説明

割出装置

【課題】 大型ワークであっても高い割出精度が得られることを可能にする。
【解決手段】 流体軸受からなるラジアル軸受14、上部スラスト軸受15及び下部スラスト軸受17により割出テーブル11をベース10に回転自在に支持する。上部スラスト軸受15の軸受隙間の大きさをセンサ25により検出し、上部スラスト軸受15へ供給する圧力流体の圧力を圧力・流量調整手段18により調整して少なくとも割出テーブル11の回転時には上記軸受隙間の大きさを所定値以上に保つことにより割出テーブル11の起動トルク及び回転トルクを小さく抑えて割出精度を高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金型等の超精密加工用の工作機械等に用いられる割出装置に係り、特に大型ワークへの対応と割出精度の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、割出装置は、特許文献1に示されているように、ボールベアリングなどのころがり軸受により割出テーブルを回転自在に支持し、この割出テーブルをウォーム・ウォームホイール機構などにより所定角度回転させる方式のものが多く採用されている。
【特許文献1】特開平6−344244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のように割出テーブルをころがり軸受で支持し、ウォーム・ウォームホイール機構で所定角度の回転を与える方式は、特に大型のワークを支持する場合、構造上、軸剛性が低くなり、割出精度を高めることができない欠点がある。
【0004】
これは、割出のための角度エンコーダ等のスケールを割出テーブルの中心に置く構造が一般的に採用されており、割出角度は、ワークが大きくなる程、外周部での位置のずれが大きくなるためである。
【0005】
これに対し、割出テーブルを空気軸受などの流体軸受により支持すれば、割出テーブルの起動トルクを小さく抑えることができ、結果的に軸剛性を高めたこととなり、割出精度を高めることはできる。しかしながら、特に起動トルクをより小さく抑えることができる空気軸受の場合、軸剛性の低下はないが、軸受剛性が低くなり、大型ワークのような重量物を支えることができないと同時に、軸受への偏荷重に弱いなどの課題があり、流体軸受は軽量用の割出装置に用いられるのが一般的であった。
【0006】
この発明は、大型ワークであっても高い割出精度を得ることのできる割出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためのこの発明による割出装置は、ベースと、このベースに流体軸受を介して回転自在に取り付けられた割出テーブルと、ベースと割出テーブルとの間に設けられ、流体軸受の軸受隙間の大きさを測定するためのセンサと、流体軸受に供給する圧力流体の圧力・流量を調整して軸受隙間の大きさを変化させるための圧力・流量調整手段と、前記センサの出力を取り込み、少なくとも前記割出テーブルの回転時には軸受隙間の大きさを所定値以上に保つように圧力・流量調整手段を作動させる制御部と、を備えてなることを特徴としている。
【0008】
なお、割出テーブルは水平に配置され、センサは前記割出テーブルの荷重が作用する上部スラスト軸受の軸受隙間の大きさを測定するように構成されているものであってよく、この場合、前記制御部は、前記割出テーブルの回転時には前記上部スラスト軸受の軸受隙間の大きさを所定値以上に保つと共に、前記割出テーブルの停止時には前記上部スラスト軸受の軸受隙間をなくすように前記圧力・流量調整手段を作動させるように構成されていることが望ましい。
また、前記制御部は、前記軸受隙間センサのほか、さらに、少なくも圧力流体の圧力または流量を検出するためのセンサを含む他の種類のセンサと共に使用して、割出テーブル軸受隙間を手動または自動で所定の値に保つように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の割出装置。
さらに、前記流体軸受は、空気軸受であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
この発明は、上記のように割出テーブルを流体軸受により回転自在に支持すると共に、センサにより軸受隙間の大きさを測定し、少なくとも前記割出テーブルの回転時には軸受隙間の大きさを所定値以上に保つように前記流体軸受に供給する圧力流体の圧力を調整するようにしたため、大型ワークのような重量物であっても所定の大きさの軸受隙間を設けて回転自在に支えることができ、特に起動トルクがより小さい空気軸受の場合にも、大型ワークのような重量物を的確に支えて小さいトルクで回転させることができ、これにより割出精度を高めることができる効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下図1によりこの発明の一実施形態例について説明する。図1において、10はベース、11は割出テーブルである。割出テーブル11は水平に配置され、その中心下部に後述するダイレクトドライブ(DD)モータ12を構成するロータ12Aが設けられると共に、このロータ12Aを囲むように円環状ボス13が一体的に設けられている。
【0011】
円環状ボス13の外周面は、ベース10に設けられた例えば静圧型などの流体軸受からなるラジアル軸受14に回転自在に係合している。また、割出テーブル11の下面は、同じくベース10に設けられた例えば静圧型などの流体軸受からなる上部スラスト軸受15により回転自在に支持されている。さらに、円環状ボス13の下端には、リング状の受け板16が取り付けられ、この受け板16の上面は、同じくベース10に設けられた例えば静圧型などの流体軸受からなる下部スラスト軸受17に回転自在に近接対向されている。
【0012】
上記ラジアル軸受14、上部スラスト軸受15及び下部スラスト軸受17は、それぞれ円周上で複数に分割され、上記3つの軸受14、15、17のうち割出テーブルの荷重が直接作用する上部スラスト軸受15の分割された各軸受には、各軸受にそれぞれ対応させて圧力・流量調整手段18が設けられ、これらの圧力・流量調整手段18を介して加圧空気や圧油などの圧力流体が各軸受に供給される。なお、ラジアル軸受14及び下部スラスト軸受17も、上部スラスト軸受15と同様に複数に分割され、図示省略した圧力・流量調整手段を介して所定の圧力の圧力流体がそれぞれ供給される。
【0013】
上記DDモータ12は、割出テーブル11の中心下部に一体的に形成された突出部11Aに設けられたロータ12Aと、ベース10に取り付けられたステータ12Bとからなり、モータ駆動部19により作動されて割出テーブル11を回転させる。
【0014】
DDモータ12の下端、すなわち割出テーブル11の突出部11Aの下端とベース10との間には角度エンコーダ20が取り付けられ、割出テーブル11の回転角度位置を検出し、その出力は制御部21へ送られる。制御部21は、外部から与えられた指令と角度エンコーダ20の出力によりモータ駆動部19を作動させて割出テーブル11を所定角度回転させると共に、所定角度位置に停止・保持する。
【0015】
割出テーブル11には、ワークWを真空吸着するための流路22が設けられ、この流路22は、割出テーブル11の突出部11Aの下端中央に設けられた回転継手23を介して真空装置24に接続されている。この真空装置24は、制御部21からの指令により作動され、流路22を負圧と大気圧とに選択的に切り換える。
【0016】
ベース10には、割出テーブル11の下面に対向させて好ましくは非接触式のセンサ25が割出テーブル11の円周方向に例えば90°の間隔等で複数個配置され、割出テーブル11の下面の上下方向位置の変化又はセンサ25からの距離を検出し、その出力を制御部21に送るようになっている。
【0017】
制御部21は、各センサ25の出力から上部スラスト軸受15の分割された各軸受の軸受隙間の大きさを求め、各軸受毎に設けられている圧力・流量調整手段18をそれぞれ作動させて、各軸受の軸受隙間の大きさを所定値以上に保つことのできる圧力で加圧空気や圧油などの圧力流体を上部スラスト軸受15の各軸受へ供給するように構成されている。また、この制御部21は、割出テーブル11の停止中には上記圧力流体の圧力を下げるように圧力調整手段18をそれぞれ作動させて、各軸受の軸受隙間をなくすように構成され、さらに、割出テーブル11の回転指令が出されたときには、上記軸受隙間の大きさを所定値以上にすべく圧力調整手段18をそれぞれ作動させると共に、該軸受隙間の大きさが所定値以上になったところで割出テーブル11を回転させるように構成されている。
【0018】
次いでこの装置の作用について説明する。上記のように割出テーブル11の停止中は、圧力・流量調整手段18により上部スラスト軸受15へ供給する圧力流体の圧力を下げて上部スラスト軸受15の軸受隙間をなくし、割出テーブル11を上部スラスト軸受15により直接的に支持する。これにより割出テーブル11は、軸受隙間の変化に伴う傾きなどを発生することなく、確実に所定の姿勢で停止状態を保つ。
【0019】
なお、ラジアル軸受14及び下部スラスト軸受17は、上記割出テーブル11の停止中にも、所定圧力の圧力流体を供給され、ラジアル軸受14により割出テーブル11の中心位置を保持すると共に、下部スラスト軸受17により割出テーブル11を下方へ押し下げ、上部スラスト軸受15の軸受隙間をより完全になくして割出テーブル11を固定的に保持する。
【0020】
上記停止状態において、割出テーブル11の回転指令が出されると、制御部21は、まず、センサ25の出力が所定値以上、すなわち上部スラスト軸受15の分割された各軸受の軸受隙間の大きさがそれぞれ所定値以上となるように圧力・流量調整手段18を作動させて上部スラスト軸受15の各軸受に供給する圧力流体の圧力を高める。
【0021】
センサ25の出力が所定値以上に達すると、制御部21は、モータ駆動部19に起動指令を出してDDモータ12を作動させ、割出テーブル11を回転させる。割出テーブル11の回転角度位置は角度エンコーダ20により検出され、これが所定の値に達すると、
制御部21は、停止指令を出して割出テーブル11の回転を停止させる。
【0022】
この割出テーブル11の割出動作は、ラジアル軸受14及び下部スラスト軸受17はもちろん荷重が直接作用する上部スラスト軸受15の軸受隙間の大きさを所定値以上に保って行われるため、割出テーブル11の起動トルク及び回転トルクが小さく抑えられる。このため割出テーブル11は、スティックスリップやオーバランなどを抑えられ、正確な割出位置に停止される。
【0023】
割出テーブル11が完全に停止すると、制御部21は、上部スラスト軸受15の軸受隙間をなくすように圧力・流量手段18を作動させ、割出テーブル11を上記のように確実に保持する。
【0024】
前述した実施形態例では、割出テーブル11を水平に配置した例を示したが、この発明はこれに限定されるものではなく、割出テーブル11の軸心を水平に配置する方式の割出装置であっても同様の作用効果が得られる。また、流体軸受としては、公知の種々のものを用いることができ、特に静圧型の空気等の気体を用いる流体軸受が工場に用意されているエアー配管を利用でき、また空気であり取り扱いが比較的に容易であることなどから好ましい。さらにまた、前述した実施形態例では、軸受隙間の大きさを測定するためのセンサとして、割出テーブル11の下面に対向させた非接触式のセンサ25を用いた例を示したが、この発明は、これに限定されるものではなく、軸受内に組込み可能な静電容量型のセンサなど種々のセンサを用いることができる等、種々変形実施可能である。
【0025】
さらに、前述の実施形態例では、軸受隙間の大きさを測定するためのセンサ25を使用した例を示したが、本発明はこの例に限定されず、別な実施形態の例としては、テーブルの位置を監視するなどの位置のセンサ、圧力センサ、流量センサ等の他の性質のセンサと併用して使用する形態としても良い。特に、圧力流体の調節手段である圧力流体調節手段に標準的に備えられている圧力センサや、流体の流路に設けられた流量センサなどの値を制御装置21に入力して、それらを一緒に用いると都合が良い。この場合、制御部21は、これらの軸受隙間センサの以外の他のセンサからの得られる圧力、流量等の情報も利用できる。このような複数のセンサを使用した場合は、軸受隙間を監視しつつ、流体の圧力や流量についても検知しながら、制御可能になる。つまりあらかじめ設定した流体の圧力や流量の値を、軸受部や流体の流路等に設けられたこれらの他のセンサの値を監視しつつ流量制御手段18を用いて、手動あるいは自動により制御し、ワーク重量と軸受隙間との関係を、所定の加工条件で、あるいは状況に応じて、最適な状況に保つよう監視しつつ制御できる。さらに他のセンサとして位置のセンサを使用して、例えば、テーブルの上面の位置等を測定するなどしして、軸受隙間を計算から推定し、圧力・流量調節手段を手動あるいは自動で制御し、軸受隙間を最適な所望の位置に制御すような構成の実施形態をとることも可能である。しかしこのような場合には、構成がより複雑になる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
この発明は、金型等の超精密加工用であって、かつ大型ワークを加工する工作機械に用いられる割出装置において大きな効果を発揮するが、これに限らず、小型ワーク用や工作機械以外の種々の機械用の割出装置に広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明を適用した割出装置の概要構成図。
【符号の説明】
【0028】
10 ベース
11 割出テーブル
11A 突出部
12 ダイレクトドライブ(DD)モータ
12A ロータ
12B ステータ
13 円環状ボス
14 ラジアル軸受
15 上部スラスト軸受
16 受け板
17 下部スラスト軸受
18 圧力・流量調整手段
19 モータ駆動部
20 角度エンコーダ
21 制御部
22 流路
23 回転継手
24 真空装置
25 センサ
W ワーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースと、
このベースに流体軸受を介して回転自在に取り付けられた割出テーブルと、
前記ベースと割出テーブルとの間に設けられ、前記流体軸受の軸受隙間の大きさを測定するための軸受隙間センサと、
前記流体軸受に供給する圧力流体の圧力・流量を調整して前記軸受隙間の大きさを変化させるための圧力・流量調整手段と、
前記軸受隙間センサの出力を取り込み、少なくとも前記割出テーブルの回転時には軸受隙間の大きさを所望の状態に保つように前記圧力・流量調整手段を作動させる制御部と、
を備えてなる割出装置。
【請求項2】
前記割出テーブルは、水平に配置され、また前記軸受隙間センサは、前記割出テーブルの荷重が作用する上部スラスト軸受の軸受隙間の大きさを測定するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の割出装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記割出テーブルの回転時には前記上部スラスト軸受の軸受隙間の大きさを所定値以上に保つと共に、前記割出テーブルの停止時には前記上部スラスト軸受の軸受隙間をなくすように前記圧力・流量調整手段を作動させるように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の割出装置。
【請求項4】
前記制御部は、さらに、前記軸受隙間センサのほか、少なくも前記圧力流体の圧力または流量を検出するためのセンサを含む他の種類のセンサを共に使用して、前記割出テーブル軸受隙間を手動または自動で所望の状態に保つように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の割出装置。
【請求項5】
前記流体軸受は、空気軸受であることを特徴とする請求項1ないし4項に記載の割出装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−155337(P2008−155337A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348715(P2006−348715)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000003458)東芝機械株式会社 (843)
【Fターム(参考)】