説明

化学センシング装置及び化学センシング方法

【課題】センサ表面に所定面密度で固定した捕捉分子との結合を介して、固定化される検出対象を検出する際、該検出対象の固定化率が「単分子レベル」であっても、高い確度・精度で検出が可能な、化学センシング装置、方法の提供。
【解決手段】 金属薄膜に設ける微小な開口、または、金属微粒子の表面における表面プラズモン共鳴を利用する化学センシング装置において、微小な開口、または金属微粒子の表面に捕捉体物質を設け、該捕捉体物質を利用して、標的物質を捕捉する。その際、微小な開口、または金属微粒子と同程度のサイズである標識物質を、標的物質に対して結合させた状態とする。その結果、標的物質の捕捉に伴って生じる、表面プラズモン共鳴に起因する透過光または散乱光のスペクトル変化量が増加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学センサに関する。特には、医療や健康診断、食品の検査に用いられる、生体物質の検出を目的とする表面プラズモン共鳴バイオセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療における診断や食物の検査等において、種々の生理物質、生体物質を検出するバイオセンサの利用が進んでいる。特に、サンプル中に含まれる僅かな量の生理物質、生体物質の検出が可能である種々のバイオセンサが開発されている。また、小型で高速センシングが可能であり、同時に、低コストなバイオセンサの開発が求められている。
【0003】
また、抗原・抗体反応を利用した抗原分子の検出、受容体タンパク質に対するリガンド分子の結合を利用するリガンド分子の検出に利用されるバイオセンサの開発も進められている。これら検出対象の生理物質、生体物質を特異的に捕捉する捕捉体物質と、検出対象とを複合体形成させて検出するバイオセンサにおいても、小型化、高速センシング、低コスト化が求められている。その際、小型化を図るとともに、形成された複合体量を精度よく、かつ短時間で測定する目的では、表面プラズモン共鳴をトランスジューサとして用いたバイオセンサが有望視されている。この表面プラズモン共鳴(SPR)バイオセンサ、例えば、Kretchmann型構成のSPRバイオセンサでは、光の入射角が全反射条件を満たす配置とされている、プリズム表面に設けた金属薄膜を利用する。すなわち、この全反射型配置のプリズム表面に設けた金属薄膜の表面に生成されている表面プラズモンと、入射される光とのカップリングに起因する表面プラズモン共鳴吸収(散乱)を利用する。この金属薄膜の表面に物質が吸着すると、表面プラズモン共鳴吸収(散乱)を引き起こす光のピーク波長(表面プラズモン共鳴波長)がシフトする。その際、金属薄膜の表面に吸着されている物質量が増加すれば、この表面プラズモン共鳴波長のシフト量が増大するという現象を利用して、金属薄膜の表面に吸着されている物質量を測定している。
【0004】
一方、高感度なセンシングを目的として、特許文献1では、金属薄膜に形成した微小開口を用いた局在表面プラズモン共鳴センサが提案されている。該局在表面プラズモン共鳴センサでは、基板上の金属薄膜に形成した微小開口に光を照射し、微小開口を透過した光の透過率を測定することにより、微小開口近傍の媒質の変化を検出する構成を採用している。
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0132392号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Kretchmann型構成の表面プラズモン共鳴(SPR)バイオセンサにおいては、見掛けの表面プラズモン共鳴波長のシフト量増大は、該金属薄膜の表面に吸着されている物質量の増加に依存する。一方、試料中に含有される検出対象物質の濃度が低い場合、該金属薄膜の表面に吸着される検出対象物質の面密度も低くなる。その結果、見掛けの表面プラズモン共鳴波長のシフト量に依存する、検出光量変化も少なくなり、検出対象物質の濃度を高い精度で検出することが困難となっている。
【0006】
また、上記の局在表面プラズモン共鳴センサも、局在表面プラズモン共鳴吸収(散乱)を引き起こす光の波長のシフトを利用している。この局在表面プラズモン共鳴吸収(散乱)は、金属薄膜に形成された微小開口部の表面、特には、微小開口部側壁に存在する局在表面プラズモンに由来するものである。試料中に含有される検出対象物質の濃度が低い場合、該微小開口部表面の固定されている捕捉体物質分子との分子間結合を介して、該微小開口部表面に固定化される検出対象物質の面密度も低くなる。その結果、見掛けの局在表面プラズモン共鳴波長のシフト量に依存する、透過光量変化も少なくなり、検出対象物質の濃度を高い精度で検出する上での障害要因となっている。
【0007】
一方、早期の病状段階での医療診断に利用する場合には、検体試料中に存在する極微量のタンパク質を検出することが必要となる。また、食品の検査に応用する場合には、細菌数が非常に少ない段階で、検出対象の細菌を高い確度で検出することが必要となる。すなわち、検体試料中に存在する検出対象の濃度が低い場合でも、検出対象の濃度を高い確度・精度で測定するためには、該検出対象の検出に利用するバイオセンサに対して、一層の高感度化が望まれている。例えば、センサ表面に、所定の面密度で固定されている複数個の捕捉体物質分子に対して、検出対象の生体物質が、一分子が結合するような「単分子レベル」の検出能を具えたバイオセンサの開発が望まれている。
【0008】
本発明は前記の課題を解決するものである。本発明の目的は、センサ表面に所定面密度で固定した捕捉体物質分子との結合を介して、固定化される検出対象を検出する際、該検出対象の固定化率が「単分子レベル」であっても、高い確度・精度で検出が可能な、化学センシング装置を提供することにある。また、本発明の目的は、該化学センシング装置を利用して、検体試料中に極く低い濃度で含まれる検出対象を、高い確度・精度で検出が可能な、化学センシング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては、
金属薄膜に設ける微小な開口、あるいは金属微粒子の表面に入射される照射光に起因して、その金属表面の近接場光と、金属の自由電子とのカップリングによる局在表面プラズモン(local surface plasmon)の共鳴現象(local surface plasmonresonance)を利用している。その際、微小な開口から1/2波長よりも短い距離に、標識物質が結合された標的物質を、捕捉体物質との結合を介して、固定化する。あるいは、金属微粒子の表面に、標識物質が結合された標的物質を、捕捉体物質との結合を介して、固定化する。この1/2波長よりも短い距離に固定化される標識物質が結合された標的物質、特に、標識物質の存在は、金属表面に発生する電子波により大きな影響が及ぶ。そのため、局在表面プラズモン共鳴が起こる共鳴条件(共鳴周波数)により大きな変化が引き起こされる。本発明は、この現象を利用することで、検出感度を格段に向上させたものである。
【0010】
本発明にかかる化学センシング装置は、下記の構成を有するものである。
【0011】
該化学センシング装置は、次の構成要素を具えてなる装置である。
【0012】
光源;
該光源から照射される光の波長よりも小さい開口を設けた金属薄膜または金属微粒子;該開口または該金属微粒子の近傍に設けられた捕捉体物質;
該捕捉体物質と結合可能な標的物質と結合した該開口または該金属微粒子と略同程度のサイズを有する標識物質;
該開口または該金属微粒子へ照射光の透過光または散乱光を検出する光検出器。
【0013】
また、本発明にかかる化学センシング方法は、下記の構成を有するものである。
【0014】
該化学センシング方法では、次の構成要素を利用する。
【0015】
光源から照射される光の波長よりも小さい開口を有する金属薄膜または金属微粒子;
該開口または該金属微粒子の近傍に設けられた捕捉体物質;
該開口または該金属微粒子と略同程度のサイズを有する標識物質。
【0016】
その上で、該化学センシング方法は、下記の工程を具えている。
【0017】
標的物質を該標識物質に結合させる工程;
該標識物質が結合した該標的物質を該捕捉体物質に結合させる工程;
該光源から該開口または該金属微粒子へ光を照射する工程;
該開口または該金属微粒子への該照射光の透過光または散乱光を検出する工程。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる化学センシング装置、化学センシング方法では、金属薄膜に形成した微小な開口の近傍や金属微粒子に結合させた捕捉体物質に、前記開口や金属微粒子と同程度のサイズの標識物質を結合した標的物質を結合させる。開口や金属微粒子と同程度のサイズの標識物質を結合した標的物質として結合させることで、観測される局在表面プラズモン共鳴のピーク波長のシフト量を大きくしている。そのため、局在表面プラズモン共鳴を利用する検出において、標的物質に対する検出感度は、単分子レベルまで高感度化が可能となる。この高い検出感度を利用することで、早期の病状段階の医療診断や非常に少ない細菌の検出に対しても、本発明にかかる化学センシング装置、化学センシング方法は好適に適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明における、好適な形態を示す。
【0020】
本発明の化学センシング装置は、下記の構成を有することが好ましい。
【0021】
本発明の化学センシング装置は、標的物質を、捕捉体物質との結合を介して、固定化することで検出を行う方式の化学センシング装置である。
【0022】
該化学センシング装置は、下記の構成要素を具えている。
【0023】
光源;
該光源から照射される光の波長よりも小さい開口を設けた金属薄膜、または該光の波長よりも小さい金属微粒子;
前記開口を設けた金属薄膜、または金属微粒子をその表面に保持する透明基板;
前記開口の近傍の金属薄膜の金属表面、または、前記金属微粒子の表面に結合されている前記捕捉体物質;
前記開口または金属微粒子の大きさを基準として、その1/10倍以上10倍以下の範囲の大きさを有しており、該捕捉体物質と結合可能な前記標的物質に対して結合されている標識物質;
前記光源から照射される光を、前記開口を設けた金属薄膜、または金属微粒子に照射した際、該金属薄膜に設ける開口を透過した透過光、または、該金属微粒子から発せられる散乱光を検出する光検出器。
【0024】
また、該化学センシング装置は、下記の検出方式を用いている。
【0025】
前記標識物質を結合した標的物質を、前記捕捉体物質との結合を介して、前記開口の近傍の金属薄膜の金属表面、または、前記金属微粒子の表面に固定化する。その固定化がなされた際に、該金属薄膜に設ける開口を透過した透過光、または、該金属微粒子から発せられる散乱光に生ずる変化に基づき、標的物質の検出を行う。
【0026】
上記の化学センシング装置では、
前記標識物質は、誘電体微粒子である構成を採用することができる。
【0027】
前記標識物質は、第二の金属微粒子である構成を採用することができる。
【0028】
前記標識物質は、磁性微粒子である構成を採用することができる。
【0029】
一方、前記光検出器は、
前記金属薄膜に設ける開口を透過した透過光、または、金属微粒子から発せられる散乱光について、そのスペクトル形状を検出する機能を具えている構成を採用することが好ましい。
【0030】
また、前記金属薄膜に設ける開口、または金属微粒子を、複数個設け、
該複数個の開口、または、複数個の金属微粒子は、前記透明基板の表面上において、一次元または二次元のアレイ状の配置をとっている形態を選択することができる。
【0031】
その際、前記光検出器は、
前記透明基板の表面上において、一次元または二次元のアレイ状の配置をとっている、前記複数個の開口を透過した透過光、または、前記複数個の金属微粒子から発せられる散乱光を検出可能なものを用いる。例えば、
一次元または二次元の画像情報として、検出を行う機能を具えている光検出器を用いることが好ましい。
【0032】
上記の化学センシング装置では、
前記光源から照射される光の照射方式、ならびに、前記光検出器の配置は、下記の構成とすることが好ましい。前記光源から照射される光を、前記開口を設けた金属薄膜、または金属微粒子に照射した際、前記金属薄膜に設ける開口を透過した透過光、または、金属微粒子から発せられる散乱光のみが前記光検出器によって検出される、暗視野照明の配置である。
【0033】
また、本発明の化学センシング装置は、
マイクロ化学分析システムにおける検出部における検出手段として、
該マイクロ化学分析システム中に組み込まれたシステム構成とできる。
【0034】
該化学センシング装置は、
DNAチップを利用する標的物質の検出システムにおける検出手段として、該DNAチップを利用する標的物質の検出システム中に組み込まれたシステム構成とできる。
【0035】
該化学センシング装置は、
プロテインチップを利用する標的物質の検出システムにおける検出手段として、該プロテインチップを利用する標的物質の検出システム中に組み込まれたシステム構成とできる。
【0036】
本発明の化学センシング方法は、下記の構成を有することが好ましい。
【0037】
本発明の化学センシング方法は、標的物質を、捕捉体物質との結合を介して、固定化することで検出を行う方式の化学センシング方法である。
【0038】
該化学センシングを実施する装置として、下記の構成要素を具えている装置を利用する。
【0039】
光源;
該光源から照射される光の波長よりも小さい開口を設けた金属薄膜、または該光の波長よりも小さい金属微粒子;
前記開口を設けた金属薄膜、または金属微粒子をその表面に保持する透明基板;
前記開口の近傍の金属薄膜の金属表面、または、前記金属微粒子の表面に結合されている前記捕捉体物質;
前記開口または金属微粒子の大きさを基準として、その1/10倍以上10倍以下の範囲の大きさを有しており、該捕捉体物質と結合可能な前記標的物質に対して結合されている標識物質;
前記光源から照射される光を、前記開口を設けた金属薄膜、または金属微粒子に照射した際、該金属薄膜に設ける開口を透過した透過光、または、該金属微粒子から発せられる散乱光を検出する光検出器。
【0040】
また、該化学センシング方法は、下記の検出方式を用いている。
【0041】
前記標識物質を結合した標的物質を、前記捕捉体物質との結合を介して、前記開口の近傍の金属薄膜の金属表面、または、前記金属微粒子の表面に固定化する。その固定化がなされた際に、該金属薄膜に設ける開口を透過した透過光、または、該金属微粒子から発せられる散乱光に生ずる変化に基づき、標的物質の検出を行う。
【0042】
該化学センシング方法のセンシング操作は、下記の工程を具えている。
【0043】
前記標識物質を結合した標的物質を、前記捕捉体物質との結合を介して、前記開口の近傍の金属薄膜の金属表面、または、前記金属微粒子の表面に固定化する工程;
前記固定化がなされた際に、前記光源から照射される光を、前記開口を設けた金属薄膜、または金属微粒子に照射する工程;
前記光源から照射される光を照射した状態で、該金属薄膜に設ける開口を透過した透過光、または、該金属微粒子から発せられる散乱光を前記光検出器で検出する工程。
【0044】
また、該化学センシング方法は、以下に列記する形態とすることができる。
【0045】
前記光検出器は、
前記金属薄膜に設ける開口を透過した透過光、または、金属微粒子から発せられる散乱光について、そのスペクトル形状を検出する機能を具えたものとする。
【0046】
その上で、前記金属薄膜に設ける開口を透過した透過光、または、該金属微粒子から発せられる散乱光を前記光検出器で検出する工程に際して、次の操作を行う。すなわち、前記金属薄膜に設ける開口を透過した透過光、または、金属微粒子から発せられる散乱光について、そのスペクトル形状を検出する。
【0047】
また、前記光検出器は、
一次元または二次元的に拡がりを有する測定領域に対して、一次元または二次元の画像情報として、該測定領域からの光を検出する機能を具えたものとする。
【0048】
その上で、前記金属薄膜に設ける開口を透過した透過光、または、該金属微粒子から発せられる散乱光を前記光検出器で検出する工程に際して、次の操作を行う。すなわち、前記光源から照射される光の照射がなされる領域からの光を、一次元または二次元の画像情報として検出を行う。
【0049】
また、該化学センシング方法では、
前記金属薄膜に設ける開口を透過した透過光、または、該金属微粒子から発せられる散乱光を前記光検出器で検出する工程に際して、次の操作を付加することもできる。すなわち、前記光検出器で検出される光強度の測定結果に基づき、光強度の階調を算出する操作を設けることができる。
【0050】
なお、該化学センシング方法では、
前記開口の近傍の金属薄膜の金属表面、または、前記金属微粒子の表面に結合されている前記捕捉体物質は、次のものを利用することができる。すなわち、前記開口の近傍の金属薄膜の金属表面、または、前記金属微粒子の表面に第二の光を照射して、該第二の光の照射により誘起される光化学反応を用いて、前記捕捉体物質を金属表面に結合させたものを用いることができる。
【0051】
次に、本発明に関わる技術的な背景をより詳しく説明する。
【0052】
平坦な金属薄膜の表面においては、その表面の特殊性に由来して、光とカップリングを起こすことが可能な電子波(プラズモン)のモード、すなわち、表面プラズモン(surface plasmon)が生じる。
【0053】
一方、光の波長よりも微小な粒子径(直径)を有する金属微粒子の表面の曲率半径は極めて小さいため、この表面に光が入射する場合、発生する回折光の回折角が入射角も大きくなる。そのため、回折光が生じず、金属表面に光が閉じ込められる状況となる。その結果、金属微粒子の表面に発生した近接場光と自由電子とのカップリングが生じ、局在表面プラズモン(localized surface plasmon)が生じる。元来、表面プラズモン共鳴に由来し、この金属微粒子の表面で生じる吸収(散乱)を局在表面プラズモン共鳴吸収と称する。
【0054】
(第一の形態)
本発明の化学センシング装置において、高い検出感度を達成する上で利用される原理について、以下に説明する。
【0055】
まず、本発明の第一の形態で利用する検出手法の原理を、図2を用いて説明する。図2(a)に示すように、センサ媒体は、透明基板201上に形成した金属薄膜202中に、照射光203の波長λよりも小さいサイズの微小な開口204が形成されている。開口204の近傍には、捕捉体物質分子1(205)が結合されている。一方、標的物質分子206に対して、捕捉体物質分子2(207)を介して開口204と同程度の大きさの標識物質208を結合させる。
【0056】
具体的には、標識物質208サイズは、開口204のサイズに対して、その1/10倍以上10倍以下、なお好ましくは1/3倍以上3倍以下の範囲に選択する。
【0057】
光が照射された2つの物体の間に働く近接場光相互作用の大きさは、2つの物体の大きさが同程度のとき最大となり、2つの物体のどちらかが大きくても小さくても近接場光相互作用の大きさは小さくなる。
【0058】
そこで、本発明では、開口サイズと標識物質サイズとが同程度(1/10倍以上10倍以下、なお好ましくは、1/3倍以上3倍以下)にする。これにより、開口と標識物質との間に作用する近接場光相互作用を増加させることができる。従って、標識物質が開口に対して近接することによる開口近傍の近接場分布の変化を増加させることができる。
【0059】
標識物質208を結合させた標的物質206を含む検体液に、センサ媒体を浸漬する。そして、捕捉体物質1(205)と、標的物質206との反応を行わせる。図2(b)に示すように、捕捉体物質2(207)を介して、標識物質208を結合させた標的物質206は、開口204の近傍に固定化がなされる。その際、開口204の近傍に標識物質208が配置された構成となる。
【0060】
開口204を形成する金属薄膜202の膜厚は、10nm以上1μm以下とする。開口204のサイズは、照射光203の波長λよりも小さく選択すればよい。但し、下記のように選択することが好ましい。
【0061】
開口204の平面形状は、縦と横のサイズのうち、短い方は、波長λ以下、好ましくは、波長λの1/2以下に選択する。なお、開口204のサイズを波長λの1/100以下とすると精度の観点で問題を生じうる。例えば、波長λ=500nmの場合であって、開口204の形状を波長λの1/100以下とすると、開口204のサイズは5nm以下となる。そのため、一般には、波長λの1/50以下とならない範囲に選択することが望ましい。
【0062】
開口204を設けている金属薄膜202の上面に、照射光203を垂直入射させると、透過光209は、開口204の形状(開口の縦横の幅、金属薄膜の膜厚、金属の材質)に応じた局在表面プラズモン共鳴に起因する透過スペクトルを有する。開口204の近傍に捕捉体物質1(205)が結合されている状態では、この局在表面プラズモン共鳴に起因するピークは、ピーク波長λ1となる。
【0063】
一方、捕捉体物質2(207)を介して、標識物質208を結合させた標的物質206が固定化される状態で、この局在表面プラズモン共鳴に起因するピークは、ピーク波長λ2となる。図4に、標識物質208を結合させた標的物質206の固定化に伴う、局在表面プラズモン共鳴に起因するピークのピーク波長がシフトする様子を模式的に示す。
【0064】
この局在表面プラズモン共鳴は、開口204の近傍の特徴的な現象である。そのため、開口204の近傍の捕捉体物質1(205)に対し、標識物質208を結合させた標的物質206の単分子が結合することで、前記のピーク波長のシフトが引き起こされる。この局在表面プラズモン共鳴に起因するピークのピーク波長シフトを反映して、開口204を透過する透過光のスペクトル形状にも変化が起きる。そのため、開口204を透過する透過光のスペクトル形状の変化を検出することで、開口204の近傍の捕捉体物質1(205)に対し、標識物質208を結合させた標的物質206の結合の有無を、単分子レベルの検出が可能となる。
【0065】
上記の局在表面プラズモン共鳴に起因するピークのピーク波長シフトは、捕捉体物質1(205)に標的物質206のみが結合した状態では、この標的物質206のサイズは小さいため、僅かなシフト量である。一方、標識物質208を結合させた標的物質206と、捕捉体物質1(205)とが結合すれば、標識物質208のサイズは、標的物質206のサイズより格段に大きいため、より大きなシフト量となる。
本発明では、このように、局在表面プラズモン共鳴に起因するピークのピーク波長のシフト量がより大きくなることを利用して、開口204を透過する透過光209のスペクトル形状変化をより高い感度で検出することを可能としている。
【0066】
(第二の形態)
次に、本発明の第二の形態で利用する検出手法の原理を、図3を用いて説明する。本発明の第二の形態では、金属薄膜に形成した微小な開口の代わりに、金属微粒子を用いている。図3(a)に示すように、センサ媒体は、透明基板301上に、照射光303の波長λよりも小さいサイズの金属微粒子303が形成されている。この金属微粒子303の表面上には捕捉体物質分子1(304)が結合されている。一方、標的物質分子305に対して、捕捉体物質分子2(306)を介して金属微粒子303と同程度の大きさの標識物質307を結合させる。
【0067】
具体的には、標識物質307サイズは、金属微粒子303のサイズに対して、その1/10倍以上10倍以下の範囲、好ましくは1/3倍以上3倍以下の範囲に選択する。
光が照射された2つの物体の間に働く近接場光相互作用の大きさは2つの物体の大きさが同程度のとき最大となり、2つの物体のどちらかが大きくても小さくても近接場光相互作用の大きさは小さくなる。
【0068】
そこで、本発明では、金属微粒子サイズと標識物質サイズとが同程度(1/10倍以上10倍以下、好ましくは、1/3倍以上3倍以下)にする。これにより、金属微粒子と標識物質との間に作用する近接場光相互作用を増加させることができる。従って、標識物質が金属微粒子に対して近接することによる金属微粒子近傍の近接場光分布の変化を増加させることができる。
【0069】
標識物質307を結合させた標的物質305を含む検体液に、センサ媒体を浸漬する。そして、捕捉体物質1(304)と、標識物質307を結合させた標的物質305との反応を行わせる。図3(b)に示すように、捕捉体物質2(306)を介して、標識物質307を結合させた標的物質305は、金属微粒子303の表面上に固定化がなされる。その際、金属微粒子303の表面の近傍に標識物質307が配置された構成となる。
【0070】
金属微粒子303を形成する金属薄膜の膜厚は、10nm以上1μm以下とする。金属微粒子303のサイズは、照射光302の波長λよりも小さく選択すればよい。但し、下記のように選択することが好ましい。
【0071】
金属微粒子303の平面形状は、縦、横のサイズのうち、小さい方は、波長λ以下、好ましくは波長λの1/2以下に選択する。なお、金属微粒子303のサイズを波長λの1/100以下とすると精度の観点で問題を生じうる。例えば、波長λ=500nmの場合であって、金属微粒子303のサイズを波長λの1/100以下とすると、金属微粒子303のサイズは5nm以下となる。そのため、一般には、波長λの1/50以下とならない範囲に選択することが望ましい。
【0072】
金属微粒子303の上面に、直接透過光の影響を避けるため、照射光304を斜め入射させる。照射光304を照射した際、金属微粒子303が散乱する散乱光308は、金属微粒子303の形状(縦横の幅、厚さ、金属の材質)に応じた局在表面プラズモン共鳴に起因するピークを示す吸収スペクトルを有する。金属微粒子303の表面上に捕捉体物質1(304)が結合されている状態では、この局在表面プラズモン共鳴に起因するピークは、ピーク波長λ1となる。
【0073】
一方、捕捉体物質2(306)を介して、標識物質307を結合させた標的物質305が固定化される状態で、この局在表面プラズモン共鳴に起因するピークは、ピーク波長λ2となる。
【0074】
この局在表面プラズモン共鳴は、金属微粒子303の表面近傍に特徴的な現象である。そのため、金属微粒子303表面の捕捉体物質1(304)に対し、標識物質307を結合させた標的物質305の単分子が結合することで、前記のピーク波長のシフトが引き起こされる。この局在表面プラズモン共鳴に起因するピークのピーク波長シフトを反映して、金属微粒子303の裏面から発する散乱光308のスペクトル形状に変化が起こる。そのため、金属微粒子303から発せられる散乱光308のスペクトル形状の変化を検出することで、表面の捕捉体物質1(304)に対し、標識物質307を結合させた標的物質305の結合の有無を、単分子レベルの検出が可能となる。
【0075】
上記の局在表面プラズモン共鳴に起因するピークのピーク波長シフトは、捕捉体物質1(304)に標的物質305のみが結合した状態では、この標的物質305のサイズは小さいため、僅かなシフト量である。一方、標識物質307を結合させた標的物質305と、捕捉体物質1(304)とが結合すれば、標識物質307のサイズは、標的物質305のサイズより格段に大きいため、より大きなシフト量となる。
【0076】
本発明では、局在表面プラズモン共鳴に起因するピークのピーク波長のシフト量はより大きくなることを利用して、金属微粒子303の裏面から発する散乱光308のスペクトル形状変化をより高い感度で検出することを可能としている。
【0077】
なお、金属微粒子303の上面に、照射光304を斜め入射させ、裏面側からの散乱光308は、垂直方向より観測している。このように暗視野照明の配置を選択することで、散乱光308の検出には、照射光302の直接透過光の影響を避けることができる。例えば、金属微粒子303の上面に、照射光304を斜め入射させる際、その入射角は、全反射条件を満足する範囲に選択することができる。
【0078】
本発明においては、金属微粒子303の表面に斜め入射される照射光304に起因して、その金属表面に発生する近接場光と、金属の自由電子とのカップリングによる局在表面プラズモン共鳴現象(local surface plasmon resonance)を利用している。その際、金属微粒子の表面から、金属微粒子の大きさの程度よりも短い距離に標識物質307が固定化されていると、金属表面に発生する電子波にその影響が及ぶ。そのため、局在表面プラズモン共鳴が起こる共鳴条件(共鳴周波数)により大きな変化が引き起こされる。
【0079】
ここで、標識物質208、307としては、ポリスチレンビーズ等の微小誘電体物質や金ナノ微粒子等の微小金属物質、ナノフェライトビーズ等の微小磁性体物質を選択する。
微小金属物質を用いた場合は、照射光203照射時に開口204近傍に励起される局在表面プラズモンや照射光302照射時に金属微粒子303近傍に励起される局在表面プラズモンに強い変調を加えることが可能となる。これは、微小金属物質と金属微粒子の間に発生する電場が増強され、微小金属物質と金属微粒子が一体となった構造としての新たな局在表面プラズモンのモードが現れることによる。その変調効果を利用することにより、より高感度のセンシングが可能となるという効果を有する。
【0080】
微小磁性体物質を用いた場合は、磁石を用いて、微小磁性体物質を結合させた標的物質を収集して、濃縮するができる。また、捕捉体物質1との反応の際に、開口204近傍に微小磁性体物質を結合させた標識物質208を引き寄せることが可能となる。この利点を利用することで、検体液中に低濃度で含まれる微小磁性体物質を結合させた標的物質206でも、捕捉体物質に効率的に結合させ、検出することができるという効果を有する。
【0081】
また、標的物質206、305の種類によって標識物質208、307のサイズを違えておけば、スペクトル変化量が異なるので複数の標識物質の同時検出が可能である。
【0082】
開口204近傍に特異的に捕捉体物質1(205)を結合させるには、透明基板201の裏面から別の光を照射し、開口204の表面側に滲み出させた近接場光を用いて、光化学反応を誘起して、捕捉体物質1(205)を選択的に結合させれば良い。これにより、開口204の近傍のみに、特異的に捕捉体物質1(205)を結合させ、その他の部分へ結合させないようにすることができる。それに伴い、より高感度な化学センシングが可能となる。
【0083】
ここで用いる光化学反応の例としては、フォトレジストシステムで用いられているように光ラジカル発生、光酸発生、光アミン発生による光架橋反応、光ラジカル重合反応、光カチオン重合反応がある。これにより、開口204を形成する金属に直接もしくは表面酸化膜、シランカップリング材料分子、アルカンチオール膜等を間に介して、金属と捕捉体物質1を化学結合させることができる。
【0084】
同様に、金属微粒子303上に特異的に捕捉体物質1(304)を結合させるには、金属微粒子303に別の光を照射し、金属微粒子の表面に滲み出させた近接場光を用いて、光化学反応を誘起して、捕捉体物質1(304)を結合させればよい。この手法を適用すると、金属微粒子上、特に近接場光強度の強い部分のみに、特異的に捕捉体物質1(304)を結合させ、その他の部分への結合させないようにすることができる。それに伴い、より高感度な化学センシングが可能となる。
【0085】
以下に、具体例を示して、本発明をさらに詳しく説明する。以下に示す事例は、実施形態の一例であるが、本発明の技術的範囲は、これらの態様に限定されない。
【0086】
(第1の実施形態)
本発明にかかる化学センシング装置における、第1の実施形態を、図1を参照して説明する。
【0087】
図1に示す装置構成においては、タングステンランプや発光ダイオード等を光源101として利用する。
【0088】
光源101から照射される、照射光106(波長λは500nm〜1300nmの範囲)を、コリメータレンズ102を通して、センサ媒体105に照射する。センサ媒体105は、照射光106に対して光透過性を有する基板の表面に、厚さ50nmの金属薄膜が形成された構造を持つ。この金属薄膜には、上記図2に示すような、縦200nm、横50nmの矩形の開口が設けられている。すなわち、設けられている開口の縦横のうち小さい方のサイズは、照射光106の波長λよりも小さく、波長λの1/2以下となっている。
【0089】
この微細な開口の近傍には、標的物質分子に対して結合能を有する捕捉体物質分子が結合されている。この標的物質分子に対して結合能を有する捕捉体物質分子としては、例えば抗体分子が好適に利用可能である。この抗体分子は、抗原・抗体反応を介して、標的物質の抗原分子を、選択的に結合させることができる。
【0090】
一方、検体液103中には、標識物質が結合した標的物質104が含まれる。この標識物質が結合した標的物質104は、例えば、抗原分子等の標的物質に対して、直径50nmのポリスチレンビーズ等の標識物質が結合した状態となっている。ここでは、標識物質が結合した標的物質104における、標識物質:標的物質の比率は、1:1の比率に選択されている。
【0091】
標識物質として、利用可能なポリスチレンビーズは、そのサイズを、前記の開口のうち、小さい方のサイズである横50nmと比較して、1/10倍以上10倍以下の範囲、好ましくは、1/3倍以上3倍以下である5nm以上500nm以下、好ましくは15nm以上150nm以下の範囲から選ぶ必要がある。本実施形態では50nmとする。
【0092】
また、検体液103を構成する溶媒は、水性溶媒、例えば、緩衝液であり、照射光106の波長λにおける屈折率nsolvent(λ)は、水の屈折率nH2O(λ)=1.33〜1.34と等しいと見做せる。一方、ポリスチレンビーズに用いられるポリスチレンの屈折率npolystyrene(λ)は、1.54〜1.56の範囲である。このように、ポリスチレンと緩衝液(水)との間には、屈折率に差違があり、微細な径のポリスチレンビーズは、緩衝液中において、微小開口近傍に近づくと近傍の屈折率を変化させることになる。
【0093】
センサ媒体105の作製に利用される金属薄膜の材料としては、緩衝液中(屈折率nH2O=1.33〜1.34)において、その金属における局在表面プラズモン共鳴のピーク波長λlocalized surface plasmon(nH2O=1.33)が、400nm〜1300nmの範囲に存在することが望ましい。
【0094】
この条件を満たす金属材料のうち、前記緩衝液中での使用に耐えるものを選択する。例えば、緩衝液中に浸した際、金属薄膜自体に対する化学反応が生じ、金属の溶解が起こると、その膜厚の減少、開口のサイズの拡大が起こりうる。あるいは、緩衝液中に浸した際、金属薄膜自体に対する化学反応が生じ、表面酸化膜の形成が進むと、金属薄膜の表面に、金属酸化膜が積層された状態となりうる。
【0095】
例えば、金(Au)の屈折率nAu(λ)は、nAu(λ=500nm)=0.803、nAu(λ=700nm)=0.131である。銀(Ag)の屈折率nAg(λ)は、nAg(λ=376nm)=0.090、nAg(λ=500nm)=0.0468である。銅(Cu)の屈折率nCu(λ)は、nCu(λ=500nm)=1.03、nAu(λ=750nm)=0.103である。アルミ二ウム(Al)の屈折率nAl(λ)は、nAl(λ=220nm)=0.14、nAl(λ=400nm)=0.40である。また、その表面プラズモン共鳴のピーク波長λsurface plasmon(n0=1.00)は、金(Au)では、526nm、銀(Ag)では、320nm、銅(Cu)では、550nm、アルミ二ウム(Al)では、120nmである。さらに、pHを、6.5〜8.0の範囲に設定する緩衝液中では、これらの金属に対する化学反応は極く限られている。従って、金や銀、銅、アルミニウムは、センサ媒体105を構成する際に利用する金属薄膜の材料として、好適に使用できる。
【0096】
加えて、金や銀、銅、アルミニウムの金属薄膜上において、発生する表面プラズモンに起因する、局在表面プラズモン共鳴の強度は大きく、本発明の目的には適している。一般に、金属薄膜上に物質の吸着が生じた際、局在表面プラズモン共鳴のピーク波長λlocalized surface plasmonは、表面プラズモン共鳴のピーク波長λsurface plasmon(n0=1.00)よりも、長波長側に観測される。特に、金の薄膜を利用する場合には、金薄膜上に物質の吸着が生じた際、局在表面プラズモン共鳴のピーク波長λlocalized surface plasmonは、526nmより長波長側の可視域となるので、照射光106の波長λを可視域に選択する装置構成に適している。
【0097】
一方、金、銀、銅、さらには、アルミニウム間の合金を、金属薄膜として利用することができる。金、銀、銅、アルミニウム間の合金は、均一な固溶体を形成できるため、その組成を任意に選択することが可能である。合金の金属薄膜を利用すると、表面プラズモン共鳴のピーク波長λsurface plasmonは、通常、該合金の成分金属個々で観測されるピーク波長を両端とする波長範囲となる。この性質を利用すると、例えば、金(Au)と銀(Ag)との合金では、表面プラズモン共鳴のピーク波長λsurface plasmonを、320nm〜526nmの範囲内で調節することも可能となる。従って、金、銀、銅、アルミニウム間の合金で形成される金属薄膜を利用すると、縦・横・厚さ・間隔等の開口形状を調整することと併せて、局在表面プラズモン共鳴のピーク波長λlocalized surface plasmonを、近紫外領域から近赤外領域の間で調整できる。すなわち、この手法を用いると、局在表面プラズモン共鳴のピーク波長λlocalized surface plasmonを、350nm〜1600nmの全域にわたって調整することが可能である。
【0098】
次に、金属薄膜に設ける縦200nm、横50nmの矩形の開口の近傍に結合される捕捉体物質の密度D1は、少なくとも、D1=10000分子/μm2以上に選択することが好ましい。具体的には、縦200nm、横50nmの矩形の開口を中心として、縦300nm、横150nmの微小領域の金属表面の面積は、0.045μm2となる。この微小領域内に、少なくとも、捕捉体物質が、N1=D1×0.045=450分子以上結合していることが好ましい。換言するならば、近接する捕捉体物質間の平均的間隔d1を、少なくとも、1000/(D11/2nm≒10nm以下とすることに相当する。
【0099】
なお、捕捉体物質の結合を行う領域は、縦200nm、横50nmの矩形開口の近傍で、矩形開口の端部から標識物質のサイズ程度以下の距離までの領域が望ましい。これは、標識物質が開口に近づいたことにより開口近傍の近接場光分布に及ぼす影響が顕著に現れるためである。したがって、開口サイズが縦200nm×横50nmの矩形開口に対し、標識物質として50nmのポリスチレンビーズを用いる場合、捕捉体物質の結合を行う領域は、300nm×150nm以下とすることが望ましい。この微小な領域に対して、捕捉体物質の結合を行う手段としては、前記したように開口を形成した基板の裏面から別の光を照射し、開口の表面側に滲み出させた近接場光を用いて、光化学反応を誘起して、捕捉体物質を選択的に結合させれば良い。
【0100】
一方、標識物質が結合した標的物質104は、例えば、抗原分子等の標的物質に対して、直径50nmのポリスチレンビーズ等の標識物質が、上記のように、標識物質:標的物質の比率が1:1となるように結合した状態とする。標識物質を、標的物質に定量的に結合させる手段の一例を説明する。図2に例示するように、第二の捕捉体物質(捕捉体物質2)と標識物質とが定量的に連結された複合体分子を別途作製する。この複合体分子と、標的物質とを、液相中で反応させ、第二の捕捉体物質(捕捉体物質2)部分に、標的物質を結合させ、標識物質:標的物質の比率が1:1となるように結合した状態とする。
【0101】
この液相中における反応は、第二の捕捉体物質(捕捉体物質2)と標識物質とが定量的に連結された複合体分子と、標的物質との複合体形成反応に相当している。従って、捕捉体物質2と標識物質とが連結された複合体分子の濃度C2、自由な標的物質の濃度C0、標識物質が結合した標的物質104の濃度C1は、複合体の解離平衡に従う。複合体の解離平衡定数K1を用いて、K1=(C0×C2)/C1と表される。標識物質が結合した標的物質104の濃度C1と自由な標的物質の濃度C0の比率:C1/C0は、{C1/C}=C2/K1となる。
【0102】
本発明では、検体液103中において、標識物質が結合した標的物質104の濃度C1と自由な標的物質の濃度C0の比率:C1/C0は、少なくとも、C1/C0≧10の条件を満足することが好ましい。この条件を維持するためには、検体液103中に、捕捉体物質2と標識物質とが連結された複合体分子を、C2/K1≧10を満足する濃度で添加した状態とする必要がある。
【0103】
あるいは、第二の捕捉体物質(捕捉体物質2)と標的物質との結合を形成した後、両者間を共有結合的に連結する処理を施し、解離が進行しない状態とする。この共有結合的な連結処理を施した場合は、検体液103中に、捕捉体物質2と標識物質とが連結された複合体分子を共存させる必要はない。
【0104】
センサ媒体105を、検体液103中に浸漬すると、図2に示すように、金属薄膜に設ける矩形の開口の近傍に結合される捕捉体物質(205)によって、標識物質が結合した標的物質104中の標的物質(206)が結合される。光源101からの照射光は、コリメータレンズ102を用いて、平行光線とした上で、センサへと導入する。すなわち、捕捉体物質によって、標識物質が結合した標的物質104が結合された時点で、センサ媒体105の金属薄膜の上面から、照射光106を垂直入射させる。一方、透過光の検出系は、集光レンズ108、干渉フィルタ109、光検出器110で構成されている。集光レンズ108は、そのレンズの焦点が、センサ媒体105の金属薄膜に設けられている矩形の開口を透過する光を集光可能な位置となるように配置されている。具体的には、センサ媒体105の金属薄膜と透明基板との界面における、矩形の開口部を通過した光は、集光レンズ108によって、平行光線とされた上で、干渉フィルタ109上に入射される配置となっている。
【0105】
干渉フィルタ109は、所謂、ファブリペロー型干渉フィルタであり、特定の波長の光のみが透過可能な構成とされている。その透過可能な光波長は、ファブリペロー型干渉フィルタの表面に対する、入射光の入射角を変更することで変更される特徴を利用して、分光器の機能を付与されている。干渉フィルタ109を利用して、分光された特定の波長の光の強度を、光検出器110で検出する。この分光された特定の波長の光強度の測定結果が、検出信号111として、出力される。実際には、検出信号111は、干渉フィルタ109を利用して、分光された特定の波長λと、その波長における検出光強度P(λ)の情報を含むものとなっている。この情報(λ、P(λ))を、横軸を波長λ、縦軸を検出光強度P(λ)としてプロットすると、透過光のスペクトルとなる。
【0106】
センサ媒体105の金属薄膜に対して、平行光線とした照射光106を垂直入射しているため、微小な矩形の開口近傍以外の金属薄膜に入射した光は、金属表面で反射を受ける。従って、上記の構成の検出系では、原理的には、微小な矩形の開口を透過する透過光107のみが検出される。
【0107】
微小な矩形の開口を透過する透過光107は、この金属薄膜に形成された微小な開口部における局在表面プラズモン共鳴に依存する成分を含んでいる。この局在表面プラズモン共鳴に依存する透過光成分は、この微小な矩形の開口の近傍に固定されている分子による局所的な屈折率変化に依存した波長分布(スペクトル)を示す。具体的には、微小な矩形の開口の近傍に捕捉体物質が結合している状態と、この捕捉体物質に標的物質が結合した状態とでは、局在表面プラズモン共鳴に依存する透過光成分のピーク波長は相違する。さらに、この捕捉体物質に標的物質が結合した状態と、捕捉体物質に標識物質が結合した標的物質104が結合した状態とでは、局在表面プラズモン共鳴に依存する透過光成分のピーク波長は相違する。捕捉体物質が結合している状態を基準とすると、捕捉体物質に標的物質が結合した状態でのピーク波長シフト量より、捕捉体物質に標識物質が結合した標的物質104が結合した状態でのピーク波長シフト量は顕著に大きなものとなる。
【0108】
実際には、微小な矩形の開口の近傍では、捕捉体物質が結合している状態の部分と、捕捉体物質に標識物質が結合した標的物質104が結合した状態の部分とが混在している。結果として、局在表面プラズモン共鳴に依存する透過光成分は、捕捉体物質が結合している状態の部分に由来する成分と、捕捉体物質に標識物質が結合した標的物質104が結合した状態の部分に由来する成分との合計となっている。
【0109】
本発明では、捕捉体物質に標識物質が結合した標的物質104が結合した状態でのピーク波長シフト量が大きいことを利用して、この二つの成分を分離して観測することを可能としている。図4に模式的に示すように、捕捉体物質が結合している状態の部分に由来する成分のピーク波長λ1と、捕捉体物質に標識物質が結合した標的物質104が結合した状態の部分に由来する成分のピーク波長λ2とが分離されている。この状態では、波長λ2で検出される透過光成分の光強度P(λ2)と、波長λ1で検出される透過光成分の光強度P(λ1)との比率は、捕捉体物質に標識物質が結合した標的物質104が結合した状態の部分の割合を反映している。
【0110】
図1に示す装置構成では、干渉フィルタ109を利用することで、原理的には、微小な矩形の開口を透過する透過光107のみが検出される構成となっている。この干渉フィルタ109の代わりに、分光器を利用して、平行光線のみを検出する配置に設定した上で、透過光のスペクトルを測定する装置構成としてもよい。
【0111】
センサ媒体105における捕捉体物質と標的物質の組み合わせは、捕捉体物質によって、標的物質が選択的に結合固定される限り、種々の組み合わせを選択することができる。具体的には、標的物質に対する捕捉体物質の選択的な結合能を利用する種々のセンサで利用される組み合わせに適用できる。この種のセンサの例としては、酵素センサ、微生物センサ、オルガネラセンサ、組織センサ、免疫センサ、酵素免疫センサ、バイオアフィニティセンサ等のバイオセンサを含む化学センサが挙げられる。その際、対象となる標的物質に対して、標識物質を結合することができること、また、標識物質が結合した標的物質は、捕捉体物質によって結合されることの条件を満たすことが必須である。
【0112】
(第2の実施形態)
本発明にかかる化学センシング装置における、第2の実施形態を、図5を参照して説明する。図5に示す装置構成においては、タングステンランプや発光ダイオード等を光源501として利用する。光源501から照射される照射光506(波長λは500nm〜1300nmの範囲)を、コリメータレンズ502を通して、センサ媒体505に照射する。センサ媒体505は、照射光506に対して光透過性を有する基板の表面に、金属微粒子が設けられた構造を持つ。この金属微粒子のサイズは、縦200nm、横50nm、高さ50nmに選択され、その底面は、透明基板の表面に密着されている。この金属微粒子の平面形状の縦横のうち小さい方のサイズは、照射光506の波長λよりも小さく、波長λの1/2以下となっている。金属微粒子の表面には、標的物質分子に対する結合能を有する捕捉体物質分子が結合されている。この標的物質分子に対する結合能を有する捕捉体物質分子としては、抗体分子が好適に利用可能である。
【0113】
一方、検体液503中には、標識物質が結合した標的物質504が含まれる。この標識物質が結合した標的物質504は、例えば、抗原分子等の標的物質に対して、直径50nmのポリスチレンビーズ等の標識物質が結合した状態となっている。ここでは、標識物質が結合した標的物質504における、標識物質:標的物質の比率は、1:1の比率に選択されている。標識物質として、利用可能なポリスチレンビーズは、そのサイズを、前記の金属微粒子の平面形状のうち、小さい方のサイズである横50nmと比較して、1/10倍以上10倍以下の範囲、好ましくは、1/3倍以上3倍以下の範囲から選ぶ必要がある。すなわち、5nm以上500nm以下の範囲、好ましくは、15nm以上150nm以下の範囲から選ぶ必要がある。本実施形態では50nmとする。
【0114】
また、検体液503を構成する溶媒は、前記検体液103と同様の溶媒を用いることができる。
【0115】
センサ媒体505の作製に利用される金属微粒子の材料としては、センサ媒体105の作製に利用される金属薄膜と同様の材料を同様の理由から用いることができる。
【0116】
次に、金属微粒子の縦200nm、横50nm表面上に結合される捕捉体物質の密度D2は、少なくとも、D2=10000分子/μm2以上に選択することが好ましい。具体的には、縦200nm、横50nm、高さ50nmの矩形状の金属表面の面積は、0.035μm2となる。この微小領域内に、少なくとも、捕捉体物質が、N2=D2×0.035=350分子以上結合していることが好ましい。換言するならば、近接する捕捉体物質間の平均的間隔d1を、少なくとも、1000/(D21/2nm≒10nm以下とすることに相当する。
【0117】
なお、この微小な金属微粒子の表面に対して、捕捉体物質の結合を行う手段としては、捕捉体物質を溶解する溶液を、シランカップリング材料分子やアルカンチオール膜等を介して化学反応させることにより、金属表面に結合を形成する手法が利用できる。また、前記した光化学反応を用いることもできる。
【0118】
一方、標識物質が結合した標的物質504は、例えば、抗原分子等の標的物質に対して、直径50nmのポリスチレンビーズ等の標識物質が、上記のように、標識物質:標的物質の比率が1:1となるように結合した状態とする。標識物質を、標的物質に定量的に結合させる手段の一例を説明する。図3に例示するように、第二の捕捉体物質(捕捉体物質2)と標識物質とが定量的に連結された複合体分子を別途作製する。この複合体分子と、標的物質とを、液相中で反応させ、第二の捕捉体物質(捕捉体物質2)部分に、標的物質を結合させ、標識物質:標的物質の比率が1:1となるように結合した状態とする。
【0119】
この液相中における反応は、第二の捕捉体物質(捕捉体物質2)と標識物質とが定量的に連結された複合体分子と、標的物質との複合体形成反応に相当している。従って、捕捉体物質2と標識物質とが連結された複合体分子の濃度C2、自由な標的物質の濃度C0、標識物質が結合した標的物質104の濃度C1は、複合体の解離平衡に従う。複合体の解離平衡定数K1を用いて、K1=(C0×C2)/C1と表される。標識物質が結合した標的物質504の濃度C1と自由な標的物質の濃度C0の比率:C1/C0は、{C1/C}=C2/K1となる。
【0120】
本発明では、検体液503中において、標識物質が結合した標的物質504の濃度C1と自由な標的物質の濃度C0の比率:C1/C0は、少なくとも、C1/C0≧10の条件を満足することが好ましい。この条件を維持するためには、検体液503中に、捕捉体物質2と標識物質とが連結された複合体分子を、C2/K1≧10を満足する濃度で添加した状態とする必要がある。
【0121】
あるいは、第二の捕捉体物質(捕捉体物質2)と標的物質との結合を形成した後、両者間を共有結合的に連結する処理を施し、解離が進行しない状態とする。この共有結合的な連結処理を施した場合は、検体液503中に、捕捉体物質2と標識物質とが連結された複合体分子を共存させる必要はない。
【0122】
センサ媒体505を、検体液503中に浸漬すると、図3に示すように、金属微粒子の表面に結合される捕捉体物質(304)によって、標識物質が結合した標的物質504中の標的物質(305)が結合される。光源501からの照射光は、コリメータレンズ502を用いて、平行光線とした上で、センサへと導入する。すなわち、捕捉体物質によって、標識物質が結合した標的物質504が結合された時点で、センサ媒体505の金属微粒子の上面に、照射光506を斜め入射させる。一方、散乱光の検出系は、集光レンズ508、干渉フィルタ509、光検出器510で構成されている。集光レンズ508は、そのレンズの焦点が、センサ媒体505の金属微粒子の裏面から発する散乱光を集光可能な位置となるように配置されている。具体的には、センサ媒体505の金属微粒子と透明基板との界面において、金属微粒子の裏面から発する散乱光は、集光レンズ508によって、平行光線とされた上で、干渉フィルタ509上に入射される配置となっている。
【0123】
干渉フィルタ509は、所謂、ファブリペロー型干渉フィルタであり、特定の波長の光のみが透過可能な構成とされている。その透過可能な光波長は、ファブリペロー型干渉フィルタの表面に対する、入射光の入射角を変更することで変更される特徴を利用して、分光器の機能を付与されている。干渉フィルタ509を利用して、分光された特定の波長の光の強度を、光検出器510で検出する。この分光された特定の波長の光強度の測定結果が、検出信号511として、出力される。実際には、検出信号511は、干渉フィルタ509を利用して、分光された特定の波長λと、その波長における検出光強度P(λ)の情報を含むものとなっている。この情報(λ、P(λ))を、横軸を波長λ、縦軸を検出光強度P(λ)としてプロットすると、透過光のスペクトルとなる。
【0124】
センサ媒体505の金属微粒子の表面に対して、平行光線とした照射光506を斜め入射しているため、微小な金属微粒子以外の透明基板部分に入射した光は、そのまま透過する。従って、集光レンズ508には、入射しない配置とされている。一方、微小な金属微粒子の金属表面に入射する照射光506は、金属表面に近接場光を発生させる。この近接場光が金属微粒子内の自由電子とカップリングし、局在表面プラズモンが生じる。この局在表面プラズモン共鳴に由来する吸収に起因して、金属微粒子から散乱光が発生する。その散乱光の波長分布(スペクトル)は、局在表面プラズモン共鳴に対応するピーク波長を有する。
【0125】
この金属微粒子から発する散乱光507のみが、集光レンズ508を通り、平行光線とされた上で、干渉フィルタ509上に入射し、後段の検出器510に達することができる。すなわち、上記の構成の検出系では、原理的には、金属微粒子から発する散乱光507のみが検出される。
【0126】
金属微粒子から発する散乱光507は、この金属微粒子における局在表面プラズモン共鳴に依存する散乱光である。この局在表面プラズモン共鳴に依存する散乱光は、この金属微粒子に固定されている分子による局所的な屈折率変化に依存した波長分布(スペクトル)を示す。具体的には、金属微粒子表面に捕捉体物質が結合している状態と、この捕捉体物質に標的物質が結合した状態とでは、その局在表面プラズモン共鳴に依存する散乱光成分のピーク波長は相違する。さらに、この捕捉体物質に標的物質が結合した状態と、捕捉体物質に標識物質が結合した標的物質504が結合した状態とでは、その局在表面プラズモン共鳴に依存する散乱光成分のピーク波長は相違する。捕捉体物質が結合している状態を基準とすると、捕捉体物質に標的物質が結合した状態でのピーク波長シフト量より、捕捉体物質に標識物質が結合した標的物質504が結合した状態でのピーク波長シフト量は顕著に大きなものとなる。
【0127】
実際には、金属微粒子の表面には、捕捉体物質が結合している状態の部分と、捕捉体物質に標識物質が結合した標的物質504が結合した状態の部分とが混在している。結果として、局在表面プラズモン共鳴に依存する散乱光成分は、捕捉体物質が結合している状態の部分に由来する成分と、捕捉体物質に標識物質が結合した標的物質504が結合した状態の部分に由来する成分との合計となっている。本発明では、捕捉体物質に標識物質が結合した標的物質504が結合した状態でのピーク波長シフト量が大きいことを利用して、この二つの成分を分離して観測することを可能としている。図4に模式的に示すように、捕捉体物質が結合している状態の部分に由来する成分のピーク波長λ1と、捕捉体物質に標識物質が結合した標的物質504が結合した状態の部分に由来する成分のピーク波長λ2とが分離されている。この状態では、波長λ2で検出される散乱光成分の光強度P(λ2)と、波長λ1で検出される散乱光成分の光強度P(λ1)との比率は、捕捉体物質に標識物質が結合した標的物質504が結合した状態の部分の割合を反映している。
【0128】
図5に示す装置構成では、干渉フィルタ509を利用することで、原理的には、金属微粒子から発する散乱光507のみが検出される構成となっている。この干渉フィルタ509の代わりに、分光器を利用して、平行光線のみを検出する配置に設定した上で、散乱光のスペクトルを測定する装置構成としてもよい。
【0129】
(第3の実施形態)
本発明にかかる化学センシング装置における、第3の実施形態を、図6を参照して説明する。本実施形態においては、センサ媒体605は、透明基板の表面に設ける金属薄膜に微小な開口をアレイ状に配置する構成、あるいは、透明基板の表面に金属微粒子をアレイ状に密着させている構成を有する。その際、微小な開口、あるいは、金属微粒子は、規則的な間隔で、一次元あるいは二次元のアレイ配置とする。
【0130】
また、金属薄膜にアレイ状に設ける微小な開口に対して、その微小な開口の近傍に標的物質分子に対する結合能を有する捕捉体物質分子が結合されている。あるいは、透明基板の表面にアレイ状に配置される金属微粒子の表面には、標的物質分子に対する結合能を有する捕捉体物質分子が結合されている。
【0131】
図6に示す装置構成においても、タングステンランプや発光ダイオード等を光源601として利用する。光源601から照射される照射光606(波長λは500nm〜1300nmの範囲)を、コリメータレンズ602を通して、センサ媒体605に照射する。金属薄膜に微小な開口をアレイ状に設ける態様では、第1の実施形態と同様に、センサ媒体605の金属薄膜上面に、平行光線とされた照射光606を垂直入射させる。金属微粒子をアレイ状に設ける態様では、第2の実施形態と同様に、センサ媒体605の金属微粒子アレイ面に、平行光線とされた照射光606を斜め入射させる。
【0132】
一方、透過光(または、散乱光)607の検出系は、結像レンズ608、干渉フィルタ609、画像光センサ610で構成されている。結像レンズ608は、センサ媒体605のアレイ状に設けられる微小な開口からの透過光の像を、画像光センサ610上に結像させるように配置されている。あるいは、結像レンズ608は、センサ媒体605のアレイ状に配置される金属微粒子から発する散乱光の像を、画像光センサ610上に結像させるように配置されている。
【0133】
画像センサ610上に結像される、アレイ状に設ける微小な開口からの透過光の像において、干渉フィルタ609を透過する特定の波長成分の光強度の二次元分布が測定される。この分光された特定の波長成分の光強度の二次元分布の測定結果が、画像信号611として、出力される。実際には、画像信号611は、干渉フィルタ609を利用して、分光された特定の波長λと、その波長における検出光強度P(λ)の二次元分布情報を含むものとなっている。この情報(λ、P(λ,x,y))を、各微小な開口の位置(x,y)に対して、横軸を波長λ、縦軸を検出光強度P(λ,x,y)としてプロットすると、各微小な開口(x,y)における透過光のスペクトルとなる。
【0134】
また、結像レンズ608を用いて、画像光センサ610上に結像させられる、アレイ状に設ける金属微粒子からの散乱光においても、干渉フィルタ609を透過する特定の波長成分の光強度の二次元分布が測定される。この分光された特定の波長成分の光強度の二次元分布の測定結果が、画像信号611として、出力される。
【0135】
画像光センサ610として、CCDイメージセンサやCMOSイメージセンサ等の二次元画像光センサが好適に利用できる。
【0136】
例えば、アレイ状に設ける金属微粒子において、その金属微粒子の表面に結合されている捕捉体物質によって、結合・固定される標識物質が結合した標的物質604の密度に差違があると、その差違によって、散乱光スペクトルが異なる。図8に模式的に示すように、捕捉体物質が結合している状態に由来する、ピーク波長λ1の成分と、捕捉体物質に標識物質が結合した標的物質604が結合した状態に由来する、ピーク波長λ2の成分の比率が相違する。
【0137】
例えば、図8に例示する散乱光スペクトル(透過光スペクトル)の相違がある場合、捕捉体物質が結合している状態に由来する、捕捉体物質に標識物質が結合した標的物質604が結合した状態を二次元的にプロットする。図7に例示する、二次元的にプロットでは、金属微粒子上の捕捉体物質に、標識物質が結合した標的物質604が高い密度で結合している金属微粒子部分は、ピーク波長λ1の成分の強度が低い領域として特定される。一方、標識物質が結合した標的物質604が低い密度でしか結合されていない金属微粒子部分は、ピーク波長λ1の成分の強度が高い領域として特定される。更には、標識物質が結合した標的物質604が高い密度で結合している金属微粒子部分は、ピーク波長λ2の成分の強度が高い領域として特定される。
【0138】
また、図8に示すように、ピーク波長λ1の成分と、ピーク波長λ2の成分との間で、ピーク波長のシフト量が十分に大きい場合には、画像光センサ610の代わりに、単画素の光検出器を用いる構成とすることもできる。結像レンズ608を用いて、この16個の微小な開口からの透過光を結像し、干渉フィルタ609を通過した成分を、単画素の光検出器を用いて、波長λの成分の光強度の合計:∫P(λ,x,y)dxdyを観測する。
【0139】
例えば、ピーク波長λ1の成分の二次元分布が、図7に示すように、16個の微小な開口中、10個の微小な開口では、標識物質が結合した標的物質604が低い密度でしか結合されていない場合を考慮する。その場合、波長λの成分の光強度の合計:∫P(λ,x,y)dxdyは、図8の(a)に示すように、ピーク波長λ1の成分が主なピークとなっている。また、16個の微小な開口中、5個の微小な開口では、標識物質が結合した標的物質604が低い密度でしか結合されていない場合を考慮する。その場合、波長λの成分の光強度の合計:∫P(λ,x,y)dxdyは、図8の(b)に示すように、ピーク波長λ1の成分が副次的なピークとなっている。このように、単画素の光検出器を用いて、∫P(λ,x,y)dxdyを測定することによって、16個の微小な開口中、標識物質が結合した標的物質604が低い密度でしか結合されていない微小な開口の割合を、推定することができる。例えば、ピーク波長λ1において、∫P(λ1,x,y)dxdyを測定すると、標識物質が結合した標的物質604が低い密度でしか結合されていない微小な開口の割合を、0/16〜16/16の16階調で検出することが可能である。
【0140】
例えば、アレイ状の金属微粒子の個々に、異なる標的物質を選択的に結合可能な捕捉体物質を結合している場合を考える。その際、各金属微粒子において、標識物質が結合した標的物質604が捕捉体物質に結合していない状態で散乱光成分は、それぞれピーク波長:λ1-k(k=1、…、16)を示すとする。また、各金属微粒子において、標識物質が結合した標的物質604が捕捉体物質に結合している状態で散乱光成分は、それぞれピーク波長:λ2-k(k=1、…、16)を示すとする。その時、ピーク波長:λ1-k(k=1、…、16)は、λ1-k≒λ1となり、λ2-k(k=1、…、16)は、λ2-k≒λ2となるように、捕捉体物質1−kと、標識物質が結合した標的物質604−kとの組み合わせを選択する。この条件が満たされる場合、検体液603中に含有される、標識物質が結合した標的物質604−k複数種の同時検出が可能である。すなわち、波長λ1と、波長λ2とで、アレイ状の金属微粒子からの散乱光成分を1次元または2次元イメージとして検出する。この二つの測定結果に基づき、アレイ状の金属微粒子の個々に、対応する捕捉体物質1−kによる標識物質が結合した標的物質604−kの結合の有無を判定することができる。この複数の標的物質の同時検出手法は、例えば、医療診断における多項目診断に応用することも可能である。
【0141】
(第4の実施形態)
図9に、本発明にかかる化学センシング装置を、マイクロ化学分析システム(μ-TAS: Micro Total Analysis System や Lab-on-a-chip とも呼ばれる)における検出手段として利用するシステム構成の一例を示す。
【0142】
図9に示すシステム構成では、マイクロ化学分析システム901において、試料液注入部902から注入された被検査液が流路904を通って、反応液注入部903から注入された反応液と反応した後、検出部905に到達する。このマイクロ化学分析システム901自体は、光透過性材料で構成される透明基板上に検出部905が形成されている。この検出部905には、図に拡大して示したように、透明基板に設ける液溜め構造の底面上に、一次元アレイ状の微小な開口906が設けられている金属薄膜が密着されている。この金属薄膜に設ける一次元アレイ状の微小な開口906は、各微小な開口のサイズは、照射光907の波長よりも小さく選択されている。また、金属薄膜に設ける各微小な開口906の近傍には、検出対象の標的物質分子と選択的に結合可能な捕捉体物質分子が、その金属薄膜の表面に結合されている。一方、この検出部904に到達する検体液中に、標的物質分子は、標識物質が結合した標的物質分子の形態として含まれる。
【0143】
例えば、被検査液に上記の反応操作を施した後、標識物質が結合した第二の捕捉体物質分子を標的物質分子に作用させ、第二の捕捉体物質分子と標的物質分子との結合を介して、標識物質が結合した標的物質分子とする。あるいは、被検査液に施される上記の反応操作自体が、標識物質が結合した第二の捕捉体物質分子を標的物質分子に作用させ、第二の捕捉体物質分子と標的物質分子との結合を介して、標識物質が結合した標的物質分子を調製する反応であってもよい。
【0144】
被検査液は、検出部905に到達すると、微小な開口906を設けた金属薄膜の表面を覆うように、検出部905内にしみ込む。その結果、被検査液中に含まれる、標識物質が結合した標的物質は、微小開口906近傍に結合されている捕捉体物質によって結合される形態となっている。
【0145】
一方、検出手段として利用する化学センシング装置の構成は、この検出部905に対して、平行光線とされた照射光907を、微小な開口906を設けた金属薄膜の表面に垂直入射する方式となっている。垂直入射条件において、金属薄膜に設けるアレイ状の微小な開口906を透過する透過光908を、レンズ909を利用して、干渉フィルタ910上に結像させる。この干渉フィルタ910を通過した透過光成分を、光電子増倍管911で検出する。すなわち、上記の第3の実施形態において、画像光センサに代えて、単画素の光検出器を用いる態様に相当している。結像レンズ909を用いて、一次元アレイ状の微小な開口からの透過光を結像し、干渉フィルタ910を通過した波長λの透過光成分を、光電子増倍管911によって、波長λの成分の光強度の合計:∫P(λ,x,y)dxdyとして観測する。
【0146】
(第5の実施形態)
図10に、本発明にかかる化学センシング装置を、DNAチップやプロテインチップの各検出セルにおける検出手段として利用するシステム構成の一例を示す。
【0147】
図10に示すDNAチップ/プロテインチップ1001は、複数のセルが二次元アレイ状に設けられる構成とされている。その各検出セル1002は、光透過性材料で形成される透明基板を利用して作製されている。各検出セル1002の底面上に、一次元アレイ状の微小な開口1006が設けられている金属薄膜が密着されている。この金属薄膜に設ける一次元アレイ状の微小な開口1006は、各微小な開口のサイズは、照射光1004の波長よりも小さく選択されている。また、DNAチップでは、金属薄膜に設ける各微小な開口1003の近傍には、捕捉体物質分子として、DNAプローブが、その金属薄膜の表面に結合されている。また、プロテインチップでは、金属薄膜に設ける各微小な開口1003の近傍には、捕捉体物質分子として、例えば、検出対象のタンパク質(標的物質分子)に対する特異抗体が、その金属薄膜の表面に結合されている。
【0148】
DNAチップでは、捕捉体物質のDNAプローブと結合させる、標識物質が結合した標的物質分子として、例えば、5'−末端にリンカーを介して、標識物質が連結された核酸分子を検体液中に含有させる。また、プロテインチップでは、例えば、標識物質が結合した第二の捕捉体物質分子を標的物質分子に作用させ、第二の捕捉体物質分子と標的物質分子との結合を介して、標識物質が結合した標的物質分子とする。
【0149】
その際、各検出セル1006において、標識物質が結合した標的物質が捕捉体物質に結合していない状態で微小な開口を透過する透過光成分は、それぞれピーク波長:λ1-k(k=1、…、N)を示すとする。また、各検出セルにおいて、標識物質が結合した標的物質が捕捉体物質に結合している状態で、微小な開口を透過する透過光成分は、それぞれピーク波長:λ2-k(k=1、…、N)を示すとする。その時、ピーク波長:λ1-k(k=1、…、N)は、λ1-k≒λ1となり、λ2-k(k=1、…、N)は、λ2-k≒λ2となるように、捕捉体物質と、標識物質が結合した標的物質との組み合わせを選択する。この条件が満たされる場合、DNAチップ/プロテインチップ1001を利用して、各検出セル1006について、それぞれ、標識物質が結合した標的物質の結合の有無を、同時に検出することが可能である。
【0150】
その際、検出手段として利用する化学センシング装置の構成は、DNAチップ/プロテインチップ1001の各検出セル1006に対して、平行光線とされた照射光1004を、微小な開口1003を設けた金属薄膜の表面に垂直入射する方式となっている。垂直入射条件において、金属薄膜に設けるアレイ状の微小な開口1003を透過する透過光1005を、レンズ1006を利用して、干渉フィルタ上に結像させる。この干渉フィルタを通過した透過光成分を、CCDカメラ1007で検出する。すなわち、上記の第3の実施形態において、結像レンズを利用して、アレイ状に設ける微小な開口からの透過光の像を干渉フィルタ上に結像し、干渉フィルタを通過する、波長λの成分の光強度の二次元分布を測定する方式に相当する。CCDカメラ1007によって検出される、波長λの成分の光強度の二次元分布:P(λ,x,y)に基づいて、各検出セル1006について、その領域に関して、光強度の合計:∫P(λ,x,y)dxdyを算出する。その算出結果を、DNAチップ/プロテインチップ1001の各検出セル1006の配置に対応させて、二次元プロットすると、DNAチップ/プロテインチップ1001全体の検出結果を示すパターン情報が得られる。
【0151】
図10に示す、金属薄膜の表面に対して、平行光線とされた照射光1004を垂直入射する方式では、微小な開口を設けていない領域では、入射された平行光線の一部は、金属薄膜を透過できる。その金属薄膜を直接透過した透過光は、第3の実施形態において説明したように、透過光(または、散乱光)の検出系を、結像レンズ、干渉フィルタ、画像光センサで構成することで、実質的に除去されている。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1】本発明にかかる化学センシング装置の第1の実施形態の構成を模式的に示す図である。
【図2】本発明にかかる化学センシング装置の第1の実施形態における、微小な開口で生じる局所プラズモン共鳴を利用するセンシング法の動作原理を模式的に示す図である。
【図3】本発明にかかる化学センシング装置の第2の実施形態における、金属微粒子表面で生じる局所プラズモン共鳴を利用するセンシング法の動作原理を模式的に示す図である。
【図4】金属表面におけるプラズモン共鳴に起因する光吸収(光散乱)のスペクトルおける、該金属表面への物質吸着に起因するピーク波長の変移を模式的に示す図である。
【図5】本発明にかかる化学センシング装置の第2の実施形態の構成を模式的に示す図である。
【図6】本発明にかかる化学センシング装置の第3の実施形態の構成を模式的に示す図である。
【図7】マトリックス状に配置されるセンシング部位からの透過光(散乱光)における、図4に示すピーク波長の変移を、画像光センサを利用して検出した測定結果を処理し、画像信号の形態で出力した結果を模式的に示す図である。
【図8】本発明にかかる化学センシング装置の第3の実施形態において、複数の微小な開口(あるいは、複数の金属微粒子)からの透過光(あるいは、散乱光)のスペクトルを構成する、二つのピーク波長を示す成分の比率を示す。二つのピーク波長を示す成分の比率について、該複数の微小な開口(あるいは、複数の金属微粒子)表面に対する物質吸着の比率に起因する変化の様子を模式的に示す図である。
【図9】本発明にかかる化学センシング装置を、マイクロ化学分析システムにおける検出手段として利用するシステム構成の一例を模式的に示す図である。
【図10】本発明にかかる化学センシング装置を、DNAチップやプロテインチップを利用する対象物質の検出システムにおいて、該チップ上に配置される検出セル上の対象物質の固定の有無の検出に利用システム構成の一例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0153】
101 光源
102 コリメータレンズ
103 検体液
104 標識物質が結合した標的物質
105 センサ媒体
106 照射光
107 透過光
108 集光レンズ
109 干渉フィルタ
110 光検出器
111 検出信号
201 透明基板
202 金属薄膜
203 照射光
204 開口
205 捕捉体物質1
206 標的物質
207 捕捉体物質2
208 標識物質
209 透過光
301 透明基板
302 照射光
303 金属微粒子
304 捕捉体物質1
305 標的物質
306 捕捉体物質2
307 標識物質
308 散乱光
401 標識物質配置前のスペクトル
402 標識物質配置後のスペクトル
501 光源
502 コリメータレンズ
503 検体液
504 標識物質が結合した標的物質
505 センサ媒体
506 照射光
507 散乱光
508 集光レンズ
509 干渉フィルタ
510 光検出器
511 検出信号
601 光源
602 コリメータレンズ
603 検体液
604 標識物質が結合した標的物質
605 センサ媒体
606 検体液
607 透過光
608 結像レンズ
609 干渉フィルタ
610 画像センサ
611 画像信号
701 波長λ1の透過光部分
702 波長λ2の透過光部分
901 マイクロ化学分析システム
902 試料液注入部
903 反応液注入部
904 流路
905 検出部
906 微小開口
907 照射光
908 透過光
909 レンズ
910 フィルタ
911 光電子増倍管
1001 DNAチップ/プロテインチップ
1002 各検出セル
1003 微小開口
1004 照射光
1005 透過光
1006 レンズ
1007 CCDカメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的物質を、捕捉体物質との結合を介して、固定化することで検出を行う方式の化学センシング装置であって、
該化学センシング装置は、
光源と、
該光源から照射される光の波長よりも小さい開口を設けた金属薄膜、または該光の波長よりも小さい金属微粒子と、
前記開口を設けた金属薄膜、または金属微粒子をその表面に保持する透明基板と、
前記開口の近傍の金属薄膜の金属表面、または、前記金属微粒子の表面に結合されている前記捕捉体物質と、
前記開口または金属微粒子の大きさを基準として、その1/10倍以上10倍以下の範囲の大きさを有しており、該捕捉体物質と結合可能な前記標的物質に対して結合されている標識物質と、
前記光源から照射される光を、前記開口を設けた金属薄膜、または金属微粒子に照射した際、該金属薄膜に設ける開口を透過した透過光、または、該金属微粒子から発せられる散乱光を検出する光検出器とを具えてなり、
前記標識物質を結合した標的物質を、前記捕捉体物質との結合を介して、前記開口の近傍の金属薄膜の金属表面、または、前記金属微粒子の表面に固定化して、
その固定化がなされた際に、該金属薄膜に設ける開口を透過した透過光、または、該金属微粒子から発せられる散乱光に生ずる変化に基づき、標的物質の検出を行う検出方式を用いている
ことを特徴とする化学センシング装置。
【請求項2】
前記標識物質は、誘電体微粒子である
ことを特徴とする請求項1に記載の化学センシング装置。
【請求項3】
前記標識物質は、第二の金属微粒子である
ことを特徴とする請求項1に記載の化学センシング装置。
【請求項4】
前記標識物質は、磁性微粒子である
ことを特徴とする請求項1に記載の化学センシング装置。
【請求項5】
前記光検出器は、
前記金属薄膜に設ける開口を透過した透過光、または、金属微粒子から発せられる散乱光について、そのスペクトル形状を検出する機能を具えている
ことを特徴とする請求項1−4のいずれか一項に記載の化学センシング装置。
【請求項6】
前記金属薄膜に設ける開口、または金属微粒子を、複数個設け、
該複数個の開口、または、複数個の金属微粒子は、前記透明基板の表面上において、一次元または二次元のアレイ状の配置をとっている
ことを特徴とする請求項1−5のいずれか一項に記載の化学センシング装置。
【請求項7】
前記光検出器は、
前記透明基板の表面上において、一次元または二次元のアレイ状の配置をとっている、前記複数個の開口を透過した透過光、または、前記複数個の金属微粒子から発せられる散乱光について、
一次元または二次元の画像情報として、検出を行う機能を具えている
ことを特徴とする請求項6に記載の化学センシング装置。
【請求項8】
前記光源から照射される光の照射方式、ならびに、前記光検出器の配置は、
前記光源から照射される光を、前記開口を設けた金属薄膜、または金属微粒子に照射した際、
前記金属薄膜に設ける開口を透過した透過光、または、金属微粒子から発せられる散乱光のみが前記光検出器によって検出される、暗視野照明の配置である
ことを特徴とする請求項1−7のいずれか一項に記載の化学センシング装置。
【請求項9】
該化学センシング装置は、
マイクロ化学分析システムにおける検出部における検出手段として、
該マイクロ化学分析システム中に組み込まれたシステム構成とされている
ことを特徴とする請求項1−8のいずれか一項に記載の化学センシング装置。
【請求項10】
該化学センシング装置は、
DNAチップを利用する標的物質の検出システムにおける検出手段として、
該DNAチップを利用する標的物質の検出システム中に組み込まれたシステム構成とされている
ことを特徴とする請求項1−8のいずれか一項に記載の化学センシング装置。
【請求項11】
該化学センシング装置は、
プロテインチップを利用する標的物質の検出システムにおける検出手段として、
該プロテインチップを利用する標的物質の検出システム中に組み込まれたシステム構成とされている
ことを特徴とする請求項1−8のいずれか一項に記載の化学センシング装置。
【請求項12】
標的物質を、捕捉体物質との結合を介して、固定化することで検出を行う方式の化学センシング方法であって、
該化学センシングを実施する装置として、
光源と、
該光源から照射される光の波長よりも小さい開口を設けた金属薄膜、または該光の波長よりも小さい金属微粒子と、
前記開口を設けた金属薄膜、または金属微粒子をその表面に保持する透明基板と、
前記開口の近傍の金属薄膜の金属表面、または、前記金属微粒子の表面に結合されている前記捕捉体物質と、
前記開口または金属微粒子の大きさを基準として、その1/10倍以上10倍以下の範囲の大きさを有しており、該捕捉体物質と結合可能な前記標的物質に対して結合されている標識物質と、
前記光源から照射される光を、前記開口を設けた金属薄膜、または金属微粒子に照射した際、該金属薄膜に設ける開口を透過した透過光、または、該金属微粒子から発せられる散乱光を検出する光検出器とを具えてなる装置を使用し、
前記標識物質を結合した標的物質を、前記捕捉体物質との結合を介して、前記開口の近傍の金属薄膜の金属表面、または、前記金属微粒子の表面に固定化して、
その固定化がなされた際に、該金属薄膜に設ける開口を透過した透過光、または、該金属微粒子から発せられる散乱光に生ずる変化に基づき、標的物質の検出を行う検出方式を用いており、
そのセンシング操作は、
前記標識物質を結合した標的物質を、前記捕捉体物質との結合を介して、前記開口の近傍の金属薄膜の金属表面、または、前記金属微粒子の表面に固定化する工程と、
前記固定化がなされた際に、前記光源から照射される光を、前記開口を設けた金属薄膜、または金属微粒子に照射する工程と、
前記光源から照射される光を照射した状態で、該金属薄膜に設ける開口を透過した透過光、または、該金属微粒子から発せられる散乱光を前記光検出器で検出する工程とを具えている
ことを特徴とする化学センシング方法。
【請求項13】
前記光検出器は、
前記金属薄膜に設ける開口を透過した透過光、または、金属微粒子から発せられる散乱光について、そのスペクトル形状を検出する機能を具えており、
前記金属薄膜に設ける開口を透過した透過光、または、該金属微粒子から発せられる散乱光を前記光検出器で検出する工程に際して、
前記金属薄膜に設ける開口を透過した透過光、または、金属微粒子から発せられる散乱光について、そのスペクトル形状を検出する
ことを特徴とする請求項12に記載の化学センシング方法。
【請求項14】
前記光検出器は、
一次元または二次元的に拡がりを有する測定領域に対して、
一次元または二次元の画像情報として、該測定領域からの光を検出する機能を具えており、
前記金属薄膜に設ける開口を透過した透過光、または、該金属微粒子から発せられる散乱光を前記光検出器で検出する工程に際して、
前記光源から照射される光の照射がなされる領域からの光を、一次元または二次元の画像情報として検出を行う
ことを特徴とする請求項12または13に記載の化学センシング方法。
【請求項15】
前記金属薄膜に設ける開口を透過した透過光、または、該金属微粒子から発せられる散乱光を前記光検出器で検出する工程に際して、
前記光検出器で検出される光強度の測定結果に基づき、光強度の階調を算出する操作を設ける
ことを特徴とする請求項12−14のいずれか一項に記載の化学センシング方法。
【請求項16】
前記開口の近傍の金属薄膜の金属表面、または、前記金属微粒子の表面に結合されている前記捕捉体物質は、
前記開口の近傍の金属薄膜の金属表面、または、前記金属微粒子の表面に第二の光を照射して、該第二の光の照射により誘起される光化学反応を用いて、前記捕捉体物質を金属表面に結合させたものである
ことを特徴とする請求項12に記載の化学センシング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−157923(P2008−157923A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−294265(P2007−294265)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】