説明

劣化した軽量気泡コンクリートパネル水平部材の補強方法および該補強方法により補強された軽量気泡コンクリートパネル水平部材

【課題】 ALC水平部材の劣化が進むことにより、発生するたわみやひび割れを防ぐことを可能とするALCパネルの補強方法を提供する。
【解決手段】 劣化したALCパネル水平部材の上面に、コンクリート、モルタルおよびセルフレベリング材の水硬性材料を施工して、厚さ3〜30mmの水硬性材料層を形成することにより、パネル特性を維持し、かつ、ひび割れが生じないように、ALCパネル水平部材を補強することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の屋根、床などの水平部材に使用される軽量気泡コンクリート(以下、「ALC」という)パネルが劣化した場合に、当該ALCパネルを補強する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ALCパネルは、珪石等の珪酸質原料とセメントや生石灰等の石灰質原料を主原料とし、次のようにして製造される。すなわち、石灰質原料の微粉末に水とアルミニウム粉末等の添加物を加えたグリーンスラリーを、予め防錆処理を施した補強用鉄筋を設置した型枠に流しこみ、その後、アルミニウム粉末の反応により発泡し、石灰質原料の反応により半硬化させ、所定寸法にピアノ線等を用いることによって成形した後、オートクレーブによる約180℃の高温高圧飽和水蒸気養生を行って硬化させる。このようにして、内部に補強鉄筋を配し、気泡を無数に含む、比重0.5程度(鉄筋を除く)のALCパネルが得られる。
【0003】
近年、ALCパネルは、施工の容易さ、工期の短さ、および、工場生産としての品質管理などの利点から、各種建物の水平部材である屋根、床への適用が増大している(例えば、特開2004−132038号参照)。
【0004】
しかし、従来のALCパネルの製造方法で製造されたALCパネルを、このような水平部材に適用した場合、経年使用し、劣化が進むと、たわみが発生するという問題が生ずる。このようなたわみを放置すれば、水平部材の安全性を脅かすことから、ALCパネルに対して何らかの補強が必要となる。
【0005】
これに対して、例えば、特開2003−184317号に記載されるように、ALCパネルの下面側に張弦梁3を設置し、その張弦梁を上方にむくらせることでALCパネルのたわみを矯正することが考えられるが、水平部材の下面側からの施行は工程が複雑となり、補強に対するコストが多くかかるという問題がある。
【特許文献1】特開2004−132038号公報
【特許文献2】特開2003−184317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ALCパネルを水平部材に適用した場合に、ALCパネルにたわみが発生することを事前にまたは事後的に防止するALCパネルの補強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る軽量気泡コンクリートパネル水平部材の補強方法は、劣化した軽量気泡コンクリートパネル水平部材の上面に、水硬性材料を用いて、施工厚さ3〜30mmの水硬性材料層を形成することを特徴とする。
【0008】
または、炭酸化度が40%以上である劣化した軽量気泡コンクリートパネル水平部材の上面に、水硬性材料層を形成することにより、該軽量気泡コンクリートパネルの水平部材のたわみ率を、JISA5416(1997)に規定された床パネル設計荷重時のたわみ率である1/400以下とすることを特徴とする。
【0009】
前記水硬性材料として、コンクリート、モルタルおよびセルフレベリング材のいずれかを用いることができる。
【0010】
本発明に係る補強済み軽量気泡コンクリート水平部材は、劣化した軽量気泡コンクリートパネル水平部材の上面に、施工厚さ3〜30mmの水硬性材料層が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水硬性材料を用いることにより、パネル特性とひび割れのないALCパネル水平部材の補強方法および該方法により補強された軽量気泡コンクリート水平部材を提供することができる。これにより、劣化による軽量気泡コンクリート水平部材のたわみの発生、ないしは、たわみの進行を抑制でき、安全性を確保して、軽量気泡コンクリート水平部材の長寿命化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係るALCパネル水平部材の補強方法の特徴は、劣化したALCパネル水平部材の上面に、水硬性材料を厚さ3〜30mmで施工する、すなわち、水硬性材料を用いて、施工厚さ3〜30mmの水硬性材料層を形成することにある。
【0013】
本発明が適用されるALCパネル水平部材とは、ALCパネルを用いた、屋根、床などの水平部材、すなわち、水平に配置され、経年劣化によりたわみを生ずる可能性がある部材を基本的には意味する。ただし、本発明が適用される部材は、必ずしも、水平に配置されている必要はなく、屋根など傾斜して配置されるが、経年劣化によりたわみを生ずる可能性があるALCパネルを用いた部材も、当該水平部材に含まれるものとする。この場合、ALCパネルの補強は、現場において下面からジャッキアップしたり、上面から持ち上げたりするなどの機械的方法によってALCパネルを水平に保った状態で施工する必要がある。
【0014】
前記水硬性材料としては、コンクリート、モルタル、または、セルフレベリング材などの材料があげられる。このうち、セルフレベリング材は、セメント系、石膏系などがあり、例えば、セメント系のセルフレベリング材は、セメントと混和剤を配合したものであり、床の下地調整剤として用いられている。
【0015】
かかる水硬性材料を、3〜30mmの範囲内の所定厚さで、対象となる劣化ALCパネル水平部材の上面に施工し、水硬性材料層を形成する。水硬性材料層の少なくとも表面が水平面に対して平行となるように施工する。
【0016】
水硬性材料層の厚さを3〜30mmの範囲内に規制するのは、3mm未満であると、ALCパネル水平部材のたわみ発生を防止し、その特性を維持するためには不十分だからであり、一方、30mmを超えると、ALCパネルと水硬性材料の界面を中心にひび割れが発生してしまうからである。
【0017】
劣化したALCパネルの物性について、実際の建物における経年劣化と、実験室における炭酸化による促進劣化の双方について予め調査したところによれば、ALCパネル基材の炭酸化度と該パネルの曲げ強度、たわみ率には一定の関係が見られる。
【0018】
実験室における炭酸化による促進劣化は、サンプルパネル(例えば、厚さ100mm、幅600mm、長さ2000mm、耐荷重2000N/m2)を、常温、相対湿度60〜90%、炭酸ガス濃度3〜10%の条件で促進炭酸化に供することにより行う。炭酸化の測定は、サンプルパネルの厚さ方向にコア抜きし、その表面から0〜10mm、20〜30mm、40〜50mmについて、炭酸ガス結合量をそれぞれ測定することにより行う。次に、これらを平均化し、サンプルパネルの炭酸化度とする。各サンプルの炭酸度は、以下の式によって算出される。
【0019】
炭酸化度(%)=(C−Co)/(Cmax−Co)×100
ここで、CおよびCoは、各サンプルおよび未炭酸化サンプルの炭酸ガス結合量である。該炭酸ガス結合量は、熱分析によって600〜800℃の炭酸ガス分解による重量減少量としてそれぞれ分析したものである。一方、Cmaxは各試料中のカルシウム含有量を分析し、このカルシウムがすべて炭酸カルシウムとなった場合の炭酸ガス結合量である。
【0020】
一般に、炭酸化度が50%に達すると、ひび割れが発生するなど、ALCパネルの劣化現象が顕著となる。よって、実際の建築物に用いられているALCパネルの劣化は、当該炭酸化度を指標に判断することができる。
【0021】
一方、ALCパネル水平部材の経年劣化によるたわみ率に対する影響を測定することは、実際の建築物で使用されている経年劣化パネルでは、同サイズ、同荷重のパネルを採取することは、ほぼ不可能であり、また、採取時の損傷程度も測定結果に大きな差異を生ずる原因となる。そこで、水準を振りやすい促進劣化サンプルを試験に用いる。
【0022】
各サンプルパネル水準についての、設計荷重時たわみ率を、次の方法で測定する。すなわち、JISA5416(1997)に準じ、設計荷重2400N(=2000N×0.6×2)の曲げ応力を、4等分点2線載荷にて掛け、長さ方向中央部のたわみを測定し、たわみ/スパン長(支点間距離)をたわみ率とする。
【0023】
各サンプルにおいて、炭酸化度が25%を超えると、そのたわみ率が、補強を施していないサンプルのJISA5416(1997)に規定された床パネル設計荷重時のたわみ率である1/400以上となり、炭酸化度が40%以上となると、たわみ率が1/400を大きく超える。しかし、本発明により補強を施し、所定期間の養生後に、これらのサンプルの炭酸化度を測定したところ、たわみ率を1/400以下とすることができる。
【0024】
したがって、実際に建築物に使用されているALCパネル水平部材については、その炭酸化度を測定し、炭酸化度が40%を超えるものについて本発明を適用することにより、効率的に該水平部材におけるたわみの発生を防止することができる。なお、炭酸化度が25%程度のものについて、予防的に本発明を適用してもよく、逆に、ALCパネル水平部材が劣化した後に、水硬性材料を施工したり、さらには、予め水硬性材料が施工されたALCパネル水平部材が劣化した後に、再度上面に水硬性材料を施工したりすることも可能である。
【実施例】
【0025】
サンプルパネルとして、厚さ100mm、幅幅600mm、長さ2000mmであり、耐荷重2000N/m2に設定されたALCパネルを20枚用意した。
【0026】
各パネル処理日数を変えて促進炭酸化に供し、それぞれの炭酸化度を測定した。炭酸化度は、各サンプルパネルの厚さ方向にコア抜きした、サンプルの表面から0〜10mm、20〜30mm、40〜50mmについてそれぞれ測定し、これらを平均して、そのサンプルの炭酸化度とした。その結果、処理日数5、10、15、25、50日で、それぞれ炭酸化度は、約12%、25%、40%、50%、60%となった。
【0027】
炭酸化度が40%についてはサンプルを10枚採取し、その他の炭酸化度についてはサンプルをそれぞれ2枚ずつ採取した。また、全く炭酸化していないパネルも1枚用意した。
【0028】
各パネル水準について、補強前のJISA5416に規定された床パネルの設計荷重時たわみ率を測定した。
【0029】
次に、それぞれのパネルを水平な台に静置し、炭酸化度12%、25%、50%および60%のものについては、それぞれセルフレベリング材(住友大阪セメント株式会社製、ライオンハイフロー)を厚さが10mmとなるように施工した(実施例1、実施例2、実施例9、実施例10)。また、炭酸化度40%のものについては、セルフレベリング材を、厚さが2mm、3mm、5mm、10mmおよび30mmとそれぞれなるように施工したもの(比較例2、実施例3〜6、比較例3)、また、セルフレベリング材に代えて、普通コンクリートを厚さ10mmで施工したもの(実施例7)、および、市販のモルタルを厚さ10mmで施工したものも得て、これらを2ヶ月間養生した。
【0030】
目視観察およびパネルの性能評価については、以下の方法を用いた。2ヶ月間の養生後に、補強部分を含め、不具合がないかを目視観察し、ひび割れ、剥離などの不具合がある場合には、「不可」、特にダメージのない場合を「可」と判定した。また、補強したパネルの性能評価は、JISA5416に規定された床パネルの設計荷重時たわみ率である1/400以下の場合を「可」、1/400を超える場合は「不可」とした。目視観察とパネルの性能評価について、両方が「可」である場合のみを「○(合格)」、片方でも「不可」であるものは「×(不合格)」と判定した。
【0031】
測定結果、目視観察およびパネルの性能評価の判定結果について、表1に示した。
【表1】

【0032】
表1から理解されるように、各サンプルの補強前の設計荷重時たわみ率は、炭酸化の進行に伴って大きくなることが分かる。サンプルパネルをセルフレベリング材により補強することによって、実施例1〜6、9、10のように、補強後の設計荷重時たわみ率が1/400以下を満足することがわかる。
【0033】
しかしながら、比較例2のように、厚さ2mmとセルフレベリング材の厚さが薄い場合には十分な性能が得られない。
【0034】
また、比較例3のように、厚さ40mmとセルフレベリング材が厚い場合には、補強効果は十分であるが、パネルとセルフレベリング材の界面を中心にひび割れ発生が見られる。
【0035】
一方、コンクリート、モルタルによる補強についても、実施例7および8に示すように、セルフレベリング材と同様に、補強効果が十分に得られる。
【0036】
以上、比較例及び実施例で説明したように、コンクリート、モルタルおよびセルフレベリング材などの水硬性材料を、劣化したALCパネル水平部材の上面に厚さ3〜30mmで施工することにより、パネル特性とひび割れのない施工状況が両立した、ALCパネル水平部材の補強方法を提供されることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
劣化した軽量気泡コンクリートパネル水平部材の上面に、水硬性材料を用いて、施工厚さ3〜30mmの水硬性材料層を形成することを特徴とする軽量気泡コンクリートパネル水平部材の補強方法。
【請求項2】
炭酸化度が40%以上である劣化した軽量気泡コンクリートパネル水平部材の上面に、水硬性材料層を形成することにより、該軽量気泡コンクリートパネルの水平部材のたわみ率を、JISA5416(1997)に規定された床パネル設計荷重時のたわみ率である1/400以下とすることを特徴とする軽量気泡コンクリート水平部材の補強方法。
【請求項3】
前記水硬性材料として、コンクリート、モルタルおよびセルフレベリング材のいずれかを用いることを特徴とする請求項1または2に記載の軽量気泡コンクリートパネル水平部材の補強方法。
【請求項4】
劣化した軽量気泡コンクリートパネル水平部材の上面に、施工厚さ3〜30mmの水硬性材料層が形成されていることを特徴とする補強済み軽量気泡コンクリート水平部材。
【請求項5】
前記水硬性材料層が、コンクリート、モルタルおよびセルフレベリング材のいずれかにより形成されている請求項4に記載の補強済み軽量気泡コンクリート水平部材。

【公開番号】特開2008−106570(P2008−106570A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292337(P2006−292337)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(399117730)住友金属鉱山シポレックス株式会社 (195)
【Fターム(参考)】