説明

加工変質層検出装置

【課題】工作物の加工変質層を高精度に検出することが可能な加工変質層検出装置を提供することを目的とする。
【解決手段】工作物2の検査表面の幅W1よりも検出幅W2が小さいセンサヘッド12を有し、検査表面の加工変質層に応じた信号を出力するセンサ10と、センサヘッド12が検査表面に対して複数回の走査を行うように工作物2とセンサ10を相対移動させる移動手段15a,20と、センサ10の出力信号に応じた表示属性を記憶している表示属性記憶手段31と、センサ10による出力信号および表示属性に基づいて、検査表面に対応する加工変質層分布図を表示する表示手段30と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作物の表面の加工変質層をセンサにより検出する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
研削加工または切削加工などの加工を行った場合に、加工条件などにより工作物における加工部位の温度が高温になり、工作物の表面に加工変質層(一般に「研削焼け」または「切削焼け」とも言う場合がある)が生じることがある。この加工変質層は、工作物の機械的強度を低下させる要因となるおそれがあった。つまり、加工変質層が生じた工作物の表面からの深さやその範囲により機械的強度への影響が変わるものと考えられることから、工作物における加工変質層の有無およびその状態を高精度に検出することが望ましい。
【0003】
従来では、薬品を用いた検査や工作物を切断する破壊検査や、磁気方式の非破壊検査により、工作物の加工変質層を検出していた。例えば、特開平10−206395号公報(特許文献1)と、特開2000−180415号公報(特許文献2)には、工作物に渦電流を誘導し、その渦電流の変化または渦電流による誘導起電力に基づいて加工変質層を検出できるものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−206395号公報
【特許文献2】特開2000−180415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、薬品検査などの破壊検査は、検査対象の工作物は製品とすることができないため、検査対象に必要な数だけ余分に製造する必要がある上に、手間と時間がかかるという問題がある。また、磁気方式の非破壊検査においては、検査表面の微小な加工変質層の検出など、より高精度な検査の要請がある。
【0006】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、工作物の加工変質層を高精度に検出することが可能な加工変質層検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、
工作物の検査表面の加工変質層を検出する加工変質層検出装置であって
前記検査表面の幅よりも検出幅が小さいセンサヘッドを有し、前記検査表面の加工変質層に応じた信号を出力するセンサと、
前記センサヘッドが前記検査表面に対して複数回の走査を行うように前記工作物と前記センサを相対移動させる移動手段と、
前記センサの出力信号に応じた表示属性を記憶している表示属性記憶手段と、
前記センサによる出力信号および前記表示属性に基づいて、前記検査表面に対応する加工変質層分布図を表示する表示手段と、
を備えることである。
【0008】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1において、
前記加工変質層検出装置は、隣り合う走査における前記センサの出力信号に基づいて、当該隣り合う走査の間における前記検査表面の加工変質層に応じた値を補間する補間手段をさらに備え、
前記表示手段は、補間された値に基づいて加工変質層分布図を表示することである。
【0009】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1または2において、
前記加工変質層検出装置は、前記検査表面における加工変質層の有無を判定するための前記センサの出力信号の閾値を設定する閾値設定手段をさらに備え、
前記表示手段は、設定された前記閾値に基づいて加工変質層分布図を表示することである。
【0010】
請求項4に係る発明の特徴は、請求項3において、
前記表示属性は、前記センサの出力信号の値に応じた色調であり、
前記加工変質層検出装置は、前記閾値に基づいて前記色調を調整する調整手段をさらに備えることである。
【0011】
請求項5に係る発明の特徴は、請求項3または4において、
前記加工変質層分布図において、前記閾値よりも大きい前記センサの出力信号の値により構成される表示領域の面積に基づいて、ノイズの有無を判定するノイズ判定手段をさらに備えることである。
【0012】
請求項6に係る発明の特徴は、請求項5において、
前記表示属性記憶手段は、前記ノイズ判定手段によりノイズと判定された前記表示領域に割り当てる特定の表示属性を記憶していることである。
【0013】
請求項7に係る発明の特徴は、請求項1〜6の何れか一項において、
前記移動手段は、前記センサヘッドが前記検査表面の幅方向または幅方向に直交する前後方向の何れか一方向への走査と他方向への移動とを交互に繰り返すように、前記工作物と前記センサを相対移動させることである。
【0014】
請求項8に係る発明の特徴は、請求項1〜6の何れか一項において、
前記移動手段は、前記センサヘッドが前記検査表面の幅方向および幅方向に直交する前後方向の両方向成分を有する斜行方向への走査を行うように、前記工作物と前記センサを相対移動させることである。
【0015】
請求項9に係る発明の特徴は、請求項1〜8の何れか一項において、
前記センサヘッドの前記検査表面に対する幅方向位置により前記センサの出力信号の値が異なって出力される前記センサの検出特性に基づいて、前記センサの出力信号の値を補正する補正手段をさらに備えることである。
【0016】
請求項10に係る発明の特徴は、請求項1〜9の何れか一項において、
前記検査表面に対して複数の走査を同時に行うように、複数の前記センサを備えることである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によると、表示手段は、センサによる出力信号および表示属性に基づいて、加工変質層分布図を表示する構成となっている。センサの出力信号は、例えば、検査対象である工作物が筒状または柱状からなる場合に、工作物の検査表面において、センサが検査表面の前後方向(工作物の周方向)への走査と検査表面の幅方向(工作物の軸方向)への移動とを交互に繰り返すことにより出力される検出値の信号ある。ここで、検査表面の「前後方向」とは、検査表面の幅方向に直交する方向に相当する。
【0018】
また、加工変質層分布図は、工作物の検査表面に対応する分布図である。例えば、工作物が筒状または柱状からなる場合に、工作物の周面における周方向位相および軸方向位相に対応するように工作物の周面を平面状に展開したものとしてもよい。そして、表示手段は、それぞれの出力信号の値(検出値)を検出した所定の検査表面に相当する位置に割り付けるように分布させてそれぞれの検出値を検査結果として表示する。この時、加工変質層分布図として表示された検出値は、表示属性に基づいて表示される。表示属性は、例えば、検出値に応じて割り当てられる予め設定された属性である。
【0019】
このような構成とすることで、センサによる検査結果を視覚的に表示することができる。よって、複数回の走査による検査結果を、一括して目視で確認することができるとともに、移動方向へ並列に表示される検出値を評価することができる。例えば、筒状または柱状からなる工作物に対して、周方向へ走査するとともに軸方向へ移動する場合には、同一位相における検出値を比較して評価することができる。同様に、板状または自由曲面状からなる工作物に対して、検査表面の前後方向へ走査するとともに幅方向へ移動する場合には、同一の前後方向位置における検出値を比較して評価することができる。これにより、工作物における加工変質層の有無およびその状態を高精度に検出することができる。
【0020】
ここで、センサによる走査について、検査表面における所定の前後方向位置から同一の前後方向位置まで走査する場合に、一回の走査とカウントするものとしてもよい。例えば、筒状または柱状からなる工作物の場合に、所定の周方向位相から同一の周方向位相に戻るまでを一回の走査としてもよい。これにより、「複数回の走査」とは、検査表面に対して主とする走査の方向に一往復以上の走査をいうものとする。筒状または柱状からなる工作物においては、主とする走査の方向が工作物の周方向または軸方向の何れかによって異なるが、周方向の場合には一周以上の走査、軸方向の場合には一往復以上の走査をいうものとする。
【0021】
また、センサヘッドの検出幅は、センサを検査表面の幅方向へ移動して検査するように、検査表面の幅よりも小さくなっている。一般に、センサの検出値は、検出幅における何れかの部位で検出されたのかを特定されない。さらに、検査表面において微小な加工変質層が生じている場合に、検出幅に対して加工変質層が小さいと、検出値が小さくなり加工変質層が生じていないものと判定してしまうおそれがある。これに対して、センサヘッドの検出幅を小さくすることで、加工変質層を確実に検出し、加工変質層が工作物における検査表面の幅方向のどの部位に生じているのかを特定することができる。
【0022】
請求項2に係る発明によると、隣り合う走査の間における検査表面の加工変質層に応じた値を補間する補間手段を備える構成となっている。また、表示手段は、検査結果における検出値と補間された値に基づいて検査表面に対応させて加工変質層分布図を表示する。この時、隣り合う走査の間における検査表面の加工変質層に応じた値を算出することで、検査結果における出力信号を補うことができる。よって、表示手段は、加工変質層分布図において検査結果を視覚的により滑らかに表示をすることができる。よって、工作物における加工変質層の有無およびその状態を高精度に検出することができる。
【0023】
請求項3に係る発明によると、閾値を設定する閾値設定手段を備える構成となっている。閾値は、検査結果における検出値である出力信号の値と比較され、加工変質層の有無の判定に使用される値である。この閾値は、例えば、センサの複数回の走査による検査結果と、同一の工作物に対する薬品検査による検査結果とを比較し、両者の加工変質層の領域とが視覚的に類似するように、センサによる検査結果における複数の検出値に基づいて設定される。これにより、検査表面において正常な部位と加工変質層が生じている部位を、擬似的な薬品検査として視認することができる。よって、工作物の加工変質層をより確実に検出することができる。
【0024】
請求項4に係る発明によると、閾値に基づいて色調を調整する調整手段を備える構成となっている。また、表示手段は、属性手段により色調に変換された出力信号の値に基づいて、加工変質層分布図を表示する。そして、調整手段により色調を調整することで、例えば、加工変質層分布図の表示における加工変質層の領域を、薬品検査の検査結果において変色した加工変質層の領域と視覚的にさらに類似させることができる。このようにすることで、作業者は、複数回の走査による検査結果を、擬似的な薬品検査として工作物の加工変質層を視認することができ、加工変質層をより確実に検出することができる。
【0025】
請求項5に係る発明によると、検査結果として表示される示す加工変質層分布図において、ノイズの有無を判定するノイズ判定手段をさらに備える構成となっている。ノイズ判定手段は、表示手段の加工変質層分布図において閾値よりも大きいセンサの出力信号の値(検出値)により構成される表示領域の面積に基づいて、ノイズの有無を判定している。ここで、閾値よりも大きい複数の検出値は、工作物における検査表面の幅方向または前後方向に隣り合うことで表示領域を構成することになる。従来、センサによる検出値が閾値よりも大きい場合に、加工変質層が生じているものと判定することがあった。この場合、検査表面である検査表面に付着した異物などにより発生するノイズから加工変質層の有無を誤認するおそれがあった。これに対して、閾値よりも大きい検出値により構成される表示領域の面積に基づいて、例えば、一定の面積を有していない場合にはノイズと判定することで、加工変質層の有無を誤認することを防止することができる。
【0026】
請求項6に係る発明によると、ノイズと判定された表示領域に特定の表示属性が割り当てられる構成となっている。例えば、ノイズではないものと判定された検出値は、その大きさに応じて表示属性が割り当てられるものとする。これに対して、ノイズと判定された表示領域の検出値は、その大きさに関係なく特定の表示属性が割り当てられる。これにより、加工変質層分布図においてノイズに係る表示領域を明示することができる。よって、作業者にその表示領域における検査結果が加工変質層またはノイズにより生じたものかを確認するように促すことができる。
【0027】
請求項7に係る発明によると、加工変質層検出の検査において、センサヘッドは、検査表面の幅方向または幅方向に直交する前後方向の何れか一方向への走査と他方向への移動とを交互に繰り返す構成になっている。例えば、センサヘッドは、筒状または柱状からなる工作物の場合に、まず移動手段により工作物の周方向への走査を開始し、同一の周方向位相まで走査する。次に、移動手段は、センサヘッドを工作物の軸方向に移動させて、次回に走査する工作物の軸方向位置に位置決めする。そして、センサヘッドは、再び工作物の周方向への走査を行う。これを繰り返すことにより、加工変質層検出の検査を行う。また、センサヘッドが走査する方向を工作物の軸方向とし、移動する方向を工作物の周方向としてもよい。板状または自由曲面状からなる工作物の場合も同様に加工変質層検出の検査を行う。このような構成とすることで、安定的な検出値を取得することができるので、加工変質層をより高精度に検出することができる。
【0028】
請求項8に係る発明によると、加工変質層検出の検査において、センサヘッドは、検査表面の幅方向および幅方向に直交する前後方向の両方向成分を有する斜行方向への走査を行う構成となっている。これにより、例えば、筒状または柱状からなる工作物において周方向を主として走査する場合には、センサヘッドは工作物に対して螺旋状の軌跡を描くように走査することになる。または、工作物の軸方向を主として走査する場合には、センサヘッドは工作物に対して鋸歯状の軌跡を描くように走査することになる。板状または自由曲面状からなる工作物の場合には、上述した工作物の周面を展開した状態の軌跡を描くように走査することになる。このような構成とすることで、検査表面に対して、複数回に亘って円滑に検査を行うことができる。よって、検査に要する時間を短縮することができる。
【0029】
請求項9に係る発明によると、検査結果におけるセンサの出力信号の値を、センサの検出特性に基づいて補正する補正手段をさらに備える構成となっている。ここで、検査表面が幅方向に一様である場合であっても、センサヘッドの工作物に対する幅方向位置によりセンサの出力信号の値が異なることがある。これは、例えば、センサヘッドの一部が工作物の幅方向の端部からはみ出した状態では、出力信号の値が大幅に落ち込むというセンサの検出特性に起因している。そこで、このようなセンサの検出特性を考慮し、検出結果における出力信号の値を補正手段により補正することにより、適正な検査結果を取得することができる。これにより、作業者は、表示手段によってセンサの検出特性を反映した加工変質層分布図により検査結果を視覚的に評価し、加工変質層を高精度に検出することができる。
【0030】
請求項10に係る発明によると、複数のセンサを備える構成となっている。これにより、検査対象とする検査表面に対して複数の走査を同時に行うことで、検査表面の複数箇所の加工変質層検出の検査結果を取得することができる。例えば、センサが筒状または柱状からなる工作物の周方向への走査と工作物の軸方向への移動とを交互に繰り返すことにより検査する場合に、複数のセンサを軸方向に配置する構成とする。これにより、センサの軸方向移動の回数を低減することができるので、検査に要する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第一実施形態:加工変質層検出装置1の平面図である。
【図2】加工変質層検出装置1の磁気センサ10の内部を透視して示す側面図である。
【図3】BHN方式による信号出力の値を示すグラフである。
【図4】走査の軌跡と同一の周方向位相θにおける検出値を示す図である。
【図5】表示装置30による検査結果の加工変質層分布図である。
【図6】走査の軌跡と同一の周方向位相θにおける検出値を示す図である。
【図7】走査の軌跡と同一の周方向位相θにおける検出値を示す図である。
【図8】センサヘッド12による走査の軌跡を示す図である。(a)は螺旋状の軌跡であり、(b)は鋸歯状の軌跡である。
【図9】第二実施形態:表示装置130の一部を示すブロック図である。
【図10】磁気センサ10の検出特性を示すグラフである。
【図11】センサ位置に基づく検出値の補正を示す図である。
【図12】複数のセンサヘッド12を有する磁気センサ110を示す図である。
【図13】工作物2を把持する回転支持部220を示す図である。
【図14】センサヘッド12による走査の軌跡を示す図である。(a)は工作物2の平面部の走査の軌跡であり、(b)は工作物2の自由曲面部の走査の軌跡である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の加工変質層検出装置を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。
<第一実施形態>
加工変質層検出装置1は、磁気センサ10(本発明の「センサ」に相当する)と、回転支持部20と、表示装置30とを主体として構成される。工作物2は、筒状または柱状、板状、自由曲面状などの形状を含む被加工部材である。この工作物2は、加工変質層検出装置1による加工変質層の検査対象であり、工作物2の検査表面における加工変質層の有無および加工変質層の状態を検査される。本実施形態において、工作物2は、磁性材料からなり周面を検査表面とする円筒状部材であって、検査表面の幅方向を工作物2の軸方向、検査表面の前後方向を上記幅方向と直交する工作物2の周方向としている。工作機械3は、例えば、研削盤や旋盤、マシニングセンタなどの研削加工ないし切削加工を行う工作機械である。本実施形態において、工作機械3は、円筒研削盤であり、研削加工により工作物2を製造している。
【0033】
磁気センサ10は、センサ本体11と、センサヘッド12と、測定装置13と、ばね14と、センサ送り機構15を有している。ここで、本実施形態の加工変質層検出装置1は、バルクハウゼンノイズ方式(以下、「BHN方式」という)または、渦電流方式の磁気を用いた磁気方式の非破壊検査により、工作物2の加工変質層に応じた信号を出力するものである。それぞれの検査方式については、後述する。
【0034】
センサ本体11は、BHN方式または渦電流方式において、センサヘッド12が工作物2に磁場を印加するのに必要な電源をセンサヘッド12に供給する。センサヘッド12は、工作物2に磁場を印加すると共に、工作物2の加工変質層に伴って変化する信号を検出している。また、センサヘッド12は、図1に示すように、工作物2の軸方向幅W1(検査表面の幅)よりも信号を検出可能な検出幅W2が小さくなっている。測定装置13は、図2に示すように、センサヘッド12が検出した信号をセンサ本体11から信号線を介して受信する。また、測定装置13は、この出力信号の値を磁気センサ10の検出値として、後述する表示装置30へ出力している。ばね14は、センサ本体11の内部において、センサヘッド12の基端部に設けられている。このばね14は、センサヘッド12を工作物2の周面に所定の付勢力(押圧力)によって付勢している。これにより、本実施形態において、センサヘッド12は、工作物2と常に接触した状態となっている。
【0035】
センサ送り機構15は、センサ本体11の後方部(工作物2と反対側)に設けられ、センサ本体11を工作物2における検査表面の幅方向、即ち、工作物2の軸方向に移動可能に保持する機構である。よって、センサ送り機構15は、例えば、ボールねじとサーボモータ、または、油圧機構などにより構成される。また、センサ送り機構15は、センサ本体11を保持する保持部の移動方向位置を検出するリニアスケール15aを有する。リニアスケール15aは、検出した保持部の位置情報を表示装置30へ出力している。これにより、表示装置30は、初期情報である加工変質層検出装置1に配置された工作物2の位置情報と、センサ送り機構15の保持部の位置情報と、に基づいてセンサヘッド12の検査表面に対する幅方向位置、即ち、工作物2に対する軸方向位置を検知している。また、磁気センサ10は、上述したようなセンサ送り機構15を工作物2の軸直交方向に対して有する構成としてもよい。これにより、磁気センサ10は、工作物2の軸直交方向における可動範囲が大きくなり、多様な工作物2の形状にも対応して加工変質層の検出が可能となる。
【0036】
回転支持部20は、図2に示すように、駆動輪21と、調整車22を有し、工作物2を回転可能に支持している。駆動輪21は、工作物2の周面と接触し、図示しないモータにより回転駆動することで工作物2を回転させている。また、駆動輪21は、当該モータの回転位置を検出するエンコーダ21aを有する。エンコーダ21aは、検出したモータの回転位置情報を表示装置30へ出力している。これにより、表示装置30は、初期情報である工作物2の直径や周長などを含む形状情報と、モータの回転位置情報と、に基づいてセンサヘッド12の検査表面に対する前後方向位置、即ち、工作物2に対する周方向位相を検知している。調整車22は、駆動輪21と共に工作物2を支持し、工作物2の周面との摩擦力により従動回転している。
【0037】
このように、本実施形態において、センサ送り機構15および回転支持部20により、センサヘッド12が工作物2の周面に対して複数回の走査を行うように、工作物2とセンサ本体11を相対移動させている。センサ送り機構15および回転支持部20は、本発明の「移動手段」に相当する。
【0038】
表示装置30は、表示属性記憶部31と、補間部32と、閾値設定部33と、調整部34と、ノイズ判定部35と、モニタ36とを有する表示手段である。また、表示装置30は、上述したように、リニアスケール15aよりセンサ送り機構15の保持部の位置情報と、エンコーダ21aより駆動輪21のモータの回転位置情報とをそれぞれ入力されている。そして、これらの情報からセンサヘッド12の工作物2に対する軸方向位置および周方向位相を検知している。そして、測定装置13より入力される磁気センサ10の出力信号の値(検出値)と、当該検出値の検出時における工作物2の所定の検査表面(軸方向位置および周方向位相)とを関連付けて表示装置30のメモリに記憶している。表示装置30は、関連付けられた磁気センサ10の複数回の走査による出力信号および表示属性に基づいて、加工変質層分布図をモニタ36に表示する。詳細については後述する。
【0039】
表示属性記憶部31は、磁気センサ10の出力信号に応じた表示属性を記憶している表示属性記憶手段である。本実施形態において、表示属性は、モニタ36に表示される加工変質層分布図に対応し、出力信号の値に応じた表示色として記憶されるマップである。つまり、検査結果における出力信号の値は、その大きさに応じた色調に変換されて表示される。
【0040】
補間部32は、隣り合う走査における磁気センサ10の出力信号に基づいて、当該隣り合う走査の間における工作物2の周面の加工変質層に応じた値を補間する補間手段である。ここで、表示装置30は、検査結果における検出値を、当該検出値の検出時における工作物2の周面に対応する加工変質層分布図の位置に表示する。この時、隣り合う走査の軌跡の間隔は、磁気センサ10の移動距離だけ離間している。そこで、補間部32は、隣り合う走査の間において磁気センサ10が走査した場合の検出値である値を補間している。本実施形態においては、隣り合う走査における同一位相の検出値から算出される一次関数(直線)に基づいて補間している。
【0041】
閾値設定部33は、工作物2の周面における加工変質層の有無を判定するための磁気センサ10の出力信号の閾値Tを設定する閾値設定手段である。この閾値Tは、本実施形態において、以下に例示するように設定される。まず、磁気センサ10により予め所定の工作物2に対して検査し、複数回の走査による検査結果を取得する。次に、この所定の工作物2を薬品検査し、加工変質層の有無および状態を検出する。そして、閾値設定部33は、この薬品検査の検査結果において変色した加工変質層の領域と、モニタ36に表示された磁気センサ10による検査結果における加工変質層の領域とが視覚的に類似するように、磁気センサ10による複数の検出値に基づいて閾値Tを設定する。このように、閾値設定部33により基準となる閾値Tを設定することにより、次回以降の工作物2の周面において正常な部位と加工変質層が生じている部位を、擬似的な薬品検査として視認することができる。
【0042】
調整部34は、閾値設定部33により設定された閾値Tに基づいて色調を調整する調整手段である。また、表示装置30は、上述したように、検査結果における出力信号を表示属性により色調に変換し、加工変質層分布図を表示する。そこで、調整部34により表示属性の色調を調整することで、例えば、検査結果の表示における加工変質層の領域を、薬品検査の検査結果において変色した加工変質層の領域と視覚的にさらに類似させることができる。これにより、検査結果を擬似的な薬品検査として加工変質層分布図から視認することができ、加工変質層をより確実に検出することができる。また、閾値Tの前後において表示属性の色調を大きく変化させることにより、加工変質層の領域を明示するものとしてもよい。
【0043】
ノイズ判定部35は、表示装置30により表示された検査結果におけるノイズの有無を判定するノイズ判定手段である。ノイズ判定部35は、モニタ36に表示された加工変質層分布図において、閾値Tよりも大きい磁気センサ10の出力信号の値により構成される表示領域の面積に基づいて、ノイズの有無を判定している。ここで、閾値Tよりも大きい複数の出力信号の値は、工作物2における検査表面の幅方向(軸方向)または幅方向に直交する前後方向(周方向)に隣り合うことで表示領域を構成することになる。この表示領域は、加工変質層が生じている部位の場合には一定の面積を超える領域となる。これに対して、出力信号が工作物2の周面に付着した異物などにより発生するノイズである場合に、表示領域は、異物の表面積ほどの面積の領域となる。つまり、閾値Tよりも大きい出力信号の値により構成される表示領域の面積に基づいて、上述した一定の面積と比較することによりノイズの有無を判定することが可能となる。よって、加工変質層の有無を誤認することを防止することができる。
【0044】
さらに、本実施形態では、ノイズ判定部35によりノイズと判定された表示領域に特定の表示属性が割り当てられる構成としている。特定の表示属性に基づいて、その表示領域を表示することで、加工変質層分布図においてノイズに係る表示領域を明示することができる。これにより、作業者にその表示領域における検査結果が加工変質層またはノイズにより生じたものかを確認するように促すことができる。
【0045】
ここで、BHN方式による加工変質層の検査方法について説明する。まず、バルクハウゼンノイズとは、強磁性体である試験体に磁場を印加した際に、試験体の磁壁の不連続的な移動により発生する磁気ノイズのことである。BHN方式は、コイルを用いてこの不規則な磁気ノイズを微小電圧のパルス信号として検知することで、試験体に加工変質層が生じているかを判断することができる。一般的に、BHN方式は、強磁性体である試験体の内部応力や加工変質層の検出、材料表面の探傷検査などに利用される。次に、渦電流方式による加工変質層の検査方法について説明する。渦電流方式は、一次コイルにより試験体に磁場を印加し、励磁電流を流すことで渦電流を誘導する。そして、磁場を印加する一次コイルと、試験体とを相対的に移動させる。この移動によって変化する渦電流の誘導起電力を二次コイルによって検出することで、試験体に加工変質層が生じているかを判断することができる。
【0046】
本実施形態においてBHN方式により工作物2の加工変質層の検査を行う場合について説明する。まず、センサ送り機構15によりセンサ本体11を工作物2の軸方向(図1の左右方向)に移動させて、センサヘッド12を工作物2における初期の軸方向位置に位置決めする。初期の軸方向位置は、工作物2の一側の端部と、センサヘッド12の検出幅W2の端部とを揃えた位置としている。この時、センサ送り機構15のリニアスケール15aは、センサ本体11を保持する保持部の位置情報を表示装置30へ出力する。また、表示装置30には、加工変質層検出装置1に配置された工作物2の位置情報および工作物2の直径や周長などを含む形状情報が初期情報として入力されている。
【0047】
次に、センサヘッド12がセンサ本体11により供給される電源により工作物2に磁場を発生させる。そして、工作物2に磁場が印加された状態で、回転支持部20の駆動輪21が工作物2を軸周りに回転させる。すると、センサヘッド12に内蔵されるコイルにより、工作物2が発生する磁気ノイズが微小電圧のパルス信号として検出される。これを工作物2の全周に亘って走査すると、加工変質層のある部位においては、パルス信号が大きくなるように変動する。また、測定装置13は、センサ本体11から受信したセンサヘッド12により検出した出力信号の値を磁気センサ10の検出値として表示装置30へ出力している。さらに、回転支持部20における駆動輪21のエンコーダ21aは、駆動輪21を回転駆動させるモータの回転位置情報を表示装置30へ出力している。これにより、図3に示すように、所定の軸方向位置における研削焼けが生じた加工変質層の検査結果が取得される。
【0048】
さらに、センサ送り機構15によりセンサヘッド12を工作物2の軸方向に移動させて、次回に走査する軸方向位置に位置決めする。次回に走査する軸方向位置は、図1に示すように、今回に走査した軸方向位置から間隔P1だけ移動した位置としている。この時、センサ送り機構15のリニアスケール15aは、センサ本体11を保持する保持部の位置情報を表示装置30へ出力する。そして、先と同様に、回転支持部20の駆動輪21により工作物2を軸回りに回転させて、センサヘッド12がパルス信号を検出する。このようにして、加工変質層の検査は、センサヘッド12が工作物2の周方向への走査と、工作物2の軸方向への移動とを交互に繰り返すことにより行われる。
【0049】
本実施形態において、工作物2の軸方向幅W1は18mm、センサヘッド12の検出幅W2は4mm、センサ送り機構15によるセンサ本体11の移動する間隔P1は1mmとしている。また、センサヘッド12は、工作物2に対して、上述した初期の軸方向位置である一側の端部から他側の端部までを間隔P1で移動する。つまり、この加工変質層の検査によって、磁気センサ10の15回に亘る走査による検査結果が取得される。また、表示装置30は、検査結果における出力信号の値(検出値)と、当該検出値の検出時における工作物2の周面における所定の検査表面(軸方向位置および周方向位相)とを関連付けてメモリに記憶している。
【0050】
ここで、表示装置30は、出力信号の値をセンサヘッド12の検出幅W2の中央部における値として表示する。そのため、補間部32は、間隔P1だけ離間する隣り合う走査の間における工作物2の周面の加工変質層に対応した値を、表示装置30のメモリに記憶された出力信号の値に基づいて補間している。図4に示すように、補間部32は、磁気センサ10の15回に亘る走査による検査結果において、同一の周方向位相θの検出値を直線補間している。図4において、周方向位相θにおける検出値S1,S2は、上部のグラフにおける検出値S1,S2に対応している。
【0051】
そして、表示装置30は、図5に示すように、検査結果における出力信号と表示属性に基づいてモニタ36に加工変質層分布図を表示する。この加工変質層分布図は、本実施形態において、工作物2の周面を平面状に展開したものとしている。ここで、表示装置30は、出力信号の値をセンサヘッド12の検出幅W2の中央部における値として表示している。よって、図5の縦方向の表示幅は、センサヘッド12が工作物2に対して位置決めされた各軸方向位置を示す工作物2の一側の端部から他側の端部までの距離としている。つまり、加工変質層分布図の縦方向の表示幅は、図4の表示幅W3となっている。このように加工変質層分布図は、工作物2の周面における周方向位相および軸方向位置に対応するものである。ここで、検査における出力信号の値は、その大きさに応じた色調に変換され、図5に示すように、出力信号の値が大きいほど濃色で表示されている。そして、加工変質層分布図において、色調がより濃色であるほど工作物2の周面に加工変質層が生じているものと考えられる。これにより、検出された加工変質層の深さやその状態を高精度に表示することが可能となる。
【0052】
また、本実施形態において、出力信号の値は、単一色の濃淡で表示されるものとした。これに対して、色彩を有する表示属性を出力信号の値に応じて割り当て、色別に表示する構成としてもよい。これにより、例えば、出力信号の値が閾値Tをよりも大きくなった場合に、所定の色で表示することにより、加工変質層の有無およびその範囲を視覚的に表示することができる。
【0053】
このように、表示装置30は、磁気センサ10の複数回の走査によるに亘る検査結果に基づいて加工変質層分布図を表示している。このような加工変質層分布図による表示において、図5に示すように、濃色でかつ面積の小さい領域Rが表示されることがある。この領域Rは、加工変質層による出力信号とは異なり、工作物2の周面に付着した異物により、ノイズとして出力信号の値が閾値Tよりも大きくなった部位である。そこで、ノイズ判定部35は、領域Rの面積が一定の面積を有しているかを判定することにより、ノイズと判定している。これにより、加工変質層の有無を誤認することを防止することができる。
【0054】
また、ノイズ判定部35の判定に基づいて、領域Rに特定の表示属性を割り当てて表示し、ノイズに係る表示領域を明示している。例えば、ノイズ判定部35によりノイズではないものと判定された表示領域は、出力信号の値の大きさに応じて色彩を有する表示属性を割り当てられるのに対して、ノイズと判定された表示領域は、その大きさに関係なく灰色の表示属性が割り当てられるものとする。これにより、作業者にその表示領域における検査結果が加工変質層またはノイズにより生じたものかを確認するように促すことができる。
【0055】
上述した加工変質層検出装置1によれば、磁気センサ10による検査結果に基づいて加工変質層分布図により視覚的に表示することができる。よって、複数回の走査による検査結果を、一括して目視で確認することができるとともに、移動方向へ並列に表示される出力信号の値を評価することができる。従って、工作物2における加工変質層の有無およびその状態を高精度に検出することができる。また、センサヘッド12の検出幅W2は、磁気センサ10を工作物2の軸方向へ移動して検査するように、工作物2の軸方向幅W1よりも小さくなっている。これにより、工作物2の周面における加工変質層を確実に検出し、加工変質層が工作物2の軸方向のどの部位に生じているのかを特定することができる。
【0056】
また、補間部32によりこれにより、間隔P1だけ離間する隣り合う走査の間における工作物2の周面の加工変質層に対応した値を補間している。これにより、表示装置30は、検査結果全体として、出力信号を補うことができるので、加工変質層分布図において出力信号の色調が徐変するように検査結果を表示することができる。また、本実施形態においては、一次関数(直線)に基づいて検査結果を補間するものとしたが、その他に、曲線補間などに基づいて補間するものとしてもよい。
【0057】
<第一実施形態の変形態様>
第一実施形態の変形態様について、図6〜図8を参照して説明する。図6は、走査の軌跡と同一の周方向位相θの検出値を示す図である。図7は、走査の軌跡と同一の周方向位相θの検出値を示す図である。図8は、センサヘッド12による走査の軌跡を示す図である。図8(a)は螺旋状の軌跡であり、図8(b)は鋸歯状の軌跡である。第一実施形態では、図1に示すように、センサ送り機構15によりセンサ本体11を間隔P1だけ移動させるものとした。そして、表示装置30は、出力信号の値をセンサヘッド12の検出幅W2の中央部における値とし、補間部32により隣り合う走査の間において磁気センサ10が走査した場合の検出値である値を補間して、表示幅W3をもって表示していた。
【0058】
これに対して、図6に示すように、センサ送り機構15によるセンサ本体11の移動する間隔P2を、センサヘッド12の検出幅W2と同程度の距離とする。つまり、隣り合う走査におけるセンサヘッド12の検出幅W2が重ならないようにセンサ本体11を移動させる。そして、表示装置30は、補間部32により補間せずに、一回の走査における出力信号の値をセンサヘッド12の検出幅W2と等しい幅をもって表示するものとしてもよい。これにより、加工変質層分布図は、工作物2の軸方向幅W1と同程度の表示幅W4で表示することができる。また、間隔P2をセンサヘッド12の検出幅W2よりも大きくし、補間部32により間隔P2の間を走査した場合の検出値を補間する構成としてもよい。
【0059】
または、図7に示すように、センサ送り機構15によるセンサ本体11の移動する間隔P3を、センサヘッド12の検出幅W2の半分から検出幅W2までの間の長さとする。つまり、隣り合う走査におけるセンサヘッド12の検出幅W2の一部が重なるようにセンサ本体11を移動させる。そして、表示装置30は、隣り合う走査におけるセンサヘッド12の検出幅W2と重なっていない中央部を含む幅で一回の走査における出力信号の値を表示するものとしてもよい。これにより、加工変質層分布図は、工作物2の軸方向幅W1と同程度の表示幅W5で表示することができる。この時、隣り合う走査におけるセンサヘッド12の検出幅W2と重なっている部位の出力信号の値については、両側の出力信号の値による平均値、または補間部32によって、例えば一次関数に基づいて直線補間されるものとしてもよい。
【0060】
また、第一実施形態では、センサヘッド12が工作物2の周方向への走査と、工作物2の軸方向への移動とを交互に繰り返すことにより加工変質層の検査を行っていた。これに対して、センサ送り機構15によるセンサ本体11の移動と、駆動輪21による工作物2の回転駆動とを同時に行うことによって、加工変質層の検査を行ってもよい。これにより、センサヘッド12が工作物2における検査表面の幅方向(軸方向)および幅方向に直交する前後方向(周方向)の両方向成分を有する斜行方向へ走査を行うことになる。この態様においては、さらに十分な検査を行うために、センサヘッド12の初期位置および終端位置において、工作物2の軸方向または周方向への移動を伴わない走査を行ってもよい。
【0061】
例えば、工作物2の周方向を主として走査する場合には、図8(a)に示すように、センサヘッド12は工作物2に対して螺旋状の軌跡を描くように走査することになる。または、工作物2の軸方向を主として走査する場合には、図8(b)に示すように、センサヘッド12は工作物2に対して鋸歯状の軌跡を描くように走査することになる。よって、工作物2の検査表面である周面に対して、複数回に亘って円滑に検査を行うことができる。よって、検査に要する時間を短縮することができる。
【0062】
<第二実施形態>
第二実施形態の構成について、図9〜図11を参照して説明する。図9は、第二実施形態における表示装置130の一部を示すブロック図である。図10は、磁気センサ10の検出特性を示すグラフである。図11は、センサ位置に基づく検出値の補正を示す図である。
ここで、第二実施形態の構成は、主に、第一実施形態の加工変質層検出装置1に対して、図9に示すように、補正部137を備える点が相違する。なお、その他の構成については、第一実施形態と同一であるため、詳細な説明を省略する。以下、相違点のみについて説明する。
【0063】
補正部137は、検査結果における信号出力の値を、磁気センサ10の検出特性に基づいて補正する補正手段である。ここで、磁気センサ10の検出特性について説明する。工作物2の周面が軸方向に一様である場合であっても、センサヘッド12の検査表面に対する幅方向位置(軸方向位置)により磁気センサ10の出力信号の値が異なることがある。この「周面が軸方向に一様」とは、一例として、工作物2の周面において、一側の端部から他側の端部まで加工変質層が生じていない正常な状態をいう。磁気センサ10の検出特性は、例えば、センサヘッド12の一部が工作物2の軸方向の端部からはみ出した状態では、図10に示すように、出力信号の値が大幅に落ち込むという磁気センサ10の検出特性に起因している。つまり、センサ位置Dにおける検出値は、本来出力されるべき検出値に対して、磁気センサ10の検出特性により下降量Fだけ小さく検出されることがある。
【0064】
第一実施形態では、磁気センサ10の検出特性により出力信号の値が落ち込むことを防止するために、センサヘッド12の検出幅W2の端部が工作物2の端部からはみ出さないように、センサヘッド12の初期位置および終端位置を設定していた。これに対して、本実施形態においては、図11に示すように、磁気センサ10の検出特性を考慮し、出力信号の値が落ち込む分の下降量Fを補填するように、検出結果における出力信号の値を補正部137により補正する構成とする。補正部137は、最初に表示装置130のメモリに記憶された検査結果における検出値S3を取得する。そして、その検出値S3に関連付けられた工作物2の周面における所定の検査表面(軸方向位置および周方向位相)と、検出特性による下降量Fとに基づいて補正量Δを算出する。表示装置130は、検出値S3に補正量Δを加算し、補正された検出値S3'を補正部137から入力してメモリに記憶する。
【0065】
このような構成においても第一実施形態と同様の効果を奏する。また、補正部137により、センサヘッド12の検出幅W2の端部が工作物2の端部からはみ出している場合にも、適正な検査結果を取得することができる。よって、作業者は、表示装置30により磁気センサ10の検出特性を反映した加工変質層分布図により検査結果を視覚的に評価し、加工変質層を高精度に検出することができる。
【0066】
<その他>
第一、第二実施形態において、加工変質層検出装置1は、一つの磁気センサ10を備えるものとした。これに対して、複数の磁気センサ10を備える構成としてもよい。また、例えば、図12に示すように、二つのセンサヘッド12を有するセンサ本体111から磁気センサ110を構成するものとしてもよい。これにより、検査対象とする工作物2の周面に対して複数の走査を同時に行うことで、周面の複数箇所の加工変質層検出の検査表面を取得することができる。例えば、磁気センサ10が工作物2の周方向への走査と工作物2の軸方向への移動とを交互に繰り返すことにより検査する場合に、磁気センサ10の軸方向移動の回数を低減することができるので、検査に要する時間を短縮することができる。
【0067】
また、センサヘッド12は、ばね14による所定の付勢力によって、工作物2の周面に付勢され常に接触した状態となっている。これに対して、センサヘッド12と工作物2の周面との間に挟まれるようにフィルムを介在させる構成としてもよい。このフィルムは、例えば、非導電性および非磁性である樹脂などを材質とする皮膜材である。これにより、センサヘッド12自身が工作物2に対して非接触となり、接触によるセンサヘッド12の摩耗を防止できる。また、センサヘッド12と工作物2の周面との離隔距離を所定範囲に維持し、安定した加工変質層の検査を行うことができる。
【0068】
その他に、加工変質層検出装置1は、回転支持部20により工作物2を回転可能に支持するものとした。これに対して、図13に示すように、回転支持部220によって、環状の工作物2の内周側から回転可能に把持する構成としてもよい。ここで、回転支持部220は、チャック本体223と、複数の爪224とを有する。チャック本体223は、周方向へ等間隔に配置された爪224を複数有している。回転支持部220は、工作物2の内周面に複数の爪224が接触することで工作物2を把持し、図示しないモータにより回転駆動することで工作物2を回転させている。また、チャック本体223は、当該モータの回転位置を検出するエンコーダ223aを有する。エンコーダ223aは、検出したモータの回転位置情報を表示装置30へ出力している。このような構成においても同様の効果を奏するものである。
【0069】
また、加工変質層検出装置1は、円筒状部材である工作物2の外側の周面を検査表面とするものとした。これに対して、工作物2の内側の周面を検査表面とする構成としてもよい。例えば、回転支持部220は、工作物2の外周面に複数の爪224が接触することで工作物2を把持し、モータにより回転駆動することで工作物2を回転させる。そして、回転駆動する工作物2の内側にセンサヘッド12を挿入し、工作物2の内周面における加工変質層の検査を行う。また、この態様において、加工変質層分布図は、工作物2の内周面を平面状に展開したものとしてものとしてもよい。このような構成においても同様の効果を奏するものである。
【0070】
第一、第二実施形態において、加工変質層検出装置1は、円筒状部材からなる工作物2を検査対象とするものとして説明した。上述したように、工作物2は、筒状の他に、柱状、板状、自由曲面状などの形状であって、それらの平面部や自由曲面部を検査するものとしてもよい。例えば、平面研削盤により、工作物2の側面を研削した場合に、その平面部を走査して加工変質層が生じているかを検査する。この時、工作物2が円筒状部材である場合には、図14(a)に示すように、走査の軌跡が同心円を描くように、加工変質層の検査を行ってもよい。また、工作物2を一定回転するように支持し、走査の軌跡が渦巻き状となるように、外側から内側ないし内側から外側に向かって検査するものとしてもよい。この時、検査表面の幅方向を工作物2の径方向、検査表面の前後方向を工作物2の周方向としている。
【0071】
その他、自由曲面部を有する板状の工作物2をマシニングセンタなどにより切削加工した場合に、走査の軌跡が自由曲面部に倣うように、加工変質層の検査を行ってもよい。例えば、図14(b)に示すように、走査の軌跡が自由曲面部の形状に応じて変化するように、センサヘッド12の位置を移動させて検査する構成としてもよい。この時、検査表面の幅方向を工作物2の一辺の延伸方向、検査表面の前後方向を当該延伸方向に直交する方向としている。このような構成においても同様の効果を奏するものである。
【0072】
加工変質層検出装置1は、従来の加工変質層検出装置と併せた用途としてもよい。従来の加工変質層検出装置は、例えば、工作物2の軸方向幅と同程度の検出幅であるセンサヘッドを有する磁気センサを備えるものである。そして、従来の加工変質層検出装置により、製造される工作物2の全品検査を実施する。次に、その全品検査において、閾値Tよりも大きな出力信号の値が検出された工作物2に対して、加工変質層検出装置1により改めて詳細な検査を行う。このような用途により、加工変質層が生じているおそれがある特定の工作物2のみに対して詳細な検査を実行することができる。
【0073】
その他、加工変質層検出装置1を工作機械3の機内に配置する構成としてもよい。例えば、工作機械3としてセンタレス研削盤に加工変質層検出装置1を適用した場合には、センタレス研削盤が備える砥石車と、調整車と、ワークレストが加工変質層検出装置1の回転支持部20に相当するものとなる。このような構成とすることで、工作物2の周面における加工変質層を確実に検出することができる。また、工作物2を研削加工した直後に確実に加工変質層を検出できる。よって、より早期に工作物2の加工変質層検出が可能となるため、製品不良を早期発見できる。このことにより、サイクルタイムの短縮を図ることができる。
【符号の説明】
【0074】
1:加工変質層検出装置、 2:工作物、 3:工作機械
10,110:磁気センサ、 11,111:センサ本体、 12:センサヘッド
13:測定装置、 14:ばね、 15:センサ送り機構、 15a:リニアスケール
20,220:回転支持部、 21:駆動輪、 21a,223a:エンコーダ
22:調整車、 223:チャック本体、 224:爪
30,130:表示装置(表示手段)、 31:表示属性記憶部(表示属性記憶手段)
32:補間部(補間手段)、33:閾値設定部(閾値設定手段)
34:調整部(調整手段)、 35:ノイズ判定部(ノイズ判定手段)
36:モニタ、 137:補正部(補正手段)
T:閾値、 W1:軸方向幅、 W2:検出幅、 W3〜W5:表示幅
θ:周方向位相、 S1〜S3,S3':検出値、 R:領域
D:センサ位置、 F:下降量、 Δ:補正量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物の検査表面の加工変質層を検出する加工変質層検出装置であって
前記検査表面の幅よりも検出幅が小さいセンサヘッドを有し、前記検査表面の加工変質層に応じた信号を出力するセンサと、
前記センサヘッドが前記検査表面に対して複数回の走査を行うように前記工作物と前記センサを相対移動させる移動手段と、
前記センサの出力信号に応じた表示属性を記憶している表示属性記憶手段と、
前記センサによる出力信号および前記表示属性に基づいて、前記検査表面に対応する加工変質層分布図を表示する表示手段と、
を備えることを特徴とする加工変質層検出装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記加工変質層検出装置は、隣り合う走査における前記センサの出力信号に基づいて、当該隣り合う走査の間における前記検査表面の加工変質層に応じた値を補間する補間手段をさらに備え、
前記表示手段は、補間された値に基づいて加工変質層分布図を表示することを特徴とする加工変質層検出装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記加工変質層検出装置は、前記検査表面における加工変質層の有無を判定するための前記センサの出力信号の閾値を設定する閾値設定手段をさらに備え、
前記表示手段は、設定された前記閾値に基づいて加工変質層分布図を表示することを特徴とする加工変質層検出装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記表示属性は、前記センサの出力信号の値に応じた色調であり、
前記加工変質層検出装置は、前記閾値に基づいて前記色調を調整する調整手段をさらに備えることを特徴とする加工変質層検出装置。
【請求項5】
請求項3または4において、
前記加工変質層分布図において、前記閾値よりも大きい前記センサの出力信号の値により構成される表示領域の面積に基づいて、ノイズの有無を判定するノイズ判定手段をさらに備えることを特徴とする加工変質層検出装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記表示属性記憶手段は、前記ノイズ判定手段によりノイズと判定された前記表示領域に割り当てる特定の表示属性を記憶していることを特徴とする加工変質層検出装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項において、
前記移動手段は、前記センサヘッドが前記検査表面の幅方向または幅方向に直交する前後方向の何れか一方向への走査と他方向への移動とを交互に繰り返すように、前記工作物と前記センサを相対移動させることを特徴とする加工変質層検出装置。
【請求項8】
請求項1〜6の何れか一項において、
前記移動手段は、前記センサヘッドが前記検査表面の幅方向および幅方向に直交する前後方向の両方向成分を有する斜行方向への走査を行うように、前記工作物と前記センサを相対移動させることを特徴とする加工変質層検出装置。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一項において、
前記センサヘッドの前記検査表面に対する幅方向位置により前記センサの出力信号の値が異なって出力される前記センサの検出特性に基づいて、前記センサの出力信号の値を補正する補正手段をさらに備えることを特徴とする加工変質層検出装置。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか一項において、
前記検査表面に対して複数の走査を同時に行うように、複数の前記センサを備えることを特徴とする加工変質層検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−13147(P2011−13147A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158848(P2009−158848)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】