説明

劣化防止剤

【課題】食品、化粧品などの劣化防止性能に優れた劣化防止剤を提供する。
【解決手段】マルトトリオース等の動的水和数が25以上の化合物を含む劣化防止剤。好ましい劣化防止剤は、更に、ロスマリン酸、ビタミンC、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸またはそれらの塩(例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩など)、カテキン類、カテキン類含有天然抽出物などの水溶性酸化防止剤を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、劣化防止剤に関し、詳しくは、食品、化粧品を含む製品自体の日持ち向上剤としても有効な劣化防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
物質が劣化していく過程における品質の変化とそれに係わる物質成分間の反応は非常に多岐に亘り、しかも、それらの多くが同時に、また連鎖的に起こる。最近の研究により、殆どの劣化過程において、酸化や光劣化が関係していることは自明である。酸化や光劣化は、空気中、水中、空気/水界面、水/油界面、空気/油界面で起こることも知られている。また、酸化劣化を増強させる因子として、酵素、金属、増感剤などが知られており、これらの組み合わせにおいて、酸化劣化が起こる。一方、光劣化は、物質が紫外光、可視光或いは近赤外光を吸収することにより起こる。
【0003】
飲食品や香粧品は、製造工程中または保存中において、それに配合されている香料、色素、その他の素材が、通常、酸化されて劣化するため、その劣化防止は、飲食品、香粧品の品質を保持する上で重要である。そのため、例えば、天然酸化防止剤、合成酸化防止剤、それらを適当に配合した酸化防止剤製剤など(以下、これらを酸化防止剤と総称する)が食品や香粧品に使用されている。
【0004】
例えば、ロスマリン酸による酸化防止剤、カルノジック酸による劣化防止剤、ローズマリー等のハーブ系の酸化防止剤、ビタミンC、ビタミンE含有の酸化防止剤が一般的に知られている。しかしながら、これらの酸化防止剤は、酸化防止能の外的環境に対する安定性の面で満足出来るものではない。
【0005】
特に、添加量が少量でも使用でき、加熱によっても劣化しない酸化防止剤は、食品や香粧品分野において強く望まれているものの、十分に満足できるものは未だ知られていない。また、光劣化は光反応により劣化を起こす場合もあるが、酸化劣化とそのメカニズム等が異なる場合も多く、酸化防止剤であっても、光劣化防止剤としては十分な効果を奏さず、また、酸化防止剤自体が光劣化を起こすこともあり、光劣化防止剤として十分に満足できるものはない。
【0006】
一方、酸化防止剤を使用せずに包装形態にて、酸化防止を図ろうとする試みも活発である。例えば、生の食品材料を真空包装し、その袋ごと低温で加熱調理した真空調理食品は、香気香味の逸散がなく且つまた酸化されることも殆どなく、食品素材の持味を長期間に亘り保存できるという点で注目されている。しかしながら、この方法では、材料の適用範囲に限界があり、また、細菌の残存の問題など未解決の問題が多くあり、未だ汎用されるに至っていない。
【0007】
また、香粧品の分野において、香料その他の素材の劣化を防止するため、従来、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等が使用されているが、これらは合成化学物質であるため敬遠される傾向にある。
【0008】
一方、色素は、飲食品、香粧品などの着色に使用され、特に飲食品においては、天然物由来の色素の使用が望まれているが、天然色素は変色し易い。色素の褪色または褐変などの変色防止に関しては、これまでに幾つかの提案がなされており、例えば、クロロゲン酸、カフェー酸などが持つ抗酸化性を利用したアントシアニン系色素の褪色防止剤(例えば特許文献1参照)、アントシアニン系色素含有飲食物(例えば特許文献2参照)及びパプリカ色素の褪色防止方法(例えば特許文献3参照)、カフェー酸、フェルラ酸、クロロゲン酸などによる糖類の褐変防止方法(例えば特許文献4参照)、糖類の褐変防止効果を利用した褐変のないキャンディーの製造法(例えば特許文献5参照)等が提案されている。また、食品、医薬品、化粧品などの酸化による劣化を防止するため、ぶどう果実の搾汁粕または種子などの植物体から採取されるプロアントシアニジン少量体を有効成分とする酸化防止剤が提案されている(例えば特許文献6及び7参照)。
【0009】
しかしながら、従来提案されているクロロゲン酸、カフェー酸、フェルラ酸などの抗酸化性物質は、加熱による食品の変質を抑制する効果は比較的大きいが、光照射による食品の劣化防止効果は必ずしも充分ではない。また、同様の目的で使用されるプロアントシアニジン少量体は、光による食品の劣化を抑制する効果はあるが、加熱による食品変質防止効果は必ずしも十分とは言いがたく、更なる改善方法の開発が求められている。
【0010】
また、クロロゲン酸、カフェー酸、フェルラ酸およびコーヒー生豆抽出物から選ばれる少なくとも1種の抗酸化性物質(a)と、アミノ酸、メイラード反応物およびペプタイドから選ばれる少なくとも1種の成分(b)とから成る酸化防止剤組成物を、例えば、飲食品や香粧品などに添加すると、それぞれの単独の作用によっては達成し得ない飛躍的な相乗効果により、食品中の香料の劣化、香気の変調、色素の退色、異味異臭の発生などによる製品の品質劣化を顕著に抑制するとの報告がある(例えば特許文献8参照)。しかしながら、斯かる酸化防止剤組成物も従来のものと同様に十分満足の出来るものではない。
【0011】
【特許文献1】特公平1−22872号公報
【特許文献2】特開平1−132344号公報
【特許文献3】特公昭59−50265号公報
【特許文献4】特開昭57−115147号公報
【特許文献5】特公昭58−32855号公報
【特許文献6】特公平3−7232号公報
【特許文献7】特開平3−200781号公報
【特許文献8】特開平9−221667号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前述の問題点を解決することを目的としてなされたものであり、食品、化粧品などの劣化防止性能に優れた劣化防止剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、動的水和数が25以上の化合物であるマルトトリオースを含有する劣化防止剤が物質の劣化防止に優れた効果を発揮することを見出し、以下の本発明に到達した。
【0014】
(1)動的水和数が25以上の化合物から成ることを特徴とする劣化防止剤。
【0015】
(2)三糖以上のオリゴ糖、多糖またはこれらの誘導体から成ることを特徴とする劣化防止剤。
【0016】
(3)上記の何れかの劣化防止剤を含有することを特徴とする食品。
【0017】
(4)上記の何れかの劣化防止剤を含有することを特徴とする化粧品。
【0018】
(5)上記の何れかの劣化防止剤を含有することを特徴とするグレーズ剤。
【0019】
(6)上記の何れかの劣化防止剤を含有することを特徴とするプラスティック製品。
【発明の効果】
【0020】
本発明の劣化防止剤は、安全性が高く、食品、化粧品などの劣化防止に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、これらの内容に本発明は限定されるものではない。
【0022】
(動的水和数)
先ず、本発明で使用する「動的水和数」の概念について説明する。劣化の初期反応は、「界面」、すなわち、気液界面、液固界面、液液界面の何れかで起こると考えられるが、殆どの食品の場合、油水界面で劣化の初期反応が起こると考えられる。ここで食品形態が水系であるものを中心に考えると、水には大きく分けて、遊離水と結合水の2種類がある。これらの中でも遊離水は、劣化の初期反応に関係する因子となる場合が多いと考えられる。
【0023】
遊離水の制御は、水分子の自由運動を束縛することにより、実現すること出来る。化合物の「動的水和数」は、等該化合物を水に溶解した場合の、水の自由運動の束縛度の指標となるものである。物理学的に表すと、動的水和数とは、「水和相内の全水分子の熱運動」に対する「バルク水中の同数の水分子の熱運動」の相対変化量を示すものである(参考文献:Uedaira,H.,Bull.Chem.Soc.,Jpn.,Vol.62,No.1(1989))。そして、化合物の動的水和数は、例えば下記の様な方法により容易に測定することが出来る。
【0024】
(動的水和数の測定試験例)
純水にp−ヒドロキシ安息香酸25.0mgを溶解し、50mlにメスアップした(ブランク)。試料1.008gと1.512gに夫々ブランクを加えて総重量4.013g、3.001gとし、試料溶液1及び2とした。分光光度計(Varian社製「Inova500」)使用し、25℃で試料溶液の緩和時間(T1)を測定することにより動的水和数を求めた。結果の一例は以下の表1に示す通りである。
【0025】
【表1】

【0026】
動的水和数が大きい程、多くの水の運動を束縛できるため、劣化因子である遊離水を制御することが可能になると予測される。すなわち、動的水和数が大きい物質(化合物)を水に添加すると、水中の遊離水が減少し、その水中で発生する劣化因子は、水中に添加された物質が関与できない界面に集約すると考えられる。
【0027】
<劣化防止剤(I)>
先ず、第1発明に係る劣化防止剤(I)について説明する。劣化防止剤(I)は動的水和数が25以上の化合物から成ることを特徴とする。
【0028】
本願第1発明は、前記の知見によって見出されたものであり、動的水和数が25以上の化合物を製品に添加することにより、劣化因子の界面への集約を効率的に制御できる様にしたものである。動的水和数が25以上の化合物としては、マルトトリオース等の糖類、マルトトリオール等の糖アルコール類、タンパク質、ペプチド等を挙げることが出来る。
【0029】
<劣化防止剤(II)>
次に、第2発明に係る劣化防止剤(II)について説明する。劣化防止剤(II)は、三糖以上のオリゴ糖、多糖またはこれらの誘導体から成ることを特徴とする。
【0030】
3分子の単糖が結合したものを三糖という。三糖以上のオリゴ糖とは、単糖が3〜20分子程度が結合したものをいう。更に多くの単糖分子が結合したものを多糖という。オリゴ糖は水に溶け易いが、多糖は水に溶け難い。三糖以上のオリゴ糖および多糖の誘導体とは、糖の水酸基を水素に置換したデオキシ糖、アルドース末端の炭素をカルボキシル基に置き換えたウロン酸、水酸基をアミノ基に置き換えたアミノ糖、ケトン基やアルデヒド基がアルコールに還元された糖アルコール等のことをいう。
【0031】
オリゴ糖としては、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖、マルトトリオース等が挙げられる。多糖としては、デンプン、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン(俗に動物デンプン)、セルロース、キチン、アガロース、カラギーナン、ペクチン、ヘパリン、ヒアルロン酸などが挙げられる。
【0032】
低分子量の糖アルコールとしては、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ラクチトール等が挙げられ、これらは、三糖以上のオリゴ糖および多糖の誘導体(糖アルコール)の構成単位となり得る。因みに、三糖以上のオリゴ糖であるマルトトリオースを還元して得られるオリゴ糖アルコールはマルトトリオールである。
【0033】
上記の化合物の中では特にマルトトリオースが好ましい。マルトトリオースは、重合度が3以下の直鎖オリゴ糖であり、オリゴ糖の中で最も保湿力が高く、甘味度は砂糖の約1/4である。このため、甘味を上げずに、糖度を高められるので、大量に投入しても、安全で、甘味度が低い。更に、大量に投入することにより、腐敗防止、でんぷんの老化抑制などの機能が発揮できる。容易に入手し得るマルトトリオースとしては、三菱化学フーズ社製の商品「オリゴトース」がある。因みに、「オリゴトース」を還元して得たオリゴ糖アルコールは、三菱化学フーズ社製の商品「オリゴトースH−70」として市販されている。
【0034】
<劣化防止剤(I)及び(II)の好ましい態様>
本発明の劣化防止剤(I)及び(II)は、適切な第三成分を適切に組合せて添加することにより、その劣化防止能を高めることが出来る。
【0035】
一般的に、非油溶性化合物とは、植物油などの天然の油脂への溶解性が殆どない、すなわち、トリグリセリドに対する溶解度が0.1%以下の化合物をいうが、トリグリセリドの構成脂肪酸の種類により化合物の溶解性が変わるため、本発明では、ヘキサンへの溶解性により非油溶性およびを油溶性定義した。主な酸化防止剤の油溶性(ヘキサンへの溶解度)を以下の表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
先ず、本発明の劣化防止剤(I)及び(II)に使用される添加成分の種類について説明する。
【0038】
(添加成分−1)
添加成分−1は、30℃でのヘキサンへ1Lに対する溶解度が50g未満の非油溶性酸化防止剤である。斯かる非油溶性酸化防止剤は、後述する添加成分−2と添加成分−3に分類され。
【0039】
前述の通り、動的水和数の大きい物質(化合物)を水に添加すると、その水中で発生する劣化因子は、水中に添加された物質が関与できない界面に集約すると考えられる。そこで、更に、劣化防止剤を、劣化因子の集まり易い位置、すなわち、添加物質によって束縛されていない遊離水部分や界面に配置すれば、遊離水部分や界面に集約される劣化因子の働きを効率的に阻害することが出来ると考えられる。
【0040】
食品の多くは油水で出来ていることから、油に溶け難い、すなわち、非油溶性酸化防止剤は、基本的に、水中に又は油水界面に存在すると予想される。水中に存在する場合、制御されていない遊離水に直接働く。すなわち、その様な酸化防止剤は、水溶性の観点から添加成分−1を2つに分けた次の様なグループが挙げられる。
【0041】
(添加成分−2)
添加成分−2は、30℃でのヘキサンへ1Lに対する溶解度が50g未満であり且つ25℃での水100gに対する溶解度が0.1g以上である非油溶−水溶性酸化防止剤である。
【0042】
上記の非油溶−水溶性酸化防止剤としては、ロスマリン酸の他、ビタミンC(アスコルビン酸)、イソアスコルビン酸またはそれらの塩(例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩など)、水溶性を付加したカテキン類(例えば、配糖体にしたもの、デキストリンで包埋したもの)等が挙げられる。
【0043】
上記のアスコルビン酸およびその塩としては、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム等が挙げられる。上記の天然抽出物としては、ルチン、ミリセチン、ミリシトリン等、クロロゲン酸、コーヒー酸、フェルラ酸、没食子酸など、水溶性ローズマリー抽出物(例えば、三菱化学フーズ社製 商品名「RM21Abase」)、茶抽出物(例えば、常盤植物科学研究所社製 商品名「ティアカロン」)、りんご抽出物、ブドウ種子抽出物(例えば、常盤植物科学研究所社製 商品名「ビノフェノン」)、ヤマモモ抽出物(例えば、三栄源社製 商品名「サンメリー」)、ひまわり種子抽出物、米ぬか抽出物などが挙げられる。これらの中では、特にロスマリン酸および/またはビタミンCが好ましい。
【0044】
ロスマリン酸は、ハーブ中に含まれるフェノールカルボン酸の一つであり、特にローズマリーの中に多く含まれている。その構造はフェノールカルボン酸が2個結合した形である。従って、構造的および機能的に、フェルラ酸、カフェ酸、クロロゲン酸などのフェノールカルボン酸より、フェノール性水酸基が多いため、酸化防止効力が高い。更に、SOD(スーパーオキシドデスムターゼ)様などの酵素阻害活性効果も高い。また、ロスマリン酸は、構造中に共役二重結合を有しているため、光劣化防止効力が高い。
【0045】
本発明で使用するロスマリン酸は、安全の観点から、天然からの抽出物が好ましい。本発明で使用するロスマリン酸は、ロスマリン酸配糖体も含む。配糖体の形はどの形でも構わない。この天然物は、ハーブ、特にシソ科植物から抽出されるが、ロスマリン酸が多量に存在するローズマリーからの抽出物が好ましい。
【0046】
ロスマリン酸の一般的な製法は次の通りである。原料としては、ローズマリーの全草、または、その葉、根、茎、花、果実、種子の何れを使用してもよいが、好ましくは葉を使用する。通常、抽出効率を高めるため、刻んでから使用する。ロスマリン酸は、ローズマリーの水溶性抽出物として得られる。従って、含水エタノールで抽出処理し、当該抽出液に水を添加して非水溶性成分を析出させ、非水溶性成分を分離した溶液を減圧濃縮することにより得られる。含水エタノールとしては含水率40〜60重量%のものが好適に使用される。
【0047】
更に、非水溶性劣化防止剤を加えると、この剤は界面に集約し、前述の制御された遊離水、制御されていない遊離水、以外の界面に集約される劣化因子を防止することが可能である。斯かる非水溶性劣化防止剤は、後述する添加成分−3と添加成分−4に分類され。
【0048】
(添加成分−3)
添加成分−3は、0℃でのヘキサンへ1Lに対する溶解度が50g未満であり且つ25℃での水100gに対する溶解度が0.1g未満である非油溶−非水溶性酸化防止剤てである。添加成分−3の水に対する溶解度は、好ましくは0.05g以下、更に好ましくは0.01g以下である。
【0049】
上記の非油溶−非水溶性酸化防止剤としては、例えば、カテキン、エピカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピガロカテキンガレート、ビタミンC脂肪酸エステル、非水溶性ローズマリー抽出物(例えば、三菱化学フーズ社製 商品名;RM21Bbase)、カルノソール、カルノジック酸などが挙げられる。これらの中では、カルノソール及び/又はカルノジック酸が好ましい。
【0050】
カルノソール及びカルノジック酸は、セージ、タイム、オレガノ等のハーブ系香辛料中に多く含まれている。その構造は、他の抗酸化剤と異なり、イソプレン骨格のアピエタンの構造を有している。油脂などの酸化防止効果が他の抗酸化剤よりも格段に強い。また、構造中に共役二重結合を有しており、更に、光により生じたラジカルの影響を受けても互変異性の構造を有するため、ラジカル安定化構造をとり易く、光劣化防止効力が高い。
【0051】
本発明で使用するカルノソール及びカルノジック酸は、安全の観点から、天然からの抽出物が好ましい。この天然物は、セージ、タイム、オレガノ等のハーブ系の植物から抽出されるが、多量に存在する、ローズマリーからの抽出物が好ましい。
【0052】
カルノソール及びカルノジック酸は、ローズマリーの非水溶性抽出物として得られ、その製法の一例は次の通りである。先ず、前述の水溶性抽出物の場合と同様に、含水エタノールで抽出し、当該抽出液に水を添加して非水溶性成分を析出させ、活性炭を加えて撹拌した後、非水溶性成分と活性炭との混合物を分離し、得られた混合物をエタノールで抽出処理し、得られた抽出液からエタノールを留去し、粉末状の濃縮物として、カルノソール及びカルノジック酸を得る。その詳細は特公昭59−4469号公報の記載を参照することが出来る。
【0053】
(添加成分−4)
添加成分−4は、30℃でのヘキサンへ1Lに対する溶解度が50g以上の油溶性酸化防止剤である。斯かる油溶性酸化防止剤としては、トコトリエノール、ユビキノン(coQ10)、米油抽出物、ビタミンE(α、β、γ、δトコフェロール)、ミックストコフェロール等が挙げられる。これらの中ではビタミンE(ミックストコフェロールを含む)が好ましい。
【0054】
(添加成分−5)
本発明においては、その他の成分として、ポリグリセリンラウリン酸エステル、ポリグリセリンミリスチン酸エステル、ポリグリセリンパルミチン酸エステル、ポリグリセリンステアリン酸エステル、ポリグリセリンオレイン酸エステル等のポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル等のショ糖脂肪酸エステル等を併用してもよい。
【0055】
次に、前述の添加成分の使用割合について説明する。
【0056】
(劣化防止剤(I)の場合)
動的水和数が25以上の化合物に前述の添加成分を組合せて使用する場合、劣化防止剤(I)中の動的水和数が25以上の化合物の含有量は、通常20〜99重量%、好ましくは20〜80重量%、更に好ましくは20〜60重量%である。
【0057】
動的水和数が25以上の化合物には、添加成分−1(非油溶性酸化防止剤)、特には添加成分−2(非油溶−水溶性酸化防止剤)を組合せて使用するのが好ましい。添加成分−2としては、前述の通り、ロスマリン酸および/またはビタミンCが好ましい。劣化防止剤(I)中の添加成分−2の含有量は、その種類によって最適範囲が異なるが、一般的に言えば、通常0.01〜50重量%、好ましくは0.05〜30重量%、更に好ましくは0.1〜30重量%である。特に、ロスマリン酸の場合は、劣化防止剤(I)中の含有量は、通常0.1〜20重量%、好ましくは0.1〜10重量%、更に好ましくは0.2〜5重量%である。ロスマリン酸の含有量が少なすぎる場合は、水/油界面で劣化防止剤の酸化防止能の劣化を生じ易く、ロスマリン酸の含有量が多すぎる場合は、光により触媒された金属の影響を受け易くなる。また、非油溶−水溶性酸化防止剤/動的水和数が25以上の化合物の重量比率は、通常1/1000〜1/1、好ましくは1/500〜1/5、更に好ましくは1/200〜1/10である。
【0058】
更に、動的水和数が25以上の化合物には、添加成分−3(非油溶−非水溶性酸化防止剤)を組合せて使用するのが好ましい。添加成分−3としては、前述の通り、カルノソール及び/又はカルノジック酸が好ましい。劣化防止剤(I)中の添加成分−3の含有量は、通常0.05〜10重量%、好ましくは0.05〜3重量%、更に好ましくは0.1〜1重量%である。非油溶−水溶性酸化防止剤/動的水和数が25以上の化合物/カルノソールとカルノジック酸の合計の重量比率、通常1/1000/0.1〜1/1/10、好ましくは1/500/0.1〜1/5/10、更に好ましくは1/200/0.1〜1/10/10である。
【0059】
本発明においては、添加成分−3の代わりに、添加成分−4を組合せて使用することも出来る。添加成分−4としては、前述の通り、ビタミンEが好ましい。添加成分−4の含有量および他の成分に対する重量比率は、添加成分−3の場合と同様である。
【0060】
また、添加成分−5の使用割合は、その種類により異なるために一概には規定出来ない。従って、添加成分−5の使用割合は、劣化防止剤(I)の効果を損なわない範囲から適宜選択される。
【0061】
(劣化防止剤(II)の場合)
三糖以上のオリゴ糖、多糖またはこれらの誘導体(以下これらをマルトトリオースで代表する)に前述の添加成分を組合せて使用する場合、劣化防止剤(II)中のマルトトリオースの含有量は、通常20〜99重量%、好ましくは20〜80重量%、更に好ましくは20〜60重量%である。
【0062】
マルトトリオースには、前述の添加成分を組合せることが出来、その態様は、全て劣化防止剤(I)の場合の前述の態様と同じである。
【0063】
すなわち、劣化防止剤(II)中の添加成分−2の含有量は、通常0.01〜50重量%、好ましくは0.05〜30重量%、更に好ましくは0.1〜30重量%であるが、特に、ロスマリン酸の場合は、通常0.1〜20重量%、好ましくは0.1〜10重量%、更に好ましくは0.2〜5重量%である。また、非油溶−水溶性酸化防止剤/マルトトリオースの重量比率は、通常1/1000〜1/1、好ましくは1/500〜1/5、更に好ましくは1/200〜1/10である。また、劣化防止剤(II)中の添加成分−3の含有量は、通常0.05〜10重量%、好ましくは0.05〜3重量%、更に好ましくは0.1〜1重量%である。非油溶−水溶性酸化防止剤/マルトトリオース/カルノソールとカルノジック酸の合計の重量比率、通常1/1000/0.1〜1/1/10、好ましくは1/500/0.1〜1/5/10、更に好ましくは1/200/0.1〜1/10/10である。
【0064】
本発明の劣化防止剤は、前記の各成分を混合して製造される。混合順序は特に制限されない。本発明の劣化防止剤の形態は、通常、前記の各成分を水またはエタノール−水の混合溶媒に溶解させた溶液である。カルソノール及びカルノジック酸を併用する場合には、通常、エタノール−水の混合溶媒に溶解させる。この溶液は、通常、前記の各成分を混合した後、これにエタノールを加え、次いで、水を加えることによって調製する。水とエタノールの混合割合は、通常1:1〜3:1である。本発明の酸化防止剤は、粉末状でもよく、上記の溶液をスプレードライ又は凍結乾燥することによって調製することが出来る。
【0065】
本発明の劣化防止剤は、劣化し易い食品や化粧品などに好ましく使用できる。その際の添加量は、製品の種類毎に最適範囲が存在するが、一般的には、製品に対し、通常0.001〜30重量%、好ましくは0.01〜10重量%、更に好ましくは0.05〜5重量%である。
【0066】
<本発明の劣化防止剤を使用した製品>
(食品)
本発明の食品としては、劣化し易い食品が好ましく使用できる。その具体例としては、飲料、乳飲料、アルコール飲料、米飯、豆類(米、麦、大麦、とうもろこし、あわ、ひえ)、パン、その他の小麦粉製品、麺、カレー、シチューのルウ、レトルト製品、調味料、アイスクリーム等の乳製品などの食品、飼料(ペットフードを含む)等がある。
【0067】
また、食品の中で水産、畜肉、油脂加工品としては、劣化し易い水産、畜肉、油脂加工品および長期間保存する水産、畜肉、油脂加工品が好ましく使用できる。その具体例としては、鮮魚、干物、一夜干し、みりん干し、貝類、赤魚、甲殻類の色素維持剤、すり身、水産練り製品、珍味、魚肉ソーセージ、塩蔵品、ノリ、海藻食品、αリノレン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)等の不飽和多価脂肪酸類およびそのトリグリセリド類、それらを含有する食品、鶏肉、豚肉、牛肉、羊肉、ソーセージ、ハム、それを加工した製品、コーンフレーク、インスタントラーメン、油脂を使用した油菓子、ファストスプレッド、マーガリン等がある。
【0068】
本発明の劣化防止剤の使用割合は、食品に対し、通常0.001〜30重量%、好ましくは0.01〜10重量%、更に好ましくは0.05〜5重量%である。
【0069】
(化粧品)
本発明の化粧品としては、劣化し易い化粧品が好ましく使用できる。その具体例としては、保湿剤、美白剤、クレンジング、ローション、洗剤、柔軟剤、仕上げ剤、食器洗い洗剤、野菜、果実の洗浄剤、リンス剤などがある。本発明の劣化防止剤の使用割合は、化粧品に対し、通常0.001〜30重量%、好ましくは0.01〜10重量%、更に好ましくは0.05〜5重量%である。
【0070】
(グレーズ剤)
水揚げされた魚を冷凍する際に、魚表面に氷で覆うことをグレーズといい、氷を均一に魚表面に覆わせる剤をグレーズ剤という。本発明の劣化防止剤の使用割合は、グレーズ剤に対し、通常0.001〜30重量%、好ましくは0.01〜10重量%、更に好ましくは0.05〜5重量%である。
【0071】
(プラスティック製品)
本発明の劣化防止剤はプラスティック製品に添加することにより、当該プラスティック製品を介して間接的に、飲食品、香粧品その他の製品の劣化を防止させることが出来る。斯かるプラスティック製品の具体例としては、飲食品、香粧品のプラスティック容器、バラン、調理済み食品保存用パック等の食品包装材、消臭剤、液体洗剤などのサニタリー用包装材、冷蔵庫、エアコン、空気清浄機、洗濯乾燥機などの白家電、船舶、自動車、電車、飛行機、建物などに使用される空調機器などが挙げられる。本発明の劣化防止剤の使用割合は、プラスティック製品に対し、通常0.001〜20重量%、好ましくは0.01〜10重量%、更に好ましくは0.1〜5重量%である。
【0072】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0073】
製造例1(ローズマリー水溶性抽出物の製造):
ローズマリー1kgに50%含水エタノール10Lを加えて3時間加熱還流し、温時に濾過して濾液を得た。残渣を50%含水エタノール6Lで同様に抽出する操作を更に2回繰り返して濾液を得た。これらの濾液を合わせ、水5Lを加えて沈殿物を析出させた。これに活性炭100gを加え、1時間撹拌し、一夜冷所で保存した後に濾過して濾液を得た。この濾液を減圧濃縮し、120gのローズマリー水溶性抽出物(ロスマリン酸の含有量:31.6wt%)を得た。
【0074】
製造例2(ローズマリー非水溶性抽出物の製造):
ローズマリー1kgに50%含水エタノール10Lを加えて3時間加熱還流し、温時に濾過して濾液を得た。残渣を50%含水エタノール6Lで同様に抽出する操作を更に2回繰り返して濾液を得た。これらの濾液を合わせ、水5Lを加えて沈殿物を析出させた。これに活性炭100gを加え、1時間撹拌し、一夜冷所で保存した後に濾過して沈殿と活性炭の混合物を得た。この混合物にエタノール4Lを加え、3時間加熱還流し、温時に濾過して濾液を得た。残渣をエタノール2.4Lで同様に抽出する操作を更に2回繰り返して濾液を得た。これらの濾液を合わせ、減圧濃縮してエタノールを留去し、粉末状のローズマリー非水溶性抽出物(カルノソール及びカルノジック酸の含有量:24.9wt%)を得た。
【0075】
実施例1〜13及び比較例1〜6(アジの劣化防止試験):
次の要領でアジの劣化防止試験を行なった。先ず、アジを用意し、このアジを開き、表面を水で洗浄し、劣化防止剤サンプル20mLを添加した10重量%塩水2Lに1時間浸漬した。浸漬後、アジを洗浄し、2時間、25℃で乾燥した。乾燥後、5℃にて保存し、8日後の夫々のアジの劣化状態の目視評価を以下の表3に示す基準で行った。
【0076】
【表3】

【0077】
以下の表4に示す各成分を同表に示す重量比となる様に混合し、エタノール4mlと残部は水を使用して溶解し、20mlの劣化防止剤サンプルを調製し、前述のアジの劣化防止試験を行なった。結果を表4に示す。また、表4に示す各成分の詳細は表5に示す。
【0078】
【表4】

【0079】
【表5】

【0080】
実施例13及び比較例5(牛乳の光劣化防止試験):
次の要領で牛乳の光劣化防止試験を行なった。すなわち、牛乳100mlに実施例6の劣化防止剤1mlを添加したもの(実施例13)と無添加のもの(比較例5)を作成し、総光量2万ルクスの光を48時間照射(5℃)した。その後、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー(Agilent6890GC)により、揮発成分であるヘキサナール量を測定し、ヘキサナールの面積成分比を無添加のものと比較することにより、牛乳の劣化度合いを評価した。無添加のものを100として換算した。結果を表6に示す。
【0081】
【表6】

【0082】
上記の実施例1〜13の結果から、本発明の劣化防止剤は、酸化劣化および光劣化に対して有効であることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動的水和数が25以上の化合物から成ることを特徴とする劣化防止剤。
【請求項2】
動的水和数が25以上の化合物が、糖類、糖アルコール類、タンパク質、及び、ペプチドから成る群より選ばれる1又は2以上の化合物である請求項1に記載の劣化防止剤。
【請求項3】
三糖以上のオリゴ糖、多糖またはこれらの誘導体から成ることを特徴とする劣化防止剤。
【請求項4】
三糖以上のオリゴ糖がマルトトリオースである請求項3に記載の劣化防止剤。
【請求項5】
30℃でのヘキサンへ1Lに対する溶解度が50g未満の非油溶性酸化防止剤を含む請求項1〜4の何れかに記載の劣化防止剤。
【請求項6】
非油溶性酸化防止剤が、30℃でのヘキサンへ1Lに対する溶解度が50g未満であり且つ25℃での水100gに対する溶解度が0.1g以上である非油溶−水溶性酸化防止剤である、請求項5に記載の劣化防止剤。
【請求項7】
非油溶−水溶性酸化防止剤が、ロスマリン酸および/またはビタミンCである、請求項6に記載の劣化防止剤。
【請求項8】
30℃でのヘキサンへ1Lに対する溶解度が50g未満であり且つ25℃での水100gに対する溶解度が0.1g未満である非油溶−非水溶性酸化防止剤を更に含む請求項6又は7に記載の劣化防止剤。
【請求項9】
非油溶−非水溶性酸化防止剤がカルノソール及び/又はカルノジック酸である請求項8に記載の劣化防止剤。
【請求項10】
30℃でのヘキサンへ1Lに対する溶解度が50g以上の油溶性酸化防止剤を更に含む請求項6又は7に記載の劣化防止剤。
【請求項11】
油溶性酸化防止剤がビタミンEである請求項10に記載の劣化防止剤。
【請求項12】
請求項1〜11の何れかに記載の劣化防止剤を含有することを特徴とする食品。
【請求項13】
請求項1〜11の何れかに記載の劣化防止剤を含有することを特徴とする化粧品。
【請求項14】
請求項1〜11の何れかに記載の劣化防止剤を含有することを特徴とするグレーズ剤。
【請求項15】
請求項1〜11の何れかに記載の劣化防止剤を含有することを特徴とするプラスティック製品。

【公開番号】特開2006−282740(P2006−282740A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−101717(P2005−101717)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】