説明

力制御装置

【課題】力制限を超過した際にロボットを停止処理する場合においても、作用力が許容値以下となる制約を満たす範囲で、動作時間の短縮化、立上げ調整時間の短縮化を図る。
【解決手段】対象物に対するロボットの目標位置指令を生成する指令生成手段(10)と、目標位置指令に応じて追従制御を行うロボット制御手段(20)と、対象物からロボットへ働く作用力が所定の力制限値を超過した場合に停止指令を生成する力制限超過判別手段(30)と、ロボットを減速停止させる場合を考慮して、対象物の特性および所定の力制限値に基づいて、減速停止中において作用力が所定の許容値以下になる制約を満たす範囲で動作速度を最大にする最適速度を算出する速度最適化手段(40)とを備え、指令生成手段(10)は、最適速度に応じた目標位置指令を生成し、停止指令を受信した場合には、ロボットを減速停止させる指令を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組立、ばりとり、研磨、基板実装、検査などを行うロボット、自動組立装置、実装機、加工機、検査装置などに適用される力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な力制御装置において、部品を収納したマガジンから部品を取り出し、所定位置まで移動して部品組み付け作業を行うロボットの先端部には、力センサが設けられている。ロボットコントローラは、力センサで検出した力のフィードバックによるコンプライアンス制御を行い、検出した力とあらかじめ設定された力の閾値とを比較して、その比較結果により、次のロボット動作の決定、作業成否の判定を行う。
【0003】
例えば、丸棒状の部品をハンドで把持し、下降し、挿入するといった一連の動作を行う場合、挿入中(下降中)に検出した力が閾値を超えた場合には、ロボットコントローラは、挿入作業が失敗したと判断し、下降動作を停止する。この結果、過大な力の発生を防止することができる。そして、ハンド停止後は、再び作業を行うか、あるいは、異常警報を発生することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−24665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
挿入作業の失敗を検知して停止する場合、検知した地点から実際に停止するまでの間に、ロボットは下降する。このため、ロボットおよび対象物には、この下降の間に、検出に用いた閾値以上の力が作用することも考えられる。挿入失敗を検知して停止した際に作用する力(以下の説明においては、このような「作用する力」のことを単に作用力と表現する場合もある)が、ロボットおよび対象物の許容値以下となるようにするには、停止時の作用力が許容値以下となることを保証できる速度以下で下降させる必要がある。
【0006】
しかしながら、従来の力制御装置は、停止時の作用力が許容値以下となる速度を算出する機能を備えていなかった。このため、必要以上に下降速度を下げる、あるいは、停止時の作用力が許容値以下となる速度を試行錯誤であらかじめ求めておくといった対策が必要であった。しかしながら、前者の場合は、速度が遅いため、動作時間が長くなるといった問題があった。また、後者の場合には、事前調整に時間を要するといった問題があった。
【0007】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、挿入失敗等により力制限を超過した際にロボットを動作途中で減速停止する場合でも、作用力が許容値以下となる制約を満たす範囲で動作時間の短縮を図ること、および作用力が許容値以下となる制約を満たす範囲で動作時間の短縮を実現するための調整時間の短縮を図ることのできる力制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る力制御装置は、対象物に対するロボットの目標位置指令を生成する指令生成手段と、目標位置指令に応じてロボットの追従制御を行うロボット制御手段と、追従動作に伴って対象物からロボットへ働く作用力が、対象物もしくはロボットにより決まる作用力の上限値に相当する所定の許容値よりも小さい値として規定される所定の力制限値を超過した場合に、指令生成手段で生成される目標位置指令によりロボットを減速停止させるための停止指令を生成する力制限超過判別手段と、力制限超過判別手段により停止指令が生成されることでロボットを減速停止させる場合を考慮して、対象物の特性および所定の力制限値に基づいて、減速停止中において作用力が所定の許容値以下になる制約を満たす範囲で、動作速度を最大にする最適速度を算出する速度最適化手段とを備え、指令生成手段は、速度最適化手段で算出された最適速度に応じた目標位置指令を生成するとともに、力制限超過判別手段で生成された停止指令を受信した場合には、ロボットを減速停止させる指令を生成するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る力制御装置によれば、対象物からロボットへ働く作用力が所定の力制限を超過したことでロボットを減速停止させる必要が生じた際に、減速停止中の作用力が許容値以下となる制約を満たす範囲での最高速度を算出し、算出した最高速度に基づいて位置指令を生成してロボットを動作させることで、作用力が許容値以下となる制約を満たす範囲でロボット動作時間を短縮でき、ロボット動作時間短縮のための事前の立上げ調整時間の短縮化を図ることのできる力制御装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1における力制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるロボット制御手段の内部構成図である。
【図3】本発明の実施の形態1における各軸位置制御手段の構成図の一例である。
【図4】本発明の実施の形態1における力覚考慮補正手段の内部構成図である。
【図5】本発明の実施の形態2における力制御装置の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施の形態3における力制御装置の構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の実施の形態4における力制御装置の構成を示すブロック図である。
【図8】本発明の実施の形態5における力制御装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の力制御装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0012】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における力制御装置の構成を示すブロック図である。本実施の形態1における力制御装置は、指令生成手段10、ロボット制御手段20、力制限超過判別手段30、および速度最適化手段40を備えており、制御対象であるロボット1の追従制御を行っている。このロボット1は、1軸もしくは複数軸のモータを備えるものであり、その一例として、産業用ロボットと呼ばれる6軸垂直多関節ロボット、あるいは4軸水平多関節ロボットが挙げられる。
【0013】
指令生成手段10は、ロボット1に時々刻々の目標位置を与える。ロボット制御手段20は、指令生成手段10から与えられた位置指令に応じて、ロボット1を追従制御する。
【0014】
ロボット1の先端部近辺もしくはロボット1が作業する対象には、作用する力とモーメントを計測するための力覚センサ2が取り付けられている。そして、力覚センサ2で測定された力およびモーメントは、力検出値としてロボット制御手段20に入力されるとともに、力制限超過判別手段30にも入力される。
【0015】
力検出値は、6軸の力覚センサ2を用いている場合には、3軸方向の力と各軸周りのモーメントで構成され、5軸以下の力覚センサ2を用いている場合には、3軸方向の力と各軸周りのモーメントのうち、計測できるデータのみで構成される。
【0016】
また、ロボット1を駆動する各軸のモータには、エンコーダやレゾルバなどの各軸のモータ位置を測定する位置センサ3がそれぞれ取り付けられており、こうした位置センサ3で測定した各軸のモータ位置は、ロボット制御手段20に入力される。
【0017】
力制限超過判別手段30は、軸ごとにあらかじめ記憶された所定の力閾値と力覚センサ2から送信される力検出値とを比較し、少なくとも1つの軸方向の力もしくはモーメントが力閾値を超えた場合には、指令生成手段10に停止指令を送信する。なお、本実施の形態1では、力制限超過の判別を、検出した力とモーメントの各成分に対してそれぞれ所定の力閾値と比較することで実施しているが、合成した力やモーメントに対して実施してもよい。
【0018】
速度最適化手段40は、力制限超過判別手段30から入力される力制限値(力閾値)、ロボット制御手段20から入力されるコンプライアンス制御パラメータ、および速度最適化手段40の内部にあらかじめ設定されている力許容値、対象物の剛性に関するパラメータ(対象物のばね定数)に基づいて、最適速度を求め、指令生成手段10に出力する。
【0019】
ここで、力許容値は、力制限値よりも大きい値であり、対象物の制約もしくはロボットの制約の低い方により決まる絶対超えてはいけない作用力の上限値であり、この値を超過することがないようにロボットを制御する値に相当する。一方、力制限値は、力許容値以下となる制約を満たすために設ける制限値で、力制限値を超えたらロボットを減速停止させることで、作用力が力許容値を超えることを防止しようとするものである。
【0020】
また、速度最適化手段40が出力する「最適速度」とは、力制限超過判別手段30で力制限超過を判別し停止する場合に、対象物およびロボット1に作用する力およびモーメントが、速度最適化手段40の内部に設定されている力許容値以下となる上限速度を意味している。
【0021】
指令生成手段10は、速度最適化手段40から入力された最適速度を最高速度とし、指令生成手段10の内部に記憶されている加減速パラメータに基づいて、指令生成周期ごとに位置指令を生成し、ロボット制御手段20に出力する。また、指令生成手段10は、力制限超過判別手段30から停止指令を受け取ると、現在の位置・速度から減速停止する指令を生成して、ロボット制御手段20に送信する。
【0022】
次に、ロボット制御手段20の機能について、詳細に説明する。図2は、本発明の実施の形態1におけるロボット制御手段20の内部構成図である。図2におけるロボット制御手段20は、力覚考慮補正手段21、逆変換手段22、および各軸位置制御手段23で構成されている。
【0023】
力覚考慮補正手段21は、指令生成手段10で生成された位置指令に基づいて、位置指令修正量を生成する。この位置指令修正量の生成の詳細に関しては、後述する。そして、位置指令は、力覚考慮補正手段21の出力である位置指令修正量を加算することで補正される。
【0024】
次に、逆変換手段22は、位置指令と位置指令修正量との加算値に対して、手先位置姿勢を実現する各軸のモータ位置を算出する逆変換計算を行い、ロボットの各軸の位置指令である関節位置指令に変換する。
【0025】
変換した関節位置指令は、各軸位置制御手段23に入力される。各軸位置制御手段23は、入力された関節位置指令に各軸のモータ位置が追従するように制御を行う。図3は、本発明の実施の形態1における各軸位置制御手段23の構成図の一例である。
【0026】
図3に示す各軸位置制御手段23の内部は、それぞれの軸(1軸〜n軸)が、比例演算部23a、微分演算部23b、および比例積分演算部23cで構成されている。符号の後ろの()内の数字は、軸の番号に対応している。
【0027】
比例演算部23aは、各軸の位置指令と当該軸のモータ位置との差に対して比例演算を行う。一方、微分演算部23bは、モータ位置を微分することでモータ速度を算出する。そして、比例積分演算部23cは、比例演算部23aの出力から微分演算部23bの出力を減算した値に対して比例積分演算を行う。
【0028】
上記制御系は、位置比例制御系の内部に速度比例積分制御系がある構成になっており、モータの位置制御系としてはよく使われる構成である。なお、図3に示した一例では、各軸位置制御手段23の構成として、各軸ごとにモータ位置制御と速度制御を行うフィードバック制御系の構成とした。しかしながら、本発明の制御系は、このような構成に限定されるものではない。各軸ごとにオブザーバを含む制御系であってもよいし、フィードフォワードを含む制御系であっても構わない。また、全て各軸独立した構成ではなく、軸間の干渉トルクをフィードフォワードもしくはフィードバックで補正する構成であっても構わない。
【0029】
次に、力覚考慮補正手段21の内部構成について、詳細に説明する。図4は、本発明の実施の形態1における力覚考慮補正手段21の内部構成図である。図4に示すように、本実施の形態1における力覚考慮補正手段21は、ツール座標系座標変換部211、スティフネス行列部212、微分演算部213、ダンピング行列部214、比例ゲイン演算部215、直交座標系座標変換部216、積分演算部217、ツール座標系座標変換部218、および順変換部219を備えている。
【0030】
まず、順変換部219は、各軸モータ位置からそのときの手先位置姿勢を算出する順変換を行い、手先位置姿勢を算出する。ツール座標系座標変換部211は、指令生成手段10で生成された位置指令(手先位置姿勢の指令)と、順変換部219で算出された手先位置姿勢との差を入力として、ツール座標系への座標変換を行う。ここで、「ツール座標系」とは、ロボット先端に取り付けたツールやハンドに固定された座標系を意味する。
【0031】
次に、スティフネス行列部212は、ツール座標系座標変換部211の出力から構成されるベクトルを入力し、スティフネス行列とのベクトル積を求め、その積を出力する。
【0032】
一方、微分演算部213は、ツール座標系座標変換部211の出力の各要素の微分を算出する。そして、ダンピング行列部214は、微分演算部213で算出された微分結果から構成されるベクトルと、ダンピング行列とのベクトル積を求め、その積を出力する。さらに、スティフネス行列部212の出力と、ダンピング行列部214の出力とが加算される。
【0033】
次に、ツール座標系座標変換部218は、力覚センサ2で検出された力検出値をツール座標系に変換する。そして、ツール座標系座標変換部218により変換された力検出値は、先ほどのスティフネス行列部212の出力とダンピング行列部214の出力との加算結果から減算され、比例ゲイン演算部215に入力される。
【0034】
比例ゲイン演算部215は、入力した減算結果の各要素に対して比例ゲインを乗じる。さらに、直交座標系座標変換部216は、比例ゲインの乗算結果を直交座標系に座標変換する。さらに、積分演算部217は、直交座標系座標変換部216による変換結果に対して積分処理を行い、位置指令修正量(位置指令補正量)を算出し、出力する。このような一連処理により、力覚考慮補正手段21は、指令生成手段10で生成された位置指令に基づいて、位置指令修正量を生成することができる。
【0035】
次に、速度最適化手段40の内部構成について、詳細に説明する。なお、本実施の形態1では、力制限値(力閾値)と力許容値とを各軸毎に設定する場合を例に挙げて説明するが、各軸方向の力およびモーメントの合成で考えても構わない。また、以下では、代表としてZ軸方向について説明するが、X軸方向、Y軸方向の力を考える場合も、同様である。
【0036】
Z軸方向の力閾値(力制限値)をFs、Z軸方向の力許容値をFp、Z方向の対象物の剛性をK1、Z方向のコンプライアンス制御パラメータをK2とする。ここで、Fsは、力制限超過判別手段30から入力される力閾値であり、作用する力がFsを超えると、力制限超過判別手段30から指令生成手段10に対して、停止指令が入力され、ロボット1は、減速停止する。
【0037】
また、対象物の剛性K1および力許容値Fpは、あらかじめ速度最適化手段40の内部に記憶されている。速度最適化手段40は、それぞれの軸の動作の直前に、力制限超過判別手段30から入力される力閾値Fs、ロボット制御手段20から入力されるコンプライアンス制御パラメータK2(スティフネス行列のZ軸に対応する対角要素)、あらかじめ記憶されている対象物の許容力Fp、対象物の剛性K1、および減速時間gtから、下式(1)により、最適速度Vsを算出する。
Vs=sqrt((Fp−Fs)×(K1+K2)×2×gt/K1/K2) (1)
【0038】
すなわち、速度最適化手段40は、上式(1)を用いて、対象物の特性および所定の力制限値に基づいて、前記減速停止中において作用力が所定の許容値以下になる制約を満たす範囲で、動作速度を最大にする最適速度Vsを算出する。
【0039】
そして、速度最適化手段40は、算出した最適速度Vsを指令生成手段10に出力する。なお、上式(1)において、sqrtは、平方根を意味している。指令生成手段10は、最高速度がVsとなるように、指令生成周期ごとに位置指令を生成し、ロボット制御手段20に出力する。
【0040】
このような制御を行うことで、位置ずれなどにより正常な場合と比べて過大な力がロボットに作用した際に(エラー発生時に相当)、ロボットを減速停止させた場合においても、減速停止中にロボットに作用する力が所定の許容値を超えないことを保証できる範囲で、最大の動作速度でロボットを減速停止させることができる。この結果、位置ずれ時の適切な停止動作を確保する制約の元で、動作時間を最短にできる。さらに、エラー発生を検知して減速停止させる場合でも作用力が許容値以下となるような最高速度を試行錯誤により求める必要がなくなり、立上げ調整時間を短縮できる。
【0041】
以上のように、実施の形態1によれば、動作直前に力制限を超過したことを判別して、停止した際の作用力が許容値以下となる制約を満たす範囲での最高速度を算出し、算出した最高速度に基づいて位置指令を生成し、ロボットを動作させる。この結果、力制限を超過したエラー発生時にロボットを減速停止させる必要が生じた際に、作用力を許容値以下に抑えながら動作時間の短縮化を図ることができる。
【0042】
さらに、上式(1)に基づいて動作速度を自動設定できるため、試行錯誤により動作速度を最適化する必要がなく、立上げ時間の短縮化を実現できる。
【0043】
実施の形態2.
図5は、本発明の実施の形態2における力制御装置の構成を示すブロック図である。先の実施の形態1における図1の構成と比較すると、本実施の形態2における図5の構成は、対象物特性同定手段50をさらに備えるとともに、速度最適化手段40の内部構成が異なっている。そこで、速度最適化手段40の内部と対象物特性同定手段50を中心に、以下に説明する。
【0044】
先の実施の形態1では、対象物特性(対象物剛性)を速度最適化手段40の内部にあらかじめ記憶しておく必要があった。これに対して、本実施の形態2では、対象物特性同定手段50を新たに設けることで、立上げ調整時の動作データから対象物剛性を同定しておき、同定した値を記憶しておく。一方、速度最適化手段40は、対象物特性同定手段50に記憶された対象物剛性を読み出し、最適速度を算出する際の演算に用いる。
【0045】
対象物特性同定手段50による具体的な同定方法としては、次のようなものが考えられる。例えば、対象物の特性を線形ばねと仮定する。この場合、対象物特性同定手段50は、同定動作として押し込み動作を行ったときの動作データから、接触開始位置からの移動距離と押し込み力の時系列データ、もしくは2箇所以上の移動距離と押し込み力のデータの組合せから、線形同定理論を用いて、ばね定数を同定することができる。
【0046】
そこで、本実施の形態2における対象物特性同定手段50は、同定用に実施した同定動作での接触開始位置からの移動距離と押し込み力の時系列データから、対象物の剛性K1をあらかじめ同定して記憶しておく。そして、速度最適化手段40は、対象物特性同定手段50による同定結果に基づいて最適速度を算出することができる。この結果、速度最適化手段40は、対象物特性をあらかじめ記憶しておく必要がない構成とすることができる。
【0047】
以上のように、実施の形態2によれば、動作直前に力制限を超過したことを判別して、停止した際の作用力が許容値以下となる制約を満たす範囲での最高速度を算出し、算出した最高速度に基づいて位置指令を生成し、ロボットを動作させる。この結果、力制限を超過したエラー発生時にロボットを減速停止させる必要が生じた際に、作用力を許容値以下に抑えながら動作時間の短縮化を図ることができる
【0048】
さらに、上式(1)に基づいて動作速度を自動設定できるため、試行錯誤により動作速度を最適化する必要がなく、立上げ時間の短縮化を実現できる。さらに、対象物特性同定手段を備えることで、対象物の特性が未知の場合にも、1回の同定動作を実行することで対象物特性を同定でき、同定時間も含めた立上げ調整時間の短縮が可能となる。
【0049】
実施の形態3.
図6は、本発明の実施の形態3における力制御装置の構成を示すブロック図である。先の実施の形態1、2における速度最適化手段40は、コンプライアンス制御パラメータK2を用いて、上式(1)により最適速度Vsを算出していた。これに対して、本実施の形態3における速度最適化手段40は、コンプライアンス制御パラメータK2を使用せず、下式(2)により最適速度Vsを算出する。
Vs=sqrt((Fp−Fs)×2×gt/K1) (2)
【0050】
すなわち、速度最適化手段40は、上式(2)を用いて、対象物の特性および所定の力制限値に基づいて、前記減速停止中において作用力が所定の許容値以下になる制約を満たす範囲で、動作速度を最大にする最適速度Vsを算出する。
【0051】
さらに、速度最適化手段40は、算出した最適速度Vsを指令生成手段10に出力する。その他の処理は、先の実施の形態1と同様である。なお、先の実施の形態2で説明した対象物特性同定手段50を備えた図5の構成においても、速度最適化手段40は、上式(2)を用いて最適速度Vsを算出することができる。
【0052】
以上のように、実施の形態3によれば、動作直前に力制限を超過したことを判別して、停止した際の作用力が許容値以下となる制約を満たす範囲での最高速度を算出し、算出した最高速度に基づいて位置指令を生成し、ロボットを動作させる。この結果、力制限を超過したエラー発生時にロボットを減速停止させる必要が生じた際に、作用力を許容値以下に抑えながら動作時間の短縮化を図ることができる。
【0053】
さらに、コンプライアンス制御パラメータK2を使用せずに、上式(2)に基づいて動作速度を自動設定できるため、試行錯誤により動作速度を最適化する必要がなく、立上げ時間の短縮化を実現できる。
【0054】
実施の形態4.
図7は、本発明の実施の形態4における力制御装置の構成を示すブロック図である。先の実施の形態1における図1の構成と比較すると、本実施の形態4における図7の構成は、力推定オブザーバ60をさらに備えており、力覚センサ2を不用としている点が異なっている。
【0055】
すなわち、本実施の形態4においては、力覚センサ2から力およびモーメントの検出値を得るのではなく、力推定オブザーバ60を用いて、ロボット先端部に作用する力およびモーメントを推定し、推定した力推定値を力検出値の代わりに使用している。
【0056】
力推定オブザーバ60は、各軸のモータ位置と各軸を駆動するモータの電流を入力し、力推定値を推定している。より具体的には、力推定オブザーバ60は、各軸のモータ位置からモータ速度、モータ加速度を算出し、算出したモータ位置、速度、加速度からその動作で必要となる駆動トルクを算出し、モータ電流から算出される駆動トルクとの差を各軸の外乱トルクとして算出する。
【0057】
さらに、力推定オブザーバ60は、各軸のモータ位置に基づいて算出されるヤコビ行列を用いて、外乱トルクを、ロボット先端部に作用する力およびモーメントに変換し、変換した力およびモーメントを力推定値として出力する。
【0058】
以上のように、実施の形態4によれば、力覚センサを用いることなく、先の実施の形態1、2と同様の効果を得ることができるととともに、力覚センサを不要とすることによるシステムコストの低減を実現できる。
【0059】
実施の形態5.
図8は、本発明の実施の形態5における力制御装置の構成を示すブロック図である。先の実施の形態4における速度最適化手段40は、先の実施の形態1、2と同様に、コンプライアンス制御パラメータK2を用いて、上式(1)により最適速度Vsを算出していた。これに対して、本実施の形態5における速度最適化手段40は、先の実施の形態3と同様に、コンプライアンス制御パラメータK2を使用せず、上式(2)により最適速度Vsを算出する。その他の処理は、先の実施の形態4と同様である。
【0060】
以上のように、実施の形態5によれば、力覚センサを用いることなく、先の実施の形態4と同様の効果を得ることができるととともに、力覚センサを不要とすることによるシステムコストの低減を実現できる。さらに、先の実施の形態3と同様に、コンプライアンス制御パラメータK2を使用せずに、上式(2)に基づいて動作速度を自動設定できるため、試行錯誤により動作速度を最適化する必要がなく、立上げ時間の短縮化を実現できる。
【0061】
なお、先の実施の形態4、5における力推定オブザーバ60で推定された力推定値をロボット制御手段内部では使用せずに、位置制御を実施することも可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 ロボット、2 力覚センサ、3 位置センサ、10 指令生成手段、20 ロボット制御手段、21 力覚考慮補正手段、22 逆変換手段、23 各軸位置制御手段、23a 比例演算部、23b 微分演算部、23c 比例積分演算部、30 力制限超過判別手段、40 速度最適化手段、50 対象物特性同定手段、60 力推定オブザーバ、211 ツール座標系座標変換部、212 スティフネス行列部、213 微分演算部、214 ダンピング行列部、215 比例ゲイン演算部、216 直交座標系座標変換部、217 積分演算部、218 ツール座標系座標変換部、219 順変換部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に対するロボットの目標位置指令を生成する指令生成手段と、
前記目標位置指令に応じて前記ロボットの追従制御を行うロボット制御手段と、
追従動作に伴って前記対象物から前記ロボットへ働く作用力が、前記対象物もしくは前記ロボットにより決まる作用力の上限値に相当する所定の許容値よりも小さい値として規定される所定の力制限値を超過した場合に、前記指令生成手段で生成される前記目標位置指令により前記ロボットを減速停止させるための停止指令を生成する力制限超過判別手段と、
前記力制限超過判別手段により前記停止指令が生成されることで前記ロボットを減速停止させる場合を考慮して、前記対象物の特性および前記所定の力制限値に基づいて、前記減速停止中において前記作用力が前記所定の許容値以下になる制約を満たす範囲で、動作速度を最大にする最適速度を算出する速度最適化手段と
を備え、
前記指令生成手段は、前記速度最適化手段で算出された前記最適速度に応じた目標位置指令を生成するとともに、前記力制限超過判別手段で生成された前記停止指令を受信した場合には、前記ロボットを減速停止させる指令を生成する
ことを特徴とする力制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の力制御装置において、
前記ロボットが同定動作を行うことにより得られる時系列データに基づいて、前記対象物の特性を同定する対象物特性同定手段をさらに備え、
前記ロボット制御手段は、前記対象物の特性を同定するためにあらかじめ実施した同定動作に伴って、前記作用力、および前記ロボットの各軸モータの位置情報を取得し、前記ロボットが前記対象物に接触を開始してからの移動距離と、前記移動距離に対応する前記作用力の時系列データに基づいて、前記対象物の特性を同定し、
前記速度最適化手段は、前記対象物特性同定手段により同定された前記対象物の特性を用いて、前記最適速度を算出する
ことを特徴とする力制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の力制御装置において、
前記ロボットを駆動するための各軸モータの電流値および位置情報に基づいて前記作用力を推定する力推定オブザーバをさらに備え、
前記力制限超過判別手段は、前記力推定オブザーバで推定された前記作用力が前記所定の力制限値を超過している場合に、前記停止指令を生成する
ことを特徴とする力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−235423(P2011−235423A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110917(P2010−110917)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト、柔軟物も取扱える生産用ロボットシステム(次世代産業用ロボット分野)、FA機器組立ロボットシステムの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】