化合物を分離、精製、濃縮、固定化、および合成するための高容量法、ならびにそれに基づく用途
【課題】化合物を分離、精製、濃縮、固定化、および合成するための材料、ならびにその同等物を使用した用途を提供する。
【解決手段】ポリマーブラシをグラフトした基材であり、ポリマーブラシは、表面に沿って多層に固定化された一つ以上の官能基を含み、機能性特性を基材組成物に付与した高容量マトリックスとして使用される。これらの組成物の使用法には試料溶液の脱酸素化、試料溶液中の変性剤の加水分解、ラセミ混合物の転化が含まれる。
【解決手段】ポリマーブラシをグラフトした基材であり、ポリマーブラシは、表面に沿って多層に固定化された一つ以上の官能基を含み、機能性特性を基材組成物に付与した高容量マトリックスとして使用される。これらの組成物の使用法には試料溶液の脱酸素化、試料溶液中の変性剤の加水分解、ラセミ混合物の転化が含まれる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本願発明は化合物を分離、精製、濃縮、固定化、および合成するための材料、ならびにその同等物を使用した用途に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
標的分子の研究および使用にはその分子の単離および精製が必要条件である。例えば、疾患を引き起こす微生物を単離、同定する能力は、正確な診断および疾患状態の治療をもたらし、あるいは、核酸の単離は、ポリヌクレオチドもしくは核酸にコードされるポリペプチドの配列シーケンシング、またはタンパク質の結晶構造決定の第1段階である。分子を単離、精製、濃縮するには多くの方法があるが、これらの方法を行う組成物は広範囲には適用されず、通常、特定分子の精製に応用されうる。従って、化合物および分子の単離・濃縮方法を改善する技術は依然として必要である。
【発明の概要】
【0003】
発明の概要
本発明は、全般に、特定の材料が、特有な性質(例えば長さ、厚み、形態、および密度)をもつ側鎖または高分子「ブラシ」を有する組成物中に加工されうるといった発見に基づく。これらの材料は、化合物を三次元的に分離、精製、濃縮および/または固定化するために、ならびに固定化された化合物を修飾または合成するために大変有効である。本発明の組成物は、材料に対流かつ高速で流す必要がある用途に有用であり、苛酷な化学反応または極度な温度変化に曝されることを目的としている。
【0004】
ある態様において、本発明は、特定な形状または構造をもった一つ以上の基材を含む組成物を提供する。その基材は、一つ以上の官能基を固定化したポリマーブラシをさらに含む。別の態様において、基材は、少なくとも一つの管腔空間を規定する複数の表面をもつ。一局面では、管腔空間には空孔が含まれる。さらに別の局面では、これらの管腔空間にはチャンネルが含まれる。一局面では、官能基は陰イオン解離性官能基である。別の局面では、官能基は陽イオン解離性官能基である。さらに別の局面では、官能基は陰イオン解離性および陽イオン解離性の官能基である。別の局面では、官能基はポリペプチド、例えば酵素、抗体、細胞受容体、アフィニティー精製エピトープおよびフラグメント、またはその活性ドメインである。別の局面では、官能基は核酸、または化学的に修飾したその変異体、例えばデオキシリボ核酸、リボ核酸、ポリA+RNA、tRNA、rRNA、アプタマー、またはリボザイムである。さらに別の局面では、官能基はポリペプチド官能基、核酸官能基、イオン性官能基、親水性官能基、またはいずれの組合わせでもある。さらに別の局面では、複数の官能基が固定化される。例えば、ポリマーブラシによって第1の官能基が固定化され、第1の官能基によって第2の官能基が固定化されるか、または第1の官能基によって第2、第3の官能基が両方とも固定化される。
【0005】
本発明は、基材組成物のポリマーブラシに官能基を高容量に吸着させることを提供する。ある態様において、官能基は高分子側鎖ブラシに沿って多層に固定化される。一局面では、官能基がポリマーブラシの長さ方向に多層に、例えば50層に固定化される。一局面では、ブラシ自体によって官能基の物理的な保持が提供される。別の局面では、官能基はブラシ表面とのイオン性相互作用によって固定化される。さらに別の局面では、官能基はブラシ表面に共有結合的に付与される。例えば、官能基はポリマーブラシに架橋される、または第1の官能基は第2もしくは第3の官能基に架橋される。
【0006】
本発明の組成物は、生物工学、薬学、および化学の用途において有用な各種の製品およびプロセスに、所望の性質を組み込むことができる。発明の一局面では、本明細書に記載の組成物は、濃縮、分離、および精製の用途において高容量マトリックスとして使用される。別の局面では、組成物は、溶液を保存または輸送する容器として使用される。一局面では、容器はポリマーブラシを含む機能性ピペットチップであり、さらにそのポリマーブラシはポリマーブラシ表面に多層に固定化された一つ以上の官能基を含む。別の局面では、容器はポリマーブラシを含むチューブであり、さらにそのポリマーブラシはポリマーブラシ表面に多層に固定化された一つ以上の官能基を含む。これらの局面において、容器は、ブラシの性質と固定化された官能基の性質とによって決められる機能性特性を有する。容器の例としては、限定されないが、分離の用途に用いるアフィニティー精製官能基、または細胞溶解物から核酸を除去するイオン交換官能基を含むピペットチップまたはチューブ、あるいは試料の保存に用いる低温保存官能基を含む凍結バイアルまたはチューブがある。別の局面では、組成物によってポリヌクレオチドまたはポリペプチドの合成のための表面が提供される。さらに別の局面では、組成物によってある化合物に対して親和性のある官能基が提供され、固定化された化合物は直接、生物的または化学的に修飾されうる。
【0007】
本発明は広範な用途に組成物および方法を提供する。例えば、プロテオミクスおよびゲノミクスのためのハイスループットスクリーニング、ペプチド合成、コンビナトリアルケミストリー、核酸合成、化学的または薬学的組成物の製造、バイオレメディエーション、微生物、診断、透析、ろ過などの用途に提供される。一局面では、タンパク質精製の用途において、DEAまたは正に荷電した膜により核酸が除去される。
【0008】
ある態様において、本発明はポリマーブラシを含む少なくとも一つの基材を提供する。ポリマーブラシには表面に多層に固定化された一つ以上の官能基が含まれ、その官能基は基質化合物との接触時に反応を起こす。一局面では、反応は基質化合物のポリマーブラシへの固定化からなる。別の局面では、反応は基質化合物の加水分解からなる。さらに別の局面では、反応は基質化合物の脱酸素化からなる。別の局面では、反応は基質化合物の重合、合成、または修飾からなる。
【0009】
ある態様において、本発明は溶液から標的分子を吸着および/または固定化するための組成物および方法を提供する。方法は、基材を得る段階と、ポリマーブラシの基材へのグラフト、官能基のブラシへの固定化、選択的に第2の官能基の第1の官能基への固定化、または第3官能基の第1あるいは第2の官能基への固定化を行う段階と、固定化した一つ以上の官能基に対して親和性をもつ標的分子を含む試料溶液とブラシとを接触させて化合物を吸着する段階とを含む。一局面では、官能基は他の官能基、およびブラシ自体に架橋される。このようにして、例えば、溶離、圧力、pH、イオン強度、溶剤の種類および濃度、ならびに温度の変化により誘導されておこるブラシからの官能基の脱離が防止される。
【0010】
ある態様において、本発明は、少なくとも一つの官能基が多層に固定化された表面をポリマーブラシにさらに含む、ポリマーブラシグラフト基材を得る段階と、基材を基質化合物と接触させることにより基質化合物を脱酸素化する段階とを含む、基質化合物を脱酸素化するための方法および組成物を提供する。一局面では、基材を得、ブラシを基材にグラフトし、ブラシは、脱酸素化する官能基、例えばアスコルビン酸オキシダーゼ(AsOM)を有する。一局面では、官能基はポリマーブラシに多層に固定化される。基材は上記の例において、標的化合物のアスコルビン酸(AsA)を有する試料溶液と接触させる。試料溶液中のAsAの脱酸素反応速度および反応程度を決定するために、AsAからデヒドロアスコルビン酸への転換を定量的にモニターする。
【0011】
別の態様において、本発明は、本発明は、少なくとも一つの官能基が多層に固定化された表面をポリマーブラシにさらに含む、ポリマーブラシグラフト基材を得る段階と、基材と基質化合物との接触によりラセミ混合物を不斉的に加水分解する段階とを含む、ラセミ混合物をさらに含む基質化合物を不斉的に加水分解するための組成物および方法を提供する。例えば、官能基アミノアシラーゼをポリマーブラシに固定化し、基材をラセミ混合物溶液、すなわちアセチル-DL-メチオニン溶液と接触させる。この例において、試料溶液中のラセミ混合物の加水分解速度および加水分解程度を決定するために、L-メチオニンの産生をモニターする。
【0012】
別の態様において、本発明は、少なくとも一つの官能基が多層に固定化された表面をポリマーブラシにさらに含む、ポリマーブラシグラフト基材を得る段階と、基材と基質化合物との接触によって変性剤を加水分解する段階とを含む、変性剤を含む基質化合物を加水分解するための組成物および方法を提供する。一局面では変性剤は尿素であり、官能基はウレアーゼ酵素である。
【0013】
別の態様において、本発明は、官能基を固定化する前にポリマーブラシを調整し、ブラシ表面の官能基の多層化を調節する方法を提供する。ポリマーブラシを有する基材を得る。そのポリマーブラシは、例えば陰イオン解離性の第1の官能基と、陽イオン解離性の第2の官能基と、親水性の第3の官能基とを有する。基材の酸処理によってポリマーブラシの立体構造を調節し、第4の官能基をポリマーブラシに多層に固定化する。基材のアルカリ処理によってポリマーブラシの立体構造を調節し、第5の官能基をポリマーブラシに多層に固定化する。酸およびアルカリ処理の順序は可逆である。
【0014】
官能基を固定化する前に、複数のポリマーブラシを含む基材を、例えば塩酸によって調整する。この局面では、基材は高次な多層化を示す。つまり、ポリマーブラシの長さ方向の面に沿った官能基の固定化を示す。調整によりポリマーブラシの伸縮が可能となり、従って、ブラシ上の官能基の多層化の程度および種類が変化する。例えば、第1の官能基を固定化する前にブラシを収縮させ、第2の官能基を固定化する前にブラシを伸長することによって、表面の長さ方向に実質的に不連続な多層において、2つの官能基を含むブラシ表面が提される。アルカリ溶液は陽イオン解離性官能基を含むポリマーブラシを伸長させ、陰イオン解離性官能基を含むポリマーブラシを収縮させるが、一方酸溶液は陰イオン解離性官能基を含むポリマーブラシを伸長させ、陽イオン解離性官能基を含むポリマーブラシを収縮させる。従って調整によって、ブラシ表面上の一つ以上の官能基の多層化が調節される。
【0015】
ある態様において、本発明は、イオン解離性基と親水基とをさらに含むポリマーブラシを有した基材を得る段階と、基材をイオン性溶液で処理してポリマーブラシの立体構造を調節する段階と、一つ以上の官能基をポリマーブラシの表面に多層に固定化する段階とを含む工程によって製造される、一つ以上の官能基が固定化されたポリマーブラシをさらに含む基材を提供する。
【0016】
別の態様において、本発明は、官能基をポリマーブラシへ架橋することにより、例えばグルタルアルデヒド処理で架橋することにより、ポリマーブラシへの官能基の固定化を向上する方法を提供する。一局面では、官能基は多層に架橋される。
【0017】
本発明の他の特色と利点は詳細な説明および特許請求の範囲から明らかである。
【0018】
本発明の詳細な説明
定義
別途に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての技術的および科学的専門用語は、当業者に一般に理解されるものと同様の意味をもつ。しかしながら、下記の用語は以下に特定する意味を有する。
【0019】
本明細書中で使用される「基材」という用語は、一つ以上の表面を提供する基質を指す。その表面に、ポリマーブラシを形成でき、またはポリマーブラシをグラフトもしくは付与できる。基材の形状は実質的に硬性の、例えば、バイアル、ピペットチップ、細胞培養用もしくはELISA用のシャーレ、スライド、もしくはアレイであってもよく、または基材は一つ以上の平面に実質的に柔軟性のある、例えば繊維もしくは膜であってもよく、または基材は粉末また微結晶製剤の形状であってもよい。基材は延長と柔軟性とが具体化されていてもよく、例えばチューブのような管腔を定義しうる。それぞれが本明細書に参照として組み入れられる米国特許第6,009,739号、第5,783,608号、第5,743,940号、第5,738,775号、第5,648,400号、第5,641,482号、第5,506,188号、第5,425,866号、第5,364,638号、第5,344,560号、第5,308,467号、第5,075,342号、第5,071,880号、第5,064,866号、第4,980,335号、第4,897,433号、第4,622,366号、第4,539,277号、第4,407,846号、第4,379,200号、第4,376,794号、第4,288,467号、第4,287,272号、第4,283,442号、第4,273,840号、第4,137,137号、および第4,129,617号に説明されるとともに本明細書で開示する膜組成物および方法には、多様な基材が適用される。
【0020】
本明細書中で使用される「ブラシ」および「ポリマーブラシ」という用語は、ラジカル重合可能な末端基を有する重合基質から形成された高分子側鎖を指す。その重合可能な基質は基材であるか、または基材にグラフトもしくは付与でき、実質的に基材の形状をとる。側鎖はいずれのポリマーであってもよく、容易に機能性をもたせうる反応性ポリビニルポリマーが現状では好ましい。例えば、繰り返しユニット毎に一つの反応性エポキシ基をもつポリ(グリシジルメタクリレート)がある。以下に説明するラジカル重合によってポリマーブラシは形成される。ブラシは第1の方向への重合度と関連する、特定の大きさで延長した形状、つまりその「長さ」をもつとともに、第1の方向と直角する第2の方向への重合度に関連する、断面の直径または厚み、つまりその「幅」をもつ。ブラシは、コイル状、または密集形態、または伸長形態をとることができる。ブラシの幅はその長さに沿って可変である。それに加えて、以下に説明するように、枝状のポリマーブラシ構造の作製、ならびにブラシの密度、つまり基材の単位表面積また単位重量当りのブラシの数、の増減を重合反応により制御することができる。本明細書における記述および当技術分野で既知の方法によって、本発明のポリマーブラシの長さ、幅、枝、および全体的な形態を、所望の末端の使用または目的に合わせて変化させることができる。
【0021】
本明細書中で使用される「反応性モノマー」という用語は、ラジカル誘導グラフト反応に寄与できる化合物を指す。反応性モノマーは、上記および本明細書中に説明するようにポリマーを形成できるいずれの材料であってもよく、限定されないが、例えばグリシジルメタクリレート(GMA)、またはエチレンがある。基材と反応性モノマーとが同一の化合物から構成されていてもよく、例えば、ポリエチレン基材はグラフト反応において、エチレンモノマーまたはポリマーが利用されうる。それぞれが本明細書に参照として組み入れられる米国特許第6,009,739号、第5,783,608号、第5,743,940号、第5,738,775号、第5,648,400号、第5,641,482号、第5,506,188号、第5,425,866号、第5,364,638号、第5,344,560号、第5,308,467号、第5,075,342号、第5,071,880号、第5,064,866号、第4,980,335号、第4,897,433号、第4,622,366号、第4,539,277号、第4,407,846号、第4,379,200号、第4,376,794号、第4,288,467号、第4,287,272号、第4,283,442号、第4,273,840号、第4,137,137号、および第4,129,617号に説明されるとともに本明細書で開示する膜組成物および方法には、多様な反応性モノマーが適用される。
【0022】
本明細書中で使用される「重合度」という用語は、ラジカル重合可能な末端基をもつ重合可能な基質と反応性モノマーとのラジカル誘導重合の程度を指す。この重合反応によってポリマーブラシが形成される。従って、重合度は全体的なブラシ表面の特徴を決定する。その高分子側鎖は、例えば、モノマー、オリゴマー、または約数百から数万モノマーユニットに相当する約10nmから約2000nmの平均長を有し、またはもっと長く、例えば5000nm以上となる。重合度は、例えば重合可能基質の結晶化度、ラジカル誘起程度、反応時間、そして重合可能な基質の性質、つまり強度または硬さに依存する。(参照として組み入れられるLeeら、(1999), Chem. Mater., 11, 3091-3095を参照)。
【0023】
本明細書中で使用される「グラフト率」または「DG」という用語は、ブラシの密度、つまり基材の単位表面積当りの側鎖の数を指す。側鎖数が約1.0x108から約1.0x1030の間では、いかなる側鎖数も基材の単位重量当りまたは単位表面積当りのパーセントで示すことができ、例えば、側鎖約1.0x1016から1.0x1020は、グラフト率にして約10%〜約500%を表す。グラフト率は本質的に、基材の初期重量と付加したポリマーブラシ構造の重量との比である(Leeら、(1999)を参照)。
【0024】
本明細書中で使用される「官能基」という用語は、化学的性質、リガンドに対する生物活性または親和性、または特定の構造をもつ物質を指す。官能基は、基材にグラフトされたポリマーブラシに、固定化、結合、捕捉、架橋、または実質的に付与される。本発明の膜組成物および方法には、ブラシにこれらの機能性を与えるため、多様な官能基が適用される。官能基の組合わせも明らかに発明の範囲内である。適する官能基は限定されないが、例えば、共存親水基または共存疎水基(GMAまたは他の疎水性基のような非イオン基)を有するまたは有さない陰イオン性解離基(例えば、1級、2級、3級または4級アミン)、陽イオン性解離基(例えば、酸基)、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、タンパク質またはその活性部位、エピトープイオンおよびアフィニティータグ、核酸、リボ核酸、ポリペプチド、グリコポリペプチド、ムコ多糖、リポタンパク質、リポ多糖、炭水化物、酵素または補酵素、ホルモン、ケモカイン、リンフォカイン、抗体、リボザイム、アプタマー、インターフェロン、SpA、SpG、TNF、v-Ras、c-Ras、逆転写酵素、Gタンパク質共役受容体(GPCR)、FcRn、FcγR、FcεR、ニコチニコイド受容体(ニコチン受容体、GABAAおよびGABAC受容体、グリシン受容体、5-HT3受容体、ならびに一部のグルタミン酸作動性陰イオンチャネル)、ATP開口型チャネル(P2Xプリン受容体も指す)、グルタミン酸作動性陽イオンチャネル(NMDA受容体、AMPA受容体、カイニン酸受容体など)、血球凝集素(HA)、受容体型チロシンキナーゼ(RTK)、例えばEGF、PDGF、NGF、およびインシュリン受容体チロシンキナーゼ、SH2-ドメインタンパク質、PLC-γ、c-Ras関連GTPase活性化タンパク質(RasGAP)、ホスファチジリノシトール-3-キナーゼ(PI-3K)およびタンパク質ホスファターゼ1C(PT1C)、ならびに細胞内タンパク質チロシンキナーゼ(PTK)、例えばチロシンキナーゼSrcファミリー、グルタミン酸作動性陽イオンチャネル(NMDA受容体、AMPA受容体、カイニン酸受容体など)、タンパク質チロシンホスファターゼ、例えば受容体チロシンホスファターゼrho、タンパク質チロシンホスファターゼ受容体J、受容体型チロシンホスファターゼD30、タンパク質チロシンホスファターゼ受容体C型ポリペプチド関連タンパク質、タンパク質チロシンホスファターゼ受容体T型、受容体チロシンホスファターゼγ、白血球関連Ig様受容体1Dイソフォーム、LAIR-1D、LAIR-1C、MAPキナーゼ、ノイラミニダーゼ(NA)、プロテアーゼ、ポリメラーゼ、セリン/トレオニンキナーゼ、二次メッセンジャー、抗原性または腫瘍形成マーカー、転写因子、および他の重要な代謝構築阻害または制御因子を含む。それぞれが本明細書に参照として組み入れられる米国特許第6,009,739号、第5,783,608号、第5,743,940号、第5,738,775号、第5,648,400号、第5,641,482号、第5,506,188号、第5,425,866号、第5,364,638号、第5,344,560号、第5,308,467号、第5,075,342号、第5,071,880号、第5,064,866号、第4,980,335号、第4,897,433号、第4,622,366号、第4,539,277号、第4,407,846号、第4,379,200号、第4,376,794号、第4,288,467号、第4,287,272号、第4,283,442号、第4,273,840号、第4,137,137号、および第4,129,617号、ならびに以下において官能基の選択および使用が説明される。
【0025】
本明細書中で使用される「陰イオン解離性官能基」という用語は、対イオンが陰イオンであるイオン交換基を意味する。陰イオン解離性官能基は、化学反応の触媒作用をもち、標的化合物または他の官能基を吸着および/または固定化し、そして、広範囲にわたって効率よく酸性物質を除去するために、硫化水素またはメルカプタンのような酸性物質との中和反応を引き起こすことが可能である。
【0026】
本明細書中で使用される「陽イオン解離性官能基」という用語は、対イオンが陽イオンであるイオン交換基を意味する。典型的な陽イオン解離性官能基は酸基である。陽イオン解離性官能基は化学反応の触媒作用をもち、標的化合物または他の官能基を吸着および/または固定化し、プロトン(水素イオン)を放出することによって、アンモニアまたはアミンのような塩基性物質との中和反応を引き起こすことができる。従って、このような官能基は、広範囲にわたって塩基性物質との使用に提供される。
【0027】
本明細書中で使用される「親水性官能基」という用語は、水に対して親和性をもつが水との接触によって極端にイオン性解離しない官能基を指す。親水性官能基は水和殻または反応性表面を提供することによって、化学反応を触媒し、標的化合物または他の官能基を吸着および/または固定化することができる。そのような基の一例としては、限定されないが、ヒドロキシル基がある。
【0028】
本明細書中で使用される「疎水性官能基」という用語は、水に対して親和性をもたない官能基を指す。疎水性官能基は水を排除して、または疎水性相互作用のための表面もしくは反応性表面を提供することによって、化学反応を触媒し、標的化合物または他の官能基を吸着および/または固定化することができる。そのような官能基の一例としては、限定されないが、非イオン基、エステル基、スクシンイミド基、またはエポキシ基がある。
【0029】
本発明の詳細な説明
本発明は一つ以上の基材にグラフトしたポリマーブラシに官能基を固定化する組成物および方法を提供する。固定化する方法は、捕捉、ゲル化、物理的保持もしくは吸着、イオン性結合、共有結合、または架橋を含む(それぞれが参照として組み入れられるBiotechnol. Bioeng., 22: 735-756, 1980、Chem. Eng. Prog., 86: 81-89,1990、J. Am. Chem. Soc., 117: 2732-2737,1995、Enzyme Microb. Technol., 14: 426-446,1997、Trends Biotechnol., 13: 468-473,1997、Nat. Biotechnol., 15: 789-793,1997を参照)。その固定化法ならびに用いる官能基の量および種類によって本発明の組成物の活性を決める。得られた固定化官能基の活性は物質移動の効果によって低減されることが多い(それぞれ参照として組み入れられるMethods Enzymol., 44: 397-413,1976、J. Am. Chem. Soc., 114: 7314-7316, 1992、Trends Biotechnol., 14: 223-229,1996、Angew. Chem., 109: 746-748, 1997を参照)。固定化後の活性は、官能基の有効性が減少することでさらに低減されるうる。例えば、立体障害によって、またはブラシ内、空孔内、もしくは基材の他の構造内での捕捉によって、または官能基の拡散が緩徐であることによって低減されうる。このような制限は低効率をもたらす。従って、高容量の官能基を固定化した基材を提供することが本発明の目的である。
【0030】
本発明は多様な基材、すなわち全ての高分子プラスチックを利用することができる。例えば、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテルブロックアミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリオルガノシロキサン、ポリオレフィン、ポリスルホン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、対応するコポリマーおよび混合物、ならびに天然ゴムおよび合成ゴム、金属、ガラス、または木材がある。組成物は多機能性の性質をもち、物質の分離、除去、精製、合成、濃縮、および固定化に使用でき、極度の温度または圧力、化学濃度、電気的荷電などの工業用プロセスでの過酷な操作環境に特に適している。一般に、所望の標的化合物は試料溶液中に存在しており、ろ過膜、チューブ、ピペットチップまたはクロマトグラフィーマトリックスにおけるように、直接、溶液を組成物に透過することができる。細胞または他の大きい不溶粒子を含む液体は、より小さい可溶粒子から大きい粒子を分離するために前処理を必要とする可能性がある。しかしながら、物理的なろ過の度合いはポリマーブラシのサイズおよびブラシ密度によりもたらされ、適当であれば、ろ過装置に組成物を織り込むまたは組み立てることができる。試料水溶液の記載が多いが、当業者であれば、ガス性試料にも適用できることを理解することと思われる。ガス流におけるガス性物質を吸着するためのフィルター要素の例は、例えば、本明細書に参照として組み入れられる2002年1月10日に公開されたGentilcoreらの米国特許出願第20020002904号A1に説明されている。それに加えて、膜または繊維の記載が多いが、以下に示す本発明の組成物は、本明細書に記載のように他の形状を含みうる。従って、以下は実例となっているが、本発明の実施例を制限することを意図しない。
【0031】
図を参照すると、基材組成物を作製するための調製経路を示す。本明細書においては、陰イオン交換基としてのジエチルアミノ(DEA)官能基と酵素官能基としてのアスコルビン酸オキシダーゼとを含む多孔性中空糸ポリエチレン膜を示す。図1(a)に示すように膜の合成は4つの段階からなる。第1の段階は重合反応の開始に関わり、照射として示されているが、すなわち重合反応のため、ポリエチレン中空糸基材膜に直接に電子線を照射し、ラジカルを発生させて、基材表面から伸びるポリマーブラシ構造を作製する。この図においては、200kGyの照射線量を設定したカスケード型電子線加速器(Dynamitron model IEA 3000-25-2, Radiation Dynamics, Inc., New York)を用いて、ポリエチレン多孔性中空糸膜を室温にて窒素雰囲気下で照射した。第2の段階は反応性モノマーのグラフトに関わる。図に示すように、照射した膜を313Kで10% v/v GMA/メタノール溶液に12分間浸した(参照として組み入れられるJ. Membr. Sci., 71:1-12, 1992を参照)。第3の段階は一つ以上の官能基の導入および固定化に関わる。図に描いたように、GMAグラフト膜を303Kで50% v/v ジエチルアミン(DEA)/水溶液と2時間反応させた。次のステップは、選択的に追加の官能基を固定化することに関わり、図に示すように他の物質の非選択的吸着をブロックすることに関わる。図に示すように、ポリマーブラシの未反応エポキシ基は、例えば、膜を303Kで6時間、エタノールアミン(EA)に浸すことによって、2-ヒドロキシエチルアミノ基のような非反応性型に転化された。実施例1にも詳しく説明するように、得られた多孔性中空糸膜を図1に示し、DEA-EAファイバーとよぶ。
【0032】
第2の官能基のアスコルビン酸オキシダーゼ(AsOM)をDEA-EAファイバーに固定化するため、図に示すように、シリンジポンプを用いて、以下の溶液を連続的に室温かつ1ml/分の一定の流速でDEA-EAファイバーの空孔に透過させた。14mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)を含む第1の緩衝液を用いて、洗浄およびpHの平衡化を行い、1Lに0.50gの酵素を含む第2の緩衝液を透過させて、膜の細孔にグラフトしたジエチルアミノ基を含むポリマーブラシに酵素を結合させ、第3の緩衝液を用いて膜を洗浄し、0.50%wtグルタルアルデヒド水溶液を含む第4の緩衝液を膜に透過させて、ポリマーブラシに捕捉された酵素を架橋し、0.50M NaClを含む第5の緩衝液を用いて、架橋されていない酵素を溶出した。中空糸膜の外壁から回収した溶出液中の非結合酵素の濃度は、例えば、235nmのUV吸光度で決定した。他の生物活性分子の濃度または活性を決定する方法では、例えばELISA、リン酸化または類似機能性アッセイ法等が当技術分野において周知である。この図において、イオン交換によって膜に固定化され、続けて架橋された、酵素の量、Qは以下の式で算出した。
Q(mg/g) = [(吸着した量)-(洗浄した量)-(非架橋の量)]/(乾燥した膜の重量)
【0033】
図1(b)には各種の溶液を膜に透過させるための装置を示す。膜を装置にセットして、DEAとAsOM溶液を透過させた。得られたアスコルビン酸オキシダーゼ固定化ポリマーブラシをグラフトした多孔性中空糸をAsOMファイバーとよぶ。図に示すように、2cmの長さを持つAsOMファイバーを装置にI型にセットした。
【0034】
同様な装置は溶液における特定な酵素反応を実施するためにも利用できる。AsOMファイバーを装置にセットして、標的化合物を含む試料溶液を装置に導入して、膜を透過させた。この例では、アスコルビン酸(AsA)を基質(試料)溶液として用い、AsAの濃度を0.025から0.10mMまで変化させ、透過流速を30〜50ml/hまで変化させた。空間速度(SV)は以下のように定義した。
SV(h-1) = (AsA溶液の透過流速)/(内腔表面を含むAsOMファイバーの体積)
【0035】
溶出液中のアスコルビン酸の濃度は、つまりブラシに接近してファイバーを透過する溶液、例えば、溶液の245nmのUV吸光度の測定によって、連続的に決定した。AsAの濃度またはAsOMの酵素活性をモニターする他の方法も利用できるし、当業者に周知される。AsAからデヒドロアスコルビン酸への転化率およびその活性は以下のように定義される。
転化率(%) = 100 [(1-(溶出液中のAsA濃度)/(供給液中のAsA濃度)]
活性(mol/h/L) = (SV)[(供給液中のAsA濃度)-(溶出液中のAsA濃度)]
【0036】
本明細書において使用したAsOMファイバーの性質を表Aに示す。
【0037】
(表A) 試料溶液中のアスコルビン酸を酸化するために使用した多孔性中空糸AsOMファイバーの性質
【0038】
溶出液量の増加に従う吸着、洗浄、架橋および溶出という一連のプロセスにおいて、溶出液中のアスコルビン酸オキシダーゼ(AsOM)の濃度変化、つまりAsOMファイバーの破過曲線および溶出曲線を図2に示す。膜のポリマーブラシに吸着されたAsOMの量はファイバー1g当り150mgと算出された。グルタルアルデヒドで架橋した後、0.5M NaClを有する緩衝液でAsOMファイバーを洗浄し、ファイバー1g当り20mgの非結合酵素を溶出した。したがって、固定化されたAsOMの量はAsOMファイバー1g当り130mgであった。酵素の吸着量を、以下の式で定義の単層結合容量で割り、酵素の多層結合度を12と算出した。
単層結合容量 = aVMr/(aNA)
式中のaVおよびaはそれぞれDEA-EA膜の比表面積(5.5m2/g)およびAsOM分子に占有される断面積(7.4x10-17m2)である。MrおよびNAはそれぞれAsOMの分子量(80,000)およびアボガドロ数である。
【0039】
12層のAsOMファイバーを用いて、固定化された酵素への基質の対流的移動には、物質移動の拡散抵抗および反応制御メカニズムの双方が無視できることを発見した。アスコルビン酸(AsA)溶液のAsOMファイバイーを透過させるときの、各供給濃度におけるアスコルビン酸からデヒドロアスコルビン酸への転化率を図3に示す。空間速度に関係せず、ほぼ定量的な転化率が観測された。図3(b)に示すように、これは基質溶液の透過流速が速くなるにつれて、AsOMファイバーの活性度も高くなることを表す。AsA溶液のAsOM膜を透過する滞留時間が1から10秒の間では、すべての酵素反応が反応に制御されてはいないことを発見した。滞留時間は以下のように算出する。
滞留時間 = (内腔を除く膜体積)/(透過流速)
【0040】
AsOMファイバーの安定性を調べた。25日間保存後の酵素反応を触媒する能力を図4に示す。AsOMファイバーの性能の劣化はほとんど見られなかった。AsOM以外の特定な官能基の保存条件は当技術分野でよく説明され、知られている。例えば、レコンビナント酵素は典型的には冷蔵され、または-20℃に冷凍される。遊離官能基の不安定性という欠点を克服できる本発明の組成物は、長い保存期間において室温でより安定である。原理に制限されることなく、官能基の固定化によってその官能基にさらなる安定性を授与することは自明である。それに加えて、基材の性質、グラフト反応および官能基の選択によって、組成物は極度な温度条件下で耐性をもち、そして典型的に広範囲のpH値および各種の溶媒濃度に対して抵抗をもつ。しかしながら、これらの条件下では、固定化された官能基は遊離官能基よりもっと安定性を示し、例えば、試料溶液に、遊離官能基を不活化する変性剤が含まれていても、固定化された官能基の酵素活性は維持される。
【0041】
図5には酵素の加水分解を起こす別の膜組成物を示す。つまり、N-アセチル-DL-アミノ酸のラセミ混合物の転化率である。酵素官能基を用いることによって転化反応をもたらした。その酵素はアミノアシラーゼであり、イオン交換官能基を含む荷電性ポリマーブラシに架橋により固定化された。この図では、調整溶液を使用して、荷電性ポリマーブラシを膨潤させ、ブラシの結合容量に影響を与える。しかしながら、ブラシから第1の官能基の漏出または脱離は膨潤反応によって誘導される可能性があり、つまりイオン交換基を損失する可能性がある。ポリマーブラシに捕捉された第1の官能基の漏出を防ぐために、膨潤させる前に官能基を架橋してもよい。
【0042】
調整したDEA膜、つまりHCl処理したDEA膜およびNaOH処理したDEA膜と、調整されていないDEA膜(水で処理したDEA膜)との膨潤比率を表2にまとめた。膨潤比率の順はDEA/Clファイバー>DEAファイバー>DEA/OHファイバーの順である。試料溶液を含む基質の酵素による変化、例えば、アミノアシラーゼ固定化膜を用いた場合、アミノ酸のラセミ混合物での特定のキラル体への変化は、上記に説明したのと同じAsOMファイバーの透過圧力および透過速度と同じ条件で、AsOMファイバーの提供する活性の値に一致している。それぞれのファイバーのアミノアシラーゼの平衡結合容量と酵素の多層結合度を表Bにまとめた。
【0043】
(表B) 荷電性ポリマーブラシによる、アミノアシラーゼ結合への調整効果の比較
a(調整した膜の厚み)/(調整していない膜の厚み)
b 14mM Trsi-HCl緩衝液(pH8.0)、温度 = 298K
c 供給液中のアミノアシラーゼの濃度 = 1.0mg/ml
d 酵素の多層結合度 = (平衡結合容量)/(単層結合容量)
ここで、単層結合容量が11mg/gと算出される。
【0044】
例えば、表Bでは、3つの膜組成物において、DEA/Cl膜は平衡C0における一番高い結合容量(300mg/g)と一番高い初期透過圧力(0.023MPa)を示した。これらの値のオーダーは膨潤比率のと一致した。荷電性ポリマーブラシがさらに高く伸長することによって、ブラシ表面から高い初期透過圧力が生じ、官能基が三次元的に固定化される結果となる。
【0045】
原理により制限することは意図しないが、荷電基としてのジエチルアミノ基を含むポリマーブラシの塩酸処理後のブラシの挙動は以下のように説明できる。電子線照射で幹ポリマーとしてのポリエチレン(PE)の結晶表面に形成するラジカルからポリGMA鎖が成長する。次に、ポリGMA鎖上の一部のエポキシ基にDEA基を固定化する。DEA膜を1M塩酸で調整することによって、DEA基の正荷電を伸長させた。荷電基の静電的な相互反発作用によって、PE基材上の荷電性ポリマーブラシを空孔内側に向けて伸長させ、延長したブラシ構造により官能基を多層に固定化させた。高いイオン強度の溶液、例えば0.5M NaClと接触するとき、ブラシの収縮とともに荷電性ポリマーブラシから官能基が放出される。このようなブラシ構造または荷電の変化は、例えばpH、イオン強度、熱、冷却、または溶媒濃度もしくは化学製品の変化に対応して、官能基に影響を与えうる。例えばブラシ構造による官能基の物理的固定化、イオン性または弱い共有結合の相互作用による固定化がある。これらの影響を抑制するには、当技術分野で周知の方法により、所望の官能基がその官能基自体およびブラシ構造に付与される。下記のカップリング反応の節においてさらに説明する。
【0046】
この図においては、アミノアシラーゼ酵素をまず荷電性ポリマーブラシに静電的相互作用で結合させ、グルタルアルデヒドで架橋した。架橋率は以下のように定義する。
架橋率 = 100 [1-(架橋後に溶出した酵素の量)/(酵素の吸着量)]
本明細書においては、DEA/Cl膜の架橋率は80%であり、酵素の多層結合度は22に相当した。
【0047】
この図の基材は酵素が多層に分散したポリマーブラシを含む多孔性膜から形成されている。図5には単位ブラシ当りに4層のアミノアシラーゼが描かれているが、本発明は、例えばブラシの長さおよび形態によって、単層から数百層の酵素を固定化するものを提供する。本明細書に記載の開示を考慮して、従来の方法により所望の多層結合度をもたらす官能基の多層吸着を最適化する方法は、当業者であれば分かるはずである。
【0048】
アミノアシラーゼ酵素を含む膜装置の調製経路を図6(a)に示す。上記に説明した空間速度(SV)におけるアセチル-DL-メチオニン(Ac-DL-Met)からL-メチオニン(L-Met)へ転化するために、この膜を用いる。アミノアシラーゼ膜の転化特性を図6(b)に示す。初期濃度10mMのアセチル-DL-メチオニン溶液をこの膜と接触させ、不斉加水分解反応によって、L-Metへの100%転化率を達成した。高濃度の基質において、速いSVは低い転化率をもたらした。Yokoteら、J. Solid-Phase Biochem., 1:1-13, (1976)に説明されるような、同一の酵素を固定化したガラスビーズを用いて、同じ濃度のAc-DL-Metで得られた転化率に対する比較のデータを図6(b)に示す。本発明の膜組成物は、Yokoteらに説明されたビーズ充填床からなるマトリックスで得られた転化率よりも、本発明に記載の合成膜で得られた転化率が3倍大きいこという驚くべき発見がもたらされた。原理に制限されることなく、これは、速いSV、つまり中空糸膜を透過するAc-DL-Met溶液の短い滞留時間において、総括的な反応は、ポリマーブラシへ基質の対流的物質移動ではなく、ポリマーブラシに捕捉されるアミノアシラーゼの反応に支配されることによって説明できる。
【0049】
SVに対する酵素活性は図6(c)に示す。アミノアシラーゼ固定化多孔性膜を用いて、速いSVは、例えば約200h-1のSV、高い酵素活性、例えば4.1mol/L/h Ac-L-Metの結果を生じた。速い対流の流れを本組成物に透過させるとき、ポリマーブラシ上の多層の官能基構造はより広い表面積を提供することに従い、当技術分野のビーズ充填マトリックスよりも、性能および活性を促進させた。それに加えて、これらの高容量膜は、厚みを低減することによって、ビーズ充填床よりも基質溶液の流れ抵抗を低くする。アミノアシラーゼ膜の安定性は、保存を延長後、酵素の漏出により溶出液中のL-Metの生産増加が欠如することで示した。アミノアシラーゼ膜の安定性は図3に示すAsOM膜の安定性と一致する。
【0050】
アミノアシラーゼ膜を合成するための装置を図7(a)に示す。この図には、まず、DEAイオン交換基を有する膜を合成する。膜のDEA含有ポリマーブラシへのアミノアシラーゼの固定化を図7(b)に示す。ここでは、溶出液の酵素濃度が平衡に達するまで、アミノアシラーゼを膜に透過させた。DEA官能基によって酵素が固定化され、グルタルアルデヒドによってアミノアシラーゼがDEA官能基に架橋される。この膜は上記に説明した応用に適している。
【0051】
上記に説明した酸およびアルカリで処理した膜の結合容量と破過曲線を図8に示す。図8(a)にはDEAファイバー、HCl前処理したDEAファイバー、およびNaOH前処理したDEAファイバーにアミノアシラーゼ溶液を透過させたときの溶出液中のアミノアシラーゼの濃度変化を示す。図8(b)には、DEAファイバー、HCl前処理したDEAファイバー、およびNaOH前処理したDEAファイバーにアミノアシラーゼ溶液を透過させたときの透過圧力の変化を示す。
【0052】
空間速度に対するアセチル-DL-メチオニンからL-メチオニンへの転化率を図8(c)に示す。SVに関係なく、基質溶液をDEA/Clファイバーの空孔に透過させたとき、供給液濃度0.1Mまでは、アセチル-DL-メチオニンがL-メチオニンに100%転化された。基質が透過し、そして高密度固定化酵素へ浸透する際の基質の拡散的な物質移動抵抗は無視できるため、膜を透過する滞留時間に関わらず、多孔性膜のマクロ構造と、膜の空孔表面にグラフトした荷電性ポリマーブラシにおける多層酵素のミクロ構造とによって定量的な転化率が達成された。
【0053】
図9に、4種類のイオン解離性あるいはイオン交換ポリマーブラシの調製経路を示す。つまり、陰イオン交換ポリマーブラシおよび陽イオン交換ポリマーブラシをそれぞれ2種類ずつ多孔性中空糸膜に放射線グラフト重合と続きの化学修飾とで固定化する修飾は以下の連続した機能化を含む。(1)ジエチルアミノ基およびスルホン酸基のイオン交換基の導入、(2)2-ヒドロキシエチルアミノ基およびジオール基のアルコールヒドロキシル基の導入。ジエチルアミノ基(DEA)、スルホン酸基(SS)、2-ヒドロキシエチルアミノ基(EA)、およびジオール基はそれぞれジエチルアミン、亜硫酸ナトリウム、エタノールアミン、および水を用いたポリGMAブラシのエポキシ基の開環反応によって導入した。
【0054】
図10のように、5cmの有効な長さの多孔性中空糸膜を長さ方向の構成にセットした。DEA-EAまたはEA-DEAファイバー、およびSS-DiolまたはDiol-SSファイバーの空孔の半径方向の外側に向けて、Tris-HCl緩衝液(pH8.0)と炭酸緩衝液(pH9.0)とを一定の膜貫通圧力の0.05または0.10MPaおよび298Kで強制的に透過させた。
【0055】
陰イオンおよび陽イオン交換基を有するポリマーブラシを固定化した多孔性中空糸膜の透過流束とエポキシ基から対応する解離性基への転化率との関係をそれぞれ図11(a)および(b)に示す。DEA-EAファイバーもEA-DEAファイバーも60%の転化率以下では、ほぼ同様な透過流束を示した。60%以上になると、DEA-EAファイバーの透過流束は徐々に低下した。逆に、SS-DiolファイバーとDiol-SSファイバーとは著しく異なっている。転化率5%であってもSS-Diolファイバーの透過流束は無視できるほど低いが、Diol-SSファイバーは転化率50%になっても多孔性中空糸膜基材の透過流束の40%を維持した。
【0056】
BSAおよびHELの多層結合度とエポキシ基からDEA官能基への転化率およびSS基への転化率との関係をそれぞれ図12(a)および(b)、図13(a)および(b)に示す。転化率20%以上のDEA-EAファイバーはBSAを多層に吸着するが、EA-DEAファイバーは転化率に関わらず単層結合容量に相当する一定のタンパク質結合容量を有する。逆に、SS-Diolファイバーは低い転化率でHELの多層結合度を示したが、Diol-SSファイバーでは転化率20%にならないと、SS-DiolファイバーのようなHELの多層結合度を示さない。例えば、SS-DiolファイバーとDiol-SSファイバーの転化率がそれぞれ5%と35%のとき、ほぼ同一のHEL結合容量80mg/gを示した。
【0057】
ポリマーブラシの連続的な化学修飾のオーダーの変化は解離性ポリマーブラシの性能に影響を与える。これは、図14に示すように、多孔性中空糸膜にグラフトした高分子鎖上の解離性官能基分布に関する簡単な原則で説明できる。機能化するとき、第1の薬剤はポリGMA鎖の上部にあるエポキシ基を先にアタックし、第2の薬剤はポリGMA鎖の下部にある残りのエポキシ基を開環する。
【0058】
多孔性中空糸ポリエチレン膜のポリマーブラシへのウレアーゼ酵素の固定化を図15に示す。ラジカルグラフト重合反応を開始するため電子線を用いる。グリシジルメタクリレートをポリエチレンにグラフトする。グリシジルメタクリレートの反応性エポキシ基にジエチルアミンを共有結合的に固定化する。未反応のエポキシ基はエタノールアミンを用いて抑制または不活性する。ジエチルアミンは陰イオン交換官能基を提供し、ジエチルアミンと酵素の負荷電領域との相互作用によって、ウレアーゼが固定化される。ウレアーゼの固定化を促進するため、トランスグルタミナーゼを用いて、酵素を荷電性ブラシに架橋する。これによってウレアーゼが多層に固定化され、得られた組成物をUaseファイバーとよぶ。尿素を有する試料溶液をUaseファイバーに透過させるとき、Uaseファイバーは尿素を機能的に加水分解できる。
【0059】
ウレアーゼの固定化および酵素反応の触媒作用を引き起こすために用いるUaseファイバーを含む装置を図16に示す。図16に示す構成のようにDEA-EAファイバーをセットした。中空糸膜の一つの末端をシリンジポンプにつなげ、もう一方を封じた。Tris-HCl緩衝液(pH8.0)中のウレアーゼ溶液(5.0mg/mL)を中空糸膜の半径方向に内側の表面から外側の表面へ、一定の透過流速30mL/h、310Kで透過させた。分画バイアルを用いて、中空糸膜の外側の表面から出てきた溶出液を連続的に回収した。回収バイアルにあるウレアーゼの濃度はタンパク質の検査に適する波長、280nmまたは205nmでのUV吸光度によって測定した。ポリマーブラシへのウレアーゼの多層吸着は段階(a)に示す。段階(b)に示すように、酵素を架橋するためトランスグルタミナーゼを用いてUaseファイバーを処理した。図16に示すように、架橋するために透過装置からUaseファイバーを外すが、同様な固定化を達成するためにトランスグルタミナーゼを装置に導入してもよい。段階(c)に示すように、Uaseファイバーを透過装置につなげたまま、固定化されていない酵素を溶出する。説明のように、溶出液中にある非結合酵素の濃度を測定した。
【0060】
酵素溶液をDEA-EAファイバーに透過させている間、洗浄中、およびポリマーブラシへ酵素を架橋した後のウレアーゼの固定化を図17に示す。上記に説明したように、溶出液中の酵素濃度をモニターすることによって、破過曲線を得た。縦軸は供給液に対する溶出液のウレアーゼの濃度比で、横軸は溶出量をDEA(x)-EAファイバーの内腔の表面を除く膜体積で割った値として定義される無次元化溶出量(DEV)である。
【0061】
DEA(x)-EAファイバーのウレアーゼの破過曲線、エポキシ基から対応するジエチルアミノ基への転化率に対するウレアーゼの固定化、つまり溶出液量に対する濃度変化を図18に示す。結合したウレアーゼの量はDEA基の増加とともに増加した。DEA官能基を含むグラフトポリマーブラシは、DEA官能基密度の増加で誘導される強い静電的な反発によって、基材表面から伸長した形態をとると考えられる。このような伸長によりブラシに沿ったウレアーゼの多層固定化がもたらされる。
【0062】
架橋時間に対するウレアーゼの固定化を図19(a)に示す。ウレアーゼを結合したファイバーを0.04%(w/v)トランスグルタミナーゼ溶液に、297K、5分から3時間の所定時間で浸した。次に、架橋されていないウレアーゼを溶出するため、0.5M NaCl溶液を30mL/hの透過流速、室温で強制的に膜の空孔に透過させた。上記に説明したように、溶出液のモニタリングによって、非架橋ウレアーゼの溶出を測定した。
【0063】
固定化ウレアーゼに対する尿素における触媒作用を図19(b)に示す。尿素という基質を含む試料溶液を酵素固定化多孔性ファイバーへ透過することにより、基質がバルクから酵素固定化ポリマーブラシへ拡散する物質移動抵抗を無視できるようにする。固定化酵素密度が高いほど、支持多孔性膜の単位重量当りの酵素活性も高い。固定化ウレアーゼの密度に対する310Kにおける8M尿素溶液の加水分解反応率を図19(b)に示す。反応率は固定化ウレアーゼ密度の増加と共に高くなり、DEA-EAファイバー1gあたり1.4gを超えるウレアーゼ密度になると、反応率は横ばいになった。
【0064】
尿素基質を含む試料溶液の空間速度に対する尿素における触媒作用を図20に示す。空間速度の増加に従い、酵素単位重量当りの加水分解する尿素の量は低下した。空間速度に対する尿素反応率を調べるため、50層の固定化ウレアーゼを有するDEA-EAファイバーを用いた。SV = 2.6のとき、反応率は最大の78%に達した。原理に制限されることなく、酵素の反応律速プロセスによって、SVの増加は反応率を低下させた。
【0065】
固定化酵素と遊離酵素との尿素反応率の比較を図21に示す。0.2時間の接触時間において、初期尿素濃度の増加により反応率は100%(2M尿素濃度)から40%(6M尿素濃度)に低下した。一方、初期尿素濃度8M(滞留時間0.2時間)において、固定化酵素の反応率は80%以上も維持された。
【0066】
8M尿素溶液を27層の酵素固定化膜に透過させたときの、溶出液量に対する溶出液の尿素反応率変化およびpH変化を図22に示す。溶出液量が増加しても、pHと反応率は一定であった。
【0067】
各種モル濃度での尿素溶液における触媒作用を図23に示す。Uaseファイバーを用い、一定の透過流速1mL/hで、無次元化溶出液量(DEV)に対する尿素の加水分解率を図23に示す。Uaseファイバーの内側の表面に供給した尿素溶液の濃度は2Mから8Mの範囲である。1mL/hの透過流速でUaseファイバーの空孔を通過する尿素溶液の滞留時間は5.1分に相当した。2Mから4Mの尿素の定量的な加水分解が得られた。そして、DEVの増加に伴い、6Mから8Mの尿素の加水分解率は低下した。
【0068】
透過流速、つまり空間速度(SV)に対する4M尿素溶液における触媒作用を図24に示す。SVが20h-1以下のとき、つまり3.0分以上の滞留時間で、尿素における100%の加水分解が観測された。Uaseファイバーへの尿素溶液の透過流速は全尿素加水分解率を支配する。SVの増加とともに、加水分解率は低下した。原理に制限されることなく、全加水分解率は、ポリマー鎖に多層固定化したウレアーゼへの尿素の拡散と固定化酵素の活性部位における本質的な反応とによって決定される。
【0069】
イオン交換の用途に用いるチューブの調製経路を図25に示す。説明のように、ラジカルを発生させてGMAをグラフトし、エポキシ結合によってトリメチルアミンイオンを一部のGMAに固定化した。得られたTMAチューブは負電荷した官能基またはイオンに対する親和性を示す。
【0070】
チューブのグラフト率による塩素イオン(Cl-)の吸着への影響を図26に示す。グラフト率の増加と共にCl-の吸着量も増加した。X軸には供給液に対する溶出液中のCl-濃度比を示し、Y軸にはチューブ体積に対する回収した溶出液量を示す。グラフト率の増加にもかかわらず、Cl-の破過曲線は供給液濃度の100%に達した。つまり吸着は平衡に達した。
【0071】
チューブのグラフト率によるウシ血清アルブミンの吸着への影響を図27に示す。BSAの吸着量はグラフト率の増加と共に増加した。図26とは逆に、グラフト率が増加すると、Cl-よりもBSAの吸着はより段階的に増加した。
【0072】
チューブに適用した照射線量による、塩素イオンの吸着への影響を図28に示す。X軸には供給液に対する溶出液中のCl-濃度比を示し、Y軸にはチューブ体積に対する回収した溶出液量を示す。照射線量はブラシ密度を決める。図28に示すように、Cl-イオンの吸着はブラシ密度の変化に著しくは影響されない。
【0073】
チューブに適用した照射線量による、ウシ血清アルブミンの吸着への影響を図29に示す。図28とは逆に、比較的大きいBSAタンパク質は高密度のブラシに物理的保持され、長時間かけて平衡に達する。
【0074】
機能化したイオン交換ピペットチップの調製経路を図30に示す。チップを照射し、GMA反応性モノマーをピペットチップの基材にグラフトする。このようにして、説明のように、陰イオンおよび陽イオン解離性官能基が固定化される。
【0075】
機能化ピペットチップの内腔表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図31に示す。伸長したポリマーブラシは可視である。SEM写真を撮る前に、TMAチップをさらにNH2C2H5で処理してブラシを膨張させておき、その伸長した立体構造を見ることが可能である。
【0076】
陽イオン交換ピペットチップ(図32(a))および陰イオン交換ピペットチップ(図32(b))の回収率を図32に示す。SSチップまたは陽イオン交換ピペットチップからの吸引と放出との繰り返しによる液中のHEL濃度の減少を図32(a)に示す。図の横軸は総接触時間である。POROS-Tip HSと比べて、SSチップではほぼ同一のHEL回収率が示された。しかしながら、POROS-Tip HQに比べて、TMAチップのBSA回収率が低いことが図32(b)から観測された。トリメチルアンモニウム塩基含有ポリマーブラシに比べて、スルホン酸含有グラフトポリマーブラシはブラシ伸長度が高いため、液の流路を狭めて、タンパク質の物質移動を促進する結果となる。これらは、TMAチップよりSSチップの放出時間が長いことに対応する。
【0077】
本発明における有用な材料
一般的には、本発明の基材は特定のタイプに制限されることはなく、ポリマーブラシがグラフトまたは付与できる基質であれば、適当な基材である。重合反応にとって、元の基材が不十分であれば、基材表面を処理してもよい。このようなケースにおいて、例えば、本発明に従う表面処理は、高分子材料からなるコーティングであってもよい。本発明に有用な材料は広範囲に得られる。例えば、ポリエチレンとポリプロピレンとを含むポリオレフィン(低密度または高密度)、セルロース(Radiat. Phys. Chem. 1990, 36: 581; J. Membr. Sci. 1993, 85: 71を参照)、ポリ(イソブチレンオキサイド)(Radiat. Phys. Chem. 1987, 30: 151を参照)、 エチレンテトラエチレンフルオロコポリマー(J. Electrochem. Soc. 1996, 143: 2795を参照)、エチレンプロピレンジエンタールポリマー(Radiat. Phys. Chem. 1991, 37: 83を参照)、エチレン-プロピレンゴム(Nippon Gensiryoku Gakkaishi, 1977,19: 340を参照)、クロロスルホン化ポリエチレン(Radiat. Phys. Chem. 1991, 37: 83を参照)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(React. Polym. 1993, 21: 187; Radiat. Phys. Chem. 1989, 33: 539を参照)、テトラフルオロエチレンヘキサフルオロプロピレンコポリマー(Radiat. Phys. Chem. 1988, 32: 193を参照)、ポリ(ビニルクロライド)(Radiat. Phys. Chem. 1978, 11: 327を参照)、シリコンゴム(Radiat. Phys. Chem. 1988, 32: 605を参照)、ポリウレタン(Radiat. Phys. Chem. 1981, 18: 323)、ポリエステル(Radiat. Phys. Chem. 1988, 31: 579を参照)、ブタジエン-スチレンコポリマー(Radiat. Phys. Chem. 1990, 35: 132を参照)、天然ゴムおよびニトリルゴム(Radiat. Phys. Chem. 1989, 33: 87を参照)、酢酸セルロースとプロピオン酸塩(Radiat. Phys. Chem. 1990, 36: 581を参照)、) デンプンおよび綿繊維(Zhurn, Vsesoyuz. Khim. Ob-va im. D. I. Mendeleeva. 1981, 26: 401を参照)、ポリエステル-セルロース繊維(Radiat. Phys. Chem. 1981, 18: 253を参照)、天然皮(Radiat. Phys. Chem. 1980, 16: 411を参照)、ならびに医療用ガーゼ(Zhurn. Vsesoyuz. Khim. Ob- va im. D. I. Mendeleeva. 1981, 26: 401を参照)、親水性ポリウレタン、ポリウレア、オレフィン、アクリル、ならびに他の親水性構成材がある。特殊な材料はポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールコポリマー、および他のポロキサマー、ヘテロサイクリックモノマー(Applied Radiation Chemistry: Radiation Processing, Robert J. Woods and Alexei K. Pikaev, John Wiley & Sons, Inc., 1994 (ISBN 0-471-54452-3)を参照)、ポリ(エチレングリコール)メタクリレートまたはジメタクリレート(J. Appl. Polym. Sci., 1996, 61: 2373-2382を参照)、ポリアミン(例えばポリエチレンイミン)、ポリ(エチレンオキサイド)およびスチレンを含む。これらのコーティングは好ましくは処理した表面に共有結合的に結合する。高分子材料を表面に吸着させ、UV照射、RFエネルギー、X線照射、γ線照射、電子線、化学開始重合などに曝して、表面に高分子材料を共有結合的に付与する段階を含む、コーティング形成法には多くの方法がある。
【0078】
基材は複数の表面を提供し、基材自体が、ラジカル重合可能な末端基をもつ重合可能な基質であり、例えば、セルロース、ポリオレフィン、ポリアクリルニトリル、ポリエステル、例えばPETおよびPBT、ポリアミド、例えばナイロン6およびナイロン66、ならびにこれらの組み合わせがある。適する基材は、基材自体が重合可能でなくてもよく、ポリマーブラシは非重合可能基材にグラフト、付与または粘着することが可能である。
【0079】
炭水化物ポリマー、例えばセルロースもしくはリグニンまたは類似の材料を基材として使用可能である。本明細書に参照として組み入れられるAntalらの2002年3月7日に公開された米国特許出願第20020026992号A1には、製紙において、添加物の保持力の促進と強化に使うため、ペンダント3-アミノ-2-ヒドロキシプロピル基を有するグラフト炭水化物ポリマーの組成物とその製法の例とが説明された。本明細書に参照として組み入れられるYamagishiら、(1993)、 J. Membr. Sci., 85, 71-80にはセルロースの放射線グラフト重合法が説明された。
【0080】
炭水化物ポリマーが木材パルプの構成要素であるとき、得られる化学修飾の木材パルプは非修飾した木材パルプと組み合わせて、その特性を保持および強化されうる。特にセルロースを基材として使用できる典型的な炭水化物の資源は、紙パルプおよび木材チップのような木材セルロースを含む。これらのセルロースに加えて、葉繊維セルロース、幹繊維セルロース、およびシードトメントースまたは軟毛繊維セルロースを使用することが可能である。これらのセルロースの例は、靭皮繊維(例えば麻、亜麻、ラミー、およびマニラ麻)および綿を含む。所望であれば、イネわら、コーヒー豆の殻、使用済みの茶葉、大豆パルプおよび他の廃棄物を再利用してセルロースとして使用することが可能である。このような廃棄物は特殊な前処理を必要としないので、使うには便利である。本発明に使うセルロースの一つの資源としては、紙パルプがある。
【0081】
本明細書に参照として組み入れられるKimらの2001年11月1日に公開された米国特許出願第20010037144号A1には、生物活性物質を金属系基材にグラフト可能であること、例えば、金属基材に金または銀薄層をメッキして表面修飾した医療用金属材料が説明されている。
【0082】
繊維、髪、および皮のような動物組織は基材として使用可能である。当業者は、動物製品によって、基材として使用できる所望の特性がもたらされるかどうかを決めることができる。例えば、所望の発明が機械的なろ過に使用される場合は、例えば繊維を膜組成物またはシートのような他の形状に織り込むまたは組み立てることができる。基材として使用できる繊維または動物の毛の例は、ウール、ラクダの毛、アルパカ、カシミヤ、モヘア、ヤギの毛、ウサギの毛、および絹を含む。基材として使用できる天然皮の例はウシの皮、ヤギの皮、および爬虫類の皮または皮膚を含む。基材として使用できる合成皮の例はCORFAM(登録商標)(デュポン)、CLARINO(登録商標)(クラレ)とECSAINE(登録商標)(東レ)を含む。
【0083】
基材としてポリオレフィンも使用可能である(Applied Radiation Chemistry: Radiation Processing, Robert J. WoodsおよびAlexei K. Pikaev, John Wiley & Sons, Inc., 1994 (ISBN 0-471-54452-3), Introduction to Radiation Chemistry 第3版, J. W. T. SpinksおよびR. J. Woods, John Wiley & Sons, Inc., 1990 (ISBN 0-471-61403-3)、 Radiation Chemistry of Polymeric Systems, A. Chapiro, Interscience, New York, 1962、 Atomic Radiation and Polymers, A Charlesby, Pergamon Press, 1960、 Radiat. Phys. Chem. 1991, 37: 175-192、ならびにProg. Polym. Sci. 2000, 25: 371-401を参照(全てが本明細書に参照として組み入れられる))。ポリオレフィンは多くの形状および型に組み立てることができる。これらは、鋳型であったり、熱成形されたり、注入されたり、よく知られるプロセスによって成形されうる。例えば、既存の溶融メルトスピンプロセスによる繊維や細糸の形成がある。それに加えて、ポリオレフィン化合物は他の産業にも有用であり、主として生物工学産業には、ポリオレフィン製品は、実験室の試薬による化学的な分解に対して抵抗をもち、耐久性をもつとともに再利用でき、化学的不活性であり、安価と使い捨てできるものである。ポリオレフィン化合物はこれらの特性を示すこととそれに加えて、ラジカル重合可能の末端基を有する重合可能基質を提供するので、一般的に基材として望まれる。オレフィンモノマーまたはポリマーは基材にも、反応性モノマーにもなるといった2つの点から、本発明のグラフト技術に非常に適している。例えば、ポリオレフィンの例はポリエチレンおよびポロプロピレンを含む。所望であれば、例えば、これらの材料は塩素、フッ素または臭素のようなハロゲンで修飾することによって、ポリテトラフルオロエチレンのようなハロゲン化ポリオレフィンになりうる。他の修飾としては、ポリマーにヒドロキシル基を導入することも適切である。平均分子量20,000から750,000ダルトンを有するポリオレフィンポリマーは本発明に適している。当業者は、特定の目的に合う適切な分子量について周知である。例えば、約50,000ダルトンから約500,000ダルトンの分子量をもつポリオレフィンは、繊維や細糸の生産に適していて、官能基の組み合わせをもつブラシを含有するポリオレフィン細糸または繊維(上記)を含む膜に応用することである。ポリオレフィンの分子量が約500,000ダルトンを超えると、得られるポリオレフィンの流動性が低くなるので、既存のメルトスピンプロセスによるポリオレフィンから細糸への形成は難しくなる。しかしながら、約500,000ダルトン以上のポリオレフィンの構造的硬直さは、例えば、容器、細胞の凍結バイアルなどの高密度用途に適している。逆に、約50,000ダルトン以下の分子量をもつポリオレフィンは、ポリマーの強度と硬直さは低下し、そしてそれによって形成される細糸は十分な張力をもたない。しかしながら、約50,000ダルトン以下のポリオレフィンの構造的硬直さは、例えば、粉体またはミクロ結晶体組成物に適している。本明細書に参照として組み入れられるValligyらの2002年2月14日に公開された米国特許出願第20020019487号A1には、熱成形におけるフリーフローによって柔軟性をもつコーティングの生産を目的とした、粉末の形での、重合グラフトおよび架橋しうる熱可塑性ポリオレフィン粉末組成物の例が説明される。本明細書に参照として組み入れられる欧州特許第0409992号には、もう一つの重合したグラフトと架橋した熱可塑性ポリオレフィン粉末組成物の例があり、架橋可能の熱可塑性ポリオレフィンポリマーの粒子を合成するためのプロセスを指し、それによると、上述の粒子は固体の形態で、特にミネラルオイルのような架橋剤と接触させる。
【0084】
基材の形状には特に制限はなく、繊維、フィルム、薄片、粉末、シート、マット、および球体の各種の形状から選択して使用することができる。本発明の膜の基材はポリマーブラシを支持する構造的なメンバーとしての機能をもつ。基材の形状は実質上硬直であることもあり、例えば、バイアル、ピペットチップ、細胞培養皿またはアレイであり、あるいは基材は実質上一つ以上の平面に柔軟性をもち、例えば繊維または膜である。吸着および/または固定化する面積の最大化、吸着および/または固定化効率の向上という観点から、繊維状材料の使用は有利である。このような膜組成物またはシートにおけるグラフト繊維は実質上ブラシ表面積を増大させる。
【0085】
本発明に適する織繊維のサイズは約10nmから約100,000nmまでである。約1000nmから約50,000nmまでの繊維直径を有する織繊維状材料の使用は特に有利である。繊維状材料が有利である一つの理由は、簡単に所望の形状、例えば布、にするまたは織ることができ、そして、装置に組み立てることができる。それに加えて、繊維状材料は一般的に環境に微粒子または粉末を放出するおそれがないので、半導体および他の精密機器製作に使用できる。繊維状材料が使用される場合は、繊維または細糸の束にすることができる。この繊維束を織布または不織布に加工することができる。本発明の膜において繊維状基質が使用される場合は、他の繊維状材料と混合してもよい。従って、異なる官能基を含む繊維の組み合わせによって作製でき、単一の膜組成物に多機能な特性が提供される。
【0086】
繊維は不織基質として作製された多孔性中空糸であってもよい。本明細書に記載のように、市販される多孔性中空糸の例は旭化成株式会社が生産するものである。これらは空孔率の範囲が広く、例えばろ過装置に組み立てることができる。それに加えて、空孔率と繊維組成との組み合わせによって、物理的および分子的固定化、ろ過または濃縮を提供する。繊維状基材を球状の形にして使用する場合は、取り扱いやすさの観点から、その直径を約2〜20mmの間に調節するのが有利である。本発明の基材の空孔率は、所望の機能活性と透過性との観点から、平均孔経約0.1nmから約50,000nmを有し、好ましくは約1nmから5000nm、さらに好ましくは10nmから1000nmである。当業者ならば、特定な応用に対して、最適の組成と空孔率を決めることができる。平均孔径が極小のとき、膜組成物の透過性は低下する。平均孔径が極大のとき、所望の物質は多孔性基材のブラシ表面にうまく吸着されない。その代わりに、ブラシ表面と官能基とを接触させずに、目的の試料を多孔性基材の空孔に通過させて、所望の官能基の活性に到達しないようにする。本発明の多孔性基材の空孔率は、好ましくは20%から90%の範囲にあり、さらに好ましくは50%から90%の範囲にある。空孔率の程度は使用した基材の物理的特性に依存する。空孔率および孔サイズの測定は一般的によく知られる、例えば、バブルポイント法、水銀圧力法、走査型電子顕微鏡法(SEM)またはトンネル電子顕微鏡法(TEM)、または窒素吸着法(本明細書に参照として組み入れられるASTM F316,1970; Pharmaceutical Tech., 1978,2: 65- 75; Filtration in the Pharmaceutical Industry, Marcel Dekker, 1987を参照)。
【0087】
本発明の硬い容器の例は実施例3に詳しく説明する。実施例3において、基材は微量ピペット装置用の使い捨てプラスチックチップに形成される。ピペットチップの内側の表面に、一つ以上の官能基を有するポリマーブラシを多層に固定化した。チューブのようなやや硬い容器は実施例6で説明する。チューブは、一つ以上の官能基を有し、多層に内側の表面に固定化したポリマーブラシからなる。しかしながら、本発明は粉末、シート、膜またはフィルム、多孔性または非多孔性材料、中空糸、織繊維および布、バイアル、容器、ならびに類似の生産品の作製に適している。
【0088】
ラジカルを発生させる作用物質
ラジカル部位をつくることのできるラジカル発生作用物質は、有機過酸化物またはパーエステルであり、例えば、tert-ブチルパーオキシ3,5,5-トリメチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、tert-ブチルパーオキシ2-エチルヘキシルカルボネート、tert-ブチルパーオキシアセテート、tert-アミルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、2,2-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ブタン、n-ブチル4,4-ジ(tert-ブチルパーオキシ)バレレート、エチル3,3-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ブチレート、ジクミルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-tert-アミルパーオキサイド、ジ(2-tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,6-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-tert-ブチルパーオキシ-3-ヘキシン、3,3,6,6,9,9-ヘキサメチル-1,2,4,5-テトラオキサシクロノナン、tert-ブチルヒドロパーオキサイド、3,4-ジメチル-3,4-ジフェニルヘキサン、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタンおよびtert-ブチルパーベンゾエート、ならびにアゾ化合物、例えば、アゾビスイソブチロニトリルおよびジメチルアゾジイソブチレートがあり、上記作用物質は、好ましくはジクミルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-tert-アミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイドおよび2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシンからなる群より選択される。
【0089】
放射線誘導グラフト重合
グラフト重合は、化学的または誘導可能な重合開始剤の存在における重合、熱重合、イオン化放射線(例えば、α線、β線、γ線、加速電子線、X線または紫外線)を用いた放射線誘導グラフト重合によって行うことができる。γ線または加速電子線が誘導する重合により、都合のよいグラフト重合法が提供される。
【0090】
反応性モノマーの基材へのグラフト重合法にはいくつかの方法が存在する。基材は定形部材であってもよいし、また、重合後に製品化または装置化してもよい。最終用途または目的に応じて、本発明には、定形部材を直接に液体反応性モノマーと反応させる液相重合法と、定形部材をガスまたは気体状の反応性モノマーに接触させるガスまたは気相重合法との2つの重合法が有利である。気相グラフトは本明細書に参照として組み入れられるJ. Membr. Sci. 1993, 85: 71-80、Chem. Mater. 1991, 3: 987-989、Chem. Mater. 1990, 2: 705-708、およびAIChE J. 1996, 42: 1095-1100に説明される。
【0091】
基材への反応性モノマーのグラフト重合が行われる。グラフトは3つの方法で行う。(a)前照射、(b)過酸化、および(c)相互照射法である。前照射法においては、ラジカルを形成するため、幹ポリマーは真空中または不活性ガスの存在下で照射される。照射されたポリマー基質は次に、液相もしくは気相のモノマー、または適当な溶媒に溶解したモノマーで処理する。しかしながら、過酸化グラフト法において、幹ポリマーは空気または酸素の存在下で高エネルギー放射線に曝される。従って、重合骨格と照射条件によって、ヒドロパーオキサイドまたはジパーオキサイドが形成される。その安定なパーオキシ産物は次に高温においてモノマー処理し、パーオキサイドが分解してラジカルになり、そしてグラフトを開始する。この方法の利点は、中間体のパーオキシ産物が、グラフト段階を行う前に、長期間において保存できることである。一方、相互照射法においては、ポリマーとモノマーは同時に照射されてラジカルが形成され、したがって付加が生じる。前照射法ではモノマーが放射線に曝されないため、この方法の明らかな利点は、同時照射法で発生するホモポリマー形成の問題から比較的免れることである。しかしながら、前照射法の短所には、直接照射による基材ポリマーの切断があり、グラフトコポリマーよりブロックコポリマーの形成を支配的に生ずる。
【0092】
この方法では、基材基質表面は反応性モノマーを含む溶液、例えば、tert-ブチルアミノエチルメタクリレート中で、浸漬、噴霧、またはブラッシングのような既知の方法でコーティングされる。tert-ブチルアミノエチルメタクリレートを溶かす力が十分であれば他の溶媒も使用できるが、適当な溶媒は、水および水/エタノール混合液であることが立証されており、基材基質表面は適当な溶媒で完全に湿らせる。反応性モノマー含有量が0.1重量%〜10重量%、例えば約5重量%の溶液が実用的に適していることが立証される。一般的には、基質表面を被うように連続的にコーティングを行い、コーティング厚みが1回で約0.1μmより厚くなることもあり得る。2つ、3つまたはそれ以上の異なる反応性モノマーを基材に共グラフトすることができる。本明細書に参照として組み入れられるChem. Mater. 1999,11: 1986-1989、J. Membr. Sci. 1993, 81: 295-305、J. Electrochem. Soc. 1995, 142: 3659-3663、およびReact. Polym. 1993, 21: 187-191を参照。
【0093】
反応性モノマーとは、ラジカル誘導グラフト重合反応に参加できるいかなる化合物である。したがって反応性モノマーは側鎖の反応に組み入れられ、ポリマーブラシを形成する。本発明では、基材との重合反応に関わる前に、オリゴマーは反応性モノマー間の副反応で形成されるので、簡単にする都合上、モノマーという用語を使う。このようなオリゴマーまたはポリマーも本発明に有用である。前述のように、複数の官能基(例えば、単一モノマーブラシ上の3つの官能基)をもつモノマー側鎖ブラシが得られる。
【0094】
基材と反応性ポリマーは同様な化合物であることもあり得る。例えば、ポリエチレン基材は、グラフト反応にエチレンモノマーまたはポリマーを利用することは可能である。本発明に使用できる反応性モノマーは、例えば、ビニルモノマーとヘテロサイクリックモノマーを含む。適する反応性モノマーの他の特別な例は、グリシジル基を有するビニルモノマー、例えば、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメチリタコネート、エチルグリシジルマレエートとグリシジルビニルスルホネート、ならびにシアノ基を含むビニルモノマー、例えば、アクリルにトリル、ビニリデン、シアナイド、クロトノニトリル、メタクリロニトリル、クロロアクリロニトリル、2-シアノエチルメタクリレート、および2-シアノエチルアクリレートを含む。これらは官能基の固定化のためにエポキシド基を有し、反応性重合部位を提供するビニル基を有するため、反応性モノマーとして有用である。開環反応、すなわちポリGMAブラシのエポキシ基をジオール基に転化する反応は、本明細書に参照として組み入れられるJ. Membr. Sci. 1996, 117: 33-38に説明されている。
【0095】
反応性モノマーは重合反応によって基材に共有的に結合するか、または、別個に形成して基材に付与もしくは粘着する。反応性モノマーは、基材にグラフトしたポリマーブラシを形成する。グラフト率は基材および反応性モノマーの選択、重合法、所望のブラシの長さおよび幅によって決められる。場合によっては、得られた本発明のポリマーブラシは生物活性を有し、例えば、製品または器具の表面にあるtert-ブチルアミノエチルメタクリレートは抗菌活性を示す。
【0096】
修飾またはグラフトした材料の測定は、例えばグラフト率、厚みまたは重さの測定、含水率、IR法(FTIR-ATRなど)、イオン交換基の中和測定、ゼタ電位、ドーナン法、原子間力顕微鏡(AFM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、接触角の測定、XPS(X線、フォトエレクトロン光度計)およびSIMS(二次イオン質量分析)によって決定できる。
【0097】
活性化した表面に適用する反応性モノマーのグラフト共重合は、同じくラジカル誘導重合に影響され、可視範囲にある短波長放射線またはUV範囲にある長波長の電磁放射線によって開始される。UVエキシマの250nmから500nm波長の放射線、好ましくは290nmから320nmの波長が特に適している。前述した範囲で十分な放射線を発するならば、水銀灯も適している。曝露時間は一般的に10秒から30分、好ましくは2分から15分の範囲である。適する放射線源は、例えば、UVエキシマ機器(HERAEUS Noblelight, Hanau, Germany)である。しかしながら、水銀灯も、前述した範囲で十分な放射線を発するならば、適している。曝露時間は一般的に0.1秒から20分、好ましくは1秒から10分である。
【0098】
UV放射線を用いる反応性モノマーと基材との活性化は光増感剤の添加によって、さらに増加することができる。適する光増感剤は、例えばベンゾフェノン、基質の表面につけて照射する。ここでは、照射は水銀灯を用いて、0.1秒から20分、好ましくは1秒から10分の曝露時間で行うことができる。
【0099】
本発明によると、活性化は空気中または窒素中またはアルゴン雰囲気下で、高周波数またはミクロ波のプラズマ(Hexagon, Technics Plasma, 85551 Kirchheim, Germany)によって達することができる。曝露時間は一般的に30秒から30分の範囲、好ましくは2分から10分である。実験室機器のエネルギー出力は100Wから500W、好ましくは200Wから300Wである。例えば、コロナ機器(SOFTAL, Hamburg, Germany)はポリマーの活性化のために使用される。この場合では規定として、曝露時間は1分から10分、好ましくは1秒から60秒間である。
【0100】
表面の燃焼も同じく反応性モノマーと基材との活性化を導く。適する器具、特に防護火炎面(barrier flame front)を有するものを、簡単に構築または得ることができる。例えば、ARCOTEC, 71297 Monsheim, Germanyがある。その器具は炭化水素または水素を可燃性ガスとして利用できる。全てのケースにおいて、基材の有害な過度の加熱は避けるべきである。燃焼する面に向けない基質の表面を冷やした鉄の表面と親密に接触させることによって達成できる。したがって、燃焼による活性化は比較的に薄くて平らな基材に限る。曝露時間は一般的に0.1秒から1分の範囲で、好ましくは0.5から2秒の範囲である。火炎は例外なく非発光のものであり、外側火炎面(outer flame front)と基質表面との距離は0.2cmから5cmの範囲で、好ましくは0.5cmから2cmである。
【0101】
イオン化放射線開始重合の場合、前述の紫外放射線に加えて、電子線、X線、α線、β線、γ線などが使用できる。グラフト重合の条件は、基材ポリマーの結晶と非晶構造、溶媒またはガスの影響、温度、pH、基材の親疎水性、反応性モノマー、照射線量および曝露の間隔、ならびに照射によって発生するラジカルの種類によって変わる。当業者ならば、これらの変数を知り、それによって、例えば電子線またはコバルト60源からのγ線による活性化には、一般に約0.1秒から約60秒の短い曝露時間、約1kGyから約500kGyの照射線量が割り当てられるように、実験条件を調節する。このようは高エネルギー放射線源は、一つ以上の基材の内部表面にラジカル誘導重合反応を望まれるように開始する用途に適している。
【0102】
ポリマーブラシの作製には複数のグラフト段階が使用されうる。基材にラジカルを発生させる、例えばポリマーをグラフトするためのラジカルをつくるには、ポリマー基材を室温、窒素雰囲気下で照射する。このような現行の好ましい態様においては、電子線加速器を用いて照射を行う。反応性モノマーのグラフト重合(例えば液相グラフト重合)は、ポリマーブラシの形成のため、基材に行う。したがって、グラフトポリマー#1が得られる。上記のプロセスを繰り返して、グラフトポリマー#2、グラフトポリマー#3等々が得られる。さらに、所望のブラシ構造の集合によって、グラフトプロセスはいかなる段階でも止めることができる。各グラフト段階に異なる反応性モノマーを使用してもよく、多数の官能基または生物活性分子を固定化するための複数のブラシ組成物が提供される。このプロセスは、官能基の固定化後に行う追加グラフト反応を含む。
【0103】
機能性ブラシ
本発明は、基材のラジカル誘導重合またはそれによって形成されるポリマーブラシを基材へグラフトをするための方法および組成物を提供し、そして、複数のポリマーブラシ構造を有する基材を提供する。これらのポリマーブラシ自体は、例えば、ポリマーブラシのサイズ、ブラシ密度、およびブラシの形態による物理的特性をもつ。しかしながら、本発明は、さらに固定化された官能基を有するポリマーブラシを提供する。官能基を固定化する方法は周知であり、ブラシへの官能基の固定化に適している(本明細書に参照として組み入れられるJ. Membr. Sci. 1993, 76: 209-218を参照)。一種類以上の官能基をブラシに固定化することができ、所望の機能性によって、1つ、2つ、3つ、4つまたは5つまたはそれ以上の異なる種類の官能基が固定されうる。
【0104】
ブラシへ官能基を結合するための薬剤
基材自体は実質的に反応性でないまたは不活性の材料であるが、本発明では反応性基材の利用が許される。逆に、ポリマーブラシはブラシ表面での一つ以上の反応性基を含み、機能性または多機能性ポリマーブラシが許容される。本発明において、基材およびポリマーブラシはそれぞれ2つの異なる機能部位を担うことができる。
【0105】
官能基を固定化するための各種の方法は、例えば物理的吸着(イオン結合および水素結合のような非共有ブリッジ、疎水性相互作用、ならびにファン・デル・ワールス力)、反応基による固定化、アミノプロピルトリエトキシシラン・ブリッジ、グルタルアルデヒド、またはビス(スルホサクシンイミドイル)スベレートによる活性化、またはアルデヒド基、ホスホロアミダイト基、ペプチド基、ビオチンまたはアビジンによる結合、プロテインAまたはG、金属を有する媒体による付与、例えばキレート形成イミノジアセテート基、銅イオン、ニッケルイオン、第二鉄イオンまたは第一鉄イオン、亜鉛イオン、マグネシウムイオン、マンガンイオン、コバルトイオンまたは錯体を含む同様な荷電種、酸化基による共有結合、例えば、抗体Fc領域の炭水化物の部分を過ヨウ素酸で酸化してアルデヒド基を形成したあと、アガロース、シリカ、アクリル系コポリマー、およびセルロースのようなヒドラジド活性化した固相支持体に化学的な結合を含む。核酸を固定化する方法は、例えば、(i)電気化学的吸着:正荷電の固相支持体と負荷電のオリゴヌクレオチドとの静電的相互作用、(ii)配列特異的ハイブリッド形成のための電気化学的吸着したオリゴヌクレオチドとその相補的標的とのハイブリッド形成、アビジン-ビオチン錯体化、といった吸着と、(i)カルボジイミド法を用いたデオキシグアノシン基(別称、カルボン酸基(-COOH))、(ii)アミノ基(-NH2)、リン酸基による共有結合とを含む。有機合成(またはペプチド合成)はポリマーブラシ上で直接にまたは固定化した官能基上で行うことができる(本明細書に参照として組み入れられる米国特許第6,306,975号を参照)。他のカップリング化学法は当業者に周知であり、そして、グラフト重合法を用いることによって、複数の官能基を有する固相支持体を合成することができる(本明細書にすべて参照として組み入れられるJ. Biochem. Biophys. Methods 2001,49: 467-480, Radiat. Phys. Chem. 1987,30: 263-270, Biosens. Bioelectron. 2000,15: 291-303, Analytica Chimica Acta 1997,346: 259-275, Chem. Rev. 2000,100: 2091-2157, Tetrahedron 1998,54: 15383-15443, Radiat. Phys. Chem. 1986,27: 265-273, and Solid-Phase Synthesis and Combinatorial Technologies by Pierfausto Seneci, John Wiley & Sons, Inc., 2000を参照)。
【0106】
ブラシ表面へ分子の固定化するもう一つの方法は、限定されないが式SiX3-Rのシランである。式中のXはメチル基または塩素のようなハロゲン分子であり、およびRは本明細書に記載のコーティング材料となりうる官能基またはコーティング材料と反応できる基である。特定のシラン末端化合物は、ビニルシラン、シラン末端アクリル酸、シラン末端ポリエチレングリコール(PEG)、シラン末端イソシアン酸、およびシラン末端アルコールを含む。当業者はシランを表面と反応させる種々の方法を周知である。例えば、エタノール水溶液中に存在する表面をジクロロメチルビニルシランと反応させることは可能である。これで、--O--Si結合によって表面に強く結合または直接シリコン分子に結合する。そして、シランのビニル基を、適当かつ当技術分野において周知の化学法により、本明細書に記載の高分子材料と反応させることが可能である。例えば、メタクリレート末端を有するPEGは、シランのビニル基と反応することによって、本装置の表面に共有結合するPEGが得られる。
【0107】
それに加えて、当技術分野で周知のように、官能基または生物活性分子の活性を改善また結合を促進するために、スぺーサー分子を官能基とポリマーブラシの間に挿入することは可能である。ブラシの伸長した形態はスペーサーとして機能させてもよく、または別の化学スペーサーを追加して使用してもよい。
【0108】
これらの官能基は本発明の組成物に特定の性質を付与する。例えば、官能基は有効なまたは活性を持つ表面積を変化するにつれて、結合容量を変える。ある形態においては、特定のブラシ形状を提供する。他の形態においては、特定の強度、化学耐久性、酵素特性、生物活性分子または他の官能基に対する親和性を付与して、または組成物に他の有効な機能性を提供する。従来のイオン交換樹脂は基材および官能基に依存せず、異なる機能を果たす。
【0109】
本発明の組成物のブラシに固定化する適当な官能基は、例えば、イオン交換基、すなわち陰イオン性解離基および陽イオン性解離基、親水性官能基、ならびに他の官能基を含み、他の分子を吸着および/または固定化する能力をもつ。
【0110】
一つ以上の陰イオン性解離基をポリマーブラシによって固定化することができる。適当な陰イオン性解離基の例は、第4級アンモニウム塩基、ならびに第1級、第2級、および第3級アミノ基またはアミド基を含む。特定の例は、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、およびジエチルアミノ基を含む。好ましい陰イオン性解離基はアミノ基および第4級アンモニウム塩基を含む。本発明に有用かつ陰イオン性解離基を含む反応性モノマーは、例えば、ビニルベンジルトリメチルアンモニウム塩、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノメチルメタクリレート、3級ブチルアミノエチルアクリレート、3級ブチルアミノエチルメタクリレートとジメチルアミノプロピルアクリルアミドを含む。陰イオン性解離基に転化できるエポキシド基を有する反応性モノマーも本発明に有用である。このような反応性モノマーの一例として、グリシジルメタクリレートがある。エポキシド基を陰イオン性解離基に転化するアミンの一例としてジエチルアミンがある。
【0111】
一つ以上の陽イオン性解離基をポリマーブラシによって固定化することができる。陽イオン性解離基の例は、例えば、カルボン酸基、スルホン基、リン酸基、スルホエチル基、ホスホメチル基、カルボメチル基を含む。望ましい陽イオン性解離基はスルホン基およびカルボン酸基を含む。本発明に有用かつ陽イオン性解離基を有する反応性モノマーは、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンスルホン酸およびその関連の塩、ならびに2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を含む。
【0112】
一つ以上の親水基をポリマーブラシによって固定化することができる。親水基は空気中の水分子を捕捉して、本発明の膜の表面に吸着水層を形成することができる。親水基は空気中と同じく水中でも同様な働きをする。適当な親水基の例は、例えば、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基(ここでのアルキル基は低級アルキル基が好ましい)、アミノ基およびピロリドニル基を含む。望ましい親水基は、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基とピロリドニル基を含む。一つ以上の親水基をポリマーブラシに固定化することができる。本発明に有用かつ親水基を有する反応性モノマーは、例えば、エタノールアミン、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ビニルピロリドン、ジメチルアクリルアミド、エチレングリコールモノメタクリレート、エチレングリコールモノアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、およびトリエチレングリコールメタクリレートを含む。よって、ポリマーブラシ自体が官能基を含んでいてもよく、またはブラシに官能基を固定化してもよい。
【0113】
一つ以上の官能基をポリマーブラシに固定化することができる。これらの官能基を組合わせて、または独立した多層に固定化することができ、組成物に追加の機能性を付与する。例えば、本発明は、酵素活性を有する膜組成物を提供する。例として、ポリペプチド基質をリン酸化する能力、制限部位での核酸またはポリペプチドを消化する能力、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドを放射性ラベル化する能力、または生物的もしくは化学的反応を触媒する能力がある。ポリマーブラシに固定化するまたはポリマーブラシで単離される酵素官能基、および利用可能な酵素には、制限されないがアスコルビン酸オキシダーゼ(例えば血液、尿または他の試料の診断試験でアスコルビン酸の干渉を避けるため)、アスパルターゼ(例えばL-アスパラギン酸をフマル酸へ転化するため)、アミノアシラーゼ(例えばアセチル-D,L-アミノ酸をL-アミノ酸へ転化するため)、チロシナーゼ(例えばフェノール、ピルビン酸、およびアンモニアからチロシンを合成するため)、リパーゼ(例えばシアノエステルをイブプロフェンへ加水分解するまたはジルチアゼム前駆体を加水分解するため)、ペニシリンアミダーゼ(例えばアンピシリンおよびアモキシシリンの生産のため)、ヒダントイナーゼおよびカルバミラーゼ(例えば5-p-HP-ヒダントインをd-p-HPグリシンへ加水分解するため)、DNAase(例えばDNAをオリゴヌクレオチドへ加水分解するため)、ウシ肝臓カタラーゼ(例えば過酸化水素の加水分解のため)、トリプシンおよびキモトリプシン(例えばホエータンパク質の加水分解のため)、アルギナーゼおよびアスパルギナーゼ(例えばアルギンおよびアスパラギンの加水分解のため)、プロテアーゼ(例えば繊維から有機汚れを除去するため)、リパーゼ(例えば繊維から油性汚れを除去するため)、アミラーゼ(例えば繊維からデンプン食残物を除去するため)、セルラーゼ(例えば布の繊維の滑らかな表面および元の色を回復するため)、プロテアーゼとリパーゼ(例えば風味の強化および食べ物の熟成プロセスを促進するため)、ラクターゼ(例えば規定食の要件のための低ラクトースミルクおよび関連製品の生産)、β-グルカナーゼ(例えばワインの浄化プロセスを促進するため)、セルラーゼ(ワイン作りにおいて細胞壁の分解を促進するため)、セルラーゼとペクチナーゼ(例えばワインの浄化と保存安定性を改善するため)、ペクチナーゼ(例えば果汁の抽出および果汁の粘度低下を改善するため)、セルラーゼ(例えば果汁の収率および色を改善するため)、リパーゼ(脂肪および油の加水分解、または脂肪酸、グリセリン、脂肪酸(薬品、風味、香水および化粧品の生産に使用)の生産のため)、α-アミラーゼ(例えばデンプンの液化またはゼラチン化デンプンの断片化のため)、アミノグルコシダーゼ(例えば糖化、またはデンプンおよびデキストリンのグルコースへの完全分解のため)、グルコアミラーゼおよびプルラナーゼ(例えば糖化のため)、グルコースイソメラーゼ(例えばグルコースの異性化のため)、α-アミラーゼ(例えばデンプンをフルクトースへ転化するため)β-グルカナーゼ(例えばβ-グルカンの還元のため)、β-グルカナーゼ(例えばβ-グルカンおよびペントサンの還元のため)、リパーゼ、アミダーゼ、およびニトリラーゼ(例えば薬品および農薬の鏡像異性体の製造のため)、リパーゼ(例えば皮産業における脱脂プロセスでの脂肪除去のため)、アミラーゼおよびセルラーゼ(例えば繊維産業における低価値の未加工材料から繊維を製造するため)、キシラナーゼ(例えば製紙のための漂白したパルプの生産における前処理時の漂白触媒として)、β-ガラクトシダーゼ(例えばラクトースをグルコースに加水分解するため)、トリプシンおよびキモトリプシン(例えばミルクにある高分子量タンパク質の加水分解のため)、α-ガラクトシダーゼとインベルターゼ(例えばラフィノースの加水分解のため)、α-アミラーゼ、β-アミラーゼおよびプルラナーゼ(例えばデンプンをマルトースへ加水分解するため)、ペクチナーゼ(例えばペクチンの加水分解のため)、エンドペプチダーゼ(例えばk-カゼインの加水分解のため)、プロテアーゼおよびパパイン(例えばコラーゲンおよび筋肉タンパク質の加水分解のため)、グルコースオキシダーゼおよびカタラーゼ(例えばグルコースをグルコン酸へ転化するため)、リパーゼ(例えばトリグリセライドを脂肪酸およびグリセロールへ加水分解するため、オリーブオイルトリグリセライドを加水分解するため、大豆オイル、バターオイルグリセライド、およびミルク脂肪を加水分解するため)、セルラーゼおよびβ-グルコシダーゼ(例えばセルロースをセロビオースおよびグルコースへ加水分解するため)、ならびにフマラーゼ(例えばフマル酸を1-リンゴ酸へ加水分解するため)を含む。代わりになるものとして、微生物またはそのフラグメントが官能基になりうる。例えば、シュードモナス・ダクンハエ(dacunhae)(例えばL-アスパラギン酸のL-アラニンへの転化のため)、クルブラリア・ルナータ/単純カンジダ(例えばコルテキソロンをヒドロコルチソンおよびプレドニゾロンへ転化するため)、または酵母(例えば糖の発酵および嫌気性発酵のため)があり、全てがポリマーブラシに固定化できる。
【0114】
官能基は、全ての親水基、陰イオン性解離基または陽イオン性解離基、ならびに酵素を含む。さらに具体的には、ポリマーブラシは複数の官能基(例えば陰イオン性解離基と親水基、または陽イオン性解離基と親水基)、または3種の官能基(例えば親水基、陰イオン性解離基、および陽イオン性解離基)、またはそれ以上の官能基(例えば親水基、陰イオン性解離基、陽イオン性解離基、酵素、SpA、および一つ以上のFv抗体フラグメント)を有しうる。本発明に適当な官能基の組み合わせは、例えば、イオン基と非イオン基、すなわちアミン基と共存する親水基を含む。好ましい態様には、上記の第1の官能基に組み合わせて第2の官能基をさらに含む。現行の好ましい態様において、第1、第2、第3、および第4の官能基はポリマーブラシに多層に固定化される。したがって、本発明の主な特徴の一つとして、試料溶液中に存在する親水性ドメイン(非イオン性)を有する各種の分子は、イオン性ドメイン(陰イオンまたは陽イオン)を有する分子、あるいはリン酸化状態を有する分子、または結合部位またはヌクレオチドもしくはポリペプチド配列を有する分子が回収、精製、濃縮・単離、修飾、合成でき、またはそれを本発明の組成物と共に使用できることである。基質生物活性分子の結合を変化させるために官能基を変えてもよく、それによって、インビボでの解離速度を調節して、結合した基質生物活性分子の放出が制御される。このような改変または化学的修飾は、本発明の組成物において達成してもよく、またはポリマーブラシ表面に固定化する前に達成してもよい。
【0115】
官能基は抗体またはその関連ドメインもしくはフラグメントを含みうる。例えば、ヒドロキシスクシンイミドエステルは、ライシン残基により本組成物に抗体を固定化する方法を提供する。上記の炭水化物部分は、ポリマーブラシまたは官能基へ固定化するためのもう一つのソースを提供する。抗体の基本構造ユニットがテトラマーを含むことは周知である。それぞれのテトラマーはポリペプチド鎖対の2組(同一)からなり、各対は1つの軽鎖(約25kDa)と1つの重鎖(約50〜70kDa)とを有する。各鎖のアミノ末端部分は、基本的に抗原認識のための約100から110個またはそれ以上のアミノ酸の可変領域を有する。各鎖のカルボキシ末端部分は、基本的にエフェクター機能のために働く不変領域を有する。ヒト軽鎖はκおよびλ軽鎖に分類される。重鎖はμ、δ、γ、α、またはεに分類され、それぞれ、IgM、IgD、IgA、およびIgE抗体のアイソタイプを定義する。軽鎖および重鎖において、可変および不変領域は約12個またはそれ以上のアミノ酸を有する「J」領域によって結合し、重鎖は約10個以上のアミノ酸を有する「D」領域を含む。一般に、Fundamental Immunology Ch. 7 (Paul, W.編、第2版、Raven Press, N. Y. (1989))を参照(全体が本明細書に参照として組み入れられる)。それぞれの軽/重鎖対の可変領域は抗体結合部位を形成する。したがって、完全な抗体は2つの結合部位を有する。両機能性または両特異性抗体以外は、その2つの結合部位は同様である。それらの鎖は、同様の一般構造である比較的保存されたフレームワーク領域(FR)を示し、その構造は過度に可変な領域(相補性決定領域またはCDRとも呼ばれる)に結合している。フレームワーク領域によって、各対の2つの鎖のCDRが整列し、特定なエピトープとの結合が可能になる。N末端からC末端にかけて、軽鎖と重鎖の両方は、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4ドメインを含む。各ドメインへのアミノ酸の割り当ては、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1987および1991))、またはChothia & Lesk, J. Mol. Biol. 196: 901-917 (1987)、Chothiaら、Nature 342: 878-883 (1989)の定義による。これら全てのドメインまたはフラグメントもしくは配列は、本明細書に記載の方法によってポリマーブラシに固定化できる。
【0116】
両特異性または両機能性抗体は異なる2つの重/軽鎖対と結合部位を有する人工的なハイブリッド抗体である。両特異性抗体は、ハイブリドーマの融合またはFab'フラグメントの連結を含む各種の方法によって作られる。例えば、Songsivilai & Lachmann Clin. Exp. Immunol. 79: 315-321 (1990), Kostelny et al. J. Immunol., 148: 1547-1553 (1992)を参照。従来の抗体の生産に比べて、両特異性抗体の生産は労働集約的なプロセスであり、収率も純度も一般的に低い。両特異性抗体は、単一結合部位(例えばFab、Fab'、およびFv)を有するフラグメントの形では存在しないが、上記に説明したように固定化できるので、ポリマーブラシに追加の機能性特性(すなわちリガンドに対する追加の特異性)を与える。本明細書に記載の方法によって、ポリマーブラシに、複数のアイソタイプ、種、およびエピトープ認識特性を付与することができる。
【0117】
ヒト化抗体またはキメラ抗体も適当である。これらを作製するためのアプローチは、1990年1月20日に出願した米国特許07/466,008号、1990年11月8日に出願した米国特許07/610,515号、1992年7月24日に出願した米国特許07/919,297号、1992年7月30日に出願した米国特許第07/922,649号、1993年3月15日に出願した米国特許第08/031,801号、1993年8月27日に出願した米国特許第08/112,848号、1994年4月28日に出願した米国特許第08/234,145号、1995年1月20日に出願した米国特許第08/376,279号、1995年4月27日に出願した米国特許第08/430,938号、1995年6月5日に出願した米国特許第08/464,584号、1995年6月5日に出願した米国特許第08/464,582号、1995年6月5日に出願した米国特許第08/463,191号、1995年6月5日に出願した米国特許第08/462,837号、1995年6月5日に出願した米国特許第08/486,853号、1995年6月5日に出願した米国特許第08/486,857号、1995年6月5日に出願した米国特許第08/486,859号、1995年6月5日に出願した米国特許第08/462,513号、1996年10月2日に出願した米国特許第08/724,752号、および1996年12月3日に出願した米国特許第08/759,620号、ならびに米国特許第6,162,963号、第6,150,584号、第6,114,598号、第6,075,181、および第5,939,598号、ならびに日本特許第3 068 180号B2、第3 068 506号B2、および第3 068 507号B2に詳しく議論され、説明される。Mendezら、Nature Genetics 15: 146-156 (1997)、ならびにGreenおよびJakobovits J. Exp. Med. 188: 483-495 (1998)も参照。1996年6月12日に公開された欧州特許第0 463 151号B1、1994年2月3日に公開された国際公開公報第94/02602号、1996年10月31日に公開された国際公開公報第96/34096号、1998年6月11日に公開された国際公開公報第98/24893号、2000年12月21日に公開された国際公開公報第00/76310号も参照。上記引用した特許、特許出願、文献の開示は本明細書にすべて参照として組み入れられる。説明のように、ヒト化抗体もしくはキメラ抗体、またはその関連ドメインもしくはフラグメントをポリマーブラシに固定化できる。
【0118】
機能化リポゾーム、マイクロスポンジおよびマイクロスフェアも本明細書に記載の材料に固定化できる。リポソームは、水溶性区分と膜質の内部区分を定義する典型的に球状の形につくられる脂質分子である。リポソームは内部区分に薬剤を捕捉することができて、そして細胞内の所望の部位へ薬剤を輸送することができる。リポソームに捕捉された薬剤はリポソームによって放出され、例えば、細胞膜を形成する脂質二重層に類似している利点から細胞内に取り込まれる。ネクスター製薬(NeXstar Pharmaceuticals)またはリポソーム社(Liposome, Inc)から得られるリポソームを含み、本明細書に記載の方法によって機能化すれば、各種の適当なリポソームを使用することができる。リポソームをポリマーブラシへ固定化する方法は幾つかあり、例えば、疎水性ポリマーブラシまたは官能基、例えば脂肪酸官能基との相互作用による方法がある。
【0119】
マイクロスポンジは生物活性分子を捕捉できる空孔網を有する表面積の広い高分子スフェアである。マイクロスポンジは典型的にはビニルとアクリルモノマーとを用い、水系懸濁重合によって合成される。形状を安定させるため、重合したスフェアを架橋できるようにモノマーは単一または両機能性ともなりうる。空孔の体積および溶媒に対する膨潤性を制御するためにプロセスの条件およびモノマーの選択は可変である。そして、平均直径の範囲が制御されたマイクロスポンジを合成でき、直径約2マイクロメートル以下の小さいものも含まれる。標準のビーズ組成はスチレンとジビニルベンゼン(DVB)のコポリマーである。機械的ストレスもしくは温度的ストレス、または超音波処理によって、高分子マイクロスポンジに捕捉された薬剤は徐々に放出される。アドバンスドポリマーシステムズ(Advanced Polymer Systems)から市販されているマイクロスポンジを含み、本明細書に記載の方法によって機能化すれば、各種の適当なマイクロスポンジを使用することができる。これらはポリマーブラシへグラフトするか、または本明細書に記載の開示を考慮して、当技術分野で周知の標準的な化学技術によって固定化することができる。
【0120】
したがって、得られた基材は、さらに一つ以上の官能基を固定化できる複数のポリマーブラシを含む。このような組成物は広範囲の組み合わせを提供し、各種のプロセスに有用であり、例えば本明細書で開示のプロセスおよび製品、ならびに環境、ろ過、医療、医薬、および生物工学の当業者に周知の同様な用途に有用である。このような等価な組成物およびプロセスは本発明の範囲内と考慮する。
【0121】
本発明は、次の実施例によってさらに説明されるが、特許請求の範囲に記載の本発明の範囲を制限するものではない。
【0122】
実施例1 アスコルビン酸オキシダーゼを固定化するための膜組成物の調製経路
中空糸型多孔性膜を含む基材を幹ポリマーとして用いた。この中空糸ファイバーはポリエチレン製で、内径および外径はそれぞれ1.8mmおよび3.1mm、平均孔径は0.4ミクロン、空孔率が70%である。反応性モノマーのグリシジルメタクリレート(GMA、CH2=CCH3COOCH2CHOCH2)は東京化成株式会社から購入し、さらなる精製は行わずに使用した。陰イオン交換基としてのジエチルアミノ(DEA)基を含む多孔性中空糸膜の4つの段階からなる調製経路を図1(a)に示す。(1)ラジカル形成のための幹ポリマーへの電子線照射:カスケード型電子加速器(Dynamitron model IEA 3000-25-2、Radiation Dynamics Inc.、New York)を用いて、ポリエチレン多孔性中空糸膜を室温にて窒素雰囲気下で照射した。照射線量は200kGyに設定した。(2)反応性モノマーのグラフト:照射した基材を10 v/v% GMA/メタノール溶液に浸して、313Kで12分反応させた(参照として組み入れられるJ. Membr. Sci., 71: 1-12, 1992)。(3)標的タンパク質を特異的に吸着する陰イオン交換基の導入:GMAグラフト膜を50 v/v%ジエチルアミン(DEA)/水溶液と303Kで2時間反応させた。(4)他のタンパク質の非選択的吸着のブロッキング:膜をエタノールアミン(EA)に303Kで6時間浸すことによって、未反応のエポキシ基を不活性の2-ヒドロキシエチルアミノ基に転化した。得られた組成物はDEA-EAファイバーとよぶ多孔性中空糸膜である。
【0123】
膜組成物へのアスコルビン酸オキシダーゼの固定化
アスコルビン酸オキシダーゼは旭化成株式会社(日本)からの提供である。他の化学薬品は分析グレードである。アスコルビン酸オキシダーゼ(AsOM)を酵素官能基としてDEA-EAファイバーに固定化するため、シリンジポンプを用いて、以下の溶液を連続的に、室温で1ml/分の一定の透過流速で、長さ2cmのDEA-EAファイバーの空孔に透過させた:(1)平衡化するための14 mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)、(2)酵素をファイバーの空孔にあるジエチルアミノ基含有グラフトポリマー鎖へ吸着させるための酵素含有緩衝液(1Lの緩衝液に酵素0.50g)、(3)空孔を洗浄する緩衝液、(4)ポリマーブラシに固定化された酵素を架橋するための0.50 wt%グルタルアルデヒド水溶液、および(5)非架橋酵素を溶出するための0.50M NaCl溶液。上記の一連の手順を経て、中空糸の外側の表面から透過した溶出液の酵素濃度を235nmにおけるUV吸光度を測定して決定した。イオン交換吸着とその後の架橋により固定化した酵素の量、Qは以下の式によって算出した:
Q(mg/g) = [(吸着した量)-(洗浄した量)-(架橋されていない量)]/(乾燥した膜の重量)
得られたアスコルビン酸オキシダーゼ固定化多孔性中空糸膜をAsOMファイバーとよぶ。
【0124】
膜組成物を透過するときの活性の測定
長さ2cmのAsOMファイバーを図1(b)のようにI型にセットした。AsOMファイバーを調整するため、20mM酢酸緩衝液(pH4.0)をAsOMファイバーの内側から外側に向けて、30ml/hの一定透過流速で、強制透過させた。そして、基質溶液としてのアスコルビン酸(AsA)溶液(AsA濃度範囲は0.025から0.10mMまで)を、AsOMファイバーの内側表面から外側表面に向けて、30〜150ml/hの透過流速で流した。空間速度(SV)は以下のように定義した:
SV(h-1) = (AsA溶液の透過流速)/(内腔部を含むAsOMファイバーの体積)
【0125】
溶出液中のアスコルビン酸の濃度は、連続的に245nmのUV吸光度を測定して決定した。AsAからデヒドロアスコルビン酸への転化率および活性は以下のように定義した:
転化率(%) = 100 [(1-(溶出液中のAsA濃度)/(供給液中のAsA濃度)]
活性(mol/h/L) = (SV)[(供給液中のAsA濃度)-(溶出液中のAsA濃度)]
【0126】
AsOMファイバーの保存安定性を測定するために、緩衝液溶液に283Kで25日間保存したAsOMファイバーに同様の実験を行った。
【0127】
実施例2 アミノアシラーゼを固定化するための膜組成物の調製
グラフトするため、市販の多孔性中空糸膜(旭化成株式会社、東京、日本)を幹ポリマーとして用いた。この中空糸膜の内径および外径はそれぞれ1.8mmおよび3.1mm、平均孔径は0.24ミクロン、空孔率が70%である。アミノアシラーゼはシグマ社(No. 3333)から購入した。グリシジルメタクリレート(CH2=CCH3COOCH2CHOCH2)は東京化成株式会社から購入し、さらなる精製は行わずに使用した。他の化学薬品は分析用グレードまたはそれ以上である。中空糸型陰イオン交換多孔性膜は放射線グラフト重合法および続けて行う化学修飾により調製した(参照として組み入れられるJ. Chromatogr. A., 689: 211-218, 1995)。幹ポリマーを200 kGyの照射線量で電子線照射した後、10(v/v)%グリシジルメタクリレート(GMA)/メタノール溶液に313Kで12分間浸した。下に定義したようにGMAのグラフト率は160%であった。GMAグラフト中空糸を50(v/v)%ジエチルアミン(DEA)水溶液に303Kで1時間浸して、次にエタノールアミン(EA)に303Kで6時間浸した。エポキシ基から陰イオン交換基へのモル転化率を増加重量から算出した。得られた中空糸をDEA-EAファイバーとよぶ。
【0128】
陰イオン交換多孔性膜組成物の調整
透過方式でDEA-EAファイバーにアミノアシラーゼを吸着させる前に、DEA-EAファイバーを303Kで1時間、1M HClまたは1M NaOHに浸して調整した後、超純水で完全にすすいだ。HClおよびNaOH処理して得た膜をそれぞれDEA/ClファイバーおよびDEA/OHファイバーとよぶ。比較のため、調整していないDEA-EAファイバーを酵素結合のために使用した。膨潤比率は、調整されていないファイバーに対する湿潤状態の調整ファイバーの体積比として定義する。次に、膜を0.5M NaClに浸して、超純水で洗浄した後、膨潤比率を決定した。
【0129】
中空糸膜へのアミノアシラーゼの固定化
長さ7cmおよび2cmのDEA-EAファイバーをI型の構成にセットした。アミノアシラーゼの濃度が1.0mg/mlに達するように、アミノアシラーゼを14 mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)に溶かした。アミノアシラーゼ溶液をDEA-EAファイバーの内側表面に供給した。膜の厚みを横切る空孔を60 ml/hの一定流速で透過するように溶液を透過させた。中空糸の外側の表面から透過する溶出液を連続的に採取した。溶出液中のアミノアシラーゼは280nmのUV吸光度で測定して決定した。実験は室温で行った。吸着した酵素の量を下記の積分から算出した:
式中、C0およびCはそれぞれ供給液および溶出液の酵素濃度である。V、Ve、およびWはそれぞれ溶出液量、CがC0に達するときの溶出液量、および中空糸膜の重量である。次に、アミノアシラーゼ吸着中空糸を0.05 wt%グルタルアルデヒド溶液(pH8.0)に17時間、303Kで浸して、側鎖に捕捉された酵素を架橋した。空孔に0.5M NaClを透過させることによって、架橋されていない酵素を溶出し、その酵素濃度を決定した。架橋後に固定化したアミノアシラーゼの量を以下の式で算出した:
固定化アミノアシラーゼの量(mg/g) = [(吸着した量)-(溶出した量)]/(中空糸の重量)
架橋率(%) = 100(固定化した量)/(吸着した量)
得られた中空糸をアミノアシラーゼ固定化ファイバーとよぶ。
【0130】
アミノアシラーゼ固定化膜組成物の活性の決定
アセチル-DL-メチオニン(Ac-DL-Met)をアミノアシラーゼの基質として選択した。アミノアシラーゼ固定化ファイバーをI型の構成にセットした。シリンジポンプ(ATOM、1235N)を用いて、Ac-DL-Met溶液を30〜80ml/hの流速で、上記に定義の空間速度を40〜200h-1に変化させて、アミノアシラーゼ固定化ファイバーの空孔を透過させた。ニンヒドリン法(参照として組み入れられるBiotechnol. Bioeng., 19: 311-321, 1977)に従い、L-Metの濃度を決定するために、溶出液を採取した。Ac-DL-MetからL-Metへの転化率および膜の活性を以下のように定義した:
転化率(%) = 100(生成したL-Metのモル数)/(供給したDL-Metのモル数)
活性(mol/L/h) = [(転化率)/100](供給液濃度)(SV)
【0131】
実施例3 機能化した高分子ツール
プラスチックピペットチップへのポリGMAブラシのグラフト
本発明の容器は機能化したピペットチップを含む。市販されたピペットチップはEppendorf-Netheler-Hinz GmbH(Standartips 300mL)から購入した。ピペットチップはポリプロピレン製である。ピペットチップをポリエチレンパッケージに入れ、窒素を充填した。電子線照射はカスケード電子線加速器(Dynamitron IEA-3000-25-2、Radiation Dynamics, Inc.)を用いて、室温、電圧2MeV、電流1mAで行った。ポリエチレン繊維を載せたコンベアーは3.8cm/sの速さで往復させた。コンベアーの通過ごとの照射線量は10 kGyであった。曝した総電子線照射線量を50、100、150または200kGyに設定した。照射後、繊維を予め窒素で脱気したGMA溶液(10vol/vol%メタノールまたはブタノール中)に浸して、313K、真空中、所定時間で反応させた。GMAのグラフト後、繊維をジメチルホルムアミドとメタノールとで洗浄して、減圧下で乾燥した。グラフトしたGMAの量は以下のように定義した:
グラフト率 = [(W1-W0)/W0]*100%
ポリマーブラシの密度[mol/m2] = (W1-W0)/142/A
式中、W0およびW1はそれぞれ基材ピペットチップおよびGMAグラフトピペットチップの重量であり、Aはピペットチップの全表面積である。142はGMAの分子量である。ピペットチップの表面に付与したポリGMA鎖のエポキシ基を亜硫酸ナトリウムとトリメチルアミンとで反応させて、それぞれ陽イオンおよび陰イオン交換基に転化した。以下の式で、固定化したイオン交換基の密度を増加重量から算出した:
イオン交換基密度[mol/m2] = (W2-W1)/Mr/A
式中のMrは修飾する薬剤の分子量である。陽イオンおよび陰イオン交換ピペットチップの調製のため、残りのエポキシ基をそれぞれジオール基または2-ヒドロキシエチルアミノおよびトリメチルアミノ基に転化した。
【0132】
ポリGMAブラシのスルホン酸基およびトリメチルアミン基への機能化
ポリGMAブラシのエポキシ基を、GMAグラフトピペットチップをスルホン化薬剤(SSを含む亜硫酸水素ナトリウム(SS)/イソプロピルアルコール(IPA)/水:10/15/75重量比)に浸すことによって、スルホン酸(SO3H)基に転化した。スルホン化したあと、残りのエポキシ基を硫酸で親水化した。ポリGMAブラシのエポキシ基を、ジエチルアミン(DEA 50vol/vol%水中)またはトリメチルアミン-HCL(TMA-HCl/IPA/水 = 10/15/75重量%)と反応させた。第4級アンモニウム塩基を導入した後、残りのエポキシ基をエタノールアミンで親水化した。図30にこれらのチップの調製経路を示す。図31に示すように、乾燥状態のピペットチップの表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観測した。これらのグラフトチップの性能は表C、D、およびEにまとめて、以下に考察する。
【0133】
(表C) イオン交換ピペットチップによるタンパク質の吸着
*SS-Diolチップ:タンパク質としてリゾチーム、炭酸緩衝液(pH9.0)。DEA-EAまたはTMAチップ:タンパク質としてウシ血清アルブミン(BSA)、Tris-HCl緩衝液(pH8.0)。
【0134】
(表D) 陽イオン交換(SS-Diol)ピペットチップによるリゾチームの吸着
【0135】
(表E) 陰イオン交換ピペットチップによるBSAの吸着
【0136】
イオン交換チップによるタンパク質の回収
陽イオンおよび陰イオン交換チップのタンパク質回収性能を評価するために、炭酸緩衝液(pH9.0)中、0.5mg/mLの正に荷電したタンパク質の卵白リゾチームとTris-HCl緩衝液(pH8.0)中、0.5mg/mLの負に荷電したタンパク質のBSAとを用いた。150μLのタンパク質溶液を室温(約22℃)でイオン交換ピペットチップに導入して、チップに1.4秒間保持して、そして新しい試料バイアルに放出した。この順次プロセスの吸引および放出を1サイクルと定義する。バイアルにあるタンパク質の濃度はブラドフォード(Bradford)法(BIORAD、タンパク質アッセイキット)によって測定された。
【0137】
比較のため、市販されるイオン交換ピペットチップ、POROS-チップHSおよびHQはPEバイオシステムズ社(PE Biosystems)から購入した。上記の同じ実験方法でそれらの性能を評価した。SSおよびTMAチップより高い圧力損失を有するため、これらのビーズ充填ピペットチップには手動のピペット(GILSON、Pipetman 200)を使用した。これらのチップは全体が本明細書に参照として組み入れられる米国特許第6,048,457号および第6,200,474号に説明されている。
【0138】
元のピペットチップおよびGMAグラフトピペットチップのイオン交換チップの内側表面のSEM写真を図31に示す。イオン交換基のポリマーブラシへの導入によって、ピペットチップの内腔表面の粗さを増加した。これはポリマーブラシのイオン交換基または荷電基の静電的反発に誘導されるポリマーブラシの伸長を表す。
【0139】
イオン交換ビーズで充填した市販のピペットチップとは違って、ピペットチップの表面にはイオン交換ポリマーブラシが放射線誘導グラフト重合法とその次の化学的修飾によって直接に固定化された。市販のイオン交換ピペットチップと比べて、イオン交換ビーズが充填された上部には、タンパク質溶液のフロースルーの圧力損失が低いことが示された。説明のように、グラフト陽イオンおよび陰イオン交換ピペットチップのそれぞれの試料溶液中のHELおよびBSA濃度の低下を確かめた。
【0140】
実施例4 ポリマーブラシの連続修飾の順序変化によりタンパク質の多層度およびブラシの伸長度が制御される
放射線誘導グラフト重合法を用いて、ポリグリシジルメタクリレートブラシを、孔径0.4μm、空孔率70%の多孔性中空糸膜に付与した。ジエチルアミノまたはスルホン酸基をイオン解離性官能基として、2-ヒドロキシエチルアミノまたはジオール基を共存基として、ポリマー鎖に固定化した。イオン解離性官能基および共存の親水基の導入における連続的な化学修飾の順序の変化により、空孔表面にグラフトしたポリマーブラシの伸長の程度が決定する。得られた4種類のイオン解離性ポリマーブラシが固定化する多孔性中空糸膜を透水性およびタンパク質吸着性能について、ポリマーブラシの伸長程度を定量的に評価する透過方式にて決定した。第1段階においてイオン解離性基で修飾したポリマーブラシは、ブラシの伸長の程度が高く示され、エポキシ基からイオン解離性基への低い転化率において、タンパク質の多層結合が示された。スルホン酸基およびジオール基を固定化したポリマーブラシによる卵白リゾチームの同等な多層結合を観測するために、第1段階および第2段階においてポリマーブラシのエポキシ基からスルホン酸基への転化率はそれぞれ10%および60%であった。
【0141】
エポキシ基を含む反応性モノマーをグラフト重合した後、続けて行う化学修飾の順序は、すなわちイオン解離性基および共存親水基の導入は、ポリマーブラシ上のイオン解離性部分の密度を変化させるので、ポリマーブラシが伸長する程度を制御する。したがって、イオン解離性基を固定化したポリマーブラシを有する多孔性中空糸膜の透水性およびタンパク質の多層化を決定することにより、ポリマーブラシに沿うイオン解離性基の空間プロフィールに関する有用な情報が提供される。本明細書においては、ジエチルアミノ基またはスルホン酸基および2-ヒドロキシエチルアミノ基またはジオール基はそれぞれイオン解離性基および共存親水基として採用した。それに加えて、ウシ血清アルブミンおよび卵白リゾチームを、透過方式にて、それぞれジエチルアミノ基およびスルホン酸基を固定化したポリマーブラシへ吸着させた。
【0142】
多孔性中空糸膜(旭化成株式会社(日本)からの提供)をグラフト用の幹ポリマーとして使用した。中空糸膜の内径と外径はそれぞれ2mmおよび3mmであり、平気孔径は0.4μmで、空孔率は70%である。グリシジルメタクリレートは東京化成株式会社から購入し、さらなる精製は行わずに使用した。卵白リゾチーム(HEL)およびウシ血清アルブミン(BSA)はシグマ社から購入した。他の薬剤は分析用グレード以上である。
【0143】
空孔表面へのイオン解離性ポリマーブラシの合成
図9に示すように、放射線誘導グラフト重合法およびその次の化学修飾によって、4種類のイオン解離性またはイオン交換ポリマーブラシを、すなわち2種類の陰イオン交換ポリマーブラシと2種類の陽イオン交換ポリマーブラシを、多孔性中空糸膜に固定化した。化学修飾は連続的な機能化からなる:(1)イオン交換基、すなわちジエチルアミノ基およびスルホン酸基の導入まらびに(2)アルコールヒドロキシル基、すなわち2-ヒドロキシエチルアミノ基およびジオール基の導入である。ジエチルアミン、亜硫酸ナトリウム、エタノールアミン、および水を用いて、ポリGMAブラシのエポキシ基の開環反応によって、それぞれジエチルアミノ基(DEA)、スルホン酸基(SS)、2-ヒドロキシエチルアミノ基(EA)、およびジオール基を導入した。表Fに反応条件をまとめた。
【0144】
(表F) 多孔性中空糸膜にグラフトした4種類のイオン解離性ポリマーブラシの調製条件
(a)前照射法によるGMAのグラフト重合
電子線:
照射線量 200 kGy
雰囲気 N2雰囲気下
温度 室温
GMAのグラフト:
GMA濃度 メタノール中に10 vol%
温度 313K
反応時間 10,13分
(b)イオン解離性基および共存親水基の導入
【0145】
GMAグラフト後、連続的機能化の順序の変化によって、陰イオンまたは陽イオン交換ポリマーブラシを固定化した4種類の多孔性中空糸膜を作製した:得られた4種類の多孔性中空糸膜をDEA-EA、EA-DEA、SS-Diol、およびDiol-SSファイバーとよぶ。GMAのグラフト率を150%に設定した。記載の反応による増加重量から、GMAのグラフト率および転化率を算出した。
【0146】
イオン解離性ポリマーブラシを固定化した多孔性中空糸膜の透過性
有効長5cmの多孔性中空糸膜を図10に示す構成にセットした。Tris-HCl緩衝液(pH8.0)と炭酸緩衝液(pH9.0)とを、それぞれDEA-EAまたはEA-DEAファイバー、およびSS-DiolまたはDiol-SSファイバーを横切る空孔を通って半径方向に外側に向けて透過させた。一定の膜貫通圧力(0.05または0.10MPa)、298Kで強制的に透過させた。透過流束は以下のように算出した:
透過流束 = (透過流速)/(それぞれの中空糸膜の内表面積)
【0147】
空孔透過時のタンパク質の結合
緩衝液に溶かしたタンパク質を多孔性中空糸膜の空孔に強制的に透過させた。Tris-HCl緩衝液中のBSAと炭酸緩衝液中のHELとをそれぞれDEA-EAまたはEA-DEAファイバー、およびSS-DiolまたはDiol-SSファイバーに供給した。多孔性中空糸膜の外表面を透過する溶出液を分画バイアルで連続的に採取した。記載のUV吸光度の測定によって、それぞれのバイアルに存在するタンパク質の濃度を測った。平衡結合容量、すなわち供給液において平衡に達する結合したタンパク質の量は、下記の積分式によって評価した:
式中のC0およびCはそれぞれ供給液および溶出液のタンパク質濃度である。VおよびVeはそれぞれ溶出液量、およびCがC0に達するときの溶出液量である。Wは多孔性中空糸膜の乾燥重量である。
【0148】
陰イオンおよび陽イオン交換ポリマーブラシを固定化した多孔性中空糸膜の透過流束とエポキシ基から関連イオン解離性基への転化率との関係をそれぞれ図11(a)および(b)に示す。60%より低い転化率において、DEA-EAファイバーおよびEA-DEAファイバーはほとんど同様な透過流束を示した。転化率60%を超えると、DEA-EAファイバーの透過流束は徐々に低下した。逆に、SS-DiolファイバーとDiol-SSファイバーとでは著しい違いを示した。SS-Diolファイバーは転化率5%でも無視できるほど透過流束が低いが、Diol-SSファイバーは転化率50%になっても元の多孔性中空糸膜の40%の透過流束を維持した。
【0149】
エポキシ基からDEA基およびSS基への転化率とBSAおよびHELの多層結合度との関係をそれぞれ図12(a)および(b)、ならびに図13(a)および(b)に示す。転化率20%以上なると、DEA-EAファイバーはBSAを多層に吸着したが、EA-DEAファイバーでは単層結合容量に相当する一定のタンパク質結合容量を示した。逆に、SS-Diolファイバーは低い転化率においてHELの高い多層結合を示したが、Diol-SSファイバーでは、SS-Diolファイバーと同じHEL多層結合容量を示すには、転化率が約20%高い値にシフトした。例えば、SS-DiolファイバーおよびDiol-SSファイバーはそれぞれ5%および35%の転化率において、ほぼ同じ80mg/gのHEL結合容量を示した。
【0150】
ポリマーブラシの連続的化学修飾の順序の変化は、イオン解離性ポリマーブラシの性能に影響を与えた。図14に示すように、これは、多孔性中空糸膜にグラフトしたポリマーブラシ上のイオン解離性基の分布に関する簡単な原理で説明できる。第1の薬剤は機能化用であり、ポリGMAブラシの上部にあるエポキシ基をアタックして、第2の薬剤は下部の残りのエポキシ基を開環した。
【0151】
電子線の前照射によって、ラジカルがポリエチレンマトリックスに均一に発生するため、ポリエチレン製多孔性中空糸膜にグラフトしたポリGMA鎖は2つのドメインに形成される:(1)ポリエチレンマトリックスの深さに埋め込むポリマー鎖、および(2)空孔表面から空孔内部に向けて伸長するポリマー鎖である。
【0152】
DEA-EAファイバーのポリマー鎖は、DEA基に富んだ上部とEA基に富んだ下部からなる。エポキシ基からDEA基への転化率が20%を超えると、BSAはポリマーブラシによって多層に結合された。しかしながら、弱イオン解離性EA基がポリマーブラシの上部に導入されているため、転化率が60%を超えても、EA-DEAファイバーのポリマーブラシは空孔表面から空孔内部へ伸長されない。
【0153】
転化率5%でも、強イオン解離性ポリマーブラシを固定化したSS-Diolファイバーは低い透過流束および高いHELの多層結合度を当然示した。しかしながら、Diol-SSファイバーの性能はポリマーブラシのジオール基に富んだ上部の特性に制御される。それにもかかわらず、転化率が25%を超えると、ポリマーブラシは伸長し始め、HEL多層結合が生じる結果をもたらした。
【0154】
イオン解離性ポリマーブラシの伸長は、ポリマーブラシの長さ、イオン解離性基密度のような内部パラメーター、周りの溶液のpH、イオン強度のような外部パラメーターに決定される。これは、ポリマーブラシの伸長する程度を決定する新規なパラメーター -放射線グラフト重合法により作製したポリマーブラシのエポキシ基への連続的化学修飾の順序の変化- を提言する。多孔性中空糸膜の空孔表面にポリマーブラシを付与した。ポリGMAブラシの密度は多孔性中空糸膜1kg当り8〜12molに相当した。このようにして、連続的化学修飾の順序の変化は、ブラシの表面に沿って官能基を多層に固定化する。
【0155】
実施例5 多孔性中空糸膜の多層固定化したウレアーゼを用いた尿素の加水分解
ウレアーゼは、空孔率70%と厚み約1mmの多孔性中空糸膜の空孔表面にグラフトしたイオン交換ポリマーブラシに固定化された。固定化ウレアーゼの密度は膜1g当り1.6gに相当した。イオン交換吸着によってポリマーブラシに多層吸着したウレアーゼはトランスグルタミナーゼで架橋した。2M尿素溶液は、ウレアーゼ固定化ポリマーブラシに囲まれた空孔を通って半径方向に外側へ向けて、一定透過流速30mL/hで強制的に透過させた。固定化ウレアーゼ密度の増加とともに、尿素加水分解の反応率も310Kにて100%に増加した。初期尿素濃度を8Mに増加しても、尿素加水分解の反応率は80%高く維持された。
【0156】
酵素は多孔性中空糸膜にグラフトした荷電またはイオン交換ポリマーブラシに高速で多層化された。例えば、Tris-HCl緩衝液(pH8.0)に溶かしたウレアーゼ(pI5.1)を、対流的に正荷電した周囲、すなわち静電的反発によって伸長した陰イオン交換ポリマーブラシ、に輸送した。膜1g当り1.6gのウレアーゼはポリマーブラシに固定化された。
【0157】
ポリマーブラシに高密度で固定化したウレアーゼは尿素の有効な加水分解に使用できる。ここでは、尿素加水分解はアンモニアおよび二酸化炭素の形成でpH変化を起こして、静電的相互作用またはイオン交換吸着によりポリマーブラシに吸着した一部のウレアーゼがポリマーブラシから放出されるので、吸着したウレアーゼの架橋が必要となる。なお、酵素固定化多孔性中空糸膜を用いた新規な触媒システムは2つの異なる利点をもつ:(1)高密度の固定化酵素:酵素は、多孔性膜の空孔表面にグラフトしたイオン解離性ポリマーブラシに、イオン解離性ブラシの静電的反発により多層化される、(2)基質の高速輸送:膜貫通圧力による空孔を透過する基質溶液の対流輸送が、基質から固定化酵素ブラシへの拡散経路を狭くする。
【0158】
今まで、このような高濃度(2〜8M)の尿素の加水分解は報告されていない。ブラシに高密度で固定化したウレアーゼによって高濃度尿素の有効な加水分解が可能となる。本研究の目的は2つある:(1)多孔性中空糸膜に異なる固定化密度でウレアーゼを固定化する、(2)ウレアーゼ固定化多孔性中空糸膜の尿素加水分解性能を示す。
【0159】
陰イオン交換多孔性中空糸膜の調製
静電的相互作用に基づいてウレアーゼを吸着するために、ジエチルアミノ(DEA)基(-N(C2H5)2)を陰イオン交換基として多孔性中空糸膜に導入した。陰イオン交換多孔性中空糸膜の調製経路を図15に示す:調製手順は上に説明した。簡潔には、エポキシ基を含むビニルモノマー、グリシジルメタクリレートを電子線処理したポリエチレン製多孔性中空糸膜にグラフトした。GMAのグラフト率(dg)は下記に定義するように150%に設定した。グラフトポリマーブラシの一部のエポキシ基はDEA基に転化され、残りのエポキシ基はエタノールアミンで開環された。GMAグラフト膜を所定時間、ジエチルアミンに浸すことによって、上記に説明したエポキシ基からDEA基への転化率は最大80%まで達した。得られた陰イオン交換多孔性中空糸膜をDEA(x)-EAファイバーとよび、xは転化率である。
【0160】
膜を透過する時のウレアーゼの吸着
有効長1.2cmのDEA(x)-EAファイバーを図16に示す構成のようにセットした。中空糸膜の片方の末端をシリンジポンプにつなげ、もう片方を封じた。Tris-HCl緩衝液(pH8.0)中の濃度5.0mg/mLのウレアーゼ溶液を、中空糸の半径方向に内表面から外表面へ向けて、一定の流速30mL/h、310Kで透過させた(図16a)。中空糸の外表面を透過した溶出液を分画バイアルで連続的に回収した。それぞれのバイアルに存在するウレアーゼの濃度を280nmのUV吸光度にて測定し、決定した。DEA(x)-EAファイバーに吸着したウレアーゼの量は下記のように評価した:
式中のC0およびCはそれぞれ供給液および溶出液のウレアーゼ濃度である。V、Ve、およびWはそれぞれ溶出液量、CがC0に達するときの溶出液量、およびDEA(x)-EAファイバーの乾燥重量である。
【0161】
トランスグルタミナーゼでの架橋によるウレアーゼの固定化
グラフトポリマーブラシからウレアーゼの漏出を避けるために、ウレアーゼ結合膜を0.04 wt%のトランスグルタミナーゼ溶液に浸して、ウレアーゼを架橋した(図16b)。次に再び中空糸を透過方式にセットした。NaCl(0.5M)を中空糸膜の半径方向に外側に向けて透過させ、非架橋のウレアーゼを溶出した(図16c)。中空糸膜の外側表面に透過してきた溶出液のウレアーゼの濃度を連続的に測定した。ウレアーゼの吸着量からウレアーゼの溶出量を差し引いて、中空糸に固定化したウレアーゼの量を算出した。得られたウレアーゼ固定化多孔性中空糸膜をウレアーゼ(q)ファイバーとよぶ。qは固定化ウレアーゼの密度を示す。
【0162】
固定化ウレアーゼの活性の決定
2〜8Mの尿素溶液をウレアーゼ(q)ファイバーに、一定流速の30mL/h、310Kで強制的に透過させた。ウレアーゼ(q)ファイバーの外表面に透過してきた溶出液を連続的に回収した。溶出液中の尿素濃度はジアセチルモノキシム法によって決定した。尿素溶液の透過流速を一定させるために必要な圧力を測定した。
【0163】
DEA(x)-EAファイバーにおけるウレアーゼの破過曲線の一例、すなわち溶出液量に対するウレアーゼの濃度変化を図17に示す。縦軸は供給液に対する溶出液中のウレアーゼ濃度比であり、横軸は溶出液量を管腔部以外のDEA(x)-EAファイバー体積で割った無次元化溶出液量(DEV)である。各種のDEA基密度をもつDEA基含有ポリマーブラシに固定化されるウレアーゼの量を測定した。DEA基密度の増加とともに固定化したウレアーゼの量も増加した(図18)。これはDEA基密度の増加に誘導される高い静電的な反発によってグラフトポリマーブラシが基材表面からより長く伸長したからである。
【0164】
トランスグルタミナーゼで架橋することによって、約80%の結合酵素ウレアーゼが固定化され、結合ウレアーゼの量は0.2〜2.0g/gの範囲であった。例えば、エポキシ基からDEA基への転化率が70%のとき、多孔性中空糸膜に固定化した酵素の量はDEA-EAファイバー1g当りウレアーゼ1.5gであった(図18)。Uaseファイバーの性質を表Gにまとめた。
【0165】
(表G) ウレアーゼを固定化するための陰イオン交換多孔性中空糸膜の性質
【0166】
ウレアーゼ膜を用いた尿素の加水分解
基質、すなわち尿素を含む試料溶液の酵素固定化多孔性膜への透過は、バルクから酵素固定化ポリマーブラシへ拡散する物質移動抵抗が無視でき、固定化酵素の高い密度により多孔性膜の単位重量当りの高い酵素活性が示されることを確証する。固定化ウレアーゼの密度に対する2M尿素溶液の310Kでの加水分解の反応率を図19bに示す。反応率は固定化ウレアーゼ密度の増加とともに増加したが、DEA-EAファイバー1g当りのウレアーゼが1.4gを上回ると反応率は飽和した。
【0167】
図20に示すように、酵素の単位重量当りの加水分解した尿素の量は固定化ウレアーゼ密度の増加とともに減少した。この発見は、尿素の、バルクから固定化酵素ポリマーブラシとバルクとの間にある界面へ拡散する物質移動抵抗を無視できるかに関わらず、空孔表面にグラフトしたポリマーブラシにより多層固定化した酵素の深さ方向への尿素の拡散が、尿素の全加水分解速度における要因であることを示した。
【0168】
固定化酵素と遊離酵素の尿素反応率の比較を図21に示す。0.2時間の一定時間において、初期尿素濃度の増加は遊離型酵素の反応率を100%(2M尿素濃度)から40%(6M尿素濃度)へ急激に低下させた。一方、固定化酵素の反応率は初期濃度の8Mでも80%以上維持された(滞留時間0.2時間)。
【0169】
8M尿素を酵素固定化膜に透過させるときの溶出液量に対する尿素反応率と溶出液のpH変化とを図22に示す。溶出液量の増加にもかかわらず、pHおよび反応率は一定であった。
【0170】
エポキシ基含有反応性モノマーの放射線誘導グラフト重合およびジエチルアミンとの連続反応を用いて、ジエチルアミノ基を含むポリマーブラシをポリエチレン製多孔性中空糸膜に付与した。酵素を多層に吸着するため、陰イオン交換ポリマーブラシは静電的反発によって多孔性中空糸膜の空孔表面から伸長させた。ウレアーゼ溶液を陰イオン交換多孔性中空糸膜に透過させるとき、ウレアーゼは多層に吸着された。尿素加水分解の進行におけるpH変化に誘導されて酵素が漏出するのを避けるために、固定化ウレアーゼをトランスグルタミナーゼで架橋した。固定化ウレアーゼの密度は高くし、陰イオン交換多孔性中空糸膜1g当りウレアーゼ1.6gとした。尿素溶液(2〜8M)をウレアーゼ固定化多孔性中空糸膜に、12秒の一定の滞留時間、313Kで透過させた。尿素から多層化酵素への拡散物質移動抵抗のため、固定化酵素の単位質量当りの活性は低下したが、固定化ウレアーゼ密度の増加とともに、ウレアーゼ固定化多孔性中空糸膜の単位質量当りの活性は上昇した。
【0171】
図23に、一定透過流速1mL/hの尿素溶液におけるUase(1.2)ファイバーを用いた尿素の加水分解率と、溶出液量を中空糸の内腔以外の膜体積で割った無次元化溶出液量(DEV)との関係を示す。Uaseファイバーの内表面に供給した尿素溶液の濃度は2から8Mである。1mL/hの透過流速はUaseファイバーを透過する尿素溶液の滞留時間5.1分に相当する。尿素2Mおよび4Mの定量的な加水分解が達成され、6〜8M尿素における加水分解率はDEVの増加とともに徐々に低下した。
【0172】
Uaseファイバーを用いて、透過流速を膜体積で割った空間速度(SV)に対する4M尿素の加水分解率を図24に示す。SVが20h-1を下回るとき、すなわち滞留時間3.0分以上で、100%の尿素加水分解が観測された。つまり、Uaseファイバーへの尿素溶液の透過流速は尿素の全加水分解率を支配する。SVが増加すると、加水分解率は低下した。つまり、尿素の全加水分解率は、ポリマー鎖に多層化したウレアーゼへの拡散と固定化ウレアーゼの活性部位における本質的な反応とによって決定される。
【0173】
実施例6 タンパク質分離チューブの調製
タンパク質分離チューブの調製
本発明のもう一つの容器としては機能化したチューブが含まれる。Teflon(登録商標)製チューブ(内径1mm、長さ10cm)を電子線で照射した。電子線の総照射線量を20、30、50kGyに設定した。説明したように、総照射線量の増加はポリマーブラシ密度の増加をもたらす。グリシジルメタクリレート(GMA)をチューブの内部の表面にグラフトした。説明のようにGMAのグラフト率を計算した。次に、標準的な化学反応技術を用いて、GMAのエポキシ基をトリメチルアミン(TMA)基に転化した。本明細書に記載のさらなる使用のためにTMA転化率約90%のチューブを選んだ。
【0174】
イオン交換基含有チューブの性能
Cl-イオンまたはウシ血清アルブミン(BSA)溶液を作製したTMAチューブの内側に透過させた。流速を5mL/hに設定した。BSAおよびHCl溶液の供給濃度はそれぞれ0.05g/Lおよび2.5mMである。グラフト率および総照射線量に対するチューブの吸着性能、すなわち塩素イオン(Cl-)とウシ血清アルブミン(BSA)とを固定化する能力、を測定した。図25にイオン交換チューブの調製経路を示す。
【0175】
グラフト率に対するCl-およびBSAの破過曲線のプロフィールをそれぞれ図26および27に示す。グラフト率の増加とともにCl-およびBSAの吸着量も増加した。グラフト率が増加しても、Cl-の破過曲線は供給濃度の100%に達し、吸着が平衡に達したことを意味する。相反に、BSAの吸着はグラフト率の増加とともに徐々に増加した。
【0176】
総照射線量を一定に維持すると、グラフト率の増加によりポリGMAブラシの長さが増加した。したがって、BSAの1/10サイズで拡散係数の小さいCl-イオン(200 x 10-11)に対して、ポリマーブラシに沿って拡散する時間はポリマーブラシの長さに関係ない。しかしながら、Cl-イオンサイズより約10倍も大きいBSA(拡散係数 = 6.7 x 10-9)に対して、ポリマーブラシが長ければ、BSAのブラシへの拡散にはより多くの時間を要する。結果として、グラフト率2%のTMAチューブはBSAの段階的な吸着を示した。
【0177】
総照射線量を変化させると、ポリマーブラシの密度が変化した。総照射線量に対するCl-およびBSAの破過曲線をそれぞれ図28および29に示す。Cl-の破過曲線に対して、総照射線量と関係なくCl-の結合容量は一定であった。これはCl-イオンのサイズが小さいことによるものである。BSAに対して、総照射線量の増加とともに結合容量も増加した。しかしながら、BSAの吸着は50kGy照射したTMAチューブだけで平衡に達した。原理に拘束されることなく、総照射線量の増加はブラシ密度の増加をもたらし、BSAのブラシ内への透過を困難にする。
【0178】
実施例7 一つ以上のリガンドに特異的な親和性を有する機能化した材料
ラジカル誘導重合を開始するために、ピペットチップ、チューブ、ELISAプレート、および多孔性中空糸膜を電子線で照射した。適用した電子線の総照射線量を20、30、50kGyに設定した。内部の表面にグリシジルメタクリレート(GMA)をグラフトした。説明のようにGMAのグラフト率を計算した。
【0179】
ブドウ状球菌プロテインA(SpA)または放線菌プロテインG(SpG)、または細胞受容体FcRnをポリマーブラシ表面に固定化した。次に、血清、腹水、および培養細胞上清中に存在する免疫グロブリンを吸着するため、これらの機能化材料を用いた。高いイオン強度(約0.5M NaCl)の緩衝液を用いて、機能化材料から免疫グロブリンを溶出した。他の溶出条件も可能であり、当技術分野において周知である。溶出した免疫グロブリンは、アイソタイプ(すなわちヒト血清からのIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4)、ポリクロナール調製物(抗原をチャレンジしたウサギの血清から)、モノクロナール調製物(マウスの腹水および培養ハイブリドーマから)の混合物を含む。
【0180】
次に免疫グロブリン調製物を未使用の機能化材料に固定化して、ポリペプチドの免疫特異的な分離・精製に使用した。ここでの免疫グロブリン分子は、すなわちHIV gp120、プロテアーゼタンパク質、リバーストランスクリプターゼタンパク質、血球凝集素、ノイラミニダーゼ、IL-1、IL-6、TNF、ペプチドグリカン、CCR1、およびHER2遺伝子産物であり、特異的な親和性または結合力を有する。これらに対する抗体も複数の供給元から市販されている。
【0181】
キメラ抗体、ヒト化抗体、および両特異性抗体を含む全免疫グロブリン分子が使用できるが、本発明は免疫グロブリンフラグメント、すなわちFab、F(ab)2、Fv、およびFcドメインまたはフラグメントの使用も許容する。これらのフラグメントの固定化は当業者の能力範囲内である。
【0182】
等価物
上述の本発明の特定な態様の詳細な説明から、官能基を多層に固定化したグラフト重合材料を含む固有の組成物、ならびにその作製法および使用法を説明したことは明らかな筈である。本明細書において特定の態様を詳しく開示したが、これは実施例を示すことのみを目的とし、添付の特許請求の範囲を制限することを意図しない。特許請求の範囲に定義した本発明の範囲と趣旨から逸脱することなく、本発明に対して代用、変更、および修飾が可能であることは発明者によって熟慮される。例えば、官能基の組み合わせの数および種類、またはこれらの組成物の特定な装置への使用は、本明細書に記載の態様の知識を有する当業者にとって日常的なことと思われる。
【図面の簡単な説明】
【0183】
【図1】(a)多孔性中空糸膜を含む基材にグラフトしたポリマーブラシへ酵素アスコルビン酸オキシダーゼを固定化するための調製経路を示す図である。(b)アスコルビン酸オキシダーゼの固定化および酵素反応の触媒に用いられる膜を含む装置の図である。
【図2】膜へのアスコルビン酸オキシダーゼの固定化および架橋に対する濃度比プロフィール曲線を示す図である。
【図3】(a)基質溶液の流速に対する各種初期濃度におけるデヒドロアスコルビン酸の転化率をプロットした図である。(b)基質溶液の流速に対するデヒドロアスコルビン酸の生産率をプロットした図である。
【図4】膜の保存期間に対するアスコルビン酸からデヒドロアスコルビン酸への転化率をプロットした図である。
【図5】アミノアシラーゼを膜のポリマーブラシに多層に固定化した官能基を含む多孔性膜を用いての、N-アセチル-DL-アミノ酸のラセミ混合物の酵素的加水分解を示す図である。
【図6】(a)多孔性中空糸膜のブラシにアミノアシラーゼ酵素を多層に固定化するための調製経路を示す図である。(b)各初期濃度において、多層化されたアミノアシラーゼによるアセチル-DL-メチオニンからL-メチオニンへの転化率と試料溶液の流速との関係をプロットした図である。(c)固定化アミノアシラーゼの活性を示す空間速度に対する基質濃度をプロットした図である。
【図7】(a)多孔性中空糸膜のブラシにアミノアシラーゼ酵素を多層に固定化するための調製経路を示す図である。(b)多孔性中空糸ポリエチレン膜のブラシへの多層アミノアシラーゼの固定化と酵素反応の触媒作用を引き起こすために用いた装置の図である。ここでは、アミノアシラーゼがグルタルアルデヒドによってポリマーブラシに架橋される。
【図8】(a)アミノアシラーゼの固定化を示す。DEA膜、塩酸処理したDEA膜、およびNaOH処理した膜にアミノアシラーゼ溶液を透過させるときの溶出液の酵素の濃度変化をプロットした図である。(b)DEA膜、塩酸処理したDEA膜、およびNaOH処理した膜の透過圧力に対するアミノアシラーゼの固定化の変化を示すプロット図である。(c)官能基の多層固定化を増加するために塩酸処理したDEA膜の各基質濃度におけるアセチル-DL-メチオニンの不斉的加水分解のプロット図である。
【図9】4種類のイオン解離性あるいはイオン交換ポリマーブラシの調製経路を示す。つまり、陰イオン交換ポリマーブラシと陽イオン交換ポリマーブラシをそれぞれ2種類ずつ多孔性中空糸膜に固定化する。
【図10】DEA-EAおよびEA-DEA膜に生物活性分子の卵白リゾチーム(HEL)およびウシ血清アルブミン(BSA)を固定化するための装置を示す。
【図11】エポキシ基からそれぞれの解離性基への転化率に対する、ポリマーブラシにそれぞれ陰イオン交換および陽イオン交換官能基((a)および(b))を固定化した多孔性中空糸膜の透過流束を示す。
【図13】エポキシ基からDEA(a)およびSS(b)官能基への転化率に対する、BSAおよびHELのタンパク質の多層度を示す。
【図14】多孔性中空糸膜にグラフトしたポリマーブラシの前処理に対する解離性官能基の分布を示す。
【図15】陰イオン交換基を含むポリマーブラシへの生物活性分子ウレアーゼの固定化を示す。
【図16】ウレアーゼファイバー膜を含む装置の図であり、装置はウレアーゼの固定化および酵素反応の触媒に使用される。
【図17】ポリマーブラシに架橋する前および後のウレアーゼの固定化を示す。
【図18】エポキシ基からジエチルアミノ基への転化率に対するウレアーゼの固定化を示す。
【図19】(a)架橋時間に対するウレアーゼの固定化を示す。(b)固定化ウレアーゼに対する尿素における触媒作用を示す。
【図20】空間速度に対する尿素における触媒作用を示す。
【図21】固定化酵素および遊離酵素に対する尿素における触媒作用を比較して示す。
【図22】ウレアーゼを27層の多層に固定化したポリマーブラシによる、8モル尿素溶液における触媒作用を示す。
【図23】同様の27層Uaseファイバーによる各種尿素溶液濃度での触媒作用を示す。
【図24】透過速度に対する4モル尿素溶液における触媒作用を示す。
【図25】イオン交換の用途に用いるチューブの調製経路を示す。
【図26】チューブのグラフト率による塩素イオン吸着の影響を示す。
【図27】チューブのグラフト率によるウシ血清アルブミン吸着の影響を示す。
【図28】チューブへの照射線量による塩素イオン吸着の影響を示す。
【図29】チューブへの照射線量によるウシ血清アルブミン吸着の影響を示す。
【図30】機能化イオン交換ピペットチップの調製経路を示す。
【図31】機能化チップの管腔内側表面の走査型電子顕微鏡(SEM)の写真を示す。
【図32】(a)陽イオン交換ピペットチップの回収速度、および(b)陰イオン交換ピペットチップの回収速度を示す。
【図1A】
【図1B】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本願発明は化合物を分離、精製、濃縮、固定化、および合成するための材料、ならびにその同等物を使用した用途に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
標的分子の研究および使用にはその分子の単離および精製が必要条件である。例えば、疾患を引き起こす微生物を単離、同定する能力は、正確な診断および疾患状態の治療をもたらし、あるいは、核酸の単離は、ポリヌクレオチドもしくは核酸にコードされるポリペプチドの配列シーケンシング、またはタンパク質の結晶構造決定の第1段階である。分子を単離、精製、濃縮するには多くの方法があるが、これらの方法を行う組成物は広範囲には適用されず、通常、特定分子の精製に応用されうる。従って、化合物および分子の単離・濃縮方法を改善する技術は依然として必要である。
【発明の概要】
【0003】
発明の概要
本発明は、全般に、特定の材料が、特有な性質(例えば長さ、厚み、形態、および密度)をもつ側鎖または高分子「ブラシ」を有する組成物中に加工されうるといった発見に基づく。これらの材料は、化合物を三次元的に分離、精製、濃縮および/または固定化するために、ならびに固定化された化合物を修飾または合成するために大変有効である。本発明の組成物は、材料に対流かつ高速で流す必要がある用途に有用であり、苛酷な化学反応または極度な温度変化に曝されることを目的としている。
【0004】
ある態様において、本発明は、特定な形状または構造をもった一つ以上の基材を含む組成物を提供する。その基材は、一つ以上の官能基を固定化したポリマーブラシをさらに含む。別の態様において、基材は、少なくとも一つの管腔空間を規定する複数の表面をもつ。一局面では、管腔空間には空孔が含まれる。さらに別の局面では、これらの管腔空間にはチャンネルが含まれる。一局面では、官能基は陰イオン解離性官能基である。別の局面では、官能基は陽イオン解離性官能基である。さらに別の局面では、官能基は陰イオン解離性および陽イオン解離性の官能基である。別の局面では、官能基はポリペプチド、例えば酵素、抗体、細胞受容体、アフィニティー精製エピトープおよびフラグメント、またはその活性ドメインである。別の局面では、官能基は核酸、または化学的に修飾したその変異体、例えばデオキシリボ核酸、リボ核酸、ポリA+RNA、tRNA、rRNA、アプタマー、またはリボザイムである。さらに別の局面では、官能基はポリペプチド官能基、核酸官能基、イオン性官能基、親水性官能基、またはいずれの組合わせでもある。さらに別の局面では、複数の官能基が固定化される。例えば、ポリマーブラシによって第1の官能基が固定化され、第1の官能基によって第2の官能基が固定化されるか、または第1の官能基によって第2、第3の官能基が両方とも固定化される。
【0005】
本発明は、基材組成物のポリマーブラシに官能基を高容量に吸着させることを提供する。ある態様において、官能基は高分子側鎖ブラシに沿って多層に固定化される。一局面では、官能基がポリマーブラシの長さ方向に多層に、例えば50層に固定化される。一局面では、ブラシ自体によって官能基の物理的な保持が提供される。別の局面では、官能基はブラシ表面とのイオン性相互作用によって固定化される。さらに別の局面では、官能基はブラシ表面に共有結合的に付与される。例えば、官能基はポリマーブラシに架橋される、または第1の官能基は第2もしくは第3の官能基に架橋される。
【0006】
本発明の組成物は、生物工学、薬学、および化学の用途において有用な各種の製品およびプロセスに、所望の性質を組み込むことができる。発明の一局面では、本明細書に記載の組成物は、濃縮、分離、および精製の用途において高容量マトリックスとして使用される。別の局面では、組成物は、溶液を保存または輸送する容器として使用される。一局面では、容器はポリマーブラシを含む機能性ピペットチップであり、さらにそのポリマーブラシはポリマーブラシ表面に多層に固定化された一つ以上の官能基を含む。別の局面では、容器はポリマーブラシを含むチューブであり、さらにそのポリマーブラシはポリマーブラシ表面に多層に固定化された一つ以上の官能基を含む。これらの局面において、容器は、ブラシの性質と固定化された官能基の性質とによって決められる機能性特性を有する。容器の例としては、限定されないが、分離の用途に用いるアフィニティー精製官能基、または細胞溶解物から核酸を除去するイオン交換官能基を含むピペットチップまたはチューブ、あるいは試料の保存に用いる低温保存官能基を含む凍結バイアルまたはチューブがある。別の局面では、組成物によってポリヌクレオチドまたはポリペプチドの合成のための表面が提供される。さらに別の局面では、組成物によってある化合物に対して親和性のある官能基が提供され、固定化された化合物は直接、生物的または化学的に修飾されうる。
【0007】
本発明は広範な用途に組成物および方法を提供する。例えば、プロテオミクスおよびゲノミクスのためのハイスループットスクリーニング、ペプチド合成、コンビナトリアルケミストリー、核酸合成、化学的または薬学的組成物の製造、バイオレメディエーション、微生物、診断、透析、ろ過などの用途に提供される。一局面では、タンパク質精製の用途において、DEAまたは正に荷電した膜により核酸が除去される。
【0008】
ある態様において、本発明はポリマーブラシを含む少なくとも一つの基材を提供する。ポリマーブラシには表面に多層に固定化された一つ以上の官能基が含まれ、その官能基は基質化合物との接触時に反応を起こす。一局面では、反応は基質化合物のポリマーブラシへの固定化からなる。別の局面では、反応は基質化合物の加水分解からなる。さらに別の局面では、反応は基質化合物の脱酸素化からなる。別の局面では、反応は基質化合物の重合、合成、または修飾からなる。
【0009】
ある態様において、本発明は溶液から標的分子を吸着および/または固定化するための組成物および方法を提供する。方法は、基材を得る段階と、ポリマーブラシの基材へのグラフト、官能基のブラシへの固定化、選択的に第2の官能基の第1の官能基への固定化、または第3官能基の第1あるいは第2の官能基への固定化を行う段階と、固定化した一つ以上の官能基に対して親和性をもつ標的分子を含む試料溶液とブラシとを接触させて化合物を吸着する段階とを含む。一局面では、官能基は他の官能基、およびブラシ自体に架橋される。このようにして、例えば、溶離、圧力、pH、イオン強度、溶剤の種類および濃度、ならびに温度の変化により誘導されておこるブラシからの官能基の脱離が防止される。
【0010】
ある態様において、本発明は、少なくとも一つの官能基が多層に固定化された表面をポリマーブラシにさらに含む、ポリマーブラシグラフト基材を得る段階と、基材を基質化合物と接触させることにより基質化合物を脱酸素化する段階とを含む、基質化合物を脱酸素化するための方法および組成物を提供する。一局面では、基材を得、ブラシを基材にグラフトし、ブラシは、脱酸素化する官能基、例えばアスコルビン酸オキシダーゼ(AsOM)を有する。一局面では、官能基はポリマーブラシに多層に固定化される。基材は上記の例において、標的化合物のアスコルビン酸(AsA)を有する試料溶液と接触させる。試料溶液中のAsAの脱酸素反応速度および反応程度を決定するために、AsAからデヒドロアスコルビン酸への転換を定量的にモニターする。
【0011】
別の態様において、本発明は、本発明は、少なくとも一つの官能基が多層に固定化された表面をポリマーブラシにさらに含む、ポリマーブラシグラフト基材を得る段階と、基材と基質化合物との接触によりラセミ混合物を不斉的に加水分解する段階とを含む、ラセミ混合物をさらに含む基質化合物を不斉的に加水分解するための組成物および方法を提供する。例えば、官能基アミノアシラーゼをポリマーブラシに固定化し、基材をラセミ混合物溶液、すなわちアセチル-DL-メチオニン溶液と接触させる。この例において、試料溶液中のラセミ混合物の加水分解速度および加水分解程度を決定するために、L-メチオニンの産生をモニターする。
【0012】
別の態様において、本発明は、少なくとも一つの官能基が多層に固定化された表面をポリマーブラシにさらに含む、ポリマーブラシグラフト基材を得る段階と、基材と基質化合物との接触によって変性剤を加水分解する段階とを含む、変性剤を含む基質化合物を加水分解するための組成物および方法を提供する。一局面では変性剤は尿素であり、官能基はウレアーゼ酵素である。
【0013】
別の態様において、本発明は、官能基を固定化する前にポリマーブラシを調整し、ブラシ表面の官能基の多層化を調節する方法を提供する。ポリマーブラシを有する基材を得る。そのポリマーブラシは、例えば陰イオン解離性の第1の官能基と、陽イオン解離性の第2の官能基と、親水性の第3の官能基とを有する。基材の酸処理によってポリマーブラシの立体構造を調節し、第4の官能基をポリマーブラシに多層に固定化する。基材のアルカリ処理によってポリマーブラシの立体構造を調節し、第5の官能基をポリマーブラシに多層に固定化する。酸およびアルカリ処理の順序は可逆である。
【0014】
官能基を固定化する前に、複数のポリマーブラシを含む基材を、例えば塩酸によって調整する。この局面では、基材は高次な多層化を示す。つまり、ポリマーブラシの長さ方向の面に沿った官能基の固定化を示す。調整によりポリマーブラシの伸縮が可能となり、従って、ブラシ上の官能基の多層化の程度および種類が変化する。例えば、第1の官能基を固定化する前にブラシを収縮させ、第2の官能基を固定化する前にブラシを伸長することによって、表面の長さ方向に実質的に不連続な多層において、2つの官能基を含むブラシ表面が提される。アルカリ溶液は陽イオン解離性官能基を含むポリマーブラシを伸長させ、陰イオン解離性官能基を含むポリマーブラシを収縮させるが、一方酸溶液は陰イオン解離性官能基を含むポリマーブラシを伸長させ、陽イオン解離性官能基を含むポリマーブラシを収縮させる。従って調整によって、ブラシ表面上の一つ以上の官能基の多層化が調節される。
【0015】
ある態様において、本発明は、イオン解離性基と親水基とをさらに含むポリマーブラシを有した基材を得る段階と、基材をイオン性溶液で処理してポリマーブラシの立体構造を調節する段階と、一つ以上の官能基をポリマーブラシの表面に多層に固定化する段階とを含む工程によって製造される、一つ以上の官能基が固定化されたポリマーブラシをさらに含む基材を提供する。
【0016】
別の態様において、本発明は、官能基をポリマーブラシへ架橋することにより、例えばグルタルアルデヒド処理で架橋することにより、ポリマーブラシへの官能基の固定化を向上する方法を提供する。一局面では、官能基は多層に架橋される。
【0017】
本発明の他の特色と利点は詳細な説明および特許請求の範囲から明らかである。
【0018】
本発明の詳細な説明
定義
別途に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての技術的および科学的専門用語は、当業者に一般に理解されるものと同様の意味をもつ。しかしながら、下記の用語は以下に特定する意味を有する。
【0019】
本明細書中で使用される「基材」という用語は、一つ以上の表面を提供する基質を指す。その表面に、ポリマーブラシを形成でき、またはポリマーブラシをグラフトもしくは付与できる。基材の形状は実質的に硬性の、例えば、バイアル、ピペットチップ、細胞培養用もしくはELISA用のシャーレ、スライド、もしくはアレイであってもよく、または基材は一つ以上の平面に実質的に柔軟性のある、例えば繊維もしくは膜であってもよく、または基材は粉末また微結晶製剤の形状であってもよい。基材は延長と柔軟性とが具体化されていてもよく、例えばチューブのような管腔を定義しうる。それぞれが本明細書に参照として組み入れられる米国特許第6,009,739号、第5,783,608号、第5,743,940号、第5,738,775号、第5,648,400号、第5,641,482号、第5,506,188号、第5,425,866号、第5,364,638号、第5,344,560号、第5,308,467号、第5,075,342号、第5,071,880号、第5,064,866号、第4,980,335号、第4,897,433号、第4,622,366号、第4,539,277号、第4,407,846号、第4,379,200号、第4,376,794号、第4,288,467号、第4,287,272号、第4,283,442号、第4,273,840号、第4,137,137号、および第4,129,617号に説明されるとともに本明細書で開示する膜組成物および方法には、多様な基材が適用される。
【0020】
本明細書中で使用される「ブラシ」および「ポリマーブラシ」という用語は、ラジカル重合可能な末端基を有する重合基質から形成された高分子側鎖を指す。その重合可能な基質は基材であるか、または基材にグラフトもしくは付与でき、実質的に基材の形状をとる。側鎖はいずれのポリマーであってもよく、容易に機能性をもたせうる反応性ポリビニルポリマーが現状では好ましい。例えば、繰り返しユニット毎に一つの反応性エポキシ基をもつポリ(グリシジルメタクリレート)がある。以下に説明するラジカル重合によってポリマーブラシは形成される。ブラシは第1の方向への重合度と関連する、特定の大きさで延長した形状、つまりその「長さ」をもつとともに、第1の方向と直角する第2の方向への重合度に関連する、断面の直径または厚み、つまりその「幅」をもつ。ブラシは、コイル状、または密集形態、または伸長形態をとることができる。ブラシの幅はその長さに沿って可変である。それに加えて、以下に説明するように、枝状のポリマーブラシ構造の作製、ならびにブラシの密度、つまり基材の単位表面積また単位重量当りのブラシの数、の増減を重合反応により制御することができる。本明細書における記述および当技術分野で既知の方法によって、本発明のポリマーブラシの長さ、幅、枝、および全体的な形態を、所望の末端の使用または目的に合わせて変化させることができる。
【0021】
本明細書中で使用される「反応性モノマー」という用語は、ラジカル誘導グラフト反応に寄与できる化合物を指す。反応性モノマーは、上記および本明細書中に説明するようにポリマーを形成できるいずれの材料であってもよく、限定されないが、例えばグリシジルメタクリレート(GMA)、またはエチレンがある。基材と反応性モノマーとが同一の化合物から構成されていてもよく、例えば、ポリエチレン基材はグラフト反応において、エチレンモノマーまたはポリマーが利用されうる。それぞれが本明細書に参照として組み入れられる米国特許第6,009,739号、第5,783,608号、第5,743,940号、第5,738,775号、第5,648,400号、第5,641,482号、第5,506,188号、第5,425,866号、第5,364,638号、第5,344,560号、第5,308,467号、第5,075,342号、第5,071,880号、第5,064,866号、第4,980,335号、第4,897,433号、第4,622,366号、第4,539,277号、第4,407,846号、第4,379,200号、第4,376,794号、第4,288,467号、第4,287,272号、第4,283,442号、第4,273,840号、第4,137,137号、および第4,129,617号に説明されるとともに本明細書で開示する膜組成物および方法には、多様な反応性モノマーが適用される。
【0022】
本明細書中で使用される「重合度」という用語は、ラジカル重合可能な末端基をもつ重合可能な基質と反応性モノマーとのラジカル誘導重合の程度を指す。この重合反応によってポリマーブラシが形成される。従って、重合度は全体的なブラシ表面の特徴を決定する。その高分子側鎖は、例えば、モノマー、オリゴマー、または約数百から数万モノマーユニットに相当する約10nmから約2000nmの平均長を有し、またはもっと長く、例えば5000nm以上となる。重合度は、例えば重合可能基質の結晶化度、ラジカル誘起程度、反応時間、そして重合可能な基質の性質、つまり強度または硬さに依存する。(参照として組み入れられるLeeら、(1999), Chem. Mater., 11, 3091-3095を参照)。
【0023】
本明細書中で使用される「グラフト率」または「DG」という用語は、ブラシの密度、つまり基材の単位表面積当りの側鎖の数を指す。側鎖数が約1.0x108から約1.0x1030の間では、いかなる側鎖数も基材の単位重量当りまたは単位表面積当りのパーセントで示すことができ、例えば、側鎖約1.0x1016から1.0x1020は、グラフト率にして約10%〜約500%を表す。グラフト率は本質的に、基材の初期重量と付加したポリマーブラシ構造の重量との比である(Leeら、(1999)を参照)。
【0024】
本明細書中で使用される「官能基」という用語は、化学的性質、リガンドに対する生物活性または親和性、または特定の構造をもつ物質を指す。官能基は、基材にグラフトされたポリマーブラシに、固定化、結合、捕捉、架橋、または実質的に付与される。本発明の膜組成物および方法には、ブラシにこれらの機能性を与えるため、多様な官能基が適用される。官能基の組合わせも明らかに発明の範囲内である。適する官能基は限定されないが、例えば、共存親水基または共存疎水基(GMAまたは他の疎水性基のような非イオン基)を有するまたは有さない陰イオン性解離基(例えば、1級、2級、3級または4級アミン)、陽イオン性解離基(例えば、酸基)、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、タンパク質またはその活性部位、エピトープイオンおよびアフィニティータグ、核酸、リボ核酸、ポリペプチド、グリコポリペプチド、ムコ多糖、リポタンパク質、リポ多糖、炭水化物、酵素または補酵素、ホルモン、ケモカイン、リンフォカイン、抗体、リボザイム、アプタマー、インターフェロン、SpA、SpG、TNF、v-Ras、c-Ras、逆転写酵素、Gタンパク質共役受容体(GPCR)、FcRn、FcγR、FcεR、ニコチニコイド受容体(ニコチン受容体、GABAAおよびGABAC受容体、グリシン受容体、5-HT3受容体、ならびに一部のグルタミン酸作動性陰イオンチャネル)、ATP開口型チャネル(P2Xプリン受容体も指す)、グルタミン酸作動性陽イオンチャネル(NMDA受容体、AMPA受容体、カイニン酸受容体など)、血球凝集素(HA)、受容体型チロシンキナーゼ(RTK)、例えばEGF、PDGF、NGF、およびインシュリン受容体チロシンキナーゼ、SH2-ドメインタンパク質、PLC-γ、c-Ras関連GTPase活性化タンパク質(RasGAP)、ホスファチジリノシトール-3-キナーゼ(PI-3K)およびタンパク質ホスファターゼ1C(PT1C)、ならびに細胞内タンパク質チロシンキナーゼ(PTK)、例えばチロシンキナーゼSrcファミリー、グルタミン酸作動性陽イオンチャネル(NMDA受容体、AMPA受容体、カイニン酸受容体など)、タンパク質チロシンホスファターゼ、例えば受容体チロシンホスファターゼrho、タンパク質チロシンホスファターゼ受容体J、受容体型チロシンホスファターゼD30、タンパク質チロシンホスファターゼ受容体C型ポリペプチド関連タンパク質、タンパク質チロシンホスファターゼ受容体T型、受容体チロシンホスファターゼγ、白血球関連Ig様受容体1Dイソフォーム、LAIR-1D、LAIR-1C、MAPキナーゼ、ノイラミニダーゼ(NA)、プロテアーゼ、ポリメラーゼ、セリン/トレオニンキナーゼ、二次メッセンジャー、抗原性または腫瘍形成マーカー、転写因子、および他の重要な代謝構築阻害または制御因子を含む。それぞれが本明細書に参照として組み入れられる米国特許第6,009,739号、第5,783,608号、第5,743,940号、第5,738,775号、第5,648,400号、第5,641,482号、第5,506,188号、第5,425,866号、第5,364,638号、第5,344,560号、第5,308,467号、第5,075,342号、第5,071,880号、第5,064,866号、第4,980,335号、第4,897,433号、第4,622,366号、第4,539,277号、第4,407,846号、第4,379,200号、第4,376,794号、第4,288,467号、第4,287,272号、第4,283,442号、第4,273,840号、第4,137,137号、および第4,129,617号、ならびに以下において官能基の選択および使用が説明される。
【0025】
本明細書中で使用される「陰イオン解離性官能基」という用語は、対イオンが陰イオンであるイオン交換基を意味する。陰イオン解離性官能基は、化学反応の触媒作用をもち、標的化合物または他の官能基を吸着および/または固定化し、そして、広範囲にわたって効率よく酸性物質を除去するために、硫化水素またはメルカプタンのような酸性物質との中和反応を引き起こすことが可能である。
【0026】
本明細書中で使用される「陽イオン解離性官能基」という用語は、対イオンが陽イオンであるイオン交換基を意味する。典型的な陽イオン解離性官能基は酸基である。陽イオン解離性官能基は化学反応の触媒作用をもち、標的化合物または他の官能基を吸着および/または固定化し、プロトン(水素イオン)を放出することによって、アンモニアまたはアミンのような塩基性物質との中和反応を引き起こすことができる。従って、このような官能基は、広範囲にわたって塩基性物質との使用に提供される。
【0027】
本明細書中で使用される「親水性官能基」という用語は、水に対して親和性をもつが水との接触によって極端にイオン性解離しない官能基を指す。親水性官能基は水和殻または反応性表面を提供することによって、化学反応を触媒し、標的化合物または他の官能基を吸着および/または固定化することができる。そのような基の一例としては、限定されないが、ヒドロキシル基がある。
【0028】
本明細書中で使用される「疎水性官能基」という用語は、水に対して親和性をもたない官能基を指す。疎水性官能基は水を排除して、または疎水性相互作用のための表面もしくは反応性表面を提供することによって、化学反応を触媒し、標的化合物または他の官能基を吸着および/または固定化することができる。そのような官能基の一例としては、限定されないが、非イオン基、エステル基、スクシンイミド基、またはエポキシ基がある。
【0029】
本発明の詳細な説明
本発明は一つ以上の基材にグラフトしたポリマーブラシに官能基を固定化する組成物および方法を提供する。固定化する方法は、捕捉、ゲル化、物理的保持もしくは吸着、イオン性結合、共有結合、または架橋を含む(それぞれが参照として組み入れられるBiotechnol. Bioeng., 22: 735-756, 1980、Chem. Eng. Prog., 86: 81-89,1990、J. Am. Chem. Soc., 117: 2732-2737,1995、Enzyme Microb. Technol., 14: 426-446,1997、Trends Biotechnol., 13: 468-473,1997、Nat. Biotechnol., 15: 789-793,1997を参照)。その固定化法ならびに用いる官能基の量および種類によって本発明の組成物の活性を決める。得られた固定化官能基の活性は物質移動の効果によって低減されることが多い(それぞれ参照として組み入れられるMethods Enzymol., 44: 397-413,1976、J. Am. Chem. Soc., 114: 7314-7316, 1992、Trends Biotechnol., 14: 223-229,1996、Angew. Chem., 109: 746-748, 1997を参照)。固定化後の活性は、官能基の有効性が減少することでさらに低減されるうる。例えば、立体障害によって、またはブラシ内、空孔内、もしくは基材の他の構造内での捕捉によって、または官能基の拡散が緩徐であることによって低減されうる。このような制限は低効率をもたらす。従って、高容量の官能基を固定化した基材を提供することが本発明の目的である。
【0030】
本発明は多様な基材、すなわち全ての高分子プラスチックを利用することができる。例えば、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテルブロックアミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリオルガノシロキサン、ポリオレフィン、ポリスルホン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、対応するコポリマーおよび混合物、ならびに天然ゴムおよび合成ゴム、金属、ガラス、または木材がある。組成物は多機能性の性質をもち、物質の分離、除去、精製、合成、濃縮、および固定化に使用でき、極度の温度または圧力、化学濃度、電気的荷電などの工業用プロセスでの過酷な操作環境に特に適している。一般に、所望の標的化合物は試料溶液中に存在しており、ろ過膜、チューブ、ピペットチップまたはクロマトグラフィーマトリックスにおけるように、直接、溶液を組成物に透過することができる。細胞または他の大きい不溶粒子を含む液体は、より小さい可溶粒子から大きい粒子を分離するために前処理を必要とする可能性がある。しかしながら、物理的なろ過の度合いはポリマーブラシのサイズおよびブラシ密度によりもたらされ、適当であれば、ろ過装置に組成物を織り込むまたは組み立てることができる。試料水溶液の記載が多いが、当業者であれば、ガス性試料にも適用できることを理解することと思われる。ガス流におけるガス性物質を吸着するためのフィルター要素の例は、例えば、本明細書に参照として組み入れられる2002年1月10日に公開されたGentilcoreらの米国特許出願第20020002904号A1に説明されている。それに加えて、膜または繊維の記載が多いが、以下に示す本発明の組成物は、本明細書に記載のように他の形状を含みうる。従って、以下は実例となっているが、本発明の実施例を制限することを意図しない。
【0031】
図を参照すると、基材組成物を作製するための調製経路を示す。本明細書においては、陰イオン交換基としてのジエチルアミノ(DEA)官能基と酵素官能基としてのアスコルビン酸オキシダーゼとを含む多孔性中空糸ポリエチレン膜を示す。図1(a)に示すように膜の合成は4つの段階からなる。第1の段階は重合反応の開始に関わり、照射として示されているが、すなわち重合反応のため、ポリエチレン中空糸基材膜に直接に電子線を照射し、ラジカルを発生させて、基材表面から伸びるポリマーブラシ構造を作製する。この図においては、200kGyの照射線量を設定したカスケード型電子線加速器(Dynamitron model IEA 3000-25-2, Radiation Dynamics, Inc., New York)を用いて、ポリエチレン多孔性中空糸膜を室温にて窒素雰囲気下で照射した。第2の段階は反応性モノマーのグラフトに関わる。図に示すように、照射した膜を313Kで10% v/v GMA/メタノール溶液に12分間浸した(参照として組み入れられるJ. Membr. Sci., 71:1-12, 1992を参照)。第3の段階は一つ以上の官能基の導入および固定化に関わる。図に描いたように、GMAグラフト膜を303Kで50% v/v ジエチルアミン(DEA)/水溶液と2時間反応させた。次のステップは、選択的に追加の官能基を固定化することに関わり、図に示すように他の物質の非選択的吸着をブロックすることに関わる。図に示すように、ポリマーブラシの未反応エポキシ基は、例えば、膜を303Kで6時間、エタノールアミン(EA)に浸すことによって、2-ヒドロキシエチルアミノ基のような非反応性型に転化された。実施例1にも詳しく説明するように、得られた多孔性中空糸膜を図1に示し、DEA-EAファイバーとよぶ。
【0032】
第2の官能基のアスコルビン酸オキシダーゼ(AsOM)をDEA-EAファイバーに固定化するため、図に示すように、シリンジポンプを用いて、以下の溶液を連続的に室温かつ1ml/分の一定の流速でDEA-EAファイバーの空孔に透過させた。14mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)を含む第1の緩衝液を用いて、洗浄およびpHの平衡化を行い、1Lに0.50gの酵素を含む第2の緩衝液を透過させて、膜の細孔にグラフトしたジエチルアミノ基を含むポリマーブラシに酵素を結合させ、第3の緩衝液を用いて膜を洗浄し、0.50%wtグルタルアルデヒド水溶液を含む第4の緩衝液を膜に透過させて、ポリマーブラシに捕捉された酵素を架橋し、0.50M NaClを含む第5の緩衝液を用いて、架橋されていない酵素を溶出した。中空糸膜の外壁から回収した溶出液中の非結合酵素の濃度は、例えば、235nmのUV吸光度で決定した。他の生物活性分子の濃度または活性を決定する方法では、例えばELISA、リン酸化または類似機能性アッセイ法等が当技術分野において周知である。この図において、イオン交換によって膜に固定化され、続けて架橋された、酵素の量、Qは以下の式で算出した。
Q(mg/g) = [(吸着した量)-(洗浄した量)-(非架橋の量)]/(乾燥した膜の重量)
【0033】
図1(b)には各種の溶液を膜に透過させるための装置を示す。膜を装置にセットして、DEAとAsOM溶液を透過させた。得られたアスコルビン酸オキシダーゼ固定化ポリマーブラシをグラフトした多孔性中空糸をAsOMファイバーとよぶ。図に示すように、2cmの長さを持つAsOMファイバーを装置にI型にセットした。
【0034】
同様な装置は溶液における特定な酵素反応を実施するためにも利用できる。AsOMファイバーを装置にセットして、標的化合物を含む試料溶液を装置に導入して、膜を透過させた。この例では、アスコルビン酸(AsA)を基質(試料)溶液として用い、AsAの濃度を0.025から0.10mMまで変化させ、透過流速を30〜50ml/hまで変化させた。空間速度(SV)は以下のように定義した。
SV(h-1) = (AsA溶液の透過流速)/(内腔表面を含むAsOMファイバーの体積)
【0035】
溶出液中のアスコルビン酸の濃度は、つまりブラシに接近してファイバーを透過する溶液、例えば、溶液の245nmのUV吸光度の測定によって、連続的に決定した。AsAの濃度またはAsOMの酵素活性をモニターする他の方法も利用できるし、当業者に周知される。AsAからデヒドロアスコルビン酸への転化率およびその活性は以下のように定義される。
転化率(%) = 100 [(1-(溶出液中のAsA濃度)/(供給液中のAsA濃度)]
活性(mol/h/L) = (SV)[(供給液中のAsA濃度)-(溶出液中のAsA濃度)]
【0036】
本明細書において使用したAsOMファイバーの性質を表Aに示す。
【0037】
(表A) 試料溶液中のアスコルビン酸を酸化するために使用した多孔性中空糸AsOMファイバーの性質
【0038】
溶出液量の増加に従う吸着、洗浄、架橋および溶出という一連のプロセスにおいて、溶出液中のアスコルビン酸オキシダーゼ(AsOM)の濃度変化、つまりAsOMファイバーの破過曲線および溶出曲線を図2に示す。膜のポリマーブラシに吸着されたAsOMの量はファイバー1g当り150mgと算出された。グルタルアルデヒドで架橋した後、0.5M NaClを有する緩衝液でAsOMファイバーを洗浄し、ファイバー1g当り20mgの非結合酵素を溶出した。したがって、固定化されたAsOMの量はAsOMファイバー1g当り130mgであった。酵素の吸着量を、以下の式で定義の単層結合容量で割り、酵素の多層結合度を12と算出した。
単層結合容量 = aVMr/(aNA)
式中のaVおよびaはそれぞれDEA-EA膜の比表面積(5.5m2/g)およびAsOM分子に占有される断面積(7.4x10-17m2)である。MrおよびNAはそれぞれAsOMの分子量(80,000)およびアボガドロ数である。
【0039】
12層のAsOMファイバーを用いて、固定化された酵素への基質の対流的移動には、物質移動の拡散抵抗および反応制御メカニズムの双方が無視できることを発見した。アスコルビン酸(AsA)溶液のAsOMファイバイーを透過させるときの、各供給濃度におけるアスコルビン酸からデヒドロアスコルビン酸への転化率を図3に示す。空間速度に関係せず、ほぼ定量的な転化率が観測された。図3(b)に示すように、これは基質溶液の透過流速が速くなるにつれて、AsOMファイバーの活性度も高くなることを表す。AsA溶液のAsOM膜を透過する滞留時間が1から10秒の間では、すべての酵素反応が反応に制御されてはいないことを発見した。滞留時間は以下のように算出する。
滞留時間 = (内腔を除く膜体積)/(透過流速)
【0040】
AsOMファイバーの安定性を調べた。25日間保存後の酵素反応を触媒する能力を図4に示す。AsOMファイバーの性能の劣化はほとんど見られなかった。AsOM以外の特定な官能基の保存条件は当技術分野でよく説明され、知られている。例えば、レコンビナント酵素は典型的には冷蔵され、または-20℃に冷凍される。遊離官能基の不安定性という欠点を克服できる本発明の組成物は、長い保存期間において室温でより安定である。原理に制限されることなく、官能基の固定化によってその官能基にさらなる安定性を授与することは自明である。それに加えて、基材の性質、グラフト反応および官能基の選択によって、組成物は極度な温度条件下で耐性をもち、そして典型的に広範囲のpH値および各種の溶媒濃度に対して抵抗をもつ。しかしながら、これらの条件下では、固定化された官能基は遊離官能基よりもっと安定性を示し、例えば、試料溶液に、遊離官能基を不活化する変性剤が含まれていても、固定化された官能基の酵素活性は維持される。
【0041】
図5には酵素の加水分解を起こす別の膜組成物を示す。つまり、N-アセチル-DL-アミノ酸のラセミ混合物の転化率である。酵素官能基を用いることによって転化反応をもたらした。その酵素はアミノアシラーゼであり、イオン交換官能基を含む荷電性ポリマーブラシに架橋により固定化された。この図では、調整溶液を使用して、荷電性ポリマーブラシを膨潤させ、ブラシの結合容量に影響を与える。しかしながら、ブラシから第1の官能基の漏出または脱離は膨潤反応によって誘導される可能性があり、つまりイオン交換基を損失する可能性がある。ポリマーブラシに捕捉された第1の官能基の漏出を防ぐために、膨潤させる前に官能基を架橋してもよい。
【0042】
調整したDEA膜、つまりHCl処理したDEA膜およびNaOH処理したDEA膜と、調整されていないDEA膜(水で処理したDEA膜)との膨潤比率を表2にまとめた。膨潤比率の順はDEA/Clファイバー>DEAファイバー>DEA/OHファイバーの順である。試料溶液を含む基質の酵素による変化、例えば、アミノアシラーゼ固定化膜を用いた場合、アミノ酸のラセミ混合物での特定のキラル体への変化は、上記に説明したのと同じAsOMファイバーの透過圧力および透過速度と同じ条件で、AsOMファイバーの提供する活性の値に一致している。それぞれのファイバーのアミノアシラーゼの平衡結合容量と酵素の多層結合度を表Bにまとめた。
【0043】
(表B) 荷電性ポリマーブラシによる、アミノアシラーゼ結合への調整効果の比較
a(調整した膜の厚み)/(調整していない膜の厚み)
b 14mM Trsi-HCl緩衝液(pH8.0)、温度 = 298K
c 供給液中のアミノアシラーゼの濃度 = 1.0mg/ml
d 酵素の多層結合度 = (平衡結合容量)/(単層結合容量)
ここで、単層結合容量が11mg/gと算出される。
【0044】
例えば、表Bでは、3つの膜組成物において、DEA/Cl膜は平衡C0における一番高い結合容量(300mg/g)と一番高い初期透過圧力(0.023MPa)を示した。これらの値のオーダーは膨潤比率のと一致した。荷電性ポリマーブラシがさらに高く伸長することによって、ブラシ表面から高い初期透過圧力が生じ、官能基が三次元的に固定化される結果となる。
【0045】
原理により制限することは意図しないが、荷電基としてのジエチルアミノ基を含むポリマーブラシの塩酸処理後のブラシの挙動は以下のように説明できる。電子線照射で幹ポリマーとしてのポリエチレン(PE)の結晶表面に形成するラジカルからポリGMA鎖が成長する。次に、ポリGMA鎖上の一部のエポキシ基にDEA基を固定化する。DEA膜を1M塩酸で調整することによって、DEA基の正荷電を伸長させた。荷電基の静電的な相互反発作用によって、PE基材上の荷電性ポリマーブラシを空孔内側に向けて伸長させ、延長したブラシ構造により官能基を多層に固定化させた。高いイオン強度の溶液、例えば0.5M NaClと接触するとき、ブラシの収縮とともに荷電性ポリマーブラシから官能基が放出される。このようなブラシ構造または荷電の変化は、例えばpH、イオン強度、熱、冷却、または溶媒濃度もしくは化学製品の変化に対応して、官能基に影響を与えうる。例えばブラシ構造による官能基の物理的固定化、イオン性または弱い共有結合の相互作用による固定化がある。これらの影響を抑制するには、当技術分野で周知の方法により、所望の官能基がその官能基自体およびブラシ構造に付与される。下記のカップリング反応の節においてさらに説明する。
【0046】
この図においては、アミノアシラーゼ酵素をまず荷電性ポリマーブラシに静電的相互作用で結合させ、グルタルアルデヒドで架橋した。架橋率は以下のように定義する。
架橋率 = 100 [1-(架橋後に溶出した酵素の量)/(酵素の吸着量)]
本明細書においては、DEA/Cl膜の架橋率は80%であり、酵素の多層結合度は22に相当した。
【0047】
この図の基材は酵素が多層に分散したポリマーブラシを含む多孔性膜から形成されている。図5には単位ブラシ当りに4層のアミノアシラーゼが描かれているが、本発明は、例えばブラシの長さおよび形態によって、単層から数百層の酵素を固定化するものを提供する。本明細書に記載の開示を考慮して、従来の方法により所望の多層結合度をもたらす官能基の多層吸着を最適化する方法は、当業者であれば分かるはずである。
【0048】
アミノアシラーゼ酵素を含む膜装置の調製経路を図6(a)に示す。上記に説明した空間速度(SV)におけるアセチル-DL-メチオニン(Ac-DL-Met)からL-メチオニン(L-Met)へ転化するために、この膜を用いる。アミノアシラーゼ膜の転化特性を図6(b)に示す。初期濃度10mMのアセチル-DL-メチオニン溶液をこの膜と接触させ、不斉加水分解反応によって、L-Metへの100%転化率を達成した。高濃度の基質において、速いSVは低い転化率をもたらした。Yokoteら、J. Solid-Phase Biochem., 1:1-13, (1976)に説明されるような、同一の酵素を固定化したガラスビーズを用いて、同じ濃度のAc-DL-Metで得られた転化率に対する比較のデータを図6(b)に示す。本発明の膜組成物は、Yokoteらに説明されたビーズ充填床からなるマトリックスで得られた転化率よりも、本発明に記載の合成膜で得られた転化率が3倍大きいこという驚くべき発見がもたらされた。原理に制限されることなく、これは、速いSV、つまり中空糸膜を透過するAc-DL-Met溶液の短い滞留時間において、総括的な反応は、ポリマーブラシへ基質の対流的物質移動ではなく、ポリマーブラシに捕捉されるアミノアシラーゼの反応に支配されることによって説明できる。
【0049】
SVに対する酵素活性は図6(c)に示す。アミノアシラーゼ固定化多孔性膜を用いて、速いSVは、例えば約200h-1のSV、高い酵素活性、例えば4.1mol/L/h Ac-L-Metの結果を生じた。速い対流の流れを本組成物に透過させるとき、ポリマーブラシ上の多層の官能基構造はより広い表面積を提供することに従い、当技術分野のビーズ充填マトリックスよりも、性能および活性を促進させた。それに加えて、これらの高容量膜は、厚みを低減することによって、ビーズ充填床よりも基質溶液の流れ抵抗を低くする。アミノアシラーゼ膜の安定性は、保存を延長後、酵素の漏出により溶出液中のL-Metの生産増加が欠如することで示した。アミノアシラーゼ膜の安定性は図3に示すAsOM膜の安定性と一致する。
【0050】
アミノアシラーゼ膜を合成するための装置を図7(a)に示す。この図には、まず、DEAイオン交換基を有する膜を合成する。膜のDEA含有ポリマーブラシへのアミノアシラーゼの固定化を図7(b)に示す。ここでは、溶出液の酵素濃度が平衡に達するまで、アミノアシラーゼを膜に透過させた。DEA官能基によって酵素が固定化され、グルタルアルデヒドによってアミノアシラーゼがDEA官能基に架橋される。この膜は上記に説明した応用に適している。
【0051】
上記に説明した酸およびアルカリで処理した膜の結合容量と破過曲線を図8に示す。図8(a)にはDEAファイバー、HCl前処理したDEAファイバー、およびNaOH前処理したDEAファイバーにアミノアシラーゼ溶液を透過させたときの溶出液中のアミノアシラーゼの濃度変化を示す。図8(b)には、DEAファイバー、HCl前処理したDEAファイバー、およびNaOH前処理したDEAファイバーにアミノアシラーゼ溶液を透過させたときの透過圧力の変化を示す。
【0052】
空間速度に対するアセチル-DL-メチオニンからL-メチオニンへの転化率を図8(c)に示す。SVに関係なく、基質溶液をDEA/Clファイバーの空孔に透過させたとき、供給液濃度0.1Mまでは、アセチル-DL-メチオニンがL-メチオニンに100%転化された。基質が透過し、そして高密度固定化酵素へ浸透する際の基質の拡散的な物質移動抵抗は無視できるため、膜を透過する滞留時間に関わらず、多孔性膜のマクロ構造と、膜の空孔表面にグラフトした荷電性ポリマーブラシにおける多層酵素のミクロ構造とによって定量的な転化率が達成された。
【0053】
図9に、4種類のイオン解離性あるいはイオン交換ポリマーブラシの調製経路を示す。つまり、陰イオン交換ポリマーブラシおよび陽イオン交換ポリマーブラシをそれぞれ2種類ずつ多孔性中空糸膜に放射線グラフト重合と続きの化学修飾とで固定化する修飾は以下の連続した機能化を含む。(1)ジエチルアミノ基およびスルホン酸基のイオン交換基の導入、(2)2-ヒドロキシエチルアミノ基およびジオール基のアルコールヒドロキシル基の導入。ジエチルアミノ基(DEA)、スルホン酸基(SS)、2-ヒドロキシエチルアミノ基(EA)、およびジオール基はそれぞれジエチルアミン、亜硫酸ナトリウム、エタノールアミン、および水を用いたポリGMAブラシのエポキシ基の開環反応によって導入した。
【0054】
図10のように、5cmの有効な長さの多孔性中空糸膜を長さ方向の構成にセットした。DEA-EAまたはEA-DEAファイバー、およびSS-DiolまたはDiol-SSファイバーの空孔の半径方向の外側に向けて、Tris-HCl緩衝液(pH8.0)と炭酸緩衝液(pH9.0)とを一定の膜貫通圧力の0.05または0.10MPaおよび298Kで強制的に透過させた。
【0055】
陰イオンおよび陽イオン交換基を有するポリマーブラシを固定化した多孔性中空糸膜の透過流束とエポキシ基から対応する解離性基への転化率との関係をそれぞれ図11(a)および(b)に示す。DEA-EAファイバーもEA-DEAファイバーも60%の転化率以下では、ほぼ同様な透過流束を示した。60%以上になると、DEA-EAファイバーの透過流束は徐々に低下した。逆に、SS-DiolファイバーとDiol-SSファイバーとは著しく異なっている。転化率5%であってもSS-Diolファイバーの透過流束は無視できるほど低いが、Diol-SSファイバーは転化率50%になっても多孔性中空糸膜基材の透過流束の40%を維持した。
【0056】
BSAおよびHELの多層結合度とエポキシ基からDEA官能基への転化率およびSS基への転化率との関係をそれぞれ図12(a)および(b)、図13(a)および(b)に示す。転化率20%以上のDEA-EAファイバーはBSAを多層に吸着するが、EA-DEAファイバーは転化率に関わらず単層結合容量に相当する一定のタンパク質結合容量を有する。逆に、SS-Diolファイバーは低い転化率でHELの多層結合度を示したが、Diol-SSファイバーでは転化率20%にならないと、SS-DiolファイバーのようなHELの多層結合度を示さない。例えば、SS-DiolファイバーとDiol-SSファイバーの転化率がそれぞれ5%と35%のとき、ほぼ同一のHEL結合容量80mg/gを示した。
【0057】
ポリマーブラシの連続的な化学修飾のオーダーの変化は解離性ポリマーブラシの性能に影響を与える。これは、図14に示すように、多孔性中空糸膜にグラフトした高分子鎖上の解離性官能基分布に関する簡単な原則で説明できる。機能化するとき、第1の薬剤はポリGMA鎖の上部にあるエポキシ基を先にアタックし、第2の薬剤はポリGMA鎖の下部にある残りのエポキシ基を開環する。
【0058】
多孔性中空糸ポリエチレン膜のポリマーブラシへのウレアーゼ酵素の固定化を図15に示す。ラジカルグラフト重合反応を開始するため電子線を用いる。グリシジルメタクリレートをポリエチレンにグラフトする。グリシジルメタクリレートの反応性エポキシ基にジエチルアミンを共有結合的に固定化する。未反応のエポキシ基はエタノールアミンを用いて抑制または不活性する。ジエチルアミンは陰イオン交換官能基を提供し、ジエチルアミンと酵素の負荷電領域との相互作用によって、ウレアーゼが固定化される。ウレアーゼの固定化を促進するため、トランスグルタミナーゼを用いて、酵素を荷電性ブラシに架橋する。これによってウレアーゼが多層に固定化され、得られた組成物をUaseファイバーとよぶ。尿素を有する試料溶液をUaseファイバーに透過させるとき、Uaseファイバーは尿素を機能的に加水分解できる。
【0059】
ウレアーゼの固定化および酵素反応の触媒作用を引き起こすために用いるUaseファイバーを含む装置を図16に示す。図16に示す構成のようにDEA-EAファイバーをセットした。中空糸膜の一つの末端をシリンジポンプにつなげ、もう一方を封じた。Tris-HCl緩衝液(pH8.0)中のウレアーゼ溶液(5.0mg/mL)を中空糸膜の半径方向に内側の表面から外側の表面へ、一定の透過流速30mL/h、310Kで透過させた。分画バイアルを用いて、中空糸膜の外側の表面から出てきた溶出液を連続的に回収した。回収バイアルにあるウレアーゼの濃度はタンパク質の検査に適する波長、280nmまたは205nmでのUV吸光度によって測定した。ポリマーブラシへのウレアーゼの多層吸着は段階(a)に示す。段階(b)に示すように、酵素を架橋するためトランスグルタミナーゼを用いてUaseファイバーを処理した。図16に示すように、架橋するために透過装置からUaseファイバーを外すが、同様な固定化を達成するためにトランスグルタミナーゼを装置に導入してもよい。段階(c)に示すように、Uaseファイバーを透過装置につなげたまま、固定化されていない酵素を溶出する。説明のように、溶出液中にある非結合酵素の濃度を測定した。
【0060】
酵素溶液をDEA-EAファイバーに透過させている間、洗浄中、およびポリマーブラシへ酵素を架橋した後のウレアーゼの固定化を図17に示す。上記に説明したように、溶出液中の酵素濃度をモニターすることによって、破過曲線を得た。縦軸は供給液に対する溶出液のウレアーゼの濃度比で、横軸は溶出量をDEA(x)-EAファイバーの内腔の表面を除く膜体積で割った値として定義される無次元化溶出量(DEV)である。
【0061】
DEA(x)-EAファイバーのウレアーゼの破過曲線、エポキシ基から対応するジエチルアミノ基への転化率に対するウレアーゼの固定化、つまり溶出液量に対する濃度変化を図18に示す。結合したウレアーゼの量はDEA基の増加とともに増加した。DEA官能基を含むグラフトポリマーブラシは、DEA官能基密度の増加で誘導される強い静電的な反発によって、基材表面から伸長した形態をとると考えられる。このような伸長によりブラシに沿ったウレアーゼの多層固定化がもたらされる。
【0062】
架橋時間に対するウレアーゼの固定化を図19(a)に示す。ウレアーゼを結合したファイバーを0.04%(w/v)トランスグルタミナーゼ溶液に、297K、5分から3時間の所定時間で浸した。次に、架橋されていないウレアーゼを溶出するため、0.5M NaCl溶液を30mL/hの透過流速、室温で強制的に膜の空孔に透過させた。上記に説明したように、溶出液のモニタリングによって、非架橋ウレアーゼの溶出を測定した。
【0063】
固定化ウレアーゼに対する尿素における触媒作用を図19(b)に示す。尿素という基質を含む試料溶液を酵素固定化多孔性ファイバーへ透過することにより、基質がバルクから酵素固定化ポリマーブラシへ拡散する物質移動抵抗を無視できるようにする。固定化酵素密度が高いほど、支持多孔性膜の単位重量当りの酵素活性も高い。固定化ウレアーゼの密度に対する310Kにおける8M尿素溶液の加水分解反応率を図19(b)に示す。反応率は固定化ウレアーゼ密度の増加と共に高くなり、DEA-EAファイバー1gあたり1.4gを超えるウレアーゼ密度になると、反応率は横ばいになった。
【0064】
尿素基質を含む試料溶液の空間速度に対する尿素における触媒作用を図20に示す。空間速度の増加に従い、酵素単位重量当りの加水分解する尿素の量は低下した。空間速度に対する尿素反応率を調べるため、50層の固定化ウレアーゼを有するDEA-EAファイバーを用いた。SV = 2.6のとき、反応率は最大の78%に達した。原理に制限されることなく、酵素の反応律速プロセスによって、SVの増加は反応率を低下させた。
【0065】
固定化酵素と遊離酵素との尿素反応率の比較を図21に示す。0.2時間の接触時間において、初期尿素濃度の増加により反応率は100%(2M尿素濃度)から40%(6M尿素濃度)に低下した。一方、初期尿素濃度8M(滞留時間0.2時間)において、固定化酵素の反応率は80%以上も維持された。
【0066】
8M尿素溶液を27層の酵素固定化膜に透過させたときの、溶出液量に対する溶出液の尿素反応率変化およびpH変化を図22に示す。溶出液量が増加しても、pHと反応率は一定であった。
【0067】
各種モル濃度での尿素溶液における触媒作用を図23に示す。Uaseファイバーを用い、一定の透過流速1mL/hで、無次元化溶出液量(DEV)に対する尿素の加水分解率を図23に示す。Uaseファイバーの内側の表面に供給した尿素溶液の濃度は2Mから8Mの範囲である。1mL/hの透過流速でUaseファイバーの空孔を通過する尿素溶液の滞留時間は5.1分に相当した。2Mから4Mの尿素の定量的な加水分解が得られた。そして、DEVの増加に伴い、6Mから8Mの尿素の加水分解率は低下した。
【0068】
透過流速、つまり空間速度(SV)に対する4M尿素溶液における触媒作用を図24に示す。SVが20h-1以下のとき、つまり3.0分以上の滞留時間で、尿素における100%の加水分解が観測された。Uaseファイバーへの尿素溶液の透過流速は全尿素加水分解率を支配する。SVの増加とともに、加水分解率は低下した。原理に制限されることなく、全加水分解率は、ポリマー鎖に多層固定化したウレアーゼへの尿素の拡散と固定化酵素の活性部位における本質的な反応とによって決定される。
【0069】
イオン交換の用途に用いるチューブの調製経路を図25に示す。説明のように、ラジカルを発生させてGMAをグラフトし、エポキシ結合によってトリメチルアミンイオンを一部のGMAに固定化した。得られたTMAチューブは負電荷した官能基またはイオンに対する親和性を示す。
【0070】
チューブのグラフト率による塩素イオン(Cl-)の吸着への影響を図26に示す。グラフト率の増加と共にCl-の吸着量も増加した。X軸には供給液に対する溶出液中のCl-濃度比を示し、Y軸にはチューブ体積に対する回収した溶出液量を示す。グラフト率の増加にもかかわらず、Cl-の破過曲線は供給液濃度の100%に達した。つまり吸着は平衡に達した。
【0071】
チューブのグラフト率によるウシ血清アルブミンの吸着への影響を図27に示す。BSAの吸着量はグラフト率の増加と共に増加した。図26とは逆に、グラフト率が増加すると、Cl-よりもBSAの吸着はより段階的に増加した。
【0072】
チューブに適用した照射線量による、塩素イオンの吸着への影響を図28に示す。X軸には供給液に対する溶出液中のCl-濃度比を示し、Y軸にはチューブ体積に対する回収した溶出液量を示す。照射線量はブラシ密度を決める。図28に示すように、Cl-イオンの吸着はブラシ密度の変化に著しくは影響されない。
【0073】
チューブに適用した照射線量による、ウシ血清アルブミンの吸着への影響を図29に示す。図28とは逆に、比較的大きいBSAタンパク質は高密度のブラシに物理的保持され、長時間かけて平衡に達する。
【0074】
機能化したイオン交換ピペットチップの調製経路を図30に示す。チップを照射し、GMA反応性モノマーをピペットチップの基材にグラフトする。このようにして、説明のように、陰イオンおよび陽イオン解離性官能基が固定化される。
【0075】
機能化ピペットチップの内腔表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図31に示す。伸長したポリマーブラシは可視である。SEM写真を撮る前に、TMAチップをさらにNH2C2H5で処理してブラシを膨張させておき、その伸長した立体構造を見ることが可能である。
【0076】
陽イオン交換ピペットチップ(図32(a))および陰イオン交換ピペットチップ(図32(b))の回収率を図32に示す。SSチップまたは陽イオン交換ピペットチップからの吸引と放出との繰り返しによる液中のHEL濃度の減少を図32(a)に示す。図の横軸は総接触時間である。POROS-Tip HSと比べて、SSチップではほぼ同一のHEL回収率が示された。しかしながら、POROS-Tip HQに比べて、TMAチップのBSA回収率が低いことが図32(b)から観測された。トリメチルアンモニウム塩基含有ポリマーブラシに比べて、スルホン酸含有グラフトポリマーブラシはブラシ伸長度が高いため、液の流路を狭めて、タンパク質の物質移動を促進する結果となる。これらは、TMAチップよりSSチップの放出時間が長いことに対応する。
【0077】
本発明における有用な材料
一般的には、本発明の基材は特定のタイプに制限されることはなく、ポリマーブラシがグラフトまたは付与できる基質であれば、適当な基材である。重合反応にとって、元の基材が不十分であれば、基材表面を処理してもよい。このようなケースにおいて、例えば、本発明に従う表面処理は、高分子材料からなるコーティングであってもよい。本発明に有用な材料は広範囲に得られる。例えば、ポリエチレンとポリプロピレンとを含むポリオレフィン(低密度または高密度)、セルロース(Radiat. Phys. Chem. 1990, 36: 581; J. Membr. Sci. 1993, 85: 71を参照)、ポリ(イソブチレンオキサイド)(Radiat. Phys. Chem. 1987, 30: 151を参照)、 エチレンテトラエチレンフルオロコポリマー(J. Electrochem. Soc. 1996, 143: 2795を参照)、エチレンプロピレンジエンタールポリマー(Radiat. Phys. Chem. 1991, 37: 83を参照)、エチレン-プロピレンゴム(Nippon Gensiryoku Gakkaishi, 1977,19: 340を参照)、クロロスルホン化ポリエチレン(Radiat. Phys. Chem. 1991, 37: 83を参照)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(React. Polym. 1993, 21: 187; Radiat. Phys. Chem. 1989, 33: 539を参照)、テトラフルオロエチレンヘキサフルオロプロピレンコポリマー(Radiat. Phys. Chem. 1988, 32: 193を参照)、ポリ(ビニルクロライド)(Radiat. Phys. Chem. 1978, 11: 327を参照)、シリコンゴム(Radiat. Phys. Chem. 1988, 32: 605を参照)、ポリウレタン(Radiat. Phys. Chem. 1981, 18: 323)、ポリエステル(Radiat. Phys. Chem. 1988, 31: 579を参照)、ブタジエン-スチレンコポリマー(Radiat. Phys. Chem. 1990, 35: 132を参照)、天然ゴムおよびニトリルゴム(Radiat. Phys. Chem. 1989, 33: 87を参照)、酢酸セルロースとプロピオン酸塩(Radiat. Phys. Chem. 1990, 36: 581を参照)、) デンプンおよび綿繊維(Zhurn, Vsesoyuz. Khim. Ob-va im. D. I. Mendeleeva. 1981, 26: 401を参照)、ポリエステル-セルロース繊維(Radiat. Phys. Chem. 1981, 18: 253を参照)、天然皮(Radiat. Phys. Chem. 1980, 16: 411を参照)、ならびに医療用ガーゼ(Zhurn. Vsesoyuz. Khim. Ob- va im. D. I. Mendeleeva. 1981, 26: 401を参照)、親水性ポリウレタン、ポリウレア、オレフィン、アクリル、ならびに他の親水性構成材がある。特殊な材料はポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールコポリマー、および他のポロキサマー、ヘテロサイクリックモノマー(Applied Radiation Chemistry: Radiation Processing, Robert J. Woods and Alexei K. Pikaev, John Wiley & Sons, Inc., 1994 (ISBN 0-471-54452-3)を参照)、ポリ(エチレングリコール)メタクリレートまたはジメタクリレート(J. Appl. Polym. Sci., 1996, 61: 2373-2382を参照)、ポリアミン(例えばポリエチレンイミン)、ポリ(エチレンオキサイド)およびスチレンを含む。これらのコーティングは好ましくは処理した表面に共有結合的に結合する。高分子材料を表面に吸着させ、UV照射、RFエネルギー、X線照射、γ線照射、電子線、化学開始重合などに曝して、表面に高分子材料を共有結合的に付与する段階を含む、コーティング形成法には多くの方法がある。
【0078】
基材は複数の表面を提供し、基材自体が、ラジカル重合可能な末端基をもつ重合可能な基質であり、例えば、セルロース、ポリオレフィン、ポリアクリルニトリル、ポリエステル、例えばPETおよびPBT、ポリアミド、例えばナイロン6およびナイロン66、ならびにこれらの組み合わせがある。適する基材は、基材自体が重合可能でなくてもよく、ポリマーブラシは非重合可能基材にグラフト、付与または粘着することが可能である。
【0079】
炭水化物ポリマー、例えばセルロースもしくはリグニンまたは類似の材料を基材として使用可能である。本明細書に参照として組み入れられるAntalらの2002年3月7日に公開された米国特許出願第20020026992号A1には、製紙において、添加物の保持力の促進と強化に使うため、ペンダント3-アミノ-2-ヒドロキシプロピル基を有するグラフト炭水化物ポリマーの組成物とその製法の例とが説明された。本明細書に参照として組み入れられるYamagishiら、(1993)、 J. Membr. Sci., 85, 71-80にはセルロースの放射線グラフト重合法が説明された。
【0080】
炭水化物ポリマーが木材パルプの構成要素であるとき、得られる化学修飾の木材パルプは非修飾した木材パルプと組み合わせて、その特性を保持および強化されうる。特にセルロースを基材として使用できる典型的な炭水化物の資源は、紙パルプおよび木材チップのような木材セルロースを含む。これらのセルロースに加えて、葉繊維セルロース、幹繊維セルロース、およびシードトメントースまたは軟毛繊維セルロースを使用することが可能である。これらのセルロースの例は、靭皮繊維(例えば麻、亜麻、ラミー、およびマニラ麻)および綿を含む。所望であれば、イネわら、コーヒー豆の殻、使用済みの茶葉、大豆パルプおよび他の廃棄物を再利用してセルロースとして使用することが可能である。このような廃棄物は特殊な前処理を必要としないので、使うには便利である。本発明に使うセルロースの一つの資源としては、紙パルプがある。
【0081】
本明細書に参照として組み入れられるKimらの2001年11月1日に公開された米国特許出願第20010037144号A1には、生物活性物質を金属系基材にグラフト可能であること、例えば、金属基材に金または銀薄層をメッキして表面修飾した医療用金属材料が説明されている。
【0082】
繊維、髪、および皮のような動物組織は基材として使用可能である。当業者は、動物製品によって、基材として使用できる所望の特性がもたらされるかどうかを決めることができる。例えば、所望の発明が機械的なろ過に使用される場合は、例えば繊維を膜組成物またはシートのような他の形状に織り込むまたは組み立てることができる。基材として使用できる繊維または動物の毛の例は、ウール、ラクダの毛、アルパカ、カシミヤ、モヘア、ヤギの毛、ウサギの毛、および絹を含む。基材として使用できる天然皮の例はウシの皮、ヤギの皮、および爬虫類の皮または皮膚を含む。基材として使用できる合成皮の例はCORFAM(登録商標)(デュポン)、CLARINO(登録商標)(クラレ)とECSAINE(登録商標)(東レ)を含む。
【0083】
基材としてポリオレフィンも使用可能である(Applied Radiation Chemistry: Radiation Processing, Robert J. WoodsおよびAlexei K. Pikaev, John Wiley & Sons, Inc., 1994 (ISBN 0-471-54452-3), Introduction to Radiation Chemistry 第3版, J. W. T. SpinksおよびR. J. Woods, John Wiley & Sons, Inc., 1990 (ISBN 0-471-61403-3)、 Radiation Chemistry of Polymeric Systems, A. Chapiro, Interscience, New York, 1962、 Atomic Radiation and Polymers, A Charlesby, Pergamon Press, 1960、 Radiat. Phys. Chem. 1991, 37: 175-192、ならびにProg. Polym. Sci. 2000, 25: 371-401を参照(全てが本明細書に参照として組み入れられる))。ポリオレフィンは多くの形状および型に組み立てることができる。これらは、鋳型であったり、熱成形されたり、注入されたり、よく知られるプロセスによって成形されうる。例えば、既存の溶融メルトスピンプロセスによる繊維や細糸の形成がある。それに加えて、ポリオレフィン化合物は他の産業にも有用であり、主として生物工学産業には、ポリオレフィン製品は、実験室の試薬による化学的な分解に対して抵抗をもち、耐久性をもつとともに再利用でき、化学的不活性であり、安価と使い捨てできるものである。ポリオレフィン化合物はこれらの特性を示すこととそれに加えて、ラジカル重合可能の末端基を有する重合可能基質を提供するので、一般的に基材として望まれる。オレフィンモノマーまたはポリマーは基材にも、反応性モノマーにもなるといった2つの点から、本発明のグラフト技術に非常に適している。例えば、ポリオレフィンの例はポリエチレンおよびポロプロピレンを含む。所望であれば、例えば、これらの材料は塩素、フッ素または臭素のようなハロゲンで修飾することによって、ポリテトラフルオロエチレンのようなハロゲン化ポリオレフィンになりうる。他の修飾としては、ポリマーにヒドロキシル基を導入することも適切である。平均分子量20,000から750,000ダルトンを有するポリオレフィンポリマーは本発明に適している。当業者は、特定の目的に合う適切な分子量について周知である。例えば、約50,000ダルトンから約500,000ダルトンの分子量をもつポリオレフィンは、繊維や細糸の生産に適していて、官能基の組み合わせをもつブラシを含有するポリオレフィン細糸または繊維(上記)を含む膜に応用することである。ポリオレフィンの分子量が約500,000ダルトンを超えると、得られるポリオレフィンの流動性が低くなるので、既存のメルトスピンプロセスによるポリオレフィンから細糸への形成は難しくなる。しかしながら、約500,000ダルトン以上のポリオレフィンの構造的硬直さは、例えば、容器、細胞の凍結バイアルなどの高密度用途に適している。逆に、約50,000ダルトン以下の分子量をもつポリオレフィンは、ポリマーの強度と硬直さは低下し、そしてそれによって形成される細糸は十分な張力をもたない。しかしながら、約50,000ダルトン以下のポリオレフィンの構造的硬直さは、例えば、粉体またはミクロ結晶体組成物に適している。本明細書に参照として組み入れられるValligyらの2002年2月14日に公開された米国特許出願第20020019487号A1には、熱成形におけるフリーフローによって柔軟性をもつコーティングの生産を目的とした、粉末の形での、重合グラフトおよび架橋しうる熱可塑性ポリオレフィン粉末組成物の例が説明される。本明細書に参照として組み入れられる欧州特許第0409992号には、もう一つの重合したグラフトと架橋した熱可塑性ポリオレフィン粉末組成物の例があり、架橋可能の熱可塑性ポリオレフィンポリマーの粒子を合成するためのプロセスを指し、それによると、上述の粒子は固体の形態で、特にミネラルオイルのような架橋剤と接触させる。
【0084】
基材の形状には特に制限はなく、繊維、フィルム、薄片、粉末、シート、マット、および球体の各種の形状から選択して使用することができる。本発明の膜の基材はポリマーブラシを支持する構造的なメンバーとしての機能をもつ。基材の形状は実質上硬直であることもあり、例えば、バイアル、ピペットチップ、細胞培養皿またはアレイであり、あるいは基材は実質上一つ以上の平面に柔軟性をもち、例えば繊維または膜である。吸着および/または固定化する面積の最大化、吸着および/または固定化効率の向上という観点から、繊維状材料の使用は有利である。このような膜組成物またはシートにおけるグラフト繊維は実質上ブラシ表面積を増大させる。
【0085】
本発明に適する織繊維のサイズは約10nmから約100,000nmまでである。約1000nmから約50,000nmまでの繊維直径を有する織繊維状材料の使用は特に有利である。繊維状材料が有利である一つの理由は、簡単に所望の形状、例えば布、にするまたは織ることができ、そして、装置に組み立てることができる。それに加えて、繊維状材料は一般的に環境に微粒子または粉末を放出するおそれがないので、半導体および他の精密機器製作に使用できる。繊維状材料が使用される場合は、繊維または細糸の束にすることができる。この繊維束を織布または不織布に加工することができる。本発明の膜において繊維状基質が使用される場合は、他の繊維状材料と混合してもよい。従って、異なる官能基を含む繊維の組み合わせによって作製でき、単一の膜組成物に多機能な特性が提供される。
【0086】
繊維は不織基質として作製された多孔性中空糸であってもよい。本明細書に記載のように、市販される多孔性中空糸の例は旭化成株式会社が生産するものである。これらは空孔率の範囲が広く、例えばろ過装置に組み立てることができる。それに加えて、空孔率と繊維組成との組み合わせによって、物理的および分子的固定化、ろ過または濃縮を提供する。繊維状基材を球状の形にして使用する場合は、取り扱いやすさの観点から、その直径を約2〜20mmの間に調節するのが有利である。本発明の基材の空孔率は、所望の機能活性と透過性との観点から、平均孔経約0.1nmから約50,000nmを有し、好ましくは約1nmから5000nm、さらに好ましくは10nmから1000nmである。当業者ならば、特定な応用に対して、最適の組成と空孔率を決めることができる。平均孔径が極小のとき、膜組成物の透過性は低下する。平均孔径が極大のとき、所望の物質は多孔性基材のブラシ表面にうまく吸着されない。その代わりに、ブラシ表面と官能基とを接触させずに、目的の試料を多孔性基材の空孔に通過させて、所望の官能基の活性に到達しないようにする。本発明の多孔性基材の空孔率は、好ましくは20%から90%の範囲にあり、さらに好ましくは50%から90%の範囲にある。空孔率の程度は使用した基材の物理的特性に依存する。空孔率および孔サイズの測定は一般的によく知られる、例えば、バブルポイント法、水銀圧力法、走査型電子顕微鏡法(SEM)またはトンネル電子顕微鏡法(TEM)、または窒素吸着法(本明細書に参照として組み入れられるASTM F316,1970; Pharmaceutical Tech., 1978,2: 65- 75; Filtration in the Pharmaceutical Industry, Marcel Dekker, 1987を参照)。
【0087】
本発明の硬い容器の例は実施例3に詳しく説明する。実施例3において、基材は微量ピペット装置用の使い捨てプラスチックチップに形成される。ピペットチップの内側の表面に、一つ以上の官能基を有するポリマーブラシを多層に固定化した。チューブのようなやや硬い容器は実施例6で説明する。チューブは、一つ以上の官能基を有し、多層に内側の表面に固定化したポリマーブラシからなる。しかしながら、本発明は粉末、シート、膜またはフィルム、多孔性または非多孔性材料、中空糸、織繊維および布、バイアル、容器、ならびに類似の生産品の作製に適している。
【0088】
ラジカルを発生させる作用物質
ラジカル部位をつくることのできるラジカル発生作用物質は、有機過酸化物またはパーエステルであり、例えば、tert-ブチルパーオキシ3,5,5-トリメチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、tert-ブチルパーオキシ2-エチルヘキシルカルボネート、tert-ブチルパーオキシアセテート、tert-アミルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、2,2-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ブタン、n-ブチル4,4-ジ(tert-ブチルパーオキシ)バレレート、エチル3,3-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ブチレート、ジクミルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-tert-アミルパーオキサイド、ジ(2-tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,6-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-tert-ブチルパーオキシ-3-ヘキシン、3,3,6,6,9,9-ヘキサメチル-1,2,4,5-テトラオキサシクロノナン、tert-ブチルヒドロパーオキサイド、3,4-ジメチル-3,4-ジフェニルヘキサン、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタンおよびtert-ブチルパーベンゾエート、ならびにアゾ化合物、例えば、アゾビスイソブチロニトリルおよびジメチルアゾジイソブチレートがあり、上記作用物質は、好ましくはジクミルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-tert-アミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイドおよび2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシンからなる群より選択される。
【0089】
放射線誘導グラフト重合
グラフト重合は、化学的または誘導可能な重合開始剤の存在における重合、熱重合、イオン化放射線(例えば、α線、β線、γ線、加速電子線、X線または紫外線)を用いた放射線誘導グラフト重合によって行うことができる。γ線または加速電子線が誘導する重合により、都合のよいグラフト重合法が提供される。
【0090】
反応性モノマーの基材へのグラフト重合法にはいくつかの方法が存在する。基材は定形部材であってもよいし、また、重合後に製品化または装置化してもよい。最終用途または目的に応じて、本発明には、定形部材を直接に液体反応性モノマーと反応させる液相重合法と、定形部材をガスまたは気体状の反応性モノマーに接触させるガスまたは気相重合法との2つの重合法が有利である。気相グラフトは本明細書に参照として組み入れられるJ. Membr. Sci. 1993, 85: 71-80、Chem. Mater. 1991, 3: 987-989、Chem. Mater. 1990, 2: 705-708、およびAIChE J. 1996, 42: 1095-1100に説明される。
【0091】
基材への反応性モノマーのグラフト重合が行われる。グラフトは3つの方法で行う。(a)前照射、(b)過酸化、および(c)相互照射法である。前照射法においては、ラジカルを形成するため、幹ポリマーは真空中または不活性ガスの存在下で照射される。照射されたポリマー基質は次に、液相もしくは気相のモノマー、または適当な溶媒に溶解したモノマーで処理する。しかしながら、過酸化グラフト法において、幹ポリマーは空気または酸素の存在下で高エネルギー放射線に曝される。従って、重合骨格と照射条件によって、ヒドロパーオキサイドまたはジパーオキサイドが形成される。その安定なパーオキシ産物は次に高温においてモノマー処理し、パーオキサイドが分解してラジカルになり、そしてグラフトを開始する。この方法の利点は、中間体のパーオキシ産物が、グラフト段階を行う前に、長期間において保存できることである。一方、相互照射法においては、ポリマーとモノマーは同時に照射されてラジカルが形成され、したがって付加が生じる。前照射法ではモノマーが放射線に曝されないため、この方法の明らかな利点は、同時照射法で発生するホモポリマー形成の問題から比較的免れることである。しかしながら、前照射法の短所には、直接照射による基材ポリマーの切断があり、グラフトコポリマーよりブロックコポリマーの形成を支配的に生ずる。
【0092】
この方法では、基材基質表面は反応性モノマーを含む溶液、例えば、tert-ブチルアミノエチルメタクリレート中で、浸漬、噴霧、またはブラッシングのような既知の方法でコーティングされる。tert-ブチルアミノエチルメタクリレートを溶かす力が十分であれば他の溶媒も使用できるが、適当な溶媒は、水および水/エタノール混合液であることが立証されており、基材基質表面は適当な溶媒で完全に湿らせる。反応性モノマー含有量が0.1重量%〜10重量%、例えば約5重量%の溶液が実用的に適していることが立証される。一般的には、基質表面を被うように連続的にコーティングを行い、コーティング厚みが1回で約0.1μmより厚くなることもあり得る。2つ、3つまたはそれ以上の異なる反応性モノマーを基材に共グラフトすることができる。本明細書に参照として組み入れられるChem. Mater. 1999,11: 1986-1989、J. Membr. Sci. 1993, 81: 295-305、J. Electrochem. Soc. 1995, 142: 3659-3663、およびReact. Polym. 1993, 21: 187-191を参照。
【0093】
反応性モノマーとは、ラジカル誘導グラフト重合反応に参加できるいかなる化合物である。したがって反応性モノマーは側鎖の反応に組み入れられ、ポリマーブラシを形成する。本発明では、基材との重合反応に関わる前に、オリゴマーは反応性モノマー間の副反応で形成されるので、簡単にする都合上、モノマーという用語を使う。このようなオリゴマーまたはポリマーも本発明に有用である。前述のように、複数の官能基(例えば、単一モノマーブラシ上の3つの官能基)をもつモノマー側鎖ブラシが得られる。
【0094】
基材と反応性ポリマーは同様な化合物であることもあり得る。例えば、ポリエチレン基材は、グラフト反応にエチレンモノマーまたはポリマーを利用することは可能である。本発明に使用できる反応性モノマーは、例えば、ビニルモノマーとヘテロサイクリックモノマーを含む。適する反応性モノマーの他の特別な例は、グリシジル基を有するビニルモノマー、例えば、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメチリタコネート、エチルグリシジルマレエートとグリシジルビニルスルホネート、ならびにシアノ基を含むビニルモノマー、例えば、アクリルにトリル、ビニリデン、シアナイド、クロトノニトリル、メタクリロニトリル、クロロアクリロニトリル、2-シアノエチルメタクリレート、および2-シアノエチルアクリレートを含む。これらは官能基の固定化のためにエポキシド基を有し、反応性重合部位を提供するビニル基を有するため、反応性モノマーとして有用である。開環反応、すなわちポリGMAブラシのエポキシ基をジオール基に転化する反応は、本明細書に参照として組み入れられるJ. Membr. Sci. 1996, 117: 33-38に説明されている。
【0095】
反応性モノマーは重合反応によって基材に共有的に結合するか、または、別個に形成して基材に付与もしくは粘着する。反応性モノマーは、基材にグラフトしたポリマーブラシを形成する。グラフト率は基材および反応性モノマーの選択、重合法、所望のブラシの長さおよび幅によって決められる。場合によっては、得られた本発明のポリマーブラシは生物活性を有し、例えば、製品または器具の表面にあるtert-ブチルアミノエチルメタクリレートは抗菌活性を示す。
【0096】
修飾またはグラフトした材料の測定は、例えばグラフト率、厚みまたは重さの測定、含水率、IR法(FTIR-ATRなど)、イオン交換基の中和測定、ゼタ電位、ドーナン法、原子間力顕微鏡(AFM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、接触角の測定、XPS(X線、フォトエレクトロン光度計)およびSIMS(二次イオン質量分析)によって決定できる。
【0097】
活性化した表面に適用する反応性モノマーのグラフト共重合は、同じくラジカル誘導重合に影響され、可視範囲にある短波長放射線またはUV範囲にある長波長の電磁放射線によって開始される。UVエキシマの250nmから500nm波長の放射線、好ましくは290nmから320nmの波長が特に適している。前述した範囲で十分な放射線を発するならば、水銀灯も適している。曝露時間は一般的に10秒から30分、好ましくは2分から15分の範囲である。適する放射線源は、例えば、UVエキシマ機器(HERAEUS Noblelight, Hanau, Germany)である。しかしながら、水銀灯も、前述した範囲で十分な放射線を発するならば、適している。曝露時間は一般的に0.1秒から20分、好ましくは1秒から10分である。
【0098】
UV放射線を用いる反応性モノマーと基材との活性化は光増感剤の添加によって、さらに増加することができる。適する光増感剤は、例えばベンゾフェノン、基質の表面につけて照射する。ここでは、照射は水銀灯を用いて、0.1秒から20分、好ましくは1秒から10分の曝露時間で行うことができる。
【0099】
本発明によると、活性化は空気中または窒素中またはアルゴン雰囲気下で、高周波数またはミクロ波のプラズマ(Hexagon, Technics Plasma, 85551 Kirchheim, Germany)によって達することができる。曝露時間は一般的に30秒から30分の範囲、好ましくは2分から10分である。実験室機器のエネルギー出力は100Wから500W、好ましくは200Wから300Wである。例えば、コロナ機器(SOFTAL, Hamburg, Germany)はポリマーの活性化のために使用される。この場合では規定として、曝露時間は1分から10分、好ましくは1秒から60秒間である。
【0100】
表面の燃焼も同じく反応性モノマーと基材との活性化を導く。適する器具、特に防護火炎面(barrier flame front)を有するものを、簡単に構築または得ることができる。例えば、ARCOTEC, 71297 Monsheim, Germanyがある。その器具は炭化水素または水素を可燃性ガスとして利用できる。全てのケースにおいて、基材の有害な過度の加熱は避けるべきである。燃焼する面に向けない基質の表面を冷やした鉄の表面と親密に接触させることによって達成できる。したがって、燃焼による活性化は比較的に薄くて平らな基材に限る。曝露時間は一般的に0.1秒から1分の範囲で、好ましくは0.5から2秒の範囲である。火炎は例外なく非発光のものであり、外側火炎面(outer flame front)と基質表面との距離は0.2cmから5cmの範囲で、好ましくは0.5cmから2cmである。
【0101】
イオン化放射線開始重合の場合、前述の紫外放射線に加えて、電子線、X線、α線、β線、γ線などが使用できる。グラフト重合の条件は、基材ポリマーの結晶と非晶構造、溶媒またはガスの影響、温度、pH、基材の親疎水性、反応性モノマー、照射線量および曝露の間隔、ならびに照射によって発生するラジカルの種類によって変わる。当業者ならば、これらの変数を知り、それによって、例えば電子線またはコバルト60源からのγ線による活性化には、一般に約0.1秒から約60秒の短い曝露時間、約1kGyから約500kGyの照射線量が割り当てられるように、実験条件を調節する。このようは高エネルギー放射線源は、一つ以上の基材の内部表面にラジカル誘導重合反応を望まれるように開始する用途に適している。
【0102】
ポリマーブラシの作製には複数のグラフト段階が使用されうる。基材にラジカルを発生させる、例えばポリマーをグラフトするためのラジカルをつくるには、ポリマー基材を室温、窒素雰囲気下で照射する。このような現行の好ましい態様においては、電子線加速器を用いて照射を行う。反応性モノマーのグラフト重合(例えば液相グラフト重合)は、ポリマーブラシの形成のため、基材に行う。したがって、グラフトポリマー#1が得られる。上記のプロセスを繰り返して、グラフトポリマー#2、グラフトポリマー#3等々が得られる。さらに、所望のブラシ構造の集合によって、グラフトプロセスはいかなる段階でも止めることができる。各グラフト段階に異なる反応性モノマーを使用してもよく、多数の官能基または生物活性分子を固定化するための複数のブラシ組成物が提供される。このプロセスは、官能基の固定化後に行う追加グラフト反応を含む。
【0103】
機能性ブラシ
本発明は、基材のラジカル誘導重合またはそれによって形成されるポリマーブラシを基材へグラフトをするための方法および組成物を提供し、そして、複数のポリマーブラシ構造を有する基材を提供する。これらのポリマーブラシ自体は、例えば、ポリマーブラシのサイズ、ブラシ密度、およびブラシの形態による物理的特性をもつ。しかしながら、本発明は、さらに固定化された官能基を有するポリマーブラシを提供する。官能基を固定化する方法は周知であり、ブラシへの官能基の固定化に適している(本明細書に参照として組み入れられるJ. Membr. Sci. 1993, 76: 209-218を参照)。一種類以上の官能基をブラシに固定化することができ、所望の機能性によって、1つ、2つ、3つ、4つまたは5つまたはそれ以上の異なる種類の官能基が固定されうる。
【0104】
ブラシへ官能基を結合するための薬剤
基材自体は実質的に反応性でないまたは不活性の材料であるが、本発明では反応性基材の利用が許される。逆に、ポリマーブラシはブラシ表面での一つ以上の反応性基を含み、機能性または多機能性ポリマーブラシが許容される。本発明において、基材およびポリマーブラシはそれぞれ2つの異なる機能部位を担うことができる。
【0105】
官能基を固定化するための各種の方法は、例えば物理的吸着(イオン結合および水素結合のような非共有ブリッジ、疎水性相互作用、ならびにファン・デル・ワールス力)、反応基による固定化、アミノプロピルトリエトキシシラン・ブリッジ、グルタルアルデヒド、またはビス(スルホサクシンイミドイル)スベレートによる活性化、またはアルデヒド基、ホスホロアミダイト基、ペプチド基、ビオチンまたはアビジンによる結合、プロテインAまたはG、金属を有する媒体による付与、例えばキレート形成イミノジアセテート基、銅イオン、ニッケルイオン、第二鉄イオンまたは第一鉄イオン、亜鉛イオン、マグネシウムイオン、マンガンイオン、コバルトイオンまたは錯体を含む同様な荷電種、酸化基による共有結合、例えば、抗体Fc領域の炭水化物の部分を過ヨウ素酸で酸化してアルデヒド基を形成したあと、アガロース、シリカ、アクリル系コポリマー、およびセルロースのようなヒドラジド活性化した固相支持体に化学的な結合を含む。核酸を固定化する方法は、例えば、(i)電気化学的吸着:正荷電の固相支持体と負荷電のオリゴヌクレオチドとの静電的相互作用、(ii)配列特異的ハイブリッド形成のための電気化学的吸着したオリゴヌクレオチドとその相補的標的とのハイブリッド形成、アビジン-ビオチン錯体化、といった吸着と、(i)カルボジイミド法を用いたデオキシグアノシン基(別称、カルボン酸基(-COOH))、(ii)アミノ基(-NH2)、リン酸基による共有結合とを含む。有機合成(またはペプチド合成)はポリマーブラシ上で直接にまたは固定化した官能基上で行うことができる(本明細書に参照として組み入れられる米国特許第6,306,975号を参照)。他のカップリング化学法は当業者に周知であり、そして、グラフト重合法を用いることによって、複数の官能基を有する固相支持体を合成することができる(本明細書にすべて参照として組み入れられるJ. Biochem. Biophys. Methods 2001,49: 467-480, Radiat. Phys. Chem. 1987,30: 263-270, Biosens. Bioelectron. 2000,15: 291-303, Analytica Chimica Acta 1997,346: 259-275, Chem. Rev. 2000,100: 2091-2157, Tetrahedron 1998,54: 15383-15443, Radiat. Phys. Chem. 1986,27: 265-273, and Solid-Phase Synthesis and Combinatorial Technologies by Pierfausto Seneci, John Wiley & Sons, Inc., 2000を参照)。
【0106】
ブラシ表面へ分子の固定化するもう一つの方法は、限定されないが式SiX3-Rのシランである。式中のXはメチル基または塩素のようなハロゲン分子であり、およびRは本明細書に記載のコーティング材料となりうる官能基またはコーティング材料と反応できる基である。特定のシラン末端化合物は、ビニルシラン、シラン末端アクリル酸、シラン末端ポリエチレングリコール(PEG)、シラン末端イソシアン酸、およびシラン末端アルコールを含む。当業者はシランを表面と反応させる種々の方法を周知である。例えば、エタノール水溶液中に存在する表面をジクロロメチルビニルシランと反応させることは可能である。これで、--O--Si結合によって表面に強く結合または直接シリコン分子に結合する。そして、シランのビニル基を、適当かつ当技術分野において周知の化学法により、本明細書に記載の高分子材料と反応させることが可能である。例えば、メタクリレート末端を有するPEGは、シランのビニル基と反応することによって、本装置の表面に共有結合するPEGが得られる。
【0107】
それに加えて、当技術分野で周知のように、官能基または生物活性分子の活性を改善また結合を促進するために、スぺーサー分子を官能基とポリマーブラシの間に挿入することは可能である。ブラシの伸長した形態はスペーサーとして機能させてもよく、または別の化学スペーサーを追加して使用してもよい。
【0108】
これらの官能基は本発明の組成物に特定の性質を付与する。例えば、官能基は有効なまたは活性を持つ表面積を変化するにつれて、結合容量を変える。ある形態においては、特定のブラシ形状を提供する。他の形態においては、特定の強度、化学耐久性、酵素特性、生物活性分子または他の官能基に対する親和性を付与して、または組成物に他の有効な機能性を提供する。従来のイオン交換樹脂は基材および官能基に依存せず、異なる機能を果たす。
【0109】
本発明の組成物のブラシに固定化する適当な官能基は、例えば、イオン交換基、すなわち陰イオン性解離基および陽イオン性解離基、親水性官能基、ならびに他の官能基を含み、他の分子を吸着および/または固定化する能力をもつ。
【0110】
一つ以上の陰イオン性解離基をポリマーブラシによって固定化することができる。適当な陰イオン性解離基の例は、第4級アンモニウム塩基、ならびに第1級、第2級、および第3級アミノ基またはアミド基を含む。特定の例は、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、およびジエチルアミノ基を含む。好ましい陰イオン性解離基はアミノ基および第4級アンモニウム塩基を含む。本発明に有用かつ陰イオン性解離基を含む反応性モノマーは、例えば、ビニルベンジルトリメチルアンモニウム塩、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノメチルメタクリレート、3級ブチルアミノエチルアクリレート、3級ブチルアミノエチルメタクリレートとジメチルアミノプロピルアクリルアミドを含む。陰イオン性解離基に転化できるエポキシド基を有する反応性モノマーも本発明に有用である。このような反応性モノマーの一例として、グリシジルメタクリレートがある。エポキシド基を陰イオン性解離基に転化するアミンの一例としてジエチルアミンがある。
【0111】
一つ以上の陽イオン性解離基をポリマーブラシによって固定化することができる。陽イオン性解離基の例は、例えば、カルボン酸基、スルホン基、リン酸基、スルホエチル基、ホスホメチル基、カルボメチル基を含む。望ましい陽イオン性解離基はスルホン基およびカルボン酸基を含む。本発明に有用かつ陽イオン性解離基を有する反応性モノマーは、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンスルホン酸およびその関連の塩、ならびに2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を含む。
【0112】
一つ以上の親水基をポリマーブラシによって固定化することができる。親水基は空気中の水分子を捕捉して、本発明の膜の表面に吸着水層を形成することができる。親水基は空気中と同じく水中でも同様な働きをする。適当な親水基の例は、例えば、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基(ここでのアルキル基は低級アルキル基が好ましい)、アミノ基およびピロリドニル基を含む。望ましい親水基は、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基とピロリドニル基を含む。一つ以上の親水基をポリマーブラシに固定化することができる。本発明に有用かつ親水基を有する反応性モノマーは、例えば、エタノールアミン、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ビニルピロリドン、ジメチルアクリルアミド、エチレングリコールモノメタクリレート、エチレングリコールモノアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、およびトリエチレングリコールメタクリレートを含む。よって、ポリマーブラシ自体が官能基を含んでいてもよく、またはブラシに官能基を固定化してもよい。
【0113】
一つ以上の官能基をポリマーブラシに固定化することができる。これらの官能基を組合わせて、または独立した多層に固定化することができ、組成物に追加の機能性を付与する。例えば、本発明は、酵素活性を有する膜組成物を提供する。例として、ポリペプチド基質をリン酸化する能力、制限部位での核酸またはポリペプチドを消化する能力、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドを放射性ラベル化する能力、または生物的もしくは化学的反応を触媒する能力がある。ポリマーブラシに固定化するまたはポリマーブラシで単離される酵素官能基、および利用可能な酵素には、制限されないがアスコルビン酸オキシダーゼ(例えば血液、尿または他の試料の診断試験でアスコルビン酸の干渉を避けるため)、アスパルターゼ(例えばL-アスパラギン酸をフマル酸へ転化するため)、アミノアシラーゼ(例えばアセチル-D,L-アミノ酸をL-アミノ酸へ転化するため)、チロシナーゼ(例えばフェノール、ピルビン酸、およびアンモニアからチロシンを合成するため)、リパーゼ(例えばシアノエステルをイブプロフェンへ加水分解するまたはジルチアゼム前駆体を加水分解するため)、ペニシリンアミダーゼ(例えばアンピシリンおよびアモキシシリンの生産のため)、ヒダントイナーゼおよびカルバミラーゼ(例えば5-p-HP-ヒダントインをd-p-HPグリシンへ加水分解するため)、DNAase(例えばDNAをオリゴヌクレオチドへ加水分解するため)、ウシ肝臓カタラーゼ(例えば過酸化水素の加水分解のため)、トリプシンおよびキモトリプシン(例えばホエータンパク質の加水分解のため)、アルギナーゼおよびアスパルギナーゼ(例えばアルギンおよびアスパラギンの加水分解のため)、プロテアーゼ(例えば繊維から有機汚れを除去するため)、リパーゼ(例えば繊維から油性汚れを除去するため)、アミラーゼ(例えば繊維からデンプン食残物を除去するため)、セルラーゼ(例えば布の繊維の滑らかな表面および元の色を回復するため)、プロテアーゼとリパーゼ(例えば風味の強化および食べ物の熟成プロセスを促進するため)、ラクターゼ(例えば規定食の要件のための低ラクトースミルクおよび関連製品の生産)、β-グルカナーゼ(例えばワインの浄化プロセスを促進するため)、セルラーゼ(ワイン作りにおいて細胞壁の分解を促進するため)、セルラーゼとペクチナーゼ(例えばワインの浄化と保存安定性を改善するため)、ペクチナーゼ(例えば果汁の抽出および果汁の粘度低下を改善するため)、セルラーゼ(例えば果汁の収率および色を改善するため)、リパーゼ(脂肪および油の加水分解、または脂肪酸、グリセリン、脂肪酸(薬品、風味、香水および化粧品の生産に使用)の生産のため)、α-アミラーゼ(例えばデンプンの液化またはゼラチン化デンプンの断片化のため)、アミノグルコシダーゼ(例えば糖化、またはデンプンおよびデキストリンのグルコースへの完全分解のため)、グルコアミラーゼおよびプルラナーゼ(例えば糖化のため)、グルコースイソメラーゼ(例えばグルコースの異性化のため)、α-アミラーゼ(例えばデンプンをフルクトースへ転化するため)β-グルカナーゼ(例えばβ-グルカンの還元のため)、β-グルカナーゼ(例えばβ-グルカンおよびペントサンの還元のため)、リパーゼ、アミダーゼ、およびニトリラーゼ(例えば薬品および農薬の鏡像異性体の製造のため)、リパーゼ(例えば皮産業における脱脂プロセスでの脂肪除去のため)、アミラーゼおよびセルラーゼ(例えば繊維産業における低価値の未加工材料から繊維を製造するため)、キシラナーゼ(例えば製紙のための漂白したパルプの生産における前処理時の漂白触媒として)、β-ガラクトシダーゼ(例えばラクトースをグルコースに加水分解するため)、トリプシンおよびキモトリプシン(例えばミルクにある高分子量タンパク質の加水分解のため)、α-ガラクトシダーゼとインベルターゼ(例えばラフィノースの加水分解のため)、α-アミラーゼ、β-アミラーゼおよびプルラナーゼ(例えばデンプンをマルトースへ加水分解するため)、ペクチナーゼ(例えばペクチンの加水分解のため)、エンドペプチダーゼ(例えばk-カゼインの加水分解のため)、プロテアーゼおよびパパイン(例えばコラーゲンおよび筋肉タンパク質の加水分解のため)、グルコースオキシダーゼおよびカタラーゼ(例えばグルコースをグルコン酸へ転化するため)、リパーゼ(例えばトリグリセライドを脂肪酸およびグリセロールへ加水分解するため、オリーブオイルトリグリセライドを加水分解するため、大豆オイル、バターオイルグリセライド、およびミルク脂肪を加水分解するため)、セルラーゼおよびβ-グルコシダーゼ(例えばセルロースをセロビオースおよびグルコースへ加水分解するため)、ならびにフマラーゼ(例えばフマル酸を1-リンゴ酸へ加水分解するため)を含む。代わりになるものとして、微生物またはそのフラグメントが官能基になりうる。例えば、シュードモナス・ダクンハエ(dacunhae)(例えばL-アスパラギン酸のL-アラニンへの転化のため)、クルブラリア・ルナータ/単純カンジダ(例えばコルテキソロンをヒドロコルチソンおよびプレドニゾロンへ転化するため)、または酵母(例えば糖の発酵および嫌気性発酵のため)があり、全てがポリマーブラシに固定化できる。
【0114】
官能基は、全ての親水基、陰イオン性解離基または陽イオン性解離基、ならびに酵素を含む。さらに具体的には、ポリマーブラシは複数の官能基(例えば陰イオン性解離基と親水基、または陽イオン性解離基と親水基)、または3種の官能基(例えば親水基、陰イオン性解離基、および陽イオン性解離基)、またはそれ以上の官能基(例えば親水基、陰イオン性解離基、陽イオン性解離基、酵素、SpA、および一つ以上のFv抗体フラグメント)を有しうる。本発明に適当な官能基の組み合わせは、例えば、イオン基と非イオン基、すなわちアミン基と共存する親水基を含む。好ましい態様には、上記の第1の官能基に組み合わせて第2の官能基をさらに含む。現行の好ましい態様において、第1、第2、第3、および第4の官能基はポリマーブラシに多層に固定化される。したがって、本発明の主な特徴の一つとして、試料溶液中に存在する親水性ドメイン(非イオン性)を有する各種の分子は、イオン性ドメイン(陰イオンまたは陽イオン)を有する分子、あるいはリン酸化状態を有する分子、または結合部位またはヌクレオチドもしくはポリペプチド配列を有する分子が回収、精製、濃縮・単離、修飾、合成でき、またはそれを本発明の組成物と共に使用できることである。基質生物活性分子の結合を変化させるために官能基を変えてもよく、それによって、インビボでの解離速度を調節して、結合した基質生物活性分子の放出が制御される。このような改変または化学的修飾は、本発明の組成物において達成してもよく、またはポリマーブラシ表面に固定化する前に達成してもよい。
【0115】
官能基は抗体またはその関連ドメインもしくはフラグメントを含みうる。例えば、ヒドロキシスクシンイミドエステルは、ライシン残基により本組成物に抗体を固定化する方法を提供する。上記の炭水化物部分は、ポリマーブラシまたは官能基へ固定化するためのもう一つのソースを提供する。抗体の基本構造ユニットがテトラマーを含むことは周知である。それぞれのテトラマーはポリペプチド鎖対の2組(同一)からなり、各対は1つの軽鎖(約25kDa)と1つの重鎖(約50〜70kDa)とを有する。各鎖のアミノ末端部分は、基本的に抗原認識のための約100から110個またはそれ以上のアミノ酸の可変領域を有する。各鎖のカルボキシ末端部分は、基本的にエフェクター機能のために働く不変領域を有する。ヒト軽鎖はκおよびλ軽鎖に分類される。重鎖はμ、δ、γ、α、またはεに分類され、それぞれ、IgM、IgD、IgA、およびIgE抗体のアイソタイプを定義する。軽鎖および重鎖において、可変および不変領域は約12個またはそれ以上のアミノ酸を有する「J」領域によって結合し、重鎖は約10個以上のアミノ酸を有する「D」領域を含む。一般に、Fundamental Immunology Ch. 7 (Paul, W.編、第2版、Raven Press, N. Y. (1989))を参照(全体が本明細書に参照として組み入れられる)。それぞれの軽/重鎖対の可変領域は抗体結合部位を形成する。したがって、完全な抗体は2つの結合部位を有する。両機能性または両特異性抗体以外は、その2つの結合部位は同様である。それらの鎖は、同様の一般構造である比較的保存されたフレームワーク領域(FR)を示し、その構造は過度に可変な領域(相補性決定領域またはCDRとも呼ばれる)に結合している。フレームワーク領域によって、各対の2つの鎖のCDRが整列し、特定なエピトープとの結合が可能になる。N末端からC末端にかけて、軽鎖と重鎖の両方は、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4ドメインを含む。各ドメインへのアミノ酸の割り当ては、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1987および1991))、またはChothia & Lesk, J. Mol. Biol. 196: 901-917 (1987)、Chothiaら、Nature 342: 878-883 (1989)の定義による。これら全てのドメインまたはフラグメントもしくは配列は、本明細書に記載の方法によってポリマーブラシに固定化できる。
【0116】
両特異性または両機能性抗体は異なる2つの重/軽鎖対と結合部位を有する人工的なハイブリッド抗体である。両特異性抗体は、ハイブリドーマの融合またはFab'フラグメントの連結を含む各種の方法によって作られる。例えば、Songsivilai & Lachmann Clin. Exp. Immunol. 79: 315-321 (1990), Kostelny et al. J. Immunol., 148: 1547-1553 (1992)を参照。従来の抗体の生産に比べて、両特異性抗体の生産は労働集約的なプロセスであり、収率も純度も一般的に低い。両特異性抗体は、単一結合部位(例えばFab、Fab'、およびFv)を有するフラグメントの形では存在しないが、上記に説明したように固定化できるので、ポリマーブラシに追加の機能性特性(すなわちリガンドに対する追加の特異性)を与える。本明細書に記載の方法によって、ポリマーブラシに、複数のアイソタイプ、種、およびエピトープ認識特性を付与することができる。
【0117】
ヒト化抗体またはキメラ抗体も適当である。これらを作製するためのアプローチは、1990年1月20日に出願した米国特許07/466,008号、1990年11月8日に出願した米国特許07/610,515号、1992年7月24日に出願した米国特許07/919,297号、1992年7月30日に出願した米国特許第07/922,649号、1993年3月15日に出願した米国特許第08/031,801号、1993年8月27日に出願した米国特許第08/112,848号、1994年4月28日に出願した米国特許第08/234,145号、1995年1月20日に出願した米国特許第08/376,279号、1995年4月27日に出願した米国特許第08/430,938号、1995年6月5日に出願した米国特許第08/464,584号、1995年6月5日に出願した米国特許第08/464,582号、1995年6月5日に出願した米国特許第08/463,191号、1995年6月5日に出願した米国特許第08/462,837号、1995年6月5日に出願した米国特許第08/486,853号、1995年6月5日に出願した米国特許第08/486,857号、1995年6月5日に出願した米国特許第08/486,859号、1995年6月5日に出願した米国特許第08/462,513号、1996年10月2日に出願した米国特許第08/724,752号、および1996年12月3日に出願した米国特許第08/759,620号、ならびに米国特許第6,162,963号、第6,150,584号、第6,114,598号、第6,075,181、および第5,939,598号、ならびに日本特許第3 068 180号B2、第3 068 506号B2、および第3 068 507号B2に詳しく議論され、説明される。Mendezら、Nature Genetics 15: 146-156 (1997)、ならびにGreenおよびJakobovits J. Exp. Med. 188: 483-495 (1998)も参照。1996年6月12日に公開された欧州特許第0 463 151号B1、1994年2月3日に公開された国際公開公報第94/02602号、1996年10月31日に公開された国際公開公報第96/34096号、1998年6月11日に公開された国際公開公報第98/24893号、2000年12月21日に公開された国際公開公報第00/76310号も参照。上記引用した特許、特許出願、文献の開示は本明細書にすべて参照として組み入れられる。説明のように、ヒト化抗体もしくはキメラ抗体、またはその関連ドメインもしくはフラグメントをポリマーブラシに固定化できる。
【0118】
機能化リポゾーム、マイクロスポンジおよびマイクロスフェアも本明細書に記載の材料に固定化できる。リポソームは、水溶性区分と膜質の内部区分を定義する典型的に球状の形につくられる脂質分子である。リポソームは内部区分に薬剤を捕捉することができて、そして細胞内の所望の部位へ薬剤を輸送することができる。リポソームに捕捉された薬剤はリポソームによって放出され、例えば、細胞膜を形成する脂質二重層に類似している利点から細胞内に取り込まれる。ネクスター製薬(NeXstar Pharmaceuticals)またはリポソーム社(Liposome, Inc)から得られるリポソームを含み、本明細書に記載の方法によって機能化すれば、各種の適当なリポソームを使用することができる。リポソームをポリマーブラシへ固定化する方法は幾つかあり、例えば、疎水性ポリマーブラシまたは官能基、例えば脂肪酸官能基との相互作用による方法がある。
【0119】
マイクロスポンジは生物活性分子を捕捉できる空孔網を有する表面積の広い高分子スフェアである。マイクロスポンジは典型的にはビニルとアクリルモノマーとを用い、水系懸濁重合によって合成される。形状を安定させるため、重合したスフェアを架橋できるようにモノマーは単一または両機能性ともなりうる。空孔の体積および溶媒に対する膨潤性を制御するためにプロセスの条件およびモノマーの選択は可変である。そして、平均直径の範囲が制御されたマイクロスポンジを合成でき、直径約2マイクロメートル以下の小さいものも含まれる。標準のビーズ組成はスチレンとジビニルベンゼン(DVB)のコポリマーである。機械的ストレスもしくは温度的ストレス、または超音波処理によって、高分子マイクロスポンジに捕捉された薬剤は徐々に放出される。アドバンスドポリマーシステムズ(Advanced Polymer Systems)から市販されているマイクロスポンジを含み、本明細書に記載の方法によって機能化すれば、各種の適当なマイクロスポンジを使用することができる。これらはポリマーブラシへグラフトするか、または本明細書に記載の開示を考慮して、当技術分野で周知の標準的な化学技術によって固定化することができる。
【0120】
したがって、得られた基材は、さらに一つ以上の官能基を固定化できる複数のポリマーブラシを含む。このような組成物は広範囲の組み合わせを提供し、各種のプロセスに有用であり、例えば本明細書で開示のプロセスおよび製品、ならびに環境、ろ過、医療、医薬、および生物工学の当業者に周知の同様な用途に有用である。このような等価な組成物およびプロセスは本発明の範囲内と考慮する。
【0121】
本発明は、次の実施例によってさらに説明されるが、特許請求の範囲に記載の本発明の範囲を制限するものではない。
【0122】
実施例1 アスコルビン酸オキシダーゼを固定化するための膜組成物の調製経路
中空糸型多孔性膜を含む基材を幹ポリマーとして用いた。この中空糸ファイバーはポリエチレン製で、内径および外径はそれぞれ1.8mmおよび3.1mm、平均孔径は0.4ミクロン、空孔率が70%である。反応性モノマーのグリシジルメタクリレート(GMA、CH2=CCH3COOCH2CHOCH2)は東京化成株式会社から購入し、さらなる精製は行わずに使用した。陰イオン交換基としてのジエチルアミノ(DEA)基を含む多孔性中空糸膜の4つの段階からなる調製経路を図1(a)に示す。(1)ラジカル形成のための幹ポリマーへの電子線照射:カスケード型電子加速器(Dynamitron model IEA 3000-25-2、Radiation Dynamics Inc.、New York)を用いて、ポリエチレン多孔性中空糸膜を室温にて窒素雰囲気下で照射した。照射線量は200kGyに設定した。(2)反応性モノマーのグラフト:照射した基材を10 v/v% GMA/メタノール溶液に浸して、313Kで12分反応させた(参照として組み入れられるJ. Membr. Sci., 71: 1-12, 1992)。(3)標的タンパク質を特異的に吸着する陰イオン交換基の導入:GMAグラフト膜を50 v/v%ジエチルアミン(DEA)/水溶液と303Kで2時間反応させた。(4)他のタンパク質の非選択的吸着のブロッキング:膜をエタノールアミン(EA)に303Kで6時間浸すことによって、未反応のエポキシ基を不活性の2-ヒドロキシエチルアミノ基に転化した。得られた組成物はDEA-EAファイバーとよぶ多孔性中空糸膜である。
【0123】
膜組成物へのアスコルビン酸オキシダーゼの固定化
アスコルビン酸オキシダーゼは旭化成株式会社(日本)からの提供である。他の化学薬品は分析グレードである。アスコルビン酸オキシダーゼ(AsOM)を酵素官能基としてDEA-EAファイバーに固定化するため、シリンジポンプを用いて、以下の溶液を連続的に、室温で1ml/分の一定の透過流速で、長さ2cmのDEA-EAファイバーの空孔に透過させた:(1)平衡化するための14 mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)、(2)酵素をファイバーの空孔にあるジエチルアミノ基含有グラフトポリマー鎖へ吸着させるための酵素含有緩衝液(1Lの緩衝液に酵素0.50g)、(3)空孔を洗浄する緩衝液、(4)ポリマーブラシに固定化された酵素を架橋するための0.50 wt%グルタルアルデヒド水溶液、および(5)非架橋酵素を溶出するための0.50M NaCl溶液。上記の一連の手順を経て、中空糸の外側の表面から透過した溶出液の酵素濃度を235nmにおけるUV吸光度を測定して決定した。イオン交換吸着とその後の架橋により固定化した酵素の量、Qは以下の式によって算出した:
Q(mg/g) = [(吸着した量)-(洗浄した量)-(架橋されていない量)]/(乾燥した膜の重量)
得られたアスコルビン酸オキシダーゼ固定化多孔性中空糸膜をAsOMファイバーとよぶ。
【0124】
膜組成物を透過するときの活性の測定
長さ2cmのAsOMファイバーを図1(b)のようにI型にセットした。AsOMファイバーを調整するため、20mM酢酸緩衝液(pH4.0)をAsOMファイバーの内側から外側に向けて、30ml/hの一定透過流速で、強制透過させた。そして、基質溶液としてのアスコルビン酸(AsA)溶液(AsA濃度範囲は0.025から0.10mMまで)を、AsOMファイバーの内側表面から外側表面に向けて、30〜150ml/hの透過流速で流した。空間速度(SV)は以下のように定義した:
SV(h-1) = (AsA溶液の透過流速)/(内腔部を含むAsOMファイバーの体積)
【0125】
溶出液中のアスコルビン酸の濃度は、連続的に245nmのUV吸光度を測定して決定した。AsAからデヒドロアスコルビン酸への転化率および活性は以下のように定義した:
転化率(%) = 100 [(1-(溶出液中のAsA濃度)/(供給液中のAsA濃度)]
活性(mol/h/L) = (SV)[(供給液中のAsA濃度)-(溶出液中のAsA濃度)]
【0126】
AsOMファイバーの保存安定性を測定するために、緩衝液溶液に283Kで25日間保存したAsOMファイバーに同様の実験を行った。
【0127】
実施例2 アミノアシラーゼを固定化するための膜組成物の調製
グラフトするため、市販の多孔性中空糸膜(旭化成株式会社、東京、日本)を幹ポリマーとして用いた。この中空糸膜の内径および外径はそれぞれ1.8mmおよび3.1mm、平均孔径は0.24ミクロン、空孔率が70%である。アミノアシラーゼはシグマ社(No. 3333)から購入した。グリシジルメタクリレート(CH2=CCH3COOCH2CHOCH2)は東京化成株式会社から購入し、さらなる精製は行わずに使用した。他の化学薬品は分析用グレードまたはそれ以上である。中空糸型陰イオン交換多孔性膜は放射線グラフト重合法および続けて行う化学修飾により調製した(参照として組み入れられるJ. Chromatogr. A., 689: 211-218, 1995)。幹ポリマーを200 kGyの照射線量で電子線照射した後、10(v/v)%グリシジルメタクリレート(GMA)/メタノール溶液に313Kで12分間浸した。下に定義したようにGMAのグラフト率は160%であった。GMAグラフト中空糸を50(v/v)%ジエチルアミン(DEA)水溶液に303Kで1時間浸して、次にエタノールアミン(EA)に303Kで6時間浸した。エポキシ基から陰イオン交換基へのモル転化率を増加重量から算出した。得られた中空糸をDEA-EAファイバーとよぶ。
【0128】
陰イオン交換多孔性膜組成物の調整
透過方式でDEA-EAファイバーにアミノアシラーゼを吸着させる前に、DEA-EAファイバーを303Kで1時間、1M HClまたは1M NaOHに浸して調整した後、超純水で完全にすすいだ。HClおよびNaOH処理して得た膜をそれぞれDEA/ClファイバーおよびDEA/OHファイバーとよぶ。比較のため、調整していないDEA-EAファイバーを酵素結合のために使用した。膨潤比率は、調整されていないファイバーに対する湿潤状態の調整ファイバーの体積比として定義する。次に、膜を0.5M NaClに浸して、超純水で洗浄した後、膨潤比率を決定した。
【0129】
中空糸膜へのアミノアシラーゼの固定化
長さ7cmおよび2cmのDEA-EAファイバーをI型の構成にセットした。アミノアシラーゼの濃度が1.0mg/mlに達するように、アミノアシラーゼを14 mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)に溶かした。アミノアシラーゼ溶液をDEA-EAファイバーの内側表面に供給した。膜の厚みを横切る空孔を60 ml/hの一定流速で透過するように溶液を透過させた。中空糸の外側の表面から透過する溶出液を連続的に採取した。溶出液中のアミノアシラーゼは280nmのUV吸光度で測定して決定した。実験は室温で行った。吸着した酵素の量を下記の積分から算出した:
式中、C0およびCはそれぞれ供給液および溶出液の酵素濃度である。V、Ve、およびWはそれぞれ溶出液量、CがC0に達するときの溶出液量、および中空糸膜の重量である。次に、アミノアシラーゼ吸着中空糸を0.05 wt%グルタルアルデヒド溶液(pH8.0)に17時間、303Kで浸して、側鎖に捕捉された酵素を架橋した。空孔に0.5M NaClを透過させることによって、架橋されていない酵素を溶出し、その酵素濃度を決定した。架橋後に固定化したアミノアシラーゼの量を以下の式で算出した:
固定化アミノアシラーゼの量(mg/g) = [(吸着した量)-(溶出した量)]/(中空糸の重量)
架橋率(%) = 100(固定化した量)/(吸着した量)
得られた中空糸をアミノアシラーゼ固定化ファイバーとよぶ。
【0130】
アミノアシラーゼ固定化膜組成物の活性の決定
アセチル-DL-メチオニン(Ac-DL-Met)をアミノアシラーゼの基質として選択した。アミノアシラーゼ固定化ファイバーをI型の構成にセットした。シリンジポンプ(ATOM、1235N)を用いて、Ac-DL-Met溶液を30〜80ml/hの流速で、上記に定義の空間速度を40〜200h-1に変化させて、アミノアシラーゼ固定化ファイバーの空孔を透過させた。ニンヒドリン法(参照として組み入れられるBiotechnol. Bioeng., 19: 311-321, 1977)に従い、L-Metの濃度を決定するために、溶出液を採取した。Ac-DL-MetからL-Metへの転化率および膜の活性を以下のように定義した:
転化率(%) = 100(生成したL-Metのモル数)/(供給したDL-Metのモル数)
活性(mol/L/h) = [(転化率)/100](供給液濃度)(SV)
【0131】
実施例3 機能化した高分子ツール
プラスチックピペットチップへのポリGMAブラシのグラフト
本発明の容器は機能化したピペットチップを含む。市販されたピペットチップはEppendorf-Netheler-Hinz GmbH(Standartips 300mL)から購入した。ピペットチップはポリプロピレン製である。ピペットチップをポリエチレンパッケージに入れ、窒素を充填した。電子線照射はカスケード電子線加速器(Dynamitron IEA-3000-25-2、Radiation Dynamics, Inc.)を用いて、室温、電圧2MeV、電流1mAで行った。ポリエチレン繊維を載せたコンベアーは3.8cm/sの速さで往復させた。コンベアーの通過ごとの照射線量は10 kGyであった。曝した総電子線照射線量を50、100、150または200kGyに設定した。照射後、繊維を予め窒素で脱気したGMA溶液(10vol/vol%メタノールまたはブタノール中)に浸して、313K、真空中、所定時間で反応させた。GMAのグラフト後、繊維をジメチルホルムアミドとメタノールとで洗浄して、減圧下で乾燥した。グラフトしたGMAの量は以下のように定義した:
グラフト率 = [(W1-W0)/W0]*100%
ポリマーブラシの密度[mol/m2] = (W1-W0)/142/A
式中、W0およびW1はそれぞれ基材ピペットチップおよびGMAグラフトピペットチップの重量であり、Aはピペットチップの全表面積である。142はGMAの分子量である。ピペットチップの表面に付与したポリGMA鎖のエポキシ基を亜硫酸ナトリウムとトリメチルアミンとで反応させて、それぞれ陽イオンおよび陰イオン交換基に転化した。以下の式で、固定化したイオン交換基の密度を増加重量から算出した:
イオン交換基密度[mol/m2] = (W2-W1)/Mr/A
式中のMrは修飾する薬剤の分子量である。陽イオンおよび陰イオン交換ピペットチップの調製のため、残りのエポキシ基をそれぞれジオール基または2-ヒドロキシエチルアミノおよびトリメチルアミノ基に転化した。
【0132】
ポリGMAブラシのスルホン酸基およびトリメチルアミン基への機能化
ポリGMAブラシのエポキシ基を、GMAグラフトピペットチップをスルホン化薬剤(SSを含む亜硫酸水素ナトリウム(SS)/イソプロピルアルコール(IPA)/水:10/15/75重量比)に浸すことによって、スルホン酸(SO3H)基に転化した。スルホン化したあと、残りのエポキシ基を硫酸で親水化した。ポリGMAブラシのエポキシ基を、ジエチルアミン(DEA 50vol/vol%水中)またはトリメチルアミン-HCL(TMA-HCl/IPA/水 = 10/15/75重量%)と反応させた。第4級アンモニウム塩基を導入した後、残りのエポキシ基をエタノールアミンで親水化した。図30にこれらのチップの調製経路を示す。図31に示すように、乾燥状態のピペットチップの表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観測した。これらのグラフトチップの性能は表C、D、およびEにまとめて、以下に考察する。
【0133】
(表C) イオン交換ピペットチップによるタンパク質の吸着
*SS-Diolチップ:タンパク質としてリゾチーム、炭酸緩衝液(pH9.0)。DEA-EAまたはTMAチップ:タンパク質としてウシ血清アルブミン(BSA)、Tris-HCl緩衝液(pH8.0)。
【0134】
(表D) 陽イオン交換(SS-Diol)ピペットチップによるリゾチームの吸着
【0135】
(表E) 陰イオン交換ピペットチップによるBSAの吸着
【0136】
イオン交換チップによるタンパク質の回収
陽イオンおよび陰イオン交換チップのタンパク質回収性能を評価するために、炭酸緩衝液(pH9.0)中、0.5mg/mLの正に荷電したタンパク質の卵白リゾチームとTris-HCl緩衝液(pH8.0)中、0.5mg/mLの負に荷電したタンパク質のBSAとを用いた。150μLのタンパク質溶液を室温(約22℃)でイオン交換ピペットチップに導入して、チップに1.4秒間保持して、そして新しい試料バイアルに放出した。この順次プロセスの吸引および放出を1サイクルと定義する。バイアルにあるタンパク質の濃度はブラドフォード(Bradford)法(BIORAD、タンパク質アッセイキット)によって測定された。
【0137】
比較のため、市販されるイオン交換ピペットチップ、POROS-チップHSおよびHQはPEバイオシステムズ社(PE Biosystems)から購入した。上記の同じ実験方法でそれらの性能を評価した。SSおよびTMAチップより高い圧力損失を有するため、これらのビーズ充填ピペットチップには手動のピペット(GILSON、Pipetman 200)を使用した。これらのチップは全体が本明細書に参照として組み入れられる米国特許第6,048,457号および第6,200,474号に説明されている。
【0138】
元のピペットチップおよびGMAグラフトピペットチップのイオン交換チップの内側表面のSEM写真を図31に示す。イオン交換基のポリマーブラシへの導入によって、ピペットチップの内腔表面の粗さを増加した。これはポリマーブラシのイオン交換基または荷電基の静電的反発に誘導されるポリマーブラシの伸長を表す。
【0139】
イオン交換ビーズで充填した市販のピペットチップとは違って、ピペットチップの表面にはイオン交換ポリマーブラシが放射線誘導グラフト重合法とその次の化学的修飾によって直接に固定化された。市販のイオン交換ピペットチップと比べて、イオン交換ビーズが充填された上部には、タンパク質溶液のフロースルーの圧力損失が低いことが示された。説明のように、グラフト陽イオンおよび陰イオン交換ピペットチップのそれぞれの試料溶液中のHELおよびBSA濃度の低下を確かめた。
【0140】
実施例4 ポリマーブラシの連続修飾の順序変化によりタンパク質の多層度およびブラシの伸長度が制御される
放射線誘導グラフト重合法を用いて、ポリグリシジルメタクリレートブラシを、孔径0.4μm、空孔率70%の多孔性中空糸膜に付与した。ジエチルアミノまたはスルホン酸基をイオン解離性官能基として、2-ヒドロキシエチルアミノまたはジオール基を共存基として、ポリマー鎖に固定化した。イオン解離性官能基および共存の親水基の導入における連続的な化学修飾の順序の変化により、空孔表面にグラフトしたポリマーブラシの伸長の程度が決定する。得られた4種類のイオン解離性ポリマーブラシが固定化する多孔性中空糸膜を透水性およびタンパク質吸着性能について、ポリマーブラシの伸長程度を定量的に評価する透過方式にて決定した。第1段階においてイオン解離性基で修飾したポリマーブラシは、ブラシの伸長の程度が高く示され、エポキシ基からイオン解離性基への低い転化率において、タンパク質の多層結合が示された。スルホン酸基およびジオール基を固定化したポリマーブラシによる卵白リゾチームの同等な多層結合を観測するために、第1段階および第2段階においてポリマーブラシのエポキシ基からスルホン酸基への転化率はそれぞれ10%および60%であった。
【0141】
エポキシ基を含む反応性モノマーをグラフト重合した後、続けて行う化学修飾の順序は、すなわちイオン解離性基および共存親水基の導入は、ポリマーブラシ上のイオン解離性部分の密度を変化させるので、ポリマーブラシが伸長する程度を制御する。したがって、イオン解離性基を固定化したポリマーブラシを有する多孔性中空糸膜の透水性およびタンパク質の多層化を決定することにより、ポリマーブラシに沿うイオン解離性基の空間プロフィールに関する有用な情報が提供される。本明細書においては、ジエチルアミノ基またはスルホン酸基および2-ヒドロキシエチルアミノ基またはジオール基はそれぞれイオン解離性基および共存親水基として採用した。それに加えて、ウシ血清アルブミンおよび卵白リゾチームを、透過方式にて、それぞれジエチルアミノ基およびスルホン酸基を固定化したポリマーブラシへ吸着させた。
【0142】
多孔性中空糸膜(旭化成株式会社(日本)からの提供)をグラフト用の幹ポリマーとして使用した。中空糸膜の内径と外径はそれぞれ2mmおよび3mmであり、平気孔径は0.4μmで、空孔率は70%である。グリシジルメタクリレートは東京化成株式会社から購入し、さらなる精製は行わずに使用した。卵白リゾチーム(HEL)およびウシ血清アルブミン(BSA)はシグマ社から購入した。他の薬剤は分析用グレード以上である。
【0143】
空孔表面へのイオン解離性ポリマーブラシの合成
図9に示すように、放射線誘導グラフト重合法およびその次の化学修飾によって、4種類のイオン解離性またはイオン交換ポリマーブラシを、すなわち2種類の陰イオン交換ポリマーブラシと2種類の陽イオン交換ポリマーブラシを、多孔性中空糸膜に固定化した。化学修飾は連続的な機能化からなる:(1)イオン交換基、すなわちジエチルアミノ基およびスルホン酸基の導入まらびに(2)アルコールヒドロキシル基、すなわち2-ヒドロキシエチルアミノ基およびジオール基の導入である。ジエチルアミン、亜硫酸ナトリウム、エタノールアミン、および水を用いて、ポリGMAブラシのエポキシ基の開環反応によって、それぞれジエチルアミノ基(DEA)、スルホン酸基(SS)、2-ヒドロキシエチルアミノ基(EA)、およびジオール基を導入した。表Fに反応条件をまとめた。
【0144】
(表F) 多孔性中空糸膜にグラフトした4種類のイオン解離性ポリマーブラシの調製条件
(a)前照射法によるGMAのグラフト重合
電子線:
照射線量 200 kGy
雰囲気 N2雰囲気下
温度 室温
GMAのグラフト:
GMA濃度 メタノール中に10 vol%
温度 313K
反応時間 10,13分
(b)イオン解離性基および共存親水基の導入
【0145】
GMAグラフト後、連続的機能化の順序の変化によって、陰イオンまたは陽イオン交換ポリマーブラシを固定化した4種類の多孔性中空糸膜を作製した:得られた4種類の多孔性中空糸膜をDEA-EA、EA-DEA、SS-Diol、およびDiol-SSファイバーとよぶ。GMAのグラフト率を150%に設定した。記載の反応による増加重量から、GMAのグラフト率および転化率を算出した。
【0146】
イオン解離性ポリマーブラシを固定化した多孔性中空糸膜の透過性
有効長5cmの多孔性中空糸膜を図10に示す構成にセットした。Tris-HCl緩衝液(pH8.0)と炭酸緩衝液(pH9.0)とを、それぞれDEA-EAまたはEA-DEAファイバー、およびSS-DiolまたはDiol-SSファイバーを横切る空孔を通って半径方向に外側に向けて透過させた。一定の膜貫通圧力(0.05または0.10MPa)、298Kで強制的に透過させた。透過流束は以下のように算出した:
透過流束 = (透過流速)/(それぞれの中空糸膜の内表面積)
【0147】
空孔透過時のタンパク質の結合
緩衝液に溶かしたタンパク質を多孔性中空糸膜の空孔に強制的に透過させた。Tris-HCl緩衝液中のBSAと炭酸緩衝液中のHELとをそれぞれDEA-EAまたはEA-DEAファイバー、およびSS-DiolまたはDiol-SSファイバーに供給した。多孔性中空糸膜の外表面を透過する溶出液を分画バイアルで連続的に採取した。記載のUV吸光度の測定によって、それぞれのバイアルに存在するタンパク質の濃度を測った。平衡結合容量、すなわち供給液において平衡に達する結合したタンパク質の量は、下記の積分式によって評価した:
式中のC0およびCはそれぞれ供給液および溶出液のタンパク質濃度である。VおよびVeはそれぞれ溶出液量、およびCがC0に達するときの溶出液量である。Wは多孔性中空糸膜の乾燥重量である。
【0148】
陰イオンおよび陽イオン交換ポリマーブラシを固定化した多孔性中空糸膜の透過流束とエポキシ基から関連イオン解離性基への転化率との関係をそれぞれ図11(a)および(b)に示す。60%より低い転化率において、DEA-EAファイバーおよびEA-DEAファイバーはほとんど同様な透過流束を示した。転化率60%を超えると、DEA-EAファイバーの透過流束は徐々に低下した。逆に、SS-DiolファイバーとDiol-SSファイバーとでは著しい違いを示した。SS-Diolファイバーは転化率5%でも無視できるほど透過流束が低いが、Diol-SSファイバーは転化率50%になっても元の多孔性中空糸膜の40%の透過流束を維持した。
【0149】
エポキシ基からDEA基およびSS基への転化率とBSAおよびHELの多層結合度との関係をそれぞれ図12(a)および(b)、ならびに図13(a)および(b)に示す。転化率20%以上なると、DEA-EAファイバーはBSAを多層に吸着したが、EA-DEAファイバーでは単層結合容量に相当する一定のタンパク質結合容量を示した。逆に、SS-Diolファイバーは低い転化率においてHELの高い多層結合を示したが、Diol-SSファイバーでは、SS-Diolファイバーと同じHEL多層結合容量を示すには、転化率が約20%高い値にシフトした。例えば、SS-DiolファイバーおよびDiol-SSファイバーはそれぞれ5%および35%の転化率において、ほぼ同じ80mg/gのHEL結合容量を示した。
【0150】
ポリマーブラシの連続的化学修飾の順序の変化は、イオン解離性ポリマーブラシの性能に影響を与えた。図14に示すように、これは、多孔性中空糸膜にグラフトしたポリマーブラシ上のイオン解離性基の分布に関する簡単な原理で説明できる。第1の薬剤は機能化用であり、ポリGMAブラシの上部にあるエポキシ基をアタックして、第2の薬剤は下部の残りのエポキシ基を開環した。
【0151】
電子線の前照射によって、ラジカルがポリエチレンマトリックスに均一に発生するため、ポリエチレン製多孔性中空糸膜にグラフトしたポリGMA鎖は2つのドメインに形成される:(1)ポリエチレンマトリックスの深さに埋め込むポリマー鎖、および(2)空孔表面から空孔内部に向けて伸長するポリマー鎖である。
【0152】
DEA-EAファイバーのポリマー鎖は、DEA基に富んだ上部とEA基に富んだ下部からなる。エポキシ基からDEA基への転化率が20%を超えると、BSAはポリマーブラシによって多層に結合された。しかしながら、弱イオン解離性EA基がポリマーブラシの上部に導入されているため、転化率が60%を超えても、EA-DEAファイバーのポリマーブラシは空孔表面から空孔内部へ伸長されない。
【0153】
転化率5%でも、強イオン解離性ポリマーブラシを固定化したSS-Diolファイバーは低い透過流束および高いHELの多層結合度を当然示した。しかしながら、Diol-SSファイバーの性能はポリマーブラシのジオール基に富んだ上部の特性に制御される。それにもかかわらず、転化率が25%を超えると、ポリマーブラシは伸長し始め、HEL多層結合が生じる結果をもたらした。
【0154】
イオン解離性ポリマーブラシの伸長は、ポリマーブラシの長さ、イオン解離性基密度のような内部パラメーター、周りの溶液のpH、イオン強度のような外部パラメーターに決定される。これは、ポリマーブラシの伸長する程度を決定する新規なパラメーター -放射線グラフト重合法により作製したポリマーブラシのエポキシ基への連続的化学修飾の順序の変化- を提言する。多孔性中空糸膜の空孔表面にポリマーブラシを付与した。ポリGMAブラシの密度は多孔性中空糸膜1kg当り8〜12molに相当した。このようにして、連続的化学修飾の順序の変化は、ブラシの表面に沿って官能基を多層に固定化する。
【0155】
実施例5 多孔性中空糸膜の多層固定化したウレアーゼを用いた尿素の加水分解
ウレアーゼは、空孔率70%と厚み約1mmの多孔性中空糸膜の空孔表面にグラフトしたイオン交換ポリマーブラシに固定化された。固定化ウレアーゼの密度は膜1g当り1.6gに相当した。イオン交換吸着によってポリマーブラシに多層吸着したウレアーゼはトランスグルタミナーゼで架橋した。2M尿素溶液は、ウレアーゼ固定化ポリマーブラシに囲まれた空孔を通って半径方向に外側へ向けて、一定透過流速30mL/hで強制的に透過させた。固定化ウレアーゼ密度の増加とともに、尿素加水分解の反応率も310Kにて100%に増加した。初期尿素濃度を8Mに増加しても、尿素加水分解の反応率は80%高く維持された。
【0156】
酵素は多孔性中空糸膜にグラフトした荷電またはイオン交換ポリマーブラシに高速で多層化された。例えば、Tris-HCl緩衝液(pH8.0)に溶かしたウレアーゼ(pI5.1)を、対流的に正荷電した周囲、すなわち静電的反発によって伸長した陰イオン交換ポリマーブラシ、に輸送した。膜1g当り1.6gのウレアーゼはポリマーブラシに固定化された。
【0157】
ポリマーブラシに高密度で固定化したウレアーゼは尿素の有効な加水分解に使用できる。ここでは、尿素加水分解はアンモニアおよび二酸化炭素の形成でpH変化を起こして、静電的相互作用またはイオン交換吸着によりポリマーブラシに吸着した一部のウレアーゼがポリマーブラシから放出されるので、吸着したウレアーゼの架橋が必要となる。なお、酵素固定化多孔性中空糸膜を用いた新規な触媒システムは2つの異なる利点をもつ:(1)高密度の固定化酵素:酵素は、多孔性膜の空孔表面にグラフトしたイオン解離性ポリマーブラシに、イオン解離性ブラシの静電的反発により多層化される、(2)基質の高速輸送:膜貫通圧力による空孔を透過する基質溶液の対流輸送が、基質から固定化酵素ブラシへの拡散経路を狭くする。
【0158】
今まで、このような高濃度(2〜8M)の尿素の加水分解は報告されていない。ブラシに高密度で固定化したウレアーゼによって高濃度尿素の有効な加水分解が可能となる。本研究の目的は2つある:(1)多孔性中空糸膜に異なる固定化密度でウレアーゼを固定化する、(2)ウレアーゼ固定化多孔性中空糸膜の尿素加水分解性能を示す。
【0159】
陰イオン交換多孔性中空糸膜の調製
静電的相互作用に基づいてウレアーゼを吸着するために、ジエチルアミノ(DEA)基(-N(C2H5)2)を陰イオン交換基として多孔性中空糸膜に導入した。陰イオン交換多孔性中空糸膜の調製経路を図15に示す:調製手順は上に説明した。簡潔には、エポキシ基を含むビニルモノマー、グリシジルメタクリレートを電子線処理したポリエチレン製多孔性中空糸膜にグラフトした。GMAのグラフト率(dg)は下記に定義するように150%に設定した。グラフトポリマーブラシの一部のエポキシ基はDEA基に転化され、残りのエポキシ基はエタノールアミンで開環された。GMAグラフト膜を所定時間、ジエチルアミンに浸すことによって、上記に説明したエポキシ基からDEA基への転化率は最大80%まで達した。得られた陰イオン交換多孔性中空糸膜をDEA(x)-EAファイバーとよび、xは転化率である。
【0160】
膜を透過する時のウレアーゼの吸着
有効長1.2cmのDEA(x)-EAファイバーを図16に示す構成のようにセットした。中空糸膜の片方の末端をシリンジポンプにつなげ、もう片方を封じた。Tris-HCl緩衝液(pH8.0)中の濃度5.0mg/mLのウレアーゼ溶液を、中空糸の半径方向に内表面から外表面へ向けて、一定の流速30mL/h、310Kで透過させた(図16a)。中空糸の外表面を透過した溶出液を分画バイアルで連続的に回収した。それぞれのバイアルに存在するウレアーゼの濃度を280nmのUV吸光度にて測定し、決定した。DEA(x)-EAファイバーに吸着したウレアーゼの量は下記のように評価した:
式中のC0およびCはそれぞれ供給液および溶出液のウレアーゼ濃度である。V、Ve、およびWはそれぞれ溶出液量、CがC0に達するときの溶出液量、およびDEA(x)-EAファイバーの乾燥重量である。
【0161】
トランスグルタミナーゼでの架橋によるウレアーゼの固定化
グラフトポリマーブラシからウレアーゼの漏出を避けるために、ウレアーゼ結合膜を0.04 wt%のトランスグルタミナーゼ溶液に浸して、ウレアーゼを架橋した(図16b)。次に再び中空糸を透過方式にセットした。NaCl(0.5M)を中空糸膜の半径方向に外側に向けて透過させ、非架橋のウレアーゼを溶出した(図16c)。中空糸膜の外側表面に透過してきた溶出液のウレアーゼの濃度を連続的に測定した。ウレアーゼの吸着量からウレアーゼの溶出量を差し引いて、中空糸に固定化したウレアーゼの量を算出した。得られたウレアーゼ固定化多孔性中空糸膜をウレアーゼ(q)ファイバーとよぶ。qは固定化ウレアーゼの密度を示す。
【0162】
固定化ウレアーゼの活性の決定
2〜8Mの尿素溶液をウレアーゼ(q)ファイバーに、一定流速の30mL/h、310Kで強制的に透過させた。ウレアーゼ(q)ファイバーの外表面に透過してきた溶出液を連続的に回収した。溶出液中の尿素濃度はジアセチルモノキシム法によって決定した。尿素溶液の透過流速を一定させるために必要な圧力を測定した。
【0163】
DEA(x)-EAファイバーにおけるウレアーゼの破過曲線の一例、すなわち溶出液量に対するウレアーゼの濃度変化を図17に示す。縦軸は供給液に対する溶出液中のウレアーゼ濃度比であり、横軸は溶出液量を管腔部以外のDEA(x)-EAファイバー体積で割った無次元化溶出液量(DEV)である。各種のDEA基密度をもつDEA基含有ポリマーブラシに固定化されるウレアーゼの量を測定した。DEA基密度の増加とともに固定化したウレアーゼの量も増加した(図18)。これはDEA基密度の増加に誘導される高い静電的な反発によってグラフトポリマーブラシが基材表面からより長く伸長したからである。
【0164】
トランスグルタミナーゼで架橋することによって、約80%の結合酵素ウレアーゼが固定化され、結合ウレアーゼの量は0.2〜2.0g/gの範囲であった。例えば、エポキシ基からDEA基への転化率が70%のとき、多孔性中空糸膜に固定化した酵素の量はDEA-EAファイバー1g当りウレアーゼ1.5gであった(図18)。Uaseファイバーの性質を表Gにまとめた。
【0165】
(表G) ウレアーゼを固定化するための陰イオン交換多孔性中空糸膜の性質
【0166】
ウレアーゼ膜を用いた尿素の加水分解
基質、すなわち尿素を含む試料溶液の酵素固定化多孔性膜への透過は、バルクから酵素固定化ポリマーブラシへ拡散する物質移動抵抗が無視でき、固定化酵素の高い密度により多孔性膜の単位重量当りの高い酵素活性が示されることを確証する。固定化ウレアーゼの密度に対する2M尿素溶液の310Kでの加水分解の反応率を図19bに示す。反応率は固定化ウレアーゼ密度の増加とともに増加したが、DEA-EAファイバー1g当りのウレアーゼが1.4gを上回ると反応率は飽和した。
【0167】
図20に示すように、酵素の単位重量当りの加水分解した尿素の量は固定化ウレアーゼ密度の増加とともに減少した。この発見は、尿素の、バルクから固定化酵素ポリマーブラシとバルクとの間にある界面へ拡散する物質移動抵抗を無視できるかに関わらず、空孔表面にグラフトしたポリマーブラシにより多層固定化した酵素の深さ方向への尿素の拡散が、尿素の全加水分解速度における要因であることを示した。
【0168】
固定化酵素と遊離酵素の尿素反応率の比較を図21に示す。0.2時間の一定時間において、初期尿素濃度の増加は遊離型酵素の反応率を100%(2M尿素濃度)から40%(6M尿素濃度)へ急激に低下させた。一方、固定化酵素の反応率は初期濃度の8Mでも80%以上維持された(滞留時間0.2時間)。
【0169】
8M尿素を酵素固定化膜に透過させるときの溶出液量に対する尿素反応率と溶出液のpH変化とを図22に示す。溶出液量の増加にもかかわらず、pHおよび反応率は一定であった。
【0170】
エポキシ基含有反応性モノマーの放射線誘導グラフト重合およびジエチルアミンとの連続反応を用いて、ジエチルアミノ基を含むポリマーブラシをポリエチレン製多孔性中空糸膜に付与した。酵素を多層に吸着するため、陰イオン交換ポリマーブラシは静電的反発によって多孔性中空糸膜の空孔表面から伸長させた。ウレアーゼ溶液を陰イオン交換多孔性中空糸膜に透過させるとき、ウレアーゼは多層に吸着された。尿素加水分解の進行におけるpH変化に誘導されて酵素が漏出するのを避けるために、固定化ウレアーゼをトランスグルタミナーゼで架橋した。固定化ウレアーゼの密度は高くし、陰イオン交換多孔性中空糸膜1g当りウレアーゼ1.6gとした。尿素溶液(2〜8M)をウレアーゼ固定化多孔性中空糸膜に、12秒の一定の滞留時間、313Kで透過させた。尿素から多層化酵素への拡散物質移動抵抗のため、固定化酵素の単位質量当りの活性は低下したが、固定化ウレアーゼ密度の増加とともに、ウレアーゼ固定化多孔性中空糸膜の単位質量当りの活性は上昇した。
【0171】
図23に、一定透過流速1mL/hの尿素溶液におけるUase(1.2)ファイバーを用いた尿素の加水分解率と、溶出液量を中空糸の内腔以外の膜体積で割った無次元化溶出液量(DEV)との関係を示す。Uaseファイバーの内表面に供給した尿素溶液の濃度は2から8Mである。1mL/hの透過流速はUaseファイバーを透過する尿素溶液の滞留時間5.1分に相当する。尿素2Mおよび4Mの定量的な加水分解が達成され、6〜8M尿素における加水分解率はDEVの増加とともに徐々に低下した。
【0172】
Uaseファイバーを用いて、透過流速を膜体積で割った空間速度(SV)に対する4M尿素の加水分解率を図24に示す。SVが20h-1を下回るとき、すなわち滞留時間3.0分以上で、100%の尿素加水分解が観測された。つまり、Uaseファイバーへの尿素溶液の透過流速は尿素の全加水分解率を支配する。SVが増加すると、加水分解率は低下した。つまり、尿素の全加水分解率は、ポリマー鎖に多層化したウレアーゼへの拡散と固定化ウレアーゼの活性部位における本質的な反応とによって決定される。
【0173】
実施例6 タンパク質分離チューブの調製
タンパク質分離チューブの調製
本発明のもう一つの容器としては機能化したチューブが含まれる。Teflon(登録商標)製チューブ(内径1mm、長さ10cm)を電子線で照射した。電子線の総照射線量を20、30、50kGyに設定した。説明したように、総照射線量の増加はポリマーブラシ密度の増加をもたらす。グリシジルメタクリレート(GMA)をチューブの内部の表面にグラフトした。説明のようにGMAのグラフト率を計算した。次に、標準的な化学反応技術を用いて、GMAのエポキシ基をトリメチルアミン(TMA)基に転化した。本明細書に記載のさらなる使用のためにTMA転化率約90%のチューブを選んだ。
【0174】
イオン交換基含有チューブの性能
Cl-イオンまたはウシ血清アルブミン(BSA)溶液を作製したTMAチューブの内側に透過させた。流速を5mL/hに設定した。BSAおよびHCl溶液の供給濃度はそれぞれ0.05g/Lおよび2.5mMである。グラフト率および総照射線量に対するチューブの吸着性能、すなわち塩素イオン(Cl-)とウシ血清アルブミン(BSA)とを固定化する能力、を測定した。図25にイオン交換チューブの調製経路を示す。
【0175】
グラフト率に対するCl-およびBSAの破過曲線のプロフィールをそれぞれ図26および27に示す。グラフト率の増加とともにCl-およびBSAの吸着量も増加した。グラフト率が増加しても、Cl-の破過曲線は供給濃度の100%に達し、吸着が平衡に達したことを意味する。相反に、BSAの吸着はグラフト率の増加とともに徐々に増加した。
【0176】
総照射線量を一定に維持すると、グラフト率の増加によりポリGMAブラシの長さが増加した。したがって、BSAの1/10サイズで拡散係数の小さいCl-イオン(200 x 10-11)に対して、ポリマーブラシに沿って拡散する時間はポリマーブラシの長さに関係ない。しかしながら、Cl-イオンサイズより約10倍も大きいBSA(拡散係数 = 6.7 x 10-9)に対して、ポリマーブラシが長ければ、BSAのブラシへの拡散にはより多くの時間を要する。結果として、グラフト率2%のTMAチューブはBSAの段階的な吸着を示した。
【0177】
総照射線量を変化させると、ポリマーブラシの密度が変化した。総照射線量に対するCl-およびBSAの破過曲線をそれぞれ図28および29に示す。Cl-の破過曲線に対して、総照射線量と関係なくCl-の結合容量は一定であった。これはCl-イオンのサイズが小さいことによるものである。BSAに対して、総照射線量の増加とともに結合容量も増加した。しかしながら、BSAの吸着は50kGy照射したTMAチューブだけで平衡に達した。原理に拘束されることなく、総照射線量の増加はブラシ密度の増加をもたらし、BSAのブラシ内への透過を困難にする。
【0178】
実施例7 一つ以上のリガンドに特異的な親和性を有する機能化した材料
ラジカル誘導重合を開始するために、ピペットチップ、チューブ、ELISAプレート、および多孔性中空糸膜を電子線で照射した。適用した電子線の総照射線量を20、30、50kGyに設定した。内部の表面にグリシジルメタクリレート(GMA)をグラフトした。説明のようにGMAのグラフト率を計算した。
【0179】
ブドウ状球菌プロテインA(SpA)または放線菌プロテインG(SpG)、または細胞受容体FcRnをポリマーブラシ表面に固定化した。次に、血清、腹水、および培養細胞上清中に存在する免疫グロブリンを吸着するため、これらの機能化材料を用いた。高いイオン強度(約0.5M NaCl)の緩衝液を用いて、機能化材料から免疫グロブリンを溶出した。他の溶出条件も可能であり、当技術分野において周知である。溶出した免疫グロブリンは、アイソタイプ(すなわちヒト血清からのIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4)、ポリクロナール調製物(抗原をチャレンジしたウサギの血清から)、モノクロナール調製物(マウスの腹水および培養ハイブリドーマから)の混合物を含む。
【0180】
次に免疫グロブリン調製物を未使用の機能化材料に固定化して、ポリペプチドの免疫特異的な分離・精製に使用した。ここでの免疫グロブリン分子は、すなわちHIV gp120、プロテアーゼタンパク質、リバーストランスクリプターゼタンパク質、血球凝集素、ノイラミニダーゼ、IL-1、IL-6、TNF、ペプチドグリカン、CCR1、およびHER2遺伝子産物であり、特異的な親和性または結合力を有する。これらに対する抗体も複数の供給元から市販されている。
【0181】
キメラ抗体、ヒト化抗体、および両特異性抗体を含む全免疫グロブリン分子が使用できるが、本発明は免疫グロブリンフラグメント、すなわちFab、F(ab)2、Fv、およびFcドメインまたはフラグメントの使用も許容する。これらのフラグメントの固定化は当業者の能力範囲内である。
【0182】
等価物
上述の本発明の特定な態様の詳細な説明から、官能基を多層に固定化したグラフト重合材料を含む固有の組成物、ならびにその作製法および使用法を説明したことは明らかな筈である。本明細書において特定の態様を詳しく開示したが、これは実施例を示すことのみを目的とし、添付の特許請求の範囲を制限することを意図しない。特許請求の範囲に定義した本発明の範囲と趣旨から逸脱することなく、本発明に対して代用、変更、および修飾が可能であることは発明者によって熟慮される。例えば、官能基の組み合わせの数および種類、またはこれらの組成物の特定な装置への使用は、本明細書に記載の態様の知識を有する当業者にとって日常的なことと思われる。
【図面の簡単な説明】
【0183】
【図1】(a)多孔性中空糸膜を含む基材にグラフトしたポリマーブラシへ酵素アスコルビン酸オキシダーゼを固定化するための調製経路を示す図である。(b)アスコルビン酸オキシダーゼの固定化および酵素反応の触媒に用いられる膜を含む装置の図である。
【図2】膜へのアスコルビン酸オキシダーゼの固定化および架橋に対する濃度比プロフィール曲線を示す図である。
【図3】(a)基質溶液の流速に対する各種初期濃度におけるデヒドロアスコルビン酸の転化率をプロットした図である。(b)基質溶液の流速に対するデヒドロアスコルビン酸の生産率をプロットした図である。
【図4】膜の保存期間に対するアスコルビン酸からデヒドロアスコルビン酸への転化率をプロットした図である。
【図5】アミノアシラーゼを膜のポリマーブラシに多層に固定化した官能基を含む多孔性膜を用いての、N-アセチル-DL-アミノ酸のラセミ混合物の酵素的加水分解を示す図である。
【図6】(a)多孔性中空糸膜のブラシにアミノアシラーゼ酵素を多層に固定化するための調製経路を示す図である。(b)各初期濃度において、多層化されたアミノアシラーゼによるアセチル-DL-メチオニンからL-メチオニンへの転化率と試料溶液の流速との関係をプロットした図である。(c)固定化アミノアシラーゼの活性を示す空間速度に対する基質濃度をプロットした図である。
【図7】(a)多孔性中空糸膜のブラシにアミノアシラーゼ酵素を多層に固定化するための調製経路を示す図である。(b)多孔性中空糸ポリエチレン膜のブラシへの多層アミノアシラーゼの固定化と酵素反応の触媒作用を引き起こすために用いた装置の図である。ここでは、アミノアシラーゼがグルタルアルデヒドによってポリマーブラシに架橋される。
【図8】(a)アミノアシラーゼの固定化を示す。DEA膜、塩酸処理したDEA膜、およびNaOH処理した膜にアミノアシラーゼ溶液を透過させるときの溶出液の酵素の濃度変化をプロットした図である。(b)DEA膜、塩酸処理したDEA膜、およびNaOH処理した膜の透過圧力に対するアミノアシラーゼの固定化の変化を示すプロット図である。(c)官能基の多層固定化を増加するために塩酸処理したDEA膜の各基質濃度におけるアセチル-DL-メチオニンの不斉的加水分解のプロット図である。
【図9】4種類のイオン解離性あるいはイオン交換ポリマーブラシの調製経路を示す。つまり、陰イオン交換ポリマーブラシと陽イオン交換ポリマーブラシをそれぞれ2種類ずつ多孔性中空糸膜に固定化する。
【図10】DEA-EAおよびEA-DEA膜に生物活性分子の卵白リゾチーム(HEL)およびウシ血清アルブミン(BSA)を固定化するための装置を示す。
【図11】エポキシ基からそれぞれの解離性基への転化率に対する、ポリマーブラシにそれぞれ陰イオン交換および陽イオン交換官能基((a)および(b))を固定化した多孔性中空糸膜の透過流束を示す。
【図13】エポキシ基からDEA(a)およびSS(b)官能基への転化率に対する、BSAおよびHELのタンパク質の多層度を示す。
【図14】多孔性中空糸膜にグラフトしたポリマーブラシの前処理に対する解離性官能基の分布を示す。
【図15】陰イオン交換基を含むポリマーブラシへの生物活性分子ウレアーゼの固定化を示す。
【図16】ウレアーゼファイバー膜を含む装置の図であり、装置はウレアーゼの固定化および酵素反応の触媒に使用される。
【図17】ポリマーブラシに架橋する前および後のウレアーゼの固定化を示す。
【図18】エポキシ基からジエチルアミノ基への転化率に対するウレアーゼの固定化を示す。
【図19】(a)架橋時間に対するウレアーゼの固定化を示す。(b)固定化ウレアーゼに対する尿素における触媒作用を示す。
【図20】空間速度に対する尿素における触媒作用を示す。
【図21】固定化酵素および遊離酵素に対する尿素における触媒作用を比較して示す。
【図22】ウレアーゼを27層の多層に固定化したポリマーブラシによる、8モル尿素溶液における触媒作用を示す。
【図23】同様の27層Uaseファイバーによる各種尿素溶液濃度での触媒作用を示す。
【図24】透過速度に対する4モル尿素溶液における触媒作用を示す。
【図25】イオン交換の用途に用いるチューブの調製経路を示す。
【図26】チューブのグラフト率による塩素イオン吸着の影響を示す。
【図27】チューブのグラフト率によるウシ血清アルブミン吸着の影響を示す。
【図28】チューブへの照射線量による塩素イオン吸着の影響を示す。
【図29】チューブへの照射線量によるウシ血清アルブミン吸着の影響を示す。
【図30】機能化イオン交換ピペットチップの調製経路を示す。
【図31】機能化チップの管腔内側表面の走査型電子顕微鏡(SEM)の写真を示す。
【図32】(a)陽イオン交換ピペットチップの回収速度、および(b)陰イオン交換ピペットチップの回収速度を示す。
【図1A】
【図1B】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーブラシを含む基材であって、該ポリマーブラシは該ポリマーブラシ表面に多層に固定化した一つ以上の官能基をさらに含む、基材。
【請求項2】
基材が膜である、請求項1記載の基材。
【請求項3】
膜が約1ナノメーターから約1ミリメーターまでの平均空孔径を有し、ポリマーブラシが膜表面から該空孔の内腔へと伸長している、請求項2記載の基材。
【請求項4】
膜が約200ナノメーターから約500マイクロメーターまでの平均空孔径を有し、ポリマーブラシが膜表面から該空孔の内腔へと伸長している、請求項2記載の基材。
【請求項5】
基材が容器である、請求項1記載の基材。
【請求項6】
容器がピペットチップである、請求項5記載の基材。
【請求項7】
容器がチューブである、請求項5記載の基材。
【請求項8】
官能基が、陰イオン解離性基、陽イオン解離性基、非極性基、親水基、および疎水基からなる群より選択される、請求項1記載の基材。
【請求項9】
官能基が一つ以上のポリヌクレオチド官能基をさらに含む、請求項1記載の基材。
【請求項10】
ポリヌクレオチド官能基が、アプタマー、リボザイム、トランスフェリルRNA、ポリA+RNA、リボソームRNAまたはそれのサブユニット、およびポリデオキシリボヌクレオチドからなる群より選択される、請求項9記載の基材。
【請求項11】
官能基が一つ以上のポリペプチド官能基をさらに含む、請求項1記載の基材。
【請求項12】
ポリペプチド官能基が、酵素、酵素の活性部位、抗体、抗体ドメイン、受容体、キナーゼ、ホスファターゼ、リガンド、およびリガンドドメインからなる群より選択される、請求項11記載の基材。
【請求項13】
酵素がDNA修飾酵素である、請求項12記載の基材。
【請求項14】
DNA修飾酵素が制限エンドヌクレアーゼである、請求項13記載の基材。
【請求項15】
DNA修飾酵素がDNAポリメラーゼである、請求項13記載の基材。
【請求項16】
酵素がプロテアーゼである、請求項12記載の基材。
【請求項17】
酵素がウレアーゼである、請求項12記載の基材。
【請求項18】
酵素がアスコルビン酸オキシダーゼである、請求項12記載の基材。
【請求項19】
酵素がアミノアシラーゼである、請求項12記載の基材。
【請求項20】
抗体が、少なくとも一つの化合物に対して親和性を有する一つ以上の抗原結合ドメインをさらに含む、請求項12記載の基材。
【請求項21】
ポリマーブラシを含む基材であって、該ポリマーブラシは該ポリマーブラシ表面に多層に固定化した一つ以上の官能基をさらに含み、該官能基は基質化合物との接触時に該基質化合物と反応する官能基である、基材。
【請求項22】
官能基が基質化合物を脱酸素化する、請求項21記載の基材。
【請求項23】
官能基がアスコルビン酸オキシダーゼを含む、請求項22記載の基材。
【請求項24】
基質化合物がラセミ混合物をさらに含み、官能基が該基質化合物の該ラセミ混合物を加水分解する、請求項21記載の基材。
【請求項25】
ラセミ混合物がDL-アミノ酸であり、官能基がアミノアシラーゼを含む、請求項24記載の基材。
【請求項26】
基質化合物が変性剤をさらに含み、官能基が該変性剤を加水分解する、請求項21記載の基材。
【請求項27】
変性剤が尿素であり、官能基がウレアーゼを含む、請求項26記載の基材。
【請求項28】
化合物がポリヌクレオチドを含み、官能基が陰イオン解離性官能基を含む、請求項21記載の基材。
【請求項29】
請求項1記載の基材を作製する方法であって、基材を取得する段階、基材にポリマーブラシをグラフトする段階、および該ポリマーブラシ表面に沿って一つ以上の官能基を多層に固定化する段階を含む方法。
【請求項30】
基質化合物を脱酸素化する方法であって、ポリマーブラシは少なくとも一つの官能基を多層に固定化した表面をさらに含んでおり、該ポリマーブラシをグラフトした基材を取得する段階と、基材を該基質化合物と接触させることによって該基質化合物を脱酸素化する段階とを含む方法。
【請求項31】
少なくとも一つの官能基がアスコルビン酸オキシダーゼである、請求項30記載の方法。
【請求項32】
ラセミ混合物をさらに含む基質化合物を不斉的に加水分解する方法であって、ポリマーブラシは少なくとも一つの官能基を多層に固定化した表面をさらに含んでおり、該ポリマーブラシをグラフトした基材を取得する段階と、基材を該基質化合物と接触させることによってラセミ混合物を不斉的に加水分解する段階とを含む方法。
【請求項33】
少なくとも一つの官能基がアミノアシラーゼである、請求項32記載の方法。
【請求項34】
変性剤をさらに含む基質化合物を加水分解する方法であって、ポリマーブラシは少なくとも一つの官能基を多層に固定化した表面をさらに含んでおり、該ポリマーブラシをグラフトした基材を取得する段階と、基材を該基質化合物と接触させることによって変性剤を加水分解する段階とを含む方法。
【請求項35】
変性剤が尿素であり、少なくとも一つの官能基がウレアーゼである、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
固定化した陽イオン解離性の第1の官能基と親水性の第2の官能基とを有するポリマーブラシを含む基材を作製する方法であって、荷電溶液で該基材を処理することにより該ポリマーブラシを伸長させる段階を含む方法。
【請求項37】
荷電溶液が酸である、請求項36記載の方法。
【請求項38】
固定化した陽イオン解離性の第1の官能基と親水性の第2の官能基とを有するポリマーブラシを含む基材を作製する方法であって、荷電溶液で該基材を処理することにより該ポリマーブラシを伸長させる段階と、該ポリマーブラシに第3の官能基を多層に固定化する段階とを含む方法。
【請求項39】
荷電溶液がアルカリである、請求項38記載の方法。
【請求項40】
固定化した陰イオン解離性の第1の官能基と陽イオン解離性の第2の官能基と親水性の第3の官能基とを有するポリマーブラシを含む基材を作製する方法であって、正荷電溶液で該基材を処理することにより該ポリマーブラシの立体構造を調節する段階と、該ポリマーブラシに第4の官能基を多層に固定化する段階と、負荷電溶液で該基材を処理することにより該ポリマーブラシの立体構造を調節する段階と、該ポリマーブラシに第5の官能基を多層に固定化する段階とを含む方法。
【請求項41】
固定化した陰イオン解離性の第1の官能基と陽イオン解離性の第2の官能基と親水性の第3の官能基とを有するポリマーブラシを含む基材を作製する方法であって、負荷電溶液で該基材を処理することにより該ポリマーブラシの立体構造を調節する段階と、該ポリマーブラシに第4の官能基を多層に固定化する段階と、正荷電溶液で該基材を処理することにより該ポリマーブラシの立体構造を調節する段階と、該ポリマーブラシに第5の官能基を多層に固定化する段階とを含む方法。
【請求項42】
固定化した陰イオン解離性の第1の官能基と親水性の第2の官能基とを含むポリマーブラシを有した基材を調整する方法であって、酸で該基材を処理することにより該ポリマーブラシを伸長する段階と、該ポリマーブラシに第3の官能基を多層に固定化する段階とを含む方法。
【請求項43】
固定化した陽イオン解離性の第1の官能基と親水性の第2の官能基とを含むポリマーブラシを有した基材を調整する方法であって、アルカリで該基材を処理することにより該ポリマーブラシを伸長する段階と、該ポリマーブラシに第3の官能基を多層に固定化する段階とを含む方法。
【請求項44】
固定化した陰イオン解離性の第1の官能基と陽イオン解離性の第2の官能基と親水性の第3の官能基とを有するポリマーブラシを有した基材を調整する方法であって、酸で前記基材を処理することにより該ポリマーブラシの立体構造を調節する段階と、該ポリマーブラシに第4の官能基を多層に固定化する段階と、アルカリで該基材を処理することにより該ポリマーブラシの立体構造を調節する段階と、該ポリマーブラシに第5の官能基を多層に固定化する段階とを含む方法。
【請求項45】
固定化した一つ以上の官能基を有するポリマーブラシを含む基材であって、イオン解離性基と親水基とをさらに含むポリマーブラシをさらに有した基材を取得する段階と、イオン性溶液で該基材を処理することにより該ポリマーブラシの立体構造を調節する段階と、該ポリマーブラシ表面に一つ以上の官能基を多層に固定化する段階とを含む工程により生産される基材。
【請求項1】
ポリマーブラシを含む基材であって、該ポリマーブラシは該ポリマーブラシ表面に多層に固定化した一つ以上の官能基をさらに含む、基材。
【請求項2】
基材が膜である、請求項1記載の基材。
【請求項3】
膜が約1ナノメーターから約1ミリメーターまでの平均空孔径を有し、ポリマーブラシが膜表面から該空孔の内腔へと伸長している、請求項2記載の基材。
【請求項4】
膜が約200ナノメーターから約500マイクロメーターまでの平均空孔径を有し、ポリマーブラシが膜表面から該空孔の内腔へと伸長している、請求項2記載の基材。
【請求項5】
基材が容器である、請求項1記載の基材。
【請求項6】
容器がピペットチップである、請求項5記載の基材。
【請求項7】
容器がチューブである、請求項5記載の基材。
【請求項8】
官能基が、陰イオン解離性基、陽イオン解離性基、非極性基、親水基、および疎水基からなる群より選択される、請求項1記載の基材。
【請求項9】
官能基が一つ以上のポリヌクレオチド官能基をさらに含む、請求項1記載の基材。
【請求項10】
ポリヌクレオチド官能基が、アプタマー、リボザイム、トランスフェリルRNA、ポリA+RNA、リボソームRNAまたはそれのサブユニット、およびポリデオキシリボヌクレオチドからなる群より選択される、請求項9記載の基材。
【請求項11】
官能基が一つ以上のポリペプチド官能基をさらに含む、請求項1記載の基材。
【請求項12】
ポリペプチド官能基が、酵素、酵素の活性部位、抗体、抗体ドメイン、受容体、キナーゼ、ホスファターゼ、リガンド、およびリガンドドメインからなる群より選択される、請求項11記載の基材。
【請求項13】
酵素がDNA修飾酵素である、請求項12記載の基材。
【請求項14】
DNA修飾酵素が制限エンドヌクレアーゼである、請求項13記載の基材。
【請求項15】
DNA修飾酵素がDNAポリメラーゼである、請求項13記載の基材。
【請求項16】
酵素がプロテアーゼである、請求項12記載の基材。
【請求項17】
酵素がウレアーゼである、請求項12記載の基材。
【請求項18】
酵素がアスコルビン酸オキシダーゼである、請求項12記載の基材。
【請求項19】
酵素がアミノアシラーゼである、請求項12記載の基材。
【請求項20】
抗体が、少なくとも一つの化合物に対して親和性を有する一つ以上の抗原結合ドメインをさらに含む、請求項12記載の基材。
【請求項21】
ポリマーブラシを含む基材であって、該ポリマーブラシは該ポリマーブラシ表面に多層に固定化した一つ以上の官能基をさらに含み、該官能基は基質化合物との接触時に該基質化合物と反応する官能基である、基材。
【請求項22】
官能基が基質化合物を脱酸素化する、請求項21記載の基材。
【請求項23】
官能基がアスコルビン酸オキシダーゼを含む、請求項22記載の基材。
【請求項24】
基質化合物がラセミ混合物をさらに含み、官能基が該基質化合物の該ラセミ混合物を加水分解する、請求項21記載の基材。
【請求項25】
ラセミ混合物がDL-アミノ酸であり、官能基がアミノアシラーゼを含む、請求項24記載の基材。
【請求項26】
基質化合物が変性剤をさらに含み、官能基が該変性剤を加水分解する、請求項21記載の基材。
【請求項27】
変性剤が尿素であり、官能基がウレアーゼを含む、請求項26記載の基材。
【請求項28】
化合物がポリヌクレオチドを含み、官能基が陰イオン解離性官能基を含む、請求項21記載の基材。
【請求項29】
請求項1記載の基材を作製する方法であって、基材を取得する段階、基材にポリマーブラシをグラフトする段階、および該ポリマーブラシ表面に沿って一つ以上の官能基を多層に固定化する段階を含む方法。
【請求項30】
基質化合物を脱酸素化する方法であって、ポリマーブラシは少なくとも一つの官能基を多層に固定化した表面をさらに含んでおり、該ポリマーブラシをグラフトした基材を取得する段階と、基材を該基質化合物と接触させることによって該基質化合物を脱酸素化する段階とを含む方法。
【請求項31】
少なくとも一つの官能基がアスコルビン酸オキシダーゼである、請求項30記載の方法。
【請求項32】
ラセミ混合物をさらに含む基質化合物を不斉的に加水分解する方法であって、ポリマーブラシは少なくとも一つの官能基を多層に固定化した表面をさらに含んでおり、該ポリマーブラシをグラフトした基材を取得する段階と、基材を該基質化合物と接触させることによってラセミ混合物を不斉的に加水分解する段階とを含む方法。
【請求項33】
少なくとも一つの官能基がアミノアシラーゼである、請求項32記載の方法。
【請求項34】
変性剤をさらに含む基質化合物を加水分解する方法であって、ポリマーブラシは少なくとも一つの官能基を多層に固定化した表面をさらに含んでおり、該ポリマーブラシをグラフトした基材を取得する段階と、基材を該基質化合物と接触させることによって変性剤を加水分解する段階とを含む方法。
【請求項35】
変性剤が尿素であり、少なくとも一つの官能基がウレアーゼである、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
固定化した陽イオン解離性の第1の官能基と親水性の第2の官能基とを有するポリマーブラシを含む基材を作製する方法であって、荷電溶液で該基材を処理することにより該ポリマーブラシを伸長させる段階を含む方法。
【請求項37】
荷電溶液が酸である、請求項36記載の方法。
【請求項38】
固定化した陽イオン解離性の第1の官能基と親水性の第2の官能基とを有するポリマーブラシを含む基材を作製する方法であって、荷電溶液で該基材を処理することにより該ポリマーブラシを伸長させる段階と、該ポリマーブラシに第3の官能基を多層に固定化する段階とを含む方法。
【請求項39】
荷電溶液がアルカリである、請求項38記載の方法。
【請求項40】
固定化した陰イオン解離性の第1の官能基と陽イオン解離性の第2の官能基と親水性の第3の官能基とを有するポリマーブラシを含む基材を作製する方法であって、正荷電溶液で該基材を処理することにより該ポリマーブラシの立体構造を調節する段階と、該ポリマーブラシに第4の官能基を多層に固定化する段階と、負荷電溶液で該基材を処理することにより該ポリマーブラシの立体構造を調節する段階と、該ポリマーブラシに第5の官能基を多層に固定化する段階とを含む方法。
【請求項41】
固定化した陰イオン解離性の第1の官能基と陽イオン解離性の第2の官能基と親水性の第3の官能基とを有するポリマーブラシを含む基材を作製する方法であって、負荷電溶液で該基材を処理することにより該ポリマーブラシの立体構造を調節する段階と、該ポリマーブラシに第4の官能基を多層に固定化する段階と、正荷電溶液で該基材を処理することにより該ポリマーブラシの立体構造を調節する段階と、該ポリマーブラシに第5の官能基を多層に固定化する段階とを含む方法。
【請求項42】
固定化した陰イオン解離性の第1の官能基と親水性の第2の官能基とを含むポリマーブラシを有した基材を調整する方法であって、酸で該基材を処理することにより該ポリマーブラシを伸長する段階と、該ポリマーブラシに第3の官能基を多層に固定化する段階とを含む方法。
【請求項43】
固定化した陽イオン解離性の第1の官能基と親水性の第2の官能基とを含むポリマーブラシを有した基材を調整する方法であって、アルカリで該基材を処理することにより該ポリマーブラシを伸長する段階と、該ポリマーブラシに第3の官能基を多層に固定化する段階とを含む方法。
【請求項44】
固定化した陰イオン解離性の第1の官能基と陽イオン解離性の第2の官能基と親水性の第3の官能基とを有するポリマーブラシを有した基材を調整する方法であって、酸で前記基材を処理することにより該ポリマーブラシの立体構造を調節する段階と、該ポリマーブラシに第4の官能基を多層に固定化する段階と、アルカリで該基材を処理することにより該ポリマーブラシの立体構造を調節する段階と、該ポリマーブラシに第5の官能基を多層に固定化する段階とを含む方法。
【請求項45】
固定化した一つ以上の官能基を有するポリマーブラシを含む基材であって、イオン解離性基と親水基とをさらに含むポリマーブラシをさらに有した基材を取得する段階と、イオン性溶液で該基材を処理することにより該ポリマーブラシの立体構造を調節する段階と、該ポリマーブラシ表面に一つ以上の官能基を多層に固定化する段階とを含む工程により生産される基材。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【公開番号】特開2009−148276(P2009−148276A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25763(P2009−25763)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【分割の表示】特願2002−583088(P2002−583088)の分割
【原出願日】平成14年4月19日(2002.4.19)
【出願人】(503383826)イーメンブレン インコーポレーティッド (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【分割の表示】特願2002−583088(P2002−583088)の分割
【原出願日】平成14年4月19日(2002.4.19)
【出願人】(503383826)イーメンブレン インコーポレーティッド (1)
【Fターム(参考)】
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