説明

化合物半導体基板および発光素子ならびに化合物半導体基板の製造方法および発光素子の製造方法

【課題】輝度およびライフ等の諸特性が優れた高品質の化合物半導体基板および発光素子ならびに化合物半導体基板の製造方法および発光素子の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも、GaAs基板上に、GaAsバッファ層及び(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0<x<1、0<y<1)からなるダブルへテロ構造がこの順で形成された化合物半導体基板であって、前記GaAsバッファ層の厚さが、0.5μmより厚いものであることを特徴とする化合物半導体基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(AlGa1−xIn1−yP4元混晶からなるダブルへテロ構造が形成された化合物半導体基板および発光素子ならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば緑色から赤色の範囲にわたって比較的高輝度の発光が得られやすいことから、GaAs基板上に(AlGa1−xIn1−yP(以下、単にAlGaInPと記載することがある)4元混晶からなる発光層をエピタキシャル成長させた化合物半導体基板から製造された発光素子がよく利用されている(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、GaAs基板に格子整合する条件でダブルヘテロ構造をエピタキシャル成長させているが、ダブルヘテロ構造中の活性層から光を取り出すための電流拡散層をHVPE法によって成長させる際に加わる熱や、該電流拡散層が厚膜であることによる応力の影響で、GaAs基板側からダブルヘテロ構造側に欠陥が進行し、ダブルヘテロ構造に欠陥が発生する。このような欠陥は基板外周部に特に発生しやすい。
【0004】
そしてこのような欠陥を含む結晶性の悪い部分に電流拡散層や後述の上クラッド層等からp型ドーパント、特にMgが拡散してくるため、ダブルヘテロ構造中のキャリア濃度分布が面内で不均一、特に基板外周部のキャリア濃度が高くなってしまい、基板外周部を用いて作製された発光素子の発光寿命(ライフ)が短くなるといった不良が発生していた。
【0005】
このような問題に対し、電流拡散層や上クラッド層のキャリア濃度を調整(高濃度としない)することで不安定性を抑えてきたが、この手法には限界があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.,61(15)(1992)、1775〜1777頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、輝度およびライフ等の諸特性が優れた高品質の化合物半導体基板および発光素子ならびに化合物半導体基板の製造方法および発光素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明では、少なくとも、GaAs基板上に、GaAsバッファ層及び(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0<x<1、0<y<1)からなるダブルへテロ構造がこの順で形成された化合物半導体基板であって、前記GaAsバッファ層の厚さが、0.5μmより厚いものであることを特徴とする化合物半導体基板を提供する。
【0009】
このように、GaAs基板上に、GaAsバッファ層及び(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0<x<1、0<y<1)からなるダブルへテロ構造がこの順で形成された化合物半導体基板において、GaAsバッファ層の厚さが0.5μmより厚くなったものとすることによって、GaAsバッファ層より上部側に形成されたダブルヘテロ構造を構成する各層に、GaAs基板からの欠陥や不純物の拡散、表面状態(酸化膜や加工ダメージ)等の影響が伝わることを従来に比べて強く抑制することができる。これによって、ダブルヘテロ構造中の欠陥密度、特には基板外周部での欠陥密度を従来に比べて小さくすることができ、電流拡散層等からp型ドーパントの拡散が減少されたものとすることができる。従って、ダブルヘテロ構造のキャリア濃度分布が面内で不均一になることが従来に比べて強く抑制され、特に基板外周部のキャリア濃度が高くなることが防止できる化合物半導体基板となっている。よって、輝度やライフ等の特性が従来より優れた発光素子を高歩留りで製造することができる化合物半導体基板とすることができる。
【0010】
ここで、前記GaAsバッファ層の厚さが、1.0〜2.5μmであることが好ましい。
このように、GaAsバッファ層の厚さが1.0μm以上であれば、より強力にダブルヘテロ構造にGaAs基板からの欠陥や不純物の拡散、表面状態(酸化膜や加工ダメージ)等の影響が伝わることを抑制することができ、より高品質な化合物半導体基板とすることができる。また、厚さが2.5μm以下であれば、GaAsバッファ層が厚くなって形成に長時間を要したものととなることを防ぐことができ、またGaAs基板と(AlGa1−xIn1−yPからなるダブルヘテロ構造との格子定数の整合を図るというバッファ層本来の機能が弱まることを防止することができる。
【0011】
また、本発明では、本発明に記載の化合物半導体基板から製造されたものであることを特徴とする発光素子を提供する。
本発明の化合物半導体基板は、上述のように発光層であるダブルへテロ構造を構成する各層が、GaAs基板からの欠陥や不純物の拡散、表面状態等の好ましくない影響が小さなものであるため、輝度やライフ等の諸特性が優れた発光素子とするのに好適なものである。よってこのような化合物半導体基板から作製された発光素子は、輝度やライフ等の諸特性が優れたものとなる。
【0012】
そして、本発明では、少なくとも、GaAs基板上にGaAsバッファ層および(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0<x<1、0<y<1)からなるダブルへテロ構造をこの順で形成する化合物半導体基板を製造する方法であって、前記GaAsバッファ層の厚さを、0.5μmより厚くすることを特徴とする化合物半導体基板の製造方法を提供する。
【0013】
このように、0.5μmより厚いGaAsバッファ層を形成し、その上に(AlGa1−xIn1−yPからなるダブルへテロ構造をこの順で形成することによって、ダブルヘテロ構造を構成する各層に、GaAs基板からの欠陥や不純物の拡散、表面状態等の悪い影響が伝わることを0.5μmより厚く形成したGaAsバッファ層によって強く抑制することができるようになる。従って、ダブルヘテロ構造において、特に外周部の欠陥密度を従来に比べて少なくでき、電流拡散層等からのp型ドーパントの拡散量を従来より少なくすることができる。これによってダブルヘテロ構造中のキャリア濃度を従来より面内均一なものにすることができ、発光素子とした時に輝度やライフ等の特性が従来より優れたものを高歩留りで製造できる高品質な化合物半導体基板を製造することができる。
【0014】
ここで、前記GaAsバッファ層の厚さを、1.0〜2.5μmとすることが好ましい。
このように、形成するGaAsバッファ層の厚さを1.0μm以上とすることによって、より強力にダブルヘテロ構造にGaAs基板からの欠陥や不純物の拡散、表面状態(酸化膜や加工ダメージ)等の影響が伝わることを抑制することができ、より高品質な化合物半導体基板を製造することができる。そして、GaAsバッファ層の厚さを2.5μm以下とすることによって、GaAsバッファ層の形成が必要以上に長くなることを防ぐことができ、製造コストの上昇を抑制できる。またGaAs基板とダブルヘテロ構造との格子定数の整合を図るというバッファ層の本質的な機能が弱まることもなく、ダブルヘテロ構造の各層の結晶性を良好なものとすることができる。
【0015】
また、上記の化合物半導体基板の製造方法により製造された化合物半導体基板から発光素子を製造する方法であれば、発光層であるダブルへテロ構造を構成する各層が、GaAs基板からの欠陥や不純物の拡散、表面状態(酸化膜や加工ダメージ)等の影響が小さなものとすることができるため、キャリア濃度が面内で均一なダブルヘテロ構造を有した化合物半導体基板を製造することができ、輝度やライフ等の諸特性が優れた発光素子を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
このように本発明によれば、ダブルヘテロ構造中、特に外周部の欠陥密度が従来に比べて少ない、すなわちダブルヘテロ構造中のキャリア濃度が面内で均一な化合物半導体基板を提供することができ、従って、輝度がより高く、ライフがより長い高品質の発光素子を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の化合物半導体基板の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の発光素子の一例を示す概略構成図である。
【図3】実施例1−3、比較例1の発光素子の、化合物半導体基板における面内位置と発光ライフとの関係を示した図である。
【図4】実施例1−3、比較例1の発光素子の、化合物半導体基板における面内位置を示した図である。
【図5】GaAsバッファ層の厚さと発光素子の発光ライフとの関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
発光層として、ダブルへテロ構造を構成するAlGaInPの各層をGaAs基板上に形成する場合、ダブルヘテロ構造中のキャリア濃度が面内で不均一になることを抑制するための方法としては、従来では例えば電流拡散層や上クラッド層のキャリア濃度を調整する方法等が行われていた。
しかしながら、これらの従来の方法では得られる化合物半導体基板(発光素子)の輝度やライフ等の諸特性の改善には限界があり、更なる改善が求められてきている。
【0019】
そこで、本発明者が鋭意研究を重ねたところ、GaAs基板上に形成するGaAsバッファ層の厚さを0.5μmより厚くすることによって、GaAs基板に起因するダブルヘテロ構造の欠陥密度を従来より低減でき、これによって電流拡散層や上クラッド層からのp型ドーパントの拡散量自体を少なくでき、キャリア濃度が面内均一となったダブルヘテロ構造を有する化合物半導体基板を得ることができることを発見した。
【0020】
バッファ層は、直接、発光に寄与する層でないため、ダブルヘテロ構造(発光層部)がGaAs基板との格子定数の違いによる異常成長(面荒れ)等がなく正常に成長するのに、十分な厚さであれば、高価な有機金属原料等の原料の使用量を抑制する見地から、できるだけ薄くすることが求められており、その厚さを0.5μmより厚くすることは、本発明のような知見がない限り、考えられなかった。
【0021】
これに対し本発明者はGaAsバッファ層の厚さを0.5μmより厚くすることによって、GaAs基板からの欠陥や不純物の拡散、GaAs基板の表面状態の影響をこの0.5μmより厚く形成したGaAsバッファ層によって吸収させて、ダブルヘテロ構造の欠陥密度を低減でき、上記目的を達成できることを発見し、この発見を基に本発明を完成させた。
【0022】
以下では、本発明の実施の形態について図を参照して具体的に説明をする。図1に、本発明の化合物半導体基板の例を示す。
図1に示すように、本発明の化合物半導体基板1は、例えば、少なくとも、GaAs基板2、GaAsバッファ層(以下バッファ層ともいう)7、ダブルへテロ構造3、および電流拡散層8とで構成されている。
上記ダブルへテロ構造3は、少なくとも下クラッド層4、活性層5、上クラッド層6で構成された発光層であり、それぞれの層は(AlGa1−xIn1−yPからなっている。
【0023】
ここで、本発明の化合物半導体基板1は、GaAsバッファ層7の厚さが0.5μmより厚いものとなっているものである。
ダブルへテロ構造3とGaAs基板2との間にバッファ層7を設けることにより、両者の格子不整合が緩和されるとともに、GaAs基板2から不純物が拡散するのを効果的に防止することができるし、結晶欠陥による影響をより十分に除くことが可能である。
そしてその厚さを0.5μmより厚くすることによって、GaAs基板2からの欠陥や不純物の拡散、表面状態(酸化膜や加工ダメージ)等の影響がダブルヘテロ構造3の各層に到達することが強く抑制されたものとすることができる。従ってダブルヘテロ構造3中、特に基板の外周部の欠陥密度が従来より小さくなり、電流拡散層8等からのp型ドーパントの拡散量を少なくすることができる。そしてキャリア濃度分布が面内で均一なダブルヘテロ構造3となり、輝度やライフ等の特性が従来より優れた発光素子の製造に好適な化合物半導体基板1が得られる。
【0024】
また、GaAsバッファ層7の厚さを1.0〜2.5μmとすることができる。
GaAsバッファ層7の厚さが1.0μm以上あれば、ダブルヘテロ構造3にGaAs基板2からの欠陥や不純物の拡散、表面状態(酸化膜や加工ダメージ)等の影響が伝わることがより強く抑制され、より高品質な化合物半導体基板1とすることができる。また、GaAsバッファ層7の厚さが2.5μm以下であれば、GaAsバッファ層7が厚くなりすぎないため、形成に長時間が必要にならず、製造コストが高くなることが抑制される。そして、GaAs基板1とダブルヘテロ構造3との格子定数の整合を図るという本来備えるべき機能が十分に発揮されたものとすることができる。
【0025】
そして、上記ダブルへテロ構造3の上クラッド層6の上には、電流拡散層8が形成されている。
このような電流拡散層8を形成したものであれば、電極12(図2参照)からの電流を拡散させることができるため、電極12の直下近傍だけでなく、広い範囲で効率良く発光させることが可能である。このような電流拡散層8の材質としては、例えばGaPやAlGaAsが挙げられるが、特に限定されず、その都度適切な材質を選択することができる。
【0026】
なお、上記では、図1に示すような、GaAs基板2、バッファ層7、ダブルへテロ構造3、電流拡散層8のみから構成された化合物半導体基板1を例に挙げて説明したが、本発明の化合物半導体基板1は、当然この形態に限定されるものではない。
【0027】
例えば、発光層からGaAs基板の方へ向かった光を有効に取り出すために、ダブルへテロ構造とバッファ層との間に、活性層から発せられた光を反射するためのDBR(Distributed Bragg Reflector)層が形成された化合物半導体基板としても良い。このようにして、ダブルへテロ構造において発光された光をさらに効率良く取り出すことが可能である。
この他、電流拡散層と上クラッド層との間に、更なる電流の拡散層(不図示)が形成されたものであっても良い。このような更なる電流の拡散層によって、輝度等の特性がより向上されたものとすることができる。
【0028】
また、例えばドーパントの種類、各層の厚さ等、上記の各層の条件もGaAsバッファ層の厚さが、0.5μmより厚く、ダブルへテロ構造が(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0<x<1、0<y<1)からなるものであれば特に限定されるものではなく、所望の特性が得られるように適宜調整して形成されたものとすることができる。
例えば化合物半導体基板1の厚さが厚いものであれば、反りや割れの発生を有効に防止することができるので、これを考慮して各層の厚さを調整したものとすることができる(例えば、基板全体の厚さが200〜500μm程度になるように調整されたものを用いることができる)。また、反りや割れを防止するための加工等が施されたものであっても良い。
【0029】
また、図2に示すように、本発明の発光素子10は、上記のような化合物半導体基板に、さらにコンタクト層11および電極12、13が形成され、ダイシング工程等を経て素子化されたものである。
上述したように、この発光素子10は、ダブルへテロ構造3中の結晶性が従来より良好であり、キャリア濃度が安定したものとなっているため、輝度やライフ特性が従来のものに比べて優れたものである。
【0030】
次に、上述したような本発明の化合物半導体基板1の製造方法について説明する。
まず、GaAs基板2を用意する。このGaAs基板2は、その厚さやドーパントの種類等、特に限定されず、所望の化合物半導体基板1を得られるよう適宜選択することができる。
【0031】
ここでGaAs基板の導電型をn型とすることができる。
このように、GaAs基板2の導電型をn型とすることで、高輝度発光素子として一般的な化合物半導体基板とすることができる。
【0032】
そして、このGaAs基板2の上に、GaAsバッファ層7をエピタキシャル成長させる。このGaAsバッファ層7の厚さは、0.5μmより厚くする。
このようなGaAsバッファ層7を、後述のダブルへテロ構造3にさきがけて形成しておくことにより、転位の発生を抑制することができるとともに、例えばGaAs基板2からの不純物の拡散を効果的に防止することができ、有効である。
そしてその厚さを0.5μmより厚くすることによって、ダブルヘテロ構造を構成する各層に、GaAs基板からの欠陥や不純物の拡散、表面状態(酸化膜や加工ダメージ)等の影響が及ぶことを強く抑制することができる。そのため、ダブルヘテロ構造中の、特に外周部における欠陥密度が従来に比べて少なくすることができ、電流拡散層等からのp型ドーパントの拡散量を従来より少なくすることができる。これによってダブルヘテロ構造中のキャリア濃度を従来より面内均一にすることができ、発光素子とした時に輝度やライフ等の特性が従来より優れた高品質な化合物半導体基板を製造することができる。
【0033】
また、GaAsバッファ層7の厚さを、1.0〜2.5μmとすることができる。
GaAsバッファ層の厚さを1.0μm以上とすることによって、GaAs基板由来の欠陥や不純物の拡散、表面状態(酸化膜や加工ダメージ)等の影響がダブルヘテロ構造に及ぶことをより確実に抑制することができ、欠陥の少ないダブルヘテロ構造、すなわちキャリア濃度が面内で均一となり、輝度やライフなどの特性がより良好な発光素子を高効率で製造することができる化合物半導体基板を製造することができる。そしてGaAsバッファ層の厚さを2.5μm以下とすることによって、GaAsバッファ層の形成に長時間かかることを防げるので、製造歩留りが悪化せず、コストの上昇を抑制することができる。またGaAs基板とダブルヘテロ構造との格子定数の整合を十分に図ることができ、ダブルヘテロ構造の結晶性をより良好なものとすることができる。
【0034】
さらに、このGaAsバッファ層7の上に、発光層となるダブルへテロ構造3を形成する。上述したように、このダブルへテロ構造3は、下クラッド層4、活性層5、上クラッド層6で構成されており、各層は、いずれも(AlGa1−xIn1−yPから成っている。
【0035】
また、このダブルヘテロ構造3を形成する前に、活性層から発せられた光を反射するためのDBR層を形成しても良い。
【0036】
ここで、(AlGa1−xIn1−yPのxおよびyの調整方法としては、例えば、以下のように、GaAsおよび(AlGa1−xIn1−yPの室温における格子定数を比較し、これらが整合するようにxおよびyを算出等により選定することによって行うことができる。
【0037】
また、Alの混晶比はAlGaInP4元混晶のバンドギャップエネルギーを決めるので、まず、目標とする発光波長に対応する活性層5のAl混晶比xを選定する。そして、上下クラッド層4、6においては、発光に対して吸収体として作用せず、キャリアを閉じ込められるように、活性層のバンドギャップエネルギーよりも大きくする必要があり、例えば0.1eV以上大きくすると良い。
【0038】
したがって、目標とする発光波長に対する活性層およびクラッド層のAl混晶比x、バンドギャップエネルギーEgの組み合わせは、例えば、目標発光波長が620nmのとき、これに対する活性層のAl混晶比x=0.17、バンドギャップエネルギーEg=2.00であり、クラッド層ではAl混晶比x≧0.7、バンドギャップエネルギーEg=2.28のような組み合わせとすることができる。当然、この組み合わせのみに限定されるものではなく、その都度得たい発光波長から適宜選定することができる。
【0039】
このようにして目標とする発光波長をもとに選定したxの値から、yの値を算出して選定することができる。
そして、上記のようにして選定されたxおよびyの組み合わせによる組成で、ダブルへテロ構造3を構成する下クラッド層4、活性層5、上クラッド層6のAlxyGa(1−x)yIn(1−y)Pを、順次エピタキシャル成長させる。
【0040】
次に、上述したように、例えば上クラッド層6の上には、電流を十分に拡散させて、より広い範囲で効率良く発光させるために、電流拡散層8を形成することができる。
また、この電流拡散層8と上クラッド層6との間に、更なる電流の拡散層を形成することもできる。このような更なる電流の拡散層を更に形成することによって、より輝度等の特性を向上することが可能になる。
【0041】
なお、上記のGaAs基板2の上に形成するGaAsバッファ層7、下クラッド層4、活性層5、上クラッド層6、電流拡散層8等の形成方法は特に限定されないが、例えば従来と同様にして、MOVPE法等によってエピタキシャル成長して形成することができる。各層の形成のときに使用する装置も、従来と同様の装置を用いることができる。
そして、その各層の厚さやドーパントの種類、濃度、あるいは形成時の温度や時間といった形成条件も、GaAsバッファ層の厚さが、0.5μmより厚く、ダブルへテロ構造が(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0<x<1、0<y<1)からなるものであれば特に限定されることなく、常温で格子整合する所望の化合物半導体基板が得られるよう適宜設定することが望ましい。
【0042】
このとき、化合物半導体基板1に反りや割れが生じることを防ぐために、化合物半導体基板1が十分な厚さを持つように各層の形成条件を設定すると良い。また、化合物半導体基板1を加工する際に、加工方法を工夫することによっても、割れの発生を抑制することができる。例えば基板全体が200〜500μmの厚さになるように、GaAs基板2の厚さや電流拡散層8等の厚さを調整することが望ましい。
【0043】
以上のような製造方法によって、目標とする発光波長を有する光を取り出すことができ、かつ、輝度やライフ等の特性が優れた化合物半導体基板1を製造することができる。
そして、このようにして得られた化合物半導体基板1のさらに上にコンタクト層11および電極12を形成し、また、GaAs基板1側にも電極13を形成して、ダイシング等の工程を施して素子化することによって、本発明の発光素子10を得ることができる。
【0044】
なお、本発明では、一旦本発明の化合物半導体基板を形成すれば、その後の素子を形成する方法は特に限定されない。
例えば、電流拡散層の成長が終了した後に、GaAs基板1をエッチング等により除去し、そこにGaAs基板の代わりにn型GaP基板等の透明半導体基板を貼り合わせても良いし、また、エピタキシャル成長によりGaP等の透明半導体層を形成しても良い。そしてその後コンタクト層および電極を形成してダイシング等の工程を施して素子化することによっても、本発明の発光素子を得ることができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1−3、比較例1)
GaAs基板上にダブルへテロ構造等を形成し、図2に示すような発光素子を製造して輝度およびライフの特性について測定を行った。
具体的には、まず、厚さ250μm、面方位(100)15度off、シリコンドープ(キャリア濃度1×1018/cm)のn型GaAs基板を用意した。
このGaAs基板上にMOVPE法によって、シリコンドープ(キャリア濃度1×1018/cm)のGaAsバッファ層をエピタキシャル成長させた。
このとき、GaAsバッファ層の厚さを、0.5μm(比較例1)、0.75μm(実施例1)、1.0μm(実施例2)、1.5μm(実施例3)とした。
【0046】
次に、(AlGa1−xIn1−yPから成るダブルへテロ構造をMOVPE法によってエピタキシャル成長させた。MOVPE工程における各原料ガスの混合割合を調整することにより、活性層、下クラッド層および上クラッド層をバッファ層の上に順次形成した。
なお、原料ガスには、TMAl、TMGa、TMIn、CpMg(又はDEZn)、アルシン、ホスフィン、モノシランを用いた。また、炉内圧力を200hPa以下に減圧して行い、エピタキシャル成長温度は700℃とした。
【0047】
また、活性層はノンドープで厚さ1μm、下クラッド層はシリコンドープ(キャリア濃度5×1017/cm)で厚さ2μm、上クラッド層はマグネシウムドープ(キャリア濃度1×1017/cm)で厚さ2μmとした。
【0048】
以上のようにしてダブルへテロ構造を形成した後、この上にp型GaPをMOVPE法により形成した。
さらに、HVPE法によって電流拡散層としてp型GaP層をエピタキシャル成長した。
このp型GaP層は、亜鉛ドープ(キャリア濃度1×1018/cm)で厚さは50μmとした。
【0049】
この後、(Au−Be)/Auを蒸着してオーミック電極を形成した。また、GaAs基板側にも(Au−Ge)/Auを蒸着してオーミック電極を形成し、ダイシング等の工程を経て、チップサイズ250μmの発光素子を製造した。
【0050】
このようにして製造された本発明の発光素子に対し、輝度およびライフの特性を測定した。測定時の温度は85℃、湿度は45%とし、電流20mAでの発光出力を測定した。また、50mA以上の電流を100時間通電させた後に再度発光出力を測定し、残光率(ライフ)を算出した。その結果を図3に示す。なお、輝度は通電開始時の発光出力を100とした相対値で表した。また、図3で示した位置が化合物半導体基板のどの位置のものかについて、図4に示す。
また、先に測定した残光率(ライフ)の平均値と、GaAsバッファ層の厚さの関係を評価した。その結果を後述する図5に示す。
【0051】
図3に示すように、実施例1の発光素子は化合物半導体基板の面内でのバラツキが最低94.8%・最高97.5%、実施例2では最低96.5%・最高98.0%、実施例3では最低98.1%・最高99.1%であり、輝度の劣化や基板面内でのバラツキが後述する比較例1に比べて十分に小さかった。また、GaAsバッファ層の厚さが厚くなればなるほど輝度の劣化が小さく、発光素子のライフを改善できることが判った。
これに対し、比較例1の発光素子は最低89.6%・最高95.7%と非常に面内でのバラツキが大きく、特に外周部と内周部の差が激しいことが判った。
【0052】
(実施例4、比較例2)
実施例1において、GaAsバッファ層の厚さを0.3μm(比較例2)、2.5μm(実施例4)とした以外は同様の方法で発光素子を作製し、実施例1と同様の評価を行ってGaAsバッファ層の厚さとライフの関係を評価した。その結果を図5に合わせて示す。
【0053】
図5に示すように、実施例1の発光素子はライフ96.3%、実施例2の発光素子はライフ97.3%、実施例3の発光素子はライフ98.5%、実施例4の発光素子はライフ99.1%であったのに対し、比較例1の発光素子はライフ93.4%、比較例2の発光素子はライフ92.3%であった。
このように、GaAsバッファ層の厚さを0.5μmより厚くすることによって、発光素子のライフを改善できることが判った。
【0054】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0055】
1…化合物半導体基板、
2…GaAs基板、 3…ダブルへテロ構造、
4…下クラッド層、 5…活性層、 6…上クラッド層、
7…GaAsバッファ層、 8…電流拡散層、
10…発光素子、 11…コンタクト層、 12、13…電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、GaAs基板上に、GaAsバッファ層及び(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0<x<1、0<y<1)からなるダブルへテロ構造がこの順で形成された化合物半導体基板であって、
前記GaAsバッファ層の厚さが、0.5μmより厚いものであることを特徴とする化合物半導体基板。
【請求項2】
前記GaAsバッファ層の厚さが、1.0〜2.5μmであることを特徴とする請求項1に記載の化合物半導体基板。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の化合物半導体基板から製造されたものであることを特徴とする発光素子。
【請求項4】
少なくとも、GaAs基板上にGaAsバッファ層および(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0<x<1、0<y<1)からなるダブルへテロ構造をこの順で形成する化合物半導体基板を製造する方法であって、
前記GaAsバッファ層の厚さを、0.5μmより厚くすることを特徴とする化合物半導体基板の製造方法。
【請求項5】
前記GaAsバッファ層の厚さを、1.0〜2.5μmとすることを特徴とする請求項4に記載の化合物半導体基板の製造方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の化合物半導体基板の製造方法により製造された化合物半導体基板から発光素子を製造することを特徴とする発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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