説明

化粧品基材およびその製造方法

【課題】 毛髪化粧品に配合し、毛髪への適用後に加熱処理することで、毛髪に艶、潤い、滑らかさを付与し、櫛通り性を改善することができる、ヒートアクティブ効果が高く、しかも保存安定性に優れたシリル加水分解ペプチドからなる化粧品基材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 下記の一般式(1)
【化1】


(式中、R、R、Rは、炭素数1〜3のアルコキシ基または炭素数1〜3のアルキル基で、R、R、Rのうち少なくとも2個は炭素数1〜3のアルコキシ基)で表されるシランカップリング剤を、炭素数1〜3の低級一価アルコールを含有する水溶液中で加水分解し、その後、加水分解ペプチドの側鎖のアミノ基を含むアミノ基に反応させることで、上記課題が達成される。炭素数1〜3の低級一価アルコール濃度は水溶液中2〜20質量%が好ましく、加水分解ペプチドの数平均分子量は、200〜3,000が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘアコンディショナー、毛髪セット剤、パーマネントウェーブ用剤などの毛髪化粧品用基材として有用なシリル化加水分解ペプチドからなる化粧品基材およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、毛髪への収着性に優れ、毛髪への適用後に加熱処理すると、毛髪に優れた艶、滑らかさを付与する効果の高いシリル化加水分解ペプチドからなる化粧品基材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、シリコーンオイル(有機シリコーン化合物)とポリペプチドを毛髪化粧品に配合して、シリコーンオイルの有する優れた伸展性、毛髪への艶・光沢の付与作用、毛髪への撥水性付与による保護作用などと、ポリペプチドの有する毛髪への収着作用、皮膚刺激の緩和作用、造膜による保護作用や保湿作用などを発揮させることが試みられてきた。
【0003】
しかしながら、シリコーンオイルは、本来、疎水性(親油性)物質であり、ポリペプチドは、本来、親水性物質であるため、これらは相溶しにくく、これらを併用して配合した場合には、乳化安定性に欠け、分離しやすいために、化粧品としての商品価値が損なわれやすいという問題があった。また、先にシリコーンオイルと接触した部分にはポリペプチドが付着しにくく、その逆に、先にポリペプチドと接触した部分にはシリコーンオイルが付着できず、両者の特性を十分に発揮させることができないという問題もあった。
【0004】
そこで、上記問題を解決するため、タンパク質の加水分解物(加水分解ペプチド)にシリコーンやシラン化合物を結合させた、プロテイン−シリコーン共重合体〔例えば、特開平5−148119号公報(特許文献1)、特表2005−520024号公報(特許文献2)〕や加水分解ペプチドのシリル化誘導体〔例えば、特開平8−59424号公報(特許文献3)、特開平8−67608号公報(特許文献4)など〕が開発されてきた。
【0005】
そして、これらの加水分解ペプチドのシリコーン誘導体やシリル化誘導体は、近年は、特に毛髪化粧品への使用が提案されている。それは、特開2000−302647号公報(特許文献5)で報告されているように、加水分解ペプチドのシリル化誘導体を毛髪に適用して加熱処理すると、加水分解ペプチドの収着作用で毛髪に収着した加水分解ペプチドのシリル化誘導体のシリル基に結合する水酸基同士が毛髪上で加熱により縮合し、シリコーンの特性である優れた伸展性、毛髪への艶や光沢の付与作用が発現するという、いわゆるヒートアクティブ効果が見出されたためである。
【0006】
ところで、前記のようにシリコーンは水系の化粧品中への溶解性が悪いため、保存安定性を保つためには、シリコーン部分は短鎖にする必要があり、また、使用時のヒートアクティブ効果を発揮させるためには、ペプチドに結合しているシリル基に結合する水酸基が、製造途中で縮合することなく、化粧品として使用するまで水酸基が多く存在している必要がある。
【0007】
しかし、特許文献1や特許文献2のプロテイン−シリコーン共重合体は、その存在割合は記されていないが、シリル基に直結する水酸基同士が縮合し、シリコーン鎖を介して2個のペプチド鎖が結合した重合体とペプチドの末端にシラン化合物が結合した単量体との混合物で得られていて、高分子重合体が存在するため保存安定性が悪い。また、熱縮合による光沢や滑らかさの付与といったヒートアクティブ効果はそれ程期待はできない。
【0008】
これに対して、特許文献3や特許文献4のシリル化加水分解ペプチドは、ペプチド鎖のアミノ基に結合する水酸基を有するシリル基が1個であり、水系の化粧品に配合した場合でも保存安定性が良く、ヒートアクティブ効果も期待できる。しかし、製造時にシリル基に結合する水酸基同士の縮合を抑えるように反応がコントロールされているため、特に、縮合しやすい水酸基を3個有するシリル基となるシランカップリング剤を用いる場合の実施例では、シリル基の導入率が60%程度と低く、使用時のヒートアクティブ効果がやや劣るという問題があった。
【特許文献1】特開平5−148119号公報
【特許文献2】特表2005−520024号公報
【特許文献3】特開平8−59424号公報
【特許文献4】特開平8−67608号公報
【特許文献5】特開2000−302647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明は、上記の問題点を解消し、使用時のヒートアクティブ効果が高く、しかも保存安定性に優れた毛髪用化粧品基材として有用なシリル化加水分解ペプチドおよびその製造方法を提供することを課題とする。すなわち、本発明の製造方法によれば、毛髪への適用後に加熱処理することで、毛髪に艶、潤い、滑らかさを付与し、櫛通り性を改善することができる化粧品基材として有用なシリル化加水分解ペプチドを容易に製造することができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、下記の一般式(1)
【化1】


(式中、R、R、Rは同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜3のアルコキシ基または炭素数1〜3のアルキル基であるが、R、R、Rのうち少なくとも2個は炭素数1〜3のアルコキシ基である)
で表されるシランカップリング剤を、炭素数1〜3の低級一価アルコールを含有する水溶液中で加水分解し、その後、加水分解ペプチドの側鎖のアミノ基を含むアミノ基に反応させることで、上記課題を解決し、使用時のヒートアクティブ効果が高く、しかも保存安定性に優れたシリル化加水分解ペプチドが製造できることを見出し、本発明の完成にいたった。
【0011】
すなわち、本発明によれば、一般式(1)で表されるシランカップリング剤のケイ素原子に直結するアルコキシ基を水中で加水分解する際、炭素数1〜3の低級一価アルコールを含有させておくことによって、シランカップリング剤の溶解性や水中での安定性が向上し、加水分解中およびその後の加水分解ペプチドとの反応時の水酸基同士の縮合が抑えられるだけでなく、加水分解ペプチドのアミノ基との反応性も向上する。従って、本発明の製造方法で得られたシリル化ペプチドは使用時のヒートアクティブ効果が非常に高い。
【0012】
また、本発明者らは、一般式(1)で表されるシランカップリング剤を加水分解する際の、炭素数1〜3の低級一価アルコールを含有する水溶液中のアルコールの含有量は2〜20質量%が好適であり、シリル官能基を導入する加水分解ペプチドの数平均分子量は、200〜3,000のものがシリル官能基の導入率、化粧品として使用した際のヒートアクティブ効果および化粧品中での保存安定性の面から好ましいことを見出した。
【発明の効果】
【0013】
本発明のシリル化加水分解ペプチドよりなる化粧品基材は、毛髪への適用後に加熱処理する、いわゆるヒートアクティブ効果により、毛髪に艶、潤い、滑らかさを付与し、櫛通り性を改善することができ、しかも保存安定性に優れる。また、本発明の製造方法によれば、これらの効果に優れるシリル化加水分解ペプチドを容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい形態を、加水分解ペプチド部分、シランカップリング剤、シランカップリング剤の加水分解、シリル化加水分解ペプチドの製造、シリル化加水分解ペプチドの構造および特性に分けてより具体的に説明する。
【0015】
〔加水分解ペプチド〕
本発明の化粧品基材であるシリル化加水分解ペプチドの製造に使用する加水分解ペプチドは、天然由来のタンパク質(蛋白質)を酸、アルカリ、酵素あるいはそれらの併用で部分加水分解して得られるもので、タンパク源としては、コラ−ゲン(その変性物であるゼラチンも含む)、ケラチン、絹フィブロイン、セリシン、カゼイン、コンキオリン、エラスチン、鶏などの卵の卵黄タンパク、卵白タンパクなどの動物由来のもの、大豆、エンドウ豆、小麦、ビ−ル粕、トウモロコシ、米(米糠)、イモ類のタンパクなどの植物由来のもの、さらには、サッカロミセス属、カンディタ属、エンドミコプシス属の酵母菌や、いわゆるビ−ル酵母、清酒酵母といわれる酵母菌より分離した酵母タンパク、キノコ類(担子菌)やクロレラより分離したタンパクなどの微生物由来のものが挙げられる。
【0016】
シリル化にあたって使用される加水分解ペプチドは、上記タンパク質を酸、アルカリ、酵素あるいはそれらの併用によって加水分解することによって得られるが、その際、使用する酸、アルカリや酵素の量、反応温度や反応時間を適宜選択することにより、得られる加水分解タンパクの数平均分子量を200〜3,000の好ましいものにすることができる。なお、本願発明で用いる数平均分子量とは、加水分解ペプチドの総窒素量とアミノ態窒素量より求めたアミノ酸重合度に、各タンパク質の平均アミノ酸分子量を掛けて求めた計算値である。
【0017】
加水分解ペプチドの数平均分子量は、毛髪への収着性、造膜性、化粧品中での保存安定性の面から、200〜3,000が好ましく、250〜2,500がより好ましい。すなわち、加水分解ペプチドの数平均分子量が上記範囲以下では、シリル化加水分解ペプチド中でのシリル基が占める割合が大きくなって保存安定性が悪くなる上に、毛髪化粧品に使用した場合、ペプチドの毛髪への収着性、造膜作用が悪くなる恐れがあり、また、逆に数平均分子量が上記範囲以上になると、シリル化加水分解ペプチド中でのシリル基が占める割合が小さく、毛髪上でのシリコーンが有する光沢や滑らかさの付与作用や良好な伸展性を発揮できなくなるだけでなく、保存中に高分子量のペプチドが会合して不溶物を生じやすくなる恐れがあるからである。
【0018】
〔シランカップリング剤〕
本発明のシリル化加水分解ペプチドの製造方法で使用するシランカップリング剤は、下記の一般式(1)
【化2】


(式中、R、R、Rは同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜3のアルコキシ基または炭素数1〜3のアルキル基であるが、R、R、Rのうち少なくとも2個は炭素数1〜3のアルコキシ基である)
で表されるもので、具体例としては、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジプロポキシシラン、3−グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルエチルジプロポキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0019】
〔シランカップリング剤の加水分解〕
加水分解ペプチドと一般式(1)で表されるシランカップリング剤との反応は、まず、シランカップリング剤を20〜40℃の炭素数1〜3の低級一価アルコールを含有する水溶液中で5〜20分間攪拌することにより、ケイ素原子に結合するアルコキシ基を水酸基に変換する。すなわち、シランカップリング剤は、下記の一般式(2)
【化3】


(式中、Rは水酸基または炭素数1〜3のアルキル基である)
で表されるものに変換される。
【0020】
使用する炭素数1〜3の低級一価アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールが挙げられるが、シリル化加水分解ペプチドは化粧品に使用されるものであるため、安全性や着臭の面から、エタノールが好適である。
【0021】
そして、炭素数1〜3の低級一価アルコールを含有する水溶液のアルコール濃度は2〜20質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。これは、アルコール濃度が上記範囲以下では加水分解によりアルコキシ基を水酸基に変換したシランカップリング剤を安定に保つことができなくなる恐れがあり、また、アルコール濃度が上記範囲以上になると、次の工程の加水分解ペプチドとの反応に際し、加水分解ペプチドの凝集や不溶化を生じさせる恐れがあるからである。
【0022】
加水分解によるアルコキシ基の水酸基への変換は、温度が高い方がより速く進むが、水酸基同士の縮合の恐れがあるため、20〜40℃が最適である。そして、加水分解は、酸性側でも塩基性側でも起こるが、酸性側の方がより起こりやすいため、低級一価アルコールを含有する水溶液をpH3.0〜4.0に調整しておくことが好ましい。
【0023】
シランカップリング剤を炭素数1〜3の低級一価アルコールを含有する水溶液中で加水分解する際のシランカップリング剤の濃度は、シリル基に結合するアルコキシ基の数やアルコール濃度との関係があり、数値を規定するのは難しいが、シランカップリング剤が高濃度では生じた水酸基同士の縮合の可能性が高くなる恐れがあり、10〜20質量%程度になるようにするのが好ましく、特に、水酸基が3個生じるシランカップリング剤では15質量%以下が好ましい。
【0024】
〔シリル化加水分解ペプチドの製造〕
上記のように調製したケイ素原子に直結するアルコキシ基を水酸基に変換したシランカップリング剤を含む溶液を、攪拌下、加水分解ペプチドに滴下し、両者を接触させることによってシリル化加水分解ペプチドは製造されるが、この反応に際して、加水分解ペプチドは10〜30質量%程度の水溶液にしておくのが好ましい。これは、加水分解ペプチド水溶液の濃度が高すぎると、生じたシリル化加水分解ペプチドのケイ素原子に直結する水酸基同士が縮合しやすくなる恐れがあるからである。
【0025】
水酸基化したシランカップリング剤の滴下時間は、滴下量によって異なるが、概ね30分〜5時間で終了するのが好ましい。
【0026】
反応は塩基性側で進行するので、ペプチド溶液は水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ溶液を添加して、pHを8〜10、特に8.5〜9.5にしておく必要がある。反応は常温でも進行するが、温度は高くなるほど反応速度は速くなる。しかし、温度が高くなると溶媒の揮散で溶液濃度が上昇し、pHが高い状態でもケイ素原子に直結する水酸基同士が縮合する可能性が高くなるため、55℃以下にすることが好ましく、特に35〜50℃で行うのが好ましい。なお、特許文献3および特許文献4では、シリル化反応を40〜50℃で行っているが、本発明の製造方法では、低級アルコールが添加されているため、より低い温度でより高い反応率が得られる。
【0027】
反応の進行と終了は、ファン・スレ−ク(van Slyke)法により、反応中の加水分解ペプチドのアミノ態窒素量を測定することによって確認することができる。
【0028】
反応終了後、反応液は中和後、そのまま、あるいは脱アルコール、イオン交換樹脂、透析膜、電気透析、ゲルろ過、限外ろ過などによって精製し、適宜濃縮して濃度を調整して化粧品に配合されるが、中和後は、水酸基同士の縮合が起こりやすいため、濃縮や脱アルコールは低温での減圧濃縮が好ましい。
【0029】
〔シリル化加水分解ペプチドの構造および特性〕
シリル化加水分解ペプチドを毛髪化粧品に配合し、ヒートアクティブ効果を発揮させるためには、シリル官能基の導入率と加水分解ペプチド部分の分子量が重要な点となる。すなわち、シリル官能基の特性を強く引き出すためには、分子量が小さく、側鎖にアミノ基を有するアミノ酸含量の多い(塩基性アミノ酸が多い)加水分解ペプチドを用いればよく、また逆にペプチド部分の特性を強調し、それにシリル官能基の性質を付加させたい場合には、側鎖にアミノ基を有するアミノ酸含量が少なく、かつ高分子量のペプチドを用いればよい。しかし、側鎖にアミノ基を有するアミノ酸含量が多い低分子量のペプチドでは、シリル官能基の導入率が極度に高くなると、親水性が減少し、保存安定性が悪くなる上に、ペプチド本来の毛髪への収着作用が減少する。逆に加水分解ペプチドへのシリル官能基の導入率が低すぎる場合には、ヒートアクティブ効果が期待できない。
【0030】
そのため、シリル官能基の加水分解ペプチドへの導入率は厳密には規定できないが、概ね、加水分解ペプチドの数平均分子量が200〜600で60〜75%、加水分解ペプチドの数平均分子量が600〜1500で導入率が65〜80%、加水分解ペプチドの数平均分子量が1500〜3000で導入率が80%以上とするのが好ましい。
【実施例】
【0031】
つぎに、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はそれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例に先立ち、実施例などで使用するゲル濾過分析の条件について示す。また、以下の実施例などにおいて、溶液や分散液の濃度を示す%はいずれも質量%である。
【0032】
〔ゲル濾過分析〕
ゲル濾過分析は下記の条件で行った。分析結果はそれぞれの実施例や比較例ごとにわけて図1〜8に示すが、得られたシリル化加水分解ペプチドの結果を実線で、原料の加水分解ペプチドの結果を破線で示す。なお、ゲル濾過分析での重量平均分子量は、標準試料の検出位置と測定試料のピーク面積を基に算出された値で、総窒素量とアミノ態窒素量から求めた値数平均分子量値とはやや異なる。
【0033】
分析カラム:東ソー(株)製TSKgel G3000PWxL(7.8mmID×30cm)
溶離液 :0.1%トリフルオロ酢酸−45%アセトニトリル−水溶液
溶出速度:0.3ml/min
検出器 :UV検出器、220nm
標準試料:リボヌクレアーゼA(MW13,700)
アプロチニン (MW 6,500)
インシュリンB鎖 (MW 3,496)
ブラジキニン (MW 1,060)
グルタチオン (MW 307)
【0034】
実施例1
加水分解コラーゲン(コラーゲンの加水分解物で、数平均分子量が1762)の15%水溶液100g(アミノ態窒素量の測定によって得られた化学量論的モル数として8.51ミリモル)に20%水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを9.5にし、40℃に加温した。
【0035】
一方、一般式(1)において、RがCHで、RおよびRがOCH のシランカップリング剤2.1g(加水分解コラーゲンのアミノ態窒素量に対し1.1当量)を10%エタノール水溶液に濃度が15%となるように溶解し、希塩酸でpHを3.5に調整して、30℃で15分間攪拌を続け、メトキシ基(−OCH)を加水分解して水酸基に変換させた。
【0036】
上記の加水分解コラーゲン溶液を40℃で攪拌しながら、その中に、水酸基に変換したシランカップリング剤溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、45℃でさらに3時間攪拌を続け、反応を完結させた。
【0037】
反応終了後、アミノ態窒素を測定することにより、シリル官能基の加水分解コラーゲンのアミノ基への導入率を求めたところ、導入率は84%であった。
【0038】
反応液を希塩酸でpHを6.5に調整した後、減圧下で脱アルコールを行い、濃度を調整して、反応生成物(シリル化加水分解コラーゲン)濃度が10%の水溶液を161g得た。
【0039】
得られた反応生成物および原料の加水分解コラーゲンのゲル濾過分析を行ったところ、反応生成物のゲル濾過分析による重量平均分子量は6,147で、原料の加水分解コラーゲンは4,970であり、反応生成物は原料に対し約1,100大きくなっていた。しかし、図1にそれらのクロマトグラムを示すが、図1の実線で示した反応生成物のクロマトグラムには、破線で示した原料の加水分解コラーゲンの2倍以上の分子量に相当する成分は確認されず、水酸基同士の縮合によるシリコーン鎖を介してのペプチドの重合体の生成は見られなかった。
【0040】
実施例2
加水分解小麦タンパク(小麦タンパクの加水分解物で、数平均分子量が680)の20%水溶液100g(アミノ態窒素量の測定によって得られた化学量論的モル数として29.4ミリモル)を20%水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpH9.5とし、40℃に加温した。
【0041】
一方、一般式(1)において、R、RおよびRのすべてがOCHCHのシランカップリング剤7.4g(加水分解小麦ペプチドのアミノ態窒素量に対し0.9当量)を10%エタノール水溶液に濃度が12%となるように溶解し、希塩酸でpHを3.5に調整して、30℃で15分間攪拌を続けてケイ素原子に直結したOCHCH基を水酸基に変換させた。
【0042】
上記加水分解小麦タンパク水溶液を40℃で攪拌しながら、その中に水酸基に変換したシランカップリング剤溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、45℃でさらに3時間攪拌を続けて反応を完結させた。
【0043】
反応液を希塩酸でpHを6.5に調整した後、減圧下で脱アルコールを行い、濃度を調整して、反応生成物(シリル化加水分解小麦タンパク)濃度が15%の水溶液を159g得た。シリル官能基の導入率は77%であった。
【0044】
得られた反応生成物および原料の加水分解小麦タンパクのゲル濾過分析を行ったところ、反応生成物のゲル濾過分析による重量平均分子量は1,580で、原料の加水分解小麦タンパクは932であり、反応生成物は原料に対し約650大きくなっていた。しかし、図2にそれらのクロマトグラムを示すが、図2の実線で示した反応生成物のクロマトグラムには、破線で示した原料の加水分解小麦タンパクの2倍以上の分子量に相当する成分は確認されず、水酸基同士の縮合によるシリコーン鎖を介してのペプチドの重合体の生成は見られなかった。
【0045】
実施例3
加水分解コラーゲンに代えて加水分解ケラチン(羊毛の加水分解物で、数平均分子量が444)の20%水溶液100g(アミノ態窒素量の測定により得られた化学量論的モル数として67.6ミリモル)を用い、一般式(1)において、RがCHで、RおよびRがOCHCHのシランカップリング剤を16.7g(加水分解ケラチンのアミノ態窒素量に対し1.0当量)用いたほかは、実施例1と同様にして、反応生成物(シリル化加水分解ケラチン)濃度が15%の水溶液139gを得た。シリル官能基の導入率は72%であった。
【0046】
得られた反応生成物および原料の加水分解ケラチンのゲル濾過分析を行ったところ、反応生成物のゲル濾過分析による重量平均分子量は1,506で、原料の加水分解ケラチンは951であり、反応生成物は原料に対し約550大きくなっていた。しかし、図3にそれらのクロマトグラムを示すが、図3の実線で示した反応生成物のクロマトグラムには、破線で示した原料の加水分解ケラチンの2倍以上の分子量に相当する成分は確認されず、水酸基同士の縮合によるシリコーン鎖を介してのペプチドの重合体の生成は見られなかった。
【0047】
実施例4
加水分解小麦タンパクに代えて加水分解大豆タンパク(大豆タンパクの加水分解物で、数平均分子量が551)の20%水溶液100g(アミノ態窒素の測定によって得られた化学量論的モル数として36.3ミリモル)を用い、一般式(1)において、R、RおよびRのすべてがOCHのシランカップリング剤6.9g(加水分解大豆タンパクのアミノ態窒素量に対して0.8当量)用いたほかは、実施例2と同様にして、反応生成物(シリル化加水分解大豆タンパク)濃度が15%の水溶液151gを得た。シリル官能基の導入率は65%であった。
【0048】
得られた反応生成物および原料の加水分解大豆タンパクのゲル濾過分析を行ったところ、反応生成物のゲル濾過分析による重量平均分子量は2,032で、原料の加水分解大豆タンパクは1,440であり、反応生成物は原料に対し約600大きくなっていた。しかし、図4にそれらのクロマトグラムを示すが、図4の実線で示した反応生成物のクロマトグラムには、破線で示した原料の加水分解大豆タンパクの2倍以上の分子量に相当する成分は確認されず、水酸基同士の縮合によるシリコーン鎖を介してのペプチドの重合体の生成は見られなかった。
【0049】
比較例1
実施例1と同じ加水分解コラーゲンと同じシランカップリング剤を用い、特許文献1の方法に従って、以下のようにしてシリル化加水分解コラーゲンを製造した。
【0050】
加水分解コラーゲンの30%水溶液100gに固型水酸化ナトリウムを加えてpH11に調整し、この溶液を55℃に加温し、攪拌下、一般式(1)において、RがCHで、RおよびRがOCHのシランカップリング剤4.2g(加水分解コラーゲンのアミノ態窒素量に対し1.1当量)を1時間かけて滴下し、滴下終了後60℃で5時間攪拌を続けた後、60℃で一晩放置した。
【0051】
反応終了後、アミノ態窒素量を測定することにより、シリル官能基の加水分解コラーゲンのアミノ基への導入率を求めたところ、導入率は73%であった。
【0052】
反応液を希硫酸でpHを6に調整し、濃度を調整して、反応生成物(シリル化加水分解コラーゲン)濃度が10%の水溶液を302g得た。
【0053】
得られた反応生成物および原料の加水分解コラーゲンのゲル濾過分析を行ったところ、反応生成物のゲル濾過分析による重量平均分子量は36,600で、原料の加水分解コラーゲンは4,970であり、反応生成物は原料に対し約7倍大きくなっていた。図5にそれらのクロマトグラムを示すが、図5の実線で示した反応生成物のクロマトグラムには、破線で示した原料の加水分解コラーゲンの5倍以上の分子量に相当する大きなピークが見られ、この製造方法によるシリル化加水分解コラーゲンでは、水酸基同士の縮合によると考えられるシリコーン鎖を介した重合体と縮合していない単量体の混合物であった。
【0054】
比較例2
実施例2と同じ加水分解小麦タンパクと同じシランカップリング剤を用いて、比較例1と同様の方法で以下のようにシリル化加水分解小麦タンパクを製造した。
【0055】
加水分解小麦タンパクの30%水溶液100gに固型水酸化ナトリウムを加えてpH11に調整し、この溶液を55℃に加温し、攪拌下、一般式(1)において、R、RおよびRのすべてがOCHCHのシランカップリング剤11.0g(加水分解小麦タンパクのアミノ態窒素量に対し0.9当量)を1時間かけて滴下し、滴下終了後60℃で5時間攪拌を続けた後、60℃で一晩放置した。
【0056】
反応終了後、反応液を希硫酸でpHを6に調整し、濃度を調整して、反応生成物(シリル化加水分解小麦タンパク)濃度が15%の水溶液を238g得た。シリル官能基の導入率は71%であった。
【0057】
得られた反応生成物および原料の加水分解小麦タンパクのゲル濾過分析を行ったところ、反応生成物のゲル濾過分析による重量平均分子量は28,289で、原料の加水分解コラーゲンは932であり、反応生成物は原料に対し約30倍近く大きくなっていた。図6にそれらのクロマトグラムを示すが、図6の実線で示した反応生成物のクロマトグラムには、破線で示した原料の加水分解コラーゲンの10倍以上の分子量に相当するピークが見られ、この製造方法によるシリル化加水分解小麦タンパクでは、水酸基同士の縮合によると考えられるシリコーン鎖を介した重合体と縮合していない単量体の混合物であった。
【0058】
比較例3
実施例3と同じ加水分解ケラチンと同じシランカップリング剤を用いて、特許文献3の方法に従って、以下のようにシリル化加水分解ケラチンを製造した。
【0059】
加水分解ケラチンの30%水溶液50gに20%水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpH9.5にし、55℃に加温した。
【0060】
一方、一般式(1)において、RがCHで、RおよびRがOCHのシランカップリング剤16.7g(加水分解ケラチンのアミノ態窒素量に対し1.0当量)を水に15%水溶液になるように溶解し、希塩酸でpHを3.5に調整して、50℃で15分間攪拌を続け、メトキシ基(−OCH)を加水分解して水酸基に変換させた。
【0061】
上記の加水分解ケラチン溶液を55℃で攪拌しながら、その中に、水酸基に変換したシランカップリング剤溶液を30分間かけて滴下した。滴下終了後、55℃でさらに5時間攪拌を続け、反応を完結させた。
【0062】
反応液を希塩酸で中和した後、電気透析装置で脱塩し、pHを6.5に調整した後、濃縮して濃度調整を行うことによりして、反応生成物(シリル化加水分解ケラチン)の濃度が15%の水溶液を148g得た。シリル官能基の加水分解ケラチンのアミノ基への導入率は61%であった。
【0063】
得られた反応生成物および原料の加水分解ケラチンのゲル濾過分析を行ったところ、反応生成物のゲル濾過分析による重量平均分子量は1,492で、原料の加水分解ケラチンは951であり、反応生成物は原料に対し約540大きくなっていた。図7にそれらのクロマトグラムを示すが、図7の実線で示した反応生成物のクロマトグラムには、破線で示した原料の加水分解ケラチンの2倍以上の分子量に相当する成分は確認されず、水酸基同士の縮合によるシリコーン鎖を介してのペプチドの重合体の生成は見られなかった。
【0064】
比較例4
実施例4と同じ加水分解大豆タンパクと同じシリル化合物を用い、比較例3と同様の方法で以下のようにシリル化加水分解ペプチドを製造した。
【0065】
加水分解大豆タンパクの30%水溶液50gに20%水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpH9.5にし、55℃に加温した。
【0066】
一方、一般式(1)において、R、RおよびRのすべてがOCHのシランカップリング剤5.1g(加水分解大豆タンパクのアミノ態窒素量に対し0.8当量)を水に15%水溶液になるように溶解し、希塩酸でpHを3.5に調整して、50℃で15分間攪拌を続け、メトキシ基(−OCH)を加水分解して水酸基に変換させた。
【0067】
上記の加水分解大豆タンパク溶液を55℃で攪拌しながら、その中に、水酸基に変換したシランカップリング剤溶液を30分間かけて滴下した。滴下終了後、55℃でさらに5時間攪拌を続け、反応を完結させた。
【0068】
反応液を希塩酸で中和した後、電気透析装置で脱塩し、pHを6.5に調整した後、濃縮して濃度調整を行うことによりして、反応生成物(シリル化加水分解大豆タンパク)の濃度が15%の水溶液を99g得た。シリル官能基の加水分解大豆タンパクのアミノ基への導入率は60%であった。
【0069】
得られた反応生成物および原料の加水分解大豆タンパクのゲル濾過分析を行ったところ、反応生成物のゲル濾過分析による重量平均分子量は1,996で、原料の加水分解大豆タンパクは1,440であり、反応生成物は原料に対し約550大きくなっていた。図8にそれらのクロマトグラムを示すが、図8の実線で示した反応生成物のクロマトグラムには、破線で示した原料の加水分解大豆タンパクの2倍以上の分子量に相当する成分は確認されず、水酸基同士の縮合によるシリコーン鎖を介してのペプチドの重合体の生成は見られなかった。
【0070】
〔シリル化加水分解ペプチドの保存安定性〕
上記実施例1〜4および比較例1〜4で得られたシリル化加水分解ペプチドの水溶液を90日間室温(ただし、10〜25℃)に保存した時の沈殿物の発生の有無を目視により調べた。評価基準は下記のとおりである。
【0071】
評価基準
+++ : 沈殿物が非常に多い
++ : 沈殿物が多い
+ : 沈殿物または濁りがわずかに認められる
− : 沈殿物が認められない
【0072】
その結果を表1に示す。なお、表1には、各実施例および比較例のシリル化加水分解ペプチドの合成にあたって使用したペプチド類の種類を併記する。
【0073】
【表1】

【0074】
表1に示すように、実施例1〜4で製造したシリル化加水分解ペプチドは、いずれも、室温保存で濁りや沈殿物を生じることはなかった。これに対し、比較例では、特許文献1の方法で製造した比較例1および2は保存後15日目には沈殿物は生じていた。また、特許文献3の方法で製造した比較例3および4では90日間の保存でも濁りや沈殿物を生じることがなかった。
【0075】
〔シリル化加水分解ペプチドのpH安定性〕
実施例1〜4および比較例1〜4で調製したシリル化加水分解ペプチドのpH安定性を調べた。すなわち、シリル化加水分解ペプチドの10%水溶液を6N塩酸または20%水酸化ナトリウムでpH3、4、5、7、9、10に調整し、室温で24時間放置後の沈殿物や濁りの有無を目視により確認した。その結果を表2に示す。なお、評価基準は保存安定性の場合と同様である。
【0076】
【表2】

【0077】
表2に示すように、実施例1〜4のシリル化加水分解ペプチドはいずれのpHでも濁りは全く見られなかったが、比較例1および2ではpH3と4で濁りを生じ、pH10では細かい不溶物が沈殿していた。また、比較例3はpH3および4で濁りが生じたが、比較例4は実施例4と同様にいずれのpHでも濁りは生じなかった。
【0078】
つぎに、上記の実施例1〜4および比較例1〜4で製造したシリル化加水分解ペプチドを各種毛髪化粧品に配合した応用例で、シリル化加水分解ペプチドのヒートアクティブ効果について説明する。
【0079】
応用例1
表3に示す組成のヘアクリームを調製し、それぞれのヘアクリームを毛髪に適用後、ヘアドライヤーで熱風乾燥した毛髪とヘアドライヤーで冷風乾燥した毛髪の艶、潤い、櫛通り性を評価した。なお、実施品や比較品中における各成分の含有量はいずれも質量部によるものであり、含有量が固形分量でないものについては、成分名のあとに括弧書きで固形分濃度を示す。また、溶液または分散液の濃度を示す%は質量である。
【0080】
【表3】

【0081】
上記ヘアクリームによる毛髪の処理は下記のように行った。すなわち、長さ15cmで重さ1gの毛束5本を用意し、それぞれ2%ポリオキシエチレン(3)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム水溶液で洗浄し、水道水の流水中でゆすぎ、これらの毛束は、実施品1および比較品1にそれぞれ2本供し、対照品用に1本用いた。これらの毛束に対して、上記実施品1、比較品1のヘアクリームをおよび対照品のヘアクリームを各毛束に対してそれぞれ0.5g用いてよくのばしながら塗り付けた。実施品1と比較品1各1本ずつの毛束は1000Wの市販のヘアドライヤーで10cm離れたところから熱風を当てて乾燥し、実施品1と比較品1のそれぞれ他の1本および対照品の毛束は同じヘアドライヤーで冷風乾燥した。なお、熱風乾燥での毛束の位置での温度は、乾燥開始30秒後に65℃であって、毛束の乾燥終了時(乾燥開始より2分後)は72℃であった。
【0082】
乾燥後の毛髪の艶、潤いおよび櫛通り性を10人のパネラー(女性6人、男性4人)に、対照品1を〔1〕とし、最も良いものを〔5〕として順位付けの評価をさせた。その平均値を評価値として表4に示す。
【0083】
【表4】

【0084】
表4に示すように、実施例1で製造したシリル化加水分解コラーゲンを含有するヘアクリームを使用した場合、処理後の毛髪の艶、潤い、櫛通り性のいずれの評価項目でも、加熱処理を行うと加熱処理を行わない(冷風乾燥)時に比べて、評価値が大きく上昇していて、実施例1で製造したシリル化加水分解コラーゲンは、ヒートアクティブ効果が高いことが確認された。これに対して、比較例1で製造したシリル化加水分解コラーゲンを含有するヘアクリームは、加熱処理品と冷風乾燥品の評価値に大差はなく、ヒートアクティブ効果はほとんどないと言え、さらに、加熱処理した場合でも実施品1の冷風乾燥の場合とほぼ同程度の評価値しかなかった。
【0085】
応用例2
表5に示す組成のヘアリンスを調製し、それぞれのヘアリンスを洗浄した毛髪に使用後、ヘアドライヤーで熱風乾燥した毛髪とヘアドライヤーで冷風乾燥した毛髪の艶、潤い、櫛通り性および毛髪のはりを調べた。
【0086】
試験では5本の毛束を用意し、実施品2および比較品2のヘアリンスでそれぞれ2本の毛束を処理し、一方の毛束はヘアドライヤーで加熱乾燥し、もう一方の毛束はヘアドライヤーで冷風乾燥した。また、対照品のヘアリンスで1本の毛束を処理し、この毛束はヘアドライヤーで冷風乾燥した。
【0087】
【表5】

【0088】
上記ヘアリンスによる毛髪の処理は下記のように行った。すなわち、長さ15cmで重さ1gの毛束5本を加水分解ペプチドやその誘導体を含まない市販のシャンプーで洗浄し、お湯でゆすいだ。この洗浄後の毛束に対して、上記実施品2、比較品2および対照品2のヘアリンスを各毛束に対しそれぞれ2gずつ使用してヘアリンス処理した後、お湯でゆすぎ、実施品2と比較品2の各1本の毛束は応用例1と同様のヘアドライヤーで同じ条件下で加熱乾燥し、実施品2と比較品2のそれぞれ他の1本および対照品の毛束は同じヘアドライヤーで冷風乾燥した。このシャンプー洗浄、ヘアリンス処理、乾燥の工程を5回繰り返した後、毛髪の艶、潤い、櫛通り性を10人のパネラー(女性6人、男性4人)に応用例1と同じ評価基準で評価させた。つぎに、各毛束より毛髪を14本ずつ抜き取り、以下のような毛髪のはりの評価試験に供してノットの大きさを比較した。
【0089】
〔毛髪のはりの評価法〕
15cmの長さの毛髪のほぼ中央部位に図9のように軽く結び目(ノット)を作り、毛根側を上にし、毛先側に10gの錘をつけて室温で相対湿度58%の恒湿槽中に1分間吊した。その後、毛先側の錘を外し、さらに1時間上記恒湿槽中に吊した後、毛髪上に作製したノットを走査型電子顕微鏡で撮影し、その撮影画像をもとに毛髪のノットの大きさ(長径)を画像処理装置で測定した〔走査型電子顕微鏡には日本電子(株)製、JSM−5800LVを用い、画像処理は同社製、SemAfore(商品名)を使用した〕。一試料につき14本の毛髪のノットの大きさを測定し、測定結果の最も大きいものから2つと最も小さいものから2つの4本の毛髪についての結果は除外し、試料ごとに10本の毛髪の結果について平均値を求め、それを評価結果とした。なお、評価結果を示す数値の大きい(ノットが大きい)ほど、毛髪に「はり」があることを意味する。
【0090】
毛髪の艶、潤い、櫛通り性および毛髪のはりの評価結果を表6にそれぞれ平均値で示す。
【0091】
【表6】

【0092】
表6に示すように、実施例2で製造したシリル化加水分解小麦タンパクを含有するヘアリンスを使用して加熱乾燥した実施品2の加熱処理毛髪は、同じヘアリンスを使用して冷風乾燥した毛髪に比べて、毛髪の艶、潤い、櫛通り性のいずれの評価値も高くなっているが、比較例2で製造したシリル化加水分解小麦タンパクを含有する比較品2の場合は、加熱処理毛髪と冷風乾燥毛髪の評価値に差がなく、ヒートアクティブ効果はほとんどないという結果であった。しかも、実施品2のヘアリンスでは、加熱処理した場合でも実施品2の冷風乾燥の場合とほぼ同程度の評価値であり、実施例2の製造法は、比較例2の製造法より、毛髪に艶、潤い、櫛通り性を付与する効果が高いシリル化加水分解小麦タンパクが製造できることが明らかであった。
【0093】
また、毛髪のはりの評価結果を示すノットの大きさは、実施例2で製造したシリル化加水分解小麦タンパクを含有するヘアリンスを使用後に加熱乾燥した毛髪が最も大きく、同じヘアリンスを使用後に冷風乾燥した毛髪の1.21倍あり、比較例2で製造したシリル化加水分解小麦タンパクを含有するヘアリンスを使用後に加熱乾燥した毛髪に比べても1.26倍という大きな値であり、加熱によるはりの付与作用の向上は大きかった。これに比べて比較品2では、加熱処理毛髪と冷風乾燥毛髪に大差はなく、比較例2のシリル化加水分解小麦タンパクでは加熱によるはりの付与作用の向上は認められなかった。
【0094】
応用例3
表7に示す組成の毛髪セット剤を調製し、それぞれの毛髪セット剤を洗浄した毛髪に使用して、加熱処理した毛髪と加熱処理しない毛髪の艶、潤いおよびはりを調べた。
【0095】
試験では5本の毛束を用意し、実施品3および比較品3の毛髪セット剤でそれぞれ2本の毛束を処理し、一方の毛束はヘアドライヤーで加熱乾燥し、もう一方の毛束はヘアドライヤーで冷風乾燥した。また、対照品3の毛髪セット剤で1本の毛束を処理し、この毛束はヘアドライヤーで冷風乾燥した。
【0096】
【表7】

【0097】
上記毛髪セット剤による毛髪の処理は下記のように行った。すなわち、長さ20cmに揃えた毛髪をあらかじめ2%ポリオキシエチレン(3)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム水溶液で洗浄し、水でゆすいで室温で風乾し、これらの毛髪20本からなる毛束を5本作製し、それらをそれぞれロッドに巻き付けた。その毛髪を巻き付けたロッド2個ずつを実施品3と比較品3に供し、残りの1個は対照品に使用した。これらのロッドに巻き付けた毛束に、実施品3、比較品3および対照品3の毛髪セット剤をそれぞれ2mlずつ塗布し、実施品3と比較品3それぞれ1個のロッドは90℃の熱風乾燥機中で乾燥し、実施品3と比較品3のそれぞれ残りのロッドおよび対照品のロッドは、36℃の恒温槽中で乾燥した。乾燥後の毛髪をロッドよりはずし、毛髪の艶、潤いを10人のパネラー(女性6人、男性4人)に応用例1と同じ評価基準で評価させ、さらに、各毛束より毛髪を14本ずつ抜き取り、それらを応用例2と同様の毛髪のはりの評価試験に供してノットの大きさを比較した。それらの結果を表8に平均値で示す。
【0098】
【表8】

【0099】
表8に示すように、実施例3で製造したシリル化加水分解ケラチンを含有する毛髪セット剤を使用して90℃で加熱処理した毛髪は、同じ毛髪セット剤を使用して36℃で乾燥した毛髪に比べて、毛髪の艶、潤いのいずれも評価値が高く、加熱処理によって毛髪への艶、潤いの付与作用が高められることが明らかであった。また、比較例3で製造したシリル化加水分解ケラチンを含有する毛髪セット剤を使用した場合も、加熱処理した毛髪は36℃で乾燥した毛髪に比べて、毛髪の艶、潤いが向上している。
【0100】
毛髪のはりを評価結果を示すノットの大きさは、実施例3で製造したシリル化加水分解ケラチンを含有する毛髪セット剤を使用して加熱処理した毛髪が最も大きく、同じ毛髪セット剤を使用して加熱処理をしなかった毛髪の1.32倍になっていた。これに対し、比較例3で製造したシリル化加水分解ケラチンを含有する毛髪セット剤を使用した場合は、加熱処理した毛髪は加熱処理しなかった毛髪の1.25倍であり、加熱処理によるはりの付与効果はやや劣っていた。
【0101】
以上の結果から、比較例3で製造したシリル化加水分解ケラチンにもヒートアクティブ効果があると言えるが、加熱による効果の差は実施品3の方が大きく、これは、実施例3の方法でのシリル化加水分解ケラチンの製造では、比較例3の方法での製造より、シリル官能基の導入率が高くなるためと考えられる。
【0102】
応用例4
表9に示す組成のシャンプーを調製し、それぞれのシャンプーを用いて毛髪を洗浄後、毛髪を熱風乾燥した場合と冷風乾燥した場合の毛髪の艶、潤いおよび櫛通り性を評価した。
【0103】
試験では5本の毛束を用意し、実施品4および比較品4のシャンプーでそれぞれ2本の毛束を洗浄し、一方の毛束はヘアドライヤーで加熱乾燥し、もう一方の毛束はヘアドライヤーで冷風乾燥した。また、対照品4のシャンプーで1本の毛束を処理し、この毛束はヘアドライヤーで冷風乾燥した。
【0104】
【表9】

【0105】
上記シャンプーによる毛髪の処理は下記のように行った。すなわち、長さ15cmで重さ1gの毛束を5本用意し、実施品4および比較品4用に2本ずつと対照品用に1本供した。これらの毛束に対し、実施品4、比較品4および対照品4のシャンプーをそれぞれ0.5gずつ用いて各毛束を洗浄し、お湯でゆすぎ、実施品4と比較品4の毛束のそれぞれ1本ずつは実施品1と同じヘアドライヤーで同じ条件下で加熱乾燥し、実施品4と比較品4のそれぞれ他の1本の毛束と対照品4の毛束は同じヘアドライヤーで冷風乾燥した。このシャンプー洗浄、乾燥の工程を10回繰り返した後、毛髪の艶、潤い、櫛通り性を10人のパネラー(女性6人、男性4人)に応用例1と同様の評価基準で評価させた。その結果を表10に平均値で示す。
【0106】
【表10】

【0107】
表10に示すように、実施例4で製造したシリル化加水分解大豆タンパクを含有するシャンプーで洗浄後に加熱乾燥した毛髪は、同じシャンプーで洗浄し冷風乾燥した毛髪に比べて、艶、潤い、櫛通り性のいずれの評価項目でも評価値が大きく上がり、ヒートアクティブ効果が非常に高いことが明らかであった。これに対し、比較例4で製造したシリル化加水分解大豆タンパクを含有するシャンプーで洗浄後に加熱乾燥した毛髪も、冷風乾燥した毛髪に比べて評価値が上がっていて、比較例4で製造したシリル化加水分解大豆タンパクにもヒートアクティブ効果があると言えるが、効果の差は実施品4よりも小さく、これは、実施例4の方法でのシリル化加水分解大豆タンパクの製造では、比較例4の方法での製造より、シリル官能基の導入率が高くなるためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】実施例1で製造されたシリル加水分解コラーゲンとその原料である加水分解コラーゲンのゲル濾過クロマトグラフィーを示す図である。
【図2】実施例2で製造されたシリル加水分解小麦タンパクとその原料である加水分解小麦タンパクのゲル濾過クロマトグラフィーを示す図である。
【図3】実施例3で製造されたシリル加水分解ケラチンとその原料である加水分解ケラチンのゲル濾過クロマトグラフィーを示す図である。
【図4】実施例4で製造されたシリル加水分解大豆タンパクとその原料である加水分解大豆タンパクのゲル濾過クロマトグラフィーを示す図である。
【図5】比較例1で製造されたシリル加水分解コラーゲンとその原料である加水分解コラーゲンのゲル濾過クロマトグラフィーを示す図である。
【図6】比較例2で製造されたシリル加水分解小麦タンパクとその原料である加水分解小麦タンパクのゲル濾過クロマトグラフィーを示す図である。
【図7】比較例3で製造されたシリル加水分解ケラチンとその原料である加水分解ケラチンのゲル濾過クロマトグラフィーを示す図である。
【図8】比較例4で製造されたシリル加水分解大豆タンパクとその原料である加水分解大豆タンパクのゲル濾過クロマトグラフィーを示す図である。
【図9】毛髪のはりの評価を行う際の毛髪のノット(結び目)を模式的に示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)
【化1】


(式中、R、R、Rは同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜3のアルコキシ基または炭素数1〜3のアルキル基であるが、R、R、Rのうち少なくとも2個は炭素数1〜3のアルコキシ基である)
で表されるシランカップリング剤を、炭素数1〜3の低級一価アルコールを含有する水溶液中で加水分解し、その後、加水分解ペプチドの側鎖のアミノ基を含むアミノ基に反応させて得られたシリル化加水分解ペプチドからなることを特徴とする化粧品基材。
【請求項2】
加水分解ペプチドの数平均分子量が200〜3,000である請求項1に記載のシリル化加水分解ペプチドからなることを特徴とする化粧品基材。
【請求項3】
下記の一般式(1)
【化2】


(式中、R、R、Rは同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜3のアルコキシ基または炭素数1〜3のアルキル基であるが、R、R、Rのうち少なくとも2個は炭素数1〜3のアルコキシ基である)
で表されるシランカップリング剤を、炭素数1〜3の低級一価アルコールを含有する水溶液中で加水分解し、その後、加水分解ペプチドの側鎖のアミノ基を含むアミノ基に反応させることを特徴とするシリル化加水分解ペプチドからなる化粧品基材の製造方法。
【請求項4】
シランカップリング剤を加水分解する際に使用する炭素数1〜3の低級一価アルコールを含有する水溶液中のアルコールの含有量が2〜20質量%である請求項3に記載のシリル化加水分解ペプチドからなる化粧品基材の製造方法。
【請求項5】
加水分解ペプチドの数平均分子量が200〜3,000である請求項3または4に記載のシリル化加水分解ペプチドからなる化粧品基材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−277195(P2007−277195A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−107561(P2006−107561)
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【出願人】(000147213)株式会社成和化成 (45)
【Fターム(参考)】