説明

加硫用ゴム組成物、そのゴム加硫物および同加硫物からなるゴム製品

【課題】 毒性が懸念される化合物を用いずに優れた耐熱性と耐オゾン性の両方を具備する新規の加硫ゴム用組成物を提供する。
【解決手段】 (a)ポリエーテルゴム、(b)一般式(I)で表されるジチオカルバミン酸誘導体とモリブデン化合物との水溶媒中での反応生成物、および(c)加硫剤を含有することを特徴とする加硫用ゴム組成物である。式中、RおよびRは、同一または異なって、アルキル基、シクロアルキル基またはアラルキル基を表し、Mは水素原子または金属原子を表す。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐油性のポリエーテルゴムをベースとする、加硫後の耐熱性および耐オゾン性に優れた加硫用ゴム組成物、同組成物を加硫してなるゴム加硫物、および同加硫物からなる自動車部品などのゴム製品に関する。
【背景技術】
【0002】
ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エピハロヒドリン系ゴム、アクリルゴム、フッ素ゴムなどの合成ゴムは、ガス透過性が低くて耐油性に優れていることから、各種ゴム製品の材料として広く用いられており、特に自動車用ゴム部品の材料として好適に利用されている。
【0003】
近年、自動車を取り巻く排ガス規制や燃料蒸散規制は厳しくなってきており、更に省燃費対策、エンジンの高性能化およびコンパクト化、部品のメンテナンスフリー化などに伴って、自動車用ゴム材料に対する耐熱性改良の要求は年々厳しくなってきている。
【0004】
このような要求に応えるべく合成ゴムに配合するための老化防止剤が種々検討され、一定の成果が得られている。例えばクロロスルホン化ポリエチレンゴム、ニトリルゴム、エピクロロヒドリンゴムなどに対してジブチルジチオカルバミン酸ニッケルなどの有機ニッケル系老化防止剤を適用すれば優れた耐熱性および耐オゾン性を有する加硫ゴムが得られることは広く知られている。
【0005】
また、ジチオカルバミン酸の各種金属塩をスチレン−ブタジエンゴム(SBR)に添加したときの挙動はすでに知られており、この中ではジチオカルバミン酸のニッケル塩のみが合成ゴムの耐熱性および耐オゾン性を向上させ得る老化防止剤として作用することが述べられている(非特許文献1参照)。
【0006】
最近、有機ニッケル化合物はその毒性が懸念され始めており、合成ゴム、特にエピクロロヒドリンゴムにおける有機ニッケル化合物を使用しない耐熱性および耐オゾン性に優れた老化防止剤が強く求められいるが、有機ニッケル化合物を代替し得る性能を有する老化防止剤は見つかっていないのが現状である。
【0007】
有機ニッケル化合物を用いずにエピクロロヒドリンゴムの耐熱性を改良するための手段としては、例えば加硫剤としてトリチオシアヌル酸を用い、これにアミン系老化防止剤とベンズイミダゾール系老化防止剤を組み合わせる方法(非特許文献2参照)や、加硫剤として6−メチルキノキサリン−2,3−ジチオカーボネートを用い、これにアミン系老化防止剤、ベンズイミダゾール系老化防止剤などを組み合わる方法(非特許文献3参照)など、様々の提案がなされている。
【0008】
しかしながら、これら先行技術の方法では耐熱性の改善については一定の効果が見られるものの、耐オゾン性については記載も示唆もなされていない。
【0009】
他方、タイヤ使用期間中のゴムの酸化劣化とスチールコードへの接着力の低下を抑制するために、天然ゴムや合成ゴムに各種過酸化物分解剤を添加する方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、この特許文献は通常タイヤに用いられている非極性ゴムのスチールコードへの接着力について述べたものであって、特定の化合物をポリエーテルゴムに加えた場合においてのみ、耐熱性や特に耐オゾン性の改良効果が得られることについて、なんら示唆するものではない。
【非特許文献1】「日本ゴム協会紙」37巻、第5号(1964)、333〜340頁
【非特許文献2】「Rubber World」227巻、5号、25ページ〜
【非特許文献3】2003年6月30日、ドイツ、ニュルンベルクで開催の「International Rubber Conference 2003」の予稿集、379ページ〜
【特許文献1】特開平11−189679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記諸問題に鑑み、毒性が懸念される化合物を用いずに優れた耐熱性と耐オゾン性の両方を具備する新規の加硫ゴム用組成物を提供しようとするところにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々検討を重ねたところ、特定のジチオカルバミン酸誘導体とモリブデン化合物との反応生成物をポリエーテルゴムに加えてからゴムを加硫することにより、優れた耐熱性と耐オゾン性をいずれも具備するゴム加硫物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
第1の発明は、(a)ポリエーテルゴム、(b)一般式(I)で表されるジチオカルバミン酸誘導体とモリブデン化合物との水溶媒中での反応生成物、および(c)加硫剤を含有することを特徴とする加硫用ゴム組成物である。
【化1】

【0013】
式中、RおよびRは、同一または異なって、アルキル基、シクロアルキル基またはアラルキル基を表し、Mは水素原子または金属原子を表す。
【0014】
一般式(I)中のMは好ましくはアルカリ金属原子であり、モリブデン化合物は好ましくは五塩化モリブデンである。
【0015】
第2の発明は、(a)ポリエーテルゴム、(b)一般式(II)で表される化合物、および(c)加硫剤を含有することを特徴とする加硫用ゴム組成物である。
【化2】

【0016】
式中、RおよびRは、同一または異なって、アルキル基、シクロアルキル基またはアラルキル基を表す。
【0017】
第1および第2発明において、好ましいポリエーテルゴムはエピクロロヒドリン系ゴム、エピブロモヒドリン系ゴムのようなエピハロヒドリン系ゴムである。
【0018】
第3の発明は、第1および第2発明の加硫用ゴム組成物を加硫してなるゴム加硫物である。
【0019】
第4の発明は、第3発明のゴム加硫物からなるゴム製品である。ゴム製品の代表例は自動車部品である。
【0020】
以下、本発明の構成をより詳細に説明する。
【0021】
一般式(I)および(II)中のRおよびRの定義において、アルキル基は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル等の低級アルキルからドデシル、ノニル、ラルリル、ステアリル等の高級アルキルまで種々のアルキル基であってよく、好ましくは炭素原子数1〜20のアルキル基、より好ましくは炭素原子数2〜18のアルキル基である。
【0022】
シクロアルキル基は、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル等の好ましくは炭素原子数3〜10のものである。
【0023】
アラルキル基は、ベンジル、フェネチル等の好ましくは炭素原子数7〜10のものである。
【0024】
本発明に用いられるポリエーテルゴムとは、オキシラン化合物を開環重合することにより得られる合成ゴムである。オキシラン化合物の例としては、例えばエチレンオキシド、プロピレンオキシド、スチレンオキシド、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、エピクロロヒドリン、エピブロムヒドリン、グリシジルアセテート、アリルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート、ブタジエンモノオキシドなどを挙げることができ、これらが単独、または2種以上の組み合わせで(共)重合に用いられる。また、2種以上のポリエーテルゴムを混合してなるブレンドを用いても良い。
【0025】
本発明においては、これらポリエーテルゴムのうち、エピクロロヒドリン単独重合体、エピクロロヒドリン−アリルグリシジルエーテル共重合体、エピクロロヒドリン−エチレンオキシド共重合体、エピクロロヒドリン−エチレンオキシド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体に代表されるエピハロヒドリン系ゴムが好ましく用いられる。
【0026】
第1発明で用いられる反応生成物は、一般式(I)で表されるジチオカルバミン酸誘導体とモリブデン化合物との水溶媒中での反応生成物である。この反応生成物は一般式 (I)のジチオカルバミン酸誘導体とモリブデン化合物の反応により生成した塩である。一般式(I)のジチオカルバミン酸誘導体がM=アルカリ金属原子の化合物であり、モリブデン化合物が五塩化モリブデンである場合、反応に供される後者対前者の好ましいモル比は1:3〜1:6である。反応は常温、常圧で行うことができ、反応時間は反応の進行状態から適宜決められる。
【0027】
第1発明の加硫ゴム組成物において、反応生成物の使用量はポリエーテルゴム100重量部に対して通常0.1〜5重量部、好ましくは0.2〜3重量部である。
【0028】
第2発明で用いられる一般式(II)で表される化合物としては、ジエチルジチオカルバミン酸モリブデン、ジブチルジチオカルバミン酸モリブデン、ジベンジルジチオカルバミン酸モリブデン、ジヘキシルジチオカルバミン酸モリブデン、ジオクチルジチオカルバミン酸モリブデン、ジドデシルエチルジチオカルバミン酸モリブデン、ジノニルジチオカルバミン酸モリブデン、ジラウリルジチオカルバミン酸モリブデン、ジステアリルジチオカルバミン酸モリブデンなどを例示することができる。一般式(II)で表される化合物は市販品、例えば旭電化社製の「アデカサクラルーブ100」、「アデカサクラルーブ165」、「アデカサクラルーブ600」等であってもよい。
【0029】
第2発明の加硫ゴム組成物において、一般式(II)で表される化合物の使用量はポリエーテルゴム100重量部に対して通常0.1〜5重量部、好ましくは0.2〜3重量部である。
【0030】
第1および第2発明で用いられる加硫剤としては、本発明で使用されるポリエーテルゴムを加硫(架橋)せしめ得るものであればいかなるものでも用いることができる。ポリエーテルゴムが、アリルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート、ブタジエンモノオキシドなどの不飽和基を有するオキシラン化合物を共重合せしめてなるものである場合は、加硫剤は、例えば硫黄、テトラメチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、モルフォリンジスルフィドなどの硫黄系加硫剤、パラベンゾキノンジオキシム、ベンゾイルキノンジオキシムなどのオキシム系加硫剤、ポリメチロールフェノール、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂などの樹脂系加硫剤、トリクロロメラミン、ヘキサクロロペンタジエン、ベンゾトリクロリドなどの塩素含有化合物系加硫剤、ジクミルパーオキシド、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサンなどの有機過酸化物系加硫剤などであることが好ましい。これらは使用されるポリエーテルゴムに応じて適宜選択され、単独でまたは2種以上の組み合わせで使用される。
【0031】
これら加硫剤に、ジエン系ゴム用として公知の加硫促進剤、加硫促進助剤(亜鉛華、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛など)、架橋助剤、遅延剤等の添加剤を併用してもよい。
【0032】
ポリエーテルゴムが、エピクロロヒドリン、エピブロムヒドリンなどのハロゲン含有オキシラン化合物の(共)重合体である場合は、加硫剤は、例えばエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、p−フェニレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカーバメートなどのアミン系架橋剤、エチレンチオウレア、1,3−ジエチルチオウレア、トリメチルチオウレアなどのチオウレア系加硫剤、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール−5−チオベンゾエートなどのチアジアゾール系加硫剤、2,4,6−トリメルカプト−1,3,5−トリアジン、1−ヘキシルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、1−ジブチルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、1−フェニルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジンなどのトリアジン系加硫剤、キノキサリン−2,3−ジチオカーボネート、6−メチルキノキサリン−2,3−ジチオカーボネート、5,6−ジメチルキノキサリン−2,3−ジチオカーボネートなどの2,3−ジメルカプトキノキサリン誘導体系加硫剤、ピラジン−2,3−ジチオカーボネート、5−メチル−2,3−ジメルカプトピラジン、5,6−ジメチル−2,3−ジメルカプトピラジン、5−メチルピラジン−2,3−ジチオカーボネートなどの2,3−ジメルカプトピラジン誘導体系加硫剤、ビスフェノールA、ビスフェノールAF、ビスフェノールSなどのビスフェノール系架橋剤などであることが好ましい。
【0033】
これら加硫剤に公知の加硫促進剤、遅延剤等を併用してもよい。加硫促進剤の例としては、硫黄、チウラムスフィド類、モルホリンスルフィド類、アミン類、アミンの弱酸塩類、塩基性シリカ、四級アンモニウム塩類、四級ホスホニウム塩類、多官能ビニル化合物、メルカプトベンゾチアゾール類、スルフェンアミド類、ジメチオカーバメート類等を挙げることができる。遅延剤としてはN−(シクロヘキシルチオ)フタルイミド、有機亜鉛化合物、酸性シリカ、スルホンアミド化合物等を挙げることができる。
【0034】

不飽和基含有オキシラン化合物の(共)重合体の場合もハロゲン含有オキシラン化合物の(共)重合体の場合も、加硫剤の配合量は、ポリエーテルゴム100重量部に対して通常0.1〜10重量部、好ましくは0.3〜5重量部である。この範囲未満の配合量では加硫(架橋)が不十分となり、この範囲を超えると経済的でない。加硫促進剤、加硫促進助剤、架橋助剤、遅延剤等の添加剤の配合量は、ポリエーテルゴム100重量部に対して0〜10重量部、例えば0.1〜5重量部である。
【0035】
ポリエーテルゴムがハロゲンを含有するものである場合は、加硫剤に受酸剤を組み合わせることが好ましい。受酸剤としては、例えば酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、生石灰、消石灰、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、フタル酸カルシウム、亜リン酸カルシウム、亜鉛華、酸化錫、ステアリン酸錫、塩基性亜リン酸錫、ゼオライト類、アルミノホスフェート型モレキュラーシーブ、層状ケイ酸塩、塩基性シリカ、合成ハイドロタルサイト、Li−Al系包接化合物などを挙げることができる。受酸剤の配合量は、ポリエーテルゴム100重量部に対して通常0〜30重量部、好ましくは0.1〜10重量部である。
【0036】
第1の発明における反応生成物、および第2の発明における化合物(II)は老化防止剤として働くものであるが、これらに合成ゴム用として公知の老化防止剤を併用することにより、加硫後の耐熱性をさらに向上させることができる。公知の老化防止剤としては、例えば、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体、6−エトキシ−1,2−ジヒドロ−2,2,4−トリメチルキノリン、フェニル−1−ナフチルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、4−4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン、ジフェニルアミン−α−メチルスチレンなどのアミン系老化防止剤、ヒドリキノン、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、ペンタエリスリトール−テトラキス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}、n−オクタデシル−3−(4’−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノー ル)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2−ヒドロキシナフタレン−3−カーボイル−2’−メチルアニリド、2−t−ブチル−6−(3’−t−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレートなどのフェノール系老化防止剤、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトメチルベンズイミダゾール、2−メルカプトベンズイミダゾールの亜鉛塩などのベンズイミダゾール系老化防止剤、トリブチルチオ尿素、1,3−ビス(ジメチルアミノプロピル)−2−チオ尿素などのチオウレア系老化防止剤、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリフェニルホスファイトなどの亜リン酸エステル系老化防止剤、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネートなどの有機チオ酸系老化防止剤、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートなどのヒンダードアミン系安定剤などを挙げることができ、これら老化防止剤の2種以上の併用も可能である。
【0037】
本発明の加硫用ゴム組成物には、当該技術分野で通常用いられている上記以外の配合剤、例えば、滑剤、充填剤、補強剤、可塑剤、加工助剤、難燃剤、発泡剤、発泡助剤、導電剤、帯電防止剤、顔料、粘着付与剤などを必要に応じて任意に配合できる。さらに、当該技術分野で通常行われている、樹脂、ゴム等のブレンドを行うことも可能である。
【0038】
本発明による加硫用ゴム組成物を製造するには、従来ポリマー加工の分野において用いられている任意の混合手段、例えばミキシングロール、バンバリーミキサー、各種ニーダー類等を用いてポリエーテルゴムに老化防止剤、加硫剤他の配合剤を混合する。得られた加硫用ゴム組成物を加硫することによりゴム加硫物からなるゴム製品を製造することができる。加硫に要する温度および時間はポリエーテルゴムの種類、加硫剤の種類などにより適宜設定されるが、通常は温度100〜250℃、時間0.5〜300分の範囲内にある。加硫成型の方法としては、金型による圧縮成型、射出成型、スチーム缶、エアーバス、赤外線或いはマイクロウェーブによる加熱等を適宜選んで使用することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明による加硫用ゴム組成物は、耐油性の合成ゴムが使用されている分野に広く応用することができる。例えば、同組成物から、自動車用などの各種燃料系積層ホース、エアー系積層ホース、チューブ、ベルト、ダイヤフラム、シール類等のゴム製品や、一般産業用機器・装置等のゴム製品を得ることができる。なかでも本発明によるゴム加硫物は、その優れた耐熱性、耐オゾン性などを活かして、特に自動車用ゴム部品へ好適に応用することができる。
【0040】
また、本発明の加硫用ゴム組成物は、人体への影響が懸念される有機ニッケル化合物を含んでいないので、ゴム製品製造者およびゴム製品使用者の健康被害を抑止できるという利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明を実施例、比較例により具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0042】
参考例1
ジエチルジチオカルバミン酸塩とモリブデン化合物の反応生成物
滴下ロート、温度調節機および攪拌機を備えた容量3リットルのガラス製反応容器に水酸化ナトリウム52.3gおよび水113mlを加え、水酸化ナトリウムを水に溶解させ、攪拌下にジエチルアミン91.8gを加えた。得られた懸濁液中に、反応器内の温度を20〜35℃に調節しながら二硫化炭素106.3gを2時間かけて滴下し、同温度にて2時間撹拌を続けた。こうして得られたジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムの水溶液を水2300mlの添加によって希釈し、この希釈液に温度を35℃に調節しながら五塩化モリブデンの粉末68gを2時間かけて少量ずつ添加した。同温度にて30分間撹拌を続けた後、得られた析出物を濾過、水洗、乾燥して、暗紫色を呈した粉末96.2gを得た。
【0043】
参考例2
ジベンジルジチオカルバミン酸塩とモリブデン化合物の反応生成物
滴下ロート、温度調節機および攪拌機を備えた容量3リットルのガラス製反応容器に水酸化ナトリウム39.3gおよび水910mlを加え、水酸化ナトリウムを水に溶解させ、攪拌下にジベンジルアミン180gを加えた。得られた懸濁液中に、反応器内の温度を20〜35℃に調節しながら二硫化炭素74.6gを2時間かけて滴下し、同温度にて2時間撹拌を続けた。こうして得られたジベンジルジチオカルバミン酸ナトリウムの水溶液を水1700mlの添加によって希釈し、この希釈液に温度を35℃に調節しながら五塩化モリブデンの粉末50gを2時間かけて少量ずつ添加した。同温度にて30分間撹拌を続けた後、得られた析出物を濾過、水洗、乾燥して、暗紫色を呈した粉末277gを得た。
【0044】
実施例1〜3、比較例1、2
表1に示す配合材料を表1に示す割合で配合し、ニーダー次いでオープンロールで混練し、シート状の未加硫ゴム組成物を作製した。この未加硫ゴム組成物を170℃で15分プレス加硫し、2mm厚の一次加硫物を得た。さらにこれをエア・オーブンで150℃で2時間加熱し、二次加硫物を得た。
【0045】
評価試験
この二次加硫物について、JIS K 6251に準じた引張試験による常態物性、JIS K 6257に準じた耐熱性およびJIS K 6259に準じた耐オゾン性の評価を行った。
【0046】
得られた試験結果を表2に示す。
【表1】

【0047】
表1中、
・ポリエーテルゴム;エピクロロヒドリン/エチレンオキサイド共重合体、
ダイソー社製『エピクロマーC』、塩素含有量25%
・補強剤;FEFカーボンブラック、東海カーボン社製『シーストSO』
・可塑剤;ジ(ブトキシエトキシ)エチルアジペート
・滑剤:ソルビタンモノステアレート、花王社製『スプレンダーR300』
・受酸剤I;高活性酸化マグネシウム、協和化学社製『MgO#150』
・受酸剤II;合成ハイドロタルサイト、協和化学社製『DHT−4A』 ・加硫促進剤:DBU(1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7)と
フェノール樹脂との塩、ダイソー社製『P−152』
・老化防止剤I;参考例1で得られたジエチルジチオカルバミン酸塩と
モリブデン化合物の反応生成物
・老化防止剤II;参考例2で得られたジベンジルジチオカルバミン酸塩と
モリブデン化合物の反応生成物
・老化防止剤III;一般式(II)で表される化合物、
旭電化社製『アデカサクラルーブ600』
・老化防止剤IV;ジフェニルアミン−α−メチルスチレン
・遅延剤;N−(シクロヘキシルチオ)フタルイミド
・加硫剤:6−メチルキノキサリン−2,3−ジチオカーボネート
【0048】
【表2】

【0049】
表2中、各試験項目は、
100 ;JIS K6251の引張試験に定める、100%伸び時の引張応力
300 ;JIS K6251の引張試験に定める、300%伸び時の引張応力
;JIS K6251の引張試験に定める、引張強さ
;JIS K6251の引張試験に定める、伸び
;JIS K6253の硬さ試験に定める、硬さ
をそれぞれ意味する。
【0050】
オゾン試験は静的50%伸張×50pphm×40℃の条件で測定した。表2中の各記号はJIS K6259の亀裂の状態を下記のように示すものである。
【0051】
N-C:亀裂なし
A-1:肉眼では見えないが10倍の拡大鏡で確認できる亀裂が少数ある
B-1:肉眼では見えないが10倍の拡大鏡で確認できる亀裂が多数ある
C-2:肉眼で確認できる亀裂が無数にある
【0052】
耐熱性が良好であるとは、耐熱試験後の引張強さTが大きいこと、例えば150℃、70時間の耐熱性試験では7以上、150℃、168時間の耐熱性試験では3以上であることを言う。
【0053】
表2より、エピハロヒドリン系ゴムにおいて、第1の発明における反応生成物、および第2の発明における化合物(II)を老化防止剤として含む実施例1〜3は老化防止剤を何も含まない比較例1、公知の老化防止剤であるジフェニルアミン−α−メチルスチレンを含む比較例2に比べて、優れた耐熱性と耐オゾン性の両方を備えており、特に耐オゾン性が改良されていることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の加硫用ゴム組成物は以上のように構成されており、その加硫物は優れた耐熱性と耐オゾン性を併せ持っている。したがって、これは通常合成ゴムが使用されている分野に広く応用することができる。例えば、同組成物から、自動車用などの各種燃料系積層ホース、エアー系積層ホース、チューブ、ベルト、ダイヤフラム、シール類等のゴム製品や、一般産業用機器・装置等のゴム製品を得ることができる。なかでも本発明によるゴム加硫物は、その優れた耐熱性、耐オゾン性などを活かして、特に自動車用ゴム部品へ好適に応用することができる。
【0055】
また、本発明の加硫用ゴム組成物は、人体への影響が懸念される有機ニッケル化合物を含んでいないので、ゴム製品製造者およびゴム製品使用者の健康被害を抑止できるという利点もある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリエーテルゴム、(b)一般式(I)で表されるジチオカルバミン酸誘導体とモリブデン化合物との水溶媒中での反応生成物、および(c)加硫剤を含有することを特徴とする加硫用ゴム組成物。
【化1】

式中、RおよびRは、同一または異なって、アルキル基、シクロアルキル基またはアラルキル基を表し、Mは水素原子または金属原子を表す。
【請求項2】
Mがアルカリ金属原子で、モリブデン化合物が五塩化モリブデンである請求項1に記載の加硫用ゴム組成物。
【請求項3】
(a)ポリエーテルゴム、(b)一般式(II)で表される化合物、および(c)加硫剤を含有することを特徴とする加硫用ゴム組成物。
【化2】

式中、RおよびRは、同一または異なって、アルキル基、シクロアルキル基またはアラルキル基を表す。
【請求項4】
(a)ポリエーテルゴムがエピハロヒドリン系ゴムである請求項1〜3のいずれかに記載の加硫用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の加硫用ゴム組成物を加硫してなるゴム加硫物。
【請求項6】
請求項5に記載のゴム加硫物からなるゴム製品。

【公開番号】特開2006−96866(P2006−96866A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−284528(P2004−284528)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】