およびその重症度を含む多数の要因によって左右されると考えられる。同様に、投与経路も、病態およびその重症度に依存して変化してもよい。
【0140】
本発明はさらに、添付の請求の範囲に記述される本発明の範囲を制限しない以下の実施例において説明される。以下の実施例は、PRCまたはPIN細胞において発現に差のある遺伝子の同定および特徴付けを説明する。
【0141】
実施例1:試験試料の調製
疾患状態例えばPRCで発現に差のある遺伝子を同定するために、疾患組織(PRCからの上皮細胞)および正常組織から得た組織を評価した。アッセイは以下のように実施した。
【0142】
患者、組織試料、およびレーザービームを用いた顕微鏡下微小切除(LCM)
非癌性前立腺組織を含むPRC試料を、術前治療なしに前立腺全摘出術を受けた患者26人から得た。前立腺癌または高悪性度PINは、一人の病理学者(M.F.)によって組織病理学的に診断された。26例のPRC組織のうち、分析するために十分な量および質のRNAを有している20例の癌および10例の高悪性度PIN細胞を、マイクロアレイ研究のために使用した。腫瘍に関する臨床的および病理学的な情報は、表1に詳述される。試料はティシュー・テックOCTメディウム(TissueTek OCT medium)(Sakura)で包埋し、次いで、使用まで−80℃で保管した。凍結標本を、低温保持装置を用いて8μmの切片へと連続的に切断し、分析領域を画定するためにヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。癌および非癌性細胞の相互混入を回避するため、いくつかの改良を加えた製造業者のプロトコルに従い、EZ Cut LCMシステム(SL Microtest GmbH)によって、2つの集団を調製した。
【0143】
(表1)臨床病理学的特徴

(a)Tは前立腺癌を示す。
(b)NA:入手不可。
【0144】
RNAの抽出およびT7に基づくRNA増幅
レーザービームにより切除(laser captured)された細胞の各集団から、350μlのRLT溶解緩衝液(QIAGEN)へと、全RNAを抽出した。いかなる混入ゲノムDNAも排除するため、抽出されたRNAを、1単位のRNase阻害剤(TOYOBO、Osaka、Japan)の存在下で、30単位のDNase I(QIAGEN)により室温で30分間処理した。10分間70℃で不活化した後、RNAを、製造業者の推薦に従い、RNeasyミニキット(Mini Kit)(QIAGEN)を用いて精製し、DNaseで処理されたRNAを、T7に基づくRNA増幅に供した。2回の増幅によって、各試料について増幅されたRNA(aRNA)が50〜100μg得られた。各々の癌性細胞および非癌性細胞からのaRNAのうち2.5μgのアリコートを、それぞれCy5-dCTPおよびCy3-dCTPの存在下で逆転写した。
【0145】
cDNAマイクロアレイの調製
国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)(NCBI)のUniGeneデータベース o(build番号131)から選択された23,040個のcDNAを含有する、「ゲノム全域にわたる」cDNAマイクロアレイシステムを、調製した。簡単に説明すると、様々なヒト器官から単離されたポリ(A)+RNAを鋳型として使用した逆転写PCRによって、cDNAを増幅した;アンプリコンの長さは、200〜1100bpの範囲であり、反復配列またはポリ(A)配列は含んでいなかった。PCR産物を、アレイスポッタージェネレーション(Array Spotter Generation)III(Amersham Bioscience)を使用して、7型ガラススライド(Amersham Bioscience)上に二つ組でスポット化した。各スライドは、異なる蛍光色素のシグナル強度を規準化するための、52個のハウスキーピング遺伝子を含有していた。
【0146】
ハイブリダイゼーションおよびデータの獲得
ハイブリダイゼーションおよび洗浄は、全ての過程を自動スライドプロセッサ(Amersham Biosciences)(17)によって実施したことを除き、既に記述されているプロトコールに従って行った。各ハイブリダイゼーションシグナルの強度は、アレイビジョンコンピュータープログラム(Amersham Biosciences)によって測光法によって計算し、バックグラウンドの強度を差し引いた。各Cy3およびCy5シグナル強度の標準化は、ハウスキーピング遺伝子52個のシグナルの平均値を用いて行った。各発現レベルのカットオフ値は、バックグラウンドの変動に従って自動的に計算した。Cy5/Cy3を相対的発現比として計算した。Cy3およびCy5のシグナル強度の両方がカットオフ値より低い場合、その試料における対応する遺伝子の発現は欠如しているものと評価した。Cy5/Cy3比を、相対発現比として計算した。その他の遺伝子に関して、本発明者らは、各試料の生データを使用してCy5/Cy3比を計算した。
【0147】
実施例2:PRC関連遺伝子の同定
PRCおよびPINに共通して上方制御または下方制御されている遺伝子が同定されたとき、それらの遺伝子は以下の基準に従って分析された。最初に、相対発現比が50%超の症例について計算され得、発現が症例の50%超で上方制御または下方制御されている遺伝子を選択した。各遺伝子の相対発現比(Cy5/Cy3強度比)を、以下の4つのカテゴリのうちの1つに分類した:(1)上方制御されている(情報の得られた症例の50%超において3.0超の発現比);(2)下方制御されている(情報の得られた症例の50%超において0.33未満の発現比);(3)不変の発現(情報の得られた症例の50%超において0.33〜3.0の発現比);および(4)発現していない(またはわずかに発現しているが、検出のカットオフレベル未満である)。これらのカテゴリは、発現比の変化が、試料間で共通しており、かつあるサブグループに特異的である遺伝子のセットを検出するために定義された。PRC細胞およびPIN細胞の一方または両方で共通して上方制御または下方制御されていた候補遺伝子を検出するため、23,040個の遺伝子の全発現パターンを、(1)、(2)、または(3)として類別されたPRC症例の50%超に存在していた3.0超または0.33未満の発現比を有する遺伝子を選択するためにスクリーニングした。
【0148】
さらに、PRCおよびPINに共通して上方制御または下方制御されている遺伝子が同定された場合、その遺伝子を以下の基準によって分析した。最初に、相対発現比が50%超の症例について計算され得、発現が症例の50%超で上方制御または下方制御されている遺伝子を選択した。各遺伝子の相対発現比(Cy5/Cy3強度比)を、以下の4つのカテゴリのうちの1つに分類した:(5)上方制御されている(情報の得られた症例の50%超において5.0超の発現比);(6)下方制御されている(情報の得られた症例の50%超において0.2未満の発現比);(7)不変の発現(情報の得られた症例の50%超における0.2〜5.0の発現比);および(8)発現していない(またはわずかに発現しているが、検出のカットオフレベル未満である)。これらのカテゴリは、発現比の変化が、試料間で共通しており、かつあるサブグループに特異的である遺伝子のセットを検出するために定義された。PRC細胞およびPIN細胞の一方または両方で共通して上方制御または下方制御されていた候補遺伝子を検出するため、23,040個の遺伝子の全発現パターンを、(5)、(6)、または(7)として類別されたPRC症例の50%超に存在していた5.0超または0.2未満の発現比を有する遺伝子を選択するためにスクリーニングした。
【0149】
PRC細胞における臨床的に関係のある発現パターンを有する遺伝子の同定
約23,000個の遺伝子の発現パターンを、cDNAマイクロアレイを使用して、PRC細胞において調査した。Cy5およびCy3のシグナルの両方がカットオフ値未満であった場合には、個々のデータを排除した。発現比がPRCおよびPINにおいて3.0超であった上方制御されている遺伝子が88個同定され(表3参照)、発現比が0.33未満であった下方制御されている遺伝子が207個同定された(表4参照)。発現比がPRCにおいて5.0超であった上方制御されている遺伝子が26個同定され(表5参照)、発現比が0.2未満であった下方制御されている遺伝子が136個同定された(表6参照)。
【0150】
上方制御されている遺伝子のうち、α-メチルアシル補酵素Aラセマーゼ(AMACR)は、PRCにおいて過剰発現されることが既に報告されている(13)。さらに、これらの上方制御されている因子は、代謝およびシグナル伝達経路、転写因子、細胞周期、癌遺伝子、ならびに細胞の接着および細胞骨格に関与している重要な遺伝子を含んでいた。それらのうち、前立腺特異Gタンパク質共役受容体(PSGR)である嗅覚受容体(olfactory receptor)、ファミリー51、サブファミリーE、メンバー2(OR51E2)、およびPRC過剰発現遺伝子1(POV1)は、PRCにおいて過剰発現されることが既に報告されている(Luoら、2002;Coleら、1998;Xuら、2000)(表5参照)。
【0151】
PINにおける、発現比が5.0超である上方制御されている遺伝子が80個同定され(表7参照)、発現比が0.2未満である下方制御されている遺伝子が155個同定された(表8参照)。
【0152】
マイクロアレイ分析によって示された発現の信頼性を確認するため、半定量的RT-PCR実験を実施した。上方制御されている遺伝子4個を選択し、それらの発現レベルを半定量的RT-PCRによって測定した。各試料からのaRNAのうち3μgのアリコートを、ランダムプライマー(Roche)およびSuperscript II(Life Technologies,Inc.)を使用して、一本鎖cDNAへと逆転写した。各cDNA混合物を、表2に示されたプライマーセットを用いた後続のPCR増幅のために希釈した。β-アクチン(ACTB)の発現を内部対照とした。産物強度が増幅の直線相内にあることを保証するため、PCR反応はサイクル数に関して最適化された。
【0153】
情報の得られた症例ほぼ全てにおいて過剰発現されていた4個の上方制御されている遺伝子(AMACR、HOXC6、POV1、ABHD2、およびC20ORF102)の発現レベルの比を比較すると、その結果は、試験された症例の大多数においてマイクロアレイ分析の結果と高度に類似していた(図1)。これらのデータによって、PRC細胞において共通して上方制御されている遺伝子を同定するための本発明者らの戦略の信頼性が確証された。
【0154】
(表3)前立腺癌およびPINにおいて共通して上方制御されている遺伝子




【0155】
(表4)前立腺癌およびPINにおいて共通して下方制御されている遺伝子









【0156】
(表5)20例の前立腺癌において共通して上方制御されている遺伝子

【0157】
(表6)20例の前立腺癌において共通して下方制御されている遺伝子






【0158】
(表7)10例のPINにおいて上方制御されている遺伝子




【0159】
(表8)10例のPINにおいて下方制御されている遺伝子







【0160】
(表2)半定量的RT-PCR実験用のプライマー配列

【0161】
産業上の利用可能性
レーザービームを用いた顕微鏡下切除とゲノム全体のcDNAマイクロアレイとの併用によって得られた本明細書に記載のPRCおよびPINにおける遺伝子発現分析によって、癌の予防および治療のための標的としての特異的遺伝子が同定された。これらの発現に差のある遺伝子サブセットの発現に基づいて、本発明者らは、PRCおよびPINの一方または両方を同定または検出するための分子診断マーカーを提供する。
【0162】
本明細書に記載の方法はまた、PRCおよびPINの一方または両方の予防、診断、および治療のためのさらなる分子標的を同定するために有用である。本明細書において報告したデータは、PRCの包括的な理解を補足し、新規診断戦略の開発を促進させ、治療薬および予防薬のための分子標的を同定する手がかりを提供する。そのような情報は、前立腺腫瘍形成のより深い理解に貢献して、PRCの診断、治療、および最終的には予防における新規戦略を開発するための指標を提供する。
【0163】
本明細書において引用した全ての特許、特許出願、および出版物は、その全文が参照として本明細書に組み入れられる。さらに、本発明は、詳細にその特定の態様に関して記述してきたが、本発明には様々な変更および改変が施されてもよく、それらも本発明の趣旨および範囲に含まれることは、当業者に明らかであると考えられる。
【0164】
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【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】増幅されたRNAから調製したcDNAを用い、半定量的RT-PCRによって調べた代表的な遺伝子5個およびβアクチンの発現を示すDNAアガロースゲルの写真を示す。遺伝子のシンボルが記載されている。TおよびNは、各8人の患者について、それぞれ腫瘍および正常を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に由来する生物学的試料におけるPRC関連遺伝子の発現レベルを決定し、その際、該遺伝子の正常対照レベルと比較された該レベルの増加または減少を、対象が、PRCおよびPINの一方もしくは両方に罹患しているか、またはPRCおよびPINの一方もしくは両方を発症するリスクを有していることの指標とすることを含む、対象におけるPRCおよびPINの一方もしくは両方、またはPRCおよびPINの一方もしくは両方を発症する素因を診断する方法。
【請求項2】
PRC関連遺伝子がPRC 1〜88からなる群より選択され、正常対照レベルと比較されたレベルの増加が、対象が、PRCおよびPINの一方もしくは両方に罹患しているか、またはPRCおよびPINの一方もしくは両方を発症するリスクを有していることの指標とされる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記増加が、正常対照レベルより少なくとも10%大きい、請求項2記載の方法。
【請求項4】
PRC関連遺伝子がPRC 89〜295からなる群より選択され、正常対照レベルと比較されたレベルの減少が、対象が、PRCおよびPINの一方もしくは両方に罹患しているか、またはPRCおよびPINの一方もしくは両方を発症するリスクを有していることの指標とされる、請求項1の方法。
【請求項5】
前記減少が、正常対照レベルより少なくとも10%低い、請求項4記載の方法。
【請求項6】
複数個のPRC関連遺伝子の発現レベルを決定する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
発現レベルが、
(a)PRC関連遺伝子のmRNAを検出すること、
(b)PRC関連遺伝子によってコードされたタンパク質を検出すること、および
(c)PRC関連遺伝子によってコードされたタンパク質の生物学的活性を検出すること、からなる群より選択される任意の1つ方法によって決定される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
発現レベルが、患者に由来する生物学的試料の遺伝子転写物へのPRC関連遺伝子プローブのハイブリダイゼーションを検出することにより決定される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
ハイブリダイゼーション工程がDNAアレイ上で実施される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
生物学的試料が上皮細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
生物学的試料がPRC細胞およびPIN細胞の一方または両方を含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
生物学的試料がPRCまたはPINに由来する上皮細胞を含む、請求項8記載の方法。
【請求項13】
PRC 1〜295からなる群より選択される2個以上の遺伝子の遺伝子発現パターンを含む、PRC基準発現プロファイル。
【請求項14】
PRC 1〜88からなる群より選択される2個以上の遺伝子の遺伝子発現パターンを含む、PRC基準発現プロファイル。
【請求項15】
PRC 89〜295からなる群より選択される2個以上の遺伝子の遺伝子発現パターンを含む、PRC基準発現プロファイル。
【請求項16】
以下の工程を含む、PRCおよびPINの一方または両方を治療または予防するための化合物のスクリーニングの方法:
(a)PRC 1〜295からなる群より選択される核酸によってコードされたポリペプチドと被験化合物を接触させる工程;
(b)ポリペプチドと被験化合物との間の結合活性を検出する工程;および
(c)ポリペプチドと結合する化合物を選択する工程。
【請求項17】
以下の工程を含む、PRCおよびPINの一方または両方を治療または予防するための化合物のスクリーニングの方法であって、
(a)PRC 1〜295からなる群より選択される1つまたは複数のマーカー遺伝子を発現している細胞と候補化合物を接触させる工程;および
(b)PRC 1〜88からなる群より選択される1つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを低下させるか、またはPRC 89〜295からなる群より選択される1つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程。
【請求項18】
以下の工程を含む、PRCおよびPINの一方または両方を治療または予防するための化合物のスクリーニングの方法:
(a)PRC 1〜295からなる群より選択される核酸によりコードされたポリペプチドと被験化合物を接触させる工程;
(b)工程(a)のポリペプチドの生物学的活性を検出する工程;および
(c)被験化合物の非存在下で検出された生物学的活性と比較して、PRC 1〜88からなる群より選択される核酸によりコードされたポリペプチドの生物学的活性を抑制するか、または被験化合物の非存在下で検出された生物学的活性と比較して、PRC 89〜295からなる群より選択される核酸によりコードされたポリペプチドの生物学的活性を増強する化合物を選択する工程。
【請求項19】
細胞がPRC細胞およびPIN細胞の一方または両方を含む、請求項17記載の方法。
【請求項20】
以下の工程を含む、PRCおよびPINの一方または両方を治療または予防するための化合物のスクリーニングの方法:
(a)PRC 1〜295からなる群より選択される1つまたは複数のマーカー遺伝子の転写調節領域とその転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子とを含むベクターが導入された細胞と候補化合物を接触させる工程;
(b)該レポーター遺伝子の活性を測定する工程;および
(c)対照と比較して、該マーカー遺伝子がPRC 1〜88からなる群より選択される上方制御されたマーカー遺伝子である場合に該レポーター遺伝子の発現レベルを低下させるか、または該マーカー遺伝子がPRC 89〜295からなる群より選択される下方制御されたマーカー遺伝子である場合に該レポーター遺伝子の発現レベルを増強する化合物を選択する工程。
【請求項21】
PRC 1〜295からなる群より選択される2個以上の核酸配列と結合する検出試薬を含むキット。
【請求項22】
PRC 1〜295からなる群より選択される2個以上の核酸配列と結合する核酸を含むアレイ。
【請求項23】
PRC 1〜88からなる群より選択される遺伝子によりコードされたポリペプチドの発現または活性を減少させる化合物を対象に投与する工程を含む、対象におけるPRCおよびPINの一方または両方を治療または予防する方法。
【請求項24】
PRC 1〜88からなる群より選択されるコーディング配列に相補的なヌクレオチド配列を含むアンチセンス核酸組成物を対象に投与する工程を含む、対象におけるPRCおよびPINの一方または両方を治療または予防する方法。
【請求項25】
PRC 1〜88からなる群より選択される核酸配列の発現を低下させるsiRNA組成物を対象に投与する工程を含む、対象におけるPRCおよびPINの一方または両方を治療または予防する方法。
【請求項26】
PRC 1〜88からなる群より選択されるいずれか1つの遺伝子によりコードされたタンパク質と結合する抗体またはその断片を、薬学的に有効な量、対象に投与する工程を含む、対象におけるPRCおよびPINの一方または両方を治療または予防する方法。
【請求項27】
PRC 1〜88からなる群より選択される核酸によりコードされたポリペプチド、または該ポリペプチドの免疫学的活性を有する断片、またはそのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むワクチンを、対象に投与する工程を含む、対象におけるPRCおよびPINの一方または両方を治療または予防する方法。
【請求項28】
PRC 89〜295の発現または活性を増加させる化合物を該対象に投与する工程を含む、対象におけるPRCおよびPINの一方または両方を治療または予防する方法。
【請求項29】
PRC 89〜295からなる群より選択されるポリヌクレオチドまたはそれによりコードされたポリペプチドを、薬学的に有効な量、対象に投与する工程を含む、対象におけるPRCおよびPINの一方または両方を治療または予防する方法。
【請求項30】
請求項16〜20のいずれか一項記載の方法により得られた化合物を投与する工程を含む、対象におけるPRCおよびPINの一方または両方を治療または予防する方法。
【請求項31】
活性成分として、薬学的に有効な量の、PRC 1〜88からなる群より選択されるポリヌクレオチドに対するアンチセンスポリヌクレオチドまたは低分子干渉RNA、および薬学的に許容される担体を含む、PRCおよびPINの一方または両方を治療または予防するための組成物。
【請求項32】
活性成分として、薬学的に有効な量の、PRC 1〜88からなる群より選択される遺伝子によりコードされたタンパク質と結合する抗体またはその断片、および薬学的に許容される担体を含む、PRCおよびPINの一方または両方を治療または予防するための組成物。
【請求項33】
活性成分として、薬学的に有効な量の、PRC 89〜295からなる群より選択されるポリヌクレオチドまたはそれによりコードされるポリペプチド、および薬学的に許容される担体を含む、PRCおよびPINの一方または両方を治療または予防するための組成物。
【請求項34】
活性成分として、薬学的に有効な量の、請求項16〜20のいずれか一項記載の方法により選択された化合物、および薬学的に許容される担体を含む、PRCおよびPINの一方または両方を治療または予防するための組成物。
【請求項35】
患者に由来する生物学的試料におけるPRC関連遺伝子の発現レベルを決定する工程を含む方法であって、その際、該遺伝子の正常対照レベルと比較した該レベルの増加または減少が、対象がPRCに罹患しているかまたはPRCを発症するリスクを有していることの指標とされる、対象におけるPRCまたはPRCを発症する素因を診断する方法。
【請求項36】
PRC関連遺伝子がPRC 296〜321からなる群より選択され、正常対照レベルと比較された前記レベルの増加が、対象がPRCに罹患しているかまたはPRCを発症するリスクを有していることの指標とされる、請求項35記載の方法。
【請求項37】
前記増加が、正常対照レベルより少なくとも10%大きい、請求項36記載の方法。
【請求項38】
PRC関連遺伝子がPRC 322〜457からなる群より選択され、正常対照レベルと比較された前記レベルの減少が、対象がPRCに罹患しているかまたはPRCを発症するリスクを有していることの指標とされる、請求項35記載の方法。
【請求項39】
前記減少が、正常対照レベルより少なくとも10%低い、請求項38記載の方法。
【請求項40】
複数個のPRC関連遺伝子の発現レベルを決定する工程をさらに含む、請求項35記載の方法。
【請求項41】
発現レベルが、
(a)PRC関連遺伝子のmRNAを検出すること、
(b)PRC関連遺伝子によってコードされたタンパク質を検出すること、および
(c)PRC関連遺伝子によってコードされたタンパク質の生物学的活性を検出すること、からなる群より選択されるいずれか1つの方法によって決定される、請求項35記載の方法。
【請求項42】
発現レベルが、患者に由来する生物学的試料の遺伝子転写物へのPRC関連遺伝子プローブのハイブリダイゼーションを検出することにより決定される、請求項35記載の方法。
【請求項43】
ハイブリダイゼーション工程がDNAアレイ上で実施される、請求項42記載の方法。
【請求項44】
生物学的試料が上皮細胞を含む、請求項35記載の方法。
【請求項45】
生物学的試料がPRC細胞を含む、請求項35記載の方法。
【請求項46】
生物学的試料がPRCに由来する上皮細胞を含む、請求項42記載の方法。
【請求項47】
PRC 296〜457からなる群より選択される2個以上の遺伝子の遺伝子発現パターンを含む、PRC基準発現プロファイル。
【請求項48】
PRC 296〜321からなる群より選択される2個以上の遺伝子の遺伝子発現パターンを含む、PRC基準発現プロファイル。
【請求項49】
PRC 322〜457からなる群より選択される2個以上の遺伝子の遺伝子発現パターンを含む、PRC基準発現プロファイル。
【請求項50】
以下の段階を含む、PRCを治療または予防するための化合物のスクリーニングの方法:
(a)PRC 296〜457からなる群より選択される核酸によってコードされたポリペプチドと被験化合物を接触させる工程;
(b)ポリペプチドと被験化合物との間の結合活性を検出する工程;および
(c)ポリペプチドと結合する化合物を選択する工程。
【請求項51】
以下の段階を含む、PRCを治療または予防するための化合物のスクリーニングの方法:
(a)PRC 296〜457からなる群より選択される1つまたは複数のマーカー遺伝子を発現している細胞と候補化合物を接触させる工程;および
(b)PRC 296〜321からなる群より選択される1つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを低下させるか、またはPRC 322〜457からなる群より選択される1つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程。
【請求項52】
以下の段階を含む、PRCを治療または予防するための化合物のスクリーニングの方法:
(a)PRC 296〜457からなる群より選択される核酸によりコードされたポリペプチドと被験化合物を接触させる工程;
(b)工程(a)のポリペプチドの生物学的活性を検出する工程;および
(c)被験化合物の非存在下で検出された生物学的活性と比較して、PRC 296〜321からなる群より選択される核酸によりコードされたポリペプチドの生物学的活性を抑制するか、または被験化合物の非存在下で検出された生物学的活性と比較して、PRC 322〜457からなる群より選択される核酸によりコードされたポリペプチドの生物学的活性を増強する化合物を選択する工程。
【請求項53】
細胞がPRC細胞を含む、請求項51記載の方法。
【請求項54】
以下の工程を含む、PRCを治療または予防するための化合物のスクリーニングの方法:
(a)PRC 296〜457からなる群より選択される1つまたは複数のマーカー遺伝子の転写調節領域とその転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子とを含むベクターが導入された細胞と候補化合物を接触させる工程;
(b)該レポーター遺伝子の活性を測定する工程;および
(c)対照と比較して、該マーカー遺伝子がPRC 296〜321からなる群より選択される上方制御されたマーカー遺伝子である場合に該レポーター遺伝子の発現レベルを低下させるか、または該マーカー遺伝子がPRC 322〜457からなる群より選択される下方制御されたマーカー遺伝子である場合に該レポーター遺伝子の発現レベルを増強する化合物を選択する工程。
【請求項55】
PRC 296〜457からなる群より選択される2個以上の核酸配列と結合する検出試薬を含むキット。
【請求項56】
PRC 296〜457からなる群より選択される2個以上の核酸配列と結合する核酸を含むアレイ。
【請求項57】
PRC 296〜321からなる群より選択される遺伝子によりコードされたポリペプチドの発現または活性を減少させる化合物を対象に投与する工程を含む、対象におけるPRCを治療または予防する方法。
【請求項58】
PRC 296〜321からなる群より選択されるコーディング配列に相補的なヌクレオチド配列を含むアンチセンス組成物を対象に投与する工程を含む、対象におけるPRCを治療または予防する方法。
【請求項59】
PRC 296〜321からなる群より選択される核酸配列の発現を低下させるsiRNA組成物を対象に投与する工程を含む、対象におけるPRCを治療または予防する方法。
【請求項60】
PRC 296〜321からなる群より選択される任意の1つの遺伝子によりコードされたタンパク質と結合する抗体またはその断片の薬学的に有効な量を対象に投与する工程を含む、対象におけるPRCを治療または予防する方法。
【請求項61】
PRC 296〜321からなる群より選択される核酸によりコードされたポリペプチド、または該ポリペプチドの免疫学的活性を有する断片、またはそのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むワクチンを、対象に投与する工程を含む、対象におけるPRCを治療または予防する方法。
【請求項62】
PRC 322〜547の発現または活性を増加させる化合物を対象に投与する工程を含む、対象におけるPRCを治療または予防する方法。
【請求項63】
PRC 322〜457からなる群より選択されるポリヌクレオチドまたはそれによりコードされたポリペプチドの薬学的に有効な量を該対象に投与する工程を含む、対象におけるPRCを治療または予防する方法。
【請求項64】
請求項50〜54のいずれか一項記載の方法により得られた化合物を投与する工程を含む、対象におけるPRCを治療または予防する方法。
【請求項65】
活性成分として、薬学的に有効な量の、PRC 296〜321からなる群より選択されるポリヌクレオチドに対するアンチセンスポリヌクレオチドまたは低分子干渉RNA、および薬学的に許容される担体を含む、PRCを治療または予防するための組成物。
【請求項66】
活性成分として、薬学的に有効な量の、PRC 296〜321からなる群より選択される任意の1つの遺伝子によりコードされたタンパク質と結合する抗体またはその断片、および薬学的に許容される担体とを含む、PRCを治療または予防するための組成物。
【請求項67】
活性成分として、薬学的に有効な量の、PRC 322〜457からなる群より選択されるポリヌクレオチドまたはそれによりコードされるポリペプチド、および薬学的に許容される担体とを含む、PRCを治療または予防するための組成物。
【請求項68】
活性成分として、薬学的に有効な量の、請求項50〜54のいずれか一項記載の方法により選択された化合物、および薬学的に許容される担体を含む、PRCを治療または予防するための組成物。
【請求項69】
患者に由来する生物学的試料におけるPRC関連遺伝子の発現レベルを決定する工程を含む方法であって、その際、該遺伝子の正常対照レベルと比較された該レベルの増加または減少が、対象がPINに罹患しているかまたはPINを発症するリスクを有していることの指標とされる、対象におけるPINまたはPINを発症する素因を診断する方法。
【請求項70】
PRC関連遺伝子がPRC 458〜537からなる群より選択され、正常対照レベルと比較された前記レベルの増加が、対象がPINに罹患しているかまたはPINを発症するリスクを有していることの指標とされる、請求項69記載の方法。
【請求項71】
前記増加が、正常対照レベルより少なくとも10%大きい、請求項70記載の方法。
【請求項72】
PRC関連遺伝子がPRC 538〜692からなる群より選択され、正常対照レベルと比較された前記レベルの減少が、対象がPINに罹患しているかまたはPINを発症するリスクを有していることの指標とされる、請求項69記載の方法。
【請求項73】
前記減少が、正常対照レベルより少なくとも10%低い、請求項72記載の方法。
【請求項74】
複数個のPRC関連遺伝子の発現レベルを決定する工程をさらに含む、請求項69記載の方法。
【請求項75】
発現レベルが以下からなる群より選択されるいずれか1つの方法によって決定される、請求項69記載の方法:
(a)PRC関連遺伝子のmRNAを検出すること;
(b)PRC関連遺伝子によってコードされたタンパク質を検出すること;および
(c)PRC関連遺伝子によってコードされたタンパク質の生物学的活性を検出すること。
【請求項76】
発現レベルが、患者に由来する生物学的試料の遺伝子転写物に対するPRC関連遺伝子プローブのハイブリダイゼーションを検出することにより決定される、請求項69記載の方法。
【請求項77】
ハイブリダイゼーション工程がDNAアレイ上で実施される、請求項76記載の方法。
【請求項78】
生物学的試料が上皮細胞を含む、請求項69記載の方法。
【請求項79】
生物学的試料がPIN細胞を含む、請求項69記載の方法。
【請求項80】
生物学的試料がPINに由来する上皮細胞を含む、請求項76記載の方法。
【請求項81】
PRC 458〜692からなる群より選択される2個以上の遺伝子の遺伝子発現パターンを含む、PRC基準発現プロファイル(reference expression profile)。
【請求項82】
PRC 458〜537からなる群より選択される2個以上の遺伝子の遺伝子発現パターンを含む、PRC基準発現プロファイル。
【請求項83】
PRC 538〜692からなる群より選択される2個以上の遺伝子の遺伝子発現パターンを含む、PRC基準発現プロファイル。
【請求項84】
以下の工程を含む、PINを治療もしくは予防するかまたはPRCを予防するための化合物のスクリーニングの方法:
(a)PRC 458〜692からなる群より選択される核酸によってコードされたポリペプチドと被験化合物を接触させる工程;
(b)ポリペプチドと被験化合物との間の結合活性を検出する工程;および
(c)ポリペプチドと結合する化合物を選択する工程。
【請求項85】
以下の工程を含む、PINを治療もしくは予防するかまたはPRCを予防するための化合物のスクリーニングの方法:
(a)PRC 458〜692からなる群より選択される1つまたは複数のマーカー遺伝子を発現している細胞と候補化合物を接触させる工程;および
(b)PRC 458〜537からなる群より選択される1つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを低下させるか、またはPRC 538〜692からなる群より選択される1つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程。
【請求項86】
以下の工程を含む、PINを治療もしくは予防するかまたはPRCを予防するための化合物のスクリーニングの方法:
(a)PRC 458〜692からなる群より選択される核酸によりコードされたポリペプチドと被験化合物を接触させる工程;
(b)工程(a)のポリペプチドの生物学的活性を検出する工程;および
(c)被験化合物の非存在下で検出された生物学的活性と比較して、PRC 458〜537からなる群より選択される核酸によりコードされたポリペプチドの生物学的活性を抑制するか、または被験化合物の非存在下で検出された生物学的活性と比較して、PRC 538〜692からなる群より選択される核酸によりコードされたポリペプチドの生物学的活性を増強する化合物を選択する工程。
【請求項87】
細胞がPIN細胞を含む、請求項85記載の方法。
【請求項88】
以下の工程を含む、PINを治療もしくは予防するかまたはPRCを予防するための化合物のスクリーニングの方法:
(a)PRC 458〜692からなる群より選択される1つまたは複数のマーカー遺伝子の転写調節領域とその転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子とを含むベクターが導入された細胞と候補化合物を接触させる工程;
(b)該レポーター遺伝子の活性を測定する工程;および
(c)対照と比較して、該マーカー遺伝子がPRC 458〜537からなる群より選択される上方制御されたマーカー遺伝子である場合に該レポーター遺伝子の発現レベルを低下させるか、または該マーカー遺伝子がPRC 538〜692からなる群より選択される下方制御されたマーカー遺伝子である場合に該レポーター遺伝子の発現レベルを増強する化合物を選択する工程。
【請求項89】
PRC 458〜692からなる群より選択される2個以上の核酸配列と結合する検出試薬を含むキット。
【請求項90】
PRC 458〜692からなる群より選択される2個以上の核酸配列と結合する核酸を含むアレイ。
【請求項91】
PRC 458〜537からなる群より選択される遺伝子によりコードされたポリペプチドの発現または活性を減少させる化合物を対象に投与する工程を含む、対象におけるPINを治療もしくは予防するかまたはPRCを予防する方法。
【請求項92】
PRC 458〜537からなる群より選択されるコーディング配列に相補的なヌクレオチド配列を含むアンチセンス組成物を対象に投与する工程を含む、対象におけるPINを治療もしくは予防するかまたはPRCを予防する方法。
【請求項93】
PRC 458〜537からなる群より選択される核酸配列の発現を低下させるsiRNA組成物を対象に投与する工程を含む、対象におけるPINを治療もしくは予防するかまたはPRCを予防する方法。
【請求項94】
PRC 458〜537からなる群より選択されるいずれか1つの遺伝子によりコードされたタンパク質と結合する抗体またはその断片の薬学的に有効な量を対象に投与する工程を含む、対象におけるPINを治療もしくは予防するかまたはPRCを予防する方法。
【請求項95】
PRC 458〜537からなる群より選択される核酸によりコードされたポリペプチド、または該ポリペプチドの免疫学的活性を有する断片、またはそのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むワクチンを、対象に投与する工程を含む、対象におけるPINを治療もしくは予防するかまたはPRCを予防する方法。
【請求項96】
PRC 538〜692の発現または活性を増加させる化合物を対象に投与する工程を含む、対象におけるPINを治療もしくは予防するかまたはPRCを予防する方法。
【請求項97】
PRC 538〜692からなる群より選択されるポリヌクレオチド、またはそれによりコードされたポリペプチドの薬学的に有効な量を対象に投与する工程を含む、対象におけるPINを治療もしくは予防するかまたはPRCを予防する方法。
【請求項98】
請求項84〜88のいずれか一項記載の方法により得られた化合物を投与する工程を含む、対象におけるPINを治療もしくは予防するかまたはPRCを予防する方法。
【請求項99】
活性成分として、薬学的に有効な量の、PRC 458〜537からなる群より選択されるポリヌクレオチドに対するアンチセンスポリヌクレオチドまたは低分子干渉RNA、および薬学的に許容される担体を含む、PINを治療もしくは予防するかまたはPRCを予防するための組成物。
【請求項100】
活性成分として、薬学的に有効な量の、PRC 458〜537からなる群より選択されるいずれか1つの遺伝子によりコードされたタンパク質と結合する抗体またはその断片、および薬学的に許容される担体を含む、PINを治療もしくは予防するかまたはPRCを予防するための組成物。
【請求項101】
活性成分として、薬学的に有効な量の、PRC 538〜692からなる群より選択されるポリヌクレオチドまたはそれによりコードされるポリペプチド、および薬学的に許容される担体を含む、PINを治療もしくは予防するかまたはPRCを予防するための組成物。
【請求項102】
活性成分として、薬学的に有効な量の、請求項84〜88のいずれか一項記載の方法により選択された化合物、および薬学的に許容される担体を含む、PINを治療もしくは予防するかまたはPRCを予防するための組成物。

【図1】
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【公表番号】特表2006−500950(P2006−500950A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−541232(P2004−541232)
【出願日】平成15年9月22日(2003.9.22)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012073
【国際公開番号】WO2004/031414
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(504445356)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (22)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】