加熱された生茶葉と微生物用培地中で培養された茶細胞とを用いるテアフラビンの製造方法
【課題】安価かつ高収率で、食品に直接使用することができるようなテアフラビンの製造方法を提供する。
【解決手段】(1)茶を含む原料を加熱する工程、(2)該(1)工程で加熱した該原料を粉砕する工程、(3)微生物用培地において、茶細胞を培養し茶細胞培養物を得る工程、および(4)該(2)工程で粉砕された該原料と該(3)工程で培養された該茶細胞培養物とを反応させてテアフラビンを生成する工程を包含する、テアフラビンの製造方法を提供する。
【解決手段】(1)茶を含む原料を加熱する工程、(2)該(1)工程で加熱した該原料を粉砕する工程、(3)微生物用培地において、茶細胞を培養し茶細胞培養物を得る工程、および(4)該(2)工程で粉砕された該原料と該(3)工程で培養された該茶細胞培養物とを反応させてテアフラビンを生成する工程を包含する、テアフラビンの製造方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱された生茶葉と微生物用培地中で培養された茶細胞とを用いるテアフラビンの製造方法、その製造方法によって製造されたテアフラビン、およびそのテアフラビンを含む食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
テアフラビンは、紅茶の製造工程で茶葉中の酵素により生成される赤色色素である。テアフラビンは抗酸化作用、血糖降下作用、抗菌作用などの生理活性を有することが近年明らかになり、天然着色料としてのみならず、生理活性物質としての有用性も期待されている。
【0003】
テアフラビンの製造方法としては紅茶葉からの抽出および生合成が知られていた。紅茶葉から抽出される場合、テアフラビンは以下のように3つのガロイルエステル体を含むテアフラビン類として抽出される。
【0004】
【化1】
紅茶中に含まれる上記4つの化合物のおよその比率は、テアフラビン:0.08重量%、テアフラビン−3−O−ガレート:0.3重量%、テアフラビン−3’−O−ガレート:0.2重量%、テアフラビン−3,3’−ジ−O−ガレート:0.4重量%である。このように紅茶中のテアフラビン含有量は少ないため、従来の紅茶葉からの抽出によるテアフラビンの製造方法では、生理活性物質としてテアフラビンを使用するために十分な量および収率でテアフラビンを得ることは到底できなかった。
【0005】
その一方、テアフラビンの生合成法としては、フェリシアン化カリウムを用いる方法、酵素試料(やぶきた若葉の水不溶画分)を用いる方法、茶葉から得られたポリフェノールオキシダーゼを用いる方法、緑茶抽出液とポリフェノール酸化酵素を含有する植物抽出液とを用いる方法、西洋ワサビペルオキシダーゼを用いる方法、加工緑茶葉とポリフェノールオキシダーゼとを接触させる方法、緑茶のスラリーをタンナーゼで処理し、アルゴン又は窒素雰囲気下で醗酵させる方法、生葉の搾汁を醗酵させることによる方法などが知られている。しかしながら、いずれの方法においても、紅茶からの抽出法と同様に、生理活性物質としてテアフラビンを使用するために十分な量および収率でテアフラビンを得ることは到底できなかった。
【0006】
特許文献1および2は、培養した茶細胞から得たペルオキシダーゼ(ペルオキシダーゼ)およびタンナーゼなどの加水分解酵素をテアフラビン変換反応の酵素として利用したテアフラビン製造方法を報告している(特許文献1:「テアフラビン類の合成法」、特許文献2:「テアフラビンの選択的製造方法」)。これら製造法では、副反応が少なく従来法と比較して高収率でテアフラビンを合成することができる。これらの製造方法は、従来の方法と異なり安価にテアフラビンを選択的に高収率で製造することができる。しかしながら、特許文献1および2の方法によって製造されたテアフラビンはその製造過程で食品添加物として使用できない植物ホルモンやB5塩類などの成分を用いるため、得られたテアフラビンを食品組成物に添加することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−143461号公報
【特許文献2】特願2007−182217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、安価かつ高収率で、そして製造されたテアフラビンまたはテアフラビンを含む組成物を食品に直接使用することができるようなテアフラビン製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、植物細胞である茶細胞が微生物用培地中で培養されても、従来法である植物用培地中での培養と同様にテアフラビン変換反応に必要なペルオキシダーゼまたはタンナーゼを産生することを、全く予想外に見出した。そしてその発見に基づいて、加熱された生茶葉と微生物用培地中で培養された茶細胞とを用いる、安価かつ高収率で食品への応用が容易なテアフラビン製造方法を開発した。この製造方法は、(1)加熱により原料の茶由来の主要な不要成分であるカフェインが分解されるため、その分目的産物であるテアフラビンの純度が向上する、(2)食品添加物として使用できない植物ホルモンやB5塩類などの成分を用いないため、得られたテアフラビンを食品組成物に添加することが可能であり食品への応用が容易である、等の従来からは予想外の優れた効果を奏するものである。
【0010】
ある実施形態において、本発明は、
(1)茶を含む原料を加熱する工程、
(2)上記(1)工程で加熱した該原料を粉砕する工程、
(3)微生物用培地において、茶細胞を培養し茶細胞培養物を得る工程、および
(4)上記(2)工程で粉砕された該原料と該(3)工程で培養された該茶細胞培養物とを反応させてテアフラビンを生成する工程
を包含するテアフラビンの製造方法を提供する。
【0011】
一局面において、上記微生物用培地は、糖、窒素源および無機塩類を含む酵母用培地である。
【0012】
一局面において、上記糖はスクロースおよびグルコースからなる群より選択される。
【0013】
一局面において、本発明のテアフラビン製造方法は、上記(3)工程における反応物に含まれる酵素を失活させる工程をさらに包含する。
【0014】
一局面において、上記失活させる工程は、上記反応物を酸性にすることおよび/または加温することにより行われる。
【0015】
一局面において、本発明のテアフラビン製造方法は、テアフラビンを回収する工程をさらに包含する。
【0016】
一局面において、上記回収は吸着樹脂により行われる。
【0017】
別の実施形態において、本発明は、本発明のテアフラビン製造方法によって製造された実質的に純粋なテアフラビンを提供する。
【0018】
別の実施形態において、本発明は、本発明のテアフラビン製造方法によって製造されたテアフラビンを含む食品組成物を提供する。
【0019】
別の実施形態において、本発明は、本発明のテアフラビン製造方法によって製造されたテアフラビンを含む肥満予防用食品組成物を提供する。
【0020】
別の実施形態において、本発明は、本発明のテアフラビン製造方法によって製造されたテアフラビンを含む血糖値上昇抑制用食品組成物を提供する。
【0021】
一局面において、上記食品組成物は高脂肪食と組み合わせて摂取されるものである。
【0022】
一局面において、上記食品組成物はテアフラビンの安定化剤をさらに含む。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、安価かつ高収率であり、そして製造されたテアフラビンの食品への応用が容易であるテアフラビン製造方法が提供される。この製造方法は、(1)加熱により原料の茶由来の主要な不要成分であるカフェインが分解されるため、その分目的産物であるテアフラビンの純度が向上する、(2)製造過程において食品添加物として使用できない植物ホルモンやB5塩類などの成分を用いないため、得られたテアフラビンを食品組成物に添加することが可能であり食品への応用が容易である、等の優れた効果を奏するものである。
【0024】
したがって本発明により種々の生理活性を有するテアフラビンを安価に高収率で製造し、それを容易に食品に応用して食品組成物として提供することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、採取時期の異なる原料茶葉の各々についての、含まれるカテキン類(EC:エピカテキン、ECG:エピガロカテキン、ECG:エピカテキン−3−O−ガレート、EGCG:エピガロカテキン−3−O−ガレート)およびカフェインの含量、ならびにペルオキシダーゼ活性(POD)を示す。
【図2】図2は、採取時期の異なる原料茶葉の各々について、含まれるカテキン類およびカフェインの含有率を示す。
【図3】図3は、採取時期の異なる原料茶葉の各々を用いたテアフラビン(TF)変換試験結果を示す。
【図4】図4は、−80℃での凍結保存の間のカテキン類含量およびペルオキシダーゼ活性の変化を示す。
【図5】図5は、異なる加熱処理条件で茶葉を処理した場合のカテキン類およびカフェインの含量を示す。
【図6】図6は、異なる量の加熱処理液量で加熱処理した場合のカテキン類およびカフェインの含量を示す。
【図7A】図7Aは、種々のスクロース量の培地において茶細胞培養を行った培養物におけるペルオキシダーゼ活性の経時変化を示す。
【図7B】図7Bは、糖源としてそれぞれスクロースまたはグルコースを含有する培地において茶細胞培養を行った培養物におけるペルオキシダーゼ活性の経時変化を示す。縦軸はペルオキシダーゼ(POD)活性(U/ml)を示し、横軸は培養時間(日)を示す。
【図8A】図8(A)は、pHに対するペルオキシダーゼの安定性試験結果を示す。
【図8B】図8(B)は、熱に対するペルオキシダーゼの安定性試験結果を示す。
【図9A】図9(A)は、pHに対するタンナーゼの安定性試験結果を示す。
【図9B】図9(B)は、熱に対するタンナーゼの安定性試験結果を示す。
【図10A】図10(A)は、pHに対するテアフラビンの安定性試験結果を示す。
【図10B】図10(B)は、熱に対するテアフラビンの安定性試験結果を示す。
【図11A】図11は、テアフラビンの安定性に対するアスコルビン酸の添加効果を示す。図11Aはテアフラビンの安定性に対するアスコルビン酸の添加濃度の影響を示す。
【図11B】図11は、テアフラビンの安定性に対するアスコルビン酸の添加効果を示す。図11Bは0.1%の濃度でアスコルビン酸を添加されたテアフラビン溶液の熱安定性を示す。
【図12】図12は、凍結乾燥または噴霧乾燥により粉末化された、本発明の製造方法によって得られたテアフラビン粉末の安定性試験結果を示す。
【図13】図13は、テアフラビンの精製結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明を、必要に応じて、添付の図面を参照して例示の実施例により説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられる。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先される。
【0027】
本発明者らは、茶細胞の微生物用培地培養物を酵素源とし、茶葉抽出液を基質源として利用したテアフラビン含有粉末の製造方法を構築した。
【0028】
本発明の製造方法は原料として生茶葉を利用する。生茶葉を加熱処理した後、粉砕し茶葉抽出液を調製する。この抽出液には、生茶葉に含まれているカテキン類が溶出されておりテアフラビン反応の基質となる。
【0029】
茶葉抽出液へのカフェインの抽出量を軽減させて目的産物であるテアフラビンの収率を上げるために、本発明の製造方法は加熱処理工程を包含する。この加熱処理工程中にテアフラビン変換反応に必要な茶葉中の酵素が失活するため、別に酵素を供給してカテキンを酸化させるテアフラビン変換反応を行なう。この酵素の供給が、従来の植物用培地ではなく微生物用培地で培養された茶細胞培養物を添加することによって達成される点が本発明の重要な特徴である。微生物用培地は一般的に、食品組成物に用いることができない成分(例えば特定のビタミン類や植物ホルモンなど)を含まない。よって、本発明の微生物用培地で培養された茶細胞培養物を用いることにより、植物ホルモンやB5塩類などの食品添加物として使用できない成分を用いずにテアフラビンが製造されるので、得られたテアフラビンは食品組成物に添加することが可能である。このことにより、テアフラビンの食品組成物への応用が極めて容易になる。この茶細胞培養物はテアフラビン変換反応に必要なペルオキシダーゼおよびタンナーゼを含んでいる。この茶細胞培養物中のペルオキシダーゼおよびタンナーゼを用いてテアフラビン変換反応が行なわれる。必要に応じてテアフラビン生成後にテアフラビン変換反応を停止するために、ペルオキシダーゼおよびタンナーゼを失活させ得る。必要に応じて、遠心分離により上清を回収し、その上清を濃縮して噴霧乾燥もしくは凍結乾燥によりテアフラビンが粉末化され得る。
【0030】
(テアフラビン)
本明細書において「テアフラビン」とは、下記の一般式:
【0031】
【化2】
で表されるベンゾトロポロン環を有する化合物をいう。本発明における製造方法では、テアフラビンは茶に含まれるエピカテキン(EC)とエピガロカテキン(EGC)とを反応させることにより生成される。この反応は以下の式によって表される。
【0032】
【化3】
また、エピカテキンおよびエピガロカテキンは、茶において酵素反応によりエピカテキン−3−O−ガレート(ECG)およびエピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCG)からガレートが脱離することによっても生成され得る。本明細書では、これらのエピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキン−3−O−ガレートおよびエピガロカテキン−3−O−ガレートをまとめて「カテキン類」と総称する。
【0033】
(茶の加熱)
本明細書において「茶」とは、一般的な茶(Camellia sinensisまたはCamellia assamica)をいう。本発明において原料として使用される茶の部位は、実生、葉、子葉、茎、果実など特に限定されないが、好ましくは葉または茎である。茶の品種としては、やぶきた、おくひかり、山の息吹、さやまかおり、かなやみどり、するがわせなどが挙げられるが、本発明においては茶の品種は特に重要ではない。以下の実施例1の結果より、7月〜9月付近に採取された茶は、テアフラビン合成の出発物質であるエピカテキンやエピガロカテキンを含むカテキン類の含量が多く、また不純物であるカフェインの含有率が少ないことから、本発明の製造方法における原料として好ましい。図1〜3も参照のこと。また同様に実施例1の結果より、採取から60日以内の茶が本発明の製造方法における原料として好ましい。図4も参照のこと。しかしながら本発明の製造方法における原料としての茶は、特に採取時期や採取からの経過日数によっては限定されない。
【0034】
茶由来のカフェインはテアフラビン製造に不要な成分である。よってテアフラビンの純度を上げるために、本発明の製造方法においてはまず原料の茶を加熱してカフェインを除去する。この加熱処理は約80℃〜約90℃で約1分間以上、約3分間以上、約3分間〜約5分間、約3分間、約4分間、または約5分間行われる。好ましくはこの加熱処理は、約80℃で約1分間以上、約3分間以上、約3分間〜約5分間、約3分間、約4分間、または約5分間行われる。この加熱処理により、原料である茶に含まれるカフェインの約40%以上、約50%以上または約60%以上が除去される。より好ましくは、この加熱処理により、原料である茶に含まれるカフェインの約50%以上、具体的には約51%、約52%、約53%、約54%、約55%、約56%、約57%、約58%、約59%または約60%以上が除去される。この加熱処理により、茶におけるペルオキシダーゼ活性はほぼ完全に失活する。
【0035】
(加熱した茶の粉砕)
本発明においては、上述のようにして加熱された茶を脱水して粉砕し、後の反応に供する。粉砕は当業者に公知の方法により行われる。例えば本発明においては、加熱して脱水された茶に適当量(例えば茶1gにつき水100mL)を加えてミキサーを用いて粉砕する。
【0036】
(茶細胞の培養)
本発明で使用される「茶細胞」は、茶の生組織を含む切片を用いて、当業者に周知の一般的なカルス作成方法に基づいてカルスを誘導し、それを培地に移して培養することにより調製される。本発明の茶細胞培養物は、固体培地でこの茶細胞を培養して得られる細胞培養物および液体培地を用いて得られる培養細胞の培養懸濁物のいずれであってもよい。このようにして得られた茶細胞培養物は、茶細胞自身によって産生されたペルオキシダーゼおよびタンナーゼを含み、これらの酵素がその後のテアフラビン変換反応において作用する。
【0037】
上記切片の培養は、代表的に、まず切片を滅菌処理しこれを寒天培地などの固体培地上で培養してカルスを誘導することにより行われる。次いで、誘導されたカルスを同様の固体培地上または液体培地上で十分に増殖させる。上記滅菌は、エタノール表面殺菌、次亜塩素酸塩による処理、滅菌した蒸留イオン交換水による洗浄などにより行われる。
【0038】
本発明者らは、茶細胞が植物用培地ではなく微生物用培地で培養した場合にも正常に培養され、そして活性を有するペルオキシダーゼやタンナーゼを産生することを見出した。茶細胞を植物用培地ではなく微生物用培地で培養することにより、その後のテアフラビン変換反応を経て得られるテアフラビンと培地との混合物をそのまま食品に適用することが可能になる。したがって、本発明において、茶細胞は植物用培地ではなく微生物用培地において培養される。従来は植物である茶の細胞が微生物用培地で培養できるとは考えられておらず、さらに活性を有するペルオキシダーゼやタンナーゼなどの酵素を正常に産生するとは極めて予想外であった。
【0039】
本明細書において「微生物用培地」とは、細菌や真菌を含む微生物の培養において用いられ、かつ植物ホルモンやB5塩類などの食品添加物として使用できない成分を含まない、任意の培地を含む。本発明において利用可能な微生物培地としては、例えばYPD培地、グルコース・酵母エキス培地 (酵母・カビ用培)、PGY培地、高浸透圧培地(酵母用培地)などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの培地は、生物工学実験書(培風館)、微生物学実験法(講談社再演ティフィク)などの実験書に記載されている。本発明における培地は、固体培地であっても液体培地であってもよい。本発明の微生物用培地は、例えば約10g/100mL以上、より好ましくは約15g/100mL以上の糖を含む。より具体的には、本発明の微生物用培地は、約10g/100mL〜約25g/100mL、約10g/100mL〜約20g/100mL、約10g/100mL〜約15g/100mL、約15g/100mL〜約25g/100mLまたは約15g/100mL〜約20g/100mLの糖を含む。より好ましい実施形態において、本発明の微生物用培地は、約10g/100mL〜約15g/100mLの糖を含む。特に好ましい実施形態において、本発明の微生物用培地は、約15g/100mLの糖を含む。
【0040】
本発明における微生物用培地の糖としては、グルコース、スクロース、マルトース、ラクトース、ソルビトース、フルクトースなどが挙げられるがこれらに限定されず、当該分野で公知の糖が使用され得る。本発明における微生物用培地の糖は好ましくはスクロースまたはグルコースであり、より好ましくはスクロースである。
【0041】
本発明の微生物用培地は、糖(好ましくはスクロースまたはグルコース、より好ましくはスクロース)の他に窒素源または無機塩類を含み得る。窒素源としては、例えば酵母エキス、ペプトン、肉エキス、アミノ酸溶液のような有機窒素源、または硫酸アンモニウム、硝酸カリウム、塩化アンモニウムのような無機窒素源が挙げられるがこれらに限定されない。本発明の微生物用培地は、1または複数の窒素源を含み得る。無機塩類としては、例えば硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムまたは塩化カルシウムなどが挙げられるがこれらに限定されない。本発明の微生物用培地は、1または複数の無機塩類を含み得る。しかしながら、本発明の微生物用培地は、食品添加物として使用できない成分(例えば植物ホルモン、ニコチン酸塩、ピリドキシン塩酸塩、B5塩類など)を含まない。
【0042】
本発明において好ましい微生物用培地は酵母用培地である。本明細書における「酵母用培地」は、代表的に糖、窒素源および無機塩類を含み得る。本発明の酵母用培地は、約10g/100mL以上、より好ましくは約15g/100mL以上の糖を含む。より具体的には、本発明の酵母用培地は、約10g/100mL〜約25g/100mL、約10g/100mL〜約20g/100mL、約10g/100mL〜約15g/100mL、約15g/100mL〜約25g/100mLまたは約15g/100mL〜約20g/100mLの糖を含む。より好ましい実施形態において、本発明の酵母用培地は、約10g/100mL〜約15g/100mLの糖を含む。特に好ましい実施形態において、本発明の酵母用培地は約15g/100mLの糖を含む。
【0043】
本発明における酵母用培地の糖としては、グルコース、スクロース、マルトース、ラクトース、ソルビトース、フルクトースなどが挙げられるがこれらに限定されず、当該分野で公知の糖が使用され得る。本発明における酵母用培地の糖は好ましくはスクロースまたはグルコースであり、より好ましくはスクロースである。
【0044】
したがって、本発明の酵母用培地は、約10g/100mL以上、より好ましくは約15g/100mL以上のスクロースを含み得る。より具体的には、本発明の酵母用培地は、約10g/100mL〜約25g/100mL、約10g/100mL〜約20g/100mL、約10g/100mL〜約15g/100mL、約15g/100mL〜約25g/100mLまたは約15g/100mL〜約20g/100mLのスクロースを含み得る。より好ましい実施形態において、本発明の酵母用培地は、約10g/100mL〜約15g/100mLのスクロースを含み得る。特に好ましい実施形態において、本発明の酵母用培地は約15g/100mLのスクロースを含み得る。
【0045】
一つの実施形態において、本発明の酵母用培地は、1または複数の窒素源を含み得る。本発明の酵母用培地において使用される窒素源としては、例えば酵母エキス、ペプトン、肉エキス、アミノ酸溶液のような有機窒素源、または硫酸アンモニウム、硝酸カリウム、塩化アンモニウムのような無機窒素源が挙げられるがこれらに限定されない。ある実施形態において本発明の酵母用培地は必要に応じて、酵母エキスまたはペプトンなどの有機窒素源を含む。本発明の酵母用培地は必要に応じて、例えば約0.1g/100mL〜約0.4g/100mL、好ましくは約0.4g/100mLの酵母エキス、または約0.1g/100mL〜約0.2g/100mL、好ましくは約0.2g/100mLのペプトン、あるいはこれらの組み合わせを含む。本発明の酵母用培地において使用される酵母エキスとしては、例えばミーストN(オリエンタル酵母工業(株))が挙げられ、ペプトンとしては例えばCE90M(アサヒフードアンドヘルスケア(株))が挙げられるが、これらに限定されない。当業者は、当該分野の技術常識に基づいて、使用する培地に含める有機窒素源の種類および量を適切に決定することができる。ある実施形態において、本発明の酵母用培地は、約0.3g/100mLの硝酸カリウムまたは約0.05g/100mLの硫酸アンモニウム、あるいはこれらの組み合わせを含む。上記に列挙した以外の窒素源は当業者に周知であり、そのような窒素源もまた本発明の酵母用培地に含まれ得る。当業者は、当該分野の技術常識に基づいて、使用する培地に含める窒素源の種類および量を適切に決定することができる。
【0046】
一つの実施形態において、本発明の酵母用培地は、1または複数のこれらの無機塩類を含み得る。本発明の酵母用培地において使用される無機塩類としては、例えば硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムまたは塩化カルシウムなどが挙げられるがこれらに限定されない。ある実施形態において、本発明の酵母用培地は、約0.0.3g/100mLのリン酸二水素カリウム、約0.0.3g/100mLの硫酸マグネシウム、約0.0.2g/100mLのリン酸二水素ナトリウムまたは約0.0.2g/100mLのリン酸カルシウム、あるいはこれらの組み合わせを含む。上記に列挙した以外の無機塩類は当業者に周知であり、そのような無機塩類もまた本発明の酵母用培地に含まれ得る。当業者は、当該分野の技術常識に基づいて、使用する培地に含める無機塩類の種類および量を適切に決定することができる。
【0047】
本発明の微生物用培地および/または酵母用培地は、食品添加物として使用できない成分(例えば植物ホルモン、ニコチン酸塩、ピリドキシン塩酸塩、B5塩類など)を含まない。本明細書中で「食品添加物として使用できない成分」とは、食品または食品添加物中の成分としての使用できないこれらの植物ホルモンやB5塩類などの任意の成分をいう。本発明の微生物用培地および/または酵母用培地は植物ホルモンを含まない点に特に注目すべきである。植物ホルモンとしては、オーキシン、ジベレリン、サイトカイニン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノステロイド、ジャスモン酸、フロリゲン、およびストリゴラクトンなどが挙げられるがこれらに限定されない。B5塩類は、Gamborg O.L.,Miller R.A.,Ojima K.,Experimental Cell Research,50,151−158(1968)などにおいて説明されており、当業者に周知である。
茶細胞のような植物細胞を培養するためには、培地に植物ホルモンなどの上記物質を加えることが当該分野では技術常識であった。そのため、上記物質を含まない培地で茶細胞を培養したとしても、テアフラビン変換反応を効率的に起こす量のペルオキシダーゼおよび/またはタンナーゼが茶細胞によって分泌されるとは、当業者は考えていなかった。しかしながら、本発明者らは、上記物質を含まない培地で茶細胞を培養したとしても、テアフラビン変換反応を効率的に起こす量のペルオキシダーゼおよび/またはタンナーゼが茶細胞によって十分に分泌されることを予想外に見出した。このようにして上記物質を含まない培地を使用して茶細胞を培養することにより、最終産物であるテアフラビンは、食品添加物として使用できない成分を用いずに得られるため、得られたテアフラビンを食品組成物に添加することができる。
【0048】
(テアフラビン変換反応)
本発明のテアフラビン製造方法において、加熱してカフェインを除去してその後粉砕した茶原料と、食品添加物として使用できない成分を含まない微生物用培地(好ましくは酵母用培地)で茶細胞を培養した茶細胞培養物とを反応させることにより、テアフラビン変換反応を起こす。テアフラビンは、以下
【0049】
【化4】
の式に従う変換反応によって生成される。竹元万壽美:テアフラビンの選択的製造方法(PCT/JP2008/062579(2008)および竹元万壽美:テアフラビンの選択的製造方法 特願2007−182217(2007)などを参照のこと。
【0050】
テアフラビンの変換反応は代表的に、約28時間から約34時間、常温で回転振とうすることによって行われる。また、安定したテアフラビン変換反応を行うためのペルオキシダーゼ活性:総カテキン量:反応液量は、1単位:20〜35mg:100mLが最適であることが見出された(実施例4を参照のこと)。
【0051】
(酵素の失活)
テアフラビン変換反応終了後、茶細胞培養物に含まれるペルオキシダーゼおよびタンナーゼの酵素活性が残存していることにより、産物であるテアフラビンが分解される。従って、本発明の一実施形態において、テアフラビン変換反応終了後に、ペルオキシダーゼおよびタンナーゼの酵素活性を失活させる。ペルオキシダーゼおよびタンナーゼの酵素活性を失活は、テアフラビンを分解しない条件で行われなければならないことに留意すべきである。本発明の一実施形態において、ペルオキシダーゼおよびタンナーゼの酵素活性の失活は、pH3で10分間70℃に維持することにより行われる。
【0052】
(テアフラビンの安定化剤)
本明細書において、「テアフラビンの安定化剤」とは、テアフラビンの分解を防止する任意の物質をいう。テアフラビンは酸化分解されやすい物質であるため、本発明においては、必要に応じてテアフラビンに抗酸化物質を加え、テアフラビンを安定化する。従って、本発明の一実施形態においては、テアフラビンの安定化剤は抗酸化物質である。テアフラビンの安定化剤として使用され得る抗酸化物質としては、硫酸、アスコルビン酸、クエン酸、没食子酸、トコフェロール、亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどが挙げられるが、これらに限定されない。本発明における好ましいテアフラビン安定化剤はアスコルビン酸である。本発明において製造されたテアフラビンは、約0.1%以上のアスコルビン酸を含み得る。テアフラビンに約0.1%のアスコルビン酸を含めることによって、25℃で5日間経過後に約98%のテアフラビンが分解されずに残存する。一方、アスコルビン酸を含まない場合には、25℃で2日経過後には約10%のテアフラビンしか残存せず、3日経過後にはほぼ全てのテアフラビンが酸化分解されてしまう。
【0053】
(反応液の粉末化)
上記テアフラビン変換反応後の反応液を健康食品に適用するためには、反応で得られたテアフラビンをほとんど分解することなく高収率で粉末化することが好ましい。反応液の粉末化は、例えば凍結乾燥または噴霧乾燥により行うことができる。例えば、本発明における粉末化は、約3日間またはそれ以上凍結乾燥を行うことにより達成され得る。本発明における粉末化はまた、入口温度平均150℃、出口温度70℃〜75℃で所望の量の粉末化が達成されるまで噴霧乾燥を行うことによっても達成され得る。粉末化においては、反応で得られたテアフラビンを分解することなく行うことが重要である。よって、反応液に上記テアフラビン安定化剤を含めて粉末化を行うことが好ましい。
【0054】
(テアフラビンの精製)
本発明の製造方法では、必要に応じてテアフラビン変換反応液からテアフラビンを回収することによってテアフラビンを精製し、高純度のテアフラビンを得る。この精製によって、テアフラビン変換反応液中に含まれる茶葉由来のカフェインなどの不純物を除去することができる。カフェインの除去のためには、例えば有機溶媒による抽出除去が一般的であるが、この方法は食品製造に適合したものではないことから、本発明においては使用されない。本発明において使用される精製方法は、例えば吸着樹脂による精製が挙げられるがこれに限定されない。本発明の好ましい実施形態では、ガラスカラムのようなカラムを用いたカラムクロマトグラフィーによってテアフラビンの精製が行われる。樹脂としては例えばSEPABEADS(三菱化学)が使用され得、そして溶出液にはエタノールが使用され得る。目的産物であるテアフラビンは30%エタノール画分に溶出する。しかしながら、本発明の精製はこの方法に限定されるものではない。
【0055】
(食品組成物)
本発明の方法を使用して製造されたテアフラビンを基に、テアフラビン含有食品組成物が当業者に周知の方法によって製造され得る。
【0056】
本発明の食品組成物は、テアフラビン粉末またはテアフラビン含有培養物をそのまま液状、ゲル状あるいは固形状の食品に添加したり、必要に応じてデキストリン、乳糖、澱粉等の賦型剤や香料、色素等とともにペレット、錠剤、顆粒等に加工したり、またゼラチン等で被覆してカプセルに成形加工して健康食品や栄養補助食品等とすることにより、製造され得る。これらの食品組成物におけるテアフラビン量は一律には規定しがたいが、テアフラビン10〜1,000mg/日、より好ましくは、50〜400mg/日である。本発明の食品組成物は、肥満予防または血糖値上昇抑制のために使用され得る。
【0057】
本発明における「肥満予防」とは、例えば高脂肪食の摂取などの肥満促進要因による肥満を防ぐことをいう。単に体重を減少させるのではなく、肥満促進要因によって引き起こされる所望されない肥満のみを防ぐ点において、テアフラビンは健康的かつ安全な物質であることが理解される。実際に、本発明の製造方法によって製造されたテアフラビン含有食品組成物を普通食とともに与えたマウスにおいては、体重に変化がなかった(実施例11を参照のこと)。
【0058】
本発明における「血糖値上昇抑制」とは、例えば高脂肪食の摂取などの血糖値上昇要因による血糖値上昇を抑制することをいう。肥満予防と同様に、単に血糖値を下げるのではなく、血糖値上昇要因によって引き起こされる所望されない血糖値上昇のみを抑制する点において、テアフラビンは健康的かつ安全な物質であることが理解される。実際に、本発明の製造方法によって製造されたテアフラビン含有食品組成物を普通食とともに与えたマウスにおいては、血糖値に変化がなかった(実施例11を参照のこと)。
【0059】
ある実施形態において、本発明のテアフラビンは高脂肪食と混合して摂取され得る。別の実施形態においては、本発明のテアフラビンは高脂肪食と組み合わせて摂取され得る。本発明のテアフラビンが高脂肪食と組み合わせて摂取される場合、高脂肪食摂取の前にテアフラビンを摂取してもよいし、高脂肪食摂取と同時にテアフラビンを摂取してもよいし、高脂肪食摂取の後にテアフラビンを摂取してもよい。
【0060】
本明細書中で「高脂肪食」とは、それを摂取した被験体において肥満および/または血糖値上昇を引き起し得る任意の食餌をいう。より具体的には、脂肪含有量が約3.4kcal/gを超え、普通食には該当しない食餌を「高脂肪食」という。本発明の実施形態においては、高脂肪食とは代表的に、約5kcal/g以上の脂肪を含む食餌をいう。
【0061】
本発明のテアフラビン含有食品組成物は、特に、健康食品またはサプリメントをいう。本発明の食品組成物は、テアフラビンを含有する任意の製品をいう。本発明の飲食組成物は、代表的に、以下の実施例において実証されるように肥満予防および/または血糖値上昇抑制という効果を有し、またこれらの効果を表示して販売されている。本発明のテアフラビン含有食品組成物は、肥満促進要因および/または血糖値上昇要因と組み合わせて摂取されたときに、それらの要因によって引き起こされ得る肥満および/または血糖値上昇を抑制する。一方、肥満促進要因および/または血糖値上昇要因などの所望されない要因が存在しない場合には、本発明のテアフラビン含有食品組成物は、摂取した被験体に対して有意な効果を及ぼさない。これはテアフラビンの従来全く知られていなかった機能である。健常な状態にある被験体においては体重減少や血糖値低下を引き起こすことなく、高脂肪食のような肥満促進要因および/または血糖値上昇要因を摂取した被験体においてその要因に起因する肥満および/または血糖値上昇を抑制する点において、本発明のテアフラビン含有食品組成物は予想外の驚くべき効果を奏する。
【0062】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0063】
以上、本発明を理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明した。以下に実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではないことが理解されるべきである。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0064】
(実施例1 原料としての茶の条件検討)
テアフラビンを高い効率で製造する為には、原料の茶に含まれるテアフラビンを得るための基質成分を把握することが重要である。そこで本実施例では茶葉を時季を変えて適宜採取し、その中に含まれる成分の変化を一年を通して把握した。これらの結果から、テアフラビン製造に最も適した茶の調達時期を決定した。
【0065】
(試験方法)
磐田市内の茶葉畑から時季を変えて茶葉を採取し、その茶葉を酸化を防ぐために−80℃で凍結し保存した。凍結した茶葉1gに井水100mL(4℃)を加え、ミキサー(IFM−750G;IWATANI)を用いて1分間粉砕した後、遠心分離(14,000rpm、10分間、4℃)により上清液を回収した。上清液に含まれるカフェイン、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキン−3−O−ガレート(ECG)、およびエピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCG)をUPLC(Waters社製)を用いて分析し、ペルオキシダーゼ活性(POD)を当該分野で周知の方法で測定した。
【0066】
(結果および考察)
茶葉中カテキン含量およびペルオキシダーゼ活性の測定結果を図1に、各成分の含有率を図2に、そしてテアフラビン反応試験(プロトコールについては以下の実施例4を参照のこと)結果を図3に示す。時季を変えて採取した茶葉を分析したところ、図1および図2から分かるように、茶葉に含まれる総カテキン含量及びペルオキシダーゼ活性は8月をピークに次第に低下し、そして1月を過ぎると増加する傾向が見られた。これに対し、カフェインの含有率は、その総カテキン含量及びペルオキシダーゼ活性の傾向とは逆の傾向を示した。テアフラビン生産量は用いた茶葉に含まれるカテキン類の濃度に依存する。図3に見られるように、テアフラビン収率は6〜9月の間はほぼ一定であるが、それ以降は低下し、1月より再度上昇する傾向が見られた。
【0067】
採取した茶葉の保存安定性の検討結果を図4に示す。尚、本実施例においては株式会社 荒畑園(静岡県 牧之原市)の茶葉を用いた。図4に示されるように、凍結茶葉においては60日目まではほとんどそれに含まれる成分に変化は無いが、60日以降カテキン含量が徐々に低下した。その一方、ペルオキシダーゼ活性は60日以降急激に低下し、200日目以降はほとんど変化しなかった。
【0068】
以上の結果から、7〜9月頃の茶葉にはカフェイン含量率が少なく、カテキン類の含量が高いことから、テアフラビン製造に適していると考えられる。また、図4に示される茶葉の凍結保存安定性の結果から、カテキン類が分解すること無く保存できる日数は約60日であることがわかった。
【0069】
(実施例2 加熱によるカフェインの除去)
テアフラビン純度を上げるには原料である茶由来のテアフラビン製造に不要な成分を除去することが重要である。そこで本実施例では、茶由来の不要成分であるカフェインの除去方法を検討した。
【0070】
(試験方法)
茶葉1gに井水100mLを加え、それを70℃、80℃および90℃の各温度で加熱処理した。脱水した茶葉に再度井水100mLを加えミキサー(IFM−750G;IWATANI)を用いて1分間粉砕した。遠心分離(14,000rpm、10分間、4℃)により得られた上清中のカフェインを含む各種成分の分析を行なった。
【0071】
(結果)
70℃、80℃および90℃の各温度で加熱後の茶葉に含まれるカテキン類(エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキン−3−O−ガレート(ECG)、エピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCG))およびカフェインの含量とペルオキシダーゼ活性(POD)を図5に示す。図5から分かるように、70℃処理では30分間加熱処理してもカフェインの除去は確認できなかった。しかし、テアフラビン変換反応に必要なペルオキシダーゼ活性は完全に失活していた。80℃で3分間加熱処理を行うとカフェインの約58%が除去できたが、処理時間をそれより長くしてもそれ以上の除去は見られなかった。また、90℃加熱処理は80℃加熱処理とほぼ同じ結果であり、加熱処理によるカフェイン除去率は約60%であった。また、テアフラビン反応の基質であるカテキン類には影響が無かったが、ペルオキシダーゼ活性はほぼ完全に失活した。したがって、カフェイン除去を行うことにより、茶葉からのテアフラビン変換反応へのペルオキシダーゼの供給は望めないことが明らかになった。
【0072】
図6に、異なる量の加熱処理液量で加熱処理した場合のカテキン類およびカフェインの含量を示した。図6から分かるように、井水100mLに対して茶葉4gまではカフェイン除去率は57%程度であったが、それ以上茶葉量を増やすとカフェイン除去率の低下が見られた。以上の結果から、茶葉からカフェインを除去するためには、多くとも茶葉約4g/100mL以下の濃度で行うのが望ましいことが分かった。
【0073】
(実施例3 茶細胞の培養培地の組成)
(目的)
テアフラビン変換反応を効率的に行うためには、十分な量のペルオキシダーゼを提供することが必要である。そのためには、酵素の供給源となる茶細胞の培養が重要である。茶細胞の培養に使用される従来の培地には、食品添加物として使用できない成分(例えば植物ホルモンや特定のビタミン類など)が必ず含まれていた。そこで、そのような成分を使用せずにテアフラビンを製造するための新規培地のための組成を検討した。
【0074】
(試験方法)
用いた培地組成を以下の表1に示す。
【0075】
(表1 本実施例で使用した種々の培地の組成[g/100mL])
【0076】
【表1】
表1に示すRUN1〜RUN5の各培地組成の培地の成分を井水100mLに溶解し、200mL容三角フラスコに入れ、オートクレーブ(121℃、20分間)で殺菌した。茶細胞(本実験においては静岡県立大学 竹元講師より分譲いただいた茶細胞を使用したが、これ以外にも任意の茶細胞が使用され得る)を10mLずつ植菌し、25℃、120rpmで回転振とう培養を行なった。培養中に適宜経時的に試料を採取し、ペルオキシダーゼ活性、pH、残糖濃度を測定した。
【0077】
(結果)
図7Aに、表1に示した培地を用いて培養した茶細胞培養における、ペルオキシダーゼ活性の経時変化を示す。図7Aに示されるように、ビタミン類、B5塩類および植物ホルモンなどの食品添加物として使用できない成分を含まない酵母用培地で培養しても、ペルオキシダーゼが産生された。また、スクロースの量が5g/100mLの酵母用培地で培養された培養物のペルオキシダーゼ活性はかなり低く、酵母用培地には10g/100mL以上のスクロースを含めることが好ましいことが分かった。最も好ましいスクロース量は15g/100mLであることも明らかになった。
【0078】
表1のRUN−3の培地組成を基に、ペプトンおよび酵母エキス濃度を変えた培地を用いて培養した茶細胞培養におけるペルオキシダーゼ活性の経時変化をさらに検討したところ、ペプトンを0.2g/100mL、酵母エキス0.4g/100mLを含めた以下の培地組成の培地で培養した茶細胞培養物において、ペルオキシダーゼ活性が最も高いことが明らかになった(詳細なデータは示さず)。よって、以下の表2に示す培地組成を本発明における至適培地組成とした。
【0079】
(表2 至適培地組成[g/100mL])
【0080】
【表2】
また、スクロースに代えてグルコースを用いた場合のペルオキシダーゼ活性の変化についても検討した。以下の表3に示すスクロース培地およびグルコース培地の成分を井水100mLに溶解し、200mL容三角フラスコに入れ、オートクレーブ(121℃、20分間)で殺菌した。茶細胞を10mLずつ植菌し、25℃、120rpmで回転振とう培養を行なった。適宜経時的に試料を採取し、ペルオキシダーゼ活性、pH、残糖濃度を測定した。
【0081】
(表3 スクロース培地およびグルコース培地の組成)
【0082】
【表3】
図7Bに、表3に示した培地を用いて培養した茶細胞培養における、培養開始直後(0日)、7日後、15日後、20日後、28日後、34日後、および41日後のペルオキシダーゼ活性の経時変化を示す。スクロース培地およびグルコース培地のいずれにおいても十分なペルオキシダーゼ活性が検出されたが、ペルオキシダーゼ活性が高い値を示す培養開始28日〜34日後付近では、スクロース培地で培養した培養物のペルオキシダーゼ活性がグルコース培地で培養した培養物のペルオキシダーゼ活性の約1.2倍ほどであった。このことから、本発明における微生物用培地における糖源はスクロースでもグルコースでもまたは他の糖であってもよいが、スクロースが特に好ましいと考えられる。
【0083】
(実施例4 テアフラビン変換反応条件の検討)
(目的)
高効率のテアフラビン製造プロセスを構築する為には、原料のカテキン類を、最小量の酵素で短時間にテアフラビンに変換することが重要である。そこでカテキン量に対する酵素の至適濃度、および至適反応液量を検討した。
【0084】
(試験方法)
乾燥茶葉10gに井水を100mL加えて5時間(25℃)基質であるカテキン類を抽出し、遠心分離(3,000rpm、10分間、室温)にて得られた上清を基質溶液とした。テアフラビン変換試験は200mL容三角フラスコを用いて行い、表4に示す濃度に井水を用いて調整したカテキン類含有溶液に、茶細胞の培養上清液を加え、25℃、120rpmの回転振とうにて行なった。反応液量は100mLである。なお、本明細書中の「Total Cat.」とは反応の基質となるカテキン類の合計を示す。
【0085】
(表4 ペルオキシダーゼ活性とカテキン類の組成に対するテアフラビン収量および収率)
【0086】
【表4】
また、至適反応液量/仕込濃度の検討としてカテキン類総計(Total Cat.)44.8mg、ペルオキシダーゼ活性1.3単位とし、以下の表5に示すように反応液量を25〜200mLと変えて同様の変換反応を行なった。
【0087】
(表5 反応液量の検討のための組成)
【0088】
【表5】
(結果と考察)
表4の結果から、ペルオキシダーゼ活性に対するカテキン類濃度(Total Cat.)が増加すると、テアフラビンの回収率も低下する傾向が見られた。また同時に、テアフラビン反応時間も長くなった(データ示さず)。一方、酵素活性に対して基質濃度を下げると、過反応により副産物の生成が観察された(データ示さず)。
【0089】
表5のテアフラビン収量および収率の結果から、Total Cat./ペルオキシダーゼ=44.8/1.3=34.5で反応させた場合には反応液量として100mL以上が至適であることがわかった。反応液量を100mL未満にした場合、テアフラビン収率の著しい低下が観察された。この原因としては、上述のようにペルオキシダーゼ活性に対してカテキン類濃度を下げた場合と同様に過反応による副産物の生成や、または生成したテアフラビンの分解が考えられる。
【0090】
以上の通り、効率的なテアフラビン変換反応を行うための反応組成としては、ペルオキシダーゼ活性:総カテキン量:反応液量=1単位:20〜35mg:100mLが好ましいことを見出した。
【0091】
(実施例5 ペルオキシダーゼおよびタンナーゼの失活条件の検討)
(目的)
テアフラビン変換反応終了後、ペルオキシダーゼ活性およびタンナーゼ活性が残存しているとテアフラビンが分解される。そこで、反応終了後にこれらの酵素活性を失活させることが好ましい。
【0092】
5−1.ペルオキシダーゼおよびタンナーゼの失活
(試験方法)
茶細胞の培養液から遠心分離(14,000rpm,5分間)により回収した上清を酵素溶液とする。pH安定性を調べる為、78%硫酸および48%NaOHを用いてpHを3−9に調整し、25℃で1時間静置後、当該分野で周知の方法によってペルオキシダーゼおよびタンナーゼの酵素活性を測定した。熱安定性は、上清のpHを5に調整した後、30−70℃で1時間維持し、その後ペルオキシダーゼおよびタンナーゼの酵素活性を測定することによって検証した。
【0093】
(結果)
ペルオキシダーゼ活性はpH4−7では非常に安定であった。唯一pH3で約4割程度の失活が観察された(図8Aを参照のこと)。また、熱に対しても50℃まではほとんど失活しなかった(図8Bを参照のこと)。さらにpHを3に調整して70℃で維持した結果、ペルオキシダーゼ活性は10分間でほぼ失活していることが分かった(データ示さず)。
【0094】
タンナーゼ活性は中性領域(pH4−8)では安定であるが、酸性域(<pH4)では急激に失活する傾向が見られた(図9Aを参照のこと)。また、熱安定性は比較的悪く、40℃以上では急激に失活することが示された(図9Bを参照のこと)。ペルオキシダーゼと同様にpHを3に調整して70℃で維持した結果、10分間でほぼ失活した。
【0095】
5−2.テアフラビンの安定性
ペルオキシダーゼおよびタンナーゼの失活条件において、目的産物であるテアフラビンが分解されずに安定に残存するか否かを検証した。
【0096】
(試験方法)
テアフラビン溶液のpH安定性を調べる為に、78%硫酸および48%NaOHを用いてpHを3−9に調整し、25℃で1時間静置後、テアフラビン残存率を測定した。熱安定性は、pHを3に調整した後、30−70℃で1時間維持し、テアフラビン残存率を測定することにより検証した。
【0097】
(結果)
テアフラビンは、酸性域(pH3−5)では比較的安定であるが中性から塩基性領域(pH6〜)においては著しく不安定であった(図10Aを参照のこと)。また、pHを3に調整して70℃で1時間の熱処理を行なってもほとんど分解されなかった(図10Bを参照のこと)。
【0098】
(実施例6 テアフラビン安定化剤の検討)
(目的)
テアフラビン変換反応終了から製品化までのテアフラビンの安定性を得るためには、酸化分解されやすいテアフラビンの分解を防ぐことが重要である。本発明においては、必要に応じてテアフラビンに抗酸化物質を加え、テアフラビンの酸化分解を防ぐことによりテアフラビンを安定化する。本実施例では、効果的にテアフラビンの酸化分解を防止する抗酸化物質の種類について検討した。
【0099】
(試験方法)
テアフラビンの酸化分解を防止するために、各抗酸化物質を0.05%濃度になるようにテアフラビン溶液に添加した後、70℃で1時間維持し、テアフラビン残存率を測定した。
【0100】
(結果と考察)
種々の抗酸化物質の影響を以下の表6に示す。各抗酸化物質の添加によってテアフラビンの安定性が向上することが実証された。特に硫酸およびアスコルビン酸において高い安定性効果が見られた。
【0101】
(表6 種々の抗酸化物質の影響)
【0102】
【表6】
アスコルビン酸の添加濃度の影響を図11に示す。アスコルビン酸添加濃度の増加に伴ってテアフラビンの安定性が向上することが分かった。特に0.1%以上の濃度では25℃で5日間保存してもテアフラビンの分解はほとんど見られなかった(図11Aを参照のこと)。また、アスコルビン酸を0.1%の濃度で添加した場合、70℃で1時間処理してもテアフラビンはほとんど分解しなかった(図11Bを参照のこと)。
【0103】
次いで、硫酸によるpH調整とアスコルビン酸添加の効果を検討した。その結果を以下の表7に示す。硫酸でpHを3.0に調整した場合とアスコルビン酸を0.1%の濃度で添加した場合(pH4.3)ではほぼ同等の安定性効果が得られた。
【0104】
(表7 硫酸+アスコルビン酸の効果)
【0105】
【表7】
以上の結果より、反応終了後に安定化剤としてアスコルビン酸を0.1(g/L)%の濃度で添加して、70℃に加温することにより、生成したテアフラビンを安定に保つことができると結論付けた。
【0106】
(実施例7 テアフラビン粉末化条件の検討)
(目的)
本発明のテアフラビン製造方法によってテアフラビンを量産化するにあたり、安定的にテアフラビン変換反応液を粉末化するプロセスが確立されていることが好ましい。そこでテアフラビン変換反応で得られたテアフラビン溶液を用いて粉末化プロセスについて検討した。
【0107】
7.1 テアフラビン変換反応液の粉末化
(試験方法)
茶葉1gに井水100mLを加え、それを80℃で加熱処理した。脱水した茶葉に再度井水100mLを加えミキサー(IFM−750G;IWATANI)を用いて1分間粉砕したして茶葉粉砕液とした。スクロース15g/100mL、酵母エキス0.4g/100mL、ペプトン0.2g/100mL、KNO30.3g/100mL、(NH4)2SO40.05g/100mL、KH2PO40.0.3g/100mL、MgSO4・7H2O0.0.3g/100mL、NaH2PO4・H2O0.0.2g/100mL、CaCl2・2H2O0.0.2g/100mLを含む酵母用培地(100mL)に茶細胞を10mL植菌し、25℃、120rpmで約35時間回転振とう培養を行なって茶細胞培養液とした。茶葉粉砕液と茶細胞培養液とを200mL容三角フラスコにペルオキシダーゼ活性:総カテキン量:反応液量=1単位:20〜35mg:100mLとなるように入れ、25℃、120rpmの回転振とうにて約3〜5時間テアフラビン変換反応を行った。
【0108】
この反応液のpHを78%H2SO4を用いて3に調製した後、70℃で10分間加熱処理を行いペルオキシダーゼおよびタンナーゼを失活させた。次に遠心分離(8,000rpm、10分間)により粉砕茶葉を除去し、エバポレーターを用いてBrix(溶液中の固形分濃度)20%を目標に濃縮液を調整した。得られた濃縮液を用いて凍結乾燥(FD)もしくは噴霧乾燥(SD)を用いてテアフラビン含有粉末を作成した。
【0109】
(結果)
テアフラビン変換反応により得られた変換反応液の組成を、以下の表8に示す。変換反応液のテアフラビン収率は47%であり、Brixは0.5%であった。
【0110】
(表8 変換反応液の組成)
【0111】
【表8】
pH調整後の加熱処理によりペルオキシダーゼ、タンナーゼともに失活していることを確認し、エバポレーターを用いて濃縮を行なった。エバポレーターに変換反応液600mLを仕込、60℃以下で運転させた場合、Brixを20%以上(40倍濃縮)にするのに要する時間は約1時間であった。この濃縮工程でのテアフラビンを含む各成分の分解はほとんど見られず、変換反応液の組成(以下の表9を参照のこと)にほぼ変化はなかった。
【0112】
(表9 濃縮後の変換反応液の組成)
【0113】
【表9】
次いで、濃縮液を用いて凍結乾燥および噴霧乾燥を行ない、粉末化試験を行った。FDは3日間運転した。SDは入口温度平均150℃(最大160℃)で運転し、出口温度は70〜75℃であった。試験結果を表10に示す。SD、FDともに粉末化工程中でのテアフラビンを含めた各成分の分解はほとんど見られなかった。製造した粉末中の各成分含量にも違いはほとんど見られなかった。今回試験したプロセスでテアフラビン36重量%、カフェイン25重量%、アスコルビン酸17重量%、没食子酸含量6重量%の粉末を製造することが示された。
【0114】
(表10 粉末化試験の結果)
【0115】
【表10】
7.2 粉末安定性試験
(目的)
一定品質の製品を供給する為には、製品の安定性が重要である。そこで上記7.1において得られた凍結乾燥または噴霧乾燥で製造したテアフラビン含有粉末を用いて安定性試験を検討した。
【0116】
(試験方法)
テアフラビン含有粉末をアルミパウチにて保管後、4℃、25℃、加速試験機(40℃、湿度75%)で保存した。適宜サンプリングを行い成分分析を行った
(結果)
安定性試験結果を図12に示す。凍結乾燥で粉末化したテアフラビン粉末と噴霧乾燥で粉末化したテアフラビン粉末とは類似の挙動を示した。加速試験機では保管と同時に分解が始まることが示された。アスコルビン酸の添加により酸化を防いでいるが熱の影響が大きいと考えられる。4℃と25℃で保存したサンプルでは、保存50日目付近まではほぼ分解が見られないが、その後わずかながらTFの分解が見られ始めた。
【0117】
(実施例8 テアフラビン反応液の精製)
(目的)
よりテアフラビン含有率の高いテアフラビン製品を製造するためには、テアフラビン変換反応液中に含まれる茶葉由来のカフェインなどの不純物を除去することが好ましい。有機溶媒による抽出除去が一般的なカフェイン除去方法であるが、これは食品製造に適合しない方法である。そこで食品として対応可能なカフェイン除去方法を検討した。
【0118】
(試験方法)
茶葉1gに井水100mLを加え、それを80℃で加熱処理した。脱水した茶葉に再度井水100mLを加えミキサー(IFM−750G;IWATANI)を用いて1分間粉砕したして茶葉粉砕液とした。スクロース15g/100mL、酵母エキス0.4g/100mL、ペプトン0.2g/100mL、KNO30.3g/100mL、(NH4)2SO40.05g/100mL、KH2PO40.0.3g/100mL、MgSO4・7H2O0.0.3g/100mL、NaH2PO4・H2O0.0.2g/100mL、CaCl2・2H2O0.0.2g/100mLを含む酵母用培地(100mL)に茶細胞を10mL植菌し、25℃、120rpmで約35時間回転振とう培養を行なって茶細胞培養液とした。茶葉粉砕液と茶細胞培養液とを200mL容三角フラスコにペルオキシダーゼ活性:総カテキン量:反応液量=1単位:20〜35mg:100mLとなるように入れ、25℃、120rpmの回転振とうにて約3〜5時間テアフラビン変換反応を行った。
【0119】
このテアフラビン変換反応液を用いてカラムクロマトグラフィーによる精製を検討した。カラムにはガラスカラム(3.0mmI.D.×40cm)に合成吸着樹脂SEPABEADS(三菱化学)を充填したものを用いた。溶出液にはエタノール溶液を用いて、エタノール濃度をステップワイズで変化させ溶出を行なった。
【0120】
(結果)
試験結果を図13に示す。溶出液のエタノール濃度が10%(溶出体積0〜400mL)では、アスコルビン酸の溶出が確認できたが、テアフラビン、カフェイン、没食子酸、およびカテキン類の溶出はほとんど見られなかった。エタノール濃度を20%に上げると(溶出体積400〜1000mL)、カフェイン、没食子酸、およびカテキン類の溶出が確認できた、テアフラビンの溶出は見られなかった。エタノール濃度を30%に上げると(溶出体積1000〜1700mL)、テアフラビンの溶出が確認できた。このエタノール濃度30%の画分には、ほぼテアフラビンしか含まれておらず、高純度のテアフラビンを得ることができた。各画分の組成を以下の表11に示す。
【0121】
今回の試験によりエタノール濃度の勾配によりTFとカフェイン、没食子酸、およびカテキン類を分離できることが示された。しかしながら、カラムクロマトグラムによるテアフラビンの回収率は37%であった。高純度のTFを調製することができたが回収率の問題が示された。今後、より詳細に条件を検討して回収率を上げる必要がある。
【0122】
(表11 各画分の含有成分)
【0123】
【表11】
(実施例9 5kL発酵槽による本発明の製造方法の実施)
以下に今回構築した製造プロセスを用いた5kL発酵槽による製品製造プロセスを示す。
【0124】
(1)茶葉の加熱処理によるカフェイン除去および茶葉の粉砕
原料になる生茶葉は59.7kgである。冷凍保存(−20℃)した茶葉59.7kgを80℃に加温した井水1,500L中(至適比率は茶葉4gに対して井水100mL)に浸透させ3分間加熱処理を行いカフェインを除去する。処理後、脱水機を用いて茶葉を回収する。
【0125】
加熱処理した茶葉を粉砕して基質となるカテキンを抽出する。加熱処理した茶葉1.0kgに対して井水25Lを加えて粉砕を行なう。マルチミルグラインダー(GM4−25;グローエンジニアリング)を用いた場合、18.0−25.2kg・茶葉/時間の処理能力で茶葉を粉砕できる。得られる茶葉粉砕液は約1,550kLである。この茶葉粉砕液に含まれるカテキン総量は約1,400gである。
【0126】
(2)茶細胞の培養
200L発酵槽(仕込量は120L)を用いて茶細胞を培養する。培養期間は約30日間であり、培止時のペルオキシダーゼ活性は約500mU/mLである。
【0127】
(3)テアフラビン変換反応
安定したテアフラビン変換反応を行う為の至適な反応組成は、ペルオキシダーゼ活性:総カテキン量:反応液量=1単位:20〜35mg:100mLである(上記実施例4を参照のこと)。5kL発酵槽での反応液量は4kLであるので、ペルオキシダーゼ活性:総カテキン量:反応液量=40k単位:1,400g:4kLとする。5kL発酵槽に必要量の茶葉粉砕液、井水、茶細胞培養液を加えて反応を開始する。反応は25℃で行なう。反応時間は3−5時間である。適宜反応液を採取し、成分分析を行なう。テアフラビン含量の増加が見られなくなった時点で反応を停止する。反応液の組成を表12に示す。テアフラビン変換効率は約45%付近であろう。
【0128】
(表12 反応液の組成)
【0129】
【表12】
(5)ペルオキシダーゼおよびタンナーゼの失活
上記反応液のpHを78%H2SO4を用いて3に調製した後、この反応液を5kL発酵槽内で70℃まで加熱し、70℃で10分間維持してペルオキシダーゼおよびタンナーゼを失活させる。次いで遠心分離(8,000rpm、10分間)により粉砕茶葉を除去し上清液を回収する。
【0130】
(6)濃縮
エバポールを用いてBrix20%を目標に、回収した上清液を濃縮する。エバポレーターを60℃以下で運転させた場合、600mLをBrixを20%以上(約40倍濃縮)にするのに必要な時間は約1時間である。安定化剤として濃縮液に対してアスコルビン酸を0.1重量%になるように添加する。
【0131】
(7)粉末化による製品の製造
噴霧乾燥により濃縮した反応液約100Lを粉末化する。噴霧乾燥は入口温度を150℃で運転した。5kL発酵槽による製造により、テアフラビン39.6重量%、カフェイン30.3重量%、アスコルビン酸14.67重量%、没食子酸含有量7.1重量%の粉末を1.14kg製造することができるであろう(以下の表13を参照のこと)。本発明によるテアフラビンの製造効率は、食品添加物として使用できない成分(例えば植物ホルモンや特定のビタミン類など)を使用する従来法の効率に匹敵するものであり、十分に実用化に耐え得るものであることが明らかになった。
【0132】
(表13 テアフラビン含有粉末の組成)
【0133】
【表13】
(実施例10 高純度製品の製造)
高純度のテアフラビン製品を製造する為にはカラムクロマトグラフィーによる精製を行なう必要がある。5kL発酵槽による高純度製品を製造プロセスを以下に示す。
【0134】
(1)茶葉の加熱処理によるカフェイン除去および茶葉の粉砕
原料になる生茶葉は59.7kgである。冷凍保存(−20℃)した茶葉59.7kgを80℃に加温した井水1,500L中(至適比率は茶葉4gに対して井水100mL)に浸透させ3分間加熱処理を行いカフェインを除去する。処理後、脱水機を用いて茶葉を回収する。
【0135】
加熱処理した茶葉を粉砕して基質となるカテキンを抽出する。加熱処理した茶葉1.0kgに対して井水25Lを加えて粉砕を行なう。マルチミルグラインダー(GM4−25;グローエンジニアリング)を用いた場合、18.0−25.2kg・茶葉/時間の処理能力で茶葉を粉砕できる。得られる茶葉粉砕液は約1,550kLである。この茶葉粉砕液に含まれるカテキン総量は約1,400gである。
【0136】
(2)茶細胞の培養
200L発酵槽(仕込量は120L)を用いて茶細胞を培養した。培養期間は約30日間であり、培止時のペルオキシダーゼ活性は約500mU/mLである。
【0137】
(3)テアフラビン変換反応
安定したテアフラビン変換反応を行う為の至適な反応組成は、ペルオキシダーゼ活性:総カテキン量:反応液量=1単位:20〜35mg:100mLである(上記実施例4を参照のこと)。5kL発酵槽での反応液量は4kLであるので、ペルオキシダーゼ活性:総カテキン量:反応液量=40k単位:1,400g:4kLとした。5kL発酵槽に必要量の茶葉粉砕液、井水、茶細胞培養液を加えて反応を開始する。反応は25℃で行なう。反応時間は3−5時間である。適宜反応液を採取し、成分分析を行なう。テアフラビン含量の増加が見られなくなった時点で反応を停止する。反応液の組成は上記表12に示したものと同一である。テアフラビン変換効率は約45%付近である。
【0138】
(5)ペルオキシダーゼおよびタンナーゼの失活
上記反応液のpHを78%H2SO4を用いて3に調製した後、この反応液を5kL発酵槽内で70℃まで加熱し、70℃で10分間維持してペルオキシダーゼおよびタンナーゼを失活させる。次いで遠心分離(8,000rpm、10分間)により粉砕茶葉を除去し上清液を回収する。
【0139】
(6)精製
5kL発酵槽からの反応液4kLを処理するのに37.9LのSEPABEADS(三菱化学)を充填した樹脂塔が必要である。精製操作は4℃で行う。溶出液にはエタノール(EtOH)溶液を用い、流速SV=1.8で通液する。
【0140】
エタノール濃度を10%〜40%までステップワイズで変化させ各成分を溶出させる。10%EtOHでは各成分の溶出はほとんど見られないであろう。20%EtOHではカフェインとカテキン類の溶出が見られる。適宜溶出液の分析を行ないカフェインとカテキン類の溶出が終了したら、30%EtOHを通液する。TFは30%EtOH画分中に溶出される。適宜溶出液の分析を行ないテアフラビンの溶出が終了したら、40%EtOHを通液する。精製によるテアフラビンの収率及び組成を以下の表14に示す。5kL発酵槽による製造から樹脂による精製工程を行なうことにより、テアフラビン98.3重量%と高純度の製品を195.6g製造することができるであろう。
【0141】
(表14 テアフラビン精製粉末の収量)
【0142】
【表14】
(実施例11 テアフラビン混合物の機能性評価)
(11−1 テアフラビン混合物の製造)
本実施例で使用したテアフラビンは、実施例8で作成した精製テアフラビン溶液に市販カフェイン(和光純薬工業株式会社)10mgを添加して作成した。
【0143】
(11−2 テアフラビン混合物の抗肥満効果、血糖値降下作用)
C57BL6 の4週齢の雄のマウスを使用して、テアフラビンの抗肥満効果、血糖値降下作用について検証した。
【0144】
以下の表15に示した普通食飼料(CE2、日本クレア(株)製)および高脂肪食飼料(High Fat Diet 32、日本クレア(株)製)を与えたマウスに対し、水またはテアフラビン混合物(水100mlあたりテアフラビン2mg、カフェイン10mg)を含む飲料のいずれかを与え、体重、尾静脈随時及び尾静脈空腹時の血糖値推移を9ヶ月間検証した。
【0145】
(1)飼育実験
高脂肪食誘発肥満モデルマウスC57BL6 の4週齢の雄性マウスを購入してから実験環境に慣らす為に7日間予備飼育してから健全な動物を実験に使用した。飼育室の環境は温度を23±1℃、湿度を55±5%の一定とし明暗は12時間周期(明8:00-20:00)とした。実験動物はプラスチック製のケージを用いて1つのケージあたり5匹のマウスを入れ動物飼育室内で飼育した。
【0146】
(表15 普通食餌料(CE2)、高脂肪食餌量(HFD32)の100g 中の成分量)
【0147】
【表15】
(2)実験群及び実験条件
実験群は8群とし各群の数はn=10匹とした。各群に与えた餌料および飲料を以下の表16に示す。なお、給餌及び給水は自由摂取とした。
【0148】
(表16 各群に与えた餌料および飲料)
【0149】
【表16】
実験開始後、9ヶ月間の体重増加率変化を表17に示す。体重増加率は飼育開始1週間後の体重を基準とし、以下の計算式に従って計算した。
体重増加率=(測定月の体重−実験開始1週間後の体重)÷実験開始1週間後の体重×100
(表17 各群の体重増加率)
【0150】
【表17】
普通食−テアフラビン群(II群)では普通食−水群(I群)と比較し、有意な体重増加率の差異は見られなかった。一方、高脂肪食−テアフラビン群(VI群)では高脂肪食−水群(III群)と比較して平均6%程度体重増加率の減少が認められた。
【0151】
随時血糖値は午後1時に測定した。採血は尾静脈から行い、簡易血糖測定システム(テルモ社製)にて血糖値を測定した。測定結果を以下の表18に示す。普通食−テアフラビン群(I群)では、コントロールである普通食−水群(II群)に比べて随時血糖値は若干低下し、ほぼ150台で推移した。高脂肪食-テアフラビン群(VI群)では、高脂肪食−水群(III群)に比べて随時血糖値が有意に低下し、ほぼ170から180台で推移した。
【0152】
(表18 各群の随時血糖値)
【0153】
【表18】
さらに、プラスチックゲージに床敷も無い状態で14時間絶食後の各群について空腹時血糖値を測定した。測定結果を以下の表19に示す。普通食−水群(I群)と普通食−テアフラビン群(II群)とは同程度の血糖値を示した。高脂肪食−テアフラビン群(VI群)では高脂肪食−水群(III群)よりも血糖値が低下した。
【0154】
(表19 各群の空腹時血糖値)
【0155】
【表19】
以上の結果から、体重に関しては、I群とII群とでは有意な差異は見られなかったが、III群とIV群とを比較すると、III群に対してIV群では体重増加度が8%低下した。したがって、本発明の製造方法によって製造されるテアフラビン混合物は、肥満予防効果を有するものであることが明らかになった。
【0156】
血糖値に関しては、I群とII群とでは有意な差異は見られなかったが、III群とIV群とを比較すると、III群に対してIV群では血糖値が20%低下した。したがって、本発明の製造方法によって製造されるテアフラビン混合物は、血糖値上昇抑制効果を有するものであることが明らかになった。
【0157】
また、I群とII群とでは血糖値および体重について同様の測定結果が得られた事から、普通食を摂取する通常の状態では、テアフラビン混合物には血糖値を下げたり体重を下げる効果は認められず、安全性を有することが確認された。
【0158】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱された生茶葉と微生物用培地中で培養された茶細胞とを用いるテアフラビンの製造方法、その製造方法によって製造されたテアフラビン、およびそのテアフラビンを含む食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
テアフラビンは、紅茶の製造工程で茶葉中の酵素により生成される赤色色素である。テアフラビンは抗酸化作用、血糖降下作用、抗菌作用などの生理活性を有することが近年明らかになり、天然着色料としてのみならず、生理活性物質としての有用性も期待されている。
【0003】
テアフラビンの製造方法としては紅茶葉からの抽出および生合成が知られていた。紅茶葉から抽出される場合、テアフラビンは以下のように3つのガロイルエステル体を含むテアフラビン類として抽出される。
【0004】
【化1】
紅茶中に含まれる上記4つの化合物のおよその比率は、テアフラビン:0.08重量%、テアフラビン−3−O−ガレート:0.3重量%、テアフラビン−3’−O−ガレート:0.2重量%、テアフラビン−3,3’−ジ−O−ガレート:0.4重量%である。このように紅茶中のテアフラビン含有量は少ないため、従来の紅茶葉からの抽出によるテアフラビンの製造方法では、生理活性物質としてテアフラビンを使用するために十分な量および収率でテアフラビンを得ることは到底できなかった。
【0005】
その一方、テアフラビンの生合成法としては、フェリシアン化カリウムを用いる方法、酵素試料(やぶきた若葉の水不溶画分)を用いる方法、茶葉から得られたポリフェノールオキシダーゼを用いる方法、緑茶抽出液とポリフェノール酸化酵素を含有する植物抽出液とを用いる方法、西洋ワサビペルオキシダーゼを用いる方法、加工緑茶葉とポリフェノールオキシダーゼとを接触させる方法、緑茶のスラリーをタンナーゼで処理し、アルゴン又は窒素雰囲気下で醗酵させる方法、生葉の搾汁を醗酵させることによる方法などが知られている。しかしながら、いずれの方法においても、紅茶からの抽出法と同様に、生理活性物質としてテアフラビンを使用するために十分な量および収率でテアフラビンを得ることは到底できなかった。
【0006】
特許文献1および2は、培養した茶細胞から得たペルオキシダーゼ(ペルオキシダーゼ)およびタンナーゼなどの加水分解酵素をテアフラビン変換反応の酵素として利用したテアフラビン製造方法を報告している(特許文献1:「テアフラビン類の合成法」、特許文献2:「テアフラビンの選択的製造方法」)。これら製造法では、副反応が少なく従来法と比較して高収率でテアフラビンを合成することができる。これらの製造方法は、従来の方法と異なり安価にテアフラビンを選択的に高収率で製造することができる。しかしながら、特許文献1および2の方法によって製造されたテアフラビンはその製造過程で食品添加物として使用できない植物ホルモンやB5塩類などの成分を用いるため、得られたテアフラビンを食品組成物に添加することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−143461号公報
【特許文献2】特願2007−182217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、安価かつ高収率で、そして製造されたテアフラビンまたはテアフラビンを含む組成物を食品に直接使用することができるようなテアフラビン製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、植物細胞である茶細胞が微生物用培地中で培養されても、従来法である植物用培地中での培養と同様にテアフラビン変換反応に必要なペルオキシダーゼまたはタンナーゼを産生することを、全く予想外に見出した。そしてその発見に基づいて、加熱された生茶葉と微生物用培地中で培養された茶細胞とを用いる、安価かつ高収率で食品への応用が容易なテアフラビン製造方法を開発した。この製造方法は、(1)加熱により原料の茶由来の主要な不要成分であるカフェインが分解されるため、その分目的産物であるテアフラビンの純度が向上する、(2)食品添加物として使用できない植物ホルモンやB5塩類などの成分を用いないため、得られたテアフラビンを食品組成物に添加することが可能であり食品への応用が容易である、等の従来からは予想外の優れた効果を奏するものである。
【0010】
ある実施形態において、本発明は、
(1)茶を含む原料を加熱する工程、
(2)上記(1)工程で加熱した該原料を粉砕する工程、
(3)微生物用培地において、茶細胞を培養し茶細胞培養物を得る工程、および
(4)上記(2)工程で粉砕された該原料と該(3)工程で培養された該茶細胞培養物とを反応させてテアフラビンを生成する工程
を包含するテアフラビンの製造方法を提供する。
【0011】
一局面において、上記微生物用培地は、糖、窒素源および無機塩類を含む酵母用培地である。
【0012】
一局面において、上記糖はスクロースおよびグルコースからなる群より選択される。
【0013】
一局面において、本発明のテアフラビン製造方法は、上記(3)工程における反応物に含まれる酵素を失活させる工程をさらに包含する。
【0014】
一局面において、上記失活させる工程は、上記反応物を酸性にすることおよび/または加温することにより行われる。
【0015】
一局面において、本発明のテアフラビン製造方法は、テアフラビンを回収する工程をさらに包含する。
【0016】
一局面において、上記回収は吸着樹脂により行われる。
【0017】
別の実施形態において、本発明は、本発明のテアフラビン製造方法によって製造された実質的に純粋なテアフラビンを提供する。
【0018】
別の実施形態において、本発明は、本発明のテアフラビン製造方法によって製造されたテアフラビンを含む食品組成物を提供する。
【0019】
別の実施形態において、本発明は、本発明のテアフラビン製造方法によって製造されたテアフラビンを含む肥満予防用食品組成物を提供する。
【0020】
別の実施形態において、本発明は、本発明のテアフラビン製造方法によって製造されたテアフラビンを含む血糖値上昇抑制用食品組成物を提供する。
【0021】
一局面において、上記食品組成物は高脂肪食と組み合わせて摂取されるものである。
【0022】
一局面において、上記食品組成物はテアフラビンの安定化剤をさらに含む。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、安価かつ高収率であり、そして製造されたテアフラビンの食品への応用が容易であるテアフラビン製造方法が提供される。この製造方法は、(1)加熱により原料の茶由来の主要な不要成分であるカフェインが分解されるため、その分目的産物であるテアフラビンの純度が向上する、(2)製造過程において食品添加物として使用できない植物ホルモンやB5塩類などの成分を用いないため、得られたテアフラビンを食品組成物に添加することが可能であり食品への応用が容易である、等の優れた効果を奏するものである。
【0024】
したがって本発明により種々の生理活性を有するテアフラビンを安価に高収率で製造し、それを容易に食品に応用して食品組成物として提供することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、採取時期の異なる原料茶葉の各々についての、含まれるカテキン類(EC:エピカテキン、ECG:エピガロカテキン、ECG:エピカテキン−3−O−ガレート、EGCG:エピガロカテキン−3−O−ガレート)およびカフェインの含量、ならびにペルオキシダーゼ活性(POD)を示す。
【図2】図2は、採取時期の異なる原料茶葉の各々について、含まれるカテキン類およびカフェインの含有率を示す。
【図3】図3は、採取時期の異なる原料茶葉の各々を用いたテアフラビン(TF)変換試験結果を示す。
【図4】図4は、−80℃での凍結保存の間のカテキン類含量およびペルオキシダーゼ活性の変化を示す。
【図5】図5は、異なる加熱処理条件で茶葉を処理した場合のカテキン類およびカフェインの含量を示す。
【図6】図6は、異なる量の加熱処理液量で加熱処理した場合のカテキン類およびカフェインの含量を示す。
【図7A】図7Aは、種々のスクロース量の培地において茶細胞培養を行った培養物におけるペルオキシダーゼ活性の経時変化を示す。
【図7B】図7Bは、糖源としてそれぞれスクロースまたはグルコースを含有する培地において茶細胞培養を行った培養物におけるペルオキシダーゼ活性の経時変化を示す。縦軸はペルオキシダーゼ(POD)活性(U/ml)を示し、横軸は培養時間(日)を示す。
【図8A】図8(A)は、pHに対するペルオキシダーゼの安定性試験結果を示す。
【図8B】図8(B)は、熱に対するペルオキシダーゼの安定性試験結果を示す。
【図9A】図9(A)は、pHに対するタンナーゼの安定性試験結果を示す。
【図9B】図9(B)は、熱に対するタンナーゼの安定性試験結果を示す。
【図10A】図10(A)は、pHに対するテアフラビンの安定性試験結果を示す。
【図10B】図10(B)は、熱に対するテアフラビンの安定性試験結果を示す。
【図11A】図11は、テアフラビンの安定性に対するアスコルビン酸の添加効果を示す。図11Aはテアフラビンの安定性に対するアスコルビン酸の添加濃度の影響を示す。
【図11B】図11は、テアフラビンの安定性に対するアスコルビン酸の添加効果を示す。図11Bは0.1%の濃度でアスコルビン酸を添加されたテアフラビン溶液の熱安定性を示す。
【図12】図12は、凍結乾燥または噴霧乾燥により粉末化された、本発明の製造方法によって得られたテアフラビン粉末の安定性試験結果を示す。
【図13】図13は、テアフラビンの精製結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明を、必要に応じて、添付の図面を参照して例示の実施例により説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられる。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先される。
【0027】
本発明者らは、茶細胞の微生物用培地培養物を酵素源とし、茶葉抽出液を基質源として利用したテアフラビン含有粉末の製造方法を構築した。
【0028】
本発明の製造方法は原料として生茶葉を利用する。生茶葉を加熱処理した後、粉砕し茶葉抽出液を調製する。この抽出液には、生茶葉に含まれているカテキン類が溶出されておりテアフラビン反応の基質となる。
【0029】
茶葉抽出液へのカフェインの抽出量を軽減させて目的産物であるテアフラビンの収率を上げるために、本発明の製造方法は加熱処理工程を包含する。この加熱処理工程中にテアフラビン変換反応に必要な茶葉中の酵素が失活するため、別に酵素を供給してカテキンを酸化させるテアフラビン変換反応を行なう。この酵素の供給が、従来の植物用培地ではなく微生物用培地で培養された茶細胞培養物を添加することによって達成される点が本発明の重要な特徴である。微生物用培地は一般的に、食品組成物に用いることができない成分(例えば特定のビタミン類や植物ホルモンなど)を含まない。よって、本発明の微生物用培地で培養された茶細胞培養物を用いることにより、植物ホルモンやB5塩類などの食品添加物として使用できない成分を用いずにテアフラビンが製造されるので、得られたテアフラビンは食品組成物に添加することが可能である。このことにより、テアフラビンの食品組成物への応用が極めて容易になる。この茶細胞培養物はテアフラビン変換反応に必要なペルオキシダーゼおよびタンナーゼを含んでいる。この茶細胞培養物中のペルオキシダーゼおよびタンナーゼを用いてテアフラビン変換反応が行なわれる。必要に応じてテアフラビン生成後にテアフラビン変換反応を停止するために、ペルオキシダーゼおよびタンナーゼを失活させ得る。必要に応じて、遠心分離により上清を回収し、その上清を濃縮して噴霧乾燥もしくは凍結乾燥によりテアフラビンが粉末化され得る。
【0030】
(テアフラビン)
本明細書において「テアフラビン」とは、下記の一般式:
【0031】
【化2】
で表されるベンゾトロポロン環を有する化合物をいう。本発明における製造方法では、テアフラビンは茶に含まれるエピカテキン(EC)とエピガロカテキン(EGC)とを反応させることにより生成される。この反応は以下の式によって表される。
【0032】
【化3】
また、エピカテキンおよびエピガロカテキンは、茶において酵素反応によりエピカテキン−3−O−ガレート(ECG)およびエピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCG)からガレートが脱離することによっても生成され得る。本明細書では、これらのエピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキン−3−O−ガレートおよびエピガロカテキン−3−O−ガレートをまとめて「カテキン類」と総称する。
【0033】
(茶の加熱)
本明細書において「茶」とは、一般的な茶(Camellia sinensisまたはCamellia assamica)をいう。本発明において原料として使用される茶の部位は、実生、葉、子葉、茎、果実など特に限定されないが、好ましくは葉または茎である。茶の品種としては、やぶきた、おくひかり、山の息吹、さやまかおり、かなやみどり、するがわせなどが挙げられるが、本発明においては茶の品種は特に重要ではない。以下の実施例1の結果より、7月〜9月付近に採取された茶は、テアフラビン合成の出発物質であるエピカテキンやエピガロカテキンを含むカテキン類の含量が多く、また不純物であるカフェインの含有率が少ないことから、本発明の製造方法における原料として好ましい。図1〜3も参照のこと。また同様に実施例1の結果より、採取から60日以内の茶が本発明の製造方法における原料として好ましい。図4も参照のこと。しかしながら本発明の製造方法における原料としての茶は、特に採取時期や採取からの経過日数によっては限定されない。
【0034】
茶由来のカフェインはテアフラビン製造に不要な成分である。よってテアフラビンの純度を上げるために、本発明の製造方法においてはまず原料の茶を加熱してカフェインを除去する。この加熱処理は約80℃〜約90℃で約1分間以上、約3分間以上、約3分間〜約5分間、約3分間、約4分間、または約5分間行われる。好ましくはこの加熱処理は、約80℃で約1分間以上、約3分間以上、約3分間〜約5分間、約3分間、約4分間、または約5分間行われる。この加熱処理により、原料である茶に含まれるカフェインの約40%以上、約50%以上または約60%以上が除去される。より好ましくは、この加熱処理により、原料である茶に含まれるカフェインの約50%以上、具体的には約51%、約52%、約53%、約54%、約55%、約56%、約57%、約58%、約59%または約60%以上が除去される。この加熱処理により、茶におけるペルオキシダーゼ活性はほぼ完全に失活する。
【0035】
(加熱した茶の粉砕)
本発明においては、上述のようにして加熱された茶を脱水して粉砕し、後の反応に供する。粉砕は当業者に公知の方法により行われる。例えば本発明においては、加熱して脱水された茶に適当量(例えば茶1gにつき水100mL)を加えてミキサーを用いて粉砕する。
【0036】
(茶細胞の培養)
本発明で使用される「茶細胞」は、茶の生組織を含む切片を用いて、当業者に周知の一般的なカルス作成方法に基づいてカルスを誘導し、それを培地に移して培養することにより調製される。本発明の茶細胞培養物は、固体培地でこの茶細胞を培養して得られる細胞培養物および液体培地を用いて得られる培養細胞の培養懸濁物のいずれであってもよい。このようにして得られた茶細胞培養物は、茶細胞自身によって産生されたペルオキシダーゼおよびタンナーゼを含み、これらの酵素がその後のテアフラビン変換反応において作用する。
【0037】
上記切片の培養は、代表的に、まず切片を滅菌処理しこれを寒天培地などの固体培地上で培養してカルスを誘導することにより行われる。次いで、誘導されたカルスを同様の固体培地上または液体培地上で十分に増殖させる。上記滅菌は、エタノール表面殺菌、次亜塩素酸塩による処理、滅菌した蒸留イオン交換水による洗浄などにより行われる。
【0038】
本発明者らは、茶細胞が植物用培地ではなく微生物用培地で培養した場合にも正常に培養され、そして活性を有するペルオキシダーゼやタンナーゼを産生することを見出した。茶細胞を植物用培地ではなく微生物用培地で培養することにより、その後のテアフラビン変換反応を経て得られるテアフラビンと培地との混合物をそのまま食品に適用することが可能になる。したがって、本発明において、茶細胞は植物用培地ではなく微生物用培地において培養される。従来は植物である茶の細胞が微生物用培地で培養できるとは考えられておらず、さらに活性を有するペルオキシダーゼやタンナーゼなどの酵素を正常に産生するとは極めて予想外であった。
【0039】
本明細書において「微生物用培地」とは、細菌や真菌を含む微生物の培養において用いられ、かつ植物ホルモンやB5塩類などの食品添加物として使用できない成分を含まない、任意の培地を含む。本発明において利用可能な微生物培地としては、例えばYPD培地、グルコース・酵母エキス培地 (酵母・カビ用培)、PGY培地、高浸透圧培地(酵母用培地)などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの培地は、生物工学実験書(培風館)、微生物学実験法(講談社再演ティフィク)などの実験書に記載されている。本発明における培地は、固体培地であっても液体培地であってもよい。本発明の微生物用培地は、例えば約10g/100mL以上、より好ましくは約15g/100mL以上の糖を含む。より具体的には、本発明の微生物用培地は、約10g/100mL〜約25g/100mL、約10g/100mL〜約20g/100mL、約10g/100mL〜約15g/100mL、約15g/100mL〜約25g/100mLまたは約15g/100mL〜約20g/100mLの糖を含む。より好ましい実施形態において、本発明の微生物用培地は、約10g/100mL〜約15g/100mLの糖を含む。特に好ましい実施形態において、本発明の微生物用培地は、約15g/100mLの糖を含む。
【0040】
本発明における微生物用培地の糖としては、グルコース、スクロース、マルトース、ラクトース、ソルビトース、フルクトースなどが挙げられるがこれらに限定されず、当該分野で公知の糖が使用され得る。本発明における微生物用培地の糖は好ましくはスクロースまたはグルコースであり、より好ましくはスクロースである。
【0041】
本発明の微生物用培地は、糖(好ましくはスクロースまたはグルコース、より好ましくはスクロース)の他に窒素源または無機塩類を含み得る。窒素源としては、例えば酵母エキス、ペプトン、肉エキス、アミノ酸溶液のような有機窒素源、または硫酸アンモニウム、硝酸カリウム、塩化アンモニウムのような無機窒素源が挙げられるがこれらに限定されない。本発明の微生物用培地は、1または複数の窒素源を含み得る。無機塩類としては、例えば硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムまたは塩化カルシウムなどが挙げられるがこれらに限定されない。本発明の微生物用培地は、1または複数の無機塩類を含み得る。しかしながら、本発明の微生物用培地は、食品添加物として使用できない成分(例えば植物ホルモン、ニコチン酸塩、ピリドキシン塩酸塩、B5塩類など)を含まない。
【0042】
本発明において好ましい微生物用培地は酵母用培地である。本明細書における「酵母用培地」は、代表的に糖、窒素源および無機塩類を含み得る。本発明の酵母用培地は、約10g/100mL以上、より好ましくは約15g/100mL以上の糖を含む。より具体的には、本発明の酵母用培地は、約10g/100mL〜約25g/100mL、約10g/100mL〜約20g/100mL、約10g/100mL〜約15g/100mL、約15g/100mL〜約25g/100mLまたは約15g/100mL〜約20g/100mLの糖を含む。より好ましい実施形態において、本発明の酵母用培地は、約10g/100mL〜約15g/100mLの糖を含む。特に好ましい実施形態において、本発明の酵母用培地は約15g/100mLの糖を含む。
【0043】
本発明における酵母用培地の糖としては、グルコース、スクロース、マルトース、ラクトース、ソルビトース、フルクトースなどが挙げられるがこれらに限定されず、当該分野で公知の糖が使用され得る。本発明における酵母用培地の糖は好ましくはスクロースまたはグルコースであり、より好ましくはスクロースである。
【0044】
したがって、本発明の酵母用培地は、約10g/100mL以上、より好ましくは約15g/100mL以上のスクロースを含み得る。より具体的には、本発明の酵母用培地は、約10g/100mL〜約25g/100mL、約10g/100mL〜約20g/100mL、約10g/100mL〜約15g/100mL、約15g/100mL〜約25g/100mLまたは約15g/100mL〜約20g/100mLのスクロースを含み得る。より好ましい実施形態において、本発明の酵母用培地は、約10g/100mL〜約15g/100mLのスクロースを含み得る。特に好ましい実施形態において、本発明の酵母用培地は約15g/100mLのスクロースを含み得る。
【0045】
一つの実施形態において、本発明の酵母用培地は、1または複数の窒素源を含み得る。本発明の酵母用培地において使用される窒素源としては、例えば酵母エキス、ペプトン、肉エキス、アミノ酸溶液のような有機窒素源、または硫酸アンモニウム、硝酸カリウム、塩化アンモニウムのような無機窒素源が挙げられるがこれらに限定されない。ある実施形態において本発明の酵母用培地は必要に応じて、酵母エキスまたはペプトンなどの有機窒素源を含む。本発明の酵母用培地は必要に応じて、例えば約0.1g/100mL〜約0.4g/100mL、好ましくは約0.4g/100mLの酵母エキス、または約0.1g/100mL〜約0.2g/100mL、好ましくは約0.2g/100mLのペプトン、あるいはこれらの組み合わせを含む。本発明の酵母用培地において使用される酵母エキスとしては、例えばミーストN(オリエンタル酵母工業(株))が挙げられ、ペプトンとしては例えばCE90M(アサヒフードアンドヘルスケア(株))が挙げられるが、これらに限定されない。当業者は、当該分野の技術常識に基づいて、使用する培地に含める有機窒素源の種類および量を適切に決定することができる。ある実施形態において、本発明の酵母用培地は、約0.3g/100mLの硝酸カリウムまたは約0.05g/100mLの硫酸アンモニウム、あるいはこれらの組み合わせを含む。上記に列挙した以外の窒素源は当業者に周知であり、そのような窒素源もまた本発明の酵母用培地に含まれ得る。当業者は、当該分野の技術常識に基づいて、使用する培地に含める窒素源の種類および量を適切に決定することができる。
【0046】
一つの実施形態において、本発明の酵母用培地は、1または複数のこれらの無機塩類を含み得る。本発明の酵母用培地において使用される無機塩類としては、例えば硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムまたは塩化カルシウムなどが挙げられるがこれらに限定されない。ある実施形態において、本発明の酵母用培地は、約0.0.3g/100mLのリン酸二水素カリウム、約0.0.3g/100mLの硫酸マグネシウム、約0.0.2g/100mLのリン酸二水素ナトリウムまたは約0.0.2g/100mLのリン酸カルシウム、あるいはこれらの組み合わせを含む。上記に列挙した以外の無機塩類は当業者に周知であり、そのような無機塩類もまた本発明の酵母用培地に含まれ得る。当業者は、当該分野の技術常識に基づいて、使用する培地に含める無機塩類の種類および量を適切に決定することができる。
【0047】
本発明の微生物用培地および/または酵母用培地は、食品添加物として使用できない成分(例えば植物ホルモン、ニコチン酸塩、ピリドキシン塩酸塩、B5塩類など)を含まない。本明細書中で「食品添加物として使用できない成分」とは、食品または食品添加物中の成分としての使用できないこれらの植物ホルモンやB5塩類などの任意の成分をいう。本発明の微生物用培地および/または酵母用培地は植物ホルモンを含まない点に特に注目すべきである。植物ホルモンとしては、オーキシン、ジベレリン、サイトカイニン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノステロイド、ジャスモン酸、フロリゲン、およびストリゴラクトンなどが挙げられるがこれらに限定されない。B5塩類は、Gamborg O.L.,Miller R.A.,Ojima K.,Experimental Cell Research,50,151−158(1968)などにおいて説明されており、当業者に周知である。
茶細胞のような植物細胞を培養するためには、培地に植物ホルモンなどの上記物質を加えることが当該分野では技術常識であった。そのため、上記物質を含まない培地で茶細胞を培養したとしても、テアフラビン変換反応を効率的に起こす量のペルオキシダーゼおよび/またはタンナーゼが茶細胞によって分泌されるとは、当業者は考えていなかった。しかしながら、本発明者らは、上記物質を含まない培地で茶細胞を培養したとしても、テアフラビン変換反応を効率的に起こす量のペルオキシダーゼおよび/またはタンナーゼが茶細胞によって十分に分泌されることを予想外に見出した。このようにして上記物質を含まない培地を使用して茶細胞を培養することにより、最終産物であるテアフラビンは、食品添加物として使用できない成分を用いずに得られるため、得られたテアフラビンを食品組成物に添加することができる。
【0048】
(テアフラビン変換反応)
本発明のテアフラビン製造方法において、加熱してカフェインを除去してその後粉砕した茶原料と、食品添加物として使用できない成分を含まない微生物用培地(好ましくは酵母用培地)で茶細胞を培養した茶細胞培養物とを反応させることにより、テアフラビン変換反応を起こす。テアフラビンは、以下
【0049】
【化4】
の式に従う変換反応によって生成される。竹元万壽美:テアフラビンの選択的製造方法(PCT/JP2008/062579(2008)および竹元万壽美:テアフラビンの選択的製造方法 特願2007−182217(2007)などを参照のこと。
【0050】
テアフラビンの変換反応は代表的に、約28時間から約34時間、常温で回転振とうすることによって行われる。また、安定したテアフラビン変換反応を行うためのペルオキシダーゼ活性:総カテキン量:反応液量は、1単位:20〜35mg:100mLが最適であることが見出された(実施例4を参照のこと)。
【0051】
(酵素の失活)
テアフラビン変換反応終了後、茶細胞培養物に含まれるペルオキシダーゼおよびタンナーゼの酵素活性が残存していることにより、産物であるテアフラビンが分解される。従って、本発明の一実施形態において、テアフラビン変換反応終了後に、ペルオキシダーゼおよびタンナーゼの酵素活性を失活させる。ペルオキシダーゼおよびタンナーゼの酵素活性を失活は、テアフラビンを分解しない条件で行われなければならないことに留意すべきである。本発明の一実施形態において、ペルオキシダーゼおよびタンナーゼの酵素活性の失活は、pH3で10分間70℃に維持することにより行われる。
【0052】
(テアフラビンの安定化剤)
本明細書において、「テアフラビンの安定化剤」とは、テアフラビンの分解を防止する任意の物質をいう。テアフラビンは酸化分解されやすい物質であるため、本発明においては、必要に応じてテアフラビンに抗酸化物質を加え、テアフラビンを安定化する。従って、本発明の一実施形態においては、テアフラビンの安定化剤は抗酸化物質である。テアフラビンの安定化剤として使用され得る抗酸化物質としては、硫酸、アスコルビン酸、クエン酸、没食子酸、トコフェロール、亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどが挙げられるが、これらに限定されない。本発明における好ましいテアフラビン安定化剤はアスコルビン酸である。本発明において製造されたテアフラビンは、約0.1%以上のアスコルビン酸を含み得る。テアフラビンに約0.1%のアスコルビン酸を含めることによって、25℃で5日間経過後に約98%のテアフラビンが分解されずに残存する。一方、アスコルビン酸を含まない場合には、25℃で2日経過後には約10%のテアフラビンしか残存せず、3日経過後にはほぼ全てのテアフラビンが酸化分解されてしまう。
【0053】
(反応液の粉末化)
上記テアフラビン変換反応後の反応液を健康食品に適用するためには、反応で得られたテアフラビンをほとんど分解することなく高収率で粉末化することが好ましい。反応液の粉末化は、例えば凍結乾燥または噴霧乾燥により行うことができる。例えば、本発明における粉末化は、約3日間またはそれ以上凍結乾燥を行うことにより達成され得る。本発明における粉末化はまた、入口温度平均150℃、出口温度70℃〜75℃で所望の量の粉末化が達成されるまで噴霧乾燥を行うことによっても達成され得る。粉末化においては、反応で得られたテアフラビンを分解することなく行うことが重要である。よって、反応液に上記テアフラビン安定化剤を含めて粉末化を行うことが好ましい。
【0054】
(テアフラビンの精製)
本発明の製造方法では、必要に応じてテアフラビン変換反応液からテアフラビンを回収することによってテアフラビンを精製し、高純度のテアフラビンを得る。この精製によって、テアフラビン変換反応液中に含まれる茶葉由来のカフェインなどの不純物を除去することができる。カフェインの除去のためには、例えば有機溶媒による抽出除去が一般的であるが、この方法は食品製造に適合したものではないことから、本発明においては使用されない。本発明において使用される精製方法は、例えば吸着樹脂による精製が挙げられるがこれに限定されない。本発明の好ましい実施形態では、ガラスカラムのようなカラムを用いたカラムクロマトグラフィーによってテアフラビンの精製が行われる。樹脂としては例えばSEPABEADS(三菱化学)が使用され得、そして溶出液にはエタノールが使用され得る。目的産物であるテアフラビンは30%エタノール画分に溶出する。しかしながら、本発明の精製はこの方法に限定されるものではない。
【0055】
(食品組成物)
本発明の方法を使用して製造されたテアフラビンを基に、テアフラビン含有食品組成物が当業者に周知の方法によって製造され得る。
【0056】
本発明の食品組成物は、テアフラビン粉末またはテアフラビン含有培養物をそのまま液状、ゲル状あるいは固形状の食品に添加したり、必要に応じてデキストリン、乳糖、澱粉等の賦型剤や香料、色素等とともにペレット、錠剤、顆粒等に加工したり、またゼラチン等で被覆してカプセルに成形加工して健康食品や栄養補助食品等とすることにより、製造され得る。これらの食品組成物におけるテアフラビン量は一律には規定しがたいが、テアフラビン10〜1,000mg/日、より好ましくは、50〜400mg/日である。本発明の食品組成物は、肥満予防または血糖値上昇抑制のために使用され得る。
【0057】
本発明における「肥満予防」とは、例えば高脂肪食の摂取などの肥満促進要因による肥満を防ぐことをいう。単に体重を減少させるのではなく、肥満促進要因によって引き起こされる所望されない肥満のみを防ぐ点において、テアフラビンは健康的かつ安全な物質であることが理解される。実際に、本発明の製造方法によって製造されたテアフラビン含有食品組成物を普通食とともに与えたマウスにおいては、体重に変化がなかった(実施例11を参照のこと)。
【0058】
本発明における「血糖値上昇抑制」とは、例えば高脂肪食の摂取などの血糖値上昇要因による血糖値上昇を抑制することをいう。肥満予防と同様に、単に血糖値を下げるのではなく、血糖値上昇要因によって引き起こされる所望されない血糖値上昇のみを抑制する点において、テアフラビンは健康的かつ安全な物質であることが理解される。実際に、本発明の製造方法によって製造されたテアフラビン含有食品組成物を普通食とともに与えたマウスにおいては、血糖値に変化がなかった(実施例11を参照のこと)。
【0059】
ある実施形態において、本発明のテアフラビンは高脂肪食と混合して摂取され得る。別の実施形態においては、本発明のテアフラビンは高脂肪食と組み合わせて摂取され得る。本発明のテアフラビンが高脂肪食と組み合わせて摂取される場合、高脂肪食摂取の前にテアフラビンを摂取してもよいし、高脂肪食摂取と同時にテアフラビンを摂取してもよいし、高脂肪食摂取の後にテアフラビンを摂取してもよい。
【0060】
本明細書中で「高脂肪食」とは、それを摂取した被験体において肥満および/または血糖値上昇を引き起し得る任意の食餌をいう。より具体的には、脂肪含有量が約3.4kcal/gを超え、普通食には該当しない食餌を「高脂肪食」という。本発明の実施形態においては、高脂肪食とは代表的に、約5kcal/g以上の脂肪を含む食餌をいう。
【0061】
本発明のテアフラビン含有食品組成物は、特に、健康食品またはサプリメントをいう。本発明の食品組成物は、テアフラビンを含有する任意の製品をいう。本発明の飲食組成物は、代表的に、以下の実施例において実証されるように肥満予防および/または血糖値上昇抑制という効果を有し、またこれらの効果を表示して販売されている。本発明のテアフラビン含有食品組成物は、肥満促進要因および/または血糖値上昇要因と組み合わせて摂取されたときに、それらの要因によって引き起こされ得る肥満および/または血糖値上昇を抑制する。一方、肥満促進要因および/または血糖値上昇要因などの所望されない要因が存在しない場合には、本発明のテアフラビン含有食品組成物は、摂取した被験体に対して有意な効果を及ぼさない。これはテアフラビンの従来全く知られていなかった機能である。健常な状態にある被験体においては体重減少や血糖値低下を引き起こすことなく、高脂肪食のような肥満促進要因および/または血糖値上昇要因を摂取した被験体においてその要因に起因する肥満および/または血糖値上昇を抑制する点において、本発明のテアフラビン含有食品組成物は予想外の驚くべき効果を奏する。
【0062】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0063】
以上、本発明を理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明した。以下に実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではないことが理解されるべきである。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0064】
(実施例1 原料としての茶の条件検討)
テアフラビンを高い効率で製造する為には、原料の茶に含まれるテアフラビンを得るための基質成分を把握することが重要である。そこで本実施例では茶葉を時季を変えて適宜採取し、その中に含まれる成分の変化を一年を通して把握した。これらの結果から、テアフラビン製造に最も適した茶の調達時期を決定した。
【0065】
(試験方法)
磐田市内の茶葉畑から時季を変えて茶葉を採取し、その茶葉を酸化を防ぐために−80℃で凍結し保存した。凍結した茶葉1gに井水100mL(4℃)を加え、ミキサー(IFM−750G;IWATANI)を用いて1分間粉砕した後、遠心分離(14,000rpm、10分間、4℃)により上清液を回収した。上清液に含まれるカフェイン、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキン−3−O−ガレート(ECG)、およびエピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCG)をUPLC(Waters社製)を用いて分析し、ペルオキシダーゼ活性(POD)を当該分野で周知の方法で測定した。
【0066】
(結果および考察)
茶葉中カテキン含量およびペルオキシダーゼ活性の測定結果を図1に、各成分の含有率を図2に、そしてテアフラビン反応試験(プロトコールについては以下の実施例4を参照のこと)結果を図3に示す。時季を変えて採取した茶葉を分析したところ、図1および図2から分かるように、茶葉に含まれる総カテキン含量及びペルオキシダーゼ活性は8月をピークに次第に低下し、そして1月を過ぎると増加する傾向が見られた。これに対し、カフェインの含有率は、その総カテキン含量及びペルオキシダーゼ活性の傾向とは逆の傾向を示した。テアフラビン生産量は用いた茶葉に含まれるカテキン類の濃度に依存する。図3に見られるように、テアフラビン収率は6〜9月の間はほぼ一定であるが、それ以降は低下し、1月より再度上昇する傾向が見られた。
【0067】
採取した茶葉の保存安定性の検討結果を図4に示す。尚、本実施例においては株式会社 荒畑園(静岡県 牧之原市)の茶葉を用いた。図4に示されるように、凍結茶葉においては60日目まではほとんどそれに含まれる成分に変化は無いが、60日以降カテキン含量が徐々に低下した。その一方、ペルオキシダーゼ活性は60日以降急激に低下し、200日目以降はほとんど変化しなかった。
【0068】
以上の結果から、7〜9月頃の茶葉にはカフェイン含量率が少なく、カテキン類の含量が高いことから、テアフラビン製造に適していると考えられる。また、図4に示される茶葉の凍結保存安定性の結果から、カテキン類が分解すること無く保存できる日数は約60日であることがわかった。
【0069】
(実施例2 加熱によるカフェインの除去)
テアフラビン純度を上げるには原料である茶由来のテアフラビン製造に不要な成分を除去することが重要である。そこで本実施例では、茶由来の不要成分であるカフェインの除去方法を検討した。
【0070】
(試験方法)
茶葉1gに井水100mLを加え、それを70℃、80℃および90℃の各温度で加熱処理した。脱水した茶葉に再度井水100mLを加えミキサー(IFM−750G;IWATANI)を用いて1分間粉砕した。遠心分離(14,000rpm、10分間、4℃)により得られた上清中のカフェインを含む各種成分の分析を行なった。
【0071】
(結果)
70℃、80℃および90℃の各温度で加熱後の茶葉に含まれるカテキン類(エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキン−3−O−ガレート(ECG)、エピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCG))およびカフェインの含量とペルオキシダーゼ活性(POD)を図5に示す。図5から分かるように、70℃処理では30分間加熱処理してもカフェインの除去は確認できなかった。しかし、テアフラビン変換反応に必要なペルオキシダーゼ活性は完全に失活していた。80℃で3分間加熱処理を行うとカフェインの約58%が除去できたが、処理時間をそれより長くしてもそれ以上の除去は見られなかった。また、90℃加熱処理は80℃加熱処理とほぼ同じ結果であり、加熱処理によるカフェイン除去率は約60%であった。また、テアフラビン反応の基質であるカテキン類には影響が無かったが、ペルオキシダーゼ活性はほぼ完全に失活した。したがって、カフェイン除去を行うことにより、茶葉からのテアフラビン変換反応へのペルオキシダーゼの供給は望めないことが明らかになった。
【0072】
図6に、異なる量の加熱処理液量で加熱処理した場合のカテキン類およびカフェインの含量を示した。図6から分かるように、井水100mLに対して茶葉4gまではカフェイン除去率は57%程度であったが、それ以上茶葉量を増やすとカフェイン除去率の低下が見られた。以上の結果から、茶葉からカフェインを除去するためには、多くとも茶葉約4g/100mL以下の濃度で行うのが望ましいことが分かった。
【0073】
(実施例3 茶細胞の培養培地の組成)
(目的)
テアフラビン変換反応を効率的に行うためには、十分な量のペルオキシダーゼを提供することが必要である。そのためには、酵素の供給源となる茶細胞の培養が重要である。茶細胞の培養に使用される従来の培地には、食品添加物として使用できない成分(例えば植物ホルモンや特定のビタミン類など)が必ず含まれていた。そこで、そのような成分を使用せずにテアフラビンを製造するための新規培地のための組成を検討した。
【0074】
(試験方法)
用いた培地組成を以下の表1に示す。
【0075】
(表1 本実施例で使用した種々の培地の組成[g/100mL])
【0076】
【表1】
表1に示すRUN1〜RUN5の各培地組成の培地の成分を井水100mLに溶解し、200mL容三角フラスコに入れ、オートクレーブ(121℃、20分間)で殺菌した。茶細胞(本実験においては静岡県立大学 竹元講師より分譲いただいた茶細胞を使用したが、これ以外にも任意の茶細胞が使用され得る)を10mLずつ植菌し、25℃、120rpmで回転振とう培養を行なった。培養中に適宜経時的に試料を採取し、ペルオキシダーゼ活性、pH、残糖濃度を測定した。
【0077】
(結果)
図7Aに、表1に示した培地を用いて培養した茶細胞培養における、ペルオキシダーゼ活性の経時変化を示す。図7Aに示されるように、ビタミン類、B5塩類および植物ホルモンなどの食品添加物として使用できない成分を含まない酵母用培地で培養しても、ペルオキシダーゼが産生された。また、スクロースの量が5g/100mLの酵母用培地で培養された培養物のペルオキシダーゼ活性はかなり低く、酵母用培地には10g/100mL以上のスクロースを含めることが好ましいことが分かった。最も好ましいスクロース量は15g/100mLであることも明らかになった。
【0078】
表1のRUN−3の培地組成を基に、ペプトンおよび酵母エキス濃度を変えた培地を用いて培養した茶細胞培養におけるペルオキシダーゼ活性の経時変化をさらに検討したところ、ペプトンを0.2g/100mL、酵母エキス0.4g/100mLを含めた以下の培地組成の培地で培養した茶細胞培養物において、ペルオキシダーゼ活性が最も高いことが明らかになった(詳細なデータは示さず)。よって、以下の表2に示す培地組成を本発明における至適培地組成とした。
【0079】
(表2 至適培地組成[g/100mL])
【0080】
【表2】
また、スクロースに代えてグルコースを用いた場合のペルオキシダーゼ活性の変化についても検討した。以下の表3に示すスクロース培地およびグルコース培地の成分を井水100mLに溶解し、200mL容三角フラスコに入れ、オートクレーブ(121℃、20分間)で殺菌した。茶細胞を10mLずつ植菌し、25℃、120rpmで回転振とう培養を行なった。適宜経時的に試料を採取し、ペルオキシダーゼ活性、pH、残糖濃度を測定した。
【0081】
(表3 スクロース培地およびグルコース培地の組成)
【0082】
【表3】
図7Bに、表3に示した培地を用いて培養した茶細胞培養における、培養開始直後(0日)、7日後、15日後、20日後、28日後、34日後、および41日後のペルオキシダーゼ活性の経時変化を示す。スクロース培地およびグルコース培地のいずれにおいても十分なペルオキシダーゼ活性が検出されたが、ペルオキシダーゼ活性が高い値を示す培養開始28日〜34日後付近では、スクロース培地で培養した培養物のペルオキシダーゼ活性がグルコース培地で培養した培養物のペルオキシダーゼ活性の約1.2倍ほどであった。このことから、本発明における微生物用培地における糖源はスクロースでもグルコースでもまたは他の糖であってもよいが、スクロースが特に好ましいと考えられる。
【0083】
(実施例4 テアフラビン変換反応条件の検討)
(目的)
高効率のテアフラビン製造プロセスを構築する為には、原料のカテキン類を、最小量の酵素で短時間にテアフラビンに変換することが重要である。そこでカテキン量に対する酵素の至適濃度、および至適反応液量を検討した。
【0084】
(試験方法)
乾燥茶葉10gに井水を100mL加えて5時間(25℃)基質であるカテキン類を抽出し、遠心分離(3,000rpm、10分間、室温)にて得られた上清を基質溶液とした。テアフラビン変換試験は200mL容三角フラスコを用いて行い、表4に示す濃度に井水を用いて調整したカテキン類含有溶液に、茶細胞の培養上清液を加え、25℃、120rpmの回転振とうにて行なった。反応液量は100mLである。なお、本明細書中の「Total Cat.」とは反応の基質となるカテキン類の合計を示す。
【0085】
(表4 ペルオキシダーゼ活性とカテキン類の組成に対するテアフラビン収量および収率)
【0086】
【表4】
また、至適反応液量/仕込濃度の検討としてカテキン類総計(Total Cat.)44.8mg、ペルオキシダーゼ活性1.3単位とし、以下の表5に示すように反応液量を25〜200mLと変えて同様の変換反応を行なった。
【0087】
(表5 反応液量の検討のための組成)
【0088】
【表5】
(結果と考察)
表4の結果から、ペルオキシダーゼ活性に対するカテキン類濃度(Total Cat.)が増加すると、テアフラビンの回収率も低下する傾向が見られた。また同時に、テアフラビン反応時間も長くなった(データ示さず)。一方、酵素活性に対して基質濃度を下げると、過反応により副産物の生成が観察された(データ示さず)。
【0089】
表5のテアフラビン収量および収率の結果から、Total Cat./ペルオキシダーゼ=44.8/1.3=34.5で反応させた場合には反応液量として100mL以上が至適であることがわかった。反応液量を100mL未満にした場合、テアフラビン収率の著しい低下が観察された。この原因としては、上述のようにペルオキシダーゼ活性に対してカテキン類濃度を下げた場合と同様に過反応による副産物の生成や、または生成したテアフラビンの分解が考えられる。
【0090】
以上の通り、効率的なテアフラビン変換反応を行うための反応組成としては、ペルオキシダーゼ活性:総カテキン量:反応液量=1単位:20〜35mg:100mLが好ましいことを見出した。
【0091】
(実施例5 ペルオキシダーゼおよびタンナーゼの失活条件の検討)
(目的)
テアフラビン変換反応終了後、ペルオキシダーゼ活性およびタンナーゼ活性が残存しているとテアフラビンが分解される。そこで、反応終了後にこれらの酵素活性を失活させることが好ましい。
【0092】
5−1.ペルオキシダーゼおよびタンナーゼの失活
(試験方法)
茶細胞の培養液から遠心分離(14,000rpm,5分間)により回収した上清を酵素溶液とする。pH安定性を調べる為、78%硫酸および48%NaOHを用いてpHを3−9に調整し、25℃で1時間静置後、当該分野で周知の方法によってペルオキシダーゼおよびタンナーゼの酵素活性を測定した。熱安定性は、上清のpHを5に調整した後、30−70℃で1時間維持し、その後ペルオキシダーゼおよびタンナーゼの酵素活性を測定することによって検証した。
【0093】
(結果)
ペルオキシダーゼ活性はpH4−7では非常に安定であった。唯一pH3で約4割程度の失活が観察された(図8Aを参照のこと)。また、熱に対しても50℃まではほとんど失活しなかった(図8Bを参照のこと)。さらにpHを3に調整して70℃で維持した結果、ペルオキシダーゼ活性は10分間でほぼ失活していることが分かった(データ示さず)。
【0094】
タンナーゼ活性は中性領域(pH4−8)では安定であるが、酸性域(<pH4)では急激に失活する傾向が見られた(図9Aを参照のこと)。また、熱安定性は比較的悪く、40℃以上では急激に失活することが示された(図9Bを参照のこと)。ペルオキシダーゼと同様にpHを3に調整して70℃で維持した結果、10分間でほぼ失活した。
【0095】
5−2.テアフラビンの安定性
ペルオキシダーゼおよびタンナーゼの失活条件において、目的産物であるテアフラビンが分解されずに安定に残存するか否かを検証した。
【0096】
(試験方法)
テアフラビン溶液のpH安定性を調べる為に、78%硫酸および48%NaOHを用いてpHを3−9に調整し、25℃で1時間静置後、テアフラビン残存率を測定した。熱安定性は、pHを3に調整した後、30−70℃で1時間維持し、テアフラビン残存率を測定することにより検証した。
【0097】
(結果)
テアフラビンは、酸性域(pH3−5)では比較的安定であるが中性から塩基性領域(pH6〜)においては著しく不安定であった(図10Aを参照のこと)。また、pHを3に調整して70℃で1時間の熱処理を行なってもほとんど分解されなかった(図10Bを参照のこと)。
【0098】
(実施例6 テアフラビン安定化剤の検討)
(目的)
テアフラビン変換反応終了から製品化までのテアフラビンの安定性を得るためには、酸化分解されやすいテアフラビンの分解を防ぐことが重要である。本発明においては、必要に応じてテアフラビンに抗酸化物質を加え、テアフラビンの酸化分解を防ぐことによりテアフラビンを安定化する。本実施例では、効果的にテアフラビンの酸化分解を防止する抗酸化物質の種類について検討した。
【0099】
(試験方法)
テアフラビンの酸化分解を防止するために、各抗酸化物質を0.05%濃度になるようにテアフラビン溶液に添加した後、70℃で1時間維持し、テアフラビン残存率を測定した。
【0100】
(結果と考察)
種々の抗酸化物質の影響を以下の表6に示す。各抗酸化物質の添加によってテアフラビンの安定性が向上することが実証された。特に硫酸およびアスコルビン酸において高い安定性効果が見られた。
【0101】
(表6 種々の抗酸化物質の影響)
【0102】
【表6】
アスコルビン酸の添加濃度の影響を図11に示す。アスコルビン酸添加濃度の増加に伴ってテアフラビンの安定性が向上することが分かった。特に0.1%以上の濃度では25℃で5日間保存してもテアフラビンの分解はほとんど見られなかった(図11Aを参照のこと)。また、アスコルビン酸を0.1%の濃度で添加した場合、70℃で1時間処理してもテアフラビンはほとんど分解しなかった(図11Bを参照のこと)。
【0103】
次いで、硫酸によるpH調整とアスコルビン酸添加の効果を検討した。その結果を以下の表7に示す。硫酸でpHを3.0に調整した場合とアスコルビン酸を0.1%の濃度で添加した場合(pH4.3)ではほぼ同等の安定性効果が得られた。
【0104】
(表7 硫酸+アスコルビン酸の効果)
【0105】
【表7】
以上の結果より、反応終了後に安定化剤としてアスコルビン酸を0.1(g/L)%の濃度で添加して、70℃に加温することにより、生成したテアフラビンを安定に保つことができると結論付けた。
【0106】
(実施例7 テアフラビン粉末化条件の検討)
(目的)
本発明のテアフラビン製造方法によってテアフラビンを量産化するにあたり、安定的にテアフラビン変換反応液を粉末化するプロセスが確立されていることが好ましい。そこでテアフラビン変換反応で得られたテアフラビン溶液を用いて粉末化プロセスについて検討した。
【0107】
7.1 テアフラビン変換反応液の粉末化
(試験方法)
茶葉1gに井水100mLを加え、それを80℃で加熱処理した。脱水した茶葉に再度井水100mLを加えミキサー(IFM−750G;IWATANI)を用いて1分間粉砕したして茶葉粉砕液とした。スクロース15g/100mL、酵母エキス0.4g/100mL、ペプトン0.2g/100mL、KNO30.3g/100mL、(NH4)2SO40.05g/100mL、KH2PO40.0.3g/100mL、MgSO4・7H2O0.0.3g/100mL、NaH2PO4・H2O0.0.2g/100mL、CaCl2・2H2O0.0.2g/100mLを含む酵母用培地(100mL)に茶細胞を10mL植菌し、25℃、120rpmで約35時間回転振とう培養を行なって茶細胞培養液とした。茶葉粉砕液と茶細胞培養液とを200mL容三角フラスコにペルオキシダーゼ活性:総カテキン量:反応液量=1単位:20〜35mg:100mLとなるように入れ、25℃、120rpmの回転振とうにて約3〜5時間テアフラビン変換反応を行った。
【0108】
この反応液のpHを78%H2SO4を用いて3に調製した後、70℃で10分間加熱処理を行いペルオキシダーゼおよびタンナーゼを失活させた。次に遠心分離(8,000rpm、10分間)により粉砕茶葉を除去し、エバポレーターを用いてBrix(溶液中の固形分濃度)20%を目標に濃縮液を調整した。得られた濃縮液を用いて凍結乾燥(FD)もしくは噴霧乾燥(SD)を用いてテアフラビン含有粉末を作成した。
【0109】
(結果)
テアフラビン変換反応により得られた変換反応液の組成を、以下の表8に示す。変換反応液のテアフラビン収率は47%であり、Brixは0.5%であった。
【0110】
(表8 変換反応液の組成)
【0111】
【表8】
pH調整後の加熱処理によりペルオキシダーゼ、タンナーゼともに失活していることを確認し、エバポレーターを用いて濃縮を行なった。エバポレーターに変換反応液600mLを仕込、60℃以下で運転させた場合、Brixを20%以上(40倍濃縮)にするのに要する時間は約1時間であった。この濃縮工程でのテアフラビンを含む各成分の分解はほとんど見られず、変換反応液の組成(以下の表9を参照のこと)にほぼ変化はなかった。
【0112】
(表9 濃縮後の変換反応液の組成)
【0113】
【表9】
次いで、濃縮液を用いて凍結乾燥および噴霧乾燥を行ない、粉末化試験を行った。FDは3日間運転した。SDは入口温度平均150℃(最大160℃)で運転し、出口温度は70〜75℃であった。試験結果を表10に示す。SD、FDともに粉末化工程中でのテアフラビンを含めた各成分の分解はほとんど見られなかった。製造した粉末中の各成分含量にも違いはほとんど見られなかった。今回試験したプロセスでテアフラビン36重量%、カフェイン25重量%、アスコルビン酸17重量%、没食子酸含量6重量%の粉末を製造することが示された。
【0114】
(表10 粉末化試験の結果)
【0115】
【表10】
7.2 粉末安定性試験
(目的)
一定品質の製品を供給する為には、製品の安定性が重要である。そこで上記7.1において得られた凍結乾燥または噴霧乾燥で製造したテアフラビン含有粉末を用いて安定性試験を検討した。
【0116】
(試験方法)
テアフラビン含有粉末をアルミパウチにて保管後、4℃、25℃、加速試験機(40℃、湿度75%)で保存した。適宜サンプリングを行い成分分析を行った
(結果)
安定性試験結果を図12に示す。凍結乾燥で粉末化したテアフラビン粉末と噴霧乾燥で粉末化したテアフラビン粉末とは類似の挙動を示した。加速試験機では保管と同時に分解が始まることが示された。アスコルビン酸の添加により酸化を防いでいるが熱の影響が大きいと考えられる。4℃と25℃で保存したサンプルでは、保存50日目付近まではほぼ分解が見られないが、その後わずかながらTFの分解が見られ始めた。
【0117】
(実施例8 テアフラビン反応液の精製)
(目的)
よりテアフラビン含有率の高いテアフラビン製品を製造するためには、テアフラビン変換反応液中に含まれる茶葉由来のカフェインなどの不純物を除去することが好ましい。有機溶媒による抽出除去が一般的なカフェイン除去方法であるが、これは食品製造に適合しない方法である。そこで食品として対応可能なカフェイン除去方法を検討した。
【0118】
(試験方法)
茶葉1gに井水100mLを加え、それを80℃で加熱処理した。脱水した茶葉に再度井水100mLを加えミキサー(IFM−750G;IWATANI)を用いて1分間粉砕したして茶葉粉砕液とした。スクロース15g/100mL、酵母エキス0.4g/100mL、ペプトン0.2g/100mL、KNO30.3g/100mL、(NH4)2SO40.05g/100mL、KH2PO40.0.3g/100mL、MgSO4・7H2O0.0.3g/100mL、NaH2PO4・H2O0.0.2g/100mL、CaCl2・2H2O0.0.2g/100mLを含む酵母用培地(100mL)に茶細胞を10mL植菌し、25℃、120rpmで約35時間回転振とう培養を行なって茶細胞培養液とした。茶葉粉砕液と茶細胞培養液とを200mL容三角フラスコにペルオキシダーゼ活性:総カテキン量:反応液量=1単位:20〜35mg:100mLとなるように入れ、25℃、120rpmの回転振とうにて約3〜5時間テアフラビン変換反応を行った。
【0119】
このテアフラビン変換反応液を用いてカラムクロマトグラフィーによる精製を検討した。カラムにはガラスカラム(3.0mmI.D.×40cm)に合成吸着樹脂SEPABEADS(三菱化学)を充填したものを用いた。溶出液にはエタノール溶液を用いて、エタノール濃度をステップワイズで変化させ溶出を行なった。
【0120】
(結果)
試験結果を図13に示す。溶出液のエタノール濃度が10%(溶出体積0〜400mL)では、アスコルビン酸の溶出が確認できたが、テアフラビン、カフェイン、没食子酸、およびカテキン類の溶出はほとんど見られなかった。エタノール濃度を20%に上げると(溶出体積400〜1000mL)、カフェイン、没食子酸、およびカテキン類の溶出が確認できた、テアフラビンの溶出は見られなかった。エタノール濃度を30%に上げると(溶出体積1000〜1700mL)、テアフラビンの溶出が確認できた。このエタノール濃度30%の画分には、ほぼテアフラビンしか含まれておらず、高純度のテアフラビンを得ることができた。各画分の組成を以下の表11に示す。
【0121】
今回の試験によりエタノール濃度の勾配によりTFとカフェイン、没食子酸、およびカテキン類を分離できることが示された。しかしながら、カラムクロマトグラムによるテアフラビンの回収率は37%であった。高純度のTFを調製することができたが回収率の問題が示された。今後、より詳細に条件を検討して回収率を上げる必要がある。
【0122】
(表11 各画分の含有成分)
【0123】
【表11】
(実施例9 5kL発酵槽による本発明の製造方法の実施)
以下に今回構築した製造プロセスを用いた5kL発酵槽による製品製造プロセスを示す。
【0124】
(1)茶葉の加熱処理によるカフェイン除去および茶葉の粉砕
原料になる生茶葉は59.7kgである。冷凍保存(−20℃)した茶葉59.7kgを80℃に加温した井水1,500L中(至適比率は茶葉4gに対して井水100mL)に浸透させ3分間加熱処理を行いカフェインを除去する。処理後、脱水機を用いて茶葉を回収する。
【0125】
加熱処理した茶葉を粉砕して基質となるカテキンを抽出する。加熱処理した茶葉1.0kgに対して井水25Lを加えて粉砕を行なう。マルチミルグラインダー(GM4−25;グローエンジニアリング)を用いた場合、18.0−25.2kg・茶葉/時間の処理能力で茶葉を粉砕できる。得られる茶葉粉砕液は約1,550kLである。この茶葉粉砕液に含まれるカテキン総量は約1,400gである。
【0126】
(2)茶細胞の培養
200L発酵槽(仕込量は120L)を用いて茶細胞を培養する。培養期間は約30日間であり、培止時のペルオキシダーゼ活性は約500mU/mLである。
【0127】
(3)テアフラビン変換反応
安定したテアフラビン変換反応を行う為の至適な反応組成は、ペルオキシダーゼ活性:総カテキン量:反応液量=1単位:20〜35mg:100mLである(上記実施例4を参照のこと)。5kL発酵槽での反応液量は4kLであるので、ペルオキシダーゼ活性:総カテキン量:反応液量=40k単位:1,400g:4kLとする。5kL発酵槽に必要量の茶葉粉砕液、井水、茶細胞培養液を加えて反応を開始する。反応は25℃で行なう。反応時間は3−5時間である。適宜反応液を採取し、成分分析を行なう。テアフラビン含量の増加が見られなくなった時点で反応を停止する。反応液の組成を表12に示す。テアフラビン変換効率は約45%付近であろう。
【0128】
(表12 反応液の組成)
【0129】
【表12】
(5)ペルオキシダーゼおよびタンナーゼの失活
上記反応液のpHを78%H2SO4を用いて3に調製した後、この反応液を5kL発酵槽内で70℃まで加熱し、70℃で10分間維持してペルオキシダーゼおよびタンナーゼを失活させる。次いで遠心分離(8,000rpm、10分間)により粉砕茶葉を除去し上清液を回収する。
【0130】
(6)濃縮
エバポールを用いてBrix20%を目標に、回収した上清液を濃縮する。エバポレーターを60℃以下で運転させた場合、600mLをBrixを20%以上(約40倍濃縮)にするのに必要な時間は約1時間である。安定化剤として濃縮液に対してアスコルビン酸を0.1重量%になるように添加する。
【0131】
(7)粉末化による製品の製造
噴霧乾燥により濃縮した反応液約100Lを粉末化する。噴霧乾燥は入口温度を150℃で運転した。5kL発酵槽による製造により、テアフラビン39.6重量%、カフェイン30.3重量%、アスコルビン酸14.67重量%、没食子酸含有量7.1重量%の粉末を1.14kg製造することができるであろう(以下の表13を参照のこと)。本発明によるテアフラビンの製造効率は、食品添加物として使用できない成分(例えば植物ホルモンや特定のビタミン類など)を使用する従来法の効率に匹敵するものであり、十分に実用化に耐え得るものであることが明らかになった。
【0132】
(表13 テアフラビン含有粉末の組成)
【0133】
【表13】
(実施例10 高純度製品の製造)
高純度のテアフラビン製品を製造する為にはカラムクロマトグラフィーによる精製を行なう必要がある。5kL発酵槽による高純度製品を製造プロセスを以下に示す。
【0134】
(1)茶葉の加熱処理によるカフェイン除去および茶葉の粉砕
原料になる生茶葉は59.7kgである。冷凍保存(−20℃)した茶葉59.7kgを80℃に加温した井水1,500L中(至適比率は茶葉4gに対して井水100mL)に浸透させ3分間加熱処理を行いカフェインを除去する。処理後、脱水機を用いて茶葉を回収する。
【0135】
加熱処理した茶葉を粉砕して基質となるカテキンを抽出する。加熱処理した茶葉1.0kgに対して井水25Lを加えて粉砕を行なう。マルチミルグラインダー(GM4−25;グローエンジニアリング)を用いた場合、18.0−25.2kg・茶葉/時間の処理能力で茶葉を粉砕できる。得られる茶葉粉砕液は約1,550kLである。この茶葉粉砕液に含まれるカテキン総量は約1,400gである。
【0136】
(2)茶細胞の培養
200L発酵槽(仕込量は120L)を用いて茶細胞を培養した。培養期間は約30日間であり、培止時のペルオキシダーゼ活性は約500mU/mLである。
【0137】
(3)テアフラビン変換反応
安定したテアフラビン変換反応を行う為の至適な反応組成は、ペルオキシダーゼ活性:総カテキン量:反応液量=1単位:20〜35mg:100mLである(上記実施例4を参照のこと)。5kL発酵槽での反応液量は4kLであるので、ペルオキシダーゼ活性:総カテキン量:反応液量=40k単位:1,400g:4kLとした。5kL発酵槽に必要量の茶葉粉砕液、井水、茶細胞培養液を加えて反応を開始する。反応は25℃で行なう。反応時間は3−5時間である。適宜反応液を採取し、成分分析を行なう。テアフラビン含量の増加が見られなくなった時点で反応を停止する。反応液の組成は上記表12に示したものと同一である。テアフラビン変換効率は約45%付近である。
【0138】
(5)ペルオキシダーゼおよびタンナーゼの失活
上記反応液のpHを78%H2SO4を用いて3に調製した後、この反応液を5kL発酵槽内で70℃まで加熱し、70℃で10分間維持してペルオキシダーゼおよびタンナーゼを失活させる。次いで遠心分離(8,000rpm、10分間)により粉砕茶葉を除去し上清液を回収する。
【0139】
(6)精製
5kL発酵槽からの反応液4kLを処理するのに37.9LのSEPABEADS(三菱化学)を充填した樹脂塔が必要である。精製操作は4℃で行う。溶出液にはエタノール(EtOH)溶液を用い、流速SV=1.8で通液する。
【0140】
エタノール濃度を10%〜40%までステップワイズで変化させ各成分を溶出させる。10%EtOHでは各成分の溶出はほとんど見られないであろう。20%EtOHではカフェインとカテキン類の溶出が見られる。適宜溶出液の分析を行ないカフェインとカテキン類の溶出が終了したら、30%EtOHを通液する。TFは30%EtOH画分中に溶出される。適宜溶出液の分析を行ないテアフラビンの溶出が終了したら、40%EtOHを通液する。精製によるテアフラビンの収率及び組成を以下の表14に示す。5kL発酵槽による製造から樹脂による精製工程を行なうことにより、テアフラビン98.3重量%と高純度の製品を195.6g製造することができるであろう。
【0141】
(表14 テアフラビン精製粉末の収量)
【0142】
【表14】
(実施例11 テアフラビン混合物の機能性評価)
(11−1 テアフラビン混合物の製造)
本実施例で使用したテアフラビンは、実施例8で作成した精製テアフラビン溶液に市販カフェイン(和光純薬工業株式会社)10mgを添加して作成した。
【0143】
(11−2 テアフラビン混合物の抗肥満効果、血糖値降下作用)
C57BL6 の4週齢の雄のマウスを使用して、テアフラビンの抗肥満効果、血糖値降下作用について検証した。
【0144】
以下の表15に示した普通食飼料(CE2、日本クレア(株)製)および高脂肪食飼料(High Fat Diet 32、日本クレア(株)製)を与えたマウスに対し、水またはテアフラビン混合物(水100mlあたりテアフラビン2mg、カフェイン10mg)を含む飲料のいずれかを与え、体重、尾静脈随時及び尾静脈空腹時の血糖値推移を9ヶ月間検証した。
【0145】
(1)飼育実験
高脂肪食誘発肥満モデルマウスC57BL6 の4週齢の雄性マウスを購入してから実験環境に慣らす為に7日間予備飼育してから健全な動物を実験に使用した。飼育室の環境は温度を23±1℃、湿度を55±5%の一定とし明暗は12時間周期(明8:00-20:00)とした。実験動物はプラスチック製のケージを用いて1つのケージあたり5匹のマウスを入れ動物飼育室内で飼育した。
【0146】
(表15 普通食餌料(CE2)、高脂肪食餌量(HFD32)の100g 中の成分量)
【0147】
【表15】
(2)実験群及び実験条件
実験群は8群とし各群の数はn=10匹とした。各群に与えた餌料および飲料を以下の表16に示す。なお、給餌及び給水は自由摂取とした。
【0148】
(表16 各群に与えた餌料および飲料)
【0149】
【表16】
実験開始後、9ヶ月間の体重増加率変化を表17に示す。体重増加率は飼育開始1週間後の体重を基準とし、以下の計算式に従って計算した。
体重増加率=(測定月の体重−実験開始1週間後の体重)÷実験開始1週間後の体重×100
(表17 各群の体重増加率)
【0150】
【表17】
普通食−テアフラビン群(II群)では普通食−水群(I群)と比較し、有意な体重増加率の差異は見られなかった。一方、高脂肪食−テアフラビン群(VI群)では高脂肪食−水群(III群)と比較して平均6%程度体重増加率の減少が認められた。
【0151】
随時血糖値は午後1時に測定した。採血は尾静脈から行い、簡易血糖測定システム(テルモ社製)にて血糖値を測定した。測定結果を以下の表18に示す。普通食−テアフラビン群(I群)では、コントロールである普通食−水群(II群)に比べて随時血糖値は若干低下し、ほぼ150台で推移した。高脂肪食-テアフラビン群(VI群)では、高脂肪食−水群(III群)に比べて随時血糖値が有意に低下し、ほぼ170から180台で推移した。
【0152】
(表18 各群の随時血糖値)
【0153】
【表18】
さらに、プラスチックゲージに床敷も無い状態で14時間絶食後の各群について空腹時血糖値を測定した。測定結果を以下の表19に示す。普通食−水群(I群)と普通食−テアフラビン群(II群)とは同程度の血糖値を示した。高脂肪食−テアフラビン群(VI群)では高脂肪食−水群(III群)よりも血糖値が低下した。
【0154】
(表19 各群の空腹時血糖値)
【0155】
【表19】
以上の結果から、体重に関しては、I群とII群とでは有意な差異は見られなかったが、III群とIV群とを比較すると、III群に対してIV群では体重増加度が8%低下した。したがって、本発明の製造方法によって製造されるテアフラビン混合物は、肥満予防効果を有するものであることが明らかになった。
【0156】
血糖値に関しては、I群とII群とでは有意な差異は見られなかったが、III群とIV群とを比較すると、III群に対してIV群では血糖値が20%低下した。したがって、本発明の製造方法によって製造されるテアフラビン混合物は、血糖値上昇抑制効果を有するものであることが明らかになった。
【0157】
また、I群とII群とでは血糖値および体重について同様の測定結果が得られた事から、普通食を摂取する通常の状態では、テアフラビン混合物には血糖値を下げたり体重を下げる効果は認められず、安全性を有することが確認された。
【0158】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)茶を含む原料を加熱する工程、
(2)該(1)工程で加熱した該原料を粉砕する工程、
(3)微生物用培地において、茶細胞を培養し茶細胞培養物を得る工程、および
(4)該(2)工程で粉砕された該原料と該(3)工程で培養された該茶細胞培養物とを反応させてテアフラビンを生成する工程
を包含するテアフラビンの製造方法。
【請求項2】
前記微生物用培地が糖、窒素源および無機塩類を含む酵母用培地である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記糖がスクロースおよびグルコースからなる群から選択される請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記(3)工程における反応物に含まれる酵素を失活させる工程をさらに包含する請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記失活させる工程が、前記反応物を酸性にすることおよび/または加温することにより行われる請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記テアフラビンを回収する工程をさらに包含する請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記回収が、吸着樹脂により行われる請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法によって製造された実質的に純粋なテアフラビン。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたテアフラビンを含む食品組成物。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたテアフラビンを含む肥満予防用食品組成物。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたテアフラビンを含む血糖値上昇抑制用食品組成物。
【請求項12】
高脂肪食と組み合わせて摂取されることを特徴とする請求項10または11のいずれか1項に記載の食品組成物。
【請求項13】
テアフラビンの安定化剤をさらに含む請求項9〜12のいずれか1項に記載の食品組成物。
【請求項1】
(1)茶を含む原料を加熱する工程、
(2)該(1)工程で加熱した該原料を粉砕する工程、
(3)微生物用培地において、茶細胞を培養し茶細胞培養物を得る工程、および
(4)該(2)工程で粉砕された該原料と該(3)工程で培養された該茶細胞培養物とを反応させてテアフラビンを生成する工程
を包含するテアフラビンの製造方法。
【請求項2】
前記微生物用培地が糖、窒素源および無機塩類を含む酵母用培地である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記糖がスクロースおよびグルコースからなる群から選択される請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記(3)工程における反応物に含まれる酵素を失活させる工程をさらに包含する請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記失活させる工程が、前記反応物を酸性にすることおよび/または加温することにより行われる請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記テアフラビンを回収する工程をさらに包含する請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記回収が、吸着樹脂により行われる請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法によって製造された実質的に純粋なテアフラビン。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたテアフラビンを含む食品組成物。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたテアフラビンを含む肥満予防用食品組成物。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたテアフラビンを含む血糖値上昇抑制用食品組成物。
【請求項12】
高脂肪食と組み合わせて摂取されることを特徴とする請求項10または11のいずれか1項に記載の食品組成物。
【請求項13】
テアフラビンの安定化剤をさらに含む請求項9〜12のいずれか1項に記載の食品組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−172514(P2011−172514A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39401(P2010−39401)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(591062331)磐田化学工業株式会社 (5)
【出願人】(507219686)静岡県公立大学法人 (63)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(591062331)磐田化学工業株式会社 (5)
【出願人】(507219686)静岡県公立大学法人 (63)
【Fターム(参考)】
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