説明

化合物、膜形成用組成物および積層体の製造方法

【課題】自己組織化単分子膜を形成でき、かつ長波長の光で感光する新規な化合物、該化合物を含有する膜形成用組成物および当該膜形成用組成物を用いた積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)[式中、R〜Rはそれぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基であり、aは2〜11の整数であり、Xは、隣接する酸素原子と当該酸素原子に結合した窒素原子との間の結合が開裂した際に親水性基を形成する基であり、Rは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数1〜20のアルコキシ基であり、2つのRはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。]で表される化合物。
[化1]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な化合物、該化合物を含有する膜形成用組成物、および該膜形成用組成物を用いた積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機デバイスの製造において、配線の形成等に用いられる方法の1つとして、感光性の自己組織化単分子膜(SAM:Self−Assembled Monolayers)を用いる方法がある。この方法では、たとえばSAMに放射線を選択的に照射(露光)して露光部の親水性を変化させることにより、当該SAMに親水性が高い領域(疎水性領域)と、親水性が低い領域(疎水性領域)とが形成され、親水性領域と疎水性領域とでパターン(特性のパターン)が形成される。
このようなSAMを用いる方法は、従来のフォトレジストを用いたリソグラフィー法よりも大幅にコストを低減できるといった利点がある。
従来、上述のような方法に用いられるSAMの材料としては、オクタデシルトリエトキシシラン等の長鎖アルキルシラン化合物、またはそのアルキル基がフッ素化されたフルオロアルキルシラン化合物が主流であり、かかる化合物を用いて形成されたSAMを感光させるためには、真空紫外線等の短波長の光や電子線といった放射線が用いられている(たとえば非特許文献1〜3参照)
【0003】
SAMについては、近年開発が進んでいるフレキシブルTFT(薄膜トランジスタ)等のフレキシブルディスプレイや電子ペーパー等への適用が検討されている。これらの分野では、そのほとんどの場合において、基板に有機物(プラスチック等)が用いられている。
しかし、このような有機物で構成される基板上にSAMを形成した場合、当該SAMにパターンを形成する際に基板の劣化や分解が生じるという問題がある。
上述したように、従来、SAMを感光させるためには真空紫外線等の短波長の光や電子線といった放射線が用いられているが、これらの放射線は、照射対象に与えるエネルギーが大きく、かかる高エネルギーの放射線を照射することが上記問題を生じさせていたと考えられる。
したがって、従来用いられている放射線よりも低エネルギーである長波長の光、たとえばi線(365nm)等の300nm以上の波長の光、で感光するSAMに対する要求がある。
【0004】
たとえば特許文献1〜2等には、比較的低エネルギーの光(長波長の光)で感光させることができるSAMを形成できる材料として、特定の一般式で表される化合物が記載されている。
【非特許文献1】H.Sugimura,N.Nakagiri;Appl.Phys.A66(1998)S427.
【非特許文献2】H.Sugimura,K.Ushiyama,A.Hozumi,O.Takai;Langumuir,16(2000)885.
【非特許文献3】H.Sugimura,L.Hong,K.H.Lee;Jpn.Appl.Phys.44(2005)5185.
【特許文献1】特開2003−321479号公報
【特許文献2】特開2004−231590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、フレキシブルディスプレイや電子ペーパー等の開発はますます盛んになっており、それに伴って、長波長の光で感光させることができるSAMを形成できる新規な材料に対する要求が高まっている。
しかし、長波長の光で感光させることができるSAMを形成できる材料の種類は少ないのが現状である。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、自己組織化単分子膜(SAM)を形成でき、かつ長波長の光で感光する新規な化合物、該化合物を含有する膜形成用組成物および当該膜形成用組成物を用いた積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、フルオレン骨格を有する特定のシラン化合物により上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の第一の態様は、下記一般式(I)で表される化合物である。
【0007】
【化1】

[式中、R〜Rはそれぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基であり、aは2〜11の整数であり、Xは、隣接する酸素原子と当該酸素原子に結合した窒素原子との間の結合が開裂した際に親水性基を形成する基であり、Rは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数1〜20のアルコキシ基であり、2つのRはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。]
【0008】
本発明の第二の態様は、前記第一の態様の化合物を有機溶剤に溶解してなる膜形成用組成物である。
本発明の第三の態様は、前記第二の態様の膜形成用組成物を用いて支持体上に膜を形成する工程と、前記膜を選択的に露光する工程と、前記露光後の膜を有機溶剤で洗浄する工程とを有することを特徴とする積層体の製造方法である。
【0009】
本明細書および特許請求の範囲において、「アルキル基」は、特に断りがない限り、直鎖状、分岐鎖状および環状の1価の飽和炭化水素基を包含するものとする。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、SAMを形成でき、かつ長波長の光で感光する新規な化合物、該化合物を含有する膜形成用組成物および当該膜形成用組成物を用いた積層体の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
<化合物>
上記一般式(I)で表される化合物(以下、化合物(I)という。)は、フルオレン骨格(置換基として炭素数1〜20のアルキル基および/または炭素数1〜20のアルコキシ基を有していてもよく有していなくてもよいフルオレン)の9位に、=N−O−X−(CH−Si(OR)(OR)(OR)が結合した構造を有する化合物である。
【0012】
式(I)中、R〜Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキル基であり、直鎖状または分岐状のアルキル基であることが好ましく、たとえばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等が挙げられる。
〜Rは、炭素数1〜5であることがより好ましく、メチル基またはエチル基であることがさらに好ましく、エチル基が特に好ましい。
【0013】
aは、2〜11の整数であり、2〜8であることがより好ましく、2〜6であることがより好ましく、2〜4であることがさらに好ましく、3であることが最も好ましい。
【0014】
Xは、隣接する酸素原子と当該酸素原子に結合した窒素原子との間の結合が開裂した際に親水性基を形成する基である。
かかる基Xを含有する化合物(I)を有機溶剤に溶解した膜形成用材料を、たとえば後述するように浸漬、塗布等により支持体表面に接触させたり、支持体を膜形成用材料に浸漬した状態で加熱する(たとえば有機溶剤を還流させる)と、化合物(I)末端のアルコキシアルキル基(−OR、−OR、−OR)の一部または全部が分解し、水酸基が生成する。そして、支持体表面において、化合物(I)から生成した水酸基と、支持体表面に存在する反応基(たとえば酸素原子(−O−)、水酸基(−OH)等)とが反応し、支持体表面に複数の化合物(I)の分子が結合してSAMが形成される。
このようにして形成されるSAMは、複数の化合物(I)の分子が、当該分子のSi側末端を内側(支持体側)に、化合物(I)の分子のフルオレン骨格側末端を外側(SAM表面側)に向けて配置された単分子膜であると考えられる。そして、SAM表面側にフルオレン骨格が配置されることにより、SAM表面の疎水性が向上すると考えられる。
そして、かかるSAMに長波長の光、たとえばi線(365nm)等の300nm以上の光を照射すると、フルオレン骨格が当該光のエネルギーを吸収し、それによってフルオレン骨格に結合した窒素原子と、その窒素原子に結合した酸素原子との間の結合が切断される。その結果、化合物(I)の分子鎖中、支持体に結合しているSi末端側からフルオレン骨格側末端部分が脱離するとともに、Xから親水性基が形成される。そして、この親水性基がSAM表面側に向いているため、SAM表面が親水性に変化すると考えられる。
したがって、後述する本発明の積層体の製造方法に示すように、SAMに対して選択的に露光を行うと、未露光部のSAM表面は疎水性が高い(親水性が低い)まま変化せず、一方、露光部においては、フルオレン骨格に結合した窒素原子と、その窒素原子に結合した酸素原子との間の結合が切断され、SAM表面の親水性が向上する。その結果、SAMには、親水性が高い領域と、親水性が低い領域とが形成される。つまり、外観上は変化しなくても、SAM表面には、特性(親水性)の違いによってパターンが形成される。
【0015】
Xから形成される親水性基としては、フルオレン骨格よりも親水性の高い基であれば特に制限はなく、たとえばアミノ基(−NH)、カルボキシ基(−COOH)、スルホ基(−SO(OH))、水酸基(−OH)、メルカプト基(−SH)等が挙げられ、これらの中でも、−NH、−COOHまたは−SO(OH)が好ましい。
Xとしては、−NH、−COOHまたは−SO(OH)を形成する基が好ましく、これらの親水性基を形成するXは、それぞれ、下記式(b)、(c)または(d)で表される。
【0016】
【化2】

【0017】
すなわち、Xが式(b)で表される基である場合、Xに隣接する酸素原子と当該酸素原子に結合した窒素原子との間の結合が開裂すると、Xと、当該Xに結合した酸素原子とから−NH−CO−OHが生成する。この基は、大気中に存在する水分と反応して分解し、COが脱離するとともに、−NHが生成する。
また、Xが式(c)で表される基である場合、Xに隣接する酸素原子と当該酸素原子に結合した窒素原子との間の結合が開裂すると、Xと、当該Xに結合した酸素原子とから−CO−OHが生成する。
また、Xが式(d)で表される基である場合、Xに隣接する酸素原子と当該酸素原子に結合した窒素原子との間の結合が開裂すると、Xと、当該Xに結合した酸素原子とから−SO(OH)が生成する。
Xとしては、特に、式(b)で表される基が、本発明の効果に優れること、合成が容易である等の点から好ましい。
【0018】
Rは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数1〜20のアルコキシ基であり、2つのRはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。
本発明においては、本発明の効果に優れること、化合物(I)を合成しやすいこと等の点で、2つのRがともに水素原子であることが好ましい。
【0019】
本発明の化合物(I)は、特に、下記一般式(II)で表されるものであることが好ましい。
【0020】
【化3】

【0021】
式中、R〜Rはそれぞれ独立にメチル基またはエチル基であり、特にエチル基であることが好ましい。
aは上記と同様である。
【0022】
化合物(I)の製造方法は、特に限定されず、Xの構造等に応じて好適な製造方法を選択すればよい。
本発明においては、特に、下記に示す製造方法(1)または(2)が好ましく用いられる。
【0023】
[製造方法(1)]
製造方法(1)は、下記一般式(Ia)で表される化合物(置換基として炭素数1〜20のアルキル基および/または炭素数1〜20のアルコキシ基を有していてもよく有していなくてもよいフルオレノンオキシム。以下、化合物(Ia)という。)と、下記一般式(Ib)で表される化合物(以下、化合物(Ia)という。)とを反応させる方法である。製造方法(1)は、Xが上記式(b)で表される基である場合に好適に用いられる。
【0024】
【化4】

【0025】
式中、R〜R、a、Rは上記と同様であり、X’は、化合物(Ia)の−OHと反応して一般式(I)におけるXを形成する基である。より具体的には、たとえばXが上記式(b)で表される基である場合、X’としてはイソシアネート基(−NCO)が好ましい。すなわち、化合物(Ib)としては、下記一般式(Ib−1)で表される化合物が好ましい。
【0026】
【化5】

[式中、R〜R、a、Rは上記と同様である。]
【0027】
化合物(Ia)と化合物(Ib)とは、たとえば、化合物(Ia)および化合物(Ib)をテトラヒドロフラン(THF)等の有機溶剤に溶解し、加熱する(たとえば有機溶剤を還流させる)ことにより反応させることができる。
【0028】
一般式(Ia)で表される化合物は、市販品を用いてもよく、9−フルオレノン、フルオレン等の原料から合成してもよい。たとえば、9−フルオレノンと、ヒドロキシアミンまたはその塩(塩酸塩等)とを反応させることによりフルオレノンオキシムが得られる。
【0029】
[製造方法(2)]
製造方法(2)は、上記化合物(Ia)と、下記一般式(Ic)で表される化合物(以下、化合物(Ic)という。)とを反応させ、その反応性生物と、下記一般式(Id)で表される化合物(以下、化合物(Id)という。)とを反応させる方法である。製造方法(2)は、Xが上記式(c)または(d)で表される基である場合に好適に用いられる。
【0030】
【化6】

【0031】
式中、R〜R、aは上記と同様であり、X”は、化合物(Ia)の−OHと反応して一般式(I)におけるXを形成する基である。より具体的には、たとえばXが上記式(c)で表される基である場合、X”としては−COOHが好ましい。Xが上記式(d)で表される基である場合、X”としては−SOHが好ましい。
化合物(Ia)と化合物(Ic)とは、たとえば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC−HCl)等の縮合剤を用いる等により反応(脱水縮合)させることができる。
また、化合物(Ia)および化合物(Ic)の反応生成物と化合物(Id)とは、たとえば、白金(Pt)系の触媒(karstedt’s catalyst等)を用いて反応させることができる。
【0032】
Xが上記式(c)で表される基である場合の製造方法(2)の具体例を以下に示す。
【0033】
【化7】

【0034】
Xが上記式(d)で表される基である場合の製造方法(2)の具体例を以下に示す。
【0035】
【化8】

【0036】
上記本発明の化合物(I)は、300nm以上の波長の光に対する感光性に優れており、300nm以上の波長の光源用として好適なものである。これは、化合物(I)におけるフルオレン骨格が、300nm以上の波長の光を吸収しやすいためである。
たとえば化合物(I)を用いて得られる膜(SAM)に対し、300nm以上の波長の光を用いて選択的露光を行うと、上述したように、未露光部のSAM表面は疎水性が高い(親水性が低い)まま変化せず、一方、露光部においてはSAM表面の親水性が向上し、結果、SAMに、親水性が高い領域と、親水性が低い領域とによりパターンが形成される。
300nm以上の波長の光としては、たとえば、i線(365nm)、h線(405nm)、g線(436nm)等が挙げられる。
【0037】
<膜形成用材料>
本発明の膜形成用材料は、上記本発明の化合物(I)を有機溶剤に溶解してなるものである。
化合物(I)としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
有機溶剤としては、化合物(I)を溶解し、均一な溶液とすることができるものであればよい。
膜形成用材料に用いられる有機溶剤としては、たとえば、
γ−ブチロラクトン等のラクトン類;
アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチル−n−アミルケトン、メチルイソアミルケトン、2−ヘプタノンなどのケトン類;
メタノール、エタノール、イソプロパノール等の1価アルコール類;
エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどの多価アルコール類及びその誘導体;
エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、またはジプロピレングリコールモノアセテート等のエステル結合を有する化合物、前記多価アルコール類または前記エステル結合を有する化合物のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル等のモノアルキルエーテルまたはモノフェニルエーテル等のエーテル結合を有する化合物等の多価アルコール類の誘導体;
ジオキサンのような環式エーテル類や、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチルなどのエステル類;
アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、エチルベンゼン、ジエチルベンゼンン、アミルベンゼン、イソプロピルベンゼン、トルエン、キシレン、シメン、メシチレン等の芳香族系有機溶剤などを挙げることができる。
これらの有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上の混合溶剤として用いてもよい。
【0039】
有機溶剤の使用量は、特に制限はなく、膜形成用材料中の固形分濃度等を考慮して適宜設定すればよい。
膜形成用材料中の固形分濃度は、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上がさらに好ましい。固形分濃度が0.1質量%以上であると、化合物(I)の分子密度が高いSAMが形成できる。
固形分濃度の上限は、溶解性等を考慮すると、40質量%以下がより好ましく、35質量%以下がさらに好ましい。
【0040】
膜形成用材料には、さらに所望により、任意の成分、例えば、トリフルオロ酢酸などの酸触媒、Ti(O−Pr)等のルイス酸などを適宜、添加含有させることができる。なお、「Pr」はイソプロピル基を意味する。
【0041】
<積層体の製造方法>
本発明の積層体の製造方法は、上記本発明の膜形成用組成物を用いて支持体上に膜を形成する工程と、前記膜を選択的に露光する工程と、前記露光後の膜を有機溶剤で洗浄する工程とを有する。
【0042】
支持体としては、ガラス基板、シリコン基板、銅基板、クロム基板、鉄基板、アルミニウム基板等の無機基板;ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の有機基板;これらの基板に対して紫外線(UV)、オゾン等による洗浄処理が施された基板;これらの基板上に、配線、電極等の接続端子や、絶縁層、導電層等の他の層が積層された積層体などが挙げられる。
上記洗浄処理は、基板表面に付着している有機物を除去するために行うものである。これにより、支持体上に密着性に優れたSAMを形成することができる。
本発明において用いられる支持体としては、これらの中でも、ガラス基板または有機基板が好ましく、特に洗浄処理が施されたものが好ましい。
【0043】
膜形成用組成物を用いて支持体上に膜(SAM)を形成する工程は、たとえば、上記膜形成用材料中に支持体を浸漬する方法、支持体上に、上記膜形成用材料をスピンナーなどで塗布する方法等により支持体表面に塗膜を形成する等により実施できる。
本発明においては、特に、膜形成用材料中に支持体を浸漬する方法が好ましい。
このとき、浸漬は、室温(約25℃)で行ってもよく、加熱条件下で(たとえば有機溶剤を還流させながら)行ってもよい。本発明においては、加熱条件下で、特に、膜形成用材料中に支持体を浸漬した状態で、有機溶剤を還流させながら行うことが好ましい。これにより、SAMがより形成されやすくなる。これは、化合物(I)末端のアルコキシアルキル基(−OR、−OR、−OR)の分解と、それによって生成した水酸基と支持体との反応が促進され、より効率よく支持体表面に化合物(I)の分子が結合するためと推測される。
【0044】
本工程においては、支持体表面に塗膜を形成した後、任意に、該塗膜に対してベーク処理を施し、塗膜中の有機溶剤を除去してもよい。
また、膜の形成後、メタノール、アセトン、メチルエチルケトン、クロロホルム等の有機溶剤を用いて当該膜の洗浄を行ってもよい。これにより、膜中の不要な成分(たとえば支持体に結合していない化合物(I)等)を除去できる。
洗浄後、必要により、膜表面を乾燥させてもよい。
【0045】
次に、膜を選択的に露光する工程を行う。これにより、上述したように、露光部においては、フルオレン骨格に結合した窒素原子と、その窒素原子に結合した酸素原子との間の結合が切断され、親水性基が形成されてSAM表面の親水性が向上し、一方、未露光部のSAM表面は疎水性が高い(親水性が低い)まま変化せず、結果、SAMに、親水性が高い領域と、親水性が低い領域とによりパターンが形成される。
膜を選択的に露光する工程に用いられる光源は、化合物(I)が感光する波長の光であれば特に限定されず、特に、上述したように、化合物(I)が、300nm以上の波長の光に対する感光性に優れていることから、300nm以上の波長の光源が好ましい。
300nm以上の波長の光としては、たとえば、i線(365nm)、h線(405nm)、g線(436nm)等が挙げられる。
光源としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。たとえば超高圧水銀灯は、g線(436nm)、h線(405nm)、i線(365nm)等の300nm以上の長波長の光を複数含む光源であり、本発明においては、このような光源も好適に使用できる。
【0046】
膜を選択的に露光する工程の後、露光後の膜を有機溶剤で洗浄する工程を行う。これにより、露光部の膜中に存在する、露光により脱離したフルオレン骨格を除去できる。フルオレン骨格を除去することにより、露光部の親水性がさらに向上する。
洗浄に用いる有機溶剤としては、膜形成用材料に用いる有機溶剤として挙げたものと同様のものが挙げられる。
洗浄は、周知の手法を用いて行うことができ、たとえば超音波洗浄等により行うことができる。
洗浄後、必要により、膜表面を乾燥させてもよい。
【0047】
本発明の積層体の製造方法においては、前記膜を選択的に露光する工程の後、さらに、当該膜と、酸性水溶液または塩基性水溶液とを接触させる工程を有することが好ましい。これにより、Xから形成された親水性基(−NH、−COOH、−SO(OH)等)が塩を形成し、膜表面の親水性がさらに向上する。たとえばXから形成される親水性基が−NHである場合は酸性水溶液が好ましく用いられる。また、Xから形成される親水性基が−COOHまたは−SOHである場合は塩基性水溶液が好ましく用いられる。
【0048】
このとき用いる酸性水溶液または塩基性水溶液としては、塩の形成しやすさ等の点で、塩酸等の強酸の水溶液、または水酸化ナトリウム等の強塩基の水溶液が好ましい。
酸性水溶液または塩基性水溶液と膜との接触は、たとえば、膜が形成された支持体を酸性水溶液または塩基性水溶液中に浸漬する方法、膜上に酸性水溶液または塩基性水溶液を塗布する方法等により実施できる。
膜と酸性水溶液または塩基性水溶液とを接触させる工程を行うタイミングは、膜を選択的に露光する工程の後であれば特に制限はなく、たとえば上述した膜を有機溶剤で洗浄する工程の前であってもよく、その後であってもよい。
【0049】
これらの工程は、周知の手法を用いて行うことができる。操作条件等は、使用する膜形成用材料の組成や特性(化合物(I)の種類、任意成分、固形分濃度等)に応じて適宜設定すればよい。
【0050】
このようにして製造された積層体は、支持体表面に、親水性が高い領域(親水性領域)と、親水性が低い領域(疎水性領域)とによりパターンが形成された膜を有するものである。
かかる積層体は、たとえば上述した非特許文献1に記載されるような、配線、電極等の接続端子の形成等に利用できる。
具体例を挙げると、たとえば上記積層体の膜上に、金属粒子を水等の水性媒体に分散させた水性分散液を塗布すると、当該水性分散液は、疎水性領域には付着しにくく、親水性領域に付着しやすいため、親水性領域表面に水性分散液の塗膜が形成される。そのため、塗膜中の水性媒体を除去すると、親水性領域表面に金属粒子が残り、電極等の接続端子が形成される。
【0051】
フレキシブルディスプレイや電子ペーパー等においては、基板にも柔軟性が求められるため、これらの分野で用いられる基板としては有機基板が主流である。本発明の化合物(I)は、上述したように、従来SAMを感光させるために用いられていた真空紫外線等の短波長の光や電子線に比べて比較的低エネルギーの光で感光するため、このような有機基板を支持体に用いた場合であっても、露光による基板の劣化、分解等の不具合を生じにくい。そのため、本発明は、フレキシブルディスプレイや電子ペーパー等の製造に有用である。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
合成例1(化合物(1)の合成)
ナスフラスコに9−フルオレノン18g(0.1mol)と、エタノール100mLとを加えて30分間撹拌してエタノール溶液Aを調製した。
別のナスフラスコで、塩酸ヒドロキシルアミン9g(0.13mol)と炭酸ナトリウム16g(0.15mol)とを水50mLに溶解して水溶液Bを調製した。
次に、エタノール溶液Aに水溶液Bを添加し、約6時間還流した。
還流終了後、反応液を分液漏斗に移し、水と酢酸エチルとを加え、有機層のみを取り出した。これを硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧濃縮を行い、粗結晶を得た。
得られた粗結晶をエタノールで再結晶させて化合物(1)(フルオレノンオキシム)を得た。
化合物(1)について、H−NMRによる分析を行った。その結果を以下に示した。
H−NMRデータ(重ジメチルスルホキシド(DMSO−d6)、400MHz、内部標準:テトラメチルシラン):δ(ppm)=7.3−8.5(m,8H)、12.5(s,1H)。
上記の結果から、化合物(1)が下記に示す構造を有することが確認できた。
【0053】
【化9】

【0054】
実施例1
ナスフラスコに、合成例1で得た化合物(1)1.95g(10mmol)と、イソシアネートプロピルトリエトキシシラン2.97g(13mmol)と、無水テトラヒドロフラン(THF)50mLとを加えて8時間還流した。
還流終了後、反応液を減圧濃縮することにより白色固体を得た。
得られた白色固体にヘプタンを加え、室温(25℃)で10分間撹拌した後、ろ過を行い、ろ取した固体を乾燥することにより化合物(2)を得た。
【0055】
【化10】

【0056】
化合物(2)について、H−NMRによる分析を行った。
H−NMR(重アセトン(DMSO−d6)、400MHz、内部標準:テトラメチルシラン):δ(ppm)=0.7(t,2H)、1.2(t,9H)、1.7(m,2H)、3.3(t,2H)、3.8(q,6H)、7.3−7.7(m,5H)、7.8−7.9(m,3H)、8.5(s,1H)。
上記の結果から、化合物(2)が下記に示す構造を有することが確認できた。
【0057】
【化11】

【0058】
上記のようにして得た化合物(2)0.5質量部とトルエン100質量部とを混合、溶解して膜形成用材料を調製した。
上記で調製した膜形成用材料に、あらかじめ紫外線/オゾン洗浄を行ったガラス基板を浸漬し、1時間還流を行った。その後、120℃で5分間のベークを行った後、メタノール−アセトンの順で洗浄を行い、窒素ガスで乾燥させることにより、基板表面に膜が形成された積層体を得た。
【0059】
得られた積層体について、露光光源として、超高圧水銀灯(14mW;365nm以上の波長の光の混合光を放射)を用い、それぞれ、所定の露光量(0、1、3、10および20J/cm)をその全面に照射した。その後、当該積層体をアセトン中に浸漬して超音波洗浄し、さらに窒素ガスで乾燥を行った。
得られた積層体について、FACE接触角計CA−X150型(製品名、協和界面科学株式会社製)を用い、下記の手順で接触角の測定を行った。
まず、装置に備え付けられている注射器に、水平に配置した上記積層体の表面(膜表面)を接触させ(注射器と膜とが接触した際に、2μLの純水が滴下される)、膜上の液滴について接触角(対水)を測定した。
その結果を、図1のグラフに示す。このグラフは、横軸に露光量(J/cm)をとり、縦軸に測定された接触角(°)をとったものである。
図1に示すように、化合物(2)を用いて形成された膜は、露光により、たとえば1J/cmというわずかな露光量であっても、露光量がゼロの場合(露光しない場合)に比べて、その表面の接触角が小さくなっていた。この結果から、超高圧水銀灯による露光により、露光部の親水性が、未露光部に比べて向上したこと、すなわち当該膜が、超高圧水銀灯に対して感光性を有することが確認できた。
【0060】
比較例1
化合物(2)に代えてオクタデシルトリエトキシシラン(ODS)を用いた以外は実施例1と同様にして膜形成用材料を調製し、積層体を得た。
当該積層体について、露光量を0または20J/cmとした以外は実施例1と同様にして接触角の測定を行った。
その結果、積層体は形成されたものの、露光量がゼロの場合(露光しない場合)の接触角と、露光量が20J/cmの場合の接触角とは同じであった。この結果から、超高圧水銀灯による露光では、ODSを用いて形成された膜の親水性が変化しなかったこと、すなわち当該膜が、超高圧水銀灯に対して感光性を有さないことが確認できた。
【0061】
実施例2
実施例1の接触角の測定の際、20J/cmでの露光後に、膜が形成された積層体を1Nの塩化水素水溶液(塩酸)中に5分間浸漬した以外は実施例1と同様の評価を行った。
その結果、接触角は23°であり、実施例1において20J/cmで露光した場合(35°)よりもさらに親水性が向上していた。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施例1における接触角の測定結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物。
【化1】

[式中、R〜Rはそれぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基であり、aは2〜11の整数であり、Xは、隣接する酸素原子と当該酸素原子に結合した窒素原子との間の結合が開裂した際に親水性基を形成する基であり、Rは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数1〜20のアルコキシ基であり、2つのRはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。]
【請求項2】
前記一般式(I)中のXが、下記式(b)、(c)または(d)で表される基である請求項1記載の化合物。
【化2】

【請求項3】
下記一般式(II)で表される請求項1または2記載の化合物。
【化3】

[式中、R〜Rはそれぞれ独立にメチル基またはエチル基であり、aは2〜10の整数である。]
【請求項4】
300nm以上の波長の光源用である請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物を有機溶剤に溶解してなる膜形成用組成物。
【請求項6】
請求項5記載の膜形成用組成物を用いて支持体上に膜を形成する工程と、前記膜を選択的に露光する工程と、前記露光後の膜を有機溶剤で洗浄する工程とを有することを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項7】
前記膜を選択的に露光する工程の後、さらに、当該膜と酸性水溶液または塩基性水溶液とを接触させる工程を有する請求項6記載の積層体の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2007−277171(P2007−277171A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106136(P2006−106136)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】