説明

加工用レーザ光スポットの調整方法及びその装置

【課題】レーザ装置によって被加工物の加工する際に、加工部分に照射されるレーザ光スポットを調整する方法及び装置の提供。
【解決手段】レーザ装置1はレーザ光線6を放出するレーザ、レーザ光線6を集束する少なくとも1つの集光レンズ4及びレーザ光線6の径を調整する操作素子を含んで構成される。前記操作素子として回折素子5を用いて、レーザ光線6を複数の部分レーザ光線に分割し、該部分レーザ光線が集束されて被加工物7にレーザ光スポット12として照射される。回折素子5の設計により、レーザ光スポット12の径の調整、特に拡大が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ装置により被加工物の加工、特に樹脂部材をレーザ溶接するための高強度のレーザ光スポットの調整方法並びにその装置に関する。レーザ装置は、レーザ光線を放出するレーザ、レーザ光線を集束する少なくとも1つの集光レンズ並びにレーザ光線の径を調整するための光学操作素子を含んで構成される。回折素子としての光学操作素子は、元のレーザ光線が複数の部分レーザ光線に分離されて被加工物に照射されるように構成されている。
【背景技術】
【0002】
被加工物をレーザ加工する際には、レーザから放出されたレーザ光線を集光させることが多い。通常、放出されたレーザ光は、集光系を用いて径の小さな光線に調整されてから被加工物の表面に照射される。集光されたレーザ光線の光軸は、被加工物に対して不動か又は、加工経路に沿って可動でもよい。同時に、集束されて小径となった所定の集光面を有するレーザ光線は、被加工物の表面に保持されて相互作用により少なくとも一部が吸収される。素材の加工に用いられるレーザ光は、1つ又は複数のレーザ光源により生成された1つ又は複数のレーザ光線から成る。レーザ光を被加工物に集束させて加工する方法には、例えば、穴あけ、摩滅、切断、溶接などが含まれる。
【0003】
レーザ光により、被加工物を加工及び連結する場合には、被加工物上に集光されるレーザ光線の大きさ及び形状が重要な役割を果たす。特に、生成された高強度のレーザ光スポットの強度分布を正しく調整することが重要である。通常は、断面光強度がガウス曲線を呈するレーザ光源からのレーザ光線は、適当な手段を用いて所望の大きさ及び形状に変換する必要がある。例えば特許文献1〜6には、樹脂レーザ溶接及びレーザ半田付けに適したレーザ光線に変換するのに回折素子を用いることが開示されている。これらの特許文献では、回折素子を用いて、レーザから放出されたレーザ光線が、部分レーザ光線に分割されてそれぞれが同時か又はほぼ同時に、異なった被加工部分に達してその部分に作用するように構成されている。当業者には、回折素子は周知の技術であるので、詳細な説明は省略する。
【0004】
例えば、樹脂レーザ溶接において、レーザ光源としての光ファイバに連結されたダイオードレーザにより生成された、被加工物上の高強度のレーザ光スポットの径は、光ファイバのコアの径及び画像処理系により決まり、通常の光学素子の影響は小さい。しかし、大抵の場合、溶接継ぎ目をレーザ光スポットの径よりも広くする必要がある。そのような広い溶接継ぎ目を得るには、側方に変位したレーザ光線を溶接線に沿って2回以上通過させるか、又は集光面を作用面、すなわち被加工物の表面と一致させないようにする必要がある。被加工物にレーザ光線をほぼ同時に照射するのにスキャナーを用いる場合には、レーザ光スポットの大きさの調整は、ファイバのコア径、コリメータレンズ及び集光レンズ(典型的には平面視野レンズ)によってのみある程度可能となる。更に広い溶接線が要望される場合には、数回にわたって走査する必要がある。
【0005】
一般には、被加工物の作用面とレーザ装置の集光面が一致すると、被加工物へのエネルギーの伝達が最適となる。この場合、レーザ光スポットは、最もエネルギー密度の高い径を有する。溶接線又は溶接継ぎ目が、光学系により決まるレーザ光スポットの径よりも広い場合には、必ず追加の加工時間を必要とし、コスト高となり好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/098295号明細書
【特許文献2】米国特許第7009138号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第1449610号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第1524096号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第0184290号明細書
【特許文献6】国際公開第2009/045320号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、所望する溶接継ぎ目の幅に対応して、集光面におけるレーザ光スポットを最適な径に拡大する方法を提案することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、請求項1に記載の特徴を有する方法及び請求項10に記載の特徴を有する装置によって解決される。
【0009】
具体的には、下記の(1)〜(15)の構成により上記課題が解決される。
【0010】
(1)レーザ装置による被加工物の加工において、加工部分に照射されるレーザ光スポットを調整する方法であって、前記レーザ装置は、レーザ光線を放出する少なくとも1つのレーザ、前記レーザ光線を集束する少なくとも1つの集光レンズ並びに前記レーザ光線の径を調整する操作素子を含んで構成され、前記操作素子として回折素子を用い、元の前記レーザ光線を複数の部分レーザ光線へと分割して前記被加工物へ向けて照射されるレーザ光スポットを生成し、前記レーザ光スポットの径は、集光面において前記回折素子により前記元のレーザ光線の径より大きな所望の径に拡大されて、前記元のレーザ光線から分割された複数の前記部分レーザ光線は、前記被加工物へ向けて照射されて互いに重なり合うか、又は互いに離間して単一の加工部分に向かう束ねられたレーザ光線を形成し、前記部分レーザ光線の数及び径、並びに前記部分レーザ光線が束ねられたレーザ光線の径は前記回折素子により決められることを特徴とするレーザ光スポットの調整方法。
【0011】
(2)前記回折素子により生成された前記複数の部分レーザ光線は互いに端部において重なり合って、連続した強度分布を有するレーザ光スポットを生成することを特徴とする前記(1)に記載のレーザ光スポットの調整方法。
【0012】
(3)前記回折素子により生成された前記複数の部分レーザ光線は互いに端部において重なり合わず、離間した一次元又は二次元に配置された光点から成る強度分布を有するレーザ光スポットを生成することを特徴とする前記(1)に記載のレーザ光スポットの調整方法。
【0013】
(4)前記被加工物内の熱伝導により、離間した光点が束ねられ、前記レーザ光スポットは連続した活性な断面形状に変化することを特徴とする前記(3)に記載のレーザ光スポットの調整方法。
【0014】
(5)前記回折素子により生成された前記複数の部分レーザ光線は、その強度及び/又は出力が加重平均されて、前記レーザ光スポットの強度分布が得られることを特徴とする前記(1)ないし(4)のいずれか1項に記載のレーザ光スポットの調整方法。
【0015】
(6)前記レーザ光スポットの中心からの距離r、すなわち座標(x、y)における、強度分布の強度Iは数式1により決められることを特徴とする前記(5)に記載のレーザ光スポットの調整方法。

(上記数式1において、bは所定の径(定数)、Pは全強度を示す。)
【0016】
(7)異なった強度分布を有するレーザ光スポットを得るために、レーザからの前記元のレーザ光線に対して側方の位置調製を必要としない交換可能な回折素子を用いることを特徴とする前記(1)ないし(6)のいずれか1項に記載のレーザ光スポットの調整方法。
【0017】
(8)一連の基準セルを互いに間隔をおいてか、又は互いに接して配置することにより前記回折素子が形成されていることを特徴とする前記(1)ないし(7)のいずれか1項に記載のレーザ光スポットの調整方法。
【0018】
(9)前記コリメートレンズと前記集光レンズの間に前記回折素子が配置されていることを特徴とする前記(1)ないし(8)のいずれか1項に記載のレーザ光スポットの調整方法。
【0019】
(10)被加工物を加工するレーザ装置であって、レーザ光線を放出する少なくとも1つのレーザ、前記レーザ光線を集束する少なくとも1つの集光レンズ並びに前記レーザ光線の径を調整する操作素子を含んで構成され、前記集光レンズは、前記被加工物上に高強度のレーザ光スポットを生成し、前記操作素子は回折素子として構成され、前記レーザ光線を複数の部分レーザ光線へと分割して再構成して集光面に向かう所定の強度分布を有する前記レーザ光スポットを生成し、前記レーザ光スポットの径は、前記被加工物において前記回折素子により前記元のレーザ光線の径よりも大きな所望の径に拡大され、前記元のレーザ光線から分割された前記複数の部分レーザ光線は、前記被加工物へ向けて照射されて互いに重なり合うか、又は離間して単一の加工部分に向かう束ねられたレーザ光線を形成することを特徴とするレーザ装置。
【0020】
(11)一連の基準セルを互いに間隔をおいてか、又は互いに接して配置することにより前記回折素子が形成されていることを特徴とする前記(10)に記載のレーザ装置。
【0021】
(12)前記回折素子により生成された前記複数の部分レーザ光線は、その強度及び/又は出力が加重平均されて、前記レーザ光スポットの強度分布が得られることを特徴とする前記(10)又は(11)に記載のレーザ装置。
【0022】
(13)前記コリメートレンズと前記集光レンズの間に前記回折素子が配置されていることを特徴とする前記(10)ないし(12)のいずれか1項に記載のレーザ装置。
【0023】
(14)レーザからのレーザ光線に対して側方の位置調製を必要としない交換可能な回折素子が備えられていることを特徴とする前記(10)ないし(13)のいずれか1項に記載のレーザ装置。
【0024】
(15)前記(10)ないし(14)のいずれか1項に記載のレーザ装置が、少なくとも1つのスキャナーを含んで構成された樹脂溶接装置の加工ヘッドに装着されていることを特徴とするレーザ装置。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、集光面におけるレーザ光スポットの径の大きさ及び強度分布を最適に調整できるようになり、被加工物の加工時間が短縮されコストを下げることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第一のレーザ装置の模式図
【図2】スキャナーを有する第二のレーザ装置の摸式図
【図3】回折素子を備えていないダイオードレーザからのレーザ光スポット及びその強度分布を示す図
【図4】集光レンズの前に回折素子を備えたダイオードレーザからの重なりあった均一な部分レーザ光線によるレーザ光スポット及びその強度分布を示す図
【図5】集光レンズの前に回折素子を備えたダイオードレーザからの外側に向かって強度が増加する重なりあった部分レーザ光線によるレーザ光スポット及びその強度分布を示す図
【図6】集光レンズの前に回折素子を備えたダイオードレーザからの個々に分離された均一な部分レーザ光線によるレーザ光スポット及びその強度分布を示す図
【図7】集光レンズの前に回折素子を備えたダイオードレーザからの外側に向かって強度が増加する個々に分離された部分レーザ光線によるレーザ光スポット及びその強度分布を示す図
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の中心思想は、コリメートレンズにより平行光線とされたダイオードレーザからのレーザ光線を、回折素子により部分レーザ光線に分割し、その分割された部分レーザ光線を再構成してそのレーザ光線の形状を改善して被加工物に照射して作用させることである。部分レーザ光線の数、側方への分布、径及び再構成されたレーザ光線の径は回折素子により決まる。
【0028】
例えば、樹脂部材を溶接するレーザ光スポットの強度を調整する方法において、レーザ装置は、レーザ光線を放出するレーザ、レーザ光線を集束する少なくとも1つの集光レンズ並びに再構成されたレーザ光線の径を調整する光学系を含んで構成される。本発明によれば、再構成されたレーザ光線の径により決められる被加工物上のレーザ光スポットの径は、光学系としての回折素子により生成された部分レーザ光線を好ましくは集光面において再構成することにより、所望の大きさまで拡大される。このため、部分レーザ光線は、重なり合い及び/又は互いに離間により所望の形状に構成され、再構成されたレーザ光線が被加工物に照射され、単一の被加工部分に作用する。レーザ光線の全体の径は、回折素子により決められる。集光面においてレーザ光スポットの径を大きくすると、レーザス光ポットは、集光面から離間して径が変化して、すなわち集光面の上方又は下方に位置するようになる。レーザ光スポットによる部材の加工時には、集光面と作用面が共通であることが最適である。レーザ装置の画像システムは、レーザ装置の集光面と作用面、例えばレーザ溶接により結合させる2つの被加工物の接触面とが一致しないような位置にレーザ装置の画像システムを配置する。
【0029】
本発明のある実施例では、回折素子により生成された部分レーザ光線はそれぞれの端部で重なり合い、レーザ光線の断面形状は連続したものとなる。部分レーザ光線が束ねられたレーザ光線は、被加工物上を動く切れ目の無いレーザ光スポットを生成する。
【0030】
別の実施例では、回折素子により生成された部分レーザ光線はそれぞれが端部で重なり合わず、それぞれが離間した光点が直線状又は平面状に形成される。その結果、部分レーザ光線が束ねられたレーザ光線は、被加工物上を動く光点のパターンを生成する。
【0031】
部分レーザ光線が束ねられたレーザ光線は、レーザ光スポットとして被加工物の一点に作用する。レーザ光スポットは、部分レーザ光線が重なり合って生成されるか、部分レーザ光線の間に空隙があってもよい。いずれの場合でも、被加工物に生成される温度分布は均一ではない。しかしながら、熱伝導により加工部材の温度分布は均一化される。特に、被加工物内の相互作用により、レーザ光線分布のパターンは点状から連続したものとなる。
【0032】
回折素子はその設計に応じて、部分レーザ光線の生成のみならず、元のレーザ光線を均一又は不均一な部分レーザ光線に分割することもできる。加工方法又は加工すべき素材に応じて、レーザ光スポットの強度分布は、平面状よりもカップ状の方が好ましいこともある。カップ状の強度分布は、特別に設計した回折素子により得られる。
【0033】
回折素子により生成された部分レーザ光線は、強度及び/又は出力が加重平均されて種々の強度分布を有するレーザ光スポットとすることができる。部分レーザ光線の出力の加重平均は、特別に設計した回折素子により得られる。異なった強度分布を得るには、新たに設計した回折素子が必要となる。
【0034】
中心よりも周辺の出力を強くすると、部分レーザ光線の加重平均の結果として、被加工物上のレーザ光スポットはカップ状の強度分布を有することになる。レーザ光スポットの中心を基準とした場合、位置(x,y)における強度Iは、数式1で決められる。
【0035】

上記式中、bは所定の径(定数)、Pは全強度、rは中心からの距離である。中心からの距離rは数式2で決まる。
【0036】

上記式において、rはbよりも小さな値である。
【0037】
本発明の方法では、フィバーレーザ又はダイオードレーザに用いることができる。ファイバーレーザはダイオードレーザよりも極めて良好な光線が得られる特殊な固体レーザである。レーザの開口部から放出されるレーザ光線の発散は極めて小さい。レーザ光線の断面のエネルギー密度分布、すなわちエネルギー密度のガウス曲線は、ダイオードレーザに比し極めて狭い。このため、ファイバーレーザは被加工物の加工に好適である。
【0038】
回折素子の設計を変えることにより異なった大きさの束ねられたレーザ光線が簡単に得られる。束ねられたレーザ光線、その結果としてのレーザ光スポットを変更するのに、交換可能な異なった設計の回折素子を使うことが可能であり、回折素子は元のレーザ光線に対して正確な調整、特にレーザ光線と交差する方向の正確な調整は不要なことが本発明の特徴である。このために、多数の同一の基準セルを同じ間隔、異なった間隔又は互いの間隔無しに配置して回折素子が形成される。このような回折素子を、レーザ装置のコリメートレンズと集光レンズの間に配置することが好ましい。集光レンズから、その焦点距離に相当する位置に回折素子を配置することが最適である。特殊な用途においては、許容範囲内に焦点がある限り、回折素子を集光レンズの後方に僅かに隔てて配置することも可能である。
【0039】
レーザ光線を放出する少なくとも1つのレーザ、レーザ光線を集束させる少なくとも1つの集光レンズ並びにレーザ光線の径を調整する光学系を含んで構成された本発明によるレーザ装置において、該光学系は元のレーザ光線を部分レーザ光線に分割してレーザ光スポットの径を大きくする回折素子から成っている。回折素子は、生成された部分レーザ光線から成る束ねられた光線が集光面に向かうように構成されている。回折素子は、被加工物上のレーザ光スポットの径を、(好ましくは集光面に沿って拡がるように)元のレーザ光線に比し所望の大きさまで拡大する。本発明では、互いに重なり合う部分レーザ光線、又は互いに離間する部分レーザ光線が束ねられたレーザ光線を得るように構成されている。束ねられたレーザ光線は、単一の加工部分に照射されてその部分のみに作用する。
【0040】
回折素子は、互いに接して配置されるか、均一又は不均一の間隔をおいて配置された多数の基準セルから成ることが好ましい。基準セルは複製できるため、光路における回折素子の調整は重要ではない。
【0041】
本発明のレーザ装置のある実施例では、回折素子によって生成された部分レーザ光線を束ねた結果であるレーザ光スポットの強度分布が中心から周辺に向かって増加するように、部分レーザ光線の強度及び/又は出力が加重平均される。回折素子は、コリメートレンズと集光レンズの間に配置されることが好ましい。回折素子は交換可能で、特に側方の配列をレーザ光線に対して正確に調整せずに取換えできる。レーザ装置は、少なくとも1つの偏向鏡を有するスキャナーを含んで構成される樹脂のレーザ溶接装置の加工ヘッドに組込んでもよい。
【0042】
以下、図面を用いて本発明による実施例を詳細に説明する。本発明の実施に際して、本発明の特徴は単独でも、組み合わせて用いてもよい。
【実施例】
【0043】
図1に示すレーザ装置1には、レーザ(不図示)、該レーザに連結された光ファイバ2、コリメータレンズ3、集光レンズ4を含んで構成され、コリメータレンズ3と集光レンズ4の間には回折素子5が備えられている。光ファイバ2からのレーザ光線6は、コリメータレンズ3により平行光線となり、回折素子5により変形され、集光レンズ4により集束されたレーザ光線8として被加工物7に照射される。複数の部分レーザ光線9(不図示)から成るレーザ光線8は、被加工物7の表面11と同一面上にあるレーザ装置1の焦点面10に集光される。被加工物7の表面11上において、集束されたレーザ光線8は、エネルギー密度の高いレーザ光スポット12を形成して、被加工物7を加工することが可能となる。レーザ光スポット12の径は、回折素子5に依存するので、回折素子5を用いて種々の径のレーザ光スポット12を被加工物7上に生成することができる。図1では、2つのレーザ光スポット12が実線及び破線の円で示されている。
【0044】
図2には、回折素子5と集光レンズ4の間にスキャナー13を備えたレーザ装置1′を示す。回折素子5を通ったレーザ光は、スキャナー13により集光レンズ4の光軸に対して一次元的又は二次元的に偏向される。図2では、レーザ光線8が被加工物7に照射されて3ケ所にレーザ光スポット12を形成する例を示す。
【0045】
図3は、ダイオードレーザからのレーザ光線6をそのまま被加工物7に照射した場合の、レーザ光スポット12(図3の(a))並びにその強度分布14(図3の(b))を示す。最も簡単なダイオードレーザ装置は、ダイオードレーザに、レーザ光線を平行化及び集光する光学系を配したものである。図3の(b)に示す、レーザ光スポット12の強度分布曲線14は釣鐘状の典型的なガウス関数曲線を呈する。図4には、図1のレーザ装置1又は図2のレーザ装置1′により生成されたレーザ光スポット12(図4の(a))及びその強度分布14(図4の(b))を示す。この強度分布14から、回折素子により生成された複数の部分レーザ光線9は互いにその一部が重なり合って全体的に均質なレーザ光線8、すなわちレーザ光スポット12となることがわかる。強度分布14は、均一のガウス関数曲線で示される部分レーザ光線9の強度分布15が重なり合って形成されている。図4の(b)に示すように、強度分布15が横方向に互いに大きく重なり合っていることから、部分レーザ光線9が重なりあっていることがわかる。回折素子5により部分レーザ光線9の強度が加重平均されて、レーザ光スポット12の強度分布14は平らな部分と急峻な外側を有するシルクハット状を呈する。強度分布15を重ねても、ダイオードレーザ装置のレーザ光源からのレーザ光線が最適に改善されるわけではない。
【0046】
図5には、部分レーザ光線9の別の重なり合いの例を示す。この場合の強度分布は図4とは、同じではない。中心部の部分レーザ光線9の強度と比較して、周辺部の部分レーザ光線9の強度が高い。その結果、平らな中心部、中心部に接する上昇部及び急峻な外側部により形成されるカップ状の強度分布14(図5の(b))となる。中心部と周辺部における部分レーザ光線9の強度分布15の高さが異なり、これらを合成した結果が連続したカップ状の強度分布14となる。
【0047】
図6、図7のそれぞれは、二次元状に分離して配置された光点16から成るレーザ光スポット12を示す。ファイバーレーザのレーザ光線6からの部分レーザ光線9の強度分布15の幅は、ダイオードレーザのレーザ光線からの部分レーザ光線の強度分布の幅より狭いので、ファイバーレーザからのレーザ光線の方が良質である。レーザ光線6の集束性が良いので、回折素子5は、互いに離間した部分レーザ光線9を生成し、その結果、集束されたレーザ光線8は、被加工物7上に空隙を有するレーザ光スポット12として照射され、強度分布14は不連続となる。部分レーザ光線9の強度分布15を合成することにより、強度分布14は、格子状の光点により、図4、図5に対応するシルクハット状又はカップ状となる。被加工物7の素材の相互作用のため、格子状の光点は、特に熱伝導作用により集合されて連続した強度分布となるので、被加工物7はそれぞれの光点により個別に処理されるのではなく連続的に処理されることになる。図6は個別の部分レーザ光線9の強度が均一の場合の全体の強度分布を示し、図7は部分レーザ光線9の強度が外側に向けて強くなる場合の全体の強度分布を示す。
【符号の説明】
【0048】
1、1′ レーザ装置
2 光ファイバ
3 コリメータレンズ
4 集光レンズ
5 回折素子
6 (光ファイバ2からの)レーザ光線
7 被加工素材
8 (集光後の)レーザ光線
9 (回折後の)部分レーザ光線
10 焦点面
11 被加工素材の表面
12 レーザ光スポット
13 スキャナー
14 (レーザ光線8の)強度分布
15 (部分レーザ光線9の)強度分布
16 光点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ装置(1、1′)による被加工物(7)の加工において、加工部分に照射されるレーザ光スポット(12)を調整する方法であって、
前記レーザ装置(1、1′)は、レーザ光線(6)を放出する少なくとも1つのレーザ、レーザ光線(6)を集束する少なくとも1つの集光レンズ(4)並びにレーザ光線(6)の径を調整する操作素子(5)を含んで構成され、
前記操作素子として回折素子(5)を用い、元のレーザ光線(6)を複数の部分レーザ光線(9)へと分割して被加工物(7)へ向けて照射されるレーザ光スポット(12)を生成し、
レーザ光スポット(12)の径は、集光面(10)において回折素子(5)により元のレーザ光線(6)の径より大きな所望の径に拡大されて、
元のレーザ光線(6)から分割された複数の部分レーザ光線(9)は、被加工物(7)へ向けて照射されて互いに重なり合うか、又は互いに離間して単一の加工部分に向かう束ねられたレーザ光線(8)を形成し、
部分レーザ光線(9)の数及び径、並びに部分レーザ光線(9)が束ねられたレーザ光線(8)の径は回折素子(5)により決められることを特徴とするレーザ光スポットの調整方法。
【請求項2】
回折素子(5)により生成された複数の部分レーザ光線(9)は互いに端部において重なり合って、連続した強度分布(14)を有するレーザ光スポット(12)を生成することを特徴とする請求項1に記載のレーザ光スポットの調整方法。
【請求項3】
回折素子(5)により生成された複数の部分レーザ光線(9)は互いに端部において重なり合わず、離間した一次元又は二次元に配置された光点から成る強度分布(14)を有するレーザ光スポット(12)を生成することを特徴とする請求項1に記載のレーザ光スポットの調整方法。
【請求項4】
被加工物(7)内の熱伝導により、離間した光点が束ねられ、レーザ光スポット(12)は連続した活性な断面形状に変化することを特徴とする請求項3に記載のレーザ光スポットの調整方法。
【請求項5】
回折素子(5)により生成された複数の部分レーザ光線(9)は、その強度及び/又は出力が加重平均されて、レーザ光スポット(12)の強度分布(14)が得られることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のレーザ光スポットの調整方法。
【請求項6】
レーザ光スポット(12)の中心からの距離r、すなわち座標(x、y)における、強度分布(14)の強度Iは数式1により決められることを特徴とする請求項5に記載のレーザ光スポットの調整方法。

(上記数式1において、bは所定の径(定数)、Pは全強度を示す。)
【請求項7】
異なった強度分布を有するレーザ光スポット(12)を得るために、レーザからのレーザ光線(6)に対して側方の位置調製を必要としない交換可能な回折素子(5)を用いることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のレーザ光スポットの調整方法。
【請求項8】
一連の基準セルを互いに間隔をおいてか、又は互いに接して配置することにより回折素子(5)が形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のレーザ光スポットの調整方法。
【請求項9】
コリメートレンズ(3)と集光レンズ(4)の間に回折素子(5)が配置されていることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載のレーザ光スポットの調整方法。
【請求項10】
被加工物(7)を加工するレーザ装置(1、1′)であって、
レーザ光線(6)を放出する少なくとも1つのレーザ、レーザ光線(6)を集束する少なくとも1つの集光レンズ(4)並びにレーザ光線(6)の径を調整する操作素子(5)を含んで構成され、
集光レンズ(4)は、被加工物(7)上に高強度のレーザ光スポット(12)を生成し、
前記操作素子は回折素子(5)として構成され、レーザ光線(6)を複数の部分レーザ光線(9)へと分割して再構成して集光面(10)に向かう所定の強度分布(14)を有するレーザ光スポット(12)を生成し、
レーザ光スポット(12)の径は、被加工物(7)において回折素子(5)により元のレーザ光線(6)の径よりも大きな所望の径に拡大され、
元のレーザ光線(6)から分割された複数の部分レーザ光線(9)は、被加工物(7)へ向けて照射されて互いに重なり合うか、又は離間して単一の加工部分に向かう束ねられたレーザ光線(8)を形成することを特徴とするレーザ装置。
【請求項11】
一連の基準セルを互いに間隔をおいてか、又は互いに接して配置することにより回折素子(5)が形成されていることを特徴とする請求項10に記載のレーザ装置。
【請求項12】
回折素子(5)により生成された複数の部分レーザ光線(9)は、その強度及び/又は出力が加重平均されて、レーザ光スポット(12)の強度分布(14)が得られることを特徴とする請求項10又は請求項11に記載のレーザ装置。
【請求項13】
コリメートレンズ(3)と集光レンズ(4)の間に回折素子(5)が配置されていることを特徴とする請求項10ないし請求項12のいずれか1項に記載のレーザ装置。
【請求項14】
レーザからのレーザ光線(6)に対して側方の位置調製を必要としない交換可能な回折素子(5)が備えられていることを特徴とする請求項10ないし請求項13のいずれか1項に記載のレーザ装置。
【請求項15】
請求項10ないし請求項14のいずれか1項に記載のレーザ装置(1、1′)が、少なくとも1つのスキャナー(13)を含んで構成された樹脂溶接装置の加工ヘッドに装着されていることを特徴とするレーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−152822(P2012−152822A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−3062(P2012−3062)
【出願日】平成24年1月11日(2012.1.11)
【出願人】(512058490)ライスター テクノロジーズ アーゲー (1)
【Fターム(参考)】