加圧流体の通路切り替え方法および分離方法
【課題】本発明は、円筒管内に少なくとも一つの円盤および回転子を配設した回転弁において、回転子が回転する際に円盤と回転子の接触面からの流体の漏洩を低減する方法を提供することにある。
【解決手段】加圧流体の通過する通路(A)をもつ回転弁を用いて加圧流体の通路の切り替えを行うにあたり、回転弁として、前記通路(A)の一部となる通路(A−1)を備えた少なくとも1つの円盤と、前記通路(A)の別の一部となる通路(A−2)を備えた、前記円盤に接して回転自在に配設される回転子とが円筒内に設けられた回転弁を用い、かつ、前記回転弁に供給する加圧流体の圧力を低下させた後に前記回転子を回転し始め、該回転子の回転が完了して前記円盤の前記通路(A−1)と前記回転子の(A−2)とが連通状態となった後に前記加圧流体の圧力を上昇させることを特徴とする加圧流体の通路切り替え方法とする。
【解決手段】加圧流体の通過する通路(A)をもつ回転弁を用いて加圧流体の通路の切り替えを行うにあたり、回転弁として、前記通路(A)の一部となる通路(A−1)を備えた少なくとも1つの円盤と、前記通路(A)の別の一部となる通路(A−2)を備えた、前記円盤に接して回転自在に配設される回転子とが円筒内に設けられた回転弁を用い、かつ、前記回転弁に供給する加圧流体の圧力を低下させた後に前記回転子を回転し始め、該回転子の回転が完了して前記円盤の前記通路(A−1)と前記回転子の(A−2)とが連通状態となった後に前記加圧流体の圧力を上昇させることを特徴とする加圧流体の通路切り替え方法とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の吸着室からなる擬似移動床による吸着分離において、吸着室への流体の分配と吸着室からの流体の集積を同時に行うために好適に用いられる、回転弁を用いた加圧流体の通路切り替え方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転弁は一つの流体を多方向に分配し、かつ多方向からの流体を集積させる手段などとして広く用いられており、特に複数の吸着室からなる擬似移動床による吸着分離において吸着室への流体の分配と、吸着室からの流体の集積を同時に行うために好適に用いられる。上記擬似移動床による吸着分離は公知の技術(例えば特許文献1)が適用される。一般に、擬似移動床による吸着分離は、小径の吸着剤粒子を充填した多数の吸着室を必要とし、結果として吸着室を通過する流体の圧力損失は大きなものとなるため、吸着室に供給する脱着剤や原料混合物には高い圧力を加えて送る必要がある。また一般に、回転弁は、該回転弁内の通路の一部となる通路を備えた固定円盤と、前記固定円盤の通路に連通する通路を備えた、固定円盤に接して回転する回転子とが設けられてなるが、擬似移動床による吸着分離装置は、上記の通り高い圧力で操作されるため、固定円盤と回転子を高い押圧で密着し、流体をシールする必要がある。固定円盤と回転子の接触面のシールが不十分であると次のような問題が生じる。
(1)流体が回転弁の外部に漏洩した場合、流体の損失になるばかりでなく、流体の種類や周辺の状況によっては環境汚染等の問題を引き起こす可能性がある。
(2)流体が回転弁の内部で漏洩した場合、吸着分離により得られる目的成分の純度の汚染や回収率の低下を引き起こす。
【0003】
一般的には固定円盤と回転子の接触面の漏洩を防ぐために、固定円盤と回転子はコイル状のスプリング等により互いに押圧され密着される(例えば特許文献2)。しかし、回転弁から分配および集積する流体の数が増え、回転弁の構造が複雑になると、固定円盤および回転子の接触面積を大きくする必要があり、固定円盤と回転子を密着させるためにさらに膨大な力が必要となる。
【0004】
この押圧する力を低くするため、複数の固定円盤の間に回転子を挟み、従来1つの接触面に設けられていた流体通路の一部である同心円状の複数の溝を、回転子の両側の接触面に分割させることにより、固定円盤や回転子の接触面積を小さくする方法(例えば特許文献3)が考案されている。しかし、それでも固定円盤と回転子の接触面からの漏洩を防ぐために常に大きな押圧で密着させるため、回転子の回転により接触面が摩耗してシール性が低下し、度々運転を止めてメンテナンスを行う必要があった。
【0005】
上記摩耗を低減するため、上記円盤の1つを、円筒内で回転子の回転軸方向に微小往復可能に設置し、回転子が静止している間は高い押圧で前記円盤と回転子を密着させ、回転子が回転する以前に押圧を低下させ、回転が完了した以降に元の高い押圧に戻す方法が考案された(例えば特許文献4)。しかしながら、この方法では、接触面の摩耗が低減されたが、回転子が回転する際に押圧を緩めるため、流体の漏洩が避けられなかった。
【0006】
このように、擬似移動床による吸着分離においては目的成分の高い純度と回収率が要求されるため、この漏洩により、実用上満足しうる吸着分離性能を得るにはまだ不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭49−27569号公報
【特許文献2】特開昭55−97206号公報
【特許文献3】特開昭58−134286号公報
【特許文献4】特開昭62−155380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、回転子が回転する際に生じる流体の漏洩を低減する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、回転子が回転する際に生じる、回転弁の通路の一部となる通路を備えた円盤と該円盤の通路に連通する別の通路を備えた回転子との接触面からの流体の漏洩を低減する方法を鋭意検討した結果、回転子の通路の開孔部と、固定円盤の通路の開孔部とが一致した位置から回転を開始し、次の通路の開孔部に一致するまでの間、一時的に流体の通路が密閉状態となり、円盤および回転子に不均一な流体圧力がかかり、接触面のシール性が低下して流体が漏洩することを見出した。これは前記特許文献4のように、回転子が回転する際に円盤と回転子の押圧を緩める場合にはより顕著となる。また流体が液体のような非圧縮性流体の場合にはウォーターハンマー現象を起こし、その衝撃により流体の漏洩が増大する。
【0010】
そこで、前記課題を達成するため、本発明は以下のいずれかの構成からなる。
(1)加圧流体の通過する通路(A)をもつ回転弁を用いて加圧流体の通路の切り替えを行うにあたり、回転弁として、前記通路(A)の一部となる通路(A−1)を備えた少なくとも1つの円盤と、前記通路(A)の別の一部となる通路(A−2)を備えた、前記円盤に接して回転自在に配設される回転子とが円筒内に設けられた回転弁を用い、かつ、前記回転弁に供給する加圧流体の圧力を低下させた後に前記回転子を回転し始め、該回転子の回転が完了して前記円盤の前記通路(A−1)と前記回転子の(A−2)とが連通状態となった後に前記加圧流体の圧力を上昇させることを特徴とする加圧流体の通路切り替え方法。
(2)前記回転弁として、前記円盤を少なくとも2つ有し、一方の円盤(a)が、一方の端部が閉塞されている前記円筒の他方の端部に液密に固定され、他方の円盤(b)が前記回転子を挟んで前記一方の円盤とは反対側でかつ前記円筒内を往復可能に設けられたものを用い、前記円盤(a)、(b)の間でかつ前記円筒の内周面と前記回転子との間に形成された中空円柱状の空間(x)、および、前記円盤(b)と前記円筒の内周面と前記円筒の閉塞端部とで形成された空間(y)を、圧力室として作用させることを特徴とする、前記(1)記載の加圧流体の通路切り替え方法。
(3)前記空間(y)の圧力を低下させて前記回転子を回転することを特徴とする、前記(2)記載の加圧流体の通路切り替え方法。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法で加圧流体の通路を切り替えながら擬似移動床による吸着分離を行うことを特徴とする分離方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来技術において問題となった回転子が回転する際の流体の漏洩を劇的に低減することが可能である。特に、擬似移動床による吸着分離に本発明を適用することで、目的成分の高い純度と回収率の達成が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1a】本発明において回転弁へ供給する流体の圧力を低下させる方法の一態様を示す模式図である(回転子静止時)。
【図1b】本発明において回転弁へ供給する流体の圧力を低下させる方法の一態様を示す模式図である(回転子回転時)。
【図2a】本発明において回転弁へ供給する流体の圧力を低下させる方法の別の態様を示す模式図である(回転子静止時)。
【図2b】本発明において回転弁へ供給する流体の圧力を低下させる方法の別の態様を示す模式図である(回転子回転時)。
【図3】本発明において回転弁の流体の通路を切り替えるシーケンスの例である。
【図4a】擬似移動床による吸着分離装置の一態様を示す模式図である。
【図4b】擬似移動床による吸着分離装置の他の態様を示す模式図である。
【図5】本発明において用いられる回転弁の一態様を示す概略断面図である。
【図6a】図5のY−Y矢視図である。
【図6b】図5のZ−Z矢視図である。
【図6c】図5のY′−Y′矢視図である。
【図6d】図5のZ′−Z′矢視図である。
【図7a】本発明において用いられる回転弁の一態様を示す概略断面図である。
【図7b】本発明において用いられる回転弁の別の態様を示す概略断面図である。
【図7c】本発明において用いられる回転弁のさらに別の態様を示す概略断面図である。
【図8】実施例で用いた擬似移動床吸着分離装置を示す概略断面図である。
【図9】実施例で用いた回転弁の概略断面図である。
【図10a】図9のY−Y矢視図である。
【図10b】図9のZ−Z矢視図である。
【図10c】図9のY′−Y′矢視図である。
【図10d】図9のZ′−Z′矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の通路切り替え方法が好適に実施される擬似移動床による吸着分離について以下に説明するが、本発明はこの用途に限定されるものではない。
【0014】
吸着分離装置は基本的には脱着帯、濃縮帯、吸着帯、回収帯の4帯からなる。各帯は各々吸着剤を充填し、かつ連続的に連結された1つ以上の吸着室で構成されている。各帯の機能は次の通りである。
吸着帯:原料混合物を吸着剤と接触させ、強吸着成分を選択的に吸着させるとともに、弱吸着成分および後述の脱着剤を含むラフィネートを抜き出す。
濃縮帯:吸着帯で強吸着成分を選択的に吸着した吸着剤を、脱着帯から抜き出されるエクストラクトの一部に接触させ、吸着剤中に残存する強吸着成分の純度を向上させる。
脱着帯:吸着剤上に濃縮された強吸着成分を脱着剤で追い出し、強吸着成分および脱着剤を含むエクストラクトを抜き出す。
回収帯:吸着帯から流れてくる弱吸着成分を吸着剤に吸着させ、脱着剤を含むラフィネートとして取り出すとともに、実質的に脱着剤のみとなった流れを回収する。
【0015】
上記各帯の操作を連続して繰返し、見掛け上、吸着剤を流体の流れとは向流方向に移動させる擬似移動床による吸着分離のシステムの一例を図4aに従って説明する。
【0016】
吸着剤が充填された複数個の吸着室2〜9が連結管14〜21によって連続的に連結され循環路を形成している。吸着室からの流体の抜き出しおよび吸着室への流体の供給は、吸着室間を結ぶ連結管14〜21と回転弁1を連結している連結管22〜29を通して行なわれ、回転弁1の回転子が一定時間ごとに一定角度を回転することにより回転弁内の流体の供給管(脱着剤の供給管36、原料混合物の供給管38)および抜き出し管(エクストラクトの抜き出し管37、ラフイネ−トの抜き出し管39)が吸着室に沿って順次移行し、下方向への流体の流れに対し、見掛上、吸着剤が上方向へ移動する擬似移動床による吸着分離が実施される。なお、図4aの状態における各吸着室は吸着室2、3が脱着帯、吸着室4、5が濃縮帯、吸着室6、7が吸着帯、吸着室8、9が回収帯をそれぞれ構成している。
【0017】
本発明は上記のような機能をもつ、回転弁を用いたシステムの改良に関するものである。擬似移動床による吸着分離は図4aに示す態様の他、図4bに示すように、各吸着室が回転弁を経由する連結管22〜30により直列に結ばれ、流体の供給管(脱着剤の供給管36、原料混合物の供給管38)および抜き出し管(エクストラクトの抜き出し管37、ラフイネ−トの抜き出し管39)が回転弁内で連結管22〜30に接続する態様にも適用することが可能である。
【0018】
本発明で使用される回転弁の例を図5に基づいて以下に説明するが、ここに記載する以外の態様であってもよい。
【0019】
図5は本発明の回転弁の一態様を示す断面図である。図5におけるY−Y矢視図、Z−Z矢視図、Y′−Y′矢視図、Z′−Z′矢視図については図6aから図6dに示してあり、以下これらを参照して説明する。
【0020】
図5、図6a〜図6dに示す回転弁1は、円筒68内に円盤48、49および回転子47を設けて構成される。円盤48は、一方の端部が隔壁71で閉塞されている円筒68の他方の端部に液密に固定され、円盤49は、前記円盤48とは回転子47を挟んで反対側に設けられている。いずれも円筒68の内側面に密着状に設けられている。
【0021】
円盤48には、回転弁内の通路の一部となる開孔部52、61、62、53〜60が設けられ、円盤49には環状溝69、開孔部70が設けられ、それらは回転子47に設けられた環状溝50、51および連通孔64〜67とそれぞれ連通可能となっている。また、開孔部53〜60は回転軸46と同心状をなす円周上に等間隔に配設されている。そして、円盤49は円筒内を筒軸方向に微小往復可能に設けられている。すなわち円盤49が円筒内をピストンのように円盤49側面と円筒68内側面との間の密着状態を保ちつつ、回転軸の長手方向に沿って微小に動くことが可能なようにゴムOリング74を介して設けられている。
【0022】
回転子47は円盤48、49の間に設けられ、回転軸46に連結され、回転軸46によって一定時間毎に間欠的に回転自在に配設されている。回転軸46の一端は回転子47に連結し、他端は駆動源に連結する。なお、円筒68の、回転軸46の駆動源側の端部は、隔壁71により閉塞している。
【0023】
回転子47は、円盤48、49よりも小径に構成する。その結果、円盤48、49の間でかつ回転子47の外周面と円筒68の内周面との間には中空円柱状の空間が形成される。この空間は、円盤48、49の側面を、ゴムOリング74により、円筒68に密着状にシールして設けることにより、密封性の高い空間となり、本発明においてはこれを大気圧よりも高い圧力に保持して圧力室73として作用させる。圧力室73には排出口75が設けられている。なお、圧力室73は、円盤と回転子の接触面から若干量漏れ出る、吸着室2〜9を流れる流体の混合物で満たされる。
【0024】
また、円盤49と円筒68の内周面と該円筒68の端部を閉塞している隔壁71とによっても空間が形成されるが、これも密封性の高い空間となるので、本発明においてはこれを圧力室72として作用させる。圧力室72には圧力調節口63が設けられ、圧力調節口63を介して圧力源に連結されている。圧力室72にはオイルが満たされ、油圧により円盤49の回転子47に対する接触圧力を瞬時に調整できるように構成されている。なお、圧力が瞬時に変更できれば、圧力を変更する手段は油圧に限定されない。
【0025】
以上のような回転弁を上記吸着分離のシステムに適用するには、円盤48に設けられた開孔部53、54、55、56、57、58、59、60に連結管22、23、24、25、26、27、28、29を、それぞれ連結する(図6a参照)。また、円盤48の中心には回転軸46と同軸に開孔部61を設け、この開孔部61にエクストラクトの抜き出し管37を連結する。
【0026】
他方、円盤49の端面49a(回転子47の端面47bと接続する側の面)には、回転軸46と同心状に環状溝69を設けるとともに、環状溝69に連通する開孔部70を設け、この開孔部70に円筒68を貫通して脱着剤の供給管36が連結される。
【0027】
上記回転子47には、さらに複数の連通孔を設ける。すなわち、回転子47には図5および図6a〜図6dに示す状態において、上記内側の環状溝50と円盤48の開孔部57とを連通するコ字形状の連通孔65と、円盤48における開孔部61、55を連通するコ字形状の連通孔66(図6c参照)と、外側の環状溝51と円盤48の開孔部59とを連通するコ字形状の連通孔64(図6c参照)と、円盤48の開孔部53と円盤49に設けた環状溝69とを連通する連通孔67とを設ける。
【0028】
しかして、図5および図6a〜図6dに示す状態においては、回転弁1内に、流体の通過する四つの通路が形成される。すなわち、
(a)開孔部70−環状溝69一連通孔67−開孔部53による通路A、
(b)開孔部55一連通孔66−開孔部61による通路B、
(c)開孔部52−環状溝50一連通孔65−開孔部57による通路C、
(d)開孔部59一連通孔64−環状溝51−開孔部62による通路D、
が上記四つの通路である。
【0029】
このように四つの通路が形成されている間、原料混合物の吸着分離が行われる。なお、その間、圧力室72は加圧状態(例えば1.4MPaG)に保持しておくことが好ましい。また、吸着分離中、回転弁1内を流通する各種流体は、加圧されているため、円盤48、49と回転子47との接触面から若干量漏れ出て、その漏れ液により圧力室73は絶えず加圧状態に保持されるが、圧力室73の圧力をほぼ一定値に保つため、排出口75を介して圧力計、リリ−フ弁(ともに図示せず)を連結し、リリ−フ弁の自動開閉等により圧力室73の圧力調整を行うことが好ましい。なお、圧力室73の圧力は、圧力室73内の混合液が開孔部内に逆流することを防止するために、回転弁内の通路を流通する流体のうち圧損が累積して最も低い圧力の流体と同じ圧力またはそれ以下の圧力に調整される。例えば、吸着室1室につき内部圧損が0.2MPaGとなる場合、連結管22に1.8MPaGの圧力を加えると、回転弁の通路に流通する流体のうち最も低い圧力の流体は連結管29を通過する0.4MPaGの圧力の流体であるので、圧力室73はそれより若干低圧の0.35MPaG程度の圧力に調整し維持することが好ましい。
【0030】
次いで、流体通路の切り替えを行うために上記回転子47を矢印(図5参照)の方向に1/8回転させると、上記通路A、B、C、Dがそれぞれ切り替わるが、このとき、本発明では、回転子の回転により、一時的に通路が密閉状態になる以前に、該回転弁に供給する流体の圧力を低下させ、該回転子の回転が完了し、流体の通路が連通状態となった以降に圧力を上昇させることが重要である。すなわち、回転弁に供給する加圧流体の圧力を低下させた後に回転子47を回転し始め、該回転子47の回転が完了して完全に流体通路が切り替わった後に再度前記流体の圧力を上昇させるのである。
【0031】
一般に、擬似移動床による吸着分離において目的成分を高い純度と回収率で分離するためには、各吸着室の流量を一定に保ち、安定した濃度分布を形成することが重要であると考えられている。流量が変動すると回転弁の切り替え時間とのバランスが崩れるだけでなく、流体の逆混合により目的成分の純度や回収率が低下するからである。しかしながら、本発明では、回転子47が回転する際に、回転弁に供給する流体の圧力を低くするが、圧力低下に伴う流量変動の影響よりも、固定円盤と回転子の接触面からの漏れ量を低減する効果の方がはるかに大きいことを見出し、目的成分を高い純度と回収率で分離することを可能にした。本発明において、回転子47の回転中の流体圧力は、好ましくは円盤48、49と回転子47とを密着させる押圧以下であり、さらに好ましくは該押圧の90%以下である。
【0032】
回転弁に供給する流体の圧力を一時的に低下させる方法としては、特に限定されないが、例えば以下の(1)〜(3)のいずれかの方法が好ましく用いられる。
【0033】
(1)回転弁へ供給する流体の少なくとも一部を、回転弁に通ずる通路以外の通路へ切り替える方法。
【0034】
この方法において、回転弁に通ずる通路以外へ流体を導くか否かは開閉弁により行われる。開閉弁とは弁の開度により流体の流量を調整または遮断する弁を指すが、その型式は特に限定されない。流体通路の切り替え先は、一般的には該流体を貯蔵するタンクや、流体を加圧して回転弁に供給する装置の吸引配管であるが特に限定されない。本方法の一例を図1aおよび図1bに示す。
【0035】
図1aは回転子が静止しているときの状態である。脱着剤タンク44の脱着剤をポンプ45により加圧して、供給管36を経由して回転弁1に供給する。供給流量は流量計42および開閉弁41により制御される。また回転弁に供給する脱着剤の圧力は、回転弁の近くに設置した圧力計40により測定することが出来る。供給管36から脱着剤タンク44へバイパス配管が設置されており、回転弁が静止している間は開閉弁43が閉止されている。
【0036】
図1bは回転子が回転しているときの状態である。回転弁1内の流体通路は、図1bに模式的に示すように密閉状態となっている。もし、脱着剤を高い圧力で供給し続けると、回転弁1の円盤と回転子に不均一な力が加わりシール性が低下して、吸着室2〜9および連結配管22〜29内の流体が、回転弁1の円盤と回転子の接触面から漏洩する。これを防止するために、バイパス配管の開閉弁43を開け、回転弁1にかかる脱着剤の圧力を低減する。
【0037】
(2)回転弁に流体を供給する通路に設置された開閉弁の開度を絞る方法。
【0038】
本方法の一例を図2aおよび図2bに示す。
【0039】
図2aは回転子が静止しているときの状態である。脱着剤の流れは図1aと同様である。
【0040】
図2bは回転子が回転しているときの状態である。回転弁1内の流体通路は、図1bと同様に密閉状態となっている。円盤と回転子の接触面から流体が漏洩するのを防ぐため、開閉弁41の開度を絞り、若しくは全閉にして回転弁1にかかる脱着剤の圧力を低減する。
【0041】
(3)流体を加圧して回転弁に供給する装置の出力を下げる方法。
【0042】
回転弁に流体を供給する装置としては、ポンプ、ファン、ブロワー、コンプレッサーなどいずれであってもよく、装置形式は特に限定されない。これらの出力は一般にインバーターによる各装置のモーター回転数の制御により行われるが、その他の手段であっても良い。
【0043】
なお、上記の例および図1〜図2は、脱着剤を回転弁経由で吸着室に供給する通路36について記載したが、原料混合物を回転弁経由で吸着室に供給する通路38についても適用することが可能である。また、上記回転弁に供給する流体の圧力を一時的に低下させる方法は、いずれか単独で行っても、複数の方法を組み合わせて行ってもよい。
【0044】
そして本発明においては、回転子47の回転の間、図5における圧力室72の加圧状態も緩和し(例えばl.0MPaG)、回転子47の回転をし易くすることが好ましい。回転が終了して新たに別の四つの通路が形成されると同時に圧力室72の加圧状態を回転前と同程度に強化し(例えば1.4MPaG)、静止時の漏れを防止する。このように、通路の形成と回転を順次繰返し、その都度、圧力室72の圧力を瞬時に変更せしめることにより、有効に流体の漏れを抑制しながら回転子を回転せしめることができる。
【0045】
このように、上記回転弁に供給する流体の圧力を一時的に低下させる操作に加え、前記円盤、回転子、円筒の間で形成される圧力室の圧力を回転子の回転中一時的に低下させる操作を組み合わせる場合は、シーケンスなどの手段により、各操作を順番に作動させることが好ましい。またシーケンスにより一連の流体通路の切り替え操作を行う時間は、生産性などの観点から短い方が好ましい。
【0046】
図1a、図1bの態様で吸着分離を行う場合のシーケンスの一例を図3に示す。擬似移動床は一定時間t秒毎に切り替えられるが、この間、回転子は静止しており、流体が回転弁および連結管を経由して吸着室に流れている。一定時間t秒が経過した後、流体通路の切り替え操作が行われる。先ず、バイパス配管の開閉弁43が開き、その1秒後に円盤と回転子を押圧する油圧の圧力を下げるとともに、回転子を回転させる。約3秒で回転子の回転が完結するとともに、油圧の圧力を元に戻す。その1秒後にバイパス配管の開閉弁を閉止する。この操作を繰り返し、擬似移動床による吸着分離操作を行う。このようなシーケンスは、DCS(Distributed Control System)や制御盤などに組み込んで行われることが望ましい。
【0047】
なお、上記説明においては、一方の端部を別部材の隔壁71で閉塞した円筒で構成された回転弁を用いる態様を説明したが、これに限定されず、例えば以下の型式の回転弁を用いる態様も本発明に含まれる。
(1)図5に示す態様において、別部材の隔壁71を設けず、円筒68の一方の端部を側面と一体的に閉塞したもの(図7a)。
(2)図5に示す態様において、隔壁71を設けず、代わりに円筒68の開口端部(円盤48の側)を閉鎖して、該閉鎖端部と、円盤48とで形成される円筒状の空間を圧力室72として作用させるもの(図7b)。
(3)図5に示す態様において、円盤49と円筒68の内周面と該円筒68の端部を閉塞している隔壁71とによる空間を圧力室72として作用させることに加えて、円筒68の開口端部(円盤48の側)を閉鎖して該閉鎖端部と円盤48とで形成される円筒状の空間も圧力室72として作用させるもの。(図7c)
また、本発明において、回転弁の材質は特に限定されないが、回転子自身または回転子の接触面は自己潤滑性を有する材質が良い。これに適する材質としては、例えば「テフロン」(登録商標)、「テフロン」含浸ガラス綿、弗化炭化黒鉛、ポリアセタ−ル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、またはナイロンあるいはポリエステル樹脂も含まれる。さらにはセラミックス類で回転子および/または円盤をつくってもよい。
【0048】
そして本発明における回転弁に供給する流体は、気体(圧縮性流体)、液体(非圧縮性流体)の何れであっても良いが、非圧縮性流体が好ましい。
【実施例】
【0049】
(吸着剤の製造)
SiO2/Al2O3のモル比が4.8であるNa−Y型ゼオライト(日揮触媒化成製)粉末100重量部に、アルミナゾル(日産化学製、Al2O3含量10重量%)を8重量部(Al2O3換算)、アルミナゲル(日揮触媒化成製、Al2O3含量70重量%)を7重量部(Al2O3換算)および全水分量が約50重量%になるように蒸留水を加えて約1時間混練し、0.3mmφの開孔径を有するスクリーンから押し出した。120℃で12時間乾燥後、500℃で2時間焼成してNa−Y成型体を得た。
【0050】
次いで硝酸カリウム(大塚化学製)を10重量%含む水溶液を用いて、Na−Y成型体を固液比3(L/kg)、温度85℃で1時間イオン交換する操作を10回行い、蒸留水で十分に水洗後、上記成型体のカチオンサイトの30%に相当する銀を含む硝酸銀(小島化学薬品製)水溶液を用いて上記成型体のイオン交換1回行い、蒸留水で十分水洗し、120℃で12時間乾燥後、500℃で2時間焼成し、吸着剤0.3Ag−K−Yを得た。
【0051】
(実施例1)
本実施例では、図8に示すとおり、吸着室2〜13が回転弁を経由する連結管22〜34により直列に結ばれ、流体の供給管(脱着剤の供給管36、原料混合物の供給管38)および抜き出し管(エクストラクトの抜き出し管37、ラフイネ−トの抜き出し管39)が回転弁内で連結管22〜34に接続する態様の擬似移動床吸着分離装置を用いた。各吸着室の内径は336mm、高さは1100mmとし、前記の方法により調製した吸着剤0.3Ag−K−Yを各室に64.8kg(合計777.6kg)充填した。
【0052】
回転弁には図9および図10a〜図10dに示すとおりのものを用いた。なお、図9は、回転弁の断面図であり、図10a〜図10dは、それぞれ図9におけるY−Y矢視図、Z−Z矢視図、Y′−Y′矢視図、Z′−Z′矢視図である。円筒68および円盤49、隔壁71で構成される圧力室72と、円筒68、円盤48、49および回転子47から構成される圧力室73を設け、圧力室72は圧力調整孔63を通じ、油圧により円盤49の回転子47に対する押圧を瞬時に変更できるようにし、圧力室73は圧力調整孔75を通じてリリーフ弁を設け、一定の圧力に制御した。円盤48、49の直径はともに180mm、回転子47の直径は160mmとし、円盤48、49にはそれぞれ回転軸46を中心とした直径130mmの円周上の12等分した位置に、回転弁内の通路の一部となる開孔部の開口(直径15mm)を設けた。また回転子47には回転軸46を中心とした直径130mmの円周上の12等分した位置に、連通孔の開口(直径15mm)を設け、回転子の両面47aおよび47bには、それぞれ回転軸を中心とした直径58mmの円周上に溝幅10mmの環状溝80、84を、直径92mmの円周上に、溝幅8mmの環状溝79、85をそれぞれ設けた。また脱着帯が4室、濃縮帯が3室、吸着帯が3室、回収帯が2室となるよう、連通孔81〜83、86、87を設けた。
【0053】
回転弁の切り替えは、図3に示す通り、先ず脱着剤のバイパス配管の開閉弁43が開き、その1秒後に円盤と回転子を押圧する油圧の圧力を下げるとともに回転子47が回転し、約3秒かけて回転が完了するとともに、油圧の圧力を元に戻し、その1秒後にバイパス配管の開閉弁を閉止するシーケンスを設けて行った。
【0054】
吸着分離条件を表1に、原料として用いたクロロトルエン異性体混合物の組成を表2に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
脱着剤として純度95%以上の3,4−ジクロロトルエンを用い、クロロトルエン異性体混合物から目的成分であるm−クロロトルエンをラフィネートとして、その他の異性体をエクストラクトとして分離した。
【0058】
回転弁が静止しているときの圧力計40が示す圧力は1.58MPaGであったので、回転子が静止しているときの圧力室72の圧力を1.25MPaG、回転子が回転するときの圧力室72の圧力を1.00MPaGとなるように油圧の圧力源を制御し、回転子が回転しているときの圧力計40が示す圧力が0.85MPaGとなるようバイパス弁43の開度を調整した。また連結管34の流体の圧力が0.11MPaGであったので、圧力室73の圧力は0.08MPaGとした。
【0059】
回転弁内部での流体の漏洩は直接測定できないため、吸着分離性能への影響を評価した。吸着分離性能を示す指標として下式で示す純度と回収率がある。
【0060】
【数1】
【0061】
【数2】
【0062】
純度と回収率はトレードオフの関係にあるため、回収率が75%で一定のときの純度を指標として用いた。吸着分離を開始し、回収率が75%で一定となった後に、ラフィネートを容積1m3のタンクに貯めて平均化し、該タンクから分析用の試料を採取した。各組成の分析はガスクロマトグラフィーにより行った。m−クロロトルエンの一般的な用途においては純度99.0%以上が要求されているが、本実施例において、回収率75%におけるm−クロロトルエンの純度は99.9%と非常に高い値が得られた。
【0063】
(比較例1)
回転子が回転する際に、脱着剤のバイパス配管の開閉弁43を開けないこと以外は、実施例1と同様にして吸着分離を行った。回転弁が静止しているときの圧力計40が示す圧力は1.58MPaGであったが、回転弁が回転しているときは流路が密閉状態になるため、圧力計40が示す圧力は1.80MPaまで上昇した。本比較例において、回収率75%におけるm−クロロトルエンの純度は98.4%と大きく低下した。
【0064】
(実施例2)
回転子が回転する際に、円盤と回転子を押圧する油圧の圧力を下げず、圧力室72の圧力を1.25MPaGで一定とした以外は実施例1と同様にして吸着分離を行った。本実施例において、安定して運転を継続できた時には、回収率75%におけるm−クロロトルエンの純度99.9%が得られたが、回転子が回転しにくく、時々回転不良を起こし、運転継続が困難となった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、回転弁の回転子が回転する際の漏れをほぼ完全に防止でき、目的成分の純度および回収率を向上させることができるので、擬似移動床による吸着分離や、圧力変動吸着分離(PSA)等で好適に実施することができる。
【符号の説明】
【0066】
1:回転弁
2〜13:吸着室
14〜20:吸着室と吸着室をつなぐ連結管
21:連結管
22〜34:回転弁と吸着室をつなぐ連結管
35:脱着剤戻り管
36:脱着剤の供給管
37:エクストラクトの抜き出し管
38:原料混合物の供給管
39:ラフィネートの抜き出し管
40:圧力計
41:開閉弁
42:流量計
43:開閉弁
44:脱着剤タンク
45:ポンプ
46:回転軸
47:回転子
48〜49:円盤
50〜51:環状溝
52〜62:開孔部
63:圧力調節口
64〜67:連通孔
68:円筒
69:環状溝
70:開孔部
71:隔壁
72:圧力室
73:圧力室
74: Oリング
75:圧力調節口
76〜78:開口部
79〜80:環状溝
81〜83:連通孔
84〜85:環状溝
86〜87:連通孔
88〜89:開口部
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の吸着室からなる擬似移動床による吸着分離において、吸着室への流体の分配と吸着室からの流体の集積を同時に行うために好適に用いられる、回転弁を用いた加圧流体の通路切り替え方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転弁は一つの流体を多方向に分配し、かつ多方向からの流体を集積させる手段などとして広く用いられており、特に複数の吸着室からなる擬似移動床による吸着分離において吸着室への流体の分配と、吸着室からの流体の集積を同時に行うために好適に用いられる。上記擬似移動床による吸着分離は公知の技術(例えば特許文献1)が適用される。一般に、擬似移動床による吸着分離は、小径の吸着剤粒子を充填した多数の吸着室を必要とし、結果として吸着室を通過する流体の圧力損失は大きなものとなるため、吸着室に供給する脱着剤や原料混合物には高い圧力を加えて送る必要がある。また一般に、回転弁は、該回転弁内の通路の一部となる通路を備えた固定円盤と、前記固定円盤の通路に連通する通路を備えた、固定円盤に接して回転する回転子とが設けられてなるが、擬似移動床による吸着分離装置は、上記の通り高い圧力で操作されるため、固定円盤と回転子を高い押圧で密着し、流体をシールする必要がある。固定円盤と回転子の接触面のシールが不十分であると次のような問題が生じる。
(1)流体が回転弁の外部に漏洩した場合、流体の損失になるばかりでなく、流体の種類や周辺の状況によっては環境汚染等の問題を引き起こす可能性がある。
(2)流体が回転弁の内部で漏洩した場合、吸着分離により得られる目的成分の純度の汚染や回収率の低下を引き起こす。
【0003】
一般的には固定円盤と回転子の接触面の漏洩を防ぐために、固定円盤と回転子はコイル状のスプリング等により互いに押圧され密着される(例えば特許文献2)。しかし、回転弁から分配および集積する流体の数が増え、回転弁の構造が複雑になると、固定円盤および回転子の接触面積を大きくする必要があり、固定円盤と回転子を密着させるためにさらに膨大な力が必要となる。
【0004】
この押圧する力を低くするため、複数の固定円盤の間に回転子を挟み、従来1つの接触面に設けられていた流体通路の一部である同心円状の複数の溝を、回転子の両側の接触面に分割させることにより、固定円盤や回転子の接触面積を小さくする方法(例えば特許文献3)が考案されている。しかし、それでも固定円盤と回転子の接触面からの漏洩を防ぐために常に大きな押圧で密着させるため、回転子の回転により接触面が摩耗してシール性が低下し、度々運転を止めてメンテナンスを行う必要があった。
【0005】
上記摩耗を低減するため、上記円盤の1つを、円筒内で回転子の回転軸方向に微小往復可能に設置し、回転子が静止している間は高い押圧で前記円盤と回転子を密着させ、回転子が回転する以前に押圧を低下させ、回転が完了した以降に元の高い押圧に戻す方法が考案された(例えば特許文献4)。しかしながら、この方法では、接触面の摩耗が低減されたが、回転子が回転する際に押圧を緩めるため、流体の漏洩が避けられなかった。
【0006】
このように、擬似移動床による吸着分離においては目的成分の高い純度と回収率が要求されるため、この漏洩により、実用上満足しうる吸着分離性能を得るにはまだ不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭49−27569号公報
【特許文献2】特開昭55−97206号公報
【特許文献3】特開昭58−134286号公報
【特許文献4】特開昭62−155380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、回転子が回転する際に生じる流体の漏洩を低減する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、回転子が回転する際に生じる、回転弁の通路の一部となる通路を備えた円盤と該円盤の通路に連通する別の通路を備えた回転子との接触面からの流体の漏洩を低減する方法を鋭意検討した結果、回転子の通路の開孔部と、固定円盤の通路の開孔部とが一致した位置から回転を開始し、次の通路の開孔部に一致するまでの間、一時的に流体の通路が密閉状態となり、円盤および回転子に不均一な流体圧力がかかり、接触面のシール性が低下して流体が漏洩することを見出した。これは前記特許文献4のように、回転子が回転する際に円盤と回転子の押圧を緩める場合にはより顕著となる。また流体が液体のような非圧縮性流体の場合にはウォーターハンマー現象を起こし、その衝撃により流体の漏洩が増大する。
【0010】
そこで、前記課題を達成するため、本発明は以下のいずれかの構成からなる。
(1)加圧流体の通過する通路(A)をもつ回転弁を用いて加圧流体の通路の切り替えを行うにあたり、回転弁として、前記通路(A)の一部となる通路(A−1)を備えた少なくとも1つの円盤と、前記通路(A)の別の一部となる通路(A−2)を備えた、前記円盤に接して回転自在に配設される回転子とが円筒内に設けられた回転弁を用い、かつ、前記回転弁に供給する加圧流体の圧力を低下させた後に前記回転子を回転し始め、該回転子の回転が完了して前記円盤の前記通路(A−1)と前記回転子の(A−2)とが連通状態となった後に前記加圧流体の圧力を上昇させることを特徴とする加圧流体の通路切り替え方法。
(2)前記回転弁として、前記円盤を少なくとも2つ有し、一方の円盤(a)が、一方の端部が閉塞されている前記円筒の他方の端部に液密に固定され、他方の円盤(b)が前記回転子を挟んで前記一方の円盤とは反対側でかつ前記円筒内を往復可能に設けられたものを用い、前記円盤(a)、(b)の間でかつ前記円筒の内周面と前記回転子との間に形成された中空円柱状の空間(x)、および、前記円盤(b)と前記円筒の内周面と前記円筒の閉塞端部とで形成された空間(y)を、圧力室として作用させることを特徴とする、前記(1)記載の加圧流体の通路切り替え方法。
(3)前記空間(y)の圧力を低下させて前記回転子を回転することを特徴とする、前記(2)記載の加圧流体の通路切り替え方法。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法で加圧流体の通路を切り替えながら擬似移動床による吸着分離を行うことを特徴とする分離方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来技術において問題となった回転子が回転する際の流体の漏洩を劇的に低減することが可能である。特に、擬似移動床による吸着分離に本発明を適用することで、目的成分の高い純度と回収率の達成が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1a】本発明において回転弁へ供給する流体の圧力を低下させる方法の一態様を示す模式図である(回転子静止時)。
【図1b】本発明において回転弁へ供給する流体の圧力を低下させる方法の一態様を示す模式図である(回転子回転時)。
【図2a】本発明において回転弁へ供給する流体の圧力を低下させる方法の別の態様を示す模式図である(回転子静止時)。
【図2b】本発明において回転弁へ供給する流体の圧力を低下させる方法の別の態様を示す模式図である(回転子回転時)。
【図3】本発明において回転弁の流体の通路を切り替えるシーケンスの例である。
【図4a】擬似移動床による吸着分離装置の一態様を示す模式図である。
【図4b】擬似移動床による吸着分離装置の他の態様を示す模式図である。
【図5】本発明において用いられる回転弁の一態様を示す概略断面図である。
【図6a】図5のY−Y矢視図である。
【図6b】図5のZ−Z矢視図である。
【図6c】図5のY′−Y′矢視図である。
【図6d】図5のZ′−Z′矢視図である。
【図7a】本発明において用いられる回転弁の一態様を示す概略断面図である。
【図7b】本発明において用いられる回転弁の別の態様を示す概略断面図である。
【図7c】本発明において用いられる回転弁のさらに別の態様を示す概略断面図である。
【図8】実施例で用いた擬似移動床吸着分離装置を示す概略断面図である。
【図9】実施例で用いた回転弁の概略断面図である。
【図10a】図9のY−Y矢視図である。
【図10b】図9のZ−Z矢視図である。
【図10c】図9のY′−Y′矢視図である。
【図10d】図9のZ′−Z′矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の通路切り替え方法が好適に実施される擬似移動床による吸着分離について以下に説明するが、本発明はこの用途に限定されるものではない。
【0014】
吸着分離装置は基本的には脱着帯、濃縮帯、吸着帯、回収帯の4帯からなる。各帯は各々吸着剤を充填し、かつ連続的に連結された1つ以上の吸着室で構成されている。各帯の機能は次の通りである。
吸着帯:原料混合物を吸着剤と接触させ、強吸着成分を選択的に吸着させるとともに、弱吸着成分および後述の脱着剤を含むラフィネートを抜き出す。
濃縮帯:吸着帯で強吸着成分を選択的に吸着した吸着剤を、脱着帯から抜き出されるエクストラクトの一部に接触させ、吸着剤中に残存する強吸着成分の純度を向上させる。
脱着帯:吸着剤上に濃縮された強吸着成分を脱着剤で追い出し、強吸着成分および脱着剤を含むエクストラクトを抜き出す。
回収帯:吸着帯から流れてくる弱吸着成分を吸着剤に吸着させ、脱着剤を含むラフィネートとして取り出すとともに、実質的に脱着剤のみとなった流れを回収する。
【0015】
上記各帯の操作を連続して繰返し、見掛け上、吸着剤を流体の流れとは向流方向に移動させる擬似移動床による吸着分離のシステムの一例を図4aに従って説明する。
【0016】
吸着剤が充填された複数個の吸着室2〜9が連結管14〜21によって連続的に連結され循環路を形成している。吸着室からの流体の抜き出しおよび吸着室への流体の供給は、吸着室間を結ぶ連結管14〜21と回転弁1を連結している連結管22〜29を通して行なわれ、回転弁1の回転子が一定時間ごとに一定角度を回転することにより回転弁内の流体の供給管(脱着剤の供給管36、原料混合物の供給管38)および抜き出し管(エクストラクトの抜き出し管37、ラフイネ−トの抜き出し管39)が吸着室に沿って順次移行し、下方向への流体の流れに対し、見掛上、吸着剤が上方向へ移動する擬似移動床による吸着分離が実施される。なお、図4aの状態における各吸着室は吸着室2、3が脱着帯、吸着室4、5が濃縮帯、吸着室6、7が吸着帯、吸着室8、9が回収帯をそれぞれ構成している。
【0017】
本発明は上記のような機能をもつ、回転弁を用いたシステムの改良に関するものである。擬似移動床による吸着分離は図4aに示す態様の他、図4bに示すように、各吸着室が回転弁を経由する連結管22〜30により直列に結ばれ、流体の供給管(脱着剤の供給管36、原料混合物の供給管38)および抜き出し管(エクストラクトの抜き出し管37、ラフイネ−トの抜き出し管39)が回転弁内で連結管22〜30に接続する態様にも適用することが可能である。
【0018】
本発明で使用される回転弁の例を図5に基づいて以下に説明するが、ここに記載する以外の態様であってもよい。
【0019】
図5は本発明の回転弁の一態様を示す断面図である。図5におけるY−Y矢視図、Z−Z矢視図、Y′−Y′矢視図、Z′−Z′矢視図については図6aから図6dに示してあり、以下これらを参照して説明する。
【0020】
図5、図6a〜図6dに示す回転弁1は、円筒68内に円盤48、49および回転子47を設けて構成される。円盤48は、一方の端部が隔壁71で閉塞されている円筒68の他方の端部に液密に固定され、円盤49は、前記円盤48とは回転子47を挟んで反対側に設けられている。いずれも円筒68の内側面に密着状に設けられている。
【0021】
円盤48には、回転弁内の通路の一部となる開孔部52、61、62、53〜60が設けられ、円盤49には環状溝69、開孔部70が設けられ、それらは回転子47に設けられた環状溝50、51および連通孔64〜67とそれぞれ連通可能となっている。また、開孔部53〜60は回転軸46と同心状をなす円周上に等間隔に配設されている。そして、円盤49は円筒内を筒軸方向に微小往復可能に設けられている。すなわち円盤49が円筒内をピストンのように円盤49側面と円筒68内側面との間の密着状態を保ちつつ、回転軸の長手方向に沿って微小に動くことが可能なようにゴムOリング74を介して設けられている。
【0022】
回転子47は円盤48、49の間に設けられ、回転軸46に連結され、回転軸46によって一定時間毎に間欠的に回転自在に配設されている。回転軸46の一端は回転子47に連結し、他端は駆動源に連結する。なお、円筒68の、回転軸46の駆動源側の端部は、隔壁71により閉塞している。
【0023】
回転子47は、円盤48、49よりも小径に構成する。その結果、円盤48、49の間でかつ回転子47の外周面と円筒68の内周面との間には中空円柱状の空間が形成される。この空間は、円盤48、49の側面を、ゴムOリング74により、円筒68に密着状にシールして設けることにより、密封性の高い空間となり、本発明においてはこれを大気圧よりも高い圧力に保持して圧力室73として作用させる。圧力室73には排出口75が設けられている。なお、圧力室73は、円盤と回転子の接触面から若干量漏れ出る、吸着室2〜9を流れる流体の混合物で満たされる。
【0024】
また、円盤49と円筒68の内周面と該円筒68の端部を閉塞している隔壁71とによっても空間が形成されるが、これも密封性の高い空間となるので、本発明においてはこれを圧力室72として作用させる。圧力室72には圧力調節口63が設けられ、圧力調節口63を介して圧力源に連結されている。圧力室72にはオイルが満たされ、油圧により円盤49の回転子47に対する接触圧力を瞬時に調整できるように構成されている。なお、圧力が瞬時に変更できれば、圧力を変更する手段は油圧に限定されない。
【0025】
以上のような回転弁を上記吸着分離のシステムに適用するには、円盤48に設けられた開孔部53、54、55、56、57、58、59、60に連結管22、23、24、25、26、27、28、29を、それぞれ連結する(図6a参照)。また、円盤48の中心には回転軸46と同軸に開孔部61を設け、この開孔部61にエクストラクトの抜き出し管37を連結する。
【0026】
他方、円盤49の端面49a(回転子47の端面47bと接続する側の面)には、回転軸46と同心状に環状溝69を設けるとともに、環状溝69に連通する開孔部70を設け、この開孔部70に円筒68を貫通して脱着剤の供給管36が連結される。
【0027】
上記回転子47には、さらに複数の連通孔を設ける。すなわち、回転子47には図5および図6a〜図6dに示す状態において、上記内側の環状溝50と円盤48の開孔部57とを連通するコ字形状の連通孔65と、円盤48における開孔部61、55を連通するコ字形状の連通孔66(図6c参照)と、外側の環状溝51と円盤48の開孔部59とを連通するコ字形状の連通孔64(図6c参照)と、円盤48の開孔部53と円盤49に設けた環状溝69とを連通する連通孔67とを設ける。
【0028】
しかして、図5および図6a〜図6dに示す状態においては、回転弁1内に、流体の通過する四つの通路が形成される。すなわち、
(a)開孔部70−環状溝69一連通孔67−開孔部53による通路A、
(b)開孔部55一連通孔66−開孔部61による通路B、
(c)開孔部52−環状溝50一連通孔65−開孔部57による通路C、
(d)開孔部59一連通孔64−環状溝51−開孔部62による通路D、
が上記四つの通路である。
【0029】
このように四つの通路が形成されている間、原料混合物の吸着分離が行われる。なお、その間、圧力室72は加圧状態(例えば1.4MPaG)に保持しておくことが好ましい。また、吸着分離中、回転弁1内を流通する各種流体は、加圧されているため、円盤48、49と回転子47との接触面から若干量漏れ出て、その漏れ液により圧力室73は絶えず加圧状態に保持されるが、圧力室73の圧力をほぼ一定値に保つため、排出口75を介して圧力計、リリ−フ弁(ともに図示せず)を連結し、リリ−フ弁の自動開閉等により圧力室73の圧力調整を行うことが好ましい。なお、圧力室73の圧力は、圧力室73内の混合液が開孔部内に逆流することを防止するために、回転弁内の通路を流通する流体のうち圧損が累積して最も低い圧力の流体と同じ圧力またはそれ以下の圧力に調整される。例えば、吸着室1室につき内部圧損が0.2MPaGとなる場合、連結管22に1.8MPaGの圧力を加えると、回転弁の通路に流通する流体のうち最も低い圧力の流体は連結管29を通過する0.4MPaGの圧力の流体であるので、圧力室73はそれより若干低圧の0.35MPaG程度の圧力に調整し維持することが好ましい。
【0030】
次いで、流体通路の切り替えを行うために上記回転子47を矢印(図5参照)の方向に1/8回転させると、上記通路A、B、C、Dがそれぞれ切り替わるが、このとき、本発明では、回転子の回転により、一時的に通路が密閉状態になる以前に、該回転弁に供給する流体の圧力を低下させ、該回転子の回転が完了し、流体の通路が連通状態となった以降に圧力を上昇させることが重要である。すなわち、回転弁に供給する加圧流体の圧力を低下させた後に回転子47を回転し始め、該回転子47の回転が完了して完全に流体通路が切り替わった後に再度前記流体の圧力を上昇させるのである。
【0031】
一般に、擬似移動床による吸着分離において目的成分を高い純度と回収率で分離するためには、各吸着室の流量を一定に保ち、安定した濃度分布を形成することが重要であると考えられている。流量が変動すると回転弁の切り替え時間とのバランスが崩れるだけでなく、流体の逆混合により目的成分の純度や回収率が低下するからである。しかしながら、本発明では、回転子47が回転する際に、回転弁に供給する流体の圧力を低くするが、圧力低下に伴う流量変動の影響よりも、固定円盤と回転子の接触面からの漏れ量を低減する効果の方がはるかに大きいことを見出し、目的成分を高い純度と回収率で分離することを可能にした。本発明において、回転子47の回転中の流体圧力は、好ましくは円盤48、49と回転子47とを密着させる押圧以下であり、さらに好ましくは該押圧の90%以下である。
【0032】
回転弁に供給する流体の圧力を一時的に低下させる方法としては、特に限定されないが、例えば以下の(1)〜(3)のいずれかの方法が好ましく用いられる。
【0033】
(1)回転弁へ供給する流体の少なくとも一部を、回転弁に通ずる通路以外の通路へ切り替える方法。
【0034】
この方法において、回転弁に通ずる通路以外へ流体を導くか否かは開閉弁により行われる。開閉弁とは弁の開度により流体の流量を調整または遮断する弁を指すが、その型式は特に限定されない。流体通路の切り替え先は、一般的には該流体を貯蔵するタンクや、流体を加圧して回転弁に供給する装置の吸引配管であるが特に限定されない。本方法の一例を図1aおよび図1bに示す。
【0035】
図1aは回転子が静止しているときの状態である。脱着剤タンク44の脱着剤をポンプ45により加圧して、供給管36を経由して回転弁1に供給する。供給流量は流量計42および開閉弁41により制御される。また回転弁に供給する脱着剤の圧力は、回転弁の近くに設置した圧力計40により測定することが出来る。供給管36から脱着剤タンク44へバイパス配管が設置されており、回転弁が静止している間は開閉弁43が閉止されている。
【0036】
図1bは回転子が回転しているときの状態である。回転弁1内の流体通路は、図1bに模式的に示すように密閉状態となっている。もし、脱着剤を高い圧力で供給し続けると、回転弁1の円盤と回転子に不均一な力が加わりシール性が低下して、吸着室2〜9および連結配管22〜29内の流体が、回転弁1の円盤と回転子の接触面から漏洩する。これを防止するために、バイパス配管の開閉弁43を開け、回転弁1にかかる脱着剤の圧力を低減する。
【0037】
(2)回転弁に流体を供給する通路に設置された開閉弁の開度を絞る方法。
【0038】
本方法の一例を図2aおよび図2bに示す。
【0039】
図2aは回転子が静止しているときの状態である。脱着剤の流れは図1aと同様である。
【0040】
図2bは回転子が回転しているときの状態である。回転弁1内の流体通路は、図1bと同様に密閉状態となっている。円盤と回転子の接触面から流体が漏洩するのを防ぐため、開閉弁41の開度を絞り、若しくは全閉にして回転弁1にかかる脱着剤の圧力を低減する。
【0041】
(3)流体を加圧して回転弁に供給する装置の出力を下げる方法。
【0042】
回転弁に流体を供給する装置としては、ポンプ、ファン、ブロワー、コンプレッサーなどいずれであってもよく、装置形式は特に限定されない。これらの出力は一般にインバーターによる各装置のモーター回転数の制御により行われるが、その他の手段であっても良い。
【0043】
なお、上記の例および図1〜図2は、脱着剤を回転弁経由で吸着室に供給する通路36について記載したが、原料混合物を回転弁経由で吸着室に供給する通路38についても適用することが可能である。また、上記回転弁に供給する流体の圧力を一時的に低下させる方法は、いずれか単独で行っても、複数の方法を組み合わせて行ってもよい。
【0044】
そして本発明においては、回転子47の回転の間、図5における圧力室72の加圧状態も緩和し(例えばl.0MPaG)、回転子47の回転をし易くすることが好ましい。回転が終了して新たに別の四つの通路が形成されると同時に圧力室72の加圧状態を回転前と同程度に強化し(例えば1.4MPaG)、静止時の漏れを防止する。このように、通路の形成と回転を順次繰返し、その都度、圧力室72の圧力を瞬時に変更せしめることにより、有効に流体の漏れを抑制しながら回転子を回転せしめることができる。
【0045】
このように、上記回転弁に供給する流体の圧力を一時的に低下させる操作に加え、前記円盤、回転子、円筒の間で形成される圧力室の圧力を回転子の回転中一時的に低下させる操作を組み合わせる場合は、シーケンスなどの手段により、各操作を順番に作動させることが好ましい。またシーケンスにより一連の流体通路の切り替え操作を行う時間は、生産性などの観点から短い方が好ましい。
【0046】
図1a、図1bの態様で吸着分離を行う場合のシーケンスの一例を図3に示す。擬似移動床は一定時間t秒毎に切り替えられるが、この間、回転子は静止しており、流体が回転弁および連結管を経由して吸着室に流れている。一定時間t秒が経過した後、流体通路の切り替え操作が行われる。先ず、バイパス配管の開閉弁43が開き、その1秒後に円盤と回転子を押圧する油圧の圧力を下げるとともに、回転子を回転させる。約3秒で回転子の回転が完結するとともに、油圧の圧力を元に戻す。その1秒後にバイパス配管の開閉弁を閉止する。この操作を繰り返し、擬似移動床による吸着分離操作を行う。このようなシーケンスは、DCS(Distributed Control System)や制御盤などに組み込んで行われることが望ましい。
【0047】
なお、上記説明においては、一方の端部を別部材の隔壁71で閉塞した円筒で構成された回転弁を用いる態様を説明したが、これに限定されず、例えば以下の型式の回転弁を用いる態様も本発明に含まれる。
(1)図5に示す態様において、別部材の隔壁71を設けず、円筒68の一方の端部を側面と一体的に閉塞したもの(図7a)。
(2)図5に示す態様において、隔壁71を設けず、代わりに円筒68の開口端部(円盤48の側)を閉鎖して、該閉鎖端部と、円盤48とで形成される円筒状の空間を圧力室72として作用させるもの(図7b)。
(3)図5に示す態様において、円盤49と円筒68の内周面と該円筒68の端部を閉塞している隔壁71とによる空間を圧力室72として作用させることに加えて、円筒68の開口端部(円盤48の側)を閉鎖して該閉鎖端部と円盤48とで形成される円筒状の空間も圧力室72として作用させるもの。(図7c)
また、本発明において、回転弁の材質は特に限定されないが、回転子自身または回転子の接触面は自己潤滑性を有する材質が良い。これに適する材質としては、例えば「テフロン」(登録商標)、「テフロン」含浸ガラス綿、弗化炭化黒鉛、ポリアセタ−ル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、またはナイロンあるいはポリエステル樹脂も含まれる。さらにはセラミックス類で回転子および/または円盤をつくってもよい。
【0048】
そして本発明における回転弁に供給する流体は、気体(圧縮性流体)、液体(非圧縮性流体)の何れであっても良いが、非圧縮性流体が好ましい。
【実施例】
【0049】
(吸着剤の製造)
SiO2/Al2O3のモル比が4.8であるNa−Y型ゼオライト(日揮触媒化成製)粉末100重量部に、アルミナゾル(日産化学製、Al2O3含量10重量%)を8重量部(Al2O3換算)、アルミナゲル(日揮触媒化成製、Al2O3含量70重量%)を7重量部(Al2O3換算)および全水分量が約50重量%になるように蒸留水を加えて約1時間混練し、0.3mmφの開孔径を有するスクリーンから押し出した。120℃で12時間乾燥後、500℃で2時間焼成してNa−Y成型体を得た。
【0050】
次いで硝酸カリウム(大塚化学製)を10重量%含む水溶液を用いて、Na−Y成型体を固液比3(L/kg)、温度85℃で1時間イオン交換する操作を10回行い、蒸留水で十分に水洗後、上記成型体のカチオンサイトの30%に相当する銀を含む硝酸銀(小島化学薬品製)水溶液を用いて上記成型体のイオン交換1回行い、蒸留水で十分水洗し、120℃で12時間乾燥後、500℃で2時間焼成し、吸着剤0.3Ag−K−Yを得た。
【0051】
(実施例1)
本実施例では、図8に示すとおり、吸着室2〜13が回転弁を経由する連結管22〜34により直列に結ばれ、流体の供給管(脱着剤の供給管36、原料混合物の供給管38)および抜き出し管(エクストラクトの抜き出し管37、ラフイネ−トの抜き出し管39)が回転弁内で連結管22〜34に接続する態様の擬似移動床吸着分離装置を用いた。各吸着室の内径は336mm、高さは1100mmとし、前記の方法により調製した吸着剤0.3Ag−K−Yを各室に64.8kg(合計777.6kg)充填した。
【0052】
回転弁には図9および図10a〜図10dに示すとおりのものを用いた。なお、図9は、回転弁の断面図であり、図10a〜図10dは、それぞれ図9におけるY−Y矢視図、Z−Z矢視図、Y′−Y′矢視図、Z′−Z′矢視図である。円筒68および円盤49、隔壁71で構成される圧力室72と、円筒68、円盤48、49および回転子47から構成される圧力室73を設け、圧力室72は圧力調整孔63を通じ、油圧により円盤49の回転子47に対する押圧を瞬時に変更できるようにし、圧力室73は圧力調整孔75を通じてリリーフ弁を設け、一定の圧力に制御した。円盤48、49の直径はともに180mm、回転子47の直径は160mmとし、円盤48、49にはそれぞれ回転軸46を中心とした直径130mmの円周上の12等分した位置に、回転弁内の通路の一部となる開孔部の開口(直径15mm)を設けた。また回転子47には回転軸46を中心とした直径130mmの円周上の12等分した位置に、連通孔の開口(直径15mm)を設け、回転子の両面47aおよび47bには、それぞれ回転軸を中心とした直径58mmの円周上に溝幅10mmの環状溝80、84を、直径92mmの円周上に、溝幅8mmの環状溝79、85をそれぞれ設けた。また脱着帯が4室、濃縮帯が3室、吸着帯が3室、回収帯が2室となるよう、連通孔81〜83、86、87を設けた。
【0053】
回転弁の切り替えは、図3に示す通り、先ず脱着剤のバイパス配管の開閉弁43が開き、その1秒後に円盤と回転子を押圧する油圧の圧力を下げるとともに回転子47が回転し、約3秒かけて回転が完了するとともに、油圧の圧力を元に戻し、その1秒後にバイパス配管の開閉弁を閉止するシーケンスを設けて行った。
【0054】
吸着分離条件を表1に、原料として用いたクロロトルエン異性体混合物の組成を表2に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
脱着剤として純度95%以上の3,4−ジクロロトルエンを用い、クロロトルエン異性体混合物から目的成分であるm−クロロトルエンをラフィネートとして、その他の異性体をエクストラクトとして分離した。
【0058】
回転弁が静止しているときの圧力計40が示す圧力は1.58MPaGであったので、回転子が静止しているときの圧力室72の圧力を1.25MPaG、回転子が回転するときの圧力室72の圧力を1.00MPaGとなるように油圧の圧力源を制御し、回転子が回転しているときの圧力計40が示す圧力が0.85MPaGとなるようバイパス弁43の開度を調整した。また連結管34の流体の圧力が0.11MPaGであったので、圧力室73の圧力は0.08MPaGとした。
【0059】
回転弁内部での流体の漏洩は直接測定できないため、吸着分離性能への影響を評価した。吸着分離性能を示す指標として下式で示す純度と回収率がある。
【0060】
【数1】
【0061】
【数2】
【0062】
純度と回収率はトレードオフの関係にあるため、回収率が75%で一定のときの純度を指標として用いた。吸着分離を開始し、回収率が75%で一定となった後に、ラフィネートを容積1m3のタンクに貯めて平均化し、該タンクから分析用の試料を採取した。各組成の分析はガスクロマトグラフィーにより行った。m−クロロトルエンの一般的な用途においては純度99.0%以上が要求されているが、本実施例において、回収率75%におけるm−クロロトルエンの純度は99.9%と非常に高い値が得られた。
【0063】
(比較例1)
回転子が回転する際に、脱着剤のバイパス配管の開閉弁43を開けないこと以外は、実施例1と同様にして吸着分離を行った。回転弁が静止しているときの圧力計40が示す圧力は1.58MPaGであったが、回転弁が回転しているときは流路が密閉状態になるため、圧力計40が示す圧力は1.80MPaまで上昇した。本比較例において、回収率75%におけるm−クロロトルエンの純度は98.4%と大きく低下した。
【0064】
(実施例2)
回転子が回転する際に、円盤と回転子を押圧する油圧の圧力を下げず、圧力室72の圧力を1.25MPaGで一定とした以外は実施例1と同様にして吸着分離を行った。本実施例において、安定して運転を継続できた時には、回収率75%におけるm−クロロトルエンの純度99.9%が得られたが、回転子が回転しにくく、時々回転不良を起こし、運転継続が困難となった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、回転弁の回転子が回転する際の漏れをほぼ完全に防止でき、目的成分の純度および回収率を向上させることができるので、擬似移動床による吸着分離や、圧力変動吸着分離(PSA)等で好適に実施することができる。
【符号の説明】
【0066】
1:回転弁
2〜13:吸着室
14〜20:吸着室と吸着室をつなぐ連結管
21:連結管
22〜34:回転弁と吸着室をつなぐ連結管
35:脱着剤戻り管
36:脱着剤の供給管
37:エクストラクトの抜き出し管
38:原料混合物の供給管
39:ラフィネートの抜き出し管
40:圧力計
41:開閉弁
42:流量計
43:開閉弁
44:脱着剤タンク
45:ポンプ
46:回転軸
47:回転子
48〜49:円盤
50〜51:環状溝
52〜62:開孔部
63:圧力調節口
64〜67:連通孔
68:円筒
69:環状溝
70:開孔部
71:隔壁
72:圧力室
73:圧力室
74: Oリング
75:圧力調節口
76〜78:開口部
79〜80:環状溝
81〜83:連通孔
84〜85:環状溝
86〜87:連通孔
88〜89:開口部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧流体の通過する通路(A)をもつ回転弁を用いて加圧流体の通路の切り替えを行うにあたり、回転弁として、前記通路(A)の一部となる通路(A−1)を備えた少なくとも1つの円盤と、前記通路(A)の別の一部となる通路(A−2)を備えた、前記円盤に接して回転自在に配設される回転子とが円筒内に設けられた回転弁を用い、かつ、前記回転弁に供給する加圧流体の圧力を低下させた後に前記回転子を回転し始め、該回転子の回転が完了して前記円盤の前記通路(A−1)と前記回転子の(A−2)とが連通状態となった後に前記加圧流体の圧力を上昇させることを特徴とする加圧流体の通路切り替え方法。
【請求項2】
前記回転弁として、前記円盤を少なくとも2つ有し、一方の円盤(a)が、一方の端部が閉塞されている前記円筒の他方の端部に液密に固定され、他方の円盤(b)が前記回転子を挟んで前記一方の円盤とは反対側でかつ前記円筒内を往復可能に設けられたものを用い、前記円盤(a)、(b)の間でかつ前記円筒の内周面と前記回転子との間に形成された中空円柱状の空間(x)、および、前記円盤(b)と前記円筒の内周面と前記円筒の閉塞端部とで形成された空間(y)を、圧力室として作用させることを特徴とする、請求項1記載の加圧流体の通路切り替え方法。
【請求項3】
前記空間(y)の圧力を低下させて前記回転子を回転することを特徴とする、請求項2記載の加圧流体の通路切り替え方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法で加圧流体の通路を切り替えながら擬似移動床による吸着分離を行うことを特徴とする分離方法。
【請求項1】
加圧流体の通過する通路(A)をもつ回転弁を用いて加圧流体の通路の切り替えを行うにあたり、回転弁として、前記通路(A)の一部となる通路(A−1)を備えた少なくとも1つの円盤と、前記通路(A)の別の一部となる通路(A−2)を備えた、前記円盤に接して回転自在に配設される回転子とが円筒内に設けられた回転弁を用い、かつ、前記回転弁に供給する加圧流体の圧力を低下させた後に前記回転子を回転し始め、該回転子の回転が完了して前記円盤の前記通路(A−1)と前記回転子の(A−2)とが連通状態となった後に前記加圧流体の圧力を上昇させることを特徴とする加圧流体の通路切り替え方法。
【請求項2】
前記回転弁として、前記円盤を少なくとも2つ有し、一方の円盤(a)が、一方の端部が閉塞されている前記円筒の他方の端部に液密に固定され、他方の円盤(b)が前記回転子を挟んで前記一方の円盤とは反対側でかつ前記円筒内を往復可能に設けられたものを用い、前記円盤(a)、(b)の間でかつ前記円筒の内周面と前記回転子との間に形成された中空円柱状の空間(x)、および、前記円盤(b)と前記円筒の内周面と前記円筒の閉塞端部とで形成された空間(y)を、圧力室として作用させることを特徴とする、請求項1記載の加圧流体の通路切り替え方法。
【請求項3】
前記空間(y)の圧力を低下させて前記回転子を回転することを特徴とする、請求項2記載の加圧流体の通路切り替え方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法で加圧流体の通路を切り替えながら擬似移動床による吸着分離を行うことを特徴とする分離方法。
【図1a】
【図1b】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図6d】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図8】
【図9】
【図10a】
【図10b】
【図10c】
【図10d】
【図1b】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図6d】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図8】
【図9】
【図10a】
【図10b】
【図10c】
【図10d】
【公開番号】特開2010−216636(P2010−216636A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67446(P2009−67446)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
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