説明

動力伝達チェーンおよびこれを備える動力伝達装置

【課題】CVT等の動力伝達装置に用いられる動力伝達チェーンにおいて、一層の低騒音化を達成すること。
【解決手段】チェーン1は、複数のリンク2と、これらのリンク2を互いに連結する第1および第2のピン3,4とを備えている。第1のピン3がプーリの相対向する一対のシーブ面間に挟持されて第1のピン3とプーリとの間で動力が伝達される。自由状態の第2のピン4の長さE2は、自由状態の第1のピン3の長さE1よりも短く(E2<E1)されている。第1のピン3がプーリの一対のシーブ面間に挟持されて弾性的に縮んだ状態で、第2のピン4の一対の端部17,18がそれぞれ、対応するシーブ面に軽接触するようにしてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達チェーンおよびこれを備える動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プーリ式無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)等の動力伝達装置に用いられる無端状の動力伝達チェーンには、複数のリンクと、隣り合うリンク同士を互いに連結するピンと、各リンクを挿通する2本1組の丸棒からなる摺動部材とを備えるものがある(例えば、特許文献1参照)。上記2本の丸棒は、一対の円錐面を有するプーリに圧接され、これにより、動力伝達チェーンとプーリとの間で動力の伝達が行われる。
【特許文献1】実開平3−84459号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来より、CVT等の動力伝達装置に用いられる動力伝達チェーンについて、一層の低騒音化が求められている。そこで、本発明は、上記の課題を解決することのできる動力伝達チェーンおよびこれを備える動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本願発明者は、プーリに接触する動力伝達部材を有する動力伝達チェーンにおいて、対をなす動力伝達部材を設け、これら対をなす動力伝達部材のそれぞれとプーリとの接触状態を所定の状態にすることが、動力伝達チェーンの駆動時の騒音低減に有効であるとの知見を得て、本発明を想到するに至った。
具体的には、本発明は、複数のリンクと、これらのリンクを互いに連結し、互いに転がり摺動接触する第1および第2の動力伝達部材とを備え、第1の動力伝達部材がプーリの相対向する一対のシーブ面間に挟持されて第1の動力伝達部材とプーリとの間で動力が伝達される動力伝達チェーンにおいて、上記第2の動力伝達部材は自由状態の第1の動力伝達部材よりも短くされ、第1の動力伝達部材が一対のシーブ面間に挟持されて弾性的に縮んだ状態で第2の動力伝達部材の一対の端部がそれぞれ対応するシーブ面に軽接触するようにしてあることを特徴とするものである。
【0005】
本発明によれば、第1の動力伝達部材がプーリに挟持されることによって、動力伝達チェーンとプーリとの間で動力の伝達を行うことができる。また、第1の動力伝達部材がプーリに噛み込まれる際、第2の動力伝達部材の一対の端部のそれぞれを、プーリの対応するシーブ面に軽接触させることにより、第2の動力伝達部材がシーブ面に適度に拘束されるため、第2の動力伝達部材の振動の発生を未然に防止し、チェーン駆動時の騒音を格段に低減することができる。
【0006】
また、本発明において、上記第2の動力伝達部材の端部が対応するシーブ面に軽接触するときに、第2の動力伝達部材の端部が対応するシーブ面から受ける押圧力は、第1の動力伝達部材の端部が対応するシーブ面から受ける最大押圧力の0〜80%である場合がある。この場合、第2の動力伝達部材が受ける押圧力を、第1の動力伝達部材が受ける最大押圧力の0%以上にしてあるので、第2の動力伝達部材の振動の発生を確実に防止することができる。また、第2の動力伝達部材が受ける押圧力を、第1の動力伝達部材が受ける最大押圧力の80%以下にしてあるので、第2の動力伝達部材がプーリに過大に押圧されてトルクロスが増大することを防止できる。
【0007】
また、本発明において、上記自由状態の第1の動力伝達部材の長さと第2の動力伝達部材の長さとの差分は、第1の動力伝達部材の最大弾性収縮量の20〜100%である場合がある。この場合、上記差分を、第1の動力伝達部材の最大弾性収縮量の20%以上にしてあるので、第2の動力伝達部材がプーリに過大に押圧されてトルクロスが増大することを防止できる。また、上記差分を、第1の動力伝達部材の最大弾性収縮量の100%以下にしてあるので、第2の動力伝達部材とプーリとの軽接触を確実に達成して、第2の動力伝達部材の振動の発生を確実に防止することができる。
【0008】
また、本発明において、上記自由状態の第1の動力伝達部材の長さと第2の動力伝達部材の長さとの差分は、5〜50μmである場合がある。この場合、上記差分を5μm以上にしているので、第2の動力伝達部材がプーリに過大に押圧されてトルクロスが増大することを防止できる。また、上記差分を50μm以下にしてあるので、第2の動力伝達部材とプーリとの軽接触を確実に達成して、第2の動力伝達部材の振動の発生を確実に防止することができる。
【0009】
また、本発明において、相対向する一対の円錐面状のシーブ面をそれぞれ有する第1および第2のプーリと、これらのプーリ間に巻き掛けられ、シーブ面に係合して動力を伝達する上記の動力伝達チェーンとを備える場合がある。この場合、静粛性にすぐれた動力伝達装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の好ましい実施の形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る動力伝達チェーンを備える動力伝達装置としてのチェーン式無段変速機(以下では、単に無段変速機ともいう)の要部構成を模式的に示す斜視図である。図1を参照して、無段変速機100は、自動車等の車両に搭載されるものであり、第1のプーリとしての金属(構造用鋼等)製のドライブプーリ60と、第2のプーリとしての金属(構造用鋼等)製のドリブンプーリ70と、これらの両プーリ60,70間に巻き掛けられた無端状の動力伝達チェーン1(以下では、単にチェーンともいう)とを備えている。なお、図1中のチェーン1は、理解を容易にするために一部断面を示している。
【0011】
図2は、図1のドライブプーリ60(ドリブンプーリ70)およびチェーン1の部分的な拡大断面図である。図1および図2を参照して、ドライブプーリ60は、車両の駆動源に動力伝達可能に連なる入力軸61に取り付けられるものであり、固定シーブ62と可動シーブ63とを備えている。固定シーブ62および可動シーブ63は、相対向する一対のシーブ面62a,63aをそれぞれ有している。シーブ面62a,63aは円錐面状の傾斜面を含む。これらシーブ面62a,63a間に溝が区画され、この溝によってチェーン1を強圧に挟んで保持するようになっている。
【0012】
また、可動シーブ63には、溝幅を変更するための油圧アクチュエータ(図示せず)が接続されており、変速時に、入力軸61の軸方向(図2の左右方向)に可動シーブ63を移動させることにより、溝幅を変化させるようになっている。それにより、入力軸61の径方向(図2の上下方向)にチェーン1を移動させて、入力軸61(プーリ60)に対するチェーン1の巻き掛け半径R(第1のピン3に関する有効半径R)を変化できるようになっている。
【0013】
一方、ドリブンプーリ70は、図1および図2に示すように、駆動輪(図示せず)に動力伝達可能に連なる出力軸71に一体回転可能に取り付けられており、ドライブプーリ60と同様に、チェーン1を強圧で挟む溝を形成するための相対向する一対のシーブ面72a,73aをそれぞれ有する固定シーブ72および可動シーブ73を備えている。ドリブンプーリ70の可動シーブ73には、ドライブプーリ60の可動シーブ63と同様に油圧アクチュエータ(図示せず)が接続されており、変速時に、この可動シーブ73を移動させることにより溝幅を変化させるようになっている。それにより、チェーン1を移動させて、出力軸71(プーリ70)に対するチェーン1の巻き掛け半径Rを変化できるようになっている。
【0014】
図3は、チェーン1の要部の構成を模式的に示す斜視図である。図4は、図3に示すチェーンの要部の断面平面図である。図5は、図4のII−II線に沿う断面図であり、チェーン直線部分を示している。
図3および図4を参照して、チェーン1は、複数のリンク2と、互いに転がり摺動接触する第1および第2の動力伝達部材としての複数の第1および第2のピン3,4とを備えている。なお、転がり摺動接触とは、転がり接触およびすべり接触の少なくとも一方を含む接触のことをいう。
【0015】
図4および図5を参照して、各リンク2は板状に形成されており、チェーン進行方向Xの前後に並ぶ一対の端部としての前端部7および後端部8を含んでいる。これら前端部7および後端部8には、前貫通孔9および後貫通孔10がそれぞれ形成されている。
リンク2を用いて、第1〜第3の列51〜53が形成されている。具体的には、第1の列51、第2の列52および第3の列53はそれぞれ、チェーン幅方向Wに並ぶ複数のリンク2を含んでいる。第1〜第3の列51〜53のそれぞれにおいて、同一列のリンク2は、チェーン進行方向Xの位置が互いに同じとなるように揃えられている。第1〜第3の列51〜53は、チェーン進行方向Xに沿って並んで配置されている。
【0016】
第1〜第3の列51〜53のリンク2はそれぞれ、対応する第1および第2のピン3,4を用いて、対応する第1〜第3の列51〜53のリンク2と相互に屈曲可能に連結されている。
具体的には、第1の列51のリンク2の前貫通孔9と、第2の列52のリンク2の後貫通孔10とは、チェーン幅方向Wに並んで互いに対応しており、これらの貫通孔9,10を挿通する第1および第2のピン3,4によって、第1および第2の列51,52のリンク2同士がチェーン進行方向Xに屈曲可能に連結されている。
【0017】
同様に、第2の列52のリンク2の前貫通孔9と、第3の列53のリンク2の後貫通孔10とは、チェーン幅方向Wに並んで互いに対応しており、これらの貫通孔9,10を挿通する第1および第2のピン3,4によって、第2および第3の列52,53のリンク2同士がチェーン進行方向Xに屈曲可能に連結されている。
図4において、第1〜第3の列51〜53は、それぞれ1つしか図示されていないが、チェーン進行方向Xに沿って第1〜第3の列51〜53が繰り返すように配置されている。そして、チェーン進行方向Xに互いに隣接する2つの列のリンク2同士が、対応する第1および第2のピン3,4によって順次に連結され、無端状をなすチェーン1が形成されている。
【0018】
第1のピン3は、チェーン幅方向Wに延びる棒状体である。第1のピン3の一対の端部15,16が、チェーン幅方向Wの一対の端部に配置されるリンク2からチェーン幅方向Wにそれぞれ突出している。第1のピン3の一対の端部15,16には、動力伝達部5,6がそれぞれ設けられている。
図2を参照して、動力伝達部5,6は、各プーリ60,70の対応するシーブ面62a,63a,72a,73aに摩擦接触(係合)するためのものである。第1のピン3は、上記対応するシーブ面62a,63a,72a,73a間に挟持され、これにより、第1のピン3と各プーリ60,70との間で動力が伝達される。第1のピン3は、その動力伝達部5,6によって直接動力伝達に寄与するため、例えば、軸受用鋼(SUJ2)等の高強度耐摩耗材料で形成されている。
【0019】
各プーリ60,70における、ピン3に関する有効半径R(チェーン1の巻き掛け半径R)は、以下のようにして定義されている。すなわち、プーリ60におけるピン3に関する有効半径Rは、プーリ60およびピン3の互いの接触点T1と、プーリ60の中心軸線C1との間のプーリ径方向の距離として定義されている。なお、接触点T1は、例えば、プーリ60のシーブ面62a,63aと、ピン3の対応する動力伝達部5,6のうち後述する直交方向Vの一端(図2において、上端)とのそれぞれの接触点をいう。
【0020】
同様に、プーリ70におけるピン3に関する有効半径Rは、プーリ70およびピン3の互いの接触点T2と、プーリ70の中心軸線C2との間のプーリ径方向の距離として定義されている。なお、接触点T2は、例えば、プーリ70のシーブ面72a,73aと、ピン3の対応する動力伝達部5,6のうち後述する直交方向Vの一端(図2において、上端)とのそれぞれの接触点をいう。
【0021】
再び図4および図5を参照して、第2のピン4(ストリップ、またはインターピースともいう)は、第1のピン3と同様の材料により形成された、チェーン幅方向Wに延びる棒状体である。チェーン進行方向X関して、第2のピン4は、第1のピン3よりも薄肉に形成されている。
第1のピン3は、一のリンク2の前貫通孔9に遊嵌されてこのリンク2に対する相対移動(回転)が可能とされると共に、対応する他のリンク2の後貫通孔10に圧入固定(嵌合)されてこのリンク2に対する相対回転が規制されている。
【0022】
具体的には、第1のピン3は、第1の列51のリンク2の前貫通孔9に遊嵌されて、第1の列51のリンク2に対する相対回転が可能とされると共に、第2の列52のリンク2の後貫通孔10に圧入固定されて、第2の列52のリンク2に対する相対回転が規制されている。同様に、第1のピン3は、第2の列52のリンク2の前貫通孔9に遊嵌されると共に、第3の列53のリンク2の後貫通孔10に圧入固定されている。
【0023】
また、第2のピン4は、一のリンク2の前貫通孔9に圧入固定(嵌合)されてこのリンク2に対する相対回転が規制されると共に、対応する他のリンク2の後貫通孔10に遊嵌されてこのリンク2に対する相対移動(回転)が可能とされている。
具体的には、第2のピン4は、第1の列51のリンク2の前貫通孔9に圧入固定されて、第1の列51のリンク2に対する相対回転が規制されると共に、第2の列52のリンク2の後貫通孔10に遊嵌されて、第2の列52のリンク2に対する相対移動(回転)が可能とされている。同様に、第2のピン4は、第2の列52のリンク2の前貫通孔9に圧入固定されると共に、第3の列53のリンク2の後貫通孔10に遊嵌されている。
【0024】
上記の構成により、チェーン進行方向Xに隣接するリンク2が相互に屈曲する際、対応する第1のピン3は、隣り合う第2のピン4に対して転がり摺動接触する。
また、第1のピン3を基準とした、第1のピン3と隣り合う第2のピン4との接触線Tの軌跡が、概ねインボリュート曲線となるようにされている。
具体的には、第1のピン3の周面11(外周面)のうち、隣り合う第2のピン4と接触し得る接触部12が、断面インボリュート形状に形成されている。また、各第2のピン4の周面13(外周面)のうち、対応する第1のピン3と接触し得る接触部14が、平坦面(断面直線形状)に形成されている。この平坦面は、チェーン進行方向Xと直交する平坦面を含んでいる。
【0025】
図2および図4を参照して、本実施の形態の特徴とするところは、自由状態(各プーリ60,70の何れにも係合していない状態)の第2のピン4の長さE2は、自由状態の第1のピン3の長さE1よりも短く(E2<E1)されるとともに、第1のピン3がプーリ60,70のそれぞれにおいて、対応するシーブ面62a,63a,72a,73a間に挟持されて弾性的に縮んだ状態で、第2のピン4の一対の端部17,18がそれぞれ、上記対応するシーブ面62a,63a,72a,73aに軽接触するようにしてある点にある。
【0026】
図4および図5を参照して、第1のピン3の長さE1とは、自由状態における、第1のピン3の長手方向に関する一対の端部15,16間の距離をいい、例えば、第1のピン3の、直交方向Vの一端(図5における上端)での一対の動力伝達部5,6間の距離をいう。なお、直交方向Vとは、チェーン進行方向Xおよびチェーン幅方向Wの両方に直交する方向をいう。
【0027】
同様に、第2のピン4の長さE2とは、自由状態における、第2のピン4の長手方向に関する一対の端部17,18間の距離をいい、例えば、第2のピン4の、直交方向Vの一端(図5における上端)での一対の端部17,18間の距離をいう。
各第1のピン3は、チェーン幅方向Wの位置が互いに揃えられている。同様に、各第2のピン4は、チェーン幅方向Wの位置が互いに揃えられている。そして、第1のピン3と第2のピン4とは、それぞれの長手方向の中央部19,20が、チェーン進行方向Xに並んでいる。これにより、チェーン直線部分において、第1のピン3の一方の端部15と第2のピン4の一方の端部17との間の距離F1、および第1のピン3の他方の端部16と第2のピン4の他方の端部18との間の距離F2が、等しく(F1=F2)されている。
【0028】
図6は、チェーン1のうちの第1のピン3を単体で示す正面図であり、白抜き矢符の上側の第1のピン3は、自由状態における第1のピン3を示しており、下側の第1のピン3は、プーリ60に挟持された状態における第1のピン3を示している。
図6を参照して、自由状態における第1のピン3の長さE1(以下、単に第1のピン3の長さともいう)は、例えば24mmに設定されている。第1のピン3は、プーリ60の一対のシーブ面62a,63aに挟持されたとき、その一対の端部15,16がこのプーリ60の対応するシーブ面62a,63aから、チェーン幅方向Wに押圧力H(圧縮荷重)を受ける。このときの最大押圧力Hmaxは、例えば1000N程度に設定されている。
【0029】
第1のピン3は、最大押圧力Hmaxを受けたときに、その長手方向に最大弾性収縮量Jmax(例えば、30μm)だけ弾性的に縮んで、長さがE3となる(E3=E1−Jmax)。なお、第1のピン3の最大弾性収縮量Jmaxは、第1のピン3の許容弾性収縮量の例えば40%に設定されている。ここで、許容弾性収縮量とは、第1のピン3がその長手方向に弾性的に収縮可能な収縮量の最大値をいう。
【0030】
なお、第1のピン3がプーリ70に挟持されるときの状態も、上記と同様である。
図7は、チェーン1のうちの第2のピン4を単体で示す正面図であり、白抜き矢符の上側の第2のピン4は、自由状態における第2のピン4を示しており、下側の第2のピン4は、プーリ60に軽接触した状態における第2のピン4を示している。
図6および図7を参照して、自由状態における第2のピン4の長さE2(以下、単に第2のピンの長さともいう)は、第1のピン3の長さE1よりも、差分Gだけ短くされている(E2=E1−G)。
【0031】
差分G、すなわち、第1のピン3の長さE1と第2のピン4の長さE2との差分Gは、第1のピン3の最大弾性収縮量Jmaxの20〜100%(0.2Jmax≦G≦1.0Jmax)とされている。これにより、自由状態における第2のピン4の長さE2は、第1のピン3の長さE1よりも、5〜50μmだけ短く設定されている。すなわち、差分Gは、5〜50μmとされている。
【0032】
なお、第1のピン3の長さE1と第2のピン4の長さE2との差分Gの下限は、第1のピン3の最大弾性収縮量Jmaxの30%以上(0.3Jmax≦G)であることがより好ましい。同様に、上記差分Gの上限は、第1のピン3の最大弾性収縮量Jmaxの80%以下(G≦0.8Jmax)であることがより好ましい。
第1のピン3は、プーリ60から押圧力Hを受けると、長手方向に弾性的に縮み、第2のピン4の一対の端部17,18の直交方向Vの一端が、プーリ60の対応するシーブ面62a,63aに軽接触する(図7の白抜き矢符の下側参照)。このとき、第2のピン4の一対の端部17,18が対応するシーブ面62a,63aから受ける押圧力Kは、0〜800N程度となっている。この押圧力Kは、第1のピン3の一対の端部15,16が受ける最大押圧力Hmaxの0〜80%となっている。このとき、第2のピン4の一対の端部17,18は、プーリ60の対応するシーブ面62a,63aと軽接触しているに過ぎず、第2のピン4とプーリ60との間で動力の伝達は実質的に行われていない。
【0033】
なお、第2のピン4がプーリ70に挟持されるときの状態も、上記と同様である。
以上説明したように、本実施の形態によれば、第1のピン3が各プーリ60,70の相対向する一対のシーブ面62a,63a,72a,73a間に挟持されることによって、チェーン1と各プーリ60,70との間で動力の伝達を行うことができる。
また、第1のピン3が各プーリ60,70に噛み込まれる際、第2のピン4の一対の端部17,18のそれぞれを、各プーリ60,70の対応するシーブ面62a,63a,72a,73aに軽接触させることにより、第2のピンが上記対応するシーブ面62a,63a,72a,73aに適度に拘束されるため、第2のピン4の振動の発生を未然に防止し、チェーン駆動時の騒音を格段に低減することができる。
【0034】
さらに、第2のピン4の一対の端部17,18が対応するシーブ面62a,63a,72a,73aと軽接触するときに受ける押圧力Kを、第1のピン3の一対の端部15,16が受ける最大押圧力Hmaxの0%以上にしてあるので、第2のピン4の振動の発生を確実に防止することができる。また、第2のピン4が受ける押圧力Kを、第1のピン3が受ける最大押圧力Hmaxの80%以下にしてあるので、第2のピン4が各プーリ60,70に過大に押圧されてトルクロスが増大することを防止できる。
【0035】
さらに、自由状態の第1のピン3の長さE1と第2のピン4の長さE2との差分Gを、第1のピン3の最大弾性収縮量Jmaxの20%以上にしてあるので、第2のピン4が各プーリ60,70に過大に押圧されてトルクロスが増大することを防止できる。また、上記差分Gを、第1のピン3の最大弾性収縮量Jmaxの100%以下にしてあるので、第2のピン4と各プーリ60,70との軽接触を確実に達成して第2のピン4の振動の発生を確実に防止することができる。
【0036】
換言すれば、自由状態の第1のピン3の長さE1と第2のピン4の長さE2との差分Gを5μm以上にしているので、第2のピン4が各プーリ60,70に過大に押圧されてトルクロスが増大することを防止できる。また、上記差分Gを50μm以下にしてあるので、第2のピン4と各プーリ60,70との軽接触を確実に達成して第2のピン4の振動の発生を確実に防止することができる。
【0037】
さらに、第1のピン3の一方の端部15と第2のピン4の一方の端部17との間の距離F1と、第1のピン3の他方の端部16と第2のピン4の他方の端部18との間の距離F2とを等しくしているので、第2のピン4の一対の端部17,18の両方を、互いにバランスよく押圧することができ、第2のピン4の振動の発生をより確実に防止することができる。
【0038】
さらにまた、第1のピン3を、対応するリンク2の前貫通孔9に遊嵌すると共に対応するリンク2の後貫通孔10に圧入固定し、第2のピン4を、対応するリンク2の前貫通孔9に圧入固定すると共に対応するリンク2の後貫通孔10に遊嵌している。これにより、第1のピン3の動力伝達部5,6が各プーリ60,70の対応するシーブ面62a,63a,72a,73aに接触する際、対応する第2のピン4が、上記第1のピン3に対して転がり摺動接触することにより、リンク2同士の屈曲が可能とされている。
【0039】
この際、互いに接触する第1および第2のピン3,4間において、互いの転がり接触成分が多くてすべり接触成分が極めて少なく、するとその結果、第1のピン3が上記シーブ面62a,63a,72a,73aに対してほとんど回転しないこととなり、摩擦損失を低減して高い伝動効率を確保することができる。
また、隣り合う第1および第2のピン3,4の互いの接触線Tの軌跡が、概ねインボリュート形状を描くようにされていることで、第1のピン3が各プーリ60,70に順次噛み込まれる際に、チェーン1に弦振動的な運動が生じることをより抑制できる。その結果、チェーン1の駆動時の騒音をさらに低減することができる。
【0040】
このようにして、伝動効率および静粛性にすぐれた無段変速機100を実現することができる。
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、第1のピン3の長さE1は、上記例示した値より短くてもよいし、長くてもよい。また、第1のピン3が受ける最大押圧力Hmaxは、上記例示した値より小さくてもよいし、大きくてもよい。さらに、第1のピン3の許容弾性収縮量に対する、最大弾性収縮量Jmaxの割合は、上記例示した値より小さくてもよいし、大きくてもよい。
【0041】
さらにまた、各第1のピン3の長さE1を、直交方向Vの一端での一対の動力伝達部5,6間の長さで定義したが、直交方向Vの同位置での一対の動力伝達部5,6間の長さとして定義してもよい。
また、第1のピン3の長さE1と第2のピン4の長さE2との差分Gは、第1のピン3の最大弾性収縮量Jmaxの20〜100%の範囲内にあればよく、最大弾性収縮量Jmaxの値に応じて5μmより小さくしてもよいし、50μmより大きくしてもよい。
【0042】
さらに、第1のピン3の接触部12の断面形状は、インボリュート曲線でなくてもよい。また、第2のピン4の接触部14の断面形状は、直線形状でなくてもよい。さらに、第1および第2のピン3,4は、当該対応するリンク2に圧入固定されていなくてもよい。また、リンク2の前貫通孔9と後貫通孔10の配置を入れ換えてもよい。
さらに、各リンク2の前貫通孔9および後貫通孔10は、それぞれの機能を損なわない限りにおいて、互いに連通されていてもよい。具体的には、各リンク2の前貫通孔9および後貫通孔10間に配置される柱部に、互いの貫通孔9,10同士を連通する連通溝を形成してもよい。これにより、上記各貫通孔9,10の周縁部の応力集中をより緩和することができる。本発明は、このような貫通孔の形状を含むものである。
【0043】
さらにまた、第1のピン3の一対の端部17,18のそれぞれに、動力伝達部5,6と同様の動力伝達部を有する部材を配置し、第1のピン3と当該動力伝達部を有する部材とを含む動力伝達ブロックを設け、これを第1の動力伝達部材としてもよい。
また、ドライブプーリ60およびドリブンプーリ70の双方の溝幅が変動する態様に限定されるものではなく、何れか一方の溝幅のみが変動し、他方が変動しない固定幅にした態様であっても良い。さらに、上記では溝幅が連続的(無段階)に変動する態様について説明したが、段階的に変動したり、固定式(無変速)である等の他の動力伝達装置に適用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施の形態に係る動力伝達チェーンを備える動力伝達装置としてのチェーン式無段変速機の要部構成を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1のドライブプーリ(ドリブンプーリ)およびチェーンの部分的な拡大断面図である。
【図3】チェーンの要部の構成を模式的に示す斜視図である。
【図4】図3に示すチェーンの要部の断面平面図である。
【図5】図4のII−II線に沿う断面図であり、チェーン直線部分を示している。
【図6】チェーンのうちの第1のピンを単体で示す正面図であり、白抜き矢符の上側の第1のピンは、自由状態における第1のピンを示しており、下側の第1のピンは、プーリに挟持された状態における第1のピンを示している。
【図7】チェーンのうちの第2のピンを単体で示す正面図であり、白抜き矢符の上側の第2のピンは、自由状態における第2のピンを示しており、下側の第2のピンは、プーリに軽接触した状態における第2のピンを示している。
【符号の説明】
【0045】
1 チェーン(動力伝達チェーン)
2 リンク
3 第1のピン(第1の動力伝達部材)
4 第2のピン(第2の動力伝達部材)
17 端部(第2の動力伝達部材の一対の端部の一方)
18 端部(第2の動力伝達部材の一対の端部の他方)
60 ドライブプーリ(第1のプーリ)
62a,63a シーブ面
70 ドリブンプーリ(第2のプーリ)
72a,73a シーブ面
100 無段変速機(動力伝達装置)
E1 (第1の動力伝達部材の)長さ
E2 (第2の動力伝達部材の)長さ
G 差分
Hmax (第1の動力伝達部材の端部が対応するシーブ面から受ける)最大押圧力
Jmax 最大弾性収縮量
K (第2の動力伝達部材の端部が対応するシーブ面から受ける)押圧力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のリンクと、これらのリンクを互いに連結し、互いに転がり摺動接触する第1および第2の動力伝達部材とを備え、第1の動力伝達部材がプーリの相対向する一対のシーブ面間に挟持されて第1の動力伝達部材とプーリとの間で動力が伝達される動力伝達チェーンにおいて、
上記第2の動力伝達部材は自由状態の第1の動力伝達部材よりも短くされ、
第1の動力伝達部材が一対のシーブ面間に挟持されて弾性的に縮んだ状態で第2の動力伝達部材の一対の端部がそれぞれ対応するシーブ面に軽接触するようにしてあることを特徴とする動力伝達チェーン。
【請求項2】
請求項1において、上記第2の動力伝達部材の端部が対応するシーブ面に軽接触するときに、第2の動力伝達部材の端部が対応するシーブ面から受ける押圧力は、第1の動力伝達部材の端部が対応するシーブ面から受ける最大押圧力の0%〜80%であることを特徴とする動力伝達チェーン。
【請求項3】
請求項1または2において、上記自由状態の第1の動力伝達部材の長さと第2の動力伝達部材の長さとの差分は、第1の動力伝達部材の最大弾性収縮量の20〜100%であることを特徴とする動力伝達チェーン。
【請求項4】
請求項1,2または3において、上記自由状態の第1の動力伝達部材の長さと第2の動力伝達部材の長さとの差分は、5〜50μmであることを特徴とする動力伝達チェーン。
【請求項5】
相対向する一対の円錐面状のシーブ面をそれぞれ有する第1および第2のプーリと、これらのプーリ間に巻き掛けられ、シーブ面に係合して動力を伝達する請求項1,2,3または4記載の動力伝達チェーンとを備えることを特徴とする動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−77890(P2006−77890A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−262724(P2004−262724)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】