説明

動力伝達装置及びその設計方法

【課題】チェーンのピン間のピッチの相違に起因する騒音を低減すること。
【解決手段】一対の内側プレート及び前記内側プレートの両端部間にそれぞれ設けられたブッシュを備えた内側リンクと、一対の外側プレートを備えた外側リンクとを、前記ブッシュを挿通するピンにより交互に連結したエンドレスチェーンと、第1及び第2のスプロケットを少なくとも含み、前記エンドレスチェーンが巻き回される複数のスプロケットと、前記エンドレスチェーンのうち、前記第1のスプロケットと前記第2のスプロケットとの間の走行部分の一部に当接する当接部材と、を備えた動力伝達装置において、前記当接部材と前記エンドレスチェーンとの当接部分の端部のうち、前記第2のスプロケット側の端部から、前記第2のスプロケットと前記エンドレスチェーンとの噛み合い部分の端部のうち、前記当接部材側の端部までの区間における前記内側リンク及び前記外側リンクの総数が偶数であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チェーン駆動による動力伝達装置の騒音低減技術に関する。
【背景技術】
【0002】
チェーン駆動の動力伝達装置では、チェーンがスプロケットに噛み合う時の衝撃に起因して騒音が発生する。この騒音を低減するために、例えば、特許文献1にはスプロケットに衝撃吸収用のリングを設けたものが開示されている。また、チェーンの張力を調節するテンショナや、チェーンの走行を案内するガイドを設けてチェーンのたるみ等を防止することにより、騒音を低減するものも知られている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−2312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、ブッシュチェーンやローラチェーンは、内側リンクと外側リンクとを、ピンを用いて、交互に連結して構成されており、内側リンクのプレートの両端部間には、それぞれ、ピンが挿通するブッシュが設けられている。このブッシュの外周面は内側リンクの孔との摩擦により、また、内周面はピンとの摩擦により、磨耗する。この磨耗に起因して、チェーンの使用により、内側リンクのピン間のピッチは長くなる傾向にあり、チェーン全長が長くなる。そこで、通常は、設計上、ブッシュの磨耗を見込んで、内側リンクのピン間のピッチが、外側リンクのピン間のピッチよりも長く設定されており、チェーンの使用によるブッシュの磨耗の進行に伴って、これらのピッチが略一致するようにされている。
【0005】
上述したテンショナやガイドは、騒音低減に一定の効果があるが、使用時の初期段階において騒音の発生が認められる場合があり、この騒音は、上述したピン間のピッチの相違と相関があると考えた。
【0006】
本発明の目的は、チェーンのピン間のピッチの相違に起因する騒音を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、一対の内側プレート及び前記内側プレートの両端部間にそれぞれ設けられたブッシュを備えた内側リンクと、一対の外側プレートを備えた外側リンクとを、前記ブッシュを挿通するピンにより交互に連結したエンドレスチェーンと、第1及び第2のスプロケットを少なくとも含み、前記エンドレスチェーンが巻き回される複数のスプロケットと、前記エンドレスチェーンのうち、前記第1のスプロケットと前記第2のスプロケットとの間の走行部分の一部に当接する当接部材と、を備えた動力伝達装置において、前記当接部材と前記エンドレスチェーンとの当接部分の端部のうち、前記第2のスプロケット側の端部から、前記第2のスプロケットと前記エンドレスチェーンとの噛み合い部分の端部のうち、前記当接部材側の端部までの区間における前記内側リンク及び前記外側リンクの総数が偶数であることを特徴とする動力伝達装置が提供される。
【0008】
この動力伝達装置では、前記区間における前記内側リンク及び前記外側リンクの総数が偶数である。仮に奇数とすると、該区間において、前記内側リンクの数が前記外側リンクの数よりも多い状態と、その逆の状態とが交互に発生し、該区間における前記チェーンの長さが変動する。この変動が騒音の要因となるところ、本発明は、該区間における前記チェーンの長さが一定となるため、騒音を低減できる。
【0009】
本発明においては、前記第1のスプロケットが、相対的に大径の駆動側スプロケットであり、前記第2のスプロケットが、相対的に小径の従動側スプロケットであり、前記エンドレスチェーンの前記走行部分の走行方向が、前記第1のスプロケットから前記第2のスプロケットへ向かう方向であり、前記当接部材が、前記エンドレスチェーンの張力を調整するテンショナを構成する可動の部材であってもよい。
【0010】
この構成によれば、チェーンの振れが生じ易く、振動が生じ易い部位において、騒音を低減できる。
【0011】
また、本発明においては、前記動力伝達装置は、エンジンのクランクシャフトと、前記エンジンのバランサシャフトとの間で動力を伝達し、前記第1のスプロケットが前記クランクシャフトに取り付けられ、前記第2のスプロケットが前記バランサシャフトに取り付けられてもよい。
【0012】
この構成によれば、回転変化が激しいエンジンにおいて、チェーン騒音が発生し易い機構について、騒音を低減できる。
【0013】
また、本発明においては、前記エンドレスチェーンは、前記ブッシュが挿通するローラを有するローラチェーンであってもよい。また、該ローラを有しないブッシュチェーンであってもよい。
【0014】
また、本発明によれば、一対の内側プレート及び前記内側プレートの両端部間にそれぞれ設けられたブッシュを備えた内側リンクと、一対の外側プレートを備えた外側リンクとを、前記ブッシュを挿通するピンにより交互に連結したエンドレスチェーンと、第1及び第2のスプロケットを少なくとも含み、前記エンドレスチェーンが巻き回される複数のスプロケットと、前記エンドレスチェーンのうち、前記第1のスプロケットと前記第2のスプロケットとの間の走行部分の一部に当接する当接部材と、を備えた動力伝達装置の設計方法において、前記当接部材と前記エンドレスチェーンとの当接部分の端部のうち、前記第2のスプロケット側の端部から、前記第2のスプロケットと前記エンドレスチェーンとの噛み合い部分の端部のうち、前記当接部材側の端部までの区間における前記内側リンク及び前記外側リンクの総数を偶数とすることを特徴とする動力伝達装置の設計方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
以上述べた通り、本発明によれば、チェーンのピン間のピッチの相違に起因する騒音を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<動力伝達装置の構成例>
図1は本発明の一実施形態に係る動力伝達装置Aを適用したエンジン100の概略図である。軸受構造が適用されたエンジンAの概略図である。エンジン100は、4サイクル直列4気筒ガソリンレシプロエンジンであるが、本発明は、他の気筒列配置、気筒数、或いはディーゼル形式等、他の種類のエンジンにも適用可能である。また、本発明はエンジン以外の装置にも適用可能である。
【0017】
エンジン100は、シリンダヘッド101、シリンダブロック102を備える。シリンダヘッド101には、吸気側のカム軸103と、排気側のカム軸104とが回転自在に支持されており、クランクシャフト105の駆動力が不図示の動力伝達機構により伝達されて回転し、それぞれ吸気バルブ103a、排気バルブ104aを往復運動させる。本実施形態では、動弁機構がDOHC形式に構成されており、吸気バルブ103a、排気バルブ104aは1気筒あたりそれぞれ2つずつ設けられて、燃焼室に臨む吸気ポート、排気ポートを開閉する。
【0018】
シリンダブロック102には、気筒列方向に延びるクランクシャフト105が回転自在に支持されている。クランクシャフト105のクランクピン105aにはコンロッド106の下端が回転自在に連結され、コンロッド106の上端にはピストン107が揺動自在に連結されている。図1においてコンロッド106及びピストン107は1気筒分のみ図示している。
【0019】
クランクシャフト105の下方には、気筒列方向と直交する方向に並設され、気筒列方向に延びる一対のバランサシャフト110、120が設けられている。バランサシャフト110、120は、それぞれ、その軸心から偏心して設けられたウエイト部111、121と、互いに噛合するギヤ部112、122と、を備える。ウエイト部111、121は、気筒列方向最前端の気筒(つまり、第1気筒)と、最後端の気筒(つまり、第4気筒)との間に位置しており、本実施形態では、第2気筒の下方に位置している。ギヤ部112、122は、例えば、ヘリカルギヤであり、歯数は同数とされて、バランサシャフト110、120を同期的に回転させる。バランサシャフト110は、ギヤ部112から気筒列方向前側に延設された延長軸部110aを有している。
【0020】
動力伝達装置Aは、ローラチェーン10と、スプロケット1及び2と、チェーンガイド20及びチェーンレバー30を備える。スプロケット1は、クランクシャフト105の端部に固定された駆動側のスプロケットであり、スプロケット2は、バランサシャフト110の延長軸部110aの端部に固定された従動側のスプロケットである。ローラチェーン10は、スプロケット1及び2に巻き回されたエンドレスチェーンであり、クランクシャフト105の回転力をバランサシャフト110に伝達する。これにより、バランサシャフト110は回転し、また、ギヤ部112、122を介してバランサシャフト120もバランサシャフト110と同期的に回転する。バランシャシャフト110、120の回転により、エンジン100の振動を低減することができる。
【0021】
図2は、シリンダブロック102の前端面を示す図及び要部拡大図であり、動力伝達装置A周辺の構成を示す。スプロケット1とスプロケット2とは、スプロケット1が、相対的に大径、スプロケット2が、相対的に小径となっており、本実施形態の場合、スプロケット2の直径はスプロケット1の直径の約1/2となっている。したがって、バランサシャフト110及び120は、クランクシャフト105の回転数の2倍速で回転されることになる。
【0022】
図2において、矢印d1はスプロケット1の回転方向(つまり、クランクシャフト105の回転方向)を示し、矢印d2はローラチェーン10の走行方向を示す。スプロケット1は時計回りに回転している。このため、スプロケット1の軸心とスプロケット2の軸心とを通る線を仮想した場合、その仮想線の右側はローラチェーン10の緩み側、左側はローラチェーンの緊張側となる。そして、ローラチェーン10の走行方向は、上記仮想線の右側では、スプロケット1からスプロケット2へ向かう方向となり、左側では、スプロケット2からスプロケット1へ向かう方向となる。
【0023】
チェーンガイド20及びチェーンレバー30は、それぞれ、ローラチェーン10が摺接する当接面20a、30aを有し、スプロケット1とスプロケット2との間のローラチェーン10の走行部分の一部に当接する当接部材である。チェーンガイド20は、ローラチェーン10の緊張側に配置されており、シリンダブロック102に不動に固定されている。チェーンレバー30は、ローラチェーン10の緩み側に配置されており、取付部材31を介してシリンダブロック102に、該取付部材31を回動中心として回動可能に固定された可動の部材である。
【0024】
チェーンレバー30の近傍には、アクチュエータ40が配置されている。アクチュエータ40は、その内部にスプリングを有し、該スプリングの付勢力でピストン40aが矢印d3にチェーンレバー30を押圧する。つまり、チェーンレバー30とアクチュエータ40とは、ローラチェーン10の張力を調整するチェーンテンショナを構成してローラチェーン10の緩み側において、たるみの発生を防止する。アクチュエータ40にはエンジン100内を循環するオイルが供給され、ローラチェーン10からの反力によるピストン40aの振動を減衰する。
【0025】
次に、図3(a)を参照してローラチェーン10の構成を説明する。図3(a)はローラチェーン10の分解斜視図である。ローラチェーン10は、一般的なローラチェーンであり、内側リンク11と、外側リンク12と、をピン13により交互に連結して構成されている。
【0026】
内側リンク11は、一対の内側プレート11aと、ブッシュ11bと、ローラ11cと、を備える。ブッシュ11bは、内側プレート11aの両端部間にそれぞれ設けられ、内側プレート11aの孔に圧入される。ローラ11cには、ブッシュ11bが挿通し、一対の内側プレート11a間に保持される。外側リンク12は、一対の外側プレート12aを備える。しかして、ブッシュ11bにピン13を挿通し、かつ、外側プレート12aの孔にピン13を圧入することで、内側リンク11と外側リンク12とが連結される。
【0027】
ここで、ローラチェーン10はその使用によりブッシュ11bの両端部外周面及び内周面が磨耗することが知られている。ブッシュ11bの両端部外周面は内側リンク11の孔の周壁との摩擦により、また、ブッシュ11bの内周面はピン13との摩擦により、それぞれ磨耗する。その結果、ローラチェーン10の使用により、内側リンク11について、ピン13間のピッチが長くなる。
【0028】
そこで、一般には、設計上、図3に示す内側リンク11のピン13間のピッチPiは、外側リンク12のピン13間のピッチPoよりも僅かに小さくされている。ローラチェーン10の使用により上述した磨耗が進行すると、ピッチPiが徐々に長くなり、磨耗の進行が治まる頃にピッチPoに略等しくなる。
【0029】
本発明は、このピッチPi、Poの相違に起因して、特に新品のローラチェーン10の使用開始後の一定の期間に騒音が生じ易いことに着目したものである。
【0030】
ローラチェーン10の騒音は、その緊張側よりも緩み側で生じ易く、特に、従動側のスプロケット2の、ローラチェーン10の噛み始め部分においては、スプロケット2の歯とローラチェーン10との衝突により、騒音が生じ易い。
【0031】
図2の要部拡大図は、スプロケット2の、ローラチェーン10の噛み始め部分近傍の破線円Rで囲む領域の拡大図である。本実施形態では、チェーンレバー30の当接面30aとローラチェーン10との当接部分の端部のうち、スプロケット2側の端部から、スプロケット2とローラチェーン10との噛み合い部分の端部のうち、チェーンレバー30の端部までの区間FSにおける内側リンク11及び外側リンク12の総数を偶数としている。これにより、スプロケット2の、ローラチェーン10の噛み始め部分において生じる騒音を低減できる。その理由は以下の通りである。
【0032】
区間FSは、チェーンレバー30及びスプロケット2による拘束がない、自由域であるため、区間FS内でローラチェーン10は振動し得る。この振動を抑制できれば、騒音を低減できることになる。
【0033】
区間FSにおける内側リンク11及び外側リンク12の総数が奇数であると、これらのリンクのうち、いずれか一方のリンクの数が多くなるため、区間FSでのローラチェーン10の長さLは、ピッチPi、Poの相違分だけ、ローラチェーン10の走行により時間的に変動する。つまり、区間FSにおける内側リンク11及び外側リンク12の総数をN+1個とすると(Nは偶数)、
L=N/2×(Pi+Po)+Po、又は、
L=N/2×(Pi+Po)+Pi
となり、このような長さが異なる状態が交互に繰り返され、ローラチェーン10の張力変動が生じる。その結果、区間FS内でローラチェーン10は弦振動を生じえる。
【0034】
一方、区間FSにおける内側リンク11及び外側リンク12の総数が偶数(N)であると、
L=N/2×(Pi+Po)
となり、時間的に変動せず、一定である。よって、騒音を低減できる。
【0035】
図2の例の場合、区間FSにおける内側リンク11及び外側リンク12の総数は4つとしており、内側リンク11が2つ(#2、#4)、外側リンク12も2つ(#3、#4)である。区間FSは、ローラチェーン10がチェーンレバー30及びスプロケット2による実質的に拘束されない区間を基準として特定する。
【0036】
このため、チェーンレバー30の当接面30aとローラチェーン10との当接部分の端部のうち、スプロケット2側の端部は、ローラチェーン10の走行方向で、当接面30aに当接する最先頭のリンク(図2の例では、外側リンク12(#1)が当接する部分とする。
【0037】
また、スプロケット2とローラチェーン10との噛み合い部分の端部のうち、ローラ11cがスプロケット2と最初に完全に噛み合っている部分(図2の例では、内側リンク11(#4)のローラ11cのうち、ローラチェーン10の走行方向前方側のローラ11c)とする。なお、本実施形態では、ローラチェーン10を採用した場合を例示しているが、これに代えてブッシュチェーン(ローラチェーンのローラが無いもの)も採用可能であり、この場合、ブッシュがスプロケット2と完全に噛み合っている部分とする。
【0038】
次に、動力伝達装置Aを設計するにあたり、区間FSにおける内側リンク11及び外側リンク12の総数は、例えば、
○スプロケット1とスプロケット2との軸間距離、
○チェーンレバー30の当接面30aの形状、
○アクチュエータ40によるローラチェーン10の付勢力(ピストン40aの突出量)、
により調整できる。
【0039】
通常、動力伝達装置Aが駆動中の場合と、停止中の場合とでは、ローラチェーン10の長さが異なる。つまり、停止中の場合、ローラチェーン10には張力が発生していないため、駆動中の場合と、区間FSにおける内側リンク11及び外側リンク12の総数が変わる場合がある。よって、区間FSにおける内側リンク11及び外側リンク12の総数は、動力伝達装置Aが駆動中の場合を基準として設計する。この設計のため、動力伝達装置Aが駆動中の場合の、内側リンク11及び外側リンク12の総数の確認は、例えば、
○コンピュータシミュレーションにより確認する、
○区間FSにおけるローラチェーン10を高速カメラで撮影し、その画像から確認する、
ことが挙げられる。
【0040】
次に、図3(b)は、区間FSにおける内側リンク11及び外側リンク12の総数(以下、総リンク数という)が異なるエンジン100を作成し、その騒音レベルを測定した実験結果を示す。総リンク数は、スプロケット1とスプロケット2との軸間距離の変更、及び、ローラチェーン10の伸び率(ピストン40aの突出量)を変えることで設定し、仕様が同じローラチェーン10を使用した。
【0041】
スプロケット1とスプロケット2との軸間距離は、総リンク数が3つのものと、4つのものとで共通であり、ローラチェーン10の伸び率は総リンク数が4つのものと5つのものとで共通である。騒音レベルは、エンジン100の回転数を1700から2400rpmまで段階的に変更し、各回転数での騒音レベルの平均値とした。
【0042】
図3(b)の実験結果から、総リンク数が偶数(4つ)の場合に、騒音レベルの低下が見られ、総リンク数が偶数か、奇数かであることと、騒音レベルとの間に相関関係があることが実験上でも明らかになった。
【0043】
次に、上記の通り、区間FSにおける内側リンク11及び外側リンク12の総数を偶数とすることで、騒音低減に効果があるが、区間FSにおける内側リンク11及び外側リンク12の総数は、より少ない方が好ましい。ローラチェーン10は、ピン13を曲折点とするため、リンク数が多いほど、曲折点数が多くなり、振動モードの次数が増加する。
【0044】
図4(a)乃至(c)は振動モードの説明図であり、内側リンク11及び外側リンク12をそれぞれ2つ、総数で4つのリンクの振動モードを示している。図4(a)は1次振動モード、図4(b)は2次振動モード、図4(c)は3次振動モードを示している。総数を4つとした場合、このように1次〜3次の振動モードで振動し得る。総数を5つとした場合は、1次〜4次の振動モードで振動し得る。こうして、リンクの総数が多いほど、振動モードの次数が増加する。振動モードの次数が多いということは、共振回転数領域の数がそれだけ多くなる。よって、区間FSにおける内側リンク11及び外側リンク12の総数を、より少なくすることは、共振回転数領域の数を減らすという意味において騒音低減効果がある。但し、リンクの総数を余り少なくすると、駆動抵抗が大きくなる場合がある。このため、区間FSにおける内側リンク11及び外側リンク12の総数は、4以上であることが好ましく、4つが最適である。
【0045】
次に、本実施形態では、チェーンレバー30とスプロケット2との間の区間FSについて、内側リンク11及び外側リンク12の総数を偶数としたが、スプロケット2とチェーンガイド20との間の区間、チェーンガイド20とスプロケット1との間の区間、或いは、スプロケット1とチェーンレバー30との間の区間、について内側リンク11及び外側リンク12の総数を偶数としてもよい。尤も、ローラチェーン10の騒音は、ローラチェーン10の緩み側で、従動側のスプロケット2の噛み始めにおいて発生し易いため、チェーンレバー30とスプロケット2との間の区間FSについて、内側リンク11及び外側リンク12の総数を偶数とすることは、騒音低減に特に有効である。
【0046】
また、本実施形態では、ローラチェーン10が巻き回されるスプロケットの数を2つとしたが、3以上の構成であってもよい。
【0047】
また、本実施形態では、クランクシャフト105と、バランサシャフト110との間の駆動力伝達に本発明を適用した場合を例示したが、適用例はこれに限られない。尤も、回転変化が激しいエンジンにおいて、バランサシャフトの動力伝達機構はチェーン騒音が発生し易いところ、本実施形態ではその騒音を効果的に低減できる。
【0048】
<バランサ装置の構成例>
バランサシャフト110は、偏心したウエイト部111を有するため、その回転により振動し、騒音の発生源となり易い。ここでは、バランサシャフト110に起因する騒音を低減する構成について説明する。このバランサシャフトに起因する騒音の低減構成は、上述した、区間FSにおける内側リンク11及び外側リンク12の総数を偶数とする構成と併用することで、チェーン騒音とバランサシャフトに起因する騒音との双方が低減でき、全体として騒音低減効果を更に高めることができるが、バランサシャフトに起因する騒音の低減構成のみをエンジンに採用することもできる。
【0049】
図5は、図2の線X−Xに沿うエンジン100の断面図である。バランサシャフト110及び120は、ケース210に組み込まれてバランサ装置200としてユニット化されている。なお、図5において、バランシャシャフト120は図示されていないが、バランサシャフト110の奥手側においてケース210に組み込まれている。
【0050】
図5において、シリンダブロック102は、その下部に、クランクシャフト105の下方に位置するロアブロック102aを備えており、バランサ装置200はロアブロック102aの下面に固定されている。ケース210は、上部ケース部211と、下部ケース部212と、を有し、これらの間にバランサシャフト110及び120が軸支されている。
【0051】
上部ケース部211と下部ケース部212とは、それぞれ、軸受部220、221を有する。バランサシャフト110は、ウエイト部111を挟むようにその両側部で軸受部220、221に回転自在に支持されており、軸受部220は、ウエイト部111とギヤ部112との間の部分を軸支し、軸受部220はバランサシャフト110の気筒列方向後端部を軸支している。バランサシャフト120側の軸受構造については、図5においては不図示であるが、バランサシャフト110と同様に、ウエイト部121とギヤ部122との間の部分と、気筒列方向後端部と、において軸支されている。
【0052】
バランサシャフト110に関し、延長軸部110aについては、上部ケース部211及び下部ケース部212との間に空隙230が形成され、軸支されていない。
【0053】
ここで、バランサシャフト110及び120のウエイト部111、121は、上記の通り、エンジン100の第2気筒の下方に位置しているが、エンジン100の振動を低減するためには、このように気筒列方向で中央付近下方にウエイト部111、121が位置することになる。
【0054】
一方、駆動側のバランサシャフト110は、シリンダブロック102の前端面側で駆動力を伝達することが必要となるために、延長軸部110aを有し、その気筒列方向前端部にスプロケット2が取り付けられている。延長軸部110aが駆動力の入力部であるスプロケット2をその端部に有しており、かつ、スプロケット2から軸受部220が離間していることから、従来では、延長軸部110aもケース210により軸支すべく、空隙230の部位に軸受を設けた構成としている。本実施形態は、延長軸部110aをケース210により軸支しないことにより、騒音低減を図ったものである。その理由は以下の通りである。
【0055】
バランサシャフトに起因する騒音は、バランサシャフト110とケース210との共振により生じる。バランサシャフト110の振動は、軸支箇所からケース210へ伝達する。そこで、軸支箇所と騒音とに相関関係があると考えた。
【0056】
従来の構造における、駆動側のバランサシャフト110の3箇所の軸支箇所のうち、延長軸部110aの軸支箇所は、ウエイト部111から最も離れており、したがって、バランシャシャフト110の径方向の振動が最も強く作用すると考えられる。加えて、延長軸部110aの軸支箇所は、スプロケット2に最も近いため、駆動力の入力によるシャフトの曲げ力が最も強く作用する。つまり、3箇所の軸支箇所のうち、延長軸部110aの軸支箇所において振動エネルギが最も大きいと考えた。そして、そのシャフトの振動が直接軸支部からケースに伝わり、共振現象により騒音の増大につながっている。
【0057】
そこで、上記の通り、延長軸部110aにおいて軸支しない構成を採用したところ、バランサ装置200から発生する騒音を低減することができた。
【0058】
このようにエンジン100のバランサ装置200は、
1. 一方端部に回転駆動力が入力される駆動輪(2)が設けられ、ウエイト部(111)を有する駆動側のバランサシャフト(110)と、
ウエイト部(121)を有する従動側のバランサシャフト(120)と、
前記両バランサシャフト(110、120)を並列姿勢で軸支する軸受部を備えたケース(210)と、
を備えたバランサ装置において、
前記両バランサシャフトに対する軸受部が、
前記ウエイト部を挟むように配置された第1軸受部(220)と、第2軸受部(221)と、のみからなり、
前記駆動側のバランサシャフトの前記第1軸受部は、前記一方端部よりも前記ウエイト部側に位置していることを特徴とする。
【0059】
この構成によれば、駆動側のバランサシャフトの軸支箇所を2ヶ所とし、かつ、記第1軸受部を前記ウエイト部寄りに配置することで、騒音を低減することができる。つまり、駆動側のバランサシャフトの駆動力の入力端側の強い曲げ力がその付近から直接ケースに伝わることがなくなり、ケースでの共振が抑制され、騒音の低減が図れる。前記駆動輪は代表的にはスプロケットであるが、例えば、ベルト伝動の場合、プーリでもよい。
【0060】
また、この構成によれば、記第1及び第2軸受部を前記ウエイト部に近接させたことで、前記バランサシャフトから前記ケースに伝達される振動エネルギをより小さくし、騒音を低減することができる。
【0061】
また、上記バランサ装置は、
2. 前記両バランサシャフトは、同期的に回転させる駆動側ギヤ部(112)及び従動側ギヤ部(122)を備え、
前記両ギヤ部が、前記第1又は第2軸受部の前記ウエイト部とは反対側に配置されたことを特徴とする。
【0062】
この構成によれば、前記両ギヤ部近傍に前記各軸受部が位置することにより、前記両ギヤ部周辺の軸支力を確保しながら騒音を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る動力伝達装置Aを適用したエンジン100の概略図である。
【図2】シリンダブロック102の前端面を示す図及び要部拡大図である。
【図3】(a)はローラチェーン10の分解斜視図、(b)は騒音試験の結果を示す図である。
【図4】(a)乃至(c)は振動モードの説明図である。
【図5】図2の線X−Xに沿うエンジン100の断面図である。
【符号の説明】
【0064】
A 動力伝達装置
1、2 スプロケット
10 ローラチェーン
11 内側リンク
11a 内側プレート
11b ブッシュ
12 外側リンク
12a 外側プレート
13 ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の内側プレート及び前記内側プレートの両端部間にそれぞれ設けられたブッシュを備えた内側リンクと、一対の外側プレートを備えた外側リンクとを、前記ブッシュを挿通するピンにより交互に連結したエンドレスチェーンと、
第1及び第2のスプロケットを少なくとも含み、前記エンドレスチェーンが巻き回される複数のスプロケットと、
前記エンドレスチェーンのうち、前記第1のスプロケットと前記第2のスプロケットとの間の走行部分の一部に当接する当接部材と、
を備えた動力伝達装置において、
前記当接部材と前記エンドレスチェーンとの当接部分の端部のうち、前記第2のスプロケット側の端部から、前記第2のスプロケットと前記エンドレスチェーンとの噛み合い部分の端部のうち、前記当接部材側の端部までの区間における前記内側リンク及び前記外側リンクの総数が偶数であることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記第1のスプロケットが、相対的に大径の駆動側スプロケットであり、
前記第2のスプロケットが、相対的に小径の従動側スプロケットであり、
前記エンドレスチェーンの前記走行部分の走行方向が、前記第1のスプロケットから前記第2のスプロケットへ向かう方向であり、
前記当接部材が、前記エンドレスチェーンの張力を調整するテンショナを構成する可動の部材であることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記動力伝達装置は、
エンジンのクランクシャフトと、前記エンジンのバランサシャフトとの間で動力を伝達し、
前記第1のスプロケットが前記クランクシャフトに取り付けられ、前記第2のスプロケットが前記バランサシャフトに取り付けられることを特徴とする請求項2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記エンドレスチェーンは、
前記ブッシュが挿通するローラを有するローラチェーンであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
一対の内側プレート及び前記内側プレートの両端部間にそれぞれ設けられたブッシュを備えた内側リンクと、一対の外側プレートを備えた外側リンクとを、前記ブッシュを挿通するピンにより交互に連結したエンドレスチェーンと、
第1及び第2のスプロケットを少なくとも含み、前記エンドレスチェーンが巻き回される複数のスプロケットと、
前記エンドレスチェーンのうち、前記第1のスプロケットと前記第2のスプロケットとの間の走行部分の一部に当接する当接部材と、
を備えた動力伝達装置の設計方法において、
前記当接部材と前記エンドレスチェーンとの当接部分の端部のうち、前記第2のスプロケット側の端部から、前記第2のスプロケットと前記エンドレスチェーンとの噛み合い部分の端部のうち、前記当接部材側の端部までの区間における前記内側リンク及び前記外側リンクの総数を偶数とすることを特徴とする動力伝達装置の設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−78043(P2010−78043A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−246541(P2008−246541)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】