説明

化学装置

【課題】マイクロリアクタを用いた化学プロセスの処理量のスケールアップを容易に実現できる化学装置を提供する。
【解決手段】原料の分岐部に原料タンクへ連通する送液ラインを設け、そのライン上には原料の流れを検出する手段と流れを調節する制御弁を設ける。また、複数に並列接続されたマイクロリアクタへの各分岐ラインにも原料の流量をモニタリングする手段とその流量を調整する手段を設け、各送液ラインの流量をモニタリングしつつ、各制御弁とポンプからの送液量をコンピュータによって調節することで、ラインの気泡や沈着物の影響を回避する安定な送液状態を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微小流路を利用した反応器(以下、マイクロリアクタと呼ぶ)の生産処理量をスケールアップするための化学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロマシーニング技術、微小スケールでのメリットを化学プロセスへ積極的に応用するマイクロリアクタが近年盛んに研究、開発されている。マイクロリアクタでは様々なメリットが期待されているが、その一つに処理量のスケールアップの容易性が挙げられる。通常、化学製品の研究開発、製造では、ラボレベルでの研究、製品開発、テストプラントを経て、量産プラントへと生産量を段階的にスケールアップしていく。
【0003】
一般にビーカレベルでの少量の化学反応と生産用反応槽の中での多量の化学反応では、化学反応が行われる諸条件が異なるため、ラボレベルから量産レベルへのスケールアップには技術的な課題がしばしば生じる。マイクロリアクタではこの課題を極力回避するために、ラボレベルで開発・適用した少量処理向けマイクロリアクタをそのまま量産レベルの必要量に応じて複数並列に実装することで、処理量のスケールアップを一気に行う戦略が提案されている。一つあたりの処理量は少量である単体のマイクロリアクタを、プラントへ並列実装する数によって処理量を稼ぐこの処理量スケールアップの手法は、ナンバリングアップと呼ばれることがある。
【0004】
マイクロリアクタを用いたラボレベルの処理量からプラントでの量産レベルへの処理量のスケールアップでは、このナンバリングアップを具体的にどのような配管で各マイクロリアクタへ原料を均等に分配し、ラボレベルの処理状態を再現するかが、品質のよい生成物を得る上で重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-80306号公報
【特許文献2】特開2004-344877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ナンバリングアップによるラボレベルからプラントレベルへのスケールアップでは、特許文献1および特許文献2に開示されているように、マイクロリアクタを並列に接続して実装数を稼ぐ方法がしばしば採用される。この並列接続配管の最大のメリットは、一つの送液手段(ポンプ、ヘッダータンク)から原料を分岐させるために送液設備のコストが抑えられる点である。
【0007】
デメリットとしては、分岐後の微細流路が毛管現象の影響による気泡の付着・残留、マイクロリアクタ内の反応物の流路壁への沈着などで閉塞した場合、その流路抵抗の不均衡が他の全ての分岐流路に及ぼされ、各マイクロリアクタへの所期の送液量が乱される点である。また、プライミング時、すなわちプラントの原料ラインおよびマイクロリアクタ内が空の状態から運転を開始し、流路が原料で置換される初期の状態において生じる置換不良、すなわち微細流路内の気相の残留は、その気泡がいつ乖離して後段へ流れていくか不確定性が高く、マイクロリアクタ内の微小空間での化学操作の性能低下の要因になり得る。
【0008】
マイクロリアクタ内の反応物の流路壁への沈着などの問題を解決する手段の一つとして、特許文献1では各流路を流れる原料の送液状態をモニタし、その情報に基いて弁や送液手段を制御して各流路を流れる原料を所望の流量に維持する構成が開示されている。しかし、多数のマイクロリアクタが分岐して並列配管接続された場合、或るマイクロリアクタの流量変化が他のマイクロリアクタの流量に影響を及ぼすため制御が複雑となるが、その具体的な制御則については明記されていない。また、特許文献2でも並列接続配管の実施例が示されているが、上述した毛管現象の影響による気泡の付着・残留が問題となる配管構成である。
【0009】
本発明はマイクロリアクタを並列配管してナンバリングアップした化学プラントにおいて、各配管系の上記諸問題を解決して安定な送液運転状態を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、並列に配管された複数の反応器とそれらに原料を供給する複数の原料タンクとその原料を送液する複数のポンプからなる化学装置において、
各反応器に原料が分岐される部分の一部が原料タンクに連通しており、
原料タンクに連通した流路上に原料の実際の流量を検知する原料流量検知手段と、原料の流量を調整する原料流量調整手段を備え、
上記で検知された原料の実際の流量に応じて、原料の流量を調整するように上記原料流量調整手段を制御する制御機を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、並列に配管された複数の反応器とそれらに原料を供給する複数の原料タンクとその原料を送液する複数のポンプからなる化学装置において、
各反応器へ分配された原料の実際の分配流量を検知する分配流量検知手段と、その流量を調整する分配流量調整手段を備え、
分配流量検知手段で検知された原料の分配流量に応じて原料の流量を調整する制御機を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は上記の化学装置において、各反応器に原料が分岐される部分の一部が原料タンクに連通しており、
原料タンクに連通した流路上に原料の実際の流量を検知する原料流量検知手段と原料の流量を調整する原料流量調整手段を備え、
上記で検知された原料の実際の流量に応じて、原料の流量を調整するように上記原料流量調整手段を上記制御機で制御することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は上記の化学装置において、各反応器への原料の調整量と測定された分配流量との関係が、反応器ごとに独立に前記制御機により制御されることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は上記の化学装置において、前記制御機は原料の各反応器への調整量と測定された分配流量との関係を表す伝達特性行列の逆行列と適当な対角行列の積とからなる伝達特性行列をもつ非干渉化器を備え、この非干渉化器によって反応器ごとに非干渉化して独立に制御することを特徴とする。
【0015】
また、本発明は上記の化学装置において、原料の各反応器への調整量と測定された分配流量との関係をあらわす伝達特性行列を、適当な調整量とそれに対応する分配流量を自動的に測定し、それらの因果関係から伝達特性行列を求め、その伝達特性に応じて制御則を調整するシステム調整部を備えたことを特徴とする。
【0016】
一つのポンプから送液ラインに一度に並列分岐させるのではなく、分岐部から原料タンクへ原料を戻しうる送液ラインを設け、そのライン上には原料の流れを検出する手段と流れを調節する制御弁を設ける。また、複数に並列接続されたマイクロリアクタへの各分岐ラインにも原料の流量をモニタリングする手段とその流量を調整する手段を設ける。このような構成において、各送液ラインの流れをモニタリングしつつ、各制御弁とポンプからの送液量をコンピュータによって調節することで、ラインの気泡や沈着物の影響を回避する安定な送液状態を実現することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、マイクロリアクタのナンバリングアップ(並列配管接続)によって処理量をスケールアップした化学装置において、マイクロリアクタの原料流量の乱れ(変化)を、他のマイクロリアクタへ影響を与えないので、各マイクロリアクタの流量制御が容易に安定化できる。また、経年変化によるマイクロリアクタでの気泡の付着、反応生成物の沈着による原料流量の乱れ(変化)を自動的に検知し、自動的に送液状態を修復・調整する機能が備えれば、無人で安定な化学製造プロセスが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例1の基本構成を説明する図。
【図2(a)】同じく分岐タンクの動作を説明する図。
【図2(b)】同じく分岐タンクの動作を説明する図。
【図2(c)】同じく分岐タンクの動作を説明する図。
【図3(a)】同じく制御機の設計に必要なプラントおよび非干渉化器の伝達特性を説明する図。
【図3(b)】同じく制御機の設計に必要なプラントおよび非干渉化器の伝達特性を説明する図。
【図3(c)】同じく制御機の設計に必要なプラントおよび非干渉化器の伝達特性を説明する図。
【図3(d)】同じく制御機の設計に必要なプラントおよび非干渉化器の伝達特性を説明する図。
【図4(a)】同じく非干渉化器をプラントに接続した際の効果を説明図する図。
【図4(b)】同じく非干渉化器をプラントに接続した際の効果を説明図する図。
【図4(c)】同じく非干渉化器をプラントに接続した際の効果を説明図する図。
【図4(d)】同じく非干渉化器をプラントに接続した際の効果を説明図する図。
【図4(e)】同じく非干渉化器をプラントに接続した際の効果を説明図する図。
【図4(f)】同じく非干渉化器をプラントに接続した際の効果を説明図する図。
【図5(a)】同じくプラント制御系を説明する図。
【図5(b)】同じくプラント制御系を説明する図。
【図6】本発明の実施例2のプラントの伝達特性を同定する方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を用いて実施例について説明する。
(実施例1)
本発明の実施例1について、配管および原料の送液制御の基本的な構成を図1に示す。本実施例は、マイクロリアクタ(反応器)内で原料Aと原料Bを混合あるいは反応させ、生成物Cを得るための2原料1ステップ反応あるいは混合のプロセスの例である。
【0020】
図1において、液体の原料Aおよび原料Bは、それぞれ原料タンク101および102に貯蔵されており、それぞれポンプ103、ポンプ104によって送液駆動される。ポンプ103および104は、それぞれ、分岐タンク105、106及びここから分岐している送液ライン115、116を介して、各リアクタ(反応器)107に原料Aおよび原料Bを分配する。分配された原料Aおよび原料Bは、各リアクタ107内で混合、あるいは反応し、生成物Cとして回収タンク108に回収される。分岐タンク105、106には、分配される送液ライン115、116の他に、それぞれの原料タンク101、102に原料を戻しうるライン109、110が備えられており、これらのラインを通じて原料A、Bが還流される。
【0021】
上記各ライン109、110上には、原料の流量を検知する原料流量検知手段111、112と、その流れを調節あるいは、塞ぐことが可能な原料流量調整手段としての流量制御弁113、114が設置されている。また、各リアクタ107に接続されている各送液ライン115、116にも、分配流量を検知する分配流量検知手段117と、その流量を調整する分配流量調整手段としての流量制御弁118が備えられている。上記各流量検知手段111、112、117の情報は制御機119に送られ、ユーザコンソール120からの要求に従って、上記制御機119が上記各制御弁113、114、118の開度を適切に制御する。
【0022】
次に図1に示した流体制御系の動作について説明する。まず、運転開始時のプライミング動作について述べる。運転開始時には各送液ライン115、116中にはまだ原料が流されていないので、流路が空気あるいは他の気体で満たされている。この状態から送液ライン内を全て液体原料に置換するため、本実施例では上記配管構成のもと2段階の動作パターンからなるプライミングモードを採用している。
【0023】
まず、複数のマイクロリアクタ107が接続されている送液ラインの制御弁118を全てクローズし、それぞれの原料タンク101、102に連通しているラインの制御弁113、114をオープンにした状態で、ポンプを適当な流量で動作させる。この時の分岐タンク105を例にして動作を説明する。図2(a)はプライミング開始前の状態で、まだ液体原料が内部に満たされていない状態を示している。また、紙面上、下に向かって重力が作用しているものとする。ポンプ103によって分岐タンク105から送液ライン203によって原料が送液される。
【0024】
なお、図2(a)に示されていないが、マイクロリアクタへ接続されている送液ライン201(図1の115、116に相当)、原料タンク101へ連通するライン202(図1の109、110に相当)には、図1で示した制御弁113、114、118が設けられてある。
【0025】
前述のようにマイクロリアクタへ接続されている送液ライン201をクローズし、原料タンクへ連通する送液ライン202をオープンすることで、原料は図2(b)に示すように、空気を原料タンクへ押し流すように送液される。このとき、原料は図1の矢印121、122のループのように流れる。このループ的な送液ラインが完全に液体原料によって置換されたか否かは原料の流れを感知する原料流量検知手段111、112によって検出される。
【0026】
分岐タンク105が液体原料によって置換されたタイミング(分岐タンク106も同様に液体原料によって置換されている。)で、今度はマイクロリアクタが接続されている送液ライン201の制御弁118を全てオープンし、原料タンクへ連通している送液ライン202の制御弁113、114をクローズする。この動作によって、分岐タンク105内の原料は、図2(c)のようにマイクロリアクタ側へ送液される。
【0027】
この2段階目の動作においてある程度流量を与えれば、分岐タンク105、106、マイクロリアクタ107、回収タンク108までのラインも液体原料によって置換される。しかし、2段階目の動作で所期の流量で各マイクロリアクタに各原料を送液・置換しなければならないが、その流量が低流量の場合にはいずれかの送液ラインが完全に液体原料に置換し切れない場合がある。この場合、各送液ライン115、116上に設けた流量をモニタリングする分配流量検知手段117によって、どの送液ラインが置換されてないかを検出する。そして、置換されてないと検出された1個の送液ラインの制御弁をオープン状態で、それ以外の制御弁を全てクローズし、ポンプの送液量を1ライン分まで落として送液することで、液体原料に置換する。このとき、液体原料で置換ができなかったラインが複数ある場合には1ラインずつ上記の動作を繰り返せばよい。
【0028】
次に、送液ラインが液体原料によって完全に置換された後のマイクロリアクタによる反応運転モードにおける、送液状態の安定化について説明する。各送液ライン115、116が理想的に同じ形状に製作されていれば、どの送液ラインも全て同じ流路抵抗をもつので、ポンプから送液される原料も均等に分配される。しかし、現実的にはそのような状態を実現することはほとんど不可能である。また、本化学装置(以下プラントと呼ぶ)では異なる種類の原料を混合し、もとの原料とは異なる物質を生成する。従って、液体の物性がマイクロリアクタ内で変化する場合もあり、流路の幾何学的条件だけでは均等な流量の分配、各リアクタ内での化学反応を管理することは難しい。さらに、反応生成物が流路内に沈着、堆積し送液ラインの流路抵抗の変化を引き起こす可能性もある。このように何らかの要因で配管流路の各流路抵抗の不均衡が生じた場合に対処するため、本実施例では以下に示す並列配管系流量の制御則を採用している。
【0029】
図1に示すプラント制御系において、各マイクロリアクタに均等に原料を送液したい場合、ポンプからの送液量は、(各送液ラインに与えたい所望の流量)×(マイクロリアクタの並列数)で決まる。上述したように各送液ラインの流路抵抗が完全に等しければ、このポンプからの送液量を規定するだけで、原料を各マイクロリアクタへ均等に送液することができる。しかし、上述したように何らかの要因でその流路抵抗の不均衡が生じた場合、各送液ラインに設けた制御弁を調整して各送液ラインを流れる原料の流量を所望の流量に制御しなければならない。
【0030】
ここで、マイクロリアクタの並列数をnとすれば、本プラントはn個の入力(制御弁の開口度)と、n個の出力(各送液ラインの流量)の多入出力システムとして扱うことができる。明らかに本プラントは干渉型の多入出力システム、すなわち、或る一つの制御弁の操作がその送液ラインのみならず、他の送液ラインの流量にも影響を及ぼすシステムである。従って、何らかの要因によって配管ラインの各流路抵抗の不均衡が生じた場合、その不均衡を補償するような各制御弁の調整は、マイクロリアクタの並列数が多くなるほど極めて困難となる。
【0031】
そこで、本実施例ではこの多入出力システムを見かけ上非干渉化し、その上で各流路にフィードバック制御系を構築する制御則を考案した。
【0032】
本プラントにおけるn個の制御弁の開口度をu(u1、u、・・・、un)とし、その結果生じる各送液ラインの流量をq(q1、q、・・・、qn)とすれば、その入出力システムのブロック線図は、図3(a)のようにあらわされる。また、このブロック線図で示されたシステムに対応する伝達特性P(s)は、図3(b)に示すような伝達行列の形式で一般的にあらわす事ができる。ここで、伝達行列の要素pi、jは実数の場合もあるが、一般的には伝達関数によってあらわされる。
【0033】
このような図3(a)に示す入出力特性をもつ干渉型n入出力システムのプラントを見かけ上、非干渉化するために、図3(c)のようなn入出力の非干渉化器301を設計する。この非干渉化器301の伝達特性は、図3(d)に示すような伝達行列で与えられる。本非干渉化器301の特徴は、行列の要素が非干渉化器301の設計パラメータとなっており、非干渉化したいプラントの特性、すなわちP(s)行列に応じて設計され、その設計方法が本実施例のポイントとなっている。
【0034】
図4(a)に示すようにプラントの入力側に上記非干渉化器G301を直列に接続した場合、その入力x1、x、・・・、xnに対する出力q1、q、・・・、qnは、図4(b)に示した行列方程式の左辺と第2辺との関係で記述される。401は、プラントの入力側に上記非干渉化器301を直列に接続した多入出力システムを示す。
【0035】
ここで、入力x1、x、・・・、xnが、それぞれ対応する出力q1、q、・・・、qnだけに影響を及ぼす要件(xがq1にのみ、xがqにのみ、・・・、xがqにのみ影響を及ぼす条件)、すなわちqi=pii×xi (i=1、2、・・・n)という要件(条件)を課すと、図4(b)に示した行列方程式の、第2辺と右辺との関係に示した、対角行列と等号の関係を満たさなければならない。入力x1、x、・・・、xnと開口度u1、u、・・・、unとの関係は干渉型の多入出力となるが、入力x1、x、・・・、xnと出力q1、q、・・・、qnについては、見かけ上非干渉化される。
【0036】
図4(b)に示した行列方程式の、第2辺と右辺との関係を、行列記号PおよびG、入力ベクトルxで表せば、図4(c)に示す方程式となる。さらに、この方程式に対して、Pの逆行列を左側から両辺にかけると、図4(d)のような形の方程式に変形される。ここで、任意の入力(xベクトル)に対して恒等的に図4(d)の方程式が成立するためには、xベクトルの両辺の係数行列が等しい、すなわち図4(e)の関係が成立しなければならない。図4(e)の伝達特性行列(G)は、原料の各反応器への調整量と測定された分配流量との関係を示すプラントの伝達特性行列の逆行列(P−1)と適当(適切)な対角行列の積からなる(右辺)。すなわち、図4(e)の右辺は、P(s)行列の逆行列と対角行列の積からなり、両者ともプラントの伝達特性に関するものであるため、非干渉化したいプラントの具体的な伝達特性が得られ、なおかつ、制御仕様に関する適当な制御条件を付与することによってP(s)行列の逆行列が一意に定まれば、そのプラントの入出力特性を非干渉化するための非干渉化器301は図4(e)の式によって設計される。
【0037】
このような非干渉化器301が接続されたプラント図4(a)の多入出力システム401は、その伝達特性が図4(f)と等価となり、入力x1、x、・・・、xnが、それぞれ対応する出力q1、q、・・・、qnだけに影響を及ぼす非干渉型の多入出力システム402となる。
【0038】
このように非干渉化器を接続することで非干渉化されたプラントに対し、フィードバック制御則を適用することで、各送液ラインの目標流量r1、r、・・・、rnを決めれば、自動的に追従する自動制御系図5(a)が実現される。各送液ラインの目標流量rは、図1に示すユーザコンソール120から要求として出される。
【0039】
破線で囲まれたゾーン501は、図4で説明した非干渉化器301によって非干渉化されたプラントの入出力特性を示す。入力側には非干渉化された各ラインを見かけ上、独立にフィードバック制御するためのコントローラ502が接続され、出力である各流量q1、q、・・・、qnがフィードバックされ、目標流量r1、r、・・・、rnとの偏差に基づいて、コントローラ502によってプラントが制御される。
【0040】
従って、非干渉化されたプラントの特性501に応じて、適切にコントローラ502を設計することで、各マイクロリアクタの流量において、何らかの外乱が発生に対しても、自動的にその目標流量r1、r、・・・、rnを目標値に追従させる安定な制御系が実現される。プラントのもともとの伝達特性P(s)を用いて、本プラント制御系のブロック線図で表記すれば、図5(b)のようになる。囲まれた部分503が本プラント制御系の制御器119に相当するもので、図1の制御器119の内部には図5(b)の503で示される演算機能が備えられている。
【0041】
本プラント制御系では、制御対象のプラントの入力(制御弁の開口度)uに対する出力応答(各送液ラインの流量)qの伝達特性を如何に正確にモデル化し、伝達行列P(s)の形式で記述するかがポイントとなる。この伝達行列P(s)が実験等から正確に得られれば、図4および図5において説明した手順で適切な制御系が構築される。
【0042】
しかしながら、プラントを連続で長期間操業していると、プラントを構成する機器(マイクロリアクタ、制御弁、配管なども含む)の劣化・老朽化に伴い、その入出力特性が変化して干渉型の多入出力システムになってしまう。このような状況はもはや外乱とは言えず、予想されるプラントの入出力システムパラメータ変動として対処しなければならない。そこで、図1に示した本プラント制御系の制御機119には、次の実施例2で示すような制御対象であるプラントのシステム同定機能を持つシステム調整部119aが備えられている。
【0043】
(実施例2)
図6でシステム同定部119aでのシステム同定の一例を説明する。図6に示されている実施例2では、各送液ラインの入力側の制御弁118を一つづつ順次(時分割的に)短時間だけオープン(全開)して送液していき、そのときの各送液ラインの流量qの応答をすべて同時に分配流量検知手段117で測定する。この測定は、定期的に実施される。図6で、u〜uは、各送液ラインの入力のオープン信号を示し、q〜qは各送液ラインの流量を示す。図6の測定結果では、各送液ラインの送液が他の送液ラインの流量qに影響を及ぼしているのが分かり、本プラントは経年変化により干渉型の多入出力システムになっている。
【0044】
本実施例では、上記測定で得られた開度uと流量qの値で示されるシステムP(s)の入・出力特性から、適切な演算処理によってP(s)の新たなパラメータを同定する。そして、得られたパラメータに応じて、制御系を図4および図5において説明した手順で更新して、更新された入・出力特性(新たな伝達特性行列)を制御器19に設定すれば、上述したパラメータ変動に対しても最適なプラント制御系が実現される。これらは、制御器19内のシステム調整部119aによってなされる。
【0045】
このようなシステム同定の機能は、プラントの自動的な異常・故障診断にも応用することができる。プラント操業中も適当な時期に上記システム同定をし、過去のシステムパラメータと比較して極端にパラメータが変動していれば、それはプラントの異常あるいは故障として取り扱う。そのパラメータの変動量がどの範囲内なら正常で、それ以外は異常あるいは故障と判断する基準は何らかの方法でそのプラントの設計者が設定する必要があることは言うまでもない。
【0046】
以上、2種類の原料を1ステップで混合・反応させるもっとも単純な系で本発明の実施例を説明したが、複数種類の原料を複数の複数のステップで混合・反応させるより複雑なプラントシステムにおいてもその並列配管流量制御の考え方は同じであり、本発明を適用することができる。
【0047】
なお、本発明は上述の例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲にて様々な変形が可能であることは当業者に理解されよう。
【符号の説明】
【0048】
101、102…原料タンク、103,104…ポンプ、107…反応器(マイクロリアクタ)、111、112…原料流量検知手段、113、114…原料流量調整手段、117…分配流量検知手段、118…分配流量調整手段、119…制御機、119a…システム調整部、301…非干渉化器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列に配管された複数の反応器とそれらに原料を供給する複数の原料タンクとその原料を送液する複数のポンプからなる化学装置において、
各反応器に原料が分岐される部分の一部が原料タンクに連通しており、
原料タンクに連通した流路上に原料の実際の流量を検知する原料流量検知手段と、原料の流量を調整する原料流量調整手段を備え、
上記で検知された原料の実際の流量に応じて、原料の流量を調整するように上記原料流量調整手段を制御する制御機を備えたことを特徴とする化学装置。
【請求項2】
並列に配管された複数の反応器とそれらに原料を供給する複数の原料タンクとその原料を送液する複数のポンプからなる化学装置において、
各反応容器へ分配された原料の実際の分配流量を検知する分配流量検知手段と、その流量を調整する分配流量調整手段を備え、
分配流量検知手段で検知された原料の分配流量に応じて原料の流量を調整する制御機を備えたことを特徴とする化学装置。
【請求項3】
請求項2記載の化学装置において、各反応器に原料が分岐される部分の一部が原料タンクに連通しており、
原料タンクに連通した流路上に原料の実際の流量を検知する原料流量検知手段と原料の流量を調整する原料流量調整手段を備え、
上記で検知された原料の実際の流量に応じて、原料の流量を調整するように上記原料流量調整手段を上記制御機で制御することを特徴とする化学装置。
【請求項4】
請求項2記載の化学装置において、各反応容器への原料の調整量と測定された分配流量との関係が、反応器ごとに独立に前記制御機により制御されることを特徴とする化学装置。
【請求項5】
請求項4記載の化学装置において、前記制御機は原料の各反応器への調整量と測定された分配流量との関係を表す伝達特性行列の逆行列と適当な対角行列の積とからなる伝達特性行列をもつ非干渉化器を備え、この非干渉化器によって反応器ごとに非干渉化して独立に制御することを特徴とする化学装置。
【請求項6】
請求項5記載の化学装置において、原料の各反応器への調整量と測定された分配流量との関係をあらわす伝達特性行列を、適当な調整量とそれに対応する分配流量を自動的に測定し、それらの因果関係から伝達特性行列を求め、その伝達特性に応じて制御則を調整するシステム調整部を備えたことを特徴とした化学装置。

【図1】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図2(c)】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図3(c)】
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【図3(d)】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【図4(c)】
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【図4(d)】
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【図4(e)】
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【図4(f)】
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【図5(a)】
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【図5(b)】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−67789(P2011−67789A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222581(P2009−222581)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】