説明

化合物、それを含有する液晶組成物、異方性材料、偏光板保護フィルム、光学補償フィルムならびに液晶表示装置

【課題】スメクチック相に転移可能な、光学材料の作製に有用な新規な化合物を提供する。
【解決手段】下記一般式(I):
1−SP1−X1−A−B−C−D−X2−SP2−Q2
式中、Q1及びQ2はそれぞれ重合性基を表し;SP1及びSP2はそれぞれスペーサー基を表し;X1及びX2はそれぞれ連結基を表し;A、B、C及びDはそれぞれ、下記式IIa、IIb又はIIc:


式中、Ra、Rb及びRcはそれぞれ置換基を表し、na、nb及びncはそれぞれ0〜4の整数を表し、na、nb及びncがそれぞれ2以上の整数である場合、複数存在するRa、Rb及びRcはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい;
から選ばれる二価基を表すが、但し、A、B、C及びDのうち少なくとも2つは、式IIaで表される二価基であるか、及び/又は、少なくとも2つは式IIbで表される二価基である;で表される化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な化合物、特に液晶性を有する新規な化合物に関する。また、本発明は、該化合物を含有する液晶組成物及び該液晶組成物の配向を固定化して得られる異方性材料ならびに該異方性材料を用いた偏光板保護フィルム、光学補償フィルムならびに液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶は、いわゆる液晶ディスプレイ等に代表される液晶表示装置において、光のシャッター機能を果たす重要な材料として活用されている。また、液晶は、液晶ディスプレイの表示特性、特に斜めから見たときの表示特性を改善する目的で用いられる種々の光学補償素子の材料としても利用されている。かかる光学補償素子の材料としては、高分子液晶及び低分子液晶の双方が利用されているが、低分子の液晶材料のほうが、高分子の液晶材料よりも配向速度が速いという点で製造適性に優れている。また、低分子の液晶材料を利用して光学補償素子を作製する場合は、液晶を配向させた後、その配向状態を重合反応等を利用して固定して作製するので、作製される光学補償素子の光学特性が変化し難いという点でも優れている。
【0003】
低分子の液晶材料を利用して光学補償素子を作製する場合は、液晶組成物を所定の液晶相に転移させ、その後硬化のための重合反応等を行うのが一般的である。従来、液晶組成物をネマチック相に転移させた後、硬化させるのが主流であったが、ネマチック相は比較的秩序度が低い液晶相であるので、熱的に揺らいでいるという特徴がある。そのため、ネマチック相に転移した液晶組成物を硬化させて作製した光学補償素子を液晶ディスプレイの光学補償に用いると、黒表示時に光漏れが観察される場合があり、市場における高画質化(特に高コントラスト化)の要求に応えるためには、かかる光学補償素子の光学補償能を改善する必要がある。光学補償能が改善された光学補償素子として、スメクチック相を固定して作製された光学補償素子が提案されている(特許文献1〜3)。また、スメクチック相を呈する組成物が種々提案されている(特許文献4〜6)。
【特許文献1】特開平6−331826号公報
【特許文献2】特開平10−319408号公報
【特許文献3】特表2000−514202号公報
【特許文献4】特表2001−527570号公報
【特許文献5】特開2005−15406号公報
【特許文献6】特開2003−207631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献に記載の液晶材料は、重合後の配向固定が不十分であったり、複屈折率の波長分散性が大きいなど、改善が求められていた。光学補償素子として用いる場合は、液晶セル内の液晶性化合物と同等以上の波長分散性であることが好ましい。
本発明は前記諸問題に鑑みなされたものであって、スメクチック相に転移可能であり、且つ異方性材料の作製に有用な新規な化合物及び液晶組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、液晶相の熱的揺らぎなどに影響されずに、安定的に製造可能な、良好な性能を有する異方性材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための手段は以下の通りである。
[1] 下記一般式(I):
1−SP1−X1−A−B−C−D−X2−SP2−Q2
式中、Q1及びQ2はそれぞれ重合性基を表し;SP1及びSP2はそれぞれスペーサー基を表し;X1及びX2はそれぞれ連結基を表し;A、B、C及びDはそれぞれ、下記式IIa、IIb又はIIc:
【0006】
【化1】

式中、Ra、Rb及びRcはそれぞれ置換基を表し、na、nb及びncはそれぞれ0〜4の整数を表し、na、nb及びncがそれぞれ2以上の整数である場合、複数存在するRa、Rb及びRcはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい;から選ばれる二価基を表すが、但し、A、B、C及びDのうち少なくとも2つは、式IIaで表される二価基であるか、又は、少なくとも2つは式IIbで表される二価基である;で表される化合物。
【0007】
[2] 前記式中、Q1及びQ2がそれぞれ、下記式(Q−1)〜(Q−17)のいずれかで表される[1]の化合物。
【0008】
【化2】

【0009】
[3] 前記式中、Q1及びQ2がそれぞれ、(Q−1)〜(Q−6)のいずれかである[2]の化合物。
[4] 前記式中、Q1及びQ2がそれぞれ、下記式(Q−101)〜(Q−106)のいずれかで表される[3]の化合物。
【化3】

式中、Rq1は水素原子、アルキル基、又はアリール基であり、Rq2は置換基であり、nは0〜4の整数である。
【0010】
[5] 前記式中、SP1及びSP2がそれぞれ、−O−、−S−、−CO−、−NR2−(R2は、炭素原子数が1〜7のアルキル基又は水素原子である)、炭素原子数1〜12の、アルキレン基、置換アルキレン基、アルケニレン基、置換アルケニレン基、アルキニレン基及び置換アルキニレン基、及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基である[1]〜[4]のいずれかの化合物。
[6] 前記式中、X1及びX2がそれぞれ、単結合、−O−、−S−、−CO−、−NR2−(R2は、炭素原子数が1〜7のアルキル基又は水素原子である)及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基である[1]〜[5]のいずれかの化合物。
[7] 前記式中、X1及びX2がそれぞれ、単結合、−O−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−、−CO−NH−、−NH−CO−又は−O−CO−O−である[1]〜[6]のいずれかの化合物。
[8] 前記式中、−A−B−C−D−が下記式:
【0011】
【化4】

のいずれかである[1]〜[7]のいずれかの化合物。
[9] スメクチック相に転移可能な液晶化合物である[1]〜[8]のいずれかの化合物。
[10] [1]〜[9]のいずれかの化合物を少なくとも1種含有することを特徴とする液晶組成物。
[11] [10]の液晶組成物を硬化して形成された異方性材料。
[12] 液晶相に転移した前記液晶組成物を硬化して形成された[11]の異方性材料。
[13] スメクチック相に転移した前記液晶組成物を硬化して形成された[12]の異方性材料。
[14] [11]〜[13]のいずれかの異方性材料からなる偏光板保護フィルム。
[15] [11]〜[13]のいずれかの異方性材料からなる光学補償フィルム。
[16] [14]の偏光板保護フィルム及び/又は[15]の光学補償フィルムを有する液晶表示装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、スメクチック相に転移可能であり、且つ異方性材料の作製に有用な新規な化合物及び液晶組成物を提供することができる。さらに、本発明によれば、液晶相の熱的揺らぎなどに影響されずに、安定的に製造可能な、良好な性能を有する異方性材料を提供することができる。
【発明の実施の形態】
【0013】
以下において、本発明の内容について順次説明する。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
本発明は、下記般式(I)で表される化合物に関する。
下記一般式(I):
1−SP1−X1−A−B−C−D−X2−SP2−Q2
式中、Q1及びQ2はそれぞれ重合性基を表し;SP1及びSP2はそれぞれスペーサー基を表し;X1及びX2はそれぞれ連結基を表す。
【0015】
式(I)中、Q1及びQ2は、それぞれ独立に、重合性基である。該重合性基は、付加重合(開環重合を含む)又は縮合重合可能であることが好ましく、言い換えると、重合性基は、付加重合反応又は縮合重合反応が可能な官能基であることが好ましい。重合性基の例を以下に示す。
【0016】
【化5】

【0017】
重合性基Q1及びQ2はそれぞれ、不飽和重合性基(Q−1〜Q−7)、エポキシ基(Q−8)又はアジリジニル基(Q−9)、またはオキセタニル基である又は含んでいることが好ましく、不飽和重合性基である又は含んでいることがさらに好ましく、エチレン性不飽和重合性基(Q−1〜Q−6)である又は含んでいることがさらにより好ましい。エチレン性不飽和重合性基(Q−1〜Q−6)の例としてはさらに、下記の(Q−101)〜(Q−106)が挙げられる。これらの中でも、(Q−101),(Q−102)が好ましい。
【0018】
【化6】

式中、Rq1は水素原子、アルキル基、又はアリール基であり、Rq2は置換基であり、nは0〜4の整数である。Rq1は好ましくは水素原子、炭素原子数1〜5のアルキル基、炭素原子数6〜12のアリール基であり、より好ましくは水素原子、炭素原子数1〜3のアルキル基であり、さらに好ましくは水素原子またはメチル基である。Rq2で表される置換基としては、後述する置換基Ra、Rb及びRcの例として示したものを好ましく用いることができる。nは好ましくは0〜2の整数であり、より好ましくは0または1である。
【0019】
式(I)において、SP1及びSP2は、それぞれ独立に二価のスペーサー基である。SP1及びSP2は、それぞれ独立に、−O−、−S−、−CO−、−NR2−、二価の鎖状基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。上記R2は、炭素原子数が1〜7のアルキル基又は水素原子である。
【0020】
二価の鎖状基は、アルキレン基、置換アルキレン基、アルケニレン基、置換アルケニレン基、アルキニレン基又は置換アルキニレン基を意味する。アルキレン基、置換アルキレン基、アルケニレン基及び置換アルケニレン基が好ましく、アルキレン基及びアルケニレン基がさらに好ましい。アルキレン基は、分岐を有していてもよい。アルキレン基の炭素原子数は、1〜12であることが好ましく、2〜10であることがさらに好ましく、2〜8であることが最も好ましい。置換アルキレン基のアルキレン部分は、上記アルキレン基と同様である。置換アルキレン基の置換基の例には、アルコキシ基、ハロゲン原子が含まれる。アルケニレン基は、分岐を有していてもよい。アルケニレン基の炭素原子数は、2〜12であることが好ましく、2〜10であることがさらに好ましく、2〜8であることが最も好ましい。置換アルケニレン基のアルケニレン部分は、上記アルケニレン基と同様である。置換アルケニレン基の置換基の例には、アルコキシ基、ロゲン原子が含まれる。アルキニレン基は、分岐を有していてもよい。アルキニレン基の炭素原子数は、2〜12であることが好ましく、2〜10であることがさらに好ましく、2〜8であることが最も好ましい。置換アルキニレン基のアルキニレン部分は、上記アルキニレン基と同様である。置換アルキニレン基の置換基の例には、アルコキシ基、ハロゲン原子が含まれる。また、二価の鎖状基において、一つ以上の隣接していないCH2基は−O−、−CO−O−、−O−CO−、−O−CO−O−、−CO−、−S−に置換されていてよい。スペーサー基の全炭素原子数は、1以上であるのが好ましく、2〜30であるのがより好ましく、4〜20であることがさらに好ましい。
【0021】
一般式(I)において、X1及びX2はそれぞれ2価の連結基を表す。X1及びX2は、それぞれ独立に、単結合、−O−、−S−、−CO−、−NR2−(R2は、上記と同様)及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。より好ましくは単結合、−O−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−、−CO−NH−、−NH−CO−又は−O−CO−O−である。
【0022】
一般式(I)中、−SP1−X1−又は−X2−SP2−の好ましい例には、以下の基が含まれるが、これらに限定されるものではない。なお、以下の具体例中、「*」がQ1又はQ2との結合部位である。
【化7】

【0023】
上記一般式においてn、mはそれぞれ1以上の整数である。nは1〜20の整数が好ましく、2〜10の整数がより好ましい。mは1〜10の整数であることが好ましく、1〜6の整数がより好ましい。
【0024】
一般式(I)において、A、B、C及びDはそれぞれ下記式IIa、IIb及びIIcから選ばれる二価基を表すが、A、B、C及びDのうち少なくとも2つはIIaであるか、又は少なくとも2つはIIcである。
【0025】
【化8】

【0026】
式中、Ra、Rb及びRcはそれぞれ置換基を表し、na、nb及びncはそれぞれ0〜4の整数を表し、na、nb及びncがそれぞれ2以上の整数である場合、複数存在するRa、Rb及びRcはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0027】
前記一般式(I)で表される化合物が、複数のエステル結合(−C(=O)O−又は−OC(=O)−)を含む場合、複数のエステル結合の原子の配列の順序が互いに同一であると、スメクチック相を形成し易くなる。
尚、式中、DがIIaであり、且つX2が単結合である構造と、DがIIcであり、且つX2が−C(=O)O−である構造とは等しくなるが、この場合は、DがIIaであり、且つX2が単結合である構造とみなすものとする。DがIIbであり、且つX2が単結合である構造と、DがIIcであり、且つX2が−OC(=O)−である構造についても、前者の構造であるとみなす。
【0028】
A、B、C及びDのうち、少なくとも1つは置換基を有していることが好ましい(即ち、na、nb及びncのうち少なくとも1つは1以上の整数であるのが好ましい)。置換基を導入することにより、他の材料と混合が容易になったり、所定の溶媒に対する溶解性を向上させることが可能となり、液晶組成物として調製が容易になる。また、置換基の種類を変更することのより、相転移温度を変更することができる。置換基の種類は、所望の物性に併せて、適宜、選択することができる。Ra、Rb及びRcがそれぞれ表す置換基の例には、ハロゲン原子、シアノ、ニトロ、炭素原子数が1〜5のアルキル基、炭素原子数が1〜5のハロゲン置換アルキル基、炭素原子数が1〜5のアルコキシ基、炭素原子数が1〜5のアルキルチオ基、炭素原子数が1〜5のアシル基、炭素原子数が2〜6のアシルオキシ基、炭素原子数が2〜6のアルコキシカルボニル基、カルバモイル、炭素原子数が2〜6のアルキル置換カルバモイル基及び炭素原子数が2〜6のアミド基が含まれる。より好ましくはハロゲン原子、シアノ、炭素原子数が1〜3のアルキル基、炭素原子数が1〜3のハロゲン置換アルキル基、炭素原子数が1〜3のアルコキシ基、炭素原子数が2〜4のアシルオキシ基である。
【0029】
本発明においてA、B、C及びDはIIaのみ、又はIIa及びIIcの組合せから構成されることが合成上好ましく、IIa及びIIcの組合せから構成されることがより好ましい。−A−B−C−D−として、好ましい組合せは以下のとおりである。なお、下記例は、いずれも複数のエステル結合の原子の配列の順序が互いに同一であり、スメクチック相を形成し易い分子構造であると考えられる。なお、式中、上記した通り、複数のRa、Rb、Rc、na、nb及びncは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0030】
【化9】

【0031】
また、−A−B−C−D−は、下記構造であるのも好ましい。
【化10】

【0032】
以下に、前記一般式(I)で表される化合物の化合物例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0033】
【化11】

【0034】
【化12】

【0035】
【化13】

【0036】
【化14】

【0037】
【化15】

【0038】
【化16】

【0039】
【化17】

【0040】
前記一般式(I)で表される本発明の化合物は、既知の合成反応を組み合わせて合成することができる。即ち、様々な文献(例えば、Methoden derOrganischen Chemie(Houben−Weyl編)、Some specific methods (Thieme−Verlag, Stuttgart著)、実験化学講座及び新実験化学講座)に記載の方法を参照して合成できる。また、合成方法としては、米国特許4683327号、同4983479号、同5622648号、同5770107号、国際特許(WO)95/22586号、同97/00600号、同98/47979号、及び英国特許2297549号の各明細書の記載も参照できる。
【0041】
前記一般式(1)で表される化合物は、液晶化合物であるのが好ましい。特に、スメクチック相(スメクチックA相及びC相の双方を含む意味で用いる)に、単独で又は他の化合物の存在下で転移可能な液晶化合物であるのがより好ましい。本発明の化合物は、80〜180℃(より好ましくは70〜150℃)の温度範囲においてスメクチック相に転移する液晶化合物であるのがさらに好ましい。かかる温度範囲でスメクチック相に転移可能であると、過度な加熱や過度な冷却等をすることなしに、スメクチック相によって発現された異方性を利用した異方性材料を安定的に製造可能であるので好ましい。
【0042】
[液晶組成物]
本発明の液晶組成物は、前記一般式(1)で表される化合物の少なくとも1種を含有する。該液晶組成物は、スメクチック相に転移可能であるのが好ましく、より好ましくは80〜180℃、さらに好ましくは70〜150℃の温度範囲においてスメクチック相に転移可能な液晶組成物である。該液晶組成物は、液晶の配向によって発現される、光学異方性材料、異方的な導電材料等の異方性材料を作製するのに有用である。特に、スメクチック相に転移させた本発明の液晶組成物を硬化させて作製した異方性材料は、秩序度の高いスメクチック相によって発現された異方性を示すので、液晶相の熱的揺らぎに起因する性能の低下が軽減され、良好な性能を示すことが期待できる。
【0043】
本発明の組成物は、前記式(1)で表される化合物を一種のみ含有していてもよいし、前記式(1)で表される化合物を二種類以上含有していてもよいし、他の重合性化合物(液晶性化合物であっても非液晶化合物であってもよい)を一種以上さらに含有していてもよい。また、前記組成物は、非重合性化合物(液晶性化合物であっても非液晶性化合物であってもよい)をさらに含有していてもよい。他の液晶性化合物と併用する場合、それらの他の液晶性化合物は、ネマチック液晶相、スメクチック液晶相、又はコレステリック液晶相に転移し得る化合物であってもよいが、本発明の液晶組成物として(例えば、溶媒を含む塗布液の形態では加熱乾燥の過程で溶媒が揮散した状態で)、配向固定させる温度範囲で、スメクチック液晶相をとることが好ましい。
【0044】
本発明の液晶組成物は、前記一般式(1)で表される化合物とともに、棒状液晶性化合物を含有しているのが好ましい。具体的には、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類及びアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類から選ばれる棒状液晶性化合物を含有しているのが好ましい。棒状液晶性化合物としては、分子中に、活性光線や電子線、熱などによって重合や架橋反応を起こしうる部分構造(重合性基)を有するものが好適に用いられる。その部分構造(重合性基)の一分子中の個数は1〜6個が好ましく、より好ましくは1〜3個である。前記一般式(1)で表される化合物は、同様に、一分子中に重合性基を2個以上有しているので、かかる重合性基と重合反応可能な重合性基であるのが好ましく、具体的には、ラジカル重合性不飽和基が好ましい。より具体的には、例えば、特表2000−514202号公報、又は特開2002−62427号公報記載の重合性基、重合性棒状液晶化合物が好ましく用いられる。
前記一般式(1)の化合物とともに棒状液晶性化合物を使用する場合は、該棒状液晶性化合物の含有量は、前記組成物中の全質量中、2〜80質量%であるのが好ましい。
【0045】
《添加剤》
本発明の液晶組成物は、前記一般式(1)で表される化合物の分子の配向を促進する添加剤を含有していてもよい。配向を促進する添加剤の組成物中における含有量は、前記化合物に対し0.01〜10質量%であるのが好ましく、0.05〜5質量%であるのがより好ましく、0.05〜4質量%であるのが更に好ましい。配向を促進する添加剤は、空気界面あるいは配向膜界面においてその排除体積効果や静電気的な効果によって液晶性化合物の分子を配向させるのに寄与する。特開2002−20363号公報、特開2002−129162号公報に記載されている化合物を用いることができる。また、特開2004−53981号明細書中の段落番号[0072]〜[0075]、特開2004−4688号明細書中の段落番号[0071]〜[0078]、特開2004−139015号明細書中の段落番号[0052]〜[0054]、[0065]〜[0066]、[0092]〜[0094]に記載される事項も本発明に適宜適用することができる。
さらに棒状液晶性化合物の垂直配向を促進する添加剤としては、特開2006−106662号明細書中の段落番号[0078]〜[0107]、[0113]〜[0118]、[0162]〜[0166]、[0189]〜[0193]に記載される添加剤を用いることができる。
また棒状液晶性化合物の水平配向を促進する添加剤としては、特開2005−99248号明細書中の段落番号[0058]〜[0096]に記載の一般式(I)〜(III)で表される水平配向剤、特開2006−126768号明細書中の段落番号[0063]〜[0069]に記載される添加剤を用いることができる。
これらの配向を促進する添加剤は、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0046】
なお、本発明で「水平配向」とは、液晶層の水平面(例えば液晶層が支持体上に形成されている場合は支持体の表面)に対して液晶性化合物の長軸方向が平行であることをいうが、厳密に平行であることを要求するものではなく、本明細書では、液晶性化合物の長軸方向と水平面とのなす傾斜角が15度未満の配向を意味するものとする。傾斜角は10度以下が好ましく、5度以下がより好ましく、2度以下がさらに好ましく、1度以下が最も好ましい。前記傾斜角は0度であっても勿論よい。
【0047】
前記添加剤の水平配向を促進する添加剤の組成物中における含有量は、液晶化合物に対し0.01〜20質量%であるのが好ましく、0.05〜10質量%であるのがより好ましく、0.05〜5質量%であるのが更に好ましい。水平配向を促進する添加剤は、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0048】
本発明の液晶組成物は、連鎖移動剤を含有していてもよい。組成物中における連鎖移動剤の含有量は、式(1)の化合物に対し、0.01〜10質量%であるのが好ましく、0.05〜5質量%であるのがより好ましく、0.05〜4質量%であるのが更に好ましい。使用可能な連鎖移動剤としては、一般に知られているものが用いることができるが、好ましくはメルカプト基を有する化合物(チオール化合物、例えばドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、トリメチロールプロパン トリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトール テトラキス(3−メルカプトプロピオネート)など)やジスルフィド化合物(例えばジフェニルジスルフィドなど)である。
液晶性化合物との相溶性も必要であり、相溶性の観点から液晶性を示すチオール化合物がより好ましい。液晶性を示すチオール化合物としては、米国特許第6096241号明細書に記載の化合物などが挙げられる。
【0049】
本発明の組成物は、その他、重合開始剤、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマー、ポリマー添加剤等を含有していてもよい。これらの材料は、種々の目的、例えば、配向の固定化、塗工膜の均一性、膜の強度、液晶性化合物の配向性の向上等を目的として添加される。これらの材料は、併用する液晶性化合物と相溶性を有し、配向を阻害しないことが好ましい。
【0050】
重合開始剤としては、熱重合開始剤及び光重合開始剤のいずれを用いてもよい。光重合開始剤が好ましい。光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許第2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3549367号明細書記載)、アクリジン及びフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許第4239850号明細書記載)及びオキサジアゾール化合物(米国特許第4212970号明細書記載)が含まれる。
光重合開始剤の使用量は、組成物(塗布液の場合は固形分)の0.01〜20質量%であることが好ましく、0.5〜10質量%であることがさらに好ましい。
【0051】
重合性モノマーとしては、ラジカル重合性もしくはカチオン重合性の化合物が挙げられる。好ましくは、多官能性ラジカル重合性モノマーであり、上記の重合性基含有の液晶化合物と共重合性のものが好ましい。例えば、特開2002−296423号公報明細書中の段落番号[0018]〜[0020]記載のものが挙げられる。上記化合物の添加量は、式(1)の化合物に対して一般に1〜50質量%の範囲にあり、1〜30質量%の範囲にあることが好ましい。
【0052】
界面活性剤としては、従来公知の化合物が挙げられるが、特にフッ素系化合物が好ましい。具体的には、例えば特開2001−330725号公報明細書中の段落番号[0028]〜[0056]記載の化合物が挙げられる。
【0053】
ポリマー添加剤としては、液晶性化合物の分子の配向を促進する目的以外に、組成物の表面張力や粘度を調整する等の目的で用いられ、その構造としては、組成物に混合、溶解できるものであれば特に制限はない。
液晶性化合物の分子の配向を促進する目的で用いられる場合、空気界面あるいは配向膜界面においてその排除体積効果や静電気的な効果によって液晶性化合物の分子を配向させることが可能な構成単位を含むポリマーが好ましい。空気界面側で作用させる場合は、フルオロ脂肪族基含有モノマーより誘導される構成単位と、配向を促進させる構成単位とを含むポリマーが好ましく用いられる。
組成物の粘度を調整する目的で用いられる場合、ポリマーは塗布液を増粘できることが好ましく、ポリマーの例としては、セルロースエステルを挙げることができる。セルロースエステルの好ましい例としては、特開2000−155216号公報明細書中の段落番号[0178]記載のものが挙げられる。
組成物の表面張力を調整する目的で用いられる場合、ポリマーは塗布液の表面張力を低下させることが好ましく、ポリマーの例としては、フッ素を含有するポリマーが挙げられ、公知の含フッ素ポリマー、含フッ素界面活性剤ポリマー等を好適に用いる事ができる。これらのうち、フルオロ脂肪族基含有モノマーより誘導される構成単位を含むポリマーが特に好ましい。
【0054】
ポリマー添加剤の分子量範囲は、重量平均分子量(Mw)で、好ましくは1000〜100万であり、より好ましくは2000〜20万であり、さらに好ましくは3000〜10万である。
【0055】
ポリマー添加剤の好ましい添加量範囲は、液晶性化合物の配向を阻害しないように、液晶性化合物に対して、0.01〜50質量%が好ましく、より好ましくは、0.05〜20質量%であり、最も好ましくは、0.1〜10質量%である。
【0056】
本発明の組成物を塗布液として調製してもよい。塗布液として調製すると、例えば、ガラス板やポリマーフィルム等の表面に塗布することにより、容易に光学異方性層を形成することができる。前記塗布液の調製に用いる溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例には、アミド(例、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例、ピリジン)、炭化水素(例、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例、クロロホルム、ジクロロメタン)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライド、エステル及びケトンが好ましく、特にエステル及びケトンが好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0057】
[異方性材料]
本発明の異方性材料は、本発明の液晶組成物を硬化して形成された異方性材料である。液晶相に転移した前記液晶組成物を硬化して形成するのが好ましく、スメクチック相に転移した前記液晶組成物を硬化して形成するのがより好ましい。但し、本発明の異方性材料は、前記液晶性組成物をスメクチック相以外の液晶相、例えば、ネマチック相等に転移させ、硬化させて作製されたものであっても勿論よい。前記組成物が含有する式(1)の化合物の重合、又は該化合物と、所望により添加される他の重合性棒状液晶性化合物及び/又は重合性モノマー等との重合を進行させることにより、前記組成物を硬化させることができる。本発明の異方性材料の一態様として、光学異方性膜が挙げられる。該光学異方性膜は、前記式(1)の化合物の少なくとも一種を含有する組成物を、配向膜の表面に適用して、化合物の分子を配向させた後に、かかる配向状態に重合により固定することで形成することができる。
【0058】
前記光学異方性膜は、塗布液として調製した本発明の組成物を、配向膜等の表面に塗布した後、式(1)の化合物の分子を配向させて、液晶相、好ましくはスメクチック相とした後、その配向状態を維持して硬化させて形成するのが好ましい。硬化は、式(1)の化合物の重合反応により実施することができる。硬化のために実施する重合反応には、光重合開始剤を用いた光重合反応を利用するのが好ましい。液晶性分子の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。照射エネルギーは、20mJ/cm2〜50J/cm2であることが好ましく、100〜800mJ/cm2であることがさらに好ましい。光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。
【0059】
前記光学異方性膜の厚さは、0.1〜10μmであることが好ましく、0.2〜5μmであることがさらに好ましく、0.5〜5μmであることが最も好ましい。
【0060】
配向の均一性をより高めるためには、前記組成物を、一旦、ネマチック相又は等方性相にした後、冷却してスメクチック相に転移させるのが好ましい。より具体的には、前記組成物を配向膜等の表面に塗布した後、スメクチック相への転移温度以上の温度T1℃に保持してネマチック相及び等方相を維持し、その後、スメクチック相への転移温度Ts未満に冷却して、スメクチック相に転移させるのが好ましい。T1℃にとしては、(Ts+0.1)℃以上が好ましく、(Ts+1)℃以上がより好ましく、(Ts+5)℃〜(Ts+20)℃であるのがさらに好ましい。T1℃に保持してネマチック相又は等方性相を維持する時間は、10秒以上であるのが好ましく、20秒以上であるのがより好ましく、30秒以上3分以内であるのがさらに好ましい。
【0061】
前記光学異方性膜の作製に、配向膜を利用してもよい。配向膜は、液晶性分子の配向方向を規制する機能を有する。さらには、配向膜は、配向の均一性の向上、及びポリマーフィルム上に光学異方性膜を形成する場合は、ポリマーフィルムと光学異方性膜との間の密着性を向上させる目的で用いられる。なお、液晶性化合物を配向後にその配向状態を固定してしまえば、配向膜はその役割を果たしているために、除去することも可能である。即ち、配向状態が固定された配向膜上の光学異方性膜のみを、他の支持体上や、偏光子上に転写してもよい。
【0062】
配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、あるいはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例、ω−トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。
【0063】
前記配向膜の形成に用いられるポリマー材料としては、液晶性分子を配向させる機能を発現するポリマーであれば特に制限はないが、好ましくは、架橋性官能基(例、二重結合)を有する前記ポリマーが好ましい。架橋性官能基(例、二重結合)は、ポリマーの側鎖中にあってもよいし、ポリマーの主鎖の末端に結合していてもよい。また、架橋性官能基自体が、液晶性分子を配向させる機能を有していてもよい。前記ポリマー材料として、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができ、これらを組み合わせて使用してもよい。
【0064】
前記ポリマーの例には、例えば特開平8−338913号公報明細書中の段落番号[0022]記載のメタクリレート系重合体、スチレン系重合体、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリカーボネート等が含まれる。シランカップリング剤をポリマーとして用いることができる。これらのうち、ポリイミド、もしくは、水溶性ポリマー(例、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール)が好ましく、ポリイミド、ゼラチン、ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールがさらに好ましく、ポリイミド、ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。重合度が異なるポリビニルアルコール又は変性ポリビニルアルコールを2種類併用することが特に好ましい。
【0065】
ポリビニルアルコールの鹸化度は、70〜100%が好ましく、80〜100%がさらに好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100〜5000であることが好ましい。
【0066】
また、ポリイミドとしては、市販品として、日産化学工業(株)製のSE−150、SE−2170、SE−130、SE−3140等を用いることができる。
【0067】
前記ポリマーは、液晶性分子を配向させる機能を有する側鎖を有していてもよい。かかる機能を有する側鎖の多くは、疎水性基を官能基として有する。具体的な官能基の種類は、液晶性分子の種類及び必要とする配向状態に応じて決定する。例えば、変性ポリビニルアルコールの変性基としては、共重合変性、連鎖移動変性又はブロック重合変性により導入できる。変性基の例には、親水性基(カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、チオール基等)、炭素数10〜100個の炭化水素基、フッ素原子置換の炭化水素基、チオエーテル基、重合性(不飽和重合性基、エポキシ基、アジリニジル基等)、アルコキシシリル基(トリアルコキシ、ジアルコキシ、モノアルコキシ)等が挙げられる。これらの変性ポリビニルアルコール化合物の具体例として、例えば、特開2000−155216号公報明細書中の段落番号[0022]〜[0145]、同2002−62426号公報明細書中の段落番号[0018]〜[0022]に記載のもの等が挙げられる。
【0068】
架橋性官能基を有する側鎖を配向膜ポリマーの主鎖に結合させるか、あるいは、液晶性分子を配向させる機能を有する側鎖に架橋性官能基を導入すると、配向膜のポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを共重合させることができる。その結果、多官能モノマーと多官能モノマーとの間だけではなく、配向膜ポリマーと配向膜ポリマーとの間、そして多官能モノマーと配向膜ポリマーとの間も共有結合で強固に結合される。従って、架橋性官能基を配向膜ポリマーに導入することで、前記光学異方性膜と配向膜との間の結合強度を著しく改善することができる。
配向膜ポリマーの架橋性官能基は、多官能モノマーと同様に、重合性基を含むことが好ましい。具体的には、例えば特開2000−155216号公報明細書中の段落番号[0080]〜[0100]記載のもの等が挙げられる。
【0069】
配向膜ポリマーは、上記の架橋性官能基とは別に、架橋剤を用いて架橋させることもできる。
架橋剤としては、アルデヒド、N−メチロール化合物、ジオキサン誘導体、カルボキシル基を活性化することにより作用する化合物、活性ビニル化合物、活性ハロゲン化合物、イソオキサゾール及びジアルデヒド澱粉が含まれる。2種類以上の架橋剤を併用してもよい。具体的には、例えば特開2002−62426号公報明細書中の段落番号[0023]〜[024]記載の化合物等が挙げられる。反応活性の高いアルデヒド、特にグルタルアルデヒドが好ましい。
【0070】
架橋剤の添加量は、ポリマーに対して0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜15質量%がさらに好ましい。配向膜に残存する未反応の架橋剤の量は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。このように調節することで、配向膜を液晶表示装置に長期使用、或は高温高湿の雰囲気下に長期間放置しても、レチキュレーション発生のない充分な耐久性が得られる。
【0071】
配向膜は、基本的に、配向膜形成材料である上記ポリマー、及び所望により架橋剤を含む塗布液を、ポリマーフィルム等の支持体の表面に塗布した後、加熱乾燥(架橋させ)し、必要であればラビング処理することにより形成することができる。架橋反応は、前記のように、支持体上に塗布した後、任意の時期に行なってよい。ポリビニルアルコールのような水溶性ポリマーを配向膜形成材料として用いる場合には、塗布液は消泡作用のある有機溶媒(例、メタノール)と水の混合溶媒とすることが好ましい。その比率は質量比で、水:メタノールが0より大きく99以下:100未満1以上が好ましく、0より大きく91以下:100未満9以上であることがさらに好ましい。これにより、泡の発生が抑えられ、配向膜、更には光学異方性膜の表面の欠陥が著しく減少する。
【0072】
配向膜を形成する際の塗布方法は、スピンコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、ロッドコーティング法又はロールコーティング法が好ましい。特にロッドコーティング法が好ましい。また、乾燥後の膜厚は0.1〜10μmが好ましい。加熱乾燥は、20度〜110度で行なうことができる。充分な架橋を形成するためには60度〜100度が好ましく、特に80度〜100度が好ましい。乾燥時間は1分〜36時間で行なうことができるが、好ましくは1分〜30分である。pHも、使用する架橋剤に最適な値に設定することが好ましく、グルタルアルデヒドを使用した場合は、pH4.5〜5.5で、特に4.8〜5.2が好ましい。
【0073】
配向膜は、ポリマーフィルム等の支持体上又は支持体上に形成された下塗層上に設けてもよい。配向膜は、上記のようにポリマー層を架橋したのち、必要であれば表面をラビング処理することにより得ることができる。
【0074】
前記ラビング処理は、LCDの液晶配向処理工程として広く採用されている処理方法を適用することができる。即ち、配向膜の表面を、紙やガーゼ、フェルト、ゴムあるいはナイロン、ポリエステル繊維などを用いて一定方向に擦ることにより、配向を得る方法を用いることができる。一般的には、長さ及び太さが均一な繊維を平均的に植毛した布などを用いて数回程度ラビングを行うことにより実施される。
【0075】
[支持体]
前記光学異方性膜は、支持体上に形成してもよい。支持体は透明であるのが好ましく、具体的には、光透過率が80%以上であるのが好ましい。
支持体はポリマーフィルムであってもよい。支持体として使用可能なフィルムポリマーフィルムの例には、セルロースエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリレート及びポリメタクリレートのフィルムが含まれる。セルロースエステルフィルムが好ましく、アセチルセルロースフィルムがさらに好ましく、トリアセチルセルロースフィルムが最も好ましい。フィルムポリマーフィルムは、ソルベントキャスト法により形成することが好ましい。支持体の厚さは、20〜500μmであることが好ましく、40〜200μmであることがさらに好ましい。支持体とその上に設けられる層(接着層、垂直配向膜あるいは位相差層)との接着を改善するため、支持体に表面処理(例、グロー放電処理、コロナ放電処理、紫外線(UV)処理、火炎処理、ケン化処理)を実施してもよい。支持体の上に、接着層(下塗り層)を設けてもよい。また、支持体や長尺の支持体には、搬送工程でのすべり性を付与したり、巻き取った後の裏面と表面の貼り付きを防止するために、平均粒径が10〜100nm程度の無機粒子を固形分重量比で5%〜40%混合したポリマー層を支持体の片側に塗布や支持体との共流延によって形成したものを用いることが好ましい。
【0076】
本発明の異方性材料は、上記した光学異方性膜の態様に限定されず、例えば、異方的な導電材料、異方的な熱伝導性材料等であってもよい。
【0077】
[用途]
本発明の組成物から形成されたフィルムの用途について説明する。
本発明の組成物から形成されたフィルムは、種々の用途に用いることができる。前記フィルムは、複屈折率の波長分散性が小さく、且つ温度に依存したレターデーションの変動も小さいので、かかる性質が要求される用途、例えば、液晶セルを光学補償するための光学補償フィルムや、偏光板保護フィルム等として有用である。
【0078】
[用途(偏光板)]
本発明の組成物から形成されたフィルム、特にセルロースフィルムは、偏光板保護膜用として有用である。偏光板保護膜として用いる場合、偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することができる。得られたフィルム(好ましくはセルロースフィルム)をアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光膜の両面に完全ケン化ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号公報、特開平6−118232号公報に記載されているような易接着加工を施してもよい。
保護膜処理面と偏光膜を貼り合わせるのに使用される接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系接着剤や、ブチルアクリレート等のビニル系ラテックス等が挙げられる。
偏光板は偏光膜及びその両面を保護する保護膜で構成されており、更に該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成してもよい。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。又、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶板へ貼合する面側に用いられる。
液晶表示装置には通常2枚の偏光板の間に液晶を含む基板が配置されているが、前記フィルムを適用した偏光板保護膜はどの部位に配置しても優れた表示性が得られる。特に液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護膜には透明ハードコート層、防眩層、反射防止層等が設けられるため、該偏光板保護膜をこの部分に用いることが特に好ましい。
【0079】
[用途(光学補償フィルム)]
本発明の組成物から形成されたフィルムは、様々な用途で用いることができ、液晶表示装置の光学補償フィルムとして用いると、特に効果がある。なお、光学補償フィルムとは、一般に液晶表示装置に用いられ、位相差を補償する光学材料のことを指し、位相差板、光学補償シートなどと同義である。光学補償フィルムは複屈折性を有し、液晶表示装置の表示画面の着色を取り除いたり、視野角特性を改善したりする目的で用いられる。
【0080】
(一般的な液晶表示装置の構成)
前記フィルム(好ましくはセルロースフィルム)を光学補償フィルムとして用いる場合は、偏光膜の透過軸と、前記フィルムの遅相軸とをどのような角度で配置しても構わない。液晶表示装置は、二枚の電極基板の間に液晶を担持してなる液晶セル、その両側に配置された二枚の偏光膜、及び該液晶セルと該偏光膜との間に少なくとも一枚の光学補償フィルムを配置した構成を有している。
液晶セルの液晶層は、通常は、二枚の基板の間にスペーサーを挟み込んで形成した空間に液晶を封入して形成する。透明電極層は、導電性物質を含む透明な膜として基板上に形成する。液晶セルには、さらにガスバリアー層、ハードコート層あるいは(透明電極層の接着に用いる)アンダーコート層(下塗り層)を設けてもよい。これらの層は、通常、基板上に設けられる。液晶セルの基板は、好ましくは50μm〜2mmの厚さを有する。
【0081】
(液晶表示装置の種類)
本発明の組成物から形成されたフィルムは、様々な表示モードの液晶表示装置の光学部材として用いることができる。具体的には、TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)、ECB(Electrically Controlled Birefringence)、及びHAN(Hybrid Aligned Nematic)等の表示モードが挙げられる。また、上記表示モードを配向分割した表示モードにおいても用いることができる。また、前記フィルムは、透過型、反射型、半透過型のいずれの液晶表示装置においても好ましく用いることができる。
【0082】
(TN型液晶表示装置)
本発明の組成物から形成されたフィルム(好ましくはセルロースアシラートフィルム)を、TNモードの液晶セルを有するTN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として用いてもよい。TNモードの液晶セルとTN型液晶表示装置については、古くからよく知られている。TN型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、特開平3−9325号、特開平6−148429号、特開平8−50206号、特開平9−26572号の各公報の記載に従って作製することができる。また、モリ(Mori)他の論文(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)p.143や、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)p.1068)の記載に従って作製することができる。
【0083】
(STN型液晶表示装置)
本発明の組成物から形成されたフィルム(好ましくはセルロースアシラートフィルム)を、STNモードの液晶セルを有するSTN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として用いてもよい。一般的にSTN型液晶表示装置では、液晶セル中の棒状液晶性分子が90〜360度の範囲にねじられており、棒状液晶性分子の屈折率異方性(Δn)とセルギャップ(d)との積(Δnd)が300〜1500nmの範囲にある。STN型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、特開2000−105316号公報の記載に従って作製することができる。
【0084】
(VA型液晶表示装置)
本発明の組成物から形成されたフィルム(好ましくはセルロースアシラートフィルム)は、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として特に有利に用いられる。VA型液晶表示装置に用いる光学補償シートのRe値を0〜150nmとし、Rth値を70〜400nmとすることが好ましい。VA型液晶表示装置に二枚の光学的異方性ポリマーフィルムを使用する場合、フィルムのRth値は70〜250nmであることが好ましい。VA型液晶表示装置に一枚の光学的異方性ポリマーフィルムを使用する場合、フィルムのRth値は150〜400nmであることが好ましい。VA型液晶表示装置は、例えば特開平10−123576号公報に記載されているような配向分割された方式であってもよい。
【0085】
(IPS型液晶表示装置及びECB型液晶表示装置)
本発明の組成物から形成されたフィルム(好ましくはセルロースアシラートフィルム)は、IPSモード及びECBモードの液晶セルを有するIPS型液晶表示装置及びECB型液晶表示装置の光学補償シートの支持体、又は偏光板の保護膜としても有利に用いられる。これらのモードは黒表示時に液晶材料が略平行に配向する態様であり、電圧無印加状態で液晶分子を基板面に対して平行配向させて、黒表示する。これらの態様において前記フィルムを用いた偏光板は色味の改善、視野角拡大、コントラストの良化に寄与する。この態様においては、液晶セルの上下の前記偏光板の保護膜のうち、液晶セルと偏光板との間に配置された保護膜(セル側の保護膜)に前記フィルムを用いた偏光板を少なくとも片側一方に用いることが好ましい。更に好ましくは、偏光板の保護膜と液晶セルの間に光学異方性層を配置し、配置された光学異方性層のレターデーション値を、液晶層のΔn・dの値の2倍以下に設定するのが好ましい。
【0086】
(OCB型液晶表示装置及びHAN型液晶表示装置)
本発明の組成物から形成されたフィルム(好ましくはセルロースアシラートフィルム)は、OCBモードの液晶セルを有するOCB型液晶表示装置あるいはHANモードの液晶セルを有するHAN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有利に用いられる。OCB型液晶表示装置あるいはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償シートには、レターデーション値の絶対値が最小となる方向が光学補償シートの面内にも法線方向にも存在しないことが好ましい。OCB型液晶表示装置あるいはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償シートの光学的性質も、光学的異方性層の光学的性質、支持体の光学的性質及び光学的異方性層と支持体との配置により決定される。OCB型液晶表示装置あるいはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、特開平9−197397号公報の記載に従って作製することができる。また、モリ(Mori)他の論文(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.38(1999)p.2837)の記載に従って作製することができる。
【0087】
(反射型液晶表示装置)
本発明の組成物から形成されたフィルム(好ましくはセルロースアシラートフィルム)は、TN型、STN型、HAN型、GH(Guest−Host)型の反射型液晶表示装置の光学補償シートとしても有利に用いられる。これらの表示モードは古くからよく知られている。TN型反射型液晶表示装置については、特開平10−123478号公報、国際公開WO98/48320号パンフレット、特許登録第3022477号公報の記載に従って作製することができる。反射型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、国際公開WO00/65384号パンフレットの記載に従って作製することができる。
【0088】
(その他の液晶表示装置)
本発明の組成物から形成されたフィルム(好ましくはセルロースアシラートフィルム)は、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell)モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有利に用いられる。ASMモードの液晶セルは、セルの厚さが位置調整可能な樹脂スペーサーにより維持されているとの特徴がある。その他の性質は、TNモードの液晶セルと同様である。ASMモードの液晶セルとASM型液晶表示装置については、クメ(Kume)他の論文(Kume et al.,SID 98 Digest 1089(1998))の記載に従って作製することができる。
【0089】
(ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム)
本発明の組成物から形成されたフィルム(好ましくはセルロースアシラートフィルム)は、また、ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルムに好ましく用いることができる。LCD、PDP、CRT、EL等のフラットパネルディスプレイの視認性を向上する目的で、前記フィルムの片面又は両面にハードコート層、防眩層、反射防止層の何れかあるいは全てを付与することができる。このような防眩フィルム、反射防止フィルムとしての望ましい実施態様は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、54頁〜57頁、2001年3月15日発行、発明協会)に詳細に記載されており、前記フィルムを好ましく用いることができる。
【0090】
本発明の組成物は、上記用途に限定されず、ディスプレイ材料を始め、オプトエレクトロニクス材料、フォトニクス材料等の作製に用いられる。
【実施例】
【0091】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0092】
[例示化合物(I−1)の合成例]
下記に示す合成経路にしたがって、式(1)の例示化合物(I−1)を合成した。各合成段階は既知の合成方法を用いて行った。各種スペクトルデータを元に生成物の構造を同定した。
【0093】
【化18】

【0094】
上記合成経路に従って合成した化合物I−1−eとI−1−fを用いて化合物(I−1)を合成した。
I−1−e 3.84g(10mmol)をテトラヒドロフラン20mLに溶解し、−5℃以下に冷却しながらメタンスルホニルクロリド 1.14g(10mmol)を滴下した。次いで、ジイソプロピルエチルアミン 1.68g(13mmol)を滴下した後、室温で30分攪拌した。再び−5℃以下に冷却しながら、I−1−fをテトラヒドロフラン20mLに溶解した溶液を滴下した。次いで4−ジメチルアミノピリジン122mg(1mmol)を加え、室温で2時間攪拌した。反応溶液を水200mLに注ぎ、析出した固体をろ過により集めた。得られた固体をアセトニトリル40mLで再結晶して、化合物(I−1)を4.95g得た。
【0095】
合成した化合物(I−1)の融点及び相転移温度を測定したところ、融点は89℃で、相転移温度は以下の通りであった。
Cr → SmC → SmA
89℃ 129℃
SmA→N及びN→Isoの転移温度は、180℃で重合が進行してしまったため測定できなかった。
なお、Crは結晶相、SmCはスメクチックC相、SmAはスメクチックA相、Nはネマチック相、Isoは等方相を示す。
【0096】
上記と同様の方法で表1に示す式(1)の例示化合物を合成し、それぞれの化合物の融点及び相転移温度を測定した。結果を表1に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
なお、上記例では、式(I)中の−SP1−X1−及び−X2−SP2−が、上記式(SP−1a)又は(SP−1b)である化合物の合成例を示したが、例えば、上記合成経路で用いたアクリル酸ヒドロキシブチルを下記アクリレート類A(下記一般式中Xは、ハロゲン原子(好ましくは、塩素原子又は臭素原子)又はOHを表す)に代えることによって、−SP1−X1−及び−X2−SP2−が、上記式(SP−2a)又は(SP−2b)である化合物を合成することができる。下記アクリレート類Aは、アクリル酸またはアクリル酸クロライドと、市販の下記一般式で表されるアルコール類B(下記一般式中Xは、ハロゲン原子(好ましくは、塩素原子又は臭素原子)又はOHを表す)より容易に合成できる。下記式中、mは整数であり、1〜10の整数であることが好ましく、1〜6の整数がより好ましい。
【0099】
【化19】

【0100】
また上記例では、−A−B−C−D−が、下記式
【化20】

である化合物の合成例を示したが、−A−B−C−D−が他の一般式で表される化合物についても類似の反応を繰り返すことで合成できる。
例えば、下記一般式をもつ化合物については、下記例示化合物(I−8)の合成法を用いることができる。
【0101】
例えば、−A−B−C−D−が、下記式である化合物I−8は、以下の合成経路で合成することができる。
【化21】

【0102】
例示化合物(I−8)の合成例
下記に示す合成経路にしたがって、(I−1)の中間体(I−1−e)を用いて、例示化合物(I−8)を合成できる。
【化22】

【0103】
また、−A−B−C−D−が、下記式である化合物I−42は、以下の合成経路で合成することができる。
【化23】

【0104】
例示化合物(I−42)の合成例
下記に示す合成経路にしたがって、(I−1)の中間体(I−1−e)を用いて、例示化合物(I−42)を合成できる。
【化24】

【0105】
なお、前記化合物は、いずれも複数のエステル結合の原子の配列の順序が互いに同一であるので、上記合成例で得られた化合物I−1〜7と同様、スメクチック相への転移が可能と考えられる。
【0106】
例示化合物(I−47)の合成例
下記に示す合成経路にしたがって、式(1)の例示化合物(I−47)を合成した。各合成段階は既知の合成方法を用いて行った。
【化25】

【0107】
まず、上記合成経路に従って化合物I−47−bとI−47−eをそれぞれ合成した。次に、I−47−e 3.40g(10mmol)をテトラヒドロフラン20mLに溶解し、−5℃以下に冷却しながらメタンスルホニルクロリド 1.14g(10mmol)を滴下した。次いで、ジイソプロピルエチルアミン 1.68g(13mmol)を滴下した後、室温で30分攪拌した。再び−5℃以下に冷却しながら、I−47−b 3.56g(10mmol)をテトラヒドロフラン20mLに溶解した溶液を滴下した。次いで4−ジメチルアミノピリジン122mg(1mmol)を加え、室温で2時間攪拌した。反応溶液を水200mLに注ぎ、析出した固体をろ過により集めた。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製したのち、さらに、アセトニトリルで再結晶して、化合物(I−47)を2.0g得た。
【0108】
化合物I−47と同様にして、−A−B−C−D−が化合物である種々の化合物を合成することができる。
【化26】

【0109】
[実施例2]
<配向膜の作製>
洗浄したガラス基板上に、下記の組成の配向膜塗布液をワイヤーバーコーターで20mL/m2塗布した。60℃の温風で60秒、さらに100℃の温風で120秒乾燥し、配向膜を得た。
配向膜塗布液の組成
下記の変性ポリビニルアルコール 10質量部
水 371質量部
メタノール 119質量部
グルタルアルデヒド 0.5質量部
【0110】
【化27】

【0111】
〈光学異方性膜の作製〉
次に、式(1)の例示化合物(I−2)3.8g、光重合開始剤(イルガキュア 819、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)152mg、下記構造の添加剤1 76mg、及び下記構造の添加剤2 15mgを、1,1,2−トリクロロエタン 16.4gに溶解して、塗布液を調製した。この塗布液をスピンコートで上記配向膜に塗布し、加熱しながら偏光顕微鏡で観察した。その結果スメクチックA相−ネマチック相 相転移温度は135℃、ネマチック相−等方相相転移温度は加熱によってI−2が重合してしまって測定できなかった。
この塗布液を、スピンコートで上記配向膜上に塗布した。150℃で1分加熱し、次いで125℃まで5℃/分の速度で冷却して配向させた。125℃のまま高圧水銀灯を用いて、照射エネルギー50mW/cm2で15秒間UV照射して硬化させて、分子を配向状態に固定し、その後室温まで放冷して光学異方性膜を形成した。得られた光学異方性膜の膜厚は1.1μmであった。
【0112】
偏光顕微鏡で観察したところ、回転ステージを回しても全くの暗視野であった。正面はほとんど光学異方性を示さなかった。自動複屈折率計(KOBRA−21ADH、王子計測機器(株)社製)を用いて、製作したフィルムのReの光入射角度依存性を測定したところ、正面はReがほぼゼロであったが、40度から測定したレターデーションは波長589nmにおいて40nm、−40度から測定したレターデーションは波長589nmにおいて41nmであった。垂直方向に遅相軸を有する光学異方性膜であることがわかった。
【0113】
【化28】

【0114】
[実施例3]
実施例2の方法に従ってガラス基板上に配向膜を形成したのち、ラビング処理を行なった。
次に、式(1)の例示化合物(I−2)3.8g、及び光重合開始剤(イルガキュア 819、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)152mg、下記構造の添加剤3 15mgを、1,1,2−トリクロロエタン16.4gに溶解して塗布液を調製した。この塗布液をスライドガラスの表面に塗布し、加熱しながら偏光顕微鏡で観察した。その結果、スメクチックA相−ネマチック相相転移温度は135℃、ネマチック相−等方相 相転移温度は加熱によってI−2が重合してしまって測定できなかった。
この塗布液を、スピンコートで上記配向膜上に塗布した。150℃で1分加熱し、次いで125℃まで5℃/分の速度で冷却して配向させた。125℃のまま高圧水銀灯を用いて、照射エネルギー50mW/cm2で15秒間UV照射して硬化させて、分子を配向状態に固定し、その後室温まで放冷して光学異方性膜を形成した。得られた光学異方性膜の膜厚は1.1μmであった。
【0115】
偏光顕微鏡下で観察したところ、得られた光学異方性膜にはほとんど欠陥がなく、均一な配向をしていた。なお得られた光学異方性膜は、配向膜に実施したラビング処理の方向に沿って遅相軸があり、レターデーションをセナルモン法で測定した結果、波長546nmにおいて200nmのレターデーションを示すことがわかった。この光学異方性膜を50℃に加熱しながら、同様にレターデーションをセナルモン法で測定したが、レターデーションの変化は認められなかった。
また、自動複屈折率計(KOBRA−21ADH、王子計測機器(株)社製)を用いて、製作したフィルムのReの測定波長依存性を測定したところ、波長448.5nmでのReを波長749nmのReで割った値は、Re(448.5)/Re(749.1nm)=1.31であった。
【0116】
添加剤 3
【化29】

【0117】
[比較例1]
実施例3で用いた液晶性化合物の代わりに、下記化合物(e)及び化合物(f)の当重量比の混合物を用いた以外は、実施例3と同様に光学異方性膜を作製した。
【0118】
【化30】

【0119】
得られた光学異方性膜の厚みは1.0μmで、レターデーションをセナルモン法で測定した結果、波長546nmにおいて110nmのレターデーションを示すことがわかった。この光学異方性膜を50℃に加熱しながら、同様にレターデーションをセナルモン法で測定した結果、波長546nmにおいてレターデーションは83nmに変化したことがわかった。
なお、実施例3の光学異方性膜は、上記した通り、50℃の加熱によって、レターデーションは全く変化しなかった。
【0120】
[比較例2]
実施例3で用いた液晶性化合物の代わりに、下記化合物(g)を用いた以外は実施例3と同様に光学異方性膜を作製した。
【0121】
【化31】

【0122】
得られた光学補償膜の厚みは1.0μmで、レターデーションをセナルモン法で測定した結果、波長546nmにおいて240nmのレターデーションを示すことがわかった。
自動複屈折率計(KOBRA−21ADH、王子計測機器(株)社製)を用いて、製作したフィルムのReの測定波長依存性を測定したところ、波長448.5nmでのReを波長749nmのReで割った値(Re(448.5)/Re(749.1nm))=1.72であった。上記した通り、実施例3の光学異方性膜のRe(448.5)/Re(749.1nm)の値は、1.31であり、Reの波長分散性は実施例3の光学異方性膜のほうが小さいことが理解できる。
【0123】
[実施例4]
<配向膜の作製>
洗浄したガラス基板上に、日産化学工業(株)製のSE−150の稀釈液を連続塗布した後、80℃の温風で5分、さらに250℃の温風で60分乾燥、焼成し、配向膜を得たのち、ラビング処理をおこなった。
〈光学異方性膜の作製〉
式(1)の例示化合物(I−32)3g、及び光重合開始剤(イルガキュア 819、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)60mg、上記添加剤3 6mgを、クロロホルム18.8mlに溶解して塗布液を調製した。この塗布液をスライドガラスの表面に塗布し、加熱しながら偏光顕微鏡で観察した。その結果、スメクチックA相−ネマチック相相転移温度は148℃であった。
この塗布液を、スピンコートで上記配向膜上に塗布した。155℃で1分加熱し、次いで120℃まで5℃/分の速度で冷却して配向させた。120℃のまま窒素置換し、酸素濃度0.5%にて高圧水銀灯を用いて、照射エネルギー100mW/cm2で10秒間UV照射して硬化させて、分子を配向状態に固定し、その後室温まで放冷して光学異方性膜を形成した。得られた光学異方性膜の膜厚は1.31μmであった。
【0124】
偏光顕微鏡下で観察したところ、得られた光学異方性膜にはほとんど欠陥がなく、均一な配向をしていた。なお得られた光学異方性膜は、配向膜に実施したラビング処理の方向に沿って遅相軸があった。自動複屈折率計(KOBRA−21ADH、王子計測機器(株)社製)を用いて、製作したフィルムのReを測定したところ、波長546nmにおいて148nmのレターデーションを示し、傾斜角は1度であった。
【0125】
[実施例5:IPSモード液晶表示装置]
特開2006−106662号公報、段落番号[0284]〜[0308]に記載の実施例9を参考にして、IPSモードの液晶表示装置を作製した。但し、該公報段落番号[0292]〜[0297]に記載の第2位相差膜1−2の作製方法に代えて、下記方法によって第2位相差膜を形成し、位相差フィルム1−2Aを作製した。
具体的には、特開2006−106662号公報に記載のとおりに作製した第1位相差膜1−2の表面のケン化処理を行い、このフィルム上に、上記実施例2で用いた配向膜用塗布液を塗布、乾燥し、膜を形成した。形成した膜に、フィルムの遅相軸方向と平行の方向にラビング処理を施して配向膜を得た。
【0126】
次に、本発明の化合物(I−4)3.8g、及び光重合開始剤(イルガキュア 819、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)152mg、添加剤1を76mg、及び下記構造の添加剤2 15mgを、1,1,2−トリクロロエタン16.4gに溶解して、塗布液を調製した。この塗布液を上記配向膜を形成したフィルムの配向膜側に塗布し、135℃で1分加熱し、次いで110℃まで5℃/分の速度で冷却して配向させた。酸素濃度1%以下としたのちに、110℃のまま高圧水銀灯を用いて、照射エネルギー50mW/cm2で15秒間UV照射して硬化させて、分子を配向状態に固定し、その後室温まで放冷して光学異方性層を形成し、第1位相差膜上に第2位相差膜が形成された位相差フィルム1−2Aを得た。
この位相差フィルム1−2Aを、位相差フィルム1−2に代えて用いた以外は、該公報に記載の方法とまったく同様にして液晶表示装置を作製した。
【0127】
作製した液晶表示装置を、左斜め方向60°から観察し、漏れ光を測定した。
漏れ光の測定方法は、特開2006−106662号公報の[0308]に記載のとおりである。
【0128】
[比較例3]
特開2006−106662号公報の段落番号[0284]〜[0308]に記載の実施例9のとおり、液晶表示装置を作製し、同様にして左斜め方向60°から観察した漏れ光を測定した。
【0129】
下記表1に、実施例5と比較例3の漏れ光測定の結果を示す。表1に記載の結果からわかるとおり、本発明の化合物を用いることでIPSモードの液晶セルの光学補償を正確に行うことができ、斜め方向からのモレ光の小さい液晶表示装置を作製することができた。
【0130】
【表2】

【0131】
[実施例6:VAモード液晶表示装置]
特開2006−126768号公報、段落番号[0199]〜[0222]記載の実施例2を参考にして、VAモードの液晶表示装置を作製した。但し、該公報段落番号[0201]〜[0214]に記載の方法に代えて、下記方法によって一体型上側偏光板を作製した。
具体的には、特開2006−126768号公報に記載の方法により、透明支持体Aを作製し、この作製した透明支持体Aの一方の表面に、上記実施例2で用いた配向膜用塗布液を、同様にして塗布、乾燥し、膜を形成した。形成した膜に透明支持体Aの遅相軸方向と平行の方向にラビング処理を施して配向膜を得た。
透明支持体Aは特開2006−126768号公報に記載のとおりに作製した。作製した透明支持体Aの反対側の表面に本発明の実施例2に記載の配向膜塗布液を実施例2に記載したとおりの方法で塗布、乾燥し、膜を形成した。形成した膜に透明支持体Aの遅相軸106方向と平行の方向にラビング処理を施して配向膜を得た。
【0132】
(第1の光学異方性層の形成)
上記の通り作製した配向膜上に第1の光学異方性層を形成した。具体的には、本発明の例示化合物(I−4)3.8g、及び光重合開始剤(イルガキュア 819、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)152mg、添加剤3 15mgを、1,1,2−トリクロロエタンに溶解して塗布液を調製した。この塗布液を上記配向膜を形成したフィルムの配向膜側に塗布し、135℃で1分加熱し、次いで110℃まで5℃/分の速度で冷却して配向させた。酸素濃度1%以下としたのちに、110℃のまま高圧水銀灯を用いて、照射エネルギー100mW/cm2で10秒間UV照射して硬化させて、分子を配向状態に固定し、その後室温まで放冷して光学異方性層を形成した。形成した第1の光学異方性層は透明支持体Aの長手方向(ラビング方向)と平行に遅相軸を有し、550nmにおけるRe(0)は87nmであった。
【0133】
作製した透明支持体Aと第1の光学異方性層との積層体、およびセルローストリアセテートフィルム 富士タックTD80UFを、前記公報に記載の方法で作製した偏光膜の両面に、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて貼り付け、一体型上側偏光板を作製した。各々の積層角度は表示装置を上から見たときの左右の方向を基準(0°)にすると、上側偏光板保護膜遅相軸の角度は0°、透明支持体Aの遅相軸の角度は90°、偏光膜吸収軸の角度は0°とした。このように作製した上側偏光板と第1の光学異方性層との一体型上側偏光板を、第1の光学異方性層が上側液晶セル基板により近くなるように液晶表示装置に組み込んだ。
【0134】
上記の通り作製した一体型上側偏光板を用いた以外は、特開2006−126768号公報の実施例2と全く同様にして、VAモードの液晶表示装置を作製し、該公報の[0221]〜[0222]の方法と同一の方法で、漏れ光を測定した。
【0135】
[比較例4]
特開2006−126768号公報、段落番号[0199]〜[0222]記載の実施例2のとおり、VAモードの液晶表示装置を作製し、該公報の[0221]〜[0222]の方法と同一の方法で、漏れ光を測定した。
【0136】
実施例6と比較例4の漏れ光測定の結果を以下の表2に示す。表2に記載の結果からわかるとおり、本発明の化合物を用いることでVAモードの液晶セルの光学補償を正確に行うことができ、漏れ光が小さく、コントラスト比の高い液晶表示装置となった。
【0137】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
1−SP1−X1−A−B−C−D−X2−SP2−Q2
式中、Q1及びQ2はそれぞれ重合性基を表し;SP1及びSP2はそれぞれスペーサー基を表し;X1及びX2はそれぞれ連結基を表し;A、B、C及びDはそれぞれ、下記式IIa、IIb又はIIc:
【化1】

式中、Ra、Rb及びRcはそれぞれ置換基を表し、na、nb及びncはそれぞれ0〜4の整数を表し、na、nb及びncがそれぞれ2以上の整数である場合、複数存在するRa、Rb及びRcはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい;から選ばれる二価基を表すが、但し、A、B、C及びDのうち少なくとも2つは、式IIaで表される二価基であるか、又は、少なくとも2つは式IIbで表される二価基である;で表される化合物。
【請求項2】
前記式中、Q1及びQ2がそれぞれ、下記式(Q−101)〜(Q−106)のいずれかで表される請求項1に記載の化合物:
【化2】

式中、Rq1は水素原子、アルキル基、又はアリール基であり、Rq2は置換基であり、nは0〜4の整数である。
【請求項3】
前記式中、−A−B−C−D−が下記の群Iから選ばれる基である請求項1又は2に記載の化合物:
【化3】

【請求項4】
請求項1に記載の化合物を少なくとも1種含有する液晶組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の液晶組成物を硬化して形成された異方性材料。
【請求項6】
請求項5に記載の異方性材料からなる偏光板保護フィルム。
【請求項7】
請求項5に記載の異方性材料からなる光学補償フィルム。
【請求項8】
請求項6に記載の偏光板保護フィルム及び/又は請求項7記載の光学補償フィルムを有する液晶表示装置。


【公開番号】特開2008−19240(P2008−19240A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46759(P2007−46759)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】