説明

動吸振器及び振動遮断マウント

【課題】従来の可変同調型動吸振器は大型化が避けられない。
【解決手段】振動発生源の振動方向に円錐コイルばねを配し、二つの円錐コイルばねで錘を挟み込む。円錐コイルばねを圧縮或は伸張させ、ばね定数を変化させると、錘と円錐コイルばねよりなる振動体の振動周波数が変化し、反共振特性の周波数を制御できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動吸振器及びこれを用いる振動遮断マウントに関する。より特定的には、車両のエンジン等、強い振動を発生する物体の、土台への振動伝達を極力低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、レシプロエンジンやコンプレッサ等の機械は、不釣合い質量が大きい。このため、これら機械の動作時の振動は設置される床等を伝わり、周囲に振動や騒音等の被害を及ぼす。特に自動車等では、車室内の振動や騒音は乗員に対する快適性を損ねるので、この対策が活発に研究されている。
【0003】
一般に、機械が発する振動を周囲に伝えないようにするには、機械と周囲との間に振動を吸収する等の機構を挟む。その代表的なものが、サスペンションである。サスペンションは様々な種類のものが存在するが、基本的には機械(振動体)の自重を支え、振動を絶縁するのに必要な「ばね性(剛性)」と、共振を抑制するための「減衰性(粘性)」を備えるものである。
エンジン等の振動体から周囲への振動の伝達を低減するには、ばね定数が小さければ小さいほど良い。すなわち、柔らかいサスペンションであるほど、振動の伝達は阻止される。しかし、柔らかいサスペンションは振動体の載置状態を不安定にする。このため、柔らかいサスペンションは振動体の振動を大きくしてしまう。このように、ばね性と振動絶縁性は相反する関係にある。
【0004】
防振機構の防振特性を見る値として、「振動伝達率」がある。振動伝達率は、振動周波数に対する周波数特性を見ることによって把握される。このためのグラフは、グラフの横軸に振動周波数、縦軸は床加振の場合は、入力振幅(床)と出力振幅(振動体)の振幅比率を、また、振動体が加振させる場合は、床に作用する力と振動体に作用する力の振幅比率をとり、プロットするものである。非特許文献2に一例が示されている。
振動や騒音を物質の特性だけで低減させる、いわゆる「パッシブ型防振機構」においては、振動伝達率は振動体と防振機構よりなる固有振動周波数にてピーク値を示し、その固有振動周波数より低い周波数領域では、振動伝達率は1より小さくならないことがよく知られている。
【0005】
自動車の振動において特に目立つのは、アイドリング時に大きな振幅を示す、数Hz〜10数Hz程度の低周波振動である。エンジンのアイドリングによりもたらされる低周波振動の車室への伝達を防ぐためには、サスペンションを柔らかくすることが考えられる。しかし、サスペンションを柔らかくすれば、エンジンの振動振幅は大きくなる。エンジンの振動が大きくなれば、騒音を発するのみならず、 エンジンに付随するパイプ等の接合部分等が疲労し、最悪の場合は破損してしまう。
【特許文献1】特開平9−280310号公報
【特許文献2】特許3397321号
【非特許文献1】長屋幸助、小林譲二、今井勝仁、"反共振と減衰の最適自動同調吸振器によるフライス盤の振動制御法とそれによる切削試験"、日本機械学会論文集(C編)65巻635号(1999−7)
【非特許文献2】http://www.meiritsu.co.jp/gijutsu/page01.html 「明立精機株式会社 技術情報」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者は、振動を効果的に減少させる技術として、特許文献1及び非特許文献1に開示されている発明をした。梁状の黄銅製棒の片方を固定し、もう片方に錘を設け、黄銅製棒の振動支点を移動させる機構を設けたものである。
図10に動吸振器の概略を示す。
動吸振器1001は、可変剛性を示す梁1002と、錘1003と、スクリューロッド1004と、スライダ1005と、モータ1006と、シャーシ1007よりなる。
モータ1006がスクリューロッド1004を回転駆動すると、スクリューロッド1004の表面に設けられているらせん状の溝によってスライダ1005が図10の左右方向に移動する。これにより、梁1002の振動支点が移動することとなる。
スライダ1005が図10の右方向に移動すると、梁1002の振動可能な部分の長さが短くなり、梁1002と錘1003よりなる振動体の固有振動数が高くなる。すなわち、ばね定数が大きくなる。
逆にスライダ1005が図10の左方向に移動すると、梁1002の振動可能な部分の長さが長くなり、梁1002と錘1003よりなる振動体の固有振動数が低くなる。すなわち、ばね定数が小さくなる。
以上の構成よりなる動吸振器1001を、図10の上下方向の振動に対して反共振特性を示すようにスライダ1005を移動制御すると、与えられる振動を吸振器の質量に与えて、主振動体の振動を無くする作用が生じる。
【0007】
しかし、動吸振器1001には、解決し難い課題がある。
(1)装置全体が大きくなりがちである。
与えられる振動に対して十分大きな反共振特性を得るためには、梁1002の材質を選んだり、長さを長くしたり、錘1003の重さを重くしたりする必要がある。このため、装置の大きさがどうしても大きくなりがちである。
(2)装置のバランスが崩れ易い。
スライダ1005が振動方向とは直交する方向に移動するため、動吸振器1001全体の重心も左右に移動することとなる。このため、振動方向に対して動吸振器1001を設置する、図示しない接合部分を中心に、回転力が生じてしまう。このことは動吸振器を組み込む装置全体のバランスを悪化させる。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、コンパクトでバランスが良く、設計が容易な動吸振器と、これを用いるコンパクトな振動遮断マウントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の動吸振器は、
所定の質量よりなる錘と、
所定の質量を備える振動発生源と前記錘との間に設けられ、可変バネ定数特性を備える弾性体と、
前記振動発生源と前記錘との間に、前記錘の振動方向と並行して配置される支持体と、
前記振動発生源の振動を打ち消す反共振状態を前記錘と前記弾性体に形成すべく、前記弾性体の前記可変バネ定数特性を制御する制御手段とを備えるものである。
【0010】
更に、本発明の振動遮断マウントは、前記動吸振器に加えて、土台と前記振動発生源との間に介在し、所定の弾性及び粘性を有する固着部材とを備えるものである。
【0011】
本発明の動吸振器では、従来技術の梁に代わる可変剛性を示すものとして、円錐コイルばねを採用している。錘の振動方向に円錐コイルばねを二つ配置し、その間に錘を挟み込む。ばね定数の変更は円錐コイルばねに圧縮或は伸張の力を加えることにより行う。このように構成することにより、従来技術と比べて、動吸振器全体がコンパクトになると共に、ばね定数を変更しても、動吸振器の重心は振動方向に沿って移動するので、動吸振器全体のバランスは悪化しない。
可変同調型動吸振器は低周波領域の大きな振幅の振動を抑制する際に大きな効果を発揮する。可変同調型動吸振器の効果があまり得られない周波数領域の振動は、オイルダンパ等の粘性を伴う制動体を用いることで、効果的に抑制できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、コンパクトでバランスが良く、設計が容易な動吸振器と、これを用いるコンパクトな振動遮断マウントを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、図1〜図9を参照して説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態による振動遮断マウントの原理を示す概念図である。
土台101の上には、所定のばね定数(「剛性」とも言える)k1及び減衰係数(「粘性」とも言える)c1を有する固着部材102を介在して、振動発生源103が設けられている。この振動発生源103の上には更に、所定のばね定数k2及び減衰係数c2を有する弾性体104が設けられ、更にその上には錘105が設けられている。弾性体104のばね定数k2は制御手段106にて制御可能である。制御手段106はセンサ107、108、109のいずれか一つ以上から、振動振幅、振動速度、振動加速度のうちいずれか一つ以上を検出し、それらを最小にするように制御を行う。
なお、説明の便宜上、土台101から垂直に各部品が載置されていることから、重力に対して真上に設けられていなければならないように見えるが、これらはあくまでも本発明の一実施形態の原理を示すものである。すなわち、これら部品の配置はどのような方向であっても良く、例えば水平線上にあっても構わない。重要な点は、振動発生源103の振動方向に各部品が同じ振動方向にて振動可能に配置されている点である。
【0015】
図2は、本発明の一実施形態による振動遮断マウントの外観斜視図である。
図3は、振動遮断マウントの一部を構成する動吸振器を真横から見た外観図である。
図4は、振動遮断マウントの一部を構成する液体封入マウントの外観斜視図である。
図2において、振動遮断マウント201は動吸振器202と液体封入マウント203から構成されている。
【0016】
図3に示すように、動吸振器202は、円盤状のシャーシ301を中心として、シャーシ301の下面にフレーム302が設けられていると共に、シャーシ301の上面にシャフト駆動機構303が設けられている。
フレーム302の内部の中心部分にはシャフト304がある。
シャフト304には図示しないらせん状の溝が切られている。
そして、シャフト304がその溝に噛み合うスライダ305に貫通している。
スライダ305とシャーシ301との間の空間には、円錐コイルばね306及び307に挟まれる形で、錘308がシャフト304によって貫かれている状態で設けられている。ここで錘308はシャフト304の太さよりもやや太い穴が開いており、シャフト304にほぼ非接触で上下動できるように構成されている。そして、錘308は円錐コイルばね306及び307に挟まれているので、円錐コイルばね306及び307の反発力によってスライダ305とシャーシ301とのほぼ中間位置に存在するようになっている。
シャフト304はシャーシ301を貫通し、シャフト駆動機構303によって回転駆動される。
シャフト駆動機構303はモータ309と減速ギア310から構成されている。モータ309の回転駆動力は減速ギア310によって大きな駆動力に変換され、シャフト304を回転駆動する。シャフト304が回転駆動されることにより、スライダ305が上下動され、これに伴い円錐コイルばね306及び307が圧縮または伸張される。
【0017】
図3において、シャーシ301、フレーム302、シャフト304、スライダ305は、錘308の振動方向と並行して配置される支持体を構成する。
シャーシ301とスライダ305は、可変バネ定数特性を備える弾性体である円錐コイルばね306及び307を挟み込んでいる。
錘308は、円錐コイルばね306及び307に挟み込まれた状態で、シャフト304に沿って振動する。
【0018】
図4に示すように、液体封入マウント203は、ゴムチューブ401と、その上に設けられるマウント台402から構成されている。ゴムチューブ401には外部より見えないダンパオイルが充填されている。マウント台402には動吸振器202のシャーシ301が組み付けられる。また、マウント台402の中心には動吸振器202のフレーム302が挿入される穴が開いている。
【0019】
図5は、振動遮断マウント201の模式図である。説明の都合上、一部は断面図を兼ねている。
振動遮断マウント201を構成する液体封入マウント203は、マウント台402が載置されるゴムチューブ401よりなる。このゴムチューブ401にはダンパオイル501が充填されている。ダンパオイル501は所定の粘性を持つ液体で、振動を熱に変える作用を備えている。
マウント台402の上には動吸振器202のシャーシ301が載置されている。
シャーシ301の上には振動体502が載置されている。
振動体502の振動は、図5において不図示のセンサを通じて制御手段106により検出される。制御手段106は、センサから検出される振動が最小限になるように、シャフト駆動機構303を制御する。
センサの配置や制御手段106の具体的な内容は後述する。
【0020】
図6(a)及び(b)は本実施形態よりなる動吸振器の原理を示す模式図である。説明の都合上、シャフト304を省略している。
円錐コイルばね306及び307は、圧縮あるいは伸張されることにより、ばね定数が変化することが知られている。
シャーシ301とスライダ305を通じて円錐コイルばね306及び307に圧縮力を加えると、円錐コイルばね306及び307のばね定数が変化し、図6(a)に示した状態から図6(b)に示す状態になる。
図6(c)は円錐コイルばね306及び307の歪みに対するばね定数の変化をグラフにしたものである。円錐コイルばね306及び307の圧縮変位が大きくなればなるほどばね定数が上昇する。
ばね定数が上昇すると、錘308と円錐コイルばね306及び307との組み合わせよりなる振動体の固有振動周波数ωが上昇する。すなわち、錘308の重さをm2、円錐コイルばね306及び307のばね定数をk2とすると、ω=√(k2/m2)となる。ばね定数k2が上昇することで、固有振動周波数ωは上昇するのである。
図6(b)の場合、圧縮力が円錐コイルばね306及び307に加わるので、図6(a)に比べて固有振動周波数が高くなっている。
【0021】
図7(a)は、動吸振器202の振動周波数に対する振動振幅特性を示す、シミュレーションによるグラフである。複数の線はそれぞればね定数を変化させたものである。
a線はばね定数k2がない状態の、錘308の振動振幅特性を示す。つまり、錘308だけの振動振幅特性である。このような状態は実際にはないが、シミュレーションの参考の為に示す。
b線はばね定数k2が7kN/mの状態における、錘308の振動振幅特性を示す。周波数13Hz近辺で極小値P1を示し、その後17Hz近辺で極大値を示し、その後は周波数が高くなるに従って徐々に振幅が減少していく。この極小値P1が、反共振状態である。つまり、振動周波数ω=√(k2/m2)の状態である(特許文献1及び非特許文献1参照)。
c線はばね定数k2が14kN/mの状態における、錘308の振動振幅特性を示す。周波数19Hz近辺で極小値P2を示し、その後21Hz近辺で極大値を示し、その後は周波数が高くなるに従って徐々に振幅が減少していく。
d線はばね定数k2が30kN/mの状態における、錘308の振動振幅特性を示す。周波数27Hz近辺で極小値P3を示し、その後すぐに極大値を示し、その後は周波数が高くなるに従って徐々に振幅が減少していく。
上述した周波数は、錘308や円錐コイルばね306及び307を適宜選択することにより、好みの周波数に設定できることはいうまでもない。
【0022】
図7(b)は、動吸振器202の振動周波数に対する、土台101への振動伝達率の変化を示す、シミュレーションによるグラフである。複数の線は図7(a)同様、それぞればね定数を変化させたものである。図7(b)のグラフも、図7(a)と同様の特性を示している。ここで注目すべきは、b、c及びd線の極小値Q1、Q2及びQ3の各点の振動伝達率が1を下回っていることである。つまり、反共振状態になると、錘308と円錐コイルばね306及び307との組が、外部から与えられる振動を打ち消す方向に振動する。このため、外部へ振動が伝わり難くなるのである。
【0023】
図8は、振動遮断マウント201の制御を示すブロック図である。
振動遮断マウント201のシャーシ301上には、磁石802が載置されている。
センサコイルL801は、磁石802に近接して配置されている。振動体502の振動が振動遮断マウント201に伝わると、磁石802が上下方向に駆動され、センサコイルL801に誘導起電力が発生する。すなわち、センサコイルL801と磁石802はセンサ108を構成する。センサコイルL801から発生される信号は、振動遮断マウント201の振動による交流の速度信号である。
センサコイルL801から発される速度信号はA/D変換器803にてデジタル信号に変換された後、DSP(Digital Signal Processor: 音声や画像などの処理に特化した演算処理集積回路装置)804にて所定時間内におけるサンプル処理が行われ、速度データに変換される。速度データはパソコン805に入力され、所定の演算処理にて、振動遮断マウント201の振動を小さくするための制御データが生成される。制御データはD/A変換器806にてアナログ電圧信号に変換された後、増幅器807にてモータ309を回転駆動する電力に変換される。
【0024】
センサ108は振動発生源103の振動を速度信号として検出する速度センサである。速度センサとしては前述のセンサコイルL801と磁石802の組み合わせよりなる磁気誘導によるものや、周知の加速度センサの出力信号を積分したもの等が利用可能である。検出する信号は振動体502から生じる振動に起因するものであることから、所定の周波数よりなる交流信号となる。この信号をA/D変換器803にてA/D変換した後、DSP804に入力して、所定時間内のサンプル値を演算処理することにより、速度の絶対値を得る。そして、この得られた速度値に対して、その値が最小になるように、モータ309を駆動制御する。
【0025】
なお、上記制御方法の応用として、振動発生源103の振動周波数を変化させる毎にモータ309の制御量を得て、これをパソコン等の内部の不揮発性メモリにテーブルデータとして保持しておく。そして、このテーブルデータを利用することにより、迅速な制御を行うことが期待できる。
【0026】
センサコイルL801から得られる速度信号は交流であることから、速度信号をそのままA/D変換するのではなく、一旦検波回路等で検波し、積分回路を通すことで、速度の平均値を示す信号を得ることができる。検波回路は周知のダイオード検波の他に、特許文献2に開示されている速度信号処理回路のように、位置検出センサを別途設け、位置信号にて半導体スイッチを切り替えて整流する技術も利用可能である。この実施形態の例を図9に示す。
図9は、振動遮断マウント201の制御の、もう一つの形態を示すブロック図である。
図9は、図8と比べるとセンサ108の中身と制御手段106の中身が一部異なる。
磁石802にはセンサコイルL801と共にホール素子H901が近接配置されている。
センサコイルL801から発される速度信号は、反転増幅器902と非反転増幅器903にそれぞれ入力される。
反転増幅器902と非反転増幅器903の出力信号は、それぞれスイッチ904に入力される。
反転増幅器902、非反転増幅器903、スイッチ904は整流回路905を構成する。
スイッチ904からは交流の速度信号の負の部分が正方向に反転した脈流が得られる。この脈流を積分器906にて平滑処理すると、安定した速度信号が得られる。この速度信号をA/D変換器803にてデジタル変換し、直接パソコン805にて演算処理する。図8の実施形態と比べると、DSP804が省かれ、代わりに交流の速度信号を直流に変換する整流回路905を用いていることで、応答特性が向上している。
【0027】
振動体502の振動発生源がエンジンや回転式モータ等の回転体であるなら、回転体の回転信号を周知のタコメータ等にて検出し、回転速度信号を得て、回転速度に対応する制御量を算出することもできる。この実施形態の例を図10に示す。
図10は、振動遮断マウント201の制御の、もう一つの形態を示すブロック図である。
図10は、図9と比べると新たなセンサが追加され、制御手段106の中身が一部異なる。
振動体502は自動車におけるレシプロエンジンであり、発生する回転駆動力を伝達する回転体1001がある。回転体1001には図示しない磁石が貼付されている。また、回転体1001にはコイルL1002が近接配置され、回転体1001が回転すると交流信号を発生する。この交流信号は回転体1001の回転速度に比例する周波数の交流信号である。
コイルL1002から発生する交流信号は周波数/電圧変換器(以下「f/v変換器」と略す)1003に入力され、回転速度、すなわち周波数に比例した電圧の信号に変換される。この電圧信号はA/D変換器803に入力され、回転速度データとなる。パソコン805は、回転速度データからモータ309の制御量の範囲を決定する。このように制御手段106を構成することにより、回転体1001の回転速度変化に対し、迅速に追従する制御が実現できる。
【0028】
図11は図7(a)の反共振状態を連続的にプロットしたグラフである。制御手段106による同調制御が理想的に稼動すると、振動体502の振動周波数の変動に対し、円錐コイルばね306及び307のばね定数k2の可変範囲内において、錘308の振動振幅が極小になる状態、すなわち反共振状態を連続的に実現することができる。
【0029】
本実施形態は以上に記した実施形態に限られず、以下のような応用例が可能である。
(1)固着部材102は液体封入マウント203に限られず、図9(a)に示すような、オイルダンパ1202とばね1203の組でもよい。
(2)弾性体104は円錐コイルばね306及び307に限られず、図9(b)に示すような、ベローズ型空気ばね1212でもよい。
(3)ばね306及び307は、必ずしも両方とも円錐コイルばねである必要はない。片方が円錐コイルばねで、もう片方が可変剛性を備えない円筒ばねであってもよい。すなわち、錘308を挟み込むばねの、どちらか一つか両方が可変剛性を備えていればよい。このことは図9(b)のベローズ型空気ばね1212においても同様である。
(4)図8、図9及び図10では振動を検出するセンサを動吸振器202のシャーシ301に配置したが、センサを配置する場所はこれに限られない。図1に示すように、振動を検出できる場所は土台101上(センサ107)や、錘105(センサ109)に設けてもよい。また、これらセンサは一つだけに留まらず、複数設けてもよい。
【0030】
以上に示した実施形態では、動吸振器を構成する錘の振動方向に、可変ばね定数を備える少なくとも一つ以上のばねを用いて、錘を挟み込む機構を採用している。また、この機構は、可変ばね定数を備えるばねに対してばね定数を変更するために、当該ばねを錘の振動方向に圧縮あるいは伸張するための力が加えられるようになっている。この機構によれば、従来技術の梁を用いた動吸振器と比べて、装置全体がコンパクトになると共に、動吸振器が反共振状態に至る迄の過程においてバランスが悪化することによる回転力を発生しないので、安定した性能を発揮させることができる。
従来技術である、特許文献1及び非特許文献1に開示されている動吸振器では、ばね定数を変更する機構(スライダ)が錘の振動方向と直交する方向に移動する構成になっている。このため、スライダを移動してばね定数を変化させると、動吸振器全体の重心が振動方向に対して直交する方向に変わってしまい、却って不安定になってしまっていた。
本実施形態では、ばね定数を変更しても重心は振動方向に沿って移動するので、動吸振器全体のバランスは悪化しない。
コンパクトでバランスが良く、安定した性能を発揮する、ということは、動吸振器自体及びこれを適用する装置の設計の自由度が極めて大きくなることを意味する。
【0031】
可変同調型動吸振器は低周波領域の大きな振幅の振動を抑制する際に大きな効果を発揮する。可変同調型動吸振器の効果があまり得られない周波数領域の振動は、オイルダンパ等の粘性を伴う制動体を用いることで、効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施の形態による振動遮断マウントの原理を示す概念図である。
【図2】振動遮断マウントの外観斜視図である。
【図3】振動遮断マウントの一部を構成する動吸振器を真横から見た外観図である。
【図4】振動遮断マウントの一部を構成する液体封入マウントの外観斜視図である。
【図5】振動遮断マウントの模式図である。
【図6】動吸振器の原理を示す模式図である。
【図7】動吸振器の振動振幅と振動伝達率の周波数特性を示す、シミュレーションによるグラフである。
【図8】制御手段のブロック図である。
【図9】制御手段のブロック図である。
【図10】制御手段のブロック図である。
【図11】動吸振器の反共振状態を連続的にプロットした、シミュレーションによるグラフである。
【図12】本発明の一実施の形態による振動遮断マウントの応用例である。
【図13】従来技術の動吸振器の模式図である。
【符号の説明】
【0033】
201…振動遮断マウント、202…動吸振器、203…液体封入マウント、301…シャーシ、302…フレーム、303…シャフト駆動機構、304…シャフト、305…スライダ、306,307…円錐コイルばね、308…錘、309…モータ、310…減速ギア、401…ゴムチューブ、402…マウント台、501…ダンパオイル、502…振動体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の質量を備える振動発生源の振動方向に設けられる動吸振器であって、
所定の質量よりなる錘と、
前記振動発生源と前記錘との間に設けられ、可変バネ定数特性を備える弾性体と、
前記振動発生源と前記錘との間に、前記錘の振動方向と並行して配置される支持体と、
前記支持体に所定の力を加えることにより、前記弾性体の前記可変バネ定数特性を制御する制御手段と
よりなる動吸振器。
【請求項2】
前記弾性体は円錐コイルばねであり、
前記制御手段は前記円錐コイルばねを圧縮あるいは伸張させるバネ定数制御機構を含むことを特徴とする請求項1記載の動吸振器。
【請求項3】
前記弾性体は空気封入体であり、
前記制御手段は前記空気封入体を圧縮あるいは伸張させるバネ定数制御機構を含むことを特徴とする請求項1記載の動吸振器。
【請求項4】
所定の質量を備える振動発生源の振動方向に設けられる動吸振器と、
土台と前記振動発生源との間に介在し、所定の弾性及び粘性を有する固着部材と
よりなる振動遮断マウントであって、前記動吸振器は、
所定の質量よりなる錘と、
所定の質量を備える振動発生源と前記錘との間に設けられ、可変バネ定数特性を備える弾性体と、
前記振動発生源と前記錘との間に、前記錘の振動方向と並行して配置される支持体と、
前記振動発生源の振動を打ち消す反共振状態を前記錘と前記弾性体に形成すべく、前記弾性体の前記可変バネ定数特性を制御する制御手段と
よりなることを特徴とする振動遮断マウント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−303610(P2007−303610A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−134415(P2006−134415)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】