説明

化成処理性に優れた高Si含有高張力鋼板の製造方法

【課題】 化成処理性に優れた高Si含有高張力鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.03%以上0.20%以下、Si:0.5%以上1.8%以下、Mn:1.5%以上3.5%以下、P:0.01%以上0.04%以下、S:0.001%以上0.01%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼板に、冷間圧延および連続焼鈍を施して高張力鋼板を製造するに際し、前記連続焼鈍後の鋼板の表面に研削量0.5g/m2以上1.0 g/m2未満のブラシ研削を施し、次いで濃度が1.0%超3.0%未満の塩酸を用いた塩酸酸洗を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた化成処理性が要求される高張力鋼板、特に自動車用部材として好適に用いられる高張力鋼板に係り、多くのSiを含有するにも拘らず優れた化成処理性を有する高張力鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題の高まりから、所望の強度を確保しつつ自動車車体を軽量化して燃費の向上を図ることが重要課題とされている。そして、このような課題を解決するうえでは自動車部品の素材を高強度化かつ薄肉化することが有効であるため、自動車部品の素材には高強度であり且つ板厚の薄い高張力鋼板が積極的に用いられている。
【0003】
また、上記のような高張力鋼板を素材として用いて自動車部品を製造するに際し、鋼板は通常、プレス加工等の複雑な加工が施されることにより所望の部品形状に成形される。そのため、自動車部品の素材として用いられる高張力鋼板には、高強度であることに加えて優れた延性等の加工性を有することも要求される。
【0004】
そこで、高張力鋼板ではC、Si、Mn等の元素を添加し、これらの元素の含有量を調整することにより鋼板に所望の強度および加工性を付与している。また、これらの元素のうち固溶強化元素であるSiは、安価であり且つ鋼板の延性を低下させることなく鋼板強度の上昇に寄与する元素であるため特に重要な元素であり、優れた強度と加工性が要求されるような高張力鋼板にはSiが積極的に添加されている。
【0005】
ところで、鋼板をプレス加工等により所望の形状に成形して得られた自動車部品は組立・塗装されるが、この塗装の際の塗膜密着性を向上させるため、塗装に先立ち、鋼板には化成処理(リン酸塩皮膜処理)が施される。化成処理では、鋼板表面に均一、かつ、微細なリン酸塩の結晶を形成させることにより鋼板の塗膜密着性を向上させるが、リン酸塩結晶が部分的に欠落したり、あるいは、粗大な結晶になると、鋼板の塗膜密着性が低下し、塗装後の自動車部品の耐食性が悪くなる。このため、自動車部品の素材として用いられる高張力鋼板には、高強度であり且つ優れた加工性を有することに加え、優れた化成処理性を有することが必要不可欠である。
【0006】
しかしながら、高強度化および加工性の向上に有効な元素であるとして高張力鋼板に積極的に添加されているSiは、化成処理性を劣化させる元素である。冷延後の鋼板は、還元雰囲気で再結晶焼鈍されたのち、化成処理が施されるが、再結晶焼鈍の際、Siは易酸化元素であるため優先的に酸化され、鋼板表面に酸化物として濃化する。化成処理の際、鋼板表面にSi酸化物が濃化していると、濡れ性、反応性が悪くなり、リン酸塩結晶が形成され難くなる。このため、Siを多く含んだ高張力鋼板は再結晶焼鈍後の化成処理性が低下するという問題を有する。
【0007】
以上のような問題を解決する方法としては、焼鈍後、鋼板表面に濃化したSi酸化物を除去する方法が知られている。このように、化成処理性の低下を招くSi酸化物を除去しておけば、高Si含有高張力鋼板に所望の化成処理性を付与することが可能となる。
ここで、焼鈍後の鋼板表面に生じた酸化物を除去する方法としては様々なものがあり、例えば特許文献1に開示されているように、連続焼鈍後の鋼板表面を酸洗する化学的方法や、この化学的方法に代えて鋼板表面にショットブラスト等を施す機械的方法がある。また、鋼板表面に生じた酸化物を機械的に除去する手段としては、例えば特許文献2で提案されたブラシロールを用いて鋼板表面をブラシ研削する手段が知られている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された方法を、質量%で1.5%以上のSiを含有する高Si含有高張力鋼板に適用しても、Si酸化物を除去することはできない。連続焼鈍後の高Si含有高張力鋼板に形成されたSi酸化物は、鋼板表面に極めて強固に密着している。そのため、特許文献1で開示されているように、酸洗やショットブラスト等を各々単独で適用しても、高Si含有高張力鋼板の表面に形成されたSi酸化物を除去することはできない。また、特許文献2で提案されたようなブラシロールを用いたブラシ研削を単独で適用しても、やはり高Si含有高張力鋼板の表面に形成されたSi酸化物を除去することはできない。
【0009】
一方、特許文献3では、焼鈍後の高Si含有高張力鋼板に、ブラシ研削と塩酸酸洗を組み合わせた酸化膜除去処理を施す方法が提案されている。そして、特許文献3で提案された方法によると、ブラシ研削量を2.0g/m2以上とすることにより、焼鈍後の高Si含有高張力鋼板表面に形成されたSi含有酸化物を効果的に除去することが可能であるとされている。また、特許文献3で提案された方法では、Si含有酸化物を完全に除去するには、塩酸酸洗で用いる塩酸濃度を3%以上とすることが好ましいとされている。
【0010】
しかしながら、特許文献3で提案された方法では、ブラシ研削量を2g/m2以上とすることを必須としており、このように大きな研削量のブラシ研削を施すことに起因した幾つかの問題点が見られる。まず、ブラシ研削量を2g/m2以上と大きくすると、鋼板表面にブラシ研削目が残存してしまう。そして、鋼板表面にブラシ研削目が残存すると、その後に行われる化成処理や塗装処理に悪影響を及ぼすとともに、最終製品の外観を損なう。また、ブラシ研削量を2g/m2以上と大きくすると、ブラシ研削コストが過大になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭54−29821号公報
【特許文献2】特開平4−315582号公報
【特許文献3】特開2003−226920号公報
【0012】
ところで、化成処理に関しても、鋼板と化成処理液の反応の際、副産物であるスラッジの発生が環境負荷の観点から問題となっており、スラッジ低減のために化成処理温度の低温化が進みつつある。化成処理温度が低温化すると、均一で微細なリン酸塩結晶を得ることが難しくなるため、ますます、化成処理性に対する要望が強くなっている。言い換えれば、優れた化成処理性を有する鋼板であれば、化成処理温度を低温化できるため、化成処理工程でのスラッジ低減などに寄与できるのである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上のような背景の下、本発明の目的は、化成処理性に優れた、高Si含有高張力鋼板を製造するに際し、焼鈍時に形成されるSi酸化物を効率的に除去する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決すべく、本発明者らは、連続焼鈍によって高Si含有高張力鋼板表面に形成されたSiを含む酸化物を除去する方法に関し、高Si含有高張力鋼板の化成処理性に及ぼすブラシ研削条件および塩酸酸洗条件の影響について鋭意検討した。その結果、以下の知見を得た。
【0015】
a)ブラシ研削量が増加すると、ブラシ研削時の加工発熱が大きくなり、この加工発熱に起因して鋼板表面に酸化物が生成してしまうこと。
b)加工発熱に起因した上記酸化物が、後工程の化成処理時に均一微細な化成結晶の形成を阻害すること。
c)塩酸濃度が過剰に高くなると、酸液の酸化力が強くなるため、鋼板表面の活性度が低くなり、均一微細な化成結晶が生成し難くなること。
d)ブラシ研削量・塩酸濃度をともに所定量に低減すれば、ブラシ研削時の加工発熱および酸液の酸化力が適度に低減され、化成処理時に均一微細な化成結晶が形成されること。
【0016】
本発明は、これらの知見に基づきなされたものであり、その要旨は次のとおりである。
[1]質量%で、
C:0.03%以上0.20%以下、 Si:0.5%以上1.8%以下、
Mn:1.5%以上3.5%以下、 P:0.01%以上0.04%以下、
S:0.001%以上0.01%以下
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼板に、冷間圧延および連続焼鈍を施して高張力鋼板を製造するに際し、前記連続焼鈍後の鋼板の表面に研削量0.5g/m2以上1.0 g/m2未満のブラシ研削を施し、次いで濃度が1.0%超3.0%未満の塩酸を用いた塩酸酸洗を施すことを特徴とする、化成処理性に優れた高Si含有高張力鋼板の製造方法。
【0017】
[2]前記[1]において、前記鋼板が、前記組成に加えてさらに質量%で、Nb:0.OO1%以上0.15%以下、Ti:0.001%以上0.15%以下、Al:0.02%以上0.04%以下、N:0.001%以上0.005%以下、Cu:0.001%以上0.03%以下、Ni:0.001%以上0.03%以下、Cr:0.001%以上0.2%以下、V:0.001%以上0.2%以下、Mo:0.001%以上0.20%以下から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする、化成処理性に優れた高Si含有高張力鋼板の製造方法。
【0018】
[3]前記[1]または[2]において、前記ブラシ研削を、#120以下の砥粒を含有するブラシを用いて研削することを特徴とする、化成処理性に優れた高Si含有高張力鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
以上に示したように、本発明を用いることにより、質量%で0.5%以上のSiを含有する高張力鋼板の場合も、ブラシロール、塩酸原単位を低減した上で、Si酸化物を効果的に除去でき、優れた化成処理性を得ることができる。これにより、安価で強度と加工性を両立する自動車用鋼板を製造でき、成形加工後の塗装も良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】研削量:0.5g/m2のブラシ研削および塩酸濃度:1.6%の塩酸酸洗を施した高Si含有高張力鋼板化成処理後のSEM観察結果である。
【図2】研削量:0.9g/m2のブラシ研削および塩酸濃度:10.0%の塩酸酸洗を施した高Si含有高張力鋼板化成処理後のSEM観察結果である。
【図3】研削量:2.4g/m2のブラシ研削および塩酸濃度:10.0%の塩酸酸洗を施した高Si含有高張力鋼板化成処理後のSEM観察結果である。
【図4】ブラシ研削および酸洗を施さない場合の高Si含有高張力鋼板化成処理後のSEM観察結果である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明の知見に至った、化成処理性に及ぼすブラシ研削条件、塩酸酸洗条件の影響を評価した実験について述べる。実験には、表1に示す化学成分の質量%で1.5%のSiを含有する鋼板を、圧下率75%で冷間圧延した後、露点−40〜−42℃、H2ガス5%の雰囲気中、800℃の条件で30sec.焼鈍した、1.6mm厚の鋼板を用いた。そして、このようにして得られた鋼板に、表2に示す種々の条件でブラシ研削および塩酸酸洗を施した。
【0022】
【表1】

【0023】
ブラシ研削は、特許文献2に開示されているような、砥粒を含有する、直径400mmのブラシロールを用いて行った。ブラシロールを1000rpmで鋼板通板方向と逆方向に回転させ、圧下量3mm、鋼板通板速度100mpmの条件でブラシ研削を行った。この際、ブラシロールの砥粒の大きさや研削パス回数を種々変更した。ブラシ研削に続く酸洗は、濃度0.1%〜10.0%の種々の濃度の塩酸を用いて、50℃で10秒間の酸洗を行った。ブラシ研削、塩酸酸洗の前後に、鋼板の重量測定を行い、その重量差から、ブラシ研削量、酸洗溶解量を求めた。また、ブラシ研削および塩酸酸洗を施した後の鋼板について、Si酸化物の除去を同定するためにグロー放電発光分光分析装置(GDS)による分析を行い、得られた発光強度値に基づき鋼板表面から深さ方向0.1μmまでのSiとFeの積分強度比(Si/Fe)を求めた。Si/Feが高いほど、鋼板表層にSi酸化物が残存していることになる。
【0024】
更に、鋼板の化成処理性を評価するため、以下の化成処理評価を行った。ブラシ研削および塩酸酸洗を施した後の鋼板表面を、日本パーカライジング社製の脱脂液ファインクリーナ(登録商標)で脱脂した後、水洗し、次いで日本パーカライジング社製の表面調整液プレパレンZ(登録商標)で30秒表面調整を行い、35℃の日本パーカライジング社製の化成処理液(パルボンドL3080;登録商標)に120秒浸漬した後、水洗し、温風で乾燥させた。得られた化成処理後鋼板の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)(倍率:1000倍)にて120μm×80μmの視野を4視野観察し、化成結晶が生成していない面積率(スケ面積率)および化成結晶サイズを求めた。スケ面積率1%未満を○、スケ面積率1%以上5%未満を△、スケ面積率5%以上を×とし、スケ面積率1%未満かつ化成結晶サイズ3μm以下を良好な化成処理性の基準とした。
以上の評価結果を表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
表2に示すとおり、ブラシ研削量を0.5g/m2以上として、濃度1.0%超の塩酸で酸洗処理することにより、前記Si/Feを低減することができた。また、これらの条件では、スケなく化成結晶が形成された。一方、結晶サイズに関しては、塩酸濃度の影響が大きく、3μm以下の微細な化成結晶が得られたのは、ブラシ研削量が0.5g/m2以上1.0 g/m2未満であり、かつ、塩酸濃度が1.0%超3.0%未満の場合に限られる。
【0027】
また、図1〜図3にブラシ研削および塩酸酸洗を施し化成処理した後のSEM観察結果を示す。図1は「ブラシ研削量:0.5g/m2、塩酸濃度:1.6%」、図2は「ブラシ研削量:0.9g/m2、塩酸濃度:10.0%」、図3は「ブラシ研削量:2.4g/m2、塩酸濃度:10.0%」とした場合のSEM観察結果である。なお、図4はブラシ研削および酸洗を施さない場合のSEM観察結果である。図2と図3の比較から、ブラシ研削量が多い方がスケ面積率は少なくなるものの、化成結晶は粗粒となる傾向が確認される。しかしながら、図1と図2の比較から明らかであるように、塩酸濃度を3.0g/m2未満に低減した場合には、研削量を1.0 g/m2未満と極めて少なくすることにより、スケ面積率が少ないうえに化成結晶サイズも3μmと極めて小さくなる。
【0028】
以上の結果から、本発明者らは、ブラシ研削量を0.5g/m2以上1.0 g/m2未満とし、続いて行う塩酸酸洗で用いる塩酸濃度を1.0%超3.0%未満とすることが、高Si含有高張力鋼板の化成処理性を改善するうえで極めて有効であることを知見した。なお、このようにブラシ研削量と塩酸濃度をともに低減化することによりスケ面積率・化成結晶サイズについて良好な結果が得られる理由については定かではないが、次のように推測される。
【0029】
ブラシ研削量が増加すると、ブラシ研削時の加工発熱が大きくなり、この加工発熱に起因して鋼板表面に酸化物が生成してしまう。そしてこの酸化物が、後工程の化成処理時に均一微細な化成結晶の形成を阻害する。また、塩酸濃度が過剰に高くなると、酸液の酸化力が強くなるため、鋼板表面の活性度が低くなり、均一微細な化成結晶が生成し難くなる。一方、ブラシ研削量・塩酸濃度をともに所定量に低減すれば、ブラシ研削時の加工発熱および酸液の酸化力が適度に低減され、化成処理時に均一微細な化成結晶が形成されるものと推測される。
【0030】
次に、本発明が対象とする鋼板について説明する。
本発明では質量%でSiを0.5%以上含有する鋼板を対象とする。これは、上述したように、Siが安価であり、強度と加工性を両立する上で重要な元素であるからである。質量%でSiが0.5%未満であれば、通常の焼鈍ままの場合も、良好な化成処理性が得られるため、本発明を適用する必要はない。なお、Si含有量は、溶接性、割れ性などの観点から、質量%で1.8%を上限とすることが好ましい。C、Mnなどの元素は、要求される強度、加工性に応じ、必要量を添加すれば良く、また、Ti、Nb、Moなどを添加することも本発明を妨げるものではない。
【0031】
以下に、本発明鋼板の成分組成の限定理由について説明する。なお、以下の成分組成を表す%は、特に断らない限り質量%を意味するものとする。
C :0.03%以上0.20%以下
C は、鋼の強度を増加させる元素であり、所望の高強度を確保するために、0.03%以上含有することが望ましい。一方、0.20%を超える含有は、鋼板の溶接性を著しく劣化させる。このため、0.03%以上0.20%以下の含有が好ましい。より好ましくは0.04%以上0.08%以下である。
【0032】
Si:0.5%以上1.8%以下
Siは、Cと同様に鋼の強度を向上させる元素であるとともに、安価であり、加工性の向上にも有効な元素であるため、0.5%以上含有することが望ましい。一方、1.8%を超える含有は、鋼板の低温脆性を著しく劣化させる。このため、0.5%以上1.8%以下の含有が好ましい。より好ましくは0.9%以上1.5%以下である。
【0033】
Mn:1.5%以上3.5%以下
Mnも、CおよびSiと同様に、鋼の強度を向上させる元素であるとともに安価であるため、1.5%以上含有することが望ましい。一方、3.5%を超える含有は、鋼板の溶接性を著しく劣化させる。このため、1.5%以上3.5%以下の含有が好ましい。より好ましくは1.5%以上2.5%以下である。
【0034】
P :0.01%以上0.04%以下
S :0.001%以上0.01%以下
P、Sは、いずれも低温靭性に悪影響を及ぼす元素である。このため、これらの元素はできるだけ低減することが好ましいが、過度の低減は、製造コストの増大を招く。以上の理由により、P、S各々の含有量は、製造コストが増大しない程度の範囲、すなわち、Pは0.01%以上0.04%以下、Sは0.001%以上0.01%以下の含有が好ましい。
【0035】
以上が、本発明の鋼板の基本成分であるが、強度の更なる向上を目的として、上記に加えて以下の元素を選択して含有することができる。
Nb:0.001%以上0.15%以下、Ti:0.001%以上0.15%以下
Nb、Tiは、いずれも析出強化により鋼の強度向上に寄与する元素であり、必要に応じ選択して含有することができる。いずれの元素も、析出強化を得るためには0.001%以上の含有が望ましいが、0.15%を超えて含有しても、含有量に見合う効果が得られない。このため、Nb、Tiともに、0.001%以上0.15%以下の含有が好ましい。より好ましくは、Nb:0.01%以上0.03%以下、Ti:0.01%以上0.03%以下である。
【0036】
A1:0.02%以上0.04%以下
Alは、脱酸剤として作用するとともに、A1Nを形成することで高温における結晶粒の粗大化を抑制する元素であり、必要に応じて含有することができる。上記の効果を得るためには、0.02%以上含有することが好ましい。一方、0.04%を超える含有は、鋼の清浄度を低下させるおそれがある。このため、0.02%以上0.04%以下の含有が好ましい。
【0037】
N :0.001%以上0.005%以下
Nは、固溶強化による強度確保に有効であり、0.001%以上の含有が好ましい。一方、0.005%を超える含有は、溶接性の低下を招く。このため、0.001%以上0.005%以下の含有が好ましい。
【0038】
Cu:0.001%以上0.03%以下、Ni:0.001%以上0.03%以下、Cr:0.001%以上0.2%以下、V :0.001%以上0.2%以下、Mo:0.001%以上0.20%以下
Cu、Ni、Cr、V、Moは、固溶強化を介して鋼の強度上昇に寄与する元素であり、必要に応じて選択して含有することができる。上記の効果を得るためには、各元素とも0.00l%以上の含有が望ましい。一方、Cuであれば0.03%、Niであれば0.03%、Crであれば0.2%、Vであれば0.2%、Moであれば0.20%をそれぞれ超えて含有しても、強度上昇効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなる。このため、Cu:0.001%以上0.03%以下、Ni:0.001%以上0.03%以下、Cr:0.001%以上0.2%以下、V:0.001%以上0.2%以下、Mo:0.001%以上0.20%以下含有することが好ましい。より好ましくは、Cu:0.01%以上0.02%以下、Ni:0.01%以上0.02%以下、Cr:0.01%以上0.1%以下、V :0.01%以上0.1%以下、Mo:0.01%以上0.1%以下である。
【0039】
本発明の鋼板において上記以外の成分は、Feおよび不可避的不純物である。なお、不可避的不純物としては、B などが挙げられる。これらは0.01%以下の含有が許容されるが、好ましくは0.005%以下である。
【0040】
本発明は、上記組成を有する鋼板に、冷間圧延および連続焼鈍を施して高張力鋼板を製造するに際し、前記連続焼鈍後の鋼板の表面に研削量0.5g/m2以上1.0 g/m2未満のブラシ研削を施し、次いで濃度が1.0%超3.0%未満の塩酸を用いた塩酸酸洗を施すことにより、前記連続焼鈍後の鋼板の表面に濃化したSi酸化物を除去する。
【0041】
本発明において、冷間圧延を施す前の鋼板を製造する方法については特に限定されず、従前公知の方法により製造することができる。また、冷間圧延条件についても特に限定されない。
なお、本発明が対象とする高Si含有高張力鋼板(Siを0.5%以上含有する鋼板)を製造するに際しては通常の条件により熱延板とし、必要に応じて酸洗したのち、圧下率40〜70%程度の冷間圧延が施される。
冷間圧延後の鋼板の板厚は1.0〜2.0mm程度である。
【0042】
本発明が対象とする高Si含有高張力鋼板(Siを0.5%以上含有する鋼板)の場合、冷間圧延後の鋼板を、露点−30〜−45℃、H2ガス5〜10%程度の還元雰囲気中、750〜900℃の温度域で10〜60sec.程度保持して焼鈍されるのが一般的である。また、これらの焼鈍条件は、焼鈍ラインの設備能力、生産性、鋼板の成分や要求される強度・伸びなどによって、適宜、決定される。そして、このような条件下で焼鈍が施されることにより、高Si含有高張力鋼板の表面には極めて強固に密着したSi酸化物が形成される。
【0043】
なお、露点を−50℃以下に低下させること、或いは焼鈍温度を700℃以下に低下させることができれば、高Si含有高張力鋼板であってもその表面にSi酸化物が生成されず、優れた化成処理性が得られることが知られている。しかしながら、設備能力・生産性の問題や、材質確保の観点からこのような焼鈍条件を適用することは現状では困難である。そのため、本発明では、連続焼鈍後の鋼板にブラシ研削および塩酸酸洗を施すことにより、連続焼鈍時、高Si含有高張力鋼板の表面に生じたSi酸化物を除去することとする。
【0044】
ブラシ研削の研削量:0.5g/m2以上1.0 g/m2未満
連続焼鈍時、鋼板の表面に生じたSi酸化物は、塩酸には溶解しないため、塩酸酸洗のみではSi酸化物を除去することが困難である。したがって、本発明ではブラシ研削を必須とする。ブラシ研削の効果は、機械的にSi酸化物を除去することに加えて、表面酸化物に研削目により亀裂を導入して酸の浸透を促進することにある。亀裂導入により酸がSi酸化物−母相(鋼板素地)界面に浸透すると、後述する塩酸酸洗において母相(鋼板素地)が溶解する。そして、母相(鋼板素地)の溶解に伴いSi酸化物が除去される。
【0045】
ブラシ研削量が0.5g/m2未満の場合、亀裂導入効果が小さくなる結果、酸浸透を促進することができず、Si酸化物−母相(鋼板素地)界面に酸液を十分に浸透させることができない。一方、ブラシ研削量が1.Og/m2以上になると、研削時の加工発熱が大きくなるため、鋼板表面に酸化物が生成してしまい、これが均一微細な化成結晶の形成を阻害する場合がある。またブラシ研削で1.Og/m2以上研削するためには、ブラシ研削コストが多大になるため好ましくない。以上の理由により、ブラシ研削量を0.5g/m2以上1.0 g/m2未満に規定した。
【0046】
以上のように、本発明では焼鈍後の鋼板にブラシ研削を施し、鋼板表面から機械的にSi酸化物を除去するが、鋼板表面には通常、深さ2μm以上の凹凸があり、鋼板の凹み部の底に存在するSi酸化物をブラシ研削で安定して研削除去することは事実上困難である。このため、本発明ではブラシ研削後の塩酸酸洗による化学的な溶解を必須とする。
【0047】
塩酸酸洗に用いる塩酸濃度:1.0%超3.0%未満
本発明においては、ブラシ研削を施すことにより、鋼板表面に亀裂が導入されている。このような亀裂が導入された鋼板表面に対して酸洗を施すと、酸液がSi酸化物−母相(鋼板素地)界面に浸透して母相(鋼板素地)を溶解する。そして母相(鋼板素地)の溶解に付随してSi酸化膜が除去されるのである。
【0048】
酸洗時の塩酸濃度が1.0%以下である場合、母相(鋼板素地)の溶解によるSi酸化物の除去効果が不十分となる。一方、酸洗時の塩酸濃度が3.0%以上であると、酸液の酸化力が強くなり、鋼板表面の活性度が低くなることが推測され、均一微細な化成結晶が生成し難くなる。なお、塩酸濃度が3.0%以上で化成処理性が劣化する原因は必ずしも定かではないが、前述の実験結果に示すように塩酸濃度の影響は明瞭である。
【0049】
また、上記のブラシ研削は、JIS R6001(1998)に規定された粒度で#120以下の砥粒を含有するブラシを用いて研削することが、研削量を確保する観点から好ましい。
【0050】
従来、Si酸化物を除去するためには、ブラシ研削量、塩酸溶解量ともに大きい方が好ましいと考えられてきた。しかしながら、本発明者らは、ブラシ研削量を多くすることによりスケ面積率の低減効果が得られるものの、化成結晶は粗粒となり化成処理性に悪影響を及ぼすことを知見した。そして、塩酸酸洗に用いる塩酸の濃度を低減することが化成処理性改善に有効であること、及び、塩酸の濃度を3.0%未満に低減した場合、ブラシによる研削量は1.Og/m2未満、更には0.5g/m2程度でも十分であることを知見した。また、本発明は、優れた化成処理性を得ることだけでなく、ブラシ研削に必要なパス数を大幅に削減でき、ブラシロールや塩酸の原単位削減にも有効である。
【実施例】
【0051】
表3に示す、種々の組成の冷延鋼板を、連続焼鈍ラインにて露点−37〜−39℃、H2ガス5〜6%の雰囲気中、800〜870℃の温度で20〜35sec.保持する焼鈍処理を施し、室温まで冷却した。引き続き、ブラシ研削と塩酸酸洗を施してSi酸化物の除去処理を行った。ブラシ研削は、#100砥粒を含有する直径450mmのブラシロールを具えた特許文献2に記載の如きブラシ研削設備を使用し、2〜4パスの研削とした。また、ブラシ研削は、ブラシロールを1200rpmの回転速度で鋼板通板方向と逆方向に回転させ、圧下量を2〜3mmの範囲で制御し、鋼板通板速度を80〜100mpmとする条件で行った。塩酸酸洗は、温度45℃で10sec.間の酸洗処理とした。ここで、従来例としては、4パスのブラシ研削(研削量:2.3〜2.7g/m2)を行い、4%の塩酸で酸洗を行った。また、本発明例としては、2パスのブラシ研削(研削量は0.7〜0.9g/m2)を行い、1%の塩酸で酸洗を行った。また、比較例を、4%での塩酸酸洗のみの条件とした。
【0052】
【表3】

【0053】
得られた鋼板に対し、前述と同様の条件で、化成処理を施し、化成処理性を評価した。評価結果を表4に示す。比較例、従来例に比べ、本発明例により製造した冷延鋼板の化成処理性が優れていることが確認された。
【0054】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.03%以上0.20%以下、 Si:0.5%以上1.8%以下、
Mn:1.5%以上3.5%以下、 P:0.01%以上0.04%以下、
S:0.001%以上0.01%以下
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼板に、冷間圧延および連続焼鈍を施して高張力鋼板を製造するに際し、前記連続焼鈍後の鋼板の表面に研削量0.5g/m2以上1.0 g/m2未満のブラシ研削を施し、次いで濃度が1.0%超3.0%未満の塩酸を用いた塩酸酸洗を施すことを特徴とする、化成処理性に優れた高Si含有高張力鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記鋼板が、前記組成に加えてさらに質量%で、Nb:0.OO1%以上0.15%以下、Ti:0.001%以上0.15%以下、Al:0.02%以上0.04%以下、N:0.001%以上0.005%以下、Cu:0.001%以上0.03%以下、Ni:0.001%以上0.03%以下、Cr:0.001%以上0.2%以下、V:0.001%以上0.2%以下、Mo:0.001%以上0.20%以下から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の化成処理性に優れた高Si含有高張力鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記ブラシ研削を、#120以下の砥粒を含有するブラシを用いて研削することを特徴とする、請求項1または2に記載の化成処理性に優れた高Si含有高張力鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−82489(P2012−82489A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231048(P2010−231048)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】