説明

動力伝達装置

【課題】製造コストの増大する事態や適用対象の大型化を招来することなく、動力の出力先を切り換えること。
【解決手段】チャージモータMによって駆動されるサンギヤ10と、サンギヤ10に歯合し、自身の軸心回りに回転可能、かつサンギヤ10の軸心回りに公転可能に支持させたプラネタリギヤ20と、サンギヤ10の軸心回りに回転可能に配設するとともに、内周ギヤ部30aを介してプラネタリギヤ20に歯合する第1リングギヤ30と、内周ギヤ部30aとは異なる歯数の内周ギヤ部40aを有し、サンギヤ10の軸心回りに回転可能に配設するとともに、内周ギヤ部40aを介してプラネタリギヤ20に歯合する第2リングギヤ40と、第1リングギヤ30に対して予め設定した大きさのブレーキトルクを付与するブレーキ手段60,70,80とを備え、サンギヤ10を入力要素とし、かつ第1リングギヤ30及び第2リングギヤ40を出力要素とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関するもので、特に、一つの駆動源からの動力の出力先を切り換えるようにした動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の動力伝達装置としては、例えば、特許文献1に記載されたものがある。この特許文献1に記載された動力伝達装置は、チャージモータの動力をチャージユニット機構に伝達してシャッターチャージを行った後、チャージモータの動力をフライホイールに伝達することにより、シャッターチャージに伴って発生する振動を低減するようにしたものである。動力の切り換えには、遊星歯車機構が適用されており、例えばプラネタリキャリヤがチャージユニット機構に接続され、リングギヤがフライホイールに接続されている。
【0003】
この動力伝達装置では、リングギヤの回転を規制することでチャージモータの動力がチャージユニット機構に伝達されることになり、シャッターチャージを行うことができる。一方、リングギヤを回転可能状態とする一方、プラネタリキャリヤの回転を規制すると、チャージモータからの動力の出力先がフライホイールに切り換えられ、フライホイールの慣性力によりカメラの振動を低減するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−58545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、リングギヤやプラネタリキャリヤの回転を規制した状態と許容した状態とに切り換えるためには、アクチュエータ及びアクチュエータの駆動を制御するためのコントローラが必須となる。このため、特許文献1の動力伝達装置を適用した場合には、製造コストが著しく増大することになるばかりか、カメラ等、適用対象の大型化を招来することになる。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みて、製造コストの増大する事態や適用対象の大型化を招来することなく、動力の出力先を切り換えることのできる動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る動力伝達装置は、自身の軸心回りに回転可能に配設し、駆動源によって駆動される第1ギヤ部材と、前記第1ギヤ部材に歯合し、自身の軸心回りに回転可能、かつ前記第1ギヤ部材の軸心回りに公転可能に支持させた中間ギヤ部材と、内周部に内周ギヤ部を有し、前記第1ギヤ部材の軸心回りに回転可能に配設するとともに、内周ギヤ部を介して前記中間ギヤ部材に歯合する第2ギヤ部材と、内周部に前記第2ギヤ部材の内周ギヤ部とは異なる歯数の内周ギヤ部を有し、前記第1ギヤ部材の軸心回りに回転可能に配設するとともに、内周ギヤ部を介して前記中間ギヤ部材に歯合する第3ギヤ部材と、前記第2ギヤ部材に対して予め設定した大きさのブレーキトルクを付与するブレーキ手段とを備え、前記第1ギヤ部材を入力要素とし、かつ前記第2ギヤ部材及び前記第3ギヤ部材を出力要素としたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、上述した動力伝達装置において、前記第2ギヤ部材は、外周部に外周ギヤ部を有したものであり、前記ブレーキ手段は、外周部に外周ギヤ部を有し、この外周ギヤ部を第2ギヤ部材の外周ギヤ部に歯合させた状態で自身の軸心回りに回転可能に配設した第4ギヤ部材と、前記第4ギヤ部材を回転可能、かつ軸心方向に沿ってスライド可能に支持するブレーキ軸部材と、前記ブレーキ軸部材の先端部に軸方向の移動を規制した状態で設けた当接体と、前記第4ギヤ部材を当接体に押圧することによってこの第4ギヤ部材に前記ブレーキトルクを付与する押圧部材とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、第3ギヤ部材に作用する回転負荷トルクがブレーキトルクを下回る場合には第1ギヤ部材が駆動されると、第2ギヤ部材の回転が規制されるため第3ギヤ部材が回転される。一方、第3ギヤ部材に作用する回転負荷トルクがブレーキトルクを超えると、第1ギヤ部材が駆動した場合にも第3ギヤ部材の回転が規制された状態となり、ブレーキトルクに打ち勝って第2ギヤ部材が回転されることになる。これにより、別途アクチュエータやアクチュエータの駆動を制御するためのコントローラを要することなく動力の出力先を第2ギヤ部材と第3ギヤ部材とに切り換えることが可能となり、製造コストの増大や適用対象の大型化を招来する恐れがない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の実施の形態である動力伝達装置を概念的に示す断面側面図である。
【図2】図2は、図1に示した動力伝達装置の断面平面図である。
【図3】図3は、図1に示した動力伝達装置の外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る動力伝達装置の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0012】
図1〜図3は、本発明の実施の形態である動力伝達装置を示したものである。ここで例示する動力伝達装置は、カメラのシャッターチャージを行うチャージユニット機構Cと、その駆動源となるチャージモータMとの間に設けたものである。チャージモータMは、例えば超音波モータであり、その駆動軸MSにサンギヤ(第1ギヤ部材)10を備えている。サンギヤ10は、外周部に外周ギヤ部10aを有した平歯車であり、互いの軸心を合致させた状態でチャージモータMの駆動軸MSに固着してある。このサンギヤ10には、複数のプラネタリギヤ(中間ギヤ部材)20を介して第1リングギヤ(第2ギヤ部材)30及び第2リングギヤ(第3ギヤ部材)40が歯合することによって不思議歯車機構が構成してある。
【0013】
プラネタリギヤ20は、外周部に外周ギヤ部20aを有し、かつ軸が一体の平歯車であり、サンギヤ10の周囲に3つ配設してある。これらのプラネタリギヤ20は、それぞれの軸心がサンギヤ10の軸心と平行になり、かつ互いに等間隔となる態様で上下一対のプラネタリキャリヤ21に支持させてある。図1において下方に位置するプラネタリキャリヤ21には、底壁に摺動孔21aが形成してある。この摺動孔21aは、チャージモータMの本体ケースMCに設けた突出部MCeを摺動可能に嵌合させることにより、本体ケースMCに対してプラネタリキャリヤ21を駆動軸MSの軸心回りに回転可能に支持する。プラネタリキャリヤ21に支持させた個々のプラネタリギヤ20は、外周ギヤ部20aを介してサンギヤ10に歯合しており、それぞれが自身の軸心回りに回転可能、かつプラネタリキャリヤ21を介してサンギヤ10の軸心回りに公転可能である。
【0014】
第1リングギヤ30は、有底の円筒状を成し、その内周面に内周ギヤ部30a及び外周面に外周ギヤ部30bを有したものである。この第1リングギヤ30は、底壁に設けた摺動穴30cにプラネタリキャリヤ21の下方突部を摺動可能に嵌合させることにより、本体ケースMCに対して駆動軸MSの軸心回りに回転することが可能である。
【0015】
第2リングギヤ40は、有底の円筒状を成し、その内周面に内周ギヤ部40aを有するとともに、底壁の外表面において自身の軸心上となる部位に一体の出力軸部41を有したものである。上述の第1リングギヤ30と比較した場合、第2リングギヤ40は、その外径が僅かに小さく構成し、かつ内周ギヤ部40aの歯数が第1リングギヤ30の内周面に形成した内周ギヤ部30aとは互いに異なるように構成してある。この第2リングギヤ40は、その開口を第1リングギヤ30の開口に対向させることにより、駆動軸MSの軸心回りに回転することが可能であり、かつ第1リングギヤ30との間にプラネタリキャリヤ21を含む3つのプラネタリギヤ20並びにサンギヤ10を収容している。
【0016】
一方、上記動力伝達装置は、ブレーキ軸部材50を備えている。ブレーキ軸部材50は、チャージモータMの本体ケースMCに付設した支持部材Bに取り付けたもので、第1リングギヤ30の外周となる部位に自身の軸心が駆動軸MSの軸心と平行となる状態で配設してある。このブレーキ軸部材50には、フライホイールギヤ(第4ギヤ部材)60及び当接体70が設けてある。
【0017】
フライホイールギヤ60は、外周部に外周ギヤ部60aを有した平歯車であり、ブレーキ軸部材50の軸心回りに回転可能、かつブレーキ軸部材50に対してその軸心方向に沿ってスライド可能となるようにブレーキ軸部材50に配設してある。このフライホイールギヤ60は、ブレーキ軸部材50の軸心回りに回転した場合に大きな慣性力を得ることができるように、大きな質量をもって構成してある。当接体70は、ブレーキ軸部材50において支持部材Bとの間にフライホイールギヤ60を挟持する位置に固定した円板状部材であり、フライホイールギヤ60とほぼ同等の外径に形成してある。
【0018】
さらに、上記動力伝達装置には、支持部材Bとフライホイールギヤ60との間に押圧バネ(押圧部材)80が介在させてある。押圧バネ80は、フライホイールギヤ60の端面を当接体70の端面に常時押圧することにより、フライホイールギヤ60を介して第1リングギヤ30に予め設定したブレーキトルクを付与するものである。本実施の形態では、コイル状に巻回したコイルバネをブレーキ軸部材50の外周部に配置することによって押圧バネ80を構成している。
【0019】
上記のように構成した動力伝達装置は、第2リングギヤ40の出力軸部41が回転した場合にシャッターチャージを実施するように出力軸部41がチャージユニット機構Cに連係された状態でカメラに搭載する。
【0020】
いま、このカメラにおいてシャッターチャージを行うべくチャージモータMを駆動すると、サンギヤ10が自身の軸心回りに一方方向に回転する。このとき、上記動力伝達装置では、フライホイールギヤ60が押圧バネ80によって当接体70に圧接された状態にあるため、このフライホイールギヤ60と当接体70との間に作用する摩擦力によってフライホイールギヤ60の回転が規制され、さらにこれに歯合する第1リングギヤ30の回転が規制されることになる。従って、サンギヤ10の回転によってプラネタリギヤ20が自転しながら公転し、これらプラネタリギヤ20の公転によって第2リングギヤ40が回転することで、出力軸部41を介してシャッターチャージが行われることになる。
【0021】
シャッターチャージが終了してチャージユニット機構Cがチャージエンドに到達すると、以降、チャージユニット機構Cによって出力軸部41の回転が阻止され、第2リングギヤ40の回転負荷トルクがブレーキトルクを超えることになる。この状態においては、サンギヤ10の回転により、当接体70との間に作用する摩擦力に抗してフライホイールギヤ60が回転可能となり、第1リングギヤ30を介してフライホイールギヤ60が回転することになる。これにより、フライホイールギヤ60の慣性力によりカメラの振動を低減することができるようになる。尚、適宜のタイミングでチャージユニット機構Cが初期状態に復帰することになり、再びシャッターチャージを行えば、その後に都度フライホイールギヤ60が回転することになる。
【0022】
ここで、上記動力伝達装置によれば、第2リングギヤ40の回転負荷トルクがブレーキトルクを超えた時点で自動的にチャージモータMの出力先がフライホイールギヤ60に切り換えられることになり、別途アクチュエータやアクチュエータの駆動を制御するためのコントローラを何ら要しない。しかも、第2リングギヤ40の回転負荷トルクが除去されれば、再びチャージモータMの出力先が自動的に第2リングギヤ40に復帰する。従って、製造コストの低減を図ることができるとともに、適用するカメラの大型化を招来する恐れもない。
【0023】
尚、上述した実施の形態では、カメラのチャージモータMとシャッターチャージ機構との間に介在させた動力伝達機構を例示しているが、第1ギヤ部材を入力要素とし、かつ第2ギヤ部材及び第3ギヤ部材を出力要素とすれば、もちろんその他にも適用することは可能である。
【0024】
また、上述した実施の形態では、駆動源として超音波モータを適用しているが、必ずしも超音波モータを適用する必要はなく、例えばステッピングモータやDCモータを適用しても良い。
【0025】
さらに、上述した実施の形態では、押圧部材によって押圧された第4ギヤ部材を第2ギヤ部材に歯合させることにより第2ギヤ部材にブレーキトルクを付与するようにしているが、必ずしもこれに限定されない。例えば、直接第2ギヤ部材を押圧部材によって固定体に押圧してもブレーキトルクを付与することは可能である。
【0026】
またさらに、上述した実施の形態では、プラネタリギヤ20をプラネタリキャリヤ21に支持させるようにしているが、実施の形態のごとく不思議歯車機構を構成した場合、必ずしもプラネタリギヤをプラネタリキャリヤに支持させる必要はなく、プラネタリギヤを単にサンギヤとリングギヤとの間に介在させても良い。
【符号の説明】
【0027】
10 サンギヤ
10a 外周ギヤ部
20 プラネタリギヤ
20a 外周ギヤ部
21 プラネタリキャリヤ
30 第1リングギヤ
30a 内周ギヤ部
30b 外周ギヤ部
40 第2リングギヤ
40a 内周ギヤ部
41 出力軸部
50 ブレーキ軸部材
60 フライホイールギヤ
60a 外周ギヤ部
70 当接体
80 押圧バネ
M チャージモータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自身の軸心回りに回転可能に配設し、駆動源によって駆動される第1ギヤ部材と、
前記第1ギヤ部材に歯合し、自身の軸心回りに回転可能、かつ前記第1ギヤ部材の軸心回りに公転可能に支持させた中間ギヤ部材と、
内周部に内周ギヤ部を有し、前記第1ギヤ部材の軸心回りに回転可能に配設するとともに、内周ギヤ部を介して前記中間ギヤ部材に歯合する第2ギヤ部材と、
内周部に前記第2ギヤ部材の内周ギヤ部とは異なる歯数の内周ギヤ部を有し、前記第1ギヤ部材の軸心回りに回転可能に配設するとともに、内周ギヤ部を介して前記中間ギヤ部材に歯合する第3ギヤ部材と、
前記第2ギヤ部材に対して予め設定した大きさのブレーキトルクを付与するブレーキ手段と
を備え、前記第1ギヤ部材を入力要素とし、かつ前記第2ギヤ部材及び前記第3ギヤ部材を出力要素としたことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記第2ギヤ部材は、外周部に外周ギヤ部を有したものであり、
前記ブレーキ手段は、
外周部に外周ギヤ部を有し、この外周ギヤ部を第2ギヤ部材の外周ギヤ部に歯合させた状態で自身の軸心回りに回転可能に配設した第4ギヤ部材と、
前記第4ギヤ部材を回転可能、かつ軸心方向に沿ってスライド可能に支持するブレーキ軸部材と、
前記ブレーキ軸部材の先端部に軸方向の移動を規制した状態で設けた当接体と、
前記第4ギヤ部材を当接体に押圧することによってこの第4ギヤ部材に前記ブレーキトルクを付与する押圧部材と
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−112071(P2011−112071A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266430(P2009−266430)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(503366841)株式会社アイカムス・ラボ (27)
【Fターム(参考)】