説明

加熱装置および画像形成装置

【課題】ヒータの加熱制御において、高調波電流の抑制効果を向上させつつ、加熱温度制御の所定の精度を維持できる技術を提供すること。
【解決手段】加熱装置は、交流電源から加熱体への通電のオン、オフを切り替えることによって、所定の通電比率で加熱体に交流電源を通電する通電切替部と、温度検出部による検出温度が目標範囲内に収まるように、通電切替部の通電比率(DUTY比)を制御する通電制御部とを備える。通電制御部は、通電切替部の所定制御期間(1.5秒)毎において、第1期間の間、通電比率をほぼ100%に固定するオンロック通電制御(ONロック)と、第2期間の間、通電比率をほぼ0%に固定するオフロック通電制御(OFFロック)とを少なくとも一対で実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加熱装置および当該加熱装置を備えた画像形成装置に関し、詳しくは加熱装置の通電に係る高周波の発生を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、交流電源から加熱装置の加熱体(ヒータ)への通電のオン、オフを切り替えることによって所定の通電比率でヒータを加熱する加熱装置が知られている。そのような加熱装置の通電に係る高周波の発生を抑制する技術として、例えば、特許文献1には、通電ヒータ温度が下限値以下であれば100%通電し、上限値を超えると通電をオフし、上限値と下限値との間であれば、正弦波交流のゼロクロスに同期して正弦波交流を周期的にオン、オフする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08−297429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術文献では、正弦波交流のオン、オフ時に発生する高周波を低減できる。しかしながら、昨今、ヒータの高調波電流の規格値が厳しくなり、ヒータの加熱制御において、さらなる高調波電流を抑制させる技術が所望されていた。そのため、例えば、ヒータの通電制御中に、高調波電流の発生がほぼゼロに等しい通電比率100%あるいは通電比率0%の期間を強制的に挿入して、高調波電流をより抑制する方法が考えられる。しかしながら、その場合、高調波電流の抑制と、加熱装置の加熱温度制御の精度との兼ね合いが重要となる。そのため、高調波電流の抑制効果を向上させつつ、加熱温度制御の精度を維持する技術が所望されていた。
【0005】
本発明は、ヒータの加熱制御において、高調波電流の抑制効果を向上させつつ、加熱温度制御の所定の精度を維持できる技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書によって開示される加熱装置は、加熱体と、交流電源から前記加熱体への通電のオン、オフを切り替えることによって、所定の通電比率で前記加熱体に前記交流電源を通電する通電切替部と、前記加熱体による加熱温度を検出する温度検出部と、前記温度検出部による検出温度が目標範囲内に収まるように、前記通電切替部の通電比率を制御する通電制御部と、を備え、前記通電制御部は、前記通電切替部の所定制御期間毎において、第1期間の間、前記通電比率をほぼ100%に固定するオンロック通電制御と、第2期間の間、前記通電比率をほぼ0%に固定するオフロック通電制御とを少なくとも一対で実行する。
【0007】
上記加熱装置において、前記所定制御期間は、前記加熱体の熱時定数以下とされるようにしてもよい。
また、上記加熱装置において、前記通電制御部は、前記オンロック通電制御と前記オフロック通電制御とを継続して実行するようにしてもよい。
【0008】
また、上記加熱装置において、前記通電制御部は、前記加熱温度が目標温度範囲内に到達した以後は、ほぼ一定の通電比率である定常通電比率となるように前記通電切替部を制御し、前記第1期間および前記第2期間は、前記定常通電比率に基づいて設定されるようにしてもよい。
その際、前記第1期間および前記第2期間は、前記第1期間と前記第2期間との合計期間に対する前記第1期間の比率が前記定常通電比率と等しくなるように、設定されるようにしてもよい。あるいは、前記第1期間および前記第2期間は、前記第1期間と前記第2期間との合計期間に対する前記第1期間の比率が、一次遅れを加味した定常通電比率と等しくなるように、設定されるようにしてもよい。
【0009】
被記録媒体上にトナー画像を形成する画像形成部と、前記被記録媒体上に形成されたトナー画像を、該被記録媒体上に定着させる定着部としての、上記加熱装置とを備えた画像形成装置であってもよい。
【0010】
また、本明細書によって開示される画像形成装置は、画像を被記録媒体に形成する画像形成部と、加熱体を含み、前記被記録媒体が通過する際に、前記画像を前記被記録媒体に定着させる定着部と、交流電源から前記加熱体への通電のオン、オフを切り替えることによって、所定の通電比率で前記加熱体に前記交流電源を通電する通電切替部と、前記加熱体による加熱温度を検出する温度検出部と、前記加熱信号の前記通電比率を変更して、前記温度検出部による検出温度が目標範囲内に収まるように前記通電切替部を制御する通電制御部と、を備え、前記通電制御部は、前記通電切替部の所定制御期間中において、前記通電比率をほぼ100%に第1期間、固定するオンロック通電制御と、前記通電比率をほぼ0%に第2期間、固定するオフロック通電制御とを少なくとも一対で実行する。
【0011】
上記画像形成装置において、前記所定制御期間は、前記加熱体の熱時定数以下とされるようにしてもよい。
また、上記画像形成装置において、前記所定制御期間は、前記被記録媒体が前記定着部を通過する通過時間とされるようにしてもよい。
また、上記画像形成装置において、前記通電制御部は、前記オンロック通電制御と前記オフロック通電制御とを継続して実行するようにしてもよい。
【0012】
また、前記通電制御部は、前記加熱温度が所定温度に到達した以後は、ほぼ一定の通電比率である定常通電比率となるように前記通電切替部を制御し、前記第1期間および前記第2期間は、前記定常通電比率に基づいて設定されるようにしてもよい。
その際、前記第1期間および前記第2期間は、前記第1期間と前記第2期間との合計期間に対する前記第1期間の比率が前記定常通電比率と等しくなるように、設定されるようにしてもよい。あるいは、前記第1期間および前記第2期間は、前記第1期間と前記第2期間との合計期間に対する前記第1期間の比率が、一次遅れを加味した定常通電比率と等しくなるように、設定されるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の加熱装置によれば、通電制御部は、通電切替部の所定制御期間毎において、通電比率をほぼ100%に固定するオンロック通電制御と、通電比率をほぼ0%に固定するオフロック通電制御とを少なくとも一対で実行する。このように、オンロック通電制御とオフロック通電制御とを各所定制御期間において少なくとも一対で実行することによって、各通電制御による加熱制御への影響を相殺し、加熱温度を目標温度範囲内に制御することができる。そのため、加熱体の加熱制御の精度を維持しつつ、加熱制御に係る高調波電流の抑制効果を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る画像形成装置の概略構成を示す側断面図
【図2】一実施形態の加熱装置の概略的な構成を示すブロック図
【図3】加熱装置の通電切替回路の概略的な構成を示すブロック図
【図4】波数デューティ比と通電波形との関係を示すグラフ
【図5】各DUTY比パターンと加熱温度との関係を示すタイムチャート
【図6】DUTY比に対するヒータ出力の一次遅れを説明するグラフ
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施形態>
次に本発明に係る一実施形態について図1から図6を参照して説明する。
【0016】
1.レーザプリンタの構成
図1は、一実施形態のモノクロレーザプリンタ1(「画像形成装置」の一例)の縦断面を概略的に表した図である。なお、画像形成装置はモノクロレーザプリンタに限られず、例えば、カラーレーザプリンタ、カラーLEDプリンタ、複合機等であってもよい。
【0017】
モノクロレーザプリンタ(以下、単に「プリンタ」という)1では、本体ケーシング2内の下部に配置されたトレイ3またはトレイ4から供給される用紙5(被記録媒体の一例)に対し、画像形成部6にてトナー像を形成した後、定着器7にてそのトナー像を加熱して定着処理を行い、最後にその用紙5を本体ケーシング2内の上部に位置する排紙トレイ8に排紙する。
【0018】
画像形成部6は、スキャナ部10、現像カートリッジ13、感光ドラム17、帯電器18、転写ローラ19等を含み、トナー画像を用紙5に形成する。
【0019】
スキャナ部10は、本体ケーシング2内の上部に配置されており、レーザ発光部(図示せず)、ポリゴンミラー11、複数の反射鏡12及び複数のレンズ(図示せず)等を含む。スキャナ部10は、レーザ発光部から発射されたレーザ光を、ポリゴンミラー11、反射鏡12、レンズを介して一点鎖線で示すように感光ドラム17の表面上に高速走査にて照射させる。
【0020】
現像カートリッジ13は、本体ケーシング2に対して着脱可能に装着されており、その内部には、トナーが収容されている。また、現像カートリッジ13のトナー供給口には、現像ローラ14、供給ローラ15が互いに対向した状態で設けられ、さらに現像ローラ14は感光ドラム17に対向した状態で配置されている。現像カートリッジ13内のトナーは、供給ローラ15の回転により現像ローラ14に供給され、現像ローラ14に担持される。
【0021】
感光ドラム17の上方には、帯電器18が間隔を隔てて配置されている。また、感光ドラム17の下方には、転写ローラ19が感光ドラム17に対向して配置されている。
【0022】
感光ドラム17は回転されつつ、その表面が帯電器18によって一様に、例えば、正極性に帯電される。次いで、スキャナ部10からのレーザ光により感光ドラム17上に静電潜像が形成され、その後、感光ドラム17が現像ローラ14と接触して回転するときに、現像ローラ14上に担持されているトナーが感光ドラム17の表面上の静電潜像に供給されて担持されることによってトナー像が形成される。その後、トナー像は、用紙5が感光ドラム17と転写ローラ19との間を通る間に、転写ローラ19に印加される転写バイアスによって、用紙5に転写される。
【0023】
定着器(加熱部、加熱装置の一例)7は、画像形成部6に対して用紙搬送方向の下流側に配置され、定着ローラ(加熱体の一例)22、定着ローラ22を押圧する加圧ローラ23、および定着ローラ22を加熱するハロゲンヒータ(加熱体の一例)33等を含む。ハロゲンヒータ33は定着ローラ22の内部に設けられるとともに、回路基板25に接続され、回路基板25からの信号によって通電制御される。ここでは、定着ローラ22およびハロゲンヒータ33によって加熱体が構成される。定着ローラ22と加圧ローラ23とが対向する位置において用紙5がニップされ、ニップ位置(定着位置)Nにおいてトナー像が用紙5に熱定着される。
【0024】
なお、定着器7の構成は、これに限られない。例えば、定着ローラ22に代えて定着フィルムが用いられる、いわゆるフィルム定着方式の定着器であってよい。その場合、例えば、定着フィルムおよびハロゲンランプによって加熱体が構成される。
【0025】
また、定着ローラ22の近傍には定着ローラ22(加熱体)の温度を検出する温度センサ(温度検出部の一例)24が設けられ、温度センサ24は、ほぼ、定着ローラ22の表面温度を検出する。すなわち、本実施形態において、温度センサ24の検出温度Tkは、定着ローラ22の表面温度に相当する。
【0026】
2.加熱装置の電気的構成
次に、図2から図4を参照して、プリンタ1に設けられた加熱装置30を説明する。図2は加熱装置30の概略的な構成を示すブロック図である。図3は、加熱装置30の通電切替回路50の概略的な構成を示すブロック図である。図4は、波数デューティ比と通電波形との関係を示すグラフである。
【0027】
加熱装置30は、低圧電源回路(AC−DCコンバータ)31、ハロゲンヒータ33、ASIC(特定用途向け集積回路)34、ゼロクロス検出回路40、および通電切替回路50等を含む。ハロゲンヒータ33を除き、各回路は、ここでは、回路基板25上に設けられる。なお、低圧電源回路31は、加熱装置30に含まれなくてもよい。
【0028】
低圧電源回路31は、例えば、100Vの交流電圧を24Vおよび3.3Vの直流電圧に変換し、直流電圧を各部に供給する。ハロゲンヒータ33は、交流電源ACの通電に応じて発熱する。
【0029】
ゼロクロス検出回路40は、正弦波交流電源(以下、単に交流電源という)ACのゼロクロスタイミングに同期したゼロクロス信号Szcを生成する。ASIC34は、ゼロクロス信号Szcに同期して通電切替回路50の通電を制御する。
【0030】
通電切替回路(通電切替部の一例)50は、交流電源ACからハロゲンヒータ33への通電のオン、オフを切り替えることによって、所定の通電比率でハロゲンヒータ33に交流電源ACを通電する。通電切替回路50は、詳しくは、図3に示されるように、例えば、トライアック51およびトライアックゲート駆動回路52等を含む。トライアックゲート駆動回路52は、ASIC34からゲート制御信号Sgcを受け取り、ゲート制御信号Sgcに応じて、トライアック51をオン、オフすることによって、交流電源ACからハロゲンヒータ33への通電のオン、オフを切り替える。
【0031】
ASIC(通電制御部の一例)34は、インターフェイス回路35、タイマ36、メモリ37等を含み、通電切替回路50を制御して定着器7の通電制御を行う。また、ASIC34は、画像形成部6に接続され、画像形成に係る制御も行う。インターフェイス回路35は、ASIC外部との種々のデータのやり取りを仲介する。タイマ36は、定着器7の通電制御の際に、各種通電時間の計測等に利用される。メモリ37は、ROMおよびRAMを含む。なお、通電制御部の構成はASIC34にかぎられず、例えば、CPUあるいは個別の回路構成によって構成されてもよい。
【0032】
ASIC34は、温度センサ24による検出温度(加熱温度)Tkが目標範囲内に収まるように、通電切替回路50の波数デューティ比を制御する。その際、ASIC34は、基本的に、通電切替回路50の所定制御期間毎において、第1期間の間、波数デューティ比をほぼ100%に固定するオンロック通電制御(以下、単に「ONロック」と記す)と、第2期間の間、波数デューティ比をほぼ0%に固定するオフロック通電制御(以下、単に「OFFロック」と記す)とを少なくとも一対で実行する。
【0033】
ここで、波数デューティ比(以下、単に「DUTY比」と記す)は交流電源ACを波数制御する場合のデューティ比であり、単位時間に対する交流電源ACからハロゲンヒータ33への通電時間の比率である通電比率の一例である。図4に示すように、DUTY比「0%」では交流電源ACは遮断されたOFF状態にあり、一方、DUTY比「100%」では交流電源ACはそのまま通電されるON状態にある。また、DUTY比「66%」では、例えば、ほぼ、交流電源ACの各1.5周期のうちの半周期がOFFされる。「ONロック」および「OFFロック」においては、トライアック51はオン、オフされないため、高調波電流がほとんど発生しない。そのため、「ONロック」あるいは「OFFロック」を定着器7の通電制御期間内に適時挿入することによって、定着器7の通電制御に伴う高調波電流の発生量を低減することができる。
【0034】
なお、ここで「ほぼ100%のDUTY比」には、DUTY比99%あるいは98%等も含まれ、DUTY比100%に限られない。また、「ほぼ0%のDUTY比」には、DUTY比1%あるいは2%等も含まれ、DUTY比0%に限られない。
【0035】
3.加熱装置(定着器)の通電制御
次に、図5および図6を参照して、ASIC34による、通電切替回路50を介したハロゲンヒータ33の通電制御を説明する。図5は各種通電制御(DUTY比パターン)と加熱温度Tkとの関係を示すタイムチャートである。図6は、ヒータ出力指令値であるDUTY比に対するハロゲンヒータ33の出力(ハロゲンエネルギー)の一次遅れを説明するグラフである。例えば、DUTY比66%に対してハロゲンエネルギーは、ヒータ出力66%に向かって一次遅れで上昇する。
【0036】
以下、ASIC34によるDUTY比制御の3種類のパターン(1〜3)を説明する。各DUTY比パターン(1〜3)において、ASIC34は、上記したように、基本的に、通電切替回路50の所定制御期間毎において、「ONロック」期間(第1期間に相当)、DUTY比をほぼ100%に固定する「ONロック」と、「OFFロック」期間(第2期間に相当)、DUTY比をほぼ0%に固定する「OFFロック」とを少なくとも一対で実行する。
【0037】
ここで、所定制御期間は、図5に示されるように1.5秒とされ、用紙5が定着器7、詳しくは、ニップ部Nを通過する通過時間(以下、「通紙期間」という)に相当する。なお、ここで、通紙期間には、用紙5が連続して定着される際の用紙間に対応する時間(紙間時間)も含むものとする。また、図6に示されるように、本実施形態における加熱体(定着ローラ22およびハロゲンヒータ33)の熱時定数τは約2秒であり、所定制御期間は熱時定数τ以下とされる。所定制御期間を熱時定数以下とすることの理由は以下による、すなわち、「ONロック」および「OFFロック」の一対のロック期間のうち、先行するロック期間の温度制御に対する影響を他方のロック期間によって打ち消すことが望まれる。そのため、先行するロック期間の影響が、一次遅れによって残っている期間内、すなわち、熱時定数τの範囲内に他方のロック期間を設けることが好ましい。熱時定数τは、周知のように加熱体の熱容量と熱抵抗とを掛けたものであり、加熱体の温度変化に関する事前の実験等によって決定される。
【0038】
なお、所定制御期間は、熱時定数τ以下であることが好ましく、通紙期間とすることに限られない。さらには、所定制御期間は、熱時定数τ以下とされなくてもよい。
【0039】
また、各DUTY比パターン(1〜3)において、ASIC34は、加熱温度Tkが所定温度に到達した以後は、ほぼ一定の通電比率である定常通電比率となるように通電切替回路50を制御し、「ONロック」期間および「OFFロック」期間は、「定常DUTY比」(定常通電比率に相当)に基づいて設定される。本実施形態では、「ONロック」期間と「OFFロック」期間との合計期間に対する「ONロック」期間の比率が「定常DUTY比」と等しくなるように、設定される。
【0040】
3−1.パターン1
パターン1では、「定常DUTY比」は、66%とされる。「ONロック」期間は0.23秒、「OFFロック」期間は0.12秒とされる。すなわち、「ONロック」期間と「OFFロック」期間との合計期間は、0.35秒(350ミリ秒)であり、合計期間に対する「ONロック」期間の比率(0.23/0.35)は約0.66となって、「定常DUTY比」に等しい。なお、通紙期間(1.5秒)に対する合計期間(0.35秒)の比率は、定着器の高調波対策と、定着器の温度制御への影響とのバランスを加味して、適宜、設定される。
【0041】
そして、パターン1では、1.5秒の各通紙期間において、期間の最初に「ONロック」期間が設けられ、期間のほぼ中間に「OFFロック」期間が設けられる。なお、パターン1における加熱温度Tkの変化例は、図5において実線で示される。
【0042】
3−2.パターン2
パターン2では、「定常DUTY比」は、72%とされる。それに伴って「ONロック」期間は0.25秒、「OFFロック」期間は0.1秒とされる。すなわち、「ONロック」期間と「OFFロック」期間との合計期間は、パターン1と同様に、0.35秒(350ミリ秒)であり、合計期間に対する「ONロック」期間の比率(0.25/0.35)は約0.72となって、「定常DUTY比」に等しい。
【0043】
そして、パターン2では、1.5秒の各通紙期間において、期間の最初から、例えば、0.1秒後に「OFFロック」期間が設けられ、期間のほぼ中間に「ONロック」期間が設けられる。すなわち、パターン2では、各通紙期間において、「ONロック」と「OFFロック」とがパターン1とは逆の順序で実行される。なお、パターン2における加熱温度Tkの変化例は、図5において破線で示される。
【0044】
3−3.パターン3
パターン3では、パターン1と同様に、「定常DUTY比」は、66%とされ、「ONロック」期間は0.23秒、「OFFロック」期間は0.12秒とされる。パターン1とは、各通紙期間において、「ONロック」期間および「OFFロック」期間の挿入方法が異なる。すなわち、パターン3では、1.5秒の各通紙期間において、期間の最初に「ONロック」期間が0.13秒設けられ、「ONロック」期間に継続して「OFFロック」期間が設けられる。そして、期間のほぼ中間に「ONロック」期間が0.1秒設けられる。
【0045】
このように、パターン3では、各通紙期間において、「ONロック」期間と「OFFロック」期間が継続して設けられる。「ONロック」と「OFFロック」とが継続して実行されることによって、「ONロック」による加熱温度Tkの上昇を、継続する「OFFロック」によって好適に抑制できる。なお、「OFFロック」に継続して「ONロック」が実行されるようにしてもよい。
【0046】
また、各通紙期間において、「ONロック」期間が2回に分割して設けられる。すなわち、「ONロック」期間と「OFFロック」期間とが一対で設けられるとともに、さらに「ONロック」期間が一回、設けられる。このように、「ONロック」が通紙期間において2分割して実行される場合、通紙期間における合計の「ONロック」期間の比率が「定常DUTY比」と等しくなるように、「ONロック」が分割して実行されればよい。なお、パターン3における加熱温度Tkの変化例に関しては、図5において、パターン1と相違する部分が点線で示される。
【0047】
発明者らは、図5に示されるように、各DUTY比パターン(1〜3)において、高調波の発生を規定範囲内に抑制しつつ、加熱温度Tkを、目標下限値から目標上限値までの所望の目標温度範囲内に制御できることを実験により確認した。すなわち、発明者らは、各通紙期間において、「ONロック」期間と「OFFロック」期間との合計期間に対する「ONロック」期間の比率が「定常DUTY比」と等しくなるように、設定され、「ONロック」と「OFFロック」とを少なくとも一対で実行されれば、「ONロック」と「OFFロック」とが通紙期間に挿入されるパターンにかかわらず、加熱温度Tkを所望の目標温度範囲内に制御できることを確認した。
【0048】
なお、DUTY比パターンは上記パターン(1〜3)に限られず、(1)所定制御期間毎において、「ONロック」と「OFFロック」とが少なくとも一対で実行され、(2)「ONロック」期間および「OFFロック」期間は、「ONロック」期間と「OFFロック」期間との合計期間に対する「ONロック」期間の比率が「定常DUTY比」と等しくなるように、設定される、という条件のもとに、その他、様々なパターンが可能である。さらに、条件(2)は割愛されてもよい。
【0049】
4.実施形態の効果
ASIC34は、通紙期間(所定制御期間)毎において、「ONロック」と、「OFFロック」とを少なくとも一対で実行する。このように、「ONロック」と「OFFロック」とを各通紙期間において実行することによって、各「ロック」制御による加熱制御への影響を相殺し、加熱温度Tkを目標温度範囲内に制御することができる。そのため、加熱体の加熱制御の精度を維持しつつ、加熱制御に係る高調波電流の抑制効果を向上させることができる。
【0050】
また、各通紙期間において、「ONロック」期間と「OFFロック」期間との合計期間に対する「ONロック」期間の比率が、定常DUTY比と等しくなるように、設定される。このように、「ONロック」期間の比率が設定されることによって、各通紙期間における、平均DUTY比が定常DUTY比と等しくなる。すなわち、各通紙期間において、高調波電流の抑制のために「ONロック」および「OFFロック」を実行した場合であっても、各通紙期間の平均DUTY比が定常DUTY比と等しくなることによって、「ONロック」および「OFFロック」の挿入による加熱制御への影響を抑制して、加熱温度Tkを目標温度範囲内に好適に制御することができる。
【0051】
また、「ONロック」および「OFFロック」が実行される各所定制御期間は、加熱体の熱時定数τ以下であって、通紙期間とされる。このように、所定制御期間を各用紙5が定着される通紙期間とすることによって、各用紙5に対してほぼ同様な温度条件のもとにトナー像を定着させることができる。
【0052】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0053】
(1)上記実施形態において「ONロック」期間(第1期間)および「OFFロック」期間(第2期間)は、「ONロック」期間と「OFFロック」期間との合計期間に対する「ONロック」の比率が、一次遅れを加味した定常DUTY比(定常通電比率)と等しくなるように、設定されるようにしてもよい。
すなわち、通常、熱等価回路による方程式から、制御入力(指令値:DUTY比)と一次遅れを加味した出力(加熱体の温度)との関係は、下式で表わされる。
Output=a*Outputold +(1−a)*Input
ここで
a=exp(−dt/τ)であり、また、
dt:タイムステップ(サンプリング周期)
τ:加熱体の熱時定数(熱容量×熱抵抗)
Input:制御入力(指令値:DUTY比)
Output:一次遅れを加味した出力(加熱体の温度)
Outputold:1タイムステップ(dt)前のOutput値
実際には一次遅れが存在し、図6に示されるように、指令値であるDUTY比の影響(出力ハロゲンエネルキー)は遅れて現れるため、その遅れを考慮したDUTY比の値を用いた方が、より実態に即していると言える。例えば、図6に示すように、図6の時刻3秒に指令DUTY比が50%から66%に切替った場合において、例えば、図6の時刻6秒の段階においてロック比率を計算し指令する場合、指令DUTY比を66%ではなく、指令DUTY比を63%とした方が、より適切となる。
【0054】
(2)上記実施形態においては、定着器7の通電制御の際に、通電比率を波数デューティ比とし、交流電源ACを波数制御する例を示したがこれに限られない。本発明は、定着器7の通電制御の際に、通電比率を位相デューティ比とし、交流電源ACを位相制御する場合にも適応できる。
【0055】
(3)上記実施形態においては、加熱装置30をプリンタ1の定着器7に適用する例を示したがこれに限られず、本発明に係る加熱装置は、加熱制御の精度を維持しつつ、加熱制御に係る高調波電流の抑制効果の向上が所望される任意の装置に適用できる。
【符号の説明】
【0056】
1…モノクロレーザプリンタ、5…用紙、6…画像形成部、7…定着器、22…定着ローラ、24…温度センサ、33…ハロゲンヒータ、34…ASIC、50…通電切替回路、51…トライアック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱体と、
交流電源から前記加熱体への通電のオン、オフを切り替えることによって、所定の通電比率で前記加熱体に前記交流電源を通電する通電切替部と、
前記加熱体による加熱温度を検出する温度検出部と、
前記温度検出部による検出温度が目標範囲内に収まるように、前記通電切替部の通電比率を制御する通電制御部と、を備え、
前記通電制御部は、前記通電切替部の所定制御期間毎において、第1期間の間、前記通電比率をほぼ100%に固定するオンロック通電制御と、第2期間の間、前記通電比率をほぼ0%に固定するオフロック通電制御とを少なくとも一対で実行する、加熱装置。
【請求項2】
請求項1に記載の加熱装置において、
前記所定制御期間は、前記加熱体の熱時定数以下とされる、加熱装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の加熱装置において、
前記通電制御部は、前記オンロック通電制御と前記オフロック通電制御とを継続して実行する、加熱装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の加熱装置において、
前記通電制御部は、前記加熱温度が目標温度範囲内に到達した以後は、ほぼ一定の通電比率である定常通電比率となるように前記通電切替部を制御し、
前記第1期間および前記第2期間は、前記定常通電比率に基づいて設定される、加熱装置。
【請求項5】
請求項4に記載の加熱装置において、
前記第1期間および前記第2期間は、前記第1期間と前記第2期間との合計期間に対する前記第1期間の比率が前記定常通電比率と等しくなるように、設定される、加熱装置。
【請求項6】
請求項4に記載の加熱装置において、
前記第1期間および前記第2期間は、前記第1期間と前記第2期間との合計期間に対する前記第1期間の比率が、一次遅れを加味した定常通電比率と等しくなるように、設定される、加熱装置。
【請求項7】
被記録媒体上にトナー画像を形成する画像形成部と、
前記被記録媒体上に形成されたトナー画像を、該被記録媒体上に定着させる定着部としての、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の加熱装置と、
を備えた画像形成装置。
【請求項8】
画像を被記録媒体に形成する画像形成部と、
加熱体を含み、前記被記録媒体が通過する際に、前記画像を前記被記録媒体に定着させる定着部と、
交流電源から前記加熱体への通電のオン、オフを切り替えることによって、所定の通電比率で前記加熱体に前記交流電源を通電する通電切替部と、
前記加熱体による加熱温度を検出する温度検出部と、
前記加熱信号の前記通電比率を変更して、前記温度検出部による検出温度が目標範囲内に収まるように前記通電切替部を制御する通電制御部と、を備え、
前記通電制御部は、前記通電切替部の所定制御期間中において、前記通電比率をほぼ100%に第1期間、固定するオンロック通電制御と、前記通電比率をほぼ0%に第2期間、固定するオフロック通電制御とを少なくとも一対で実行する、画像形成装置。
【請求項9】
請求項8に記載の画像形成装置において、
前記所定制御期間は、前記加熱体の熱時定数以下とされる、画像形成装置。
【請求項10】
請求項8または9に記載の画像形成装置において、
前記所定制御期間は、前記被記録媒体が前記定着部を通過する通過時間とされる、画像形成装置。
【請求項11】
請求項8から請求項10のいずれか一項に記載の画像形成装置において、
前記通電制御部は、前記オンロック通電制御と前記オフロック通電制御とを継続して実行する、画像形成装置。
【請求項12】
請求項8から請求項11のいずれか一項に記載の画像形成装置において、
前記通電制御部は、前記加熱温度が所定温度に到達した以後は、ほぼ一定の通電比率である定常通電比率となるように前記通電切替部を制御し、
前記第1期間および前記第2期間は、前記定常通電比率に基づいて設定される、画像形成装置。
【請求項13】
請求項12に記載の画像形成装置において、
前記第1期間および前記第2期間は、前記第1期間と前記第2期間との合計期間に対する前記第1期間の比率が前記定常通電比率と等しくなるように、設定される、画像形成装置。
【請求項14】
請求項12に記載の画像形成装置において、
前記第1期間および前記第2期間は、前記第1期間と前記第2期間との合計期間に対する前記第1期間の比率が、一次遅れを加味した定常通電比率と等しくなるように、設定される、画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−242779(P2012−242779A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115765(P2011−115765)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】