説明

包装体、及び光学素子の製造方法

【課題】複数のトレー間で多くの被収容物を挟持状に保持する包装体において、被収容物に対する汚れの固着を軽減する。
【解決手段】複数の収容部11が所定の配列で設けられた柔軟性材料からなる複数のトレー10を備え、これらのトレー10を、収容部11の全部又は一部にプリフォーム50が収容された状態で積み重ねることにより、上下に隣接するトレー10間でプリフォーム50を挟持する包装体1であって、上下に隣接するトレー10が、プリフォーム50の頂部及び底部に接触することなく、プリフォーム50の外周縁部を挟持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ガラスレンズのようなガラス製の光学素子を精密プレス成形によって製造するための精密プレス成形用プリフォームや、成形されたガラス製光学素子などを収容、梱包するのに好適な包装体、及びそのような包装体に収容、梱包されたプリフォームから光学素子を製造する光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非球面レンズなどの高機能の光学素子を優れた量産性のもとに生産する技術として、精密プレス成形法(又は、モールドオプティクス法)と呼ばれる方法が知られている。このような方法は、例えば、特許文献1に記載されているように、光学ガラスからなるプリフォームを用意し、このプリフォームを加熱、軟化して、比較的高粘度の状態で高い圧力をかけてプレス成形することにより、プレス成形型の成形面を精密に転写して、レンズ面などの光学機能面を形成するとともに、光学素子全体の形状も成形する方法である。
【0003】
ところで、精密プレス成形法は、研磨加工を施すことなく光学機能面を形成するのを目的とすることから、プリフォームの表面に傷があると、その傷が、得られた光学素子の光学機能面にそのまま残ってしまうおそれがある。したがって、精密プレス成形法に供するプリフォームの表面に傷がつかないよう、その取扱いには、十分に注意する必要がある。
一方、精密プレス成形法は、高機能な光学素子を安価に量産することを目的に開発された技術であるから、低コストで、かつ、手間のかからない方法で、多数のプリフォームを取扱う必要がある。
【0004】
そこで、本出願人は、特許文献2に示される包装体を先に提案した。この包装体は、複数の収容凹部が所定の配列で設けられたトレー本体を有し、かつ、前記収容凹部を取り囲むようにして、前記トレー本体の外周に沿って設けられた外周壁を介して積み重ねられるようにされた、柔軟性材料からなる複数のトレーを、前記収容凹部の全部又は一部に被収容物が収容された状態で積み重ねるとともに、フィルム材により一体に包み込んでなる構成としてある。
このような包装体によれば、低コストで、しかも簡易な手段で、多数のプリフォームを収容、梱包し、プリフォームの取扱いを容易にすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−29763号公報
【特許文献2】特開2008−81141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に示される包装体では、上下に隣接するトレーが、頂部と底部に接触する状態でプリフォームを挟持する構造となっており、プリフォームの頂部と底部に大きな圧力が集中的に作用するので、トレーが汚れているような場合には、その汚れが転移してプリフォームの頂部や底部に固着する可能性があることが判明した。
汚れが固着したプリフォームは、プレス成形前に洗浄して汚れを落とせば、使用することが可能であるが、汚れの程度によっては強力な洗浄が必要となる。そして、強力な洗浄を行うと、プリフォームの表面が傷つき、その傷がプリフォームをプレス成形して得たレンズの光学機能面に残ってレンズの性能を低下させるという問題があった。
特に、上記の問題は、フツリン酸ガラスなど、硬度の小さい柔らかいガラスからなるプリフォームの場合に顕著であった。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであり、複数のトレー間で多くの被収容物を挟持状に保持可能なものでありながら、被収容物に作用する圧力を分散し、被収容物に対する汚れの固着を軽減することができる包装体、及びそのような包装体からプリフォームを取り出して、光学素子に精密プレス成形する光学素子の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明に係る包装体は、複数の収容部が所定の配列で設けられた柔軟性材料からなる複数のトレーを備え、これらのトレーを、前記収容部の全部又は一部に被収容物が収容された状態で積み重ねることにより、上下に隣接するトレー間で被収容物を挟持する包装体であって、上下に隣接するトレーが、被収容物の頂部及び底部に接触することなく、被収容物の外周縁部を挟持する構成としてある。
【0009】
また、本発明に係る包装体は、被収容物が、精密プレス成形に用いるガラスプリフォームである構成とすることができ、本発明に係る光学素子の製造方法は、このような包装体から取り出されたガラスプリフォームを用いて、精密プレス成形する方法としてある。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明に係る包装体によれば、複数のトレー間で多くの被収容物を挟持状に保持可能なものでありながら、被収容物に作用する圧力を分散し、被収容物に対する汚れの固着を軽減することができる。
また、本発明に係る光学素子の製造方法によれば、上記のような包装体からプリフォームを取り出して、光学素子に精密プレス成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る包装体の概略を示す断面図である。
【図2】プリフォームにおいて光学素子の光学機能面となる領域とトレーの挟持位置との関係を示す説明図である。
【図3】トレーの概略を示す分解斜視図である。
【図4】トレーの概略を示す断面図であり、下側のトレーに収容したプリフォームを上側のトレーとの間で挟持する工程を示す図である。
【図5】積み重ねた複数のトレーをフィルム材により一体に包み込む工程を示す斜視図である。
【図6】本発明の第二実施形態に係る包装体の概略を示す断面図である。
【図7】第二実施形態に係るトレーの概略を示す断面図であり、下側のトレーに収容したプリフォームを上側のトレーとの間で挟持する工程を示す図である。
【図8】本発明の第三実施形態に係る包装体の概略を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0013】
[包装体]
まず、本発明に係る包装体の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る包装体の概略を示す断面図であり、包装体1には、同一形状(例えば、扁平球形状)、等重量の複数のプリフォーム50が収容物として収容、梱包されている。
【0014】
図1に示す包装体1は、複数の収容部11が所定の配列で設けられた柔軟性材料からなる複数のトレー10を備え、これらのトレー10を、収容部11の全部又は一部にプリフォーム50が収容された状態で積み重ねることにより、上下に隣接するトレー10間でプリフォーム50を挟持する構成となっている。
【0015】
本実施形態の包装体1では、図1に示すように、上下に隣接するトレー10が、プリフォーム50の頂部及び底部に接触することなく、プリフォーム50外周縁部を挟持する。
このようにすると、複数のトレー10間で多くのプリフォーム50を挟持状に保持可能なものでありながら、プリフォーム50に作用する圧力を分散し、プリフォーム50に対する汚れの固着を軽減することができる。
【0016】
つまり、扁平球形状や球形状のプリフォーム50においては、頂部や底部の面積に比べ、外周縁部の面積が大きくなっており、ここを上下に隣接するトレー10で広範囲に挟持することにより、プリフォーム50に作用する圧力を分散させることが可能となる。
そして、プリフォーム50に作用する圧力が分散すると、トレー10に付いた汚れが転移してプリフォーム50に固着する可能性が低減されるので、プレス成形前に強力な洗浄を行うことが不要となる。その結果、強力な洗浄によってプリフォーム50の表面が傷つき、その傷がプリフォーム50をプレス成形して得たレンズの光学機能面に残ってレンズの性能を低下させるという問題を解消することができる。
【0017】
上下に隣接するトレー10は、線接触状態でプリフォーム50の外周縁部を挟持することが好ましい。例えば、本実施形態では、トレー10の各収容部11に、プリフォーム50の外径寸法よりも小径で、かつ、トレー10を上下方向に貫通する丸孔12を形成し、この丸孔12の上端縁及び下端縁をプリフォーム50の外周縁部に線接触させる。
このようにすると、プリフォーム50に作用する圧力を分散させつつ、トレー10とプリフォーム50の接触面積を可及的に小さくすることができるので、トレー10に付いた汚れが転移してプリフォーム50に固着する可能性をさらに低減させることが可能になる。
【0018】
上下に隣接するトレー10は、精密プレス成形に用いるプリフォーム50を被収容物として収容、梱包する場合、光学素子の光学機能面となる領域51の外側でプリフォーム50を挟持することが好ましい。例えば、図2に示すように、扁平球形状のプリフォーム50を収容物として収容、梱包する場合、光学素子の光学機能面となる平面円形の領域51を避け、その外側である外周縁部でプリフォーム50を挟持する。
このようにすると、精密プレス成形に用いるプリフォーム50を被収容物として収容、梱包する場合、光学素子の光学機能面となる領域51に汚れが固着する可能性をさらに低減できるので、プレス成形前の強力な洗浄を省略することも可能になる。つまり、プリフォーム50において光学素子の光学機能面となる領域外では、汚れが残っていても、光学素子の性能を低下させる原因とはならないので、プレス成形前に行う洗浄工程の洗浄力を弱くすることができ、その結果、洗浄工程でプリフォーム50の表面に傷がつくことを防止できる。
【0019】
ここで、図2は、プリフォームにおいて光学素子の光学機能面となる領域とトレーの挟持位置との関係を示す説明図であり、図2(a)はプリフォームの平面図、図2(b)はプリフォームがトレーに挟持されている状態の断面図である。そして、図2(a)にあっては、光学素子の光学機能面となる領域51を二点鎖線で囲むとともに網掛けで示し、トレー10の挟持位置52を一点鎖線で示している。さらに、プリフォーム50を挟持するトレー10の端縁を鎖線で示している。
【0020】
なお、プリフォーム50は、例えば、扁平球形状のような一軸回転対称形状であれば、光学素子の光学機能面となる領域51が特定されるので、常に領域51の外側で挟持することが可能であるが、プリフォーム50が球形状の場合は、全表面が光学素子の光学機能面となり得るので、常に領域51の外側で挟持することは困難である。ただし、プリフォーム50が球形状であっても、包装体1における収容姿勢を維持しながらプレス成形を行うのであれば、結果的に光学素子の光学機能面となる領域51の外側でプリフォーム50を挟持したことになる。
【0021】
上下に隣接するトレー10間には、上側トレー10の被収容物接触位置(丸孔12の下端縁)と、下側トレー10の被収容物接触位置(丸孔12の上端縁)との間隔を規定するスペーサ20を介在させることが好ましい。例えば、収容部11と対応する位置に、プリフォーム50との接触を回避するたに、プリフォーム50の外径寸法よりも大径で、かつ、上下方向に貫通する丸孔21が形成された平板状のスペーサ20を介在させる。
このようにすると、上側トレー10の被収容物接触位置と、下側トレー10の被収容物接触位置との間隔を正確に規定することができるので、プリフォーム50に作用する圧力を最適化することができる。
【0022】
スペーサ20は、トレー10と別体とすることも可能であるが、各トレー10の上面側又は下面側に一体的に積層することが好ましい。例えば、図3及び図4に示すように、各トレー10の下面側にスペーサ20を一体的に積層する。このとき、トレー10とスペーサ20とは、熱融着によって一体的に積層してもよく、接着剤を用いて一体的に積層してもよく、その具体的な手段は問わない。
このようにすると、スペーサ20をトレー10と別体にする場合に比べ、包装体1の部品点数を削減できるだけでなく、プリフォーム50を包装、梱包する際の作業性を向上させることができる。
特に、スペーサ20を各トレー10の下面側に一体的に積層した場合は、作業台などにトレー10を置いたとき、作業台とトレー10との間にスペーサ20が介在し、トレー10が作業台に直接接触することを回避できるので、作業台の汚れがトレー10を介してプリフォーム50に固着する可能性を低減できる。すなわち、スペーサ20はプリフォーム50と接しないようになっているので、スペーサ20に作業台の汚れが付いたとしても、この汚れがプリフォーム50に転移するおそれがない。
【0023】
トレー10やスペーサ20は、柔軟性(クッション性)を有する材料からなり、プリフォーム50との接触によって、プリフォーム50の表面に傷がついてしまうなどの不具合が生じないようにしている。このような柔軟性材料としては、緩発泡ポリスチレン、発泡ポリプロピレン、発泡ポリエチレンなど、緩衝材として一般に用いられているものを例示することができる。
【0024】
また、複数のトレー10を、収容部11の全部又は一部にプリフォーム50が収容された状態で積み重ねるにあたり、最上段に位置するトレー10の上には、プリフォーム50が収容されていない空のトレー10を積み重ねることが好ましい。
このようにすると、最上段のトレー10に収容されたプリフォーム50も、最上段のトレー10と空のトレー10との間で確実に挟持することができる。
【0025】
さらに、空のトレー10の上面、及び最下段に位置するトレー10の下面は、それぞれ平板状のカバー30で覆うことが好ましい。
このようにすると、トレー10やスペーサ20に形成される丸孔12、21がカバー30によって塞がれるので、丸孔12、21を介して埃などの異物が侵入してプリフォーム50に付着するなどの問題を回避できる。
【0026】
また、複数のトレー10を、収容部11の全部又は一部にプリフォーム50が収容された状態で積み重ねるにあたり、積み重ねた複数のトレー10は、図5に示すように、フィルム材40により一体に包み込むことが好ましい。
このようにすると、積み重ねられた複数のトレー10を一体的に取り扱うことができるだけでなく、外気との接触を断ってプリフォーム50を清浄な状態に保つことができる。
なお、図5に示す例において、トレー10の下面側にはスペーサ20が一体的に積層されているが、作図上、その図示は省略している。
【0027】
フィルム材40で一体に包み込んだ複数のトレー10は、減圧パックすることが好ましい。例えば、真空梱包機を用いて、フィルム材40中に存在する空気などを十分に脱気してトレー10の周囲を減圧状態とし、そのままフィルム材40を密封して減圧パックする。真空梱包機としては、市販のノズル式真空梱包機や、チャンバー式梱包機を用いることができる。
このようにすると、フィルム材40が内外の気圧差によってトレー10(スペーサ20を含む)どうし、さらには、トレー10とカバー30とを圧迫固定するので、輸送中におけるトレー10どうしの位置ずれなどを確実に防止することができる。
【0028】
また、プリフォーム50は清浄な状態に保つ必要があり、精密プレス成形を行う環境も清浄な環境が求められる。このことからも、減圧パックにより包装体1を密封するのが好ましく、さらに、トレー10(スペーサ20を含む)には、帯電防止加工を施すことが好ましい。トレー10に帯電防止加工を施すことによって、トレー10が帯電して埃を引きつけてしまうのを防止することができ、プリフォーム50をトレー10に載せた状態でクリーンな精密プレス成形工程へ送ることが可能となる。
このとき、同様な帯電防止加工をカバー30やフィルム材40に施してもよい。帯電防止加工としては、公知の加工法を適用することができる。
【0029】
また、フィルム材40の中には、シリカゲルなどの乾燥剤を一緒に入れて減圧パックするのが好ましい。乾燥ガスでフィルム材40中を満たした後に減圧パックしてもよく、この場合、フィルム材40の中に乾燥剤を入れておいてもよい。
このようにすることで、フィルム材40中に閉じ込められた水蒸気がプリフォーム50の表面に結露して、プリフォーム50の表面を変質してしまうのを防止することができる。このような態様は、減圧パックした包装体1を寒冷地に送ったり、空輸したりする際に、特に有効である。
【0030】
本実施形態において、被収容物としてのプリフォーム50は、目的とする光学素子の屈折率、アッベ数などの光学特性を満たす光学ガラスを用いて作製される。
例えば、所定の光学ガラスが得られるように、ガラス原料を調合して加熱、熔融し、清澄工程により泡を切り、攪拌して十分に均質化した後に、鋳型に鋳込んで成形し、次いで、必要に応じてアニールし、適当な大きさに切断した後、研削、研磨して精密プレス成形品1個分の重量のプリフォームに仕上げる方法、又は熔融ガラスをガラス流出パイプから流出し、それからプリフォーム1個分の熔融ガラス塊を分離して、熔融ガラス塊が冷却固化するまでに、噴出ガスにより成形型上で浮上させながらプリフォームに成形する方法などにより作製することができる。
【0031】
精密プレス成形では、プリフォーム50の表面の曲率と、プレス成形型の成形面の曲率の関係によっては、ガストラップと呼ばれる現象、すなわち、プリフォーム50と、型成形面との間に、雰囲気ガスが閉じ込められてガラスの充填が妨げられる現象が起きることがある。したがって、扁平球形状やマーブル形状のように、部位によって曲率が異なる表面を有するプリフォーム50の場合には、トレー10上に置くプリフォーム50の向きを一定に揃える(例えば、全てのプリフォーム50において、曲率が大きい面を上に向けるなどする)ことが好ましい。
このように、プリフォーム50の向きを揃えることによって、トレー10上のプリフォーム50をすべて所定の向きにして後工程に送れば、すべての精密プレス成形においてガストラップを有効に回避することができる。
【0032】
また、使用するプレス成形型の材質、型成形面に設ける離型膜の種類、プリフォーム50を構成するガラスの種類によっては、プリフォーム50の表面に、公知の炭素含有膜や、自己組織化膜をコートすることができる。
このようなコートをすると、精密プレス成形時にガラスと型の摩擦を小さくし、ガラスを伸びやすくすることができる。
【0033】
また、包装体1に収容、梱包されるプリフォーム50の仕様、例えば、使用されているガラスの品名、形状、重量などは、これらが判別しやすいように、少なくとも一つのトレー10に収容されるプリフォーム50の全てにおいて、同一仕様とするのが好ましく、一つの包装体1に収容、梱包されている全てのプリフォーム50の仕様を同一にするのがより好ましい。
【0034】
[光学素子の製造方法]
次に、本発明に係る光学素子の製造方法の実施形態について説明する。
【0035】
本実施形態にあっては、上記したような包装体1からプリフォーム50を取り出して、このプリフォーム50を用いて精密プレス成形する。
より具体的には、まず、包装体1を開封して積み重ねられた複数のトレー10を取り出し、次いで、トレー10を一段ずつ分けて後工程へ送る。
【0036】
このとき、プリフォーム50が十分に清浄な状態であれば、必要に応じて表面に、炭素含有膜や、自己組織化膜などをコートして、精密プレス成形工程へ送る。プリフォーム50が十分に清浄でない場合は、洗浄、乾燥工程へ送って清浄な状態にした後、必要に応じて表面にコート処理を施し、精密プレス成形工程へ送る。
また、必要なコート処理が既に施されている場合には、そのまま、又は清浄化してから、精密プレス成形工程へ送るようにしてもよい。
なお、これらの処理操作において、トレー10上のプリフォームの向きが揃っている場合は、それらの向きが、そのままの状態となるように操作するのが好ましい。
【0037】
精密プレス成形は、モールドオプティクス成形とも呼ばれる。光学素子において、光線を透過したり、屈折させたり、回折させたり、反射させたりする面を光学機能面(レンズを例にとると、非球面レンズの非球面や、球面レンズの球面などのレンズ面が、この光学機能面に相当する)というが、精密プレス成形によれば、プレス成形型の成形面を精密にガラスに転写することにより、プレス成形によって光学機能面を形成することができる。このため、光学機能面を仕上げるために研削や研磨などの機械加工を加える必要がない。
このような精密プレス成形は、レンズ、レンズアレイ、回折格子、プリズムなどの光学素子の製造に好適であり、特に、非球面レンズを高い生産性のもとに製造する方法として適している。
【0038】
精密プレス成形に使用するプレス成形型としては、公知のもの、例えば、炭化珪素、ジルコニア、アルミナなどの耐熱性セラミックスの型材の成形面に離型膜を設けたものを使用することができる。これらの中でも、炭化珪素製のプレス成形型が好ましい。また、離型膜としては、炭素含有膜などを使用することができるが、耐久性、コストの面から特にカーボン膜が好ましい。
【0039】
精密プレス成形では、プレス成形型の成形面を良好な状態に保つために、成形時の雰囲気を非酸化性ガスにするのが好ましい。非酸化性ガスとしては、窒素、窒素と水素の混合ガスなどが好ましい。
【0040】
本実施形態で適用可能な精密プレス成形の具体的態様としては、以下の二つのものが例示できる。
【0041】
[第一態様]
本態様は、プレス成形型に、プリフォーム50を導入し、プレス成形型とプリフォームを一緒に加熱してから、精密プレス成形するものであり、プレス成形型とプリフォーム50の温度をともに、プリフォーム50を形成するガラスが10〜1012dPa・sの粘度を示す温度に加熱して、精密プレス成形を行うことが好ましい。そして、プレス後は、好ましくは1012dPa・s以上、より好ましくは1014dPa・s以上、さらに好ましくは1016dPa・s以上の粘度を示す温度にまで冷却してから、精密プレス成形品をプレス成形型から取り出す。
【0042】
このような条件により、プレス成形型の成形面の形状を、より精密にプリフォーム50に転写することができるとともに、精密プレス成形品を変形することなく取り出すこともできる。また、複数組のプレス成形型を用い、各プレス成形型内にプリフォーム50を導入して、順次、精密プレス成形を行うようにすれば、相当数の光学素子を生産性よく量産することができる。
【0043】
[第二態様]
本態様は、予熱したプレス成形型に、加熱したプリフォーム50を導入して精密プレス成形するものである。本態様によれば、プリフォーム50をプレス成形型に導入する前に、予め加熱するので、サイクルタイムを短縮化しつつ、表面欠陥のない良好な面精度を有する光学素子を製造することができる。
このような態様において、プレス成形型の予熱温度は、プリフォーム50の予熱温度よりも低く設定することが好ましい。このように、プレス成形型の予熱温度を低くすることにより、プレス成形型の消耗を低減することができる。
【0044】
本態様では、まず、プリフォーム50を予熱工程へ送り、予熱したプリフォーム50をプレス成形型に導入して精密プレス成形する。このとき、プリフォーム50を形成するガラスが、10dPa・s以下の粘度を示す温度に、プリフォーム50を予熱することが好ましく、予熱に際しては、プリフォーム50を浮上させながら予熱するのが好ましい。そして、プレス開始と同時に、又はプレスの途中から冷却を開始するのが好ましい。
【0045】
また、このようにして精密プレス成形を行うにあたり、プレス成形型の温度は、プリフォーム50の予熱温度よりも低い温度に調温するが、プリフォーム50を形成するガラスが10〜1012dPa・sの粘度を示す温度を目安にすればよい。また、プレス成形後、ガラスの粘度が1012dPa・s以上にまで冷却してから離型するのが好ましい。
【0046】
上記各態様において精密プレス成形された成形品は、プレス成形型より取り出され、必要に応じて徐冷される。成形品がレンズなどの光学素子の場合には、必要に応じて表面に光学薄膜をコートしてもよく、また、芯取り加工を適宜施して、光学素子としての形状を整えるようにしてもよい。
プリフォーム50が取り出された空のトレーは、積み重ねてプリフォーム生産工程へ戻され、新たに生産されたプリフォームを収容、梱包するのに供される。また、フィルム材40も、チャック付き密閉袋などに製袋して使用すれば、使い捨てではなく、トレー10と同様に繰り返し使用することができる。このようなリサイクル型のトレーやフィルム材を用いることにより、廃棄物を削減することができる。
【0047】
以上のように構成された本実施形態によれば、複数の収容部11が所定の配列で設けられた柔軟性材料からなる複数のトレー10を備え、これらのトレー10を、収容部11の全部又は一部にプリフォーム50が収容された状態で積み重ねることにより、上下に隣接するトレー10間でプリフォーム50を挟持する包装体1であって、上下に隣接するトレー10が、プリフォーム50の頂部及び底部に接触することなく、プリフォーム50の外周縁部を挟持するので、複数のトレー10間で多くのプリフォーム50を挟持状に保持可能なものでありながら、プリフォーム50に作用する圧力を分散し、プリフォーム50に対する汚れの固着を軽減することができる。
【0048】
また、上下に隣接するトレー10の一方、又は両方が、線接触状態でプリフォーム50の外周縁部を挟持するので、プリフォーム50に作用する圧力を分散させつつ、トレー10とプリフォーム50の接触面積を可及的に小さくすることができ、その結果、トレー10に付いた汚れが転移してプリフォーム50に固着する可能性をさらに低減させることが可能になる。
【0049】
また、上下に隣接するトレー10が、光学素子の光学機能面となる領域51の外側でプリフォーム50を挟持するので、光学素子の光学機能面となる領域51に汚れが固着する可能性をさらに低減し、プレス成形前の強力な洗浄を省略することができる。
【0050】
また、上下に隣接するトレー10間に介在し、上側トレー10の被収容物接触位置と、下側トレー10の被収容物接触位置との間隔を規定するスペーサ20を備えるので、プリフォーム50に作用する圧力を最適化することができる。
【0051】
また、スペーサ20が、各トレー10の下面側に一体的に積層されるので、スペーサ20をトレー10と別体にする場合に比べ、包装体1の部品点数を削減できるだけでなく、プリフォーム50を包装、梱包する際の作業性を向上させることができる。しかも、スペーサ20を各トレー10の下面側に一体的に積層したので、作業台などにトレー10を置いたとき、作業台とトレー10との間にスペーサ20を介在させ、作業台の汚れがトレー10を介してプリフォーム50に固着する可能性を低減できる。
【0052】
また、複数のトレー10を、収容部11の全部又は一部にプリフォーム50が収容された状態で積み重ねるとともに、最上段に位置するトレー10の上に、プリフォーム50が収容されていない空のトレー10を積み重ね、さらに、空のトレー10の上面、及び最下段に位置するトレー10の下面をそれぞれ平板状のカバー30で覆うので、最上段のトレー10に収容されたプリフォーム50も、最上段のトレー10と空のトレー10との間で確実に挟持することができる。また、トレー10やスペーサ20に形成される丸孔12、21がカバー30によって塞がれるので、丸孔12、21を介してプリフォーム50に汚れが付着するなどの問題も回避できる。
【0053】
また、複数のトレー10を、収容部11の全部又は一部にプリフォーム50が収容された状態で積み重ねるとともに、フィルム材40により一体に包み込むので、積み重ねられた複数のトレー10を一体的に取り扱うことができるだけでなく、外気との接触を断ってプリフォーム50を清浄な状態に保つことができる。
【0054】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
【0055】
例えば、前述した実施形態では、スペーサ20を各トレー10の下面側に一体的に積層しているが、図6及び図7に示すように、スペーサ20を各トレー10の上面側に一体的に積層するようにしてもよい。
【0056】
また、図8に示すように、トレー10の収容部11に、上端の孔径がプリフォーム50よりも大径で、かつ、下端の孔径がプリフォーム50よりも小径なテーパー孔13を形成し、該テーパー孔13のテーパー面と、テーパー孔13の下端縁との間でプリフォーム50を挟持するようにしてもよい。
【0057】
また、前述した実施形態では、被収容物として精密プレス成形に用いるガラスプリフォームの例を挙げたが、本発明に適用可能な被収容物は、レンズなどの光学素子であってもよく、種々のものが適用可能である。このとき、本発明では、上下に隣接するトレー10が、光学機能面の外側で光学素子を挟持する構成とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、ガラスレンズのようなガラス製の光学素子を精密プレス成形によって製造するための精密プレス成形用プリフォームや、成形されたガラス製光学素子などを収容、梱包する包装体に好適に用いることができる。また、このような包装体に収容、梱包されたプリフォームから光学素子を製造する光学素子の製造方法に適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 包装体
10 トレー
11 収容部
12 丸孔
20 スペーサ
21 丸孔
30 カバー
40 フィルム材
50 プリフォーム
51 光学素子の光学機能面となる領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の収容部が所定の配列で設けられた柔軟性材料からなる複数のトレーを備え、これらのトレーを、前記収容部の全部又は一部に被収容物が収容された状態で積み重ねることにより、上下に隣接するトレー間で被収容物を挟持する包装体であって、
上下に隣接するトレーが、被収容物の頂部及び底部に接触することなく、被収容物の外周縁部を挟持することを特徴とする包装体。
【請求項2】
上下に隣接するトレーの一方、又は両方が、線接触状態で被収容物の外周縁部を挟持する請求項1記載の包装体。
【請求項3】
被収容物が、精密プレス成形に用いるガラスプリフォームである請求項1又は2記載の包装体。
【請求項4】
上下に隣接するトレーが、光学素子の光学機能面となる領域の外側でプリフォームを挟持する請求項3記載の包装体。
【請求項5】
被収容物が、成形された光学素子である請求項1又は2記載の包装体。
【請求項6】
上下に隣接するトレーが、光学機能面の外側で光学素子を挟持する請求項5記載の包装体。
【請求項7】
上下に隣接するトレー間に介在し、上側トレーの被収容物接触位置と、下側トレーの被収容物接触位置との間隔を規定するスペーサを備える請求項1〜6のいずれか一項に記載の包装体。
【請求項8】
前記スペーサが、各トレーの下面側に一体的に積層される請求項7記載の包装体。
【請求項9】
複数のトレーを、前記収容部の全部又は一部に被収容物が収容された状態で積み重ねるとともに、最上段に位置するトレーの上に、被収容物が収容されていない空のトレーを積み重ね、さらに、空のトレーの上面、及び最下段に位置するトレーの下面をそれぞれ平板状のカバーで覆う請求項1〜8のいずれか一項に記載の包装体。
【請求項10】
複数のトレーを、前記収容部の全部又は一部に被収容物が収容された状態で積み重ねるとともに、フィルム材により一体に包み込む請求項1〜9のいずれか一項に記載の包装体。
【請求項11】
請求項3又は4に記載の包装体から取り出されたガラスプリフォームを用いて、精密プレス成形することを特徴とする光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−6603(P2012−6603A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141542(P2010−141542)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】