説明

化学装置

【課題】本発明の目的は、耐食性が改善された化学装置を提供することにある。
【解決手段】本発明の化学装置は、塩化水素または塩素を含む流体を導通させるものであって、複数の筒状缶体を含み、該筒状缶体は、少なくとも一方の端部にフランジ部を有するとともに、このフランジ部と他の筒状缶体のフランジ部とを接続部材で接続した接続部により、他の筒状缶体と接続され、該接続部は、カバー体で覆われており、該接続部と該カバー体との空隙に乾燥ガスを導通させることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化水素または塩素を含む流体を導通させる、複数の筒状缶体を含んでなる化学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化水素または塩素などの腐食性物質を扱う化学装置において、耐食性を付与する目的で該装置を構成している金属材の表面に対して、各種のコーティングやライニングを施すことが行なわれている。たとえば、ゴムライニングやグラスライニングおよびフッ素樹脂ライニング等が知られている。
【0003】
これらの中でもフッ素樹脂ライニングは、耐食性が良好であることから、腐食性の強い物質を扱う化学装置によく利用されている。フッ素樹脂ライニングには、接着系のコーティング(焼き付けライニング)、接着シートライニングおよび非接着系のルーズシートライニング、金型成形等があり、ライニングを施す設備や装置に必要な耐食性、規模、大きさ、経済性等を考慮し、これらのいずれかの方法が採用されている(たとえば特許文献1、2および非特許文献1)。
【0004】
しかしながら、各種腐食性物質の中でも塩化水素または塩素は、透過性が高くかつ水分の存在下で強力な腐食性を示す塩酸を生成することから、フランジ等の大気と接触し得る界面部分において腐食が顕著に進行することが問題とされていた。この問題は、化学装置の内部を上記のような各種ライニングで被覆することにより改善することは困難であった。
【特許文献1】特開2003−063591号公報
【特許文献2】特開2005−007841号公報
【非特許文献1】岩永清司、外7名、「塩酸酸化プロセスの開発と工業化」、住友化学、2004年、第1巻、p.4−12
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、耐食性が改善された化学装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の化学装置は、塩化水素または塩素を含む流体を導通させるものであって、複数の筒状缶体を含み、該筒状缶体は、少なくとも一方の端部にフランジ部を有するとともに、このフランジ部と他の筒状缶体のフランジ部とを接続部材で接続した接続部により、他の筒状缶体と接続され、該接続部は、カバー体で覆われており、該接続部と該カバー体との空隙に乾燥ガスを導通させることを特徴としている。
【0007】
ここで、上記接続部材は、樹脂でコーティングされたボルトであることが好ましい。また、上記筒状缶体の少なくとも1つは、その内表面がフッ素樹脂コーティング層でコートされているとともに、このフッ素樹脂コーティング層と対向するようにフッ素樹脂フィルムからなるルーズシートライニングが配置されており、このフッ素樹脂コーティング層とルーズシートライニングとの間隙は減圧されていることが好ましい。
【0008】
また、上記筒状缶体の少なくとも1つは、その内表面がフッ素樹脂コーティング層でコートされているとともに、このフッ素樹脂コーティング層と対向するようにフッ素樹脂フィルムからなるルーズシートライニングが配置されており、該フッ素樹脂コーティング層と該ルーズシートライニングとの間隙にガスを導通させることが好ましい。
【0009】
また、上記筒状缶体の少なくとも1つは、触媒の存在下、塩化水素と酸素とを反応させて塩素を得るプロセスにおける未反応塩化水素を回収するための吸収塔を構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の化学装置は、上記のような構成を有することにより、耐食性が改善されたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、以下の実施の形態の説明では、図面を用いて説明しているが、本願の図面において同一の参照符号を付したものは、同一部分または相当部分を示している。
【0012】
<化学装置>
本発明の化学装置は、塩化水素または塩素を含む流体を導通させるものであって、複数の筒状缶体を含む限りいかなる構造を有するものであってもよい。このような化学装置の一例としては、塩化水素と酸素とを反応させて塩素を得るプロセスを実行するための化学プラント装置を挙げることができる。
【0013】
ここで、塩化水素または塩素を含む流体とは、塩化水素または塩素を含む気体または液体を意味するが、このような気体または液体は塩化水素または塩素のみによって構成されていてもよいし、塩化水素または塩素以外に他の成分(たとえば水や有機溶剤等の溶媒や化学品等)を含んでいてもよい。
【0014】
このような化学装置の構成要素を例示すると、たとえば反応器、吸収塔、乾燥塔、洗浄塔、精製塔、配管、熱交換器、圧縮器、放散槽、脱水槽、ポンプ、バルブ、ノズル等を挙げることができる。本発明の化学装置は、これらの構成要素のいずれか1つのみによって構成されるものであってもよいし、2以上のものが接続されて構成されていてもよい。2以上の構成要素を接続して化学装置を構成する場合、それらの接続順序は特に限定されず、目的とする化学操作が達成されるようにそれらを任意の順序で接続することができる。
【0015】
なお、本発明の化学装置においては、上記のような構成要素の形状が筒状の缶体となっている限り、その作用や機能にかかわらず単に筒状缶体というものとする。本発明の化学装置に含まれる上記のような構成要素は、2以上の筒状缶体を接続することにより1つの構成要素となるものであってもよい。したがって、本発明の化学装置は、通常、複数の筒状缶体を含むものとなる。
【0016】
<筒状缶体>
本発明の筒状缶体の模式的断面図を図1に示す。すなわち、本発明の筒状缶体101は、少なくとも一方の端部にフランジ部102を有するとともに、このフランジ部102と他の筒状缶体101のフランジ部102とを接続部材103で接続した接続部104により、他の筒状缶体101と接続される。そして、この筒状缶体101の内部106には、塩化水素または塩素を含む流体が導通する。
【0017】
このような筒状缶体を構成する素材としては、耐食性を示す素材である限り特に限定することなく各種の素材を採用することができるが、たとえばステンレス鋼、炭素鋼、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、タンタル等を好適に用いることができる。
【0018】
また、筒状缶体の大きさは、その筒状缶体が用いられる化学装置内の位置または作用により異なり一律に規定することはできないが、一般的にはその口径が10cm以上3m以下であり、長さ(高さ)が10cm以上20m以下である。なお、上記口径は、その長さ方向において異なるものであってもよい。
【0019】
また、フランジ部102の形状およびサイズは、このフランジ部102により筒状缶体101を接続するものであるため、この接続に耐え得る強度を有するものであればその形状およびサイズは特に限定されない。
【0020】
本発明の化学装置において、このような筒状缶体は、その少なくとも1つが、触媒の存在下、塩化水素と酸素とを反応させて塩素を得るプロセスにおける未反応塩化水素を回収するための吸収塔を構成することが好ましい。このような吸収塔において、ライニングに対して塩化水素または塩素の透過が顕著に生じ、フランジ部の腐食が特に問題となるところ、本発明の構成を採用することによりその耐食性が大幅に改善されるからである。
【0021】
<接続部およびカバー体>
上記で説明した接続部104の拡大断面図を図2に示す。図2に示されるように、当該接続部104では、各フランジ部102が対向し、後述のようにフッ素樹脂コーティング層110やルーズシートライニング111が配置される場合には、それらを各フランジ部102間に挟持することもできる。また、筒状缶体101の内部106からの塩化水素または塩素の滲出を防止するため、各フランジ部102間(各ルーズシートライニング111間)にパッキング材113を挟持することもできる。このようなパッキング材113は、フッ素樹脂製のものとすることが好ましい。
【0022】
そして、このような接続部104は、カバー体105で覆われており、該接続部104と該カバー体105との空隙107には乾燥ガス供給部108から乾燥ガスが導通(導入)される。本発明は、このように該空隙107への乾燥ガスの導通を最大の特徴点の一つとするものである。
【0023】
すなわち、腐食性物質である塩化水素や塩素は、透過性が高いという性質を有するため、たとえ筒状缶体101の内表面がフッ素樹脂コーティング層でコートされていたり、フッ素樹脂フィルムからなるルーズシートライニングが配置されていたとしても、接続部104において筒状缶体の内部106から滲出し大気中の水分と接触することにより塩酸を生成する。そして、このように生成した塩酸により筒状缶体のフランジ部102およびその周辺部が腐食する。本発明は、かかる腐食現象を極めて有効に防止したものであり、接続部104をカバー体105で覆い、さらにこの接続部104とカバー体105との間に生じる空隙107に乾燥ガスを導通させることにより、筒状缶体の内部106から滲出してきた塩化水素または塩素が大気中の水分と接触することを極めて有効に防止し、以って塩酸による腐食現象を極めて効果的に防止したことにより化学装置全体の耐食性を大幅に向上させたものである。
【0024】
ここで、図1および図2に示されるように、該空隙107に導通される乾燥ガスは、乾燥ガス供給源114から流路115を通じて乾燥ガス供給部108から接続部104に導入される。このため、上記カバー体105には、乾燥ガス供給部108が形成されているとともに、導入された乾燥ガスを排出する乾燥ガス排出部116が形成される。なお、このような乾燥ガスの排出は、吸引手段による吸引排出であってもよいし、そのような吸引手段を伴わない自然排出であってもよい。
【0025】
本発明で用いられる乾燥ガスは、実質的に水分を含まないガスを意味し、そのガスの種類は特に限定されないが不活性であるものが好ましく、窒素、空気、アルゴン等を好適に用いることができる。
【0026】
なお、カバー体105の形状は、接続部104を覆いこれとの間に空隙107が形成されている限り特に限定されず、また空隙107の大きさや形状も、そこに乾燥ガスが導通される限り特に限定されない。なお、本発明において「接続部104がカバー体105で覆われる」とは、たとえば図2に示すようにフランジ部102と接続部材103との全体(すなわち接続部104の全体)がカバー体105で覆われていてもよいし、図3に示すように当該接続部104において大気と接触し得る最小範囲の部分がカバー体105で覆われるものであってもよく、いずれの態様をも含むものとする。
【0027】
また、筒状缶体101(あるいはそのフランジ部102)に対するカバー体105の取り付け手段109は、形状や素材等特に限定されるものではないが、カバー体105の脱着が可能なようにシリコンシーラント、ゴム系接着剤、ネジ止め等を採用することが好ましい。また、図示していないが、このような取り付け手段は、板金用バンドのようなものであっても差し支えない。このようなカバー体105を構成する素材としては、特に限定されるものではないが、ステンレス鋼のような金属であってもよいし、ポリ塩化ビニルのような合成樹脂であってもよい。
【0028】
<接続部材>
本発明の接続部104に用いられる接続部材103は、各フランジ部間を接続できるものであればいかなるものであっても差し支えない。図2や図3においては、接続部材103としてボルトが例示されているがこれに限られるものではない。
【0029】
しかしながら、このような接続部材103として特に好ましくは、樹脂でコーティングされたボルトを挙げることができる。これにより、ボルトの腐食を防止することができる。該樹脂としては、フッ素樹脂、ナイロン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリカーボネート樹脂等を挙げることができる。また、ボルトの素材としては、耐食性に優れる観点から炭素鋼、ステンレス鋼、ニッケル合金、タンタル等を挙げることができる。このような樹脂でコーティングされたボルトの具体例としては、たとえば竹中製作所製のタケコート(商品名)を挙げることができる。
【0030】
<フッ素樹脂コーティング層およびルーズシートライニング>
本発明の化学装置に含まれる上記筒状缶体101の少なくとも1つは、図2〜4に示したようにその内表面(すなわち塩化水素または塩素を含む流体を導通させる側)がフッ素樹脂コーティング層110でコートされているとともに、このフッ素樹脂コーティング層110と対向するようにフッ素樹脂フィルムからなるルーズシートライニング111が配置されており、該フッ素樹脂コーティング層110と該ルーズシートライニング111との間隙112にガスを導通させることが好ましい。このガスを、筒状缶体101に形成された孔118から化学装置外に排出することにより、ルーズシートライニングを透過した塩化水素または塩素が筒状缶体の内表面に到達する前にこれをこのガスとともに排出することができるため、筒状缶体の腐食を有効に防止することができる。
【0031】
このようなガスとしては、反応性が高くないガスであればいずれのガスであっても用いることができ、そのガスの種類は特に限定されない。たとえば、空気、窒素、アルゴン等を好適に用いることができる。なお、このガスは、上記の乾燥ガスのように実質的に水分を含まないものを用いる必要は必ずしもないが、乾燥ガスを用いることもできる。
【0032】
ここで、このようなガスは、ガス供給源(図示せず)から流路(図示せず)を経由して筒状缶体101に形成されたガス供給部(図示せず)より間隙112に導入される。また、孔118からのガスの排出は、図1に示すように吸引装置117により吸引して行なうことが好ましい。この場合、上記のように間隙112にガスを導通しなければ間隙112はこの吸引により減圧状態となり、これのみによっても塩化水素または塩素を有効に排出することができる。このため、ガスを導通させることなく吸引のみ行なうことも有効な手段である。
【0033】
すなわち、上記筒状缶体101の少なくとも1つは、その内表面がフッ素樹脂コーティング層110でコートされているとともに、このフッ素樹脂コーティング層110と対向するようにフッ素樹脂フィルムからなるルーズシートライニング111が配置されており、該フッ素樹脂コーティング層110と該ルーズシートライニング111との間隙112が減圧されていることが好ましい。
【0034】
なお、当該フッ素樹脂コーティング層110は、通常10μm以上1000μm以下、好ましくは100μm以上500μm以下の厚みを有していることが好ましい。10μm未満では、塩化水素または塩素が透過し筒状缶体を腐食させる場合があり、1000μmを超えると均一な厚みにコーティングすることが困難であり割れの原因となることがある。
【0035】
また、当該ルーズシートライニング111は、通常1mm以上5mm以下、好ましくは2mm以上4mm以下の厚みを有していることが好ましい。1mm未満では、塩化水素または塩素が透過し筒状缶体を腐食させる場合があり、5mmを超えるとライニング加工しにくいことがある。
【0036】
また、上記間隙112は、通常1μm以上5mm以下、好ましくは10μm以上2mm以下の厚みを有していることが好ましい。1μm未満では、塩化水素または塩素がそこを通って排出されにくい場合があり、5mmを超えるとルーズシートライニング111が変形することがある。
【0037】
なお、上記で各用いられている本発明におけるフッ素樹脂という用語は、PTFE(四フッ化エチレン)、PFA(四フッ化エチレン・パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体)等を示す。
【0038】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、上述の各実施の形態の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0039】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の化学装置の筒状缶体の模式的断面図である。
【図2】本発明の化学装置の接続部の拡大断面図である。
【図3】本発明の化学装置の接続部の異なる態様の拡大断面図である。
【図4】本発明の化学装置の筒状缶体に形成された孔を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0041】
101 筒状缶体、102 フランジ部、103 接続部材、104 接続部、105 カバー体、106 内部、107 空隙、108 乾燥ガス供給部、109 取り付け手段、110 フッ素樹脂コーティング層、111 ルーズシートライニング、112 間隙、113 パッキング材、114 乾燥ガス供給装置、115 流路、116 乾燥ガス排出部、117 吸引装置、118 孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化水素または塩素を含む流体を導通させる化学装置であって、
前記化学装置は、複数の筒状缶体を含み、
前記筒状缶体は、少なくとも一方の端部にフランジ部を有するとともに、このフランジ部と他の筒状缶体のフランジ部とを接続部材で接続した接続部により、他の筒状缶体と接続され、
前記接続部は、カバー体で覆われており、
前記接続部と前記カバー体との空隙に乾燥ガスを導通させることを特徴とする化学装置。
【請求項2】
前記接続部材は、樹脂でコーティングされたボルトである請求項1記載の化学装置。
【請求項3】
前記筒状缶体の少なくとも1つは、その内表面がフッ素樹脂コーティング層でコートされているとともに、このフッ素樹脂コーティング層と対向するようにフッ素樹脂フィルムからなるルーズシートライニングが配置されており、
前記フッ素樹脂コーティング層と前記ルーズシートライニングとの間隙が減圧されている請求項1または2に記載の化学装置。
【請求項4】
前記筒状缶体の少なくとも1つは、その内表面がフッ素樹脂コーティング層でコートされているとともに、このフッ素樹脂コーティング層と対向するようにフッ素樹脂フィルムからなるルーズシートライニングが配置されており、
前記フッ素樹脂コーティング層と前記ルーズシートライニングとの間隙にガスを導通させる請求項1〜3のいずれかに記載の化学装置。
【請求項5】
前記筒状缶体の少なくとも1つは、触媒の存在下、塩化水素と酸素とを反応させて塩素を得るプロセスにおける未反応塩化水素を回収するための吸収塔を構成する請求項1〜4のいずれかに記載の化学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−195773(P2009−195773A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−37375(P2008−37375)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】