説明

加飾シート及びそれを用いてなる加飾樹脂成形品

【課題】加飾樹脂成形品に優れた耐摩耗性や耐擦傷性といった表面物性、成形性及び意匠性を付与し、さらには印刷作業性(生産性)に優れた加飾シート、及びそれを用いてなる加飾樹脂成形品を提供すること。
【解決手段】少なくともベースフィルムと印刷フィルムとを有する基材の該印刷フィルム上に、電離放射線硬化性樹脂組成物を架橋硬化したものからなる表面保護層を有する加飾シートであって、該印刷フィルムの25℃における曲げ弾性率がベースフィルムの25℃における曲げ弾性率よりも大きいことを特徴とする加飾シート及びそれを用いてなる加飾樹脂成形品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加飾シート及びそれを用いてなる加飾樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
成形品の表面に加飾シートを積層することで加飾した加飾樹脂成形品が、車両内装部品などの各種用途で使用されている。このような加飾樹脂成形品の成形方法としては、加飾シートを真空成形型により予め立体形状に成形しておき、該成形シートを射出成形型に挿入し、流動状態の樹脂を型内に射出して樹脂と成形シートを一体化するインサート成形法、あるいは射出成形の際に金型内に挿入された加飾シートを、キャビティ内に射出注入された溶融樹脂と一体化させ、樹脂成形体表面に加飾を施す射出成形同時加飾法などが挙げられる。
【0003】
このような成形方法により得られる加飾樹脂成形品は、上記したように車両内装部品などの各種用途で使用されるため、表面の耐摩耗性や耐擦傷性や、三次元成形に十分追従しうる成形性に加え、近年の消費者の高級品志向により、高級感が求められるようになっている。樹脂成形品に対して、模様の特定の部分に合わせて艶消しや凹凸を付与することによる質感の付与、すなわち意匠性も重要な課題となってきている。このような課題に対して、表面保護層において所定の電離放射線硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物を用いた加飾シート(例えば、特許文献1)や、電離放射線硬化性樹脂を用いた所定の厚さを有する表面保護層を設けた加飾シート(例えば、特許文献2)などが提案されている。しかし、これらの加飾シートは、通常基材の厚さが350〜400μmと厚いため、ロール・トゥ・ロールによる連続印刷を行おうとすると、張力や印圧が不安定となり、特に加飾シートに絵柄を施す場合は、絵柄の見当が合わず、印刷作業性が十分ではない場合があった。また、これらの加飾シートの形成に用いられる電離放射線硬化性樹脂は、加飾シートの成形性を重視したため、表面の耐摩耗性や耐擦傷性や、意匠性が十分ではない場合もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−132145号公報
【特許文献2】特開2010−30277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況下で、加飾樹脂成形品に優れた耐摩耗性や耐擦傷性といった表面物性、成形性及び意匠性を付与し、さらには印刷作業性(生産性)に優れた加飾シート、及びそれを用いてなる加飾樹脂成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、下記の発明により当該課題を解決できることを見出した。すなわち本発明は、下記の加飾シート及びこれを用いた加飾成形品を提供するものである。
【0007】
1.少なくともベースフィルムと印刷フィルムとを有する基材の該印刷フィルム上に、電離放射線硬化性樹脂組成物を架橋硬化したものからなる表面保護層を有する加飾シートであって、該印刷フィルムの25℃における曲げ弾性率がベースフィルムの25℃における曲げ弾性率よりも大きいことを特徴とする加飾シート。
2. 下記の工程を順に有する加飾シートの製造方法。
工程(I)印刷フィルムの一方の面に、電離放射線硬化性樹脂組成物を架橋硬化させて表面保護層を形成する工程
工程(II)印刷フィルムの表面保護層を形成する面とは反対側の面にベースフィルムを積層し、ベースフィルムと印刷フィルムとを有する基材を形成する工程
3.上記1に記載の加飾シートを用いてなる加飾樹脂成形品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、加飾樹脂成形品に優れた耐擦傷性や硬度といった表面物性、成形性及び意匠性を付与し、さらには印刷作業性(生産性)に優れた加飾シート、及びそれを用いてなる加飾樹脂成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の加飾シートの一態様の断面を示す模式図である。
【図2】本発明の加飾シートの一態様の断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[加飾シート]
本発明の加飾シートは、少なくともベースフィルムと印刷フィルムとを有する基材の該印刷フィルム上に、電離放射線硬化性樹脂組成物を架橋硬化したものからなる表面保護層を有する加飾シートであって、該印刷フィルムの25℃における曲げ弾性率がベースフィルムの25℃における曲げ弾性率よりも大きいことを特徴とするものである。
【0011】
本発明の加飾シートの構成について図1及び図2を用いて詳細に説明する。
図1及び図2は本発明の加飾シート10の好ましい一態様の断面を示す模式図である。図1で示す例では、ベースフィルム11aと印刷フィルム11bとからなる基材11の印刷フィルム11b上に、表面保護層15が積層された加飾シートが示されている。また、図2に示す例では、ベースフィルム11aと印刷フィルム11bとからなる基材11の印刷フィルム11b上に、第一絵柄層12、プライマー層13、第二絵柄層14、及び表面保護層15が順次積層されており、第二絵柄層14の直上部及びその近傍に、低光沢領域を有する低艶模様層16を有している。ここで、表面保護層15は電離放射線硬化性樹脂組成物を架橋硬化して形成されるものである。
【0012】
≪基材≫
基材11は、少なくともベースフィルム11aと印刷フィルム11bとを有するものである。ベースフィルム及び印刷フィルムは、真空成形適性を考慮して選定され、代表的には熱可塑性樹脂からなる樹脂フィルムが好ましく使用される。該熱可塑性樹脂としては、一般的には、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(以下「ABS樹脂」という)、アクリロニトリル/スチレン/アクリル酸エステル樹脂(「以下「ASA樹脂」という」、アクリル樹脂、ポリプロピレン,ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂などが好ましく使用される。
【0013】
ベースフィルム11a及び印刷フィルム11bは、いずれも着色剤により着色されていてもよく、着色されていなくてもよく、無色透明、着色透明、及び半透明のいずれの態様であってもよい。基材に用いられる着色剤としては特に限定されないが、150℃以上の高温下にあっても変色しない着色剤が好ましく、既存のドライカラー、ペーストカラー、マスターバッチ樹脂組成物などを用いればよい。
【0014】
基材11は、ベースフィルム11aと印刷フィルム11bとを、ドライラミネーション、熱ラミネーションのいずれの方法によってラミネートすることで得られるが、溶剤を多量に使わず環境に優しく、また接着剤の調製、塗布、乾燥工程といった煩雑な工程を要しない点で、熱ラミネーションによりラミネートして得ることが好ましい。
特に、ベースフィルム11aと印刷フィルム11bを形成する熱可塑性樹脂として例示した樹脂のうち、ABS樹脂及びASA樹脂は、ドライラミネーションによってラミネートする場合、接着剤の溶剤が樹脂フィルム内に残存しやすいため、ラミネートした際に残存する溶剤に起因した発泡が生じたり、真空成形時に発泡したりすることにより、外観不良となったり、十分な接着力が得られない場合がある。このような観点から、基材11にABS樹脂及びASA樹脂を用いる場合は、熱ラミネーションを採用することが好ましい。
【0015】
本発明においては、印刷フィルム11bの25℃における曲げ弾性率は、ベースフィルム11aの25℃における曲げ弾性率よりも大きいことを要する。ここで、曲げ弾性率は、JIS K7171に準拠して測定された値である。このような構成とすることで、ベースフィルム11aと印刷フィルム11bとを熱ラミネーションによってラミネートする場合であっても、両フィルムの良好な接着力が得られる。このような観点から、ベースフィルム11の曲げ弾性率は、500〜4,000MPaが好ましく、750〜3,000MPaがより好ましく、1,000〜2,300MPaがさらに好ましい。また、印刷フィルム11bの曲げ弾性率は、1,000〜4,000MPaが好ましく、1,000〜2,500MPaであることがより好ましい。
ベースフィルム11aの曲げ弾性率が上記範囲内であると、ロール・トゥ・ロールで印刷フィルム11bと熱ラミネーションする際に、十分な張力をかけることができ、たるみが発生しにくくなるため、ベースフィルム11a の印刷フィルム11bに対する追従性が良好となる。よって、両フィルム間にエアがみ(空気の溜まり)やシワが発生することがなく、良好にラミネーションすることが可能となる。
また、印刷フィルム11bの曲げ弾性率が上記範囲内であると、ロール・トゥ・ロールで十分な張力をかけることができ、たるみが発生しにくくなるため、絵柄がずれることなく重ねて印刷することができる、すなわち絵柄見当が良好となる。さらに、ベースフィルム11a及び印刷フィルム11bの曲げ弾性率が上記範囲内であると、加飾シートは十分な剛性が得られ、真空成形時の形状安定性も良好なものとなる。
【0016】
また、ベースフィルム11a及び印刷フィルム11bの曲げ弾性率の差は、200〜2,000MPaであることが好ましく、500〜1,500MPaであることがより好ましい。ベースフィルム11aと印刷フィルム11bとは、そのいずれか一方あるいはその両方を加熱して、熱ラミネーションすることができる。ここで、印刷フィルム11bを加熱すると該フィルムの軟化、溶融などにより絵柄層が伸びてしまい、結果として絵柄に歪みが生じるおそれがある。よって、ベースフィルム11aのみを加熱し、軟化、溶融させた状態で印刷フィルムとラミネーションすることが好ましい。また、その際、印刷フィルム11bは軟化、溶融せず、剛性を有した状態であることが好ましい。ベースフィルム11a及び印刷フィルム11bの曲げ弾性率の差が上記範囲内であれば、軟化、溶融する温度まで加熱したベースフィルム11aを印刷フィルム11bと接触させ、熱ラミネーションしても印刷フィルム11bは剛性を保持することができ、ラミネーション後も絵柄が歪むことがない。
【0017】
ベースフィルム11aの厚さは、100〜700μmであることが好ましく、150〜500μmであることがより好ましい。ベースフィルム11aの厚さが上記範囲内であると、加飾シートは十分な剛性を有することとなり、優れた表面特性と成形性が得られる。印刷フィルム11bの厚さは、50〜300μmであることが好ましく、70〜200μmであることがより好ましい。印刷フィルム11bの厚さが上記範囲内であると、印刷フィルム11b上に第一絵柄層12や第二絵柄層14、あるいは表面保護層15を設ける際の印刷作業性に優れ、かつ優れた表面特性も得られる。
また、ベースフィルム11bの厚さは、印刷フィルム11aよりも薄いことが好ましい。このことにより、フィルムのたるみがなく、絵柄見当が良好となるので、良好な印刷作業性(生産性)が得られる。
ベースフィルム11a及び印刷フィルム11bの合計厚さ、すなわち基材11の厚さは、200〜1000μmが好ましく、200〜700μmがより好ましく、250〜500μmがさらに好ましい。基材11の厚さが上記範囲内であると、優れた表面物性、成形性及び意匠性も得られる。
【0018】
ベースフィルム11a及び印刷フィルム11bは、その上に設けられる層との密着性を向上させるために、所望により、片面又は両面に酸化法や凹凸化法などの物理的又は化学的表面処理を施すことができる。
上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸化処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線処理法などが挙げられ、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理は、基材の種類に応じて適宜選択されるが、一般にはコロナ放電処理法が効果及び操作性などの面から好ましく用いられる。
また該基材はプライマー層を形成するなどの処理を施してもよいし、色彩を整えるための塗装や、デザイン的な観点での模様があらかじめ形成されていてもよい。
【0019】
≪第一絵柄層≫
第一絵柄層12は加飾樹脂成形品に装飾性を与えるものであり、所望により設けられる層であり、図2に示されるように、印刷フィルム11bと表面保護層との間、好ましくは印刷フィルム11b上に設けられる。第一絵柄層12は、種々の模様を、グラビア印刷、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、転写シートからの転写による印刷、インクジェット印刷などの通常の印刷方法により形成される。模様としては、木目模様、大理石模様(例えばトラバーチン大理石模様)などの岩石の表面を模した石目模様、布目や布状の模様を模した布地模様、タイル貼模様、煉瓦積模様などがあり、これらを複合した寄木、パッチワークなどの模様もある。これらの模様は通常の黄色、赤色、青色、及び黒色のプロセスカラーによる多色印刷によって形成される他、模様を構成する個々の色の版を用意して行う特色による多色印刷などによっても形成される。
【0020】
第一絵柄層12に用いるインキ組成物としては、バインダーに顔料、染料などの着色剤、体質顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤などを適宜混合したものが使用される。該バインダーとしては特に制限はなく、例えば、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ブチラール樹脂、ポリスチレン樹脂、ニトロセルロース樹脂、酢酸セルロース樹脂などの中から任意のものが、1種単独で又は2種以上を混合して用いられる。
着色剤としては、カーボンブラック(墨)、鉄黒、チタン白、アンチモン白、黄鉛、チタン黄、弁柄、カドミウム赤、群青、コバルトブルーなどの無機顔料、キナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー、フタロシアニンブルーなどの有機顔料又は染料、アルミニウム、真鍮などの鱗片状箔片からなる金属顔料、二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛などの鱗片状箔片からなる真珠光沢(パール)顔料などが用いられる。
【0021】
≪隠蔽層≫
本発明の加飾シート10は、所望により、基材11と第一絵柄層12との間に隠蔽層(図示しない。)を設けてもよい。基材11表面の色の変化、ばらつきにより、加飾シート10の柄の色に影響を及ぼさないようにする目的で設けられる。隠蔽層はグラビア印刷、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、転写シートからの転写による印刷、インクジェット印刷などの通常の印刷方法や、グラビアコート、グラビアリバースコート、グラビアオフセットコート、スピンナーコート、ロールコート、リバースロールコートなどの通常の塗布方法により形成される。
隠蔽層は、通常不透明色で形成することが多く、その厚さは1〜20μm程度の、いわゆるベタ印刷層が好適に用いられる。隠蔽層を形成するインキ組成物は、上記した第一絵柄層12に用いられるものから適宜選択して採用することができる。
【0022】
≪プライマー層≫
本発明の加飾シート10は、表面保護層15の延伸部に微細な割れや白化を生じにくくするため、所望により、第一絵柄層12と表面保護層15との間にプライマー層13を設けることができる。プライマー層13は、図2に示されるように、所望により設けられる第一絵柄層12と第二絵柄層14との間に設けることが好ましい。
プライマー層13の厚さは0.1μm以上であることが好ましい。0.1μm以上であると、表面保護層の割れ、破断、白化等を防ぐ効果を有する。一方、プライマー層13の厚さが10μm以下であれば、プライマー層を塗布した際、塗膜の乾燥、硬化が安定であるので成形性が変動することが無く好ましい。この観点からプライマー層13の厚さは1〜10μmであることが好ましい。
【0023】
また、プライマー層13は、下記測定条件で測定した120℃における破断伸度が150%以上であることが好ましく、200%以上であることがさらに好ましい。破断伸度が150%以上であると、真空成形時において表面保護層の延伸部に微細な割れや白化が生じにくい。
(破断伸度測定の測定条件)
JIS K 7127:1999に準拠し、該プライマー層を構成するプライマー組成物を架橋硬化(50℃72時間加熱)して製膜した幅25mm×長さ(チャック間距離)50mm×厚さ40±10μmのサンプルを120℃のオーブン投入後、120秒放置した後、引張速度:50mm/minで破断伸度を測定する。
【0024】
プライマー層13は、上記したように好ましくは第一絵柄層12と第二絵柄層14との間に設けられる層であるため、図2に示されるように、第二絵柄層14と表面保護層15とに同時に触れる場合がある。よって、後述する、第二絵柄インキのバインダー樹脂と、表面保護層を形成する電離放射線硬化性樹脂との相互作用によって発現させる凹凸感により意匠性を向上させるという意匠性向上の効果を阻害しないよう、プライマー層14を形成する樹脂は、第二絵柄層を形成する熱可塑性樹脂、あるいは表面保護層を形成する電離放射線硬化性樹脂との相互作用を生じない性質を有するものを選定することが好ましい。
【0025】
このようなプライマー層13を構成するプライマー組成物としては、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル/ウレタン共重合体樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリエチレンなどをバインダー樹脂とするものが好ましく用いられ、これらの樹脂は一種又は二種以上を混合して用いることができる。これらのなかでも、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、及び(メタ)アクリル/ウレタン共重合体樹脂が好ましい。また、後述する第二絵柄インキ層15と表面保護層16とによる艶差発現の効果をより顕著にする観点から、プライマー層14の形成においては、架橋剤(硬化剤)を用いることが好ましい。
【0026】
(メタ)アクリル樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体、2種以上の異なる(メタ)アクリル酸エステルモノマーの共重合体、又は(メタ)アクリル酸エステルと他のモノマーとの共重合体が挙げられ、具体的には、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸プロピル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸メチル/(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、(メタ)アクリル酸エチル/(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸メチル共重合体、スチレン/(メタ)アクリル酸メチル共重合体などの(メタ)アクリル酸エステルを含む単独又は共重合体からなる(メタ)アクリル樹脂などが好適に挙げられる。ここで(メタ)アクリルとはアクリル又はメタクリルを意味する。
【0027】
ウレタン樹脂としては、ポリオール(多価アルコール)を主剤とし、イソシアネートを架橋剤(硬化剤)とするポリウレタンを使用できる。ポリオールとしては、分子中に2個以上の水酸基を有するもので、例えばポリエステルポリオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、アクリルポリオール、ポリエーテルポリオールなどが使用される。前記イソシアネートとしては、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する多価イソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネート、或いはヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートなどの脂肪族(又は脂環族)イソシアネートが用いられる。また、ウレタン樹脂とブチラール樹脂を混ぜて構成することも可能である。
架橋後の表面保護層15との密着性、表面保護層15を積層後の相互作用の生じにくさ、物性、成形性の面から、ポリオールとしてアクリルポリオールあるいはポリエステルポリオールと、架橋剤(硬化剤)としてヘキサメチレンジイソシアネート、あるいは4,4−ジフェニルメタンジイソシアネートとから組み合わせることが好ましく、特にアクリルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネートとの組み合わせが好ましい。
【0028】
(メタ)アクリル/ウレタン共重合体樹脂としては、例えばアクリル/ウレタン(ポリエステルウレタン)ブロック共重合系樹脂が好ましい。硬化剤としては、上記の各種イソシアネートが用いられる。アクリル/ウレタン(ポリエステルウレタン)ブロック共重合系樹脂は所望により、アクリル/ウレタン比(質量比)を好ましくは9/1〜1/9、より好ましくは8/2〜2/8の範囲で調整し、種々の加飾シートに用いることができるので、プライマー組成物に用いられる樹脂として特に好ましい。
【0029】
<無機粒子>
また、プライマー層13は、より艶差を生じさせて意匠性を向上させる観点から、無機粒子を含むことが好ましい。無機粒子としては、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、カオリンなどの無機粒子が好ましく挙げられる。
無機粒子の平均粒径は、意匠性向上の観点から、0.1〜5μmが好ましく、1〜5μmがより好ましく、2〜5μmがさらに好ましい。また、無機粒子の含有量は、樹脂100質量部に対して0.01〜5質量部が好ましく、0.1〜1質量部がより好ましい。
【0030】
プライマー層13は、グラビアコート、グラビアリバースコート、グラビアオフセットコート、スピンナーコート、ロールコート、リバースロールコート、キスコート、ホイラーコート、ディップコート、シルクスクリーンによるベタコート、ワイヤーバーコート、フローコート、コンマコート、かけ流しコート、刷毛塗り、スプレーコートなどの通常の塗布方法や転写コーティング法により形成される。ここで、転写コーティング法は、薄いシート(フィルム基材)にプライマー層13や接着層の塗膜を形成し、その後に加飾シート10中の対象となる層表面に被覆する方法である。
【0031】
≪接着剤層≫
本発明の加飾シート10は射出樹脂との密着性を向上させるため、所望により、加飾シート10の裏面(表面保護層15とは反対側の面)接着剤層(図示しない。)を設けることができる。接着剤層には、射出樹脂に応じて、熱可塑性樹脂又は硬化性樹脂が用いられる。熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、アクリル変性ポリオレフィン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、熱可塑性ウレタン樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ゴム系樹脂などが挙げられ、これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。また、熱硬化性樹脂としては、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0032】
≪第二絵柄層≫
本発明の加飾シート10は、意匠性を向上させる観点から、熱可塑性樹脂をバインダー樹脂とする絵柄インキにより形成される第二絵柄層14を有することが好ましい。この第二絵柄層14は、該第二絵柄層14を形成するインキのバインダー樹脂である熱可塑性樹脂と、後述する表面保護層15を形成する電離放射線硬化性樹脂との相互作用により、該表面保護層15中であって、該第二絵柄層14の直上部及びその近傍に、低光沢領域を有する低艶模様層を形成する層である。第二絵柄層14は、基材11(印刷フィルム11a)の上、あるいは図1に示すようにプライマー層13の上などに、部分的に設けられる層であり、上記の低光沢領域を有する低艶模様層を形成することにより、模様の艶差を発生させて、凹凸感を発現するものである。
【0033】
本発明における艶差発生の機構については、十分解明されるには至っていないが、各種実験と観察、測定の結果から、第二絵柄層14の表面に表面保護層15を形成するための電離放射線硬化性樹脂組成物の未硬化物を塗布した際に、各材料の組合せ、塗布条件の適当な選択によって、第二絵柄層14を形成する第二絵柄インキのバインダー樹脂と電離放射線硬化性樹脂とが、一部溶出、分散、混合などの相互作用を発現することによるものと推測される。この際、第二絵柄層14のインキと電離放射線硬化性樹脂組成物の未硬化物におけるそれぞれの樹脂は、短時間には完全相溶状態にならずに懸濁状態となって、第二絵柄層14の直上部及びその近傍に存在し、該懸濁状態となった部分が光を散乱して低光沢領域をなすものと考えられる。この懸濁状態を有したまま、電離放射線硬化性樹脂組成物を架橋硬化させて表面保護層を形成することにより、かかる状態が固定されると、表面保護層中に低光沢領域を有する低艶模様層16が部分的に形成され、目の錯覚により、その部分が視覚的に凹部であるかのように認知されるものと推測される。また、その際、第二絵柄層14の塗布量が相対的に、より多くなるに従って、第二絵柄層14の表面保護層15中への溶出量は、相対的に増加して、該懸濁状態の程度はより高く、低艶模様層16の光沢はより低くなると考えられる。
【0034】
本発明において、低光沢領域を有する低艶模様層16は、第二絵柄層14を形成するインキのバインダー樹脂である熱可塑性樹脂と、表面保護層15を形成する電離放射線硬化性樹脂との、一部溶出、分散、混合などの相互作用により形成するものである。よって、第二絵柄層14を形成する第二絵柄インキは、表面保護層15を形成する電離放射線硬化性樹脂組成物との間で相互作用を発現し得る性質を有するバインダー樹脂により構成されるものであることを要し、そのようなバインダー樹脂としては、通常イソシアネートなどの架橋剤(硬化剤)を併用しない樹脂、好ましくは熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0035】
このような熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、硝化綿などのニトロセルロース樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール樹脂などが好ましく挙げられる。これらの中でも、後述する表面保護層15を形成する電離放射線硬化性樹脂組成物の電離放射線硬化性樹脂として採用されるポリカーボネート(メタ)アクリレート及び/又はアクリルシリコーン(メタ)アクリレートとの相性、すなわち白化などが生じにくい観点から、アクリル樹脂、硝化綿などのニトロセルロース樹脂が好ましく、とりわけアクリル樹脂が好ましい。アクリル樹脂としては、重量平均分子量が100,000〜1,000,000のものが好ましく、150,000〜700,000のものがより好ましく、200,000〜500,000のものがさらに好ましい。重量平均分子量が100,000以上であると、チキソ性が低くなることにより低艶模様層の凹凸感が発現しにくくなるということがない。一方、1,000,000以下であると、第二絵柄インキのインキ化が困難となることがなく、また印刷時に被膜が形成しにくく転移不良となることがないので好ましい。
【0036】
意匠性の向上の観点から、表面保護層15を形成する電離放射線硬化性樹脂との関係で、第二絵柄層14のみを懸濁状態とし、プライマー層13及び第一絵柄層12が懸濁状態とならないようにするため、第二絵柄インキのバインダー樹脂と第一絵柄層12を形成するインキ組成物及びプライマー組成物のバインダー樹脂とが異なっていることが好ましい。また、第二絵柄インキに架橋剤を用いず、そのバインダー樹脂として熱可塑性樹脂を採用することで、意匠性の向上を図ることもできる。
また、必要に応じて、低光沢領域の発現の程度、低艶領域とその周囲との艶差のコントラストを調整するため、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、又は塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体などを混合することができる。
【0037】
第二絵柄層14を形成する第二絵柄インキは第一絵柄層12に用いるインキ組成物と同様に、着色剤を有し、それ自体でも絵柄模様を与えることができるが、図1に示すような第一絵柄層12を有する場合には、既に基材11に対して色彩や模様を与えているので、第二絵柄層14を形成する第二絵柄インキには、必ずしも着色剤を添加して着色する必要はない。すなわち、第一絵柄層12を有する場合には、第一絵柄層12が表現しようとする模様のうち、艶を消して、視覚的に凹部を表現したい部分と第二絵柄層14とを同調させることによって艶差による視覚的凹部を有する模様が得られる。例えば、第一絵柄層12によって木目模様を表現しようとする場合には、木目の導管部分に第二絵柄層14の絵柄インキ部分を同調させることにより、艶差により導管部分が視覚的に凹部となった模様が得られる。あるいは第一絵柄層12によって、タイル貼模様を表現しようとする場合には、タイル貼の目地溝部分に第二絵柄層14の第二絵柄インキ部分を同調させることにより、艶差によって、目地溝部分が視覚的に凹部となった模様が得られる。
【0038】
第二絵柄層14を形成する絵柄インキの塗布膜厚については、0.1〜10μmであることが好ましい。0.1μm以上であると、上述した第二絵柄インキと電離放射線硬化性樹脂組成物との相互作用が起こり、低光沢領域が十分得られるため、化粧シート表面の十分な艶差が得られる。一方10μm以下であると、第二絵柄インキの印刷に際して機械的制約がなく、また経済的にも有利である。以上の観点から、第二絵柄インキの塗布膜厚はさらに0.6〜7μmの範囲であることが好ましい。
【0039】
本発明では、第二絵柄層14を形成する第二絵柄インキの塗布量を変化させることによって、化粧材表面の艶差が段階的に変化する階調模様、または化粧材表面の艶差が連続的に変化する連続模様など、自由自在に与えることができる。例えば、表面保護層15の最表面における、第二絵柄層14(低艶模様層16)の上部は、第二絵柄層14の形成に伴って隆起し、凸形状17を形成することができる。表面保護層15の表面がこのように凸形状17を有することによって、この部分で光が散乱され、表面積が増加し、かつ低艶が認識できる視野角も広がるため、上記低艶模様層16の効果と協調してさらに視覚的な凹凸感が強調され、また物理的に凸形状であるにも関わらず、視覚的に凹部として認識されるという特異な意匠感が得られる。
【0040】
<体質顔料>
また、第二絵柄層14は、より艶差を生じさせて意匠性を向上させる観点から、体質顔料無機粒子を含むことが好ましい。体質顔料としては、特に限定されず、シリカ、タルク、クレー、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等が上げられるが、吸油量、粒径、細孔容積等の材料設計の自由度が高く、意匠性、インキとしての塗布安定性に優れていることから、シリカが好ましく、特に微粉末のシリカが好ましい。
【0041】
体質顔料の吸油量(JIS K 5101−13−1:2004に準拠する)は、150〜350ml/100gであることが好ましく、150〜300ml/100gであることがより好ましい。体質顔料の吸油量が150ml/100g以上であると、表面保護層/第二絵柄層のグロス値が高くなりすぎないため、表面保護層のみの部分と表面保護層/第二絵柄層の部分との艶差が大きくなるので、高い意匠性を発揮しやすくなる。一方、体質顔料の吸油量が350ml/100g以下であると、表面保護層/第二絵柄層のグロス値を低くする性能を効果的に利用することができる。また、チキソ性の上昇が抑制されるので、塗布適性が損なわれることがなく、高意匠性を有する印刷が容易になる。
【0042】
第二絵柄層を形成する第二絵柄インキ中の体質顔料の含有量は、体質顔料/樹脂の質量比(P/V比)として0.2〜1.5であることが好ましい。P/V比が0.2以上であると、高い意匠性を発揮しやすく、1.5以下であると、第二絵柄インキの柔軟性を損なうことがなく、成形時に表面保護層にクラックが生じにくくなるからである。これと同様の観点から、P/V比は0.2〜1.2であることが好ましい。
【0043】
本発明において、第二絵柄層に体質顔料として好ましく用いられるシリカの平均粒径は、0.1〜7μmであることが好ましい。0.1μm以上であるとインキに添加した際にインキのチキソ性が極端に高くならず、またインキの粘性が上がりすぎず印刷のコントロールがしやすい。また、導管模様部分の艶消しを表現しようとした場合、導管模様部分の第二絵柄層の好適な厚さが7μm以下であるので、シリカの平均粒径が第二絵柄層の厚さ以下であれば粒子の頭だしが比較的押えられ目立たなくなり、視覚的な違和感がおこりにくくなるからである。
【0044】
≪表面保護層≫
表面保護層15は、本発明の加飾シートに、優れた表面特性を付与するために設けられる必須の層である。また、上記した第二絵柄層14が設けられる場合には、該第二絵柄層14上に存在してこれと接触すると共に、該第二絵柄層14が形成された領域及び該第二絵柄層14が形成されていない領域とを含む全面にわたって被覆するように設けられる層であり、電離放射線硬化性樹脂としてポリカーボネート(メタ)アクリレート及び/又はアクリルシリコーン(メタ)アクリレートを含む電離放射線硬化性樹脂組成物を架橋硬化して得られる層である。表面保護層15は、上記した第二絵柄層14の存在により、低光沢領域を有する低艶模様層16を発現させることで、優れた意匠性をも付与しうる層となる。
【0045】
<電離放射線硬化性樹脂組成物>
電離放射線硬化性樹脂組成物とは、電離放射線硬化性樹脂を含有する組成物をいう。電離放射線硬化性樹脂とは、電離放射線を照射することにより、架橋、硬化する樹脂を指す。ここで、なお、ここで電離放射線とは、電磁波又は荷電粒子線のうち、分子を重合あるいは架橋しうるエネルギー量子を有するものを意味し、通常紫外線(UV)又は電子線(EB)が用いられるが、その他、X線、γ線などの電磁波、α線、イオン線などの荷電粒子線も含むものである。
本発明においては、電離放射線硬化性樹脂として、ポリカーボネート(メタ)アクリレート及び/又はアクリルシリコーン(メタ)アクリレートが用いられる。本発明において、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート又はメタクリレート」を意味し、他の類似するものも同様の意である。
【0046】
(ポリカーボネート(メタ)アクリレート)
本発明に用いられるポリカーボネート(メタ)アクリレートは、ポリマー主鎖にカーボネート結合を有し、かつ末端あるいは側鎖に(メタ)アクリレートを有するものであれば特に限定されない。また、この(メタ)アクリレートは、架橋、硬化する観点から、2官能以上有することが好ましい。
【0047】
このポリカーボネート(メタ)アクリレートは、例えば、ポリカーボネートポリオールの水酸基の一部又は全てを(メタ)アクリレート(アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル)に変換して得られる。このエステル化反応は、通常のエステル化反応によって行うことができる。例えば、1)ポリカーボネートポリオールとアクリル酸ハライド又はメタクリル酸ハライドとを、塩基存在下に縮合させる方法、2)ポリカーボネートポリオールとアクリル酸無水物又はメタクリル酸無水物とを、触媒存在下に縮合させる方法、あるいは3)ポリカーボネートポリオールとアクリル酸又はメタクリル酸とを、酸触媒存在下に縮合させる方法などが挙げられる。
【0048】
上記のポリカーボネートポリオールは、ポリマー主鎖にカーボネート結合を有し、末端あるいは側鎖に2個以上、好ましくは2〜50個の、より好ましくは3〜50個の水酸基を有する重合体である。このポリカーボネートポリオールの代表的な製造方法は、ジオール化合物(A)、3価以上の多価アルコール(B)、及びカルボニル成分となる化合物(C)とから重縮合反応による方法である。
原料として用いられるジオール化合物(A)は、一般式HO−R1−OHで表される。ここで、R1は、炭素数2〜20の2価炭化水素基であって、基中にエーテル結合を含んでいても良い。例えば、直鎖、又は分岐状のアルキレン基、シクロヘキシレン基、フェニレン基である。
【0049】
ジオール化合物の具体例としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。これらジオールは、それを単独で用いても、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0050】
また、3価以上の多価アルコール(B)の例としては、トリメチロールプルパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、グリセリン、ソルビトールなどのアルコール類を挙げることができる。さらに、これらの多価アルコールの水酸基に対して、1〜5当量のエチレンオキシド、プロピレンオキシド、あるいはその他のアルキレンオキシドを付加させた水酸基を有するアルコール類であっても良い。多価アルコールは、これらを単独で用いても、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0051】
カルボニル成分となる化合物(C)は、炭酸ジエステル、ホスゲン、又はこれらの等価体の中から選ばれるいずれかの化合物である。その具体例としては、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジイソプロピル、炭酸ジフェニル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどの炭酸ジエステル類、ホスゲン、あるいはクロロギ酸メチル、クロロギ酸エチル、クロロギ酸フェニルなどのハロゲン化ギ酸エステル類などが挙げられる。これらは、単独で用いても、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0052】
ポリカーボネートポリオールは、前記したジオール化合物(A)、3価以上の多価アルコール(B)、及びカルボニル成分となる化合物(C)とを、一般的な条件下で重縮合反応することにより合成される。例えば、ジオール化合物(A)と多価アルコール(B)との仕込みモル比は、50:50〜99:1の範囲にあることが好ましく、また、カルボニル成分となる化合物(C)のジオール化合物(A)と多価アルコール(B)に対する仕込みモル比は、ジオール化合物及び多価アルコールの持つ水酸基に対して、0.2〜2当量であることが好ましい。
【0053】
前記の仕込み割合で重縮合反応した後のポリカーボネートポリオール中に存在する水酸基の当量数(eq./mol)は、1分子中に平均して3以上、好ましくは3〜50、より好ましくは3〜20である。この範囲であると、後述するエステル化反応によって必要な量の(メタ)アクリレート基が形成され、またポリカーボネート(メタ)アクリレート樹脂に適度な可撓性が付与される。なお、このポリカーボネートポリオールの末端官能基は、通常はOH基であるが、その一部がカーボネート基であってもよい。
以上説明したポリカーボネートポリオールの製造方法は、例えば、特開昭64−1726号公報に記載されている。また、このポリカーボネートポリオールは、特開平3−181517号公報に記載されているように、ポリカーボネートジオールと3価以上の多価アルコールとのエステル交換反応によっても製造することができる。
【0054】
本発明に用いられるポリカーボネート(メタ)アクリレートの分子量は、GPC分析によって測定され、かつ標準ポリスチレンで換算された重量平均分子量が、500以上であることが好ましく、1,000以上であることがより好ましく、2,000を超えることがさらに好ましい。ポリカーボネート(メタ)アクリレートの重量平均分子量の上限は特に制限されないが、粘度が高くなり過ぎないように制御する観点から100,000以下が好ましく、50,000以下がより好ましい。耐傷付き性と三次元成形性とを両立させる観点から、さらに好ましくは、2,000を超え50,000以下であり、特に好ましくは、5,000〜20,000である。
【0055】
(アクリルシリコーン(メタ)アクリレート)
本発明に用いられるアクリルシリコーン(メタ)アクリレートは、特に限定されず、1分子中に、アクリル樹脂の構造の一部がシロキサン結合(Si−O)に置換しており、かつ官能基としてアクリル樹脂の側鎖及び/又は主鎖末端に(メタ)アクリロイルオキシ基(アクリロイルオキシ基又はメタアクリロイルオキシ基)を2個以上有しているものであればよい。このアクリルシリコーン(メタ)アクリレートの例としては、例えば、特開2007−070544号公報に開示されるような側鎖にシロキサン結合を有するアクリル樹脂の構造が好ましく挙げられる。
【0056】
本発明に用いられるアクリルシリコーン(メタ)アクリレートは、例えばラジカル重合開始剤の存在下、シリコーンマクロモノマーを(メタ)アクリレートモノマーとラジカル共重合させることにより合成することができる。
(メタ)アクリレートモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これら(メタ)アクリレートモノマーは1種を単独で又は2種を組み合わせて用いられる。
【0057】
シリコーンマクロモノマーは、例えば、n−ブチルリチウム又はリチウムシラノレートを重合開始剤として、ヘキサアルキルシクロトリシロキサンをリビングアニオン重合し、更にラジカル重合性不飽和基含有シランでキャッピングして合成される。シリコーンマクロモノマーとしては、下記式(1);
【0058】
【化1】

で表される化合物が好適に用いられる。ここで、式(1)中、R1は、炭素数1〜4のアルキル基を示し、メチル基又はn−ブチル基が好ましい。R2は、1価の有機基を示し、−CH=CH2、−C64−CH=CH2、−(CH23O(CO)CH=CH2又は−(CH23O(CO)C(CH3)=CH2が好ましい。R3は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、炭素数1〜6の炭化水素基を示し、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基が好ましく、メチル基がより好ましい。また、nの数値は特に制限されず、例えばシリコーンマクロモノマーの数平均分子量が1,000〜30,000が好ましく、1,000〜20,000がより好ましい。
【0059】
上述の原料を用いて得られるアクリルシリコーン(メタ)アクリレートは、例えば、下記式(2)、(3)及び(4)で表される構造単位を有する。
【0060】
【化2】

式(2)、(3)及び(4)中、R1、R3は式(1)におけるものと同義であり、R4は水素原子又はメチル基を示し、R5は上記(メタ)アクリレートモノマー中のアルキル基又はグリシジル基あるいは上記(メタ)アクリレートモノマー中のアルキル基又はグリシジル基等の官能基を有していてもよいアルキル基を示し、R6は(メタ)アクリロイルオキシ基を有する有機基を示す。
上述のアクリルシリコーン(メタ)アクリレートは、1種を単独で又は2種を組み合わせて用いられる。
【0061】
上記のアクリルシリコーン(メタ)アクリレートの分子量は、GPC分析によって測定され、かつ標準ポリスチレンで換算された重量平均分子量が、1,000以上であることが好ましく、2,000以上であることがより好ましい。アクリルシリコーン(メタ)アクリレートの重量平均分子量の上限は特に制限されないが、粘度が高くなり過ぎないように制御する観点から150,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましい。三次元成形性と耐薬品性と耐傷付き性とを鼎立させる観点から、2,000〜100,000であることが特に好ましい。
【0062】
また、アクリルシリコーン(メタ)アクリレートの架橋点間平均分子量は、100〜2,500であることが好ましい。架橋点間平均分子量が100以上であれば、三次元成形性の観点から好ましく、2,500以下であれば、耐薬品性及び耐傷付き性の観点から好ましい。アクリルシリコーン(メタ)アクリレートの架橋点間平均分子量は、同様の観点から、より好ましくは100〜1,500、さらに好ましくは100〜1,000である。
【0063】
本発明の電離放射線硬化性樹脂組成物において、ポリカーボネート(メタ)アクリレートとアクリルシリコーン(メタ)アクリレートは各々単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0064】
(多官能(メタ)アクリレート)
本発明で用いられる電離放射線硬化性樹脂組成物は、多官能(メタ)アクリレートを含んでいてもよい。本発明において、多官能(メタ)アクリレートは、2官能以上の(メタ)アクリレートであれば特に制限はない。ただし、硬化性の観点から3官能以上の(メタ)アクリレートが好ましい。ここで、2官能とは、分子内にエチレン性不飽和結合である(メタ)アクリロイル基を2個有することをいう。
また、多官能(メタ)アクリレートは、オリゴマー及びモノマーのいずれでも良いが、三次元成形性向上の観点から多官能(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましい。
【0065】
多官能(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、例えばエポキシ(メタ)アクリレート系、ウレタン(メタ)アクリレート系、ポリエステル(メタ)アクリレート系、ポリエーテル(メタ)アクリレート系などが好ましく挙げられる。
さらに、多官能(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、他にポリブタジエンオリゴマーの側鎖に(メタ)アクリレート基をもつ疎水性の高いポリブタジエン(メタ)アクリレート系オリゴマー、主鎖にポリシロキサン結合をもつシリコーン(メタ)アクリレート系オリゴマー、小さな分子内に多くの反応性基をもつアミノプラスト樹脂を変性したアミノプラスト樹脂(メタ)アクリレート系オリゴマーなどが挙げられる。また、多官能(メタ)アクリレートと併用して、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂肪族ビニルエーテル、芳香族ビニルエーテルなどの分子中にカチオン重合性官能基を有するオリゴマーなどを用いてもよい。
これらのオリゴマーの重量平均分子量は、1,000〜20,000であることが好ましく、1,000〜10,000であることがより好ましい。
【0066】
また、上記の多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの多官能性(メタ)アクリレートは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
本発明において、多官能(メタ)アクリレートの含有量は、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、あるいはアクリルシリコーン(メタ)アクリレートと該多官能(メタ)アクリレートとの質量比が98:2〜60:40であることが好ましい。該質量比が98:2よりも小さければ(即ち、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、あるいはアクリルシリコーン(メタ)アクリレートの量が98質量%以下であると)、耐傷付き性が低下することがない。一方、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、あるいはアクリルシリコーン(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレートの質量比が60:40より大きくなると(即ち、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、あるいはアクリルシリコーン(メタ)アクリレートの量が70質量%以上となると)、三次元成形性が低下することがない。好ましくは、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、あるいはアクリルシリコーン(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレートの質量比が95:5〜65:35であり、さらに好ましくは90:10〜65:35である。
【0068】
本発明においては、前記多官能性(メタ)アクリレートなどとともに、その粘度を低下させるなどの目的で、単官能性(メタ)アクリレートを、本発明の目的を損なわない範囲で適宜併用することができる。これらの単官能性(メタ)アクリレートは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
電離放射線硬化性樹脂組成物として紫外線硬化性樹脂組成物を用いる場合には、光重合用開始剤を紫外線硬化性樹脂100質量部に対して、0.1〜5質量部程度添加することが望ましい。光重合用開始剤としては、従来慣用されているものから適宜選択することができ、特に限定されない。
【0070】
本発明においては、電離放射線硬化性樹脂組成物として電子線硬化性樹脂組成物を用いることが好ましい。電子線硬化性樹脂組成物は無溶剤化が可能であって、環境や健康の観点からより好ましく、かつ、光重合用開始剤を必要とせず、安定な硬化特性が得られるからである。
【0071】
また本発明における表面保護層を構成する電離放射線硬化性樹脂組成物には、得られる硬化樹脂層の所望物性に応じて、各種添加剤を配合することができる。この添加剤としては、例えば紫外線吸収剤や光安定剤などの耐候性改善剤や、耐摩耗性向上剤、重合禁止剤、架橋剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、接着性向上剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、カップリング剤、可塑剤、消泡剤、充填剤、溶剤、着色剤、艶消し剤などが挙げられる。これらの添加剤は、常用されるものから適宜選択して用いることができる。
また、紫外線吸収剤や光安定剤として、分子内に(メタ)アクリロイル基などの重合性基を有する反応性の紫外線吸収剤や光安定剤を用いることもできる。また、本発明のポリマーの表面保護層としての性能(耐傷付き性と三次元成形性)を損なわない程度に共重合して使用することもできる。
【0072】
(表面保護層の形成)
表面保護層15の形成は上述の電離放射線硬化性樹脂組成物を含有する塗布液を調製し、これを塗布し、架橋硬化することで得ることができる。なお、塗布液の粘度は、後述の塗布方式により、基材の表面に未硬化樹脂層を形成し得る粘度であれば良く、特に制限はない。
本発明においては、調製された塗布液を、印刷フィルム11b、第二絵柄層14が形成された印刷フィルム11b、第一絵柄層12又はプライマー層13の上に、硬化後の厚さが1〜1000μmになるように、グラビアコート、バーコート、ロールコート、リバースロールコート、コンマコートなどの公知の方式、好ましくはグラビアコートにより塗布し、未硬化樹脂層を形成させる。
【0073】
本発明においては、このようにして形成された未硬化樹脂層に、電子線、紫外線などの電離放射線を照射して該未硬化樹脂層を硬化させて表面保護層15を形成する。ここで、電離放射線として電子線を用いる場合、その加速電圧については、用いる樹脂や層の厚みに応じて適宜選定し得るが、通常加速電圧70〜300kV程度で未硬化樹脂層を硬化させることが好ましい。
なお、電子線の照射においては、加速電圧が高いほど透過能力が増加するため、基材11として電子線により劣化する基材を使用する場合には、電子線の透過深さと樹脂層の厚みが実質的に等しくなるように、加速電圧を選定することにより、基材11への余分の電子線の照射を抑制することができ、過剰電子線による基材の劣化を最小限にとどめることができる。
また、照射線量は、樹脂層の架橋密度が飽和する量が好ましく、通常5〜300kGy(0.5〜30Mrad)、好ましくは10〜50kGy(1〜5Mrad)の範囲で選定される。
さらに、電子線源としては、特に制限はなく、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器を用いることができる。
【0074】
電離放射線として紫外線を用いる場合には、波長190〜380nmの紫外線を含むものを放射する。紫外線源としては特に制限はなく、例えば高圧水銀燈、低圧水銀燈、メタルハライドランプ、カーボンアーク燈などが用いられる。
【0075】
このようにして、形成された硬化樹脂層には、各種の添加剤を添加して各種の機能、例えば、高硬度で耐傷付き性を有する、いわゆるハードコート機能、防曇コート機能、防汚コート機能、防眩コート機能、反射防止コート機能、紫外線遮蔽コート機能、赤外線遮蔽コート機能などを付与することもできる。
【0076】
本発明においては、表面保護層15の硬化後の厚さが1〜1000μmであることが好ましい。表面保護層15の硬化後の厚さが1μm以上であれば、耐傷付き性、耐候性などの保護層としての十分な物性が得られる。一方、表面保護層15の硬化後の厚さが1000μm以下であれば、電離放射線を均一に照射し易く、均一な硬化が得られ易く、経済的にも有利となる。
また、表面保護層15の硬化後の厚さをより好ましくは1〜50μm、さらに好ましくは1〜30μmとすることにより、三次元成形性が向上し、自動車内装用途などの複雑な3次元形状への高い追従性を得ることができる。従って、本発明の加飾シートにおいて、硬質な電離放射線硬化性樹脂を配合しても優れた三次元成形性を発現させることができ、三次元成形性を損なうことなく、塗膜を硬くすることができるため、加工や実用面で好ましい優れた耐傷付き性を持たせることができる。
本発明の加飾シートは、表面保護層15の厚さを従来のものより厚くしても、十分に高い三次元成形性が得られることから、特に表面保護層に高い膜厚を要求される部材、例えば車両外装部品などの加飾シートとしても有用である。
【0077】
≪低艶模様層16≫
低光沢領域を有する低艶模様層16は、第二絵柄層14を形成するインキのバインダー樹脂である熱可塑性樹脂と、表面保護層15を形成する電離放射線硬化性樹脂との、一部溶出、分散、混合などの相互作用により形成するものであり、表面保護層15中の第二絵柄層14の直上部及びその近傍に形成される層である。本発明の加飾シートは、第二絵柄層14の直上部及びその近傍に形成される低艶模様層16の存在により、該低艶模様層16が存在しない部分との艶差が生じることにより、低艶模様層16が存在する部分が視覚的に凹部として認識され、凹凸感を発現するものである。
【0078】
本発明の加飾シートは、第二絵柄層14が形成された領域と、それを被覆する表面保護層15(以下、「第二絵柄層形成領域/表面保護層」という)と、第二絵柄層14が形成されていない領域とそれを被覆する表面保護層15(以下、「第二絵柄層非形成領域/表面保護層」という)との艶差、すなわち光沢度の差を有することで、凹凸感を得ることができ、優れた意匠性を得ている。
意匠表現の種類により、様々な光沢度の差を利用して意匠性が良好な加飾シートを製造するため、以下のように制限されるものではないが、第二絵柄層形成領域/表面保護層の光沢度(グロス値)が、20以下であると、より意匠性を増す点で好ましい。また第二絵柄層形成領域/表面保護層と、第二絵柄層非形成領域/表面保護層との光沢度の差が10以上であると、より意匠性が増すことができる点でさらに好ましい。
【0079】
[加飾シートの製造方法]
本発明の加飾シートの製造方法は、
工程(I)印刷フィルムの一方の面に、電離放射線硬化性樹脂組成物を架橋硬化させて表面保護層を形成する工程、及び工程(II)印刷フィルムの表面保護層を形成する面とは反対側の面にベースフィルムを積層し、ベースフィルムと印刷フィルムとを有する基材を形成する工程を有することを特徴とするものである。
【0080】
工程(I)の表面保護層の形成工程において、表面保護層の形成順序は所望の加飾シートの構成によって異なるが、例えば加飾シートが図1のような層構成をとる場合は、印刷フィルム11b上に、上記したように電離放射線硬化性樹脂組成物を塗布し、未硬化樹脂層を形成させて、該未硬化樹脂層に電子線、紫外線などの電離放射線を照射して硬化させて表面保護層15を形成する。また、例えば加飾シートが図2のような層構成をとる場合は、印刷フィルム11b上に、上記した方法により、第一絵柄層12、プライマー層13、第二絵柄層14を形成した後、電離放射線硬化性樹脂組成物を塗布し、未硬化樹脂層を形成させて、該未硬化樹脂層に電子線、紫外線などの電離放射線を照射して硬化させて表面保護層15を形成する。
【0081】
工程(II)は、工程(I)により表面保護層15を形成した印刷フィルム11bの、該表面保護層を形成する面とは反対側の面に、ベースフィルム11aを積層し、ベースフィルムと印刷フィルムとを有する基材を形成する工程である。印刷フィルム11bとベースフィルム11aとは、ドライラミネーション、熱ラミネーションのいずれの方法によってラミネートすることができる。本発明においては、上記したように、熱ラミネーションでラミネーションすることが好ましい。
【0082】
[加飾樹脂成形品]
本発明の加飾樹脂成形品は、本発明の加飾シートを用いて作製される。より具体的には、本発明の加飾樹脂成形品は、本発明の加飾シートを用いて、インサート成形法、射出成形同時加飾法、ブロー成形法、ガスインジェクション成形法などの各種射出成形法、好ましくはインサート成形法及び射出成形同時加飾法により作製される。
【0083】
インサート成形法では、真空成形工程において、本発明の加飾シートを真空成形型により予め成形品表面形状に真空成形(オフライン予備成形)し、次いで必要に応じて余分な部分をトリミングして成形シートを得る。この成形シートを射出成形型に挿入し、射出成形型を型締めし、流動状態の樹脂を型内に射出し、固化させて、射出成形と同時に樹脂成形物の外表面に加飾シートを一体化させ、加飾樹脂成形品を製造する。
【0084】
射出樹脂は用途に応じた樹脂が使用され、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂、スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂が代表的である。また、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂なども用途に応じ用いることができる。
【0085】
次に、射出成形同時加飾法においては、本発明の加飾シートを射出成形の吸引孔が設けられた真空成形型との兼用雌型に配置し、この雌型で予備成形(インライン予備成形)を行った後、射出成形型を型締めして、流動状態の樹脂を型内に射出充填し、固化させて、射出成形と同時に樹脂成形物の外表面に加飾シートを一体化させ、加飾樹脂成形品を製造する。
なお、射出成形同時加飾法では、射出樹脂による熱圧を加飾シートが受けるため、平板に近く、加飾シートの絞りが小さい場合には、加飾シートは予熱してもしなくてもよい。
なお、ここで用いる射出樹脂としてはインサート成形法で説明したものと同様のものを用いることができる。
【0086】
以上のようにして製造された加飾樹脂成形体は、その表面保護層に成形過程でクラックが入ることがなく三次元成形性が良好であり、その表面は高い耐傷付き性を有する。また、耐溶剤性及び耐薬品性が高い。さらに本発明の製造方法では、加飾シートの製造段階で表面保護層が完全硬化されるので、加飾樹脂成形体を製造した後に表面保護層を架橋硬化する工程が不要である。
【実施例】
【0087】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
【0088】
評価方法
(1)三次元成形性(真空成形)
各実施例及び比較例で得られた加飾シートについて以下に示す方法で真空成形を行い、成形後の外観にて評価した。評価基準は以下のとおりである。
◎;表面保護層に塗膜割れや白化が全く見られず、良好に型の形状に追従した。
○;三次元形状部又は最大延伸部の一部に微細な塗膜割れ又は白化が認められたが実用上問題なし。
△;三次元形状部又は最大延伸部の一部に軽微な塗膜割れ又は白化が発生した。
×;型の形状に追従できずに表面保護層に塗膜割れや白化が見られる、あるいは加飾シートの厚みが極端に薄くなり、三次元形状を保持できなかった。
<真空成形>
加飾シートを赤外線ヒーターで160℃に加熱し、軟化させる。次いで、真空成形用型を用いて真空成形を行い(最大延伸倍率:100%)、型の内部形状に成形する。シートを冷却後、型より加飾シートを離型する。
【0089】
(2)耐傷付き性
各実施例及び比較例で得られた加飾シートについて、#0000スチールウールを用いて荷重1.5kgfで5回往復後の試験片の外観を評価した。評価基準は以下のとおりである。
◎;傷付きがなかった。
○;表面に微細な傷が認められたが、塗膜の削れや白化はなかった。
△;表面に軽微な傷があった。
×;表面に著しい傷があった。
【0090】
(3)密着性
各実施例及び比較例で得られた加飾シートについて、テンシロン万能試験機(「RTC−1250A(型番)」,株式会社エー・アンド・デイ製)を用いて、加飾シート(幅:25.4mm×長さ:150mm)をチャック間距離80mm、試験速度100mm/minの条件で、ベースフィルム11bと印刷フィルム11aとを180°の角度で100mm強制的に剥離し、剥離強度を測定した。剥離強度の測定値について、下記の基準で評価した。
○;剥離強度が15N/25.4mm以上であった
△;剥離強度が10N/25.4mm以上15N/25.4mm未満であった
×;剥離強度が10N/25.4mm未満であった
【0091】
(4)鉛筆硬度
各実施例及び比較例で得られた加飾シートについて、JIS K5600−5−4に準拠して、鉛筆引掻き塗膜硬さ試験機(「HA−301(型番)」,株式会社東洋精機製作所製)、及び鉛筆引掻き値試験用鉛筆(三菱鉛筆株式会社製)を用いて鉛筆硬度を測定した。
各硬度の鉛筆でインキ塗布層を引掻く試験を5回行い、3回以上傷跡が生じなかった鉛筆の硬度を、試験サンプルの鉛筆硬度とした。
【0092】
(5)印刷作業性(生産性)
印刷フィルムに第一絵柄層、プライマー層、第二絵柄層及び表面保護層の順に積層する工程をロール・トゥ・ロールで行い、下記の基準で評価した。
○;フィルムのたるみがなく、絵柄見当が良好であった
△:フィルムのたるみが若干あったが、絵柄見当は良好で印刷作業性(生産性)に問題はなかった
×;フィルムのたるみがあり、絵柄見当が合わず、また印刷作業性(生産性)が悪化した
【0093】
(6)分子量の測定
東ソー(株)製高速GPC装置を用いた。用いたカラムは東ソー(株)製、商品名「TSKgel αM」であり、溶媒はN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)を用い、カラム温度40℃、流速0.5cc/minで測定を行なった。なお、本発明における重量平均分子量はポリスチレン換算を行った。
【0094】
実施例1
印刷フィルムとしてABS樹脂フィルム(曲げ弾性率;2000MPa、厚さ;100μm,以下「ABS1」と称する。)を用い、該フィルムの表面に、アクリル系樹脂組成物を用いグラビア印刷により木目柄の第一絵柄層を形成した。次いで、第一絵柄層の表面にアクリルポリオール及びヘキサメチレンジイソシアネート(ヘキサメチレンジイソシアネートは、アクリルポリオールのOH当量と同量のNCO当量となるように配合した。)を含むプライマー組成物を用いてプライマー層をグラビアコートにより塗布した。プライマー層の厚さは3μmであった。
ポリエステルウレタン印刷インキ(数平均分子量;3,000、ガラス転移温度(Tg);−62.8℃)100質量部に、シリカ(平均粒径;4μm、吸油量;300ml/100g)をP/V比:1.0で配合して得られた絵柄インキを用い、グラビア印刷にて、上記第一絵柄層の木目柄の導管部と同調するように塗布し、厚さ1μmの第二絵柄層を得た。次いで、該第二絵柄層上に、下記組成の電離放射線硬化性樹脂組成物(以下、「EB1」と称する。)を硬化後の厚さが3μmとなるように塗布し、この未硬化樹脂層に加速電圧165kV、照射線量50kGy(5Mrad)の電子線を照射して、電離放射線硬化性樹脂組成物を硬化させて表面保護層を得た。得られた印刷フィルムの表面保護層などを設けていない側と、ベースフィルムとしてABS樹脂フィルム(曲げ弾性率;1000MPa、厚さ;300μm、以下「ABS2」と称する。)とを、熱ラミネート(フィルム予熱温度:150℃,スピード:5m/min,ラミネート用金属ロール温度:100℃)により貼り合わせ、加飾シートを得た。得られた加飾シートについて、上記方法により評価した。評価結果を第1表に示す。
【0095】
(電離放射線硬化性樹脂組成物)
ポリカーボネートアクリレート(重量平均分子量;10,000、2官能):80質量部
ウレタンアクリレートオリゴマー(重量平均分子量;6,000、6官能):20質量部
シリカ(平均粒径:5μm,表面をシランカップリングにより疎水化したシリカ):10質量部
オレフィンワックス(平均粒径:5μm,ポリプロピレンワックス):5質量部
【0096】
実施例2〜4ならびに比較例1及び2
第1表に示されるベースフィルム、印刷フィルム、電離放射線硬化性樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして加飾シートを得た。得られた加飾シートについて、上記方法により評価した。
【0097】
比較例3及び4
実施例1において、ベースフィルムを用いず、第1表に示される印刷フィルム、電離放射線硬化性樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして加飾シートを得た。得られた加飾シートについて、上記方法により評価した。
【0098】
【表1】

[注]
EB2:アクリルシリコーンアクリレート(重量平均分子量;10,000、硬化後の架橋点間分子量;200)を70質量部とウレタンアクリレートオリゴマー(重量平均分子量;5,000、6官能)を30質量部との混合物、
シリカ(平均粒径:5μm,表面をシランカップリングにより疎水化したシリカ):10質量部
オレフィンワックス(平均粒径:5μm,ポリプロピレンワックス):5質量部
ABS3:曲げ弾性率;2,500MPa、厚さ;100μm
ABS4:曲げ弾性率;2,000MPa、厚さ;300μm
ABS5:曲げ弾性率;1,000MPa、厚さ;100μm
ABS6:曲げ弾性率;2,000MPa、厚さ;400μm
【0099】
本発明の加飾シートは、通常のインサート成形法や射出成形同時加飾法において、160℃程度の加熱温度から金型に接触時の温度まで急激な温度低下と急激な伸張速度、高伸張度の条件であってもクラックや割れが発生することがなく、三次元成形性が良好であり、製造された加飾樹脂成形品の表面は、高い耐傷付き性や硬度を有することが確認された。
また、熱ラミネーションによっても、ベースフィルムと印刷フィルムとの密着性は非常に優れていた。さらに、本発明の加飾シートは、ロール・トゥ・ロールによる連続印刷を行っても、たわむことなく、絵柄見当も合っており、極めて優れた印刷作業性(生産性)を示すことも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の加飾シートは各種加飾樹脂成形品に用いられ、例えば、自動車などの車両の内装材又は外装材、幅木、回縁等の造作部材、窓枠、扉枠等の建具、壁、床、天井等の建築物の内装材、テレビ受像機、空調機等の家電製品の筐体、容器などの用途の加飾樹脂成形品に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0101】
10.加飾シート
11.基材
11a.ベースフィルム
11b.印刷フィルム
12.第一絵柄層
13.プライマー層
14.第二絵柄層
15.表面保護層
16.低艶模様層
17.凸形状

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともベースフィルムと印刷フィルムとを有する基材の該印刷フィルム上に、電離放射線硬化性樹脂組成物を架橋硬化したものからなる表面保護層を有する加飾シートであって、該印刷フィルムの25℃における曲げ弾性率がベースフィルムの25℃における曲げ弾性率よりも大きいことを特徴とする加飾シート。
【請求項2】
さらに、第一絵柄層を印刷フィルムと表面保護層との間に有する請求項1に記載の加飾シート。
【請求項3】
ベースフィルムの25℃における曲げ弾性率が500〜4,000MPaであり、印刷フィルムの25℃における曲げ弾性率が1,000〜4,000MPaである請求項1又は2に記載の加飾シート。
【請求項4】
ベースフィルムの25℃における曲げ弾性率と印刷フィルムの25℃における曲げ弾性率との差が500〜2,000MPaである請求項1〜3のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項5】
電離放射線硬化性樹脂組成物が、電離放射線硬化性樹脂としてポリカーボネート(メタ)アクリレート及び/又はアクリルシリコーン(メタ)アクリレートを含む請求項1〜4のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項6】
ポリカーボネート(メタ)アクリレートの重量平均分子量が、2,000を超えるものである請求項5に記載の加飾シート。
【請求項7】
アクリルシリコーン(メタ)アクリレートの重量平均分子量が、2,000〜10,0000である請求項5又は6に記載の加飾シート。
【請求項8】
アクリルシリコーン(メタ)アクリレートの架橋点間平均分子量が、100〜2,500である請求項5〜7のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項9】
下記の工程を順に有する加飾シートの製造方法。
工程(I)印刷フィルムの一方の面に、電離放射線硬化性樹脂組成物を架橋硬化させて表面保護層を形成する工程
工程(II)印刷フィルムの表面保護層を形成する面とは反対側の面にベースフィルムを積層し、ベースフィルムと印刷フィルムとを有する基材を形成する工程
【請求項10】
工程(I)が、印刷フィルムの一方の面に、第一絵柄層を設けた後に、電離放射線硬化性樹脂組成物を架橋硬化させて表面保護層を形成する工程である請求項9に記載の加飾シートの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれかに記載の加飾シートを用いてなる加飾樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−166383(P2012−166383A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27491(P2011−27491)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】