説明

加熱処理耐性を有するガスバリアフィルム積層体

【課題】プラスチック材料からなる基材と無機酸化物からなる蒸着薄膜層の密着性とガスバリア性とを強化し、ボイル、レトルトなどの加熱殺菌処理などおける加熱処理がなされてもデラミネーションが発生せず、またガスバリア性の低下をも防げるようにした、加熱処理耐性を有するガスバリアフィルム積層体の提供を目的とする。
【解決手段】プラスチック材料からなる基材の少なくとも一方の面に、プラズマを利用したリアクティブイオンエッチングによる前処理が施されていて、この前処理による前処理面の上には、無機酸化物からなる蒸着薄膜層と、Si(OR14およびR2Si(OR33(R1、R3は加水分解性基、R2は有機官能基である。)で表されるケイ素化合物あるいはその加水分解物、並びに水酸基を有する水溶性高分子とを少なくとも含有する混合溶液からなる薄膜を加熱乾燥してなるガスバリア性被膜層とが順次積層されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱殺菌や加熱調理などにおいて加熱処理が施されても処理前に有していたバリア性の劣化が少なく、密着性も低下しないようにしたガスバリアフィルム積層体に関するものである。さらに詳しくは、ボイル殺菌やレトルト殺菌などの加熱殺菌処理や、レトルト調理などにおける加熱処理が施される包装袋や包装容器などの包装体の構成材料として好適に用いることができる、加熱処理耐性を有するガスバリアフィルム積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品や医薬品などの包装に用いられる包装材料は、それによって包装される内容物の変質を抑制してそれらの機能や性質を保持できるように、酸素、水蒸気、その他内容物を変質させる気体を遮断するガスバリア性を備えていることが求められている。そのため従来から、温度や湿度などによる影響が少ないアルミニウムなどからなる金属箔をガスバリア層として用いた包装材料が広く用いられている。
【0003】
ところが、アルミニウムなどの金属箔を用いた包装材料は、高度なガスバリア性を有し、それによって包装される内容物の温度や湿度に対する影響を少なくすることができるが、それを介して内容物を確認することができない、使用後の廃棄の際は不燃物として処理しなければならない、検査の際に金属探知器が使用できないなどの欠点を有している。
【0004】
そこで、これらの欠点を克服すべく、プラスチック材料からなる基材上に真空蒸着法やスパッタリング法などの薄膜形成手段により酸化珪素、酸化アルミニウムなどの無機酸化物からなる蒸着薄膜を積層してなる蒸着フィルムが開発されている(例えば特許文献1、2参照。)。これらの蒸着フィルムは、透明性及び酸素、水蒸気などに対するガスバリア性を有していることが知られ、金属箔をガスバリア層として用いている包装材料では得ることのできない透明性やガスバリア性を有する包装材料として好適に用いられている。
【0005】
しかしながら、叙述の蒸着フィルムは、基材との密着性を確保させるための前処理が施されていないため、基材と蒸着薄膜との密着が弱く、ボイル・レトルト処理などによる加熱殺菌処理や加熱調理が施されるとデラミネーションを引き起こし易いという欠点がある。
【0006】
この問題を解決するため、蒸着フィルムの製造の際、プラスチック基材上にプラズマ処理をインラインで施すことにより、蒸着薄膜との密着性を改善させることが従来から行われている。
【0007】
しかしながら、インラインでプラズマ処理を行う場合、プラズマ処理機においては、プラズマを発生させるための電圧を印加する電極が基材のセットされているドラム側ではない側に設置されていると共に、基材がアノード側に設置されるようになっているため、高い自己バイアスを得ることができず、結果として所期の密着性が発現できるようにプラズマ処理を行うこと難しかった。高い自己バイアスで処理しようとする場合は、直流放電方式を用いることも出来るが、この方法で高いバイアスの電圧を得ようとするにはプラズマのモードがグローからアークへと変化するため、大面積に均一な処理を行うことは出来ない。
【0008】
一方、上記のような蒸着フィルムに対して後加工適正の付与と、ガスバリア性の確保などを目的として、無機酸化物からなる蒸着薄膜の上に、第2層として、水酸基を有する水
溶性高分子と1種類以上の金属アルコキシド或いは金属アルコキシド加水分解物または、塩化錫の少なくとも一方を含む水溶液、あるいは水アルコール混合溶液を主剤とするコーティング剤を塗布し、加熱乾燥してなるガスバリア性被膜を積層するようにした提案がなされている(例えば、特許文献3参照。)。
【0009】
しかし、このガスバリアフィルムの被膜第2層は、金属アルコキシド加水分解物と水酸基を有する水溶性高分子との水素結合からなるため、例えばボイル・レトルト殺菌などの際に加熱処理が施されると膨潤してしまい、加熱処理前に有していたバリア性が劣化する。また、膨潤によって無機酸化物からなる蒸着薄層にクラックが生じ易くなり、バリア性がさらに劣化する原因にもなっている。
【特許文献1】米国特許第3442686号明細書
【特許文献2】特公昭63−28017号公報
【特許文献3】特開平7−164591号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、プラスチック材料からなる基材と無機酸化物からなる蒸着薄膜層の密着性とガスバリア性とを強化し、ボイル、レトルトなどの加熱殺菌処理や加熱調理のおける加熱処理がなされてもデラミネーションが発生せず、またガスバリア性の低下をも防げるようにした、加熱処理耐性を有するガスバリアフィルム積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するためになされ、請求項1記載の発明は、プラスチック材料からなる基材の少なくとも一方の面に、プラズマを利用したリアクティブイオンエッチング(RIE)による前処理が施されていて、このRIEによる前処理面の上には、無機酸化物からなる蒸着薄膜層と、Si(OR14およびR2Si(OR33(R1、R3は加水分解性基、R2は有機官能基である。)で表されるケイ素化合物あるいはその加水分解物、並びに水酸基を有する水溶性高分子とを少なくとも含有する混合溶液からなる薄膜を加熱乾燥してなるガスバリア性被膜層とが順次積層されていることを特徴とする加熱処理耐性を有するガスバリアフィルム積層体である。
【0012】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の加熱処理耐性を有するガスバリアフィルム積層体において、前記Si(OR14の加水分解性基(R1)がC25であることを特徴とする。
【0013】
さらにまた、請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の加熱処理耐性を有するガスバリアフィルム積層体において、前記R2Si(OR33の有機官能基(R2)が、ビニル、エポキシ、メタクリロキシ、ウレイド、イソシアネートなどの非水性官能基であることを特徴とする。
【0014】
さらにまた、請求項4記載の発明は、請求項3記載の加熱処理耐性を有するガスバリアフィルム積層体において、前記有機官能基(R2)が、γ−グリシドキシプロピル基またはβ−(3,4エポキシシクロヘキシル)基であることを特徴とする。
【0015】
さらにまた、請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の加熱処理耐性を有するガスバリアフィルム積層体において、Si(OR14をSiO2に、R2Si(OR
33をR2Si(OH)3に換算した場合、R2Si(OH)3の固形分が全固形分に対し1〜50重量%であることを特徴とする。
【0016】
さらにまた、請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の加熱処理耐性を有するガスバリアフィルム積層体において、Si(OR14をSiO2に、R2Si(OR33をR2Si(OH)3に換算した場合、固形分の配合比が重量比率でSiO2/(R2Si(OH)3/水溶性高分子)=100/100〜100/30の範囲内であることを特徴とする。
【0017】
さらにまた、請求項7記載の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の加熱処理耐性を有するガスバリアフィルム積層体において、前記プラスチック材料がポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド類、ポリエステル類、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリウレタン類の中の少なくとも一種類以上を成分に持つか、共重合成分に持っていることを特徴とする。
【0018】
さらにまた、請求項8記載の発明は、請求項7記載の加熱処理耐性を有するガスバリアフィルム積層体において、前記ポリエステル類がポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ボリブチレンテレフタレート、ボリブチレンナフタレート及びそれらの共重合体であることを特徴とする。
【0019】
さらにまた、請求項9記載の発明は、請求項1〜8のいずれかに記載の加熱殺菌耐性を有するガスバリアフィルム積層体において、前記無機酸化物が、酸化アルミニウム、酸化珪素或いはそれらの混合物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の加熱処理耐性を有するガスバリアフィルム積層体は、高いガスバリア性を有しており、ボイル・レトルトなどの加熱処理の後でも処理前に有していたバリア性が劣化せず、しかも密着性が良好であるのでデラミネーションが発生しにくい。従って、これに印刷やドライラミネート、溶融押し出しラミネート、熱圧着ラミネートなどの後加工を施すことにより、レトルト食品、医薬品、電子部材などの種々の内容物の包装するための包装材料を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の最良の実施形態を図面を参照にして詳細に説明する。
【0022】
図1は本発明の加熱処理耐性を有するガスバリアフィルム積層体の概略の断面構成を示す説明図である。このガスバリアフィルム積層体は、プラスチック材料からなる基材1の少なくとも一方の面に、プラズマを利用したリアクティブイオンエッチング(RIE)による前処理が施されていて、このRIEによる前処理面4の上には、無機酸化物からなる蒸着薄層2と、Si(OR14およびR2Si(OR33(R1、R3は加水分解性基、R2は有機官能基である。)で表されるケイ素化合物あるいはその加水分解物並びに水酸基を有する水溶性高分子とを少なくとも含有する混合溶液からなる薄膜を加熱乾燥してなるガスバリア性被膜層3とが順次積層されてなるものである。
【0023】
基材1はプラスチック材料からなり、無機酸化物からなる蒸着薄膜層2の透明性を生かすために可能であれば透明なフィルム基材であることが好ましい。基材1の例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリエチレンナフタレート(PEN)などからなるポリエステルフィルム、ポリエチレンやポリプロピレンなどからなるポリオレフィンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリルニトリルフィルム、ポリイミドフィルムなどが挙げられる。これらのフィ
ルムは、延伸、未延伸のどちらでもよいが、機械的強度や寸法安定性に優れるものが好ましい。この中では、二軸方向に任意に延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムやポリアミドフィルムが好ましく用いられる。
【0024】
このような基材1の蒸着薄膜層2が設けられる面と反対側の表面には、周知の種々の添加剤や安定剤、例えば帯電防止剤、紫外線防止剤、可塑剤、滑剤などからなる薄膜を設けておいてもよい。
【0025】
基材1の厚さは特に制限を受けるものではないが、後述するプライマー層、無機酸化物からなる蒸着薄膜層、ガスバリア性被膜層などを積層する場合の加工性を考慮すると、実用的には3〜200μmの範囲にあればよい。6〜30μmの範囲にあればより好ましい。また包装材料としての適性を考慮して、その層構成は単層構成であっても、異なる性質のフィルムの多層構成であってもよい。
【0026】
この基材1と無機酸化物からなる蒸着薄膜層2との密着を強化するため、基材1の表面にはプラズマを利用したリアクティブイオンエッチング(RIE)による前処理を施す。このRIEによる前処理を行うことで、その際に発生したラジカルやイオンを利用してプラスチック材料からなる基材1の表面に官能基を持たせ、表面をイオンエッチングして不純物などを飛ばしたり平滑化することが可能となる。このような表面処理を行うことで、その前処理面4に無機酸化物の緻密な蒸着薄膜を成膜させることができる。その結果、基材1と蒸着薄膜層2との密着性が強化され、ガスバリア性の向上やクラック発生防止につながるだけでなく、レトルトなどの加熱処理を行った場合においてもデラミネーションが起き難くなる。
【0027】
次に無機酸化物からなる蒸着薄膜層2について、詳しく説明する。この無機酸化物からなる蒸着薄膜層2は、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化錫、酸化マグネシウム、或いはそれらの混合物などの無機酸化物の蒸着薄膜からなり、透明性を有しかつ酸素、水蒸気などに対するガスバリア性を有する層である。各種の加熱処理に対する加熱処理耐性の確保を考慮すると、これらの構成材料の中では、酸化アルミニウムと酸化珪素がより好ましく用いられる。ただしこの蒸着薄膜層2は、これらの無機酸化物からなるものに限定されるものではなく、上記条件に適合する他の無機酸化物により形成してもよい。
【0028】
蒸着薄膜層2の厚さは、用いられる無機酸化物の種類や構成により最適値が異なるが、一般的には5〜300nmの範囲内にあることが望ましい。膜厚が5nm未満であると均一な薄膜が得られ難かったり、ガスバリア性の確保し難くなることがある。また膜厚が300nmを越えると薄膜にフレキシビリティを保持させることが難しくなり、成膜後に折り曲げ、引っ張りなどの外的要因により亀裂を生じる恐れが出てくる。より好ましくは、10〜150nmの範囲内にあればよい。
【0029】
この無機酸化物からなる蒸着薄膜層2を基材1上に形成する方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマ気相成長法(CVD)などの薄膜形成手段を採用することができる。但し生産性を考慮すれば、現時点では真空蒸着法が最も優れている。真空蒸着法における加熱手段としては電子線加熱方式、抵抗加熱方式、誘導加熱方式のいずれかの方式を用いることが好ましいが、蒸発材料の選択性の幅広さを考慮すると電子線加熱方式を用いることがより好ましい。また蒸着薄膜層と基材の密着性及び蒸着薄膜層の緻密性を向上させるために、プラズマアシスト法やイオンビームアシスト法を用いて蒸着薄膜を成膜することも可能である。また、蒸着薄膜層の透明性を上げるため、酸素などの各種ガスを吹き込んで行う反応蒸着を用いても一向に構わない。
【0030】
次いでガスバリア性被膜層3について詳しく説明する。このガスバリア性被膜層3は、
前記した蒸着薄膜層2上に積層して設け、蒸着薄膜層2との積層構造による相乗効果によって、過酷な使用条件下での使用においてもバリア性の劣化を来さないようにするために設けるガスバリア性の被膜である。
【0031】
この種のガスバリア性被膜としては、上述したように、無機酸化物からなる蒸着薄膜の上に形成する、水酸基を有する水溶性高分子と1種類以上の金属アルコキシド或いは金属アルコキシド加水分解物または、塩化錫の少なくとも一方を含む水溶液、あるいは水アルコール混合溶液を主剤とするコーティング剤からなる薄膜を加熱乾燥してなるガスバリア性被膜がある。しかし、このような縮合体被膜は、縮合時の体積縮小による歪みにってクラックが入りやすいため、フィルム上に薄く均一に設けることは非常に難しい。上記コーティング剤の中に高分子を添加することによって薄膜に柔軟性を付与し、クラックが発生しないようにすることができる。しかし、高分子を添加したコーティング剤により成膜された薄膜は、目視では均一に見えていても、微視的には金属酸化物と高分子部分とに分離していることが多く、バリア性の包装材料においては所謂バリアの孔になることがある。これに対しては、水酸基をもつ高分子を添加し、その高分子の水酸基と金属アルコキシドの加水分解物の水酸基との強い水素結合を利用して、金属酸化物を縮合に際し高分子との間に上手く分散させるようにして、セラミックに近い高いバリア性を被膜に発現させるようにすることができる。
【0032】
しかし金属アルコキシドあるいはその加水分解物と水酸基を有する水溶性高分子のコーティング剤からなるガスバリア性被膜層は水素結合により造膜されるため、水に膨潤して溶解してしまう。要するに、蒸着薄膜層とガスバリア性被膜層との積層構造による相乗効果があっても、レトルトやボイル処理などの過酷な処理の下では初期のガスバリア性を維持し続けることは難しい。
【0033】
そこで、本発明においては、ガスバリア性被膜層を構成する材料として、Si(OR14およびR2Si(OR33(R1、R3は加水分解性基、R2は有機官能基である。)で表されるケイ素化合物あるいはその加水分解物並びに水酸基を有する水溶性高分子とを少なくとも含有する混合溶液を用い、この混合溶液からなる薄膜を加熱乾燥させてなるガスバリア性被膜層3を無機酸化物からなる蒸着薄膜層2の上に積層させることにより、叙述の問題点を解消する。
【0034】
すなわち、R2Si(OR33で表されるケイ素化合物あるいはその加水分解物を上記したように添加することにより、ガスバリア性被膜層3の膨潤を防ぐことができる。要するに、R2Si(OR33はその加水分解基により、Si(OR14と水溶性高分子と水素結合を形成するためにバリアの孔になり難くなり、また一方でその有機官能基はネットワークをつくることで水素結合の膨潤を防ぐことができるようになり、加熱殺菌や加熱調理などにおいて加熱処理が施されても、ガスバリア性の劣化を発生し難くするのである。中でも、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、ウレイド基、イソシアネート基を持つものは、官能基が疎水性であるために耐水性はさらに向上する。
【0035】
上記した混合溶液において、Si(OR14はSiO2に、R2Si(OR33はR2Si(OH)3に換算したとき、R2Si(OR33の固形分が全固形分に対し1〜50重量%であることが望ましい。1重量%未満であると耐水性効果が低くなり、また50重量%を超えると官能基がバリアの孔となり易くなる。ボイル、レトルト殺菌処理などの加熱処理に対する耐性とガスバリア性とのより確実な確保を考慮すると、5〜30%重量%であることがより望ましい。
【0036】
また、Si(OR14はSiO2に、R2Si(OR33はR2Si(OH)3に換算したとき、固形分の配合比が重量比率でSiO2/(R2Si(OH)3/水溶性高分子)=1
00/100〜100/30の範囲内であれば、ボイル・レトルト殺菌処理などにおける加熱処理に対する耐性とガスバリア性はもちろんのこと、包装材料としての利用を考えた場合のフレキシブル性の付与が十分に確保されるようになり好ましい。
【0037】
さらに、ガスバリア性被膜層3中のSi(OR14では、その加水分解性基(R1)は、CH3、C2H5、C24OCH3などで表せるものであでばいずれのものも使用することができる。中でも、テトラエトキシシランが加水分解後、水系の溶媒中において比較的安定であるため好ましい。
【0038】
また、ガスバリア性被膜層中の水酸基を有する水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、でんぷん、セルロース類が好ましく用いられる。特にポリビニルアルコール(以下PVA)を用いた場合にはガスバリア性が最も優れるようになる。なぜならPVAはモノマー単位中に最も多く水酸基を含む高分子であるため、加水分解後の金属アルコキシドの水酸基と非常に強固な水素結合を持つからである。ここで言うPVAとは、一般にポリ酢酸ビニルをケン化して得られるもので、酢酸基が数十%残存している、いわゆる部分ケン化PVAから酢酸基が数%しか残存していない完全ケン化PVAまでを含む。PVAの分子量は重合度が300〜数千まで多種あるが、本発明においてはどの分子量のものを用いても構わない。しかし一般的にケン化度が高くまた重合度が高い高分子量のPVAは耐水性が高いため好ましく用いられる。
【0039】
また、Si(OR14としてテトラエトキシシラン、水溶性高分子としてPVAをそれぞれ用いた場合、金属アルコキシドあるいは金属アルコキシドの加水分解物を金属酸化物(例えばSiO2)に換算したときの金属酸化物と水溶性高分子との重量比率は、SiO2/PVAが100/10〜100/100であることがより好ましい。PVAが100/10より少ないとガスバリア性被膜層が硬くなり、ヒビ割れやすくなってフレキシビリティーが低くなり、ガスバリア性が劣化し易くなる。またPVAが100/100を超えると耐水性阻害の原因となることもある。
【0040】
上記した混合溶液の調液に際しては、加水分解したSi(OR14と水酸基をもつ水溶性高分子と、R2Si(OR33とをどのような順番で混合しても上記したような所期の効果は発現するが、Si(OR14とR2Si(OR33を別々に加水分解してから水溶性高分子に添加する方法は、SiO2の微分散およびSi(OR14の加水分解効率を考慮すると望ましい方法といえる。
【0041】
さらに、混合溶液には、本発明のガスバリアフィルム積層体への後加工工程において使用される印刷インキや接着剤との密着性や濡れ性、さらには各構成層の収縮によるクラック発生の防止を考慮して、イソシアネート化合物、コロイダルシリカやスメクタイトなどの粘土鉱物、安定化剤、着色剤、粘度調整剤などの公知の添加剤などを、ガスバリア性や耐水性を阻害しない範囲で適宜添加してもよい。
【0042】
ガスバリア性被膜層3の厚みは特に限定しない。但し加熱乾燥後の厚さが0.01μm未満の場合は、均一な薄膜層が得られ難くなり、十分なガスバリア性を得られない場合がある。また厚さが50μmを超える場合は、薄膜層にクラックが生じ易くなるため問題となる場合がある。好ましくは0.01〜50μmの範囲、より好ましくは0.1〜10μmの範囲にあればよい。
【0043】
ガスバリア性被膜層3の蒸着薄膜層2の上への形成方法としては、ディッピング法、ロールコート、グラビアコート、リバースコート、エアナイフコート、コンマコート、ダイコート、スクリーン印刷法、スプレーコート、グラビアオフセット印刷などを採用することができる。
【0044】
以上、本発明の加熱処理耐性を有するガスバリアフィルム積層体の概略を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、上記したガスバリア性被膜層3の上に印刷層、介在フィルム、シーラント層などを後加工工程において積層させて、包装材料とすることが出来る。
【0045】
介在フィルムは、袋状包装体などを構成する包装材料として使用する際に必要とされる破袋強度や突き刺し強度を高めるために設けられるもので、一般的には機械強度及び熱安定性の面から二軸延伸ナイロンフィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルムなどが用いられる。その厚さは、材質や要求品質に応じて決められるが、一般的には10〜30μmの範囲にあればよい。
【0046】
さらにシーラント層は袋状包装体などを形成する包装材料として使用された際に、接着層としての役目を担うように設ける層であり、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体及びそれらの金属架橋物などの樹脂によって構成される。その厚さは目的に応じて決められるが、一般的には15〜200μmの範囲にあればよい。
【0047】
本発明においては、上記した蒸着薄膜層2やガスバリア性被膜層3が積層されていない面にも、必要に応じて印刷層、介在フィルム、シーラント層などを積層させることも可能である。また、前述のプラズマを利用したリアクティブイオンエッチング(RIE)による前処理を基材の両面に施し、この前処理によって形成された前処理面上に、前述した蒸着薄膜層とガスバリア性被膜層を積層するようにしてもよい。また蒸着薄膜層とガスバリア性被膜層は多層構成であってもよい。
【0048】
以下に本発明の加熱処理耐性を有するガスバリアフィルム積層体の実施例を説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0049】
厚さ12μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの一方の面に、印加電力を120W、処理時間を0.1sec、処理ガスをアルゴン、処理ユニット圧力を2.0Paとしてリアクティブイオンエッチング(RIE)を利用したプラズマ前処理を施した。この時、電極には周波数13.56MHzの高周波電源を用いた。
【0050】
続いて、上記処理によって設けられたRIEによる前処理面の上に、電子線加熱方式による真空蒸着装置を使用し、そこに酸素ガスを導入しながら金属アルミニウムの薄膜を蒸発させ、厚さ15nmの酸化アルミニウムからなる蒸着薄膜を成膜した。次いで、下記に示すA液とB液とC液を配合比(wt%)が70/20/10となるように混合した混合溶液をグラビアコート法により蒸着薄膜層上に塗布し、加熱乾燥させ、厚さ0.3μmのガスバリア性被膜層を形成して、実施例1に係る加熱殺菌耐性を有するガスバリアフィルム積層体を作成した。
【0051】
<A液>
テトラエトキシシラン17.9gとメタノール10gに塩酸(0.1N)72.1gを加え、30分間攪拌し加水分解させた固形分5wt%(SiO2換算)の加水分解溶液。
【0052】
<B液>
ポリビニルアルコールの5wt%水/メタノール溶液(水/メタノール重量比=95/5)。
【0053】
<C液>
β−(3,4エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシランとイソプロピルアルコール(IPA溶液)に塩酸(1N)を徐々に加え、30分間攪拌し加水分解させた後、水/IPA=1/1溶液で加水分解を行い、固形分5wt%(R2Si(OH)3換算)に調整した加水分解溶液。
【実施例2】
【0054】
上記C液の代わりに以下に示すD液を用いた以外は、実施例1と同様の方法にて、実施例2に係る加熱処理耐性を有するガスバリアフィルム積層体を作成した。
【0055】
<D液>
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランとIPA溶液に塩酸(1N)を徐々に加え、30分間攪拌し加水分解させた後、水/IPA=1/1溶液で加水分解を行い、固形分5%(重量比R2Si(OH)3換算)に調整した加水分解溶液。
【実施例3】
【0056】
厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルムのコロナ処理面にリアクティブイオンエッチングを行った基材を用いた以外は、実施例1と同様の方法にて、実施例3に係る加熱殺菌耐性を有するガスバリアフィルム積層体を作成した。
【実施例4】
【0057】
ポリエチレンテレフタレートフィルムにリアクティブイオンエッチングを行わなかった以外は、実施例1と同様の方法にて、比較のための実施例4に係るガスバリアフィルム積層体を作成した。
【実施例5】
【0058】
C液を入れずにA液とB液を配合比(wt%)で60/40にて混合した溶液を用いてガスバリア性被膜層を作成した以外は、実施例1と同様の方法にて、比較のための実施例5に係るガスバリアフィルム積層体を作成した。
【0059】
<包装材料の試作>
実施例1〜5のガスバリアフィルム積層体のガスバリ性被膜層の上に、ヒートシール層として厚さ30μmの未延伸ポリプロピレンフィルムを2液硬化型ウレタン系接着剤を介してドライラミネートにより積層し、包装材料を得た。
【0060】
<評価>
上記試作によって得られた包装材料を用いて4辺をシール部とするパウチを作製し、内容物として水200gを充填した。その後、下記の条件1、2にてレトルト殺菌を行った後、酸素透過度測定とラミネート強度測定を行った。その結果を表1に示す。
【0061】
<レトルト条件>
条件1・・・121℃、30分間
条件2・・・130℃、60分間
(1)酸素透過度の測定
レトルト殺菌後の酸素透過率(単位:cm3/m2/day)を30℃−70%RHの条件で測定した。
【0062】
(2)ラミネート強度の測定
包装材料のガスバリア性被膜層側のラミネート強度(単位:N/15mm)を、試料幅
15mm、剥離角度180度、剥離速度300mm/minの条件にて測定した。
【0063】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の加熱処理耐性を有するガスバリアフィルム積層体の概略の断面構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0065】
1…基材
2…無機酸化物からなる蒸着薄膜層
3…ガスバリア性被膜層
4…RIEによる前処理面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック材料からなる基材の少なくとも一方の面に、プラズマを利用したリアクティブイオンエッチング(RIE)による前処理が施されていて、このRIEによる前処理面の上には、無機酸化物からなる蒸着薄膜層と、Si(OR14およびR2Si(OR33(R1、R3は加水分解性基、R2は有機官能基である。)で表されるケイ素化合物あるいはその加水分解物、並びに水酸基を有する水溶性高分子とを少なくとも含有する混合溶液からなる薄膜を加熱乾燥してなるガスバリア性被膜層とが順次積層されていることを特徴とする加熱処理耐性を有するガスバリアフィルム積層体。
【請求項2】
前記Si(OR14の加水分解性基(R1)がC25であることを特徴とする請求項1記載の加熱処理耐性を有するガスバリアフィルム積層体。
【請求項3】
前記R2Si(OR33の有機官能基(R2)が、ビニル、エポキシ、メタクリロキシ、ウレイド、イソシアネートなどの非水性官能基であることを特徴とする請求項1または2記載の加熱処理耐性を有するガスバリアフィルム積層体。
【請求項4】
前記有機官能基(R2)が、γ−グリシドキシプロピル基またはβ−(3,4エポキシシクロヘキシル)基であることを特徴とする請求項3記載の加熱処理耐性を有するガスバリアフィルム積層体。
【請求項5】
Si(OR14をSiO2に、R2Si(OR33をR2Si(OH)3に換算した場合、R2Si(OH)3の固形分が全固形分に対し1〜50重量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の加熱処理耐性を有するガスバリアフィルム積層体。
【請求項6】
Si(OR14をSiO2に、R2Si(OR33をR2Si(OH)3に換算した場合、固形分の配合比が重量比率でSiO2/(R2Si(OH)3/水溶性高分子)=100/100〜100/30の範囲内であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の加熱処理耐性を有するガスバリアフィルム積層体。
【請求項7】
前記プラスチック材料がポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド類、ポリエステル類、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリウレタン類の中の少なくとも一種類以上を成分に持つか、共重合成分に持っていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の加熱処理耐性を有するガスバリアフィルム積層体。
【請求項8】
前記ポリエステル類がポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ボリブチレンテレフタレート、ボリブチレンナフタレート及びそれらの共重合体であることを特徴とする請求項7記載の加熱処理耐性を有するガスバリアフィルム積層体。
【請求項9】
前記無機酸化物が、酸化アルミニウム、酸化珪素或いはそれらの混合物であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の加熱殺菌耐性を有するガスバリアフィルム積層体。

【図1】
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【公開番号】特開2007−196550(P2007−196550A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−18624(P2006−18624)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】