説明

加工茶葉並びにその製造方法

【課題】 従来は廃棄されていた秋冷茶以降の茶葉を加工することにより、葉緑素(クロロフィルa)の含有量が多量である一方で、カフェインの含有量が少量である加工茶葉並びにその製造方法の開発を技術課題とした。
【解決手段】 二番芽を摘採した後に生長した三番芽B3から更に生長した秋芽B4を秋冷茶として摘採した後、この秋芽B4の下方部分の三番芽B3を摘採するとともに、この三番芽B3を製茶加工して得られたことを特徴として成るものであり、葉緑素(クロロフィルa)の含有量が多量である一方で、カフェインの含有量が少量である加工茶葉を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は葉緑素(クロロフィルa)の含有量が多量である一方で、カフェインの含有量が少量である加工茶葉並びにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近時、健康志向の高まりとともに、保健成分(カテキン、ポリフェノール、ビタミンC等)が豊富に含まれる緑茶飲料が幅広い年代に好まれ広く普及している。
その一方で緑茶にはカフェインが含まれているため、多量に摂取された場合には、睡眠障害や胃腸障害等が引き起こされてしまうこともあった。
このため茶の抽出液からカフェインを除去する技術が開発されており、PETボトル入り飲料や缶入り飲料として提供することが可能となっている(例えば特許文献1参照)。
また摘採後の生茶葉に熱湯に浸漬することによりカフェインを溶出させ、カテキン類、アミノ酸類を減少させることなく、カフェインを大幅に除去する技術も開発されており (例えば特許文献2参照)。
【0003】
ところで通常、茶樹は一年の間に、一番茶(5月初旬)、二番茶(夏)、秋冷茶(秋)の三度にわたって刈り取りが行われる。
その後、翌年の萌芽に備えて茶樹の刈り込みが行われるが、この時刈られた茶葉はこわ葉(硬い葉)であり、アミノ酸類の含有量が少なく商品価値がないというのが斯界の常識であるため、その場に放置されて肥料とされるか廃棄されていた。
【特許文献1】特開2005−270094公報
【特許文献2】特開2001−245591公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような背景を考慮してなされたものであって、従来は廃棄されていた秋冷茶以降の茶葉を加工することにより、葉緑素(クロロフィルa)の含有量が多量で濃い緑色を呈する一方で、カフェインの含有量が少量である加工茶葉並びにその製造方法の開発を技術課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち請求項1記載の加工茶葉は、二番芽を摘採した後に生長した三番芽から更に生長した秋芽を秋冷茶として摘採した後、この秋芽の下方部分の三番芽を摘採するとともに、この三番芽を製茶加工して得られたことを特徴として成るものである。
この発明によれば、葉緑素(クロロフィルa)の含有量が多量である一方で、カフェインの含有量が少量である加工茶葉を得ることができる。
【0006】
また請求項2記載の加工茶葉は、前記要件に加え、クロロフィルaの含有量が、乾燥重量100g当たり500mg以上であることを特徴として成るものである。
この発明によれば、加工茶葉を、濃緑色を呈する商品価値が高まったものとすることができる。
【0007】
更にまた請求項3記載の加工茶葉は、前記要件に加え、ハンターの色差式によるLab表色系における色調の指数aが−10.0以下であることを特徴として成るものである。
この発明によれば、加工茶葉を、色沢が濃緑色であって商品価値が高まったものとすることができる。
【0008】
更にまた請求項4記載の加工茶葉は、前記要件に加え、カフェインの含有量が、乾燥重量100g当たり1.5g以下であることを特徴として成るものである。
この発明によれば、加工茶葉を、低カフェインであって商品価値が高まったものとすることができる。
【0009】
更にまた請求項5記載の加工茶葉は、前記要件に加え、粉末状に粉砕されていることを特徴として成るものである。
この発明によれば、加工茶葉を水またはお湯と混ぜるだけで急須を要することなく手軽に茶飲料として飲むことができ、更に茶殻の処理が不要となるばかりでなく、加工茶葉に含まれるクロロフィル等の保健成分を余すことなく摂取することが可能となる。
【0010】
また請求項6記載の加工茶葉の製造方法は、二番芽を摘採した後に生長した三番芽から更に生長した秋芽を秋冷茶として摘採した後、この秋芽の下方部分の三番芽を摘採するとともに、この三番芽を製茶加工することを特徴として成るものである。
この発明によれば、葉緑素(クロロフィルa)の含有量が多量である一方で、カフェインの含有量が少量である加工茶葉を得ることができる。
また、秋冷茶に次いで摘採されることとなるっ三番芽に葉緑素(クロロフィルa)を蓄積し、更には三番芽にカフェインが蓄積されるのを回避することができる。
【0011】
更にまた請求項7記載の加工茶葉の製造方法は、前記請求項6記載の要件に加え、前記秋芽が成長する前の段階で、三番芽の先端部分を刈り揃えることを特徴として成るものである。
この発明によれば、秋冷茶として摘採されることとなる秋芽の生長を促進することができる。
【0012】
更にまた請求項8記載の加工茶葉の製造方法は、前記請求項6または7記載の要件に加え、前記摘採された三番芽を蒸熱する工程と、35〜80℃の低温下で攪拌することにより葉緑素の消滅を抑えながら水分を除去する工程と、乾燥を行う工程とを有することを特徴として成るものである。
この発明によれば、葉緑素の消滅を防止して、葉緑素の含有量が豊富な加工茶葉を得ることができる。
【0013】
更にまた請求項9記載の加工茶葉の製造方法は、前記請求項8記載の要件に加え、前記水分の除去は、浚い手のみを有する葉打機、粗揉機または中揉機によって行うことを特徴として成るものである。
この発明によれば、茶葉に圧力が加わって葉緑素が破壊されてしまうのを回避することができる。
また水分除去を担う装置として、既存の装置を簡易に改変したものが適用されることにより、加工茶葉の製造ラインを低コストで構築することができる。
【0014】
更にまた請求項10記載の加工茶葉の製造方法は、前記請求項8または9記載の要件に加え、乾燥の終了した茶葉を最終的に粉砕機により微粉化し、全量服飲されるように加工することを特徴として成るものである。
この発明によれば、加工茶葉を、水またはお湯と混ぜるだけで急須を要することなく手軽に茶飲料として飲むことができ、更に茶殻の処理が不要となるばかりでなく、加工茶葉に含まれるクロロフィル等の保健成分を余すことなく摂取することが可能なものとすることができる。
そしてこれら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来は廃棄されていた秋冷茶以降の茶葉を加工することにより、葉緑素(クロロフィルa)の含有量が多量である一方で、カフェインの含有量が少量である加工茶葉を製造することができ、今までにない新たな商品として市場に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
なお以下の実施例に対して本発明の技術的思想の範囲内において適宜変更を加えることも可能である。
以下本発明の加工茶葉について、その製造方法にしたがって説明を行う。
なお本発明の加工茶葉は、一例としてやぶきた品種の生茶葉を原材料とするものであるが、他の品種更には今後現れる新たな品種を原材料とすることもできる。
本発明の加工茶葉は、二番芽を摘採した後に生長した三番芽B3から更に生長した秋芽B4を秋冷茶として摘採した後、この秋冷茶の下方部分の三番芽B3を摘採するとともに、この三番芽B3を製茶加工して得られたものである。
ここで前記三番芽B3の摘採までの茶樹管理の様子を述べると、六月の下旬に二番芽が摘採された茶樹Aにあっては、その後図1(a)に示すように三番芽B3が生長するものであり、その後、35日程で三番芽B3の生長は停止する。
そして七月二十五日〜八月十日頃に図1(b)に示すように、飛び抜けて生長した飛び芽B30及び三番芽B3の先端部分にある止葉B31を刈取線L1の個所で刈り取る作業が行われる。因みにこのように先端部分を切除することにより、その後の秋芽B4の伸びが良くなるものである。
【0017】
その後、図1(c)に示すように三番芽B3の頂芽から秋芽B4が伸びるものであり、この秋芽B4が生長した九月二十五日頃に、図2(a)、(b)に示すように秋芽B4の先端から数cmの部分を刈取線L2の個所で摘採し、通常の製茶加工を施す。
ここで通常の製茶加工とは揉乾操作を行うものであり、一例として図4に示すように蒸熱工程1′、葉打工程2′、粗揉工程3′、揉捻工程4′、中揉工程5′、精揉工程、乾燥工程6′及び粉砕工程7′を具えて成るものである。
因みに前記秋芽B4を製茶加工したものは秋冷茶と呼ばれ、昼と夜の温度差が一番茶の頃と似ている時期に摘採されたものであるため、新茶風味の緑茶として仕上がるものである。
【0018】
次いで図2(c)に示すように、前記三番芽B3の下部2/3を残してその上部(この実施例では三番芽B3と秋芽B4が混在している部分。)を刈取線L3の個所で摘採するとともに製茶加工して得られたものが本発明の加工茶葉である。因みにこの部分の茶葉は、10アール当たり約300kgの収穫量となる。
このような三番芽B3の下部2/3を残してその上部を刈り取る作業形態は、背景技術で述べたように翌年の萌芽に備えた刈り込み作業に相当するものであり、この部分の茶葉は、従来はこわ葉(硬い葉)であり、アミノ酸類の含有量が少なく商品価値がないとされていたものである。
なお前記秋芽B4を摘採した後の三番芽B3の摘採は、製茶工場の空き具合にもよるが、通常一週間以内に行うことが好ましい。
また上述した一連の摘採期に関しては、気候や茶樹Aの樹勢によって前後するものである。
【0019】
次に本発明の加工茶葉の製造方法について説明すると、この方法は一例として図3に示すように、蒸熱工程1、葉打工程2、粗揉工程3、揉捻工程4、中揉工程5及び乾燥工程6を具えて成るものであり、各工程によって順次茶葉を処理することにより、本発明の加工茶葉を得るための方法である。
更に上記工程に粉砕工程7を加えることにより粉末状の加工茶葉を得るものであるが、この粉砕工程7を省略して加工茶葉をリーフ茶として提供するようにしてもよい。
因みにこのような工程の構成は、前出の図4に示した通常の製茶加工工程から精揉工程が除外された構成となっている。
【0020】
以下、これら各工程について説明すると、まず前記蒸熱工程1は、茶葉に100℃以上の高温を加えることにより酸化酵素の働きを停止させるための工程である。
なお蒸熱処理を行うための装置の一例として、網胴回転攪拌式の装置を採用した。
【0021】
また前記葉打工程2、粗揉工程3及び中揉工程5は、茶葉を35〜80℃の温度下で攪拌することによりクロロフィルaの消滅を抑えながら水分を除去する工程である。
なお葉打工程2で用いられる葉打機、粗揉工程3で用いられる粗揉機及び中揉工程5で用いられる中揉機については、茶葉に圧力が加わって葉緑素が破壊されてしまうのを回避するため、既存の装置から揉み手を取り外し、浚い手のみが茶葉と接触するようにした。
また粗揉工程3については、三台の粗揉機を用い、第一粗揉工程31、第二粗揉工程32、第三粗揉工程33と三段階での処理を行うようにした。
【0022】
また前記揉捻工程4は、茶葉中の水分を分散させるための工程であり、揉捻処理を行うための装置の一例として、一般的な揉捻機が採用される。
【0023】
また前記乾燥工程6は、中揉工程5での処理が終わった茶葉を更に含水率6%D.B.程度にまで乾燥させる工程である。
なお乾燥処理を行うための装置の一例として、送帯式乾燥機が採用される。
【0024】
また前記粉砕工程7は、加工茶葉を粒径数十μm程度の粉末にするための工程である。因みにこのような粉末状とすることにより、加工茶葉を水またはお湯と混ぜるだけで急須を要することなく手軽に茶飲料として飲むことができ、更に茶殻の処理が不要となるばかりでなく、加工茶葉に含まれる保健成分を余すことなく全量服飲することが可能となる。
なお粉砕処理を行うための装置の一例として、ボールミルを採用したが、気流粉砕式の装置や、石臼等を適用してもよい。
【実施例】
【0025】
・原料茶葉:やぶきた
・蒸熱工程:100℃の温度下で50秒蒸熱処理を施した(浅蒸し)。
・葉打工程:80℃の温度下で15分間攪拌した。
・第一粗揉工程:80℃の温度下で15分間攪拌した。
・第二粗揉工程:80℃の温度下で15分間攪拌した。
・第三粗揉工程:80℃の温度下で15分間攪拌した。
・揉捻工程:3分間の揉捻処理を施した。
・中揉工程:35℃の温度下で30分間攪拌した。
・乾燥工程:90℃の温度下で30分間乾燥処理を施し、茶葉を含水率6%D.B.にま で乾燥させた
・粉砕工程:茶葉を粒径数十μmに粉砕した。
【0026】
次いで上述のようにして得られた本発明の加工茶葉の特徴について、表1、2に示すように一般的な緑茶(やぶきた品種の二番茶を粉末状にした、市販されているものであり、表中では従来製法の茶葉として示している。)と比較しながら説明を行う。
なお成分の検出方法は、茶葉100gを2000mlの蒸留水に24時間浸出させて得た浸出液を液体クロマトグラフィーにより分析し、含有量を算出するものである。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
まず本発明の加工茶葉は、表1に示すようにハンターの色差式によるLab表色系における色調の指数aが−15.0(−10以下)となっており、濃緑色を呈するものである。
なおハンターの色差式によるLab表色系では、L値が高いほど白く、L=100の場合が完全な白で、L=0の場合が完全な黒を示すものである。
またa値は大きくなるほど赤色が濃く、小さくなるほど緑色が濃くなることを示すものであり、加工茶葉にあっては、a値が−10以下であれば濃緑色を呈するものといえる。
またb値は大きくなるほど黄味が強く、小さくなるほど青味が強くなることを示すものである。
【0030】
更にまた本発明の加工茶葉は、葉緑素であるクロロフィルaを乾燥重量100g当たり543mg(500mg以上)含有するものであり、またカフェインの含有量が、乾燥重量100g当たり1.3g(1.5g以下)となっているものである。
なお本発明の加工茶葉が、上述のように多量のクロロフィルaを含有しているのは、加工前の段階で茶葉自体に多量のクロロフィルaを含有していることはもとより、本発明の加工茶葉の製造方法によって、極力、加圧を行うことなく製茶することにより、クロロフィルaの消失を防止していることに由来するものである。
【0031】
上記表1、2からわかるように、本発明の加工茶葉(試料1)は、従来製法の茶葉(試料2)と比べ、クロロフィルaが1. 5倍以上含まれており、より濃い緑色を呈するものでありながら、カフェインの含有量はおよそ1/2となっているものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の加工茶葉の原料となる茶葉の摘採の様子を示す骨格図である。
【図2】本発明の加工茶葉の原料となる茶葉の摘採の様子を示す骨格図である。
【図3】本発明の加工茶葉の製造方法を示す工程図である。
【図4】既存の緑茶製法を示す工程図である。
【符号の説明】
【0033】
1 蒸熱工程
2 葉打工程
3 粗揉工程
31 第一粗揉工程
32 第二粗揉工程
33 第三粗揉工程
4 揉捻工程
5 中揉工程
6 乾燥工程
7 粉砕工程
A 茶樹
B3 三番芽
B30 飛び芽
B31 止葉
B4 秋芽
L1 刈取線
L2 刈取線
L3 刈取線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二番芽を摘採した後に生長した三番芽から更に生長した秋芽を秋冷茶として摘採した後、この秋芽の下方部分の三番芽を摘採するとともに、この三番芽を製茶加工して得られたことを特徴とする加工茶葉。
【請求項2】
クロロフィルaの含有量が、乾燥重量100g当たり500mg以上であることを特徴とする請求項1記載の加工茶葉。
【請求項3】
ハンターの色差式によるLab表色系における色調の指数aが−10.0以下であることを特徴とする請求項1または2記載の加工茶葉。
【請求項4】
カフェインの含有量が、乾燥重量100g当たり1.5g以下であることを特徴とする請求項1、2または3記載の加工茶葉。
【請求項5】
粉末状に粉砕されていることを特徴とする請求項1、2、3または4記載の加工茶葉。
【請求項6】
二番芽を摘採した後に生長した三番芽から更に生長した秋芽を秋冷茶として摘採した後、この秋芽の下方部分の三番芽を摘採するとともに、この三番芽を製茶加工することを特徴とする加工茶葉の製造方法。
【請求項7】
前記秋芽が成長する前の段階で、三番芽の先端部分を刈り揃えることを特徴とする請求項6記載の加工茶葉の製造方法。
【請求項8】
前記摘採された三番芽を蒸熱する工程と、35〜80℃の低温下で攪拌することにより葉緑素の消滅を抑えながら水分を除去する工程と、乾燥を行う工程とを有することを特徴とする請求項6または7記載の加工茶葉の製造方法。
【請求項9】
前記水分の除去は、浚い手のみを有する葉打機、粗揉機または中揉機によって行うことを特徴とする請求項8記載の加工茶葉の製造方法。
【請求項10】
乾燥の終了した茶葉を最終的に粉砕機により微粉化し、全量服飲されるように加工することを特徴とする請求項8または9記載の加工茶葉の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−245605(P2008−245605A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93440(P2007−93440)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(399082782)株式会社荒畑園 (2)
【Fターム(参考)】