説明

化学物質およびデバイスを格納し、選択的に露出させるための微細加工されたデバイス

【課題】2次デバイスの露出を制御するためのマイクロチップデバイスを提供すること。
【解決手段】基板を含むマイクロチップデバイスが提供される。上記基板は、複数のリザーバを有する。上記複数のリザーバは、2次デバイス、反応性成分、またはこれらの組み合わせを含む。少なくとも1つのバリア層が各リザーバを被覆して、上記リザーバの外部にある1つ以上の環境成分から上記リザーバの内容物を保護する。上記バリア層は、選択的に分解させるかまたは浸透性にすることが可能であり、これにより、上記分離された内容物を上記1つ以上の環境成分に露出させる。上記2次デバイスは好適には、センサまたは感知コンポーネント(例えば、バイオセンサまたは光検出もしくは画像生成デバイス(例えば、光ファイバ))を含む。好適な反応性成分としては触媒および試薬があり、上記触媒および上記試薬は、上記リザーバ内部に固定化することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(関連出願の引用)
本発明は、2000年3月2日に出願された米国仮出願シリアル番号第60/186,545号に対する優先権を主張する。
【0002】
(発明の背景)
本発明は、微細なデバイスもしくはデバイスコンポーネントおよび/または化学物質を含むリザーバを有する小型化デバイスの分野に属する。ミクロアレイシステムは、数多くの化合物の分析(例えば、薬剤の活動の分析またはヌクレオチド分子配列のハイブリダイゼーションの分析)を行なうために開発されてきたものである。例えば、Beattieに付与された特許文献1に、結合反応を別個に検出するための「ゲノセンサ」を通過する微細加工されたフローについての開示がある。この装置には、ナノレベルで多孔質のガラスウェハがあり、このガラスウェハの傾斜付きウェル中において、核酸認識要素を固定化させる。Balchに付与された特許文献2に、サンプル基板内の分子構造の分析を、複数の試験部位が設けられたアレイと、その上に設けられるサンプル基板とを用いて行なう装置についての開示がある。これらの試験部位は、ミクロプレートアレイ(例えば、ミクロ滴定量プレート)内に設けられることが多い。しかし、これらの装置の場合、これらのウェルのうち1つ以上を密封する手段またはこれらのウェルのうち1つ以上を選択的に露出させる手段(例えば、必要なときにもしくはこれらのウェルが受動的かつ特定の条件まで露出されたときにこれらのウェルのうち1つ以上を選択的に露出させる手段)は全く得られない。
【0003】
Santiniらに付与された特許文献3および特許文献4に、リザーバから薬剤分子を放出させるマイクロチップデバイスについての記載があり、このリザーバには、能動的または受動的に分解するリザーバキャップがある。このようなデバイスを、感知用途や、特定の時点におけるミクロ単位の領域または体積中にある化学物質の反応を開始もしくは測定する用途に適合させると有利である。
【0004】
Kroyに付与された特許文献5に、基板の格納および取り扱い(例えば、基板の検査および試験)の際に用いられる閉鎖型キャビティが設けられた微細機械構造についての開示がある。しかし、同特許には、ミクロバルブを用いずに個々のキャビティの露出を選択的に制御することについて、あるいは個々の感知手段を分離させることについて開示がない。
【特許文献1】米国特許第5,843,767号明細書
【特許文献2】米国特許第6,083,763号明細書
【特許文献3】米国特許第5,797,898号明細書
【特許文献4】米国特許第6,123,861号明細書
【特許文献5】米国特許第5,252,294号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、ミクロ単位の領域または体積において特定の時点に化学物質の反応、分析または測定を開始および制御する際に用いられる小型化デバイスを提供することである。
【0006】
本発明の別の目的は、このような小型化デバイスを作製および使用する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
マイクロチップデバイスが提供される。上記マイクロチップデバイスは、化学物質と、上記マイクロチップデバイスよりもより小型の2次デバイスとを格納し、露出が必要なとき(例えば、化学反応を開始するときおよび/または分析機能もしくは感知機能を行なうとき)まで、上記化学物質および上記2次デバイスを環境露出から保護する。一実施形態において、上記マイクロチップデバイスは、1枚の基板を有する。上記基板は複数のリザーバを有し、上記複数のリザーバは、上記2次デバイスと、少なくとも1つのバリア層とを含む。上記少なくとも1つのバリア層は、上記2次デバイスと上記リザーバ外部にある1つ以上の環境成分とが分離されるように各リザーバを被覆する。上記バリア層は、選択的に分解または浸透させることが可能であり、これにより、上記2次デバイスを上記1つ以上の環境成分に露出させることが可能となる。上記2次デバイスは、センサまたは感知コンポーネント(例えば、バイオセンサまたは光検出デバイスまたは画像生成デバイス(例えば、光ファイバ)を含むと好ましい。一改変例において、上記マイクロチップデバイスは、反応性成分(例えば、触媒または試薬)を1つ以上リザーバ中にさらに含む。あるいは、上記センサまたは感知コンポーネントを上記リザーバ外部の上記基板に取り付けて、リザーバに反応性成分を含めてもよい。
【0008】
別の実施形態において、上記マイクロチップデバイスは、基板および少なくとも1つのバリア層を含む。上記基板は、反応性成分を含む複数のリザーバを有し、上記少なくとも1つのバリア層は、上記反応性成分と上記リザーバ外部の1つ以上の環境成分とを分離させるように各リザーバを被覆する。上記バリア層は、選択的に分解または浸透させることが可能であり、これにより、上記反応性成分を上記1つ以上の環境成分に露出させる。好適な改変例において、上記反応性成分は、上記環境成分に露出された後も上記リザーバ中に固定化されたままの状態である触媒または酵素である。いくつかの実施形態において、上記バリア層を破断させるくらいの圧力による力を生成する際に用いられる膨張可能材料および浸透圧生成材料をリザーバ中に取り入れてもよい。
【0009】
上記マイクロチップデバイスを用いて、露出のタイミングが来るまで、化学物質およびデバイスが周囲環境に露出されないように保護する。これは、上記リザーバ内の上記化学物質またはデバイスが環境の条件に対して感度が高い場合(例えば、上記環境に長時間露出されると故障するデバイスまたは汚染する材料の場合)に特に有用である。一実施形態において、所望の不均一の化学反応を開始する際に用いられる触媒が汚染し易い触媒である場合、この触媒をマイクロチップデバイスのリザーバ内部に密封して、上記触媒を上記周囲環境から保護する。上記反応を開始することが望まれる場合、上記リザーバ上のバリア層を除去するかまたは浸透性にする。上記周囲環境中での反応を発生させるための試薬は、(例えば、拡散によって)上記リザーバに流入し、上記触媒と接触し、上記触媒の表面において反応し、すると、その結果生成された生成物が上記リザーバから流出する。この不均一反応は、上記試薬が無くなるかまたは上記触媒が汚染するまで続く。このプロセスは、リザーバをさらに追加して開口させて触媒を新しく追加して露出させることにより、何回でも繰り返すことができる。
【0010】
別の実施形態において、上記マイクロチップデバイスは、各リザーバ内部に配置された1つ以上のセンサを含む。上記センサは、上記バリア層が除去されるかまたは浸透性になるまで上記環境から保護される。上記バリア層が除去されるかまたは浸透性になると、上記センサは、分子の存在および/もしくは分量または1つ以上のリザーバ近隣における条件を検出することができる。このようなセンサは、例えば、分子を他の化学物質放出デバイスから放出する工程または化学物質を同一のデバイス中のリザーバから放出する工程を制御およびモニタリングする際に用いることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(発明の詳細な説明)
反応性成分および2次デバイスを格納し、環境への露出が望ましくなるまでの一定期間の間これらを環境から保護するマイクロチップデバイスが提供される。これらのマイクロチップデバイスを用いると、これらの内容物の露出を選択的に行い、制御することが可能となる。これらのマイクロチップデバイスは複数のリザーバを含み、これらのリザーバの内容物は、リザーバ中の反応性成分もしくは2次デバイスまたはその一部をリザーバ外部の環境に露出させることが所望されるまで、全体的または部分的に分離される。これらのデバイスは、分子またはエネルギーが通過してリザーバに流出入する工程を制限、向上、または(他の場合に)制御するように設計されている。これらの機能は、マイクロチップデバイスの各リザーバの少なくとも1つの開口部を少なくとも1つのバリア層によって被覆することにより、達成される。
【0012】
本明細書中にて用いられる「マイクロチップ」という用語は、集積回路およびMEMS(マイクロ電子機械システム)の製造において通常用いられる方法(例えば、紫外線(UV)フォトリソグラフィー、反応性イオンエッチング、および電子ビーム蒸着)を用いて作製された小型化デバイスである。このような集積回路およびMEMSの製造において通常用いられる方法については、例えば、Wolf&Tauberによる「Silicon Processing for the VLSI Era」(第1巻―Process Technology(Lattice Press、Sunset Beach、CA、1986);およびJaegerによる「Introduction to Microelectronic Fabrication(第5巻)」(The Modular Series on Solid State Devices(Addison−Wesley、Reading、MA、1988));ならびにコンピュータマイクロチップ作製法において標準的ではないMEMS方法(例えば、Madouによる「Fundamentals of Microfabrication」(CRC Press、1997)に記載の方法)ならびに当該分野において公知の微細成形技術および微細機械加工技術に記載がある。このマイクロチップ製造手順により、デバイスの製造を1ミリメートル〜数センチメートルの範囲の初期寸法(primary dimension)(すなわち、正方形もしくは矩形である場合は側部の長さ、または円形の場合は直径)で行なうことが可能となる。典型的なデバイス厚さは500μmである。しかし、デバイス厚さは、デバイスの用途に応じておよそ10μm〜数ミリメートルまで変化し得る。さらなるシリコンウェハまたは他の基板材料を作製されたマイクロチップデバイスに結合または取り付けることにより、デバイス全体の厚さおよびリザーバ体積を増加させてもよい。一般的には、デバイス厚さを変更すると、各リザーバの体積に影響が出ることがあり、1つのマイクロチップに組み込むことが可能なリザーバの最大数にも影響が出ることがある。このデバイスをインビボ用途に用いる場合、デバイスの初期寸法は、皮下移植に適するよう3cm以下が必要となる場合が多いが、腹膜移植または頭蓋移植の場合、数センチメートル単位であってもよい。インビボ用途のデバイスは、侵襲性を最低限に抑えた手順を用いて嚥下または移植されるくらいの大きさのものが好ましい。小型のインビボデバイス(例えば、ミリメートルのオーダーのデバイス)の場合、カテーテルまたは他の注入手段を用いて移植することが可能である。身体の外部に配置され、インビボ用途の際にシステム内において用いられる(例えば、感知の後に生物学的流体のサンプルを抽出する際に用いられる)マイクロチップデバイスの場合、デバイスのサイズに対する要件はずっと緩くなる。インビトロ用途のデバイスの場合もデバイスのサイズに対する要件はずっと緩くなり、必要ならば、インビボデバイスに関する寸法範囲よりもずっと大きくしてもよい。
【0013】
(I.デバイスコンポーネントおよび材料)
各マイクロチップデバイスは、反応性成分または2次デバイスを含むリザーバを有する基板を含む。このデバイスにおいて、各リザーバの少なくとも1つの開口部は、周囲環境の1つ以上のコンポーネントからリザーバ中の内容物を保護するバリア層によって被覆される。これらの環境成分の例を挙げると、化学物質、水、生物学的流体、細胞、分子および1つ以上の形態のエネルギー(例えば、光または熱)がある。
【0014】
図1A〜図1Cは、マイクロチップデバイス10の様々な実施形態の横断面図を示す。このマイクロチップデバイス10は、基板12と、リザーバ14と、支持プレート16と、バリア層18とを含む。図1Cの実施形態において、この基板12は基板部分12aおよび12bから構成され、マイクロチップデバイスは、半浸透性バリア層20をさらに含む。支持プレートは、基板を貫通する穴からリザーバを形成するプロセスによって生成されたデバイスの実施形態のみにおいて用いられることが多い点に注意されたい。この支持プレートは実質的には、任意の不浸透性プレートであってもよいし、または、硬質材料もしくは密封機能を提供する可撓性材料の層であってもよい。
【0015】
マイクロチップデバイスは、受動型デバイスと能動型デバイスとに分類することができる。能動型デバイスでの場合、バリア層の浸透性は、任意のユーザによる介入が無くても変化し、能動型デバイスの場合、バリア層を浸透性にする作用がデバイス制御器によって開始される。能動型デバイスは、制御回路、メモリおよび電源を含んでもよいし、無線通信またはリモート通信、制御、およびデータおよび電力伝達を用いて動作させてもよい。
【0016】
(A.基板)
基板はリザーバを含み、マイクロチップの支持体として機能する。任意の材料をマイクロチップの支持体として用いることが可能であるが、基板として用いることが可能な材料の条件としては、エッチングもしくは機械加工に適したもの、または鋳造法もしくは型成型が可能なもの、およびリザーバおよび周囲環境の内容物(例えば、水、血液、電解液、他の溶液、または空気)に対して不浸透性のものである。適切な基板材料の例を挙げると、セラミックス、ガラス、特定の金属、半導体、ならびに分解性ポリマーおよび非分解性ポリマーがある。生体適合性の基板材料が好適であるが、これは必須条件ではない。インビボ用途の場合、生体適合性材料(例えば、ポリ(エチレングリコール)またはポリテトラフルオロエチレン様材料)中に非生体適合性の材料を(両者が使用前の状態のときに)密封してもよい。強力で非分解性でありかつエッチングが容易な基板でありなおかつリザーバ中に含まれる分子もしくは2次デバイスおよび周囲流体に対して不浸透性である材料の例を数例挙げると、シリコン、ガラス、およびチタンがある。別の実施形態において、基板は、一定期間にわたって生体適合性成分中に分解または溶解する強力な材料から構成される。この実施形態は、デバイス移植が行なわれる場合であって当該デバイスを後で物理的に除去することが実行不可能であるかまたは困難である場合(例えば、脳移植の場合)のインビボ用途に好適である。あるクラスの強力な生体適合性材料の一例を挙げると、ポリ(無水物−コ−イミド)がある。このポリ(無水物−コ−イミド)については、Uhrichらによる「Synthesis and characterization of degradable poly(anhydride−co−imides)」(Macromolecules、28:2184−93(1995))に記載がある。
【0017】
基板は、1種類の材料のみで形成してもよいし、あるいは複合材料もしくは多層材料であってもよい(例えば、2つ以上の基板部分を相互結合させてもよい)(後述する図12A〜12Cを参照)。複数の部分からなる基板を同一または異なる材料(例えば、シリコン、ガラス、セラミックス、半導体、金属およびポリマー)で形成してもよい。2つ以上の完成状態のマイクロチップデバイスを相互結合させて、複数の部分からなる基板デバイスを形成してもよい(図12Dを参照)。
【0018】
(B.2次デバイスおよび反応性成分)
リザーバは、2次デバイス、反応性成分、またはこれらの組み合わせを含む。2次デバイス、反応性成分、またはこれらの組み合わせは、その露出が所望されるときまで周囲の環境成分から保護する必要がある。
【0019】
(2次デバイス)
本明細書中にて用いられる「2次デバイス」という用語は、他に明記無き限り、マイクロチップデバイス中の1つ以上のリザーバと動作可能な状態で通信するように配置または設計することが可能な任意のデバイスおよびそのコンポーネントを指す(ただし、これらに限定されない)。好適な実施形態において、2次デバイスは、センサまたは感知コンポーネントである。本明細書中用いられる「感知コンポーネント」という用語は、ある部位における化学物質またはイオン種の存在、不在または変化、エネルギーまたは1つ以上の物理的特性(例えば、pH、圧力)の測定または分析の際に用いられるコンポーネント(ただし、これらに限定されない)を指す。
【0020】
2次デバイスは、各リザーバ内において一体化されてもよいし、あるいはリザーバに近接した様態で配置されもよい。2次デバイスは、完成状態のデバイスもしくはシステムを含んでもよいし、あるいは、より大型のまたはより複雑なデバイスからなる1つのコンポーネントであってもよい。一実施形態において、リザーバ中にあるセンサは、リザーバのバリア層の浸透性が変化するまでは周囲環境から分離された状態にある。センサ使用が所望されるようになると、バリア層は除去されるかまたは浸透性となる。周囲環境中に存在する検出対象分子はリザーバ中に拡散し、センサと相互作用する。別の実施形態において、光学信号の検出または画像の取得が所望されるまで、光検出デバイスまたは画像生成デバイス(例えば、光学セル、CCDチップなど)を密封されたリザーバ中に配置しておく。バリアを除去または浸透性にして、リザーバ中の光学デバイスに光エネルギーが通過するようにする。
【0021】
マイクロチップデバイスは、化学物質およびデバイスの任意の組み合わせを格納および露出させることもできる。例えば、各リザーバは、異なる化学物質または分子を放出対象物として格納することができる。一実施形態において、デバイスを複数の化学物質放出リザーバの外側でかつ近接した位置に配置して、特定のリザーバから化学物質が放出されるタイミングをモニタリングしてもよい。別の実施形態において、リザーバ中に含まれる化学物質は酵素触媒、グルコース酸化酵素であり、これは、いくつかのグルコース感知デバイスにおいて用いられる。機能が全く異なる複数のデバイスを有するマイクロチップデバイスが各リザーバの内部または近隣に配置されてもよいことが理解される。例えば、一実施形態において、3種類の分子の検出および定量化を行なう3つのセンサが1つのリザーバ内に配置されてもよいし、3種類の異なる分子を検出する全く異なる3つのセンサが近隣のリザーバに配置されてもよい。あるいは、単一のデバイスが3つのコンポーネントから構成され、これらの3つのコンポーネントがそれぞれ異なるリザーバに配置されてもよい。この技術により、マイクロチップは、各化学物質、デバイスまたはデバイスコンポーネントをリザーバ外部の環境に選択的に露出させる能力と、各リザーバと関連付けられた化学物質およびデバイスの数および種類を変化させる能力とを有する。
【0022】
好適な実施形態において、2次デバイスはセンサである。リザーバ内部またはリザーバ近隣に設けることが可能なセンサの種類を挙げると、バイオセンサ、化学物質センサ、物理的センサまたは光学センサがある。好適なセンサは、特性(例えば、生物活性、化学活性、pH、温度、圧力、光学特性、放射能、および導電率)を測定する。これらのセンサは、センサ(例えば、「既製の」センサ)と別個であってもよいし、基板と一体化させてもよい。バイオセンサは、認識要素(例えば、酵素または抗体)を含むことが多い。分析物と認識要素との間の相互作用を電子信号に変換するために用いられるトランスデューサは、例えば、電気化学性、光学性、圧電性、または熱性であり得る。微細加工方法を用いて構築されたバイオセンサの代表例については、Cozzetteらに付与された米国特許第5,200,051号、米国特許第5,466,575号、米国特許第5,837,446号および米国特許第5,466,575号に記載がある。
【0023】
マイクロチップデバイス内に配置されたデバイスを用いて得られたデータの受信法および分析法には複数の異なるオプションがある。第1に、デバイスからの出力信号を記録して、書き込み可能なコンピュータメモリチップに格納することが可能である。第2に、デバイスからの出力信号をマイクロプロセッサに方向付けて、すぐに分析および処理させることもできる。第3に、マイクロチップから離れた遠隔位置に信号を送ることも可能である。例えば、マイクロチップを無線送信器と一体化させて、マイクロチップからの信号(例えば、データ)をコンピュータまたは他の遠隔地にある受信器ソースに送信することが可能である。同じ伝達機構を用いてマイクロチップを制御してもよい。マイクロチップへの電力供給は、小型バッテリによってローカルに行ってもよいし、あるいは無線伝達によってリモートに行なってもよい。
【0024】
(反応性成分)
本明細書中用いられる「反応性成分」という用語は、他に明記なき限り、任意の化学物質種を含む。このような任意の化学物質種は、反応(試薬を含む。ただし、これに限定されない);触媒(例えば、酵素、金属およびゼオライト);タンパク質;核酸;ポリサッカリド;ポリマー;細胞、ならびに有機分子または無機分子(例えば、診断剤)において用いることが可能である。
【0025】
リザーバ内に含まれる反応性成分は、任意の形態(例えば、固体、液体、ゲルまたは蒸気)で存在してもよい。リザーバ内に含まれる反応性成分は、リザーバ中において純粋な形態で存在してもよいし、あるいは他の材料との混合物として存在してもよい。例えば、化学物質の形態は、固体混合物(例えば、非結晶質の混合粉および結晶質の混合粉、多孔性のモノリシック固体混合物または非多孔性のモノリシック固体混合物、および固体状の相互に浸透する網状組織;液体混合物または溶液(例えば、乳濁液、コロイド懸濁液およびスラリー);ならびにゲル混合物(例えば、ヒドロゲル)であってもよい。リザーバからバリア層が除去された後のリザーバ内部の化学物質は、リザーバ中にとどまらせてもよいし、あるいはリザーバから放出してもよい。
【0026】
リザーバ中に化学物質を留まらせる1つの実施形態において、当該化学物質は、不均一反応を得るために用いられるゼオライトである。バリア層が除去されると、リザーバ中に拡散している試薬が、リザーバ中に留まっているゼオライト触媒の表面において反応する。化学物質をリザーバから放出させる1つの実施形態において、(例えば、分析化学または医学的診断の分野において)特定の配列中の少量(ミリグラム〜ナノグラム)の1つ以上の分子の放出を制御することが所望される場合、リザーバ中に初期から含まれている分子をリザーバからインビトロで放出させる。化学物質をこのような様式で放出させると、複雑な反応(例えば、ポリメラーゼの鎖反応または他の核酸増幅手順)におけるpH緩衝剤、診断剤および試薬として効果的であり得る。
【0027】
(D.バリア層)
マイクロチップデバイスの各リザーバの少なくとも1つの開口部は、バリア層によって被覆される。このバリア層は、リザーバの内容物を周囲環境または周囲環境の一部から孤立化(すなわち分離)させる。バリア層は、分子またはエネルギー(例えば、光または電界)に対して不浸透性、浸透性、または半浸透性であり得る。バリア層の分子またはエネルギーに対する浸透性は、能動型に制御してもよいし、あるいはバリア層の構造、組成または製造方法に応じて受動的に制御してもよい。このような能動型制御は、例えば刺激(例えば、電界もしくは電流、磁界、pH変化)または熱、光化学物質、化学物質、電気化学物質、または機械的手段)を与えることによってバリア層の全体または一部を選択的かつリアルタイムに除去することにより、得られる。例えば、デバイスの各リザーバ中に分子またはエネルギーが流入するのを、(例えば、固体キャップ材料、ナノレベルの多孔質材料、または微細多孔性材料を通じた)拡散、浸透圧、イオン勾配、電界もしくは電流、毛管現象力または表面張力によって制御することが可能である。
【0028】
このバリア層は多層であってもよく、膜、リザーバキャップ、プラグ、肉厚または薄膜を有する固体膜または半固体膜、2相界面(すなわち、固体−液体、液体−液体、または液体−ガス)、またはリザーバの内容物をリザーバ外部の環境から分離させる用途に適した他の任意の物理的構造または化学物質構造を含んでもよい。バリア層の構造は、リザーバ開口部上で自立した構造をとることが多い。バリア層を選択的に除去または浸透性にすると、リザーバ周囲の環境(または当該環境の選択されたコンポーネント)にリザーバの内容物が「露出」する。
【0029】
好適な実施形態において、バリア層を選択的に分解または浸透させることができる。本明細書中用いられる「分解」という用語は、以下に挙げる複数の機構のうち特定の1つが明記されない限り、分解、溶解、破断、破砕、またはいくつかの他の形態の機械的故障、ならびに温度変化に応答して発生する化学反応または相変化による構造的完全性の損失(例えば、融解)を含むものとして制限無く広義に用いられる。本明細書中用いられる「浸透」という用語は、1つ以上の種の分子または1つ以上の形態のエネルギーがいずれかの方向に進行してバリア層を通過することを可能にするレベルにまでバリア層を多孔性または浸透性にさせることのできる任意の手段を制限無く含むものとする。バリア層に針を穿刺してリザーバに到達させることによってバリア層を穿刺するような手法は、バリア層を浸透または分解させるのに好適な手段ではないことが多い。
【0030】
受動型デバイスの場合、バリア層は、経時的に劣化、溶解もしくは分解するかまたは劣化、溶解もしくは分解しない材料または材料混合物でありかつ分子もしくはエネルギーに対して浸透性であるかまたは浸透性になる材料または材料混合物から形成される。受動型マイクロチップ用のバリア層材料としてはポリマー材料が好適であるが、バリア層を非ポリマー材料(例えば、多孔性形状の金属、半導体およびセラミックス)で構成してもよい。受動型の半導体バリア層の材料の代表例を挙げると、ナノレベルのまたはマイクロレベルの多孔性シリコン膜がある。バリア層用の材料は、様々な浸透速度または劣化速度、溶解速度または分解速度が得られるように選択することが可能である。ポリマーを伴う実施形態を用いた遅延時間(すなわち、バリア層が浸透性になりリザーバ内容物が「露出」するまでに必要な時間)を変化させるためには、バリア層を異なるポリマーで形成してもよいし、同一のポリマーを異なる厚さ、異なる架橋レベルまたは異なる紫外線(UV)光による重合が可能なポリマーを組み合わせても良い。後者の場合、ポリマーのUV光への露出レベルを変化させると架橋レベルも変化し、バリア層には、異なる拡散特性(すなわち、浸透性)または劣化速度、溶解速度、もしくは分解速度が与えられる。バリア層を浸透性にするタイミングを制御する別の方法として、1種類のポリマーを用いてそのポリマーの厚さを変化させることによって制御を得る方法がある。特定のポリマー膜を肉厚にすると、バリア層が浸透性となるタイミングが遅延する。ポリマー、架橋レベルまたはポリマー厚さの任意の組み合わせを改変して、特定の遅延時間を得ることが可能である。一実施形態において、対象分子に対してほぼ不浸透性である分解性バリア層によってリザーバを被覆する。リザーバ内容物の露出の開始所要時間は、バリア層材料の分解所要時間によって限定される。別の実施形態において、バリア層は非分解性であり、環境中の特定の分子または特定の種類のエネルギー(例えば、光)に対して浸透性である。使用材料の物理的特性、架橋レベル、多孔度および肉厚により、分子またはエネルギーのバリア層中での拡散所要時間またはバリア層の通過所要時間が決定する。
【0031】
能動型デバイスの場合、バリア層は、与えられた刺激(例えば、電界もしくは電流、磁界、pH変化、もしくは熱、化学物質、電気化学物質または機械的手段)に応答して分解または浸透することが可能な任意の材料を含んでもよい。好適な実施形態において、バリア層は薄膜を有する金属(例えば、金)の膜であり、周囲環境(例えば、体液または別の塩化物含有溶液)に対して不浸透性である。金属および周囲環境の種類に基づいて、特定の電位(例えば、+1.04ボルト対飽和カロメル基準電極)を金属バリア層に印加する。この金属バリア層は、電気化学反応によって酸化および溶解して、その結果、リザーバ内容物が周囲環境に「露出」する。加えて、電位に応答して不溶性イオンまたは酸化生成物を形成することの多い材料を用いることも可能であるが、その場合、例えば、これらの酸化生成物は、アノード近隣の局所的pH変化によって溶性にならなければならない。適切なバリア層材料を挙げると、金属(例えば、銅、金、銀および亜鉛)ならびに特定のポリマー(例えば、Kwonらによる文献(Nature、354:291−93(1991)およびBaeらによる「ACS Symposium Series」(545:98−110(1994)に記載のポリマー)がある。別の実施形態において、バリア層は、融点が室温よりもわずかに高いポリマーである。ポリマーバリア層の近隣における局所温度がバリア層近隣に配置された薄膜抵抗器によってポリマーの融点を超えるレベルまで上昇した場合、そのバリア層は融解し、リザーバの内容物は周囲環境に露出する。
【0032】
受動型バリア層または能動型バリア層の任意の組み合わせを単一のマイクロチップデバイスに設けることが可能である。受動型バリア層および能動型バリア層を組み合わせて、多層バリア層または複合材料バリア層にしてもよい。1つのこのような実施形態において、不浸透性の能動型バリア層を浸透性の受動型バリア層上に配置してもよい。リザーバ内容物を周囲環境に露出させることが所望される場合、刺激(例えば、電流)を与えることにより、不浸透性の能動型バリア層を除去する。能動型バリア層を除去した後、受動型層はまだリザーバ上に残っている。受動型バリア層は、周囲環境中の分子に対して浸透性である。しかし、分子が受動型バリア層を通過する速度は、受動型バリア層、その厚さならびにその他の物理的特性および化学物質特性に合わせてデバイス製造工程の間に用いられる材料の選択内容によってあらかじめ決まっている。
【0033】
(E.デバイスのパッケージング、制御回路および電源)
能動型デバイスは、作動を必要とし、作動は、マイクロプロセッサの制御下において行なわれることが多い。マイクロプロセッサは、(様々な条件(例えば、特定の時期、別のデバイスからの(例えばリモート制御法もしくは無線法による)信号の受信、またはセンサ(例えば、バイオセンサ)を用いた特定の条件の検出)に応答して)バリア層の分解または浸透を開始させるようにプログラムされている。
【0034】
微細電子デバイスのパッケージは、絶縁性材料または誘電性材料(例えば、酸化アルミニウムまたはシリコン窒化物)から構成されることが多い。低コストのパッケージをプラスチックで構成してもよい。微細電子デバイスのパッケージの目的は、デバイスの全コンポーネントを近密に配置し、コンポーネントと電源との相互接続およびコンポーネント相互間の相互接続を容易化させることである。インビボ用途のマイクロチップデバイスの場合、全コンポーネント(すなわち、デバイス、マイクロプロセッサおよび電源)を含むパッケージ全体を、生体適合性材料(例えば、ポリ(エチレングリコール)またはポリテトラフルオロエチレン様材料)でコーティングするかまたはこのような材料中に収容する。インビトロ用途の場合の材料要件は、上記の条件よりも緩い条件であることが多く、特定の状況によって異なる。
【0035】
制御回路は、マイクロプロセッサと、タイマと、デマルチプレクサと、入力ソース(例えば、メモリソース、信号受信器またはバイオセンサ)とからなる。所望のバリア作動モード(例えば、融解可能なバリア層に対する薄膜抵抗器)に応じて、さらなるコンポーネントをシステムに追加してもよい。タイマおよびデマルチプレクサ回路は、電極製造工程の間にマイクロチップの表面上に直接載置されるように設計され、組み込まれる。マイクロプロセッサの選択基準は、サイズが小さく、電力要求が低く、かつ、メモリソース、信号受信器またはバイオセンサからの出力をあるアドレスに変換する能力のあるものである。このアドレスは、デマルチプレクサを通じてマイクロチップデバイス上の特定のリザーバに到達する電力の方向に関するものである(例えば、Jiらによる「IEEE J.Solid−State Circuits」(27:433−43(1992))を参照されたい)。マイクロプロセッサに対するソース(例えば、メモリソース、信号受信器またはバイオセンサ)の選択内容は、マイクロチップデバイスの特定の用途と、デバイス動作があらかじめプログラムされているか否かと、デバイス動作がリモート手段またはデバイスの環境からのフィードバックによって制御されるか否か(すなわち、バイオフィードバックがあるか否か)とによって異なる。
【0036】
電源の選択基準は、サイズが小さく、電力能力が十分であり、制御回路との集積化が可能であり、再充電可能であり、かつ再充電の前に特定の時間が必要であることである。バッテリは別個に製造してもよい(すなわち、既製のものを用いてもよい)し、あるいはマイクロチップそのものと集積化してもよい。いくつかのリチウムベースの微細蓄電池について、Jones&Akridgeによる「Development and performance of a rechargeable thin−film solid−state microbattery」(J.Power Sources、54:63−67(1995))と、Batesらによる「New amorphous thin−film lithium electrolyte and rechargeable microbattery」(IEEE 35th International Power Sources Symposium、pp.337〜39(1992))とに記載がある。これらのバッテリは、厚さがわずか10ミクロンしかなく、1cmの領域を占有することが多い。これらのバッテリのうちの1つ以上をマイクロチップデバイス上に直接設けることが可能である。Binyaminらによる「J:Electrochem.Soc.」(147:2780−83(2000))に、生物燃料セルの開発の研究についての記載がある。同文献による生物燃料セルが開発されれば、本明細書中に記載のマイクロチップデバイスならびに他の微細電子デバイスのインビボ用途での動作に適した低電力電源が得られる。
【0037】
(II.マイクロチップデバイスの作製方法)
(A.リザーバを有する基板の製造)
デバイスは、当該分野において公知の方法(例えば、Wolfら(1986)、Jaeger(1988)およびMadouによる「Fundamentals of Microfabrication」(CRC Press 1997)によって調査された方法)を用いて作成される。マイクロチップデバイスは、以下に説明する方法を単独で用いてまたはSantiniらに付与された米国特許第5,797,898号および米国特許第6,123,861号に記載の方法と組み合わせて用いて作製することが可能である。
【0038】
好適なマイクロチップ製造方法において、製造工程は、基板上の材料(典型的には絶縁性材料または誘電性材料)を堆積させ、フォトリソグラフィーを用いてパターニングを施して、リザーバがエッチングされる間のエッチング用マスクとして機能させる工程から開始する。マスクとして用いられることの多い絶縁性材料を挙げると、シリコン窒化物、二酸化シリコンおよび特定のポリマー(例えば、ポリイミド)がある。好適な実施形態において、薄膜(およそ1000〜3000Å)の低応力のシリコンを豊富に含む窒化物を、垂直チューブ反応器(Vertical Tube Reactor)(VTR)中のシリコンウェハの両側に堆積させる。あるいは、化学量論通りの多結晶質のシリコン窒化物(Si)を低圧の化学蒸着法(LPCVD)によって堆積させてもよいし、または、非結晶質のシリコン窒化物をプラズマ促進化学蒸着法(PECVD)によって堆積させてもよい。リザーバは、ウェハの片面上のシリコン窒化物膜中にパターニングされる。このパターニング工程は、紫外線フォトリソグラフィーと、プラズマエッチングまたは(高温のリン酸または緩衝液と混合されたフッ化水素酸からなる)化学的エッチングのいずれかとによって行なわれる。パターニングされたシリコン窒化物は、(75〜90℃の温度においておよそ20〜40%重量KOHの)濃度の水酸化カリウム溶液により、露出したシリコンに化学的エッチングを行なうためのエッチング用マスクとして機能する。あるいは、ドライエッチング技術(例えば、反応性イオンエッチング、デープトレンチエッチングまたはイオンビームエッチング)を用いて、リザーバを基板中にエッチングしてもよい。これらの微細加工技術を用いると、何百から何千単位のリザーバを単一のマイクロチップ上に設けることが可能となる。各リザーバ間の間隔は、当該リザーバの特定の用途と、当該デバイスが受動型デバイスであるのかそれとも能動型デバイスであるのかとに依存する。リザーバ形状および使用される密封方法に応じて、受動型デバイスまたは能動型デバイスのリザーバ間の間隔を数ミクロンにまで小さくすることが可能である。リザーバはほぼ任意の形状および深さに作製することが可能であり、基板を完全に貫通しなくてもよい。好適な実施形態において、リザーバ100を配向のついたシリコン基板中に水酸化カリウムによってエッチングして、方形角錐(square pyramid)の形状にする。この方形角錐は、54.7°の傾斜が付いた側壁を持ち、基板(厚さはおよそ300〜600μm)を完全に貫通して基板の反対側にあるシリコン窒化物膜まで到達し、シリコン窒化物の膜を形成する。(ここで、シリコン窒化物膜は、水酸化カリウムのエッチングを停止させる機能をする)。このような角錐状の形状により、基板のパターニング側上のリザーバの大きな開口部(厚さ300μmのウェハの場合におよそ500μm×500μm)を通じてリザーバ中に化学物質またはデバイスを容易に入れ、リザーバの小さな基板の反対側上の開口部(およそ50μm×50、μm)を通じて露出させ、反応性成分および2次デバイスを格納する大きなキャビティをデバイス内部に設けることが可能となる。
【0039】
2つ以上の個々の基板部分を作製し、その後これらの基板部分を相互結合させてリザーバ部分の開口部を整合した様態で設けるだけで、複数の部分からなる基板デバイスを形成することが可能である。基板部分間に形成することが可能な結合方法は主に2種類ある。第1の結合方法は、原子スケールまたは分子スケールでの結合を用いたものである。このような種類の結合方法では、基板材料間の界面にある基板の1つまたは双方の原子または分子の完全浸透、相互混合または相互拡散が用いられる場合が多い。主にシリコン基板またはガラス基板と共に用いられるこの種の基板結合の好適な方法では、熱および/または電圧を用いて2つの基板間の材料を相互拡散させ、これにより分子スケールの結合を発生させて、シリコン、ガラス、および他の類似の材料の間の界面に結合を形成させる。この陽極結合プロセスは当業者にとって周知である。この種の結合法の別の実施形態では、1枚の基板または双方の基板の最上位層を融解および再固体化させる。融解した材料は相互に混合し、この材料が固体化すると、2枚の基板の間に強力な結合が形成される。一実施形態において、この種類の融解および再固体化は、溶媒(例えば、塩化メチレン)を基板(例えば、ポリ(メチルメタクリル酸塩)またはPLEXIGLASTM)に短時間塗布することによって行うことができる。第2の種類の結合方法では、結合部分を形成するのに基板材料以外の材料を用いる。この種の結合の好適な実施形態では、化学接着剤、エポキシ樹脂およびセメントが用いられる。UV透過性の基板材料に用いることが可能な実施形態では、UV硬化性エポキシが用いられる。方法(例えば、スピンコート)を用いてこのUV硬化性エポキシを2つの基板部分間に塗布して延ばし、リザーバを整合させ、UV光源を用いてこのエポキシを架橋または硬化させ、これらの基板を互いに結合させる。
【0040】
あるいは、シリコンオンインシュレータ(SOI)技術を用いてリザーバを形成してもよい。SOI技術については、例えば、Renard,J.による「Micromech.Microeng.」(10:245−49(2000))に記載がある。SOI法は、複雑なリザーバ形状(例えば、図12A〜12Cに示すようなリザーバ形状)を有するリザーバを形成できるように適合可能であるため、有用である。SOIウェハは実質的には、原子スケールまたは分子スケールで結合された2枚の基板として動き、その後、任意のリザーバがいずれかの基板内にエッチングされる。SOI基板を用いると、絶縁体層のいずれかの側の上にあるリザーバを個別にかつ容易にエッチングすることが可能となるため、絶縁体層のいずれかの側の上のリザーバに異なる形状を持たせることが可能となる。その後、絶縁体層のいずれかの側の上のリザーバを接続して単一のリザーバにし、反応性イオンエッチング、レーザ、超音波またはウェット化学エッチングなどの方法を用いて2つのリザーバ間にある絶縁体層を除去することにより、この単一のリザーバに複雑なジオメトリを持たせる。
【0041】
他の方法において、ポリマー、セラミックまたは金属から基板を形成する。基板形成は、例えば、圧縮型成型粉もしくはポリマー、セラミック、金属のスラリー、またはこれらの組み合わせを用いて行なう。上記のような材料と用いると有用な他の形成方法を挙げると、注入成型、熱成形、鋳造法、機械加工および当業者に公知の他の方法がある。これらの方法を用いて形成された基板を形成(例えば、型成型)して、(例えば、エッチングによる)後続工程においてこれらの基板にリザーバ(単数または複数)を追加することができる。
【0042】
(B.受動型バリア層の製造)
受動型マイクロチップデバイスの製造において、マイクロ注射器を用いてバリア層材料を注入して、インクジェットプリンタカートリッジによってプリントを行なうか、または、リザーバの小開口部上に存在する絶縁性マスク材料製の薄膜を有するリザーバ中にバリア層材料をスピンコートする。インジェクションプリント法またはインクジェットプリント法を用いた場合、材料をリザーバ中に注入またはプリントした後はバリア層は完全に形成されるため、それ以上の処理は不要である。スピンコートを用いた場合、バリア層材料に複数回のスピンコートを行なってバリア層材料を平面化させる。その後、プラズマ、イオンビームまたは化学エッチャントにより膜表面にエッチングを行なって所望のバリア層厚さを得る。バリア層材料を堆積させた後(すなわち、おそらくはリザーバを充填した後)、絶縁性マスク材料を(典型的にはドライエッチング技術またはウェットエッチング技術によって)除去する。好適な実施形態において、使用される絶縁性材料はシリコン窒化物であり、バリア層材料は、バリア層材料の溶液または懸濁液が充填されたインクジェットカートリッジを用いてリザーバ中にプリントされる。
【0043】
バリア層は、2次デバイスおよび/または反応性成分を周囲の環境成分に露出するタイミングまたはリザーバから放出するタイミングを制御する。各バリア層に異なる厚さまたは異なる物理的特性を持たせることで、リザーバ内容物を周囲流体に露出するタイミングを変更することが可能である。好適なリザーバの充填方法としては、注入、インクジェットプリントおよびスピンコートがあり、これらの方法のうち任意の方法を用いて(当該リザーバの形状またはサイズに関係なく)リザーバを充填することが可能である。しかし、開口部が大きな(すなわち、開口部が100μmよりも大きい)リザーバ(単数または複数)を深く(すなわち、10μmよりも深い深さまで)充填する場合、充填方法としては注入およびインクジェットプリントが好適である。例えば、注入またはインクジェットプリントを用いて異なるバリア層厚さを得る場合、異なる量のバリア層材料を各個々のリザーバに直接注入またはプリントする。リザーバを浅く(すなわち、10μm未満の浅い深さまで)充填する場合、リザーバが基板を貫通しない場合、またはリザーバの開口部が小さい場合(すなわち、開口部が100μm未満の場合)、好適な方法はスピンコートである。スピンコートを用いてバリア層厚さまたは材料を変更するには、段階的なスピンコート処理工程と、選択されたリザーバをマスキングする工程と、エッチングを行なう工程とを繰り返すことによって変更することが可能である。例えば、スピンコートを用いてバリア層厚さを変化させるには、基板全体上にバリア層材料をスピンコートする。必要ならば、材料がほぼ平面化するまでスピンコートを繰り返す。フォトレジストなどのマスク材料をパターニングして、1つのリザーバを除いた全てのリザーバ中のバリア層材料を被覆する。プラズマ、イオンビームまたは化学エッチャントを用いて、露出したリザーバ中のバリア層材料をエッチングして、所望の厚さのバリア層を得る。その後、フォトレジストを基板から除去する。新規のフォトレジスト層が堆積され、1つのリザーバを除いた全てのリザーバ中のバリア層材料(これは、露出したリザーバは、既に所望の厚さまでエッチングされたリザーバとは異なるためである)を被覆するようにパターニングされるたびに、このプロセスを繰り返す。このリザーバ中の露出したバリア層材料にエッチングを行なう工程を、所望のバリア層厚さが得られるまで行なう。マスク材料(例えば、フォトレジスト、エッチング)の堆積およびパターニングならびにマスク除去を行なうこのプロセスは、各リザーバが固有のバリア層厚さになるまで繰り返すことができる。UVフォトリソグラフィーおよびプラズマエッチングまたはイオンビームエッチングなどの技術は、微細加工の分野の当業者にとって周知である。
【0044】
インジェクションプリント、インクジェットプリントおよびスピンコートは好適なバリア層製造方法であるが、毛管作用、真空もしくは他の圧力勾配を用いたリザーバ中からの材料の引き出しまたリザーバ中への材料の押し込み、融解材料のリザーバへの流し込み、遠心分離および関連するプロセス、手作業によるリザーバ中への固体の封入、またはこれらのもしくは類似のリザーバ充填技術の任意の組み合わせにより、各リザーバを個々に封止めしてもよいことが理解される。
【0045】
(C.能動型バリア層の製造)
能動型デバイスにおいて、バリア層は、各リザーバの上部、内部または表面上に配置される。能動型バリア層は、刺激(例えば、電界もしくは電流、磁界、pH変化、または熱的手段、光化学的な手段、化学的な手段、電気化学的な手段または機械的手段)に応答して除去(例えば、分解)が可能であるかまたは浸透性となることが可能な任意の材料からなる。能動型バリア層の材料の例を挙げると、金属(例えば、銅、金、銀、および亜鉛)ならびに特定のポリマー(例えば、KwonらによるNature、354:291−93(1991)に記載のもの;およびBaeらによるACS Symposium Series、545:98−110(1994)に記載のもの)がある。バリア層および任意の関連回路の堆積、パターニングおよびエッチングを、当業者に周知のマイクロ電子工学およびMEMS加工方法(例えば、Wolfら(1986)、Jaeger(1988)およびMadouによる「Fundamentals of Microfabrication」(CRC Press、1997)において調査された方法)を用いて行なう。さらに、微細接触プリント法およびソフトリソグラフィー法(例えば、、YanらによるJ.Amer.Chem.Soc.(120:6179〜80(1998));XiaらによるAdv.Mater.(8(12):1015〜17(1996));GormanらによるChem.Mater(7:52−59(1995));XiaらによるAnne.Rev.Mater.Sci.(28:153〜84(1998));およびXiaらによるAngew.Chem.Int.Ed.(37:550〜75(1998))に記載の方法)を用いて、能動型バリア層および関連する回路をマイクロチップデバイス表面上に形成することも可能である。
【0046】
好適な実施形態において、バリア層の規定をリフトオフ技術を用いて行なう。リフトオフ技術とは、簡単にいうと、絶縁性材料または誘電性材料の薄膜で被覆されたリザーバを有する基板表面上に、フォトレジストを複数の電極形状にパターニングするものである。フォトレジストを現像して、被覆されているリザーバ開口部の直接上にある領域をフォトレジストによって露出させ、アノード形状にする。堆積技術(例えば、化学蒸着法、電子ビーム蒸着またはイオンビーム蒸着、スパッタリング、スピンコートおよび当該分野において公知の他の技術)を用いて、(電位を受け取ると溶液中に溶解するかまたは溶性イオンもしくは酸化化合物を形成することが可能な)導電性材料からなる薄膜を基板表面全体上に堆積させる。このような材料の例を挙げると、金属(例えば、銅、金、銀および亜鉛)ならびに特定のポリマー(例えば、Kwonら(1991)およびBaeら(1994)によって開示されているようなポリマー)がある。膜を堆積させた後、基板からフォトレジストを剥離する。その結果、フォトレジストで被覆されていない領域を除いて堆積部分の膜が除去され、よって基板表面上に電極の形態をした導電性材料が残る。別の方法では、デバイス表面全体上に導電性材料を堆積させ、導電性膜上面にフォトレジストを(紫外線(UV)フォトリソグラフィーまたは赤外線(IR)フォトリソグラフィーを用いて)パターニングし、これにより、リザーバ上にアノード形状のフォトレジストを残し、マスキングされていない導電性材料を(プラズマ技術、イオンビーム技術または化学エッチング技術を用いて)エッチングする。その後、フォトレジストを剥離して、リザーバを被覆する導電性膜アノードを残す。導電性材料の典型的な膜厚は、0.05ミクロン〜数ミクロンであればよい。このアノードは能動型バリア層として機能し、デバイス上のカソードの配置は、デバイスの用途および電位制御方法に依存する。
【0047】
電極を堆積した後、方法(例えば、化学蒸着法(CVD)、電子ビーム蒸着もしくはイオンビーム蒸着、スパッタリング、またはスピンコート)により、絶縁性材料または誘電性材料(例えば、シリコン酸化物(SiO)またはシリコン窒化物(SiN))をデバイス表面全体上に堆積させる。誘電性材料の上面上にフォトレジストをパターニングして、カソードおよび各リザーバの直接上にあるアノード部分を除いて、誘電性材料をエッチングから保護する。誘電性材料のエッチングは、プラズマ技術、イオンビーム技術または化学エッチング技術を用いて行なうことが可能である。この膜の目的は、リザーバ内容物の放出のための電極膜の除去が不要な全領域中の電極を腐食、分解または溶解から保護することである。
【0048】
電極の配置は、アノードとカソードとの間に適切な電位が印加されると、アノードバリア層のうち保護されていない(すなわち、誘電性材料で被覆されていない)部分が酸化して(溶液中に溶解し、リザーバ内容物を周囲環境から分離させるバリアを含む)溶性化合物または溶性イオンを形成するように、行なわれる。
【0049】
(D.絶縁体膜の除去(リザーバのエッチングの停止))
リザーバを被覆する絶縁性材料または誘電性材料でできた薄膜は、リザーバ製造の間、マスクとしてそしてエッチングを停止させるものとして用いられる。能動型マイクロチップデバイスは、このような膜をリザーバの充填前に除去する必要があり、また、リザーバ充填後は、受動型マイクロチップデバイスから除去する必要がある(ただし、リザーバが基板を完全に貫通する場合)。膜の除去方法は2種類ある。第1の膜の除去方法では、イオンビームまたは反応性イオンプラズマにより膜を除去することができる。好適な実施形態において、酸素含有ガスおよびフッ素含有ガス(例えば、CHF、CFまたはSF)から構成される反応性イオンプラズマによって、絶縁性材料として用いられるシリコン窒化物を除去することができる。第2の膜の除去方法では、化学エッチングにより膜を除去することができる。例えば、緩衝液と混合されたフッ化水素酸(BHFまたはBOE)を用いて二酸化シリコンをエッチングし、高温のリン酸を用いてシリコン窒化物をエッチングすることができる。膜マスクまたはエッチング停止物として他の材料を用いた場合、エッチング分野の当業者に公知のプラズマ組成または化学物質を用いてこれらの物質を除去することができる。
【0050】
(E.リザーバの充填および密封)
リザーバ内において格納および保護されるべき化学物質およびデバイスを、リザーバの開口部のうちの1つ(例えば、方形角錐形状のリザーバの大きな開口部)に挿入する。リザーバへの化学物質の挿入は、注入、インクジェットプリントまたはスピンコートによって行なうことが可能である。デバイスまたはデバイスコンポーネントは、各リザーバの内部またはその近隣に作製してもよいし、あるいは、マイクロチップから離れた位置に作製して、マイクロチップおよびパッケージを組み立てるときにリザーバに挿入またはその近隣に配置してもよい。各リザーバは、異なる化学物質、デバイス、またはデバイスコンポーネントを含むことができる。
【0051】
対象となる化学物質またはデバイスが充填されたマイクロチップリザーバ上での分布は変化し得る。医学的診断用途の場合、例えば、インクジェットプリントを用いて、マイクロチップ上のリザーバの各横列を異なる化学物質(溶液中の特定の分析物を検出するのにそれぞれ用いられる)で充填する。別の実施形態において、各リザーバに触媒粒子のスラリーをマイクロ注入法により充填する。所望ならば、各リザーバを化学反応を得るための異なる触媒で満たしてもよい。さらに別の実施形態において、生物学的触媒の溶液(すなわち、酵素)またはDNAマーカ分子をリザーバ中に注入し乾燥させて、リザーバ内面上の酵素またはDNAマーカを固定化させる。リザーバへの化学物質挿入を行なうための好適な方法は、注入、インクジェットプリントおよびスピンコートであるが、リザーバへの化学物質挿入は、各リザーバの充填を毛管作用によって個々に行なってもよいし、真空もしくは他の圧力勾配を用いてリザーバから材料を引き出すかもしくはリザーバに材料を押し入れることによって行ってもよいし、材料をリザーバ中に融解させることによって行ってもよいし、遠心分離および関連するプロセスによって行ってもよいし、手作業により固体をリザーバ中に封入することによって行ってもよいし、またはこれらの技術の任意の組み合わせもしくは類似のリザーバ充填技術によって行ってもよいことが理解される。
【0052】
各リザーバは、異なるデバイスまたはデバイスコンポーネントも含み得る。このようなデバイスは、各リザーバ中に直接作製することができる。一実施形態において、感知用途に用いられる薄い金属電極を角錐形状のリザーバの側壁上にフォトリソグラフィーおよび電子ビーム蒸着を用いて作製することができる。また、デバイスコンポーネントをマイクロチップと別個に作製した後、組み立てプロセスの間にこのデバイスコンポーネントをマイクロチップと集積することも可能である。一実施形態において、光学ベースのアッセイにおいて用いられるデバイス(例えば、LED)を、組み立てプロセスの間にリザーバ内部またはその近傍に配置する。別の実施形態において、完全に機能性のセンサ(例えば、ISFETすなわちイオン選択性電界効果トランジスタ)を別の基板部分上に作製する。このセンサが設けられた基板部分をもう一方の基板部分上のリザーバと整合させ、これらの2つの部分を互いに結合させて、リザーバ内部のセンサを密封する。
【0053】
能動型放出デバイスおよび受動型放出デバイスの双方の好適な実施形態において、リザーバ充填後、化学物質の充填またはデバイスの挿入に用いられるリザーバ開口部(すなわち、バリア層端部に対向する開口部)を当該分野において公知の様々な技術のうち任意のものを用いて密封する。例えば、リザーバ開口部の密封工程は、開口部上の薄い可撓性膜を硬質の支持プレートで圧縮することによって行なうことが可能である。あるいは、開口部を塞いで硬化させて密封状態を得るための流体材料(例えば、接着剤、ワックスまたはポリマー)を塗布することにより、開口部の密封工程を行なってもよい。別の実施形態において、第2の基板部分(例えば、2次デバイスの第2の基板部分)を、リザーバ開口部上で結合させることもできる。
【0054】
(F.デバイスのパッケージング、制御回路および電源)
受動型デバイスおよび能動型デバイスのリザーバの充填物の通り道となる開口部の密封を、圧縮、ウェハ結合、耐水性エポキシまたは周囲環境に対して不浸透性の別の適切な材料によって得る。インビトロ用途のデバイスの場合、リザーバおよびバリア層が設けられたデバイス面を除く全てのユニットを、システムに適した材料中に収容する。インビボ用途のデバイスの場合、生体適合性材料(例えば、ポリ(エチレングリコール)もしくはポリテトラフルオロエチレン)、または生体適合性金属もしくはセラミック製のケース中にユニットを収容すると好ましい。
【0055】
上記のデバイスのリザーバ内容物を露出させるための機構は、嵌合または接着されているために収縮または撤去を必要とする複数の部分に依存していない。各リザーバ中の内容物を露出させる工程は、事前プログラムされたマイクロプロセッサ、リモート制御、バイオセンサからの信号、またはこれらの方法の任意の組み合わせによって制御することが可能である。
【0056】
メモリソース(例えば、プログラム可能な読出し専用メモリ(PROM)、タイマ、デマルチプレクサおよび電源(例えば、小型バッテリ(例えば、Jonesら(1995)およびBatesら(1992)による文献に記載されている小型バッテリ)または生物燃料セル(例えば、Binyaminら(2000)による文献に記載されている生物燃料セル))と共にマイクロプロセッサを用いる。プログラムされた一連のイベント(例えば、リザーバが開口するタイミングおよびリザーバのロケーションまたはアドレス)がユーザによってPROMに格納される。露出または放出を行なう時期に来たことが(例えば、タイマによって)知らされると、マイクロプロセッサは、特定のリザーバのアドレス(ロケーション)に対応する信号をデマルチプレクサに送る。デマルチプレクサは、マイクロプロセッサによってアドレス指定されたリザーバに入力(例えば、電位または電流)をルーティングする。小型バッテリにより、マイクロプロセッサ、PROMおよびタイマを動作させるための電力を得、また、デマルチプレクサが指向する特定のリザーバへの電位入力を得る。これらのコンポーネントそれぞれの製造、サイズおよびロケーションは、特定の用途の要件に依存する。好適な実施形態において、メモリ、タイマ、マイクロプロセッサおよびデマルチプレクサ回路部をチップ表面上に直接集積化する。チップのもう一方の面上に小型バッテリを取り付け、この小型バッテリをバイアスまたは細いワイヤによってデバイス回路に接続させる。しかし、場合によっては、メモリ、タイミング、処理、およびデマルチプレクスのためのコンポーネントチップを別個に事前作製することも可能である。好適な実施形態において、バッテリ付きのマイクロチップデバイスの背面にこれらのコンポーネントを取り付ける。別の好適な実施形態において、コンポーネントチップおよびバッテリを、(例えば、複数のチップモジュール(MCMs)およびハイブリッドパッケージの場合のように)マイクロチップデバイスの前面またはその隣接部に配置する。用いられる事前作製されたチップのサイズおよび種類は、マイクロチップデバイスの全体寸法およびリザーバ数に依存する。
【0057】
電位または電流を印加することによって特定のリザーバを活性化させる工程を、リモート制御によって外部から制御することが可能である。リモート制御に用いられる回路の大部分は、事前プログラムされた方法において用いられる回路と同じである。信号(例えば、無線周波数(RF)エネルギー、マイクロ波、低電力レーザまたは超音波)を外部ソース(例えば、コンピュータまたは超音波生成器)によって受信器に送信する。信号はマイクロプロセッサによって受信され、リザーバアドレスに変換される。その後、電力はデマルチプレクサを通じて適切なアドレスを有するリザーバへと送られる。
【0058】
バイオセンサは、マイクロチップデバイスの内部またはその上部に集積化して、周囲流体中の分子を検出するようにすることができる。分子濃度が特定のレベルに達すると、バイオセンサは、信号をマイクロプロセッサに送って1つ以上のリザーバを活性化させる。マイクロプロセッサは、デマルチプレクサを通じて特定のリザーバ(単数または複数)に電力を送る。
【0059】
(III.マイクロチップデバイスの用途)
受動型マイクロチップデバイスおよび能動型マイクロチップデバイスには、数多くのインビトロ用途およびインビボ用途がある。マイクロチップデバイスは、分子、デバイスまたは小容積(すなわち、リザーバの分子、デバイスまたは小容積)をその容積外部にある別の環境に選択的に露出することが望まれる様々な用途に用いることが可能である。受動型マイクロチップデバイスおよび能動型マイクロチップデバイスの用途を挙げると、制御付き感知または選択的感知、必要に応じた感知(例えば、分子種の存在または不在の検出、センサへ露出された分子の生物活性または分子反応度の検査、またはパラメータ(例えば、pH、温度、別の分子との反応度、光学特性(例えば、屈折率、色または蛍光)、放射能、圧力または導電率の測定)がある。一実施形態において、センサは、リザーバ内部もしくはその近隣における光学特性の変化、発生し得る変化(例えば、リザーバ中での反応またはリザーバ近隣の環境中の反応による変化)を感知する際に用いることが可能な光ファイバを用いる。関連する実施形態において、リザーバは、放射性物質の(光学)検出を支援するシンチレーション流体を含む。
【0060】
好適な実施形態において、マイクロチップデバイスは、グルコースのモニタリングおよびインシュリン制御の際に用いられるセンサを1つ以上含む。例えば、1つ以上のリザーバに1つのセンサを設ける一方、他のリザーバに放出対象となるインシュリンを設けることができる。このようなセンサからの情報を用いて、インシュリン放出を能動的に制御することができる。
【0061】
マイクロチップデバイスをインビトロに用いて、2次デバイスもしくはデバイスコンポーネント、反応性成分、またはこれらの両方を周囲環境またはそのコンポーネントに選択的に露出させる。特定のインビトロ用途の場合、マイクロチップは、制御された少量の化学試薬または他の分子を溶液または反応混合物中に(制御された正確なタイミングおよび速度で)放出することができる。他の用途の場合、小型デバイス(例えば、センサ)が必要になるまでこれらの小型デバイス(例えば、センサ)を周囲環境から保護し得る。化学物質およびデバイスを選択的に露出させる能力を有するマイクロチップを用いることが可能な分野の例を挙げると、分析化学分野および医学的診断分野がある。このようなマイクロチップはまた、送達デバイスとしてインビボ用途に用いてもよい。マイクロチップは、外科技術または注射によって患者の体内に移植してもよいし、あるいは患者に嚥下させてもよい。これらのマイクロチップは、多くの異なる分子およびデバイスを異なる速度および異なるタイミングで送達または感知することができる。特定の反応に対してインビボで触媒作用を及ぼす他のマイクロチップを用いてもよい。例えば、リザーバ中の触媒(すなわち、酵素)を露出させて、対象となる反応に触媒作用を及ぼすことが望まれるまで、この触媒を周囲環境から保護することができる。
【0062】
デバイスを用いて、例えば分析化学または医学的診断において反応性成分(例えば、酵素および他の触媒)を分離させることも可能である。例えば、リザーバを充填されたベッド型反応器または固定化された酵素反応器として機能させることが可能である。一実施形態において、デバイスは、浸透圧材料および/または膨張可能材料を用いてリザーバを開口させて、リザーバ中から分子が出入りすることを可能にする。これらの用途および他の用途については、以下に述べる非限定的実施形態において詳述する。このような非限定的実施形態においては、各リザーバ内部またはその近隣の各リザーバ、バリア層または他の物体(すなわち、ヒーター、電極、チャンネルなど)の数、ジオメトリ、および配置は特定の用途に合わせて改変が可能であることが理解される。簡潔にするため、各図においてはリザーバを1つまたは2つしか図示していない。しかし、マイクロチップコンポーネントまたはデバイスでは、少なくとも2つ(好適にはもっと多数)のリザーバが基板上に配列される点が理解される。
【0063】
(A.選択的な感知デバイス)
図2A〜図2Cに示す一実施形態において、特定の分子を検出するセンサ22を作製し、マイクロチップデバイス10の基板12内のリザーバ14の底部または内側に配置する。このマイクロチップデバイス10には、支持プレート16および半浸透性バリア層20が設けられている。図2Aにおいて、バリア層20はリザーバを被覆し、これにより、リザーバ14において対象分子「A」を出入りさせ、かつ、検出対象分子の感知状態に影響を与える可能性のある他の分子または材料(例えば、細胞成分または細胞状成分)がリザーバ14を通過するのを制限することが可能となる。先ずマイクロチップデバイスを動作位置に配置した場合、半浸透性のバリア層20は、周囲環境と直接接触させてもよいし、あるいは、分子「A」に対して不浸透性である別のバリア層18(例えば、図2Bに示すバリア層18)によって被覆してもよい。後者の場合、不浸透性のバリア層18により、不浸透性のバリア層18が図2Cに示すように部分的または完全に除去されるまで、材料がリザーバ14に出入りすることができなくなる。不浸透性のバリア層18が図2Cに示すように部分的または完全に除去されると、センサ22は、検出対象分子「A」の存在または不在を感知することができるようになる。
【0064】
刺激(例えば、電位)を印加することによって不浸透性のバリア層を部分的または完全に除去することが可能である場合、微細加工されたデバイスのオペレータまたはユーザは、センサの動作を必要に応じて開始させることができる。このようなコンポーネントまたはデバイスは、センサが特定の環境に露出されると当該センサの動作または性能が減損するような用途において有用であり得る。例えば、インビトロ環境または他の動作環境中に見受けられる細胞、タンパク質および他の成分によってコーティングまたは「汚染」されると、性能の減損を生じることが分かっている特定の移植可能なセンサがある。
【0065】
(B.光学感知デバイス)
図3A〜図3Bに示す別の実施形態において、半浸透性バリア層20および支持プレート16が設けられたマイクロチップデバイス10の基板部分12aおよび12b内に配置されたリザーバ14の内部またはその近隣に微小光ファイバ24を配置する。リザーバ14は、1つ以上の物質「X」を含む。これらの物質「X」は、マイクロチップデバイスの周囲の環境(すなわち、リザーバの外部の環境)中に存在する対象成分「A」の1つ以上の分子または細胞状成分と相互作用する。図3Bに示すように、リザーバ14内部の物質Xは、対象成分「A」の分子または細胞状成分を含む環境に向かって、最初から存在するバリア層18を部分的に除去することにより、露出される。その後、リザーバ14内部の基板の光学特性が(X→X’に)変化し、これは、光ファイバ24を介して感知される。例えば、光ファイバ24を用いて、リザーバ14の内容物を(おそらくは単波長の)光源に露出させることができる。光ファイバ24はまた、蛍光度の変化または他の特定の光学的現象の変化を検出および測定することもできる。励起光源または検出源は、リザーバと一体化(図3A)してもよいし、あるいはリザーバ外部(図3B)に配置してもよい。このようなコンポーネントまたはデバイスは、生物学的(例えば、タンパク質またはDNAフラグメントの)物質および非生物学的物質の両方を検査するための比色診断デバイスを作製する際に有用であり得る。
【0066】
(C.試薬を用いた選択的センサデバイス)
図4〜図5に示す別の実施形態において、マイクロチップデバイスのリザーバは、試薬およびセンサの組み合わせを様々な構成で含む。例えば、1つ以上のセンサを含むリザーバを1つ以上の試薬または特定のアッセイを行なうのに必要な他の化学物質で充填することができる。
【0067】
図4Aは、センサ22および化学試薬「S」を含むリザーバ14を有するマイクロチップデバイス10を示し、リザーバ14はバリア層18によって被覆されている。このバリア層18により、センサ22および化学試薬「S」をリザーバ外部の環境から分離させる。リザーバ外部の環境は、検出対象成分「R」の分子を含んでいるかまたは含む可能性を持つ。図4Bに示すように、センサを作動させることが望まれる場合、バリア層18は少なくとも部分的に除去され、これにより、検出対象成分「R」の分子は化学試薬「S」と反応して生成物Tを生成する。この生成物Tはセンサ22によって感知される。アッセイに必要な化学試薬「S」は、バリア層が除去された後もリザーバ14内に残るか、または、検出対象成分「R」の分子がリザーバ14中に入り込む間、リザーバ14からゆっくりと出て行くことができる。言い換えれば、センサによる反応生成物の感知が可能でありさえすれば、アッセイの反応をリザーバ内部で発生させるのかそれともリザーバ外部だけで発生させるのかは重要ではない。
【0068】
図5Aに示すこの実施形態の改変例において、マイクロチップデバイス30は、第1のリザーバ14a中のセンサ22と、1つ以上の隣接するリザーバ14b中の化学試薬「S」とを含む。第1のリザーバ14aおよびリザーバ14bはそれぞれ、バリア層18aおよび18bによって被覆される。図5Bに示すように、感知工程は、バリア層18aおよび18bを除去してリザーバ14aおよび14bを開口させ、その結果センサ22および化学試薬「S」を(検出対象成分「R」の分子を含む)リザーバの外部の環境に露出させることにより、開始する。化学試薬「S」は、リザーバ14bから流出し、化学試薬「S」の分子は検出対象成分「R」と反応して、生成物Tを生成する。その後、この生成物Tはリザーバ14a中のセンサ22によって感知される。
【0069】
あるいは、特定の用途において、センサはリザーバ内部に設けなくてもよい。例えば、図6に示すように、マイクロチップデバイス40は、基板12内に配置されかつ化学試薬「S」を含むリザーバ14を含む。センサ22は、基板12の外面上に取り付けられる。ここでも、感知工程は、バリア層18(ここで、バリア層18は部分的に除去された状態で図示されている)を除去して、化学試薬「S」がリザーバ14から流出して検出対象成分「R」の分子と反応し、これにより生成物Tを生成させることにより、開始される。その後、この生成物Tはセンサ22によって感知される。バリア層が分解または浸透し、かつ、センサ、試薬および検出対象分子が互いに分離状態でなくなるまでは、これらの実施例におけるアッセイは開始不可能であることは明らかである。
【0070】
(D.センサデバイスの制御)
図7に示す一実施形態において、マイクロチップデバイス32は2つのリザーバ14aおよび14bを含む。これらのリザーバ14aおよび14bはそれぞれ、2つのセンサ(すなわち、参照センサ26およびセンサ28)を含む。参照センサ26は、各リザーバ中のセンサ28の動作を確認する際に用いられる。マイクロプロセッサ36は、電源38によって給電される。このマイクロプロセッサ36をプログラムして、比較ユニット34aまたは34b(例えば、電圧計または他の計装)を用いて、センサ28の動作とリザーバ14aまたは14b中の参照センサ26とを継続的に比較させることができる。例えばリザーバ14a中のセンサ28が適切に動作していない場合、マイクロプロセッサ36に信号を返送することができる。その場合、マイクロプロセッサ36はリザーバ14bを作動させて、新規の一対の電極(すなわち、リザーバ14b中のセンサ28および参照センサ26)を露出させることができる。さらに、マイクロプロセッサ36は、送信器37に信号を送って、1つの良好な状態のセンサは1つしかないことをリモートに配置されたコンピュータ39に通知するか、または、他の動作情報を信号によって伝達することもできる。この図ではリザーバは開口状態であるが、1つ以上のリザーバを最初から閉口状態で設けて、それらのリザーバを露出させることが望まれるまでそれらのリザーバをバリア層で被覆することも可能であることが理解される。
【0071】
(E.充填されたベッド型反応器)
別の実施形態において、マイクロチップデバイスは、充填されたベッド型反応きとして機能する。その一例を図8Aおよび図8Bに示す。マイクロチップデバイス50は、例えば、基板12内に配置されかつ触媒52で充填されたリザーバを含む。触媒52は、任意の触媒材料であってもよいし、あるいは、触媒材料でコーティングされた不活性で多孔性の支持物であってもよい。図8Aに示すように、リザーバはバリア層18によって被覆されているため、触媒または触媒から離れた場所にある生成物に反応物「A」が到達する事態が回避または限定される。図8Bに示すように、バリア層18が完全もしくは部分的に除去されるかまたは浸透状態になると、リザーバ外部の環境に触媒52が露出し、その結果、反応物「A」は触媒52と接触し、反応を生じて生成物Bを生成する。
【0072】
オプションとして、マイクロチップデバイス50には、リザーバ内部に配置された反応制御コンポーネント54が設けられる。これらの反応制御コンポーネントの例を挙げると、抵抗ヒーターおよび分極性電極がある。これらの制御コンポーネントは、(例えば、底部もしくは内面上)またはリザーバ近隣に配置して、これにより反応(A→B)の速度の制御を支援することができる。図8Cおよび図8Dは、リザーバ底面上に配置された抵抗ヒーターおよび分極電極の上面図をそれぞれ示す。
【0073】
不浸透性のバリア層に加えてまたは不浸透性のバリア層の代わりに浸透性バリア層または半浸透性バリア層を用いて、触媒と接触可能な分子の種類を制限または制御することも可能であることが理解される。
【0074】
これらのマイクロチップデバイス反応器は、触媒を長時間環境に露出させると、当該触媒の「汚染」もしくは当該触媒の表面上の膜生成または当該触媒の化学分解が原因となって触媒の性能が低減するような用途に用いると、特に有用であり得る。その理由としては、これらのデバイスを用いると、多くの別個の数量の触媒を1つの小型デバイス中に収容して、各分量の触媒を必要なときに個々に用いることが可能である点がある。例えば、第1のリザーバの触媒が汚染した場合、第2のリザーバを開口させて新鮮な触媒を露出させ、任意の数のリザーバに提供することができる。さらに、単一のデバイスの異なるリザーバ内に異なる触媒を提供して、これにより、単一のデバイスによって触媒作用を及ぼすことが可能な反応の範囲を向上させることが可能となる。
【0075】
(F.固定化された酵素反応器)
さらに別の実施形態において、マイクロチップデバイスのリザーバに固定化された酵素を設ける。例えば、図9A〜図9Bに示すように、マイクロチップデバイス60は、基板12内に配置されかつバリア層18によって被覆されたリザーバ14を含む。酵素62は、リザーバ14内面のうち1つ以上の面の上に固定化される。バリア層18はリザーバを被覆して、反応物「A」が含まれる環境から酵素62を分離させる。図9Bに示すように、バリア層18を完全にまたは部分的に除去すると、固定化された酵素62が反応物「A」に露出し、その結果、両者は反応を起こして生成物「B」を形成する。
【0076】
上記に代えてまたは上記に加えて、1つ以上の微生物(例えば、酵母菌、ピルビン酸塩)をリザーバ内部またはその近隣の表面上にコーティングするか、または、リザーバ内部またはその近隣の表面上に固定化させる。例えば、この微生物は、反応を起こすかまたは触媒として反応を発生させることができるが、この反応には、反応を起こした微生物によって第2の検出可能な分子種が生成されるまでセンサによる検出が不可能な分子種が含まれる。
【0077】
不浸透性バリア層に加えてまたは不浸透性バリア層の代わりに浸透性バリア層または半浸透性バリア層を用いて、固定化された酵素と接触することのできる分子種を限定または制御することも可能であることが理解される。これらのマイクロチップ反応器デバイスは、選択性の高い酵素が必要でありかつその酵素は特定の環境に長時間露出されると安定性が低下するような用途において有用であり得る。
【0078】
(G.浸透圧材料および/または膨張可能材料の使用)
一実施形態において、リザーバを最初から被覆している1枚以上のバリア層を破断させることにより、当該リザーバを開口させる。この実施形態の一改変例において、浸透圧材料、水による膨張が可能な材料またはこれらの組み合わせを用いることにより、破断工程を開始させる。例えば、マイクロチップデバイス中のリザーバを、リザーバ外部またはその近隣にある環境からの材料に露出されると浸透圧が上昇する材料(例えば、塩)で充填またはコーティングする。リザーバの設計に応じて、選択される浸透圧生成材料と、浸透圧生成材料(すなわち、浸透圧が上昇する材料)のリザーバ内部またはその近隣への配置とを用いて、リザーバ内部に材料を押し入れるかまたは材料をリザーバから引き出すことができる。
【0079】
図10に示すマイクロチップコンポーネントまたはデバイスにおける浸透圧の利用法の1つの実施例では、リザーバ中で生成された浸透圧を用いて、リザーバまたは隣接するリザーバから化学物質を追い出す。図10において、マイクロチップデバイス70は、基板76と、放出対象となる化学物質74を含む第1のリザーバ72と、イオン種「A」の濃縮溶液(すなわち、浸透圧生成材料)を含む第2のリザーバ71とを含む。このデバイスは、水または「A」に対する他の溶媒を通過させる半浸透性バリア層73と、破断可能な不浸透性バリア層75とをさらに含む。オプションとして、半浸透性バリア層73は、選択的に除去して周囲環境に対するバリア層73に露出させることが可能な別の不浸透性のバリア層(図示せず)によって被覆することもできる。図10は、水が浸透力によってバリア層73中に浸透する様子を示す。より詳細には、リザーバ71中のイオン種「A」の濃度は、水性環境中のイオン種「A」の濃度よりも高いため、水はバリア層73を通過して、種「A」の濃度は等しくなる。このようにリザーバ71中の水の分量が増加するとリザーバ71および72中の圧力は増加し、不浸透性のバリア層75が破断し、化学物質74が放出されるまでこの圧力増加は続く。可撓性の水密膜または(1つのリザーバの圧力を変化させて残りのリザーバ中の圧力に影響を与え、かつ、各リザーバの内容物の分離状態を維持する)他の任意の手段によってリザーバ71および72を分離させてもよい。
【0080】
この実施形態の別の改変例において、浸透圧生成材料と、リザーバから排出または解放されるべき化学物質とを同一リザーバ内に配置する。その例を図11A〜図11Bに示す。図11A〜図11Bは、基板82内に配置されかつ破断可能な半浸透性バリア層90によって被覆されたリザーバ84を含むマイクロチップデバイス80を示す。リザーバ84は、放出対象の化学物質86および浸透圧生成材料85で充填されている。充填されたリザーバ84を先ず不浸透性バリア層88で被覆して、これにより、リザーバからの放出が所望される前に周囲の溶液がリザーバに侵入するのを防ぐ。放出が所望されると、不浸透性のバリア層88に刺激が与えられる。この刺激付与工程は、図11Aに示すように半浸透性バリア層90が露出し、リザーバ84の外部の溶液に対して浸透性となるのに十分な時間にわたって行われる。その後、溶液(HOとして示す)は、リザーバ84内外の環境の浸透圧差(すなわち、原動力)(例えば、イオン濃度または塩濃度の差)により、バリア層を通過する。図11Bに示すように、溶液がリザーバ84中に流入するため、リザーバ84中の圧力は上昇し、この圧力上昇によって半浸透性バリア層90および残りの不浸透性のバリア層88が破断して、この圧力上昇は、リザーバ内容物、化学物質86および浸透圧生成材料85が周囲溶液に放出されるまで続く。
【0081】
別のしかし類似の実施形態において、リザーバにおいて浸透圧生成材料の代わりに膨張可能材料を用いることもできる。膨張可能材料(例えば、膨張可能なポリマー)は、特定の溶液に露出されると膨張または拡張する。リザーバの容積、バリア層の材料および厚さ、ならびに膨張可能材料の種類および体積は、膨張可能材料の膨張によってバリア層が破断に至る方法が、上記の実施例における浸透圧によるリザーバ中の溶液の増加によってバリア層が破断に至る方法とほぼ同様になるようなシステムが得られるように選択すればよい。特定の用途およびマイクロチップデバイスの設計に応じて、半浸透性バリア層および不浸透性バリア層の様々な組み合わせを用いることが可能である。
【0082】
本明細書中にて引用した公開文献と、同文献に記載されている材料とを、参考のため明確に援用する。当業者にとって、本明細書中に記載の方法およびデバイスの変更例および改変例は、上記の詳細な説明を鑑みれば自明である。そのような変更例および改変例は、本明細書中の特許請求の範囲内におさまるものとして意図される。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1A】図1Aは、デバイスの単一のリザーバの様々な実施形態を示す横断面図である。このデバイスでは、リザーバおよび基板上面上にバリア層がある。
【図1B】図1Bは、デバイスの単一のリザーバの様々な実施形態を示す横断面図である。このデバイスでは、リザーバの開口部内にバリア層がある。
【図1C】図1Cは、デバイスの単一のリザーバの様々な実施形態を示す横断面図である。相互結合された2つの基板部分を有するデバイス内にこれらの組み合わせが設けられる。
【図2A】図2Aは、リザーバを有するデバイスを示す横断面図である。このリザーバは、分子Aのリザーバへの流出入を可能にする半浸透性バリア層によって被覆される。
【図2B】図2Aは、リザーバを有するデバイスを示す横断面図である。このリザーバは最初、バリア層が選択的に除去される(図2C)まで別の不浸透性のバリア層によって被覆される
【図2C】図2Cは、リザーバを有するデバイスを示す横断面図である。バリア層が選択的に除去される。
【図3A】図3Aは、光学感知デバイスの2つの実施形態の横断面図である。このデバイスは、分子Aのリザーバへの流出入を可能にする半浸透性バリア層によって被覆された単一のリザーバの内部に光ファイバを含む。
【図3B】図3Bは、光学感知デバイスの2つの実施形態の横断面図である。このデバイスは、分子Aのリザーバへの流出入を可能にする半浸透性バリア層によって被覆された単一のリザーバの外部および上部に光ファイバを含む。
【図4A】図4Aは、リザーバを有するデバイスを示す横断面図であり、このリザーバは、センサおよび化学試薬の両方を含み、損傷の無い(intact)不浸透性のバリア層が設けられている。
【図4B】図4Bは、リザーバを有するデバイスを示す横断面図であり、このリザーバは、センサおよび化学試薬の両方を含む。部分的に除去された不浸透性のバリア層が設けられている。
【図5A】図5Aは、1つのリザーバを有するデバイスを示す横断面図である。このデバイスは、センサおよび別のリザーバを含む。この別のリザーバは、損傷の無い上記リザーバ上の不浸透性のバリア層と共に化学試薬を含む。
【図5B】図5Bは、1つのリザーバを有するデバイスを示す横断面図である。このデバイスは、センサおよび別のリザーバを含む。この別のリザーバは、部分的に除去された上記リザーバ上の不浸透性のバリア層と共に化学試薬を含む。
【図6】図6は、リザーバを有するデバイスを示す横断面図である。このデバイスは、化学試薬と、上記リザーバ外部の基板上に配置されたセンサとを含む。
【図7】図7は、マイクロチップデバイスのリザーバ内に配置されたセンサの制御および上記センサとの通信を行なうための1つの実施形態を示すプロセスフロー図である。
【図8A】図8Aは、リザーバを有するデバイスを示す横断面図である。このリザーバは、反応物Aに対して不浸透性である損傷の無いバリア層と共に触媒材料を含む。
【図8B】図8Bは、リザーバを有するデバイスを示す横断面図である。このリザーバは、部分的に除去され、反応物Aと触媒材料とを接触させて生成物Bを発生させるバリア層を含む。
【図8C】図8Cは、触媒反応を制御するためにリザーバ内に組み込むことが可能なオプションの要素(例えば、抵抗ヒーター)を示す図である。
【図8D】図8Dは、触媒反応を制御するためにリザーバ内に組み込むことが可能なオプションの要素(例えば、分極性電極)を示す図である。
【図9A】図9Aは、リザーバを有するデバイスを示す横断面図である。このリザーバは、反応物Aに対して不浸透性である損傷の無いバリア層と共に固定化された酵素を含む。
【図9B】図9Bは、リザーバを有するデバイスを示す横断面図である。このリザーバは、部分的に除去され、反応物Aと固定化された酵素とを接触させて生成物Bを生成させるバリア層を含む。
【図10】図10は、近隣の第2のリザーバを被覆するバリア層を破断させる際に第1のリザーバ内に生成される浸透圧力を用いるデバイスの1つの実施形態の横断面図である。
【図11A】図11Aは、バリア層を有するデバイスを示す横断面図である。このバリア層は、放出対象物として浸透圧生成材料および化学物質の両方を含むリザーバを被覆する。。
【図11B】図11Bは、バリア層を有するデバイスを示す横断面図である。このバリア層は、浸透力によって生成された圧力差に起因するバリア層の破断を含むリザーバを被覆する。
【図12A】図12Aは、複雑な形状を有するリザーバを示す横断面図である。このような複雑な形状を有するリザーバは、例えば、ウェハ結合方法もしくは他の基板結合方法を用いることによってまたはシリコンオンインシュレータ(SOI)製造法を適用することによって作製することが可能である。
【図12B】図12Bは、複雑な形状を有するリザーバを示す横断面図である。このような複雑な形状を有するリザーバは、例えば、ウェハ結合方法もしくは他の基板結合方法を用いることによってまたはシリコンオンインシュレータ(SOI)製造法を適用することによって作製することが可能である。
【図12C】図12Cは、複雑な形状を有するリザーバを示す横断面図である。このような複雑な形状を有するリザーバは、例えば、ウェハ結合方法もしくは他の基板結合方法を用いることによってまたはシリコンオンインシュレータ(SOI)製造法を適用することによって作製することが可能である。
【図12D】図12Dは、複雑な形状を有するリザーバを示す横断面図である。このような複雑な形状を有するリザーバは、例えば、ウェハ結合方法もしくは他の基板結合方法を用いることによってまたはシリコンオンインシュレータ(SOI)製造法を適用することによって作製することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次デバイスの露出を制御するためのマイクロチップデバイスであって、
基板と、
該基板における複数のリザーバと、
該複数のリザーバのうちの1つ以上のリザーバにおける2次デバイスであって、該2次デバイスは、センサもしくはセンサコンポーネントと、抵抗ヒーターと、分極電極とからなる群から選択される、2次デバイスと、
該リザーバを被覆して、該リザーバの外部にある1つ以上の環境成分から該2次デバイスを分離させる少なくとも1つのバリア層と、
該バリア層を能動的かつ選択的に分解することにより、選択されたリザーバ内の該2次デバイスを該1つ以上の環境成分に露出させる手段と
を備え、
該バリア層は、各リザーバの上に離散的なリザーバキャップを含む、マイクロチップデバイス。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【公開番号】特開2007−248470(P2007−248470A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94383(P2007−94383)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【分割の表示】特願2001−563234(P2001−563234)の分割
【原出願日】平成13年3月2日(2001.3.2)
【出願人】(501228004)マイクロチップス・インコーポレーテッド (12)
【Fターム(参考)】