説明

加工装置、及び試料加工方法

【課題】イオンビーム加工中の試料温度を任意の温度に保ちながらイオンビームエネルギーによる試料の温度上昇を抑制して、試料構造変化などのダメージを抑制して清浄な断面作製を実現する。
【解決手段】本発明は、イオンを発生するイオン銃と、試料を搭載する試料台と、試料と前記イオン銃の間に配置されたマスクと、前記イオン銃から放出されたイオンビームにより、前記マスクから突出した試料を削る加工装置において、前記マスクは前記試料の上面に接触し、当該マスクには、冷却機構が接続されていることを特徴とする。この冷却機構は、温度調節機構であってもよい。また、同様に、前記試料台に冷却機構を備えたことを特徴とする。さらに、前記試料台には、振動発生機構が取り付けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を作製するための加工装置および試料加工方法に係り、特に、走査電子顕微鏡などで観察される試料の加工装置及び加工方法に係る。
【背景技術】
【0002】
走査電子顕微鏡(SEM)等で観察される試料を加工する装置として、イオンミリング装置がある。イオンミリングは加速したイオンを試料へ衝突させて、イオンが原子や分子をはじき飛ばすスパッタ現象を利用して、試料を削る加工法である。また加工される試料は、上面にイオンビームの遮蔽板となるマスクを載せ、マスク端面からの突出部分がスパッタされることで平滑な断面が加工できる。
【0003】
このイオンミリング法は、金属,ガラス,セラミック,電子部品,複合材料などを対象に用いられる。例えば、電子部品においては、内部構造や断面積層形状,膜厚評価,結晶状態,故障や異物断面の解析といった用途に対して、走査電子顕微鏡による形態像,試料組成像,チャネリング像の取得やX線分析,結晶方位解析など取得するための断面試料作製方法として利用されている。
【0004】
断面作製法には、イオンミリング法以外に、機械研磨法や切削法などいくつかの手法が知られているが、硬度差の異なる材料が含まれた複合材を加工することは困難であり、加わった応力の影響をなくすことが難しい。そのため、これらの方法は、高いスキルが必要であるといった問題点がある。
【0005】
特に、高分子など柔らかい材料はこれまでミクロトーム法による断面作製が主流であったが、中空構造を示す材料などでは切削時の応力によってつぶれや剥離などの構造破壊が生じ、元の構造を反映した断面作製が難しい場合がある。
【0006】
これに対してイオンミリング法はイオンのスパッタ現象を利用した方法であるため物理的な応力がかからない試料作製方法であり、柔らかい材質や、空隙のある材料など、切削や研磨の難しい試料の加工が可能となる。本方法は、試料上面に遮蔽板としてマスクを配置し、その上からアルゴンなどのビームを照射させ、マスクから突出した試料をスパッタして加工面を取得できる。
【0007】
このイオンミリング法は無応力加工の方法であるため、柔らかい材料の構造を破壊することなく断面を作製することができる。また、硬度差の異なる複合材料においても、材質差による影響を軽減した平滑な断面の作製を実施することができる。さらに、歪みのない平滑で清浄な鏡面状態の断面を容易に得ることができる。
【0008】
イオンミリング装置として、特許文献1には、真空チャンバー内に配置され、試料にイオンビームを照射するためのイオンビーム照射手段と、真空チャンバー内に配置されてイオンビームにほぼ垂直な方向の傾斜軸をもつ傾斜ステージと、その傾斜ステージ上に配置されて試料を保持する試料ホルダと、傾斜ステージ上に位置して試料を照射するイオンビームの一部を遮る遮蔽材とを備えた断面試料加工装置であり、傾斜ステージの傾斜角度を変化させながらイオンビームによる試料加工を行えるようにし、試料の位置調整用の光学顕微鏡が試料ステージ引き出し機構の上端部に取り付けられた試料加工装置が記載されている。
【0009】
特許文献2には、イオンミリング装置の試料ホルダおよびホルダ固定具に関して記載されている。
【0010】
特許文献3には、イオンミリング装置において、移動ステージと固定ステージが接触しているため、試料,試料ホルダ,遮蔽材当にイオンビームによる熱の蓄積が少ないことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−91094号公報
【特許文献2】特開平9−293475号公報
【特許文献3】特開2005−37164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
イオンミリング法では、上記のように、物理的な応力がかからない利点があるものの、イオンビームのエネルギーによる熱の蓄積が原因となり、観察の対象である試料断面にダメージが発生する場合が懸念される。特に高分子材料は他の材料と比べて融点が低いことが多く、イオンビームのエネルギーによる熱が、試料の変形や収縮といった試料構造の損傷を生じることがある。特許文献3のようなイオンミリング装置でも、熱ダメージの問題が解消されていない。
【0013】
イオンビームの加速電圧を下げることによって照射されるイオンビームのエネルギーを低減する工夫を試みた場合においても、加工に長時間を要するため熱の蓄積が徐々に進行してダメージの発生を防ぐことは難しい。
【0014】
また、イオンミリング法を用いた場合は、イオンビームによって削られた物質の試料への再付着(リデポジション)が起こって、清浄な加工面の取得は困難である。
【0015】
近年有機ELなど電子デバイス分野においても有機高分子材料の活用が進み、硬い基板に含まれる柔らかい有機高分子材料というような複合材料が増加しており、本方法を用いた評価ニーズが高まっているが、適切なミリング方法がいまだに確立されていない。
【0016】
本発明は、かかる点に鑑み、試料、特に、熱に弱い材料等の清浄な断面作製を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、イオンを発生するイオン銃と、試料を搭載する試料台と、試料と前記イオン銃の間に配置されたマスクと、前記イオン銃から放出されたイオンビームにより、前記マスクから突出した試料を削る加工装置において、前記マスクは前記試料の上面に接触し、当該マスクには、冷却機構が接続されていることを特徴とする。この冷却機構は、温度調節機構であってもよい。
【0018】
また、同様に、前記試料台に冷却機構を備えたことを特徴とする。さらに、前記試料台には、振動発生機構が取り付けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のイオンミリング加工装置は、試料の温度調整を実施することによって、試料の軟化による変形や構造破壊を低減する。
【0020】
また温度調製ユニットは、加工領域の近傍に試料より低温の領域を発生させ、試料汚染の原因となるコンタミネーショントラップとして、リデポジション付着を抑制することもできる。
【0021】
これにより、試料(特に、熱に弱い材料)において、清浄な断面作製を作成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】請求項1,2および13の実施例を示すイオンミリング装置の概略構成図である。
【図2】請求項3〜5および12の実施例を示す冷却機構付マスクを示した説明図である。
【図3】請求項3〜5および12の実施例を示す冷却機構付マスクの別形状を示した説明図である。
【図4】請求項6〜8および12の実施例を示す説明図であり、本発明のマスクを試料および試料台へ装着して温度センサーを取り付けた状態を示す。
【図5】請求項9〜11の実施例を示す熱放射効率を上げた試料台を示した説明図である。
【図6】請求項9〜11の実施例を示す試料を固定した試料台への温度調節機構を示した説明図である。
【図7】請求項9〜11の実施例を示す熱放射効率を上げた試料台の別形状を示した説明図である。
【図8】請求項14〜19の実施例を示すイオンミリング加工方法の手順フローを示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
イオンミリング加工法において、イオンビームのエネルギーによる試料周辺の熱の上昇と試料への熱の蓄積を低減し、試料とその近傍を室温程度に保持する目的を試料近傍の温度調製を行うことで実現した。
【0024】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0025】
図1は、試料上面に遮蔽板としてマスクを載せた試料に、加速させたイオンを照射し、マスクから突出した試料をイオンのスパッタ現象によって削ることができるイオンミリング加工装置に本発明を加えた構成を示した説明図である。
【0026】
イオン源1から、イオンビーム2を放出し、当該イオンビーム2を試料に照射する照射系を形成する。このイオンビーム2の照射とその電流密度はイオン源制御部3によって制御される。試料6は真空チャンバー4内に配置され、真空排気系5によってチャンバー内を大気圧または真空に制御され、その状態を保持できる。
【0027】
試料6は、試料台7の上に保持される。試料台7は、さらに試料ステージ8に保持されている。試料ステージ8は、真空チャンバー4が大気状態に開放した時に真空チャンバーの外へ引き出すことができ、また試料6をイオンビーム2の光軸に対して任意の角度に傾斜させることができるための構成要素全てを含んでいる。試料ステージ駆動部9は、試料ステージ8を左右へスウィングすることができ、その速度を変更することができる。
【0028】
マスク11はイオンビーム2を遮蔽するためのものであり、試料6の上に保持される。本発明の本実施例において、マスク11は温度調節機能を有した構成になっており、温度制御部12と配線13でつながっている。また、マスク11上部には温度センサー14を配しており、温度センサー14は温度制御部12と出力ケーブル15でつながっている。これによりマスク温度をモニターしながら温度調節を実施できるようになっている。
【0029】
また、本発明の本実施例においては、試料台7も温度調節機能を有した構成になっており、温度制御部12と配線16でつながっている。この温度制御部12は温度制御部からイオン制御部へ出力するケーブル17によってイオン源制御部3につながっている。これにより出力された温度が設定温度範囲を越えた際にはイオン照射を停止し、また設定温度範囲内である際にはイオン照射を開始するというイオン源のオン/オフの制御も実施することができる。
【0030】
また、本発明の本実施例では、試料ステージ8には超音波発生源10が装着されている。これにより、試料6は加工中に左右へスウィングすると共に超音波振動が加えられることによって、イオンビームのエネルギーが一箇所に集中することを抑制し、エネルギーの拡散ができる。これにより試料のイオンエネルギーによるダメージの軽減ができる。
【0031】
本発明の装置は、上記のような構造にすることによってマスク11と試料台7またはどちらか一方を温度調節することができ、試料の温度調整と試料からの放熱を促進させることができる。また超音波発生源によってイオンビームのエネルギーの拡散も可能であり、これらによってイオンビームエネルギーによる試料へのダメージの軽減を実現する。
【実施例2】
【0032】
図2は、本発明による温度調節機能付マスクを説明する図である。図2(a)には温度調節機能付マスクの構成を説明した。温度調節機能付マスク11はイオンを遮蔽することができる硬い金属でできたブロック18と温度調節ユニット19を構成要素としている。温度調製ユニット19はペルチェ素子で構成され、温度制御部と接続された配線13が配置されている。ペルチェ素子は電流の極性を切り替えることによって、冷却および加熱のどちらも実施が可能であるため、配線13へ流す電流の極性を温度制御部12で制御することによって、ペルチェ素子の温度を調整することができる。
【0033】
イオンビームのエネルギーによる試料周辺の熱の上昇と試料への熱の蓄積の低減を目的とした場合、冷却機構のみの付与でも実現する。例えば、マスク11に冷却水を流し、温度の上がり具合によって、水温,流速等を変えれば、同様の機構は実現できる。また、十分冷却したマスク11を配置することでも実現できる。
【0034】
ペルチェ素子を用いた方法では、以下のメリットがある。試料を冷却しすぎた状態で真空チャンバーを大気開放すると、試料断面への霜の付着を誘発し、加工面の汚染へとつながる。そのため、真空チャンバーを大気開放する前に試料温度が室温まで上昇することをまつ必要がある。本発明によるペルチェ素子を用いた温度調節機構では冷却だけでなく加熱も実現できるため、大気開放前には加熱によって試料やその近傍を室温程度に調節することができる。そのため、ミリング終了後すぐに大気開放でき、スループットの向上が図れる。
【0035】
図2(a)は温度調製ユニット19に金属ブロック18を装着した状態を示し、図2(b)は金属ユニット18を温度調製ユニット19から取り外した状態を示す。金属ブロック18は、イオンミリング利用後に取り外して新しいブロックと交換できるようになっている。図2に示した金属ブロック18は、金属ブロックが温度調節ユニットへ着脱可能な形状となっており、温度調節ユニット19に三方向を囲まれ、金属の熱伝導性を利用して周囲から温度を調整することができる。この条件を満たすことができれば、金属ユニット18および温度調節ユニット19の形状を代替することが可能である。
【0036】
代替可能な温度調節機能付マスクの構成を図3に示す。温度調節機能付マスク11は、イオンを遮蔽するために硬い金属でできたブロック18と温度調製ユニット19を構成要素としている。温度調製ユニット19はペルチェ素子で構成され、温度制御部12と接続された配線13が配置されている。配線13へ流す電流の極性を温度制御部12で制御することによって、ペルチェ素子の温度を調整することができる。図3(a)は温度調製ユニット19に金属ブロック18を装着した状態を示し、図3(b)は金属ブロック18を温度調製ユニット19から取り外した状態を示す。
【0037】
なお、図3では、ペルチェが加工位置の近くにまでのびているため、削りカスのトラップや輻射熱による冷却効果があがる。マスクの材料として、銅などの熱伝導性の良い物質であれば、マスク11自体の温度変化が早く、試料の温度を保つという観点から好ましい。
【0038】
図4は、温度調節機能付マスク11のイオンビーム2照射時における装着状態を説明する図である。図4の(a)には模式図を示し、(b)には上面図を示し、(c)には側面図を示した。試料台7に保持された試料6の上に温度調節機能付マスク11が載せられている。試料6は金属ブロック18の内側になるように設置する。試料6は、温度調製された金属ブロック18によって間接的に温度調製され、イオンビーム2が金属ブロック18とそこから突出した試料に照射されて加工される。また、金属ブロック18の上には温度センサー14が装着され、金属ブロック18の温度をモニターできる。温度調節機能付マスク11には配線13が、温度センサー14には温度センサーから温度制御部へ出力するケーブル15がついており、それぞれ温度制御部12につながっている。温度制御部12は、温度センサー14から出力された温度によって、温度調製ユニット19への電流のオン/オフや電流量,極性を制御して、金属ブロック18の温度を調節することができる。また温度制御部12は温度制御部からイオン制御部へ出力するケーブル17によってイオン源制御部3につながっている。これにより出力された温度が設定温度範囲を越えた際にはイオン照射を停止し、また設定温度範囲内である際にはイオン照射を開始するというイオン源のオン/オフの制御も実施することができる。
【0039】
本発明のマスクは、上記のような構造にすることによって温度調節することができる。これにより、試料の温度上昇を抑制でき、イオンビームエネルギーによる試料へのダメージの軽減を実現する。
【実施例3】
【0040】
図5は温度調節可能な試料台7を示す説明図である。図5の(a)には試料台7の全体図を示し、(b)には試料台7の側面からの図を示した。試料台7は凹みを有する形状であり、試料台の表面積を拡大し、冷却機構を接触させることで放熱効果が得られる。また試料台の体積を減らすことによって蓄積される熱容量を減らすことができ、試料台へ熱が蓄積して試料へ熱を伝えることができないようになっている。
【0041】
試料台の凹みには、図6に示したように、温度調製ユニット20を装着した。図6(a)には試料6が保持された試料台7の凹みに温度調節ユニット20が装着されている状態の側面図を示し、(b)には試料6が保持された試料台7の凹みに温度調節ユニット20を装着する様子の上面図を示した。温度調節ユニット20はペルチェ素子で構成され、配線17が配置され、温度制御部12とつながっている。これにより、配線13へ流す電流の極性を温度制御部12で制御することによって、冷却および加熱のどちらも実施が可能である。試料台7の凹みは放熱効果と温度調節ユニット20の装着が可能になるような形状としており、温度調節ユニットの形状は試料台の凹みに装着できる形状になっている。試料台7および温度調節ユニット20のこの条件を満たすことができれば、他の形状に代替することも可能である。試料6の直下に温度調節ユニット20を配置すると、試料6を効果的に放熱ができる。
【0042】
図7には代替可能な試料台7の形状を示した。図7の(a)には試料台7の全体図を示し、(b)には試料台7の側面からの図を示した。複数の凹みを有するフィン構造にすることによる表面積を増加できており、温度調節ユニット20との設置面積も増加させることができる。
【0043】
本発明の試料台は、上記のような構造にすることによって放熱を促進し、また温度調節をすることができる。これにより、試料の温度上昇を抑制でき、イオンビームエネルギーによる試料へのダメージの軽減を実現する。
【実施例4】
【0044】
試料上面に遮蔽板としてマスクを載せた試料に、加速させたイオンを照射し、マスクから突出した試料をイオンのスパッタ現象によって削ることができるイオンミリング加工装置において、試料からはじき飛ばされた分子が試料に再付着してしまう現象(リデポジッション)が起こり、加工面を汚染することによって清浄な試料作製を妨げる。本発明による温度調節機能付マスク11は、例えば図2に示したとおり、イオンを遮蔽することができる硬い金属でできたブロック18と温度調製ユニット19を構成要素とし、温度調製ユニット19はペルチェ素子で構成され、冷却の実施が可能である。この冷却した温度調節ユニット19は、間接的に金属ブロック18や試料6を冷却するが、その間には温度差が生じる。また金属ブロック18や試料6は、図4に示したとおり、イオンビーム2が照射されることによって温度上昇が起こり、温度調節ユニット19との温度差は大きくなる。このことにより試料近傍に存在する温度調節ユニット19は低温の領域となり、コンタミネーショントラップとして試料からはじき飛ばされた分子を捉えることができる。
【0045】
本発明は、試料近傍に低温部位を作ることにあるため、図2に示した形状でなくても実現することができる。図3に示した温度調節機能付マスク11は、金属ブロックの前面に温度調節ユニット19が突出したような形状をしている。このように金属ブロック18とその下部に位置する試料6のより近傍に低温部を配置することによって、より強力なトラップとなることができる。このような突出部は図2の形状にも付加することが可能である。
【0046】
またイオンミリング装置では試料下部へもリデポジションが生じる。図5に示した本発明による温度調節可能な試料台7は、図6に示したように温度調製ユニット20を装着することができる。この温度調節ユニット20はペルチェ素子で構成され、冷却が実施できる。これによって冷却した試料台7に装着された温度調節ユニット20との間に温度差が生じ、温度調節ユニット20は試料近傍の低温部として試料からはじき飛ばされた分子を捉えるトラップとなる。
【0047】
上記のようにマスクおよび試料台を間接的に冷却するための温度調製ユニットは、加工領域の近傍に温度差の異なる低温領域を発生させ、試料汚染の原因となるコンタミネーショントラップとしてリデポジションの付着の抑制に機能できる。
【実施例5】
【0048】
試料上面に遮蔽板としてマスクを載せた試料に、加速させたイオンを照射し、マスクから突出した試料をイオンのスパッタ現象によって削ることができるイオンミリング加工装置において、繊維状や中空、また孔(ボイド)を有するといったような形状の試料を加工する場合、試料中の空隙でイオンビームの軌道が変化し、加工スジが発生する場合がある。このような試料については樹脂に埋め込むことによって見かけ上空隙がなかったことにするような処理を予め施すことで加工スジの発生を防ぐことができる。しかし、内部に含まれるボイドにまで樹脂を浸透させることができない試料や、樹脂との組成差がほとんどないか樹脂と反応して構造破壊が生じる試料など樹脂を利用することができない材料においては、その空隙をなかったことにできないため、加工スジの発生を防止することはできない。
【0049】
本発明による試料ステージ8につながった超音波発信源10は、微小振動を試料に与えることができる。この振動は、イオンビームのエネルギーが一箇所に集中することを抑制するだけではなく、ビームエネルギーを試料に照射されるイオンビームの痕跡が試料の微動によって不明確になり、イオンビームのエッジを反映した試料表面に形成される加工スジを不鮮明にすることができる。これにより構造上空隙を有しているため避けることができなかった加工スジの発生を抑制し、試料の平滑な断面の観察を可能にする効果もある。
【0050】
なお、各実施例において超音波を用いたが、試料の加工断面に囲う筋が残らないくらいの周期の短い振動であればよい。
【実施例6】
【0051】
試料上面に遮蔽板としてマスクを載せた試料に、加速させたイオンを照射し、マスクから突出した試料をイオンのスパッタ現象によって削ることができるイオンミリング加工装置において、イオンビームエネルギーによる試料ダメージを軽減して加工する具体的な操作手法の一例を以下に記述する。図8には本発明によるイオンミリング加工方法の手順を示した。尚、以下は、高分子材料の断面をイオンミリング装置で加工する操作において、本発明を実施する一例であり、本発明の形態は下記に限定されるものではない。
【0052】
高分子材料には、融点が低いという特徴を持つものが多く、例えばポリエチレン(融点130℃)やポリプロピレン(融点約170℃)の様な材料がある。このような試料は試料台へセットし、マスクを試料上部へ装着する。試料ステージを真空チャンバーへ納めてチャンバー内を真空状態にし、イオンビームを照射して加工を開始する。従来の冷却機能がない装置においては、イオンビームのエネルギーが熱として試料やその近傍に蓄積し、試料が軟化/変形するなどのダメージが生じた。
【0053】
本発明によるマスクや試料台を温度調節できる機構が付加したイオンミリング装置においては、イオンビームが照射される前に試料上部にのせたマスクや試料台を冷却してからイオンビームを照射する。このとき操作者は、マスクや試料台を調節する温度は、試料の性質を考慮して設定する。材料のモニターしている温度が設定温度を超えると、温度制御部からイオン源制御部へ命令してイオンビーム照射を停止することができ、またモニターしている温度が設定温度に到達した際にはイオンビーム照射を開始することができるため、試料が軟化する温度より常に低温を維持しながら調節して加工を実施する。
【0054】
例えば均一の材料であればその材料の融点を目安として設定することができる。複合材料では、低温化にさらされると複合されたそれぞれの体積変化率が異なる場合において、異なる材料間で剥離が生じて試料構造の破壊が生じる場合がある。そのような試料においては、設定する温度を室温程度に定めて利用し、剥離など試料の構造変化を防ぐ工夫もできる。加工終了後は、温度調節ユニットが0度以下に設定されていた場合には、温度調節ユニットを加熱して室温に調節し、その後真空チャンバーを大気開放して試料を取り出し、霜などで試料汚染が生じることを防ぐ。
【0055】
本発明による装置は、イオンビームの電流密度を低くするように調節でき、イオンビームのエネルギーを低くして利用することができる。また試料ステージのスウィングスピードを変える事ができ、スウィング速度を早くすることによってイオンビームが試料の一箇所に長時間集中しないようにしてエネルギーを拡散することもできる。さらに超音波振動を試料ステージに加えることによってもエネルギーを拡散することができる。このような加工条件の最適化は、全て試料へ照射されるイオンビームのエネルギーを低減してダメージを抑制するものであるが、この場合にはエネルギーの低減はイオンビームのスパッタレートを低くすることにつながる。高分子材料の多くは硬い金属と比較して材質のミリングレートが早いため問題とはならない。しかし、高分子材料を広範囲で加工する場合においては、スパッタレートの低減が加工時間を長くする必要性を生み出す。このような場合において温度調整機能を持つ本装置は、加工時間に依存して増加する熱の蓄積を低減することができ、ダメージを抑制した断面作製が可能になる。
【0056】
加えて、高分子材料の多くは繊維状など試料内部に空隙を有するケースが多いが、超音波振動の付与によってこの空隙に起因した加工スジの発生を抑制し、空隙を有する構造の高分子材料の平滑な加工が可能になる。
【実施例7】
【0057】
試料上面に遮蔽板としてマスクを載せた試料に、加速させたイオンを照射し、マスクから突出した試料をイオンのスパッタ現象によって削ることができるイオンミリング加工装置において、試料からはじき出された分子が試料に再付着するリデポジションを軽減して加工する具体的な操作手法の一例を以下に記述する。尚、以下は、セラミック,ガラス,硬金属などの断面をイオンミリング装置で加工する操作において、本発明を実施する一例であり、本発明の形態は下記に限定されるものではない。
【0058】
セラミックやガラス,硬金属などの硬い材料はイオンに対するミリングレートが遅い場合が多い。このような材料の加工では、加工スピードが遅い、加工時間が長いなどリデポジションが発生しやすい要素が多くなる。このような材料の加工のためには、マスクからの突出量を少なくすることでミリングレートの遅さを補足する。マスクからの突出量を少なくするためには、例えば1°程度試料下部をへこませる(オーバーハングをつける)などの工夫が効果的であるが、硬い材料は研磨にも時間がかかり作業には困難を極める。本発明によるマスクや試料台を温度調節できる機構が付加したイオンミリング装置においては、操作者はイオンビームが照射される前に試料上部にのせたマスクや試料台を冷却してからイオンビームを照射する。マスクや試料台を冷却することによって試料近傍の温度調節ユニットが低温領域として存在できるため、コンタミネーショントラップとして試料からはじき出された分子をトラップすることができる。このとき操作者は、マスクや試料台を調節する温度を、試料の性質に特に影響がない場合においては極低温に設定する。これにより温度制御部からイオン源制御部へイオンビーム照射の停止を命令しないようにし、加工中のはじき飛ばされた分子をトラップし続け、リデポジションの付着を抑制する。
【符号の説明】
【0059】
1 イオン源
2 イオンビーム
3 イオン源制御部
4 真空チャンバー
5 真空排気系
6 試料
7 試料台
8 試料ステージ
9 試料ステージ駆動部
10 超音波発生源
11 マスク
12 温度制御部
13,16 配線
14 温度センサー
15 温度センサーから温度制御部に出力するケーブル
17 温度制御部からイオン制御部へ出力するケーブル
18 金属ブロック
19 温度調節ユニット
20 温度調節ユニット(試料台用)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンを発生するイオン銃と、
試料を搭載する試料台と、
試料と前記イオン銃の間に配置されたマスクと
前記イオン銃から放出されたイオンビームにより、前記マスクから突出した試料を削る加工装置において、
前記マスクは前記試料の上面に接触し、当該マスクには、冷却機構が接続されていることを特徴とする加工装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記マスクは、イオン照射部分と前記冷却機構が取り付けられた部分に分割され、当該イオン照射部分は交換可能であることを特徴とする加工装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記冷却機構は、ペルチェ素子であることを特徴とする加工装置。
【請求項4】
イオンを発生するイオン銃と、
試料を搭載する試料台と、
試料と前記イオン銃の間に配置されたマスクと
前記イオン銃から放出されたイオンビームにより、前記マスクから突出した試料を削る加工装置において、
前記試料台に冷却機構を備えたことを特徴とする加工装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記冷却機構は、試料台の試料の加工位置の下に配置されることを特徴とする加工装置。
【請求項6】
イオンを発生するイオン銃と、
試料を搭載する試料台と、
試料と前記イオン銃の間に配置されたマスクと
前記イオン銃から放出されたイオンビームにより、前記マスクから突出した試料を削る加工装置において、
前記試料台には、振動発生機構が取り付けられていることを特徴とする加工装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記振動発生機構により、試料台に超音波振動を与えることを特徴とする加工装置。
【請求項8】
イオンを発生するイオン銃と、
試料を搭載する試料台と、
試料と前記イオン銃の間に配置されたマスクと
前記イオン銃から放出されたイオンビームにより、前記マスクから突出した試料を削る加工装置において、
前記マスクは前記試料の上面に接触し、当該マスクには、温度調節機構が接続されていることを特徴とする加工装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記マスクには温度センサーが備えられ、前記マスクの温度が所定の範囲を超えた場合に、前記温度調節機構を制御し及び/又は前記イオン照射量を調節することを特徴とする加工装置。
【請求項10】
請求項8において、
前記マスクは、イオン照射部分と前記冷却機構が取り付けられた部分に分割され、当該イオン照射部分は交換可能であることを特徴とする加工装置。
【請求項11】
請求項8において、
前記冷却機構は、ペルチェ素子であることを特徴とする加工装置。
【請求項12】
試料とイオン銃の間にマスクを配置し、当該マスクから試料を突出させ、当該試料の突出部を前記イオン銃から放出されたイオンビームにより削る加工方法であって、
前記マスクの温度をモニターし、前記マスクの温度が所定の範囲を超えた場合に、前記マスクの温度を調節し及び/又はイオンビームを照射量を調節することを特徴とする加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−257856(P2010−257856A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108647(P2009−108647)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】