説明

加熱装置

【課題】高調波の増大を抑制する構成において、記録材の加熱ニップへの突入前に電力補正を行うタイミングと通電比率の更新周期のタイミングのずれを低減して、適正なタイミングで電力補正を行う技術を提供することを目的とする。
【解決手段】基本的に波数制御によって電力制御を行っている加熱装置において、所定電力供給のピンポイントのタイミングに合わせて電力を供給する際に、そのタイミングのみ更新周期を細かく設定できる位相制御に切り替え、波数制御で高調波電流の増大を抑えるとともに、位相制御によって所望のタイミングで電力供給を行うことができ、ピンポイントに合わせた細かい制御を行うことが可能な加熱装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録材の加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
記録材の加熱装置としては、熱ローラ方式・熱板方式・ヒートチャンバー方式・フィルム加熱方式等、従来より種々の方式・構成のものが知られている。これ等の加熱装置は何れも加熱体を有し、装置温度が所定の温度(所定の像定着温度等)に維持されるように加熱体への通電が制御されて温調管理される。
【0003】
上記のような従来の種々の加熱装置のうちでも、フィルム加熱方式の加熱装置は効果的で実用性に富む(特許文献1参照)。
【0004】
フィルム加熱方式の加熱装置は、薄肉の耐熱性フィルムと、このフィルムの駆動手段と、フィルムの中で固定支持して配置される加熱体と、この加熱体に対向して配置され、加熱体に対してフィルムを介して記録材の像担持面を密着させる加圧部材を有する。このフィルムは少なくとも像加熱時はフィルムと加圧部材との間に搬送導入される記録材と順方向に略同一速度で走行移動させて、この走行移動フィルムを挟んで加熱体と加圧部材との圧接部で形成される像加熱部としてのニップ部を通過させる。このことにより、記録材の顕画像担持面をフィルムを介して加熱体で加熱して顕画像を熱定着等させる。次いで、像加熱部通過後のフィルムと記録材を分離点で離間させることを基本構成とする装置である。このようなフィルム加熱方式の加熱装置は昇温の速い低熱容量の加熱体や薄膜のフィルムを用いることができるため、省電力化やウェイトタイムの短縮化(クイックスタート)が可能となる。その他、従来の他の加熱装置のもつ種々の欠点を解消できる利点を有し、効果的である。
【0005】
また近年、加熱フィルムに弾性層を設けることで、記録材の凹凸によるトナーの溶融ムラを低減する構成の加熱装置も提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
フィルム加熱方式の加熱装置における温調制御は、加熱体上に設けたサーミスタの出力をA/D変換してCPUに取り込む。そして、この検知温度と目標温度との比較結果から、予め定められた制御テーブルに基づいてP(Proportion)制御、I(Integral)制御、D(Differential)制御を行うPID制御により加熱体への通電を制御をするものが多い。
【0007】
この際、加熱体への通電制御はAC電圧をトライアックによりON/OFFすることで行われるが、この通電制御方式には波数制御或いは位相制御が用いられ、通電比率を制御することで電力を細かく制御して、加熱体の温度の振幅をできる限り小さくしている。
ここで波数制御とは、入力するAC電圧の数波を所定周期として、その所定周期ごとに何波をON、何波をOFFという形で1半波毎にON/OFFする制御であり、所定周期内のON/OFFのデューティー比で通電比率を制御する方式である。
【0008】
例えば交流電源の電源周波数が50Hzでは1半波=10msecとなり、所定周期を20半波=200msec=1周期とした場合、20半波毎に加熱体への供給電力を更新する。最小電力は全OFF(20半波全OFF)であり、最大電力は全ON(20半波全ON)となり、1周期毎の供給電力量は、0半波〜20半波ONとなる21レベルとなる。
【0009】
この制御によれば、入力するAC電圧の波形を図10に示す波形とすると、一例として加熱体への通電電流は図11に示すような波形になる。
【0010】
これに対し、位相制御は入力するAC電圧の1波内の通電角を制御する方式であり、加熱体への通電電流は図12に示すような波形になる。
【0011】
波数制御には、高調波電流は小さいが、フリッカノイズが大きいという特徴があり、位相制御には、フリッカノイズは小さいが、高調波電流が大きいという特徴がある。
【0012】
また、波数制御は数波の所定周期ごとに通電比率を制御するため、細かく通電比率を制御しようとすると更新周期を長くしてその間の波数を多くする必要がある。しかし通電比率の更新は所定周期ごとにしか行えないため、あまり更新周期を長くすると通電比率の切り替えが遅くなる。すると、必要な時に適正な電力を供給できなくなるため、通電比率と更新周期のバランスをとって設定する必要がある。
【0013】
これに対して、位相制御は1半波内で細かく通電比率を制御するとともに、通電比率の更新は最小1全波としている。したがって、位相制御の方が通電比率すなわち電力の更新を細かく行うことができ、制御にともなって生じる加熱体の温度リップルを小さくできる。他に、位相制御はノイズフィルターが必要で回路構成も複雑となるため装置のコストが高くなる。一方、波数制御の場合はそのようなコストアップがないという特徴もある。
【0014】
したがって、装置の要件に応じてそれぞれの制御が選択される。特に近年200V系の商用電源を用いる場合においては高調波電流低減のため位相制御ではなく、波数制御を採用することが多い。
【0015】
このため例えばAC入力電圧に応じて200Vと100Vとで波数制御と位相制御を切り替える構成の装置も提案されている(特許文献3参照)。
【0016】
また、位相制御と波数制御を組み合わせ、波数制御の更新周期内の少なくとも1半波に位相制御を用い、位相制御のみを用いる時よりも高調波電流を低減し、波数制御のみの時よりも通電比率の更新周期を短くしてより細かい制御を行う方式も提案されている。例えば、特許文献4参照。
【0017】
ところで、上記のフィルム加熱方式の加熱装置、特に加熱フィルムに弾性層を設けた構成の装置においては記録材の加熱ニップ部への突入に応じて、記録材の加熱状態が不安定になることがある。これは温度の安定状態から記録材を突入すると、記録材が加熱ニップに突入した直後に記録材に熱が急激に奪われ、加熱フィルム温度が急激に低下し、その後温度が上昇した際にオーバーシュートが発生することで、加熱ニップに大きな温度変動が生じるからである。
【0018】
この現象を低減するため、記録材の突入による温度変動が生じる前に加熱体に供給する電力を補正する方法が本出願人により開示されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開平4−44075号公報
【特許文献2】特開平11−15303号公報
【特許文献3】特開平10−333490号公報
【特許文献4】特開2003−123941号公報
【特許文献5】特開2004−078181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
ところで、記録材の加熱ニップへの突入にともなって加熱フィルムの温度が急激に低下すると、この部分が加熱フィルムが一回転した後に再び記録材と接する時には温度が低いままとなる。すなわち記録材上の加熱フィルムの2周目に相当する部分で加熱フィルムの温度が低くなり、画像の光沢が下がる現象が起こる。一方、記録材の突入によって加熱フィルムの温度が大きく低下するのは、記録材の突入によって熱状態が急に変化した突入直後の一瞬のみであり、PID制御によってすぐに熱状態はある程度安定し温度低下は解消される。したがって、記録材上において加熱フィルムの2周目に相当する部分でも画像の光沢が低くなるのは、2周目の先端に該当する部分のみである。
【0021】
しかし、この加熱フィルムの2周目の先端に該当する部分と1周目の後端に該当する部分では画像の光沢が大きく異なるため、この境界で光沢差がはっきりした段差として現れる場合がある。これは特に光沢紙を通紙した際に顕著な現象である。
【0022】
この光沢の段差を低減するためには、1周目と2周目のつなぎ目で光沢が同じになるように上記の電力補正をより細かく制御しなくてはならない。すなわち1周目の先端で熱が奪われても2周目の先端と1周目の後端が同じ温度になるように2周目の先端に該当する部分の加熱フィルムの温度低下を補完しなくてはならない。
【0023】
電力補正により温度低下を補完するメカニズムは以下のようになる。まず、記録材の突入によって加熱フィルム表面の温度が低下する。もし電力補正を行わないと、この部分の温度が低いままになり、加熱フィルムの一回転後に光沢の段差になることは上記した通りである。これに対して記録材の突入に先んじて所定電力を強制投入する電力補正を行うと、一旦加熱フィルム表面は温度低下しても、一回転する間に強制投入された電力、すなわち熱エネルギーが加熱フィルム表面に伝わる。そして、温度低下した分を相殺して、加熱フィルムの記録材突入部に相当する加熱フィルムの2周目の先端が記録材に再び接する時には所定の温度に復帰する。
【0024】
このメカニズムから明らかなように、電力補正によって生じた熱が加熱フィルムの内面を温める部分は、記録材の突入によって温度低下した部分と、ほぼ完全に一致してなくてはならない。
【0025】
このような場合、単に温度制御を安定化させる場合よりも更に厳密な精度が要求される。特に光沢紙のような記録材は、温度に対する光沢度の感度が非常に高く、ほんの僅かの温度差が光沢差、すなわちこの場合は光沢の段差として現れるため、表面温度を制御すべき幅は非常に狭くなる。
【0026】
1周目の後端と2周目の先端を同じ温度にするためには、2周目の先端の温度低下分を正確に補うような電力補正を行う必要があるが、これは電力だけでなく電力補正を行うタイミングに対しても高い精度が要求される。何故なら段差はデルタ関数的に生じるものであるため、これがなくなるように温度低下を補完するには、段差が生じるタイミングに対してデルタ関数的に正確なタイミングで電力が補完されなければならないからである。
【0027】
電力補正タイミングが適正な補正タイミングから僅かでもずれると、電力不足で温度低下が十分に補完できないか、もしくは電力投入過多になりホットオフセット等の問題を生じさせてしまう。すなわち、電力補正を開始するタイミングがわずかでもずれると、電力補正の効果が薄れてしまうのである。
【0028】
しかしながら、波数制御を採用した装置においては、記録材の突入に対応して電力補正を行うべきタイミングで補正ができず、記録材突入による温度変動を十分に低減できないという問題が生じる。
【0029】
これは波数制御の通電比率の更新周期は数波単位であるために更新頻度が少なく、したがって更新タイミングが電力補正タイミングと合致するケースがほとんどないことに起因する。
【0030】
図13に波数制御および位相制御の通電比率の更新周期と、記録材突入及び電力補正のタイミングをタイミングチャートにて示す。
【0031】
この例では波数制御の通電比率の更新周期は20半波とする。Aは波数制御の通電比率の更新タイミングである。Bは位相制御の通電比率の更新タイミングである。電力補正はCのタイミングにおいて実行され、記録材はDにおいて加熱ニップに突入する。図13の例では記録材の加熱ニップ突入の130msec前に電力補正を開始し、記録材の加熱ニップ突入の30msec後に電力補正を終了する。
【0032】
波数制御では通電比率の更新周期が長いため適正な補正タイミングから実際に補正が行われるタイミングのずれが大きくなる。ここに示した例では20半波単位で通電比率を制御しているため、電力補正開始の命令が出てから実際に補正が実行されるまでは最大で200msec(50Hzの場合)のずれ(遅れ)が生じる。この場合、電力補正期間は記録材の突入前で130msec、突入後で30msec、合わせて160msecであるため、最大にずれた場合には電力補正終了のタイミング以降に電力補正が開始されてしまうことになる。すなわち、実際には電力補正開始前に電力補正終了の命令が出てしまうため、電力補正は行われないことになる。
【0033】
上記の例は補正開始の命令が出てから通電比率を変更するため、タイミングのずれは補正の実行が必ず遅れる方向である。これに対して電力補正の開始タイミングはあらかじめわかっているのだから、ずれることを前提に電力補正開始のタイミングに前後した最も近いタイミングで通電比率の更新タイミングが訪れた時に補正を行えば、最大のずれ量は若干少なくはできる。しかしその場合でもずれ量は適正な電力補正タイミングに対して最大±100msecもある。
【0034】
このようにタイミングがずれた場合に加熱フィルム表面の温度の状態を図14〜図16に示す。図14〜図16のグラフは横軸が時間、縦軸が加熱フィルムの表面温度を示している。図14は適正なタイミングで電力補正が行われた場合、図15は適正なタイミングよりも前に電力補正開始がずれた場合、図16は適正なタイミングよりも後に電力補正開始がずれた場合を示している。記録材の加熱ニップへの突入で加熱フィルムの温度は低下するが、図14では記録材の加熱ニップへの突入前と後とで加熱フィルムの表面温度の差がΔ2deg程度に収まっている。これに対して、図15では加熱ニップの突入前に表面温度が大きく上昇するため加熱ニップへの突入前と後とで加熱フィルムの表面温度の差がΔ8degになっている。また図16では記録材の加熱ニップへの突入により表面温度が大きく低下するためやはり表面温度の差がΔ8deg程度になる。
【0035】
図15で明らかなようにタイミングがずれた状態で電力補正が行われた場合、適正タイミングより前に補正を行うと加熱ニップの温度が上昇しすぎて加熱過多になる。ここにトナー画像を担時した記録材が突入すると、トナーが溶融過多になりホットオフセットが生じる。また、適正なタイミングよりも早く高い電力が供給されるために、記録材突入までの間の加熱フィルムの温度が高くなりすぎ、フィルム1周目の後端に該当する部分で記録材の光沢がより高くなる。したがって1周目後端と2周目先端の段差がより強調されるように横帯状の光沢ムラが生じる。一方、図16に示したように適正タイミングよりも後に補正が行われると、記録材突入による熱量の減少を補えなくなり、大きく温度が低下する。この場合は加熱フィルム2周目に該当する部分の光沢が低くなりすぎ、1周目後端と2周目先端の段差がはっきり出た光沢ムラとなる。
【0036】
この問題に対処するため通電比率の更新周期を短くすることが考えられるが、その場合更新周期内の波数が少なくなるため通電比率を細かく設定できなくなり、温度制御に支障をきたす。
【0037】
ところで、位相制御の場合でも無論タイミングのずれ自体は生じる。その値は最大で1全波=20msec(50Hzの場合)であるが、この程度のずれであっても全く影響が皆無であるとはいえない。しかし本出願人が検討した結果、このずれ量であれば光沢ムラはなんとか許容範囲内に収まることがわかっている。逆にいえば位相制御を用いなければタイミングのずれを許容できるレベルにすることはできないということである。
【0038】
しかしながら位相制御には高調波電流の問題があるため、必ずしも採用できない場合があることは前記した通りである。特に200V圏であるヨーロッパは高調波電流に厳しく、位相制御ではなく波数制御を用いる必要がある。
【0039】
また特許文献4に示した、波数制御において通電比率の更新周期内の少なくとも1半波に位相制御を用いる制御では、通電比率の更新周期を短くできるため、この問題に対して若干の改善効果はある。しかし、通電比率の更新周期を短くしようとして更新周期内の波数が少なくなると相対的に位相制御を行う波数の数が増すため高調波電流が増大し、またこれを防ごうとすると通電比率も細かく設定できなくなる。また前記したように全てに位相制御を用いてようやく許容できるレベルになるため、改善には限界がある。
【0040】
本出願人に係る発明の目的は、高調波の増大を抑制する構成において、記録材の加熱ニップへの突入前に電力補正を行うタイミングと通電比率の更新周期のタイミングのずれを低減して、適正なタイミングで電力補正を行う技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0041】
本出願に係る発明は、上記課題を解決するため以下の構成を有する。
【0042】
加熱体と、該加熱体に電力を供給する電力供給部と、記録材と共に移動し前記加熱体により加熱される第一の回転体と、記録材を挟んで前記第一の回転体と圧接部を形成する第二の回転体と、前記第一の回転体もしくは前記加熱体の温度を検知する温度検出手段と、
前記電力供給部から供給される交流電力の少なくとも連続する2半波以上の所定波数ごとに、各半波をオンまたはオフ制御することで電力供給量を制御する第一の電力供給制御モードと、
前記電力供給部から供給される交流電力の所定波数ごとに、各半波中の位相角を設定することにより電力供給量を制御する第二の電力供給制御モードを有する電力制御部を有し、
前記加熱体に供給する電力を前記温度検出手段によって検知された温度を基に、前記第一の回転体もしくは前記加熱体の温度制御を行い、前記圧接部で記録材を加熱定着する加熱装置において、
前記電力制御部は、
前記温度検出手段が前記圧接部への記録材の突入に伴う温度変動を検知する前に、前記加熱体に供給する加熱に必要な電力を所定電力に補正し、
該所定電力の補正が行われている期間の前後は、前記第一の電力供給制御モードで制御し、
前記所定電力の補正が行われている期間は、前記第二の電力供給制御モードで制御することを特徴とする加熱装置。
【発明の効果】
【0043】
上記の本出願の発明によれば、高調波電流を低減させつつ電力補正を適正なタイミングで実行できるので、記録材の突入に伴う加熱ニップの温度変動を抑制し、記録材上の画像の光沢ムラやホットオフセットを低減する電力補正を実現できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例1、2におけるカラー画像形成装置の概略構成図
【図2】実施例1、2における加熱装置の断面図
【図3】実施例1、2におけるヒータ・メインサーミスタ・サブサーミスタの位置関係を示す斜視図
【図4】加熱体としてのセラミックヒータの構成図
【図5】本発明の加熱装置の制御回路部とヒータ駆動回路部のブロック図
【図6】実施例1における電力補正の実施を示すフローチャート
【図7】実施例1における供給電力のタイミングチャート
【図8】メディアセンサの構成概略図
【図9】実施例2における電力補正の実施を示すフローチャート
【図10】入力される交流電力の波形
【図11】波数制御による通電波形
【図12】位相制御による通電波形
【図13】従来の波数制御および位相制御の通電比率の更新周期と、記録材突入及び電力補正のタイミングを示すタイミングチャート
【図14】適正なタイミングで電力補正が行われた場合の加熱フィルム表面の温度を示すグラフ
【図15】適正なタイミングよりも前に電力補正が行われた場合の加熱フィルム表面の温度を示すグラフ
【図16】適正なタイミングよりも後に電力補正が行われた場合の加熱フィルム表面の温度を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明の実施の形態について説明する。
【0046】
以下に図面を参照して、本発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状それらの相対配置などは、本発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものであり、この発明の範囲を以下の実施の形態に限定する趣旨のものではない。
【実施例1】
【0047】
図1は、本発明の実施の形態1に係るカラー画像形成装置を示す概略構成図である。本例の画像形成装置は電子写真方式のタンデム型のフルカラープリンタである。
【0048】
この画像形成装置は、イエロー色の画像を形成する画像形成部1Yと、マゼンタ色の画像形成部1Mと、シアン色の画像形成部1Cと、ブラック色の画像形成部1Bkの4つの画像形成部を備えており、これらは一定の間隔をおいて一列に配置されている。
【0049】
各画像形成部1Y、1M、1C、1Bkには、それぞれ感光ドラム2a、2b、2c、2dが設置されている。各感光ドラム2a、2b、2c、2dの周囲には、帯電ローラ3a、3b、3c、3d、現像装置4a、4b、4c、4d、転写ローラ5a、5b、5c、5d、ドラムクリーニング装置6a、6b、6c、6dがそれぞれ設置されている。また、帯電ローラ3a、3b、3c、3dと現像装置4a、4b、4c、4d間の上方には露光装置7a、7b、7c、7dがそれぞれ設置されている。各現像装置4a、4b、4c、4dには、それぞれイエロートナー、マゼンタトナー、シアントナー、ブラックトナーが収納されている。
【0050】
画像形成部1Y、1M、1C、1Bkの各感光ドラム2a、2b、2c、2dの各1次転写部Nに、転写媒体としての無端ベルト状の中間転写ベルト40が当接している。中間転写ベルト40は、駆動ローラ41、支持ローラ42、2次転写対向ローラ43間に張架されており、駆動ローラ41の駆動によって矢印方向(時計方向)に回転(移動)される。
【0051】
1次転写用の各転写ローラ5a、5b、5c、5dは、各1次転写ニップ部Nにて中間転写ベルト40を介して各感光ドラム2a、2b、2c、2dに当接している。
【0052】
2次転写対向ローラ43は、中間転写ベルト40を介して2次転写ローラ44と当接して、2次転写部Mを形成している。2次転写ローラ44は、中間転写ベルト40に接離自在に設置されている。
【0053】
中間転写ベルト40の外側の駆動ローラ41近傍には、中間転写ベルト40の表面に残った転写残トナーを除去して回収するベルトクリーニング装置45が設置されている。
【0054】
また、2次転写部Mの記録材Pの搬送方向下流側には加熱装置12が設置されている。
【0055】
また、この画像形成装置内には環境センサ50とメディアセンサ51が設置されている。
画像形成動作開始信号(プリント開始信号)が発せられると、所定のプロセススピードで回転駆動される画像形成部1Y、1M、1C、1Bkの各感光ドラム2a〜2dは、それぞれ帯電ローラ3a〜3dによって一様に、本実施の形態では負極性に帯電される。
【0056】
そして、露光装置7a〜7dは、入力されるカラー色分解された画像信号をレーザ出力部(不図示)にて光信号にそれぞれ変換し、変換された光信号であるレーザ光を帯電された各感光ドラム2a〜2d上にそれぞれ走査露光して静電潜像を形成する。
【0057】
そして、まず静電潜像が形成された感光ドラム2a上に、感光ドラム2aの帯電極性(負極性)と同極性の現像バイアスが印加された現像装置4aによりイエローのトナーを感光体表面の帯電電位に応じて静電吸着させることで、静電潜像を顕像化し現像像とする。このイエローのトナー像は、1次転写部Nにて1次転写バイアス(トナーと逆極性(正極性))が印加された転写ローラ5aにより、回転している中間転写ベルト40上に1次転写される。イエローのトナー像が転写された中間転写ベルト40は画像形成部1M側に回転される。
【0058】
そして、画像形成部1Mにおいても、前記同様にして感光ドラム2bに形成されたマゼンタのトナー像が、中間転写ベルト40上のイエローのトナー像上に重ね合わせて、1次転写部Nにて転写される。
【0059】
同様に中間転写ベルト40上に重畳転写されたイエロー、マゼンタのトナー像上に、画像形成部1C、1Bkの感光ドラムで形成されたシアン、ブラックのトナー像を各1次転写部Nにて順次重ね合わせ、フルカラーのトナー像を中間転写ベルト上に形成する。
【0060】
一方、記録材Pは不図示の給紙機構によって給紙・搬送された後、レジストセンサ47によって先端位置が検知されるとその状態で搬送を停止し、レジストローラ46にて保持されながらタイミングを計って待機している。
【0061】
そして、中間転写ベルト40上のフルカラーのトナー像先端が2次転写部Mに移動されるタイミングに合わせて、レジストローラ46により記録材(転写材)Pを2次転写部Mに搬送する。そして、この記録材Pに、2次転写バイアス(トナーと逆極性(正極性))が印加された2次転写ローラ44によりフルカラーのトナー像が一括して2次転写される。
【0062】
フルカラーのトナー像が形成された記録材Pは加熱装置12に搬送されて、加熱フィルム20と加圧ローラ22間の加熱ニップ部でフルカラーのトナー像を加熱、加圧して記録材P表面に溶融定着した後に外部に排出され、画像形成装置の出力画像となる。そして、一連の画像形成動作を終了する。
【0063】
尚、画像形成装置内には環境センサ50を有し、帯電、現像、1次転写、2次転写のバイアスや定着条件は画像形成装置内の環境(温度、湿度)に応じて変更可能であり、記録材P上のトナー像濃度の調整や、最適な転写、定着条件の達成のために用いられる。また、画像形成装置内にはメディアセンサ51を有しており、記録材Pの判別を行うことによって、転写バイアスや定着条件は記録材に応じて変更可能な構成となっており、記録材Pに対する最適な転写、定着条件を達成するため用いられる。
【0064】
上記した1次転写時において、感光ドラム2a、2b、2c、2d上に残留している1次転写残トナーは、ドラムクリーニング装置6a、6b、6c、6dによって除去されて回収される。また、2次転写後に中間転写ベルト40上に残った2次転写残トナーは、ベルトクリーニング装置45によって除去され回収される。
【0065】
図2は本実施例における加熱装置12の概略構成図である。本例の加熱装置12は、フィルム加熱方式、加圧用回転体駆動方式(テンションレスタイプ)の加熱装置である。
【0066】
20は第一の回転体(第一の定着部材)としての加熱フィルムであり、フィルムに弾性層を設けてなる円筒状(エンドレスベルト状、スリーブ状)の部材である。
【0067】
22は第二の回転体(第二の定着部材)としての加圧ローラである。17は加熱体保持部材としての、横断面略半円弧状樋型の耐熱性・剛性を有するヒータホルダ、16は加熱体(熱源)としてのヒータであり、ヒータホルダ17の下面に該ホルダの長手に沿って配設してある。加熱フィルム20はこのヒータホルダ17にルーズに外嵌させてある。
【0068】
ヒータホルダ17は、耐熱性の高い液晶ポリマー樹脂で形成し、ヒータ16を保持し、加熱フィルム20をガイドする役割を果たす。本実施例においては、液晶ポリマーとして、デュポン社のゼナイト7755(商品名)を使用した。ゼナイト7755の最大使用可能温度は、約270℃である。
【0069】
加圧ローラ22は、ステンレス製の芯金に、射出成形により、厚み約3mmのシリコーンゴム層を形成し、その上に厚み約40μmのPFA樹脂チューブを被覆してなる。この加圧ローラ22は芯金の両端部を装置フレーム24の不図示の奥側と手前側の側板間に回転自由に軸受保持させて配設してある。この加圧ローラ22の上側に、前記のヒータ16、ヒータホルダ17、加熱フィルム20等から成る加熱フィルムユニットをヒータ16側を下向きにして加圧ローラ22に並行に配置している。そして、ヒータホルダ17の両端部を不図示の加圧機構により片側98N(10kgf)、総圧196N(20kgf)の力で加圧ローラ22の軸線方向に附勢する。このことで、ヒータ16の下向き面を加熱フィルム20を介して加圧ローラ22の弾性層に該弾性層の弾性に抗して所定の押圧力をもって圧接させ、加熱定着に必要な所定幅の加熱ニップHが形成される。加圧機構は、圧解除機構を有し、ジャム処理時等に、加圧を解除し、記録材Pの除去が容易となる構成となっている。
【0070】
18と19は第一と第二の温度検出手段としてのメインとサブの2つのサーミスタである。第一の温度検出手段としてのメインサーミスタ18は加熱体であるヒータ16に非接触に配置され、本実施例ではヒータホルダ17の上方において加熱フィルム20の内面に弾性的に接触させてあり、加熱フィルム20の内面の温度を検知する。第二の温度検出手段としてのサブサーミスタ19はメインサーミスタ18よりも熱源であるヒータ16に近い場所に配置され、本実施例ではヒータ16の裏面に接触させてあり、ヒータ16裏面の温度を検知する。
【0071】
メインサーミスタ18は、ヒータホルダ17に固定支持させたステンレス製のアーム25の先端に取り付けられ、アーム25が弾性揺動することで加熱フィルム20の内面の動きが不安定になっても、加熱フィルム20の内面に常に接する状態に保たれる。
【0072】
図3に、本実施例の加熱装置における、ヒータ16、メインサーミスタ18、サブサーミスタ19の位置関係をあらわす斜視図を示す。メインサーミスタ18は加熱フィルム20の長手中央付近に、サブサーミスタ19はヒータ16の端部付近に配設され、それぞれ加熱フィルム20の内面、ヒータ16の裏面に接触するよう配置されている。
【0073】
メインサーミスタ18及びサブサーミスタ19は、その出力がそれぞれA/Dコンバータ64、65を介して制御回路部(CPU)21に接続される(図4、図5)。そして、制御回路部21は、メインサーミスタ18、サブサーミスタ19の出力をもとに、ヒータ16の温調制御内容を決定し、電力供給部(加熱手段)としてのヒータ駆動回路部28(図2、図4)によってヒータ16への通電を制御する。すなわち、制御回路部21は電力制御部として機能する。
【0074】
なお、本実施例ではメインサーミスタ18は加熱フィルム20の内面温度を検知しているが、サブサーミスタ19と同様にヒータ16の裏面に配置し、ヒータ16の温度をダイレクトに検知することもできる。
【0075】
図2の23と26は、装置フレーム24に組付けた入り口ガイドと排紙ローラである。入り口ガイド23は、二次転写ニップを抜けた記録材Pが、ヒータ16部分における加熱フィルム20と加圧ローラ22との圧接部である加熱ニップHに正確にガイドされるよう、転写材を導く役割を果たす。本実施例の入り口ガイド23は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂により形成されている。
【0076】
加圧ローラ22は駆動手段(図不示)により矢印の方向に所定の周速度で回転駆動される。この加圧ローラ22の回転駆動による該ローラの外面と加熱フィルム20との加熱ニップHにおける圧接摩擦力により、円筒状の加熱フィルム20に回転力が作用する。そして、加熱フィルム20がその内面側がヒータ16の下向き面に密着して摺動しながら、ヒータホルダ17の外回りを矢印の方向に従動回転する。なお、加熱フィルム20内面にはグリスが塗布され、ヒータホルダ17と加熱フィルム20内面との摺動性を確保している。
【0077】
加圧ローラ22が回転駆動され、それに伴って円筒状の加熱フィルム20が従動回転状態になり、またヒータ16に通電がなされ、該ヒータ16が昇温して所定の温度に立ち上げ温調される。この状態で、加熱ニップHの加熱フィルム20と加圧ローラ22との間に未定着トナー像を担持した記録材Pが入り口ガイド23に沿って導入される。そして、加熱ニップHで記録材Pのトナー像担持面側が、加熱フィルム20の外面に密着して加熱フィルム20と一緒に加熱ニップHを挟持搬送されていく。この挟持搬送過程において、ヒータ16の熱が加熱フィルム20を介して記録材Pに付与され、記録材P上の未定着トナー像tが記録材P上に加熱・加圧されて溶融定着される。加熱ニップHを通過した記録材Pは加熱フィルム20から曲率分離され、排紙ローラ26で排出される。
【0078】
本実施の形態において、加熱フィルム20はフィルムに弾性層を設けてなる円筒状(エンドレスベルト状)の部材である。
【0079】
フィルム材質としては、例えばSUSにより、厚み30μmの円筒状に形成したエンドレスベルト上に、厚み約300μmのシリコーンゴム層(弾性層)を、リングコート法により形成した上に、厚み30μmのPFA樹脂チューブ(最表面層)を被覆してなる。このような構成で作成した加熱フィルム20の熱容量を測定したところ、12.2×10−2J/cm・℃(加熱フィルムの1cmあたりの熱容量)であった。
【0080】
加熱フィルム20の基層にはポリイミドなどの樹脂を用いることも出来るが、ポリイミドよりもSUSやニッケルといった金属のほうが、熱伝導率がおよそ10倍と大きい。そのため、より高いオンデマンド性を得ることができることから、本実施の形態においては、加熱フィルム20の基層には金属であるSUSを用いた。
【0081】
加熱フィルム20の弾性層には、比較的熱伝導率の高いゴム層を用いている。これはより高いオンデマンド性を得る為である。本実施の形態で用いた材質は比熱が約12.2×10−1J/g・℃である。
【0082】
加熱フィルム20の表面には、フッ素樹脂層を設けることで、表面の離型性が向上し、加熱フィルム20表面にトナーが一旦付着し、再度記録材Pに移動することで発生するオフセット現象を防止することができる。また、加熱フィルム20の表面のフッ素樹脂層を、PFAチューブとすることで、より簡便に均一なフッ素樹脂層を形成することが可能となる。
【0083】
一般に、加熱フィルム20の熱容量が大きくなると、温度立ち上がりが鈍くなり、オンデマンド性が損なわれる。たとえば、加熱装置の構成にもよるが、スタンバイ温調無しで、1分以内での立ち上がりを想定した場合、加熱フィルム20の熱容量は約4.2J/cm・℃以下である必要があることが分かっている。
【0084】
本実施の形態においては、室温状態からの立ち上げの際に、ヒータ16に約1000Wの電力を供給して、加熱フィルム20が190℃に20秒以内に立ち上がる様に設計してある。シリコーンゴム層には、比熱が約12.2×10−1J/g・℃の材質を用いており、このとき、シリコーンゴムの厚みは500μm以下でなければならず、加熱フィルム20の熱容量は約18.9×10−2J/cm・℃以下である必要がある。また、逆に、4.2×10−2J/cm・℃以下にしようとすると、加熱フィルム20のゴム層が極端に薄くなり、OHT透過性やグロスムラなどの画質の点において、弾性層を持たないフィルム加熱方式の加熱装置と同等になってしまう。
【0085】
本実施の形態においては、OHT透過性やグロスの設定など高画質な画像を得るために必要なシリコーンゴムの厚みは200μm以上であった。この際の熱容量は8.8×10−2J/cm・℃であった。
【0086】
つまり、本実施の形態と同様の加熱装置の構成における、加熱フィルム20の熱容量は4.2×10−2J/cm・℃以上4.2J/cm・℃以下が一般的に対象となる。この中で、よりオンデマンド性と高画質の両立を図ることができる、熱容量8.8×10−2J/cm・℃以上18.9×10−2J/cm・℃以下の加熱フィルムを用いることとした。
【0087】
メインサーミスタ18は図2、3に示すように、加熱フィルム20の長手中央付近に配置され、加熱フィルム20の内面に接触するよう配置されている。このメインサーミスタ18は、加熱ニップ部の温度に、より近い温度である加熱フィルム20の温度を検出する手段として用いている。よって、通常の動作においては、メインサーミスタ18の検知温度が目標温度になるよう、温調制御される。なお、前記したようにメインサーミスタ18はヒータ16の裏面に配置してもよく、その場合はヒータ裏面の温度を目標温度に制御することになる。
【0088】
サブサーミスタ19は図3に示すように、ヒータ16の端部付近に配設され、ヒータ16の裏面に接触するよう配置されている。このサブサーミスタ19は、加熱体であるヒータ16の温度を検出し、ヒータの温度が所定温度以上にならないようにモニターする安全装置としての役割を果たしている。
【0089】
また、サブサーミスタ19により、立ち上げ時のヒータ16の温度のオーバーシュートや、端部の昇温をモニターする。そして、例えば端部の昇温によりヒータ16の端部の温度が所定の温度を超えた場合には、それ以上端部が昇温しないようにスループットを落とす等の制御を行う為の判断に用いられる。
【0090】
ヒータ16は、本実施例では、窒化アルミの基板上に、銀・パラジウム合金を含んだ導電ペーストをスクリーン印刷法によって均一な厚さの膜状に塗布することで抵抗発熱体を形成した上に耐圧ガラスによるガラスコートを施した、セラミックヒータを使用している。図4はそのようなセラミックヒータの一例の構造図である。
【0091】
このヒータ16は、通紙方向と直交する方向を長手とする横長の窒化アルミ基板aを基材としている。そして、この窒化アルミ基板aの表面側に長手に沿ってスクリーン印刷により線状あるいは帯状に塗工した、電流が流れることにより発熱する銀パラジウム(Ag/Pd)合金を含んだ導電ペーストの、厚み10μm程度、幅1〜5mm程度の抵抗発熱体層bを有する。更に、この抵抗発熱体層bに対する給電パターンとして、同じく窒化アルミ基板aの表面側に銀ペーストのスクリーン印刷等によりパターン形成した、第1と第2の電極部c・d及び延長電路部eを有している。また、この抵抗発熱体層bと延長電路部eの保護と絶縁性を確保するためにそれらの上に形成した、加熱フィルム20との摺擦に耐えることが可能な、厚み10μm程度の薄肉のガラスコートg、窒化アルミ基板aの裏面側に設けたサブサーミスタ19等を備えている。
【0092】
上記のヒータ16は表面側を下向きに露呈させてヒータホルダ17に固定して支持させてある。
【0093】
上記ヒータ16の第1と第2の電極部c・d側には給電用コネクタ30が装着される。ヒータ駆動回路部28から上記の給電用コネクタ30を介して第1と第2の電極部c・dに給電されることで抵抗発熱体層bが発熱してヒータ16が迅速に昇温する。ヒータ駆動回路部28は制御回路部(CPU)21により制御される。
【0094】
通常使用においては、加圧ローラ22の回転開始とともに、加熱フィルム20の従動回転が開始し、ヒータ16の温度の上昇とともに、加熱フィルム20の内面温度も上昇していく。ヒータ16への通電は、PID制御によりコントロールされ、加熱フィルム20の内面温度、すなわち、メインサーミスタ18の検知温度が190℃になるように、入力電力が制御される。
【0095】
図5は定着手段の温度制御手段としての制御回路部(CPU)21とヒータ駆動回路部28のブロック図である。上記ヒータ16の給電用電極部c・dは給電コネクタ(不図示)を介してこのヒータ駆動回路部28に接続されている。
【0096】
ヒータ駆動回路部28において、60は交流電源、61はトライアック、62はゼロクロス検知回路、21は制御回路部(CPU)である。トライアック61は制御回路部21により制御される。トライアック61はヒータ16の発熱抵抗体層bに対する通電・遮断を行う。
【0097】
交流電源60はゼロクロス検知回路62を介して制御回路部21にゼロクロス信号を送出する。制御回路部21はこのゼロクロス信号を基にトライアック61を制御する。このようにしてヒータ駆動回路部28からヒータ16の発熱抵抗体層bに通電されることで、ヒータ16の全体が急速昇温する。
【0098】
加熱フィルム20の温度を検知するメインサーミスタ18とヒータ16の温度を検知するサブサーミスタ19の出力はそれぞれA/Dコンバータ64、65を介して制御回路部(CPU)21に取り込まれる。
【0099】
制御回路部21はメインサーミスタ18からの加熱フィルム20の温度情報をもとにトライアック61によりヒータ16に通電する供給電力をPID制御して加熱フィルム20の温度が所定の制御目標温度(設定温度)に維持されるように制御する。
【0100】
PID制御とは、比例制御(以下、「P制御」と称する)、積分制御(以下、「I制御」と称する)及び微分制御(以下、「D制御」と称する)を制御対象からの出力値に応じて組み合わせることにより、制御値を定めていく制御である。
【0101】
供給電力の制御方法としては、本実施例では通常の主たる制御として波数制御(オン/オフ制御)を用いるとともに、記録材Pの突入前に供給電力を補正するタイミングに先んじて波数制御を位相制御に切り替え、電力補正を位相制御によって行う。そして電力補正が終了したタイミングで再び位相制御を波数制御に切り替える。ここで、波数制御のモードを第一の電力供給制御モード、位相制御を第二の電力供給制御モードとする。
【0102】
電力補正のタイミングに先んじて波数制御を位相制御に切り替えることにより、電力補正を通電比率の更新周期が短い位相制御によって開始することができる。したがって電力補正のタイミングのずれが最小限に抑えられ、タイミングがずれることによって生じる電力不足による光沢ムラやオーバーシュートによるホットオフセットを低減することができる。
【0103】
その一方で位相制御を用いるのは記録材の加熱ニップへの突入に合わせて行うごく僅かの電力補正期間のみで、大半の供給電力制御を波数制御によって行うため高調波電流の増大も最小限とすることができる。
【0104】
本実施例では記録材Pの加熱ニップHへの突入100msec前にPID制御を停止し、そこから記録材の突入の0msec経過後まで所定電力の電力を供給する電力補正を行う。
また、波数制御から位相制御への切り替えは記録材Pの加熱ニップHへの突入300msec前から記録材の突入0msec後まで行う。
【0105】
PID制御を行わず所定の電力供給量を供給する期間および電力は、加熱フィルム20による記録材加熱時に加熱フィルム1周目後端と2周目先端の間に生じる加熱ムラ(光沢の段差)が最小になるように選択した。通紙開始時の記録材Pの突入前に電力補正を開始するのは、実際に補正電力を供給してからヒータ16の温度が上昇するまので時間を考慮しているためである。すなわち急峻な電力の供給に対して完全にヒータ温度は追従するわけではないため、実際の電力供給が温度に反映されるまでは若干のタイムラグが生じる。また、ヒータ16から加熱フィルム内面には当然接触熱抵抗が存在するため、ここでも熱が即座に伝わるわけではない。したがって、加熱フィルム20の記録材先端に該当する部分に適正に熱を供給しようとすれば、記録材Pの先端が加熱ニップHに突入してからでは遅いのである。
【0106】
したがって、その分のタイムラグを見込んで、シーケンス上電力の補正を開始するタイミングは決められており、本実施例では記録材Pの加熱ニップHへの突入100msec前としている。
【0107】
ところで、このタイミングは本実施例では記録材Pの加熱ニップHへの突入タイミングに対してわずかではあるが、マージンをもたせた設定になっている。すなわち、理想的にはヒータの発熱が加熱フィルム内面の温度に反映されるタイミングが、記録材の突入タイミングに完全に合致することが好ましいが、若干それよりも早いタイミングで電力補正は開始されている。これは熱伝達のばらつきを考慮した場合、完全に記録材突入タイミングに電力補正を合わせることは難しいため、電力補正が遅れて温度低下するよりも、若干早めに電力補正を開始してやや温度が高くなる方向に調整することを選択しことによる。本実施例程度であれば実用上は問題ないが、無論このマージンを少しでも多くするほど、よりホットオフセットのリスクが高くなる。なお、この設定は本実施例の構成に限ったものではなく、適宜様々な選択が可能である。
【0108】
また、電力補正開始タイミングは、記録材Pの加熱ニップHへの突入タイミングを基点として設定しているが、実際には本実施例ではレジストローラ46による記録材Pの搬送開始タイミングを基点としている。すなわち、レジストローラ46による記録材Pの搬送開始時には、記録材Pの先端はレジストセンサ47の位置にあるため、ここから記録材Pが加熱ニップHに突入するタイミングを予測し、これに基づいてタイミングを決定している。すなわち実際の制御上の基点はレジストローラ46による記録材Pの搬送開始である。本実施例ではレジストローラ46を基点としているが、これとは別に加熱装置の上流側に搬送状態を検知するセンサを設けて、この検知結果を基点としてもよい。
【0109】
なお、本実施の形態ではヒータ16に供給する電力を補正する際に、記録材Pの坪量による熱容量の違いを考慮している。すなわち、記録材Pの坪量に応じて補正に用いる電力を変えており、本実施の形態においては、実験によって求まった必要電力値からペーパーモードによって場合分けしたテーブルに従ってヒータ16に供給する電力を補正する。実際にはユーザーがプリントモードを指定することによって、不図示のホストコンピュータよりプリントモード情報を、プリント信号とともに受信し、制御回路部21により通紙時の供給電力を決定する。
【0110】
表1に本実施の形態における各ペーパーモードと補正時供給電力のテーブルを示す。
【0111】
【表1】

【0112】
図6に本実施の形態における、電力制御方法についてのフローチャートを示す。
以下にフローに従って、実際の補正動作について説明する。
【0113】
本実施例では交流電源(交流電力)の周波数が50Hzの場合について説明する。
図6において、画像形成装置は電源ON後にプリント信号を受信可能な状態に立ち上がる(S1)。不図示のホストコンピュータからプリントコマンドを受信(S2)すると、プリント信号からペーパーモードを読み取る(S3)。プリンタ内の制御回路部(CPU)21は、表1に示すようにペーパーモードに対応した補正時供給電力E2(W)を決定する(S4)。その後、制御回路部21はヒータ駆動回路部28を駆動することにより、加熱フィルム20を所定温度に温調すべく、ヒータ16の立ち上げ温調制御を開始する(S5)。この際、ヒータ16への供給電力制御は波数制御によって行われる。波数制御は本実施例では20半波(所定波数)を1単位として通電比率の更新を行う。すなわち通電比率は0半波(0%通電)から20半波(100%通電)まで5%刻みで、通電比率の更新周期はAC電源が50Hzの場合で200msecである。
【0114】
加熱フィルム20が所定温度付近になり、立ち上げ温調が終了(S6)すると、プリント温調温度である190℃を目標温度に設定してPID制御により目標温度に温調される(S7)。この時も供給電力制御は波数制御である。
【0115】
その後、記録材突入の300msec前になると、供給電力制御を波数制御から位相制御に切り替える。(S8)ここでの位相制御は波数制御時の通電比率に合わせて、5%刻みで制御するように電源から供給される交流波形の1半波にたいして5%刻みの通電角を用いている。通電角はゼロクロス検知回路62にてゼロクロス信号を検知したときを起点にトライアック61をONするタイミングとして求められる。なお、位相制御時のみ通電比率をより細かく設定することも可能である。
【0116】
またこの時、制御回路部21が切り替え命令を出したとしても、波数制御の通電比率の更新周期がこのタイミングに合致していなければ波数制御から位相制御に即切り替えることはできない。したがって実際には波数制御の通電比率の更新タイミングを待って波数制御から位相制御への切り替えが行われることになる。
【0117】
その後、記録材突入の100msec前まで電力制御としては位相制御を用いてPID制御を行いながら、目標温度で待機する(S9)。
【0118】
記録材突入の100msec前になると、PID制御を中止し、S4時に決定された補正時供給電力として所定の電力E2(W)を出力し(S10)、記録材突入後0msec後まで継続して、E2(W)を供給しつづける(S11)。この時も電力制御は位相制御であり、所定電力は交流波形の1半波内の通電角(位相角)で定義されている。
【0119】
その後、記録材突入から0msecまで経過すると位相制御を元の20半波を1単位として通電比率の更新を行う波数制御に切り替える。同時に、プリント温調温度である190℃を目標温度に設定してPID制御を再開する(S12、S13)。
【0120】
以上の動作をプリント終了まで続け(S14)、プリントジョブが終了した時点で、温調制御が終了する(S15)。この補正は、プリンタ内の制御回路部(CPU)21内に備えられた、ペーパーモードと補正時供給電力E2(W)のテーブル(表1)に基づいて行う。
【0121】
ここで、記録材の加熱ニップへの突入300msec前に位相制御に切り替える理由を説明する。
【0122】
図7に供給電力のタイミングチャートを示す。
【0123】
本実施例では記録材の加熱ニップへの突入100msec前に電力補正を開始するが、ここで通電比率の更新周期が合致しないと電力補正が適正に行われず光沢ムラやホットオフセットが生じる。もし仮にこのタイミングまで波数制御が続いた場合、偶然通電比率の更新タイミングが電力補正のタイミングに合わないかぎり、電力補正のタイミングで位相制御を用いようとしとも、位相制御に切り替えることはできない。したがって波数制御から位相制御への切り替えは電力補正のタイミングに先んじて行う必要があることは自明である。波数制御の通電比率の更新タイミングが波数制御から位相制御への切り替えタイミングと合わないことを考慮した場合、最大限タイミングがずれていたとしても確実に電力補正タイミングにおいては位相制御に切り替わっているように設定しなくてはならない。ここで、波数制御の通電比率の更新周期に相当する時間内は位相制御に切り替えることはできない。従って、電力補正のタイミングにおいて確実に位相制御に切り替わっているためには、電力補正のタイミングから波数制御の更新周期に相当する時間以上前のタイミングで位相制御に切り替わっていればよい。本実施例では、連続する2半波以上の所定数である20半波を1単位として通電比率の更新を行う波数制御であり、供給電力の更新周期が200msecであるため、電力補正の開始より200msec前に波数制御から位相制御に切り替わっていればよい。すなわち、電力補正が記録材の突入の100msec前であるから、位相制御への切り替えは300msec前に行えばよいということになる。
【0124】
無論、これは高調波電流の増大を最小限とする上での最小値であり、電力補正のタイミングのずれを防止するという観点では、電力補正開始の200msecよりも前であればいつでもよい。
【0125】
また、位相制御から波数制御に戻すタイミングについても、本実施例では電力補正が終了するのと同時としているが、電力補正のタイミングのずれを防止するという観点では、電力補正終了後であればいつでもよい。
【0126】
なお、本実施例では交流電源が50Hzの場合について説明しているが、60Hzの場合にはAC電圧の1波あたりの時間が異なるため、当然波数制御から位相制御に切り替えるタイミングも異なってよい。60Hzの場合は1半波が約8.33msecであるから通電比率の更新周期が20半波の本実施例の場合、時間的には電力補正開始の約166.6msec前に波数制御から位相制御に切り替えればよいということになる。したがって記録材の加熱ニップへの突入を基点とした場合は、266.6msecよりも前ということになる。
【0127】
ここで、交流電源の周波数を検知して、周波数に応じて設定値を異ならせてもよい。また、60Hzと50Hzでは50Hzの方がより早い切り替えタイミングになることから、想定しうる最も低い電源周波数に合わせて、電源周波数によらず最も早いタイミングに切り替えタイミングを設定しておくこともできる。
【0128】
また、この値は本実施例の波数制御が20半波を更新周期とするからであり、これに限定するものではない。例えば10半波ごとに通電比率の更新を行う波数制御の場合には100msecが更新周期となるため、電力補正開始の100msec前に波数制御から位相制御に切り替えればよいことになる。
【0129】
ところで、上記の例ではヒータ16に供給する電力を補正する際に、ペーパーモードとして記録材Pの坪量による熱容量の違いを考慮しているが、ペーパーモードとして装置の動作速度を異ならせる場合もある。すなわち、坪量60〜70g/mと71〜90g/mの記録材をそれぞれ薄紙モードと通常モードとして通常の速度で定着温度を異ならせて動作させる。一方、坪量91〜128g/mの記録材は厚紙モード1として通常の1/2の速度で装置を動作させ、坪量129〜220g/mの記録材は厚紙モード2として通常の1/3の速度で動作させることもある。このような場合には、補正電力の場合分けだけでなく、補正タイミングを異ならせてもよい。
【0130】
この方法として例えば表2に示すようにペーパーモードに応じて補正電力と補正タイミングのテーブルを用い、プリント信号からペーパーモードが決定した時点で電力補正のパラメータを設定すればよい。
【0131】
【表2】

【0132】
このように動作速度ごとに補正タイミングを異ならせる理由は、本実施例では前記したように記録材Pの加熱ニップHへの突入タイミングに対して電力補正開始タイミングに若干のマージンをもたせていることに関係する。装置の動作速度が遅いほど加熱フィルムの回転速度も遅くなるが、この時、マージンとしてとっている時間が同じであれば、回転速度が遅い分加熱フィルムの走行距離の点ではマージン分に相当する領域が狭くなる。したがって装置の動作速度が遅い場合にはマージンに相当する分を若干上乗せする必要がある。無論、これはマージンを見込んだ場合であり、必ずしも動作速度ごとに補正タイミングを異ならせる必要はなく、本実施例の記載もこれを限定するものではない。例えば完全に記録材の突入に合わせて電力補正タイミングを設定しているならば、補正開始タイミングはヒータから加熱フィルム内面への熱伝達のタイムラグに相当する分だけであり、動作速度によってタイミングを変える必要はない。
【0133】
また、補正タイミングが異なる場合は当然、波数制御から位相制御への切り替えタイミングも異なってくる。表2の場合、本実施例では位相制御への切り替えタイミングは、補正開始タイミングが110msec前であれば、記録材の突入の310msec前であり、補正開始タイミングが120msec前であれば、記録材の突入の320msec前としている。
【0134】
これは前記したように補正開始タイミングに対して波数制御の更新周期に相当する時間分以上先んじて位相制御に切り替える必要があるためである。本実施例では波数制御の更新周期が200msecであるから各補正開始タイミングに対して200msec先んじて位相制御への切り替えを行っている。
【0135】
また、補正終了タイミングに関しては、厚紙ほど記録材の突入時に大きく熱が奪われるため、薄紙よりも加熱フィルムの表面温度が安定するまでの時間が僅かに長くなる。したがって、本実施例では坪量が大きい記録材ほど補正終了タイミングを遅くして、合わせこみを行っている。ただし、加熱フィルムやヒータの熱容量、熱伝導率等の装置構成によっては、必ずしも坪量によって補正終了タイミングを異ならせる必要はない。
【0136】
なお、位相制御から波数制御への切り替えタイミングは補正終了タイミングと同時であるが、補正終了タイミング以降であればいつでも構わないのは前記したのと同様である。
ところで、上記の例ではペーパーモードとして坪量のみを設定したが、記録材Pの表面性等による差もペーパーモードに含めることができる。記録材表面の平滑性が悪い、ラフ紙と呼ばれる記録材や、表面性がきわめて平滑な光沢紙、OHTなどのフィルム系の記録材においては、加熱装置から記録材Pへの伝熱性や熱容量が一般的なプリント用紙とは異なることから、電力補正に用いる際の電力は異なる。したがって、これらの記録材の種類に応じて電力補正値を異ならせればより最適な制御ができる。
【0137】
表3に記録材の種類も含めた各ペーパーモードと電力補正のパラメータのテーブルを示す。なお、光沢紙はより高い光沢を出すため坪量が小さくても装置の動作速度を遅くして、単位時間あたりの加熱量を増している。また、ラフ紙は表面が粗く定着性が悪いため、同様に装置の動作速度を遅くして単位時間あたりの加熱量を増して確実に定着が可能となるようにしている。
【0138】
【表3】

【0139】
なお、記録材Pの種類はユーザーがプリンタドライバやコントロールパネルで設定するペーパーモードによって指定することもできるが、メディアセンサ51で判別することもできる。
【0140】
図1に示すように本実施例の画像形成装置内にはメディアセンサ51が配置されている。メディアセンサ51の構成概略図を図8に示す。メディアセンサ51は光源としてLED33、読取手段としてCMOSセンサ34、結像レンズとしてレンズ35、36を有している。LED33を光源とする光は、レンズ35を介し、記録材搬送ガイド31もしくは記録材搬送ガイド31上の記録材P表面に照射される。この反射光は、レンズ36を介し集光されてCMOSセンサ34に結像される。これによって、記録材搬送ガイド31もしくは記録材Pの表面映像を読み取る。これにより、記録材Pの紙繊維の表面状態を読み込み、そのアナログ出力をA/D変換しディジタルデータとする。ディジタルデータのゲイン演算及びフィルタ演算は、制御プロセッサ(図不示)によってプログラマブルに処理される。そして、映像比較演算をおこない、この映像比較演算結果に基づき紙種を判定する。
【0141】
ところで、記録材Pの加熱ニップHへの突入によって特に光沢ムラによる段差ができやすいのは、いわゆる光沢紙である。何故なら光沢紙は表面の平滑度がきわめて高いため、わずかな温度の差が光沢の差となって現れるからである。また、このように表面の平滑な光沢紙では、わずかな温度の差がホットオフセットとしても現れるため、電力補正値、補正タイミングの点できわめて高い精度を要求される。他に、坪量の大きい記録材も記録材Pの加熱ニップHへの突入による温度変化が大きいため比較的影響が出やすいといえる。このため表3では電力補正値として光沢紙や厚紙が特に大きくなっている。
【0142】
逆に一般に広く使われる坪量が64〜90g/m程度のプリント用紙は、表面の平滑性はそれほど高くもなく、また坪量も小さいため記録材Pの加熱ニップHへの突入による加熱フィルムの温度変化も小さい。
【0143】
したがって、坪量の小さい通常のプリント用紙では電力補正値も小さく、補正タイミングもそれほど厳しくはない。またラフ紙は表面が平滑でないため光沢が出づらい。この種のプリント用紙では仮に補正が行われなくてもそれほど光沢段差は大きくは目立たない。よって位相制御を用いずに、波数制御だけで電力補正を行っても補正タイミングのずれとしては許容レベルになる。
【0144】
そこで、たとえば記録材の坪量や種類によっては波数制御から位相制御の切り替えを行わない構成とすることもできる。これにはペーパーモードに応じて電力補正パラメータを設定する際に、例えば表4に示すテーブルを用いればよい。
【0145】
【表4】

【0146】
なお、本実施例の電力補正タイミングに関しては、この数値に限定するものではない。また本実施例では記録材の加熱ニップへの突入を挟んでその前後に亘って電力補正を行っているが、電力補正は記録材の突入前に終了することもできる。これは電力補正期間は、ヒータへの電力の供給に対してヒータの温度上昇にタイムラグが生じることを前提に設定していることからも明らかである。
【0147】
以上、説明したように、記録材Pの加熱ニップHへの突入タイミングの前後一定時間、PID制御を中止し、ヒータ16に供給される電力を所定の値に補正して供給する。これとともに、電力補正のタイミングに先んじて波数制御を位相制御に切り替えることで、高調波電流を増すことなく電力補正のタイミングと供給電力の更新タイミングのずれを極小に抑えることができる。これにより記録材Pの突入に伴う温度変動を生じることなく、より安定した温度制御を行うことができる。
【実施例2】
【0148】
実施例1においては、電力供給に際して通電比率の主たる制御には波数制御を用いていたが、本実施例では波数制御と位相制御を組み合わせた制御を用いる。これは波数制御のように所定周期内に必ず1半波に対して100%通電もしくは非通電(0%通電)を行う波形を有するとともに、同じ周期内に1半波に対して通電角を制御して位相制御を行う波形を含ませることで、所定周期での通電比率を制御するものである。ここでは、この制御を「ハイブリッド制御」と定義する。
【0149】
すなわちハイブリッド制御は、基本的に1半波以上の数半波を1単位とした波数制御であるが、その内の数半波に対して位相制御を行うものである。
【0150】
ハイブリッド制御では制御周期内に位相制御を行う波形を含むため、ここで細かい通電比率の設定ができ、波数制御だけで通電比率を制御する場合よりも制御周期を短くできる。一方、AC電圧の一部の波にのみ位相制御を行うため、位相制御だけで通電比率を制御する場合よりも高調波電流の増加を極力抑える設定とすることができる。
【0151】
本実施例では通電比率の制御周期は8半波とした。ここで交流電源が50Hzの場合には制御周期(更新周期)は80msecとなる。
【0152】
8半波単位で通常の波数制御を行った場合は、通電比率は12.5%刻みでしか制御できないため、ヒータに供給される電力の変動幅が大きくなる。するとヒータの温度リップルも大きくなるため、顕画像を加熱処理した際には、加熱ムラが画像上の光沢ムラとなって現れやすくなる。これに対して、本実施例に用いるハイブリッド制御では8半波中に位相制御を行う半波を数波含むことで、8半波単位でも細かい通電比率を設定できる。
【0153】
また20半波単位の波数制御のみで行う場合よりも、通常動作時の通電比率の更新周期が短くできるため、よりムラのない安定した制御にすることができるとともに、フリッカノイズも減らすことができる。
【0154】
ハイブリッド制御では1単位あたりの波数をより少なくすることができるが、あまり少なくすると全体における位相制御の比率が高くなるため高調波電流が増大する。したがって本実施例ではバランスのとれた8半波を通電比率の更新周期として設定した。勿論、装置構成によってこれは異なるものであり、この設定に限定するものではない。
【0155】
なお、実際の制御では各通電比率ごとにあらかじめAC電圧の波形パターンを設定しておき、PID制御によって設定される通電比率ごとに各パターンにしたがった波形で通電する。
【0156】
表5に本実施例の通電比率ごとの波形パターンを示す。本実施例では通電比率を5%刻みとして0%から100%まで計21パターンの波形を設定した。なお、実施例1も含め本実施例では5%刻みの通電比率を例に記載しているが、無論、通電比率はより細かくすることができ、例えば1%刻みに設定することもできる。ハイブリッド制御では位相制御を行う半波を含むため、通電比率の設定をいくら細かくしても、波数の制御単位を増す必要はない。
【0157】
【表5】

【0158】
本実施例では上記の波形パターンを用いたハイブリッド制御で供給電力制御を行い、記録材の加熱ニップへの突入タイミング前にヒータへの供給電力補正を行うタイミングに先んじて、ハイブリッド制御を位相制御に切り替え、電力補正は位相制御によって行う。
【0159】
図9に本実施例の動作のフローチャートを示す。以下にフローに従って、実際の補正動作について説明する。なお、本実施例では、画像形成装置の構成も実施例1と同様であり、図1に示すとおりである。また、加熱装置の構成は、実施例1と同様で図2〜4に示した通りであり、重複する説明は省略する。
【0160】
図9において、画像形成装置は電源ON後にプリント信号を受信可能な状態に立ち上がる(S101)。不図示のホストコンピュータからプリントコマンドを受信(S102)すると、プリント信号からペーパーモードを読み取る(S103)。プリンタ内の制御回路部(CPU)21は、表1に示すようにペーパーモードに対応した補正時供給電力E2(W)を決定する(S104)。その後、制御回路部21はヒータ駆動回路部28を駆動することにより、加熱フィルム20を所定温度に温調すべく、ヒータ16の立ち上げ温調制御を開始する(S105)。この際、ヒータ16への供給電力制御は表5に示した通電比率のパターンを用いたハイブリッド制御によって行われる。本実施例では通電比率の更新周期はAC電源が50Hzの場合で80msecである。
【0161】
加熱フィルム20が所定温度付近になり、立ち上げ温調が終了(S106)すると、プリント温調温度である190℃を目標温度に設定してハイブリッド制御を用いたPID制御により目標温度に温調される(S107)。
【0162】
その後、記録材突入の180msec前になると、供給電力制御をハイブリッド制御から位相制御に切り替える(S108)。この時、実際には制御回路部21が切り替え命令を出して以降、次にハイブリッド制御の通電比率の更新タイミングがきた時にハイブリッド制御から位相制御に切り替わる。したがって実際に切り替わるタイミングは記録材突入の180msec前から100msecの間でばらつく。
【0163】
記録材突入の180msec前から位相制御に切り替えるのは、ハイブリッド制御から位相制御に切り替わるタイミングは、実施例1のように電力補正の開始タイミングから通電比率の更新周期に相当する時間分以上遡るタイミングでなくてはならないからである。すなわち本実施例のハイブリッド制御の通電比率の更新周期が8半波=80msec(50Hzの場合)であり、80+100=180msecとなるためである。勿論実施例1にも記載したように交流電源の周波数に応じてこの数値は異ならせてもよい。
【0164】
その後、位相制御に切り替わりしだい電力制御としては位相制御を用いてPID制御を行いながら、目標温度で待機する(S109)。少なくとも記録材突入の100msec前の時点では確実に位相制御に切り替わっている。そのため、記録材突入の100msec前になるとPID制御を中止し、S104時に決定された補正時供給電力として所定電力E2(W)を出力し(S110)、記録材突入後0msec後まで継続して、位相制御によりE2(W)を供給し続ける(S111)。その後、記録材突入から0msec前まで経過すると位相制御を元の8波を1単位として通電比率の更新を行うハイブリッド制御に切り替える。同時に、プリント温調温度である190℃を目標温度に設定してPID制御を再開する(S112、S113)。
【0165】
以上の動作をプリント終了まで続け(S114)、プリントジョブが終了した時点で、温調制御が終了する(S115)。この補正は、プリンタ内の制御回路部(CPU)21内に備えられた、ペーパーモードと補正時供給電力E2(W)のテーブル(表1)に基づいて行う。
【0166】
以上、説明したように波数制御に位相制御を組み合わせたハイブリッド制御を用いることで、高調波電流をある程度抑えながら通電比率の更新周期を短くして、より通常の温度制御を安定させることができる。
【符号の説明】
【0167】
1M、1C、1Y、1Bk 画像形成部
2a、2b、2c、2d 感光ドラム
3a、3b、3c、3d 帯電ローラ
4a、4b、4c、4d 現像装置
5a、5b、5c、5d 転写ローラ
6a、6b、6c、6d ドラムクリーニング装置
12 加熱装置
16 セラミックヒータ(加熱体に対応)
18 メインサーミスタ(温度検出手段に対応)
19 サブサーミスタ
20 加熱フィルム(第一の回転体に対応)
21 制御回路部(電力制御部に対応)
22 加圧ローラ(第二の回転体に対応)
28 ヒータ駆動回路部
40 中間転写ベルト
44 2次転写ローラ
45 ベルトクリーニング装置
46 レジストローラ
47 レジストセンサ
50 環境センサ
51 メディアセンサ
60 交流電源(電力供給部に対応)
P 記録材
N 1次転写部
M 2次転写部
t トナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱体と、該加熱体に電力を供給する電力供給部と、記録材と共に移動し前記加熱体により加熱される第一の回転体と、記録材を挟んで前記第一の回転体と圧接部を形成する第二の回転体と、前記第一の回転体もしくは前記加熱体の温度を検知する温度検出手段と、
前記電力供給部から供給される交流電力の少なくとも連続する2半波以上の所定波数ごとに、各半波をオンまたはオフ制御することで電力供給量を制御する第一の電力供給制御モードと、
前記電力供給部から供給される交流電力の所定波数ごとに、各半波中の位相角を設定することにより電力供給量を制御する第二の電力供給制御モードを有する電力制御部を有し、
前記加熱体に供給する電力を前記温度検出手段によって検知された温度を基に、前記第一の回転体もしくは前記加熱体の温度制御を行い、前記圧接部で記録材を加熱定着する加熱装置において、
前記電力制御部は、
前記温度検出手段が前記圧接部への記録材の突入に伴う温度変動を検知する前に、前記加熱体に供給する加熱に必要な電力を所定電力に補正し、
該所定電力の補正が行われている期間の前後は、前記第一の電力供給制御モードで制御し、
前記所定電力の補正が行われている期間は、前記第二の電力供給制御モードで制御することを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
前記加熱体に供給される交流電力が前記第一の電力供給制御モードから前記第二の電力供給制御モードに切り替わるタイミングは、前記所定電力の補正が開始されるタイミングから、前記第一の電力供給制御モードの前記所定波数に相当する時間以上前のタイミングであることを特徴とする請求項1に記載の加熱装置。
【請求項3】
前記所定電力の補正が開始されるタイミング、および前記加熱体に供給される交流電力が前記第一の電力供給制御モードから前記第二の電力供給制御モードに切り替わるタイミングは、前記圧接部への記録材の突入タイミングを基点に設定されていることを特徴とする請求項2に記載の加熱装置。
【請求項4】
前記第一の電力供給制御モードは、前記所定波数ごとに交流電力の全ての波形に対して各半波のオンまたはオフ制御を行うことで電力供給量を制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項5】
前記第一の電力供給制御モードは、交流電力の各半波ごとのオンまたはオフ制御を1半波以上に行いながら、かつ少なくとも1半波以上に対して交流電力の位相角を設定することで電力供給量を制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−286650(P2010−286650A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140247(P2009−140247)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】