説明

化学的結合を検出するための方法及び装置

導管を通じてサイズ排除フィルタにサイズ排除フィルタを通過するには大きすぎる対象バインダの溶液(好適には水溶液)を送ることと、次に対象バインダがフィルタ上に集まった後に同一の導管を通じてサイズ排除フィルタに一以上の潜在的な薬剤化学物質の溶液(好適には水溶液)を送ることを包含する、対象バインダと潜在的な薬剤化学物質の間の結合をスクリーニングするための方法である。潜在的な薬剤化学物質は、サイズ排除フィルタを通過するために十分に小さい。その後、X線がX線源からサイズ排除フィルタに送られ、潜在的な薬剤化学物質が対象バインダと共に化合物を形成する場合、化合物は、化合物が形成されたことを示す強度を有するX線蛍光信号を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(連邦の権利に関する宣言)本発明は、米国エネルギー庁により与えられた契約番号W-7405-ENG-36の下に政府の支援により行われた。政府は本発明について特定の権利を有する。
【0002】
本発明は、一般に化学的結合を検出し、X線蛍光分光法を使用して化学物質と対象バインダの間の結合を特徴付けるためのフロー法に関する。
【背景技術】
【0003】
蛋白質の結合属性は、ポリペプチド鎖の露出面アミノ酸残基に大きく依存する(Bruce Alberts他「Molecular Biology of the Cell」第二版、Garland Publishing, Inc., New York、1989年及びH. Lodish他「Molecular Cell Biology」第四版、W. H. Freeman and Company、2000年参照)。これらのアミノ酸残基は、イオン及び他の分子と弱い非共有結合を形成し得る。有効な結合は、一般に、蛋白質の「結合部位」における多数の弱い結合の形成を必要とする。結合部位は、通常にはアミノ酸の特定の配列により形成された蛋白質内の空洞である。有効な結合が起こるためには、結合部位との正確なフィットがなければならない。
【0004】
薬剤化学物質は薬剤における活性成分であり、これらの治療属性は一以上の結合部位に結合するこれらの能力に結びついていると信じられている。結合部位の形状は異なる蛋白質の間において大きく異なる可能性があり、同一の蛋白質の異なる立体配座の間においてさえ大きく異なる可能性がある。同一の蛋白質の僅かに異なる立体配座ですら、それらの結合能力において大きく異なり得る。これらの理由から、いずれの化学物質が蛋白質に有効に結合するかを予測することは極めて困難である。薬剤用の新規な薬剤化学物質のための研究及び開発、即ち薬剤開発は、一般に薬剤開発過程の多数の段階において潜在的な薬剤化学物質(好適には血流中に溶解可能な水溶性有機化学物質)と対象バインダ(一般に酵素、非酵素蛋白質、DNA、RNA、ヒト細胞、植物細胞及び動物細胞のような生体物質)の間の結合親和性を決定することを包含する。対象バインダは、全体又は一部において微生物(例えばプリオン、ウィルス、バクテリア、胞子等)でもあり得る。薬剤開発過程は、典型的には潜在的な薬剤化学物質を対象バインダに組み合わせ、薬剤化学物質と対象バインダの間の化学的結合を検出し、化合物を形成するための対象バインダの化学物質への結合の結合親和性及び反応速度又は結合された化学物質の化合物からの解放の反応速度を決定するための手順を包含する。ここで、結合親和性は結合的平衡定数Kaとして定義され、Kaは下記の式(1)により定義される。
【0005】
Ka=[化合物]/[対象バインダ][潜在的な薬剤化学物質] (1)
【0006】
式(1)において、[化合物]は対象バインダ/潜在的な薬剤化学物質のリットル毎モルによる濃度であり、[対象バインダ]は対象バインダのリットル毎モルによる濃度であり、[潜在的な薬剤化学物質]は潜在的な薬剤化学物質のリットル毎モルによる濃度である。今日、薬剤開発過程は「リード化合物」を識別するための数百又は数千の潜在的な薬剤化学物質の高速なスクリーニングを包含し得る。「リード化合物」とは、特定の対象バインダに非常に強く結合する、即ち高い結合親和性を有する、多数の試験された潜在的な薬剤化学物質のうちの一つである。そのようなリード化合物が識別された後に、いずれの潜在的な薬剤化学物質がさらに高い結合親和性を示すか(そのような潜在的な薬剤化学物質が存在すれば)を決定するために、構造においてリード化合物に類似する他の潜在的な薬剤化学物質が合成され試験される。下記の特許において、いくつかの公知のスクリーニング方法が説明されており、下記の全てはここで参考文献として包含される。
【0007】
2000年11月14日に発行されたD. Allen Annis他への「Method for Identifying Compounds in a Chemical Mixture」と題する米国特許第6,147,344号は、化合物の混合から大量の分光学的データを自動的に分析するための方法を説明する。
【0008】
2002年2月5日に発行されたJonathan A. Ellman他への「Pharmacophore Recombination for the Identification of Small Molecule Drug Lead Compounds」と題する米国特許第6,344,334号は、対象生物学的分子をクロスリンクされた対象結合断片に接触させることにより薬剤リード化合物を識別するための方法を説明する。
【0009】
2002年5月28日に発行されたOle Hindsgaul他への「Apparatus for Screening Compound Libraries」と題する米国特許第6,395,169号は、対象受容体に結合するライブラリのメンバを識別しランク付けするための質量分光分析と組み合わされたフロンタルクロマトグラフィーを使用する装置を説明する。
【0010】
いくつかのスクリーニング方法(例えば蛍光活性化細胞ソーティング)は、潜在的な薬剤化学物質に化学的タグが与えられなければ、多数のタイプの潜在的な薬剤化学物質(例えば非蛍光抗体)と対象バインダの間の結合を検出することができない。タグ付けは、潜在的な薬剤化学物質の部分に「タグ」(例えば紫外線又は可視光に曝された時に蛍光発光する化学物質グループ)を付加することにより元の化学物質を変更することを包含し得る。その後、タグ付けされた化学物質は(結合が起こる場合に)細胞のいくつかへの結合が起こって細胞/抗体化合物を生成するために十分に長い期間において細胞(例えば筋肉細胞)に曝される。その後、細胞はレーザービームを通じて一回に一つ送られる。ビームを生成するレーザーは、紫外線/可視蛍光検出器のような検出器と相互作用させられる。細胞/抗体化合物はレーザービームに曝された時に検出可能な蛍光信号を生成し、スクリーニング方法が進むと、蛍光信号が検出された時に、信号を生成する結合化合物が回収される(例えばBruce Alberts他「Molecular Biology of the cell」第二版、Garland Publishing, Inc., New York、1989年、第159〜160頁参照)。
【0011】
他のタグ付けの形式は、対象バインダの表面への付加を包含する。このタイプのタグ付けは、表面プラズモン共振技術(例えば1997年6月24日に発行されたA. Hanningへの「Method of Assaying for an Analyte Using Surface Plasmon Resonance」と題する米国特許第5,641,640号、及び1999年10月12日に発行されたM. Malmqvistへの「Analyte Detection」と題する米国特許第5,595,456号参照。両者は参考文献として本明細書に組み込まれる。
【0012】
一般に、蛍光タグの付加は、蛍光タグの付加がなければ不可視の化学物質及び/又は対象バインダを機器にとって可視にするために作用するのみであり、タグ付けされた物質とタグ付けされていない物質の結合特性は正確に同一であると仮定される。化学物質又は対象バインダの構造への小さな変化であっても、その作用に影響を与え得ることは良く知られているため、前記仮定は有効なものではないことがあり得る。タグ付けされた物質はそのタグ付けされていない対応物と構造的に異なり、これらの構造的な違いはこれらの結合特性に影響を与え得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
対象バインダに結合するための化学物質(例えば潜在的な薬剤活性を有するもの)をスクリーニングするための効率的な方法は、高度に望まれたままである。
【0014】
従って、本発明の目的は、対象バインダに結合するための化学物質をスクリーニングするための効率的な方法を提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、化学的タグを有する潜在的な薬剤化学物質の変更を必要としないスクリーニング方法を提供することである。
【0016】
本発明の追加の目的、利点及び新規な特徴は、部分的には以下の記載において述べられ、部分的には以下を検証することにより当業者にとって自明となり、あるいは本発明の実施により知得され得る。本発明の目的及び利点は、添付の特許請求の範囲において特に指摘される手段及び組み合わせにより実現及び達成され得る。
【課題を解決するための手段】
【0017】
(発明の要旨)本発明の目的及び趣旨によれば、本明細書において具現され広く記載されるように、本発明は、導管を通じてサイズ排除フィルタに、前記サイズ排除フィルタを通過するには大きすぎる対象バインダを含む液体を送ることと、前記導管を通じて、潜在的に前記対象バインダに結合することが可能であって前記サイズ排除フィルタを通過するために十分小さい一以上の化学物質を含む第二の液体を送ることと、前記サイズ排除フィルタに近い前記導管にX線を送ることと、前記サイズ排除フィルタに近い前記導管の内部から生成された任意のX線蛍光信号を監視することを包含するスクリーニング方法を含む。
【0018】
本発明は、対象バインダと化学物質の間の結合をスクリーニングするための装置をも含む。前記装置は、対象バインダと化学物質を有する液体のためのX線透過導管を含む。前記導管内部のフィルタは、前記対象バインダの流れを実質的に阻止するが前記化学物質の流れを阻止しない。前記装置は、前記導管内部の液体の体積を通じてX線ビームを送ることが可能なX線励起源と、前記X線ビームに曝された前記導管内部の液体の前記体積から生成されたX線蛍光信号を受け取ることが可能なX線検出器をも含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(発明の詳細な説明)本発明は化学物質と対象バインダの間の結合親和性を検出し測定するための方法を含む。前記方法は、導管を通じてサイズ排除フィルタに対象バインダの溶液(好適には水溶液)を送ることを包含する。本発明と共に使用される対象バインダは、サイズ排除フィルタを通過するには大きすぎる。対象バインダを導管に送った後、サイズ排除フィルタの近く、サイズ排除フィルタの上流及びサイズ排除フィルタの下流の対象バインダの量が、X線を前記の部分に送って対象バインダに起因する任意のX線蛍光信号を検出することにより計量される。対象バインダに起因するX線蛍光信号が使用される特定のフィルタの下流に検出された場合、フィルタは損傷を受けた可能性があり、又は細孔のサイズが対象バインダの流れを阻止するために十分小さくない可能性がある。対象バインダがサイズ排除フィルタ上に集まった後、一以上の潜在的な薬剤化学物質の溶液(好適には水溶液)が同一の導管を通じて送られる。本発明と共に使用される潜在的な薬剤化学物質は、フィルタを通過するために十分に小さくあるべきである。サイズ排除フィルタの近く、サイズ排除フィルタの上流及びサイズ排除フィルタの下流の化学物質の量が、X線蛍光によって同様に計量され得る。化合物を形成するための対象バインダと化学物質の間の結合は、対象バインダと化学物質が存在する導管に沿った任意の場所において起こり得るが、対象バインダが集まるサイズ排除フィルタの近くにおいて最も起こりやすい。
【0020】
本発明は、潜在的な薬剤化学物質と対象バインダの間の結合親和性を検出し測定するための装置をも含む。前記装置は、導管と導管内部のサイズ排除フィルタを含む。サイズ排除フィルタは、潜在的な薬剤化学物質を通過させるが対象バインダを通過させないために選択される。前記装置は、X線源とX線蛍光検出器をも含む。
【0021】
前記装置は、導管を出る物質を回収するための回収器を含み得る。対象バインダの溶液、潜在的な薬剤化学物質、溶媒及び緩衝液、変性剤及び/又は分解剤のような他のタイプの溶液のために、貯蔵器も設けられ得る。
【0022】
分解剤の溶液は、本発明と共に使用され得る。分解剤の溶液は、例えば対象バインダの化合物と非結合化学物質への複合体の分離を促進するために導管に放出される。化学物質が放出された後、別の潜在的な薬剤化学物質(異なる濃度の化学物質、異なる化学物質等)の溶液が、導管内に導入されて同一の対象バインダへの結合についてスクリーニングされ得る。
【0023】
好適には、装置はソフトウェアを使用するプログラム可能なコンピュータの制御下にある。前記コンピュータは、対象バインダ溶液の導管への流れを制御することと、一以上の選択された潜在的な薬剤化学物質の溶液の導管への流れを制御することと、X線源を制御すること(ビームの位置、ビームの強さを制御すること等)と、X線検出器により受け取られた任意の蛍光信号に関連した情報を受け取ることにより、前記装置を制御するために使用され得る。任意の他の溶媒又は溶液の流れも、コンピュータ制御下にあり得る。
【0024】
本発明は、複合体の結合親和性を測定するためにX線蛍光発光を使用する。各化学元素は自己の固有のX線蛍光スペクトルを有し、蛍光発光の強度は化学物質試料の濃度に関連するため、X線蛍光発光は本発明の重要な局面である。簡潔には、特定の元素の原子がX線放射により照射された時、当該原子はK殻電子のような核電子を放出する。結果として生じる原子は励起された状態にあり、放出された電子をより高いエネルギー軌道からの電子により置き換えることによって基底状態に戻り得る。これは、X線光子の放射、即ちX線蛍光発光を伴い、光子エネルギーは前記二つの電子のエネルギーの差分に等しい。各元素は軌道エネルギーの特徴的なセットを有し、それゆえに特徴的なX線蛍光スペクトルを有する。
【0025】
対象バインダと受容体の間の結合現象を検出するためのX線蛍光発光の使用は、2003年2月6日に公開されたBenjamin P. Warner他による「Method for Detecting Binding Events Using Micro-X-ray Fluorescence Spectrometry」と題する米国特許出願20030027129と、George J. Havrilla他による「Flow Method and Apparatus for Screening Chemicals Using Micro-X-Ray Fluorescence」と題する米国特許出願シリアル番号10/206,524に記載されており、両者は参考文献として本明細書に組み込まれる。X線蛍光による毛管電気泳動の使用は、T. C. Miller他により「Capillary Electrophoresis Micro X-ray Fluorescence: A Tool for Benchtop Elemental Analysis」、Analytical Chemistry、vol. 75、第2048〜2053頁(2003年)において、またM. C. Ringo他により「On-line X-ray Fluorescence Detection for Capillary Electrophoresis Separations」、Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B、vol. 149、第177〜181頁(1999年)において、またS. E. Mann他により「Element-Specific Detection in Capillary Electrophoresis Using X-Ray Fluorescence Spectroscopy」、Analytical Chemistry、vol. 72、第1754〜1758頁(2000年)において記載されており、本明細書において参考として組み込まれる。Mann他は、CDTA(シクロヘキサンジアミン四酢酸)のキレート化複合体の混合物の用意及びこれに続く毛管電気泳動を使用した分離を報告している。分離された複合体は、シンクロトロン生成された単色10KeVX線ビームを使用して検出された。
【0026】
多くの人気のある薬剤は、フッ素、塩素及び/又は硫黄の元素を含有する薬剤化学物質を含む。X線蛍光分光分析は、前記の元素を検出し計量するのに使用され、一般に九以上の原子番号を有する元素の量についての情報を提供し得るため、前記のタイプの潜在的な薬剤化学物質を検出するのに特に適している。基本的には、X線蛍光分光分析は任意の元素の量を提供するために使用され得る。
【実施例1】
【0027】
本発明の実施は添付の図面によりさらに理解され得る。類似又は同一の構造は、同一の参照符号を使用して識別される。図1は、本発明の装置の実施形態の模式的な表現を示す。装置10は好適には毛管である導管12を含み、導管12は少なくともいくつかのタイプのX線を透過させる。導管12は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ四フッ化エチレン(TEFLON TM)、ポリカーボネート、窒化ボロン及び小さい元素番号を有する元素から構成される他の物質から形成され得る。
【0028】
導管12のために使用される物質及び厚さは、X線蛍光信号と導管の耐久性を最適化するように選択され得る。導管壁は、透過性を最大化するために実用的である限り薄くあるべきである。1/eの係数によりリン、硫黄、塩素、フッ素、窒素及び炭素の特性KαのX線を減衰させる厚さについての物質の透過性が、表1に示される。好適には、導管壁はX線蛍光信号を約10,000より小さい係数により減衰し得る。前記元素は、既知の薬剤化学物質にしばしば存在するため選択された。
【表1】

【0029】
サイズ排除フィルタ14は、導管12の内部に静止して留まる。サイズ排除フィルタ14は、本発明と共に使用される対象バインダの流れを阻止するために十分小さいが、対象バインダへの結合について試験されている潜在的な薬剤化学物質の流れを阻止しないために十分大きい細孔を含む。蛋白質と潜在的な薬剤化学物質の間の結合を検出するために、サイズ排除フィルタ14は、好適にはセルロースを基礎とするフィルタ(例えばULTRACELTM AMICONTMYM10 限外濾過ディスク)又は、ゼオライト(例えばMCM-41)のような無機メソ多孔性物質である。サイズ排除フィルタ14の鍵となる属性は、試験されている潜在的な薬剤化学物質の流れを阻止しない一方で、対象バインダの流れを阻止することである。サイズ排除フィルタ14は、任意の形状(例えば、平坦、曲線、円形等)又は導管12に対する方向(例えば図1〜3又は他の角度で示されるように垂直)を有し得る。
【0030】
装置10は、さらにX線励起源16及びX線検出器18を含む。X線励起源16は、導管12の部分にX線の放射線(好適には平行かつ集束される放射線)を送る。図1は、サイズ排除フィルタ14の近くの部分に向けられたX線源を示す。実際には、X線励起源16は、導管12の種々の部分にX線を送り、X線検出器18を使用してX線蛍光発光を検出することによって、導管12に沿った潜在的な薬剤化学物質の濃度の基本測定を得るために利用され得る。X線蛍光発光の波長及び/又はエネルギーは、対象バインダ及び/又は潜在的な薬剤内に存在する特定の元素を識別するために使用され、信号の強度は定量化のために使用される。本発明を実証するために使用されるX線励起源16及びX線検出器18は、微小焦点X線管、リチウム泳動シリコン半導体検出器、処理電子機器及びベンダにより供給される操作ソフトウェアを備えた商業的に利用可能な分光計であるEDAX EagleII XPLエネルギー分散型X線蛍光分光計の一部であった。X線管はX線源を提供し、リチウム泳動シリコン検出器はX線蛍光検出器を提供した。
【0031】
X線管が費用及び使用の容易性の理由により本発明の好適なX線源である一方、対象バインダ、潜在的な薬剤及び複合体からX線蛍光信号を生成する任意の励起源が使用され得ることが理解されるべきである。基本的に、陽子励起X線照射(PIXE)及び陽子励起ガンマ線照射(PIGE)のために典型的に使用される陽子加速器は、本発明と共に使用され得る。PIXE励起は、C.Vogt他による「Element Sensitive X-ray Detection for Capillary Electrophoresis」、J.Chromatography A、vol. 727、第301〜310頁(1996年)に記載されており、参考文献として本明細書に組み込まれる。
【0032】
波長分散型X線蛍光検出器、全反射X線蛍光検出器又は共焦点X線顕微鏡のような任意のタイプのX線蛍光検出器が使用され得る。
【0033】
任意の対象バインダが、本発明と共に使用され得る。好適な対象バインダは、グリコシル化、リン酸化反応、有糸分裂、減数分裂、蛋白質の合成、エンドサイトーシス、細胞シグナリング、呼吸作用、遺伝子発現、細胞接着、膜輸送、細胞及び細胞骨格運動性、DNA凝縮等のような生体反応及び過程を調整する物質である。そのような対象バインダは、酵素、非酵素蛋白質、DNA、RNA、生体細胞及び微生物(例えばプリオン、ウイルス、バクテリア、胞子を含む)の全部又は一部等を含むが、これらに限られない。対象バインダは、例えば競争研究における使用のための酵素、非酵素蛋白質、DNA、RNA、生体細胞及び微生物(例えばプリオン、ウイルス、バクテリア、胞子を含む)の全部又は一部の複合体をも含み得る。好適には、対象バインダはサイズ排除フィルタを通って流れるべきではないが、対象バインダの任意の量がサイズ排除フィルタを通って流れない場合、流速は潜在的な薬剤化学物質の流速よりずっと小さくあるべきであり、好適には1:100と同じくらいの係数、さらに好適には1:1000と同じくらいの係数により小さくあるべきである。
【0034】
装置10は、導管を通って動く流動体のためのいくつかの手段、好適には、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)に典型的に使用されるタイプのポンプのようなポンプ(図示せず)を含む。他のポンプ(例えば蠕動ポンプ)や、典型的に電気泳動に使用される電圧源手段、真空源手段、及び導管12を通って動く流動体を動かす他の機械的又は電気的手段のような任意の他の手段が、使用され得る。
【0035】
装置10は、サイズ排除フィルタ14を通過する任意の物質を回収するための回収器(図示せず)と、前記物質を分析するための分析器をオプションとして含み得る。質量分析計、ガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ、燃焼分析器のような分析器(図示せず)が、本発明と共に使用され得る。分析器の選択は、分析されている化学物質及び/又は対象バインダの性質に依存する。一以上の光学的吸収分光計(例えば、紫外線可視分光分析、赤外分光光度法)、光学的蛍光分光計及び他の分光計(円偏光二色性分光計、核磁気共振分光計、表面プラスモン共振分光計)は、化学物質と対象バインダの複合体について、潜在的な薬剤化学物質について、又は導管の内部に存在する対象バインダについて測定を実行するために使用され得る。
【0036】
図2は対象バインダ20が導管12に流れ込む時の装置10を示し、図3は潜在的な薬剤化学物質26が導管12に流れ込む時の装置10を示す。潜在的な薬剤化学物質26のいくつかはフィルタ14を通って流れ、いくつかは対象バインダ20と結合して複合体28を形成する。複合体28は、対象バインダ20と潜在的な薬剤化学物質26の複合体であるを。X線放射線22がフィルタ14に向けられると、フィルタ14に近い複合体28によって生成されるX線蛍光発光24の強度の増加として、複合体28の形成が検出される。
【0037】
本発明は、小分子(例えばビオチン)とより大きな対象バインダ(アビジンのような蛋白質分子)の間の結合親和性と、複合体の形成及び解放反応速度を研究するために使用され得る。アビジンはアビジン分子ごとに約10から16の硫黄原子を含むと信じられ、ビオチンは分子ごとに一つの硫黄原子を有する。実際には、30,000ドルトン遮断サイズを有するCENTRICONTM30フィルタユニットからのフィルタは、アビジンの流れを阻止するがビオチンの流れを阻止しない、許容可能なサイズ排除フィルタである。X線蛍光検知器は、X線源がフィルタの近くにX線を送る時に、硫黄に起因する信号を定量化するために使用され得る。信号強度についての期待される増加は、より多くのビオチンがアビジンに結合していることを示し得る。複合体を形成した後、緩衝液がアビチンとビオチンの複合体を過ぎて流され得る。次に、硫黄信号について期待された減少は、解放反応速度を計算するために使用され得る。結合されたビオチンの量は、(アビジン/ビオチン複合体が形成される)フィルタの近くのX線蛍光発光を使用して測定されたビオチンの濃度から、溶液内のビオチンの濃度を減じることによって測定され得る。ビオチンは、存在するアビジン濃度が最小限となるように、フィルタの上流の十分に遠い導管の部分において、X線蛍光発光によって測定され得る。結合及び解放反応速度は、合成体中のビオチンの量と、溶液内のビオチンの濃度勾配の変化率を比較することによって決定され得る。
【0038】
本発明は、化学物質の危険な代謝副産物を検出するための薬剤の代謝産物研究においても使用され得る。動物(例えばネズミ)からの血液、細胞、組織又は他の生体試料は、本発明を使用した基礎測定を提供し得る。動物へ潜在的な薬剤を投与した後に、血液が動物から採取され、本発明の方法を使用して代謝産物の存在を検査する。
【0039】
本発明は、DNA又はRNA結合研究においても使用され得る。本発明の導管を通じて、DNA又はRNAの流れを妨げる適切なサイズ排除フィルタが使用される。次に、DNA又はRNAは、その構成要素であるリン原子のX線蛍光発光を使用して定量化され得る。次に、別のDNA、RNA、蛋白質又は他の化学物質の分子が導入される。この化学物質の量を定量化した後、結合親和性が計算され得る。結合反応速度は、ビオチン/アビチン反応速度決定について上述されたように、決定され得る。
【0040】
導管の温度は制御され得る。これは、例えばDNA融解温度の決定のような結合の反応速度及び熱力学の研究のために有用であり得る。
【0041】
要約すれば、本発明は潜在的な薬剤化学物質と対象バインダの間の結合現象を検出するための装置及び方法を提供する。本発明は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、リン及び硫黄のような元素の存在及び相対的な量を決定するために、X線蛍光発光を使用する。リン及び硫黄は、酵素、非酵素蛋白質、DNA及びRNAの重要な構成要素である。このように、本発明は、蛋白質又は核酸のような対象バインダと潜在的な薬剤化学物質の結合をスクリーニングする非破壊的方法を提供する。本発明は、タグを備えた化学物質を必要としない利点を提供する。
【0042】
本発明の上記説明は、図示及び記述の目的のために提示されたものであり、網羅的であること又は開示された正確な形式に限定することは意図されておらず、また上記教示に照らして明らかに多くの変更及び変形が可能である。
【0043】
上記実施形態は、本発明の原理及び実際の応用を最良に説明する目的で選択され記載されたものであり、これにより他の当業者が本発明を種々の実施形態において最良に利用することを可能にし、種々の変更により特定の熟考された使用に適する。本発明の範囲は、本明細書に添付の特許請求の範囲により定義されることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0044】
添付の図面は、本明細書に包含されその一部を形成し、本発明の実施形態を図示し、その説明と共に本発明の原理を説明するために提供される。
【0045】
【図1】本発明の装置の模式的な表現を示す。
【図2】対象バインダが認められサイズ排除フィルタ上に集まる時の図1の装置の模式的な表現を示す。
【図3】潜在的な薬剤化学物質が対象バインダに結合した後の図2の装置の模式的な表現を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導管を通じてサイズ排除フィルタに、前記サイズ排除フィルタを通過するには大きすぎる対象バインダを含む液体を送ることと、
前記導管を通じて、潜在的に前記対象バインダに結合することが可能であって前記サイズ排除フィルタを通過するために十分小さい一以上の化学物質を含む第二の液体を送ることと、
前記サイズ排除フィルタに近い前記導管にX線を送ることと、
前記サイズ排除フィルタに近い前記導管の内部から生成された任意のX線蛍光信号を監視すること
を含むスクリーニング方法。
【請求項2】
前記サイズ排除フィルタの上流の前記導管にX線を送ることと、前記サイズ排除フィルタの上流の前記導管の内部から生成された任意のX線蛍光信号を監視することをさらに含む、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記サイズ排除フィルタの下流の前記導管にX線を送ることと、前記サイズ排除フィルタの下流の前記導管の内部から生成された任意のX線蛍光信号を監視することをさらに含む、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記対象バインダを含む液体と前記一以上の化学物質を含む液体が水溶液を含む、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記対象バインダが生物学的処理に関与する、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
前記対象バインダが、酵素、非酵素蛋白質、DNA、RNA、微生物、ヒト細胞、植物細胞及び動物細胞から構成されるグループから選択される、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
前記一以上の化学物質の溶液の化学物質が、八よりも大きい原子番号を有する少なくとも一つの元素を備えている、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
対象バインダと化学物質の間の結合をスクリーニングするための装置であって、
対象バインダと化学物質を含む液体のためのX線透過導管と、
前記対象バインダの流れを実質的に阻止するが前記化学物質の流れを阻止しない、前記導管内部のフィルタと、
前記導管内部の液体の体積を通じてX線ビームを送ることが可能なX線励起源と、
前記導管内部の液体の前記体積から生成されたX線蛍光信号を受け取ることが可能なX線検出器
を備えた装置。
【請求項9】
前記導管がX線透過毛管を備えている、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記導管が約10,000より小さい係数によりX線蛍光信号を減衰することが可能な導管壁を備えている、請求項8に記載の装置。
【請求項11】
前記導管がベリリウム、窒化ホウ素、シリカ又は有機ポリマーを備えている、請求項8に記載の装置。
【請求項12】
前記導管を通じて液体を流すためのポンプをさらに備えている、請求項8に記載の装置。
【請求項13】
前記フィルタの下流に実質的に置かれた分光計、蛍光計、ガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ、 燃焼分析器又は試料回収器をさらに備えている、請求項8に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−527524(P2007−527524A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520181(P2006−520181)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【国際出願番号】PCT/US2004/019678
【国際公開番号】WO2005/009584
【国際公開日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(505031347)ザ・リージェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・カリフォルニア (2)
【Fターム(参考)】