説明

化学発光およびリガンド−光感作物質コンジュゲートを使用する光力学的療法

増殖性疾患を治療することにおいて適用可能な、有害な細胞を破壊するための方法が提供される。細胞は、化学発光剤とリガンド−光感作物質コンジュゲートとの組み合わせた治療によって破壊される。化学発光剤はその場に存在する酸素種と反応するときに光を放射し、コンジュゲートはそのリガンドを通して細胞に結合して、放射された光によって活性化され、それによって細胞を破壊する。本方法は、ルミノールの存在下で癌性細胞を破壊するトランスフェリン−ヘマトポルフィリンのコンジュゲートについて示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘマトポルフィリンのような光感作物質を含むリガンド−毒素コンジュゲートと化学発光剤を使用する組み合わせられた治療によって、選択された標的細胞を破壊するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学治療剤の低い標的特異性は、標的細胞特異的受容体に指向された輸送リガンドにエフェクター分子を結合させることを含むリガンド−毒素コンジュゲート(LTC)のような標的化薬物送達戦略の開発を刺激してきた[例えば、Mrsny R.J.:Expert Opinion on Biological Therapy 4(2004)65−73を参照のこと]。小分子のようなリガンドは、抗体のような大分子より有利である。本発明者らは、形質細胞の標的化された破壊のための小分子含有LTCの使用について最近報告し[Firer M.A.ら:Leukemia and Lymphoma 44(2003)681−9]、このアプローチが多発性骨髄腫療法に適用できるかもしれないことを示唆した。LTC戦略は、本発明の1つの側面を示す。別の側面は、結合して細胞溶解に導く膜の変性を誘導する2つの非毒性成分に基づく2段階手順である光力学的療法(PDT)に関する。第1の成分は光感作(Ps)分子、通例はポルフィリン誘導体であり、それは光活性化されたときにエネルギーを分子状酸素に伝達して細胞構成要素、特に膜リン脂質に直接的に損傷を与える反応性酸素種を生成する。PDTは、以下の少なくとも2つのさらなる機構によって腫瘍細胞の破壊を媒介すると考えられる:腫瘍脈管細胞の破壊、および炎症と免疫抗腫瘍反応の両方の誘導。PDTの歴史、作用機構、および生物医学的な適用はいくつかの概説の主題であった[例えば、Sharman W.M.ら:Adv.Drug Delivery Rev.56(2004)53−76を参照のこと]。2つの主要な問題が、治療様式としてのPDTのより広範な適用を制限する。第1に、光感作物質は腫瘍組織中に蓄積する傾向があるので、毒性の副作用がそれらの臨床的使用を妨げるだろう。この問題を克服するために、PsはPDT効果を標的細胞に局在化させるためにキャリア分子に共有結合された[例えば、Brown S.B.ら:(2004).Lancet Oncol.5(2004)497−508]。この目的のための1つの魅力的なキャリアタンパク質−受容体システムは、鉄輸送体トランスフェリン(Tf)とその細胞表面受容体(TfR、CD71)との間の高親和性相互作用を利用する。全ての分裂する細胞は代謝のために鉄の継続的な供給を必要とするので、TfRが種々の悪性細胞の表面で過剰発現されることは驚きではなく[Ponka P.ら:Sem.Hematol.35(1998)35−54]、従ってTf−TfRシステムは、Ps化合物を異なるタイプの悪性細胞に標的化するためにいくつかの形式で使用されてきた[Hamblin M.R.ら:J.Photochem.Photobiol.26(1994)45−56;Rittenhouse−Diakun K.ら:Photochem.Photobiol.61(1995)523−8;Cavanaugh P.G.Breast Cancer Res.Treat.72(2002)117−30;Gijsens A.ら:Int.J.Cancer.101(2002)78−85;Li H.ら:Med.Res.Rev.22(2002)225−50]。PDTに関する第2の主要な問題は、外部光の制限された組織透過力である。光線療法のための外部光装置の開発における進歩、および末梢の癌および皮膚科学におけるPDTの臨床的使用の成功にもかかわらず、内部身体組織の治療はカテーテルの使用のような侵襲性の手順に限定されたままである。Ps活性化への分子的なアプローチの開発が試みられてきた。Carpenter[Carpenter S.ら:Proc.Natl.Acad Sci.USA 91(1994)12273−7]はヒペリシンの細胞内生物発光活性化および続いて起こるウマ皮膚細胞の破壊を利用し、一方Phillip[Phillip M.J.ら:Oncology 46(1989)266−72]は乳腺癌において細胞内CLを誘導するためにヘマトポルフィリン誘導体(フォトフィリン II)および多成分溶液を使用した。しかしながら、現在のシステムはPDTの十分な特異性および有効性を提供しない。従って、本発明の目的は有意に改善されたパラメータを有するバイオコンジュゲートを提供することである。
【0003】
ルミノール(5−アミノ−2−3−ジヒドロ−1,4−フタラジンジオン)は種々のCLベースのアッセイシステムにおいて成功裏に使用されてきた[Kricka J.L.:Ann.Clin.Biochem.39(2002)114−29;Templin M.F.ら:Drug.Discov.Today 7(2002)815−22]。ルミノールのCL反応の機構はしばらく前から知られており、マクロファージにおけるルミノール活性化のいくつかの物理化学的側面が調査されてきたが[Nemeth A.ら:Biochem.Biophys.Res.Comm.255(1999)360−6]、ルミノールとPDTの結合はこれまで一度も腫瘍細胞においてPDT細胞毒性を誘導するために利用されてこなかった。従って、本発明のもう1つの目的はLTCおよび化学発光剤を含むPDTを提供することである。
【0004】
本発明の他の目的および利点は以下の説明から明らかになるだろう。
【発明の開示】
【0005】
本発明は、選択された標的細胞を破壊するための方法であって、i)化学発光活性化剤(CA)に前記細胞を曝露する工程、およびii)光感作物質(Ps)を含むリガンド−毒素コンジュゲート(LTC)を前記細胞に結合する工程を含む方法を提供する。前記CAは化学発光光を生成し、この化学発光光は前記Psを活性化し、このPsはエネルギーを分子状酸素に伝達して反応性酸素種を生成し、前記標的細胞に損傷を与える。前記CAは、その場に存在する酸素種と反応することによって前記光を生成する。本発明の方法において、前記工程i)およびii)は任意の順序でまたは同時に行われることができる。さらに、CAとLTCは種々の手段によって結合されることができる。前記LTCは、小分子、ペプチドもしくはタンパク質、または標的細胞上のトランスフェリン受容体のような特定の細胞受容体に結合するように意図される、標的化細胞の表面上の構成要素に対して親和性を有する他の因子(例えば、トランスフェリン)を含む。前記LTCは好ましくは、Psとしてヘマトポルフィリンを含む。本発明の好ましい実施形態において、標的細胞を破壊するための方法におけるLTCは、トランスフェリンおよびヘマトポルフィリンを含む。破壊される細胞は好ましくは、増殖性疾患に関連する。前記細胞は、血液、皮膚、深部身体組織、あるいは細胞培養物の一部であってもよい。本発明は、癌性細胞を破壊するための方法を提供する。
【0006】
本発明はさらに、Psを含むLTCと、CAの2つの成分を対象に投与することを含む、望ましくない細胞増殖または細胞活動に関連する疾患を対象において治療する方法に関する。前記LTCの投与および前記CAの投与は、任意の順序でまたは同時に行われることができる。前記LTCとCAはまた、相互に結合されても良い。前記LTCは好ましくはトランスフェリンを含む。前記Psは好ましくはヘマトポルフィリンを含む。本発明の好ましい実施形態において、トランスフェリンおよびヘマトポルフィリンは前記LTC中でコンジュゲート化される。前記疾患は、癌性疾患または過形成であることができる。前記疾患は、アテローム性動脈硬化、慢性関節リウマチ、乾癬、突発性肺線維症、硬皮症、硬変症、子宮内膜症、新血管形成、および腫瘍を含む、細胞の増殖が病因に寄与する状態を含むことができる。
【0007】
本発明はまた、Psを含むLTCと、CAとの、癌を治療するための組み合わせられた使用に関し、前記LTCは好ましくはトランスフェリンおよびヘマトポルフィリンを含む。前記CAは、例えば共有結合によって前記LTCに結合されることができる。
【0008】
本発明は、リガンド−毒素コンジュゲートを含む、増殖性疾患の治療における使用のための医薬組成物を提供し、前記リガンドはトランスフェリンであり、前記毒素は光感作物質であり、前記光感作物質は化学発光剤によってその場で活性化される。本発明はまた、その場でリガンド−毒素コンジュゲートを活性化する化学発光剤を含む、増殖性疾患の治療における使用のための医薬組成物を提供する。
【0009】
本発明はまた、有害な細胞を破壊するための方法であって、i)光感作物質(Ps)を含むリガンド−毒素コンジュゲート(LTC)を前記細胞に結合する工程;およびii)前記細胞を化学発光剤(CA)に曝露し、それによって前記光感作物質を活性化し、反応性酸素種を生成し、前記有害な細胞の細胞溶解を誘導する工程を含む方法に向けられる。
【0010】
図面の簡単な記述
本発明の上記および他の特徴および利点は、以下の実施例および添付の図面を参照することによって容易に明らかになるだろう。
図1は、PBS中のTf、Hp、およびTf−HpのUV可視吸収スペクトルを示す。
図2は、細胞FL(A)、K562(B)、およびU−76.(C)に対するHpおよびTf−Hpの用量依存性細胞毒性を示す;0.5〜1×10細胞/mlは、培地のみにおいてまたはHpもしくはTf−Hp(0〜3μM)を含有する培地において暗所で2時間培養され、洗浄され、室温で16時間周囲の蛍光に曝露され、次いで24時間完全培地において再培養された。細胞生存度はトリパンブルー排除によって評価された。データは、少なくとも3回の実験からの平均および標準偏差を示す。
図3は、3つの細胞系についてのTf−HpまたはHpによって誘導されたPDTの細胞毒性効率の比較を示す表1である。
図4は、PDT効果の分子的細胞内活性化を示す。FL細胞は、10μMルミノールと合わせた、ヘマトポルフィリン(Hp)またはヘマトポルフィリン−トランスフェリンコンジュゲート(Tf−Hp)(0〜3μM)で37℃で48時間暗所で培養された。細胞の外部放射または他の操作は行われなかった。培養期間の終わりに細胞生存度がトリパンブルー排除によって決定された。
図5は、PDTにおける細胞内活性化に対する2つの成分の効果を示すグラフである。FL細胞は、ヘマトポルフィリン−トランスフェリンコンジュゲート(Tf−Hp)(0〜3μM)およびルミノール(0〜10μM)の異なる濃度の組合せで37℃で48時間暗所で培養された。細胞の外部放射または他の操作は行われなかった。培養期間の終わりに細胞生存度がトリパンブルー排除によって決定された。
図6は、細胞毒性に対する2つの成分のLTCと化学発光剤の効果を、それらの適用における遅延およびそれらの適用の順序に関して示す。図6Aは、Tf−Hp処理されたFL細胞の細胞毒性に対するルミノールによる遅延したPDT活性化の効果を示す。細胞は、Tf−Hp(3μM)で37℃で暗所で2時間培養され、洗浄された。種々の遅延時間(0分、30分、60分、または90分)の後、ルミノール(5μM)が添加され、細胞はさらに暗所で16時間培養された。図は誘導された細胞毒性の百分率を示す。0遅延点は細胞の洗浄のためおよびそれらを培養に戻すための時間(約15分)を含む。図6Bは、Tf−Hpによる細胞増殖阻害に対する、ルミノールによってFL細胞を予め処理することの効果を示す。細胞はまず、24時間暗所で10μMのルミノールの存在下で培養され、洗浄されまたは洗浄されずに、次いで37℃でTf−Hp(0〜3μM)の存在下でさらに24時間培養された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
ヘマトポルフィリン(Hp)およびキャリアタンパク質トランスフェリン(Tf)を含むバイオコンジュゲートは、ルミノールと共に適用されたときに赤白血病細胞に対するPDTの特異性および有効性を有意に改善することが今や見出された。観察された相乗的な毒性効果は、細胞が化学発光剤およびリガンド−光感作物質コンジュゲートと接触される順序に依存しない。
【0012】
ルミノール、イソルミノール、またはルシゲニンのような化学発光剤(CL)は、酸化されるときに光を放射することが知られている。理論によって縛られたくないのだが、本発明による方法において、ルミノールはその場に存在する酸化因子による活性化後に光を放射するように誘導されるようであり、この酸化因子には、分子状酸素、または酸素原子を提供することができる化学的な基および分子、過酸化物、または他の反応性酸素種(ROS)が含まれる。酸素またはROSのような前記酸化因子は、光放射を誘導し、それは、リガンド−毒素コンジュゲートのPs成分を活性化し、そして細胞破壊で終わる、さらなるROSの形成を含む事象のカスケードを開始させる。このROSおよび酸素供給源は、代謝的に生成されようが外部の酸素供給によって提供されようが、PDTサイクルを長くする。それ自身は毒性を予期されない驚くほど低濃度のCL剤は、標的細胞を死滅させるのに十分である。さらに、本発明のPDT成分は同時に存在する必要がないので、先行技術PDTのもう1つの問題、すなわち細胞において複数の因子が調整されて存在する必要性は取り除かれる。
【0013】
本発明の好ましいコンジュゲート、Tf−Hpコンジュゲートは、TfおよびHpからHPLCによって分離され、紫外可視分光測光法によって特徴付けられた(図1)。Tfスペクトルは、λ=280nmで特有の最大点を示し、一方Hpの吸収最大点はλ=375nmにある。Hp−Tfコンジュゲートは、λ=280nmおよびλ=412nmで2つの吸収ピークを有し、スペクトルは最大の赤方偏移によって特徴付けられ、その成分のスペクトルの単なる重ね合わせではない。
【0014】
図2は、FL細胞、K562細胞、およびU−76細胞の細胞生存度に対するHpまたはTf−Hp LTC処理の用量依存性効果を示す。暗所で種々の濃度のHpまたはTf−Hpで細胞を培養した後、一晩周囲の蛍光に曝露することは、全ての細胞タイプについてHp単独よりもTf−Hpの方がはるかに毒性であることを示した。図3(表1)は、LD50を達成するために必要とされるTf−Hpの濃度はHpより6倍以上低かったことを示す。さらに、LD100値は、Tf−Hpによってのみ得られた。U−76ハイブリドーマ細胞は、PDTに対して比較的感受性ではなかった。これらの細胞におけるLD90を達成するために必要とされるTf−Hpの濃度は、FL細胞に対するよりも19.4倍以上高く、K−562細胞に対するよりも3.5倍以上高かった。この感受性の順序は、LDMAXについて必要とされる濃度でも保持された(FLに対して3.37、K562に対して0.8)。さらに、100%の細胞毒性は、コンジュゲートが赤白血病細胞系に対して使用された場合にのみ得られた。類似の感受性のパターンはまた、遊離Hp処理でも見られた。両方の赤白血病系に対して類似(90%)のLDMAXが達成されたが、FL細胞はK−562よりも16.6倍感受性が高かった。
【0015】
遊離Hpより増強されたTf−Hpの細胞毒性についてのさらなる証拠は、HpまたはTf−Hpのいずれかで45分および60分培養された後にFL細胞中のPsの存在および位置を示す蛍光顕微鏡検査から得られた。両方の時点で、(抗漂白溶液は使用されなかったので)比較的かすかなHp蛍光が原形質膜領域に主に限定されて観察された。Tf−Hpで処理された細胞において、有意に強い蛍光が見出された。45分後、コンジュゲートは膜パッチ(あるいは、境界を画定するリソソーム内の区画)中に局在化され、60分までに細胞質の多くに浸透した。
【0016】
さらに、PDTを誘導する細胞内化学発光光シグナルの能力が試験された。図4は、HpまたはTf−Hp単独でまたはそれを10μMルミノールと合わせて暗所で培養されたFL細胞において誘導される細胞毒性を示す。細胞は手順のいかなる段階においても周囲の蛍光に曝されなかった。以下のことが見出された:i)ルミノール単独では約15%の細胞毒性を誘導した、ii)Hp単独では細胞生存度に対してほとんど効果がなかった、iii)細胞毒性はHpとルミノールの存在下で最大の30%に達した、およびiv)ルミノールはTf−Hpの添加で有意な(95%)PDT効果を誘導した。図5は、細胞毒性ルミノール誘導されたPDT効果が、Tf−Hpおよびルミノールの両方の濃度に依存し、10μMのルミノールと3μMのコンジュゲートの組合せで最大の細胞毒性を生成することをさらに示す。Tf−Hp濃度の減少は、ルミノールのレベルを下げることほどは細胞毒性に対して効果がなかった。ルミノールおよびTf−Hpに対する曝露における同時性がこの細胞毒性のための必要条件かどうかは、細胞をまずTf−Hpで培養し、洗浄し、次いで細胞を種々の遅延時間の後にルミノールに曝露することによって確認された。細胞を洗浄し、そして細胞を培養に戻すまでの時間は約15分であった。30分間のルミノールに対する曝露の遅延は細胞毒性に対して効果がなかったが(図6A)、60分の遅延後、PDT効果は50%減少された。しかしながら、プロトコルを逆にすると(図6B)、24時間のルミノールでの前培養はTf−Hpへの遅延された曝露に対して細胞を敏感にし、PDT効果は用量依存的であることが見出された。
【0017】
本発明は、PDT技術の2つの問題に取り組む。第1の問題は、標的細胞へのPs送達の効率を増強するPDTシステムの開発に関する。標的化されたPDT研究の大半は、アドレス部分としてモノクローナル抗体を使用していた。抗体の使用はいくつかの実際的な制限を引き起こすので、代替的なアプローチはTf−PsコンジュゲートをTf受容体に標的化してもよい。Tfタンパク質[Weaver M.ら:J Neurooncol.65(2003)3−13]およびTf化学物質[Singh M.ら:Anticancer Res.18(1998)1423−7]毒素コンジュゲートの治療上の可能性は、既に試験されてきたが、Tf−Psコンジュゲートについて、特にHpに関しては、10年以上にわたって病院において遊離形態で成功裏に使用されてきた[Dolmans D.E.ら:Nature Reviews Cancer 3(2003) 380−7]にもかかわらず、ほとんど知られておらず、標的化PDTにおいてほとんど試験されてこなかった[Hamblin M. R.ら:J.Photochem.Photobiol.26(1994)45−56]。本発明は、LD50レベルであっても、細胞死の誘導において少なくとも6倍効果的なTf−Hpコンジュゲートを提供する(図2および表1)。
【0018】
標的特異性および有効性の増大を別として、PDT誘導された細胞死はTf−Hpが使用されるときに早くなる。例えば、LTC細胞毒性アッセイの最適化の間に、Tf−Hpへのたった30分間の曝露後にほぼ100%の細胞毒性が達成されたが、遊離Hpの最大活性(24%)に対しては約2時間が必要とされることが本発明者らによって見出された。さらに、HpおよびTf−Hp処理されたFL細胞の蛍光顕微鏡検査は、Tf−Hpがより急速に取り込まれて細胞内細胞小器官に到達し、これは細胞内膜の崩壊をより効果的に提供するだろうということを示した。
【0019】
本発明によって取り組まれるPDT技術の第2の問題は、Psに送達される発光活性化シグナルの供給源に関する。外部放射は組織培養物においてまたは皮下注射の間にPsの均質な励起を提供するが、内部組織内への可視光の浸透は数ミリメートルに限定されており、より深い組織標的に対するPDTの使用を妨げている。この制限を克服するための努力は新しい外部光装置または改善されたカテーテルに注がれてきた。本発明の目的は、Psが添加された標的細胞内で分子的な光放射機構を提供することであった。この戦略は、非侵襲的であり、正常な組織を照射に曝露せず、分子的発光体は生体内で標的細胞に輸送されることができる。本発明者らは、このような分子的システムを説明するためにPDTの細胞内活性化(Intracellular Activation of PDT)(IAP)という用語を使用する。
【0020】
ルミノールは、金属イオンと過酸化水素によって触媒される光放射プロセスを経験する化学発光活性体である。このプロセスは、化学発光検出技術および細胞生理学研究において利用されるが、本発明は癌細胞のPDTの現場におけるエネルギー供給源としてルミノールを利用する。ルミノールの放射スペクトルは、424nmおよび485nmで2つの主要なピークを含む。本発明者らによって、第1のピークはTf−Hpの吸収スペクトルにおけるクレストに一致することが観察され(412nm、図1)、これはHpに対して増強されたTf−Hpの細胞内取り込みと合わせて、ルミノールを含むIAPが効果的であることを示唆している。初めに、HpまたはTf−Hpはルミノールと混合され、暗所でFL細胞培養物に添加された(図4)。先行する報告と一致して、高濃度のTf−Hpは単独で低いレベルの細胞毒性を誘導し[Supino R.ら:Chem.Biol.Interact.57(1986)258−94;Luksiene Z.ら:Medicina 39(2003)677−82]、これはタンパク質キナーゼCの活性を阻害するHpの能力と関連しうる効果であった。Tf−Hpおよびルミノールの両方が細胞に添加されたとき、有意なPDT効果があるだけでなく、Hpに対するTf−Hpの細胞毒性の有効性は外部光供給源で見られる以上に増強された(図2)。しかしながら、IAPシステムにおいてLDMAXを達成するために必要とされるTf−Hpの濃度は、外部放射より6.7倍高かった(図4および表1)。先行研究において、Carpenter[Carpenter S.ら:Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91(1994)12273−7]は、ルシフェラーゼによるルシフェリンの酸化に引き続くヒペリシンの活性化を含む、ウイルスに感染した細胞の死滅を誘導するPDTのための生物発光IAPシステムを記載した。
【0021】
さらなる実験は、PsとIAPシステムが効果的なPDT応答を生成するためには同時に適用されることが必要であるかどうかを評価した(図6)。Tf−Hpを添加された細胞への45分遅れのルミノールの添加は細胞毒性を減少しない。また、細胞はルミノールへの曝露の前に入念に洗浄されたので、これらの結果は膜にゆるく結合している物質よりも細胞内Tf−Hpの活性化を反映する。さらなる30分のルミノールへの曝露の遅延は、PDT効果を半分減少し、Tf−Hp残留時間がこのシステムにおける制限因子であることを示唆する。成分が逆の順序で添加されたとき、ルミノールを添加された細胞はTf−Hpが24時間遅れて添加された場合でさえPDTに対して非常に感受性が高いままであった。
【0022】
述べてきたように、光力学的療法(PDT)は2段階のプロセスを含む。第1の工程において、光吸収光感作物質(Ps)(例えば、ヘマトポルフィリン、Hp)はエンドサイトーシスによって取り込まれる。第2の工程において、Psは光によって活性化され、エネルギーを細胞質の受容体分子に伝達し、この受容体分子は分子状酸素を活性化し、反応性酸素種(ROS)を生じ、この反応性酸素腫は細胞構成要素、特に膜リン脂質に損傷を与える。このプロセスの結果は細胞溶解につながる。病院におけるPDTの使用を拡大する努力は、Ps標的細胞特異性の欠如および外部光放射の組織浸透力の欠如によって妨げられてきた。本発明は、キャリアタンパク質トランスフェリンおよびHpを含むバイオコンジュゲート(Tf−Hp)を提供し、これは赤白血病細胞に対するPDTの特異性および有効性をLD50レベルで約20倍有意に改善する。蛍光顕微鏡検査は、コンジュゲートがエンドサイトーシスによって取り込まれて細胞内小胞中に蓄積し、一方遊離Hpがほとんど膜に結合したことを示した。さらに、本発明者らによってPs活性化のための外部放射の使用は、Tf−Hpに先立ってかまたはTf−Hpと共にルミノールで細胞を培養することによって回避されることができることが示された。ルミノールは細胞内で活性化されて、細胞の95%においてPDT誘導された細胞毒性を刺激する化学発光放射を生じる。これらの戦略はより安全でより効果的なPDTの適用を提供する。
【0023】
本発明は、PDT適用の制限を克服する新しいアプローチを提供する。Tf−Hpシステムを使用する標的化LTC戦略の有効性がまず確立され、次いでルミノールの生体内での適用可能性が実証され、ここで、ルミノールは白血病細胞の破壊のための細胞内CLの強力な分子的誘導物質として使用されることができ、PDTにおける外部光供給源の使用を不要にする。
【0024】
結論として、本発明はPDT誘導された細胞毒性のための実現性のあるビヒクルとしてTf−Hpコンジュゲートを提供する。エンドサイトーシスによって効果的に取り込まれるキャリアタンパク質を使用したPsの増強された標的化は、投薬量を減少することおよび遊離Psで必然的に生成される正常組織への毒性を克服することによってPDTの治療有効性を増大する。従って、本発明は例えば癌のような増殖性疾患に関連する細胞を破壊するための手段を提供する。
【0025】
本発明は、以下の実施例においてさらに説明され、例示される。
【実施例】
【0026】
一般的手順
Hp、ウサギ抗ヒトトランスフェリン、ヤギ抗ウシ血清アルブミン、トランスフェリン、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、およびルミノールは、Sigma−Aldrich Chemical Co.から購入された。N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)およびテトラヒドロフラン(THF)は、Carlo Erbaから購入された。ウマ血清(HS)、ウシ胎仔血清(FCS)、L−グルタミン、および組み合わせられた抗生物質は、Biological Industries Ltd.(Bet Haemek,Israel)から購入された。HPLC溶媒はMerckから購入された。
【0027】
細胞
U−76は、ジニトロフェノール(DNP)に対してIgG1抗体を分泌するマウスハイブリドーマであり、Eshhar教授(Weizmann Institute of Science,Rehovot,Israel)の好意による寄贈品であった。これらの細胞ならびにFriend白血病(FL)細胞は、15% HS、2mM L−グルタミン、および組み合わせられた抗生物質を含有するDMEM中で増殖された。ヒトK562細胞は、RPMI/15% HS/グルタミン/抗生物質中で増殖された。全ての細胞は6% COを含有する加湿された培養器中で37℃で維持された。
【0028】
Hp含有LTCの調製
0.11ミリモルのヘマトポルフィリン塩酸塩は、10mlクロロホルム中に溶解され、0.173ミリモルのNHSおよび0.11ミリモルのDCCの添加によって活性化された。混合物は2.5時間室温で攪拌された。空気流による蒸発後、残留物は2mlのTHFに溶解され、活性化されたHpは氷上で冷却された10mlの0.1M NaHCO中に溶解された15mgのトランスフェリンの溶液にゆっくりと添加された。溶液は室温まで温められ、pH7.5に調整され、一晩激しく攪拌された。Hpを含有する試験管は光曝露から保護された。コンジュゲート溶液は遠心分離され(7200×g、30分、4℃)、上清はタンパク質(λ=280nm)およびHp(λ=400nm)の含有量について分光器によって分析された。透析後、粗反応生成物のごくわずかな量は5mM NaHCO(pH8.0)または10mM PBS(pH7.2)で平衡化されたSephadex G−50上で色層分析された。280nmおよび400nmで吸収ピークを有する物質を含有する画分は回収され、4℃で保存された。
HPLC:Tf、Hp、およびTf−Hpは、JASCO 1575 紫外可視検出器と共にHPLC JASCOー1580を用いてC−18カラム(3.9mm×300mm Bondclone、粒子直径10μm、Phenomenex)上で色層分析された。溶媒系は1%トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリル−水から構成され、化合物は直線勾配(20〜100%アセトニトリル)で溶出された。
吸収スペクトル:Hp(0.02mg/ml)、Tf(1.4mg/ml)、およびTf−Hp(1.4mg/ml)のPBS溶液の吸収スペクトルは、CCDアレイ検出器を備えた、1nmの光学解像度およびミリメートルあたり600本の格子を有するCHEMUSB2−紫外可視分光計で記録された。サンプルは250nm〜500nmの吸収領域で走査された。
生物学的活性:これは抗トランスフェリン抗体または抗BSA抗体のPDT誘導細胞毒性を阻害する能力によって評価され、Tf−Hpに単独であるいは異なる濃度の各抗体と合わせて曝露されたFL細胞を用いて試験された。
【0029】
LTC細胞毒性アッセイ
後期対数増殖期の細胞は37℃まで予め温められたDMEMで洗浄され、0.5〜1×10細胞/mlで単独でまたは増大する濃度のTf−Hp LTCと合わせて6%COにおいて37℃で2時間培養された。細胞は、次いでDMEMで洗浄され、12〜16時間周囲の蛍光(フルエンス率=0.5mW/cm)に曝露され、次いで24時間完全培地において再培養された。細胞生存度はトリパンブルー排除によって決定された。実験は少なくとも3回繰り返された。Psおよび蛍光放射への細胞の最適曝露時間は、予備的な経時実験において決定された。
【0030】
HpおよびTf−Hpエンドサイトーシスの蛍光顕微鏡検査
FL細胞は、HpまたはTf−Hpと一緒に組織培養皿中のスライドガラス上で増殖され、取り込まれた蛍光は、励起のための高圧水銀ランプおよび青紫励起(バンドパス420〜480nm)のための一組のフィルタ、ダイクロイックミラー(455nm)、およびカットオン赤色放射バリアフィルタ(580nm)を備えたAX70 Olympus顕微鏡を用いて種々の時間間隔で追跡された。蛍光は、いかなる抗漂白溶液も加えることなく60倍対物レンズで分析され、CCDカメラによって記録された。
【0031】
ルミノールによる細胞内PDT活性化
FL細胞は、洗浄され、ルミノール(0〜10μM)と一緒に異なる濃度のHpまたはTf−Hp(0.07、0.15、または0.3μM)で20時間培養された。細胞および成分の操作は部屋の電灯を消して行われた。培養期間の間、培養プレートはアルミニウム箔を巻きつけられた。その後、実験は、PDT効果がルミノールまたはTf−Hpコンジュゲートのいずれかへの細胞の曝露を互い違いに行なうことによって得ることができるかどうかを試験することを目的とした。FL細胞は、Tf−Hp(3μM)で37℃で暗所で2時間培養され、洗浄され、標準的な培養濃度の培地に再懸濁された。この手順は約15分かかった。次いで、細胞はさらに0分間、30分間、60分間、または90分間37℃で保たれ、ルミノール(10μM)が添加され、培養物はさらに16時間暗所で培養された。あるいは、細胞はまず10μMのルミノールの存在下で暗所で24時間培養され、洗浄され、または洗浄されずに、次いで37℃でTf−Hp(0〜3μM)の存在下でさらに24時間培養された。洗浄手順および細胞取扱いの間、暗環境に細胞を維持するために特別な配慮がなされた。
【0032】
本発明はいくつかの特定の実施例によって説明されてきたが、多くの変更および変形が可能である。従って、添付の特許請求の範囲内で、本発明は具体的に記載されたのとは違うように実現されてもよいことが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】PBS中のTf、Hp、およびTf−HpのUV可視吸収スペクトルを示す。
【図2A−B】細胞FL(A)およびK562(B)に対するHpおよびTf−Hpの用量依存性細胞毒性を示す。
【図2C】細胞U−76.(C)に対するHpおよびTf−Hpの用量依存性細胞毒性を示す。
【図3】3つの細胞系についてのTf−HpまたはHpによって誘導されたPDTの細胞毒性効率の比較を示す表1である。
【図4】PDT効果の分子的細胞内活性化を示す。
【図5】PDTにおける細胞内活性化に対する2つの成分の効果を示すグラフである。
【図6】細胞毒性に対する2つの成分のLTCと化学発光剤の効果を、それらの適用における遅延およびそれらの適用の順序に関して示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)化学発光剤(CA)によって光活性化されたときにエネルギーを分子状酸素に伝達して反応性酸素種を生成する光感作物質(Ps)を含むリガンド−毒素コンジュゲート(LTC)を標的細胞に結合する工程;
ii)その場に存在する酸素種と反応して化学発光光を生成するCAに前記標的細胞を曝露し、それによって前記標的細胞の細胞構成要素に直接的な損傷を与える工程
を含む、選択された標的細胞を破壊するための方法。
【請求項2】
前記工程i)およびii)は任意の順序でまたは同時に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記LTC中のリガンドはペプチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ペプチドは前記標的細胞の表面上の受容体によって認識される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ペプチドはトランスフェリンである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記Psはヘマトポルフィリンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記LTCはトランスフェリンおよびヘマトポルフィリンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記CAはルミノールまたはルミノール誘導体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記CAは前記LTCに結合される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞は増殖性疾患に関連する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞は癌性細胞である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞は内部身体組織に属する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞は皮膚に属する、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞は細胞培養物に属する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
CAと、Psを含むLTCとを対象に投与し、それによって細胞集団中の細胞を破壊することを含む、細胞集団の望ましくない活動に関連する疾患を対象において治療する方法。
【請求項16】
前記望ましくない活動は増強された増殖である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記LTCの投与および前記CAの投与は、任意の順序でまたは同時に行われる、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記LTCはトランスフェリンを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記Psはヘマトポルフィリンを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記LTCはトランスフェリンおよびヘマトポルフィリンを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記CAはルミノール誘導体またはルミノールを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
前記CAは前記LTCに結合される、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
前記疾患は、癌または過形成に関連する、請求項15に記載の方法。
【請求項24】
Psを含むLTCと、CAとの、癌を治療するための組み合わせられた使用。
【請求項25】
前記LTCはトランスフェリンおよびヘマトポルフィリンを含む、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
前記CAは前記LTCに共有結合される、請求項24に記載の使用。
【請求項27】
その場でリガンド−毒素コンジュゲートを活性化する化学発光剤を含む、増殖性疾患の治療における使用のための医薬組成物。
【請求項28】
リガンド−毒素コンジュゲートを含む、増殖性疾患の治療における使用のための医薬組成物であって、前記リガンドはペプチドであり、前記毒素は光感作物質であり、そして前記光感作物質は化学発光剤によってその場で活性化される、医薬組成物。
【請求項29】
有害な細胞を破壊するための方法であって、光感作物質(Ps)を含むリガンド−毒素コンジュゲート(LTC)を前記細胞に結合する工程;および前記細胞を化学発光剤(CA)に曝露し、それによって前記Psを活性化し、反応性酸素種を生成し、前記有害な細胞の細胞溶解を誘導する工程を含む、方法。

【図1】
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【図2A−B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−536912(P2008−536912A)
【公表日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−507266(P2008−507266)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際出願番号】PCT/IL2006/000487
【国際公開番号】WO2006/111971
【国際公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(507349639)アリエル−ユニヴァーシティ リサーチ アンド ディヴェロップメント カンパニー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】