説明

化学的方法及び装置

本発明は、放射性核種のようなレポーター部分でペプチドのような生物学的活性ベクターを標識するための方法及び装置に関する。本方法は、小口径銅容器内において、式(I)の化合物を式(II)(R*−L2−N3)の化合物と反応させるか或いは式(III)の化合物を式(IV)の化合物と反応させることを含んでなる。本発明の方法を実施するためのミクロ流体装置も特許請求される。
【化1】


【化2】


(式中、L1、L2、L3及びL4の各々はリンカー基であり、R*はレポーター部分である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性核種のようなレポーター部分でペプチドのような生物学的活性ベクターを標識するための方法及び装置に関する。こうして得られる標識コンジュゲートは、例えば放射性医薬品として、さらに具体的には陽電子放射断層撮影(PET)又は単光子放射断層撮影(SPECT)用の診断薬或いは放射線療法のための放射性医薬品として有用である。
【背景技術】
【0002】
放射性標識された生物活性ペプチドを診断イメージングのために使用することは、核医学において重要性を増しつつある。特定の細胞タイプと選択的に相互作用する生物学的活性分子は、標的組織に放射能を送達するために有用である。例えば、放射性標識ペプチドは、診断イメージング及び放射線療法のため、腫瘍、梗塞巣部及び感染組織に放射性核種を送達するための大きな潜在的可能性を有している。約110分の半減期を有する18Fは、多くのレセプターイメージング調査のために最適な陽電子放出核種である。したがって、18F標識された生物活性ペプチドは、多種多様の疾患を定量的に検出して特性決定するためにPETで利用できるので大きな臨床的可能性を有している。他の有用な放射性核種には、11C、125Iや123Iや124Iや131Iのような放射性ヨウ素、及び99mTcがある。
【0003】
これまで、ペプチド及び生体分子を標識するための迅速な汎用法がなかったため、ペプチド及び生体分子を診断薬として使用することができなかった。したがって、放射性核種(例えば、18F)のような標識を特にペプチドに温和な条件下で迅速かつ化学選択的に導入して、高い放射化学収率及び純度で標識生成物を得ることのできる18F標識補欠分子族のような標識剤並びに方法に対するニーズが依然として存在する。同時係属出願である国際公開第2006/067376号には、診断イメージングのためにペプチドのようなベクターを標識するための方法及び試薬が記載されている。さらに、かかる方法であって、臨床現場での診断薬の調製を容易にするための自動化に適した方法に対するニーズも存在する。今回、本発明者らは、触媒兼反応器として役立つ小口径銅容器内で国際公開第2006/067376号の方法を実施することで該方法を改良できるという知見を得た。このようにすれば、放射化学収率を約86%から99%超に高めることができる。加えて、小口径銅容器は自動合成システム内に容易に組み込むことができる。
【特許文献1】国際公開第2006/067376号パンフレット
【特許文献2】国際公開第03/101972号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2005/003294号パンフレット
【特許文献4】国際公開第03/006491号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2005/029042号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2005/025977号パンフレット
【特許文献7】米国特許第3207771号明細書
【特許文献8】米国特許第4735063号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、以下の以下の式(I)の化合物と式(II)の化合物又は式(III)の化合物と式(IV)の化合物とを反応させてそれぞれ式(V)又は(VI)のコンジュゲートを得ることを含むベクターの標識方法であって、該反応が小口径銅容器内で実施される方法。
【0005】
【化1】

【0006】
【化2】

式中、L1、L2、L3及びL4の各々はリンカー基であり、R*はレポーター部分である。
【0007】
【化3】

式中、L1、L2、L3、L4及びR*は上記に定義した通りである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
リンカー基L1、L2、L3及びL4は各々独立に、1〜30のヘテロ原子(例えば、酸素又は窒素)、好適には1〜10のヘテロ原子を任意に含むC1-60ヒドロカルビル基、好適にはC1-30ヒドロカルビル基である。好適なリンカー基には、アルキル鎖、アルケニル鎖、アルキニル鎖、芳香環、多核芳香環及びヘテロ芳香環があり、これらはいずれも例えば1以上のエーテル、チオエーテル、スルホンアミド又はアミド官能基で任意に置換されていてよく、さらにエチレングリコール、アミノ酸又は炭水化物サブユニットを含むモノマー及びポリマーがある。
【0009】
「ヒドロカルビル基」という用語は炭素及び水素からなる有機置換基を意味し、かかる基は飽和部分、不飽和部分又は芳香族部分を含み得る。
【0010】
リンカー基L1、L2、L3及びL4は、得られる式(V)又は(VI)の化合物において好ましい排泄特性などの良好なインビボ薬物動態が得られるように選択できる。親油性及び/又は電荷の異なるリンカー基を使用することで、診断上のニーズに応じてペプチドのインビボ薬物動態を大きく変化させることができる。例えば、式(V)又は(VI)の化合物を腎排泄によって体外に排除することが望ましい場合には親水性リンカーが使用され、肝胆道排泄による排除が望ましい場合には疎水性リンカーが使用される。ポリエチレングリコール部分を含むリンカーは血中クリアランスを遅らせることが判明しており、これは状況によっては望ましい。
【0011】
*は、インビボ光学イメージングのために適したレポーター、放射性核種を含むレポーター、或いは磁気共鳴イメージング(MRI)又は磁気共鳴分光法(MRS)で使用するのに適した同位体を含むレポーターのような、任意のイメージングモダリティによって検出できるレポーター部分である。R*は、好ましくは放射性核種(例えば、陽電子放出型放射性核種)を含む。このような目的に適した陽電子放出型放射性核種には、11C、18F、75Br、76Br、124I、82Rb、68Ga、64Cu及び62Cuがあり、これらのうちで11C又は18Fが好ましい。本発明の一態様では、放射性核種は18Fである。他の有用な放射性核種には、123I、125I、131I、211At、99mTc及び111Inがある。金属放射性核種は、好適には、例えば当業者にとって公知の方法による直接組込みでキレート剤に組み込まれる。金属レポーターのキレート化は、Cu(I)触媒のキレート化を避けるため、好ましくは式(I)又は(IV)の化合物をそれぞれ式(II)又は(III)の化合物と反応させる前に実施される。
【0012】
*に含まれる好適なキレート剤には、以下の式Xのものがある。
【0013】
【化4】

式中、
1A、R2A、R3A及びR4Aは各々独立にRA基であり、
A基は各々独立にH、C1-10アルキル、C3-10アルキルアリール、C2-10アルコキシアルキル、C1-10ヒドロキシアルキル、C1-10アルキルアミン又はC1-10フルオロアルキルであるか、或いは2以上のRA基がこれらに結合した原子と共に炭素環式又は複素環式の飽和又は不飽和環を形成する。
或いは、R*は下記の式(i)、(ii)、(iii)又は(iv)で表されるキレート剤を含み得る。
【0014】
【化5】

キレート剤の好ましい例は下記の式(v)で表される。
【0015】
【化6】

式Xのキレート剤を含む式(II)又は(IV)の化合物を放射性標識すれば、中性pH付近の水性条件下において室温で良好な放射化学純度(RCP)を得ることができる。
【0016】
*がインビボ光学イメージングのために適したレポーターである場合、レポーターは光学イメージング手続きで直接又は間接に検出できる任意の成分である。レポーターは、光散乱剤(例えば、着色又は無着色粒子)、吸光剤又は発光剤であり得る。さらに好ましくは、レポーターは発色団又は蛍光化合物のような染料である。染料は、紫外域乃至近赤外域の波長をもった電磁スペクトル中の光と相互作用する任意の染料であり得る。最も好ましくは、レポーターは蛍光特性を有する。好ましい有機発色性及び発蛍光性レポーターには、広範な非局在化電子系を有する群、例えばシアニン類、メロシアニン類、インドシアニン類、フタロシアニン類、ナフタロシアニン類、トリフェニルメチン類、ポルフィリン類、ピリリウム染料、チアピリリウム染料、スクアリリウム染料、クロコニウム染料、アズレニウム染料、インドアニリン類、ベンゾフェノキサジニウム染料、ベンゾチアフェノチアジニウム染料、アントラキノン類、ナフトキノン類、インダスレン類、フタロイルアクリドン類、トリスフェノキノン類、アゾ染料、分子内及び分子間電荷移動染料及び染料錯体、トロポン類、テトラジン類、ビス(ジチオレン)錯体、ビス(ベンゼン−ジチオレート)錯体、インドアニリン染料、ビス(S,O−ジチオレン)錯体がある。緑色蛍光タンパク質(GFP)及び異なる吸収/発光特性を有するGFPの変種のような蛍光タンパク質も有用である。特定の状況においてはある種の希土類金属(例えば、ユウロピウム、サマリウム、テルビウム又はジスプロシウム)の錯体が使用され、蛍光ナノ結晶(量子ドット)についても同様である。
【0017】
使用できる発色団の具体例には、フルオレセイン、スルホローダミン101(Texas Red)、ローダミンB、ローダミン6G、ローダミン19、インドシアニングリーン、Cy2、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7、Marina Blue、Pacific Blue、Oregon Green 88、Oregon Green 514、テトラメチルローダミン、Alexa Fluor 350、Alexa Fluor 430、Alexa Fluor 532、Alexa Fluor 546、Alexa Fluor 555、Alexa Fluor 568、Alexa Fluor 594、Alexa Fluor 633、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 660、Alexa Fluor 680、Alexa Fluor 700及びAlexa Fluor 750がある。
【0018】
発色団を導入するための好適な方法は、国際公開第98/048838号に詳述されている。
【0019】
*が磁気共鳴イメージング(MRI)又は磁気共鳴分光法(MRS)で使用するのに適した同位体を含む場合、かかる同位体は好適には19F及び13Cから選択される。
【0020】
式(I)及び(III)中並びに特記しない限り本発明の他の態様では、標識用の好適なベクターはペプチドである。かかるペプチドには、オクトレオチドのようなソマトスタチン類似体、ボンベシン、血管作用性小腸ペプチド、走化性ペプチド類似体、α−メラノサイト刺激ホルモン、ニューロテンシン、Arg−Gly−Aspペプチド、ヒトプロインスリン結合ペプチド、インスリン、エンドセリン、アンギオテンシン、ブラジキニン、エンドスタチン、アンギオスタチン、グルタチオン、カルシトニン、マガイニンI及びII、黄体形成ホルモン放出ホルモン、ガストリン、コレシストキニン、サブスタンスP、バソプレッシン、ホルミル−ノルロイシル−ロイシル−フェニルアラニル−ノルロイシル−チロシル−リシン、アネキシンV類似体、バソアクティブプロテイン−1(VAP−1)ペプチド並びにカスパーゼペプチド基質がある。好ましい標識用ペプチドは、国際公開第01/77415号及び同第03/006491号に記載されているもののようなArg−Gly−Aspペプチド及びその類似体、好ましくは次式のフラグメントを含むペプチドである。
【0021】
【化7】

さらに好ましくは、次の式(A)のペプチドである。
【0022】
【化8】

式中、X7は−NH2又は次式の基である。
【0023】
【化9】

式中、aは1〜10の整数であり、好ましくはaは1である。
【0024】
当業者には容易に理解されようが、本発明の方法は、タンパク質、ホルモン、多糖類、オリゴヌクレオチド及び抗体フラグメントのような他の生体分子、細胞、細菌、ウィルス並びに薬物様低分子の放射性標識にも使用でき、多種多様な診断薬を与える。式(I)及び(III)中並びに特記しない限り本発明の他の態様では、特に好適な放射性標識用ベクターはペプチド、タンパク質、ホルモン、細胞、細菌、ウィルス及び薬物様低分子である。
【0025】
小口径銅容器内における式(I)の化合物と式(II)の化合物との反応、又は式(III)の化合物と式(IV)の化合物との反応は、適当な溶媒(例えば、アセトニトリル、C1-4アルキルアルコール、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド又はこれらのいずれかの水性混合物、或いは水)中において5〜200℃(好ましくは50〜150℃)の温度で実施できる。
【0026】
反応を実施するために使用される小口径銅容器は、好ましくは小口径の管(例えば、固体担体充填物を含まないHPLCループ)の形態を有する。小口径銅容器は金属銅で作製するのが好都合であるが、当業者には理解される通り、金属銅の内面を有しさえすれば何らかの他の適当な材料で小口径容器を作製してもよい。小口径銅容器の内径は、通常は約1マイクロメートル〜1.5mm、好ましくは40〜200μmの範囲内にある。小口径銅容器を通して試薬をフラッシュできるように、その両端が開いていれば特に好都合である。
【0027】
小口径銅容器の長さは、反応を達成するためには十分に長いが容器内の滞留時間を最小にするためには十分に短くなるように選択される。小口径の管の形態を有する小口径銅容器にとって好都合な長さは、約5〜50cm、さらに通常は5〜20cm、典型的には約15cmである。
【0028】
反応に際しては、小口径銅容器の内面上に本質的に存在するCu(I)が触媒として機能すると考えられる。
【0029】
本発明のさらに別の態様では、反応を実施するために使用される小口径銅容器は、第1の開口、第2の開口及びそれらを流体連通する1以上の細長いミクロ流体通路を画成する装置本体を含むミクロ流体装置であって、ミクロ流体通路の少なくとも一部は装置本体の金属銅部分によって画成されている。かかるミクロ流体装置では、典型的には10〜300μm、さらに典型的には50〜300μmの直径を有する所定のミクロ流体通路は、エッチング又は他の機械加工によって装置本体に(好都合にはその一表面上に)形成される。装置本体は、好都合には銅ブロックから作製される。別法としては、装置本体は例えばガラス、シリコン、ポリマー又は金属であり、その中に形成されたミクロ流体通路にスパッタリング、電気めっき又は他の堆積技法で銅被膜が設置される。
【0030】
これらのミクロ流体通路は、好ましくは銅で作製され、別法としては別の金属又はさらに一般的には上述したように銅で被覆したガラスで作製されたカバープレートによって部分的に画成することができる。カバープレートによってミクロ流体通路を画成すれば、ピコリットル量の液体又は気体を操作できる内蔵ネットワークが生み出される。カバープレートを所定の場所に封止するために使用される方法は選択される材料に依存するが、好都合には2つの表面間に不活性ガスケットシール(例えば、Teflon(商標)シール)を任意に含むクランピングである。かかる装置は、毎分数百マイクロリットルまでの流量を処理することができる。これは、例えば、複数の装置を積み重ねることでさらに増加させることができる。これらの装置は、ポンプ、マイクロシリンジポンプ(例えば、Kloehen Limited(ラスヴェガス、米国)から入手できるもの)、又は試薬との界面部分に融解石英毛管を用いる電気浸透流れと共に使用するように設計される。カバープレートは、任意にはミクロ流体通路の一部を画成する。
【0031】
好ましい実施形態では、ミクロ流体装置は銅ブロックにミクロ流体通路をエッチングすることで作製されるが、これは化学エッチング剤(例えば、塩化第二鉄)を用いて達成できる。次いで、ミクロ流体通路の少なくとも一部を任意に画成する銅製カバープレートで覆えばよい。
【0032】
上述したように本発明の方法を実施するために有用な特定のミクロ流体装置は新規であり、したがって本発明のさらに別の態様をなす。
【0033】
かくして、本発明のさらに別の態様では、本発明に係る方法を実施するためのミクロ流体装置であって、当該装置は第1の開口(c)、第2の開口(d)及びそれらを流体連通する1以上の細長いミクロ流体通路(a)を画成する装置本体を含み、ミクロ流体通路(a)の少なくとも一部は装置本体の金属銅部分によって画成されているミクロ流体装置が提供される。好適には、1以上のミクロ流体通路を画成する装置本体は金属銅で形成されている。
【0034】
さらに別の態様では、装置本体はさらに、第1の開口、第2の開口及びそれらを流体連通する1以上の細長いミクロ流体通路を画成するベース部とカバー部とを含む。好適には、ミクロ流体通路は、ベース部又はカバー部のいずれか或いはそれらの間に上下に整合して形成された流路からなる。
【0035】
本発明のさらに別の態様では、上述のミクロ流体装置であって、ミクロ流体通路が上記で定義した式(I)、(II)、(III)又は(IV)の化合物を含むミクロ流体装置が提供される。
【0036】
放射性合成を実施するためにミクロ加工装置又はミクロ流体装置を使用することは、国際公開第03/078358号に記載されている。ミクロ加工装置の製造方法及び特に合成化学でのそれの使用に関する総説は、DeWitt(1999)“Microreactors for Chemical Synthesis”,Current Opinion in Chemical Biology,:350−6、Haswell,Middleton et al(2001)“The Application of Microreactors to Synthetic Chemistry”,Chemical Communications:391−8、Haswell and Skelton(2000)“Chemical and Biochemical Microreactors”,Trends in Analytical Chemistry,19(6),389−395、及びJensen(2001)“Microreaction Engineering−Is Small Better?”,Chemical Engineering Science,56:293−303に見出すことができる。
【0037】
次に、本発明のこの態様の一実施形態を、本発明に係る方法を実施するために適した本発明に係るミクロ加工装置の分解図を示す図2を参照しながら説明する。ベース部(11)に形成された銅ミクロ流体通路(10)は、1メートルの長さ及び0.22mmの内径(38μLの管容積)を有している。カバープレート(12)を所定の位置にクランプすることでミクロ流体通路が封止される。微小口径のプラスチック送入管(図示せず)を介して、気密注射器(Hamilton社、500μl)(図示せず)がミクロ加工装置に連結される。プラスチック送入管は、ねじを切った入口(8)に対して適当な圧縮継手を使用することでミクロ加工装置に連結される。同様な方法を用いて、排出管が出口(9)に連結される。反応混合物は、300℃までの温度及び0.5ml/分までの流量でミクロ加工装置にポンプ送入できる。適当な温度調節器を用いて、加熱キャビティ(13)内に配置された電気加熱カートリッジを加熱できる。
【0038】
本発明は、ペプチド又はベクター前駆体の合成に際して標識の正確な導入部位が予め選択される化学選択的な放射性標識アプローチを提供する。ベクター中の所定部位で起こる連結反応は、ただ1種の可能な生成物を与える。したがって、このような方法は化学選択的であり、それの用途は多種多様のペプチド、生体分子及び低分子量薬物に対して汎用的であると考えられる。さらに、アルキン及びアジド官能基は共にほとんどの反応条件下で安定であり、しかも大抵の慣用ペプチド官能基と反応しないので、標識合成の際に必要な保護及び脱保護段階が最小限で済む。さらに、標識反応時に形成されるトリアゾール環は加水分解せず、しかも酸化及び還元に対して極めて安定であり、これは標識ベクターが高いインビボ安定性を有することを意味する。トリアゾール環はまた、アミドと同程度の大きさ及び極性であるので、標識ペプチド又はタンパク質は対応する天然物に対する良い模倣体となる。
【0039】
ベクターがペプチド又はタンパク質である式(I)及び(III)の化合物は、ペプチド合成の常法、例えばAtherton,E.and Sheppard,R.C.;“Solid Phase Synthesis”;IRL Press:Oxford,1989に記載されているような固相ペプチド合成法で製造できる。式(I)又は(III)の化合物中へのアルキン又はアジド基の導入は、ペプチドのN又はC末端の反応、或いはペプチド配列に含まれる何らかの他の官能基であって、それの修飾がベクターの結合特性に影響を及ぼさない官能基との反応によって達成できる。アルキン又はアジド基は、好ましくは安定なアミド結合の形成によって式(I)又は(III)の化合物に導入される。かかるアミド結合は、例えば、ペプチドのアミン官能基と活性化された酸との反応或いは別法としてペプチドの酸官能基とアミン官能基との反応によって形成され、ペプチドの合成中又は合成後に導入される。細胞、ウィルス、細菌のようなベクターにアルキン又はアジド基を導入する方法は、H.C.Kolb and K.B.Sharpless,Drug Discovery Today,Vol 8(24),December 2003及びその引用文献に見出すことができる。式(I)又は(III)の化合物にアルキン又はアジド基を導入するために有用である好適な中間体には以下のものがある。
【0040】
【化10】

本発明の方法で使用するための好ましい式(IV)の化合物には以下のものがある。
【0041】
【化11】

*11C放射性標識を含む式(II)の化合物は、例えば下記の図式に従って製造できる。
【0042】
【化12】

式中、−NuHは、ヒドロキシル、チオール、アミン官能基のような求核性反応中心である。
【0043】
*18Fである式(II)の化合物は、例えば次式のように、求電子又は求核フッ素化反応で製造できる。
【0044】
【化13】

式(II)の化合物を製造するための好適な放射性フッ素化方法には、環状ポリエーテル(例えば、18−クラウン−6又はKryptpfix2.2.2)のような相間移動剤の存在下で、脱離基(例えば、アルキル又はアリールスルホネート(例えば、メシレート、トリフレート又はトシレート)、ニトロ或いはトリアルキルアンモニウム塩)を組み込んだ前駆体を18-と反応させるものがある。この反応は、当技術分野で公知の標準的条件[例えば、M.J.Welch and C.S.Redvanly,“Handbook of Radiopharmaceuticals”,Wiley社発行]下において(アセトニトリルのような非プロトン性溶剤を溶媒として用いた)溶液相中で実施するか、或いは国際公開第03/002157号に記載された方法に従って式(II)の化合物の精製を容易にするために固体担体を用いて実施できる。
【0045】
式(IV)の化合物は、式(II)の化合物の合成に関して記載した方法に類似する方法により、適当なアセチレン前駆体から製造できる。
【0046】
式(V)又は(VI)の標識ベクターは、インビボイメージングのため、所望の信号を得るのに十分な量で患者に投与すればよく、PET又はSPECTイメージングのための典型的な放射性核種投与量は体重70kg当たり0.01〜100mCi、好ましくは0.1〜50mCiで通常は十分である。
【0047】
したがって、式(V)又は(VI)の標識ベクターは、完全に当業者の技術常識に属するやり方で、生理学的に許容されるキャリヤー又は賦形剤を用いて投与用に製剤化すればよい。例えば、薬学的に許容される賦形剤を任意に添加した化合物を水性媒質に懸濁又は溶解し、次いで得られた溶液又は懸濁液を滅菌すればよい。
【0048】
本明細書に記載した化学反応は、診断薬又はインビボイメージング剤としてのスクリーニングに適した放射性標識ベクターのライブラリの作製にも使用できる。即ち、上述した方法を用いて式(II)又は(IV)の補欠分子族の混合物をそれぞれ式(I)又は(III)の化合物の1種以上と反応させることで、放射性標識ベクターのライブラリを得ることができる。
【実施例】
【0049】
以下の実施例によって本発明を例示するが、実施例では下記の略語を用いる。
HPLC:高速液体クロマトグラフィー
DMF:N,N−ジメチルホルムアミド
DMSO:ジメチルスルホキシド
ESI−MS:エレクトロスプレーイオン化質量分析法
rt:室温
TOF−ESI−MS:飛行時間型エレクトロスプレーイオン化質量分析法
FT−IR:フーリエ変換赤外
ppm:百万分率
TFA:トリフルオロ酢酸
ACN:アセトニトリル
実施例1:銅ループ反応器を用いる[18F]−4−(2−フルオロエチル)−トリアゾール−1−イル−[KGFGK]の製造
本実施例は図1を参照しながら説明する。加熱銅管は1.0mの長さ及び0.56mmの内径(246μlの管容積)を有している。
【0050】
【化14】

モデルペプチド(2.4mg、4.08μmol)、リン酸ナトリウム緩衝液(0.2ml、pH6.0、250mM)及びDMF(0.05ml)の溶液を、アセトニトリル(0.2ml)中の[18F]2−フルオロエチルアジド(0.6mCi、23MBq)と混合する。ハミルトン気密ガラス注射器(1)に標識混合物をロードし、次いでこれを0.2ml/分の流量で80℃の銅ループ(2)にポンプ送入する。電気加熱シリンダー(3)は、温度制御ユニット(5)を備えた加熱モジュール(4)によって最高200℃まで加熱できる。反応混合物は、ベント(7)を備えたバイアル(6)内に捕集する。反応混合物をHPLCで分析すれば、3〜4分後に85%の放射化学収率でが生成されることがわかる。同一条件下で標識混合物を銅ループ反応器に再注入すれば、>99%の放射化学収率が得られる。
【0051】
比較例11では、ペプチド濃度がずっと高かった(9mMに対して17mM)にもかかわらず、86%という低い標識収率が得られた。このように、本実施例は双極性1,3−付加環化反応を触媒するために銅ループ反応器装置を使用することの利益を実証している。
【0052】
実施例2:銅ループ反応器を用いる化合物20の製造
化合物19(2.9mg、2.04μmol)を、ジメチルホルムアミド(25μl)の添加物と共にリン酸ナトリウム緩衝液(100μl、pH6.0、100mM)に溶解した。アセトニトリル(100μl)中の化合物11(518μCi/19MBq)を添加した後、混合物を0.1ml/分の流量で80℃の予熱銅ループ反応器にポンプ送入した。次いで、系を水(0.5ml)でフラッシュした。第1及び第2の画分のHPLC分析により、それぞれ9%及び34%の標識効率が判明した。系からの放射能の総回収率は53%であった。
【0053】
実施例3:銅ループ反応器を用いる[18F]−4−(2−フルオロエチル)−トリアゾール−1−イル−[KGFGK]の製造
モデルペプチド(2.4mg、4.08μmol)、リン酸ナトリウム緩衝液(0.2ml、pH6.0、250mM)及びDMF(0.05ml)の溶液を、アセトニトリル(0.2ml)中の[18F]2−フルオロエチルアジド(0.9mCi、34MBq)と混合する。0.1ml/分の流量を用いる点を除き、実施例1に記載したようにして混合物を加熱銅ループにポンプ送入する。混合物の通過時間は3分であり、総反応時間は10分である。標識ペプチドを77%の回収率(崩壊補正)で捕集する。放射化学純度は>99%である。水(1ml)、水/TFA(1/1、2ml)、水(2ml)及びアセトニトリル(3ml)を用いて銅ループ反応器を洗浄し、窒素流(1分、50ml/分)を用いて乾燥する。同じ初期放射能の[18F]2−フルオロエチルアジドを用いて実験を繰り返す。単離されたの放射化学収率は71%(崩壊補正)であり、放射化学純度は98%である。
【0054】
参照化合物の製造
【0055】
【化15】

比較例1―化合物(2):1−アジド−2−フルオロエタンの製造
トルエン−4−スルホン酸2−フルオロエチルエステル(化合物(1))をE.U.T.van Velzen et al.,Synthesis(1995)989−997に記載されたようにして製造した。化合物(1)(128mg、0.586mmol)及びアジ化ナトリウム(114mg、1.758mmol)を無水DMF(10ml)と混合し、室温で48時間撹拌した。反応混合物を濾過したが、生成物(2)は反応溶液から単離されなかった。
【0056】
比較例2―化合物(3):1−(2−フルオロエチル)−4−フェニル−1H−[1,2,3]トリアゾールの製造
DMF(1ml)中のフェニルアセチレン(105μl、0.977mmol)を窒素下で水(0.3ml)中の硫酸銅(II)五水塩(12mg、0.0489mmol)及びL−アスコルビン酸(16mg、0.0977mmol)の撹拌溶液に添加した。DMF(5ml)中の化合物(2)(1.172mmol)を添加した後、室温で21時間攪拌を続けた。反応混合物を水(5ml)で希釈し、粗生成物をジクロロメタン(3×5ml)で抽出し、重炭酸ナトリウム溶液(10%、3×10ml)及び塩水(1×5ml)で洗浄した。硫酸ナトリウム上で乾燥した後、溶媒を減圧下で除去し、粗標品をフラッシュクロマトグラフィー(シリカ、ヘキサン/酢酸エチル)を用いて精製した。
収量:32mg(17%)、白色結晶、m.p.83〜85℃。
1H−NMR(CDCl3):δ=4.70(m,1H,CH2)、4.76(m,1H,CH2)、4.80(m,1H,CH2)、4.89(m,1H,CH2)、7.35(tt,1.0Hz,7.5Hz,1H,HAr)、7.44(m,2H,HAr)、7.84(m,2H,HAr)、7.89(d,1Hz,1H,CH−トリアゾール)ppm。
GC−MS:m/z=191。
TOF−ESI−MS:実測値 m/z=192.0935[MH]+、C10103Fの計算値[MH]+ m/z=192.0932。
【0057】
比較例3―化合物(4):4−[1−(2−フルオロエチル)−1H−[1,2,3]トリアゾール−4−イル]−フェニルアミンの製造
DMF(0.7ml)中の4−エチニルアニリン(40mg、0.344mmol)を窒素下で水(1.2ml)中の硫酸銅(II)五水塩(129mg、0.516mmol)及びL−アスコルビン酸(182mg、1.032mmol)の撹拌溶液に添加した。DMF(2.45ml)中の化合物(2)(0.287mmol)を添加した後、室温で4時間攪拌を続けた。反応混合物を水酸化ナトリウム溶液(1M、5ml)で奪活した。生成物を酢酸エチル(3×5ml)で抽出し、水(5ml)及び塩水(2ml)で洗浄した。硫酸ナトリウム上で乾燥した後、溶媒を減圧下で除去し、粗標品をフラッシュクロマトグラフィー(シリカ、ヘキサン/酢酸エチル)を用いて精製した。収量:15mg(25%)、ベージュ色結晶、m.p.79〜82℃。
1H−NMR(CDCl3):δ=4.70(m,1H,CH2)、4.72(m,1H,CH2)、4.77(m,1H,CH2)、4.88(m,1H,CH2)、6.74(m,2H,HAr)、7.63(m,2H,HAr)、7.74(d,0.1Hz,1H,CH−トリアゾール)ppm。
TOF−ESI−MS:実測値 m/z=207.1030[MH]+、C10114Fの計算値[MH]+ m/z=207.1040。
【0058】
比較例4―化合物(5):1−(2−フルオロエチル)−1H−[1,2,3]トリアゾール−4−カルボン酸ベンジルアミドの製造
G.M.Coppola & R.E.Damon,Synthetic Communications,23(1993)2003−2010のプロトコルに従って製造したプロピン酸ベンジルアミド(50mg、0.314mmol)をDMF(1ml)に溶解し、窒素下で水(0.4ml)中の硫酸銅(II)五水塩(3.9mg、0.0157mmol)及びL−アスコルビン酸(11mg、0.0628mmol)の撹拌溶液に添加した。DMF(3.2ml)中の化合物(2)(0.377mmol)を添加した後、室温で48時間攪拌を続けた。反応混合物を重炭酸ナトリウム(10%、5ml)で希釈し、粗生成物をジクロロメタン(3×5ml)で抽出し、塩水(5ml)で洗浄した。硫酸ナトリウム上で乾燥した後、溶媒を減圧下で除去し、粗標品を酢酸エチル/ジエチルエーテルからの再結晶によって精製した。
収量:8mg(10%)、白色結晶、m.p.165〜167℃。
1H−NMR(CDCl3):δ=4.70(m,6H,CH2)、7.34(m,5H,HAr)、7.46(m,1H,NH)、8.20(s,1H,CH−トリアゾール)ppm。
TOF−ESI−MS:実測値 m/z=249.1143[MH]+、C12134OFの計算値[MH]+ m/z=249.1146。
【0059】
比較例5―化合物(6):N−ベンジル−3−[1−(2−フルオロエチル)−1H−[1,2,3]トリアゾール−4−イル]プロピオンアミドの製造
ペント−4−イン酸ベンジルアミド:この化合物は、N−スクシンイミジル中間体の単離以外は、G.M.Coppola及びR.E.Damon(比較例4参照)によって記載された方法と同様な方法を用いて合成した。
収量:100mg(53%)、白色針状晶、m.p.50〜55℃。
1H−NMR(CDCl3):δ=1.98(m,1H,アルキン−CH)、2.44(m,2H,CH2)、2.56(m,2H,CH2)、4.46(d,2H,CH2N)、7.29〜7.25(m,5H,HAr)ppm。
FT−IR(フィルム):1651、1629cm-1
TOF−ESI−MS:実測値 m/z=188.1073[MH]+、C1213NOの計算値[MH]+ m/z=188.1070。
【0060】
N−ベンジル−3−[1−(2−フルオロエチル)−1H−[1,2,3]トリアゾール−4−イル]プロピオンアミド:メタノール(0.5ml)中のペント−4−イン酸ベンジルアミド(50mg、0.267mmol)、DMF(2.62ml)中の化合物(2)(0.320mmol)、及びジイソプロピルアミン(0.233ml、1.335mmol)を窒素下でヨウ化銅(I)(255mg、1.335mmol)のメタノール(0.8ml)中撹拌懸濁液に添加した。室温で2時間攪拌を続けた。反応混合物を水(10ml)中のリン酸水素ナトリウム(1g)の溶液で奪活し、セライトで濾過した。粗生成物を酢酸エチル(3×20ml)で抽出し、塩水(20ml)で洗浄した。硫酸ナトリウム上で乾燥した後、溶媒を減圧下で除去し、粗標品をシリカ及び酢酸エチル/ヘキサンを用いたカラムクロマトグラフィーで精製した。
収量:19mg(26%)、白色結晶、m.p.127〜133℃。
1H−NMR(CDCl3):δ=2.66(t,7.0Hz,2H,CH2)、3.09(t,7.0Hz,2H,CH2)、4.40(d,5.7Hz,2H,ベンジル−CH2)、4.56(m,2H,CH2)、4.61(m,2H,CH2)、4.70(m,2H,CH2)、4.80(m,2H,CH2)、6.0(s,1H,NH)、7.0〜7.3(m,5H,HAr)、7.44(s,1H,CH−トリアゾール)ppm。
TOF−ESI−MS:実測値 m/z=277.1474[MH]+、C12134OFの計算値[MH]+ m/z=277.1459。
【0061】
比較例6―化合物(7):4−[1−(2−フルオロエチル)−1H−[1,2,3]トリアゾール−4−イル]安息香酸の製造
DMF(1.5ml)中の4−エチニル安息香酸ナトリウム(50mg、0.297mmol)を窒素下で水(0.2ml)中の硫酸銅(II)五水塩(3.7mg、0.0149mmol)及びL−アスコルビン酸(10.5mg、0.0595mmol)の撹拌溶液に添加した。DMF(0.76ml)中の化合物(2)(0.356mmol)を添加した後、室温で12時間攪拌を続けた。反応混合物をHCl(20ml、1M)で希釈した。粗生成物を酢酸エチル(3×10ml)で抽出し、塩水(10ml)で洗浄した。硫酸ナトリウム上で乾燥した後、溶媒を減圧下で除去し、粗標品を酢酸エチル/ヘキサンから再結晶した。
収量:37mg(52%)、白色結晶、m.p.236〜240℃。
1H−NMR(DMSO−d6):δ=4.74(m,1H,CH2)、4.80(m,2H,CH2)、4.90(m,1H,CH2)、8.70(s,1Hz,1H,CH−トリアゾール)ppm。
TOF−ESI−MS:実測値 m/z=236.0838[MH]+、C111032Fの計算値[MH]+ m/z=236.0830。
【0062】
比較例7―化合物(8):1−(2−フルオロエチル)−1H−[1,2,3]トリアゾール−4−カルボン酸の製造
DMF(0.5ml)中のプロピオル酸(60μl、0.977mmol)を窒素下で水(0.4ml)中の硫酸銅(II)五水塩(12mg、0.0489mmol)及びL−アスコルビン酸(34mg、0.135mmol)の撹拌溶液に添加した。DMF(2.5ml)中の化合物(2)(1.172mmol)を添加した後、室温で4時間攪拌を続けた。反応混合物をHCl(20ml、1M)で奪活し、粗生成物を酢酸エチル(3×20ml)で抽出した。塩水(5ml)で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥した後、溶媒を減圧下で除去し、生成物を酢酸エチル/ヘキサンからの再結晶によって精製した。
収量:16mg(10%)、白色結晶、m.p.160〜165℃。
1H−NMR(DMSO−d6):δ=4.74(m,1H,CH2)、4.80(m,2H,CH2)、4.90(m,1H,CH2)、8.71(s,1H,CH−トリアゾール)ppm。
TOF−ESI−MS:実測値 m/z=160.0518[MH]+、C5632Fの計算値[MH]+ m/z=160.0517。
【0063】
比較例8―化合物(9):2−アセチルアミノ−3−[1−(2−フルオロエチル)−1H−[1,2,3]トリアゾール−4−イル]プロピオン酸エチルエステルの製造
メタノール(1ml)中の2−アセチルアミノペント−4−イン酸エチルエステル(200mg、1.09mmol)を窒素下で銅粉(200mg、40メッシュ)に添加した後、DMF(3ml)中の化合物(2)(1.09mmol)の溶液を添加した。混合物を90分間撹拌した後、80℃で3時間加熱した。化合物(9)を逆相フラッシュクロマトグラフィー(アセトニトリル/水)で単離した。
収量:145mg(49%)、油、4℃での保存で結晶、m.p.55〜60℃。
1H−NMR(CDCl3):δ=1.13(t,3H,CH2CH3)、1.82(s,3H,CH3)、2.97(dd,2J=14.9Hz,3J=8.5Hz,1H,プロピオン酸−CH2)、3.07(dd,2J=14.9Hz,3J=6.0Hz,1H,プロピオン酸−CH2)、4.05(m,2H,OCH2CH3)、4.47(m,1H,CH)、4.46(m,1H,CH2)、4.64(m,1H,CH2)、4.70(m,1H,CH2)、4.81(m,1H,CH2)、7.89(s,1H,トリアゾール−CH)、8.31(d,1H,NH)ppm。
TOF−ESI−MS:実測値 m/z=273.1372[MH]+、C111743Fの計算値[MH]+ m/z=273.1357。
【0064】
放射化学
【0065】
【化16】

比較例9―化合物(11):[18F]1−アジド−2−フルオロエタンの製造
18Fフッ化物は、濃縮[18O]H2Oターゲットの19MeVプロトン照射による18O(p,n)18F核反応を用いてサイクロトロンで生成させた。照射後、Kryptofix(登録商標)(5mg)、炭酸カリウム(1mg)及びアセトニトリル(1ml)の混合物を18F水(1ml)に添加した。窒素流(100ml/分)下において80℃で加熱して溶媒を除去した。その後、アセトニトリル(0.5ml)を添加し、加熱及び窒素流下で蒸発させた。この操作を2回繰り返した。室温に冷却した後、無水アセトニトリル(0.2ml)中の化合物(10)の溶液[1.5μl、Z.P.Demko and K.B.Sharpless,Org.Lett.3(2001)4091に記載の方法に従って調製]を添加した。反応混合物を80℃で30分間撹拌した。化合物(11)を、蒸留(効率76±8%(n=7))により、40±14%(n=7)の崩壊補正放射化学収率で単離した。
【0066】
比較例10―化合物(12)〜(16):[18F]1−(2−フルオロエチル)−1H−[1,2,3]トリアゾール類の製造
【0067】
【表1】

DMF(0.1ml)中のアルキン試薬(0.015mmol)の溶液を窒素下で硫酸銅(II)(5当量)とL−アスコルビン酸(20当量)との混合物に添加した。アセトニトリル(0.2ml)中の化合物(11)の溶液を添加した。80℃で30分間攪拌した後、反応混合物をHPLCで分析した。
【0068】
比較例11―化合物(18):[18F](S)−6−アミノ−2−(2−{(S)−2−[2−((S)−6−アミノ−2−{[4−(2−フルオロエチル)−[1,2,3]トリアゾール−1−カルボニル]アミノ}ヘキサノイルアミノ)アセチルアミノ]−3−フェニルプロピオニルアミノ}アセチルアミノ)ヘキサン酸の製造
【0069】
【化17】

化合物(17)(1mg、1.7μmol)をリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0、0.25M、0.05ml)に溶解した。アセトニトリル(0.05ml)中の化合物(11)(175μCi、6.5MBq)を添加し、次いで銅顆粒(400mg、10〜40メッシュ)を添加した。混合物を80℃で5分間加熱した。HPLC分析の結果、放射性標識ペプチド(18)は86%であった。
【0070】
比較例12―化合物(20)の製造
【0071】
【化18】

(i)化合物19:Cys2−6;c[CH2CO−Lys(DL−Pra−Ac)−Cys−Arg−Gly−Asp−Cys−Phe−Cys]−CCX6−NH2の製造
Ac−DL−Pra−OH(31mg)、(7−アザベンゾトリアゾール−1−イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(PyAOP)(104mg)及びN−メチルモルホリン(NMM)(88μL)をジメチルホルムアミド(DMF)(3mL)に溶解し、混合物を5分撹拌した後、国際公開第2005/003166号に記載されたようにして製造してDMF(4ml)に溶解したClCH2CO−Lys−Cys(tBu)−Arg−Gly−Asp−Cys(tBu)−Phe−Cys−PEG−NH2(126mg)を添加した。反応混合物を45分間撹拌した。追加のClCH2CO−Lys−Cys(tBu)−Arg−Gly−Asp−Cys(tBu)−Phe−Cys−PEG−NH2(132mg)及びNMM(44μL)を添加し、45分間攪拌を続けた。次いでDMFを真空中で蒸発させ、残留物(5ml)を10%アセトニトリル(ACN)/水(100ml)で希釈し、分取HPLCを用いて生成物を精製した。
【0072】
精製及び特性決定
分取HPLC(勾配:A=H2O/0.1%TFA及びB=ACN/0.1%TFAの場合に60分で10〜40%B、流量:50mL/分、カラム:Phenomenex Luna 5μ C18(2)250×50mm、検出:UV214nm、生成物保持時間:31.3分)による希釈残留物の精製で、170mgの純粋AH−112145を得た。
【0073】
純粋生成物を分析HPLC(勾配:A=H2O/0.1%TFA及びB=ACN/0.1%TFAの場合に10分で10〜40%B、流量:0.3mL/分、カラム:Phenomenex Luna 3μ C18(2)50×2mm、検出:UV214nm、生成物保持時間:6.32分)で分析した。さらにエレクトロスプレー質量分析法を用いて生成物を特性決定した(MH+計算値:1395.5、MH+実測値:1395.7)。
【0074】
(ii)化合物20の製造
化合物(19)(0.5mg、0.35μmol)をリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0、50mM)に溶解し、化合物(11)の溶液(25μl、728μCi/25MBq)及び銅粉(200mg、40メッシュ)と混合した。70℃で15分間加熱した後、混合物を放射性HPLCで分析する。
【0075】
コンジュゲート生成物(20)は、半分取HPLC(カラム:Luna C18(2)、100×10mm、流量:2.0ml/分、溶媒A:水(0.085%リン酸v/v)、溶媒B:水(30%エタノールv/v)、勾配:15分で50%Bから100%Bまで)を用いて単離した。標識ペプチド(20)は、10%の崩壊補正放射化学収率及び>99%の放射化学純度で得られた。放射性生成物ピーク(k’=2.03)の同一性は、化合物(20)の標準試料との同時注入によって確認した。
【0076】
比較例13―化合物(20)を製造するための反応パラメーターの最適化
一般的手順:緩衝液(50μl、緩衝液A:リン酸ナトリウム、pH6.0、50mM;緩衝液B:炭酸ナトリウム、pH9.3、50mM)中の化合物(19)(0.5mg、0.35μmol)の溶液に、アセトニトリル(100μl)中の化合物(11)(0.1mCi、3.7MBq)を添加した後、銅触媒(触媒1:銅顆粒10+40メッシュ、触媒2:銅粉−40メッシュ、触媒3:銅粉、樹枝状、3μm)を添加する。混合物を80℃で15分間インキュベートした後、HPLCで分析した。
【0077】
【表2】

本明細書及び特許請求の範囲に記載された発明の技術的範囲は本明細書に開示した特定の実施形態に限定されるべきでない。これらの実施形態は本発明のいくつかの態様の例示にすぎないからである。いかなる同等の実施形態も本発明の技術的範囲に属すると想定される。実際、本明細書の以上の記載から当業者には本明細書に例示し記載した変更例以外の変更例も明らかであろう。かかる変更例も特許請求の範囲に記載された技術的範囲に属するものである。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明に係る方法を実施するための装置の略図である。
【図2】本発明に係る方法を実施するために適した本発明に係るミクロ加工装置の分解図である。
【符号の説明】
【0079】
1 注射器
2 銅ループ
3 電気加熱シリンダー
4 加熱モジュール
5 温度制御ユニット
6 バイアル
7 ベント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の以下の式(I)の化合物と式(II)の化合物又は式(III)の化合物と式(IV)の化合物とを反応させてそれぞれ式(V)又は(VI)のコンジュゲートを得ることを含むベクターの標識方法であって、該反応が小口径銅容器内で実施される方法。
【化1】

【化2】

(式中、L1、L2、L3及びL4の各々はリンカー基であり、R*はレポーター部分である。)
【化3】

(式中、L1、L2、L3、L4及びR*は上記に定義した通りである。)
【請求項2】
*が放射性核種を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
*が陽電子放出型放射性核種、好ましくは11C又は18Fを含む、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
ベクターがペプチド、タンパク質、ホルモン、細胞、細菌、ウイルス又は薬物様低分子であり、最も好適にはペプチドである、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
ベクターがArg−Gly−Aspペプチド又はその類似体である、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
ベクターが次式のフラグメントを含むペプチドである、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の方法。
【化4】

【請求項7】
ベクターが次の式(A)のペプチドである、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の方法。
【化5】

式中、X7は−NH2又は次式の基である。
【化6】

式中、aは1〜10の整数であり、好ましくはaは1である。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の方法を実施するためのミクロ流体装置であって、当該装置は第1の開口、第2の開口及びそれらを流体連通する1以上の細長いミクロ流体通路を画成する装置本体を含み、ミクロ流体通路の少なくとも一部は装置本体の金属銅部分によって画成されているミクロ流体装置。
【請求項9】
1以上のミクロ流体通路を画成する装置本体が金属銅で形成されている、請求項8記載のミクロ流体装置。
【請求項10】
装置本体がさらに、第1の開口、第2の開口及びそれらを流体連通する1以上の細長いミクロ流体通路を画成するベース部とカバー部とを含む、請求項8又は請求項9記載のミクロ流体装置。
【請求項11】
ミクロ流体通路が、ベース部又はカバー部のいずれか或いはそれらの間に上下に整合して形成された流路からなる、請求項10記載のミクロ流体装置。
【請求項12】
ミクロ流体通路が、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に定義した式(I)、(II)、(III)又は(IV)の化合物を含む、請求項8乃至請求項11のいずれか1項記載のミクロ流体装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−541286(P2009−541286A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515948(P2009−515948)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【国際出願番号】PCT/GB2007/002283
【国際公開番号】WO2007/148074
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(504000591)ハマースミス・イメイネット・リミテッド (26)
【氏名又は名称原語表記】Hammersmith Imanet Ltd
【Fターム(参考)】