説明

化粧料の評価方法

【課題】任意の粉末化粧料について、それを皮膚に塗布した場合の粉っぽさ等の塗布状態を簡便に客観的数値で評価できるようにする。
【解決手段】粉末化粧料を皮膚レプリカ2上に塗布してその塗布面の画像を撮り、画像のピクセル毎の光学量の標準偏差又は平均値を算出し、その算出値を用いて粉末化粧料の塗布状態を評価する。この場合、予め複数の粉末化粧料について、その塗布状態の官能評価値と、それを塗布した皮膚レプリカの画像のピクセル毎の光学量の標準偏差又は平均値との関係式を得ておき、その関係式に基づいて、前述の算出値から官能評価値を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉っぽさ等の粉末化粧料の塗布状態を、粉末化粧料の塗布面の画像から数値評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ファンデーション、おしろい、チーク、アイシャドウ等の粉末化粧料には、皮膚上で所望の色を表現できることの他に、それを塗布した皮膚が粉っぽく感じられないこと、きめ細かく感じられること、化粧料がムラ付きしていないこと等の塗布状態を実現できることが求められる。
【0003】
従来、このような粉末化粧料の塗布状態の評価は、化粧品の開発研究に携わる研究員や店頭で顧客に化粧品を推奨する美容員が、実際に当該化粧料を皮膚に塗布して官能評価するか、あるいは末端ユーザーを対象とする官能評価のアンケート調査によりなされており、客観的な数値として得られるようにすることが求められている。
【0004】
これに対しては、粉末化粧料に蛍光を発する標識粉体を含有させ、それを塗布した皮膚の画像を標識粉体のみ検知できる条件で撮り、標識粉体の分布状況を調べることが提案されている(特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−284641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法で調べることができるのは、塗布状態を評価したい当該粉末化粧料ではなく、標識粉体を混ぜた化粧料である。したがって、この方法により当該粉末化粧料の実際の塗布状態を評価することはできない。
【0007】
これに対して、本発明は、任意の粉末化粧料について、それを皮膚に塗布した場合の粉っぽさ等の塗布状態を簡便に客観的数値で評価できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、淡色のファンデーションを皮膚に塗布した場合に視覚的に感じられる粉っぽさは、皮溝にファンデーションの粉体凝集物が堆積し、皮溝が皮丘に対して白く目立つことにより強く感じられること、そして、この皮丘に対する皮溝の目立ちは、ファンデーションの塗布面をデジタル画像としたときに、ピクセル毎の輝度の標準偏差と相関すること、また、塗布面全体が白っぽくなることによっても粉っぽさが感じられ、この粉っぽさは塗布面のデジタル画像の輝度平均と相関することを見出し、これらの知見をさらに発展させ、輝度等の光学量を用いて粉末化粧料の塗布状態を評価できることを見出した。
【0009】
即ち、本発明は、粉末化粧料を皮膚レプリカ上に塗布してその塗布面の画像を撮り、
画像のピクセル毎の光学量の標準偏差又は平均値を用いて当該粉末化粧料の塗布状態を評価する化粧料の評価方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、複数の粉末化粧料について、粉末化粧料の塗布状態の官能評価値を得ると共に、
該粉末化粧料を皮膚レプリカ上に塗布してその塗布面の画像を撮り、画像のピクセル毎の光学量の標準偏差又は平均値を算出し、
前記官能評価値と算出値との関係式を求め、
任意の粉末化粧料について、粉末化粧料を皮膚レプリカ上に塗布してその塗布面の画像を撮り、画像のピクセル毎の光学量の標準偏差又は平均値を算出し、
その算出値を用いて前記関係式から当該任意の粉末化粧料の塗布状態の官能評価値を求める化粧料の評価方法を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、
(i)皮膚レプリカ、
(ii)評価試料とする粉末化粧料を塗布した皮膚レプリカの(塗布面の)画像を撮るデジタルカメラ、及び
(iii)複数の粉末化粧料について、粉末化粧料の塗布状態の官能評価値と、該粉末化粧料を塗布した皮膚レプリカの画像のピクセル毎の光学量の標準偏差又は平均値との関係式を記憶し、
一方、前記デジタルカメラで撮った画像のピクセル毎の光学量の標準偏差又は平均値を算出し、その算出値を用いて前記関係式から試料とする当該任意の粉末化粧料の塗布状態の官能評価値を求める演算手段
を備えた化粧料の評価システムを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の化粧料の評価方法によれば、皮膚レプリカに粉末化粧料を塗布し、その塗布面の画像を撮り、その画像から求まるピクセル毎の光学量の処理により簡便に粉末化粧料の塗布状態を数値評価することができ、かつ、その評価値に、従前の官能評価と高い相関性をもたせることができる。
【0013】
したがって、一般人に粉末化粧料の塗布状態の評価をわかりやすく説明することができる。
【0014】
また、この評価方法は、原料や製造条件が異なる種々の粉末化粧料に対しても同様に適用することができる。よって、粉末化粧料の開発研究において、製品の塗布状態を比較検討しながら原料や製法を改良していく場合に有用となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の化粧料の評価方法を実施する評価システム1の一態様の構成図である。この評価システム1は、種々の乳化型粉末化粧料あるいは固形型粉末化粧料、より具体的には、ファンデーション、おしろい、チーク、アイシャドウ等の粉末化粧料の塗布状態の評価に使用するもので、皮膚レプリカ2、デジタルカメラ3、演算手段として画像処理ソフトを内蔵したパーソナルコンピュータ4からなっている。
【0017】
皮膚レプリカ2としては、例えばシリコーンゴム製の市販品を使用することができるが、評価対象とする一連の粉末化粧料に対して撮影条件を統一するため、所定のものを使用することが好ましい。また、皮膚レプリカとしては、評価対象とする粉末化粧料が、例えば、肌色のファンデーション等の淡色である場合、濃色又は黒色等の不透明のものを使用することが好ましい。反対に、アイシャドウ等の濃色である場合には、淡色又は白色の不透明のものを使用することが好ましい。これにより、皮丘に付着している粉末化粧料に対して、皮溝に堆積した粉末化粧料をきわだたせ、後述する画像処理により算出される数値と塗布状態の官能評価値とに良好な相関をもたせることができる。
【0018】
デジタルカメラ3としては、粉末化粧料の塗布面の画像をデジタルデータとして取得できるものであれば特に限定はない。例えば、倍率10〜60倍程度のデジタルマイクロスコープを使用することができる。この場合、試料ごとの撮影条件を統一するため、カメラと撮影対象物との距離を所定の値に設定することができ、照明条件も統一できるものが好ましい。解像度に関しては、ピクセル数として、320×240〜2560×1920を得られ、撮影範囲を考慮したドット密度として1000〜3000DPIを得られるものが好ましい。また、出力形式は、BMP等の圧縮をかけないファイル形式で出力できるものが好ましい。
【0019】
このようなデジタルカメラ3としては、例えば、モリテックス社のアイスコープUSB(CMOSセンサー搭載)やチャームビュー(CCD搭載)等の市販の肌チェック用のマイクロスコープを使用することができる。かかるデジタルカメラ3で、例えば、濃色又は黒色の皮膚レプリカ3に肌色のファンデーションを塗布したものを撮ると、官能評価で粉っぽくないと評価されるファンデーションは、図2Aに示すように、濃色のピクセルと淡色のピクセルがほぼ均一に分布した画像が得られるが、官能評価で粉っぽいと評価されるファンデーションは、図2Bに示すように、淡色のピクセルが皮溝に沿って現れた画像を得ることができる。
【0020】
パーソナルコンピュータ4は、デジタルカメラ3で撮影した画像について、ピクセル毎に輝度、L値等の光学量を求め、その標準偏差と平均値を算出できる演算ソフト(例えば、アドビ社製フォトショップ)を搭載したものを使用する。
【0021】
本発明の化粧料の評価方法では、まず、試料とする粉末化粧料を皮膚レプリカ2上に塗布してその塗布面の画像をデジタルカメラ3で撮り、次いで、その画像のピクセル毎の輝度、L値等の光学量の標準偏差とその平均値を算出する。これらの算出値を塗布状態の粉っぽさ、きめ細かさ、ムラ付きし難さ、厚ぼったさ等の官能評価値と相関づけることにより、算出値の変化から皮膚の表面状態の変化を知ることができる。
【0022】
また、本発明の化粧料の評価方法では、予め、複数の粉末化粧料について、粉末化粧料を皮膚レプリカ2に塗布し、それらの画像をデジタルカメラ3で撮り、画像のピクセル毎の輝度、L値等の光学量の標準偏差とその平均値を算出しておく。
【0023】
一方、それぞれの粉末化粧料を実際の皮膚又は皮膚レプリカに塗布したものに対し、粉っぽさ、厚ぼったさ、きめ細かさ、ムラ付きの程度等の塗布状態について専門パネラーによる官能評価値を得ておく。この官能評価値と前述の算出値との間に成り立つ関係式をパーソナルコンピュータ4に記憶させる。
【0024】
なお、官能評価値と前述の算出値との間に特定の関係式が成り立つことは、本発明者が見いだしたものであり、例えば、粉っぽさの場合、図3に示すように、官能評価値は、輝度標準偏差と輝度平均値との積に高い相関性を示す。きめ細かさの場合、図4に示すように、官能評価値は、輝度標準偏差に高い相関性を示す。ムラ付きし難さの場合、図5に示すように、官能評価値は、輝度標準偏差に高い相関性を示す。厚ぼったさの場合、図6に示すように、官能評価値は輝度平均値に高い相関性を示す。そこで、これらの関係式をパーソナルコンピュータ4に記憶させる。
【0025】
次いで、任意の粉末化粧料について、皮膚レプリカ2に塗布したものの塗布面の画像をデジタルカメラ3で撮り、パーソナルコンピュータ4で、前述の演算ソフトを用いてピクセル毎の光学量の標準偏差と平均値を算出し、その算出値から、記憶している関係式に基づいて、対応する官能評価の数値を算出する。
【0026】
こうして得られる数値は、粉末化粧料が所期の塗布状態を実現できるか否かの評価指標として、また、粉末化粧料を用いた化粧の仕上がりの評価指標として有用となる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
【0028】
実施例1
図1の化粧料の評価システム1を構築した。この場合、皮膚レプリカ2としては、黒色不透明のシリコーン樹脂製の30代の女性肌のレプリカを用いた。デジタルカメラ3としては、モリテックス社製のアイスコープUSBを用いた(倍率30倍、撮影範囲5mm角、画素640×480)。粉末化粧料としては、同一メーカーの同一ブランドで品番が異なる2種と、メーカーが異なる2種の合計4種のファンデーションを用意した。
【0029】
これら4種のファンデーションを実際の皮膚に塗布した場合の塗布面の粉っぽさについて、16名の専門パネラーから以下の基準による評点を得、その平均値を官能評価値とした。
1:非常に悪い
2:悪い
3:標準
4:良い
5:非常に良い
【0030】
一方、4種のファンデーションのそれぞれを皮膚レプリカ2に塗布し、その画像をデジタルカメラ3で撮り、ピクセル毎の輝度の標準偏差と平均値を求め、さらにこれらの積を算出し、その算出値を上述の粉っぽさの官能評価値に対してプロットした。
【0031】
結果を図7に示す。同図から、専門パネラーによる官能評価値と、ピクセル毎の輝度の標準偏差と平均値の積とには高い相関性のあることがわかる。
【0032】
実施例2
(1)ファンデーションの調製
表1に示す配合割合の粉体及び油剤を2リットルのヘンシェルミキサーを用いて混合した。混合条件は3000rpmで10,20,30,40,50分間とし、混合時間の異なる5種の粉体混合物を得た。各粉体混合物を篩い分けした後、浅底の容器に充填して加圧成形することにより、製造条件の異なる5種のファンデーションを調製した。
【0033】
(2)評価
(1)で得た5種のファンデーションについて、実施例1と同様にして、専門パネラーによる官能評価値に対して、ピクセル毎の輝度の標準偏差と平均値との積をプロットした。
【0034】
結果を図8に示す。同図から、粉っぽさの官能評価値と、ピクセル毎の輝度の標準偏差と平均値との積には、製造条件が異なる粉末化粧料に対しても有意な相関のあることがわかる。






【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、ファンデーション、おしろい、チーク、アイシャドウ等の粉末化粧料の塗布状態を数値評価することができ、この評価値は、粉末化粧料の製品開発や、店頭において顧客に粉末化粧料の塗布性能を説明する場合等で有用となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】化粧料の評価システムの構成図である。
【図2A】皮膚レプリカに塗布したファンデーションの拡大画像である。
【図2B】皮膚レプリカに塗布したファンデーションの拡大画像である。
【図3】粉っぽさについて、官能評価の評点と、輝度の標準偏差と平均値との積との関係図である。
【図4】きめ細かさについて、官能評価の評点と、輝度の標準偏差との関係図である。
【図5】ムラ付きし難さについて、官能評価の評点と、輝度の標準偏差との関係図である。
【図6】厚ぼったさについて、官能評価の評点と、輝度の平均値との関係図である。
【図7】粉っぽさについて、種々のファンデーションの官能評価の評点と、輝度の標準偏差と平均値との積との関係図である。
【図8】粉っぽさについて、製法の異なるファンデーションの官能評価の評点と、輝度の標準偏差と平均値との積との関係図である。
【符号の説明】
【0038】
1 化粧料の評価システム
2 皮膚レプリカ
3 デジタルカメラ
4 パーソナルコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末化粧料を皮膚レプリカ上に塗布してその塗布面の画像を撮り、
画像のピクセル毎の光学量の標準偏差又は平均値を用いて当該粉末化粧料の塗布状態を評価する化粧料の評価方法。
【請求項2】
光学量が輝度である請求項1記載の化粧料の評価方法。
【請求項3】
複数の粉末化粧料について、粉末化粧料の塗布状態の官能評価値を得ると共に、
該粉末化粧料を皮膚レプリカ上に塗布してその塗布面の画像を撮り、画像のピクセル毎の光学量の標準偏差又は平均値を算出し、
前記官能評価値と算出値との関係式を求め、
任意の粉末化粧料について、粉末化粧料を皮膚レプリカ上に塗布してその塗布面の画像を撮り、画像のピクセル毎の光学量の標準偏差又は平均値を算出し、
その算出値を用いて前記関係式から当該任意の粉末化粧料の塗布状態の官能評価値を求める化粧料の評価方法。
【請求項4】
(i)皮膚レプリカ、
(ii)粉末化粧料を塗布した皮膚レプリカの画像を撮るデジタルカメラ、及び
(iii)複数の粉末化粧料について、粉末化粧料の塗布状態の官能評価値と、該粉末化粧料を塗布した皮膚レプリカの画像のピクセル毎の光学量の標準偏差又は平均値との関係式を記憶し、任意の粉末化粧料について、前記デジタルカメラで撮った画像のピクセル毎の光学量の標準偏差又は平均値を算出し、その算出値を用いて前記関係式から当該任意の粉末化粧料の塗布状態の官能評価値を求める演算手段
を備えた化粧料の評価システム。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−290745(P2006−290745A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−109322(P2005−109322)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】