説明

化粧シート用不織布

【課題】化粧水を保持し易く且つ化粧水の肌への転写が良好で、肌に対する感触に優れる化粧シート用不織布を提供すること。
【解決手段】本発明の化粧シート用不織布は、化粧水が含浸される化粧シート用不織布であって、セルロース系繊維及び疎水性繊維を含んで構成され、構成繊維の繊維交絡によってシート形態が保たれており、該疎水性繊維が表面部分に偏在している。前記セルロース系繊維としては、脱脂綿繊維が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧水を含浸して使用する化粧シート用不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
美容意識の向上により化粧水による日常の肌の手入れは欠かせないものとなっている。従来、化粧水による肌の手入れは、化粧水を容器から手にとり、あるいはコットン等のシート材に化粧水を含浸させ、手であるいはシート材で肌を軽くたたく(パッティング)することによりなされている。
【0003】
このパッティング用のシート材として、特許文献1には、コットンで形成され且つウォータージェット噴射によって表面加工されたパック材が複数枚積層されてなる積層体を有し、該積層体の側縁部近防が圧着手段によって剥離可能に接合されてなる化粧用パッティング材が記載されている。この化粧用パッティング材は、化粧水を含浸させ湿潤させてからパッティングした後、一枚毎剥離したパック材を顔面の必要個所に所定時間装着させてパックするものである。
しかし、特許文献1に記載の化粧用パッティング材は、コットンの使用により化粧水の保持性は良好なものの、化粧水の肌への転写性に劣り、また、化粧水を含浸させるとベタベタ感があり、肌に対する感触の点でも不満が残るものであった。
【0004】
また、使用の便宜のため、予め化粧水が含浸された化粧シートが知られている。斯かる化粧シートとして、特許文献2には、化粧水が含浸された複数枚のシート材間に、疎水性シート状フィルムが介挿されてなる多層構造のシートタイプ化粧品が記載されている。このシートタイプ化粧品においては、パッティングに使用されるのは化粧水が含浸されたシート材であり、疎水性シート状フィルムは、シート材の取り出し容易及びシート材の強度保持のためのものである。
しかし、特許文献2に記載のシートタイプ化粧品は、パッティング材として機能する前記シート材が、化学合成繊維のみからなる不織布、あるいは化学合成繊維と天然繊維との通常の混合積繊体からなる不織布であるため、化粧水の保持性と転写性とのバランスの点で不満が残り、肌に対する感触の点でも改良の余地があった。また、剥離を容易にするために介挿されたシート状フィルムの廃棄処理や袋状包装体からの取り出し性や開封後の保管の問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2005−349143号公報
【特許文献2】特開2003−310347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は、化粧水を保持し易く且つ化粧水の肌への転写が良好で、肌に対する感触に優れる化粧シート用不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、化粧水が含浸される化粧シート用不織布であって、該化粧シート用不織布がセルロース系繊維及び疎水性繊維を含んで構成され、構成繊維の繊維交絡によってシート形態が保たれており、該疎水性繊維が該化粧シート用不織布の表面部分に偏在している化粧シート用不織布を提供することにより前記目的を達成したものである。
【0008】
また本発明は、前記化粧シート用不織布に、化粧水が含浸されてなる化粧シートを提供することにより前記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、化粧水を保持し易く且つ化粧水の肌への転写が良好で、肌に対する感触に優れる化粧シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の化粧シート用不織布について説明する。
本発明の化粧シート用不織布は、化粧水が含浸される化粧シート用不織布である。即ち、本発明の化粧シート用不織布は、予め化粧水が含浸されて湿潤状態とされているものではなく、化粧水の含浸前は乾燥状態とされているものである。
【0011】
本発明の化粧シート用不織布は、セルロース系繊維及び疎水性繊維を含んで構成されている。セルロース系繊維としては、本来親水性を有するものが用いられ、本来は親水性でないが親水化処理によって親水性になされた繊維は用いられない。セルロース系繊維としては、例えばコットン(綿)等の天然繊維や、パルプ、レーヨン、キュプラ、リヨセル、テンセル等が挙げられる。これらのセルロース系繊維は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。上記のセルロース系繊維の中でも、コットン繊維、レーヨン、リヨセル、テンセルが好ましく、特に、コットン繊維が好ましく、とりわけ、脱脂綿繊維が好ましい。脱脂綿繊維は、コットン繊維の一種であり、原綿が漂白された繊維である。脱脂綿繊維は、原綿に付着していた天然油脂が除去されているため、親水性が高く、水の保持性に優れている。従って、脱脂綿繊維を用いることで、化粧水の保持性を一層高めることができる。
【0012】
本発明で用いられるセルロース系繊維の繊維径は、肌に対する良好な感触を得る観点から、好ましくは0.11〜11dtex、更に好ましくは0.22〜5.5dtexである。ここでdtex(デシテックス)は、10,000m当りのグラム数で表した繊維の太さの単位である(JIS L0101で規定)。コットン繊維(脱脂綿繊維)を用いた場合は、断面形状が真円でないので、断面の縦横比を3として計算した場合に、上記の繊維径範囲に入ることが好ましい。
さらに、セルロース系繊維として前記コットン繊維を用いた場合、肌に対する良好な感触を得る観点から、コットン繊維のJIS L1019で規定されるマイクロネア繊度(μg/in)は、2.5〜6.0μg/inが好ましく、3.1〜4.4μg/inがより好ましい。
また、セルロース系繊維の繊維長については特に制限はされないが、使用時の感触及び生産性の点から5〜70mmが好ましい。
【0013】
本発明で用いられる疎水性繊維は、下記疎水性評価試験において水性インクで染色されない繊維である。前記セルロース系繊維は、通常、白色であり、下記疎水性評価試験において試験液で染色されて青色になる。
<疎水性評価試験>
試験液として染料メチレンブルー0.01重量%を溶解した青色の水溶液をシャーレに準備する。評価対象である繊維0.1g(不織布にする前の状態)をピンセットでシャーレ内の試験液に5秒間浸漬させる。試験液から取り出した時に繊維に試験液が浸透せず、染色されていないものを疎水性繊維とする。
【0014】
本発明で用いられる疎水性繊維の具体例としては、ポリオレフィン系樹脂やポリエステル系樹脂等の疎水性樹脂からなる合成繊維が挙げられる。例えば、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリスチレン、ナイロン、アセテート等の樹脂からなる合成繊維が挙げられる。該合成繊維は、上記の1種類の樹脂若しくは2種類以上の樹脂がブレンドされたブレンドポリマーからなる単一繊維でも良く、2種類以上の樹脂を含有する複合繊維でも良い。ここでいう複合繊維は、成分の異なる2種類以上の樹脂を紡糸口金で複合し、同時に紡糸して得られる繊維で、複数の成分がそれぞれ繊維の長さ方向に連続した構造で単繊維内で相互接着しているものをいう。複合繊維の形態には、並列型(サイドバイサイド型)や芯鞘型等があるが、本発明においては複合繊維の形態は特に制限されない。但し、分割型複合繊維(高圧水流などの物理的な力で繊維の一部が剥離分割する複合繊維)は、分割するために高水圧が必要で、このため本発明の化粧シート用不織布が硬くなるため、好ましくない。
【0015】
好ましい疎水性繊維としては、ポリエステル系又はポリオレフィン系繊維が挙げられる。より具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等の単一繊維;PETを芯、PEを鞘とする芯鞘型複合繊維;PPを芯、PEを鞘とする芯鞘型複合繊維;PPを芯、低融点PP(芯のPPよりも融点の低いPP)を鞘とする芯鞘型複合繊維;PETを芯、低融点PET(芯のPETよりも融点の低いPET)を鞘とする芯鞘型複合繊維;PETを芯、PPを芯とする芯鞘型複合繊維等が挙げられる。
上記の疎水性繊維の中でも、繊維の柔らかさ、比重が1より大きくスパンレース法で不織布を製造する際の繊維交絡のしやすさ、繊維の入手のしやすさの観点より、PETの単一繊維、PET(芯)/PE(鞘)の芯鞘型複合繊維が特に好ましい。
【0016】
本発明で用いられる疎水性繊維の繊維径、繊維長は、それぞれ上述したセルロース系繊維と同様の範囲であることが好ましい。また、疎水性繊維の断面形状は特に制限されないが、良好な感触の点で円形が好ましい。
【0017】
また、DRY状態でセルロース系繊維の直径に対する疎水性繊維の直径の比率(DRY状態の疎水性繊維の直径/DRY状態のセルロース系繊維の直径)としては、良好な感触の点で0.2〜3倍であることが好ましく、0.5〜2倍であることが更に好ましい。
また、WET状態でセルロース系繊維の直径に対する疎水性繊維の直径の比率(WET状態の疎水性繊維の直径/WET状態のセルロース系繊維の直径)としては、良好な感触の点で0.15〜2.75倍であることが好ましく、0.45〜1.75倍であることが更に好ましい。
尚、セルロース系繊維がコットン繊維(脱脂綿繊維)の場合は、前述のようにコットン繊維の断面形状を真円と仮定して計算すれば良い。ここで、「真円と仮定して計算する」とは、コットン繊維の断面を縦横比3の矩形として面積Sを算出し、その面積Sを真円に換算し、S=π×(D/2)2の式より直径Dを計算することを意味する。また直径に分布がある場合、平均値を用いて計算する。
【0018】
本発明で用いられる疎水性繊維は、繊維の長さ方向において屈曲部を有していることが好ましい。ここで、屈曲部とは、疎水性繊維の倍率100倍の顕微鏡写真において、図1に示すように、該繊維が湾曲あるいは屈曲し始める2箇所の点(カーブ開始点)それぞれから接線を引き、これら接線の交点での角度をαとした時に、この角度αが135°以下となる部位である。
疎水性繊維が斯かる屈曲部を有していることにより、セルロース系繊維(コットン繊維)の脱落が一層効果的に防止され、また、不織布のクッション性が一層向上する。
【0019】
また、疎水性繊維が有する屈曲部の数が多いほど、セルロース系繊維等の他の繊維との接触点が増えるため、該他の繊維の脱落防止及びクッション性の向上効果の点で有利になる。斯かる観点から、不織布の表面部分における屈曲部の数は、好ましくは1個以上、更に好ましくは2〜30個である。ここで、不織布の表面部分における屈曲部の数は、該表面部分の倍率100倍の顕微鏡写真において、タテ2.16mm×ヨコ2.88mmの四角形形状の領域中に存在する疎水性繊維の屈曲部の数を数えることによって得られる。
【0020】
前記セルロース系繊維と前記疎水性繊維との含有重量比は、化粧水の含浸性と肌触りとのバランスの観点から、セルロース系繊維:疎水性繊維=50:50〜90:10が好ましく、セルロース系繊維:疎水性繊維=60:40〜80:20が更に好ましい。
【0021】
本発明の化粧シート用不織布の構成繊維は、上述したセルロース系繊維及び疎水性繊維のみであっても良く、あるいはこれらの繊維に加えて更に他の繊維を含んでいても良い。本発明の化粧シート用不織布に含有可能な他の繊維としては、例えば、並列型(サイドバイサイド型)、偏芯型の潜在捲縮繊維等が挙げられる。セルロース系繊維及び疎水性繊維以外の他の繊維の含有量は、化粧シート用不織布の乾燥重量に対して、好ましくは30重量%以下である。
【0022】
本発明の化粧シート用不織布は、構成繊維の繊維交絡によってシート形態が保たれている。「構成繊維の繊維交絡によってシート形態が保たれている」とは、化粧シート用不織布が、構成繊維間を結合するためのバインダー等の接着剤を含まないか、又は化粧シート用不織布における該接着剤の含有量が好ましくは5重量%以下、更に好ましくは3重量%以下であること意味する。このような不織布は、柔軟性が高く、ふんわり感が良好で、顔面等にパッティングしたときに心地良い。構成繊維の繊維交絡によってシート形態が保たれている本発明の不織布は、例えば後述するように、セルロース系繊維及び疎水性繊維を含む未結合繊維ウエブを高圧水流処理(スパンレース)することにより得られる。
【0023】
本発明の化粧シート用不織布においては、前記疎水性繊維が該不織布の表面部分に偏在している。ここで、「疎水性繊維が不織布の表面部分に偏在している」には、1)シート形態の不織布を厚み方向に3等分したときの一面側の領域(第1部分)及び他面側の領域(第2部分)それぞれの方が、これら両表面部分に挟まれた領域(第3部分、第1部分及び第2部分以外の領域)よりも、疎水性繊維の分布量が相対的に多くなっている形態、及び2)シート形態の不織布を厚み方向に2等分したときの一面側の領域(第1部分)の方が、該一面側とは反対側の他面側の領域(第3部分、第1部分以外の領域)よりも、疎水性繊維の分布量が相対的に多くなっている形態が含まれる。即ち、不織布の表面部分とは、不織布を厚み方向に3等分したときの一面側の領域(第1部分)及び他面側の領域(第2部分)の両表面部分、あるいは不織布を厚み方向に2等分したときの一面側の領域(第1部分)である。尚、前記1)の形態において、第1部分と第2部分とでは疎水性繊維の分布量に実質的な差は無い。
このように疎水性繊維が不織布の表面部分に偏在していることにより、不織布の肌に対する感触(拭き心地)及び化粧水の保持性が良好になると共に、化粧水の転写性が向上し、疎水性繊維間に存在する化粧水がパッティング動作によって肌にスムーズに転写されるようになる。
疎水性繊維が不織布の表面部分に偏在していることは、下記方法によって疎水性繊維の占有面積率を算出することによって確認することができる。
【0024】
<繊維の占有面積率の測定方法>
前述の疎水性評価試験と同様にして、試験液として染料メチレンブルー0.01重量%を溶解した青色の水溶液をシャーレに準備する。評価対象である不織布をピンセットでシャーレ内の試験液に5秒間浸漬させる。これにより、不織布の構成繊維のうち、前記セルロース繊維の如き親水性繊維のみが染色され、疎水性繊維は染色されない。試験液で染色された不織布を乾燥させた後、該不織布をその厚み方向に切断して適当なサイズの試験片を切り出し、該試験片を測定サンプルとする。
この測定サンプルの切断面(不織布の厚み方向の断面)の写真を撮り、この切断面写真を不織布の厚み方向に3等分して前記第1、第2及び第3部分を形成し、画像処理ソフト(米国Media Cybernetics社製「Image Pro Plus」)で該切断面写真の画像処理を行い、これら第1、第2及び第3部分それぞれについて、当該各部分の断面積に占める、染色されていない繊維(疎水性繊維)の占有面積の割合(占有面積率)を算出する。こうして算出された各部分における疎水性繊維の占有面積率(%)を比較したときに、不織布の表面部分である第1部分及び第2部分それぞれにおける疎水性繊維の占有面積率が、第3部分における疎水性繊維の占有面積率よりも大きい場合に、「疎水性繊維が不織布の表面部分に偏在している」とする。
【0025】
また、上記の切断面写真を3等分する方法において、「疎水性繊維が不織布の表面部分に偏在している」に該当しない場合には、次の方法を行なう。即ち、別の前記測定サンプルの切断面の写真を撮り、この切断面写真を不織布の厚み方向に2等分して前記第1及び第3部分を形成し、上記と同様に画像処理ソフトで該切断面写真の画像処理を行い、これら第1及び第3部分それぞれについて、疎水性繊維の占有面積率を算出し、第1部分における疎水性繊維の占有面積率が、第3部分における疎水性繊維の占有面積率よりも大きい場合に、「疎水性繊維が不織布の表面部分に偏在している」とする。
【0026】
前記第1部分〔前記1)の形態においては第2部分も含む。以下、特に断らない限り、同じ。〕における疎水性繊維の占有面積率と、前記第3部分における疎水性繊維の占有面積率との差は、好ましくは10%以上、更に好ましくは20%以上である。尚、上述したように、前記1)の形態において、第1部分と第2部分とでは疎水性繊維の分布量に実質的な差は無く、第1部分における疎水性繊維の占有面積率と、第2部分における疎水性繊維の占有面積率との差は、通常、10%以下である。
また、第1部分における疎水性繊維の占有面積率は、好ましくは50%以上、更に好ましくは55〜75%である。
一方、不織布における表面部分(第1部分)以外の部分である前記第3部分における疎水性繊維の占有面積率は、好ましくは50%以下、更に好ましくは25〜45%である。
尚、本発明の化粧シート用不織布の構成繊維がセルロース系繊維及び疎水性繊維のみである場合、100から疎水性繊維の占有面積率を引いて得られた数値が、当該部分おけるセルロース系繊維(親水性繊維)の占有面積率(%)である。
【0027】
前記1)の形態における疎水性繊維の分布状態は、例えば、セルロース系繊維及び疎水性繊維が適宜混合されたシート状の未結合繊維ウエブの一面側及び他面側それぞれに対して、順次高圧水流を当てることによって得られる。上述の如き疎水性繊維の分布状態が得られる理由は定かではないが、このように、セルロース系繊維及び疎水性繊維を含むシート状ウエブの一面側から水圧をかけた時、セルロース系繊維と疎水性繊維との比重差に起因し疎水性繊維が一面側の表面部分に偏在し、また、繊維同士が強く交絡し、その後更に、他面側から高圧水流を当てることによって、疎水性繊維がセルロース系繊維との比重差に起因して、他面側の表面部分にも偏在し、上述の如き疎水性繊維の分布状態が形成されるものと推察される。
また、前記2)の形態における疎水性繊維の分布状態は、例えば、未結合繊維ウエブの一面側のみから高圧水流を当てることによって得られる。
【0028】
本発明の化粧シート用不織布は、好ましくは次のようにして製造される。即ち、セルロース系繊維及び疎水性繊維を含むシート状の未結合繊維ウエブの一面側及び他面側それぞれに対して順次高圧水流を当てる〔前記2)の形態においては一面側のみに高圧水流を当てる〕ことにより、該繊維ウエブを水流交絡させて含水状態のスパンレース不織布を得、該スパンレース不織布を表面平滑化のためにプレスロールに通してプレスした後に乾燥させることにより得られる。前記未結合繊維ウエブは、カード機を用いてウエブ形成する公知のカード法により得られる。ウエブを水流交絡させるときの水圧は、ウエブの坪量等に応じて適宜調整すれば良く、通常のスパンレース不織布の製造時における水圧と同等(1〜35MPa程度)とすることもできるが、該水圧よりも低水圧にすることが好ましい。また、プレスロールによるプレス圧も、ウエブの坪量等に応じて適宜調整すれば良く、線圧で1〜60kg/cm、特に3〜30kg/cmとすることが好ましい。
【0029】
尚、好ましいセルロース系繊維の一つであるコットン繊維(脱脂綿繊維)は、繊維長の分布が広く、感触向上のために前記低水圧でコットン繊維同士を交絡させると繊維が脱落したり毛羽立ち易い傾向がある。しかし、本発明のようにコットン繊維と共に疎水性繊維を併用した場合には、好ましくは前記低水圧でコットン繊維と疎水性繊維とを交絡することにより、疎水性繊維が表面部分に密に存在し、コットン繊維の脱落防止、感触向上、クッション層形成などが可能となる。
【0030】
本発明の化粧シート用不織布の坪量は、化粧水の保持性能の向上、徐放性の観点から、好ましくは20〜110g/m2、更に好ましくは25〜85g/m2である。
同様の観点から、本発明の化粧シート用不織布の厚み〔乾燥状態の不織布の厚み(DRY厚み)〕は、好ましくは0.15〜0.85mm、更に好ましくは0.25〜0.65mmである。
上記坪量は、不織布を100mm×100mmの寸法に切り出してその重量を測定し、これを1m2の重量に換算して求める。上記厚みは、不織布を100mm×100mmの寸法に切り出して、3.7gf/cm2の荷重下で測定する。
【0031】
本発明の化粧シート用不織布の比容積〔乾燥状態の不織布の比容積(DRY比容積)〕は、不織布にふっくら感を付与すると共に、化粧水の保持性及び柔軟性を高める観点から、好ましくは6.4〜13cm3/g、更に好ましくは6.7〜12cm3/gである。上記比容積は、上記の坪量及び厚みから算出される。
【0032】
本発明の化粧シート用不織布は、その乾燥時(化粧水の含浸前)におけるバルクソフトネスが、流れ方向(MD)及び幅方向(CD)の何れにおいても、好ましくは0.03〜0.8N、更に好ましくは0.06〜0.6Nである。不織布のバルクソフトネスが斯かる範囲内にあることにより、風合いが一層良好になり、肌へのパッティング時の使用感が一層向上する。
ここで、例えばMDのバルクソフトネスの場合は、化粧シート用不織布を30mm(MD)×150mm(CD)の大きさにカットし、このカット片を丸めて円筒を作り(このとき、不織布の重なり部分の長さを10mmとし、該重なり部分の2箇所をステープラで固定する)、圧縮速度10mm/minで該円筒を上から下方向(MD)に圧縮した時の最大荷重を測定することによって得られる。
バルクソフトネスを上記範囲内とするためには、セルロース系繊維と疎水性繊維との割合(含有重量比)を前記範囲内とすることが有効であり、更に、不織布製造時における未結合繊維ウエブを水流交絡させる時の水圧を、通常のスパンレース不織布の製造時における水圧よりも低水圧にすることが有効である。
【0033】
本発明の化粧シート用不織布は、その飽和保水量が単位重量当たり200〜1300%、特に250〜1000%であることが好ましい。これによって十分な量の化粧水を保持することができる。飽和保水量は、不織布の構成繊維によって形成される空間と、繊維自身の材質とに依存するものであり、これらを適宜調節することで、飽和保水量を前記範囲にすることができる。
飽和保水量は次のようにして測定される。不織布を100mm×100mmの寸法に切り出してその重量を測定する。イオン交換水に不織布を15分以上浸漬し、取り出し後に1分以上液をしたたり落とし、重量を測定し、浸漬前後の重量の差を計算することにより求めることができる。
【0034】
本発明の化粧シート用不織布は、化粧水を含浸し湿潤状態にしてから肌のパッティング等に使用される。本発明の化粧シート用不織布は、主として、疎水性繊維が該不織布の表面部分に偏在していることによって、肌に対する感触が良好で、拭き心地が良く、化粧水を含浸させたときの保持性及び含浸された化粧水の肌への転写性の両方に優れている。また、本発明の化粧シート用不織布は、主として構成繊維の繊維交絡によってシート形態が保たれていることによって、柔軟で、ふんわり感があり、肌に当てたときに心地良い。
【0035】
本発明の化粧シート用不織布に化粧水を含浸させて化粧シートとする場合、該不織布への化粧水の含浸量は、該不織布の単位重量当たり300〜1200%、特に400〜1000%であることが好ましい。化粧シート用不織布への化粧水の含浸方法は、手動でも良く、工業的な方法で行っても良い。
【0036】
本発明に適用可能な化粧水としては、水性のものであれば特に制限されない。通常、皮膚用外用剤として利用されるものの中から、例えば美白成分、皮膚保湿成分、血行促進成分、肌引き締め成分、リフトアップ成分、ターンオーバー促進成分等のスキンケア効果の目的に応じて選択される成分を含む水性化粧水が挙げられる。化粧水の粘度は、本発明の化粧シート用不織布への化粧水の均一な含浸性や肌へ転写した時のさっぱり感を得るといった観点から、30℃において1〜5000mPaの範囲にあることが好ましく、1〜500mPaの範囲にあることが更に好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。
【0038】
〔実施例1〕
繊維径1.7dtex相当の漂白した脱脂綿繊維(セルロース系繊維)70重量%と、繊維径1.45dtexのPET繊維(疎水性繊維)30重量%とを含むシート状の未結合繊維ウエブをカード法により製造し、このウエブの一面側及び他面側それぞれに対して、順次高圧水流を当てることにより該ウエブを水流交絡させて含水状態のスパンレース不織布を得、該スパンレース不織布をプレスロールに通してプレスした後に乾燥させることにより、目的とする化粧シート用不織布を得た。この化粧シート用不織布は、構成繊維間を結合するためのバインダー等の接着剤を一切含んでいない。
【0039】
〔実施例2〕
実施例1において、疎水性繊維として前記PET繊維に代えて、繊維径2.20dtexの芯鞘型複合繊維(芯PET、鞘PE、非分割型)を用いた以外は実施例1と同様にして不織布を製造し、これを実施例2のサンプルとした。
【0040】
〔比較例1〕
実施例1において、疎水性繊維を使用せずに脱脂綿繊維100重量%の未結合繊維ウエブを製造し、且つ水流交絡後のプレスロールによるプレスをしなかった以外は実施例1と同様にして不織布を製造し、これを比較例1のサンプルとした。
【0041】
こうして得られた実施例及び比較例の各不織布に、下記表1に示す組成の化粧水を含浸させ、化粧シートを得た。化粧水の含浸量は、不織布の単位重量当たり800%とした。
下記表1中の*1〜*4は、それぞれ次の通り。
*1:エマルゲン1620G(花王株式会社製エーテル系非イオン性界面活性剤)
*2:アサピック(旭化成ケミカルズ社製、アジピン酸)
*3:PEG−1540(三洋化成社製、平均分子量1540)
*4:ペムレンTR−1〔商品名、Noveon,Inc製、アクリル酸メタクリル酸アルキル(炭素数10〜30)共重合体〕
【0042】
【表1】

【0043】
〔化粧水含浸前の不織布の評価〕
実施例及び比較例の各不織布について、坪量、DRY厚み、DRY比容積、バルクソフトネス、疎水性繊維における屈曲部の数、表面部分(前記第1部分及び前記第2部分)における疎水性繊維及びセルロース系繊維それぞれの占有面積率、表面部分以外の部分(前記第3部分)における疎水性繊維及びセルロース系繊維それぞれの占有面積率を、それぞれ上述した方法に従って測定した。これらの結果を下記表2に示す。
尚、下記表2中の「表面部分における疎水性繊維(セルロース系繊維)の占有面積率」は、前記第1部分及び前記第2部分それぞれにおける疎水性繊維(セルロース系繊維)の占有面積率の平均値である。
【0044】
また、下記表2中の「化粧水の保持量」は次のようにして求めた。
先ず、不織布を100mm×100mmの寸法に切り出して、その重量を測定する。次いで、切り出した不織布を化粧水に15分以上浸漬し、所定時間経過後に該不織布を取り出し、その後、該不織布を1分以上吊り下げることによって、したたる化粧水を落とし、該不織布の重量を測定し、浸漬前後の不織布の重量比を化粧水の保持量(%)として求めた。この保持量が大きいほど、化粧水の保持性が良好であると評価される。
【0045】
また、下記表2中の「化粧水の転写量」は次のようにして求めた。
先ず、50mm×70mmの大きさの不織布に、該不織布の自重に対して化粧水を800%含浸させた後、全体の重量を測定する。この測定重量をAとする。次いで、不織布をクレシア(株)製のキムタオル(商品名)で全体を包む。次いで、キムタオルで包んだ不織布の上に100mm×100mmのアクリル板を載せ、さらにその上に錘を載せて合計で360gの荷重(=3.6g/cm2)を加える。5秒間荷重後、錘及びアクリル板を取り除き、重量を測定する。この測定重量をBとする。初期重量との差分(A−B)を算出し、これを化粧水の転写量(g)とする。
尚、化粧水の転写量を、上記のように3.6g/cm2の荷重を加えた条件下で測定する理由は、当該荷重が、人が不織布で肌に化粧水をパッティングする際に該不織布に加わる一般的な荷重であることによる。
【0046】
〔化粧シートの評価〕
実施例及び比較例の不織布を用いて得られた前記の各化粧シートについて、10人の成人女性パネルに、顔面にパッティングする際の拭き心地、柔らかさ、ふんわり感それぞれを官能評価させた。官能評価は、女性パネルにクレンジングクリームで洗顔してもらい、タオルで水気を拭き取った後で、恒温恒湿度(20℃、65%RH)の条件下で行った。
評価項目毎に、良好と判断したパネルの人数が9名以上の場合をA(最高評価)、7〜8名の場合をB、5〜6名の場合をC、3〜4名の場合をD、2名以下の場合をE(最低評価)とした。また、これらの総合評価として、各評価項目全てがAの場合を◎(最高評価)、Aが2つ以上の場合を○、Aが1つの場合を△、Aが無い場合を×(最低評価)とした。これらの結果を下記表2に示す。
【0047】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、屈曲部の説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化粧水が含浸される化粧シート用不織布であって、該化粧シート用不織布がセルロース系繊維及び疎水性繊維を含んで構成され、構成繊維の繊維交絡によってシート形態が保たれており、該疎水性繊維が該化粧シート用不織布の表面部分に偏在している化粧シート用不織布。
【請求項2】
前記セルロース系繊維が脱脂綿繊維である請求項1記載の化粧シート用不織布。
【請求項3】
前記セルロース系繊維と前記疎水性繊維との含有重量比が、セルロース系繊維:疎水性繊維=50:50〜90:10である請求項1又は2記載の化粧シート用不織布。
【請求項4】
前記疎水性繊維がポリエステル系又はポリオレフィン系繊維である請求項1〜3の何れかに記載の化粧シート用不織布。
【請求項5】
前記化粧シート用不織布が、前記セルロース系繊維及び前記疎水性繊維を含む繊維ウエブを水流交絡させることにより得られたものである請求項1〜4の何れかに記載の化粧シート用不織布。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の化粧シート用不織布に、化粧水が含浸されてなる化粧シート。

【図1】
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【公開番号】特開2009−91274(P2009−91274A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−261719(P2007−261719)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】