説明

動力伝達装置

【課題】 潤滑性の向上を可能とした動力伝達装置を提供する。
【解決手段】 巻き掛け伝動部材4の弦部が相対移動可能に挿通されることで巻き掛け伝動部材4の動きを規制するスタビライザ6に、その長さ方向にのびる潤滑剤通路21が設けられて、その両端開口21aから潤滑剤が吐出される。この開口21aから潤滑剤を吐出することにより、潤滑剤を最も必要とする巻き掛け伝動部材4とプーリ2,3との接触部分に潤滑剤を供給することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車等の車両の無段変速機(CVT)に好適な動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用無段変速機(動力伝達装置)として、円錐面状シーブ面をそれぞれ有する固定シーブおよび可動シーブからなるプライマリプーリと、円錐面状シーブ面をそれぞれ有する固定シーブおよび可動シーブからなるセカンダリプーリと、両プーリ間に巻き掛けられた巻き掛け伝動部材と、これらを収容するケーシングと、ケーシング内に設けられた支持軸に支持されて巻き掛け伝動部材の弦部が相対移動可能に挿通されることで巻き掛け伝動部材の動きを規制するスタビライザ(またはガイドレール)と、スタビライザを支持する支持軸とを備えているものが知られている(特許文献1)。
【0003】
この種の動力伝達装置では、巻き掛け伝動部材のうちプーリとプーリとの間にある部分(弦部)は、プーリで規制されていないことから振動(弦振動)しやすく、これが耳障りな音であるために、騒音特性が悪化するという問題があり、特許文献1のものでは、ガイドレール(本明細書では、「スタビライザ」と称す)によって巻き掛け伝動部材の動きを規制することで、弦振動の低減が図られている。
【0004】
また、この種の動力伝達装置では、適切に潤滑剤を供給することが求められており、特許文献2には、支持軸を利用して潤滑剤を供給することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−304115号公報
【特許文献2】特開2005−121197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
潤滑剤の供給に際しては、巻き掛け伝動部材とプーリとが接触する部分に供給することが好ましいが、特許文献2で潤滑剤を供給している支持軸は、プーリとプーリとのちょうど中間にあり、巻き掛け伝動部材とプーリとが接触する部分に供給するという点からは好ましくないものであった。
【0007】
この発明の目的は、潤滑性の向上を可能とした動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明による動力伝達装置は、固定シーブおよび可動シーブからなるプライマリプーリと、固定シーブおよび可動シーブからなるセカンダリプーリと、両プーリ間に巻き掛けられた巻き掛け伝動部材と、これらを収容するケーシングと、巻き掛け伝動部材の弦部が相対移動可能に挿通されることで巻き掛け伝動部材の動きを規制するスタビライザと、スタビライザを支持する支持軸とを備えている動力伝達装置において、スタビライザに、その長さ方向にのびる潤滑剤通路が設けられて、その両端開口から潤滑剤が吐出されることを特徴とするものである。
【0009】
動力伝達装置は、チェーン式(巻き掛け伝動部材がチェーン)とされることがあり、ベルト式(巻き掛け伝動部材がベルト)とされることがある。
【0010】
この動力伝達装置は、自動車等の車両の無段変速機としての使用に好適なものとなる。このような無段変速機では、両シーブのシーブ面間に巻き掛け伝動部材を挟持し、可動シーブを油圧アクチュエータによって移動させることにより、無段変速機のシーブ面間距離したがって巻き掛け伝動部材の巻き掛け半径が変化するものとされる。
【0011】
動力伝達装置では、低速走行時に対応する変速比が最大のアンダードライブ(以下、「U/D」と称す。)と、高速走行時に対応する変速比が最小のオーバードライブ(以下、「O/D」と称す。)との間で変速比が変化する。U/D状態では、プライマリプーリ側の巻き掛け径が最小で、セカンダリプーリ側の巻き掛け径が最大となっており、O/D状態では、その逆になっている。
【0012】
スタビライザは、例えば、断面略方形状とされ、これを構成する第1の半部および第2の半部によって巻き掛け伝動部材を両側から挟んだ状態で互いに突き合わされて結合される。巻き掛け伝動部材は、スタビライザに案内されて移動し、これにより、弦振動が低減される。動力伝達装置がU/D状態とO/D状態との間で変化する際、スタビライザは、巻き掛け伝動部材の形状の変化に応じて移動する必要がある。このようにするには、スタビライザは、スタビライザに設けられた取付け部を介して支持軸に一体化され、支持軸が回転可能にケーシングに支持される。
【0013】
スタビライザに潤滑剤通路を設けるには、スタビライザに一体に形成してもよく、潤滑剤通路を有する別部材をスタビライザに取り付けるようにしてもよい。いずれにしろ、スタビライザの長さ方向は、巻き掛け伝動部材とプーリとが接触する部分を向くので、潤滑剤通路の両端開口も巻き掛け伝動部材とプーリとが接触する部分を向き、この開口から潤滑剤(潤滑油)を吐出(噴出)することにより、潤滑剤を最も必要とする巻き掛け伝動部材とプーリとの接触部分に潤滑剤を供給することができる。スタビライザを2つの部材(第1の半部および第2の半部)を接合することで形成する場合、潤滑剤通路は、接合部を避けて設けることが好ましい。
【0014】
ケーシングは、例えば、いずれも有底筒状の本体および蓋を突き合わせることで形成され、支持軸は、断面円形とされて、本体の底壁と蓋の底壁との間に回転可能に掛け渡される。この際の形態としては、例えば、本体および蓋の底壁に支持軸の端部を嵌め入れる有底孔が設けられて、支持軸の端部がこの有底孔にすきまばめで(回転可能に)嵌め入れられる。
【0015】
潤滑剤通路への潤滑剤の供給は、支持軸を介して行うことが好ましく、支持軸に潤滑剤供給通路が設けられて、これと潤滑剤通路とが連通される構成とされる。この場合、支持軸に、これを径方向に貫通する潤滑剤供給通路を設けて、これと潤滑剤通路とを連通するようにしてもよく、支持軸の端部から軸方向にのびる潤滑剤供給通路を設けて、これと潤滑剤通路とを連通するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
この発明の動力伝達装置によると、スタビライザに、その長さ方向にのびる潤滑剤通路が設けられて、その両端開口から潤滑剤が吐出されるので、巻き掛け伝動部材とプーリとが接触する部分を向く開口から潤滑剤が吐出されることになり、潤滑剤を最も必要とする巻き掛け伝動部材とプーリとの接触部分に潤滑剤を供給することができ、これにより、潤滑性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、この発明による動力伝達装置の1実施形態を示す正面図である。
【図2】図2は、この発明による動力伝達装置の要部をスタビライザの長さ方向から見た図である。
【図3】図3は、この発明による動力伝達装置の要部を支持軸の軸方向から見た図である。
【図4】図4は、この発明による動力伝達装置の第2実施形態の要部をスタビライザの長さ方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。
【0019】
図1から図3までは、この発明による動力伝達装置の第1実施形態を示すもので、動力伝達装置(1)は、図1に示すように、固定シーブおよび可動シーブからなるプライマリプーリ(2)と、固定シーブおよび可動シーブからなるセカンダリプーリ(3)と、両プーリ(2)(3)間に巻き掛けられ動力伝達チェーン(巻き掛け伝動部材)(4)と、これらを収容するケーシング(5)と、動力伝達チェーン(4)の弦部(プーリ(2)(3)で規制されていない部分)が相対移動可能に挿通されることで動力伝達チェーン(4)の動きを規制するスタビライザ(6)と、スタビライザ(6)を支持する支持軸(7)とを備えている。
【0020】
スタビライザ(6)は、スタビライザ(6)に設けられた取付け部(8)を介して支持軸(7)に一体化され、支持軸(7)は、回転可能にケーシング(5)に支持されている。
【0021】
動力伝達装置(1)では、低速走行時に対応する変速比が最大のアンダードライブ(以下、「U/D」と称す。)と、高速走行時に対応する変速比が最小のオーバードライブ(以下、「O/D」と称す。)との間で変速比が変化する。U/D状態(図1に二点鎖線で示す)では、プライマリプーリ(2)側の巻き掛け径が最小で、セカンダリプーリ(3)側の巻き掛け径が最大となっており、O/D状態(図1に実線で示す)では、その逆になっている。スタビライザ(6)は、動力伝達チェーン(4)がU/D状態からO/D状態へと変化する場合には、支持軸(7)が回転することで、図1に二点鎖線および実線で示しているように、動力伝達チェーン(4)の移動にしたがってその傾斜角度を変化させる。
【0022】
図2に示すように、動力伝達チェーン(4)は、チェーン長さ方向に所定間隔をおいて設けられた前後挿通部を有する複数のリンク(11)と、チェーン幅方向に並ぶリンク(11)同士を長さ方向に屈曲可能に連結する複数のピン(12)とを備えている。スタビライザ(6)は、合成樹脂製で2つ割り形状とされており、両プーリ(2)(3)間に巻き掛けられた後の動力伝達チェーン(4)を両側から挟んで、突き合わされることで動力伝達チェーン(4)に取り付けられている。スタビライザ(6)の断面は、リンク(11)およびピン(12)が若干の遊びを有して挿通可能な大きさの方形に形成されている。これにより、動力伝達チェーン(4)の弦部(プーリ(2)(3)で規制されていない部分)がスタビライザ(6)に相対移動可能に挿通されており、動力伝達チェーン(4)の弦部の進行方向と直交する方向の動きがスタビライザ(6)によって規制されている。
【0023】
図2および図3に示すように、スタビライザ(6)に、その長さ方向にのびる潤滑剤通路(21)が設けられて、その両端開口(21a)からの潤滑剤吐出が可能とされている。支持軸(7)には、これを径方向に貫通する潤滑剤供給通路(22)が設けられて、これと潤滑剤通路(21)とがスタビライザ(6)の取付け部(8)に設けられた連通路(23)を介して連通されることで、スタビライザ(6)の潤滑剤通路(21)に潤滑剤が供給されている。
【0024】
スタビライザ(6)の長さ方向は、動力伝達チェーン(4)に平行となるので、常時、動力伝達チェーン(4)とプーリ(2)(3)とが接触する部分を向くようになっている。したがって、スタビライザ(6)の潤滑剤通路(21)の両端開口(21a)も動力伝達チェーン(4)とプーリ(2)(3)とが接触する部分を向き、この開口(21a)から潤滑剤を吐出することにより、動力伝達チェーン(4)とプーリ(2)(3)との接触部分に潤滑剤を供給することができる。
【0025】
スタビライザ(6)の潤滑剤通路(21)への潤滑剤の供給は、図4に示すように、支持軸(7)に、その端面から軸方向にのびる潤滑剤供給通路(24)が設けられて、これと潤滑剤通路(21)とがスタビライザ(6)の取付け部(8)に設けられた連通路(25)を介して連通されるようにしてもよい。
【0026】
上記動力伝達装置(1)によると、動力伝達チェーン(4)の弦部の進行方向と直交する方向の動きがスタビライザ(6)によって規制されているので、弦振動が低減される。そして、スタビライザ(6)の潤滑剤通路(21)の両端開口(21a)から潤滑剤を吐出することにより、潤滑剤を最も必要とする動力伝達チェーン(4)とプーリ(2)(3)との接触部分に潤滑剤を供給することができ、これにより、潤滑性が向上する。
【0027】
なお、図1において、スタビライザ(6)は、図の下側(プライマリプーリ(2)からセカンダリプーリ(3)に至る部分)に設けられているが、図の上側(セカンダリプーリ(3)からプライマリプーリ(2)に至る部分)に設けるようにしてもよく、上下両側に設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0028】
(1) 動力伝達装置
(2)(3) プーリ
(4) 動巻き掛け伝動部材
(5) ケーシング
(6) スタビライザ
(7) 支持軸
(21) 潤滑剤通路
(21a) 両端開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定シーブおよび可動シーブからなるプライマリプーリと、固定シーブおよび可動シーブからなるセカンダリプーリと、両プーリ間に巻き掛けられた巻き掛け伝動部材と、これらを収容するケーシングと、巻き掛け伝動部材の弦部が相対移動可能に挿通されることで巻き掛け伝動部材の動きを規制するスタビライザと、スタビライザを支持する支持軸とを備えている動力伝達装置において、
スタビライザに、その長さ方向にのびる潤滑剤通路が設けられて、その両端開口から潤滑剤が吐出されることを特徴とする動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−102858(P2012−102858A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254547(P2010−254547)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】