説明

化学気相成長法によるカーボン単層ナノチューブの合成の方法

【課題】単層カーボンナノチューブを合成するための方法を提供する。
【解決手段】担体上の少なくとも一つの触媒を用意し、この触媒の粒径を決定し、決定した前記粒径に基づく温度で不活性ガスを含む炭素前駆体ガスをこの触媒と接触させて、SWNTの直径の平均値の25%内の直径を有するSWNTを形成させる。前記温度は、相図に基づく前記触媒の金属−炭素相が炭素誘発液化によって液化する最低温度よりも5℃から150℃高くする。前記炭素前駆体ガスは、メタンであり、前記触媒は、鉄、モリブデン又はこれらの組み合わせであり、担体は、粉末状酸化物であり、粉末状酸化物は、Al2O3、SiO2、MgO及びゼオライトからなるグループから選択され、触媒は、1nmから10nmの間の粒径を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の発明者は、ハルツヤン,アベチック、フェルナンデス,エレナ,モーラ及び
トクネ,トシオである。
【0002】
本出願は、2004年9月9日に出願された米国仮特許出願番号60/609,145
号と、2004年9月8日に出願された米国特許出願番号(未定)「狭小な直径分布のカ
ーボン単層ナノチューブの合成」と、に基づいて優先権を主張するものであり、これらを
参照により本明細書中に組み込むものとする。
【0003】
本発明は、化学気相成長法を用いたカーボン単層ナノチューブの生成(合成)のための
方法に関する。
【背景技術】
【0004】
カーボンナノチューブは、フラーレン分子の半分で覆われた各端を有するシームレスな
チューブを形成する炭素原子の六角形網状構造である。カーボンナノチューブは、最初、
炭素をアーク放電内で蒸着することにより複層同心チューブすなわち複層カーボンナノチ
ューブを製造したSumio Iijimaによって1991年に報告された。彼らは、最大七つまで
の壁を有するカーボンナノチューブを報告した。1993年には、Iijimaのグループ及び
Donald Bethuneにより統率されたIBMチームが、単層ナノチューブがアーク生成器内で
鉄、コバルト等の遷移金属とともに炭素を蒸着することにより生成可能であることを、そ
れぞれ独立して発見した(Iijima et al. Nature 363:603 (1993); Bethune et al., Nat
ure 363:605 (1993) and U.S.patent No.5,424,054 を参照)。当初の合成は、大量の煤
及び金属粒子が混合された少量の不定形ナノチューブを製造するものであった。
【0005】
現在、単層カーボンナノチューブ及び複層カーボンナノチューブを合成するための、三
つの主要なアプローチが存在する。これらは、カーボンロッドの電気アーク放電(Journe
t et al. Nature 388:756 (1997))、炭素のレーザ切断(Thess et al. Science 273:483
(1996))及び炭化水素の化学気相成長(Ivanov et al. Chem.Phys.Lett 223:329 (1994)
; Li et al. Science 274:1701 (1996))である。単層カーボンナノチューブが未だにグ
ラム規模で製造されるのに対し、複層カーボンナノチューブは、触媒による炭化水素の熱
分解により商業規模で製造可能である。
【0006】
一般的に、単層カーボンナノチューブは、固有の機械的特性及び電子特性を有するので
、複層カーボンナノチューブよりも好ましい。複層カーボンナノチューブは不飽和炭素の
たれ布間にブリッジを形成することにより偶発的な欠陥を切り抜けることができるのに対
し、単層カーボンナノチューブは欠陥を補償するための隣接した壁を有していないので、
単層カーボンナノチューブにおいて、欠陥が発生する可能性は低い。欠陥の無い単層ナノ
チューブは、チューブの直径、同心的な構造の数及びキラリティを変化させることにより
調節可能な、顕著な機械的特性、電子特性及び磁気特性を有することが期待される。
【0007】
単層カーボンナノチューブは、アーク放電装置のアノードから炭素と少ない割合のVI
II族遷移金属とを同時に蒸着することにより製造される(Saito et al. Chem. Phys. L
ett. 236:419 (1995))。さらに、複数の遷移金属の混合物を利用することにより、アー
ク放電装置における単層カーボンナノチューブの収率が増大することが示されている。し
かし、ナノチューブの収率は未だに低く、ナノチューブは、混合物内の個別のチューブ間
において、構造及びサイズ(特性)において顕著な変化を示し、ナノチューブは、他の反
応製造物と分離することが困難である。一般的なアーク放電プロセスにおいて、触媒物質
(一般的には、ニッケル/コバルト、ニッケル/コバルト/鉄、又は、ニッケルとイット
リウム等の遷移元素、等の金属の組み合わせ)が詰められた炭素アノードが、アークプラ
ズマにおいて消費される。触媒及び炭素は蒸発され、単層カーボンナノチューブは、凝縮
した液状の触媒上への炭素の凝縮により成長する。硫化鉄、硫黄、硫化水素等の硫黄化合
物が、製造物の収率を最大化するために触媒プロモータとして一般的に用いられる。
【0008】
単層カーボンナノチューブを製造するための一般的なレーザ切断プロセスが、Andreas
Thess et al. (1996)により開示されている。ニッケル−コバルト合金等の金属触媒粒子
が、所定の割合で炭素粉末に混合されており、この混合物が、ペレットを得るためにプレ
ス加工される。レーザビームが、ペレットに放射される。レーザビームが、炭素及びニッ
ケル−コバルト合金を蒸発させ、炭素蒸気が、金属触媒の存在下で凝縮する。異なる直径
を有する単層カーボンナノチューブが凝縮物内から入手される。しかし、第一のレーザの
後の、50ナノ秒のパルスを与える第二のレーザのこれらのプロセスへの追加は、(10
,10)キラリティ(ナノチューブの外周に10個の六角形の連鎖)に有利に働いた。製
造物は、各ナノチューブが約1.38nmの直径を有し、不規則に配向された単層ナノチ
ューブを含み、直径が約10〜20nmで長さがマイクロメータ単位の繊維からなるもの
であった。
【0009】
多くの研究者は、化学気相成長を、大規模製造及びカーボン単層ナノチューブの制御可
能な合成のための実行可能な唯一のアプローチとみなしている(Dai et al. Chem. Phys.
Lett. 260:471 (1996), Hafner et al., Chem. Phys. Lett. 296:195 (1998), Su. M.,
et al. Chem. phys. Lett., 322:321 (2000))。一般的に、CVD法によるカーボンSW
NTの成長は、温度550〜1200℃での酸化物粉末により担持された金属ナノ粒子(
Fe,Ni,Co,…)上における炭化水素ガス(メタン、エチレン、アルコール、…)
の分解により誘導される。単層カーボンナノチューブの直径は、0.7nmから3nmと
様々である。合成された単層カーボンナノチューブは、レーザ蒸発法又はアーク放電法か
ら得られたものと同様、概ね束状構造に配列され、同時に作られる。また、鉄と、V族(
V,Nb及びTa)、VI族(Cr,Mo及びW)、VII族(Mn,Tc及びRe)又
はランタノイドの少なくとも一つと、を含む金属触媒の利用が提案されている(U.S. Pat
ent No. 5,707,916)。
【0010】
現在、供給される触媒の形状によって区別される、単層カーボンナノチューブの合成の
ための化学気相成長の二つのタイプが存在する。一つのタイプにおいて、触媒は、多孔質
材に埋め込まれるか基板上に担持され、炉の固定された位置に配置され、炭化水素前駆体
ガスの流れの中で加熱される。Cassell et al. J. Phys. Chem. B 103: 6484-6492は異
なる触媒の効果を研究したものであり、化学気相成長における、炭素源としてメタンを用
いた単層カーボンナノチューブのバルク量の合成を支えている。彼らは、AL上に
担持されたFe(NO、Al上に担持されたFe(SO、Al
上に担持されたFe/Ru、Al上に担持されたFe/Mo、及び、Al
SiOハイブリッド担体上に担持されたFe/Moを系統的に研究した。混合担体上に
担持されたバイメタル触媒は、ナノチューブの最も高い収率を提供した。Su et al. (200
0) Chem. Phys. Lett. 322: 321-326は、単層カーボンナノチューブを製造するための、
酸化アルミニウムエアロゲル上に担持されたバイメタル触媒の利用を報告した。彼らは、
ナノチューブの生成が用いられた触媒の重量の200%を超えることを報告した。相対的
に、Al粉末に担持された同様の触媒は、最初の触媒の重量の約40%を生産する。したがって、エアロゲル担体の利用は、触媒の単位重量あたりに製造されるナノチュー
ブの量を5倍に改善した。
【0011】
炭素の気相成長の第二のタイプにおいて、触媒及び炭化水素前駆体ガスが、気相を用い
て炉内に供給され、続いて気相における触媒反応が起こる。触媒は、大抵の場合、有機金
属の形である。Nikolaev et al. (1999) Chem. Phys. Lett. 313:91は、単層カーボンナ
ノチューブを形成するために、一酸化炭素(CO)ガスが有機金属プロトポルフィリン鉄
(Fe(CO))と反応する高圧CO反応(HiPCO)法を開示している。当該文献
では、一日につき400gのカーボンナノチューブが合成可能であることが主張されてい
る。Chen. et al. (1998) Appl. Phys. Lett. 72: 3282は、単層カーボンナノチューブを合成するために、水素ガスを用いて運ばれたベンゼン及び有機金属フェロセン(Fe(C)を使用する。このアプローチの問題点は、金属触媒の粒径を制御することが
困難なことである。有機金属の分解は、不規則な炭素に様々な粒径を有する(所望されて
いない)金属触媒を提供し、直径の分布が広く、収率が低いナノチューブを生じる。
【0012】
他の方法において、触媒は、反応炉内にパルス状の液体として導入される。Ci et al.
(2000) Carbon 38: 1933-1937は、少量のチオフェンを含む100mLのベンゼン内にフ
ェロセンを溶解している。この溶液が水素雰囲気下で垂直反応炉内に注入される。この技
術は、真っ直ぐなカーボンナノチューブを得るためには反応炉の底壁の温度が205−2
30℃の間に維持されることが必要である。Ago et al. (2001) J. Phys. Chem. 105: 10
453-10456の方法では、コバルト:モリブデン(1:1)のコロイド溶液が生成され、垂
直に配列された炉内に注入され、炭素源として1%のチオフェン及びトルエンが加えられ
る。束状構造の単層カーボンナノチューブが合成される。このアプローチの問題点の一つ
は、ナノチューブの収率が非常に低いことである。
【0013】
一般的には、小さい直径のカーボンナノチューブの成長のためには、3nm未満の小さ
い触媒粒子が好ましいことが知られている。しかし、小さい触媒粒子は、カーボンナノチ
ューブの合成のために必要な高温で、容易に凝集してしまう。Huang et al.による米国特
許出願第2004/0005269号明細書は、Fe、Co及びNiの少なくとも一つの
元素と、ランタノイドの少なくとも一つの担体元素と、を含む触媒混合物を開示している
。ランタノイドは合金を形成することにより触媒の融点を下げると言われているので、カ
ーボンナノ構造体は、低温で成長可能である。
【0014】
触媒のサイズだけでなく、反応室の温度もカーボンナノチューブの成長のために重要で
ある。Zhang et al.による米国特許第6,764,874号明細書は、アルミナ担体を形
成するためにアルミニウムを融解し、アルミナ担体上にニッケルナノ粒子を形成するため
にニッケル薄膜を融解することによってナノチューブを生成するための方法を開示してい
る。触媒は、反応室内において850℃未満で用いられる。共にDai et al.による米国特許第6,401,526号明細書及び米国特許出願第2002/00178846号明細書は、原子間力顕微鏡法のためのナノチューブを形成する方法を開示している。担体構造の一部が、溶剤に溶けた金属含有塩及び長鎖分子化合物を含む液相前駆体物質で被覆される。カーボンナノチューブが、850℃の温度で生成される。
【0015】
このように、製造されたSWNTの直径が触媒粒子のサイズに比例することは公知であ
る。小さい直径のナノチューブを合成するためには、非常に小さい粒径(約1nm未満)
の触媒粒子が必要である。小さい粒径の触媒は合成することが困難であり、また小さい触
媒粒子サイズであっても、触媒サイズの分布があるので、直径の幅を有するナノチューブ
の形成されることとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
均一な直径のナノチューブの合成のための一つの解決策は、モレキュラーシーブ等の、
触媒サイズの分布を制御することにより、形成されるSWNTのサイズを制御するために
用いられる細孔構造を有するテンプレートを用いることである。このようにすると、SW
NTの直径は、テンプレートの細孔のサイズを変えることによって変更可能である。これ
らの手法は、用途が狭い。このように、狭小な分布の直径を有するカーボン単層ナノチュ
ーブの制御可能な合成のための方法及びプロセスが必要とされている。したがって、本発
明は、狭小な分布の直径を有するSWNTの合成のための新規な方法及びプロセスを提供
する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、単層カーボンナノチューブを成長させるための方法及びプロセスを提供する
。一態様において、炭素前駆体ガス及び担体上の金属触媒は、金属−炭素相の共融点(液
相)近くの反応温度まで加熱される。さらに、反応温度は、金属触媒の融点未満である。
【0018】
一態様において、本方法は、触媒−炭素相の共融点近くの温度で炭素前駆体ガスを担体
上の触媒と接触させることによりSWNTが形成される工程を含む。炭素前駆体ガスは、
アルゴン、水素等の他のガスをさらに含有することが可能なメタンとすることができる。
触媒は、V族金属、VI族金属、VII族金属、VIII族金属、ランタノイド、遷移金
属又はこれらの組み合わせとすることができる。触媒は、約1nmから約50nmの間の
粒径を有することが好ましい。触媒は、Al、SiO、MgO等の粉末状酸化物
上に担持可能であり、ここで、触媒及び担体は、約1:1から約1:50の比率である。
SWNTは、共融点よりも約5℃から約150℃高い反応温度を用いることによって製造
される。
【0019】
他の態様において、本発明は、触媒の融点と触媒及び炭素の共融点との間の温度で炭素
前駆体ガスを担体上の触媒に接触させることにより製造されるカーボンナノチューブ構造
体を提供する。炭素前駆体ガスは、アルゴン、水素等の他のガスをさらに含有することが
可能なメタンとすることができる。触媒は、V族金属、VI族金属、VII族金属、VI
II族金属、ランタノイド、遷移金属又はこれらの組み合わせとすることができる。触媒
は、約1nmから約15nmの間の粒径を有することが好ましい。触媒は、Al
SiO、MgO等の粉末状酸化物上に担持可能であり、ここで、触媒及び担体は、約1
:1から約1:50の比率である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】鉄−炭素の相図である。
【図2】aは1nm未満、bは約5nm、cは約9nmの平均直径を有するFeナノ粒子を用いて成長したカーボンSWNTのラマンスペクトル(λ=532nm励起)を示す図である。
【図3a】1nm未満の平均直径を有するFeナノ粒子を用いて製造された単層カーボンナノチューブのTEM画像である。
【図3b】約5nmの平均直径を有するFeナノ粒子を用いて製造された単層カーボンナノチューブのTEM画像である。
【図3c】約9nmの平均直径を有するFeナノ粒子を用いて製造された単層カーボンナノチューブのTEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<1.定義>
特に指定しない限り、明細書及び特許請求の範囲を含む本出願において用いられる以下
の用語は、以下で与えられる定義を有する。本明細書及び添付の特許請求の範囲において
用いられている単数形は、文脈が特に明確に指示しなくても、複数形を含むことに留意さ
れたい。標準的な化学用語の定義は、Carey and Sundberg (1992) "Advanced organic Ch
emistry 3rd. Ed" Vols. A and B, Plenum Press, New York及びCotton et al. (1999) "
Advanced Inorganic Chemistry 6th Ed." Wiley, New Yorkを含む参考資料から入手可能
である。
【0022】
「単層カーボンナノチューブ」又は「一次元カーボンナノチューブ」という用語は、交
換可能に用いられ、主として単層の炭素原子からなる壁を有し、黒鉛型の結合を有する六
角結晶構造に配列された炭素原子の円筒形状の薄いシートを指す。
【0023】
本明細書で用いられる「複層カーボンナノチューブ」という用語は、一よりも多い同心
チューブからなるナノチューブを指す。
【0024】
「金属有機物」又は「有機金属」という用語は、交換可能に用いられ、有機化合物と、
金属、遷移金属又は金属ハロゲン化物と、からなる配位化合物を指す。
【0025】
「共融点(共晶点ともいう)」という用語は、合金の凝固温度のうち、可能な最も低い
温度を指し、異なる比率で同一成分からなる他の合金の凝固温度よりも低くすることがで
きる。
【0026】
<2.概説>
本発明は、カーボンナノチューブの製造のための方法、装置及びプロセスと、予め選択
された直径の単層ナノチューブからなる構造体と、SWNTの直径が実質的に均一である
といえる予め選択された直径の幅と、を開示する。
【0027】
本発明は、実質的に均一な直径を有する単層カーボンナノチューブ(SWNT)の製造
のための化学気相成長プロセスに関する。本発明によると、予め選択された直径分布のS
WNTは、炭素含有ガスを担体上に担持された触媒と接触させることにより製造可能であ
る。触媒粒子は、規定された直径の幅を有するように選択されており、その幅は狭い。炭
素含有ガスは、炭素含有ガスを分解してSWNTの成長を生じるのに十分な温度で触媒と
接触する。大きい直径の触媒は、高い共融温度を有し、不活性であるので、反応温度は、
最小の直径を有する触媒粒子が単層ナノチューブを成長させるために活性化(液化)する
触媒−炭素相の共融点に近いことが望ましい。したがって、SWNTの直径分布は、小さ
い触媒粒子の共融点に近い成長温度を用いることにより制御可能である。
【0028】
<3.反応槽>
本発明の一態様において、カーボンナノチューブを製造するためのシステムが提供され
る。本システムは、少なくとも一つの温度帯、好ましくは複数の温度帯に対応し、炭素前
駆体ガスの供給源と不活性ガスの供給源とが設けられた気密反応室を有することが可能な
反応炉を備え、オプションとして、試料保持器が気密反応室内に設置可能であり、排出シ
ステムが反応室からガスを排出するために反応炉に接続される。
【0029】
一般的に、市販の「水平」反応炉は、本発明の様々な実施形態を実施するために利用可
能である。反応炉は、加熱された反応室内のガスの流れを制御することができるように構
成された従来の炉とすることができる。例えば、カーボライトモデルTZF12/65/
550は、本発明の様々な態様を実施するために好適な水平3ゾーン炉である。
【0030】
オプションとして、石英管が、反応室として機能するように反応炉内に設置可能である
。反応炉がプロセスに必要な熱を提供する間、石英管は、反応炉の反応室として機能する
ことができる。反応室は、石英管内での雰囲気の組成を制御可能とするために、一以上の
ガス吸気ポート及びガス排気ポートを有している。所与のプロセスの要求によると、さら
なるガス吸気ポートが追加可能であり、不要なガス吸気ポートが閉鎖可能である。また、
反応室は、真空ポンプをガス排気ポートに取り付けることによって低圧での動作を可能と
するように構成可能である。本発明の利用に好適な他のタイプの反応室が、当業者にとっ
て自明な事項である。反応炉の動作中、試料保持器が、石英ボート、石英基板、他タイプ
の反応槽又は反応基板等の石英管内に設置可能である。一般的に、試料保持器は、石英管
又は他の反応室への材料の導入又は除去を容易にするために用いられる。所望のプロセス
のガスフローステップ及び加熱ステップの間、処理される材料は、試料保持器の上又は中
に設置される。
【0031】
一般的な動作において、触媒を含む試料保持器が、反応室内に設置される。続いて、反
応室内の圧力が、従来の真空ポンプである真空ポンプによって低減される。反応室の内圧
が所望の圧力に到達すると、物理気相成長工程が、温度帯において温度を調節することに
よって開始される。
【0032】
<4.触媒>
触媒組成は、化学気相成長プロセスで日常的に用いられている、当業者にとって知られ
た触媒組成とすることができる。カーボンナノチューブ成長プロセスにおける触媒の機能
は、炭素前駆体を分解し、規則的な炭素の堆積を促進することである。本発明の方法、プ
ロセス及び装置は、金属触媒として金属ナノ粒子を用いることが好ましい。触媒として選
択された金属又は金属の組み合わせが、所望の粒径及び直径分布を得るために処理可能で
ある。続いて、金属ナノ粒子は、後記する金属成長触媒を用いたカーボンナノチューブの
合成中に、担体としての利用に好適な材料上に担持されることにより分離可能である。公
知のように、担体は、触媒粒子を互いに分離することにより、触媒組成における広大な表
面領域を触媒物質に提供するために利用可能である。このような担体材料としては、結晶
シリコン、ポリシリコン、シリコン窒化物、タングステン、マグネシウム、アルミニウム
及びこれらの酸化物が挙げられ、好ましくは、オプションとして添加元素により改質され
た、酸化アルミニウム、酸化シリコン、酸化マグネシウム若しくは二酸化チタン又はこれ
らの組み合わせが、担体粉末として用いられる。シリカ、アルミナ及び他の公知の材料が
、担体として用いられてもよく、アルミナが担体として用いられることが好ましい。
【0033】
金属触媒は、V、Nb等のV族金属及びこれらの混合物、Cr、W、Mo等のVI族金
属及びこれらの混合物、Mn、Re等のVII族金属、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、
Os、Ir、Pt等のVIII族金属及びこれらの混合物、Ce、Eu、Er、Yb等の
ランタノイド及びこれらの混合物、又は、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Sc、Y、L
a等の遷移金属及びこれらの混合物から選択可能である。本発明により採用可能な、バイ
メタル触媒等の触媒混合物の具体例としては、Co−Cr、Co−W、Co−Mo、Ni
−Cr、Ni−W、Ni−Mo、Ru−Cr、Ru−W、Ru−Mo、Rh−Cr、Rh
−W、Rh−Mo、Pd−Cr、Pd−W、Pd−Mo、Ir−Cr、Pt−Cr、Pt
−W及びPt−Moが挙げられる。金属触媒は、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、
又はFe−Mo、Co−Mo、Ni−Fe−Mo等のこれらの混合物であることが好まし
い。
【0034】
金属、バイメタル又は金属の組み合わせが、規定された粒径及び直径分布を有する金属
ナノ粒子を生成するために利用可能である。金属ナノ粒子は、Harutyunyan et al., Nano
Letters 2, 525 (2002)に記載された文献の手順を用いて生成可能である。また、金属ナ
ノ粒子は、同時継続であり共同所有である米国特許出願第10/304,316号明細書
に記載されたように、不活性塩に添加された、対応する金属塩の熱分解と、金属ナノ粒子
を提供するために調節された溶剤の温度と、により生成可能であり、又は、公知の他の手
法によっても生成可能である。金属ナノ粒子の粒径及び直径は、不活性溶剤内の好適な濃
度の金属を用いること、及び、反応が熱分解温度で進むように時間の長さを制御すること
により、制御可能である。約0.01nmから約20nm、より好ましくは約0.1nm
から約3nm、最も好ましくは約0.3nmから2nmの粒径を有する金属ナノ粒子が生
成可能である。すなわち、金属ナノ粒子は、0.1,1,2,3,4,5,6,7,8,
9又は10nm、及び最大約20nmの粒径を有することができる。他の態様において、
金属ナノ粒子は、粒径の幅を有することができる。例えば、金属ナノ粒子は、大きさ約3
nmから約7nm、大きさ約5nmから約10nm、又は、大きさ約8nmから16nm
の幅の粒径を有することができる。オプションとして、金属ナノ粒子は、約0.5nmか
ら約20nm、好ましくは約1nmから約15nm、より好ましくは約1nmから約5n
mの直径分布を有することができる。すなわち、金属ナノ粒子は、約1,2,3,4,5
,6,7,8,9,10,11,12,13,14又は15nmの直径分布を有すること
ができる。
【0035】
金属塩は、いかなる金属の塩であってもよく、金属塩の融点が不活性溶剤の沸点未満と
なるように選択可能である。したがって、金属塩は、金属イオン及び対イオンを備え、対
イオンは、硝酸塩、窒化物、過塩素酸塩、硫酸塩、硫化物、酢酸塩、ハロゲン化物、メト
キシドやエトキシド等の酸化物、アセチルアセトネート等となることができる。例えば、
金属塩は、酢酸鉄(FeAc)、酢酸ニッケル(NiAc)、酢酸パラジウム(Pd
Ac)、酢酸モリブデン(MoAc)等、及びこれらの組み合わせとすることが可能
である。金属塩の融点は、好ましくは沸点よりも約5℃−50℃低く、より好ましくは不
活性溶剤の沸点よりも約5℃−約20℃低い。
【0036】
金属塩は、溶液、懸濁液又は分散液を提供するために不活性溶剤内に溶解可能である。
溶剤は、有機溶剤であることが好ましく、選択された金属塩が比較的溶けやすくて安定化
するものとすることができ、実験条件下で容易に蒸発するのに十分な高蒸気圧を有するこ
とが可能である。溶剤は、グリコールエーテル、2−(2−ブトキシトキシ)エタノール
、H(OCHCHO(CHCH等のエーテルとすることができ、以下、
ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル等の一般名を用いて呼ぶこととする。
【0037】
金属塩と不活性溶剤との相対量が、製造されるナノ粒子のサイズを制御する要因となっ
ている。広い幅のモル比、ここでは不活性溶剤1モルに対する金属塩の総モル量を指す、
が金属ナノ粒子を形成するために利用可能である。不活性溶剤に対する金属塩の一般的な
モル比は、低くて約0.0222(1:45)、高くて約2.0(2:1)の比率、又は
これらの間の比率である。したがって、例えば約5.75×10−5から約1.73×1
−3モル(10−300mg)のFeAcが、約3×10−4から約3×10−3
ル(50−500ml)のジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル内に溶解可能
である。
【0038】
他の態様において、対イオンが同じ又は異なる二以上の金属塩が、二以上の金属からな
る金属ナノ粒子を形成するために反応槽に追加可能である。用いられる各金属塩の相対量
は、結果物である金属ナノ粒子の組成を制御する要因となり得る。バイメタルに関して、
第二の金属塩に対する第一の金属塩のモル比は、約1:10から約10:1、好ましくは
約2:1から約1:2、より好ましくは約1.5:1から1:1.5、又はこれらの間の
比率、とすることができる。したがって、例えば酢酸ニッケルに対する酢酸鉄のモル比は
、1:2、1:1.5、1.5:1又は1:1とすることができる。当業者であれば、金
属塩の他の組み合わせと、第二の金属塩に対する第一の金属塩の他のモル比とが、様々な
組成を有する金属ナノ粒子を合成するために利用可能であることを認識するであろう。
【0039】
不活性溶剤と金属塩との反応液は、均一な溶液、懸濁液又は分散液を提供するために混
合可能である。反応液は、標準的な実験用攪拌器、混合器、超音波発生器等を用いて混合
可能である。このようにして得られた均一な混合物は、金属ナノ粒子を形成するために熱
分解を受けることができる。
【0040】
熱分解反応は、反応槽の内容物を、反応槽内の一以上の金属塩の融点を超える温度まで
加熱することによって開始する。加熱マントル、加熱板、ブンゼンバーナー等の標準的な
実験用加熱器を含む任意の好適な熱源が利用可能であり、熱は還流可能である。熱分解の
長さは、所望のサイズの金属ナノ粒子が得られるように選択可能である。一般的な反応時
間は、約10分から約120分、又はこれらの間の任意の整数分とすることができる。熱
分解反応は、反応槽の内容物の温度を金属塩の融点未満の温度まで下げることにより、所
望の時間で終了する。
【0041】
製造される金属ナノ粒子のサイズ及び分布は、好適な手法によって検証可能である。検
証の一手法が、透過型電子顕微鏡法(TEM)である。好適なモデルとしては、FEI Comp
any of Hillsboro,ORから市販されているPhillips CM300 FEG TEMが挙げられる。金属ナノ粒子のTEM顕微鏡写真を撮影するために、一滴以上の金属ナノ粒子/不活性溶剤溶液が、TEM顕微鏡写真を得るために好適な炭素薄膜格子又は他の格子に設置される。続いて、TEM装置が、生成されたナノ粒子のサイズ分布を決定するために利用可能なナノ粒子の顕微鏡写真を得るために用いられる。
【0042】
前記した熱分解により形成された金属ナノ粒子等の金属ナノ粒子は、固体の担体に担持
される。固体の担体は、シリカ、アルミナ、MCM−41、MgO、ZrO、アルミニ
ウム−安定化酸化マグネシウム、ゼオライト又は他の公知の酸化物担体、及びこれらの組
み合わせとすることができる。例えば、Al−SiO混合担体が使用可能である
。担体は、酸化アルミニウム(Al)又はシリカ(SiO)であることが好まし
い。固体の担体として用いられる酸化物は、粉末状であり、小さい粒径及び大きい表面積
を提供する。粉末状酸化物は、好ましくは約0.01μmから約100μm、より好まし
くは約0.1μmから約10μm、さらに好ましくは約0.5μmから約5μm、最も好
ましくは約1μmから約2μmの間の粒径を有する。粉末状酸化物は、約50−約100
0m/gの表面積、より好ましくは約200−約800m/gの表面積を有する。粉
末状酸化物は、新たに生成可能であり、市販もされている。
【0043】
他の態様において、金属ナノ粒子は、補助的な分散及び抽出を介して固体の担体に担持
される。補助的な分散は、熱分解反応後に、酸化アルミニウム(Al)、シリカ(
SiO)等の粉末状酸化物を反応槽内に導入することによって開始する。1−2μmの
粒径及び300−500m/gの表面積を有する好適なAl粉末は、Alfa Aesar
of Ward Hill, MA又はDegussa, NJから市販されている。粉末状酸化物は、粉末状酸化物と金属ナノ粒子を形成するために用いられる金属の初期量との間の所望の重量比を実現するために追加可能である。一般的に、重量比は、約10:1と約15:1との間とすることができる。例えば、100mgの酢酸鉄が始めの金属として用いられている場合には、約320−480mgの粉末状酸化物が溶液内に導入可能である。
【0044】
粉末状酸化物と金属ナノ粒子/不活性溶剤混合物との混合物は、均一な溶液、懸濁液又
は分散液を形成するために混合可能である。均一な溶液、懸濁液又は分散液は、超音波発
生器、実験用攪拌器、機械的混合器又は他の好適な手法を用いて、オプションとして加熱
しつつ、形成可能である。例えば、金属ナノ粒子、粉末状酸化物及び不活性溶剤の混合物
は、まず、おおよそ80℃で2時間攪拌され、続いて、均一な溶液を提供するために実験
用攪拌器を用いて80℃で30分間攪拌及び混合可能である。
【0045】
補助的な分散の後、分散した金属ナノ粒子及び粉末状酸化物が不活性溶剤から抽出され
る。抽出は、濾過、遠心分離、減圧下での溶剤の除去、大気圧下での溶剤の除去等による
ものとすることができる。例えば、抽出は、均一化された混合物を不活性溶剤が大きい蒸
気圧を有する温度まで加熱を含む。この温度は、Alの細孔に堆積した金属ナノ粒
子を残して不活性溶剤が蒸発するまで維持可能である。例えば、不活性溶剤がジエチレン
グリコールモノ−n−ブチルエーテルである場合には、均一な分散液は、Nフローの下
で、不活性溶剤の沸点である231℃まで加熱可能である。温度及びNフローは、不活
性溶剤が完全に蒸発するまで維持される。不活性溶剤を蒸発させた後、粉末状酸化物及び
金属ナノ粒子が反応槽の壁に膜又は残渣として残る。粉末状酸化物がAlである場
合には、膜は一般的に黒い。金属ナノ粒子及び粉末状酸化物の膜は、反応槽から除去して
微粉末を生成するために粉砕することができ、これにより混合物の入手可能な表面積を増
大させる。混合物は、乳鉢及び乳棒を用いるか、市販されている機械的グラインダによる
か、当業者にとって公知である、混合物の表面積を増大させる他の手法によって、粉砕す
ることができる。
【0046】
特定の理論に捉われなくても、抽出プロセス中に粉末状酸化物が二つの機能を果たすと
考えられる。粉末状酸化物は、多孔性であり、大きい表面積を有する。したがって、金属
ナノ粒子は、補助的な分散中に粉末状酸化物の細孔内に定着する。粉末状酸化物の細孔へ
の定着は、金属ナノ粒子を互いに分離し、抽出中の金属ナノ粒子の凝集を防止する。この
効果は、用いられる粉末状酸化物の量によって補完される。前記したように、粉末状酸化
物に対する金属ナノ粒子の重量比は、例えば、1:11、1:12、2:25、3:37
、1:13:1:14等のように約1:10−1:15の間とすることができる。不活性
溶剤が除去されるので、比較的大きい量の粉末状酸化物が、事実上、さらに金属ナノ粒子
を分離又は「希薄化する」機能を果たす。このように、本プロセスは、規定された粒径の
金属ナノ粒子を提供する。
【0047】
当業者にとって自明であるように、このように生成された触媒は、後で利用するために
保存可能である。他の態様において、金属ナノ粒子は、予め生成され、不活性溶剤から分
離され、精製されており、その後、好適な量の同様又は異なる不活性溶剤内の粉末状酸化
物に添加される。金属ナノ粒子及び粉末状酸化物は、前記したように、均一に分散され、
不活性溶剤から抽出され、実質的な表面積を増大させるために処理される。金属ナノ粒子
及び粉末状酸化物の混合物を生成するための他の方法は、当業者にとって自明である。
【0048】
このように形成された金属ナノ粒子は、化学気相成長(CVD)プロセスによるカーボ
ンナノチューブ、ナノファイバ及び他の一次元カーボンナノ構造体の合成のための成長触
媒として利用可能である。
【0049】
<5.炭素前駆体>
カーボンナノチューブは、炭素含有ガス等の炭素前駆体を用いて合成可能である。一般
的に、800−1000℃の温度でも熱分解しない炭素含有ガスが利用可能である。炭素
含有ガスの好適な例としては、一酸化炭素、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタ
ン、ヘキサン、エチレン、アセチレン、プロピレン等の飽和脂肪族炭化水素及び不飽和脂
肪族炭化水素、アセトン、メタノール等の含酸素炭化水素、ベンゼン、トルエン、ナフタ
レン等の芳香族炭化水素、並びに、例えば一酸化炭素及びメタンといった前記物質の混合
物が挙げられる。一般的に、一酸化炭素及びメタンが単層カーボンナノチューブの形成の
ための供給ガスとして好ましいのに対し、アセチレンの利用は、複層カーボンナノチュー
ブの形成を促進する。オプションとして、炭素含有ガスは、水素、ヘリウム、アルゴン、
ネオン、クリプトン、キセノン又はこれらの混合物等の希釈ガスと混合されてもよい。
【0050】
6.カーボンナノチューブの合成
本発明の方法及びプロセスは、狭い直径分布を有するSWNTの合成を提供する。カー
ボンナノチューブ直径の狭い分布は、最も低い共融点を反応温度として選択することによ
って、合成中に小さい直径の触媒粒子を選択的に活性化させることによって得られる。
【0051】
本発明の一態様において、Harutyunyan et al., NanoLetters 2, 525 (2002)に記載さ
れた文献の方法によって、粉末状酸化物に担持された金属ナノ粒子が反応温度で炭素源と
接触可能である。また、酸化物粉末に担持された金属ナノ粒子は、エアロゾル化されて反
応温度に維持された反応炉内に導入可能である。同時に、炭素前駆体ガスが、反応炉内に
導入される。反応炉内における反応物質の流れは、反応炉の壁上の炭素製造物の堆積が減
少するように制御可能である。このように製造されたカーボンナノチューブは、収集及び
分離可能である。
【0052】
酸化物粉末に担持された金属ナノ粒子は、公知の手法によりエアロゾル化可能である。
一手法において、担持された金属ナノ粒子は、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン
、キセノン、ラドン等の不活性ガスを用いてエアロゾル化される。一般的に、アルゴン又
は他のガスは、粒子インジェクタを介して反応炉内に押し出される。粒子インジェクタは
、担持された金属ナノ粒子を含むことが可能であり、担持された金属粒子を攪拌する手段
を有する容器である。したがって、粉末状の多孔性酸化物基板に堆積した触媒は、機械的
攪拌器が取り付けられたビーカ内に設置可能である。担持された金属ナノ粒子は、アルゴ
ン等の搬送ガス内の触媒の同伴をアシストするために攪拌又は混合可能である。
【0053】
したがって、ナノチューブ合成は、一般的には、2003年12月3日に出願された、
同時継続及び共有出願である米国特許出願10/727,707号明細書に記載されたよ
うに発生する。一般的に、不活性搬送ガス、好ましくはアルゴンガス、は粒子インジェク
タを経由する。粒子インジェクタは、粉末状の多孔性酸化物基板に担持された成長触媒を
含むビーカ又は他の容器とすることができる。粒子インジェクタ内の粉末状の多孔性酸化
物基板は、アルゴンガスフロー内の粉末状多孔性酸化物基板の同伴をアシストするために
攪拌又は混合可能である。オプションとして、不活性ガスは、ガスを乾燥させる乾燥シス
テムを経由可能である。アルゴンガスは、同伴された粉末状多孔性酸化物を含んでおり、
このガスフローの温度を約400℃から約500℃に上昇させるために予熱器を経由可能
である。続いて、同伴された粉末状多孔性酸化物は、反応室に供給される。メタン又は他
の炭素供給源ガス及び水素の流れも、反応室に供給される。一般的な流量は、アルゴンで
500sccm、メタンで400sccm、ヘリウムで100sccmとすることができ
る。さらに、500sccmのアルゴンガスが、反応室の壁上の炭素製造物の堆積を低減
させるためにらせん流吸気口に向けて方向付けられてもよい。反応室は、加熱器を用いた
反応中に、約300℃から900℃の間に加熱可能である。温度は、炭素前駆体ガスの分
解温度未満に維持されることが好ましい。例えば、1000℃を超える温度では、メタン
は、金属成長触媒を用いてカーボンナノ構造体を形成するよりもむしろ、直接煤に分解し
てしまうことが知られている。反応室で合成されたカーボンナノチューブ及び他のカーボ
ンナノ構造体は、収集及び特徴付け可能である。
【0054】
用いられる特定の反応温度は、触媒のタイプ及び前駆体のタイプに依存する。各化学反
応のためのエネルギー平衡方程式は、カーボンナノチューブを成長させるための最適なC
VD反応温度を分析的に決定するために利用可能である。このことが、必要な反応温度の
幅を決定する。最適な反応温度は、選択された前駆体及び触媒の流量にも依存する。一般
的に、本方法は、300℃から900℃の範囲のCVD反応温度を必要とする。
【0055】
他の態様において、反応温度は、金属粒子と炭素との混合物のほぼ共融点であり、触媒
粒子の融点未満となるように選択される。反応温度は、ほぼ共融点、好ましくは共融点よ
りも約5℃から約150℃高く、より好ましくは共融点よりも約10℃から約100℃高
くなるように選択可能である。したがって、反応温度は、共融点+5℃、共融点+15℃
、共融点+50℃、共融点+70℃、共融点+80℃等となるように選択可能である。他
の態様において、反応温度は、共融点の約1%から約25%上、好ましくは共融点の約2
%から約15%上、より好ましくは共融点の約2%から約10%上とすることができる。
【0056】
共融点は、ある範囲の温度にわたり、二以上の元素の異なる混合物において形成された
相を示す二成分相図から得られる。公知のように、相図の縦軸は温度であり、横軸は触媒
100%から可能な混合物の全てを介して炭素100%までの範囲の組成である。組成は
、A−X%炭素の形で与えられ、ここでAは触媒であり、重量パーセント又はモルパーセ
ントが、金属触媒と炭素との割合を特定するために利用可能である。図1には、一般的な
鉄−炭素相図が示されている。図示されているように、炭素濃度が鉄−炭素ナノ粒子の液
線に影響を与える。Feの融解点は1538℃である。A4.3重量%の炭素含有量は、
鉄−炭素合金が液体のまま残る1140℃(共融点)まで融点を下げる。高い炭素濃度は
、液化温度の鋭敏な上昇を導く(例えば、〜8重量%の炭素含有量において、液化温度は
約2500℃である)。
【0057】
二相図によると、コバルト−炭素バルクの共融点及びニッケル−炭素バルクの共融点が
、それぞれ〜2.7重量%(1321℃)の炭素含有量及び〜2重量%(1326℃)の
炭素含有量に相当する。これらの共融温度は、鉄−炭素相の共融温度よりも高く、二倍未
満である。共融点を超える炭素含有量の増加は、鉄−炭素相と比べた場合に、コバルト−
鉄相及びニッケル−鉄相の液線の鋭敏な上昇をもたらす。すなわち、コバルト触媒及びニ
ッケル触媒は、高い合成温度を必要とする。
【0058】
他の態様において、共融点は、公知の式を用いて計算可能である。小さい粒子に関して
、粒径を用いて融解温度の依存度を理論的に決定するための多くの異なる技術的アプロー
チが存在する。ギブス−トンプソン効果によると、半径(r)を有する金属粒子の融点は
、式
Tm(r)=Tbulk[1−2γK(r)/ΔH]
により近似可能である。ここで、Tbulk及びΔHは、それぞれバルクの融解温度
及び単位体積あたりの潜熱である。γは、粒子とその環境との間の界面張力であり、K〜
1/rは、ナノ粒子の曲率に関連する特性である。理論的な推定が、遷移金属の融点が金
属バルクから100nm未満の直径を有する粒子に向かうにつれて減少することを示した
。この減少は、10nm以下の粒子にとって大きく(〜30%)、〜1−3nmの場合に
は、〜700℃未満の温度で液体となってしまう。したがって、1nm未満の平均直径を
有する鉄ナノ粒子は、800℃(合成温度)で液体になると期待される。
【0059】
特定の理論に捉われなくても、触媒ナノ粒子の溶解温度がSWNTの合成における重要
なパラメータであると考えられる。炭素フィラメント成長のための共通に認められたメカ
ニズムは、金属粒子を介した炭素の拡散を提供する。したがって、鉄ナノ粒子等の触媒ナ
ノ粒子を介した炭素原子の拡散は、初期触媒の溶解点以下の温度でのSWNTの成長中に
おける触媒粒子の液化をもたらす。したがって、炭化水素ガスは、金属ナノ粒子の表面で
分解して水素及び炭素を放出し、炭素はナノ粒子に溶け込む。溶け込んだ炭素は、融点未
満の触媒ナノ粒子を介して拡散し、ナノ粒子の液化をもたらす。SWNTは、この液化し
た金属触媒から成長する。共融点を超えた、吸収された炭素濃度のさらなる増大は、液化
温度の上昇をもたらし、最終的にナノ粒子の凝固を生じる。固体鉄−炭素相を介した炭素
の拡散は、非常にゆっくりとしており、例えば、FeCに関して、拡散係数は、650
℃でD=6×10−12cm/sである。ちなみに、液相状態において3nm未満のr
を有する鉄ナノ粒子を介した炭素原子の拡散は、D≒10−5cm/sである。したが
って、チューブ成長中における鉄−炭素相の形成は、炭素原子の拡散を減少させ、遅くな
り最終的に成長を終了する。したがって、触媒が液相状態である場合にSWNTが成長す
ると考えられる。炭素の触媒ナノ粒子への拡散は、低温での金属ナノ粒子の液化をもたら
し、ほぼ共融点でのSWNTの合成を可能とする。
【0060】
他の態様において、触媒サイズの分布内の粒子直径の範囲は、SWNTの製造が実行さ
れる温度を選択することにより、SWNTの合成のために選択可能である。触媒ナノ粒子
の合成は、一般的に、粒径のガウス分布をもたらす。したがって、例えば、1nmのFe
触媒の合成は、1nmを中心とする多数の粒子直径を有し、約0.01nmから約5nm
までの範囲の粒子直径の分布を有することができる。通常、触媒は、触媒粒径のタイトな
分布を得るためにさらに処理される。一方、本発明の方法及びプロセスは、さらなる処理
が無くても、触媒粒子の狭い分布の選択を可能とする。本発明の方法において、反応温度
は、当該反応温度が共融点の近く又は共融点を超えて、平均よりも小さいサイズの触媒粒
子が始めにSWNTの合成に用いられるように選択可能である。これらの触媒が排出され
るので、反応温度は、平均に近いサイズの触媒粒子がSWNTの合成に用いられるように
上昇可能である。反応温度は、上のほうの範囲近くのサイズの触媒粒子がSWNTの合成
に用いられるようにさらに上昇可能である。このように、本発明の方法及びプロセスは、
触媒の合成中に触媒の粒径が厳重に制御される必要がなく、SWNTの経済的な製造を提
供することができるといった利点を有している。
【0061】
本発明の一態様において、合成されたSWNTの直径分布は、実質的に均一である。し
たがって、SWNTの約90%が、平均直径の約25%内、より好ましくは平均直径の約
20%内、さらに好ましくは平均直径の約15%の直径を有する。したがって、合成され
たSWNTの直径分布が、平均直径の約10%から約25%、より好ましくは平均直径の
約10%から約20%、さらに好ましくは平均直径の約10%から約15%となることが
できる。
【0062】
前記した方法及びプロセスによって製造されたカーボンナノチューブ及びカーボンナノ
構造体は、電界放出素子、メモリ素子(高密度メモリアレイ、メモリ論理スイッチングア
レイ)、ナノMEM、AFM撮像プローブ、分散型診断センサ及び歪みセンサを含むアプ
リケーションに利用可能である。他の主要なアプリケーションとしては、熱制御材、超強
力及び軽量強化材及びナノ複合材料、EMIシールド材、触媒担体、ガス貯蔵物質、高表
面積電極、軽量導体ケーブル及びワイヤ等が挙げられる。
【実施例】
【0063】
以下は、本発明を実施するための特定の実施形態の例である。実施例は、説明を目的と
してのみ言及されており、本発明の範囲を限定することを何ら意図したものではない。実
施例は、用いられた数(例えば、量、温度等)に関連する正確さを保証するために実施さ
れたが、当然、実験誤差及び偏差は許容されるべきである。
【0064】
<実施例1>
≪担持された触媒の作成≫
触媒は、担体を金属塩溶液内に含浸させることにより作成された。触媒粒子の三つの異
なるグループが、合成され、CVDによりSWNTを成長させるために用いられた。約5
nm及び約9nmの平均直径を有する狭い分散の鉄触媒の二つのグループが、窒素雰囲気
下でグリコール溶液内の酢酸鉄の熱分解により得られた。反応時間及び酢酸鉄/グリコー
ル比が、ナノ粒子のサイズを調節するために変えられた。メタノール内のFeAcは、
Fe:Al=1:15のモル比で用いられた。窒素雰囲気下で、FeAcが、1
mM:20mMのモル比となるように、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル
に添加された。反応混合物が、磁気攪拌バーを用いて窒素雰囲気下で混合され、90分間
還流下で加熱された。続いて、反応混合物が、室温まで冷却され、Al(15mM
)が一度に添加された。反応溶液が、室温で15分間攪拌され、続いて、150℃で3時
間加熱された。反応物が、溶剤を除去するために混合物上にNを流す間に、90℃に冷
却された。黒い膜が、反応フラスコの壁に形成された。黒い膜は、微細な黒色粉末を得る
ために、収集され瑪瑙乳鉢を用いて粉砕された。
【0065】
触媒の第三のグループが、A. R. Hartyunyan, B. K. Pradhan, U. J. Kim, Chen, and
P. C. Eklund, NanoLetters 2, 525 (2002)に記載されているように、硫化鉄(II)及
びアルミナ担体粉末(モル比Fe:Al=1:15)を用いた、担体の細孔内の鉄
ナノ粒子のその場形成による一般的なウェット触媒方法によって生成された。
【0066】
<実施例2>
≪カーボンナノチューブの合成≫
カーボンナノチューブが、Harutyunyan et al., NanoLetters 2, 525 (2002)に記載さ
れた実験装置を用いることによって合成された。三つの異なる触媒を用いたSWNTのC
VD成長は、炭素源としてメタンを使用した(T=800℃、メタンガス流量60scc
m)。全てのケースにおいて、炭素SWNTが、それぞれ、9,5nmの直径を有する触
媒と鉄−硫酸分解により形成された触媒とに関し、〜4,7及び15重量%(鉄/アルミ
ナ触媒に対する炭素の重量%)の収率で成功裏に合成された。9nmの鉄ナノ粒子を用い
ることにより製造されたSWNTの多くの透過型電子顕微鏡(TEM)画像の分析は、〜
10−15nmの平均直径を有する束状構造を示し、5nmの鉄触媒のケースでは〜7−
10nmであった。鉄−硫酸分解触媒は、多くの個別のSWNTと同様の、〜5−10n
mの直径を有する束状構造を示した。全てのケースにおいて、0.8から2nmのSWN
T直径の分布が観察された。図2には、λ=785nmレーザ励起に関する炭素SWNT
のラマンスペクトルが示されている。図3には、このように製造された単層カーボンナノ
チューブのTEM画像が示されている。
【0067】
以上、本発明について、特に好ましい実施形態及び様々な代替案としての実施形態を参
照して説明したが、本発明の精神及び範囲を逸脱しない範囲で、形状及び細部において様
々な変更が可能であることが、当業者にとって理解されるであろう。本明細書内で言及さ
れた全ての発行された特許及び刊行物が、参照により本明細書に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層カーボンナノチューブ(SWNT)を生成するための化学気相成長方法であって、
担体上に担持された少なくとも一つの触媒を用意し、
前記担体上に担持された前記少なくとも一つの触媒の粒径を決定し、
前記決定した粒径に基づく温度で、不活性ガスを含む炭素前駆体ガスを前記触媒と接触 させて、
SWNTの直径の平均値の25%内の直径を有するSWNTを形成させる
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記炭素前駆体ガスは、メタンである
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記不活性ガスは、アルゴン、ヘリウム、窒素又はこれらの組み合わせである
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記触媒は、鉄、モリブデン又はこれらの組み合わせである
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記担体は、粉末状酸化物である
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記粉末状酸化物は、Al、SiO、MgO及びゼオライトからなるグループ
から選択される
ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記粉末状酸化物は、Alである
ことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記触媒と前記担体とは、1:1から1:50の比率である
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記比率は、1:5から1:25である
ことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記比率は、1:10から1:20である
ことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記温度は、前記触媒の前記金属−炭素相が炭素誘発液化によって液化する最低温度よりも5℃から150℃高い
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記温度は、前記触媒の前記金属−炭素相が炭素誘発液化によって液化する最低温度よりも10℃から100℃高い
ことを特徴とする請求項11に記載の方法
【請求項13】
前記温度は、前記触媒の前記金属−炭素相が炭素誘発液化によって液化する最低温度よりも50℃高い
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記温度は、前記触媒の前記金属−炭素相が炭素誘発液化によって液化する最低温度よりも80℃高い
ことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記触媒は、1nmから10nmの間の粒径を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記触媒は、約1nmの粒径を有する
ことを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記触媒は、約3nmの粒径を有する
ことを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記触媒は、約5nmの粒径を有する
ことを特徴とする請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【公開番号】特開2012−167011(P2012−167011A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−89370(P2012−89370)
【出願日】平成24年4月10日(2012.4.10)
【分割の表示】特願2007−532376(P2007−532376)の分割
【原出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(504325287)ザ オハイオ ステート ユニバーシティー リサーチ ファウンデーション (24)
【Fターム(参考)】