説明

化成被膜の検査方法及び検査装置

【課題】目視評価が困難な薄膜かつ付着量が少ない化成被膜に対してもオンラインで被膜品質を検査できる化成被膜の検査装置を提供する。
【解決手段】検査対象たる化成被膜100に対して光を照射する光照射手段301と、化成被膜による反射光を受光する受光手段302と、光照射手段から照射された光の光量と受光手段により受光された光の光量とを比較して光反射率を算出する光反射率演算手段303と、予め測定された化成皮膜の光反射率と付着量との関係を記憶する記憶手段304と、記憶手段に記憶された化成被膜の光反射率と付着量との関係を参照して光反射率演算手段により求められた光反射率から化成被膜の品質を判定する品質判定手段305とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車ボディや部品の表面に電着塗装を施す前に行われる前処理工程の化成被膜の検査方法及び検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車ボディの下塗り塗装として電着塗装が一般的であるが、この電着塗装を施す前に、自動車ボディを洗浄したり化成被膜を形成したりする、いわゆる前処理が行われている。
【0003】
従来の電着塗装の前処理は、自動車ボディに付着した油分、鉄粉、塵埃などを除去する脱脂・洗浄工程と、清浄となったボディの表面にリン酸亜鉛系化成皮膜を形成する表面調整・化成処理工程とで構成されている。このうちの表面調整工程は、被処理物の表面に表面調整剤成分を吸着させることにより、次工程のリン酸亜鉛系化成処理工程における反応起点数を増加させ、また吸着した表面調整剤成分が、リン酸亜鉛皮膜結晶の核となり、皮膜形成反応を加速するという役割を担っている。
【0004】
ところが、リン酸亜鉛系化成処理法では、化成被膜の形成反応を加速させるためには上述したとおり表面調整工程が必要である。また、リン酸亜鉛系化成処理法は化学的反応によって化成被膜を形成するため、化成スラッジが必然的に生じてしまい、そのために化成スラッジを含む排水の処理装置や、ボディを洗浄する洗浄装置及び水切り乾燥炉などの設備が必要となる。
【0005】
このため、たとえばジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオン、並びにフッ素イオンを含有し、実質的にリン酸イオンを含有しない化成処理液を用いることで表面調整工程や化成スラッジの処理を省略することも提案されている。
【0006】
ところで、リン酸亜鉛系化成皮膜の付着量は1〜5g/m程度であることから、化成被膜の良否検査は目視によりオンラインで行うことができる。また、ミクロ的な付着状況は電子顕微鏡を用いてオフラインで行われている。
【0007】
ところが、上述したジルコニウムイオン系化成処理液で形成した化成被膜はリン酸亜鉛系化成皮膜に比べて非常に薄膜で付着量も少ない(20〜50mg/m程度)ので、目視で化成被膜の付着状況を評価することはできない。
【発明の開示】
【0008】
本発明は、目視評価が困難な薄膜かつ付着量が少ない化成被膜に対してもオンラインで被膜品質を検査できる化成被膜の検査方法及び検査装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点によれば、検査対象たる化成皮膜の光反射率を測定し、予め測定された化成皮膜の光反射率と付着量との関係を参照して前記検査対象たる化成皮膜の品質を検査することを特徴とする化成皮膜の検査方法が提供される。
【0009】
また上記目的を達成するために,本発明の第2の観点によれば、検査対象たる化成被膜に対して光を照射する光照射手段と、前記化成被膜による反射光を受光する受光手段と、前記光照射手段から照射された光の光量と前記受光手段により受光された光の光量とを比較して光反射率を算出する光反射率演算手段と、予め測定された化成皮膜の光反射率と付着量との関係を記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶された化成被膜の光反射率と付着量との関係を参照して前記光反射率演算手段により求められた光反射率から化成被膜の品質を判定する品質判定手段と、を有することを特徴とする化成被膜の検査装置が提供される。
【0010】
本発明では、化成被膜の付着量が光反射率と相関することに着目し、化成被膜に対して光反射率を測定し、予め測定された化成皮膜の光反射率と付着量との関係を参照して、測定された光反射率から化成被膜の品質を判定するので、目視では評価し難い化成被膜に対しても品質検査が可能となる。また、非破壊検査であることから、塗装前処理工程を流れている被検査物に対してオンラインで検査することができる。
【発明の実施の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
《第1実施形態》
図1は本発明の塗装前処理方法及び塗装前処理装置が適用される塗装工程の一例を示す平面レイアウト図、図2は本発明の塗装前処理方法及び塗装前処理装置の一実施形態を示す側面図、図3は本発明に係る化成被膜の検査装置の一例を示す平面図及び正面図、図4は本発明に係る化成被膜の検査装置の構成を示すブロック図、図5は本発明に係る化成皮膜の光反射率と付着量との関係の一例を示すグラフ、図6は本発明に係る化成被膜の検査装置の、データ処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0013】
図1及び図2に塗装工程のうち前処理〜電着工程の一例を示し、同図を参照して本発明に係る化成被膜の検査方法及び検査装置30が適用される塗装ラインの前半の一例を概説する。以下の説明では、ホワイトボディに付着した油分、鉄粉、塵埃等を除去する工程及びその装置の総称を脱脂洗浄工程A又は脱脂洗浄装置Aと称し、その後にホワイトボディに化成被膜を形成する工程及びその装置の総称を化成処理工程B又は化成処理装置Bと称し、化成被膜が形成されたボディに未乾燥の電着塗膜を形成する工程及びその装置の総称を電着工程C又は電着塗装装置Cと称し、その後にボディに付着した余分な電着塗料を洗い流す工程及びその装置の総称を電着水洗工程D又は電着水洗装置Dと称し、未乾燥の電着塗膜を焼き付けて乾燥させる工程及びその装置の総称を電着焼付工程E又は電着乾燥炉28と称する。
【0014】
まずプレス部品の組立を終了したホワイトボディは、車体組立ラインのドロップリフタ1により、それまでの台車から塗装ハンガ3に移載され、オーバーヘッドコンベア2により塗装ラインに搬送される。
【0015】
塗装ラインに搬入されたホワイトボディ4には、プレス油や溶接による鉄粉、その他塵埃などが付着しているので、化成処理を施す前に脱脂洗浄工程Aにてこれら油分、鉄粉及び塵埃が除去される。同図に示す例では、この脱脂洗浄工程Aは、主として油分を除去するための予備脱脂工程A1と本脱脂工程A2、及びこれら予備脱脂工程A1及び本脱脂工程A2で使用した脱脂液、ボディ4に付着した鉄粉や塵埃を除去する第1水洗工程A3および第2水洗工程A4から構成されている。
【0016】
図2に示すように予備脱脂工程A1はタンク5に貯留された脱脂液をポンプで汲み上げてノズル6からボディ4に向かって噴霧する、いわゆるシャワー式接液方法であるのに対し、本脱脂工程A2は、脱脂槽7に収容された脱脂液にボディ4を全没させることで接液させる、いわゆるフルディップ式接液方法が採用されている。ただし、本発明に係る化成被膜の検査方法及び検査装置30が適用される塗装前処理方法及び装置は、このような接液方法や段数(本例では予備脱脂と本脱脂の2段。)には何ら限定されず適宜変更可能である。
【0017】
また、第1水洗工程A3はタンク8に貯留された工水をポンプで汲み上げてノズル9からボディ4に向かって噴霧する、いわゆるシャワー式接液方法であるのに対し、第2水洗工程A4は、水洗槽10に収容された工水にボディ4を全没させることで接液させる、いわゆるフルディップ式接液方法が採用されている。ただし、本発明に係る化成被膜の検査方法及び検査装置30が適用される塗装前処理方法及び装置は、このような接液方法や段数(本例では第1水洗と第2水洗の2段。)には何ら限定されず適宜変更可能である。以上説明した脱脂洗浄工程Aを構成する装置が脱脂洗浄装置Aである。
【0018】
脱脂洗浄工程Aにより清浄となったホワイトボディ4の表面に化成被膜を形成するために化成処理工程Bが設けられている。本例の化成処理工程Bは化成被膜形成工程B1と、化成処理液による発錆を防止するための純水洗工程B2とから構成され、表面調整工程は設けられていない。
【0019】
特に本例では、化成処理液として、たとえばジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオン、並びにフッ素イオンを含有し、実質的にリン酸イオンを含有しない化成処理液が用いられている。
【0020】
リン酸イオンを含有する化成処理は、ボディを構成する鉄、亜鉛、アルミニウムとのイオン交換による析出反応(化学的反応)で化成被膜が形成されるが、たとえばジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオン、並びにフッ素イオンを含有する化成処理液による化成処理は、化学的反応による被膜形成メカニズムではなく、コーディングのような物理的な作用により化成被膜が形成される。この種の化成処理液を用いると、リン酸亜鉛系化成処理液に比較して、化成スラッジ(反応生成物)が生じない点や、表面調整工程が不要である点などが有利となる。
【0021】
一例を挙げると、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオン、並びに、フッ素イオンを含有、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオンの含有量は、重量基準で20〜500ppmであり、フッ素イオンの含有量は、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオンに対して、モル比で6倍以上であり、実質的にリン酸イオンを含有せず、pHが2〜5である化成処理液、若しくはこれにバナジウムイオン、セリウムイオン、ニッケルイオン、マンガンイオン、コバルトイオンなどの防錆金属を添加した化成処理液、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオン、フッ素イオン、並びに、可溶性エポキシ樹脂を含有し、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオンの含有量は、質量基準で20〜500ppmであり、フッ素イオンの含有量は、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオンに対して、モル比で6倍以上であり、可溶性エポキシ樹脂は、樹脂100g当たり−NH及び/又は−NHを少なくとも0.1モル有し、実質的にリン酸イオンを含有せず、pHが2.5〜4.5である化成処理液、6価クロムイオン2g/リットル以上、硫酸イオン20〜2000ppm、フッ素を400ppm未満、及びジルコニウムイオン及びチタニウムイオンから選ばれる1種又は2種のイオンを20〜1000ppm含有するpHが0.5〜2.0の化成処理液、若しくはこれにコロイダルシリカ、乾式シリカ、珪酸アルカリ金属塩の、1種又は2種以上のシリカゾルをその固形分濃度で1〜5g/リットルを含有する化成処理液などである。ただし、この化成処理液にのみ限定される趣旨ではなく、化学的反応に依らない物理的作用による化成皮膜が形成される化成処理液であればよい。
【0022】
図2に示す化成処理装置Bは、塗装ハンガに搭載されたボディ4が通過する処理槽11を有し、オーバーヘッドコンベア2のアップダウンに伴いボディ4もアップダウンするので、処理槽11に満たされた化成処理液にボディ4を浸漬することができる。なお、同図にはいわゆるフルディップ式処理槽11を示したが、ボディ4の下部のみを浸漬し、ボディ4の上部をシャワーするハーフディップ式や、ボディ4の全体をシャワー方式による化成処理を採用することも可能である。
【0023】
上述したジルコニウムイオンを含む化成処理液を用いた化成処理工程では、いわゆる化成スラッジが生じないので、処理槽11には特別なスラッジ除去装置を設ける必要がない。ただし、処理槽11内の化成処理液に含まれる塵埃を除去するとともに化成処理液の撹拌を目的として、フィルタ,ポンプ及び吐出ノズルを有する循環配管を設けることもできる。なお、処理槽11にて消費される化成処理液は補給用化成処理液を貯留する図外のタンクから所定のタイミングで補給される。
【0024】
化成被膜形成工程B1に続いて純水洗工程B2が設けられているが、この純水洗工程B2は、図2に示すようにタンク19に貯留された純水をポンプで汲み上げてノズル21からボディ4に向かってミスト状に噴霧する、いわゆるシャワー式接液方法である。この純水洗工程B2は、上述したとおり化成処理液のpHが2〜5と酸性であるときはこれにより電着工程までの間にボディに錆が発生するのを防止するためである。したがって、必要に応じて当該純水洗工程を省略したり噴霧量を減少させたりすることは可能である。
【0025】
以上説明した化成処理工程Bを構成する装置が化成処理装置Bであるが、この化成処理工程Bと次の電着工程Cとの間に,本発明に係る化成被膜の検査装置30が設けられている。これに付いては後述する。
【0026】
純水洗B2の後には、電着工程C及び電着水洗工程Dが設けられている。特に本例の前処理塗装ラインでは、化成処理工程Bと電着工程Cとの間にボディ4のストレージ工程を省略して、昼休みや終業時であってもそのまま電着工程Cにボディを流すこととしている。これによっても、上述した純水洗工程B2に加えて、ボディ4の発錆が防止される。ただし、必要に応じてストレージ工程を設けることもできる。
【0027】
電着工程Cは、電着液の電気泳動作用によりボディ4の表面に電着塗膜を形成する工程であり、電着液が満たされた舟形の電着槽22を有し、塗装ハンガ3に搭載された状態でボディ4が電着液に浸漬され、電着槽22内の側壁及び低壁に設けられた複数の電極板(図示は省略する。)に高電圧を印加するとともにボディ4側をアースすることで電着塗装が施される。またこのとき、ボディ4の袋構造体の内部にも電着液が浸入するので袋構造体の内面にも電着塗膜が形成されることになる。なお、電着液としては上述したカチオン型電着塗料を用いることが防錆上好ましいが、電着液側をアースするとともにボディ4側に高電圧を印加するアニオン型電着塗料を用いても何ら差し支えない。
【0028】
電着工程Cに続いて、ボディ4に付着した余分な電着液を洗い流し、場合によってはこれを回収する電着水洗工程Dが設けられている。本例の電着水洗工程Dは工水を用いて水洗する前段の工程と、純水にて水洗する後段の工程とから構成され、図2には前段の工水洗浄工程のみを示す。この工水による水洗工程は、さらにフルディップ式水洗とシャワー式水洗とで構成され、工水が満たされた水洗槽23、工水が貯留されたタンク24、当該タンク24に貯留された工水をポンプで汲み上げてボディ4に向かって噴霧するノズル25を有している。また、このシャワー式工水水洗工程の直後には、図示は省略するが当該シャワー式工水水洗工程と同様に、純水を貯留するタンクと、当該タンクに貯留された純水をポンプで汲み上げてボディ4に向かってミスト状に噴霧するノズルを有する、純水洗工程が設けられている。
【0029】
電着水洗工程Dの後には、図1に示すように塗装ハンガ3に搭載されたボディ4を塗装台車に移載するためのドロップリフタ26が設けられ、ここで塗装台車に移載されたボディ4はフロアコンベア27により塗装乾燥炉28に搬入され、ここでたとえば170℃で20分間加熱されることにより、ボディ4に塗装された電着塗膜が硬化する。この塗装乾燥炉28が電着焼付工程Eに該当する。
【0030】
電着焼付工程Eの後には、昼休みや終業時のボディ4を一時的に溜めておくためのストレージ工程Fが設けられている。昼休みや終業時にあっては、ドロップリフタ1の前のボディ組立工程および電着焼付工程Eの後のシーリング工程Gは作業を中断する。これに対して、脱脂洗浄工程A〜電着焼付工程Eまでは処理を中断すると品質に影響することが多いので、ボディ組立工程やシーリング工程Gが作業中断してもそのまま処理を続行する。このストレージ工程Fは、その間に処理されたボディ4を一時的に溜めておき、作業が再開されたときにシーリング工程Gにボディ4を供給するためのラインである。そのため、通常は脱脂洗浄工程A〜電着焼付工程Eまでに在席するボディ数のストレージ能力とすることが好ましい。
【0031】
以上のとおり、本例の塗装ラインによれば、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオン、並びにフッ素イオンを含有し、実質的にリン酸イオンを含有しない化成処理液を用いることで、化成処理工程Bの前に表面調整工程が不要となり、また化成処理工程Bの後に工業用水による水洗工程も不要となって、化成処理工程を簡略化することができる。
【0032】
なお、化成被膜形成工程B1の後の、純水洗工程B2の回収オーバーフロー液を化成処理槽11に戻すことにより、化成処理工程Bの排水系をクローズド化することもできる。また、この純水洗工程で噴霧された純水は次工程の電着工程に持ち込まれても何ら問題はないので、化成処理工程Bに水切り乾燥炉を設ける必要はなく、むしろ持ち込まれる純水が電着塗料の補給用純水として機能することになる。
【0033】
ところで、上述したジルコニウムイオン系化成被膜の特徴として、リン酸亜鉛系化成被膜に比べて極めて薄膜で付着量が少なく、目視にて化成被膜の形成状態を評価し難い点が挙げられる。満足する防錆性能を得るために必要な付着量としては、リン酸亜鉛系化成皮膜では1〜5g/mであるのに対し、ジルコニウムイオン系化成被膜は僅か20mg/m〜50mg/mである。このため、ジルコニウムイオン系化成被膜の形成状態を評価するにはオフラインにて蛍光X線式測定器を用いるほかなかった。
【0034】
しかしながら、本発明者らが化成被膜の光反射率と付着量との関係を検証したところ、図5に示すように、満足する防錆性能を得るために必要とされる付着量20mg/m〜50mg/mの下限付近で光反射率が急激に変化することを見出し、この関係を利用すれば目視評価できない化成被膜であっても付着量の推定が可能であることを確認した。
【0035】
すなわち、化成処理工程Bを終了した自動車ボディ4に形成された化成被膜の付着量が20mg/m未満であると防錆性能上好ましくないので、この下限を閾値にした検査を、光反射率を測定することで行うが、同図に示す関係から明らかなように閾値である20mg/mの前後、特に付着量が0〜20mg/mの間で光反射率が大きく変動している。したがって、光反射率の測定値に多少の誤差が含まれていても化成被膜品質の良否判定を精度良く行うことができる。
【0036】
本発明に係る化成被膜の検査装置30のブロック図を図4に示す。本例の化成被膜の検査装置30は、自動車ボディ4の鋼鈑4aに形成された化成被膜100に対して、たとえば45°の入射角で660nmの光を照射する赤色発光ダイオード301(本発明の光照射手段に相当する。)と、この化成被膜100で反射した光を受光するフォトディテクタ302(本発明の受光手段に相当する。)と、照射された光の光量と反射光の光量との比率から光反射率を算出する光反射演算手段303と、予めオフライン実験などによって求められた光反射率と化成被膜の付着量との関係、またはこの関係から抽出される品質判定の閾値を記憶する記憶手段304と、光反射率演算手段303で求められた光反射率の測定値と記憶手段304に記憶されている光反射率と化成被膜の付着量との関係又は品質判定の閾値とを比較してその化成被膜の品質を判定する品質判定手段305とを有する。
【0037】
なお、本発明に係る光照射手段及び受光手段は発光ダイオード301及びフォトディテクタ302にのみ限定される趣旨ではなく、他の発光装置や受光センサを用いることができる。また、光反射率演算手段303、記憶手段304及び品質判定手段305は、ROM及びRAMなどのメモリを備えたマイクロコンピュータなどで構成することができる。
【0038】
光反射率演算手段303は、赤色発光ダイオード301の既知の光量Q1と、フォトディテクタ302で検出された反射光の光量Q2とを入力し、これらの比率Q2/Q1を演算して光反射率とする。
【0039】
本発明に係る化成被膜の検査装置の一例を図3に示す。本例では、塗装ハンガ3に搭載された自動車ボディ4の両側部のそれぞれに、赤色発光ダイオード301、フォトディテクタ302、光反射率演算手段303、記憶手段304及び品質判定手段305からなるセットが、自動車ボディ4の側面の上下方向に並んで複数セット配置されている。これと同様に、自動車ボディ4の水平部、フードパネル、ルーフパネル及びトランクリッドに対しても、赤色発光ダイオード301やフォトディテクタ302等を配置することができるが、本例では防錆環境が特に厳しいとされるボディ下部の化成被膜品質を検査することとしている。たとえば、ボディシルなどのボディ下部は、自動車ボディ4を搭載するハンガ3に邪魔されることなく、検査装置とボディとの距離を比較的短く設置できるため測定精度の向上にも寄与することになる。
【0040】
なお、他の光源、たとえばラインの蛍光灯などから影響を極力避けて、赤色発光ダイオード301から照射された反射光の受光感度を高めるために、赤色発光ダイオード301、フォトディテクタ302、光反射率演算手段303、記憶手段304及び品質判定手段305からなるセット全体を遮光しておくことが望ましい。
【0041】
次に,図6を参照しながら本例の検査装置のデータ処理手順を説明する。
【0042】
まず自動車ボディ4が検査装置30に到着したか否かを塗装ハンガ3をリミットスイッチなどで検出することにより判断する(ステップ1)。自動車ボディ4が検査装置30に到着したらそのボディ4の車種を取得する(ステップ2)。この車種データはボディ形状を複数の光電管を用いて検出しても良いし、各ボディ4に搭載した車種仕様情報記憶装置から取り込んでも良い。その塗装ラインが異なる形状のボディ4が流れる混成ラインであるときは、複数セットある赤色発光ダイオード301やフォトディテクタ302等の中から検査できる位置のものを選択する。その塗装ラインが同一形状のボディ4のみを流すラインであるときはこのステップ2は省略する。
【0043】
ステップ1にて自動車ボディ4が到着したことを検出したら、適切なタイミングで赤色発光ダイオード301からボディ4の所定部位に対して光を照射し(ステップ3)、その反射光をフォトディテクタ302で受光する(ステップ4)。一対の赤色発光ダイオード301やフォトディテクタ302につきこの操作を複数回繰り返し、ボディ4の前後方向の複数箇所を測定しても良い。
【0044】
1回の光の照射及び反射光の受光について、光反射率演算手段303にて光反射率を算出し(ステップ5)、記憶手段304に記憶された図5に示すグラフから付着量を推定する(ステップ6)。たとえば,光反射率演算手段303で算出された光反射率が20%であるときは図5のグラフから付着量の推定値は25mg/mとされる。
【0045】
そして、この付着量の推定値と、同じく記憶手段304に記憶されている良否判定の閾値とを比較して良品か不良品かを判定し(ステップ7)、良品、不良品それぞれの判定結果を表示器などに表示する(ステップ8〜9)。
【0046】
なお、図5に示すグラフから,防錆性能上必要とされる化成被膜の付着量が20mg/m以上であるのなら、これに対応する光反射率は18%以上であることから、この光反射率の閾値18%のみを記憶手段304に記憶しておき、ステップ5で求められた光反射率とこれを比較することでステップ7の良品判定を行っても良い。この場合にはステップ6を省略する。
【0047】
このように、本例の化成被膜の検査方法及び検査装置30を用いると、目視では評価し難い,たとえばジルコニウムイオン系化成被膜に対しても品質検査が可能となる。また、非破壊検査であることから、塗装前処理工程を流れているボディ4に対してオンラインで検査することができる。
【0048】
《第2実施形態》
本発明の他の実施形態に係る化成被膜の検査装置30のブロック図を図7に示す。本例の化成被膜の検査装置30は、自動車ボディ4の鋼鈑4aに形成された化成被膜100に対して、たとえば45°の入射角で660nmの光を照射する赤色発光ダイオード301(本発明の光照射手段に相当する。)と、この化成被膜100で反射した光を受光するフォトディテクタ302(本発明の受光手段に相当する。)と、照射された光の光量と反射光の光量との比率から光反射率を算出する光反射演算手段303と、自動車の鋼板種情報を取得する鋼板種情報取得手段308と、予めオフライン実験などによって求められた鋼板種別の化成皮膜の光反射率と化成被膜の付着量との関係、またはこの関係から抽出される品質判定の閾値を記憶する記憶手段304と、光反射率演算手段303で求められた光反射率の測定値と記憶手段304に記憶されている鋼板種別の化成皮膜の光反射率と化成被膜の付着量との関係又は品質判定の閾値とを比較してその化成被膜の品質を判定する品質判定手段305とを有し、さらに赤色発光ダイオード301の光路に設けられた集光レンズ306と、フォトディテクタ302の光路に設けられたバンドパスフィルタ307とを有する。
【0049】
このうち、赤色発光ダイオード301とフォトディテクタ302は上述した第1実施形態と同じ構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0050】
集光レンズ306は、赤色発光ダイオード301から照射された光を鋼鈑4aに形成された化成被膜100に集光されるべく設置され、たとえば検査装置30とボディ4との距離を考慮して50mm〜150mmの距離で集光するレンズが選択される。
【0051】
また、バンドパスフィルタ307は、鋼鈑4aに形成された化成被膜100で反射した光のうち所定波長域の光のみを通過させてフォトディテクタ302に導くもので、たとえば660nm〜680nmの波長域のフィルタが好適であることが確認されている。
【0052】
鋼板種別情報取得手段308は、図2に示す検査装置30の入口などに設置された情報取得装置(不図示)により、各ボディ4に搭載された車種仕様情報記憶装置から読み取り、そのボディ4の鋼板種が、たとえば鋼材A(GA材:亜鉛メッキ鋼板)、鋼材B(SPC材:冷間圧延鋼板)、鋼材C(アルミニウム板)の何れかであるかを読み取り、品質判定手段305へ送出する。この情報はボディ4に搭載された車種仕様情報記憶装置に、たとえば第1実施形態で述べた車種データとともにボディ着工時に記録されている。
【0053】
この鋼板種を読み込むのは、図9及び図10に示すように、鋼板種により化成皮膜の付着量が異なるためである。図9は標準時間とされる60秒の化成処理を施した場合の、鋼板種別の化成皮膜の付着量を示すグラフであり、この結果によれば同じ処理時間であっても、化成皮膜の付着量は、鋼材A(GA材)>鋼材C(アルミ)>鋼材B(SPC材)となる。したがって、鋼板種を考慮した化成皮膜の付着量の閾値を設定すれば、品質判定をより精度よく行うことができる。
【0054】
図10は、化成皮膜の処理時間に対する光反射率の変化を、鋼板種別に示すグラフであるが、この結果を予め記憶手段304に記憶させ、品質判定手段305では、鋼板種情報取得手段308により取得したそのボディ4の鋼板種と、記憶手段304に記憶されている鋼板種別の処理時間−光反射率のデータ(閾値)を参照して、良否の判定を行う。
【0055】
次に、図8を参照しながら本例の検査装置のデータ処理手順を説明する。
【0056】
まず自動車ボディ4が検査装置30に到着したか否かを塗装ハンガ3をリミットスイッチなどで検出することにより判断する(ステップ1)。自動車ボディ4が検査装置30に到着したらそのボディ4の車種及び鋼板種を車種仕様情報記憶装置から取得する(ステップ2)。なお、車種データについてはボディ形状を複数の光電管を用いて検出しても良い。また、その塗装ラインが異なる形状のボディ4が流れる混成ラインであるときは、複数セットある赤色発光ダイオード301やフォトディテクタ302等の中から検査できる位置のものを選択する。その塗装ラインが同一形状のボディ4のみを流すラインであるときはこのステップ2は省略する。
【0057】
ステップ1にて自動車ボディ4が到着したことを検出したら、適切なタイミングで赤色発光ダイオード301からボディ4の所定部位に対して光を照射し(ステップ3)、その反射光をフォトディテクタ302で受光する(ステップ4)。一対の赤色発光ダイオード301やフォトディテクタ302につきこの操作を複数回繰り返し、ボディ4の前後方向の複数箇所を測定しても良い。
【0058】
1回の光の照射及び反射光の受光について、光反射率演算手段303にて光反射率を算出し(ステップ5)、記憶手段304に記憶された図10に示すグラフから鋼板種別の付着量を推定する(ステップ6)。たとえば,光反射率演算手段303で算出された光反射率が20%であり、鋼板種が鋼材B(SPC材)であるときは、図10のグラフから付着量の推定値は21mg/mとされる(ただし、処理時間が60秒の標準時間である場合)。
【0059】
そして、この付着量の推定値と、同じく記憶手段304に記憶されている良否判定の閾値とを比較して良品か不良品かを判定し(ステップ7)、良品、不良品それぞれの判定結果を表示器などに表示する(ステップ8〜9)。
【0060】
なお、図10に示すグラフから,防錆性能上必要とされる鋼材Bの化成被膜の付着量が21mg/m以上であるのなら、これに対応する光反射率は20%以上であることから、この光反射率の閾値20%のみを記憶手段304に記憶しておき、ステップ5で求められた光反射率とこれを比較することでステップ7の良品判定を行っても良い。
【0061】
このように、本例の化成被膜の検査方法及び検査装置30を用いると、目視では評価し難い,たとえばジルコニウムイオン系化成被膜に対しても品質検査が可能となる。また、非破壊検査であることから、塗装前処理工程を流れているボディ4に対してオンラインで検査することができる。
【0062】
また、赤色発光ダイオード301の光路に集光レンズ306を設けて光を化成皮膜100に好適に集光させるとともに、フォトディテクタ302の光路にバンドパスフィルタ307を設けて特定波長域の光のみをフォトディテクタ302で検出するので、ボディが水により濡れた状態であっても検出精度を維持することができる。
【0063】
さらに、鋼板種情報取得手段308により検査対象たるボディ4の鋼板種別も判定基準に入れるので、良品・不良品の判定精度も著しく向上することになる。
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の化成被膜の検査方法及び装置が適用される塗装工程の一例を示す平面レイアウト図である。
【図2】本発明の化成被膜の検査方法及び装置が適用される塗装工程の一例を示す側面図である。
【図3】本発明に係る化成被膜の検査装置の一例を示す(A)平面図及び(B)正面図である。
【図4】本発明に係る化成被膜の検査装置の第1実施形態を示すブロック図である。
【図5】本発明に係る化成皮膜の光反射率と付着量との関係の一例を示すグラフである。
【図6】本発明の第1実施形態に係る化成被膜の検査装置の、データ処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図7】本発明に係る化成被膜の検査装置の第2実施形態を示すブロック図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る化成被膜の検査装置の、データ処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図9】鋼板種別の化成皮膜付着量の一例を示すグラフである。
【図10】鋼板種別の化成皮膜の光反射率と化成処理時間との関係の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0065】
A…脱脂洗浄工程
B…化成処理工程
C…電着工程
D…電着水洗工程
E…電着焼付工程
F…ストレージ工程
G…シーリング工程
4…自動車ボディ
4a…鋼鈑
30…化成被膜の検査装置
301…赤色発光ダイオード(光照射手段)
302…フォトディテクタ(受光手段)
303…光反射率演算手段
304…記憶手段
305…品質判定手段
306…集光レンズ
307…バンドパスフィルタ
308…鋼板種情報取得手段
100…化成被膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象たる化成皮膜の光反射率を測定し、予め測定された化成皮膜の光反射率と付着量との関係を参照して前記検査対象たる化成皮膜の品質を検査することを特徴とする化成皮膜の検査方法。
【請求項2】
自動車ボディの化成処理工程と電着塗装工程との間のオンラインで検査することを特徴とする請求項1記載の化成皮膜の検査方法。
【請求項3】
前記自動車ボディの複数箇所を検査することを特徴とする請求項2記載の化成皮膜の検査方法。
【請求項4】
前記自動車ボディの鋼板種情報を取得し、予め測定された鋼板種別の化成皮膜の光反射率と付着量との関係を参照して前記検査対象たる化成皮膜の品質を検査することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の化成皮膜の検査方法。
【請求項5】
検査対象たる化成被膜に対して光を照射する光照射手段と、前記化成被膜による反射光を受光する受光手段と、前記光照射手段から照射された光の光量と前記受光手段により受光された光の光量とを比較して光反射率を算出する光反射率演算手段と、予め測定された化成皮膜の光反射率と付着量との関係を記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶された化成被膜の光反射率と付着量との関係を参照して前記光反射率演算手段により求められた光反射率から化成被膜の品質を判定する品質判定手段と、を有することを特徴とする化成被膜の検査装置。
【請求項6】
自動車ボディの化成処理工程と電着塗装工程との間に設置され、オンラインの自動車ボディに対して検査を実施することを特徴とする請求項5記載の化成皮膜の検査装置。
【請求項7】
前記光照射手段及び受光手段は、自動車ボディの両側部のそれぞれに、上下に並べて配置されていることを特徴とする請求項6記載の化成皮膜の検査装置。
【請求項8】
前記光照射手段の光路に集光レンズが設けられていることを特徴とする請求項5〜7の何れかに記載の化成皮膜の検査装置。
【請求項9】
前記受光手段の光路に所定波長域の光のみを通過させるバンドパスフィルタが設けられていることを特徴とする請求項5〜8の何れかに記載の化成皮膜の検査装置。
【請求項10】
前記自動車の鋼板種情報を取得する鋼板種情報取得手段を有し、前記記憶手段は予め測定された鋼板種別の化成皮膜の光反射率と付着量との関係を記憶し、前記品質判定手段は、前記記憶手段に記憶された鋼板種別の化成被膜の光反射率と付着量との関係を参照して前記光反射率演算手段により求められた光反射率から化成被膜の品質を判定することを特徴とする請求項5〜9の何れかに記載の化成被膜の検査装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−53130(P2006−53130A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−196395(P2005−196395)
【出願日】平成17年7月5日(2005.7.5)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】