説明

加工物

【課題】シール部材が加工面の一部に貼り付けられた加工物に関し、模様や文字等が簡単にはなくならない加工物を提供することを目的とする。
【解決手段】加工面22aの一部に貼り付けられたシール部材251と、シール部材251の縁251aに沿って加工面22aに設けられた凹溝221と、加工面22aの、シール部材251が貼り付けられた領域の周囲の領域、およびシール部材251表面を一体に覆う透明な被膜27とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール部材が加工面の一部に貼り付けられた加工物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、装飾や目印等の目的で、ワークの表面に模様や文字等を付すことが行われている。単純には、ワーク表面に、はけや筆を用いて模様や文字等を描いたり、所望の形状のシールを貼ったりすることで、ワーク加工面に模様や文字等が付される。また、マスキング治具を用いた塗装によってワーク表面に模様や文字等を付すことも行われている。さらに、最近では、レーザ光による加工(例えば、特許文献1および2等参照)を用いてワーク表面に模様や文字等を付すことも行われている。このレーザ光による加工を用いた方法では、互いに色が異なる上下2層の塗膜層を予め設けておき、上側の塗膜層の、所望の形状部分だけをレーザ光によって除去する。こうすることで、上側の塗膜層が除去された所望の形状部分だけ、下側の塗膜層が表れ、その下側の塗膜層部分が模様や文字等になる。
【特許文献1】特表平11−507298号公報
【特許文献2】国際公開第95/24279号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、模様や文字等が付された加工物からしてみると、模様や文字等がきれいにかつ正確に付されていても、塗膜層やシールが加工面から剥がれてしまうと、模様や文字等がなくなってしまう。このため、模様や文字等が簡単にはなくならないことが重要になってくる。
【0004】
本発明は上記事情に鑑み、模様や文字等が簡単にはなくならない加工物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を解決する本発明の加工物は、加工面の一部に貼り付けられたシール部材と、
上記シール部材の縁に沿って上記加工面に設けられた凹溝と、
上記加工面の、上記シール部材が貼り付けられた領域の周囲の領域、およびそのシール部材表面を一体に覆う透明な被膜とを有することを特徴とする。
【0006】
ここにいう加工面とは、シール部材が貼り付けられる面のことをいう。本発明の加工物によれば、上記凹溝に上記被膜が入り込んで、上記シール部材の縁がめくれ上がってしまうことを効果的に抑えることができる。このため、上記シール部材によって表された模様や文字等が簡単にはなくならない。
【0007】
また、本発明の加工物において、上記加工面が樹脂によって形成されたものであることが好ましい。
【0008】
上記加工面が樹脂であることにより、金属に比べて上記凹溝が形成されやすく、上記シール部材によって表された模様や文字等が簡単によりなくならない。
【0009】
ここで、加工物自体の材質が樹脂である場合には、上記加工面は、加工物自体の材質としての樹脂であってもよい。
【0010】
また、上記加工面よりも下に金属面を有する加工物においては、上記加工面が樹脂によって形成されたものであることがより好ましい。
【0011】
ここでの上記樹脂は、樹脂製の塗膜であってもよい。
【0012】
また、本発明の加工物は、車両用ホイールであってもよく、さらには、アルミニウムやマグネシウムやチタン等の軽合金を主成分とする軽合金製車両用ホイールであってもよい。ここにいう車両用ホイールは、四輪車用のホイールであっても、二輪車用のホイールであってもよく、さらには、自転車用のホイールであってもよいし、三輪バギー用のホイールであってもよい。すなわち、ホイールが取り付けられる車両の種類は問わない。加えて、上記シール部材は、リムフランジおもて側の加工面の一部に貼り付けられたものであってもよく、その形状は、ライン状や、文字、記号等であってもよい。また、ライン状の場合には、ホイールの周方向に1周した環状を形成するものであってもよいし、ホイールの周方向に間隔をあけて並ぶ、円弧状のものであってもよい。環状を形成するものであれば、上記凹溝は、上記シール部材の、周方向に延びる縁に沿って上記加工面に設けられたものになる。さらに、上記シール部材は、ディスク部の加工面の一部に貼り付けられたものであってもよく、スポーク部の加工面の一部に貼り付けられたものであってもよく、ハブ部の加工面の一部に貼り付けられたものであってもよい。
【0013】
ところで、上記背景技術の中で説明した、はけや筆を用いる場合には、はけや筆の押し付け圧によって模様や文字等の太さが変わってしまったり、色ムラ(かすれ)が生じてしまい、どの製品にも同じ模様や文字等を付さなくてはならない大量生産には不向きである。また、所望の形状のシールを貼るにしても、位置や向きがずれてしまい、これもまた大量生産には不向きである。また、これらの方法では、模様や文字等の変更やそれらの色の変更に対する自由度は高いものの、描き方や貼り方によっては、模様や文字等を、きれいに付すことができなかったり、正確に付すことができなかったりすることがある。
【0014】
また、マスキング治具を用いた塗装では、塗料によって汚れたマスキング治具の清掃が面倒であることに加えて、模様や文字等を変更するにはマスキング治具を作り直さなければならない。このため、マスキング治具を用いた塗装は、効率面から見て好ましくないばかりか、模様や文字等の変更に対しては費用面から見ても好ましくない。
【0015】
さらに、レーザ光による加工を用いる場合には、模様や文字等の色は、予め設けておいた下側の塗膜層の色に限定されてしまい、色の変更に対する自由度がない。
【0016】
このため、模様や文字等の変更やそれらの色の変更が低コストでフレキシブルに対応することができるとともに、模様や文字等をきれいにかつ正確に付すことができる新たな加工方法の登場が望まれている。
【0017】
この新たな加工方法としては、ワークの表面に、所望の形状よりも大きな形状のシール部材を貼り付ける貼付工程と、
上記表面に貼り付けられたシール部材をレーザ光によって上記所望の形状に切断する切断工程と、
上記表面に貼り付けられたシール部材のうち、上記所望の形状部分を残しその形状部分よりも大きな余剰部分をその表面から取り除く除去工程とを有することを特徴とする加工方法があげられる。
【0018】
この新たな加工方法では、模様や文字等の変更は、上記切断工程におけるレーザ光の軌跡を変更することで対応することができ、それらの色の変更は、上記貼付工程で貼り付けるシール部材の色を変えることで対応することができる。したがって、この新たな加工方法によれば、模様や文字等の変更やそれらの色の変更が低コストでフレキシブルに対応することができる。また、上記貼付工程では、所望の形状よりも大きな形状のシール部材を貼り付けるため、所望の形状のシール部材を貼り付けるよりもシール部材の貼り付けが容易であり、しかも、上記切断工程において、シール部材から所望の形状を切り出すため、模様や文字等をきれいにかつ正確に付すことができる。
【0019】
また、上記新たな加工方法において、上記表面の、上記余剰部分が取り除かれた部分、および上記シール部材の所望の形状部分に、透明かつ一体な被膜を形成する被膜形成工程を有することが好ましい。
【0020】
上記切断工程を実施することで、上記表面には、上記シール部材の、所望の形状部分の縁に沿って凹溝が設けられ、この被膜形成工程によって形成された被膜は、その凹溝に入り込んで、上記シール部材の、所望の形状部分の縁がめくれ上がってしまうことを効果的に抑えることができる。
【0021】
さらに、上記ワークは、上述の車両用ホイールの中間製品であってもよく、上記貼付工程で上記シール部材を貼り付ける箇所は、リムフランジおもて側になるワーク表面や、ディスク部になるワーク表面や、スポーク部になるワーク表面や、ハブ部になるワーク表面であってもよい。さらに、上記貼付工程で貼り付けるシール部材の形状は、ライン状よりも幅が太い帯状であってもよく、帯状の場合には、ホイールの周方向に1周した環状を形成するものであってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の加工物によれば、模様や文字等が簡単にはなくならない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態である車両用ホイールの斜視図を示す図である。
【0025】
図1に示す車両用ホイール1は、アルミニウムを主成分とする金属を鋳造によって成形した軽合金製車両用ホイールである。この車両用ホイール1は、二輪車用のものであり、リム部11と、不図示の二輪車の車体に取り付けられるハブ部12と、リム部11とハブ部12をつなぐ3本のスポーク部13を有する。以下、リム部11の、スポーク部13側の面をおもて面11aと称する。リム部11には、このおもて面11aと反対の裏面11b側に不図示のタイヤが装着される。このリム部11の、ホイール幅方向Wの両端にはリムフランジ部111,112が形成されている。また、図1に示す車両用ホイール1は、全体に有色(本実施形態では白色)の塗装が施されており、各部11〜13における加工面には白色の塗膜が形成されている。さらに、この車両用ホイール1のリムフランジ部111,112のおもて側の加工面の一部には、車両用ホイール1と同心円状の環状ラインSが装飾として施されている。この環状ラインSは有色(本実施形態では黒色)のシール部材である。シール部材については詳しくは後述する。
【0026】
図2は、図1に示す車両用ホイールを製造する加工工程の一つである塗装工程の流れを示すフローチャートであり、図3は、図2に示す塗装工程が実施されている途中の様子を模式的に示す図である。
【0027】
金型鋳造によって成形された車両用ホイールの中間製品(ワーク)は、熱処理が施される。熱処理によってワーク表面に生じた酸化膜は、ショットブラストによって除去される。続いて、機械加工工程においてボルト孔の穿孔や切削加工が施され、塗装工程が実施される。図3には、車両用ホイールの中間製品(ワーク)2が示されている。
【0028】
塗装工程では、まず、前処理が行われる(ステップS11)。この前処理では、脱脂および酸洗浄が施され、機械加工工程において付着した切削油等の油成分や、ショットブラストで除去しきれなかった残留酸化物成分が除去される。また、前処理では防錆能力を高めるために化成処理が施される。この化成処理では、ワーク表面に防錆効果のある被膜を化学的に形成する。
【0029】
次に、下地プライマー塗装が行われる(ステップS12)。ここでは、ワーク表面にエポキシ系樹脂が塗布され、ワーク表面には下地層が形成される。なお、エポキシ系樹脂を塗布する溶剤塗装に代えて、粉体塗装や電着塗装によって下地層を形成してもよい。また、溶剤塗装では、エポキシ系樹脂に代えて、アクリルメラミン系の樹脂や、ポリエステル系樹脂を用いてもよい。
【0030】
続いて、アクリルメラミン系の樹脂を用いてカラー塗装が行われる(ステップS13)。このカラー塗装で使用されるアクリルメラミン系の樹脂は、クリアー塗料に白色の顔料が添加されたものである。ワーク表面には、白色の塗膜が形成される。なお、アクリルメラミン系の樹脂を塗布する溶剤塗装に代えて、粉体塗装によって塗膜を形成してもよい。また、溶剤塗装では、アクリルメラミン系の樹脂に代えて、エポキシ系樹脂や、ポリエステル系樹脂を用いてもよい。
【0031】
その後、120℃以上170℃以下(好ましくは140℃以上160℃以下),10分以上40分以下(好ましくは15分以上25分以下)の条件で焼付け処理が行われ(ステップS14)、図3に示すように、ワークの金属面2aには、厚さが10μm以上30μm以下の下地層21が形成され、その下地層21の表面21aには、厚さが10μm以上30μm以下の塗膜22が形成される。すなわち、ここまでの工程で、2コート1ベイクの塗装が実施される。なお、1コート1ベイクの塗装や3コート2ベイクの塗装を実施してもよい。
【0032】
なお、ステップS12における下地プライマー塗装や、ステップS13におけるカラー塗装で粉体塗装を行った場合には、形成される塗膜の厚さは80μm以上120μm以下になる。また、下地プライマー塗装で電着塗装を行った場合には、形成される塗膜の厚さは5μm以上150μm以下になる。
【0033】
ステップS14の焼付け処理が終了すると、今度は、シール貼付工程が実施される(ステップS15)。このシール貼付工程では、作業者が、図3に示すワーク2の表面になる塗膜22の表面22aに1本の帯状のシール部材25を貼り付ける。すなわち、図1に示す車両用ホイール1のリムフランジ部111,112になる部位のおもて側の加工面にシール部材25を貼り付ける。シール部材25は、リムフランジ部111,112になる部位に沿ってホイールの周方向に1周するものの、周方向につながっておらず、周方向一端が他端に重なって環状を形成するものである。また、図1に示す環状ラインSの太さ(幅)が4mmであるのに対して、帯状のシール部材25の幅は6mmであり、環状ラインSの太さよりも太い。したがって、この帯状のシール部材25の形状は、所望の形状である図1に示す環状ラインSよりも大きな形状である。シール部材25の貼り付けにあたっては、シール部材25を、車両用ホイール1と同心円状に貼り付ける必要は必ずしもなく、リムフランジ部111,112になる部位に収まっている程度に貼り付ければよい。このシール部材25は、黒色に着色した塩化ビニールフィルムの裏面にゴム系粘着剤を均一に塗布したものであり、150℃近くまでの耐熱性を有するとともに、水、エタノール、灯油等に対する耐薬品性にも優れたものである。また、シール部材25の厚さは、0.05mm以上0.15mm以下である。
【0034】
次いで、炭酸ガスレーザを用いたシール切断工程が実施される(ステップS16)。ここでは、スポット径0.18mm以上2mm以下のレーザ光Lを、塗膜22の表面22aに貼り付けたシール部材25に照射し、幅6mmの帯状のシール部材25を車両用ホイール1と同心円の所望の形状(ここでは幅4mmのライン状)に切断する。すなわち、帯状のシール部材25の幅方向中央部分に幅方向に4mmの間隔をあけて車両用ホイール1と同心円になるようにレーザ光Lを照射する。こうすることで、シール部材25のうち、幅方向中央部分251が車両用ホイール1と同心円の所望の形状部分(幅4mmのライン状の部分)になり、その幅方向中央部分251よりも大きな外側部分252が余剰部分になる。なお、レーザ光Lのスポット径は小さいほど好ましい。
【0035】
図4は、図2に示すシール切断工程で用いられる炭酸ガスレーザ切断装置を示す図である。
【0036】
図4に示す炭酸ガスレーザ切断装置3は、ワーク2を載置した状態で回転する回転テーブル31を備えている。この回転テーブル31には、ワーク2を固定する不図示のチャック機構が設けられており、チャック機構に固定されたワーク2は、図1に示すハブ部12になる部位12’を中心にして回転テーブル31とともにホイール周方向に回転する(矢印r参照)。また、回転テーブル31の上方には、レーザマーカ32が設けられている。図4では、このレーザマーカ32からレーザ光Lが、回転テーブル31に固定されたワーク2の、図1に示すリムフランジ部111になる部位111’に貼り付けられたシール部材25(図3参照)に向けて照射される。なお、レーザ光Lの最大出力値は75Wである。
【0037】
図4に示すレーザマーカ32は、昇降自在であり(矢印z参照)、レーザマーカ32を昇降することによって、レーザマーカ32とワーク2との距離を調節する。鋳造によって成形されたワーク2では特に、ワーク表面の水平度が劣る場合があり、レーザマーカ32とワーク2との距離の調節は重要になる。レーザマーカ32から照射されたレーザ光Lは、シール部材25を貫通してさらに、図3に示す塗膜22を貫通しない程度にその塗膜22を彫り込む。レーザ光Lによる塗膜22の彫り込み深さは、1μm以上10μm未満であることが好ましい。シール部材25を完全に切断するには、ある程度の余裕をみて、塗膜22の彫り込み深さとして1μmは必要である。一方、塗膜22の彫り込み深さが10μm以上になると、下地層21が見えてしまう場合がある。ただし、本実施形態におけるレーザの使用目的は、シール部材25を切断する目的であるため、レーザ光Lのスポット径は非常に小さくすみ、仮に、レーザ光Lが塗膜22を貫通して下地層21が見えてしまったとしても、その下地層21が見える部分は極めて細い線状であり、ほとんど目立たない。また、レーザ光Lによる塗膜22の彫り込み深さは、後述するトップコート層による保護効果を十分に得るために、5μm以上であることがより好ましい。レーザ光Lによる塗膜22の彫り込みによって、塗膜22の表面22aには、シール部材25の幅方向中央部分251の縁に沿って凹溝が設けられる。
【0038】
また、レーザマーカ32は、水平方向において、X軸方向(矢印X参照)と、そのX軸方向に直交するY軸方向(図4の紙面に対して垂直な方向)との2方向にも移動自在である。すなわち、レーザマーカ32は、所定長の範囲でX軸方向に移動自在であるとともに同じく所定長の範囲でY軸方向にも移動自在である。図3には、レーザマーカ32が実線と二点鎖線で示されているが、二点鎖線で示されたレーザマーカ32は、実線で示されたレーザマーカ32が水平方向に移動(図3中の矢印参照)したものである。図4に示す炭酸ガスレーザ切断装置3では、ワーク2を周方向に15ブロックに分け、1ブロックごとにシール部材25の切断を行っていく。シール部材25の切断を行っている間は、回転テーブル31は回転せずにワーク2は固定されており、レーザマーカ32が移動する。1ブロックにおけるシール部材25の切断が終了すると、レーザ光Lの照射を一旦止め、回転テーブ31を回転させることで、次のブロックに移行させる。なお、ワーク2をブロックに分けずに、回転テーブル31を回転させながらシール部材25の切断を連続的に行ってもよい。すなわち、ワーク2とレーザ光Lを照射するレーザ光源とは、相対的に移動するものであればよい。
【0039】
なお、ここでは高出力の観点から炭酸ガスレーザを用いたが、レーザの種類はこれに限られるものではない。
【0040】
ステップS16のシール切断工程が終了すると、シール除去工程が実施される(ステップS17)。このシール除去工程では、塗膜22の表面22aに貼り付けられたシール部材25のうち、所望の形状部分である幅方向中央部分251を残し、余剰部分である外側部分252を、その表面22aから取り除く。上述のごとく、シール部材25は、周方向一端が他端に重なって環状を形成しているものであり、外側部分252の周方向一端をめくり上げることで、外側部分252を容易に取り除くことができる。
【0041】
最後に、トップコート塗装を行い(ステップS18)、塗装工程が終了する。ここでの塗装では、塗膜22の表面22a、およびシール部材25の残った幅方向中央部分251に、常温硬化型のアクリルウレタン系の透明樹脂を塗布する。こうすることで、塗膜22の表面22aにおける、シール部材25の外側部分252が取り除かれた部分、およびシール部材25の幅方向中央部分251には、透明かつ一体なトップコート層が形成される。このトップコート層は、本発明の加工物にいう被膜の一例に相当する。ここで、常温硬化型の塗料を用いる理由は、上述のステップS14のように、150℃ほどの温度で焼付け処理を行うと、シール部材25の残った幅方向中央部分251が収縮して変形してしまう恐れがあるからである。ただし、シール部材25の耐熱温度以下の温度に加熱することで硬化する熱硬化型樹脂であれば使用することができ、耐熱温度以下の温度で焼付け処理を行ってもよい。
【0042】
以上説明した塗装工程を終え、その他必要な処理があれば施して、図1に示す車両用ホイール1が完成する。
【0043】
本実施形態における塗装工程では、ワーク2に付す模様や文字等の変更は、ステップS16のシール切断工程におけるレーザ光Lの軌跡を変更することで対応することができる。例えば、模様や文字等として、車両用ホイールの周方向に間隔をあけて並ぶ円弧状のスリット模様であっても、ロゴや商品名であっても、レーザ光Lの軌跡を変更することで対応することができる。また、ワーク2に付す模様や文字等の色の変更は、ステップS15のシール貼付工程で貼り付けるシール部材25の色を変えることで対応することができる。したがって、この塗装工程によれば、模様や文字等の変更やそれらの色の変更が低コストでフレキシブルに対応することができる。また、シール切断工程において、シール部材25から、車両用ホイール1と同心円状の所望の形状を切り出すことから、シール貼付工程では、シール部材25を、車両用ホイール1と同心円状に貼り付ける必要は必ずしもなく、最初から車両用ホイール1と同心円にシール部材を貼り付ける場合に比べてシール部材の貼り付けは簡単であり、環状ラインSをきれいにかつ正確に付すことができる。さらに、本実施形態における塗装工程では、仮にシール切断工程において失敗したとしても、シール部材25を貼り付け直せば、もう一度、シール切断工程を行うことができる。
【0044】
図5は、図1に示す車両用ホイールのリムフランジ部の断面を模式的に拡大して示す図である。
【0045】
図5に示すリムフランジ部111のおもて側には、シール部材の幅方向中央部分251によって形成された環状ラインSが示されている。また、図5には、図2に示すステップS16のシール切断工程を実施する際に塗膜22の表面22aに形成された凹溝221も示されている。この凹溝221は、シール部材の幅方向中央部分251の縁251aに沿って延びたものである。さらに、この図5には、図2に示すステップS18のトップコート塗装によって形成されたトップコート層27も示されている。図5に示すように、トップコート層27は、凹溝221に入り込んでおり、シール部材の幅方向中央部分251の、塗膜22側の角部251bは、トップコート層27によってしっかりと保護されている。すなわち、シール部材の幅方向中央部分251の縁251aは、十分な厚みのトップコート層27によって覆われている。したがって、環状ラインSを形成するシール部材の幅方向中央部分251の縁251aがめくれ上がってしまうことが効果的に抑えられ、その幅方向中央部分251が表面22aから簡単には剥がれ落ちなくなる。上述のごとく、凹溝221の深さは、トップコート層27の厚みを稼ぐために、5μm以上であることが好ましい。また、このトップコート層27を設けたことによって、塗膜22のツヤや環状ラインSのツヤが増し、意匠的に優れた車両用ホイールになっている。
【0046】
続いて、図3や図5に示したシール部材25の変形例について説明する。
【0047】
図6は、シール部材の変形例を示した図である。
【0048】
図6に示すシール部材29は、図1に示すリムフランジ部111,112に沿ってホイールの周方向に1周して周方向につながった環状のものである。この図6には、図2に示すステップS16のシール切断工程における切断線を点線で示してあり、所望の形状部分である幅方向中央部分291と、余剰部分になる外側部分292も示されている。図6に示す外側部分292には、外側に突出したつまみ片2921が一体的に設けられている。図2に示すシール除去工程では、このつまみ片2921をめくり上げることで、外側部分252を容易に取り除くことができる。
【0049】
また、図3や図5に示したシール部材25の厚さは、0.05mm以上0.15mm以下であったが、意匠的に凹凸感を出すために、図6に示すシール部材29の厚さは3mmである。したがって、シール部材の厚さは目的に応じて0.05mm以上3mm以下の範囲から適宜選択すればよい。ただし、厚手のシール部材を用いる場合には、シール切断工程において高出力のレーザ光Lを用いる必要がある。
【0050】
以上の説明では、車両用ホイールを例にあげて説明したが、本発明は、車両用ホイールに限らず、車両用ホイールに装着される樹脂製のホイールキャップや、広く一般の加工物にも適用することができる。また、車両用ホイールに限って見ても、鉄製の車両用ホイールにも適用することができ、四輪車用の車両用ホイールにも適用することができる。さらに、模様や文字等を付す部位は、リムフランジ部111,112に限らず、ハブ部12やスポーク部13、あるいはディスク部であってもよい。
【0051】
また、模様や文字等の所望の形状の大きさ(本実施形態では環状ラインSの太さ)に対して、シール部材25,29の大きさをどの程度にするかは、外側部分252,292が取り除かれることを考慮したシール部材25,29の節約の観点と、本実施形態であれば、車両用ホイール1と同心円状に貼り付けることを意識せずにシール部材25,29を貼り付けても、車両用ホイール1と同心円状の環状ラインSができる成功率との関係によって定めればよい。本実施形態の場合には、この成功率を勘案すると、幅方向に1.6mm以上大きいことが好ましい。また、シール部材25,29の節約の観点と、模様や文字等の変更に対する自由度との関係によって定めてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態である車両用ホイールの斜視図を示す図である。
【図2】図1に示す車両用ホイールを製造する加工工程の一つである塗装工程の流れを示すフローチャートである。
【図3】図2に示す塗装工程が実施されている途中の様子を模式的に示す図である。
【図4】図2に示すシール切断工程で用いられる炭酸ガスレーザ切断装置を示す図である。
【図5】図1に示す車両用ホイールのリムフランジ部の断面を模式的に拡大して示す図である。
【図6】シール部材の変形例を示した図である。
【符号の説明】
【0053】
1 車両用ホイール
11 リム部
111 リムフランジ部
12 ハブ部
13 スポーク部
S 環状ライン
2 ワーク
22 塗膜
22a 表面
221 凹溝
25 シール部材
251 幅方向中央部分
252 外側部分
27 トップコート層
3 炭酸ガスレーザ切断装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工面の一部に貼り付けられたシール部材と、
前記シール部材の縁に沿って前記加工面に設けられた凹溝と、
前記加工面の、前記シール部材が貼り付けられた領域の周囲の領域、および該シール部材表面を一体に覆う透明な被膜とを有することを特徴とする加工物。
【請求項2】
前記加工面が樹脂によって形成されたものであることを特徴とする請求項1記載の加工物。
【請求項3】
前記加工面よりも下に金属面を有することを特徴とする請求項2記載の加工物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−128280(P2010−128280A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304133(P2008−304133)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000116873)旭テック株式会社 (144)
【Fターム(参考)】