説明

動力伝達装置

【課題】 巻き掛け伝動部材の動きを規制するスタビライザの組付けを簡素化した動力伝達装置を提供する。
【解決手段】 スタビライザ6は、巻き掛け伝動部材4の進行方向から見た形状が略コの字状とされており、スタビライザ6の1対の側壁21の長手方向中央部が延長されて形成された1対の取付け壁23に、支持軸8が挿通される挿通部24としての断面円形の孔が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車等の車両の無段変速機(CVT)に好適な動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用無段変速機(動力伝達装置)として、円錐面状シーブ面をそれぞれ有する固定シーブおよび可動シーブからなるプライマリプーリと、円錐面状シーブ面をそれぞれ有する固定シーブおよび可動シーブからなるセカンダリプーリと、両プーリ間に巻き掛けられた巻き掛け伝動部材と、これらを収容するケーシングと、ケーシング内に設けられた支持軸に支持されて巻き掛け伝動部材の弦部が相対移動可能に挿通されることで巻き掛け伝動部材の動きを規制するガイドレールとを備えているものが知られている(特許文献1)。
【0003】
この種の動力伝達装置では、巻き掛け伝動部材のうちプーリとプーリとの間にある部分(弦部)は、プーリで規制されていないことから振動(弦振動)しやすく、これが耳障りな音であるために、騒音特性が悪化するという問題があり、特許文献1のものでは、ガイドレール(本明細書では、「スタビライザ」と称す)によって巻き掛け伝動部材の動きを規制することで、弦振動の低減が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−85397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スタビライザによって巻き掛け伝動部材の動きを規制するには、スタビライザをその本体の断面形状が方形となるように2部品で構成し、これらの2部品で巻き掛け伝動部材を挟むようにすることが考えられるが、この場合には、2部品の結合部が複雑になって組みにくいものとなり、スタビライザの組付けに手間がかかるという問題がある。
【0006】
この発明の目的は、巻き掛け伝動部材の動きを規制するスタビライザの組付けを簡素化した動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による動力伝達装置は、固定シーブおよび可動シーブからなるプライマリプーリと、固定シーブおよび可動シーブからなるセカンダリプーリと、両プーリ間に巻き掛けられた巻き掛け伝動部材と、これらを収容するケーシングと、ケーシング内に設けられた支持軸に支持されて巻き掛け伝動部材の弦部が相対移動可能に挿通されることで巻き掛け伝動部材の動きを規制するスタビライザとを備えている動力伝達装置において、スタビライザは、巻き掛け伝動部材の進行方向から見た形状が略コの字状とされており、スタビライザの1対の側壁の長手方向中央部が延長されて形成された1対の取付け壁に、支持軸が挿通される挿通部が形成されていることを特徴とするものである。
【0008】
動力伝達装置は、チェーン式(巻き掛け伝動部材がチェーン)とされることがあり、ベルト式(巻き掛け伝動部材がベルト)とされることがある。
【0009】
この動力伝達装置は、自動車等の車両の無段変速機としての使用に好適なものとなる。このような無段変速機では、両シーブのシーブ面間に巻き掛け伝動部材を挟持し、可動シーブを油圧アクチュエータによって移動させることにより、無段変速機のシーブ面間距離したがって巻き掛け伝動部材の巻き掛け半径が変化するものとされる。
【0010】
動力伝達装置では、低速走行時に対応する変速比が最大のアンダードライブ(以下、「U/D」と称す。)と、高速走行時に対応する変速比が最小のオーバードライブ(以下、「O/D」と称す。)との間で変速比が変化する。U/D状態では、プライマリプーリ側の巻き掛け径が最小で、セカンダリプーリ側の巻き掛け径が最大となっており、O/D状態では、その逆になっている。
【0011】
動力伝達装置がU/D状態とO/D状態との間で変化する際、スタビライザは、巻き掛け伝動部材の形状の変化に応じて移動する必要があり、このため、スタビライザが支持軸の軸線回りに回転可能なように、支持軸が回転可能にケーシングに支持される。スタビライザを支持軸の軸線回りに回転可能とするには、支持軸がケーシングに回転不可能に支持され、スタビライザが支持軸に回転可能に支持されるようにしてもよく、また、支持軸がケーシングに回転可能に支持され、スタビライザが支持軸に回転可能に支持されるようにしてもよい。
【0012】
スタビライザは、互いに対向する1対の側壁および両側壁の基端部同士を連結する連結壁からなるものとされ、巻き掛け伝動部材は、その両側からスタビライザの1対の側壁に若干の間隙をおいて挟まれるとともに、径方向の両側からスタビライザの連結壁と支持軸とによって若干の間隙をおいて挟まれて移動し、これにより、弦振動が低減される。
【0013】
従来、スタビライザは、2部品とされて、両プーリ間に巻き掛けられた後の巻き掛け伝動部材を両側から挟むようにして取り付けられており、2部品を突き合わせ、溶接、溶着、ねじ止めなどによって一体化する必要があった。この発明による動力伝達装置では、スタビライザが断面コの字状とされることで、1部品で構成可能となり、2部品を一体化する手間を解消することができる。
【0014】
ケーシングは、例えば、いずれも有底筒状の本体および蓋を突き合わせることで形成され、この場合、支持軸は、断面円形とされて、本体の底壁と蓋の底壁との間に回転可能に掛け渡される。この際の形態としては、例えば、本体および蓋の底壁に支持軸の端部を嵌め入れる有底孔が設けられて、支持軸の端部がこの有底孔にすきまばめで(回転可能に)嵌め入れられる。スタビライザは、1対の側壁および連結壁で囲まれた略コの字状部分に巻き掛け伝動部材を収めた後に、支持軸に組み付けられる。
【0015】
支持軸が挿通される挿通部は、円形の孔とされて、支持軸の一端部側から支持軸に嵌め合わせられていることがあり、また、支持軸が挿通される挿通部は、取付け壁の延長端側に開口した切欠きとされて、支持軸に直交する方向から支持軸に嵌め合わせられていることがある。前者の形態では、スタビライザを支持軸に組み付けてからこの支持軸をケーシング本体に取り付けるようにすればよく、後者の形態では、支持軸の一端部をケーシング本体の底壁に支持させた状態で、スタビライザを支持軸に組み付けるようにしてもよく、スタビライザを支持軸に組み付けてからこの支持軸をケーシング本体に取り付けるようにしてもよい。
【0016】
支持軸およびスタビライザの材質は、金属でもよいし、合成樹脂でもよい。好ましくは、いずれもが合成樹脂とされる。挿通部が切欠きとされる場合には、合成樹脂製同士の嵌め合わせにより、容易に支持軸とスタビライザとの結合が行える。
【発明の効果】
【0017】
この発明の動力伝達装置によると、スタビライザは、巻き掛け伝動部材の進行方向から見た形状が略コの字状とされており、スタビライザの1対の側壁の長手方向中央部が延長されて形成された1対の取付け壁に、支持軸が挿通される挿通部が形成されているので、スタビライザを2部品からなるものとしてこれらを結合する手間が不要となり、部品数が少なくなり、スタビライザの組付けが簡素化される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、この発明による動力伝達装置の第1実施形態を示す正面図である。
【図2】図2は、第1実施形態の要部の拡大図で、(a)は正面図、(b)は(a)のb−b線に沿う断面図である。
【図3】図3は、この発明による動力伝達装置の第2実施形態の要部を示す図で、(a)は正面図、(b)は(a)のb−b線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。
【0020】
図1および図2は、この発明による動力伝達装置の第1実施形態を示すもので、動力伝達装置(1)は、固定シーブおよび可動シーブからなるプライマリプーリ(2)と、固定シーブおよび可動シーブからなるセカンダリプーリ(3)と、両プーリ(2)(3)間に巻き掛けられ巻き掛け伝動部材(4)と、これらを収容するケーシング(5)と、支持軸(8)に支持されるとともに巻き掛け伝動部材(4)の弦部(プーリ(2)(3)で規制されていない部分)が相対移動可能に挿通されることで巻き掛け伝動部材(4)の動きを規制するスタビライザ(6)とを備えている。
【0021】
動力伝達装置(1)では、低速走行時に対応する変速比が最大のアンダードライブ(以下、「U/D」と称す。)と、高速走行時に対応する変速比が最小のオーバードライブ(以下、「O/D」と称す。)との間で変速比が変化する。U/D状態(図1に二点鎖線で示す)では、巻き掛け伝動部材(4)のプライマリプーリ(2)側の巻き掛け径が最小で、セカンダリプーリ(3)側の巻き掛け径が最大となっており、O/D状態(図1に実線および破線で示す)では、その逆になっている。
【0022】
ケーシング(5)は、図示省略するが、いずれも有底筒状の本体および蓋を突き合わせることで形成されており、支持軸(8)は、本体の底壁と蓋の底壁との間に回転可能に掛け渡されている。これにより、スタビライザ(6)は、支持軸(8)の軸線回りに回転可能となっており、巻き掛け伝動部材(4)がU/D状態からO/D状態へと変化する場合には、図1に二点鎖線および実線で示しているように、巻き掛け伝動部材(4)の形状の変化にしたがってその傾斜角度を変化させる。
【0023】
スタビライザ(6)は、合成樹脂製で、巻き掛け伝動部材(4)の進行方向から見た形状が略コの字状とされており、巻き掛け伝動部材(4)の通路を形成する本体(11)と、スタビライザ(6)を支持軸(8)に取り付けるための取付け部(12)とからなる。
【0024】
図2に示すように、本体(11)は、互いに対向する1対の側壁(21)および両側壁(21)の基端部同士を連結する連結壁(22)からなり、取付け部(12)は、本体(11)の1対の側壁(21)の長手方向中央部が延長されて形成された1対の取付け壁(23)からなる。各取付け壁(23)には、支持軸(8)が挿通される挿通部(24)が形成されている。
【0025】
上記動力伝達装置(1)によると、巻き掛け伝動部材(4)の弦部の進行方向と直交する方向の動きがスタビライザ(6)によって規制されているので、弦振動が低減される。また、スタビライザ(6)が断面コの字状とされることで、1部品で構成可能となり、2部品からなる従来のものにおける一体化する手間を解消することができる。
【0026】
図2に示すように、第1実施形態のスタビライザ(6)では、挿通部(24)は、円形の孔とされて、支持軸(8)の一端部側から支持軸(8)に嵌め合わせられており、この第1実施形態のものでは、支持軸(8)からスタビライザ(6)が脱落する可能性が無いものとなっている。
【0027】
図3には、第2実施形態のスタビライザ(7)が示されており、このスタビライザ(7)の本体(11)は、互いに対向する1対の側壁(26)および両側壁(26)の基端部同士を連結する連結壁(27)からなり、取付け部(12)は、本体(11)の1対の側壁(26)の長手方向中央部が延長されて形成された1対の取付け壁(28)からなる。各取付け壁(28)には、支持軸(8)が挿通される挿通部(29)が形成されている。
【0028】
挿通部(29)は、取付け壁(28)の延長端側に開口した切欠きとされており、支持軸(8)に直交する方向から支持軸(8)に嵌め合わせられている。切欠きは、C状(円の一部を取り除いた形状)とされ、その深さは、もとになっている円の半径よりも大きく、その開口の大きさは、もとになっている円の直径よりもわずかに小さくなされている。スタビライザ(7)は、合成樹脂製であり、支持軸(8)との嵌め合わせ時に若干弾性変形することができる。したがって、この第2実施形態のものでは、スタビライザ(7)を支持軸(8)の中間部に強制的に嵌め合わせることができ、これにより、支持軸(8)からのスタビライザ(7)の抜け止めが果たされるので、組付けをより簡単に行うことができる。
【符号の説明】
【0029】
(2)(3) プーリ
(4) 巻き掛け伝動部材
(5) ケーシング
(6)(7) スタビライザ
(8) 支持軸
(21)(26) 側壁
(23)(28) 取付け壁
(24)(29) 挿通部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定シーブおよび可動シーブからなるプライマリプーリと、固定シーブおよび可動シーブからなるセカンダリプーリと、両プーリ間に巻き掛けられた巻き掛け伝動部材と、これらを収容するケーシングと、ケーシング内に設けられた支持軸に支持されて巻き掛け伝動部材の弦部が相対移動可能に挿通されることで巻き掛け伝動部材の動きを規制するスタビライザとを備えている動力伝達装置において、
スタビライザは、巻き掛け伝動部材の進行方向から見た形状が略コの字状とされており、スタビライザの1対の側壁の長手方向中央部が延長されて形成された1対の取付け壁に、支持軸が挿通される挿通部が形成されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
支持軸が挿通される挿通部は、円形の孔とされて、支持軸の一端部側から支持軸に嵌め合わせられている請求項1の動力伝達装置。
【請求項3】
支持軸が挿通される挿通部は、取付け壁の延長端側に開口した切欠きとされて、支持軸に直交する方向から支持軸に嵌め合わせられている請求項1の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−2303(P2012−2303A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139044(P2010−139044)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】