説明

化学反応カートリッジの挿入機構

【課題】 装置本体にトレイを用いずに化学反応カートリッジを装置内部に送り込むことができる化学反応カートリッジの挿入機構を実現することを目的にする。
【解決手段】 挿入された化学反応カートリッジ1を、モータ5により回転駆動される歯車4と咬み合うラック3の直線運動に基づいて、筐体6内部へ引き込む化学反応カートリッジの挿入機構において、筐体6内に固定され化学反応カートリッジ1を直線運動の方向に導くローディングガイド8を備え、ラック3が化学反応カートリッジ1の表面に設けられたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学反応用カートリッジの試験装置等へ挿入される化学反応カートリッジを装置内部へ送り込むための化学反応カートリッジの挿入機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶液の合成や溶解、検出、分離などの処理においては、試験管やビーカー、ピペットなどが利用されていたが、操作が煩雑であり、個人差も大きく、手間もかかることから、近年、化学反応カートリッジが用いられることが多くなってきた。化学反応カートリッジは、カートリッジ内に設けられ、流路で連結された室(ウェル) に溶液を送り、混合や化学反応などの処理を行もので、操作が簡単であり、個人差がなく、手間もかからないという利点がある。
【0003】
化学反応用カートリッジの試験装置等に化学反応カートリッジをセットする際には、従来から、試験者の操作を容易にするため、装置内部へカートリッジを送り込むための挿入機構が用いられている。
【0004】
図3は、従来の化学反応カートリッジの挿入機構の一例を示し、(A)はその外部斜視図、(B)はその要部斜視図である。
【0005】
図3(A)に示すように、化学反応用カートリッジの試験装置は筐体26に収められ、化学反応用カートリッジ21を載せるためのトレイ22と、これらを出入できるようにした開口部27を備えている。
【0006】
図3(B)において、トレイ22の側面に設けられたラック(直線歯車)23は平歯車(ピニオン)24と咬み合い、平歯車24は回転中心部がモータ25の回転軸に結合されている。
【0007】
次に図3の化学反応カートリッジの挿入機構の動作を説明する。
【0008】
図3(A)に示すように、筐体26の開口部からトレイ22を引き出してカートリッジ21を載せる。トレイ22上には予め、カートリッジ21の位置決めを行うための凹部が設けられている。次にトレイ22を軽く押す、またはスイッチを押す、などの操作により試験装置内部のモータ25が回転を開始し、平歯車24を介して伝達されたトルクによりラック23が筐体26内部方向に向けて直進移動する。その結果、トレイ22と共にカートリッジ21が開口部27を通って試験装置本体内へ引き込まれる。
【0009】
このような化学反応カートリッジの挿入機構によれば、カートリッジ21内部の流路と対応した位置決めが試験装置本体内で自動的かつ迅速に行われるので、試験者の負担軽減を図ることができる。
【0010】
化学反応カートリッジの挿入機構の先行技術としては下記のような特許文献が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平8−43405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、従来の技術では、試験装置内部にトレイ機構が必要となるので、構造支持部材が必要となり、小型化が難しいという問題がある。
【0013】
また、カートリッジより長く奥行きのあるトレイが必要となるので、トレイが格納されたときの空間が余分に必要となり、その部分への機構・電気部品の配置ができなくなるので、スペース効率の悪い構造となる。
【0014】
また、化学反応カートリッジは、試験装置内でカートリッジ内部の流路と対応した正確な位置決めが必要となるが、トレイとカートリッジの間にガタがあると、位置ずれが生じ易くなり、測定の信頼性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0015】
本発明は上記従来技術の課題を解決するためになされたもので、構成が単純でスペース効率がよく、小型化が容易な化学反応カートリッジの挿入機構を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
挿入された化学反応カートリッジを、モータにより回転駆動される歯車と咬み合うラックの直線運動に基づいて、筐体内部へ引き込む化学反応カートリッジの挿入機構において、
前記筐体内に固定され前記化学反応カートリッジを前記直線運動の方向に導くローディングガイドを備え、
前記ラックが化学反応カートリッジの表面に設けられたことを特徴とする。
【0017】
請求項2記載の発明は、
請求項1記載の化学反応カートリッジの挿入機構において、
前記ラックは前記化学反応カートリッジと一体に成型されたことを特徴とする。
【0018】
請求項3記載の発明は、
請求項1または2に記載の化学反応カートリッジの挿入機構において、
前記化学反応カートリッジが所定の位置まで引き込まれたことを検出して前記モータの回転を停止させる検出スイッチを備えたことを特徴とする。
【0019】
請求項4記載の発明は、
請求項1乃至3のいずれかに記載の化学反応カートリッジの挿入機構において、
前記化学反応カートリッジが、前記ラックと前記歯車が咬み合う所定の位置まで挿入されたことを検出して前記モータの回転を開始させる内部スイッチを備えたことを特徴とする。
【0020】
請求項5記載の発明は、
請求項1乃至4のいずれかに記載の化学反応カートリッジの挿入機構において、
前記ラックが前記化学反応カートリッジの側面に設けられたことを特徴とする。
【0021】
請求項6記載の発明は、
請求項5に記載の化学反応カートリッジの挿入機構において、
前記ローディングガイドの一部に設けられた開口部を介して前記歯車が前記ラックと咬み合うことができるようにしたことを特徴とする。
【0022】
請求項7記載の発明は、
請求項1乃至4のいずれかに記載の化学反応カートリッジの挿入機構において、
前記ラックが前記化学反応カートリッジの上面または下面に設けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば以下のような効果がある。
【0024】
すなわち、ラックをカートリッジに直接設けることでモータと平歯車の単純な構成でカートリッジを装置内へ送り込むことができる。複雑な構造支持部材が不要なので、小型化が容易となる。
【0025】
また、カートリッジ挿入時の案内面をカートリッジ表面に設けることで、ローディングガイドも単純な構成となる。
【0026】
また、カートリッジは成型品なので、カートリッジに付加するラックも容易かつ安価に形成できる。
【0027】
また、装置内部の奥行きはトレイ構造の場合と比べて短くできるのでスペース効率が向上し、小型化を図ることができる。
【0028】
また、化学反応カートリッジは、試験装置内でカートリッジ内部の流路と対応した正確な位置決めが必要となるが、トレイとカートリッジが一体でその間にガタがないので、位置決めがさらに正確になる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態に係る化学反応カートリッジの挿入機構の一実施例を示す構成説明図である。
【図2】図1の化学反応カートリッジの挿入機構の変形例を示す構成説明図である。
【図3】従来の化学反応カートリッジの挿入機構の一例を示す構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0031】
図1(A)は本発明の実施の形態に係る化学反応カートリッジの挿入機構を示す外形構成斜視図、図1(B)は同要部構成斜視図である。
【0032】
図1(A)において、化学反応用カートリッジの試験装置は筐体6に収められ、筐体6に設けられた開口部7から化学反応用カートリッジ1が挿入可能となっている。化学反応用カートリッジ1の側面にはラック3が一体成型されている。
【0033】
図1(B)において、カートリッジ1の側面に設けられたラック(直線歯車)3は平歯車(ピニオン)4と咬み合い、平歯車4の回転中心は試験装置本体内に固定されたモータ5の回転軸と結合されている。すなわち、モータ5の回転トルクは、平歯車4とラック3を介してカートリッジ1に伝達され、カートリッジ1を直線運動させる。カートリッジ1の案内面となるローディングガイド8は試験装置本体内に開口部7に接して固定され、開口部7から挿入された化学反応カートリッジ1を保持してラック3による直線運動の方向に導く。なお、ラック3が平歯車4と咬み合うことができるように、ローディングガイド8の一部に小開口部9が設けられている。
【0034】
また、試験装置本体内には、ラック3が平歯車4と咬み合う所定の位置までカートリッジ1が挿入されたことを検出する内部スイッチ(図示せず)や、位置決めストッパとして化学反応カートリッジの先端が所定の位置まで引き込まれたことを検出するエンド検出スイッチ(図示せず)が設けられている。内部スイッチやエンド検出スイッチとしては、光電センサ等周知の物体検出スイッチを用いることができる。
【0035】
次に図1の化学反応カートリッジの挿入機構の動作を説明する。
【0036】
図1(A)に示すように、カートリッジ1を試験装置の筐体6に設けられた開口部7から図1(B)のローディングガイド8に差し込む。ローディングガイド8に導かれて、カートリッジ1が、ラック3と平歯車4が咬み合う所定の位置まで挿入されると、内部スイッチ(図示せず)が働いてモータ5が回転を開始する。モータ5の回転は平歯車4に伝えられ、平歯車4の回転によりラック3はローディングガイド8が導く方向に直進移動する。その結果、カートリッジ1は開口部7を経由して試験装置本体内へ引き込まれる。化学反応カートリッジ1が所定の位置まで引き込まれると、エンド検出スイッチ(図示せず)が化学反応カートリッジ1の先端を検出してモータ5の回転を停止させるので、化学反応カートリッジ1は停止する。
【0037】
上記のような構成の化学反応カートリッジの挿入機構によれば、ラックをカートリッジに直接設け、試験装置本体内に位置決めストッパを設けることにより、モータと平歯車の単純な構成でカートリッジを装置内へ送り込むことができる。複雑な構造支持部材が不要なので、小型化を図ることができる。
【0038】
また、カートリッジ挿入時の案内面をカートリッジ表面に設けることで、ローディングガイドも単純な構成とすることができる。
【0039】
また、カートリッジは成型品なので、カートリッジに付加するラックも容易かつ安価に形成できる。
【0040】
また、装置内部の奥行きはトレイ構造の場合と比べて短くできるのでスペース効率が向上し、小型化を図ることができる。
【0041】
また、化学反応カートリッジは、試験装置内でカートリッジ内部の流路と対応した正確な位置決めが必要となるが、ラックとカートリッジが一体でその間にガタがないので、位置決めがさらに正確になる。
【0042】
なお、上記の実施例ではラックとカートリッジを一体に成型したが、カートリッジに単体のラックを取り付けるようにしてもよい。
【0043】
また、モータの回転を開始や停止させるスイッチは、化学反応カートリッジがそれぞれ所定の位置まで来たことを検出できればよいので、例えば化学反応カートリッジの外形の一部を検出してもよい。
【0044】
また、カートリッジに付加するラックは側面に限らず上面や下面などに設けてもよい。
【0045】
図2は図1の化学反応カートリッジの挿入機構の実施例の変形例で、ラックをカートリッジの上面に設けた場合を示す要部構成斜視図である。筐体6、開口部7は図1と同様である。
【0046】
図2において、カートリッジ11の上面にラック13が一体に成型されている。ラック13は平歯車14と咬み合い、平歯車14はモータ15により駆動される。開口部7(図1(A))からカートリッジ11が挿入されると、ローディングガイド18に導かれてラック3と平歯車4が咬み合う所定の位置までカートリッジ1が挿入され、これを検出した内部スイッチによりモータ15が回転する。モータ15によって駆動される平歯車14の回転によりラック13が直線移動し、カートリッジ11が試験装置内部に引き込まれる。
【0047】
図2の化学反応カートリッジの挿入機構によれば、ラックをカートリッジの上面に設けているので、ローディングガイド18の一部に小開口部を設ける必要がなくなり、ローディングガイド18の作成が容易となる。その他の点については図1の場合とほぼ同様である。
【0048】
また、本発明の化学反応カートリッジの挿入機構は、化学反応用カートリッジの試験装置に限らず、化学反応用カートリッジの読取装置、解析装置、分析装置等、化学反応カートリッジを装置内部へ送り込む必要がある各種の装置に適用することができる。
【0049】
また、本発明は、上記実施例や変形例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形を含むものである。
【符号の説明】
【0050】
1,11,21 化学反応カートリッジ
3,13,23 ラック
4,14,24 歯車
5,15,25 モータ
6,26 筐体
8,18 ローディングガイド
9 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
挿入された化学反応カートリッジを、モータにより回転駆動される歯車と咬み合うラックの直線運動に基づいて、筐体内部へ引き込む化学反応カートリッジの挿入機構において、
前記筐体内に固定され前記化学反応カートリッジを前記直線運動の方向に導くローディングガイドを備え、
前記ラックが化学反応カートリッジの表面に設けられたことを特徴とする化学反応カートリッジの挿入機構。
【請求項2】
前記ラックは前記化学反応カートリッジと一体に成型されたことを特徴とする請求項1記載の化学反応カートリッジの挿入機構。
【請求項3】
前記化学反応カートリッジが所定の位置まで引き込まれたことを検出して前記モータの回転を停止させる検出スイッチを備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の化学反応カートリッジの挿入機構。
【請求項4】
前記化学反応カートリッジが、前記ラックと前記歯車が咬み合う所定の位置まで挿入されたことを検出して前記モータの回転を開始させる内部スイッチを備えたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の化学反応カートリッジの挿入機構。
【請求項5】
前記ラックが前記化学反応カートリッジの側面に設けられたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の化学反応カートリッジの挿入機構。
【請求項6】
前記ローディングガイドの一部に設けられた開口部を介して前記歯車が前記ラックと咬み合うことができるようにしたことを特徴とする請求項5に記載の化学反応カートリッジの挿入機構。
【請求項7】
前記ラックが前記化学反応カートリッジの上面または下面に設けられたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の化学反応カートリッジの挿入機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−5990(P2012−5990A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146077(P2010−146077)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】