説明

剥離用工程紙基材

【課題】炭素繊維等強化繊維のプリプレグ用途に使用される剥離用工程紙基材において、基材上に設けられた防浸層に微細繊維を含有することより、耐熱性と耐溶剤性に優れ、且つ寸法安定性が良好で、更にバイオマス資源を有効利用した剥離用工程紙基材の提供。
【解決手段】基材の少なくとも片面に防浸層を設けた剥離用工程紙基材において、該防浸層が微細繊維を含有することを特徴とする剥離用工程紙基材。該微細繊維の固形分塗工量が片面あたり2.0〜6.0g/m2であることが好ましい。防浸層を有する基材の透気度が王研式で7000秒以上であることが好ましい。該微細繊維が植物の柔細胞由来であることが好ましい。該微細繊維の懸濁安定性が50%以上にフィブリル化されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は剥離用工程紙基材に関するもので、詳しくはプリプレグ用途の剥離用工程紙基材に関すものであり、特に加熱成型時の耐熱性及びシリコーン等剥離剤塗工時の耐溶剤性に優れ、且つ寸法・形状安定性が良好で、更にバイオマス資源を有効利用したプリプレグ用途の剥離用工程紙基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維等の各種強化繊維を補強材とする複合材料は、軽量で強度及び弾性率に優れていることから、ゴルフシャフト、テニスラケット、釣竿等のスポーツやレジャー用品、または航空機部材として幅広く利用されている。これらの複合材料は、一般に、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグという半製品を材料とし、前記プリプレグを所望の形状に整えた後、加熱成形して所定の形状に成型される。このプリプレグには、形状保持や貯蔵、輸送に適するように工程紙が使用される。
【0003】
上記目的の剥離用工程紙は、トルエン、ヘキサン等の有機溶剤で希釈されたシリコーン樹脂等の剥離剤を基材に塗工して製造されている。このため、基材に対する要求特性としては、シリコーン樹脂が非常に高価であるため、少量のシリコーン塗工液を均一に塗布し得る事、つまり、シリコーン塗工液の浸透を極力抑制することが重要である。また、プリプレグ用途としては高温の加熱成型に耐え得るような耐熱性が必要であり、また、プリプレグ材と剥離用工程紙が貯蔵時に両者の間で浮き剥がれが無い様、湿度に対する寸法安定性を持つ基材が望まれてきている。
【0004】
これまで、耐溶剤性を有する基材としては、グラシン紙タイプ、水系樹脂コート紙タイプ、クレーコート紙タイプが提案されている。
【0005】
グラシン紙タイプは、原料のパルプを極度に叩解し、カレンダー処理等によって繊維間結合を強固にしたものであるが、一般の紙に比べ製造コストが掛かり、離解再生が困難であり、また湿度変化に対する寸法安定性が悪いという欠点があった。
【0006】
水系樹脂コート紙タイプとしては、澱粉、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子、或いはスチレン・ブタジエンラテックス、アクリル・スチレン共重合体等の疎水性樹脂エマルジョンを単独でまたは2種以上を混合して原紙基材表面にクリアー塗工したものが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。しかしながら、樹脂のみを単独で5g/m2程度の少ない量を塗工しても原紙表面の繊維を充分に被覆することができず、繊維間の空隙にクレーター状の凹部ができるため、シリコーン層の剥離性能が低下する上、この凹部に剥離層が浸透するためコストアップの一因となる欠点があった。また、10g/m2以上の量を塗工すれば、原紙基材を充分に被覆できるが、抄紙機と一体になったオンマシン塗工の場合、塗工液を塗工した後の原紙基材がドラムドライヤーと接触するため、塗工面の乾燥が不十分な状態であると、ドラム上に塗膜が取られたり、ドライヤーカンバスを汚すという欠点があった。特に、塗工層のベタツキが高い場合には汚れが発生しやすい。従って、剥離紙用工程紙基材のように、塗工面に空隙を持たない連続皮膜が必要とされる場合には、バインダー成分が高配合となりべたつき易くなるので、オンマシン塗工には不適当であった。一方、オフマシン塗工であると、作業が煩雑で、そのもの自体がコストアップの原因となっている。
【0007】
また、クレーコート紙タイプでは、顔料と樹脂バインダーを塗布したものなど、多くの特許が開示されている(例えば、特許文献4〜7参照)。しかし、顔料と樹脂バインダーを塗工する場合には、10g/m2程度の塗工量で表面の被覆性は充分であるものの、特に顔料/バインダー比が大きいものは、形成された塗工層に微小な空隙が形成され、溶剤が塗工層、更には紙層に進入するので、使用するシリコーン量が増加し、コストアップの原因となっている。なお、一例として、クレーコートのバインダーとしてスチレン・ブタジエン共重合体と澱粉を用いることにより有機溶剤に対するバリア性が得られることが提案されている(特許文献8参照)。しかしながらこの場合には、顔料とバインダーの比が100/10〜100/30と顔料の割合が高いためバリア性が充分でない上、一般塗工紙用のスチレン・ブタジエン共重合体を用いているため、本発明が目的としている高度な耐溶剤性も得られないという欠点があった。
【0008】
このように、剥離用工程紙基材において耐溶剤性の改良は充分と言えるものではなく、更に耐熱性や寸法安定性の特性を併せ持つ基材としては、これまで満足するものがなかった。
【特許文献1】特開平04−002900号公報
【特許文献2】特開平04−327300号公報
【特許文献3】特開平10−001895号公報
【特許文献4】特開平04−213377号公報
【特許文献5】特開平07−097797号公報
【特許文献6】特開平08−144198号公報
【特許文献7】特開平10−131094号公報
【特許文献8】特開平06−264038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のような状況に鑑み、本発明は、特に炭素繊維等強化繊維のプリプレグ用途に使用される剥離用工程紙基材において、耐熱性と耐溶剤性に優れ、且つ寸法安定性が良好で、更にバイオマス資源を有効利用した基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記の課題について鋭意研究を重ねた結果、微細繊維を含有する防浸層を剥離用工程紙基材上に設けることによって、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の剥離用工程紙基材は、基材の少なくとも片面に防浸層を設けた剥離用工程紙基材において、該防浸層に微細繊維を含有することを特徴とする。
【0012】
該基材上に設けられた微細繊維の固形分塗工量が片面あたり乾燥質量で2.0〜6.0g/m2であることが好ましい。
【0013】
該基材の透気度が王研式で7000秒以上であることが好ましい。
【0014】
本発明において、該微細繊維が植物の柔細胞から得られた繊維であることが好ましい。
【0015】
本発明において、植物の柔細胞から得られた微細繊維が、懸濁安定性が50%以上にフィブリル化されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、プリプレグ用途の剥離用工程紙基材において、特に加熱成型時の耐熱性及びシリコーン等剥離剤塗工時の耐溶剤性に優れ、且つ寸法安定性が良好で、更にバイオマス資源を有効利用した剥離用工程紙基材を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の剥離用工程紙基材について、詳細に説明する。
【0018】
本発明の剥離用工程紙基材は、特定の素材を基材上の防浸層に含有させることで、優れた耐熱性と耐溶剤性、及び寸法安定性を有する剥離用工程紙基材である。
本発明者等は、特にプリプレグ用途の剥離用工程紙基材に求められる耐熱性と耐溶剤性を改善する目的で鋭意研究を重ねた結果、防浸層として微細繊維を基材上に塗工することが最も有効な手段であることを見出した。本発明における微細繊維とは、太さ0.5μm以下のセルロース繊維を主体とするものである。この微細繊維は、繊維同士が強固に水素結合するために、バインダー効果を持ち、基材表面に塗工、乾燥されることにより、高密度でと膜強度に優れ、且つ平坦なフィルム層を形成することが解った。この塗工紙の特徴としては、寸法安定性が良好で、また天然の繊維であることから合成繊維や合成バインダーに比べて優れた耐熱性を持ち、更に、耐溶剤性にも優れ、特にトルエン等の溶剤の浸透を著しく抑制できる。
【0019】
本発明における微細繊維としては、例えばLBKP、NBKPなどの化学パルプ、GP、TMP、CTMP、CMP、CGPなどの機械パルプ、DIPなどの古紙パルプなどの木材パルプ、さらに、ケナフ、バカス、竹、コットンなどの非木材パルプも使用でき、原料のパルプを高度に精製し、パルパー等で離解した後、ディスクリファイナーで叩解処理し、さらに高圧ホモジナイザー処理による強力な機械的せん断力を加えて微細化して得ることができる。原料の繊維は、この処理によって数万本に引き裂かれ、繊維の太さは0.5μm以下のまで微細化されている。
【0020】
また、植物の柔細胞は細い繊維がゆるやかに結合しており、通常のパルプ系セルロース繊維に比べより微細化が容易である。よって、柔細胞から得られたセルロース繊維(以下、柔細胞微細繊維と表記する)は、太さ0.1μm以下の超微細セルロースを主体としており、より一層、高密度で強固、且つ平滑なフィルムを形成し易い。更に、柔細胞微細繊維のフィブリル化を進行させることで、繊維同士の水素結合が促進され、一段と強度な塗膜強度が得られ、耐溶剤性のみならず、耐油性、耐水性にも優れていることが判明した。尚、この柔細胞微細繊維は、果実の搾り粕やサトウダイコン、サトウキビ等からの搾汁粕を原料としているため、植物由来の産業廃棄物、つまりバイオマス資源の有効利用という点で大変有益である。
【0021】
更に、本発明における微細繊維としては、アセトバクター属等のある種のバクテリアによって作られるバクテリアセルロースも使用できる。バクテリアセルロースとは、バクテリアが菌体外に産生する太さ0.1μm以下の超微細なセルロース繊維を分離、精製したものである。例えば、酢酸菌の一種Acetobacter xylinumを、グルコースを糖源とした適当な培養液中で培養することにより、気液界面に微細なセルロース繊維からなるゲル状の膜が生成される。この膜を0.1Nの水酸化ナトリウム溶液と水で洗浄することにより培養液成分、菌体成分が除去され、微細繊維からなる膜が得られる。この膜を、水を含んだ状態で粉砕機や解繊機、ホモジナイザー等で処理することにより微細繊維が分散した懸濁液を得ることができる。バクテリアの培養方法によっては、膜状ではなく粒状の形状で培養液中に生成する場合もあるが、この時も膜の場合と同様の洗浄と解繊処理により微細繊維の分散懸濁液を得ることができる。
【0022】
本発明における諸特性をより効果的に得るためには、微細繊維として植物の柔細胞から得られた繊維を使用するのが好適である。植物の柔細胞から得られる繊維とは、植物の茎や葉、果実等に存在する柔細胞を主体とした部分を、アルカリで処理する等して得られるセルロースを主成分とし、水に不溶な非木材繊維である。柔細胞は、二次壁が発達していない特徴を有する。
【0023】
本発明において、植物の柔細胞を得るためには、茎の内部柔組織や葉の葉肉、果実等を粉砕するなどすれば良いが、工業的には食品加工工場や製糖工場等から排出される、果実からのジュースの搾り粕やサトウダイコン、サトウキビ等からの搾汁粕を用いるのが最適である。例えば、サトウダイコンの搾汁粕を利用する際には、粉砕した根を搾汁し、残さの粕をそのまま利用することができる。サトウキビの搾汁粕を利用する際には、搾り粕であるバガスを適当な大きさに粉砕し、目開き1〜2mmのふるいを通過させることにより柔細胞を多く含む部分を得ることができる。
【0024】
本発明において、柔細胞から繊維を得るためには木材からパルプを製造する際のパルプ化処理を適用するのが良い。例えば、苛性ソーダ等のアルカリと混合、加熱してリグニンを分解除去するクラフトパルプ化法やソーダパルプ化法を用いることができる。詳細なパルプ化処理条件は、原料の性状や目的とする繊維の性状、収率等を鑑みて適宜決定すれば良い。アルカリを洗浄後、必要に応じて漂白処理を行なう。漂白剤として過酸化水素、二酸化塩素、次亜塩素酸ソーダ、酸素、オゾン等を用いることができる。漂白後、洗浄して繊維の懸濁液を得ることができる。
【0025】
パルプ化処理により得られた繊維は、そのままでも使用可能だが、フィブリル化処理することにより、比表面積が大きくなり、且つ均一性が高くなるため好ましい。フィブリル化処理には、リファイナー、ビーター、ミル、摩砕装置、高速の回転刃によりせん断力を与える回転刃式ホモジナイザー、高速で回転する円筒形の内刃と固定された外刃との間でせん断力を生じる二重円筒式の高速ホモジナイザー、超音波による衝撃で微細化する超音波破砕器、繊維懸濁液に少なくとも3000psiの圧力差を与えて小径のオリフィスを通過させて高速度とし、これを衝突させて急減速することにより繊維にせん断力、切断力を加える高圧ホモジナイザー等を用いることができる。
【0026】
柔細胞微細繊維の好ましいフィブリル化の目安は、懸濁安定性が50%以上である。ここで、懸濁安定性が50%以上とは、本発明における0.1質量%濃度の繊維懸濁液をメスシリンダーなどに入れて24時間静置したときに、繊維の沈降面より下の懸濁液の体積が全体の体積の50%以上になることである。この懸濁安定性は分散性と解釈することもでき、繊維の分散性が高く、懸濁液がより均一である程、懸濁安定性が高いと言える。この懸濁安定性は繊維の大きさと関係しており、フィブリル化が進行しているもの程その懸濁液の安定性は高い。懸濁安定性が50%未満では、防浸層中での分布状態にむらができやすく、その結果、フィブリル相互の水素結合形成が弱く、十分な特性が得られない場合がある。
【0027】
懸濁安定性を50%以上にするには、リファイナー、ビーター、ミル、摩砕装置、回転刃式ホモジナイザー、高速ホモジナイザー、高圧ホモジナイザーなどを用いて処理条件を適正化することにより達成できる。
【0028】
本発明における防浸層のバインダーとして、前記微細繊維の他に使用できるものとしては、ポリビニルアルコール、酢酸ビニル、酸化澱粉、エーテル化澱粉、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体、カゼイン、ゼラチン、大豆蛋白、シリル変性ポリビニルアルコールなど;スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体などの共役ジエン系共重合体ラテックス;アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルの重合体または共重合体、アクリル酸およびメタクリル酸の重合体または共重合体などのアクリル系重合体ラテックス;エチレン−酢酸ビニル共重合体などのビニル系重合体ラテックス;或いはこれらの各種重合体のカルボキシル基などの官能基含有単量体による官能基変性重合体ラテックス;メラミン樹脂、尿素樹脂などの熱硬化合成樹脂系などの水性接着剤;ポリメチルメタクリレート、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、アルキッド樹脂などの合成樹脂系接着剤が挙げられる。これらは、微細繊維の効果を妨げない程度に、1種以上を微細繊維と組み合わせて使用しても良い。
【0029】
本発明に係る微細繊維は、基材上に片面あたり固形分質量として2.0〜6.0g/m2塗工されることが好ましい。2.0g/m2未満であると基材表面の被覆が不十分となり、剥離剤の浸透抑制効果が得られ難く、寸法安定性にも不利となる。また、6.0g/m2を越えると効果が飽和する他、乾燥負荷が大きくなるため塗工速度が低下し、生産性が低下する傾向にある。
【0030】
更に、微細繊維を塗布した基材の透気度は王研式で7000秒以上が好ましい。7000秒未満であると基材表面に、溶剤の浸透を助長する細孔が相当数存在することとなり溶剤抑制効果に対しては好ましくない。
【0031】
基材に防浸層を設ける方法としては、例えば、従来公知のエアナイフコーター、カーテンコーター、ダイコーター、ブレードコーター、ゲートロールコーター、バーコーター、ロッドコーター、ロールコーター、ビルブレードコーター、ショートドエルブレードコーター、キャストコーター、サイズプレスなどの各種装置をオンマシン或いはオフマシンで用いることができるが、生産性の点からはオンマシンコーターが好ましい。また、塗工後には、マシンカレンダー、TGカレンダー、スーパーカレンダー、ソフトカレンダーなどのカレンダー装置を用いて仕上げることも可能である。
【0032】
本発明で使用される基材としては、木材パルプ系または植物パルプ系繊維を主原料とした坪量50〜400g/mの原紙であり、具体的には、LBKP、NBKPなどの化学パルプ、GP、TMP、CTMP、CMP、CGPなどの機械パルプ、DIPなどの古紙パルプなどの木材パルプ、さらに、ケナフ、バカス、竹、コットンなどの非木材パルプも使用でき、必要に応じて従来公知の顔料を主成分としてバインダーおよびサイズ剤や定着剤、歩留まり向上剤、カチオン化剤、紙力増強剤などの各種添加剤を1種以上用いて混合し、長網抄紙機、円網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機などの各種装置で製造された基材、更に基材に、澱粉、ポリビニルアルコールなどでのサイズプレスやアンカーコート層を設けた基材や、それらの上にコート層を設けたアート紙、コート紙、キャストコート紙などの塗工紙も含まれる。この様な支持体および塗工紙に、そのまま本発明に係る防浸層を設けても良いし、平坦化をコントロールする目的で、マシンカレンダー、TGカレンダー、ソフトカレンダーなどのカレンダー装置を使用しても良い。
【0033】
本発明において、防浸層は、基材上に2層以上設けることが可能である。微細繊維を含有する層を2層以上設けても良いし、微細繊維を含有する層の下(より基材に近い位置)に他のバインダーで構成する防浸層を設けても良い。また、微細繊維と他のバインダーを併用した層の下に、他のバインダーで構成する防浸層を設けても良い。結果的に、微細繊維を含有する層を最上層に配置することが、本発明の効果を最も良く発現できる方法である。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。また、実施例において示す「部」および「%」は、特に明示しない限り質量部および質量%を示す。
【0035】
(実施例1)
<基材の作製>
濾水度450mlCSFのLBKP70部、濾水度450mlCSFのNBKP30部から成る木材パルプ100部に、軽質炭酸カルシウム/重質炭酸カルシウム/タルクの比率が30/35/35の顔料5部、アルキルケテンダイマー0.1部、市販カチオン系アクリルアミド0.03部、カチオン化澱粉1.0部、硫酸バンド0.5部を添加調成後、長網抄紙機を用いて坪量105g/m2で抄造し、市販酸化澱粉をインクラインドサイズプレスで乾燥付着質量5g/m2となるように乾燥して基材を得た。
【0036】
<フィブリル化セルロース微細繊維>
針葉樹パルプをパルパーで離解した後、ダブルディスクリファイナーで叩解処理し、さらに高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社製)を用いて、濃度1.0質量%の懸濁液1Lを50MPaの圧力で20分間循環処理してフィブリル化セルロース繊維を作製した。以下、これをフィブリル化セルロース微細繊維と表記する。これを0.1質量%に調整して100mL容量のメスシリンダーに入れて静置し、24時間後のフィブリル化セルロース微細繊維の沈降体積を測定した結果、懸濁安定性は60%であった。
【0037】
<防浸層の調整>
防浸層の塗工液は、前記フィブリル化セルロース微細繊維100部とし、この塗工液をエアナイフコーターで片面あたり固形分塗工量4g/m2となるように基材上に両面塗工、乾燥して実施例1の剥離用工程紙基材を得た。
【0038】
(実施例2)
実施例1において、フィブリル化セルロース微細繊維を以下のバイオセルロース微細繊維に変更した以外は実施例1と全て同様にして実施例2の剥離用工程紙基材を得た。
【0039】
<バクテリアセルロース微細繊維>
酢酸菌が産生した微細なセルロース繊維からなる市販のバクテリアセルロース繊維(ナタデココ:フジッコ社製)を水洗いした後、1質量%の懸濁液とし、回転刃式ホモジナイザー(オステライザー:オステライザー社製)を用いて、1Lの懸濁液を15700rpmで1分間処理した。以下、これをバクテリアセルロース繊維と表記する。これを0.1質量%に調整して100mL容量のメスシリンダーに入れて静置し、24時間後のバクテリアセルロース微細繊維の沈降体積を測定した結果、懸濁安定性は80%であった。
【0040】
(実施例3)
実施例1において、フィブリル化セルロース微細繊維を以下の柔細胞微細繊維Aに変更した以外は実施例1と全て同様にして実施例3の剥離用工程紙基材を得た。
【0041】
<柔細胞微細繊維Aの作製>
サトウダイコンの搾り粕からなる市販のビートパルプを10L容量のオートクレーブに投入した。液比4、有効アルカリ添加率11〜14%となるように苛性ソーダを混合し、保持温度120℃、保持時間30分の条件で処理した。ろ過による洗浄後、試料濃度8%とし、試料に対して有効塩素濃度2%となるように次亜塩素酸ソーダを加えて攪拌し、室温で8時間漂白した後、ろ過により洗浄した。さらに高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社製)を用いて50MPaの圧力で5分間循環処理し、サトウダイコン柔細胞由来の柔細胞繊維を得た。以下、これを柔細胞微細繊維Aと表記する。これを0.1質量%に調整して100mL容量のメスシリンダーに入れて静置し、24時間後の柔細胞微細繊維の沈降体積を測定した結果、懸濁安定性は15%であった。
【0042】
(実施例4)
実施例1においてフィブリル化セルロース微細繊維を以下の柔細胞微細繊維Bに変更した以外は実施例1と全て同様にして実施例4の剥離用工程紙基材を得た。
【0043】
<柔細胞微細繊維B>
サトウキビの搾り粕からなるバガスを粉砕し、目開き1mmのふるいにかけて、ふるいを通過した分を収集した。これを<柔細胞微細繊維A>の製法と同様にして漂白、洗浄、そしてホモジナイザー処理をし、サトウキビ柔細胞由来の柔細胞微細繊維を得た。以下、これを柔細胞微細繊維Bと表記する。これを0.1質量%に調整して100mL容量のメスシリンダーに入れて静置し、24時間後の柔細胞微細繊維の沈降体積を測定した結果、懸濁安定性は11%であった。
【0044】
(実施例5)
実施例3において柔細胞微細繊維Aを以下のフィブリル化柔細胞微細繊維Cに変更した以外は実施例3と全て同様にして実施例5の剥離用工程紙基材を得た。
【0045】
<フィブリル化柔細胞微細繊維C>
柔細胞微細繊維Aを1質量%の懸濁液とし、回転刃式ホモジナイザー(オステライザー:オステライザー社製)を用いて、1Lの懸濁液を10000rpmで1分間処理して、フィブリル化柔細胞微細繊維を作製した。以下、これをフィブリル化柔細胞微細繊維Cと表記する。これを0.1質量%に調整して100mL容量のメスシリンダーに入れて静置し、24時間後のフィブリル化柔細胞微細繊維の沈降体積を測定した結果、懸濁安定性は46%であった。
【0046】
(実施例6)
実施例3において柔細胞微細繊維Aを以下のフィブリル化柔細胞微細繊維Dに変更した以外は実施例3と全て同様にして実施例6の剥離用工程紙基材を得た。
【0047】
<フィブリル化柔細胞微細繊維D>
柔細胞微細繊維Aを1質量%の懸濁液とし、回転刃式ホモジナイザー(オステライザー:オステライザー社製)を用いて、1Lの懸濁液を15700rpmで1分間処理した。次いで、高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社製)を用いて、1Lの懸濁液を50MPaの圧力で45秒間循環処理してフィブリル化柔細胞微細繊維を作製した。以下、これをフィブリル化柔細胞微細繊維Dと表記する。これを0.1質量%に調整して100mL容量のメスシリンダーに入れて静置し、24時間後のフィブリル化柔細胞微細繊維の沈降体積を測定した結果、懸濁安定性は50.5%であった。
【0048】
(実施例7)
実施例3において柔細胞微細繊維Aを以下のフィブリル化柔細胞微細繊維Eに変更した以外は実施例3と全て同様にして実施例7の剥離用工程紙基材を得た。
【0049】
<フィブリル化柔細胞微細繊維E>
柔細胞微細繊維Aを1質量%の懸濁液とし、回転刃式ホモジナイザー(オステライザー:オステライザー社製)を用いて、1Lの懸濁液を15700rpmで1分間処理した。次いで、高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社製)を用いて、1Lの懸濁液を50MPaの圧力で5分間循環処理してフィブリル化柔細胞微細繊維を作製した。以下、これをフィブリル化柔細胞微細繊維Eと表記する。これを0.1質量%に調整して100mL容量のメスシリンダーに入れて静置し、24時間後のフィブリル化柔細胞微細繊維の沈降体積を測定した結果、懸濁安定性は100%であった。
【0050】
(実施例8)
実施例3において柔細胞微細繊維Aを以下のフィブリル化柔細胞微細繊維Fに変更した以外は実施例3と全て同様にして実施例8の剥離用工程紙基材を得た。
【0051】
<フィブリル化柔細胞微細繊維F>
柔細胞微細繊維Aを1質量%の懸濁液とし、回転刃式ホモジナイザー(オステライザー:オステライザー社製)を用いて、1Lの懸濁液を15700rpmで1分間処理した。次いで、シングルディスクリファイナーを用いて処理し、フィブリル化柔細胞微細繊維を作製した。以下、これをフィブリル化柔細胞微細繊維Fと表記する。これを0.1質量%に調整して100mL容量のメスシリンダーに入れて静置し、24時間後のフィブリル化柔細胞微細繊維の沈降体積を測定した結果、懸濁安定性は90%であった。
【0052】
(実施例9)
実施例4において柔細胞微細繊維Bを以下のフィブリル化柔細胞微細繊維Gに変更した以外は実施例4と全て同様にして実施例9の剥離用工程紙基材を得た。
【0053】
<フィブリル化柔細胞微細繊維G>
柔細胞微細繊維Bを1質量%の懸濁液とし、回転刃式ホモジナイザー(オステライザー:オステライザー社製)を用いて、1Lの懸濁液を15700rpmで1分間処理した。次いで、高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社製)を用いて、1Lの懸濁液を50MPaの圧力で10分間循環処理してフィブリル化柔細胞微細繊維を作製した。以下、これをフィブリル化柔細胞微細繊維Gと表記する。これを0.1質量%に調整して100mL容量のメスシリンダーに入れて静置し、24時間後のフィブリル化柔細胞微細繊維の沈降体積を測定した結果、懸濁安定性は100%であった。
【0054】
(実施例10)
実施例7において柔細胞微細繊維の固形分塗工量を片面あたり2g/m2に変更した以外は実施例7と全て同様にして実施例10の剥離用工程紙基材を得た。
【0055】
(実施例11)
実施例7において柔細胞微細繊維の固形分塗工量を片面あたり6g/m2に変更した以外は実施例7と全て同様にして実施例11の剥離用工程紙基材を得た。
【0056】
(実施例12)
実施例7において柔細胞微細繊維の固形分塗工量を片面あたり1g/m2に変更した以外は実施例7と全て同様にして実施例12の剥離用工程紙基材を得た。
【0057】
(実施例13)
実施例7において柔細胞微細繊維の固形分塗工量を片面あたり8g/m2に変更した以外は実施例7と全て同様にして実施例13の剥離用工程紙基材を得た。
【0058】
(比較例1)
実施例1において防浸層の主成分をフィブリル化セルロース微細繊維からポリビニルアルコール(ケン化度97%、重合度1700)に変更した以外は実施例1と全て同様にして比較例1の剥離用工程紙基材を得た。
【0059】
(比較例2)
実施例1において防浸層の主成分をフィブリル化セルロース微細繊維から下記に示したカオリン及びスチレン・ブタジエン共重合体を主成分とする塗工液Hに変更した以外は実施例1と全て同様にして比較例2の剥離用工程紙基材を得た。
【0060】
<塗工液H>
顔料としてカオリン(商品名:アマゾンプラス、Cadam社製)100部、バインダーとしてスチレン・ブタジエン共重合体(商品名:SNX4205R:日本エイアンドエル製)13部及び分散剤、潤滑剤、消泡剤を適宜配合した。
【0061】
実施例1〜13及び比較例1〜2の剥離用工程紙基材の評価結果を表1に示す。尚、表1中の評価項目は以下の方法で評価した。
【0062】
<耐溶剤性の評価>
上記各剥離用工程紙基材に溶剤系染料のオイルレッド0.3%含有トルエンを25cm×20cmの範囲に塗布し、5秒後にガーゼにて完全に拭き取った。直後、斑点状のピンホールを観察してトルエンの浸透度を以下の基準で評価した。
A:ピンホール状の浸透が全くみられない。
B:ピンホール状の浸透が数個発生。
C:ピンホール状の浸透が数十個発生。
D:ピンホール状の浸透が無数に発生。
ただし、本発明においてはB以上を発明の対象とした。
【0063】
<透気度の評価>
Japan Tappi 紙パルプ試験方法 No.5(王研式)に準じて測定し、以下の基準で判定した。
A:透気度5万秒以上。
B:透気度1万秒以上5万秒未満。
C:透気度1千秒以上1万秒未満。
D:透気度1千秒未満。
ただし、本発明においてはB以上を発明の対象とした。
【0064】
<寸法安定性の評価>
上記各剥離用工程紙基材から10cm×10cmの試験片を作製した。該試験片を40℃、85%RHに調湿された部屋に7日間放置した後、寸法変化率を測定し、以下の基準で判定した。
A:寸法変化率1%未満。
B:寸法変化率1%以上、3%未満。
C:寸法変化率3%以上、5%未満。
D:寸法変化率5%以上。
ただし、本発明においてはB以上を発明の対象とした。
【0065】
<塗工適性の評価>
各防浸層液を塗工した際の状況について、塗工適性(a.塗工ムラ、ストリーク、剥離パターン等の塗工欠点、b.ドライヤー汚れ、乾燥負荷等の作業性、c.塗工量制御の容易さ)を総合的に評価し、以下の基準で判定した。
A:塗工欠陥が無く、塗工量制御と作業性に特に優れるもの。
B:塗工欠陥が無く、塗工量制御と作業性が良好なもの。
C:塗工欠陥、塗工量制御、作業性等に問題がみられるもの。
D:塗工欠陥、塗工量制御、作業性等に重大な問題がみられるもの。
ただし、本発明においてはB以上を発明の対象とした。
【0066】
【表1】

【0067】
表1から、防浸層に微細繊維を含有する実施例1〜13の剥離用工程紙基材は、良好な耐溶剤性、寸法安定性、塗工適性を示すことがわかる。特に、実施例5〜9は柔細胞微細繊維をフィブリル化し、懸濁液の安定性が増すことで、防浸層内での分布も均一で緻密となり、結果、耐溶剤性や寸法安定性に優れている。また、実施例10〜13では防浸層の塗工量を変化させているが、2.0g/m2未満(実施例12)では、耐溶剤性及び寸法安定性が若干不足する傾向にあり、6.0g/m2超(実施例13)では、耐溶剤性及び寸法安定性はかなり優れるが塗工適性の低下やコストアップの傾向がみられる。一方、比較例1、2のように、ポリビニルアルコールのクリア塗工や顔料と合成ラテックスバインダーの塗工では耐溶剤性が低下したり、寸法安定性や塗工適性が悪化している。
【0068】
以上説明した様に、基材の少なくとも片面に防浸層を設けた剥離用工程紙基材において、該防浸層が微細繊維を含有すると、特に加熱成型時の耐熱性及びシリンコーン等剥離剤塗布時の耐溶剤性に優れ、且つ寸法安定性が良好で、更にバイオマス資源を有効利用した剥離用工程紙基材を提供することが可能となる。また、該微細繊維の塗工量が特定の範囲であり、且つ該柔細胞微細繊維をフィブリル化することにより、より効果的に、本発明の特性を向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明により得られたプリプレグ用途の剥離用工程紙基材は、加熱成型時の耐熱性及びシリンコーン等剥離剤塗布時の耐溶剤性に優れ、且つ寸法・形状安定性が良好で、更にバイオマス資源を有効利用しているという特徴を有しており、従来品に比べ商品価値を一層高めることになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも片面に防浸層を設けた剥離用工程紙基材において、該防浸層が微細繊維を含有することを特徴とする剥離用工程紙基材。
【請求項2】
基材上に設けられた防浸層中における微細繊維の固形分塗工量が片面あたり2.0〜6.0g/m2である請求項1記載の剥離用工程紙基材。
【請求項3】
防浸層を有する基材の透気度が王研式で7000秒以上である請求項1または2記載の剥離用工程紙基材。
【請求項4】
該微細繊維が植物の柔細胞から得られた繊維である請求項1〜3記載の剥離用工程紙基材。
【請求項5】
該微細繊維の懸濁安定性が50%以上にフィブリル化されている請求項1〜4記載の剥離用工程紙基材。

【公開番号】特開2008−88589(P2008−88589A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−269830(P2006−269830)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】