説明

動力伝達用シャフト

【課題】主振動系に減衰機能を持たせることによって、共振を抑制することのできる動力伝達用シャフトを提供する。
【解決手段】本発明に係るシャフト50は、シャフト本体52と、シャフト本体52の外周面を覆う封入空間確保部材56を備える。シャフト本体52と封入空間確保部材56との間には、粘性体が充填された粘性体封入空間74が形成される。封入空間確保部材56は、一方の端部56aのみがシャフト本体52に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動力伝達用シャフトに係り、特にエンジン試験装置においてエンジンとダイナモメータとの間で動力を伝達する動力伝達用シャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン試験装置としてエンジンベンチが知られている。エンジンベンチは、供試エンジンが所定の性能を備えているかを評価する装置であり、供試エンジンは台上に取り付けられ、その出力軸がシャフトを介してダイナモメータに連結される。そして、ダイナモメータでエンジンの出力軸の回転力を吸収しながら、トルクや回転数を計測することによって、エンジンの性能が測定・評価される。
【0003】
ところで、エンジンベンチでは、特定の振動数(回転数)で共振が発生するおそれがある。たとえばエンジンベンチを、2つの慣性と1つのシャフト(ねじりバネ)による基本的な構成として考えた場合、その固有振動数fnは、2つの慣性値J1、J2を用いて下式より導き出される。
【0004】
【数1】

この場合、ゲインは固有振動数fnを頂点として大きくなり、その周辺振動数で共振現象が発生する。そこで従来は、シャフトの剛性や慣性値J1、J2を調節することによって、共振を避けた領域で運転するように設計を行っている。また、別の対策として、特許文献1は、軸にフライホイルを着脱自在に取り付けたり、剛性の異なるカップリングを用いたりすることによって共振域をずらしている。特許文献2は、共振点をアイドリング周波数以下に設定しており、特許文献3は、駆動側と被試験機との間に制振合金であるD2052合金を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-178616号公報
【特許文献2】特許3918435号
【特許文献3】特開2006-162486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、特許文献2は共振点を運転領域からずらすだけなので、ずらせない場合には運転領域に制限がかかったり、運転中の装置が共振点で破損したりするおそれがあった。一方、特許文献3は、共振を抑制したことによって別の問題が発生し、回転への速度追従性が低下するという問題があった。
【0007】
上述した対策のほかに、共振を抑制する方法として、ダイナミックダンパやフードダンパを取り付ける方法が知られている。ダイナミックダンパは質量m1、バネk1から成る主振動系に、質量m2、バネk2、粘性係数cの動吸振器を据え付けることによって構成されており、たとえばエンジンベンチの場合、主振動系のシャフトに、バネと粘性係数を有するラバーを介して慣性体を連結することによって構成される。一方、フードダンパは、ダイナミックダンパにおいてバネk2を無くした構成であり、エンジンベンチの場合には、主振動系のシャフトに、粘性係数cのオイルを介して質量m2の慣性体を回動自在に支持することによって構成される。しかし、これらのダンパは、主振動系に動吸振器を追加する構成であるため、慣性が増えてしまい、昨今のエンジンベンチの特徴である高速応答の弊害となってしまう。また、設計計算が難しく、共振を確実に抑制することができないという問題があった。特にダイナミックダンパの場合は、ラバーの特性が温度変化によって大きく変化するため、ラバーの特性のコントロールが難しく、共振を確実に抑制できないという問題があった。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みて成されたものであり、主振動系に減衰機能を持たせることによって、共振を抑制することのできる動力伝達用シャフトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は前記目的を達成するために、動力を伝達するシャフト本体と、前記シャフト本体の外周面を覆うことによって、または、前記シャフト本体の内部に挿入することによって、前記シャフト本体の外周面または内周面との間に略円筒状の粘性体の封入空間を形成する封入空間確保部材と、を備え、前記封入空間確保部材は一方の端部が前記シャフト本体に固定されることを特徴とする動力伝達用シャフトを提供する。
【0010】
本発明によれば、封入空間確保部材によってシャフト本体の外周面または内周面との間に略円筒状の粘性体封入空間を形成するとともに、その封入空間確保部材の一方の端部をシャフト本体に固定したので、他方の端部側ではシャフト本体のねじれ共振を抑制する減衰効果が得られる。すなわち、封入空間確保部材の他方の端部では、封入空間確保部材とシャフト本体との間で速度差を生じるが、その両者の間に減衰項となる粘性体が封入されているので、ねじり振動を抑制することができる。また、本発明はシャフト本体に減衰項を直接持たせる構成であるので、最も基本的な振動系のモデルとなり、設計計算を容易に行うことができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は請求項1において、前記粘性体は、2液混合室温硬化型の液体であることを特徴とする。本発明のように2液を混合することによって室温にて硬化する液体を用いた場合、混合直後の粘性が小さい状態で粘性体を封入空間に充填し、充填作業を容易に行うことができる。さらに、充填後に室温に置くことによって粘性体が硬化し、十分な振動減衰効果を得ることができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は請求項2において、前記粘性体は、2液を混合するシリコンゲルであることを特徴とする。本発明のようにシリコンゲルを用いることによって、充填時の作業性と、十分な振動減衰効果の両方を得ることができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は請求項1〜3のいずれか1において、前記シャフト本体の両端には、板ばねを介在させたカップリングが設けられることを特徴とする。本発明の動力伝達用シャフトは、板ばねのカップリングと組み合わせることによって比較的容易に作成することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は請求項1〜4のいずれか1において、前記封入空間確保部材は他方の端部にシール材が装着され、前記粘性体封入空間が封止されることを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の発明は請求項1〜5のいずれか1において、前記動力伝達用シャフトは、エンジンの出力軸とダイナモメータの回転軸とを連結することを特徴とする。本発明はねじり振動が発生しやすいエンジン試験装置において特に有効である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、封入空間確保部材によってシャフト本体の外周面または内周面との間に略円筒状の粘性体封入空間を形成し、その封入空間確保部材の一方の端部をシャフト本体に固定したので、他方の端部側においてシャフト本体のねじれ共振を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明が適用されたエンジンベンチの概略構成図
【図2】第1の実施形態の動力伝達用シャフトを示す斜視図
【図3】第1の実施形態の動力伝達用シャフトを示す断面図
【図4】第1の実施形態の動力伝達用シャフトの作用を示す図
【図5】第1の実施形態の動力伝達用シャフトの物理モデルを示す図
【図6】第2の実施形態の動力伝達用シャフトを示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面に従って、本発明に係る動力伝達用シャフトの好ましい実施形態について説明する。図1は、本実施の形態の動力伝達用シャフト(以下、単にシャフトという)50が適用されたエンジン試験装置10の概略構成図である。
【0019】
同図に示すエンジン試験装置10は、試験対象であるエンジン12の性能を測定・評価する装置であり、主としてエンジン12、ダイナモメータ14、ダイナモ制御部16、エンジン制御部18、制御装置20、及び、シャフト50を含むシャフト部材32で構成される。
【0020】
エンジン12は、架台22に固定されており、その内部には燃焼室(不図示)が設けられる。燃焼室には空気吸引用の吸気管24が接続されており、その吸気管24には流入量調節用のスロットル26が設けられる。また、燃焼室には排気管28が接続されており、この排気管28には排ガス浄化用の触媒装着部30が設けられる。
【0021】
エンジン12は、その出力軸がシャフト部材32を介してダイナモメータ14に接続されている。シャフト部材32は、本発明のシャフト50(図2参照)を含む複数の軸部材が連結されることによって構成されている。また、シャフト部材32にはトルクメータ36が取り付けられ、このトルクメータ36によってトルクが計測される。なお、本実施の形態は、トルクメータ36によってトルクを計測するようにしたが、これに限定するものではなく、たとえばダイナモメータ14の出力値からトルクを検出してもよい。また、トルクメータ36の他に、クラッチ、変速機、各種の連結手段等を目的に応じて挿入してもよい。さらに、トルク以外のエンジン12の状態(たとえば排ガスの温度など)を計測する手段を挿入してもよい。
【0022】
ダイナモメータ14は、エンジン12に所定の負荷トルクを与える装置であり、電流・電圧を可変させることで負荷トルクを設定できるようになっている。ダイナモメータ14としては、低慣性ダイナモメータを用いることが好ましく、低慣性ダイナモを用いることによって、低速回転から高速回転までの急激な回転数の変化に応じた安定した出力が得られる。
【0023】
ダイナモメータ14にはダイナモ制御部16が接続されている。ダイナモ制御部16は、ダイナモメータ14に印加する電流・電圧を可変制御する手段であり、このダイナモ制御部16で電流・電圧を可変制御することによって、ダイナモメータ14に接続されたエンジン12の負荷トルクが制御される。
【0024】
一方、エンジン12は、エンジン制御部18に接続される。エンジン制御部18は、スロットル開度や点火進角等の制御指令値をエンジン12に与えることによって、エンジン12を駆動制御する手段であり、通常はECU、もしくはECUにバイパス回路を付加したエンジン制御回路で実現される。ECUの代わりに仮想ECUと称されるDSP(Digital Signal Processor)で実現してもよい。このエンジン制御部18によってエンジン12に制御パラメータ(たとえば所定のスロットル開度)が与えられる。これにより、エンジン12が回転し、その回転がシャフト50を介してダイナモメータ14に伝達される。なお、エンジン制御部18から与えられる制御パラメータとしては、回転数、スロットル開度の他、燃料注入量、空気注入量、燃料と空気の混合比、点火時間(ガソリンエンジンの場合)、燃料噴射制御方法(ジーゼルエンジンの場合)など様々なパラメータがある。
【0025】
上述したダイナモメータ14、ダイナモ制御部16、エンジン制御部18、トルクメータ36は、制御装置20に接続されている。制御装置20には、トルクメータ36からトルク・回転数などのデータが入力されるとともに、エンジン制御部18からスロットル開度等の制御データが入力される。入力されたデータはメモリに一時的に格納された後、必要に応じて演算処理回路に出力され、トルク等が演算される。その際、ノイズ除去などの信号処理回路によってデータの信号処理を行ってもよい。
【0026】
なお、制御装置20において、得られたデータからエンジンのモデルを作成したり、そのモデルを用いてシミュレーションを実行したりするようにしてもよい。また、制御装置20において、各種の条件設定、たとえばスロットル開度、燃料噴射時期、点火進角、噴射時間、VVT、EGRなどの制御パラメータや、吸気温度、排気温度、燃料注入量、空気注入量、NО密度、HC密度、CО濃度、CО濃度、燃料消費量、水温などの計測パラメータを設定するようにしてもよい。
【0027】
次に本発明の特徴部分であるシャフト50について説明する。図2は第1の実施形態のシャフト50を示す斜視図であり、図3は、図2のシャフト50の断面図である。
【0028】
これらの図に示すようにシャフト50は主として、シャフト本体52、板バネカップリング54、封入空間確保部材56、シール材58で構成される。シャフト本体52はチタン6Al−4V合金やステンレス等の金属によって円柱状に形成されており、その両端は板バネカップリング54、54を介して他の軸部材(不図示)に連結される。なお、シャフト本体52の形状は円柱状に限定されるものではなく、円筒状など他の形状であってもよい。また、シャフト本体52の材質は、上記に限定されるものではなく、カーボン等の他の材料であってもよい。
【0029】
シャフト本体52の一方の端部(図6の右側の端部)にはフランジ52aが形成されている。フランジ52aはボルト等の固定部材60によって板バネカップリング54の継手本体62に固定されている。板バネカップリング54はたわみ継手であり、円盤状に形成された一対の継手本体62、62がボルト等の固定部材64によって連結されている。一対の継手本体62、62の間には、リング状に形成された金属製の板ばね66が設けられており、この板ばね66が継手本体62に固定されている。一対の継手本体62、62のうち、一方の継手本体62には前述のシャフト本体52が固定され、もう一方の継手本体62には別の軸部材(不図示)が固定される。上記の如く構成された板バネカップリング54によれば、板ばね66によって軸心のずれを調整することができるとともに、曲げモーメントを伝えずに軸トルクのみを伝えることができるので、大きいトルクや高速回転に対応することができる。また、上記の如く構成された板バネカップリング54は、簡単に着脱することができるので、後述の封入空間確保部材56及びシール材58をシャフト本体52に容易に取り付けることができる。なお、本実施の形態は、たわみ継手の板バネカップリング54の例で説明したが、他の種類の継ぎ手を用いてもよい。
【0030】
シャフト本体52の外側には、封入空間確保部材56が設けられている。封入空間確保部材56は、円筒状に形成されており、その内径はシャフト本体52の外径よりも若干大きく形成されている。封入空間確保部材56の一方側の端部(図3の右側の端部)56aは、シャフト本体52のフランジ52aにボルト等の固定部材70によって固定されている。その際、封入空間確保部材56は、シャフト本体52と同軸上となるように配置されて固定される。これにより、シャフト本体52と封入空間確保部材56との間には、円筒状の隙間(粘性体封入空間)が一定幅で形成される。
【0031】
封入空間確保部材56の他方側の端部(図3の左側の端部)56bには、シール材58が装着されている。シール材58は、リング状に形成されており、固定ボルト72によって封入空間確保部材56の端部56bに固定されている。また、シール材58は、その内径がシャフト本体52の外径と略同じ寸法(実際には僅かに大きい寸法)で形成されている。これにより、封入空間確保部材56の端部56bは、シャフト本体52に対して変位自在(摺動自在)に支持される。また、上記の如く構成されたシール材58を封入空間確保部材56に取り付けることによって、シャフト本体52と封入空間確保部材56との隙間が封止され、略密封された粘性体封入空間74が形成される。
【0032】
粘性体封入空間74には、粘性体(不図示)が封入される。粘性体の種類は特に限定するものではなく、振動を吸収できる程度の粘性(具体的には、シャフト本体52と封入空間確保部材56との隙間量によって決定される粘度)が得られるものであればよい。ただし、充填作業の容易性と十分な振動減衰効果を考えると、充填作業後に硬化する粘性体を用いることが好ましい。すなわち、シャフト本体52と封入空間確保部材56の隙間である粘性体封入空間74は隙間量が非常に小さいため、粘度の高い粘性体を充填することが困難である。一方で、粘度の高い粘性体を充填しないと、シャフト本体52に対して十分な減衰効果が得られないという問題が発生する。そのため、充填時には粘度が低く、脱泡作業などの後に硬化し、粘度が高くなる粘性体が好ましく、特に充填完了後に放置することで硬化する粘性体が理想的である。
【0033】
そこで、本実施の形態では、2液混合型のシリコンゲルを採用する。2液混合型のシリコンゲルは主剤と硬化剤を混合した後に室温で硬化していく材料であり、混合直後は粘度が低いオイル状であり、混合後24時間ほど室温に置くことによって粘性の高いゲル状へと硬化する。このようなシリコンゲルを用いる場合、混合直後のオイル状のものを粘性体封入空間74に充填し、その後24時間ほど室温に置いた後で試験を行う。これにより、充填作業を容易に行うことができるとともに、試験時に十分な減衰硬化を得ることができる。また、シリコンゲルは、ラバーに比べて熱に対する耐性があり、共振エネルギーの吸収に対して有利である。
【0034】
なお、シリコンゲルの硬化条件は温度によって決まるが、中には加熱によって硬化するタイプもあり、それを採用してもよい。ただし、本実施形態は、シャフト本体52の加工精度が必要とされているので、加熱による金属の歪みを無くすために室温硬化タイプを採用することが好ましいが、加熱硬化タイプのゲルは室温硬化タイプに比べて硬化後の粘性にむらができにくいという長所もあるので、加熱による影響が無視できる場合(たとえば、回転条件が低回転の場合や、シャフト本体52が熱変形の少ない金属の場合)であれば、使用することは効果的である。
【0035】
次に上記の如く構成されたシャフト50の作用について説明する。上述した封入空間確保部材56は、端部56bがシャフト本体52に固定されず、端部56aのみがシャフト本体52に固定されている。
【0036】
このように構成されたシャフト50では、シャフト本体52にねじりが生じると、その端部52aと端部52bとの間には変位差が生まる。これをΔxとする。ここで、封入空間確保部材56は一方の端部56aがシャフト本体52のフランジ52aと連結されているため、封入空間確保部材56のもう一方の端部56bとシャフト本体52の間には変位差Δxが生まれることになる。回転変動がある回転中は、その変位差が速度差となる。
【0037】
本実施の形態では、シャフト本体52と封入空間確保部材56との間には粘性体封入空間74が形成されており、粘性体が充填されている。このため、封入空間確保部材56の端部56bとシャフト本体52との間に速度差が生じ、その隙間の粘性体によって減衰効果が得られる。
【0038】
図4は、シャフト50の効果を示す図であり、封入空間確保部材56を有する本発明と、封入空間確保部材56のない従来との比較を示している。同図に示すように、封入空間確保部材56を取り付けた本発明では、従来に比べて共振点近辺のゲインそのものを低下させることができる。
【0039】
図5は、本実施の形態の構成をモデル化したものである。同図に示すように、本発明のシャフト50は、質量m、バネk、粘性係数cからなる主振動系のみで表される。すなわち、シャフト50そのものに減衰項を設けた単純なモデルで表される。したがって、主振動系に動吸振器を設けた従来と異なり、設計計算を容易に行うことができる。
【0040】
なお、上述した実施形態は粘性体封入空間74をシャフト本体52の外側に形成したが、これに限定するものではなく、粘性体封入空間74をシャフト本体52の内側に形成してもよい。図6はその1例である第2の実施形態のシャフト80を示す断面図である。なお、同図において第1の実施形態と同様の構成、作用を有する部材については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0041】
図6に示すように、第2の実施形態は、シャフト本体82が円筒状に形成され、その内部に封入空間確保部材86が配置されている。封入空間確保部材86は、その外径がシャフト本体82の内径よりも小さく形成されており、シャフト本体82と同軸上に配置されている。これにより、シャフト本体82の内周面と封入空間確保部材86の外周面との間には円筒状の隙間が一定幅で形成される。
【0042】
封入空間確保部材86は、一方の端部(図6の右側の端部)86aが固定部材70によって板バネカップリング54の継手本体62に固定される。すなわち、封入空間確保部材86の端部86aが板バネカップリング54を介してシャフト本体82に固定される。なお、本実施の形態では、封入空間確保部材86の端部86aを板バネカップリング54に固定したが、これに限定するものではなく、シャフト本体82に直接固定するようにしてもよい。
【0043】
封入空間確保部材86の他方の端部86bにはシール材88が装着される。シール材88は円盤状に形成され、固定部材72によって封入空間確保部材86に固定される。また、シール材88はその外径がシャフト本体82の内径と略同じ(実際には若干小さい)寸法で形成され、シャフト本体82に対して回転方向に変位自在に支持される。したがって、封入空間確保部材86の端部86bはシャフト本体82に対して回転方向に変位自在に支持される。
【0044】
上記の如く構成されたシール材88を封入空間確保部材86に装着することによって、シャフト本体82の内周面と封入空間確保部材86の外周面との間に円筒状の粘性体封入空間74が形成される。粘性体封入空間74には、第1の実施形態と同様に、粘性体が充填される。
【0045】
上記の如く構成されたシャフト80によれば、封入空間確保部材86の端部86bがシャフト本体82に固定されず、端部86aのみがシャフト本体82に固定されている。このため、シャフト本体82を回転させると、封入空間確保部材86は一方の端部86aがシャフト本体52と同時に回転し、他方の端部86bではシャフト本体52に対して回転方向の速度差が発生する。シャフト本体82と封入空間確保部材86との間の粘性体封入空間74には粘性体が充填されているので、封入空間確保部材86の端部86bとシャフト本体82との速度差は粘性体によって吸収される。これにより、ねじり振動が吸収され、共振の発生を抑制することができる。
【0046】
なお、上述した実施形態は、シール材58、88を封入空間確保部材56、86に固定したが、これに限定するものではなく、シャフト本体52、82に固定し、封入空間確保部材56、86に摺動自在となるようにしてもよい。
【0047】
また、上述した実施形態は本発明をエンジン試験装置に適用した例であるが、本発明はこれに限定するものではなく、他の動力伝達用シャフトに適用してもよい。
【符号の説明】
【0048】
10…エンジン試験装置、12…エンジン、14…ダイナモメータ、16…ダイナモ制御部、18…エンジン制御部、20…制御装置、34…シャフト部材、50…シャフト、52…シャフト本体、54…板バネカップリング、56…封入空間確保部材、58…封入部材、62…継手本体、66…板ばね、74…粘性体封入空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力を伝達するシャフト本体と、
前記シャフト本体の外周面を覆うことによって、または、前記シャフト本体の内部に挿入することによって、前記シャフト本体の外周面または内周面との間に略円筒状の粘性体の封入空間を形成する封入空間確保部材と、を備え、
前記封入空間確保部材は一方の端部が前記シャフト本体に固定されることを特徴とする動力伝達用シャフト。
【請求項2】
前記粘性体は、2液混合室温硬化型の液体であることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達用シャフト。
【請求項3】
前記粘性体は、2液を混合するシリコンゲルであることを特徴とする請求項2に記載の動力伝達用シャフト。
【請求項4】
前記シャフト本体の両端には、板ばねを介在させたカップリングが設けられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の動力伝達用シャフト。
【請求項5】
前記封入空間確保部材は他方の端部にシール材が装着され、前記粘性体の封入空間が封止されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載の動力伝達用シャフト。
【請求項6】
前記動力伝達用シャフトは、エンジンの出力軸とダイナモメータの回転軸とを連結することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載の動力伝達用シャフト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−102759(P2012−102759A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249309(P2010−249309)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000127570)株式会社エー・アンド・デイ (136)
【Fターム(参考)】