説明

剥離フィルム及びその製造方法

【課題】優れた帯電防止機能と剥離機能を兼ね備えた剥離フィルムであって、フィルムの平滑性が損なわれることがない上、帯電防止層の厚さが比較的薄く、しかも安定した帯電防止性能を有する剥離フィルムを提供する。
【解決手段】基材フィルムの一方の面に剥離剤層を有し、かつ他方の面に、カーボンナノファイバーを含む活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の硬化物からなる帯電防止層を有する剥離フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離フィルム及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、基材フィルムの一方の面に剥離剤層を有し、かつその背面に帯電防止層を有する優れた帯電防止機能と剥離機能を兼ね備えた剥離フィルム、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
剥離フィルムは、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などのキャスト製膜用工程フィルム、積層セラミックコンデンサのグリーンシート成形用工程フィルム、あるいは粘着製品における粘着剤の保護フィルムなどとして用いられている。
この剥離フィルムは、一般に基材フィルムの表面に、シリコーン系樹脂や、非シリコーン系樹脂である長鎖アルキル基含有化合物やオレフィン系樹脂などの剥離剤からなる層が形成されているものである。このような剥離フィルムを、前記用途に用いた後で、剥離フィルムを剥がす際に帯電が生じ、製品に異物が付着するといった好ましくない事態を招来する。
このような好ましくない事態に対処するために、剥離フィルムに帯電防止処理を施すことが行われている。
剥離フィルムの帯電防止処理には、これまで、一般に四級アンモニウム塩などのイオン性化合物が多用されてきた。しかしながら、このイオン性化合物を帯電防止層に用いた場合、その帯電防止性能は大気中の水分に大きく影響を受ける。
また、金属や金属酸化物などの導電性金属系フィラーをバインダー樹脂に分散した系も提案されているが、この場合、粒子径が大きく、フィルムの平滑性が損なわれるおそれが生じる。
一方、近年、ポリチオフェンなどの導電性高分子化合物をバインダー樹脂中に分散させた帯電防止層が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、導電性高分子化合物をバインダー樹脂中に均一に分散させることは困難であることから、帯電防止性が不安定となり、安定した帯電防止性能を発現させるには、多くの添加量を必要とし、コストが高くつくのを免れない。また、高塗布量化により帯電防止性能を安定化させる場合には、帯電防止層の厚みの増加により、ブロッキングが発生するおそれがあった。
【特許文献1】特開2002−179954号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、このような事情のもとで、優れた帯電防止機能と剥離機能を兼ね備えた剥離フィルムであって、フィルムの平滑性が損なわれることがない上、帯電防止層の厚さが比較的薄く、しかも安定した帯電防止性能を有する剥離フィルムを提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前記の好ましい性質を有する剥離フィルムを開発すべく鋭意研究を重ねた結果、基材フィルムの一方の面に剥離剤層を有すると共に、他方の面に、カーボンナノファイバー又はカーボンナノファイバーと導電性高分子化合物とを含む活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の硬化物からなる帯電防止層を有する剥離フィルムが、その目的に適合し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)基材フィルムの一方の面に剥離剤層を有し、かつ他方の面に、カーボンナノファイバーを含む活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の硬化物からなる帯電防止層を有することを特徴とする剥離フィルム、
(2)活性エネルギー線硬化型樹脂組成物が、さらに導電性高分子化合物を含む上記(1)項に記載の剥離フィルム、
(3)導電性高分子化合物が、ポリアセチレン系、ポリチオフェン系、ポリアニリン系、ポリピロール系、ポリ(フェニレンビニレン)系、ポリ(ビニレンスルフィド)系、ポリ(p−フェニレンスルフィド)系及びポリ(チエニレンビニレン)系化合物の中から選ばれる少なくとも1種である上記(2)項に記載の剥離フィルム、
(4)硬化物中のカーボンナノファイバーの含有量が、0.1〜30質量%である上記(1)〜(3)項のいずれかに記載の剥離フィルム、
(5)硬化物中の導電性高分子化合物の含有量が、0.01〜10質量%である上記(2)〜(4)項のいずれかに記載の剥離フィルム、
(6)帯電防止層の表面抵抗率が、1013Ω/□以下である上記(1)〜(5)項のいずれかに記載の剥離フィルム、
(7)帯電防止層の厚さが0.01〜3μmである上記(1)〜(6)項のいずれかに記載の剥離フィルム、
(8)剥離剤層を構成する剥離剤が、シリコーン系剥離剤である上記(1)〜(7)項のいずれかに記載の剥離フィルム、
(9)剥離剤層を構成する剥離剤が、長鎖アルキル基含有化合物系、アルキド樹脂系、オレフィン樹脂系、ゴム系又はアクリル系剥離剤である上記(1)〜(7)項のいずれかに記載の剥離フィルム、
(10)剥離剤層の厚さが0.01〜3μmである上記(1)〜(9)項のいずれかに記載の剥離フィルム、及び
(11)基材フィルムの一方の面に、カーボンナノファイバーを含む活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を塗布、乾燥して塗膜を設け、次いで該塗膜に活性エネルギー線を照射して硬化させ、帯電防止層を形成すると共に、他方の面に、剥離剤を含む塗工液を塗布、乾燥して剥離剤層を形成することを特徴とする剥離フィルムの製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、基材フィルムの一方の面に剥離剤層を有し、かつその背面に帯電防止層を有する優れた帯電防止機能と剥離機能を兼ね備えた剥離フィルムであって、フィルムの平滑性が損なわれることがない上、帯電防止層の厚さが比較的薄く、しかも安定した帯電防止性能を有する剥離フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の剥離フィルムは、基材フィルムの一方の側の面に剥離剤層を有し、かつその反対側の面に帯電防止層を有する剥離フィルムである。
本発明の剥離フィルムに用いられる基材フィルムに特に制限はなく、従来剥離フィルムの基材フィルムとして使用されているものの中から、該剥離フィルムの用途に応じて適宜選択される。このような基材フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、ポリアミドフィルム、アクリル樹脂フィルム、ノルボルネン系樹脂フィルム、シクロオレフィン樹脂フィルム等を挙げることができる。
この基材フィルムの厚さに特に制限はなく、剥離フィルムの用途に応じて適宜選定されるが、通常10〜150μm、好ましくは20〜120μmである。
また、この基材フィルムは、その表面に設けられる剥離剤層及び帯電防止層との密着性を向上させる目的で、所望により片面又は両面に、酸化法や凹凸化法などにより表面処理、あるいはプライマー処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材フィルムの種類に応じて適宜選ばれるが、一般にはコロナ放電処理法が効果及び操作性などの面から、好ましく用いられる。
【0007】
本発明において、この基材フィルムの一方の面に剥離剤層が設けられるが、この剥離剤を構成する剥離剤としては、シリコーン系剥離剤、あるいは非シリコーン系剥離剤が用いられる。これらの剥離剤は、剥離フィルムの用途に応じて適宜選択される。
前記シリコーン系剥離剤としては、付加反応型シリコーン系剥離剤が好ましく、この付加反応型シリコーン系剥離剤は、付加反応型シリコーン樹脂からなる主剤に、架橋剤と触媒とを加えたものであり、更に所望により、付加反応抑制剤、剥離調整剤、密着向上剤などを加えてもよい。また、剥離剤の塗工後の硬化プロセスで熱の他に紫外線照射を行う場合は光開始剤を添加してもよい。
シリコーン系剥離剤の種類としては、付加反応型ならば、その形態は溶剤型でもエマルション型でも無溶剤型いずれでもよいが、溶剤型が品質、取扱い易さの点で最も適している。
付加反応型シリコーン樹脂としては、特に制限はなく、従来の熱硬化付加反応型シリコーン樹脂剥離剤として慣用されているものを用いることができ、例えば分子中に、官能基としてアルケニル基を有するポリオルガノシロキサンの中から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。上記の分子中に官能基としてアルケニル基を有するポリオルガノシロキサンの好ましいものとしては、ビニル基を官能基とするポリジメチルシロキサン、ヘキセニル基を官能基とするポリジメチルシロキサン及びこれらの混合物などが挙げられる。
架橋剤としては、例えば一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するポリオルガノシロキサン、具体的には、ジメチルハイドロジェンシロキシ基末端封鎖ジメチルシロキサン−メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、トリメチルシロキシ基末端封鎖ジメチルシロキサン−メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、トリメチルシロキシ基末端封鎖ポリ(メチルハイドロジェンシロキサン)、ポリ(ハイドロジェンシルセスキオキサン)などが挙げられる。架橋剤の使用量は、付加反応型シリコーン樹脂100質量部に対し、通常0.1〜100質量部、好ましくは0.3〜50質量部の範囲で選定される。
触媒としては、通常白金系化合物が用いられる。この白金系化合物の例としては、微粒子状白金、炭素粉末担体上に吸着された微粒子状白金、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸のオレフィン錯体、パラジウム、ロジウム触媒などが挙げられる。触媒の使用量は、付加反応型シリコーン樹脂及び架橋剤の合計量に対し、白金系金属として1〜1000ppm程度である。
【0008】
剥離調整剤としては、例えば分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基及び水素原子を有しないポリオルガノシロキサン、具体的には、トリメチルシロキシ基末端封鎖ポリジメチルシロキサン、ジメチルフェニルシロキシ基末端封鎖ポリジメチルシロキサンなどのシリコーン樹脂が挙げられる。
付加反応抑制剤は、該組成物に室温における保存安定性を付与するために用いられる成分であり、具体例としては、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、3−メチル−1−ペンテン−3−オール、3−メチル−3−ペンテン−1−イン、3,5−ジメチル−3−ヘキセン−1−イン、テトラビニルシロキサン環状体、ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
密着向上剤としては、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
光開始剤としては特に制限はなく、従来紫外線硬化型樹脂に慣用されているものの中から、任意のものを適宜選択して用いることができる。この光開始剤としては、例えばベンゾイン類、ベンゾフェノン類、アセトフェノン類、α−ヒドロキシケトン類、α−アミノケトン類、α−ジケトン類、α−ジケトンジアルキルアセタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、その他化合物などが挙げられる。
これらの光開始剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その使用量は、前記付加反応型シリコーン樹脂及び架橋剤の合計量100質量部に対し、通常0.01〜30質量部、好ましくは0.05〜20質量部の範囲で選定される。
【0009】
基材フィルムの一方の面に、前記シリコーン系剥離剤から構成される剥離剤層を形成するには、まず溶剤型シリコーン系剥離剤塗工液又はエマルション型シリコーン系剥離剤塗工液を調製する。
前記溶剤型シリコーン系剥離剤塗工液では、一般にトルエン、ヘキサン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、ヘプタン又はこれらの混合物などが希釈剤として用いられ、エマルション型剥離剤塗工液では、一般に水が希釈剤として用いられ、塗工可能な粘度に調節される。
このシリコーン系剥離剤塗工液には、必要に応じて、シリカ、帯電防止剤、染料、顔料その他の添加剤を添加してもよい。このようにして調製したシリコーン系剥離剤塗工液を、前記の基材フィルムの一方の面に、例えばグラビアコート法、バーコート法、マルチロールコート法などにより塗工する。塗工量は、固形分換算塗工量として、0.01〜3g/m2が適当であり、特に0.03〜1g/m2が好ましい。
塗工した塗工液を硬化させるには塗工機のオーブンで加熱処理するか、加熱処理した後紫外線照射を併用するか、いずれでもよいが、後者の方が基材フィルムの熱収縮しわの発生防止、シリコーンの硬化性、基材フィルムへの剥離剤の密着性の点で望ましい。
なお、紫外線照射を併用する場合は、光開始剤を添加したシリコーン系剥離剤を使用するか、塗工液調製時に光開始剤を添加することが望ましい。塗工液調製時に添加する光開始剤としては、必要に応じてシリコーン系剥離剤に添加する光開始剤として前述した光開始剤と同様のものが使用し得る。
加熱処理のみの場合、70〜160℃程度の温度範囲で、十分硬化するまでの時間、加熱するのが適当であるが、加熱・紫外線照射併用の場合は、加熱温度を50〜120℃程度と低くすることができる。
紫外線照射は、従来公知のもの、例えば高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、ハイパワーメタルハライドランプ、無電極ランプなどを用いることができるが、シリコーン系剥離剤の硬化性の点で優れる無電極ランプが好適である。紫外線出力としては、適宜選定すればよいが、50W/cm〜360W/cmが好ましい。
このようにして形成されたシリコーン系剥離剤層の厚さは、通常0.01〜3μm程度、好ましくは0.03〜1μmである。
【0010】
一方、非シリコーン系剥離剤としては、従来公知のもの、例えば長鎖アルキル基含有化合物系、アルキド樹脂系、オレフィン樹脂系、ゴム系、アクリル樹脂系などを用いることができる。
前記の長鎖アルキル基含有化合物としては、従来公知のもの、例えばポリビニルアルコール系重合体に炭素数8〜30の長鎖アルキルイソシアネートを反応させて得られたポリビニルカーバメートや、ポリエチレンイミンに前記長鎖アルキルイソシアネートを反応させて得られたアルキル尿素誘導体などを使用することができる。本発明においては、このようにして得られた長鎖アルキル基含有化合物は、融点70℃以上のものが、形成される剥離剤層における剥離性能の経時安定性の面から好適である。
また、ポリビニルアルコール系重合体に長鎖アルキルイソシアネートを反応させて得られたポリビニルカーバメートを用いる場合、前記ポリビニルアルコール系重合体のケン化度や重合度については特に制限はないが、完全ケン化タイプの方が取り扱い上有利であり、また重合度は300〜1,700程度のものが一般的に用いられる。
この長鎖アルキル基含有化合物を含む塗工液は、溶剤型、エマルション型のいずれであってもよいが、水系エマルション型が好ましい。この水系エマルション型としては、前記のようにして得られた長鎖アルキル基含有化合物を乳化処理し、水系エマルションとしたものを挙げることができる。乳化処理法については特に制限はなく、一般的な方法を採用することができる。例えば、長鎖アルキル基含有化合物の有機溶剤溶液を界面活性剤の水溶液中に撹拌混合して乳化したのち、必要に応じて有機溶剤を除去することにより、水系エマルションを得ることができる。また、有機溶剤を使用せず、長鎖アルキル基含有化合物と界面活性剤を水の存在下で加圧ニーダー、コロイドミルなどを使用して乳化分散させて、水系エマルションを得ることもできる。
このようにして得られた塗工液をロールコーター、グラビアコーター、マイヤーバーコーター、リップコーターなどの一般的な塗工装置を用いて塗布、乾燥することにより、剥離剤層を形成することができる。
乾燥条件は、80〜160℃程度の温度範囲で十分硬化するまでの時間、加熱するのが適当である。
【0011】
前記アルキド樹脂系剥離剤としては、一般に架橋構造を有するアルキド樹脂が用いられる。
架橋構造を有するアルキド樹脂層の形成は、例えば(X)アルキド樹脂、(Y)架橋剤及び所望により(Z)硬化触媒を含む熱硬化性樹脂組成物からなる層を加熱硬化させる方法を用いることができる。
前記(X)成分のアルキド樹脂としては特に制限はなく、従来アルキド樹脂として知られている公知のものの中から適宜選択して用いることができる。このアルキド樹脂は、多価アルコールと多塩基酸との縮合反応によって得られる樹脂であって、二塩基酸と二価アルコールとの縮合物又は不乾性油脂肪酸で変性したものである不転化性アルキド樹脂、及び二塩基酸と三価以上のアルコールとの縮合物である転化性アルキド樹脂があり、本発明においては、いずれも使用することができる。
該アルキド樹脂の原料として用いられる多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどの二価アルコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの三価アルコール、ジグリセリン、トリグリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、マンニット、ソルビットなどの四価以上の多価アルコールを挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0012】
また、多塩基酸としては、例えば無水フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、無水トリメット酸などの芳香族多塩基酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族飽和多塩基酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水シトラコン酸などの脂肪族不飽和多塩基酸、シクロペンタジエン−無水マレイン酸付加物、テルペン−無水マレイン酸付加物、ロジン−無水マレイン酸付加物などのディールズ・アルダー反応による多塩基酸などを挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
一方、変性剤としては、例えばオクチル酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、エレオステアリン酸、リシノレイン酸、脱水リシノレイン酸、あるいはヤシ油、アマニ油、キリ油、ヒマシ油、脱水ヒマシ油、大豆油、サフラワー油及びこれらの脂肪酸などを用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明においては、(X)成分のアルキド樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記(Y)成分の架橋剤としては、メラミン樹脂、尿素樹脂などのアミノ樹脂のほか、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂を例示することができる。
本発明においては、(Y)成分の架橋剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
当該熱硬化性樹脂組成物においては、前記(X)成分と(Y)成分との割合は、固形分質量比で70:30ないし10:90の範囲が好ましい。(X)成分の割合が上記範囲より多いと硬化物は十分な架橋構造が得られず、剥離性の低下が生じる原因となる。一方、(X)成分の割合が上記範囲より少ないと硬化物は硬くて脆くなり、剥離性が低下する。(X)成分と(Y)成分のより好ましい割合は、固形分質量比で65:35ないし10:90であり、特に60:40ないし20:80の範囲が好ましい。
当該熱硬化性樹脂組成物においては、(Z)成分の硬化触媒として酸性触媒を用いることができる。この酸性触媒としては特に制限はなく、従来アルキド樹脂の架橋反応触媒として知られている公知の酸性触媒の中から適宜選択して用いることができる。このような酸性触媒としては、例えばp−トルエンスルホン酸やメタンスルホン酸などの有機系の酸性触媒が好適である。この酸性触媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その使用量は、前記(X)成分と(Y)成分との合計100質量部に対し、通常0.1〜40質量部、好ましくは0.5〜30質量部、より好ましくは1〜20質量部の範囲で選定される。
【0013】
当該熱硬化性樹脂組成物を含むアルキド樹脂系剥離剤塗工液は、溶剤型、エマルション型のいずれでもよいが、使用上の利便性などの面から溶剤型が好ましい。この際用いられる有機溶剤としては、例えばトルエン、キシレン、メタノール、エタノール、イソブタノール、n−ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの有機溶剤中に、前記の(X)成分、(Y)成分、及び所望により用いられる(Z)成分や各種添加成分を、それぞれ所定の割合で加え、塗工可能な粘度に調整することにより、アルキド樹脂系剥離剤塗工液が得られる。この際用いられる添加成分としては特に制限はなく、従来アルキド樹脂の添加成分として知られている公知の添加成分の中から、適宜選択して使用することができる。例えばカチオン系界面活性剤などの帯電防止剤、可撓性や粘度調整などのためのアクリル系樹脂などの他の樹脂、レベリング剤、消泡剤、着色剤などを用いることができる。
このようにして得られたアルキド樹脂系剥離剤塗工液を、基材フィルムの一方の面に例えばバーコート法、リバースロールコート法、ナイフコート法、ロールナイフコート法、グラビアコート法、エアドクターコート法、ドクターブレードコート法など、従来公知の塗工方法により塗工し、80〜150℃程度の温度で数十秒〜数分間加熱硬化させることにより剥離剤層を形成することができる。
【0014】
前記オレフィン樹脂系剥離剤としては、結晶性オレフィン系樹脂が用いられる。この結晶性オレフィン系樹脂としては、ポリエチレンや結晶性ポリプロピレン系樹脂などが好適である。結晶性ポリプロピレン系樹脂としては、アイソタクチック構造又はシンジオタクチック構造を有するプロピレン単独重合体や、プロピレン−α−オレフィン共重合体などが挙げられる。ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低蜜度ポリエチレンなどが挙げられる。これらの結晶性オレフィン系樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明においては、前記オレフィン樹脂系剥離剤は、一般に押出しラミネート法を採用して、基材フィルムの一方の面に剥離剤層を設けることができる。
また、ゴム系剥離剤としては、例えば以下に示すものを用いることができる。
天然ゴム系樹脂;ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、メチルメタクリレート−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムなどの合成ゴム系樹脂;等のゴム系樹脂を用いた剥離剤を用いることができる。
【0015】
前記アクリル系剥離剤としては、一般に架橋構造を有するアクリル系樹脂が用いられる。
この架橋構造を有するアクリル系樹脂からなる剥離剤層の形成は、例えば架橋性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル系共重合体及び架橋剤を含むアクリル系樹脂組成物からなる層を加熱硬化させる方法を用いることができる。
架橋性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル系共重合体としては、エステル部分のアルキル基の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸エステルと、活性水素をもつ官能基を有する単量体と、所望により用いられる他の単量体との共重合体を好ましく挙げることができる。
ここで、エステル部分のアルキル基の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸エステルの例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
一方活性水素をもつ官能基を有する単量体の例としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル;(メタ)アクリル酸モノメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸モノエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸モノメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸モノエチルアミノプロピルなどの(メタ)アクリル酸モノアルキルアミノアルキル;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸などのエチレン性不飽和カルボン酸などが挙げられる。これらの単量体は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、所望により用いられる他の単量体の例としては酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;エチレン、プロピレン、イソブチレンなどのオレフィン類;塩化ビニル、ビニリデンクロリドなどのハロゲン化オレフィン類;スチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン系単量体;ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどのジエン系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル系単量体;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどのアクリルアミド類などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
該アクリル系樹脂組成物において、樹脂成分として用いられる(メタ)アクリル酸エステル系共重合体は、重量平均分子量30万以上が好ましい。この(メタ)アクリル酸エステル系共重合体は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
このアクリル系樹脂組成物における架橋剤としては特に制限はなく、従来アクリル系樹脂において架橋剤として慣用されているものの中から、任意のものを適宜選択して用いることができる。このような架橋剤としては、例えばポリイソシアネート化合物、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ジアルデヒド類、メチロールポリマー、アジリジン系化合物、金属キレート化合物、金属アルコキシド、金属塩などが挙げられるが、ポリイソシアネート化合物が好ましく用いられる。この架橋剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その使用量は、架橋剤の種類にもよるが、前記(メタ)アクリル酸エステル系共重合体100質量部に対し、通常0.01〜20質量部、好ましくは、0.1〜10質量部の範囲で選定される。
このアクリル系樹脂組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、所望により各種添加剤、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、軟化剤、充填剤、着色剤などを添加することができる。
このようにして得られたアクリル系樹脂組成物からなる塗工液を、基材フィルムの一方の面に、例えばバーコート法、リバースロールコート法、ナイフコート法、ロールナイフコート法、グラビアコート法、エアドクターコート法、ドクターブレードコート法など、従来公知の塗工方法により塗工し、80〜120℃程度の温度で数十秒〜数分間加熱硬化させることによりアクリル系剥離剤層を形成することができる。
【0017】
本発明の剥離フィルムにおいては、基材フィルムの一方の面に、前記のようにして形成された非シリコーン系剥離剤層の厚さは、通常0.01〜3μm程度、好ましくは0.03〜1μmである。
本発明の剥離フィルムにおいて、前記剥離剤層とは反対側の基材フィルム面に形成される帯電防止層は、カーボンナノファイバー及び必要に応じ導電性高分子化合物を含む活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の硬化物からなる層である。
前記の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物においては、活性エネルギー線硬化型重合性化合物として、分子内に2個以上の重合性不飽和基を有する活性エネルギー線重合性モノマー及び/又はオリゴマーを用いることができる。
なお、活性エネルギー線硬化型重合性化合物とは、電磁波又は荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するもの、すなわち、紫外線又は電子線などを照射することにより、架橋、硬化する重合性化合物を指す。
活性エネルギー線が紫外線などの活性光線である場合には、前記活性エネルギー線重合性モノマー及び/又はオリゴマーと共に、通常光重合開始剤が用いられる。一方、活性エネルギー線が電子線である場合には、光重合開始剤は用いなくてもよい。本発明においては、活性エネルギー線として、紫外線などの活性光線を用いることが好ましい。したがって活性エネルギー線硬化型樹脂組成物は、(A)分子内に2個以上の重合性不飽和基を有する活性エネルギー線重合性モノマー及び/又はオリゴマーと、(B)光重合開始剤を含む光硬化型樹脂組成物であることが好ましい。
【0018】
この光硬化型樹脂組成物において、(A)成分として用いられる分子内に2個以上の重合性不飽和基を有する活性エネルギー線重合性モノマーとしては、例えば、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールアジペートジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの多官能アクリレートが挙げられる。これらの活性エネルギー線重合性モノマーは1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
一方、活性エネルギー線重合性オリゴマーには、ラジカル重合型とカチオン重合型があり、ラジカル重合型の活性エネルギー線重合性オリゴマーとしては、例えばポリエステルアクリレート系、エポキシアクリレート系、ウレタンアクリレート系、ポリオールアクリレート系などが挙げられる。
ここで、ポリエステルアクリレート系オリゴマーとしては、例えば多価カルボン酸と多価アルコールの縮合によって得られる両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより、あるいは、多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。エポキシアクリレート系オリゴマーは、例えば、比較的低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂のオキシラン環に、(メタ)アクリル酸を反応しエステル化することにより得ることができる。ウレタンアクリレート系オリゴマーは、例えば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアネートの反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。さらに、ポリオールアクリレート系オリゴマーは、ポリエーテルポリオールの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。これらの活性エネルギー線重合性オリゴマーは1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
一方、カチオン重合型の活性エネルギー線重合性オリゴマーとしては、例えばエポキシ、オキセタン樹脂、ビニルエーテル樹脂などが挙げられる。ここで、エポキシ系樹脂としては、例えばビスフェノール樹脂やノボラック樹脂などの多価フェノール類にエピクロルヒドリンなどでエポキシ化した化合物、直鎖状オレフィン化合物や環状オレフィン化合物を過酸化物などで酸化して得られた化合物などが挙げられる。
【0019】
また、(B)成分の光重合開始剤としては、活性エネルギー線重合性のオリゴマーやモノマーの中でラジカル重合型の光重合性オリゴマーや光重合性モノマーに対しては、例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルメタノン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−2(ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、ベンゾフェノン、p−フェニルベンゾフェノン、4,4'−ジエチルアミノベンゾフェノン、ジクロロベンゾフェノン、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリ−ブチルアントラキノン、2−アミノアントラキノン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジメチルケタール、p−ジメチルアミン安息香酸エステルなどが挙げられる。また、カチオン重合型の光重合性オリゴマーに対する光重合開始剤としては、例えば芳香族スルホニウムイオン、芳香族オキソスルホニウムイオン、芳香族ヨードニウムイオンなどのオニウムと、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロアンチモネート、ヘキサフルオロアルセネートなどの陰イオンとからなる化合物が挙げられる。これらは1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、また、その配合量は、前記光重合性モノマー及び/又は光重合性オリゴマー100質量部に対して、通常0.2〜10質量部の範囲で選ばれる。
【0020】
当該活性エネルギー線硬化型樹脂組成物に含有されるカーボンナノファイバーとしては、好ましくは、平均外径が0.5〜120nm程度で、平均長さが0.5μm程度以上の円筒状の中空繊維状物質であるカーボンナノチューブが用いられる。前記平均外径が0.5nm未満では分散が困難であり、導電性が十分に発揮されにくく、120nmを超えると平滑性が低下すると共に、導電性も低下するおそれがある。また、平均長さが0.5μm未満では導電性が低下する傾向があるが、あまり長すぎると分散性が悪くなる。好ましい平均外径は1〜100nmであり、好ましい平均長さは0.8〜15μmである。
また、帯電防止層の帯電防止性能の観点から、カーボンナノチューブに不純物として含まれる非晶カーボン粒子は、20質量%以下であることが望ましい。
本発明で用いるカーボンナノチューブは、グラファイトの1枚面を巻いて円筒状にした形状を有しており、そのグラファイト層が1層で巻いた構造を持つ単層カーボンナノチューブ、2層以上で巻いた多層カーボンナノチューブのいずれでもよいが、多層カーボンナノチューブであることが好ましい。多層カーボンナノチューブが好ましい理由とは、多層カーボンナノチューブの方がバインダー樹脂との親和性とカーボンナノチューブ自身の有する特性の両立がしやすいからである。カーボンナノチューブに活性エネルギー線硬化型樹脂組成物との親和性を持たせようとすると、酸化などの表面処理をする必要があるが、単層カーボンナノチューブには、グラファイト層が1層しかないので表面処理をすることによってグラファイト層の結晶配列が崩れ、カーボンナノチューブの優れた導電性や機械的特性を失うことが多い。この点で、2層以上のグラファイト層を有する多層カーボンナノチューブの方が好ましい。
【0021】
本発明で用いるカーボンナノチューブは、ゼオライトの細孔に鉄やコバルト系触媒を導入した触媒化学気相成長法(CCVD法)、気相成長法(CVD法)、レーザーアブレーション法、炭素棒・炭素繊維等を用いたアーク放電法等によって製造することができる。
カーボンナノチューブの末端形状が、必ずしも円筒状である必要はなく、例えば、円錐状等変形していても差し支えない。また、カーボンナノチューブの末端が閉じた構造でも、開いた構造のどちらでも用いることができるが、好ましくは末端が開いた構造のものがよい。カーボンナノチューブの末端が閉じた構造のものは、硝酸等化学処理をすることにより開口することができる。
本発明においては、前記カーボンナノチューブは、形成される帯電防止層中の含有量が、好ましくは0.1〜30質量%、より好ましくは0.3〜10質量%になるように、当該活性エネルギー線硬化型樹脂組成物に添加分散される。帯電防止層中のカーボンナノファイバーの含有量が、0.1質量%未満では帯電防止性能が不十分となるおそれがあり、30質量%を超えるとカーボンナノファイバーの分散性が悪くなり、帯電防止性能がむしろ低下する傾向がある。
【0022】
当該活性エネルギー線硬化型樹脂組成物に、必要に応じて含有される導電性高分子化合物に特に制限はなく、従来公知の導電性高分子化合物の中から、任意のものを適宜選択して用いることができる。この導電性高分子化合物としては、例えばトランス型ポリアセチレン、シス型ポリアセチレン、ポリジアセチレンなどのポリアセチレン系;ポリ(p−フェニレン)やポリ(m−フェニレン)などのポリ(フェニレン)系;ポリチオフェン、ポリ(3−アルキルチオフェン)、ポリ(3−チオフェン−β−エタンスルホン酸)、ポリアルキレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホネートとの混合物などのポリチオフェン系;ポリアニリン、ポリメチルアニリン、ポリメトキシアニリンなどのポリアニリン系;ポリピロール、ポリ3−メチルピロール、ポリ3−オクチルピロールなどのポリピロール系;ポリ(p−フェニレンビニレン)などのポリ(フェニレンビニレン)系;ポリ(ビニレンスルフィド)系;ポリ(p−フェニレンスルフィド)系;ポリ(チエニレンビニレン)系化合物などが挙げられる。これらの中で、性能及び入手の容易さなどの観点から、ポリアセチレン系、ポリチオフェン系、ポリアニリン系、ポリピロール系及びポリ(フェニレンビニレン)系化合物が好ましい。
本発明においては、これらの導電性高分子化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、この導電性高分子化合物は、帯電防止性能の向上効果及び分散性などの面から、形成される帯電防止層中の含有量が、通常0.01〜10質量%、好ましくは0.01〜5質量%、より好ましくは0.1〜3質量%になるように、当該活性エネルギー線硬化型樹脂組成物に添加される。
本発明で用いられる活性エネルギー線硬化型樹脂組成物、好ましくは光硬化型樹脂組成物は、適当な溶剤中に、前記の活性エネルギー線硬化型重合性化合物、カーボンナノファイバー、導電性高分子化合物、光重合開始剤及び所望により各種添加成分、例えば単官能活性エネルギー線重合性モノマー、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、消泡剤、着色剤などを、それぞれ所定の割合で加え、溶解又は分散させることにより、調製することができる。
前記単官能活性エネルギー線重合性モノマーとしては、例えばシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドンなどが挙げられる。
この際用いる溶剤としては、例えばヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、塩化メチレン、塩化エチレンなどのハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、イソホロン、シクロヘキサノンなどのケトン、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル、エチルセロソルブなどのエーテル系溶剤、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル系溶剤などが挙げられる。
このようにして調製された組成物の濃度、粘度としては、コーティング可能なものであればよく、特に制限されず、状況に応じて適宜選定することができる。
【0023】
次に、前記基材フィルムの剥離剤層とは反対側の面に、上記組成物を、従来公知の方法、例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などを用いて、コーティングして塗膜を形成させ、所望により加熱乾燥を行った後、これに活性エネルギー線を照射して該塗膜を硬化させることにより、帯電防止層が形成される。
活性エネルギー線としては、例えば紫外線などの活性光線が好ましく挙げられる。上記紫外線は、高圧水銀ランプ、ヒュージョンHランプ、キセノンランプなどで得られ、照射量は、通常100〜500mJ/cm2である。
このようにして形成された帯電防止層の厚さは、帯電防止性能及び経済性のバランスなどの面から、通常0.01〜3μm程度、好ましくは、0.03〜1μm、より好ましくは0.03〜0.5μmである。
帯電防止層の表面抵抗率は、1013Ω/□以下、好ましくは1010Ω/□以下である。
本発明はまた、基材フィルムの一方の面に、カーボンナノファイバーを含む活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を塗布、乾燥して塗膜を設け、次いで該塗膜に活性エネルギー線を照射して硬化させ、帯電防止層を形成すると共に、他方の面に、剥離剤を含む塗工液を塗布、乾燥して剥離剤層を形成する剥離フィルムの製造方法をも提供する。
本発明の剥離フィルムは、基材フィルムの一方の面に剥離剤層が、その背面にカーボンナノファイバー及び場合により導電性高分子化合物を含む帯電防止層が設けられており、優れた帯電防止機能と剥離機能を兼ね備えている。この剥離フィルムは、例えばポリウレタン樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などのキャスト製膜用工程フィルム、積層セラミックコンデンサのグリーンシート成形用工程フィルム、あるいは粘着製品における粘着剤の保護フィルムなどとして、好適に用いられる。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で得られた剥離フィルムの性能は以下に示す方法に従って求めた。
(1)表面抵抗率
実施例、比較例で作製した剥離フィルムを100mm×100mmサイズに裁断したサンプルを、23℃、50%RHの条件下で24時間調湿後、サンプルの帯電防止層表面について、JIS K 6911に準拠して表面抵抗率を測定した。
(2)剥離力
実施例、比較例で作製した剥離フィルムの剥離剤層に、粘着テープ[日東電工社製、商品名「31Bテープ」]を貼り合わせた。次いで、23℃、50%RH条件下で24時間調湿後、長さ150mm、幅20mmに裁断し、引張り試験機を用いて180°の角度で0.3m/分の速度で剥離フィルム側を剥離し、剥離するに必要な力(剥離力)を測定した。
(3)平滑性
JIS B 0601に準拠し、MITUTOYO社製「SURFPAK−SV」を用い、帯電防止層表面の算術平均粗さRaを測定した。
【0025】
実施例1
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールヘキサアクリレート、N−ビニルピロリドンを質量比で45:20:10の割合で含有するアクリル系モノマー75質量部と、酢酸ブチル20質量部及びイソプロパノール30質量部を含有する溶液125質量部と、ポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルホネート(PEDT/PSS)の導電性高分子を1.3質量%の割合で含有する水溶液15.5質量部、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルメタノンの光開始剤0.2質量部を混合した。さらに上記アクリル系モノマー及び導電性高分子の合計量が1質量%になるようにイソプロパノールで希釈した光硬化型樹脂組成物を調製した。
上記光硬化型樹脂組成物に、平均直径15nm、平均長さ1μmのカーボンナノファイバー[ジェムコ社製、商品名「CNF−T」、チューブ状、3質量%イソプロパノール分散型]を、全固形分(帯電防止層)中の含有量が1質量%になるように添加して、塗工液Iを調製した。
次に、前記塗工液Iを、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム[三菱化学ポリエステルフィルム社製、商品名「T−100」]上に、乾燥後の厚さが0.05μmとなるようにマイヤーバーで均一に塗工した。次いで、55℃の乾燥機で1分間加熱し、直ちにフュージョンHバルブ240W/cm、1灯取付けのコンベヤ式紫外線照射機により、コンベヤスピード10m/分の条件で紫外線を照射し、帯電防止層を形成した。
一方、熱硬化型シリコーン[信越化学社製、商品名「KS−847H」]100質量部及び硬化剤[信越化学社製、商品名「CAT−PL−50T」]1質量部をトルエンで希釈し、固形分1.1質量%の塗工液IIを調製した。
次に、この塗工液IIを、前記帯電防止層を設けたPETフィルムの背面に、乾燥後の厚さが0.1μmとなるように均一に塗工し、130℃の乾燥機で1分間乾燥して剥離剤層を形成し、剥離フィルムを作製した。
この剥離フィルムの性能を第1表に示す。
実施例2
光硬化型樹脂組成物として、導電性高分子水溶液(PEDT/PSS)、光開始剤(α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルメタノン)、アクリル系オリゴマー及びモノマーを含有する溶液(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールヘキサアクリレート、N−ビニルピロリドン)と、それらを溶解するエチレングリコールモノエチルエーテル及びイソプロパノールからなる光硬化型コーティング剤[出光テクノファイン社製、商品名「ELコート515」]をイソプロパノールで1質量%に希釈したものを使用した以外は実施例1と同様にして剥離フィルムを作製した。
この剥離フィルムの性能を第1表に示す。
実施例3
実施例2において、帯電防止層の厚さを0.1μmとした以外は、実施例2と同様にして、剥離フィルムを作製し、その性能を評価した。結果を第1表に示す。
実施例4
実施例2において、剥離剤層を下記のようにして形成した以外は、実施例2と同様にして剥離フィルムを作製し、その性能を評価した。結果を第1表に示す。
ステアリル変性アルキド樹脂とメチル化メラミンとの混合物[日立化成ポリマー社製、商品名「テスファイン303」]100質量部及びp−トルエンスルホン酸3質量部をトルエンに加え、固形分濃度2質量部の塗工液IIを調製して塗布し、140℃で1分間乾燥して剥離剤層を形成した。
実施例5
実施例4において、帯電防止層の厚さを0.1μmとした以外は、実施例4と同様にして剥離フィルムを作製し、その性能を評価した。結果を第1表に示す。
実施例6
実施例1における塗工液Iの調製において、導電性高分子水溶液を用いず、かつカーボンナノファイバーを、全固形分(帯電防止層)中の含有量が10質量%になるように用いた以外は、実施例1と同様にして剥離フィルムを作製し、その性能を評価した。結果を第1表に示す。
比較例1
実施例1において、帯電防止層を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして剥離フィルムを作製し、その性能を評価した。結果を第1表に示す。
比較例2
実施例4において、帯電防止層を形成しなかったこと以外は、実施例4と同様にして剥離フィルムを作製し、その性能を評価した。結果を第1表に示す。
【0026】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の剥離フィルムは、基材フィルムの一方の面に剥離剤層を有し、かつその背面に帯電防止層を有する優れた帯電防止機能と剥離機能を兼ね備えており、例えばポリウレタン樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などのキャスト製膜用工程フィルム、積層セラミックコンデンサのグリーンシート成形用工程フィルム、あるいは粘着製品における粘着剤の保護フィルムなどとして、好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの一方の面に剥離剤層を有し、かつ他方の面に、カーボンナノファイバーを含む活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の硬化物からなる帯電防止層を有することを特徴とする剥離フィルム。
【請求項2】
活性エネルギー線硬化型樹脂組成物が、さらに導電性高分子化合物を含む請求項1に記載の剥離フィルム。
【請求項3】
導電性高分子化合物が、ポリアセチレン系、ポリチオフェン系、ポリアニリン系、ポリピロール系、ポリ(フェニレンビニレン)系、ポリ(ビニレンスルフィド)系、ポリ(p−フェニレンスルフィド)系及びポリ(チエニレンビニレン)系化合物の中から選ばれる少なくとも1種である請求項2に記載の剥離フィルム。
【請求項4】
硬化物中のカーボンナノファイバーの含有量が、0.1〜30質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の剥離フィルム。
【請求項5】
硬化物中の導電性高分子化合物の含有量が、0.01〜10質量%である請求項2〜4のいずれかに記載の剥離フィルム。
【請求項6】
帯電防止層の表面抵抗率が、1013Ω/□以下である請求項1〜5のいずれかに記載の剥離フィルム。
【請求項7】
帯電防止層の厚さが0.01〜3μmである請求項1〜6のいずれかに記載の剥離フィルム。
【請求項8】
剥離剤層を構成する剥離剤が、シリコーン系剥離剤である請求項1〜7のいずれかに記載の剥離フィルム。
【請求項9】
剥離剤層を構成する剥離剤が、長鎖アルキル基含有化合物系、アルキド樹脂系、オレフィン樹脂系、ゴム系又はアクリル系剥離剤である請求項1〜7のいずれかに記載の剥離フィルム。
【請求項10】
剥離剤層の厚さが0.01〜3μmである請求項1〜9のいずれかに記載の剥離フィルム。
【請求項11】
基材フィルムの一方の面に、カーボンナノファイバーを含む活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を塗布、乾燥して塗膜を設け、次いで該塗膜に活性エネルギー線を照射して硬化させ、帯電防止層を形成すると共に、他方の面に、剥離剤を含む塗工液を塗布、乾燥して剥離剤層を形成することを特徴とする剥離フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2007−190716(P2007−190716A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−8878(P2006−8878)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】