説明

動力分散方式のレール運搬車における定低速運転制御システム

【課題】ロングレールなどのレールを運搬可能な動力分散方式のレール運搬車における複数の動力車を同期させながら定低速運転を長時間安定して継続させる技術を提供する。
【解決手段】1号車に搭載される制御装置12では、設定回転速度と液体変速機15の出力側の回転速度との差分が大きくなるに従って周波数が大きく設定される制御指令の伝送データを各号車の制御装置12へ送信し、制御指令の伝送データを生成した制御装置12を含む各号車の制御装置12では、自身への制御指令に基づき、液体変速機15の比例電磁弁を油圧調整するための制御指令を液体変速機15へ送る。液体変速機15では、自身への制御指令に基づき、制御指令の伝送データの周波数が大きくなるに従って比例電磁弁の油圧を増加させるよう設定される油圧調整信号を比例電磁弁に出力し、比例電磁弁の油圧を調整することで出力軸の回転速度を設定回転速度に保持するように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロングレールなどのレールを運搬可能な動力分散方式のレール運搬車における複数の動力車を同期させながら定低速運転を長時間安定して継続させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
敷設されたロングレールは定期的に交換されるが、このために、機関車に多数の貨車を連結し、その荷台に新ロングレールを積付けて交換する場所に運搬して線路脇へ降ろす動力集中方式のロングレール運搬車が使用されている。
【0003】
この種のロングレール運搬車では、架線が設置されていない軌道にも乗り入れできるように、動力車として機関車が採用され、その機関車が多数の貨車を前から牽引または後から推進する動力集中方式が採用されてきた。そして、ロングレールの下ろし作業時には、運転士の技術によって機関車を手動制御し、2〜6km/h程度で定低速運転を行う。
【特許文献1】特許第3933510号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、日本では曲線や勾配が多い上に地盤が弱いことから、旅客車では機関車に比べて軽量で軌道にあまり負担を掛けない気動車を用いる動力分散方式の採用が進んでおり、上述のようなロングレール運搬車においても、車両仕様の共通化や、レール運搬のさらなる効率化と作業性向上を図るため、機関車を用いる動力集中方式に代わり、複数の動力車を用いる動力分散方式の採用が検討されてきた。
【0005】
なお、ロングレール運搬車に動力分散方式を採用する場合には、架線が設置されていない軌道にも乗り入れできるようにするため、動力車としては気動車を採用することが好ましい。
【0006】
因みに、動力分散方式の列車にはより具体的に次のような長所があり、ロングレール運搬車に動力分散方式を採用した場合でも有効である。
(1)機関車が牽引する場合に比べて車両にかかる引張力が小さいため、車両の部品などが旅客車両と共通化できる。
【0007】
(2)編成に占める動力車の割合が大きいほど、加減速性能やブレーキ性能が良くなり、上り勾配での高速走行や定速走行が可能であり、曲線区間が多く、頻繁に加減速が要求される線区においても有効である。
【0008】
(3)動力車の一部が故障した場合でも、運行を続行することができる。
しかしながら、上述のように複数の動力車を用いる動力分散方式をロングレール運搬車に採用する場合、ロングレールの下ろし作業を行うときには、複数の動力車を同期させながら定低速運転を行う必要がある。
【0009】
なお、動力車としての気動車の速度制御に関わる主な要素としては、エンジン出力や、補機の負荷状態、実車車速の検出、変速機内の比例電磁弁の出力、変速機内のブレーキクラッチプレート摩擦係数、制御装置のPID演算値などが挙げられるが、これらには静的および動的に特性のバラツキが存在するため、動力分散方式における複数の動力車を同期させながら定低速運転を行うのは困難であった。
【0010】
なお、車両別に定低速制御を行う方法も考えられる。例えば、特許文献1には、目標車速と実測車速との偏差をPID演算した結果を比例電磁弁の電流の操作量として扱い、比例電磁弁の油圧がブレーキクラッチ(走行方向とは逆の逆転クラッチ)のブレーキ力を制御することによって定低速制御を行う技術が開示されている。しかし、このように車両別に定低速制御を行った場合、各車両ごとのブレーキ力の過渡状態を考えると、ブレーキ力が増加中の車両とブレーキ力が減少中の車両とが同時に存在する状態が発生し、機械的なロスや編成全体を安定させるのに要する時間的なロスが生じるという問題があった。
【0011】
さらに、定低速制御で長期間運転した場合に、ブレーキ力の車両間の誤差が拡大したときや、何らかの原因で制御装置による車速検出ができない車両が存在するときに、その車両のトランスミッションのブレーキ力が常に最大となって他の車両とは異なる動作を行うようになり、機械的な負担が掛かるという問題があった。
【0012】
なお、上述のような問題については、ロングレールを運搬するレール運搬車のように一編成に含まれる車両数が多い列車の場合に顕著となる。
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、ロングレールなどのレールを運搬可能な動力分散方式のレール運搬車における複数の動力車を同期させながら定低速運転を長時間安定して継続させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するためになされた請求項1に係る動力分散方式のレール運搬車における定低速運転制御システムは、レールを運搬可能な動力分散方式のレール運搬車における複数の動力車にそれぞれ設けられ、設けられる動力車に搭載される動力源としてのエンジンから出力される回転エネルギーを車輪へ動力伝達する液体式変速機の出力側の回転速度を制御する制御装置を備える。なお、複数の制御装置同士は制御伝送線の引き通しによって相互に通信可能に接続されている。
【0014】
上述の液体式変速機は、湿式多板式の正転クラッチ、湿式多板式の逆転クラッチおよび湿式多板式の各速度段クラッチと、常時かみ合う歯車からなる歯車減速機構とからなり、各クラッチの嵌脱により出力軸の回転方向と回転速度とを切り換えるよう構成された動力伝達装置であり、正転クラッチもしくは逆転クラッチのいずれか一方と速度段クラッチの一つとが完全に結合している時に、非結合状態で遊転している他方の正転クラッチもしくは逆転クラッチのいずれかの駆動側クラッチプレートと被動側クラッチプレートをそれらの間に回転速度差をもつようにスリップ結合させる速度抑制手段が設けられ、前記速度抑制手段には、各クラッチのクラッチプレートを押圧するピストンの受圧室にスリップ結合圧力に調整した圧油を供給する手段が設けられ、さらに、前記速度抑制手段には、圧油をスリップ結合圧力に調整する比例電磁弁と、出力側の回転速度を検出する回転検出センサと、比例電磁弁に油圧調整信号を出力するコントローラと、が備えられている。
【0015】
そして、複数の制御装置それぞれが、液体式変速機の出力側の回転速度を制御するための制御指令の伝送データを生成して他の制御装置に対して出力可能である。
まず、制御装置の回転速度設定手段が設定回転速度を設定する。この設定回転速度は、設けられる動力車の動力源であるエンジンから出力される回転エネルギーを車輪へ動力伝達する液体式変速機の出力側の回転速度であり、レールの下ろし作業を行うための定低速運転を実行する際の走行速度に対応するように設定される。回転速度検出手段が、液体式変速機の回転検出センサからの出力信号に基づき液体式変速機の出力側の回転速度を検出する。さらに、差分算出手段が、回転速度設定手段によって設定される設定回転速度と回転速度検出手段によって検出された回転速度との差分を算出する。そして、制御指令出力手段が、液体式変速機の出力側の回転速度を制御するための制御指令の伝送データを、差分算出手段によって算出された差分に応じた周波数にて生成し、その生成した制御指令の伝送データを、制御伝送線を介して他の制御装置へ出力する。
【0016】
なお、複数の制御装置のうちの何れか一つが、前記制御指令の伝送データを生成して出力するよう構成されている。
そして、制御指令の伝送データを生成した制御装置を含む複数の制御装置は、自身への制御指令に基づき、設けられる動力車に搭載される液体変速機のコントローラを制御して、制御指令の伝送データの周波数が大きくなるに従って比例電磁弁の油圧を増加させるよう設定される油圧調整信号を比例電磁弁に出力させ、比例電磁弁の油圧を調整することで出力軸の回転速度を設定回転速度に保持させる。
【0017】
したがって、ロングレールなどのレールを運搬可能な動力分散方式のレール運搬車における複数の動力車を同期させながら定低速運転を長時間安定して継続させることができる。
【0018】
この場合、請求項2のように、搭載するエンジンおよび液体式変速機が正常に作動する動力車に設けられる制御装置のうち編成の先頭に最も近い制御装置のみが、前記制御指令の伝送データを出力するよう構成されることが考えられる。このようにすれば、前記制御指令の伝送データを出力する制御装置が搭載される動力車のエンジンまたは液体式変速機が故障しても、制御指令を出力する動力車(制御装置)をなるべく編成の先頭に近い動力車(制御装置)に変更することができ、定低速運転制御を継続することができる。
【0019】
また、請求項3のように、搭載するエンジンまたは液体式変速機に故障が発生していない動力車に設けられる制御装置のうち優先順位が最も高い制御装置のみが、前記制御指令の伝送データを出力するよう構成されることが考えられる。このようにすれば、前記制御指令の伝送データを出力する制御装置が搭載される動力車のエンジンまたは液体式変速機が故障しても、予め設定された優先順位に従って、制御指令を出力する動力車(制御装置)を変更することができ、定低速運転制御を継続することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明の実施形態を図面とともに説明する。
[第一実施形態]
図1は本実施例の制御システムの概略構成を示す説明図である。本制御システムは、例えば13両編成のレール運搬車の各号車それぞれに設けられた制御装置12を備えている。
【0021】
制御装置12は、マイコンや信号入出力部等で構成されており、各号車の制御装置12同士は制御伝送線の引き通しによって相互に通信可能に接続されている。
また、制御装置12は、ロングレールの下ろし作業を行うための定低速運転を実行する際の走行速度に対応する液体式変速機15の出力側の回転速度を設定回転速度として設定する機能を有する。
【0022】
また、本制御システムが搭載されるレール運搬車は、図2に示すように、8両の動力車と5両の付随車からなる13両の車両で編成される動力分散方式の列車であり、ロングレールを運搬可能に構成されている。具体的には、1号車、3号車、4号車、5号車、9号車、10号車、11号車および13号車が動力車としての気動車となっており、2号車、6号車、7号車、8号車および12号車が付随車となっている。
【0023】
なお、レール運搬車を構成する車両のうち動力車である気動車には、エンジン14および液体式変速機15が搭載されている(図1参照)。
エンジン14は、燃料を燃焼させ、その熱エネルギーを機械的な回転エネルギーに変換し、液体式変速機15を介して車輪16を駆動させる。なお、本実施形態では、エンジン14としてディーゼルエンジンが採用されている。
【0024】
液体式変速機15は、エンジン14から出力される回転エネルギーを車輪16へ動力伝達するものであり、トルクコンバータのトルク増幅機能によって低速域の牽引性能を確保するとともに、直結段での変速によって広い速度領域でエンジン14のエンジン性能を有効活用可能である。
【0025】
より具体的には、液体式変速機15は、上述の特許文献1(特許第3933510号)に開示されるように、湿式多板式の正転クラッチ、湿式多板式の逆転クラッチおよび湿式多板式の各速度段クラッチと、常時かみ合う歯車からなる歯車減速機構とからなり、各クラッチの嵌脱により出力軸の回転方向と回転速度とを切り換えるよう構成された動力伝達装置である。
【0026】
また、液体式変速機15には、正転クラッチもしくは逆転クラッチのいずれか一方と速度段クラッチの一つとが完全に結合している時に、非結合状態で遊転している他方の正転クラッチもしくは逆転クラッチのいずれかの駆動側クラッチプレートと被動側クラッチプレートをそれらの間に回転速度差をもつようにスリップ結合させる速度抑制手段が設けられている。
【0027】
さらに、速度抑制手段には、各クラッチのクラッチプレートを押圧するピストンの受圧室にスリップ結合圧力に調整した圧油を供給する手段が設けられている。また、速度抑制手段には、圧油をスリップ結合圧力に調整する比例電磁弁と、出力側の回転速度を検出する回転検出センサと、比例電磁弁に油圧調整信号を出力するコントローラとが備えられている。
【0028】
そして、液体変速機15の回転検出センサが検出した出力側の回転速度を示す信号は、制御装置12に送出される。
次に、本制御システムが実行する定低速運転制御について説明する。
【0029】
まず、1号車に搭載される制御装置12では、例えば運転者の操作により、ロングレールの下ろし作業を行うための定低速運転を実行する際の走行速度に対応する液体式変速機15の出力側の回転速度を設定回転速度として設定する。なお、このようなロングレールの下ろし作業時には、2〜6km/h程度で定低速運転を行うため、各動力車が搭載する液体変速機15がそれぞれ1速に設定される。
【0030】
続いて、制御装置12は、先に設定した設定回転速度と液体変速機15の回転検出センサが検出した出力側の回転速度との差分を算出し、その算出された差分に応じた周波数にて制御指令の伝送データを生成する。この制御指令は、各動力車に搭載される制御装置12それぞれに加減速制御を指示するためものであり、設定回転速度に対して出力側の回転速度が高い場合、その差分が大きくなるに従って周波数が高くなるよう設定され、設定回転数に対して出力側の回転速度が低い場合、その差分が大きくなるに従って周波数が低くなるように設定される。このため、周波数が低いほど牽引力(機関回転数)が高くなるとともにブレーキ力(クラッチ圧)が低くなり、逆に周波数が高いほど牽引力(機関回転数)が低くなるとともにブレーキ力(クラッチ圧)が高くなる。
【0031】
続いて、制御装置12は、生成した制御指令の伝送データを各号車の制御装置12に出力する。なお、本実施形態では、制御指令の伝送データは50ms周期で出力される。なお、上述のように各号車の制御伝送端末装置12同士は相互に通信可能に接続されているため、この制御装置12からの制御指令伝送データは、各号車の制御装置12にそれぞれ送られる。
【0032】
なお、上述のような制御指令の伝送データを出力する機能については、すべての制御装置12が備えるが、搭載するエンジン14および液体式変速機15が正常に作動する動力車に設けられる制御装置12のうち編成の先頭に最も近い制御装置12のみが、前記制御指令の伝送データを出力するよう構成される。なお、当初は、1号車に搭載される制御装置12のみが、前記制御指令の伝送データを出力するよう構成される。そのために、エンジン14および液体式変速機15は、自らが故障した場合にその旨を示す信号を同じ動力車に搭載される制御装置12に出力し、制御装置12は、その出力信号に基づきエンジン14または液体式変速機15に故障が発生したことを知ることができるようになっている。そして、制御指令の伝送データを出力する制御装置12と同じ動力車に搭載されるエンジン14または液体式変速機15に故障が発生した場合には、制御装置12がその旨を編成の先頭に次に近い動力車に搭載される制御装置12に連絡し、それ以後は、連絡を受けた制御装置12が上述のような制御指令の伝送データを出力する。
【0033】
一方、各号車の制御装置12では、自身への制御指令に基づき液体変速機15を加減速制御する。具体的には、制御装置12は、自身への制御指令に基づき、液体変速機15の比例電磁弁を油圧調整するための制御指令を液体変速機15のコントローラへ送る。なお、この処理は、制御指令の伝送データを生成した制御装置12でも同様に実行される。
【0034】
これに対して、液体変速機15のコントローラは、制御装置12からの制御指令に基づき、比例電磁弁に油圧調整信号を生成する。この油圧調整信号は、制御指令の伝送データの周波数が大きくなるに従って比例電磁弁の油圧を増加させるような設定値に生成される。そして、液体変速機15のコントローラは、生成した油圧調整信号を比例電磁弁へ出力する。
【0035】
[第一実施形態の効果]
(1)このように第一実施形態の本制御システムによれば、制御装置12では、設定回転速度と出力側の回転速度との差分が大きくなるに従って周波数が大きく設定される制御指令の伝送データを各号車の制御装置12へ送信し、一方、制御指令の伝送データを生成した制御装置12を含む各号車の制御装置12では、自身への制御指令に基づき、液体変速機15の比例電磁弁を油圧調整するための制御指令を液体変速機15のコントローラへ送る。液体変速機15のコントローラでは、自身への制御指令に基づき、制御指令の伝送データの周波数が大きくなるに従って比例電磁弁の油圧を増加させるよう設定される油圧調整信号を比例電磁弁に出力し、比例電磁弁の油圧を調整することで液体変速機15の出力軸の回転速度を設定回転速度に保持するように制御する。
【0036】
(1−1)この場合、設定回転速度と液体変速機15の出力側の回転速度との差分がプラスで小さい場合には、液体変速機15の出力側の回転速度が設定回転速度よりも少し小さく、前記回転速度をゆるやかに高める必要があると判断し、比例電磁弁の油圧を少し低下させることで液体変速機15内のブレーキ力を少し低下させ、液体変速機15の出力側の回転速度を緩やかに高めながら設定回転速度に近づけることができる。
【0037】
(1−2)また、設定回転速度と液体変速機15の出力側の回転速度との差分がプラスで大きい場合には、液体変速機15の出力側の回転速度が設定回転速度よりもかなり小さく、前記回転速度を急激に高める必要があると判断し、比例電磁弁の油圧を大きく低下させることで液体変速機15内のブレーキ力を大きく低下させ、液体変速機15の出力側の回転速度を急激に高めながら設定回転速度に近づけることができる。
【0038】
なお、上述のように設定回転速度と液体変速機15の出力側の回転速度との差分がプラスの場合、ブレーキ力を最小としても設定回転速度に達しない状況において、エンジン14の燃料噴射量を増加し、牽引力を増加させ出力側の回転速度を設定回転速度に近づけることができる。具体的には、制御装置12が、エンジン14の燃料噴射量を増加させる旨の制御指令の伝送データを出力し、エンジン14が、自身への制御指令に基づき燃料噴射量を増加させる。
【0039】
(1−3)一方、設定回転速度と液体変速機15の出力側の回転速度との差分がマイナスで小さい場合には、液体変速機15の出力側の回転速度が設定回転速度よりも少し大きく、前記回転速度をゆるやかに低下させる必要があると判断し、比例電磁弁の油圧を少し高めることで液体変速機15内のブレーキ力を少し増加させ、液体変速機15の出力側の回転速度を緩やかに低下させながら設定回転速度に近づけることができる。
【0040】
(1−4)また、設定回転速度と液体変速機15の出力側の回転速度との差分がマイナスで大きい場合には、液体変速機15の出力側の回転速度が設定回転速度よりもかなり大きく、前記回転速度を急激に低下させる必要があると判断し、比例電磁弁の油圧を大きく増加させることで液体変速機15内のブレーキ力を大きく増加させ、液体変速機15の出力側の回転速度を急激に低下させながら設定回転速度に近づけることができる。
【0041】
したがって、ロングレールなどのレールを運搬可能な動力分散方式のレール運搬車における複数の動力車を同期させながら定低速運転を長時間安定して継続させることができる。
【0042】
(2)また、第一実施形態の本制御システムによれば、搭載するエンジン14および液体式変速機15が正常に作動する動力車に設けられる制御装置12のうち編成の先頭に最も近い制御装置12のみが、前記制御指令の伝送データを出力するよう構成されるので、仮に制御指令の伝送データを出力する制御装置12が搭載される動力車のエンジン14または液体式変速機15が故障しても、制御指令を出力する動力車(制御装置)をなるべく編成の先頭に近い動力車(制御装置)に変更することができ、定低速運転制御を継続することができる。
【0043】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、以下のような様々な態様にて実施することが可能である。
【0044】
(1)上記実施形態では、搭載するエンジン14および液体式変速機15が正常に作動する動力車に設けられる制御装置12のうち編成の先頭に最も近い制御装置12のみが、前記制御指令の伝送データを出力するよう構成されるが、これには限られず、例えば、搭載するエンジン14または液体式変速機15に故障が発生していない動力車に設けられる制御装置12のうち優先順位が最も高い制御装置12のみが、前記制御指令の伝送データを出力するよう構成してもよい。具体的には、制御指令の伝送データを出力する制御装置12と同じ動力車に搭載されるエンジン14または液体式変速機15に故障が発生した場合には、制御装置12がその旨を次に優先順位が高い動力車に搭載される制御装置12に連絡し、それ以後は、連絡を受けた制御装置12が上述のような制御指令の伝送データを出力する。このようにすれば、前記制御指令の伝送データを出力する制御装置12が搭載される動力車のエンジン14または液体式変速機15が故障しても、予め設定された優先順位に従って、制御指令を出力する動力車(制御装置)を変更することができ、定低速運転制御を継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】制御システムの概略構成を示す説明図である。
【図2】レール運搬車を示す説明図である。
【符号の説明】
【0046】
12…制御装置、14…エンジン、15…液体式変速機、M…動力車、T…付随車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールを運搬可能な動力分散方式のレール運搬車における複数の動力車にそれぞれ設けられ、設けられる動力車に搭載される動力源としてのエンジンから出力される回転エネルギーを車輪へ動力伝達する液体式変速機の出力側の回転速度を制御する制御装置を備え、
前記複数の制御装置同士は制御伝送線の引き通しによって相互に通信可能に接続されており、
前記液体式変速機は、湿式多板式の正転クラッチ、湿式多板式の逆転クラッチおよび湿式多板式の各速度段クラッチと、常時かみ合う歯車からなる歯車減速機構とからなり、各クラッチの嵌脱により出力軸の回転方向と回転速度とを切り換えるよう構成された動力伝達装置であり、正転クラッチもしくは逆転クラッチのいずれか一方と速度段クラッチの一つとが完全に結合している時に、非結合状態で遊転している他方の正転クラッチもしくは逆転クラッチのいずれかの駆動側クラッチプレートと被動側クラッチプレートをそれらの間に回転速度差をもつようにスリップ結合させる速度抑制手段が設けられ、前記速度抑制手段には、各クラッチのクラッチプレートを押圧するピストンの受圧室にスリップ結合圧力に調整した圧油を供給する手段が設けられ、さらに、前記速度抑制手段には、圧油をスリップ結合圧力に調整する比例電磁弁と、出力側の回転速度を検出する回転検出センサと、比例電磁弁に油圧調整信号を出力するコントローラと、が備えられており、
さらに、前記複数の制御装置それぞれは、
前記レールの下ろし作業を行うための定低速運転を実行する際の走行速度に対応する、設けられる動力車に搭載される液体式変速機の出力側の回転速度を設定回転速度として設定する回転速度設定手段と、
前記液体式変速機の前記回転検出センサからの出力信号に基づき前記液体式変速機の出力側の回転速度を検出する回転速度検出手段と、
前記回転速度設定手段によって設定される設定回転速度と前記回転速度検出手段によって検出された回転速度との差分を算出する差分算出手段と、
前記液体式変速機の出力側の回転速度を制御するための制御指令の伝送データを、前記差分算出手段によって算出された差分に応じた周波数にて生成し、その生成した制御指令の伝送データを前記制御伝送線を介して他の制御装置へ出力する制御指令出力手段と、を備え、
前記複数の制御装置のうちの何れか一つが前記制御指令の伝送データを生成して出力するよう構成され、
前記制御指令の伝送データを生成した制御装置を含む複数の制御装置は、自身への制御指令に基づき、設けられる動力車に搭載される液体変速機のコントローラを制御して、制御指令の伝送データの周波数が大きくなるに従って比例電磁弁の油圧を増加させるよう設定される油圧調整信号を比例電磁弁に出力させ、比例電磁弁の油圧を調整することで出力軸の回転速度を設定回転速度に保持させること
を特徴とする動力分散方式のレール運搬車における定低速運転制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の定低速運転制御システムにおいて、
搭載するエンジンおよび液体式変速機が正常に作動する動力車に設けられる制御装置のうち編成の先頭に最も近い制御装置のみが、前記制御指令の伝送データを出力するよう構成されること
を特徴とする動力分散方式のレール運搬車における定低速運転制御システム。
【請求項3】
請求項1に記載の定低速運転制御システムにおいて、
搭載するエンジンまたは液体式変速機に故障が発生していない動力車に設けられる制御装置のうち優先順位が最も高い制御装置のみが、前記制御指令の伝送データを出力するよう構成されること
を特徴とする動力分散方式のレール運搬車における定低速運転制御システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−248714(P2009−248714A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98292(P2008−98292)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【出願人】(303025663)株式会社日立ニコトランスミッション (25)
【Fターム(参考)】